説明

発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子

【課題】クラッド層中に取り込まれるAsを低減し、発光出力の安定性を高めて信頼性を向上させる。
【解決手段】n型基板10の上に、Alを含有するP系結晶からなるn型クラッド層30と、As系結晶からなる量子井戸構造を有する発光層40と、Alを含有するP系結晶からなるp型クラッド層70とが、この順に積層され、発光層40とp型クラッド層70との間に、p型クラッド層70とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−y
P(但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y≦0.52)からなる挿入層50を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子に関し、更に詳しくは、As系結晶からなる量子井戸構造を有する発光層を備える発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体結晶を用いた発光素子には、例えば発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)や半導体レーザダイオード(LD:Laser Diode)等がある。LEDは、デ
ィスプレイ、リモコン、センサ、車載用ランプなど、様々な用途に用いられている。また、LDは、デジタル多目的ディスク(DVD:Digital Versatile Disc)やコンパクトディスク(CD:Compact Disc)などの光ディスクシステムにおいて、読み取り用光源や書き込み用光源として広く用いられている。このように、用途の広さや、従来技術に対する優位性が期待されること等から、化合物半導体結晶を用いた発光素子には高い信頼性が要求されている。
【0003】
化合物半導体結晶を成長させる方法には、有機金属気相成長(MOVPE:Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy)法や、分子線エピタキシ(MBE:Molecular Beam Epitaxy
)法などがある。MOVPE法では、例えばIII族有機金属原料ガスとV族原料ガスとを
、高純度水素(H)キャリアガスとの混合ガスとして成長炉内に導入し、成長炉内で加熱された基板付近で原料を分解させ、基板上に高品質の化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させる。MBE法では、原料となる金属等を超高真空下で加熱して分子線を発生させ、目標の基板の結晶に照射して薄膜を成長させる。
【0004】
上記手法により、例えば化合物半導体からなるウエハを成長基板として、係る基板上にエピタキシャル層を形成したものが化合物半導体エピタキシャルウエハである。発光素子用エピタキシャルウエハは、LED等の発光素子に用いられる化合物半導体エピタキシャルウエハの代表例である。発光素子用エピタキシャルウエハは、例えば基板の上にn型クラッド層と、発光層と、p型クラッド層と、がこの順に積層された構造を有する。例えば特許文献1〜3には、本発明の関連技術であるエピタキシャル層を基板上に成長させて得られる発光素子等について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−270797号公報
【特許文献2】特開2000−031597号公報
【特許文献3】特開2004−063709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記n型クラッド層やp型クラッド層には、V族元素として例えばリン(P)を含んだP系結晶が用いられる。また、上記発光層には、V族元素として例えばヒ素(As)を含んだAs系結晶が用いられ、赤外波長帯の発光素子として使用される。このように、クラッド層と発光層とで含まれるV族元素が異なる場合は、上述のMOVPE法による結晶成長にてV族原料ガスの切り替えが必要となる。
【0007】
しかしながら、MOVPE法においてV族原料ガスの切り替えを行いながらクラッド層や発光層を成長させると、例えば発光層の成長時に用いたAs等が成長炉内に残留し、p
型クラッド層を成長させる際、p型クラッド層のP系結晶中に取り込まれてしまう場合があった。P系結晶中にAs等が取り込まれると、例えば発光素子等の製品となった後の使用において、通電初期の発光出力は低く、所定期間通電した後の発光出力は高くなるという、信頼性の低い発光素子となってしまう。
【0008】
本発明の目的は、クラッド層中に取り込まれるAsを低減し、発光出力の安定性を高めて信頼性を向上させることが可能な発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、n型基板の上に、Alを含有するP系結晶からなるn型クラッド層と、As系結晶からなる量子井戸構造を有する発光層と、Alを含有するP系結晶からなるp型クラッド層とが、この順に積層され、前記発光層と前記p型クラッド層との間に、前記p型クラッド層とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−
