説明

異常検知装置、方法およびその方法をコンピュータに実行させるプログラム

【課題】装置の特定の異常挙動を従来に比して高感度に検知することができる異常検知装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、装置パラメータ取得部11は、装置の動作状態を表す装置パラメータを取得する。データ処理部13は、装置パラメータの時系列データをフィッティング処理する。トレンド取得部14は、フィッティング処理したデータを用いて、装置パラメータ取得時の2階微分値をトレンドの変化情報として取得する。フィッティング誤差取得部15は、取得した装置パラメータと、フィッティング処理したデータと、のフィッティング誤差を装置パラメータの変化の度合い情報として取得する。そして、異常判定部17は、データ挙動取得手段で取得されたトレンドの変化情報と装置パラメータの変化の度合い情報との組み合わせを、装置の動作状態が異常と判定される範囲を規定した異常判定基準情報と比較して、装置の動作状態が異常であるかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異常検知装置、方法およびその方法をコンピュータに実行させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程においては、半導体製造装置の異常を検知するために、半導体製造装置の種々の動作状態を表す装置パラメータをセンサによって監視している。そして、センサから得られる装置パラメータが異常値を示した場合に、半導体製造装置に異常が発生したとして、アラームを発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−87459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、装置パラメータが所定の範囲から外れた場合に異常であると判定しているが、たとえば装置パラメータが突発的に異常値を示したものである場合でも、半導体装置の製造歩留まりにほとんど影響を与えないこともある。
【0005】
本発明の一つの実施形態は、半導体装置の製造に悪影響を及ぼす装置の特定の異常挙動を正確に検知することができる異常検知装置および方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態によれば、装置パラメータ取得手段と、データ処理手段と、トレンド取得手段と、フィッティング誤差取得手段と、異常判定手段と、を備える異常検知装置が提供される。前記装置パラメータ取得手段は、装置の動作状態を表す装置パラメータを取得する。前記データ処理手段は、前記装置パラメータの時系列データをフィッティング処理する。前記トレンド取得手段は、前記フィッティング処理したデータについて2階微分を行って、前記装置パラメータ取得時の2階微分値をトレンドの変化情報として取得する。前記フィッティング誤差取得手段は、取得した前記装置パラメータと、前記フィッティング処理したデータと、のフィッティング誤差を前記装置パラメータの変化の度合い情報として取得する。そして、前記異常判定手段は、前記データ挙動取得手段で取得された前記トレンドの変化情報と前記装置パラメータの変化の度合い情報との組み合わせを、前記装置の動作状態が異常と判定される範囲を規定した異常判定基準情報と比較して、前記装置の動作状態が異常であるかを判定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、装置パラメータのトレンドの一例を示す図である。
【図2】図2は、装置パラメータの異常と装置状態の状態との関係を示す図である。
【図3】図3は、実施形態による異常検知装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。
【図4】図4は、実施形態による異常検知方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【図5】図5は、装置パラメータを用いた異常検知処理の一例を模式的に示す図である。
【図6】図6は、異常判定基準情報の一例を示す図である。
【図7】図7は、装置パラメータを用いた異常検知処理の一例を模式的に示す図である。
【図8】図8は、装置パラメータを用いた異常検知処理の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる異常検知装置、方法およびその方法をコンピュータに実行させるプログラムを詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。また、以下では、装置の異常検知についての一般的な問題点について簡単に説明した後、実施形態を説明する。
