説明

発振器

【課題】後段にフィルタを挿入しなくても、低歪みの発振波形を得ることが可能な発振器を提供する。
【解決手段】発振器100は、MOSFETである第1トランジスタM1および第2トランジスタM2を有するクロスカップルドインバータ10を備える。この発振器100は、発振動作中に、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2それぞれのゲートソース間電圧Vgs1、Vgs2、ドレインソース間電圧Vds1、Vds2、ゲートソース間しきい値電圧Vth1、Vth2の間に、
Vds1≧Vgs1−Vth1
Vds2≧Vgs2−Vth2
なる関係が成り立つよう構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
家電機器や映像機器などの電子機器に搭載されるマイクロコンピュータ、スイッチング電源、モータドライバ、液晶ドライバ等の電子回路には、主として基準周波数を生成するための発振回路が設けられていることが多い。この発振回路として、例えば、水晶振動子やセラミック振動子を使った水晶/セラミック発振回路や、抵抗およびコンデンサを使ったCR発振回路、インダクタおよびキャパシタをもちいたLC発振回路が知られている。
【0003】
図1は、クロスカップルドインバータを備える発振器の構成を示す回路図である。発振器1100は、クロスカップルドインバータ1010、電流源1012、インダクタL1、L2、キャパシタC1、C2を備える。クロスカップルドインバータ1010は、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1トランジスタM1、第2トランジスタM2を含む。この発振器1100は、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が相補的に交互にオン、オフすることにより、インダクタL1、L2のインダクタンス値およびキャパシタC1、C2の容量値に応じた周波数で発振する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−336254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に発振器は、その発振波形(出力電圧)が電源電圧Vdd〜接地電圧(Vgnd=0V)の範囲をフルスイングするよう構成されていた。2つの出力端子OUT1、OUT2に発生する出力電圧Vout1、Vout2、言い換えれば第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のドレインソース間電圧Vds1、Vds2がフルスイングすると、波形歪みが生じていた。
【0006】
従来では波形歪みを改善するために、発振器1100の後段に出力電圧Vout1、Vout2の高調波成分を除去するフィルタ(不図示)を設ける必要があった。すなわち、フィルタを構成するコイルおよびキャパシタが、回路面積の増大を招いていた。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、後段にフィルタを挿入しなくても、低歪みの発振波形を得ることが可能な発振器の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、発振器に関する。この発振器は、第1、第2出力端子と、電流源と、電流源と第1出力端子の間に設けられた第1インダクタと、電流源と第2出力端子の間に設けられた第2インダクタと、第1出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、第2出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1、第2トランジスタを含み、第1トランジスタのドレインが第1出力端子に、第2トランジスタのドレインが第2出力端子に接続されているクロスカップルドインバータと、第1トランジスタと第2トランジスタの共通に接続されたソースと固定電圧端子の間に設けられた制限抵抗と、を備える。
【0009】
この態様によると、制限抵抗を設けることにより、第1トランジスタ、第2トランジスタのソース電位は、それを設けない場合に比べて高くなる。その結果、第1トランジスタ、第2トランジスタが非飽和領域と飽和領域を遷移せず、飽和領域を中心に動作することとなり、出力電圧の波形歪みを低減できる。
【0010】
クロスカップルドインバータは、第1トランジスタのドレインと第1出力端子の間に設けられた第1抵抗と、第2トランジスタのドレインと第2出力端子の間に設けられた第2抵抗と、をさらに含んでもよい。
この態様によると、第1抵抗、第2抵抗によって、ドレインソース間の寄生容量の変動の影響を低減することができ、位相ノイズを改善することができる。
【0011】
本発明の別の態様もまた、発振器である。この発振器は、MOSFETである第1、第2トランジスタを含むクロスカップルドインバータを備える。この発振器は、発振動作中に、第1、第2トランジスタそれぞれのゲートソース間電圧Vgs1、Vgs2、ドレインソース間電圧Vds1、Vds2、ゲートソース間しきい値電圧Vth1、Vth2の間に、
Vds1≧Vgs1−Vth1
Vds2≧Vgs2−Vth2
なる関係が成り立つよう構成される。
この態様によれば、第1トランジスタ、第2トランジスタが非飽和領域と飽和領域を遷移せず、飽和領域を中心に動作することとなり、出力電圧の波形歪みを低減できる。