P(但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y≦0.52)からなる挿入層を備える発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、前記挿入層のAl組成比が前記p型クラッド層のAl組成比よりも小さい第1の態様に記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0011】
本発明の第3の態様によれば、前記挿入層の層厚が10nm以上50nm以下である第1又は第2の態様に記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0012】
本発明の第4の態様によれば、前記挿入層にp型不純物が添加されている第1〜第3の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0013】
本発明の第5の態様によれば、前記挿入層に添加されている前記p型不純物はMgであり、前記挿入層のキャリア濃度は2.5×1017cm−3以上5.5×1017cm−3以下である第4の態様に記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0014】
本発明の第6の態様によれば、前記p型クラッド層のAl組成比は、0.64以上0.75以下である第1〜第5の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0015】
本発明の第7の態様によれば、前記n型クラッド層は、As系結晶からなるn型バッファ層を介して前記n型基板の上に形成され、前記n型バッファ層と前記n型クラッド層との間に、前記n型クラッド層とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−y
P(但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y≦0.52)からなる挿入層をさらに備える第1〜第6の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0016】
本発明の第8の態様によれば、前記発光層が有する前記量子井戸構造は、ウェル層と、前記ウェル層よりも大きいバンドギャップを有するバリア層と、を1つのペアとする少なくとも1層のペア層を有し、前記ウェル層は、層厚が3.0nm以上8.5nm以下のAlGa1−zAs(但し、0≦z≦0.15)からなる第1〜第7の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハが提供される。
【0017】
本発明の第9の態様によれば、第1〜第8の態様のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハを用い、電極を形成した発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クラッド層中に取り込まれるAsを低減し、発光出力の安定性を高めて信頼性を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る発光素子用エピタキシャルウエハを示す図であって、(a)は発光素子用エピタキシャルウエハの断面図であり、(b)は発光素子用エピタキシャルウエハが有する量子井戸構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る発光素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の一実施形態>
(1)発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子の構造
以下に、本発明の一実施形態に係る発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子の構造について説明する。
【0021】
(発光素子用エピタキシャルウエハの構造)
本発明の一実施形態に係る発光素子用エピタキシャルウエハは、例えば赤外波長帯等の所定の発光波長を有するLED用エピタキシャルウエハとして構成されている。このため、例えばクラッド層及び発光層に、それぞれP及びAs等の異なるV族元素を用いている。上述したように、このような構造を有するよう各エピタキシャル層を成長させると、例えば発光層の上方に形成されるクラッド層に発光層で用いたAsが混入し、発光素子としてのLEDの信頼性を低下させてしまう場合があった。
【0022】
