説明

画像監視装置

【課題】画像監視にて強盗が従業員に金庫を開けさせた上で盗みを働く異常行動を検知する。
【解決手段】人物追跡部220は、監視画像において金庫近くにいる人物をそれぞれ追跡する。金庫錠センサは金庫が施錠状態であるか解錠状態であるかを検知する。解錠者特定部221は金庫が解錠状態へ変化したときに金庫に最も近い位置にて追跡されている人物を解錠者と特定する。異常判定部222は、解錠者が特定されてから金庫が施錠状態へ変化するまでの解錠期間中に、金庫に対する位置に関して解錠者以外の人物が解錠者と入れ替わる交代が生じた場合に異常を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理により人の異常行動の発生を検知する画像監視装置に関し、特に金庫等の保管庫周辺における異常行動を検知する画像監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでの機械警備システムは主として閉店後や留守中の警備を担ってきたが、昨今では従業員や家人が居る有人環境における警備の要請が増えてきた。有人環境での警備の1つに金庫等を狙った押し込み強盗への対策がある。有人環境での警備を実現するには賊を賊以外の人と区別して異常を検知しなくてはならない。
【0003】
特許文献1には、金庫等を目当てとした侵入者が存在するという異常を当該金庫等の近くを単に素通りする人と区別して検出するために、監視画像において移動物体の像を消去して長時間停止した停止物体の像のみを抽出する画像処理を行うとともに、監視画像内の金庫等の近辺に異常検出するエリア(監視区域)を予め設定して、当該エリアにおいて停止物体の像が抽出された場合に異常と判断することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−253297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、従業員や家人が平素、金庫を利用する際には金庫等の近辺に停止する。すなわち、従業員や家人が居る状況では、金庫等の近傍における人の停止に基づいて異常検出を行うと、従業員や家人が金庫等を利用する正常な状態と、押し込み強盗発生時のように賊又は賊に強要された従業者等が金庫等を開けたり賊が金品等を金庫等から盗み出す異常な状態とを区別できずに誤検知を生じる。
【0006】
また、人の停止に基づいて異常検出する従来技術では、異常検出するエリアを事前に設定する際に、当該エリアを広くしすぎると従業員等の金庫周辺での動線を含んでしまい誤報を生じやすくなり、狭くしすぎると賊を検知し損ねる可能性が高くなる。このように従来技術では監視エリア設定の良し悪しが検知精度に大きく影響を与える。ところが適切なエリア設定は、カメラの設置状況(カメラの設置の高さや角度)、金庫等の大きさ、従業員等の動線などに依存して物件ごとに異なる。そのため物件ごとに適した監視エリアを都度設定することとなり、全ての物件において一定レベル以上の検知精度を与えるエリア設定を実現するには熟練を要し、エリア設定作業の負荷が高かった。
【0007】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、従業員や家人が居る状況での押し込み強盗などにて往々にして発生する、賊が当該従業員等に強要して保管庫を開けさせる異常行動を高精度に検知できる画像監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る画像監視装置は、施錠される保管庫に対する監視区域を監視するものであって、所定周期で前記監視区域を撮影した監視画像を取得する画像取得部と、前記監視画像において前記監視区域に存在する人物をそれぞれ追跡する人物追跡部と、
前記保管庫が施錠状態であるか解錠状態であるかを検知する錠状態検知部と、前記保管庫が前記解錠状態へ変化したときに当該保管庫に最も近い位置にて追跡されている前記人物を解錠者と特定する解錠者特定部と、前記解錠者が特定されてから前記保管庫が前記施錠状態へ変化するまでの解錠期間中に、前記保管庫に対する位置に関して前記解錠者以外の前記人物が前記解錠者と入れ替わる交代が生じた場合に異常を判定する異常判定部と、を有する。
【0009】
本発明の好適な態様は、前記異常判定部が、前記解錠期間中に前記保管庫に最も近い位置にて追跡されている前記人物が前記解錠者と同一人でない場合に前記交代を検知する画像監視装置である。
【0010】
本発明の他の好適な態様は、前記異常判定部が、前記解錠期間中に、前記解錠者よりも前記保管庫に近い位置にて追跡されている前記人物が存在する場合に前記交代を検知する画像監視装置である。
【0011】
他の本発明に係る画像監視装置においては、前記異常判定部が、前記異常の判定に際し、前記解錠期間中に前記解錠者が静止状態になったことを追加の判定条件とする。