【0012】
本発明のさらに別の態様もまた、発振器である。この発振器は、MOSFETである第1、第2トランジスタを含むクロスカップルドインバータと、クロスカップルドインバータに電流を供給する電流源と、を備える。第1トランジスタは、発振動作中にそのゲートソース間電圧が最大値となるときに電流源からの電流よりも小さなドレイン電流が流れるように構成され、第2トランジスタは、発振動作中にそのゲートソース間電圧が最大値となるときに電流源からの電流よりも小さなドレイン電流が流れるように構成されている。
【0013】
この態様によれば、第1トランジスタ、第2トランジスタを常時強反転領域で動作させることができ、その結果、非飽和領域と飽和領域を遷移せず、飽和領域を中心に動作することとなり、出力電圧の波形歪みを低減できる。
【0014】
本発明のさらに別の態様もまた、発振器である。この発振器は、第1、第2出力端子と、その第1端子が第1出力端子に接続された第1インダクタと、その第1端子が第2出力端子に接続され、その第2端子が第1インダクタの第2端子に接続された第2インダクタと、第1、第2インダクタの共通に接続された第2端子と第1固定電圧端子の間に設けられた電流源と、第1出力端子と第2固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、第2出力端子と第2固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、そのゲートが第2出力端子に接続され、そのソースが第2固定電圧端子に接続されたMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1トランジスタと、そのゲートが第1出力端子に接続され、そのソースが第2固定電圧端子に接続されたMOSFETである第2トランジスタと、第1トランジスタのドレインと第1出力端子の間に設けられた第1抵抗と、第2トランジスタのドレインと第2出力端子の間に設けられた第2抵抗と、を備える。
【0015】
この態様によると、第1抵抗、第2抵抗によって、ドレインソース間の寄生容量の変動の影響を低減することができ、位相ノイズを改善することができる。
【0016】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のある態様によれば、波形歪みを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】クロスカップルドインバータを備える発振器の構成を示す回路図である。
【図2】第1の実施の形態に係る発振器の構成を示す回路図である。
【図3】図3(a)は、図2の発振器の動作を示す波形図であり、図3(b)は、図1の発振器の動作を示す波形図である。
【図4】第2の実施の形態に係る発振器の構成を示す回路図である。
【図5】第1トランジスタおよび第1抵抗を示す図である。
【図6】第1抵抗の抵抗値に対するコンダクタンスおよびキャパシタの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0021】
(第1の実施の形態)
図2は、第1の実施の形態に係る発振器100の構成を示す回路図である。発振器100は、第1出力端子OUT1、第2出力端子OUT2、第1固定電圧端子(電源端子PVDD)、第2固定電圧端子(接地端子PGND)を備える。電源端子PVDDには電源電圧Vddが供給され、接地端子PGNDには接地電圧Vgndが供給されている。発振器100は、第1出力端子OUT1および第2出力端子OUT2から、相補的に変動する差動の出力電圧Vout1、Vout2を出力する。
【0022】
発振器100は、クロスカップルドインバータ10、電流源12、第1インダクタL1、第2インダクタL2、第1キャパシタC1、第2キャパシタC2を備える。L1=L2、C1=C2が成り立つ。
【0023】
電流源12は、適切にバイアスされたトランジスタを含んでもよいし、抵抗を含んでもよい。
【0024】
第1インダクタL1は、電流源12と第1出力端子OUT1の間に設けられる。第2インダクタL2は、電流源12の第2出力端子OUT2の間に設けられる。第1キャパシタC1は、第1出力端子OUT1と接地端子PGNDの間に設けられ、第2キャパシタC2は、第2出力端子OUT2と接地端子PGNDの間に設けられる。
【0025】
クロスカップルドインバータ10は、NチャンネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1トランジスタM1、第2トランジスタM2を含む。第1トランジスタM1、第2トランジスタM2それぞれのドレインは、第1出力端子OUT1、第2出力端子OUT2に接続されている。また第1トランジスタM1と第2トランジスタM2のソースは共通に接続され、一方のゲートは、他方のドレインとたすき掛けして接続されている。また第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のバックゲートは接地端子PGNDと接続される。
【0026】
この発振器100は、発振動作中に、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が飽和領域で動作するように構成される。飽和領域において、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のゲートソース間電圧Vgs1、Vgs2、ドレインソース間電圧Vds1、Vds2、ゲートソース間しきい値電圧Vth1、Vth2の間に、