本発明者等は、例えば発光層と、発光層の上方のクラッド層との間に、挿入層を設けることにより、クラッド層に混入するAsを低減させ、発光素子の信頼性を向上させることができることを見いだした。以下に、挿入層を備える本実施形態の発光素子用エピタキシャルウエハの構造について、図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る発光素子用エピタキシャルウエハとしてのLED用エピタキシャルウエハ1を示す図であって、(a)はLED用エピタキシャルウエハ1の断面図であり、(b)はLED用エピタキシャルウエハ1が有する量子井戸構造を示す断面図である。
【0023】
図1(a)に示すように、LED用エピタキシャルウエハ1では、エピタキシャル層の成長基板(ウエハ)として、例えばn型の導電性GaAs(以降、「n型」を「n−」とも記載する)からなるn型基板10を用いている。n型基板10の上には、例えばAs系結晶からなるn型バッファ層20が形成されている。n型バッファ層20を構成するAs系結晶は、例えばn−GaAsである。
【0024】
n型基板10の上には、n型バッファ層20を介して、例えばアルミニウム(Al)を含有するP系結晶からなるn型クラッド層30と、As系結晶からなる量子井戸構造を有する発光層40と、Alを含有するP系結晶からなるp型クラッド層70とが、この順に積層されている。
【0025】
n型クラッド層30を構成するP系結晶は、例えばn−(AlGa1−aIn1−bPである。また、p型クラッド層70を構成するP系結晶は、例えばp型の(AlGa1−aIn1−bP(以降、「p型」を「p−」とも記載する)である。但し、両クラッド層30,70とも、0≦a≦1,0≦b≦1である。また、より好ましくは、n型クラッド層30については、Al組成比aが0.64≦a≦1であり、組成比bが0.47≦b≦0.52である。また、p型クラッド層70については、Al組成比aが0.64≦a≦0.75であり、組成比bが0.47≦b≦0.52である。
【0026】
また、図1(b)に示すように、発光層40の量子井戸構造は、ウェル層41xと、ウェル層41xよりも大きいバンドギャップを有するバリア層42xとを1つのペアとする少なくとも1層のペア層43xを有し、さらに、後述する挿入層50側の最上層に設けられたバリア層42yを有している。但し、ウェル層41xは、図中、41a,41b・・・41jで示される任意のウェル層である。バリア層42x及びペア層43xについても同様であり、ペア層43xは例えば43a〜43jまでの10ペア程度とすることができる。
【0027】
また、ウェル層41xの層厚は例えば3.0nm以上8.5nm以下とすることが好ましく、バリア層42xの層厚は例えば6.5nm程度とすることができる。但し、挿入層50と接する最上層のバリア層42yと、n型クラッド層30と接する最下層のバリア層42jとは、他のバリア層42b・・・42iよりも厚く設けられていてもよい。
【0028】
ウェル層41x及びバリア層42xは、例えばそれぞれがAs系結晶からなる。ウェル層41x及びバリア層42xを構成するAs系結晶は、例えばAl組成比がそれぞれ異なるアンドープのAlGa1−zAsである(以降、「アンドープ」を「un−」とも記載する)。但し、ウェル層41xのAl組成比zは、0≦z<1であり、より好ましくは0≦z≦0.15である。また、バリア層42xのAl組成比zは、0<z≦1、かつ、ウェル層41xのAl組成比zよりも高い値となる範囲内であって、より好ましくは0.35≦z≦0.55である。したがって、例えばウェル層41xのAl組成比zを0とし、バリア層42xのAl組成比zを0以外として、ウェル層41x及びバリア層42xを、それぞれun−GaAs及びun−AlGaAsから構成することができる。なお、「アンドープ」とは、導電型を決定する不純物が積極的には添加されていないことをいう。
【0029】
以上により、例えば赤外波長帯の発光波長の光を発する発光層40が構成される。
【0030】
また、LED用エピタキシャルウエハ1は、発光層40とp型クラッド層70との間に、p型クラッド層70とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−yPから
なる挿入層50を備える。但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y≦0.52とすることが好ましい。すなわち、挿入層50のAl組成比xが、p型クラッド層70のAl組成比aよりも小さくなるように構成する。これにより、発光層40の成長により成長炉内に残留したAsが挿入層50に取り込まれ、p型クラッド層中にAsが混入してしまうことを抑制することができる。
【0031】
また、本実施形態では、挿入層50のAlとガリウム(Ga)とを合せた組成比yを、例えば0.47≦y≦0.52としている。組成比yをこの範囲内とすることで、挿入層50とn型基板10との格子整合性が得られ、本発明の効果が発現する。
【0032】
より具体的には、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)装置の測定結果から、格子
