説明

発光素子アレイ及びそれを用いた露光装置並びに画像形成装置

【課題】発光素子の特性劣化をもたらす供給電流の増大等を伴うことなく、発光素子アレイを有する露光ヘッドによって露光する感光ドラムに対する書き込み効率を向上上させることができる発光素子アレイ、及びそれを用いた露光装置並びにそれを備えて構成される画像形成装置を提供する。
【解決手段】ガラス基板14上に透明な絶縁膜16を介して形成されたアノード電極18と、前記アノード電極上に形成された有機EL層22と、前記有機EL層上に形成されたカソード電極28と、を備える有機EL素子からなる発光素子10において、前記カソード電極を、前記有機EL層上に形成された透明電極層24と、該透明電極層上に形成された反射電極層26とで構成し、透明電極層24の厚さが、出射光の干渉増幅率が最大となる波長が、有機EL層22から放射される光の放射強度が最大となる波長と感光ドラム62の分光感度における波長半値幅の長波長側の波長との間の波長となる値に設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子アレイ及びそれを光源として用いた露光装置並びにこれを備えて構成される画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
感光ドラムに画像データに応じた光を照射して露光を行う露光装置を備えた電子写真方式の画像形成装置(プリンタ)が広く利用されている。
【0003】
そのような画像形成装置の露光装置において、LED等の発光素子を用いたLEDアレイによる露光ヘッドを使用したものがある。LEDアレイによる露光ヘッドは、高信頼、高速、高画質、小型等の特徴を備えている。即ち、光学系において、光源であるLEDアレイが露光ヘッドとしてソリッドステート化されるため、高い信頼性が得られる。また、光路長が短いため、小型化が可能である。一般的なレーザースキャナ方式の画像形成装置ではポリゴンミラーのような回転機構部が必要になるため小型化が困難であり、この点がLEDアレイ露光ヘッドの大きなメリットである。このメリットを生かして、LEDアレイ露光ヘッドをYCMKの各色毎にタンデムに配置すると、印刷速度を高速にできる。
【0004】
また近年では、発光点を精度良く作り込める有機EL発光素子が注目されており、この有機EL発光素子を光源として利用した発光素子アレイによる露光ヘッドを採用した電子写真方式の画像形成装置も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−103307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、画像形成装置においても更なる高画質化が要求されており、それに伴って、解像度を上げるためにドット面積が非常に小さくなってきている。この場合、露光ヘッドの各発光素子に供給する電流を増大させることで発光輝度を高めることができて、感光ドラムに対する書き込みを良好に行うことができるが、発光素子に供給する電流を増大させと発光素子の特性の経時劣化が大きくなり、発光素子アレイの寿命が短くなってしまう。そのため、そのような高解像度の画像形成装置に発光素子アレイによる露光ヘッドを長期に亘って適用可能とするためには、発光素子の特性劣化をもたらす供給電流の増大等を行うことなく、感光ドラムに対する書き込み効率を向上させなければならない。
【0006】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたもので、発光素子の特性劣化をもたらす供給電流の増大等を伴うことなく、発光素子アレイを有する露光ヘッドによって露光する感光ドラムに対する書き込み効率を向上させることができる発光素子アレイ、及びそれを用いた露光装置並びにそれを備えて構成される画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、ライン状に配列された複数の発光素子を備え、所定の分光感度を有する感光ドラムを露光するための光を出射する発光素子アレイであって、前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を具備し、前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発光素子アレイは、請求項1に記載の発光素子アレイにおいて、前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発光素子アレイは、請求項1に記載の発光素子アレイにおいて、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発光素子アレイは、請求項1に記載の発光素子アレイにおいて、前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、所定の分光感度を有する感光ドラムに対し画像データに応じた光を照射して露光を行う露光装置において、複数の発光素子がライン状に配列され、前記画像データに応じた光を出射する発光素子アレイと、前記発光素子アレイの前記各発光素子から出射された光を前記感光ドラム表面に結像するレンズアレイと、を具備し、前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を備え、前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の露光装置は、請求項5に記載の露光装置において、前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする。