Vds1≧Vgs1−Vth1 …(1)
Vds2≧Vgs2−Vth2 …(2)
なる関係が成り立つ。なお、第1トランジスタM1と第2トランジスタM2は近接して形成されるため、Vth1=Vth2=Vthが成り立つ。
関係式(1)、(2)を満たすために、発振器100は以下の手順にしたがって設計される。
【0027】
(手順1) まず第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が飽和領域で動作するためには、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2がいずれも強反転領域で動作する必要がある。すなわち、
Vgs1>Vth1 …(3)
Vgs2>Vth2 …(4)
なる関係式が成り立てばよい。
【0028】
発振動作中に、式(3)、(4)を満たすためには、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のドレイン電流IM1、IM2はゼロとならず、常に流れている必要がある。
M1>0
M2>0
【0029】
第1トランジスタM1、第2トランジスタM2を強反転領域で動作させるためには、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2それぞれの電流能力を、電流源12から供給される電流Isよりも小さく設計すればよい。具体的には、第1トランジスタM1は発振動作中に、そのゲートソース間電圧Vgs1が最大値となるときに、電流源12からの電流Isよりも小さなドレイン電流IM1が流れるように構成される。これは第1トランジスタM1のトランジスタサイズ(ゲート幅/ゲート長:W/L)を調節することにより実現される。同様に第2トランジスタM2も、発振動作中にそのゲートソース間電圧Vgs2が最大値となるときに電流源12からの電流Isよりも小さなドレイン電流IM2が流れるように構成されている。
【0030】
たとえば、電流Is=4mAのとき、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2に流れる電流IM1、IM2それぞれの最大値は3mAとなるように設計される。言い換えれば、第1トランジスタM1および第2トランジスタM2には、最低1mAの電流が流れる。
【0031】
この手順1により、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が強反転状態で動作することが保証される。
【0032】
(手順2) クロスカップルドインバータ10においてVgs1=Vds2、Vgs2=Vds1が成り立つ。これを式(1)、(2)に代入すると、
Vds1≧Vds2−Vth1 …(1a)
Vds2≧Vds1−Vth2 …(2a)
を得る。関係式(1a)、(2a)を変形すれば、
Vth1≧Vds2−Vds1 …(1b)
Vth2≧Vds1−Vds2 …(2b)
を得る。Vds2−Vds1、Vds1−Vds2は、出力電圧Vout1、Vout2の振幅に他ならない。すなわち、式(1)、(2)を満たすためには、出力電圧Vout1、Voutの振幅がしきい値電圧Vth1、Vth2より小さければよい。
【0033】
出力電圧Vout1、Vout2の電圧範囲をVth1、Vth2以下に制限するために有効な手段のひとつは、第1トランジスタM1と第2トランジスタM2の共通接続されたソースノードNsと接地端子PGNDの間に、制限抵抗Rsを設けることである。制限抵抗Rsを設けることにより、ゲートソース間電圧Vgs1、Vgs2が、ドレイン電流IM1、IM2に与える影響を抑えることができ、発振マージンを犠牲にすることなく、出力電圧範囲を狭めることができる。
【0034】
以上が発振器100の構成である。続いてその動作を説明する。発振器100の利点は、図1の発振器1100の動作との対比によって明確となる。そこでまず、図1の発振器1100の動作を説明する。
【0035】
図3(b)は、図1の発振器1100の動作を示す波形図である。波形図には上から順に、出力電圧Vout1、Vout2、第1インダクタL1と第2インダクタL2の接続ノードNの電位VNL、第1トランジスタM1と第2トランジスタM2のドレイン電流IM1、IM2が示される。
【0036】
図1の発振器1100では、出力電圧Vout1、Vout2は、接地電圧0V〜電源電圧Vdd付近の間をフルスイングする。つまり第1トランジスタM1および第2トランジスタM2のゲートソース間電圧Vgs1(=Vout2)、Vgs2(=Vout2)は、しきい値電圧Vthより小さな弱反転領域となり、電流IM1、IM2が実質的にゼロまで低下することが確認される。
【0037】
また出力電圧Vout1、Vout2が大振幅でスイングするため、飽和領域と非飽和領域を交互に遷移することになり、これが出力電圧Vout1、Vout2の波形歪みとなって現れる。さらにノードNの電位VNLに着目すると、20mVppで変動している。
【0038】
続いて図2の発振器100の動作を説明する。図3(a)は、図2の発振器100の動作を示す波形図である。
【0039】
