説明

発電設備の発電量低減方法、及び発電設備運用方法

【課題】ボイラに必要な最低限の給水量を確保しつつ、発電量をさらに低下させる方法を提供する。さらに電力系統全体の発電費用を抑制する方法を提供する。
【解決手段】ボイラ3、蒸気タービン7、復水器2及び発電機8を備える発電設備1の発電量を低減させる方法であって、該ボイラ3の必要最少限以上の給水流量を確保しつつ、該蒸気タービン7から排気される排気蒸気を冷却凝縮させ復水にする該復水器2内の真空度を低下させることで、該蒸気タービン7の仕事を減少させ、該発電設備1の発電量を低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭又は重油を燃料とし蒸気タービンを備える火力発電所の発電設備の発電量低減方法、及び発電設備運用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の運用に当たっては、電力需要予測に基づき、電力系統全体の発電コストが最小となるように、各発電機の運転停止計画が行われる。発電設備には、運用形態上、年間を通じて高負荷で運転され、毎日の負荷変動も少ないベースロード用発電設備、変動に対しては発電量を急速に可変できるピークロード用発電設備、その中間に位置するミドルロード用発電設備に大別され、これら発電設備を需要電力量に応じて適切に運用することで電力系統全体の発電コストを最少化している。一般的には、ベースロード用発電設備には原子力発電設備、ピークロード用発電設備には重油焚発電設備、ミドルロード用発電設備には石炭焚発電設備が使用されることが多い。
【0003】
電力系統の規模が大きくなると、発電機の台数は数十台から百台程度となり、発電設備の適切な運用計画を算出することは容易ではない。従来、発電機の起動停止順位は、発電機の定格出力における燃料費単価を基本に、発電機の起動停止順位を定められている場合があった。発電機の燃料費単価は、定格出力における燃料費単価が最も小さく、出力が低下するに従って増大するが、発電機の定格出力から最低出力までの燃料費単価の変化特性は発電機毎に異なっている。従って、発電機の定格出力における燃料費単価を基本に、発電機の起動停止順位を決定しただけでは発電費用を最少化する最適な組合せでない可能性があり、これを解決する方法として次のような発電計画作成方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の発電計画作成方法は、複数台の発電機に対し予め起動と停止の優先順位を定めておき、計画期間の電力需要予測値と予め定めた優先順位によって基準運転計画を作成した後に、複数台の発電機に対し予め定めた起動停止の優先順位を変更して運転計画を作成する。この方法は、複数台の発電機に対し予め定めた起動停止の優先順位を変更して運転計画を作成するようにしているので、予め定めた優先順位に基づき立案した基準運転計画よりも燃料費が安い、つまり発電費用の安い発電計画を求めることが可能となるとする。
【0005】
また燃料費の変動を考慮した合理的な発電設備の運用計画システムも開示されている(例えば特許文献2参照)。このシステムは、電力需要予測データと発電設備の種類及び性能等の発電設備データと発電設備の燃料価格データが記憶される記憶装置と、記憶装置から電力需要予測データと発電設備データと燃料価格データとを読み出して、対象期間における電力需要予測に対応して運用する発電設備の運用方式を検討し、その運用方式ごとの発電コストを算出する運用方式評価手段を構成するコンピュータとを備えるものである。さらにインターネット等を利用して燃料価格の変動をリアルタイムで記憶装置に取り込むようにすれば、為替の変動や社会情勢によって変化する燃料価格を反映した発電コストを算出することができ、合理的な発電設備の運用を計画することができるとする。
【特許文献1】特開2001−211548号公報