【0013】
請求項7に記載の露光装置は、請求項5に記載の露光装置において、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0014】
請求項8に記載の露光装置は、請求項5に記載の露光装置において、前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする。
【0015】
請求項9に記載の発明は、所定の分光感度を有する感光ドラムと帯電器と露光器と現像器とを有し、画像データに応じた印刷を行う画像形成装置において、前記露光器は、複数の発光素子がライン状に配列され、前記画像データに応じた光を出射する発光素子アレイと、前記発光素子アレイの前記各発光素子から出射された光を前記感光ドラム表面に結像して露光を行うレンズアレイと、を有し、前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を有し、前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0016】
請求項10に記載の画像形成装置は、請求項9に記載の画像形成装置において、前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項11に記載の画像形成装置は、請求項9に記載の画像形成装置において、前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする。
【0018】
請求項12に記載の画像形成装置は、請求項9に記載の画像形成装置において、前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、発光素子アレイの発光素子の発光機能層と反射電極層との間に透明電極層を設け、該透明電極層の厚さを調整することで薄膜干渉による干渉増幅の波長分布を感光ドラムの分光感度特性に対応したものとすることができて、発光素子の特性劣化をもたらす供給電流の増大等を伴わずに、感光ドラムに対する書き込み効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る有機ELからなる発光素子10とその駆動を行う画素トランジスタ12の構造を示す縦断面図であり、図2はその回路図である。なお、図1では、分かり易くするために、縦方向の寸法を引き延ばして示している。また、本一実施形態においては、発光素子10をなす有機EL素子はボトムエミッション構造に設定されている。
【0022】
発光素子10は、図1に示すように、ガラス基板(透明基板)14上に透明な絶縁膜(透明膜)16を介して錫ドープ酸化インジウム(Indium Thin Oxide;ITO)等の透明なアノード電極(第1の電極)18が形成され、そのアノード電極18上の層間絶縁膜20に開けられた開口部に、正孔輸送層、発光層、及び電子輸送層でなる有機EL層(発光機能層)22が設けられて、その上にITO等の透明電極層24と銀合金やアルミニウム合金等の反射電極層26とでなるカソード電極(第2の電極)28が配線されて形成されている。
【0023】
そして、アノード電極18とカソード電極28との間に、所定の電圧が掛けられることで、アノード電極18から正孔が、カソード電極28から電子が、有機EL層22に注入され、そこで正孔と電子とが再結合して発光する。この発光によって生じた光は、透明なアノード電極18及び透明な絶縁膜16を通過してガラス基板14の方向に完全拡散放射する。また、反対にカソード電極28方向への光は、透明電極層24を透過して反射電極層26で反射されて、ガラス基板14の方向に放射される。なおこのとき、実際には後述するような薄膜干渉が生じるが、この影響については後で詳述する。
【0024】
また、画素トランジスタ12は、例えば共にnチャネルアモルファスシリコン薄膜トランジスタ(以下、TFTと略記する。)のスイッチング素子である、選択TFT30と駆動TFT32とからなる。各TFT30,32は、前記ガラス基板14上に形成されたゲート34と、ゲート34上に形成された前記絶縁膜16と、絶縁膜16を挟んでゲート34に対向した半導体膜36と、半導体膜36の中央部上に形成されたチャネル保護膜38と、半導体膜36の両端部上において互いに離間するよう形成され、チャネル保護膜38に一部重なった不純物半導体膜40と、不純物半導体膜40上に形成されたクロム等の密着層42と、密着層42上に形成されたドレイン44及びソース46と、から構成されている。なお、前記密着層42は、前記発光素子10のアノード電極18まで引き回され、これにより、図2に示すように、駆動TFT32のソース46が発光素子10のアノード電極18に接続される。そして、このようなTFT30,32及び前記発光素子10のそれぞれの間並びにそれらの上には前記層間絶縁膜20が形成されている。
【0025】
また、画素トランジスタ12の上には、ポリイミド等による隔壁48が形成されている。この隔壁48は、製造プロセスにおける有機EL層22の形成工程の際に、該有機EL層22の材料が他の領域へ漏れるのを防止する。而して、前記カソード電極28は、該隔壁48上を引き回されるように形成される。
【0026】
そして、これら発光素子10及びTFT30,32上には封止基板50が配され、該封止基板50と前記ガラス基板14は、周縁を図示しないシール材で封止されている。封止基板50とガラス基板14の間には、例えば不活性ガス52が封入されている。
【0027】
