説明

発光素子

【課題】
コストおよび閾値電圧が上がることなく、静電耐圧特性を向上させた発光素子を提供することを目的とする。
【解決手段】
基板上に、n側窒化物半導体層、活性層、およびp側窒化物半導体層が順に積層され、前記n側窒化物半導体層上および前記p側窒化物半導体層上に、それぞれn側電極およびp側電極が設けられた発光素子において、前記n側窒化物半導体層が、前記n型電極と接する上部n型コンタクト層と下部n型コンタクト層とで構成されるn型コンタクト層を有し、前記上部n型コンタクト層と前記下部n型コンタクト層との間に、前記上部n型コンタクト層および前記下部n型コンタクト層のいずれとも組成の異なるAlN層が設けられており、前記AlN層と前記n側電極との間の距離が、前記AlN層と前記基板との間の距離よりも短いことを特徴とする、発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体を積層して形成された発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの貫通転位を有する窒化物半導体素子において、静電耐圧特性を保持または向上させることを目的として、ツェナーダイオード(保護素子)を装着すること、またはある程度の厚みを有する抵抗の異なる層を窒化物半導体層に挿入して電流拡散性を改良することが行われてきた。しかし、保護素子の導入はコストアップにつながり、また、小さい製品では保護素子を搭載し得るスペースがない等の問題が存在する。更に、窒化物半導体層に抵抗の異なる層を挿入する場合、電流拡散性は向上して静電耐圧特性が改善されるが、それと同時に、抵抗が高くなることにより順方向電圧Vにおける閾値も上がってしまうという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−128527号公報
【特許文献2】国際公開第2008/117788号
【特許文献3】特開平8−70139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、コストおよび閾値電圧を上昇させることなく、静電耐圧特性を向上させた発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発光素子は、基板上に、n側窒化物半導体層、活性層、およびp側窒化物半導体層が順に積層され、
前記n側窒化物半導体層上および前記p側窒化物半導体層上に、それぞれn側電極およびp側電極が設けられた発光素子において、
前記n側窒化物半導体層が、前記n型電極と接する上部n型コンタクト層と下部n型コンタクト層とで構成されるn型コンタクト層を有し、
前記上部n型コンタクト層と前記下部n型コンタクト層との間に、前記上部n型コンタクト層および前記下部n型コンタクト層のいずれとも組成の異なるAlN層が設けられており、
前記AlN層と前記n側電極との間の距離が、前記AlN層と前記基板との間の距離よりも短いことを特徴とする。
【0006】
前記AlN層と前記n側電極との間の距離は、前記下部n型コンタクト層の厚さよりも短いことが好ましい。前記AlN層と前記n側電極との間の距離は、好ましくは0.1μm〜3.0μm、より好ましくは0.1μm〜2.0μm、よりいっそう好ましくは0.1μm〜1.0μmである。
【0007】
前記AlN層の厚さは、好ましくは1nm〜10nm、より好ましくは1nm〜5nm、よりいっそう好ましくは3nm〜4nmである。
【0008】
前記上部n型コンタクト層および下部n型コンタクト層は、GaN層であることが好ましい。
【0009】
本発明の発光素子は、p側窒化物半導体層において更に、p型コンタクト層と組成の異なるAlN層が、p型コンタクト層と活性層との間でp型コンタクト層と接するように設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る発光素子によれば、n型コンタクト層が、n型コンタクト層と組成の異なる(即ちバンドギャップの異なる)AlN層(以下、n側AlN層ともよぶ)と接していることにより、n型コンタクト層とn側AlN層との界面においてキャリア移動度が増加し、電流拡散性が向上する。n型コンタクト層とn側AlN層との界面において電流が拡散されることにより、比較的結晶性の脆い活性層が保護され、静電耐圧特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、(a)が従来の発光素子、(b)が本発明の発光素子を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の発光素子のn側AlN層の挿入位置と、静電耐圧特性との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、アンドープGaNとAlNとの界面におけるキャリア移動度測定結果を示すグラフである。
