説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像の画像処理に要する時間を短縮する。
【解決手段】圧縮画像から、DCT係数のうちAC係数を間引いてDC係数のみとした1/8間引き画像を生成し(図(a),(b))、赤目処理の候補となる赤目候補領域(値1の画素に相当する領域)を抽出して(図(c))、別に行なわれる精査処理において、抽出された赤目候補領域を精査して赤目領域を設定する。これにより、赤目候補領域を設定する際にはDCT係数を間引いて圧縮画像を解凍するから、逆DCT演算などの処理負担を軽減して赤目候補領域を速やかに抽出することができる。この結果、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を赤目補正処理する際の処理時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を解凍し、設定されている処理領域に画像処理を施す画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の画像処理装置としては、デジタルカメラでフラッシュの発光を伴って撮影された人物の画像の中から赤目領域を検出し、検出した領域を赤目補正する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、赤目領域の検出は、まず、画素値が赤目の値を示す画素の集まりを赤目の候補領域として検出し、次に、検出した赤目の候補領域のうちその周囲に画素値が白目の値を示す画素の集まりが存在するものを赤目領域として検出することにより行なわれる。即ち、赤目の候補領域の検出と、候補領域からの赤目領域の検出という二段階の検出処理を経て、画像処理の対象となる処理領域を検出するものとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−326805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した画像処理装置において、処理対象の画像が圧縮されている場合、装置のメモリー容量によっては解凍後のデータを保持しつつ検出処理を行なうことができないため、検出処理の各段階で画像を毎回解凍する必要が生じ、処理領域の検出に時間を要するものとなる。特に、離散コサイン変換(DCT演算)を伴うJPEG方式などで画像が圧縮されている場合には、画像を解凍するために逆DCT演算が毎回必要となってしまう。このため、処理領域を検出する際の処理負担が大きくなり、画像処理の遅延に繋がってしまう。
【0005】
本発明の画像処理装置および画像処理方法は、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像の画像処理に要する時間を短縮することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の画像処理装置および画像処理方法は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の画像処理装置は、
DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を解凍し、設定されている処理領域に画像処理を施す画像処理装置であって、
前記圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域の候補となる候補領域を抽出する候補領域抽出手段と、
前記圧縮画像のうち前記抽出された候補領域を含む領域を、前記候補領域抽出手段による間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域を設定する処理領域設定手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の画像処理装置では、圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、解凍後の画像から処理領域の候補となる候補領域を抽出し、圧縮画像のうち抽出された候補領域を含む領域を、候補領域を抽出する際の間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、解凍後の画像から処理領域を設定する。これにより、候補領域を抽出する際の処理負担を軽減して候補領域を速やかに抽出することができるから、処理領域の設定に要する時間を短くすることができる。この結果、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像の画像処理に要する時間を短縮することができる。
【0009】