【特許文献2】特開2003−111275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、特許文献2に記載の技術は、発電費用を最少化する発電計画作成方法、装置の一つであるが、この方法が万全とは言えない。発電費用を最少化する基本的な考え方は、燃料費の高い発電設備をいかに運用するかにある。燃料費の高い発電設備を運用するに当たり、起動停止に要する時間、費用、あるいは電力需要の変動を考慮すれば、必ずしも燃料費の高い発電設備を停止することが電力系統全体の発電費用の最少化につながるとは限らない。燃料費の高い発電設備の最低負荷を可能な限り低下させる方が、発電設備を停止させる場合に比較して、電力系統全体の発電費用が低下する場合もある。
【0007】
発電設備の最低負荷を低下させる方法としては、ボイラでの蒸気発生量を低下させる方法などが考えられるが、貫流ボイラのように火炉水壁保護のために最低限の給水流量を流通させる必要がある場合においては、ボイラでの蒸気発生量の低下にも自ずと限度がある。ボイラに必要な最低限の給水量を確保しつつ、発電量をさらに低下させる技術は現在開発されておらず、これら技術の開発が待たれている。
【0008】
本発明の目的は、ボイラに必要な最低限の給水量を確保しつつ、発電量をさらに低下させる方法を提供することにある。さらに電力系統全体の発電費用を低減する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ボイラ、蒸気タービン、復水器及び発電機を備える発電設備の発電量を低減させる方法であって、
該ボイラの必要最少限以上の給水流量を確保しつつ、該蒸気タービンから排気される排気蒸気を冷却凝縮させ復水にする該復水器内の真空度を低下させることで、該蒸気タービンの仕事を減少させ、該発電設備の発電量を低減させることを特徴とする発電設備の発電量低減方法である。
【0010】
また本発明で、前記復水器内の真空度の低下は、前記復水器内を減圧にする減圧手段、前記復水器の冷却水量、又は前記復水器の冷却水温度のうち少なくともいずれか1を調整することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の発電設備の発電量低減方法である。
【0011】
また本発明は、請求項1又は2に記載の前記発電設備の発電量低減方法により、燃料費の高い前記発電設備の発電量を低減させ、燃料費の安い前記発電設備の発電量を増加させ、電力系統全体の発電費用を低減させることを特徴とする発電設備運用方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発電設備の発電量低減方法は、ボイラ、蒸気タービン、復水器及び発電機を備える発電設備の発電量を低減させる方法であって、ボイラの必要最少限以上の給水流量を確保しつつ、蒸気タービンから排気される排気蒸気を冷却凝縮させ復水にする復水器内の真空度を低下させることで、蒸気タービンの仕事を減少させ、発電設備の発電量を低減させるので、発電設備に支障を与えることなく発電量を低減させることができる。
【0013】
また本発明によれば、復水器内の真空度の低下は、復水器内を減圧にする減圧手段、復水器の冷却水量、又は復水器の冷却水温度のうち少なくともいずれか1を調整することにより行うので、復水器内の真空度の低下を簡単に行うことができる。また既存の発電設備にも容易に適用することができる。
【0014】
また本発明は、請求項1又は2に記載の発電設備の発電量低減方法により、燃料費の高い発電設備の発電量を低減させ、燃料費の安い発電設備の発電量を増加させ、電力系統全体の発電費用を低減させるので、簡単にまた発電系統に支障を与えることなく電力系統全体の発電費用を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は本発明の実施の一形態としての発電設備1の概略的構成を示す図である。図2は本発明の表面復水器2の概略的構造を示す図である。ボイラ3は、給水ポンプ4から高圧給水加熱器5を経由して給水を受け、また燃料供給装置(図示を省略)から燃料の供給を受け、燃料を燃焼させた燃焼熱を利用して蒸気を発生させる。ボイラ3で発生した蒸気は、蒸気配管6を通じて蒸気タービン7に送られ、蒸気タービン7は、蒸気を膨張させてタービンロータを回転させる。タービン軸は、被駆動機である発電機8と連結し、発電機8は蒸気タービン7のタービンロータの回転に伴い回転し、発電を行う。