なお、図1の断面では現れないが、図2の回路図に示すように、以下のような構成を更に有している。即ち、選択TFT30のソース46は、駆動TFT32のゲート34に接続されている。また、選択TFT30のソース46と駆動TFT32のドレイン44との間には、保持キャパシタ54が形成接続されている。そして、選択TFT30のゲート34は走査ライン(GL)56に接続され、ドレイン44はデータライン(DL)58に接続されており、駆動TFT32のドレイン44は電源線(Vdd)60に接続されている。
【0028】
図3は、本発明の一実施形態に係る発光素子10を光源として用いた画像形成装置(印刷装置)の構成の一例を示す図である。同図に示すように、この画像形成装置は、感光ドラム62と、ケース部64とロッドレンズ部66とから成る露光ヘッド68と、帯電ローラ70と、イレーサ光源感光体72と、クリーニング部材74と、現像ローラ76を含む現像器78と、転写ローラ80と、定着ローラ82と、搬送ベルト84と、を具備している。ロッドレンズ部66は、例えばセルフォック(登録商標)レンズからなるロッドレンズを一列又は複数の列に配列させたレンズアレイであって、入射された光を等倍正立像として感光ドラム62に結像するレンズ部である。
【0029】
なお、前記感光ドラム62は、例えば負帯電型OPC(Organic Photo Conductor)感光体(有機感光体)である。このことに鑑みて、前記帯電ローラ70は負帯電器とされている。また、前記現像器78は負帯電トナーで現像を行う現像器である。また、前記露光ヘッド68のケース部64は、前述したような発光素子10が一列にアレイ状に配列されて構成されている。
【0030】
ところで、図3に示す画像形成装置では、おおまかには以下のような工程により印刷が行われる。まず、前記帯電ローラ70が、回転する感光ドラム62の表面に接触することによって、感光ドラム62の接触した表面が一様に負電位となるように帯電される。続いて、前記露光ヘッド68の発光素子10から発した光が、ロッドレンズ部66を介して前記感光ドラム62の所定位置に対して入射され、前記感光ドラム62上には静電潜像が形成される。その後、前記現像器78によって、前記静電潜像にトナーが付着される。そして、前記転写ローラ80によって、前記静電潜像に付着しているトナーが印刷用紙86に転写される。以下、このような印刷工程を詳細に説明する。
【0031】
まず、前記感光ドラム62は、帯電用電源(不図示)から供給される負電位であって且つ後述する現像器78で出力される現像電圧に比較的近似している或いは等しい電位の初期化帯電電圧を、前記帯電ローラ70によって印加される。これにより、前記感光ドラム62における周表面は一様に負帯電され、電位的に初期化される(初期化帯電状態となる)。
【0032】
そして、周表面が初期化帯電状態となった前記感光ドラム62には、前記露光ヘッド68によって、印字情報に従った光書き込み(露光)が行われる。即ち、この露光工程においては、各発光素子10に関して、階調信号に応じた階調信号電圧が対応するデータライン58に印加されると同時に対応する走査ライン56にハイレベルの走査信号が印加される。これにより、対応する選択TFT30がオン動作して、駆動TFT32のゲート端子にデータライン58に印加された階調信号電圧に基づくゲート電圧が印加されて、その駆動TFT32が当該ゲート電圧に応じた導通状態でオン動作する。これにより、電源線60を介して駆動TFT32及び発光素子10に、データライン58に印加された階調信号電圧に基づく電流値を有する発光駆動電流が流れ、発光素子10が所定の発光輝度で発光動作する。このとき、階調信号電圧は、選択TFT30を介して、保持キャパシタ54に供給され、該保持キャパシタ54は、その階調信号電圧のレベルに応じた値の電荷量に充電される。従って、その後、他の発光素子10を選択するために当該走査ライン56の走査信号がローレベルとされて、選択TFT30がオフしても、前記保持キャパシタ54には階調信号電圧に応じた電荷量が保持されているので、駆動TFT32は、その保持キャパシタ54に保持されている電荷量に応じた導通状態となり、発光動作を継続することができる。
【0033】
このような露光工程により、露光が行われないために初期化帯電状態のままの前記初期化帯電部と、前記露光によって初期化帯電部より相対的に高い負電位である−50V程度の露光帯電電圧が印加されて帯電された露光帯電部とから成る静電潜像が、前記感光ドラム62の周表面上に形成される。
【0034】
ここで、前記現像器78内に収容されている弱いマイナス電位に帯電したトナーが、前記現像ローラ76によって、前記現像ローラ76と前記感光ドラム62との対向部に回転搬送される。このとき、前記現像ローラ76は、不図示の電源から、露光帯電部よりもさらに低い−250V程度の現像電圧を印加される。したがって、前記感光ドラム62における前記静電潜像の−50V程度の露光帯電部では、現像電圧よりも200V程度高電位となり、初期化帯電部では、現像電圧との差が200Vよりも絶対値が十分小さい電圧になる。
【0035】
これらの静電潜像における現像電圧との電位差の違いにより、前記現像ローラ76に対して相対的にプラス極性の電位となった前記静電潜像における露光帯電部には、マイナス極性に帯電しているトナーが付着してトナー像が形成されるのに対し、初期化帯電部には、トナーを静電的に吸引する程の電界が生じないのでトナーが付着しない。このトナー像は、前記感光ドラム62の回転によって、前記感光ドラム62と前記転写ローラ80とが対向している転写部へと搬送される。
【0036】
なお、上述したようにして形成されたトナー像におけるトナー付着量(現像された画像の濃度)は、前記露光ヘッド68による前記感光ドラム62への露光量に応じて生じる前記感光ドラム62の周表面上における電位の減衰量によって決定される。
【0037】