整合度Δθ=0arcsecとなる組成比yは、0.507である。組成比yを上記範囲内とすることで、格子整合度Δθを±200arcsecの範囲内に略収めることができ、良好な格子整合性が得られる。なお、格子整合度Δθは、Aをn型基板10の格子定数とし、Aを挿入層50の格子定数としたとき、Δθ=(A−A)/Aで得られる各層の格子定数の差の度合いである。
【0033】
また、残留するAsを充分に取り込むことができるよう、挿入層50の層厚は、例えば10nm以上50nm以下とする。
【0034】
p型クラッド層70は、上記挿入層50と、挿入層50の上にさらに形成されるスペー
サ層60とを介して上記発光層40の上に形成されている。スペーサ層60は、例えばun−AlGaInP等のP系結晶から構成される。スペーサ層60を有する構成とすることで、例えばp型クラッド層70中に含まれるMg等のp型不純物が、発光層40へと拡散してしまうことを抑制することができる。
【0035】
また、p型クラッド層70の上には、p型中間層80とp型電流分散層90とがこの順に積層されている。p型中間層80は、例えばp−AlGaInP等のP系結晶から構成され、p型クラッド層70とp型電流分散層90との格子不整合を緩和する。p型電流分散層90は、例えばp−GaP等のP系結晶から構成される。
【0036】
(発光素子の構造)
続いて、本発明の一実施形態に係る発光素子の構造について、図2を用いて説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る発光素子としてのLED2を示す断面図である。
【0037】
図2に示すように、LED2は、上記のLED用エピタキシャルウエハ1を用い、電極110,120を形成した構造を有している。すなわち、例えば略矩形状に切り出されたLED用エピタキシャルウエハ1の、p型電流分散層90上の一部には、表面電極110が形成されている。また、n型基板10の、n型バッファ層20とは反対側の面の全面には、裏面電極120が形成されている。
【0038】
このように構成されることで、LED2が備える表面電極110及び裏面電極120に電圧を印加すると、例えば赤外波長帯等の所定の発光波長の光が発光層40から発せられる。上述したように、LED2は、ディスプレイ、リモコン、センサ、車載用ランプなど、様々な機器に組み込まれて用いられる。
【0039】
(2)発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係るLED用エピタキシャルウエハ1及びLED2の製造方法について説明する。
【0040】
(発光素子用エピタキシャルウエハの製造方法)
LED用エピタキシャルウエハ1の製造には、例えばMOVPE法が用いられる。つまり、MOVPE法により、n型基板10上に、図1(a)に示すn型バッファ層20からp型電流分散層90までの複数のエピタキシャル層を積層して、例えば赤外波長帯等の所定の発光波長を有するLED用エピタキシャルウエハ1を製造する。
【0041】
具体的には、MOVPE装置が備える成長炉内にn型基板10を搬入して設置し、成長圧力、成長温度を所定値に保った状態で、所定の原料ガスを所定流量供給して行う。III
族原料ガスには、例えばガリウム(Ga)原料ガスとしてトリメチルガリウム(TMG)等の有機金属ガスを使用する。また、例えばアルミニウム(Al)原料ガスにはトリメチルアルミニウム(TMA)等の、インジウム(In)原料ガスにはトリメチルインジウム(TMI)等の有機金属ガスをそれぞれ使用する。また、V族原料ガスには、ヒ素(As)原料ガスとしてアルシン(AsH)等の、リン(P)原料ガスとしてホスフィン(PH)等の水素化物ガスをそれぞれ使用する。
【0042】
また、各層の導電型を決定する不純物の添加は、例えば所定の添加ガスを原料ガスに添加することにより行う。n型の不純物としては、例えばシリコン(Si)やセレン(Se)、テルル(Te)等を用いる。Si,Se,Teを添加するには、それぞれ例えばジシラン(Si)、セレン化水素(HSe)、ジエチルテルル(DETe)等の添加ガスを用いる。また、p型の不純物としては、例えばマグネシウム(Mg)や亜鉛(Zn)等を用いる。Mg,Znを添加するには、それぞれ例えばビスシクロペンタジエニルマ
グネシウム(CpMg)、ジエチルジンク(DEZ)等の添加ガスを用いる。
【0043】
n型基板10の上に上記各エピタキシャル層を成長させるにあたっては、各エピタキシャル層中に含まれる金属の種類や各層の導電型に応じた原料ガス及び添加ガスを、適宜、成長炉内に供給しながら成長させる。原料ガス及び添加ガスは、高純度Hキャリアガスとの混合ガスとして成長炉内に供給され、成長炉内で加熱分解されて、n型基板10の上に金属結晶として成長される。
【0044】
このように、例えばAs系結晶からなる発光層40の成長時には、V族原料ガスとしてAs原料ガスを成長炉内に供給して発光層40を成長させる。上述したように、発光層40の成長に用いたAs原料ガスや、As原料ガスの分解物の一部は、成長炉内に残留してしまう場合がある。