【0009】
たとえば半導体製造システムを構成する半導体製造装置の装置状態を監視する場合に、装置状態を示す装置パラメータの挙動として、装置状態が正常のときに装置パラメータが取り得る値の経時変化を示すベースラインに対して徐々にずれていくベースライン立上り/立下り型の変化と、ベースラインに対して突発的に変化する突発型の変化がある。図1は、装置パラメータの経時変化の傾向(トレンド)の一例を示す図であり、図1(a)は、ベースライン立上り/立下り型の一例を示す図であり、図1(b)は、突発型の一例を示す図である。図2は、装置パラメータの異常と装置の状態との関係を示す図である。ここでは、露光装置におけるフォーカス追従性や露光量、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置の冷却用ウェハステージ裏面のHeガスのリーク量を装置パラメータの例に挙げている。
【0010】
ベースライン立上り/立下り型の場合には、図1(a)に示されるように、時刻t1までは平均値y1近辺に分布し、ベースラインを形成していた装置パラメータは、時刻t1以降ではその値が徐々に増加していき、ベースラインから外れていく。図2に示されるように、装置パラメータとして露光装置におけるフォーカス追従性や露光量、CVD装置のHeガスのリーク量がこのような変動を示す場合には、いずれも半導体装置の製造における重大な問題、例えば、半導体装置の広領域に不良が生じ製造歩留まりが悪化することが分かっている。
【0011】
一方、突発型の場合には、図1(b)に示されるように、ほとんどの時刻では平均値y2近辺に分布し、ベースラインを形成していた装置パラメータが、たとえば時刻t2で突発的にベースラインからかけ離れた値をとり、その後、再び平均値y2近辺の値を取る挙動を示す)。図2に示されるように、装置パラメータとして露光装置のフォーカス追従性がこのような変動を示す場合には、製造歩留まりの点からは軽症であるが、半導体装置(チップ)にダスト不良(低領域不良)が発生することが分かっている。また、装置パラメータとして露光装置の露光量がこのような変動を示す場合には、メンテナンスに伴う設定変更によるものであり、露光装置のトラブルによるものではなく、そのまま処理を続行しても製造歩留まり低下等の問題が生じないことが分かっている。さらに、装置パラメータとしてCVD装置のHeガスのリーク量がこのような変動を示す場合には、ステージダストに伴う一過性のリーク増加であり、CVD装置のトラブルによるものではなく、そのまま処理を続行しても製造歩留まり低下等の問題が生じないことが分かっている。
【0012】
一般的な異常検知装置では、ベースライン立上り/立下り型の異常を検知する場合には、装置パラメータが10%変化したときに、装置に異常が発生したものと判定し、突発型の異常を検知する場合には、ベースラインから所定の範囲よりも外れた装置パラメータを検出した場合に、装置に異常が発生したものと判定していた。しかし、ベースライン立上り/立下り型の場合には、図1(a)で時刻t1以降で装置パラメータが10%変化したときには、重大な異常が発生してからかなりの時間が経過しており、その間に製造された半導体装置に多くの不良品が発生する可能性がある。また、突発型の場合には、ベースラインから所定の範囲よりも外れた装置パラメータを検出した場合でも、製造装置にとって異常とはならず半導体装置に大きな悪影響を及ぼさないこともある。さらに、ベースライン立上り/立下り型と突発型との間で区別が難しい場合もある。
【0013】
そこで、以下の実施形態では、時系列で取得した装置パラメータのデータからベースライン立上り/立下り型の挙動を示すのか、突発型の挙動を示すのかを速やかに区別して検知するとともに、その種類に応じて装置に発生した異常状態を把握し、装置の管理者や使用者に対して通知することができる異常検知装置、方法およびその方法をコンピュータに実行させるプログラムについて説明する。
【0014】
図3は、実施形態による異常検知装置の構成の一例を模式的に示すブロック図である。異常検知装置10は、たとえば半導体製造システムを構成するCVD装置や露光装置、エッチング装置などの半導体製造装置の状態を収集するセンサと接続され、センサから得られる値を装置パラメータとして取得し、取得した半導体製造装置パラメータを時系列で並べたデータのトレンドがベースラインから外れた場合や半導体製造装置パラメータが突発的にベースラインから外れた場合に、その半導体製造装置が異常挙動を示しているかを検知するものである。ここでは、検知対象の半導体製造装置が異常でない(通常の)状態で動作している場合に得られる装置パラメータに対して、トレンドが変化する場合や突発的に装置パラメータの異常値が発生する場合に、半導体製造装置の異常発生の有無を判断する場合を例に挙げて説明する。