【0012】
別の本発明に係る画像監視装置においては、前記異常判定部が、前記異常の判定に際し、前記解錠者との交代者が予め定められた外見上の特徴を有することを追加の判定条件とする。
【0013】
また別の本発明に係る画像監視装置は、さらに、前記解錠者及び当該解錠者との交代者の区別を前記監視画像に表示した状況画像を生成する状況画像生成部を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、平時における従業員や家人による保管庫の利用を異常と誤検知しにくい一方、押し込み強盗の賊及び賊に脅された従業員がとる異常行動を検知できる。また、異常行動の検知エリアの設定が検知精度に影響を与えにくくなり、エリア設定の負荷が軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る画像監視装置の全体構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る画像監視装置を構成する画像センサの概略のブロック構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る画像監視装置の監視動作の概略のフロー図である。
【図4】異常判定処理の概略のフロー図である。
【図5】入れ替わりの具体例を示す模式図である。
【図6】状況画像の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)である画像監視装置1について、図面に基づいて説明する。
【0017】
画像監視装置1は、金庫(保管庫)が設置された金庫室を監視空間とし、監視空間を撮像した監視画像を処理して、押し込み強盗の発生時に賊及び賊に脅された従業員がとる異常行動を検知する。特に画像監視装置1は、賊が金庫を解錠させた従業員と入れ替わって自ら金品の取り出しを行なう入れ替わり行動(交代)を異常行動として検知する。
【0018】
[画像監視装置の構成]
図1は金庫10が置かれた金庫室を監視空間とする画像監視装置1の全体構成を示す模式図である。画像監視装置1は、画像センサ2、コントローラ3、設定入力部4、金庫錠センサ5、威嚇装置6及び警備センター装置7を含んで構成される。画像センサ2、設定入力部4、金庫錠センサ5、威嚇装置6及び警備センター装置7はコントローラ3に接続される。
【0019】
コントローラ3は、金庫室を備えた建物内の事務室等に設置される。コントローラ3に接続された各部はコントローラ3を介して各種信号の送受信を行う。また、コントローラ3に接続された各部は必要に応じてコントローラ3から動作制御される。
【0020】
画像センサ2は、例えば金庫10の真上の天井部に金庫室を俯瞰して設置され、監視画像の撮像及び当該監視画像を用いた異常行動の検知を行う。画像センサ2は、異常行動を検知すると検知信号をコントローラ3に出力する。
【0021】
監視画像の撮像範囲には、少なくとも金庫10の扉のすぐ前及びその周辺領域が含まれる。周辺領域は金庫10の解錠者が解錠操作時に留まる位置範囲よりも広く、解錠者の周囲の人物の追跡がしやすいよう、金庫10を中心とする半径5m程度の広さが好適である。画像センサ2は、上記周辺領域を撮像可能な位置に設置される。
【0022】
設定入力部4は、画像監視装置1の運用者が、監視画像中の金庫10の位置を表す保管庫位置210や、付帯評価項目215等の設定を入力するインターフェース装置である。設定入力部4は、画像監視装置1の運用前にコントローラ3と一時的に接続され、接続時に、画像センサ2からの監視画像がコントローラ3により中継されて設定入力部4に表示される。表示中の監視画像における保管庫位置210や付帯評価項目215等が設定入力されると、当該設定がコントローラ3を介して画像センサ2に入力され、画像センサ2は当該設定を記憶する。
【0023】
金庫錠センサ5は、金庫10内に設置され、金庫10の錠が施錠状態であるか解錠状態であるかを表す錠状態信号をコントローラ3へ出力する。錠状態信号はコントローラ3により中継されて画像センサ2に入力される。
【0024】
威嚇装置6は、金庫室内に設置され、賊に対する警告音声や警報等を再生する音響装置である。コントローラ3は画像センサ2から検知信号が入力されると威嚇装置6に起動信号を出力し、威嚇装置6は起動信号が入力されると動作して賊を威嚇する。
【0025】
警備センター装置7は、例えば遠隔地にある警備センターに設置され、公衆電話回線などの広域通信ネットワークを介してコントローラ3と接続される。コントローラ3は画像センサ2から検知信号が入力されると警備センター装置7に異常通知信号を送信し、警備センター装置7は異常通知信号を受信すると警備センターに常駐する警備員に対して異常の発生を報知する。