【図4】図4は、本発明の発光素子のn側AlN層の厚さと、静電耐圧特性との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の発光素子のn側AlN層の厚さと、順方向電圧Vとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。ただし、以下に説明する実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための態様を例示するものであって、本発明を以下のものに限定しない。実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は限定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするために誇張していることがある。更に、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよく、一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0013】
図1は、従来の発光素子(a)および本発明の発光素子(b)の概念図である。図1(a)に示す従来の発光素子は、サファイアからなる基板1の上に、Si等のn型不純物を含むn側窒化物半導体層、活性層3、Mg等のp型不純物を含むp側窒化物半導体層4が順に積層されている。n側窒化物半導体層はn型コンタクト層2を含む。n側窒化物半導体層はn型コンタクト層2以外の層を含んでもよい。p側窒化物半導体層4の上にp側透光性電極5aとp側パッド電極5bとからなるp側電極5が形成されており、p側窒化物半導体層4より窒化物半導体層の一部をエッチング除去して露出されたn型コンタクト層2の表面にn側電極6が形成されている。一方、図1(b)に示す本発明の発光素子は、下部n型コンタクト層2aと上部n型コンタクト層2bとの間に、下部および上部n型コンタクト層のいずれとも組成の異なるAlN層7が更に設けられている。
【0014】
n型コンタクト層2およびn側AlN層7は互いに組成が異なり、従って格子定数が異なる。そのため、発光素子に電圧をかけると、n型コンタクト層2とn側AlN層7との界面において、その格子定数の差に起因するピエゾ電界が発生する。これにより、前記界面においてキャリア移動度が増大し、前記界面において電流が横方向に拡散される。図1(a)に示す従来の発光素子と比較して、本発明の発光素子において電流が拡散される様子を、図1(b)にて矢印で模式的に示している。n型コンタクト層2とn側AlN層7との界面において電流が拡散されることにより、活性層3の一部に電流が集中して注入されることがなくなり、比較的結晶性の脆い活性層が保護され、静電耐圧特性が向上する。
【0015】
このようなn側AlN層7は、アンドープAlN層であってもよく、安定した混晶比で半導体結晶を成長させることができるため好ましい。
【0016】
また、n側AlN層7とn側電極6との距離が短いほど、キャリア移動度の高い界面近傍に電流が流れ易くなることとなって、前記界面における電流拡散の効果が大きくなり、従って静電耐圧特性が向上する。従って、n側電極6を形成するために窒化物半導体層をエッチング除去する際に、n側AlN層7上に残される上部n型コンタクト層2bの厚さは、できるだけ薄いことが好ましい。一方、エッチング精度に応じて一定厚さの上部n型コンタクト層2bをn側AlN層上に残す必要がある。このため、n側AlN層7とn側電極6との間の距離は、基板1とn側電極6との間の距離の1/2よりも短いことが好ましい。具体的には、n側AlN層7とn側電極6との間の距離は、0.1μm〜3.0μm、好ましくは0.1μm〜2.0μm、より好ましくは0.1μm〜1.0μmである。
【0017】
n側AlN層7の厚さは、好ましくは1.0nm〜10nm、より好ましくは1.0nm〜5.0nmである。n側AlN層7の厚さをこのように設定すると、n側AlN層7とn型コンタクト層2との界面におけるキャリア移動度の増加が顕著であり、従って静電耐圧特性を効率的に向上させることができる。特に、n側AlN層7の厚さを3.0〜4.0nmとすることがよりいっそう好ましい。n側AlN層7の厚さを3.0nm以上とした場合、結晶欠陥の少ない層としてn側AlN層7を形成することができるので、静電耐圧特性を更に向上させることができる。n側AlN層7の厚さを4.0nm以下とした場合、比較的抵抗値の高いn側AlN層7を形成したとしても、順方向電圧Vにおける閾値の上昇を軽減することができる。
【0018】