こうした本発明の画像処理装置において、前記処理領域設定手段は、前記圧縮画像のうち前記候補領域だけを逆DCT演算を伴って解凍する手段であるものとすることもできる。こうすれば、処理領域を設定する際の処理負担も軽減して処理領域の設定に要する時間をより短くすることができるから、画像処理に要する時間をより短縮することができる。
【0010】
また、本発明の画像処理装置において、前記候補領域抽出手段は、前記圧縮画像を、DC係数が残るようDCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍する手段であるものとすることもできるし、前記候補領域抽出手段は、前記圧縮画像を、DC係数だけが残るようすべてのAC係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍する手段であるものとすることもできる。ここで、候補領域の抽出処理は、処理領域を設定するための前段階の処理として候補領域を抽出できればよく、画像の精度は比較的低くてもよい。このため、DC係数だけが残るようすべてのAC係数を間引くことにより、処理負担を大幅に軽減して処理の迅速化を図ることができる。
【0011】
さらに、本発明の画像処理装置において、前記候補領域抽出手段は、前記解凍後の画像から前記候補領域を抽出し、該候補領域として抽出されない領域のうち該抽出された候補領域の周囲の領域を前記候補領域に拡大する手段であるものとすることもできる。こうすれば、DCT係数を間引いて候補領域を抽出するものとしても、処理領域の設定の精度が大きく低下するのを防止することができる。
【0012】
そして、本発明の画像処理装置において、画像中の赤目の領域を前記処理領域として赤目補正処理を施すものとすることもできる。
【0013】
本発明の画像処理方法は、
DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を解凍し、設定されている処理領域に画像処理を施す画像処理方法であって、
(a)前記圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域の候補となる候補領域を抽出するステップと、
(b)前記圧縮画像のうち前記抽出された候補領域を含む領域を、前記ステップ(a)による間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域を設定するステップと、
を含むことを要旨とする。
【0014】
この本発明の画像処理方法では、圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、解凍後の画像から処理領域の候補となる候補領域を抽出し、圧縮画像のうち抽出された候補領域を含む領域を、候補領域を抽出する際の間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、解凍後の画像から処理領域を設定する。これにより、候補領域を抽出する際の処理負担を軽減して候補領域を速やかに抽出することができるから、処理領域の設定に要する時間を短くすることができる。この結果、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像の画像処理に要する処理時間を短縮することができる。なお、この画像処理方法において、上述した画像処理装置のいずれかの態様を実現するようなステップを追加するものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プリンター20の構成の概略を示す構成図。
【図2】赤目補正印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図3】赤目候補領域の抽出処理の一例を示すフローチャート。
【図4】赤目候補領域の抽出処理の様子を示す説明図。
【図5】赤目候補領域の拡大処理の一例を示すフローチャート。
【図6】赤目候補領域の拡大処理の様子を示す説明図。
【図7】赤目候補領域の精査処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の画像処理装置の一実施形態であるプリンター20の構成の概略を示す構成図である。本実施形態のプリンター20は、図示するように、給紙トレイ23から搬送された用紙に印刷用データに基づいてシアン(C),マゼンタ(M),イエロー(Y),ブラック(K)のCMYKの各色のインクを印刷ヘッドから吐出することにより印刷を実行し排紙トレイ24に排紙するインクジェット方式のプリンターユニット30と、図示しないガラス台に載置された原稿に向かって発光した後の反射光をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)のRGBの各色に分解して画像データとするフラットベッド式のスキャナーユニット35と、メモリーカードスロット40aに挿入されたメモリーカードMCとの間でデータを格納したファイルの読み書きを行なうカードコントローラー40と、各種モードの設定画面や印刷の設定画面などを表示部52に表示したり各種モードの設定や印刷の設定に関する指示などをユーザーによるボタン群54の操作を介して入力したりする操作パネル50と、装置全体の制御を司るメインコントローラー60とを備える。このプリンター20では、プリンターユニット30やスキャナーユニット35,カードコントローラー40,メインコントローラー60がバス69を介して互いに各種制御信号やデータのやり取りをすることができるよう構成されている。