【0026】
図2は画像センサ2の概略のブロック構成図である。画像センサ2は、撮像部20、記憶部21、制御部22及び通信部23を含んで構成される。撮像部20、記憶部21及び通信部23は、制御部22と接続される。
【0027】
撮像部20は、監視カメラであり、監視空間を所定時間おきに撮像して監視画像を制御部22へ順次出力する。監視画像が撮像される時間間隔は例えば1/5秒である。以下、この撮像の時間間隔で刻まれる時間の単位を時刻と称する。
【0028】
記憶部21は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置である。記憶部21は、各種プログラムや各種データを記憶し、制御部22との間でこれらの情報を入出力する。各種データには、保管庫位置210、錠状態211、追跡用情報212、人物位置213、解錠者情報214及び付帯評価項目215が含まれる。
【0029】
保管庫位置210は監視画像における金庫10の位置の情報であり、設定入力部4を介して予め設定される。具体的には、保管庫位置210は監視画像の座標系で表現された1点のXY座標である。
【0030】
錠状態211は錠状態信号から得られる錠の状態である。状態の変化を判定するために現時刻の状態と一時刻前の状態とが記憶される。
【0031】
追跡用情報212は、監視空間内を移動する人物を追跡するために生成され、参照される画像情報である。具体的には、追跡用情報212は、人物が居ないときに撮像された監視画像を基に生成された背景画像と、各人物の像から抽出された特徴量である。特徴量としては人物の像の輝度ヒストグラム、テクスチャ情報等を用いることができる。追跡は、前後する時刻に検出された人物のうち特徴量が類似するものを同一人物として同定することにより各時刻における人物ごとの位置を求める処理である。同定された人物には共通の識別子(人物ID)が付与され、特徴量は同定された人物ごとに人物IDと対応付けて記憶される。
【0032】
人物位置213は、監視画像における人物の位置の履歴であり、追跡結果として生成される。人物位置213は、同定された人物ごとにその人物IDと対応付けて記憶される。
【0033】
解錠者情報214は保管庫を解錠した人物(解錠者)を識別する情報である。解錠者は後述する解錠者特定部221により特定され、特定された解錠者の人物IDが解錠者情報214として記憶される。なお、保管庫が施錠状態のとき、解錠者情報214はクリアされて「解錠者なし」となる。
【0034】
付帯評価項目215は、異常の判定確度を上げるために入れ替わりの他に追加の判定条件として付帯評価する項目の情報である。具体的には、解錠者の動静を評価する動静評価設定、解錠者と入れ替わった作業者(交代者)の外見上の特徴を評価する外見評価設定がこれらの項目である。物件の運用に合わせて事前に設定される。
【0035】
動静評価設定は有効/無効のいずれかに設定され、有効であれば入れ替わりが検出された後に解錠者が静止状態になったことをもって異常の検知信号が出力され、無効であれば入れ替わり後の解錠者の動静によらず異常の検知信号を出力するか否かが決定される。例えば、金庫操作に監督者立ち会いを義務付けている物件では、監督者は金庫を解錠した後、作業者による金庫保管物の搬出入を監督する。この場合、搬出入の作業中、監督者は動かない可能性があるので、動静評価設定を無効に設定するのが好適であり得る。一方、解錠と搬出入作業を単独で行う物件では、動静評価設定を有効とすることができる。
【0036】
外見評価設定は、さらに(1)顔隠蔽、(2)制服有無、(3)顔認証の3つの小項目に細分され、各小項目についての有効/無効、及び制服有無が有効であれば従業員の制服パターンデータ、顔認証が有効であれば従業員個々の顔データが登録顔データとして設定される。
【0037】
「顔隠蔽」が有効であれば入れ替わりが検出されたときに交代者の顔がサングラスやマスクなどで隠蔽されているか否かが判定され、隠蔽が判定されたことをもって検知信号が出力され、無効であれば隠蔽判定によらず検知信号を出力するか否かが決定される。例えば、風邪や花粉症などでマスク着用者が増える時期には「顔隠蔽」を無効に設定し、その他の時期は有効に設定することができる。また、従業員が防護目的でマスク等を着用する職場や特殊な保管庫においては無効とするのが好適である。
【0038】
「制服有無」が有効であれば入れ替わりが検出されたときに交代者の像に制服パターンデータと一致するパターンが含まれているか否かが判定され、制服なしが判定されたことをもって検知信号が出力され、無効であれば制服判定によらず検知信号を出力するか否かが決定される。例えば、制服着用を義務付けている物件や、従業員の服装に類型を抽出できる物件では「制服有無」を有効に設定することができるが、制服が定められていない物件では無効を選択することができる。