【0015】
異常検知装置10は、装置パラメータ取得部11と、装置パラメータ記憶部12と、データ処理部13と、トレンド取得部14と、フィッティング誤差取得部15と、異常判定基準情報格納部16と、異常判定部17と、警報出力部18と、これらの処理部を制御する制御部19と、を備える。
【0016】
装置パラメータ取得部11は、監視対象である装置に設けられた装置状態を検知するセンサと接続され、センサからの出力を装置パラメータとして取得し、装置パラメータ記憶部12に記憶する。また、装置パラメータ記憶部12は、装置パラメータを時間情報とともに記憶する。装置パラメータは、監視対象である装置(以下、対象装置という)の異常を検知可能な予め定められた装置状態を示すパラメータであり、たとえば露光装置におけるフォーカス追従性や露光量、CVD装置の冷却用ウェハステージ裏面のヘリウムガスのリーク量などを例示することができる。
【0017】
データ処理部13は、装置パラメータ記憶部12に記憶された装置パラメータの時系列データ、いわゆる生データに対して1次式や2次式などで近似するフィッティング処理を行い、フィッティング結果を得る。フィッティング処理を行う際に、たとえば予め定められた時間区間ごとにフィッティングを行うようにしてもよい。
【0018】
トレンド取得部14は、データ処理部13で生成されたフィッティング結果を用いて、装置パラメータのトレンドの変化がわかるトレンドの変化情報に加工する。ここでは、フィッティング結果に対して2階微分値を取る。2階微分値を取ることで、2階微分値にピークが現れると、対象装置のトレンドが変化したことを検出することができる。ここでは、トレンド取得部14は、取得した2階微分値を異常判定部17に出力する。
【0019】
フィッティング誤差取得部15は、装置パラメータ取得部11で取得された装置パラメータのベースラインからの変化の度合い情報、具体的には装置パラメータのデータ処理部13で生成されたフィッティング結果に対する乖離具合を示すフィッティング誤差を取得する。フィッティング誤差として、たとえば実際に取得された装置パラメータとフィッティング結果との残差や残差の二乗値、カイ二乗値などを用いることができる。ここでは、フィッティング誤差取得部15は、残差を取得するものとし、取得したフィッティング誤差を異常判定部17に出力する。なお、データ処理部13、トレンド取得部14およびフィッティング誤差取得部15は、データ挙動取得手段となる。
【0020】
異常判定基準情報格納部16は、対象装置が異常と判定される2階微分値とフィッティング誤差の範囲を規定した異常判定基準情報を格納する。異常判定基準情報は、異常の種類ごとに2階微分値とフィッティング誤差の範囲(組み合わせ)が規定される。
【0021】
異常判定部17は、トレンド取得部14から取得した2階微分値と、フィッティング誤差取得部15から取得したフィッティング誤差と、の組み合わせを、異常判定基準情報格納部16中の異常判定基準情報と比較し、異常と判定される範囲に2階微分値とフィッティング誤差とが存在する場合に、異常が発生したと判定する。また、異常が発生した場合には、異常の種類を異常判定基準情報から取得し、異常の発生とともに警報出力部18に出力する。
【0022】
警報出力部18は、異常判定部17から対象装置の異常発生と異常の種類を含む信号を取得すると、たとえば対象装置に近接して配置される作業用コンピュータや警報機などに、異常が発生したことを示す警報を出力する。このとき、異常の種類も出力することで、作業者にどのような異常が発生しているのかを通知することが可能となる。なお、この警報出力部18は、異常検知装置10の構成として設けられなくてもよい。
【0023】
つぎに、このような異常検知装置10における異常検知方法について説明する。図4は、実施形態による異常検知方法の手順の一例を示すフローチャートである。
【0024】
まず、異常検知装置10の装置パラメータ取得部11は、対象となる対象装置の装置パラメータをセンサから取得し(ステップS11)、装置パラメータ記憶部12に記憶する。装置パラメータは、装置パラメータ記憶部12に時間情報とともに記憶される。
【0025】
ついで、データ処理部13は、装置パラメータ記憶部12に記憶された装置パラメータの時系列データに対してフィッティング処理を行う(ステップS12)。フィッティング処理として、たとえば1次近似や2次近似などが用いられる。
【0026】
その後、トレンド取得部14は、フィッティング処理で得られるフィッティング結果についての1階微分値を取得し(ステップS13)、さらに、1階微分した結果をさらに微分し、フィッティング結果についての2階微分値を取得する(ステップS14)。そして、トレンド取得部14は、この処理を行った時点での2階微分値を異常判定部17に出力する。