【0017】
カードコントローラー40は、メインコントローラー60からの読み出し指令に基づいてメモリーカードMCからファイルを読み出してメインコントローラー60に送信したり、メインコントローラー60からの書き込み指令に基づいてメモリーカードMCにファイルを書き込んだりする。なお、メモリーカードMCには、デジタルカメラなどで撮影されてJPEG方式により圧縮されたJPEGデータを格納したファイルなどが記憶されている。このJPEG方式による圧縮では、詳細については省略するが、撮影された画像の各8ビットのRGB値を輝度成分と色差成分とを示すYCbCr値に変換し、8×8画素の64画素のブロック(1MCU(Minimum Coded Unit))に分割して、ブロック単位で離散コサイン変換(DCT演算)して周波数成分の大きさを表す8×8成分のDCT係数に変換し、変換したDCT係数を量子化して、量子化後のDCT係数をランレングス符号化やハフマン符号化などによりエントロピー符号化することで、画像を圧縮している。
【0018】
メインコントローラー60は、CPU62を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、各種処理プログラムや各種データ、各種テーブルなどを記憶したROM64と、一時的に各種データなどを記憶するRAM66とを備える。このメインコントローラー60は、プリンターユニット30やスキャナーユニット35,カードコントローラー40からの各種動作信号や各種検出信号を入力したり、操作パネル50のボタン群54からの操作信号を入力したりする。また、メモリーカードMCからのファイルの読み出し指令をカードコントローラー40に出力したり、印刷指令をプリンターユニット30に出力したり、ボタン群54からのスキャン指示に基づいて原稿の読み取り指令をスキャナーユニット35に出力したり、表示部52に画像データの表示指令を出力したりする。
【0019】
また、メインコントローラー60は、メモリーカードMCから入力したJPEGデータを表示部52で表示するための表示用データに変換する際には、JPEGデータを上述した圧縮と逆の順即ちエントロピー復号化,逆量子化,逆DCTの順に復号化(解凍)し、復号化により得られたYCbCr値をRGB各8ビットのデータに色変換し、RGB各8ビットのデータを表示部52で表示可能な所定のビット数に減らす処理などが行なわれる。また、JPEGデータをプリンターユニット30で印刷するための印刷用データに変換する際には、表示用データと同様にJPEGデータを復号化してRGB各8ビットのデータに色変換してから、さらに、CMYK各8ビットのデータに色変換し、CMYK各8ビットのデータをディザ法や誤差拡散法などにより各2ビットのデータ(2値化データ)に変換する処理などが行なわれる。なお、実施例のプリンター20では、画像の色補正や画像の向きなどに関する各種設定が可能となっており、例えば、デジタルカメラでの画像撮影時のフラッシュ発光に伴って生じた赤目を補正する赤目補正や画像の向きを回転させて印刷する回転印刷などが設定可能となっている。ここで、赤目補正は、赤目として検出された領域の色を黒目の色に置換することなどにより行なわれる。
【0020】
次に、こうして構成された本実施形態のプリンター20の動作、特に、画像中の赤目を補正して画像を印刷する際の動作について説明する。図2は、CPU31により実行される赤目補正印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、メモリーカードMCがメモリーカードスロット40aに挿入された状態で、表示部52に表示される図示しない画像選択画面からボタン群54の操作により印刷対象の画像が選択されると共に色補正の設定で赤目補正がオンとされて、印刷開始が指示されたときに実行される。
【0021】
この赤目補正印刷処理ルーチンが実行されると、メインコントローラー60のCPU62は、まず、印刷対象の画像データを入力する(ステップS100)。ここではJPEGデータを入力するものとした。次に、画像中の赤目の候補である赤目候補領域を抽出する赤目候補領域の抽出処理や(ステップS110)、抽出した赤目候補領域の周囲を赤目候補に拡大する赤目候補領域の拡大処理(ステップS120)、赤目候補領域が赤目の領域であるか否かを精査して赤目領域を確定する赤目候補領域の精査処理(ステップS130)を順に実行する。以下、赤目補正印刷処理ルーチンの説明を中断して、赤目候補領域の抽出処理や拡大処理,精査処理の詳細について、順に説明する。