次いで、上述したように前記トナー像が前記転写部へ搬送されると、前記搬送ベルト84によって、前記印刷用紙86が前記転写部へ搬送される。そして、前記転写部においては、前記トナー像が前記印刷用紙86上に、前記転写ローラ80によって転写される。このようにして前記トナー像を転写された前記印刷用紙86は更に下流に搬送され、前記トナー像が前記定着ローラ82によって熱定着された後、前記印刷用紙86は当該画像形成装置の外部へ排出される。
【0038】
また、トナー像が印刷用紙86上に転写された後、前記感光ドラム62は、クリーニング部材74により残留トナーが除去され、更に、イレーサ光源感光体72によって一様に0Vに除電されて、帯電ローラ70への帯電に備えられる。
【0039】
なお、前記露光ヘッド68における前記ケース部64内には、図3に示す前記感光ドラム62への露光走査の主走査方向(前記感光ドラム62の幅方向、つまり前記印刷用紙86の幅方向)に、多数の発光素子10が例えば一列に配設された有機EL発光素子アレイが形成されている。この有機EL発光素子アレイは、当該画像形成装置が、例えばA4サイズの印刷用紙86を縦方向に用いてその幅一杯に印字密度1200dpi(ドット/インチ)で印字可能な画像形成装置の場合であれば、およそ14000個の発光素子10を備えている。これらの個々の発光素子10には、ホスト機器(不図示)から出力される印字情報に従った信号が印加される。即ち、個々の発光素子10は、選択的に発光制御される。
【0040】
ところで、本一実施形態においては、前記ケース部64と前記ロッドレンズ部66とを有する露光ヘッド68によって、該露光ヘッド68からミリオーダーの距離を隔てた前記感光ドラム62上に小径の光スポットを形成し、各ドットを解像する光ビームを作る。以下、前記露光ヘッド68について、図4及び図5を参照して説明する。
【0041】
図4は、前記露光ヘッド68の外観を示す図である。前記ケース部64内には、前記感光ドラム62への露光走査の主走査方向に、有機EL素子からなる複数の発光素子10が一列に配設された発光素子アレイが設けられている。
【0042】
なお、前記発光素子10は、図4に示すように制御ケーブル88によって、前記ホスト機器(不図示)と電気的に接続されている。ここで、前記制御ケーブル88と、前記発光素子10との接続方法に関しては、発光素子10を駆動させることができる接続方法であればどのような接続方法であっても良い。
【0043】
以下、図5及び図6を参照して、本一実施形態に係る露光ヘッド68の構造について説明する。ここで、図5は、前記露光ヘッド68の側面断面図である。図6は、前記ロッドレンズ部66とは反対側から見た場合の発光素子アレイが設けられた前記ガラス基板14を示す図である。なお、上述したように本一実施形態において発光素子10をなす有機EL素子は、ボトムエミッション構造に設定されている。
【0044】
まず、前記ガラス基板14は、例えば接着樹脂90によって前面ケース92に接着されている。さらに、前記前面ケース92には、図5に示すように背面ケース94が嵌め込まれている。
【0045】
ここで、前記ガラス基板14の前記前面ケース92に対向する面における、前記発光素子10が設けられていない箇所には、図5及び図6に示すように前記発光素子10を駆動する為のドライバIC96が設けられている。より詳しくは、前記ドライバIC96は、図6に示すように前記発光素子10における前記封止基板50の周囲に複数個(本一実施形態においては4個)設けられている。
【0046】
そして、前記ドライバIC96にはヘッドコントローラ(不図示)から同期信号、クロック信号、及び画像信号等が入力され、前記ドライバIC96は、それらの各信号に基づいて前記データライン58及び走査ライン56の制御を行っている。
【0047】
なお、本一実施形態においては、画像形成装置の構造上、前記露光ヘッド68は一個のデバイス装置となる為、組み立て時や交換時には接続配線に力が加わる可能性がある。従って、前記ガラス基板14と前記ヘッドコントローラ(不図示)との接続配線のケーブルに関しては、前記ケース部64の内部と外部とで別ケーブルとして、前記ケース部64の外部のケーブルをより強度が高く作業性の優れたケーブルとする為に、図5に示すように前記背面ケース94に中継コネクタ98が設けられている。中継コネクタ98は、それぞれ前記制御ケーブル88に接続されており、該制御ケーブル88は、一方がアノード電圧を印加するために、前記ドライバIC96及び電源線60に供給される信号群のための配線であり、他方が、カソード電圧を印加するためにカソード電極28に供給される信号(GND)の為の配線である。
【0048】
また、前記前面ケース92には凸部100が設けられ、該凸部100には開口部が形成されて、各発光素子10と対向するようにロッドレンズ部66がこの開口部に嵌め込まれ、開口部とロッドレンズ部66との隙間は接着剤で封止されている。このため、前面ケース92は可視光に対して不透明であっても、前記発光素子10が発する光が凸部100内に形成された密閉空間102を介して前記ロッドレンズ部66に入射することになる。
【0049】
なお、図5に示す発光素子10をなす有機EL素子は、ガラス基板14がロッドレンズ部66に対向するように面しているボトムエミッション構造である。
【0050】
図7(A)は、前記感光ドラム62の分光感度の波長分布を示す図であり、図7(B)は、赤色の有機EL素子からなる発光素子10の有機EL層22の発光により放射される光の放射強度の分光特性を示す図である。
【0051】