【0027】
また、フィッティング誤差取得部15は、フィッティング処理で得られるフィッティング結果についてフィッティング誤差を算出し(ステップS15)、その結果を異常判定部17に出力する。ここでは、フィッティング誤差として、たとえばステップS11で取得した装置パラメータとステップS12で算出したフィッティング結果との差分である残差を算出する。
【0028】
ついで、異常判定部17は、トレンド取得部14から取得した2階微分値とフィッティング誤差取得部15から取得したフィッティング誤差が、異常判定基準情報に規定されている装置異常の範囲に含まれるかを判定する(ステップS16)。
【0029】
その後、異常判定部17は、判定の結果、取得した2階微分値とフィッティング誤差が異常と見做される範囲に含まれない場合(ステップS16でNoの場合)には、対象装置に異常が発生していないと判定し(ステップS17)、そのまま対象装置を稼働させたままの状態とする。
【0030】
一方、異常判定部17は、判定の結果、取得した2階微分値とフィッティング誤差が異常と見做される範囲に含まれる場合(ステップS16でYesの場合)には、対象装置に異常が発生していると判定し(ステップS18)、異常判定基準情報から2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせで指定される異常の内容を取得し(ステップS19)、その内容を警報出力部18に出力する。そして、警報出力部18は、取得した異常内容の異常が発生していることを示す警告を出力する(ステップS20)。以上によって、処理が終了する。
【0031】
なお、異常判定基準情報で、異常となる範囲に対して対象装置の異常の重症度をさらに規定し、異常の重症度に応じて、警報出力部18での出力方法を変化させるようにしてもよい。
【0032】
つぎに、異常検知処理の具体例について、装置パラメータが正常な場合、装置パラメータがベースライン立上り/立下り型の挙動を示す場合、および装置パラメータが突発型の挙動を示す場合を例に挙げて説明する。
【0033】
<装置パラメータが正常な場合>
図5は、装置パラメータが正常な場合の異常検知処理の一例を模式的に示す図である。ここでは、時刻t11での異常検知処理の例について説明する。なお、異常検知処理は、異常が検知されるまで所定の間隔で連続的に行われている。
【0034】
まず、図5(a)に示されるように、装置パラメータは、正常とされる範囲内で取得されており、時刻t11で得られる値も、正常とされる範囲内であるとする。時刻t11でデータ処理部13によってフィッティング処理が行われると、図5(b)に示されるように、所定の値を有し、横軸に略平行な近似曲線が得られる。
【0035】
ついで、トレンド取得部14によって、近似曲線を用いて時刻t11での1階微分値と2階微分値が取得される。図5(c)は、近似曲線を時刻で1階微分した曲線であり、図5(d)は、近似曲線を時刻で2階微分した曲線である。フィッティング結果が横軸に平行な直線であるので、時刻t11での1階微分値と2階微分値ともに0である。
【0036】
その後、フィッティング誤差取得部15によって、時刻t11での装置パラメータの値と近似曲線との間のフィッティング誤差を算出する。図5(e)は、フィッティング誤差を示す図である。この図に示されるように、装置パラメータが正常とされる範囲内では、近似曲線は正常値と略等しく、フィッティング誤差は所定の範囲内となる。
【0037】
異常判定部17は、図5(d)の2階微分値と、図5(e)のフィッティング誤差の組み合わせを、異常判定基準情報と比較して装置に異常が発生しているか否かを判定する。図6は、異常判定基準情報の一例を示す図であり、(a)はベースライン立上り/立下り型と突発型の変動を示す領域を示し、(b)は露光装置のフォーカス追従性に関する異常判定基準情報の一例を示し、(c)は露光装置の露光量とCVD装置のHeガスのリーク量に関する異常判定基準情報の一例を示している。この例では、異常判定基準情報は、横軸に2階微分値をとり、縦軸にフィッティング誤差をとったものである。そして、たとえば2階微分値がa1以下で、フィッティング誤差がb1以上の領域R1に、2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせが含まれる場合には、突発型の変動が発生していることを示し、2階微分値がa2以上で、フィッティング誤差がb2以下の領域R2に、2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせが含まれる場合には、ベースライン立上り/立下り型の変動が発生していることを示している。
【0038】