【0039】
「顔認証」が有効であれば入れ替わりが検出されたときに交代者の像に登録顔データと一致するパターンが含まれているか否かが判定され、登録顔データなしが判定されたことをもって検知信号が出力され、無効であれば顔認証によらず検知信号を出力するか否かが決定される。例えば「顔認証」は金庫操作者が特定の者に限られている場合に有効設定を選択することができる。高精度の顔認証処理の実現には他の付帯評価項目の処理よりも制御部22に高い処理能力が必要になったり、顔データの登録のために記憶部21の容量が必要になる点で、画像センサ2のコストが増える可能性がある。また登録顔データを適時更新する必要があり運用コストも増加し得る。これらの点で、「顔認証」による外見評価機能はユーザオプションで搭載する構成としてもよい。
【0040】
制御部22は、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、MCU(Micro Control Unit)等の演算装置である。制御部22は、人物追跡部220、解錠者特定部221、異常判定部222、状況画像生成部223等の動作を記述したプログラムを記憶部21から読み出して実行することによりこれら各部として機能する。
【0041】
人物追跡部220は、監視画像内の人物を追跡して各人物の人物位置213を記憶部21に記憶させる。そのために人物追跡部220は、各時刻において監視画像から人物の像(人物像)を抽出する人物像抽出処理と、前後する時刻における人物像を同定する同定処理を繰り返し、同定された人物像ごとにその重心位置を人物位置213として記憶させる。
【0042】
人物抽出処理を具体的に説明する。人物追跡部220は、監視空間に人が居ないときに撮像された監視画像を追跡用情報212の背景画像として記憶させる。そして、新たな監視画像と背景画像との間で背景差分処理を行なって背景差分領域を検出して背景差分領域をラベリングし、当該監視画像のうち各ラベルと対応する部分を人物像として抽出する。抽出後、人物追跡部220は、監視画像のうち人物像が抽出されなかった部分を背景画像に加算合成することで背景画像を更新する。なお、背景差分処理に代えて監視画像と背景画像との間で相関処理を行ない、相関の低い領域の像をラベリングして人物像を抽出することもできる。
【0043】
同定処理を具体的に説明する。人物追跡部220は、新たな監視画像から抽出された各人物像を分析して人物像ごとの特徴量を抽出し、抽出された特徴量と追跡用情報212として記憶されている人物IDごとの特徴量との類似度を算出して予め設定された同定閾値と比較して、類似度が同定閾値を超えた人物像及び人物IDを同定する。そして人物追跡部220は人物像の重心位置を演算し、当該人物像であると同定された人物IDの人物位置213に当該重心位置を追記する。
【0044】
このとき同定が得られなかった人物像があると、人物追跡部220は新規の人物が出現したとして当該人物像の特徴量に新規の人物IDを付与して追跡用情報212に追記する。新規の人物IDの付与に伴って人物追跡部220は当該人物IDと対応する人物位置213を新たに作成する。
【0045】
また同定が得られなかった人物IDがあると、人物追跡部220は当該人物IDが表す人物像が消失したとして当該人物IDと対応する特徴量を記憶部21から削除する。
【0046】
解錠者特定部221は、保管庫が施錠状態から解錠状態へ変化したときに当該保管庫に最も近い位置にて追跡されている人物を解錠者と特定し、解錠者の人物IDを解錠者情報214として記憶部21に記憶させる。また解錠者特定部221は、保管庫が解錠状態から施錠状態へ変化したときに解錠者情報214をクリアする。
【0047】
具体的には、解錠者特定部221は、解錠状態への変化を検出すると、人物位置213として記憶されている各人物の現在位置と保管庫位置210として記憶されている保管庫の位置との間で距離を算出して算出された距離が最小の人物を解錠者と判定する。
【0048】
錠の状態の変化は、現時刻の錠状態211と一時刻前の錠状態211とを参照することにより検出される。
【0049】
異常判定部222は、解錠者特定部221により解錠者が判定されてから保管庫が施錠状態へ変化するまでの解錠期間における人物位置213を参照して当該解錠者と位置が入れ替わった人物の有無を検出し、入れ替わった人物(交代者)が検出されると異常を判定する。異常判定部222は、異常を判定すると当該異常に関する異常情報を生成し、通信部23へ出力する。
【0050】
具体的には異常判定部222は、解錠期間中に各人物の現在位置と保管庫の位置との間で距離を算出して、算出された距離が最小の人物を作業者と特定し、作業者が解錠者と一致しなければ当該作業者を交代者として検出する。
【0051】