【0022】
まず、赤目候補領域の抽出処理について説明する。図3は、赤目候補領域の抽出処理の一例を示すフローチャートであり、図4は、赤目候補領域の抽出処理の様子を示す説明図である。この赤目候補領域の抽出処理では、まず、赤目補正印刷処理ルーチンのステップS100で入力したJPEGデータをエントロピー復号化して(ステップS200)、量子化後のDCT係数を8×8成分(64成分)ずつ有するブロックが複数並んだフル画像を得る(図4(a)参照)。なお、図4(a)に示すように、各ブロックの左上隅の成分がブロック内で変化のないDC係数(直流成分)であり、図示は省略するが残りの63成分がブロック内の変化を表すAC係数(交流成分)である。次に、各ブロックのAC係数をすべて間引いてDC係数のみを抽出して1/8間引き画像を生成する(ステップS210,図4(b)参照)。この1/8間引き画像は、フル画像に比して、各ブロックの画素数(成分数)が縦横それぞれ1/8(ブロック全体では1/64)となる。なお、図4(a),(b)では、各ブロックで構成されるブロックラインのうち、1ライン目のDC係数が1/8間引き画像の1ライン目の画素となる様子のみを図示したが、2ライン目以降も同様である。また、Y,Cb,Crの成分毎に、1/8間引き画像がそれぞれ生成されるが、同様な処理であるため、個別の説明は省略する。
【0023】
こうして1/8間引き画像を生成すると、1/8間引き画像の画素値(DC係数)を逆量子化し(ステップS220)、逆量子化した画素値を逆DCT演算することにより1/8間引き画像を復号化し(ステップS230)、復号化により得られた各画素のYCbCr値をRGB値に色変換する(ステップS240)。こうして1/8間引き画像の各画素のRGB値が得られると、各画素の赤目候補値を値0に初期化してから(ステップS250)、処理対象画素の赤目判定を行なう(ステップS260)。ここで、赤目判定は、処理対象画素のRGBの各階調値がRGB空間上において予め設定された赤目の階調値を中心とする領域内に属するか否かにより行なうものとした。また、処理対象画素は、先頭(最上段)のラインの左端の画素から右の画素へと順にシフトして設定し、右端の画素まで設定すると1つ下のラインの左端の画素にシフトして設定するものとした。
【0024】
ステップS260の赤目判定の結果、処理対象画素が赤目であると判定すると(ステップS270)、処理対象画素の赤目候補値を値1にセットする(ステップS280)。次に、すべての画素の処理が完了したか否かを判定し(ステップS290)、すべての画素の処理が完了していないときには、処理対象画素をシフトして(ステップS300)、ステップS260に戻り処理を繰り返す。そして、ステップS290ですべての画素の処理が完了したときには、本処理を終了する。この処理により、赤目と判定された画素の赤目候補値が値1となり、それ以外の画素の赤目候補値は値0となる(図4(c)参照)。ここで、1/8間引き画像は、フル画像の各ブロックのDC係数を抽出して復号化したものであるため、1/8間引き画像の各画素は、復号化されるDC係数の抽出元となるブロック(以下、対応するブロックという)の代表値と考えることができる。このため、赤目候補値は、1/8間引き画像の画素が赤目候補であるか否かを示すと共にフル画像の対応するブロックが赤目候補であるか否かを示すものとなる。これらのことから、本処理により、赤目候補の領域(ブロック)が抽出されることになる。また、赤目候補領域の抽出処理では、1/8間引き画像を復号化するため、フル画像を復号化する場合に比して、特に逆DCT演算における処理負担を軽減して、赤目候補領域を速やかに抽出することができる。さらに、赤目候補領域の抽出処理は、後の精査処理の前段階の処理として候補領域を抽出できればよく、精査処理時に比してそれほど高精細な画像は要求されていない。このため、1/8間引き画像を用いて候補領域を抽出することにより、処理負担を大幅に軽減して処理の迅速化を図ることができる。
【0025】
次に、赤目候補領域の拡大処理について説明する。図5は、赤目候補領域の拡大処理の一例を示すフローチャートであり、図6は、赤目候補領域の拡大処理の様子を示す説明図である。なお、図6(a)は、拡大処理前の様子(図4(c)と同じ状態)を示し、図6(b)は、拡大処理後の様子を示す。この赤目候補領域の拡大処理では、まず、処理対象画素の赤目候補値を入力し(ステップS400)、入力した処理対象画素の赤目候補値が値0であるか否かを判定する(ステップS410)。なお、処理対象画素は、先頭(最上段)のラインの左端の画素から右の画素へと順にシフトして設定し、右端の画素まで設定すると1つ下のラインの左端の画素にシフトして設定するものとした。赤目候補値が値0即ち赤目候補領域の抽出処理において処理対象画素が赤目候補と判定されていないときには、処理対象画素の周囲の画素の赤目候補値を入力する(ステップS420)。ここでは、周囲の画素として、処理対象画素を中心とする3×3画素(いわゆる8近傍画素)の赤目候補値を入力する。そして、入力した周囲の画素のいずれかの赤目候補値が値1であるか否かを判定し(ステップS430)、いずれかの赤目候補値が値1のときには処理対象画素を拡大対象に設定する(ステップS440)。