たとえば、図6(b)に示されるように、露光装置のフォーカス追従性について対象装置の異常が発生しているか否かを判定する場合には、突発型の変動が発生していることを示す領域R1に不良としては軽症のダスト不良の発生が対応付けられ、ベースライン立上り/立下り型の変動が発生していることを示す領域R2に不良としては重症のエリア性不良の発生が対応付けられる。そして、領域R1,R2以外の領域には対象装置が正常であることが対応付けられる。
【0039】
また、図6(c)に示されるように、露光装置の露光量とCVD装置のHeガスのリーク量について対象装置の異常が発生しているか否かを判定する場合には、ベースライン立上り/立下り型の変動が発生していることを示す領域R2に不良としては重症のエリア性不良の発生が対応付けられる。そして、領域R2以外の領域には対象装置が正常であることが対応付けられる。
【0040】
図5の例では、2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせ(0,b11)である点P11は、図7(a)から突発型の変動でもベースライン立上り/立下り型の変動でもなく、正常な装置状態を示す領域に存在する。また、図7(b)、(c)に示されるように、露光装置のフォーカス追従性、露光量またはCVD装置のHeガスのリーク量をモニタしている場合には、正常な装置状態を示していると異常判定部17によって判定される。
【0041】
<装置パラメータがベースライン立上り/立下り型の変動を示す場合>
図7は、装置パラメータがベースライン立上り/立下り型の挙動を示す場合の異常検知処理の一例を示す図である。ここでは、時刻t13での異常検知処理の例について説明する。図7(a)に示されるように、時刻t12までは図5に示されるように装置パラメータが正常な挙動を示し、装置は正常であると判定されているものとする。また、時刻t12までは装置パラメータは正常とされる範囲内でベースラインを構成していたが、時刻t12を過ぎてから徐々にベースラインを外れていき、時刻t13になったとする。なお、ここでは時刻t13以降の挙動も便宜上示している。
【0042】
図7(b)に示されるように、データ処理部13によってフィッティング処理が行われると、時刻t12までは所定の値を有し、横軸に略平行な直線であり、時刻t12〜t13では右上がりの曲線となるような近似曲線が得られる。このようにベースライン立上り/立下り型の挙動を示す場合には、時刻t12が変曲点となるが、装置パラメータ(近似曲線)は連続的に変化する。なお、時刻t13の近似曲線は点線で示されている。
【0043】
ついで、トレンド取得部14によって、近似曲線を用いて時刻t13での1階微分値と2階微分値が取得される。図7(c)は、近似曲線を時刻で1階微分した曲線であり、図7(d)は、近似曲線を時刻で2階微分した曲線である。図7(c)に示されるように、時刻t12までは、1階微分値は0であるが、時刻t12以降は近似曲線の対応する部分の傾きを示す正の値を有し、その後所定値を取る。また、図7(d)に示されるように、2階微分値は時刻t13付近で正のピークを示す形状となる。
【0044】
その後、フィッティング誤差取得部15によって、時刻t13での装置パラメータの値と近似曲線との間のフィッティング誤差を算出する。図7(e)は、フィッティング誤差を示す図である。上記したように、ベースライン立上り/立下り型の場合には、装置パラメータのトレンドが変極点で連続的に変化するので、近似曲線もそれに追従して変化することになる。そのため、図7(e)に示されるように、変極点である時刻t12付近ではフィッティング誤差が多少生じることになるが、かなり大きなフィッティング誤差が生じるわけではない。
【0045】
異常判定部17は、図7(d)の2階微分値と、図7(e)のフィッティング誤差の組み合わせを、異常判定基準情報と比較して装置に異常が発生しているか否かを判定する。図7の例では、2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせ(a13,b13)である点P13は、図7(a)の領域R2に含まれ、ベースライン立上り/立下り型の挙動を示していることが分かる。そして、異常判定部17は、露光装置のフォーカス追従性についての異常検知を行っている場合には図7(b)に示されるように、また、露光装置の露光量またはCVD装置のHeガスのリーク量をモニタしている場合には、図7(c)に示されるように、重症なエリア性不良であると判定する。
【0046】
<装置パラメータが突発型の挙動を示す場合>