別の実施形態において異常判定部222は、解錠期間中に各人物の現在位置と保管庫の位置との間で距離を算出して、解錠者以外の人物のうちで解錠者よりも小さな距離が算出された者を交代者として検出する。この場合、交代者が複数人であるときに全ての交代者を検出できる。
【0052】
また異常判定部222は、付帯評価項目215において動静評価設定が有効であれば解錠期間中の人物位置213から解錠者が静止状態にあるか否かを判定し、静止状態であれば動静が異常であると判定する。具体的には異常判定部222は、解錠者の人物位置213から移動の無い時間長を抽出し、抽出された時間長が予め設定された静止判定時間を超えていれば静止状態と判定する。人物位置213において連続する時刻間での位置の差が人物抽出処理の抽出誤差以下であれば移動無しとされる。
【0053】
また異常判定部222は、付帯評価項目215において外見評価設定の「顔隠蔽」の小項目が有効であれば交代者の人物像から顔の隠蔽を判定し、顔の隠蔽が判定されると外見が異常であると判定する。具体的には異常判定部222は、交代者の人物像から楕円形状を検出して楕円内の肌色画素を抽出し、楕円の面積に対する肌色の面積が所定値未満であれば顔の隠蔽を判定する。
【0054】
また異常判定部222は、付帯評価項目215において外見評価設定の「制服有無」の小項目が有効であれば交代者の人物像において制服パターンを検索し、制服パターンが検出されなければ外見が異常であると判定する。具体的には異常判定部222は、交代者の人物像上で予め設定された制服パターンデータを走査して制服パターンデータと一致する部分を検出する。
【0055】
また異常判定部222は、付帯評価項目215において外見評価設定の「顔認証」の小項目が有効であれば交代者の人物像の顔部分が各登録顔データと一致するか否かを判定し、いずれの登録顔データとも一致しなければ外見が異常であると判定する。具体的には異常判定部222は、交代者の人物像から楕円形状を検出して楕円内の画像を登録顔データと照合して登録顔データと一致するか否かを判定する。
【0056】
なお、2人以上の交代者が検出された場合、異常判定部222は外見評価設定に応じた外見評価処理を各交代者に対して行う。
【0057】
こうして入れ替わり判定及び付帯評価項目215に応じた各種判定を行なった異常判定部222は、判定結果と付帯評価項目215とに応じてコントローラ3へ異常の検知信号を出力するか否かを決定する。
【0058】
状況画像生成部223は、異常判定部222により異常が判定された監視画像に解錠者及び当該解錠者と入れ替わった交代者とを識別可能な情報を付加して状況画像を生成する。生成された状況画像は異常判定部222により異常情報に加えられる。
【0059】
通信部23は、コントローラ3と制御部22との間で各種信号の送受信を行なうためのインターフェース回路及びそのドライバソフトウェアである。例えば、金庫錠センサ5からの錠状態信号は、通信部23にて受信されて制御部22により読み出される。また制御部22からの検知信号は通信部23を介してコントローラ3へ送信される。
【0060】
[画像監視装置の動作]
画像監視の事前準備として、装置の運用者は設定入力部4をコントローラ3に接続して保管庫位置210及び付帯評価項目215の設定を行なう。
【0061】
設定入力部4には撮像部20からの監視画像が表示され、運用者が当該監視画像上で保管庫が撮像されている領域中の1点を指定すると、指定された点の座標値が画像センサ2に送信されて記憶部21に保管庫位置210として記憶される。この保管庫位置210の設定は、従来技術で行われていた異常を検出するエリアの設定とは異なり、実寸から画像上のエリアサイズへの換算が不要であり、単純な点の指定で済むため設定作業の負荷が極めて小さい。
【0062】
初期設定された後に、監視空間が無人であり、且つ保管庫が施錠されていることを確認した運用者が電源を投入すると監視動作が始まる。
【0063】
以下、画像監視装置1の監視動作を説明する。図3は画像監視装置1の監視動作の概略のフロー図である。
【0064】
まず、制御部22は初期化を行なう(S1)。すなわち、制御部22の人物追跡部220は記憶部21の追跡用情報212の背景画像を動作開始直後に撮像された監視画像により初期化し、制御部22の解錠者特定部221は記憶部21の解錠者情報214をクリアし、また制御部22は現時刻の錠状態211を「施錠」に初期化する。
【0065】
初期化以降は、撮像部20から制御部22へ新たな監視画像が入力されるたびにステップS2〜S12の処理が繰り返される。
【0066】
新たな監視画像が入力されると(S2)、まず人物追跡部220は当該監視画像と追跡用情報212とを比較して監視画像中の人物を追跡する処理を一時刻分進捗させる(S3)。この結果、監視空間内に人物が存在していれば、人物追跡部220により記憶部21の人物位置213に監視画像における各人物の位置が蓄積され、人物追跡部220により記憶部21の追跡用情報212に各人物の像の特徴量が生成・更新される。