更に、p側窒化物半導体層4において、p型コンタクト層と組成の異なるAlN層(以下、p側AlN層ともよぶ)を、p型コンタクト層と活性層との間にp型コンタクト層と接するように設けることにより、発光素子の静電耐圧特性を更に向上させることができる。
【0019】
p側AlN層を挿入することにより静電耐圧特性が向上する理由としては、以下のことが考えられる。p型コンタクト層とp側AlN層の組成が互いに異なり、従って格子定数が異なることにより、発光素子に電圧をかけると、p型コンタクト層とp側AlN層との界面において、その格子定数の差に起因するピエゾ電界が発生する。これにより、前記界面においてキャリア移動度が増大し、前記界面において電流が横方向に拡散される。このように電流が拡散することにより、静電耐圧特性が向上すると考えられる。
【0020】
以下に、本発明に係る発光素子の一例について、その各構成を詳細に説明するが、以下に説明する全ての構成物が必須ではなく、それらのいくつかを省略または変更することができる。
本発明の発光素子は、基板上に、n側窒化物半導体層、活性層、p側窒化物半導体層が順に積層されており、p側窒化物半導体層の上にp側透光性電極およびp側パッド電極からなるp側電極が形成され、p側窒化物半導体層より窒化物半導体層の一部をエッチング除去して露出されたn型コンタクト層の表面にn側電極が形成されている。
【0021】
〔基板〕
基板は、サファイアのC面、R面、A面の他、スピネル(MgAl)等の絶縁性基板、SiC、ZnS、ZnO、GaAs、GaN等の半導体基板を用いることができる。
【0022】
〔n側窒化物半導体層〕
本実施形態に係るn側窒化物半導体層は、少なくとも基板側から順に、バッファ層、下部n型コンタクト層、n側AlN層、上部n型コンタクト層、アンドープ半導体層及びn型多層膜層が積層されている。
【0023】
(バッファ層)
バッファ層は、基板上に形成されており、基板と窒化物半導体との格子定数の不一致を緩和して、結晶性の高い窒化物半導体層をその上に形成するための低温成長層である。バッファ層は、最終的に除去することもできるし、それ自体省略することもできる。このようなバッファ層は、AlGaN、GaN、AlN等を、温度500〜800℃で10〜50nmの厚さに成長させて形成することが好ましい。
【0024】
更に、このバッファ層の上に第2のバッファ層を更に形成してもよい。第2バッファ層は、後述のn型コンタクト層よりn型不純物のドープ量が少ない、またはn型不純物をドープしない窒化物半導体、例えばAlGaN、GaN、AlN等を、上述の第1のバッファ層より高い温度、例えば800〜1300℃で、0.5〜3.0μmの厚さに成長させて形成する。第2バッファ層は、不純物ドープ量が少ない(またはゼロである)ので高い結晶性を有する。そのため、結晶性の高い下部n型コンタクト層をその上に形成することができる。
【0025】
(下部および上部n型コンタクト層)
下部および上部n型コンタクト層は、その組成が特に限定されるものではなく、例えば、Al比率が0.2以下のAlGaN又はGaNからなる層であることが好ましい。このような組成にすると結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が得やすい。下部および上部n型コンタクト層は、Si等のn型不純物を含有しており、その濃度は、窒化物半導体の結晶性を悪化しない程度に高いことが好ましい。例えば、1×1018/cm以上、5×1021/cm以下が挙げられる。
下部n型コンタクト層は、バッファ層上に900〜1300℃の温度で成長させて形成するが、その膜厚は特に限定されるものではない。例えば、1.0μm程度以上、好ましくは2.0μm程度以上とすることでシート抵抗を低減することができるが、ウェハの反り軽減などを考慮して2.0〜8.0μmの厚さに形成するのが好ましい。
また、上部n型コンタクト層は、後述するn側AlN層が基板よりもn側電極側に配置されるように形成するのが好ましい。例えば、後述するn側電極を形成する際の上部n型コンタクト層がエッチングされる深さを考慮して、n側AlN層上に900〜1300℃の温度で1.0〜4.0μm程度の厚さに成長させて形成するのが好ましい。
【0026】
(n側AlN層)
n側AlN層は、下部および上部n型コンタクト層との界面において、キャリア移動度を増大させ、n側電極から流れ込む電流を横方向に拡散するための層である。n側AlN層は、下部n型コンタクト層上に、下部および上部n型コンタクト層のいずれとも組成(又は格子定数)の異なるAlNを、1〜10nmの厚さで成長させて形成する。例えば、下部および上部n型コンタクト層としてGaNを成長させる場合には、n側AlN層としてAlNを成長させる。なお、n側AlN層は、n型不純物のドープの有無に関わらず、電流拡散効果を得ることができる。
【0027】
(アンドープ半導体層)