図8は、装置パラメータが突発型の挙動を示す場合の異常検知処理の一例を示す図である。ここでは、時刻t15での異常検知処理の例について説明する。図8(a)に示されるように、時刻t14までは図5に示されるように装置パラメータが正常な挙動を示し、装置は正常であると判定されているものとする。また、時刻t14までは装置パラメータは正常とされる範囲内でベースラインを構成していたが、時刻t14で突然にベースラインから大きく外れた装置パラメータが観測され、その後徐々にベースラインへと向けて装置パラメータが変化していき、時刻t15になったものとする。なお、ここでは時刻t15以降の挙動も便宜上示している。
【0047】
図8(b)に示されるように、データ処理部13によってフィッティング処理が行われると、時刻t14までは所定の値を有し、横軸に略平行な直線であるが、時刻t14以降では装置パラメータが大きくずれてしまっているので、それに合わせてき装置パラメータの方向へとずれるような近似曲線が得られる。このように突発型の挙動を示す場合には、時刻t14で突発的にベースラインから大きく変化するが、フィッティング処理は時刻t14までに蓄積された装置パラメータも含めて行われるため、実際に得られる装置パラメータの値は、近似曲線から大きく離れることになる。なお、時刻t13以降の近似曲線は点線で示されている。
【0048】
ついで、トレンド取得部14によって、近似曲線を用いて時刻t15での1階微分値と2階微分値が取得される。図8(c)は、近似曲線を時刻で1階微分した曲線であり、図8(d)は、近似曲線を時刻で2階微分した曲線である。図8(c)に示されるように、時刻t14までは、1階微分値は0であるが、時刻t14以降は近似曲線の対応する部分の傾きを示す正の値を有する。時刻t15でも正の値を有するが、その後は点線に示されるようにピークを迎え、値が減少していき、あるところで横軸にほぼ平行な直線となる。また、図8(d)に示されるように、2階微分値は時刻t15で略正のピークを示し、その後減少していきある点で負のピークを示した後0となる。
【0049】
その後、フィッティング誤差取得部15によって、時刻t15での装置パラメータの値と近似曲線との間のフィッティング誤差を算出する。図8(e)は、フィッティング誤差を示す図である。突発型の場合には、装置パラメータのトレンドが不連続に変化するので、近似曲線は実際の装置パラメータの状況を高い精度で表すことができなくなる(近似曲線は実際の装置パラメータに追従することができなくなる)。そのため、図8(e)に示されるように、不連続に変化する点である時刻t14付近ではフィッティング誤差が大きくなる。
【0050】
異常判定部17は、図8(d)の2階微分値と、図7(e)のフィッティング誤差の組み合わせを、異常判定基準情報と比較して装置に異常が発生しているか否かを判定する。図8の例では、2階微分値とフィッティング誤差の組み合わせ(a15,b15)である点P15は、図7(a)の領域R1に含まれ、突発型の挙動を示していることが分かる。そして、異常判定部17は、露光装置のフォーカス追従性についての異常検知を行っている場合には図7(b)に示されるように、軽症なダスト性不良であると判定し、また、露光装置の露光量またはCVD装置のHeガスのリーク量をモニタしている場合には、図7(c)に示されるように、正常であると判定する。
【0051】
なお、異常判定基準情報で、異常となる範囲に対して対象装置の異常の重症度をさらに規定し、異常の重症度に応じて、警報出力部18での出力方法を変化させるようにしてもよい。
【0052】
また、上述した実施形態で示した異常検知方法、具体的には図4のステップS11〜S19に示される処理工程をコンピュータに実行させるためのプログラムとすることも可能である。この異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、フロッピー(登録商標)ディスク、DVD(Digital Versatile DiscまたはDigital Video Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。また、上述した実施形態で示した異常検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。
【0053】
このように異常検知方法をコンピュータに実行させるプログラムとすることで、上記した異常検知装置10は、CPU(Central Processing Unit)の演算手段と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶手段と、HDD(Hard Disk Drive)やCD−ROMドライブ装置などの外部記憶手段と、ディスプレイ装置などの表示手段と、キーボードやマウスなどの入力手段と、また必要に応じてネットワークボードなどのネットワークインタフェース手段と、を備えたパーソナルコンピュータなどの情報処理装置によって構成することができる。この場合には、外部記憶手段にインストールされた異常検知方法をコンピュータに実行させるプログラムを、RAMなどの記憶手段に展開し、演算手段で実行することで、上記の方法が行われる。