図7(A)に示すように、感光ドラム62は、分光感度として、波長760nm(第4の波長)付近で最大感度3.25cm/μJ程度の値を持ち、感度が最大値の50%(1.63cm/μJ)以上となる波長半値幅が約580nm(第2の波長)乃至約890nm(第3の波長)の、比較的ブロードな特性を有している。感光エネルギーは、740nmにおいて0.3μJ/cmである。これに対して、発光素子10の有機EL層22の放射強度は、図7(B)に示すように、約645nm(第1の波長)に放射強度のピークを持つ特性となっている。この放射強度のピーク波長は感光ドラム62の波長半値幅内にあるため、発光素子10の有機EL層22より放射された光を直接感光ドラム62へ照射した場合には、感光ドラム62へ書き込み(露光)を比較的高い感度で行うことが可能となる。しかしながら、実際に発光素子10から出射されて感光ドラム62へ照射される光の強度の波長分布は、後述する干渉の効果により図7(B)に示した特性から放射強度のピーク波長が変化する。
【0052】
この干渉の効果は波長分布を持つものであるため、その波長分布特性により感光ドラム62への書き込み効率がより向上する場合と書き込み効率が低下する場合とが生じ得る。そこで、本実施形態では、前記カソード電極28に、反射電極層26に加えて透明電極層24を設け、この透明電極層24の厚さを調整することでこの干渉の効果の最適化を図り、感光ドラム62への書き込み効率をより向上させることができるようにしている。
【0053】
図8(A)は、本実施形態に係る発光素子10における干渉効果を生じさせる光路を示す図である。ここで、干渉をコントロールするのが有機EL層22と反射電極層26との間に設けた透明電極層24である。この透明電極層24を構成するITOは、屈折率が高く、このために光学距離の変化が大きく、しかも有機EL発光機構と独立に制御できるという利点がある。無論、有機EL層22の層厚を変えることで発光点104を移動させることもできるが、電子・正孔の注入バランスとの兼ね合いも考えて設計しなければならない。
【0054】
発光点104からの光路としては、図8(A)に示すように、発光点104からボトム(図面下方)方向に放射されて、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路A(第1の光)に加えて、次の3種類が存在する。
【0055】
一つは、発光点104からトップ(図面上方)方向に放射されて、透明電極層24を介して反射電極層26で反射され、前記透明電極層24、有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路B(第2の光)である。また、この光路Bにおいては、発光点104からトップ方向に放射されて、有機EL層22と透明電極層24とによって形成される屈折率界面で反射され、透明電極層24、有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路も含む。この場合、上記光路Aの光と光路Bの光との間で干渉が発生する。
【0056】
もう一つは、発光点104からボトム方向に放射されて、有機EL層22とアノード電極18とによって形成される屈折率界面でトップ方向に反射され、有機EL層22から透明電極層24を介して反射電極層26で反射され、前記透明電極層24、有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路Cである。また、この光路Cにおいては、発光点104からボトム方向に放射されて、アノード電極18を介し、該アノード電極18と絶縁膜16とによって形成される屈折率界面でトップ方向に反射され、アノード電極18、有機EL層22を介して、該有機EL層22と透明電極層24とによって形成される屈折率界面で反射され、前記有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路も含む。この場合は、上記光路Aの光と光路Cの光との間で干渉が発生する。
【0057】
そしてもう一つは、発光点104からトップ方向に放射されて、透明電極層24を介して反射電極層26で反射され、前記透明電極層24、有機EL層22を介して、該有機EL層22とアノード電極18とによって形成される屈折率界面で再びトップ方向に反射され、有機EL層22から透明電極層24を介して反射電極層26で反射され、前記透明電極層24、有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路Dである。また、この光路Dにおいては、発光点104からトップ方向に放射されて、透明電極層24を介して反射電極層26で反射され、前記透明電極層24、有機EL層22、アノード電極18を介して、該アノード電極18と絶縁膜16とによって形成される屈折率界面で再びトップ方向に反射され、アノード電極18から有機EL層22を介して、該有機EL層22と透明電極層24とによって形成される屈折率界面で反射され、前記有機EL層22、アノード電極18、絶縁膜16及びガラス基板14を介して前記ロッドレンズ部66に出射される光路も含む。この場合は、上記光路Aの光と光路Dの光との間で干渉が発生する。
【0058】
なお、絶縁膜16は、その膜厚を2D>Lc/n(Lc:有機EL発光のコヒーレント長,n:絶縁膜16の屈折率)とすることで、該絶縁膜16では干渉を引き起こさないようにしている。
【0059】
図8(B)は、以下の説明で用いるパラメータ表記を表す図である。ここで、透明電極層24の膜厚をda、有機EL層22における発光点104から透明電極層24までの厚さをXp、同じく発光点104からアノード電極18までの厚さをXq、アノード電極18の膜厚をdcとする。なお、図8(A)及び(B)中に示す出射角θは、ロッドレンズ部66のレンズアレイを構成するセルフォック(登録商標)レンズが取り込み可能な最大角度を示しており、この角度内の出射光(第3の光)が取り込まれて、感光ドラム62に放射される。本実施形態では、これを約23度とした。