【0026】
こうして処理対象画素を拡大対象に設定したときやステップS410で処理対象画素の赤目候補値が値0でないとき、ステップS410で処理対象画素の赤目候補値が値0で且つステップS430で周囲の画素のいずれの赤目候補値も値1でないときには、すべての画素の処理が完了したか否かを判定する(ステップS450)。すべての画素の処理が完了していないときには、処理対象画素をシフトして(ステップS460)、ステップS400に戻り処理を繰り返す。そして、ステップS450ですべての画素の処理が完了したときには、ステップS440で拡大対象に設定された画素の赤目候補値を値0から値1に更新して(ステップS470)、本処理を終了する。これにより、図6(b)に示すように、赤目候補値が値1とされる画素が元の画素(図6(a))よりも一回り大きく拡大されることがわかる。上述したように、各画素の赤目候補値は、対応するブロックの赤目候補値と考えることができるから、本処理により、赤目候補となる領域(ブロック)が拡大されることになる。このように、赤目候補領域の周囲の領域も赤目候補領域とした上で、後の精査処理が行なわれるから、DCT係数を間引きして候補領域を抽出するものとしても、赤目領域の設定の精度が大きく低下するのを防止することができる。
【0027】
続いて、赤目候補領域の精査処理について説明する。図7は、赤目候補領域の精査処理の一例を示すフローチャートである。この赤目候補領域の精査処理では、まず、処理対象ブロックをエントロピー復号化して(ステップS500)、処理対象ブロックに対応する赤目候補値を入力する(ステップS510)。ここで、処理対象ブロックは、先頭(最上段)のブロックラインの左端のブロックから右のブロックへと順に設定し、右端のブロックまで設定すると1つ下のブロックラインの左端のブロックを設定するものとした。また、上述した赤目候補領域の拡大処理後の各画素の赤目候補値のうち、処理対象ブロックに対応する画素(処理対象ブロックのDC係数の復号化により得られる画素)の赤目候補値を入力するものとした。次に、入力した処理対象ブロックの赤目候補値が値1であるか否かを判定し(ステップS520)、赤目候補値が値1のときには、エントロピー復号化した係数を逆量子化し(ステップS530)、逆量子化した係数を逆DCT演算してJPEGデータを復号化(解凍)する(ステップS540)。そして、復号化により得られたYCbCr値をRGB値に色変換して(ステップS550)、色変換した処理対象ブロックの各画素のRGB値をRAM66に設けられたブロックラインバッファーに格納する(ステップS560)。一方、処理対象ブロックの赤目候補値が値1でないときには、ダミーデータをブロックラインバッファーに格納する(ステップS570)。
【0028】
こうしてRGB値かダミーデータをブロックラインバッファーに格納すると、処理中のブロックラインの右端のブロックまで処理が完了したか否かを判定し(ステップS580)、処理が完了していないときには、処理対象ブロックを右にシフトして(ステップS590)、ステップS500に戻り処理を繰り返す。そして、ステップS580で右端のブロックまで処理が完了したときには、ブロックラインバッファーに格納されたデータを用いて赤目候補領域を精査する(ステップS600)。この精査の詳細については省略するが、赤目候補のブロックのRGB値などから、赤目に相当する画素の周囲に瞳孔(黒目)に相当する画素や白目に相当する画素があるか否かを判定することなどにより行なわれる。そして、精査の結果、赤目と判定すると(ステップS610)、精査した赤目候補領域を赤目領域に設定しその位置を赤目領域情報としてRAM66に記憶し(ステップS620)、すべてのブロックの処理が完了したか否かを判定する(ステップS630)。すべてのブロックの処理が完了していないときには、処理対象ブロックを1つ下のラインにシフトして(ステップS640)、ステップS500に戻り処理を繰り返す。そして、ステップS630ですべてのブロックの処理が完了したときには、本処理を終了する。このように、本処理により、赤目の領域(ブロック)が確定されることになる。また、赤目候補領域の精査処理では、赤目候補値が値1のブロックだけを逆量子化や逆DCT演算をして赤目候補値が値1ではないブロックは逆量子化や逆DCT演算をしないから、精査処理を迅速に行なうことができる。
【0029】