【0067】
次に制御部22は錠状態211を取得する(S4)。すなわち制御部22は、一時刻前の錠状態211に現時刻の錠状態211をコピーし、通信部23を制御して金庫錠センサ5からの錠状態信号を取得して該信号が表す状態を現時刻の錠状態211に上書きする(S4)。
【0068】
制御部22は、一時刻前の錠状態211が施錠状態であり且つ現時刻の錠状態211が解錠状態であれば(S5にてYES)、解錠者特定部221により解錠者を特定する(S6)。具体的には解錠者特定部221は、追跡中の各人物について保管庫位置210と人物位置213との間の距離を算出し、算出された距離が最小の人物の人物IDを解錠者情報214として記憶部21に記憶させる。金庫10の錠が施錠状態から解錠状態に変化したとき、監視空間には解錠者が存在し、当該解錠者は金庫10から最も近くに位置している人物と推定できるのである。
【0069】
なお、錠状態211がステップS5の条件を満たさない場合(S5にてNO)、ステップS6はスキップされる。
【0070】
続いて制御部22は、一時刻前の錠状態211と現時刻の錠状態211がともに解錠状態であれば(S7にてYES)、異常判定部222により異常があるか否かを判定する(S8)。因みにステップS7にてYESに進むときは、金庫10が解錠されており、解錠者が特定されている状態である。
【0071】
図4は異常判定処理S8の概略のフロー図である。図4のフローチャートを参照して、ステップS8における異常判定処理を説明する。
【0072】
金庫10が解錠されている状態では、金庫10の最も近くに位置している人物を、金庫10からの取り出し作業或いは金庫10への保管作業を行なっている作業者と推定できる。まず異常判定部222は、追跡中の各人物について保管庫位置210と人物位置213との間の距離を算出し(S80)、算出された距離が最小の人物の人物IDを作業者として特定して作業者の人物IDが解錠者の人物IDと同一であるか否かを判定する(S81)。同一でなければ入れ替わり有り、同一であれば入れ替わり無しと判定される。入れ替わり有りの場合、賊が従業員を脅して金庫10を解錠させ、その後に賊が金庫10から金品を取り出している可能性がある。一方、入れ替わり無しの場合、つまり作業者と解錠者が同一の場合は金庫10を解錠した従業員が継続して金庫10の前で作業を続けている正常な状態と推定される。
【0073】
図5は、入れ替わりの具体例を示す模式図である。図5を用いて入れ替わり判定の処理を説明する。時刻がt1,t2,t3と進み、これら各時刻において監視画像50−1,50−2,50−3が撮像される。監視画像50には保管庫51、従業員52、賊53がそれぞれ撮像されている。これら監視画像50を用いて人物が追跡される。例えば、従業員52には人物ID「A」が付与されて人物Aとして追跡され、賊53には人物ID「B」が付与されて人物Bとして追跡される。画像60−1,60−2,60−3は監視画像50−1,50−2,50−3と対応する画像に人物A,Bの人物位置213及び保管庫位置210をプロットしたものである。
【0074】
また、図5下部の3つの表は各時刻における錠状態211のデータ、解錠者情報214のデータ及び異常判定部222による作業者の判定結果70を示したものである。
【0075】
時刻t1に賊53が従業員52を脅しながら保管庫51に近づいてきた。このとき錠状態211−1は施錠状態であり、解錠者情報214−1は「なし」となっている。また錠状態211が施錠状態の間は作業者は特定されないので、作業者判定結果70−1を「―」としている。
【0076】
時刻t2に従業員52が保管庫51を解錠した。錠状態211−2は「解錠」に書き換わり、解錠者特定部221により人物Aが解錠者と特定されて解錠者情報214−2に人物ID「A」が記憶される。このタイミングで異常判定部222により作業者の特定が始まるが、まだ入れ替わりは発生しておらず作業者判定結果70−2は人物Aである。
【0077】
時刻t3に賊53が保管庫51前で作業を始めた。作業者は人物Bとなり、作業者判定結果70−3は解錠者情報214−3の人物Aと同一でなくなり、入れ替わりが判定される。
【0078】
上述した図5に示すように入れ替わり有りの場合の処理を説明する。図4に示すように、入れ替わり有りの場合(S82にてYES)、制御部22の状況画像生成部223は入れ替わりが判定された監視画像、そのときの解錠者の人物位置213及びそのときの作業者(交代者)の人物位置213を基に状況画像を生成し(S83)、異常判定部222は入れ替わりの旨と状況画像を含めた異常情報を生成して記憶部21に記憶させる(S84)。
【0079】