【0060】
図9は、絶縁膜16(SiN:窒化シリコン膜)、アノード電極18及び透明電極層24(ITO)、有機EL層22、及び反射電極層26(Ag)それぞれの光学定数(複素屈折率n+ik)の波長分散を表す図である。
【0061】
同図に示すように、パッシベーション膜となる絶縁膜16を構成するSiNとアノード電極18を構成するITOの屈折率差が少ないので、本実施形態の構成では、前記光路C及びDと光路Aと間の干渉はほとんど無い。即ち、繰り返し反射を有しない。
【0062】
これに対して、有機EL層22と透明電極層24を構成するITOの屈折率差、及び、透明電極層24を構成するITOと反射電極層26を構成するAgの屈折率差は大きい。よって、前記光路B(第2の光)と光路A(第1の光)との間で生じる干渉、つまり透明電極層24を構成するITOの膜厚da依存性が最も顕著となる。
【0063】
図10は、干渉による光強度の増幅率(干渉増幅率)の透明電極層24の膜厚daの厚さを20nm〜50nmに変えたときの波長による変化を示す図である。この図10の縦軸の値は、発光素子10の有機EL層22の放射強度を基準とした比率を表すものであり、実際に発光素子10から出射されて感光ドラム62に照射される光の強度の波長分布は図7(B)に示す放射強度の波長分布に図10の干渉増幅率の波長分布を掛けた値となる。すなわち、干渉増幅率が1より大きいときは干渉により光の強度が強め合い、発光素子10から出射される光の強度が有機EL層22の放射強度より高くなることを表し、干渉増幅率が1より小さいときは干渉により光の強度が弱め合い、発光素子10から出射される光の強度が有機EL層22の放射強度より低くなることを表している。なお、この図10は、有機EL層22における厚さXp及びXq、アノード電極18の膜厚dcをそれぞれ50nmとした場合に、実際に利用される前述した角度θ内の出射光のみで求めた結果を示している。また、0nmは透明電極層24を設けない従来の構成の場合の特性を示すものである。
【0064】
同図に示すように、透明電極層24を設けない場合(da=0nm)には、干渉効果による干渉増幅率が最大となる波長は460nm程度であり、発光素子10の放射強度のピーク波長(約645nm)より短波長側になっている。このため、感光ドラム62に照射される光の強度が最大となるピーク波長は発光素子10の放射強度のピーク波長より短波長側にずれることとなる。これに対し、透明電極層24を設け、その膜厚daを20nm〜50nmとした場合には、干渉増幅率が最大となる波長は長波長側にずれていく。
【0065】
次に、感光ドラム62への書き込み効率は、図7(A)に示す感光ドラム62の分光感度の波長分布と、図7(B)に示す発光素子10から放射される光の放射強度の波長分布と、図10に示す干渉増幅率の波長分布と、を掛け合わせた値を全波長に亘って積分した値に対応するものと考えることができる。図11は、感光ドラム62の書き込み効率、すなわち感光ドラム62の分光感度と発光素子10の放射強度の波長分布と干渉による光強度の干渉増幅率の波長分布とを掛け合わせ、全波長に亘って積分した値の、透明電極層24の膜厚daの厚さ依存性を示す図である。なお、図11の縦軸は、上述の干渉の効果がないとき、すなわち、図10の干渉増幅率の値を1として、発光素子10の有機EL層22より放射された光を直接感光ドラム62へ照射したときの感光ドラム62への書き込み効率を基準としたものである。
【0066】
図10及び図11に示すように、例えば、透明電極層24の膜厚daを40nmとしたときの干渉による干渉増幅率が最大となる波長は約約760nmであって、感光ドラム62の感度ピークとほぼ一致する。しかし、発光素子10の有機EL層22の放射強度のピーク波長は約645nmであって波長が760nmのところでは放射強度は低下している領域であるため、図11に示すように感光ドラム62への書き込み効率は最大にはならない。
【0067】
図11に示すように、透明電極層24の厚さdaをゼロとしたとき、すなわち透明電極層24を設けないときの書き込み効率は約1.44である。そして、透明電極層24の膜厚daの厚さを増加させていくと、書き込み効率は次第に増加し、膜厚daが約30nmで最大値(1.845)となり、膜厚daをそれ以上に厚くすると減少していく特性を示す。すなわち、図11に示すように、少なくとも透明電極層24の厚さが50nmまでは、透明電極層24を付加することで、書き込み効率を、透明電極層24を設けないときに比べて増加させることができることがわかる。
【0068】
また、図10に示す干渉増幅率の透明電極層24の厚さdaに対する変化について見ると、透明電極層24の厚さdaを20nm〜40nmとしたとき、干渉増幅率が最大となる波長は650nm〜760nmとなり、これは発光素子10の有機EL層22の放射強度のピーク波長(約645nm)と感光ドラム62の分光感度が最大となる波長(760nm)の概ね中間に位置する。このとき、図11に示す書き込み効率は概ね1.8以上となる。更に、透明電極層24の厚さdaを50nmとしたときは、図10に示す干渉増幅率が最大となる波長は約830nmであり、感光ドラム62の分光感度が最大となる波長より長波長となっているが、感光ドラム62の波長半値幅内には入っている。また、図11に示す書き込み効率は約1.62であり、透明電極層24の厚さdaを40nmとした時の値よりは低下しているが、透明電極層24を設けないときよりは高い値となっている。
【0069】