【0045】
従来技術においては、発光層を成長させた後、例えばV族原料ガスをAs原料ガスからP原料ガスに切り替えて、スペーサ層とp型クラッド層とを順次成長させていた。このとき、成長炉内に残留したAsが、p型クラッド層の成長時にも残留し続け、p型クラッド層中に混入してしまう場合があった。
【0046】
そこで、本実施形態においては、発光層40とp型クラッド層70との間に、p型クラッド層70とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−yPからなる挿入層
50を成長させる。これにより、成長炉内に残留したAsが挿入層50に取り込まれ、p型クラッド層中にAsが混入してしまうことを抑制することができる。
【0047】
このとき、p型クラッド層70のAl組成比aよりも小さいAl組成比xの挿入層50を成長させて、挿入層50中へのAsの取り込みを促進させる。これにより、p型クラッド層70付近のバンドの不連続性を緩和する作用が働いて、取り込まれたAsは挿入層50中に溜まり易くなるものと考えられる。よって、例えばAl組成比aが0.64≦a≦0.75のp−(AlGa1−aIn1−bPからなるp型クラッド層70に対し、挿入層50のAl組成比xを0.05≦x≦0.25とすることができる。
【0048】
また、このとき、挿入層50の層厚が例えば10nm以上であれば、残留するAsを充分に取り込むことができる。よって、例えば層厚が10nm以上50nm以下となるように挿入層50を成長させる。
【0049】
以上により、所定の発光波長を有するLED用エピタキシャルウエハ1が製造される。
【0050】
(発光素子の製造方法)
次に、発明の一実施形態に係る発光素子としてのLED2の製造方法について、図2を参照しながら説明する。
【0051】
まずは、上記のように製造したLED用エピタキシャルウエハ1を用い、電極110,120を形成する。すなわち、フォトリソグラフィ法やスパッタリング法等を用いて、LED用エピタキシャルウエハ1が備えるp型電流分散層90上の一部に、表面電極110を素子ごとに形成する。また、スパッタリング法等を用いて、n型基板10の、n型バッファ層20とは反対側の面の全面に、裏面電極120を形成する。
【0052】
次に、電極110,120が形成された上記LED用エピタキシャルウエハ1に対し、素子ごとに形成した表面電極110のそれぞれが略中央部に位置するよう、例えば略矩形状にダイシングを行ってチップ化し、図2に示すLED2を複数個得る。以上により、本実施形態に係るLED2が製造される。
【0053】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0054】
例えば、上述の実施形態においては、挿入層50には不純物の添加を特に行わなかったが、挿入層50にマグネシウム(Mg)等のp型不純物を添加してもよい。この場合、キャリア濃度が少なくとも2.5×1017cm−3以上5.5×1017cm−3以下の範囲内であれば、Asの取り込みの効果や発光素子の特性において、Mgを添加しない場合と同様の結果が得られる。
【0055】
また、上述の実施形態においては、発光層40とp型クラッド層70との間に挿入層50を設けることとしたが、上述のようなV族原料ガスの切り替えは、n型バッファ層20とn型クラッド層30との間でも行われている。そこで、n型バッファ層とn型クラッド層との間に挿入層をさらに設けてもよい。係る挿入層は、例えば(AlxGa1−x
In1−yPから構成することができる。但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y≦0.52とすることが好ましく、また、Si等のn型不純物を添加してもよい。これにより、n型バッファ層で用いたAsがn型クラッド層中に混入されることを抑制することができる。
【0056】
また、上述の実施形態においては、発光層40のウェル層41xとバリア層42xとをそれぞれun−GaAs及びun−AlGaAsから構成することとしたが、これに限定されない。例えばウェル層41xとバリア層42xとが異なるAl組成比zを有していれば、双方をun-AlGa1−zAsから構成し、Al組成比zが0.15以下のウェ
ル層を設けることが可能である。
【0057】
また、上述の実施形態においては、ウェル層41xとバリア層42xとのペア層43xを10ペア備えることとしたが、これに限定されない。
【0058】
また、上述の実施形態においては、p型クラッド層70を発光層40の上層としたが、上下の各クラッド層等の導電型(n型、p型)を逆にして、発光層40の上層をn型としてもよい。
【0059】
また、上述の実施形態においては、LED用エピタキシャルウエハ1及びLED2について説明したが、発光素子用エピタキシャルウエハ及び発光素子は、他の発光素子、例えばLD用エピタキシャルウエハ及びLD等として構成されていてもよい。
【実施例】
【0060】
(1)実施例1〜4
次に、本発明に係る実施例1〜4について説明する。