抵抗Rsには常時、電流Is(=4mA)が流れる。Rs=50Ωとすると、ノードNsの電位(第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のソース電位)VNSは、Is×Rs=0.2Vに保たれる。また出力電圧Vout1、Vout2は、常にVthよりも高くなっており、
Vgs1=Vout2−VNS>Vth
Vgs2=Vout1−VNS>Vth
が成立しているため、強反転状態であることが確認できる。これにより、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2のドレイン電流IM1、IM2はゼロにはならない。
【0040】
また、出力電圧Vout1、Vout2の振幅(|Vds1−Vds2|)は、しきい値電圧Vthより小さくなっており、関係式(1)、(2)が満たされるため、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が飽和領域で動作していることが確認される。
【0041】
以上が発振器100の動作である。この発振器100によれば、第1トランジスタM1、第2トランジスタM2が飽和領域で動作するため、歪み成分の非常に小さな出力電圧Vout1、Vout2を生成することができる。このことは、ノードNの電位VNLのリップルは1mVppと非常に小さいことからも確認することができる。
【0042】
また図2の発振器100によれば、従来の発振器1100に比べて歪み成分の小さな出力電圧Vout1、Vout2を生成することができるため、後段のフィルタによって歪み成分を除去する必要がなく、フィルタを構成するための回路面積を削減することができる。
【0043】
(第2の実施の形態)
図1の発振器1100において、第1トランジスタM1および第2トランジスタM2は、それぞれのドレインソース間に寄生容量Cds、Cdsを有する。この寄生容量Cdsは発振器1100の発振周波数を決定するリアクタンス成分に影響を与えるため、発振周波数が設計値よりも低くなると問題がしばしば発生する。
【0044】
また発振器1100を微細プロセスを用いて構成する際に、最小ゲート長を用いて第1トランジスタM1、第2トランジスタM2を設計すると、短チャンネル効果の影響により、寄生容量Cds、Cdsが変動し、位相ノイズが悪化するという問題がある。従来ではこの問題に対処するために、ゲート長を長くするという手法をとるのが一般的であったが、この対策はMOSFETの寄生容量の増加を招き、発振周波数の低下を引き起こす。そのため、従来CMOSプロセスで実現可能な発振周波数には制限があり、より高い周波数が必要な場合には、バイポーラトランジスタが用いられていた。
【0045】
第2の実施の形態では、CMOSプロセスを用いて、従来よりも高い周波数で発振可能な発振器200について説明する。
【0046】
図4は、第2の実施の形態に係る発振器200の構成を示す回路図である。発振器200は、図1の発振器1100に加えて、第1抵抗R1および第2抵抗R2をさらに備える。第1抵抗R1は、第1トランジスタM1のドレインと第1出力端子OUT1の間に設けられ、第2抵抗R2は、第2トランジスタM2のドレインと第2出力端子OUT2の間に設けられる。
【0047】
以上が発振器200の構成である。図5は、第1トランジスタM1および第1抵抗R1を示す図である。
【0048】
MOSFETのドレインソース間容量Cdsは、ゲートソース間容量Cgsおよびゲートドレイン間容量Cgdの合成容量で与えられる。
Cds=Cgd・Cgs/(Cgd+Cgs)
【0049】
第1トランジスタM1のドレインと直列に設けられた第1抵抗R1は、第1トランジスタM1の寄生容量Cdsとともにローパスフィルタを形成する。言い換えれば第1抵抗R1は、出力端子OUT1から第1トランジスタM1側を見たインピーダンス(リアクタンス成分)の変動を抑制するように作用する。
【0050】
第1出力端子OUT1から第1抵抗R1および第1トランジスタM1側を見たときの等価的なキャパシタ成分Capは、式(5)で与えられる。
Cap=Cds/(1+sCds・R) …(5)
s=2πf
【0051】
また第1出力端子OUT1から第1抵抗R1および第1トランジスタM1側をみたときのコンダクタンスgdsは、式(6)で与えられる。
gds=K/2×W/L・λ(Vgs−Vth)・{1−R(Vgs−Vth)} …(6)
λ:チャンネル長変調係数
W:ゲート幅
L:ゲート長
【0052】
図6は、第1抵抗の抵抗値Rに対するコンダクタンスgdsおよびキャパシタCapの関係を示す図である。図6では発振周波数f=3GHzとした計算結果である。図6からも確認できるように、抵抗値Rを大きくするほど、キャパシタ成分Capは小さくなる。すなわち、第1抵抗R1(R2)を設けることにより、出力端子OUT1(OUT2)から見たリアクタンス成分が減少するため、従来よりも発振周波数を高めることができる。
【0053】
一方、発振器200の発振条件は、gds>0である。したがって、発振器200を安定的に発振させるためには、
1>R(Vgs−Vth) …(7)
を満たす必要がある。図6では、R<200Ωの範囲において発振条件が満たされる。関係式(7)を満たす範囲において、第1抵抗R1、第2抵抗R2の抵抗値を大きくすることにより、発振周波数を高めることが可能である。
【0054】
さらに第1抵抗R1、第2抵抗R2を設けることにより、寄生容量Cds,Cdsの変動の影響が緩和されるため、周波数特性を維持したまま、位相ノイズを改善することができる。