また、図11に示す書き込み効率の値が大きい程、感光ドラム62への書き込みをより短時間で行うことができて高速化を図ることができたり、高解像度化のためにドット面積を小さくしても感光ドラム62へ良好に書き込みを行ったりすることがでる等、好ましい特性を得ることができる。そこで、書き込み効率の値が厳密に1.8以上となる範囲を図11に示す最適範囲Aと規定した場合、対応する透明電極層24の膜厚daの値は20nm〜35nm程度となる。この膜厚daの範囲を図10で見ると、干渉増幅の値が、感光ドラム62の分光感度の半値幅内で干渉増幅の値が1.5以上となる範囲と言うことができる。例えば膜厚daを40nmとしたときには、図11において放射強度増幅比は約1.78となり、上記の範囲を外れるが、図10においても、膜厚daを40nmとしたとき、半値幅の下限の波長580nmでの干渉増幅の値が約1.35であって、上記の範囲を外れるが、膜厚daを30nmとしたときには、図11において放射強度増幅比は約1.84となって上記の範囲内となり、図10においても、膜厚daを30nmとしたときには、半値幅の下限の波長580nmでの干渉増幅の値が約1.63であって上記の範囲内となることが分かる。
【0070】
以上説明したように、本実施形態によれば、有機EL層22と反射電極層26との間に透明電極層24を設け、その厚さを最適化することだけで、薄膜干渉を利用して光の放射強度を増大させることができるので、輝度劣化の原因となる電流密度の増大を伴わずに、有機EL発光素子の発光効率を向上させ、感光ドラム62に対する書き込み効率を向上させることができる。従って、解像度を上げるためにドット面積が小さくなっても感光ドラムを露光して、良好に書き込みを行うことができて、高解像度の画像形成装置用の露光ヘッドを構成することが可能となる。
【0071】
また、干渉の第1ピークを用いること及び繰り返し反射を有しないことで、干渉効果を持ちながら出力光の分光特性が鋭くならないため、OPCのような広い分光感度を有する感光ドラム62に対して感度の損失が少ないという利点がある。
【0072】
そして更に、透明電極層24の膜厚daを調整することで干渉効果をコントロールすることが可能となる。ここで、感光ドラム62の感度ピークに合うよう膜厚daをコントロールして最適化すれば、感光ドラム62への実質的な光強度を最大にすることができる。
【0073】
以上、一実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
【0074】
例えば、図10及び図11に示した結果を得るために用いた有機EL層22における厚さXp及びXq、アノード電極18の膜厚dcは一例であり、他の膜厚であっても、数値自体は異なっても同様の増幅効果が得られることは言うまでもない。
【0075】
また、赤色の有機EL発光素子10を例に説明したが、他の色の有機EL素子からなる発光素子の場合も、同様である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施形態に係る有機EL素子からなる発光素子とその駆動を行う画素トランジスタの構造を示す縦断面図である。
【図2】一実施形態に係る発光素子とその駆動を行う画素トランジスタの回路図である。
【図3】一実施形態に係る発光素子を光源として用いた画像形成装置(印刷装置)の構成の一例を示す図である。
【図4】発光素子アレイ露光ヘッドの外観を示す図である。
【図5】発光素子アレイ露光ヘッドの側面断面図である。
【図6】ロッドレンズ部とは反対側から見た場合の、発光素子アレイが設けられたガラス基板を示す図である。
【図7】(A)は感光ドラムのドラム感度を示す図であり、(B)は赤色の有機EL発光素子の分光特性を示す図である。
【図8】(A)は有機EL発光素子における干渉効果を生じさせる光路を示す図であり、(B)は説明に使用するパラメータ表記を表す図である。
【図9】絶縁膜(SiN)、アノード電極及び透明電極層(ITO)、有機EL層、及び反射電極層(Ag)それぞれの光学定数(複素屈折率n+ik)の波長分散を表す図である。
【図10】干渉増幅の透明電極膜厚依存性を示す図である。
【図11】図7の感光ドラムの分光感度を考慮したときの放射強度増幅比の透明電極膜厚依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
10…発光素子
12…画素トランジスタ
14…ガラス基板
16…絶縁膜
18…アノード電極
20…層間絶縁膜
22…有機EL層
24…透明電極層
26…反射電極層
28…カソード電極
30…選択TFT
32…駆動TFT
34…ゲート
36…半導体膜
38…チャネル保護膜
40…不純物半導体膜
42…密着層
44…ドレイン
46…ソース
48…隔壁
50…封止基板
52…不活性ガス
54…保持キャパシタ
56…走査ライン
58…データライン
60…電源線
62…感光ドラム
64…ケース部
66…ロッドレンズ部
68…露光ヘッド
70…帯電ローラ
72…イレーサ光源感光体
74…クリーニング部材
76…現像ローラ
78…現像器
80…転写ローラ
82…定着ローラ
84…搬送ベルト
86…印刷用紙
88…制御ケーブル
90…接着樹脂
92…前面ケース
94…背面ケース
96…ドライバIC
98…中継コネクタ
100…凸部
102…密閉空間
104…発光点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライン状に配列された複数の発光素子を備え、所定の分光感度を有する感光ドラムを露光するための光を出射する発光素子アレイであって、
前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を具備し、