アンドープ半導体層は、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられる。なかでも、アンドープ半導体層は、GaN、x及び/又はyが0.2以下のAlGa1−x−yN、InGa1−x−yNが好ましく、更に、GaNからなる層を含むことが好ましい。このような組成により、結晶欠陥の少ない窒化物半導体層が容易に得られる。
アンドープ半導体層は、単層で形成されていてもよいが、多層で形成されていることが好ましい。アンドープ半導体層が多層で形成される場合、その全ての層が、n型不純物を含有しないアンドープ層とすることは必要ではなく、少なくとも1層がアンドープ層であればよい。また特に、アンドープ半導体層は、同じ組成のアンドープ層とドープ層とが交互に積層された層であることが好ましい。これらの交互の積層は、例えば、3層以上であることが好ましく、5層程度以下であることが適しており、アンドープ層とドープ層とのいずれが最下層及び/又は最上層であってもよい。具体的には、上部n型コンタクト層の上に、アンドープGaNからなる厚さ50〜150nmの第1の層を成長させ、その上に、Siを1×1018〜9×1018/cmドープしたGaNからなる厚さ1〜50nmの第2の層を成長させ、これを2回繰り返した後に、更にアンドープGaNを1〜10nmの厚さに成長させて、総膜厚が103〜410nmのアンドープ半導体層を形成する。このように、不純物がドープされていない、従ってキャリア移動度の高いアンドープGaN層と、不純物がドープされた、従ってキャリア濃度の高い層とが交互に存在することにより、順方向電圧Vにおける閾値が低下する。第1の層は、第2の層よりもSiドープ量の少ないSiドープGaNであってもよい。
【0028】
なお、本明細書において「アンドープ」とは、成膜時に不純物を導入することなく形成された層であって、成膜後及び/又は製造工程における熱処理等によって上下層から拡散されて不純物が混入された層を意味するのではない。つまり、不純物濃度が1×1017/cm程度以下に留められている層を、実質的に「アンドープ」の層と称する。
【0029】
(n型多層膜層)
n型多層膜層は、組成の異なる少なくとも2種類以上の元素からなる窒化物半導体、例えば、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられる。特に、n型多層膜層は、AlGa1−zN(0≦z<1)(第1層)とInGa1−pN(0<p<1)(第2層)との2種類の組成からなる層が交互に積層されるのが好ましい。第1層は、zが小さいほど、つまりアルミニウム含有量が小さいほど、結晶性が良好になるため、z=0であるGaNからなる層が好ましい。第2層は、pが0.5以下の層が好ましく、pが0.2以下の層がより好ましい。なかでも、n型多層膜層としては、第1層がGaNであり、第2層においてpが0.2以下のInGa1−pNであるのが好ましい。
また、n型多層膜層を構成する単一層(つまり、第1層又は第2層)の膜厚は特に限定されないが、少なくとも1種類の単一層の膜厚を、10nm以下とすることが適しており、7nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。より具体的には、アンドープ半導体層の上に、GaNからなる厚さ1〜5nmの第1の層を成長させ、その上に、InGaNからなる厚さ0.5〜3nmの第2の層を成長させ、これを20回繰り返した後に、更にGaNを1〜5nmの厚さに成長させて、総膜厚が31〜165nmのn型多層膜層を形成する。このように単一層の膜厚を薄くすることにより、n型多層膜層が超格子構造となると共に、弾性臨界膜厚以下となり、n型多層膜層における各単一層の結晶性が良好となる。よって、積層が進むにつれて、より結晶性を向上させることができ、光出力の向上を実現させることができる。
【0030】
〔活性層〕
活性層として、少なくともInを含んでなる窒化物半導体、好ましくはInGa1−xN(0≦x<1)を含む井戸層と、障壁層とを有する多重量子井戸構造又は単一量子井戸構造を用いることができる。井戸層や障壁層の膜厚は、30nm以下、好ましくは20nm以下とすることが望ましい。特に井戸層は薄い方が好ましく、10nm以下、更に好ましくは1〜5nmとすることが望ましい。これによって量子効率に優れた活性層が得られる。
活性層が多重量子井戸構造からなる場合、出力の向上、発振閾値の低下などを図ることが可能となる。井戸層と障壁層が交互に積層されていれば、最初と最後の層は井戸層でも障壁層でもよい。また、多重量子井戸構造において、井戸層に挟まれた障壁層は、特に1層であること(井戸層/障壁層/井戸層)に限るものではなく、2層若しくはそれ以上の層の障壁層を、「井戸層/障壁層(1)/障壁層(2)/・・・/井戸層」というように、組成、不純物量等の異なる障壁層を複数設けてもよい。