図2の印刷処理ルーチンに戻って、こうして赤目候補領域の抽出処理や拡大処理,精査処理を実行すると、JPEGデータをエントロピー復号化,逆量子化,逆DCTにより復号化し(ステップS140)、復号化により得られたYCbCr値をRGB値に色変換して(ステップS150)、赤目候補領域の精査処理により記憶された赤目領域情報をRAM66から読み出して赤目領域に対して赤目補正処理を実行する(ステップS160)。なお、赤目補正処理の詳細は省略するが、赤目の領域に属する画素のRGBの各階調値をRGB空間上において予め設定された黒目の階調値に置換することなどにより行なわれる。そして、RGB値をCMYK値に色変換することなどにより印刷用データを生成し(ステップS170)、生成した印刷用データに基づいてプリンターユニット30により印刷処理を実行して(ステップS180)、本ルーチンを終了する。
【0030】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の図2の赤目補正印刷処理ルーチンのステップS110の赤目候補領域の抽出処理(図3の赤目候補領域の抽出処理)を実行するメインコントローラー60が本発明の「候補領域抽出手段」に相当し、図2の赤目補正印刷処理ルーチンのステップS130の赤目候補領域の精査処理(図7の赤目候補領域の精査処理)を実行するメインコントローラー60が「処理領域設定手段」に相当する。
【0031】
以上説明した本実施形態のプリンター20によれば、DCT係数を間引いた1/8間引き画像を逆DCT演算を伴って解凍して赤目処理の候補となる赤目候補領域を抽出する抽出処理を実行し、抽出した赤目候補領域を含む領域を逆DCT演算を伴って解凍し赤目候補領域を精査して赤目領域を設定する精査処理を実行するから、赤目候補領域を抽出する際の逆DCT演算などの処理負担を軽減して赤目候補領域を速やかに抽出することができ、赤目領域の設定に要する時間を短くすることができる。この結果、DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を赤目補正処理する際の処理時間を短縮することができる。
【0032】
また、赤目候補領域の精査処理では、赤目候補領域とされたブロックだけを逆DCT演算を伴って復号化するから、精査処理を迅速に行なうことができる。さらに、赤目候補領域の抽出処理では、DC係数だけが残るようすべてのAC係数を間引いた1/8間引き画像を生成し逆DCT演算を伴って解凍するから、処理負担を大幅に軽減して処理の迅速化を図ることができる。そして、赤目候補領域の拡大処理では、赤目候補領域の周囲も赤目候補領域に拡大するから、DCT係数を間引きして赤目候補領域を抽出するものとしても、赤目領域の設定の精度が大きく低下するのを防止することができる。
【0033】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0034】
上述した実施形態では、赤目候補領域の抽出処理において各ブロックのすべてのAC係数を間引いてDC係数のみを抽出して1/8間引き画像を生成するものとしたが、これに限られず、各ブロックからDC係数を含めて16個のDCT係数を抽出して1/2間引き画像を生成するものとしてもよいし、各ブロックからDC係数を含めて4個のDCT係数を抽出して1/4間引き画像を生成するものなどとしてもよい。なお、DC係数を含めることなくAC係数を抽出して間引き画像を生成するものとしてもよいが、画像の特徴が大きく損なわれて検出の精度が低下するおそれがあるため、DC係数を含めるものが好ましい。
【0035】
上述した実施形態では、赤目候補領域の拡大処理において赤目候補値が値1の画素の周囲の3×3画素のうちいわゆる8近傍の画素を赤目候補に拡大するものとしたが、これに限られず、赤目候補値が値1の画素の周囲の3×3画素のうち上下左右の画素(いわゆる4近傍の画素)を赤目候補に拡大するものとしてもよいし、赤目候補値が値1の画素の周囲の5×5画素の範囲に含まれる画素を赤目候補に拡大するものなどとしてもよい。あるいは、このような赤目候補領域の拡大処理を行なわないものとしてもよく、赤目候補領域の抽出処理により赤目候補として抽出される画素(領域)のみを赤目候補としてもよい。
【0036】
上述した実施形態では、赤目候補領域の精査処理において、処理対象ブロックの係数を間引くことなく復号化するものとしたが、これに限られず、赤目候補領域の抽出処理よりもDCT係数が多く残存するように間引くものとしてもよい。例えば、本実施形態のように赤目候補領域の抽出処理において縦横それぞれ1/8に間引いて1個のDCT係数が残存する場合には、赤目候補領域の精査処理において縦横それぞれ1/2に間引いて16個のDCT係数が残存するものとしたり縦横それぞれ1/4に間引いて4個のDCT係数が残存するものなどとすればよい。
【0037】
上述した実施形態では、印刷処理を実行する際の赤目の領域の検出を例として説明したが、これに限られず、画像を表示する際の赤目の領域の検出に適用するものなどとしてもよい。また、赤目の領域を検出するものに限られず、人物の肌色を補正する肌色補正処理など他の色補正処理の対象となる領域を検出するものや部分的に明度や彩度を補正するなど各種画像処理の対象となる領域を検出するものであれば、如何なる領域を検出するものとしてもよい。