【0054】
本実施形態では、対象装置から得られた装置パラメータの時系列データをフィッティング処理した後、その2階微分値によってベースラインからの変化の挙動を捉え、実際の装置パラメータとフィッティング結果との差であるフィッティング誤差からベースラインからの変化量を捉えた。これによって、監視中の対象装置について、装置パラメータがベースラインから徐々にずれて変化しているベースライン立上り/立下り型の挙動を示しているのか、それともベースラインに対して急に異なる値を取る突発型の挙動を示しているのかを、その変化の初期段階で区別することができる。その結果、対象装置が重症な異常を示しているのか、軽症な異常を示しているのか、または問題ない挙動であるのかを判定することができ、対象装置が異常な状態でたとえば半導体製造装置を稼働状態のままとすることがなく、半導体装置の製造歩留まりを向上させることができるという効果を有する。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…異常検知装置、11…装置パラメータ取得部、12…装置パラメータ記憶部、13…データ処理部、14…トレンド取得部、15…フィッティング誤差取得部、16…異常判定基準情報格納部、17…異常判定部、18…警報出力部、19…制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の動作状態を表す装置パラメータを取得する装置パラメータ取得手段と、
前記装置パラメータの時系列データをフィッティング処理するデータ処理手段と、
前記フィッティング処理したデータについて2階微分を行って、前記装置パラメータ取得時の2階微分値をトレンドの変化情報として取得するトレンド取得手段と、
取得した前記装置パラメータと、前記フィッティング処理したデータと、のフィッティング誤差を前記装置パラメータの変化の度合い情報として取得するフィッティング誤差取得手段と、
前記トレンド取得手段で取得された前記トレンドの変化情報と前記フィッティング誤差取得手段で取得された前記装置パラメータの変化の度合い情報との組み合わせを、前記装置の動作状態が異常と判定される範囲を規定した異常判定基準情報と比較して、前記装置の動作状態が異常であるかを判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記異常判定基準情報は、前記異常の範囲に応じた前記異常の種類が対応付けられていることを特徴とする請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記装置パラメータは、露光装置のフォーカス追従性、露光量またはCVD装置のガスのリーク量であることを特徴とする請求項1または2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
装置の動作状態を表す装置パラメータを取得する装置パラメータ取得工程と、
前記装置パラメータの時系列データをフィッティング処理するデータ処理工程と、
前記フィッティング処理したデータいついて2階微分を行って、前記装置パラメータ取得時の2階微分値をトレンドの変化情報として取得するトレンド取得工程と、
取得した前記装置パラメータと、前記フィッティング処理したデータと、のフィッティング誤差を装置パラメータの変化の度合い情報として取得するフィッティング誤差取得工程と、
前記トレンドの変化情報と前記装置パラメータの変化の度合い情報との組み合わせを、前記装置の動作状態が異常と判定される範囲を規定した異常判定基準情報と比較して、前記装置の動作状態が異常であるかを判定する異常判定工程と、
を含むことを特徴とする異常検知方法。
【請求項5】
前記異常判定基準情報は、前記異常の範囲に応じた前記異常の種類が対応付けられていることを特徴とする請求項4に記載の異常検知方法。
【請求項6】
前記装置パラメータは、露光装置のフォーカス追従性、露光量またはCVD装置のガスのリーク量であることを特徴とする請求項4または5に記載の異常検知方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1つに記載の異常検知方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−138388(P2012−138388A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287689(P2010−287689)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】