【0061】
(発光素子用エピタキシャルウエハの測定)
まずは、Al組成比、不純物添加の有無、層厚等をそれぞれ変化させた挿入層を備える実施例1〜実施例4のLED用エピタキシャルウエハを、上述の実施形態と同様の手法で製作した。また、挿入層を有さない比較例のLED用エピタキシャルウエハを、挿入層の成長を行わない以外は上述の実施形態と同様の手法で製作した。それぞれのLED用エピタキシャルウエハが備える各エピタキシャル層の組成比、不純物元素、キャリア濃度および層厚を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
また、各LED用エピタキシャルウエハが備える発光層及び挿入層の組成比、層厚、ペア数、不純物の有無等を、それぞれ表2及び表3に示す。
【0064】
【表2】

【表3】

【0065】
次に、上記のように製作された実施例1〜4及び比較例のLED用エピタキシャルウエハに対し、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)を行い
、p型クラッド層中に混入されるAsの濃度を測定した。比較例のLED用エピタキシャルウエハにおいては、p型クラッド層中のAs濃度は、下層の発光層近傍では2.8×1017atoms/ccであった。As濃度は、p型クラッド層の層厚方向中、上方(p型中間層側)へ向かうにつれて低下し、層厚の1/2の厚さ付近でバックグラウンドレベルに落ち着いた。
【0066】
一方、実施例1〜4のLED用エピタキシャルウエハにおいては、p型クラッド層中のAs濃度は、発光層近傍であっても略バックグラウンドレベルを示し、p型クラッド層の層厚方向の全域においてバックグラウンドレベルに安定していた。このことから、挿入層を備える構成とすることで、p型クラッド層へのAsの混入を抑制できることがわかった。
【0067】
(発光素子の測定)
続いて、上記実施例1〜4及び比較例のLED用エピタキシャルウエハを用い、上述の実施形態と同様の手法でダイシング及び電極形成を行ってLEDを製作した。
【0068】
製作した実施例1〜4及び比較例のLEDに対し、通電初期及び240時間通電継続後について、発光出力Po(mW),Po240(mW)及び動作電圧Vf(V),Vf240(V)をそれぞれ測定し、240時間通電後の発光出力の変化量ΔPo(%)及び動作電圧の変化量ΔVf(V)を、それぞれ次式(1),(2)より求めた。
ΔPo(%)=(Po240/Po)×100・・・式(1)
ΔVf(V)=Vf240−Vf・・・式(2)
【0069】
すなわち、ΔPo及びΔVfが小さいほど、発光出力の安定性が高く、また、発光素子としての信頼性が高いことを表しており、ΔPoは95%以上110%以下、ΔVfは±0.1Vの範囲内であることが好ましい。この結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
表4に示すように、比較例のLEDにおいては、ΔVfについては0.06Vとなって上記規格を満たすものの、ΔPoが規格を外れる120%以上の高い値を示した。一方、実施例1〜4のLEDにおいては、ΔVf、ΔPoともに、上記規格を外れるものは存在しなかった。このことから、挿入層を備える構成とすることで、発光素子の信頼性が向上することがわかる。
【0072】
(2)変形例1〜4
次に、上述の実施例の変形例1〜4について説明する。変形例1〜4においては、それぞれLED用エピタキシャルウエハを製作し、更に、LEDを製作して、上記と同様の評価を行った。以下に、その結果を示す。
【0073】
(変形例1)
まずは、本発明に係る実施例1及び2の変形例である変形例1について説明する。変形例1は、実施例1及び2の構成に対し、それぞれ挿入層のAl組成比及び層厚を変化させたものである。変形例1において、Al組成比については、0.05以上0.25以下の範囲内で良好な結果が得られた。また、層厚については、10nm以上50nm以下の範囲内で良好な結果が得られた。
【0074】
(変形例2)
続いて、本発明に係る実施例3の変形例である変形例2について説明する。変形例2は、実施例3の構成に対し、Mgの添加量を変えてキャリア濃度を1.5×1017cm−3〜6.5×1017cm−3の範囲で変化させたものである。変形例2において、キャリア濃度が2.5×1017cm−3以上5.5×1017cm−3以下の範囲内で良好な結果が得られた。なお、実施例3の構成に対し、挿入層にZnを添加したものについても評価を行ったが、良好な結果は得られなかった。
【0075】
(変形例3)
次に、本発明に係る実施例1の変形例である変形例3について説明する。変形例3は、実施例1の構成に加えてn型バッファ層とn型クラッド層との間に挿入層をさらに設けたものである。係る挿入層は(Al0.10Ga0.900.51In0.49Pから構成し、Si添加によりキャリア濃度を5.5×1017cm−3とした。変形例3において、さらに挿入層を設けたことで、実施例1のpクラッド層と同様、n型クラッド層中のAs濃度を低減することができた。