図6は状況画像の例を示す模式図である。図6の基になった画像は図5の監視画像50−3であり、基になった人物位置213は図5の人物位置213−A3及び人物位置213−B3である。状況画像生成部223は監視画像50−3を状況画像80として複製し、状況画像80の端に「解錠者」の文字81を描画して文字81付近の所定位置から解錠者の人物位置213−A3へ向かう直線82を人物像52−3の手前まで描画し、状況画像80の端の文字81と重ならない位置に「交代者」の文字83を描画して文字83付近の所定位置から交代者の人物位置213−B3へ向かう直線84を人物像53−3の手前まで描画する。
【0080】
さらに、入れ替わり有りの場合には図4に示すように、異常判定部222は付帯評価項目215を確認して設定に応じた付帯評価を行なう(S85〜S92)。
【0081】
まず、付帯評価項目215の外見評価設定の「顔隠蔽」、「制服有無」、「顔認証」のいずれか1つ以上の不審外見の小項目が有効であれば(S85にてYES)、異常判定部222は交代者の人物像に対して有効と設定されている小項目の評価を行なって交代者の人物像が不審外見を有しているか否かを判定し(S86)、不審外見が判定されれば(S87にてYES)、不審外見が判定された旨を異常情報に追記する(S88)。なお、外見評価設定が無効である場合(S85にてNO)、ステップS86〜S88は省略される。また、不審外見が判定されなかった場合(S87にてNO)、ステップS88は省略される。
【0082】
続いて付帯評価項目215の動静評価設定が有効であれば(S89にてYES)、異常判定部222は解錠期間中の解錠者の人物位置213から解錠者が静止判定時間以上動かない静止状態であるか否かを判定し(S90)、静止状態であれば(S91にてYES)、静止状態である旨を異常情報に追記して(S92)、図3のステップS9へ処理が進められる。
【0083】
押し込み強盗などの異常なケースでは、解錠させた従業員を賊がそのまま解放するといったことは考えにくく、賊の目の届く範囲で従業員は拘束を受け続け静止状態になると考えられる。逆に複数の従業員が共同で保管庫前にて作業するといった正常なケースで入れ替わりが発生した場合、押し込み強盗の場合と違って解錠者も作業を行うことから静止状態とならないと想定される。
【0084】
なお、動静評価設定が無効である場合(S89にてNO)、ステップS90〜S92は省略される。また、静止状態が判定されなかった場合(S91にてNO)、ステップS92は省略される。
【0085】
以上、入れ替わり判定S81にて入れ替わり有りとの判定結果が得られた場合(S82にてYES)を説明した。これに対し、入れ替わり無しとの判定結果が得られた場合は(S82にてNO)、作業者と解錠者が同一の場合であり、この場合は金庫10を解錠した従業員が継続して金庫10の前で作業を続けている正常な状態と推定される。すなわち異常判定部222は、作業者と解錠者が同一であれば、正常であるとしてステップS9へ処理を進める。
【0086】
再び図3に戻り、処理の続きを説明する。ステップS8にて付帯評価項目215の設定を満たす異常情報が生成された場合は(S9にてYES)、異常判定部222は当該異常情報を含めた異常の検知信号を通信部23に出力する(S10)。通信部23は検知信号をコントローラ3へ送信し、コントローラ3は検知信号を受けて異常通知信号を警備センター装置7へ送信する。異常通知信号を受信した警備センター装置7は異常のある旨および異常画像を表示する表示処理などを行う。表示を見た監視員は異常画像内の登場人物の関係を迅速に把握して適切な対処行動をとることができる。
【0087】
上述のように解錠された場合に制御部22は解錠者を特定して(S6)入れ替わりの監視を行う。一方、制御部22は、施錠された場合、つまり一時刻前の錠状態211が解錠状態であり且つ現時刻の錠状態211が施錠状態であれば(S11にてYES)、解錠者特定部221により解錠者情報214をクリアする(S12)。
【0088】
なお、錠状態211がステップS11の条件を満たさない場合(S11にてNO)、ステップS12はスキップされる。つまりステップS6にて金庫10の解錠時に特定された解錠者情報214は、金庫10が施錠されるまで保持されることになる。
【0089】
以上の処理が終わると、処理は再びステップS2へと戻り、次時刻の処理が行われる。
【0090】
上記実施形態では、保管庫が金庫である場合に適用した画像監視装置1を例に説明した。しかし、保管庫は金庫には限定されず、薬品庫、宝石のショーケース、危険物の保管庫など各種保管庫が設置された監視空間において本発明の画像監視装置を用いて、上記実施形態と同様に異常行動を検知することができる。
【0091】