前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、
前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、
前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする発光素子アレイ。
【請求項2】
前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイ。
【請求項3】
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、
前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイ。
【請求項4】
前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の発光素子アレイ。
【請求項5】
所定の分光感度を有する感光ドラムに対し画像データに応じた光を照射して露光を行う露光装置において、
複数の発光素子がライン状に配列され、前記画像データに応じた光を出射する発光素子アレイと、
前記発光素子アレイの前記各発光素子から出射された光を前記感光ドラム表面に結像するレンズアレイと、
を具備し、
前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を備え、
前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、
前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、
前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする露光装置。
【請求項6】
前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、
前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項8】
前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項9】
所定の分光感度を有する感光ドラムと帯電器と露光器と現像器とを有し、画像データに応じた印刷を行う画像形成装置において、
前記露光器は、複数の発光素子がライン状に配列され、前記画像データに応じた光を出射する発光素子アレイと、前記発光素子アレイの前記各発光素子から出射された光を前記感光ドラム表面に結像して露光を行うレンズアレイと、を有し、
前記各発光素子は、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明基板と、前記透明基板の一面側に前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明膜を介して形成された第1の電極と、前記第1の電極上に形成され、印加された電界に応じて発光する発光機能層と、前記発光機能層上に形成され、前記発光素子の発光波長の少なくとも一部を透過する透明電極層と、該透明電極層上に形成され、前記発光機能層から前記透明電極層側に発光された光を前記第1の電極側に反射する反射電極層と、からなる第2の電極と、を有し、
前記発光機能層から放射される光は放射強度が最大となる第1の波長を有し、
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値の50%以上となる、短波長側の第2の波長と長波長側の第3の波長間からなる波長半値幅を有し、
前記発光機能層から前記第1の電極側に放射される第1の光と、前記発光機能層から前記第2の電極側に放射されて前記発光機能層と前記透明電極層及び前記反射電極層との相互の間に形成される複数の屈折界面で前記第1の電極側に反射される第2の光と、が合わさって前記透明基板を介して該透明基板の他面側から出射される第3の光が生成され、
前記透明電極層の厚さが、少なくとも、前記第3の光における前記第1の光と前記第2の光の間の干渉によって生じる光の強度の、前記第1の光の強度に対する倍率からなる干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第3の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
前記複数の屈折界面は、前記発光機能層と前記透明電極層との間に形成される第1の屈折界面と、前記透明電極層と前記反射電極層との間に形成される第2の屈折界面と、を有することを特徴とする請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項11】
前記感光ドラムの前記分光感度は、該分光感度が最大値となる第4の波長を有し、
前記透明電極層の厚さが、前記干渉増幅率が最大となる波長が、前記第1の波長と前記第4の波長の間の波長となる値に設定されていることを特徴とする請求項9に記載の画像形成装置。
【請求項12】
前記透明電極層の厚さが、前記波長半値内において、前記干渉増幅率の値が1.5倍以上となる値に設定されていることを特徴とする請求項9に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−76324(P2009−76324A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244293(P2007−244293)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】