このような障壁層としては、特に限定されないが、井戸層よりIn含有率の低い窒化物半導体、GaN、Alを含む窒化物半導体などを用いることができる。より好ましくは、InGaN、GaNまたはAlGaNを含むことが望ましい。障壁層の厚さや組成は、量子井戸構造中で全て同じにする必要はない。
【0031】
〔p側窒化物半導体層〕
本実施形態に係るp側窒化物半導体層は、少なくとも活性層側から順に、p側クラッド層、p型コンタクト層が積層されている。
【0032】
(p側クラッド層)
p側クラッド層は、p型不純物を含有するInAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる単一層又はバンドギャップエネルギーの異なる少なくとも2層の積層構造が挙げられる。なかでも、AlGa1−xN(0≦x≦1)からなる単一層又はバンドギャップエネルギーの異なる少なくとも2層の積層構造が好ましい。例えば、本実施形態におけるp側クラッド層は、活性層の上に、MgドープAlGaNを10〜50nmの厚さに成長させ、更にその上にアンドープGaNを50〜100nmの厚さで成長させて形成する。
また、p側クラッド層を積層構造とする場合、各層の膜厚を10nm程度以下としてもよく、更には7nm程度以下、5nm程度以下とすることができる。このような薄膜に形成することにより、p側クラッド層が超格子構造となるため、結晶性を向上させることができる。その結果、p型不純物を添加した場合にキャリア濃度が大きく抵抗率の小さい層が得られ、発光素子のV及び閾値等が低下し易い傾向にある。
また、p側クラッド層は、p型不純物濃度が、例えば、1×1022/cm程度以下が好ましく、5×1020/cm程度以下がより好ましい。p型不純物濃度の下限は特に限定されないが、5×1016/cm程度以上が適している。ただし、積層構造においては、全ての層にp型不純物が含有されていなくてもよい。
【0033】
(p側AlN層)
場合により、前述のp側クラッド層と、後述のp型コンタクト層との間に、p型コンタクト層と組成の異なるAlN層(p側AlN層)を設けることにより、発光素子の静電耐圧特性を更に向上させることができる。p側AlN層の挿入位置はこれに限らず、p型コンタクト層と活性層との間にp型コンタクト層と接するように設けられる構成であれば、静電耐圧特性向上の効果を得ることができる。p側AlN層の厚さは、1〜10nmであることが好ましい。なお、p側AlN層は、p型不純物のドープの有無に関わらず、電流拡散効果を得ることができる。
【0034】
(p型コンタクト層)
p型コンタクト層は、InAlGa1−x−yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)からなる層が挙げられ、なかでも、GaN、Al比率0.2以下のAlGaN、In比率0.2以下のInGaNからなる層が好ましく、GaNからなる層がより好ましい。これらの組成は、電極材料と良好なオーミックコンタクトを得ることができる。
p型コンタクト層の膜厚は特に限定されるものではなく、例えば、50nm程度以上であることが好ましく、60nm程度以上であることがより好ましい。
不純物濃度は、例えば、1×1018/cm以上、5×1021/cm以下が挙げられる。
【0035】
〔p側電極およびn側電極〕
p側電極およびn側電極は、特に限定されず、当該分野で公知のもののいずれをも採用することができる。
例えば本実施形態に係るp側電極は、p型コンタクト層の上に、p側透光性電極およびp側パッド電極が順に形成して構成される。p側透光性電極は、光の取出効率を考慮して、活性層から出射される光を吸収しない材料によって形成されることが好ましく、例えば、導電性酸化物(ITOやZnO等)等が挙げられる。
また、n側電極は、p側窒化物半導体層より窒化物半導体層の一部を1.0〜1.5μm程度の深さでエッチング除去して上部n型コンタクト層を露出させ、露出された上部n型コンタクト層の表面に形成される。n側AlN層とn側電極との間の距離は、基板とn側電極との間の距離の1/2よりも短いことが好ましい。より具体的には、n側AlN層とn側電極との間の距離は、0.1μm〜3.0μm、より好ましくは0.1μm〜2.0μm、更に好ましくは0.1μm〜1.0μmである。これにより、n側電極から流れ込む電流が、キャリア移動度の高いn側AlGa1−XN層との界面近傍に流れ易くなるため、静電耐圧特性を向上させることができる。
【0036】
以下に、本発明に係る実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
[実施例1]
本発明の実施例1の発光素子を以下の工程に従って作製した。
【0038】
(基板)
サファイア(C面)からなる基板をMOCVDの反応容器内にセットし、水素を流しながら、基板の温度を900℃〜1200℃程度まで上昇させ、基板のクリーニングを行った。