既に述べたように、異常判定部222は、入れ替わり判定結果及び付帯評価項目215に応じてコントローラ3を介して異常の検知信号を出力するか否かを決定する。判定結果及び付帯評価項目215がどのような場合に異常判定部222が異常検知信号を生成するかは、例えば、必要とされる監視レベルや物件ごとの条件の相違等に応じて様々に設定可能である。例えば、付帯評価の結果にかかわらず入れ替わりの検知のみで異常検知信号を出力する構成とすることができる。この構成は異常行動の検知感度が高くなり、失報を少なくできる。
【0092】
付帯評価項目は既に述べたようにユーザのニーズや利用環境に応じて選択することができる。例えば、動静評価と外見評価の各小項目との4つは、入れ替わり判定に対して並列な追加要件とすることができる。つまり、入れ替わりの検知に加えて、それら付帯評価項目の4つのうち有効に設定されたもののいずれかが異常判定であれば、異常判定部222は検知信号を生成する。この構成は、上述の入れ替わり判定のみに基づいて検知信号を生成する構成よりも誤報が少なくなることが期待できる。
【0093】
また、入れ替わり判定に対して、動静評価を第1の追加要件とし、さらに外見評価の3つの小項目を互いに並列な第2の追加要件とした構成も可能である。この構成では、入れ替わりが検知され、且つ、動静評価が異常判定であり、さらに外見評価の3つの小項目のうち有効に設定されたもののいずれかが異常判定であれば、異常判定部222は検知信号を生成する。この構成は、上述の4つの付帯評価項目を並列に取り扱う構成よりもさらに誤報を抑制し得る。
【符号の説明】
【0094】
1 画像監視装置、2 画像センサ、3 コントローラ、4 設定入力部、5 金庫錠センサ、6 威嚇装置、7 警備センター装置、10 金庫、20 撮像部、21 記憶部、22 制御部、23 通信部、50 監視画像、80 状況画像、210 保管庫位置、211 錠状態、212 追跡用情報、213 人物位置、214 解錠者情報、215 付帯評価項目、220 人物追跡部、221 解錠者特定部、222 異常判定部、223 状況画像生成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
施錠される保管庫が設置された監視空間を監視する画像監視装置であって、
所定周期で前記監視空間を撮影した監視画像を取得する画像取得部と、
前記監視画像において前記監視空間に存在する人物をそれぞれ追跡する人物追跡部と、
前記保管庫が施錠状態であるか解錠状態であるかを検知する錠状態検知部と、
前記保管庫が前記解錠状態へ変化したときに当該保管庫に最も近い位置にて追跡されている前記人物を解錠者と特定する解錠者特定部と、
前記解錠者が特定されてから前記保管庫が前記施錠状態へ変化するまでの解錠期間中に、前記保管庫に対する位置に関して前記解錠者以外の前記人物が前記解錠者と入れ替わる交代が生じた場合に異常を判定する異常判定部と、
を有することを特徴とする画像監視装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像監視装置において、
前記異常判定部は、前記解錠期間中に、前記保管庫に最も近い位置にて追跡されている前記人物が前記解錠者と同一人でない場合に前記交代を検知すること、を特徴とする画像監視装置。
【請求項3】
請求項1に記載の画像監視装置において、
前記異常判定部は、前記解錠期間中に、前記解錠者よりも前記保管庫に近い位置にて追跡されている前記人物が存在する場合に前記交代を検知すること、を特徴とする画像監視装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の画像監視装置において、
前記異常判定部は、前記異常の判定に際し、前記解錠期間中に前記解錠者が静止状態になったことを追加の判定条件とすること、を特徴とする画像監視装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の画像監視装置において、
前記異常判定部は、前記異常の判定に際し、前記解錠者との交代者が予め定められた外見上の特徴を有することを追加の判定条件とすること、を特徴とする画像監視装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の画像監視装置において、さらに、
前記解錠者及び当該解錠者との交代者の区別を前記監視画像に表示した状況画像を生成する状況画像生成部を有すること、を特徴とする画像監視装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−33053(P2012−33053A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172848(P2010−172848)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】