【0016】
蒸気タービン7に送られ、タービン車室内でタービンロータを駆動し、膨張して圧力の低下した蒸気は、復水器2に導かれる。蒸気タービン7の排気蒸気口(図示を省略)と復水器の排気入口部9とが連結され、復水器2は排気蒸気を冷却凝縮し復水にする。復水は復水ポンプ31を介して低圧給水加熱器32に送られ温度を上昇させた後、給水ポンプ4でさらに昇圧され高圧給水加熱器5に送られる。給水は、高圧給水加熱器5でさらに温度を上昇させた後、ボイラ3へ送水される。また、燃料を燃焼させた後のボイラ3の燃焼排ガスは、排ガス処理装置(図示を省略)へ送られ、ここで無害化して煙突(図示を省略)から排出される。
【0017】
復水器2には、表面復水器と直接接触復水器とがあるが、発電設備1には一般に表面復水器が使用される。図2に示すように、表面復水器2は、本体胴10の上部に蒸気タービンの排気蒸気口(図示を省略)と連結する排気入口部9を有する。排気入口部9は、排気蒸気が流入する際の抵抗が大きくならないように、大きな開口面積を有する。本体胴10の両側部には、冷却管11に水を送るための水室12a、12bが設けられている。冷却管11は、両端を管板13a、13bで保持され、管板13a、13bは、本体胴10と水室12a、12bとの間に固定されている。また冷却管11は、管の中間部がささえ板14(14a、14b、14c、14d)によって保持されている。
【0018】
水室12aには冷却水を導入するための管路15、水室12bには冷却水を排出するための管路16が配設されている。管路15は、一端に冷却水導入弁17を有し、冷却水導入弁17は、管路18を介して冷却水供給ポンプ19と連結する。冷却水ポンプ19は、取水槽(図示を省略)から冷却用の海水を吸引し、管路18、管路15を通じて、水室12aに冷却水を供給する。冷却水を排水するための管路16は、一端に冷却水出口弁20を有し、冷却水出口弁20と接続する管路21を通じて、温度の高くなった冷却水を排出する。
【0019】
また管路15、21はともに分岐管22、23を有し、分岐管22、23はバイパス弁24を介して連絡する。よって、管路22、23及びバイパス弁24とで、復水器2の冷却水のバイパスラインを形成することができる。復水器2内には復水の温度を検出可能な温度検出器25が設けられており、バイパス弁24は、温度設定器(図示を省略)の設定と温度検出器25が検出する温度との偏差に応じた制御信号を制御装置(図示を省略)から受け、弁開度を変化させる。
【0020】
本体胴10の上部には、復水器2に流入する非凝縮性ガス(空気)を吸引し、復水器2内を真空に維持するための抽出管26が配設されている。抽出管26は空気抽出器27と連結し、空気抽出器27には、回転式ポンプ又はエゼクタが用いられる。また抽出管26は途中に分岐管28を有し、分岐管28には、外気を吸引する外気導入弁29が装着されている。また、復水器2内の上部には、復水器内2の真空度を検出可能な圧力検出器30が設けられており、外気導入弁29は、圧力設定器(図示を省略)の設定圧力と圧力検出器30が検出する真空度との偏差に応じた制御信号を制御装置(図示を省略)から受け、弁開度を変化させる。
【0021】
以上のように構成される発電設備1において、発電設備1の発電量を低減させるために復水器2内の真空度を低下(圧力を上昇)させる。復水器2内の真空度を低下させる方法としては、(1)復水器2内を減圧にする減圧手段である空気抽出器27を調整する。(2)復水器2へ供給する冷却水量を調整する。(3)復水器2へ供給する冷却水温度を調整する方法を用いることができる。これらのうち少なくともいずれか1の方法を用いることで、復水器2内の真空度を低下させることができる。
【0022】
空気抽出器27を調整して復水器2内の圧力を調整するには、空気抽出器27の抽出量を低下させることで復水器2内の真空度を低下させることができる。復水器2には蒸気タービン7から流入する排気蒸気のほか、非凝縮性ガス(空気)が混入するため、空気抽出器27の抽出量を低下させることで復水器2内の真空度を低下させることができる。