【0039】
(第1バッファ層)
続いて、温度を500〜800℃程度まで下げ、キャリアガスに水素、原料ガスにアンモニア、TMG(トリメチルガリウム)およびTMA(トリメチルアルミニウム)を用いて、基板上にアンドープAlGaNを約20nmの厚さに成長させて、第1バッファ層を形成した。
【0040】
(第2バッファ層)
第1バッファ層を形成した後、TMAのみを止めて、温度を800〜1300℃程度まで上昇させた後、原料ガスにTMGおよびアンモニアガスを用いてアンドープGaNを約2.0μmの厚さに成長させ、第2バッファ層を形成した。
【0041】
(n型コンタクト層およびn側AlN層)
次に、温度900〜1300℃程度で、原料ガスにTMGおよびアンモニア、不純物ガスにシランを用いて、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNを約2.0μmの厚さに成長させ、下部n型コンタクト層を形成した。
n型コンタクト層の上に、温度950〜1350℃程度でTMAおよびアンモニアガスを用いて、AlNを約1.5nmの厚さに成長させ、n側AlN層を形成した。
続いて、温度を再び900〜1300℃程度に設定し、TMG、アンモニアガスおよびシランガスを用いて、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNを約4.0μmの厚さに成長させ、上部n型コンタクト層を形成した。
【0042】
(アンドープ半導体層)
次に、シランガスのみを止め、温度900〜1300℃程度で、TMGおよびアンモニアガスを用いて、アンドープGaNからなる第1の層を約150nmの厚さに成長させ、続いて同温度にてシランガスを追加し、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNからなる第2の層を約20nmの厚さに成長させた。これを繰り返して計2回行い、最後に、シランガスのみを止め、同温度にてアンドープGaNからなる層を約10nmの厚さに成長させて、5層からなる総厚さ約350nmのアンドープ半導体層を形成した。
【0043】
(n型多層膜層)
次に、同様の温度で、アンドープGaNからなる第1の層を約1.5nm成長させ、次に温度を800〜1000℃程度にして、TMG、TMIおよびアンモニアを用いて、アンドープInGaNからなる第2の層を約1nm成長させた。そしてこれらの操作を繰り返して交互に20層ずつ積層させ、最後にGaNからなる第1の窒化物半導体層を約1.5nm成長させて、超格子構造を有する総厚さ約51.5nmのn型多層膜層を形成した。
【0044】
(活性層)
温度900〜1300℃程度にてTMG、アンモニアガスおよびシランガスを用いて、SiドープGaNを約3.5nm成長させた後、シランガスのみを止め、GaNを約1.5nm成長させて、厚さ約5nmの障壁層を形成した。
次に、温度600〜1000℃程度にてTMG、TMIおよびアンモニアを用いて、アンドープInGaNからなる井戸層を約3nmの厚さに成長させ、続いてTMGおよびアンモニアを用いてアンドープGaNからなる障壁層を約5nmの厚さに成長させた。そして、井戸+障壁+井戸+障壁+・・・・+障壁の順で井戸層を9層、障壁層を9層、交互に積層して、総厚さ約72nmの多重量子井戸構造からなる活性層を形成した。
【0045】
(p側クラッド層)
次に、温度900〜1000℃程度にてTMG、TMA、アンモニアおよびCpMg(シクロペンタジエニルマグネシウム)を用いて、Mgを1×1020/cmドープしたp型AlGaNを約10nmの厚さに成長させ、続いてTMGおよびアンモニアを用いて、アンドープGaNを約80nmの厚さに成長させ、p側クラッド層を形成した。
【0046】
(p型GaNコンタクト層)
アンドープGaN層の上に、温度900〜1000℃程度にてTMG、アンモニアおよびCpMgを用いて、Mgを1×1020/cmドープしたp型GaNを約50nmの厚さに成長させ、p型コンタクト層を形成した。
【0047】
反応終了後、温度を室温まで下げ、更に窒素雰囲気の反応容器内において、ウェハを300℃〜700℃程度でアニールし、p側窒化物半導体層を更に低抵抗化した。
【0048】
(電極)
次に、ウェハを反応容器から取り出し、最上層のp型コンタクト層の表面に所定の形状のマスクを形成し、RIE(反応性イオンエッチング)装置でp型コンタクト層側から約1.5μmの深さでエッチングを行い、n型コンタクト層の表面を露出させた。
続いて、p型コンタクト層上のほぼ全面にITOからなるp側透光性電極を形成した。次に、形成したp側透光性電極上およびエッチングにより露出させたn型コンタクト層上に、p側パッド電極及びn側電極をそれぞれ形成した。このとき、本実施例においては、n側電極とn側AlN層との距離は約3.0μmに設定された。