【0038】
上述した実施形態では、圧縮画像をJPEGデータを例として説明したが、これに限られず、DCT演算を伴う圧縮方式で圧縮された圧縮画像を解凍するものであればよく、例えばMPEGデータなどとしてもよい。
【0039】
上述した実施形態では、本発明をプリンター機能(プリンターユニット30)とスキャナー機能(スキャナーユニット35)とを備えるプリンター20に適用して説明したが、これに限られず、さらにFAX機能を備えるものとしてもよいし、あるいは、スキャナー機能を備えないプリンターとしてもよい。また、DCT演算を伴う圧縮方式で圧縮された圧縮画像を解凍し設定されている処理領域に対して画像処理を施すことができる装置であれば、プリンターに限られず、パーソナルコンピューターやデジタルカメラ,ゲーム機器,携帯電話など如何なる装置に適用するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0040】
20 プリンター、23 給紙トレイ、24 排紙トレイ、30 プリンターユニット、35 スキャナーユニット、40 カードコントローラー、40a メモリーカードスロット、50 操作パネル、52 表示部、54 ボタン群、60 メインコントローラー、62 CPU、64 ROM、66 RAM、69 バス、MC メモリーカード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を解凍し、設定されている処理領域に画像処理を施す画像処理装置であって、
前記圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域の候補となる候補領域を抽出する候補領域抽出手段と、
前記圧縮画像のうち前記抽出された候補領域を含む領域を、前記候補領域抽出手段による間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域を設定する処理領域設定手段と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記処理領域設定手段は、前記圧縮画像のうち前記候補領域だけを逆DCT演算を伴って解凍する手段である請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記候補領域抽出手段は、前記圧縮画像を、DC係数が残るようDCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍する手段である請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記候補領域抽出手段は、前記圧縮画像を、DC係数だけが残るようすべてのAC係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍する手段である請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記候補領域抽出手段は、前記解凍後の画像から前記候補領域を抽出し、該候補領域として抽出されない領域のうち該抽出された候補領域の周囲の領域を前記候補領域に拡大する手段である請求項1ないし4いずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
画像中の赤目の領域を前記処理領域として赤目補正処理を施す請求項1ないし5いずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
DCT演算を伴って圧縮された圧縮画像を解凍し、設定されている処理領域に画像処理を施す画像処理方法であって、
(a)前記圧縮画像を、DCT係数を間引いてから逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域の候補となる候補領域を抽出するステップと、
(b)前記圧縮画像のうち前記抽出された候補領域を含む領域を、前記ステップ(a)による間引きよりも多くのDCT係数が残存している状態で逆DCT演算を伴って解凍し、該解凍後の画像から前記処理領域を設定するステップと、
を含む画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図4】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−106123(P2013−106123A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247149(P2011−247149)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】