【0076】
(変形例4)
次に、本発明に係る実施例1〜4の変形例である変形例4について説明する。変形例4は、実施例1〜4の構成に対し、発光層を構成するウェル層をun−AlGa1−z
sから構成し、Al組成比及び層厚を変化させたものである。変形例4において、Al組成比については、0以上0.15以下の範囲内で良好な結果が得られた。また、層厚については、3.0nm以上8.5nm以下の範囲内で良好な結果が得られた。
【0077】
(3)実施例5
本発明に係る実施例5においては、発光素子用エピタキシャルウエハとしてLD用エピタキシャルウエハを製作した。LD用エピタキシャルウエハの製作は、上述の実施形態と略同様の手法で、各エピタキシャル層を成長させて行った。但し、LED用エピタキシャルウエハのp−GaPからなるp型電流分散層に代えて、p−GaAsからなるp型コン
タクト層を、層厚が数百nmとなるよう成長させた。
【0078】
次に、このように製作したLD用エピタキシャルウエハを用い、上述の実施形態と略同様の手法でダイシング及び電極形成を行って、実施例5のLDを製作した。この実施例5のLDに対し、上記と同様、発光素子の信頼性の評価を行ったところ、上述の実施例及び変形例と同様の傾向を示す結果が得られた。以上のことから、本発明に係る挿入層を備える構成は、LD用エピタキシャルウエハ及びLDに対しても有効であることがわかった。
【符号の説明】
【0079】
1 LED用エピタキシャルウエハ
10 n型基板
20 n型バッファ層
30 n型クラッド層
40 発光層
41x ウェル層
42x バリア層
43x ペア層
50 挿入層
60 スペーサ層
70 p型クラッド層
80 p型中間層
90 p型電流分散層
110 表面電極
120 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型基板の上に、Alを含有するP系結晶からなるn型クラッド層と、As系結晶からなる量子井戸構造を有する発光層と、Alを含有するP系結晶からなるp型クラッド層とが、この順に積層され、
前記発光層と前記p型クラッド層との間に、前記p型クラッド層とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−yP(但し、0.05≦x≦0.25,0.47≦y
≦0.52)からなる挿入層を備える
ことを特徴とする発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項2】
前記挿入層のAl組成比が前記p型クラッド層のAl組成比よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項3】
前記挿入層の層厚が10nm以上50nm以下である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項4】
前記挿入層にp型不純物が添加されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項5】
前記挿入層に添加されている前記p型不純物はMgであり、前記挿入層のキャリア濃度は2.5×1017cm−3以上5.5×1017cm−3以下である
ことを特徴とする請求項4に記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項6】
前記p型クラッド層のAl組成比は、0.64以上0.75以下である
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項7】
前記n型クラッド層は、As系結晶からなるn型バッファ層を介して前記n型基板の上に形成され、
前記n型バッファ層と前記n型クラッド層との間に、前記n型クラッド層とはAl組成比が異なる(AlxGa1−xIn1−yP(但し、0.05≦x≦0.25,0.
47≦y≦0.52)からなる挿入層をさらに備える
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項8】
前記発光層が有する前記量子井戸構造は、
ウェル層と、前記ウェル層よりも大きいバンドギャップを有するバリア層と、を1つのペアとする少なくとも1層のペア層を有し、
前記ウェル層は、層厚が3.0nm以上8.5nm以下のAlGa1−zAs(但し、0≦z≦0.15)からなる
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の発光素子用エピタキシャルウエハを用い、電極を形成した
ことを特徴とする発光素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−248659(P2012−248659A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118886(P2011−118886)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】