【0049】
最後に、ウェハを各チップに切断して発光素子を得た。
【0050】
[実施例2]
実施例2の発光素子は、n型コンタクト層を約3.0μm成長させた後、AlNを約1.5nm成長させ、その上に再びn型コンタクト層を約3.0μm成長させ、エッチング除去によりn側電極とn側AlN層との間の距離を約2.0μmに設定する以外は、実施例1と同様の手順で作製した。
【0051】
[実施例3]
実施例3の発光素子は、n型コンタクト層を約4.0μm成長させた後、AlNを約1.5nm成長させ、その上に再びn型コンタクト層を約2.0μm成長させ、エッチング除去によりn側電極とn側AlN層との間の距離を約1.0μmに設定する以外は、実施例1と同様の手順で作製した。
【0052】
[実施例4]
実施例4の発光素子は、n型コンタクト層を約5.0μm成長させた後、AlNを約1.5nm成長させ、その上に再びn型コンタクト層を約1.0μm成長させ、エッチング除去によりn側電極とn側AlN層との間の距離を約0.1μmに設定する以外は、実施例1と同様の手順で作製した。
【0053】
[実施例5]
実施例5の発光素子は、n型コンタクト層を約5.0μm成長させた後、AlNを2.0nm成長させ、その上に再びn型コンタクト層を約2.0μm成長させ、エッチング除去によりn側電極とn側AlN層との間の距離を約1.0μmに設定する以外は、実施例1と同様の手順で作製した。
【0054】
[実施例6]
実施例6の発光素子は、AlNを約3.0nm成長させる以外は、実施例5と同様の手順で作製した。
【0055】
[実施例7]
実施例7の発光素子は、AlNを約4.0nm成長させる以外は、実施例5と同様の手順で作製した。
【0056】
[実施例8]
実施例8の発光素子は、n側AlN層の厚さを1.5nmとし、p側クラッド層とp型コンタクト層との間に厚さ1.0nmのp側AlN層を挿入した以外は、実施例5と同様の手順で作製した。
【0057】
[比較例1]
下部n型コンタクト層と上部n型コンタクト層との間にn側AlN層が設けられていない比較例1の発光素子は、第2バッファ層の上に、温度900〜1300℃にて原料ガスにTMGおよびアンモニアガス、不純物ガスにシランガスを用いて、Siを4.5×1018/cmドープしたGaNを7.0μmの厚さに成長させてn型コンタクト層を形成し、その上にアンドープ半導体層を形成する以外は実施例1と同様の方法で作製した。
【0058】
[比較例2]
比較例2の発光素子は、n側AlN層にかえてAlGaNを約5.0nm成長させる以外は実施例5と同様の手順で作製した。
【0059】
[比較例3]
比較例3の発光素子は、n側AlN層にかえてInGaNを約10nm成長させる以外は実施例5と同様の手順で作製した。
【0060】
実施例1〜8および比較例1〜3の発光素子の構成を表1および表2に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
(n側AlN層の挿入位置と静電耐圧特性との関係)
実施例1〜4および比較例1の発光素子に電圧を印加して静電耐圧特性を調べた。50Vおよび300Vの電圧を印加したときの破壊率を図2に示す。n側電極とn側AlN層との距離が近いほど破壊率が低下し、実施例1〜4の発光素子は、50Vにおける破壊率がゼロであった。
n型コンタクト層をエッチングで露出させる従来のLED構造では、電流が主に図1(a)に示すように流れる。これに対し、本実施例1〜4のようにn側AlN層がn側電極に近づくほど、電流が図1(b)に示すようにn側AlN層とn型コンタクト層との界面に流れ込み易くなる。結果的に、本発明では電流拡散効果が強まることになる為、静電耐圧特性が向上すると考えられる。
【0064】
(キャリア移動度試験)
厚さ3μmのアンドープGaNの上に、厚さ0〜10nmのAlNを成長させ、更にその上にアンドープGaNを30nm成長させて、AlN層の厚さの異なるサンプルを作製した。このようにして得られた各サンプルのキャリア移動度を、ホール測定装置を用いてvan der Pauw法によって測定した。結果を図3に示す。
【0065】
図3より、AlN層の厚さは、好ましくは1〜10nm、より好ましくは1〜5nm、更に好ましくは1nm〜3nmであることがわかる。但し、後述する破壊率や破壊電圧、Vの結果等を考慮すると、AlN層の厚さは3〜4nmが最も好ましいといえる。
【0066】
(n側AlN層の厚さと静電耐圧特性との関係)
実施例5および6、7、並びに比較例2および3の発光素子に電圧を印加して静電耐圧特性を調べた。300Vの電圧を印加したときの破壊率の試験結果を図4に示す。図2と図4とを比較すると、n側AlN層の厚さが1.5nmである実施例4の破壊率が60%を超えているのに対して、n側AlN層の厚さが各々2nmおよび3nm、4nmである実施例5および6、7の発光素子の方が、破壊率が6.5%以下と高い静電耐圧特性を有することがわかる。