【0055】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセス、それらの組み合わせには、さまざまな変形例が存在しうる。以下、こうした変形例について説明する。
【0056】
第1の実施の形態では、制限抵抗Rsを設ける場合を説明したが、本発明はそれに限定されない。電源電圧Vddを任意に調節可能な場合には、制限抵抗Rsを設ける代わりに、制限抵抗Rsの電圧降下に相当する量、電源電圧Vddを低下させることにより、図2の発振器100と等価的な回路を実現することができる。
【0057】
第1の実施の形態と第2の実施の形態は組み合わせることが可能である。すなわち、図2の発振器100において、第1抵抗R1および第2抵抗R2を追加することができる。この場合、第1、第2の実施の形態それぞれの効果を同時に得ることができる。
【0058】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0059】
100…発振器、10…クロスカップルドインバータ、M1…第1トランジスタ、M2…第2トランジスタ、12…電流源、OUT1…第1出力端子、OUT2…第2出力端子、C1…第1キャパシタ、C2…第2キャパシタ、L1…第1インダクタ、L2…第2インダクタ、Rs…制限抵抗、200…発振器、R1…第1抵抗、R2…第2抵抗。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2出力端子と、
電流源と、
前記電流源と前記第1出力端子の間に設けられた第1インダクタと、
前記電流源と前記第2出力端子の間に設けられた第2インダクタと、
前記第1出力端子と固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、
前記第2出力端子と前記固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、
MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1、第2トランジスタを含み、前記第1トランジスタのドレインが前記第1出力端子に、前記第2トランジスタのドレインが前記第2出力端子に接続されているクロスカップルドインバータと、
前記第1トランジスタと前記第2トランジスタの共通に接続されたソースと前記固定電圧端子の間に設けられた制限抵抗と、
を備えることを特徴とする発振器。
【請求項2】
前記クロスカップルドインバータは、
前記第1トランジスタのドレインと前記第1出力端子の間に設けられた第1抵抗と、
前記第2トランジスタのドレインと前記第2出力端子の間に設けられた第2抵抗と、
をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の発振器。
【請求項3】
MOSFETである第1、第2トランジスタを含むクロスカップルドインバータを備え、
発振動作中に、前記第1、第2トランジスタそれぞれのゲートソース間電圧Vgs1、Vgs2、ドレインソース間電圧Vds1、Vds2、ゲートソース間しきい値電圧Vth1、Vth2の間に、
Vds1≧Vgs1−Vth1
Vds2≧Vgs2−Vth2
なる関係が成り立つよう構成されることを特徴とする発振器。
【請求項4】
MOSFETである第1、第2トランジスタを含むクロスカップルドインバータと、
前記クロスカップルドインバータに電流を供給する電流源と、
を備え、
前記第1トランジスタは、発振動作中にそのゲートソース間電圧が最大値となるときに前記電流源からの電流よりも小さなドレイン電流が流れるように構成されており、
前記第2トランジスタは、発振動作中にそのゲートソース間電圧が最大値となるときに前記電流源からの電流よりも小さなドレイン電流が流れるように構成されていることを特徴とする発振器。
【請求項5】
第1、第2出力端子と、
その第1端子が前記第1出力端子に接続された第1インダクタと、
その第1端子が前記第2出力端子に接続され、その第2端子が前記第1インダクタの第2端子に接続された第2インダクタと、
前記第1、第2インダクタの共通に接続された前記第2端子と第1固定電圧端子の間に設けられた電流源と、
前記第1出力端子と第2固定電圧端子の間に設けられた第1キャパシタと、
前記第2出力端子と前記第2固定電圧端子の間に設けられた第2キャパシタと、
そのゲートが前記第2出力端子に接続され、そのソースが前記第2固定電圧端子に接続されたMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である第1トランジスタと、
そのゲートが前記第1出力端子に接続され、そのソースが前記第2固定電圧端子に接続されたMOSFETである第2トランジスタと、
前記第1トランジスタのドレインと前記第1出力端子の間に設けられた第1抵抗と、
前記第2トランジスタのドレインと前記第2出力端子の間に設けられた第2抵抗と、
を備えることを特徴とする発振器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−239285(P2011−239285A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110298(P2010−110298)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】