【0067】
特に、実施例6および7の破壊率は3.3%以下と低くなっている。それに対し、n側AlN層にかえて5.0nmのAlGaN層を成長させた比較例2、10nmのInGaN層を成長させた比較例3の破壊率は各々、7.6%、8.5%であった。このことから、AlGaNやInGaNを成長させた比較例2および3よりも、n側AlN層を成長させた実施例6および7の方が静電耐圧特性に優れていることが分かる。
【0068】
実施例6および7、並びに比較例1の発光素子の20mAにおける順方向電圧Vを測定した。結果を図5に示す。n側AlN層の厚さが4nmに増加しても(実施例7)、n側AlN層が挿入されていない比較例1と同程度の順方向電圧のままであった。
【0069】
n側AlN層の膜厚は、キャリア移動度試験のみを考慮すると上述のように1〜3nmが好ましいといえるが、図4より、静電耐圧特性を向上させるための電流拡散層としての役割を考慮すると、3〜4nmの膜厚が好ましいといえる。また、図5より、n側AlN層の膜厚を3〜4nmにしても、n側AlN層が挿入されていない発光素子と比較してVの値は同程度のままである。
【0070】
上部n型コンタクト層と下部n型コンタクト層との間にn側AlN層が挿入され、更にp側クラッド層とp型コンタクト層との間にp側AlN層が挿入されている実施例8の発光素子に関して、破壊率を測定した。結果を表3に示す。p側AlN層を挿入した実施例8の発光素子は、実施例1〜7の発光素子に比べて300Vにおける破壊率が低減し、500Vにおける破壊率も非常に低い値となっており、静電耐圧特性が大幅に向上した。
【0071】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る発光素子においては、比較的結晶性の脆い活性層が保護され、静電耐圧特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 基板
2 n型コンタクト層
2a 下部n型コンタクト層
2b 上部n型コンタクト層
3 活性層
4 p側窒化物半導体層
5 p側電極
5a p側透光性電極
5b p側パッド電極
6 n側電極
7 n側AlN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、n側窒化物半導体層、活性層、およびp側窒化物半導体層が順に積層され、
前記n側窒化物半導体層上および前記p側窒化物半導体層上に、それぞれn側電極およびp側電極が設けられた発光素子において、
前記n側窒化物半導体層が、前記n型電極と接する上部n型コンタクト層と下部n型コンタクト層とで構成されるn型コンタクト層を有し、
前記上部n型コンタクト層と前記下部n型コンタクト層との間に、前記上部n型コンタクト層および前記下部n型コンタクト層のいずれとも組成の異なるAlN層が設けられており、
前記AlN層と前記n側電極との間の距離が、前記AlN層と前記基板との間の距離よりも短いことを特徴とする、発光素子。
【請求項2】
前記AlN層と前記n側電極との間の距離が、前記下部n型コンタクト層の厚さよりも短い、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記AlN層と前記n側電極との間の距離が、0.1μm〜3.0μmである、請求項1または2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記AlN層の厚さが、1nm〜10nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項5】
前記AlN層の厚さが、3nm〜4nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項6】
前記上部n型コンタクト層および下部n型コンタクト層がGaN層である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光素子。
【請求項7】
p側窒化物半導体層において、p型コンタクト層と組成の異なるAlN層が、p型コンタクト層と活性層との間でp型コンタクト層と接するように設けられていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−69900(P2013−69900A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207813(P2011−207813)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】