【0023】
また本実施形態においては、復水器2と空気抽出器27とを連絡する抽出管26の途中に、空気導入弁29を有するので、空気導入弁29を通じて抽出管26の途中に空気を導入することで、空気抽出器27の抽出量が増加し、結果的に復水器2内の真空度が低下する。空気導入量は、図示を省略した圧力設定器の設定圧力を上げる(設定真空度を下げる)ことで、空気導入弁29の弁開度が大きくなり、抽出管26に流入する空気(外気)量が増大する。
【0024】
復水器2内の真空度を低下させるには、復水器2へ供給する冷却水量を調整してもよい。復水器2への冷却水の供給は、冷却ポンプ19の吐出水を復水器2の水室12aに導くことで行われるので、復水器2の冷却水のバイパスラインのバイパス弁24に弁開度を大きくすることで、復水器2に導入される冷却水量が低下する。バイパス弁24の弁開度は、図示を省略した温度設定器の設定温度を上げることで、容易に大きくすることができる。
【0025】
復水器2は、蒸気タービン7から流入する排気蒸気と冷却水とで熱交換を行い、蒸気は復水となるので冷却水量が少ないほど熱交換量が低下し、復水の温度も上昇する。復水器2内の圧力は、復水の蒸気圧(分圧)と非凝縮性ガスの圧力(分圧)とで決まるため、復水の温度を上昇させることで、復水の飽和蒸気圧が上昇し、結果的に復水器2内の圧力が上昇する。
【0026】
復水器2へ供給する冷却水量を低減させることで復水器2内の真空度を低下させる代わりに、復水器2へ供給する冷却水温度を上昇させてもよい。復水器2の冷却水には取水口から取水する海水が使用され、熱交換を行った冷却水は放水口へ放水されため、冷却水温度は比較的一定温度となるが、熱交換を行い、温度を上昇させた冷却水の一部を取水槽(図示を省絡)へ戻すことで、冷却水温度を上昇させることができる。
【0027】
復水器2内の圧力と復水温度とは、密接に関係するので、復水温度を調整するに際し空気抽出器27の調整を行う必要がある。また上記に示した復水器2内の真空度を低下させる方法は、各々単独で実施することも可能であるが、これらを組み合わせてもよいことは当然である。なお、復水器2内の真空度を低下させる方法としては、復水器2の復水温度を調整させる方法が、非凝縮性ガス量が少なく腐食防止の観点から好ましい。
【0028】
復水器2の真空度を低下させると、蒸気タービン7での熱落差が減少し、タービンのなす仕事が減少する。また、復水器2の真空度を低下させることで、蒸気タービン7の背圧が上昇し蒸気の流れが悪くなり、タービンのなす仕事が減少する。このため蒸気タービン7へ供給する蒸気量を減少させることなく、発電量を低減させることができる。
【0029】
蒸気タービン7の仕事を減少させる方法としては、ボイラ3の蒸気発生量を低減させる方法が一般的であるが、蒸気発生量を低減させると、ボイラ3への給水量が低下してしまう。貫流ボイラのように火炉水壁保護のために最低限の給水流量を確保する必要がある場合においては、蒸気発生量を低減させることで発電設備の発電量を低減させることはできない。これに対して本発明のように復水器2内の真空度を低下させると、従来通りの蒸気量を蒸気タービン7へ送っても、蒸気タービン7の熱落差が減少し発電量は低下する。これによりボイラ3の最低給水量を確保しつつ、発電量を低減させることができる。
【0030】
上記のようにボイラの最低給水量を確保しつつ発電量を低減させる方法を、燃料費単価の高い重油焚発電設備に適用することで、燃料費単価の安い、例えば石炭焚発電設備の発電量を増加することが可能となり、油炭格差により発電系統全体の発電費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施の一形態としての発電設備1の概略的構成を示す図である。
【図2】図2は本発明の表面復水器2の概略的構造を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 発電設備
2 復水器
3 ボイラ
4 給水ポンプ
7 蒸気タービン
8 発電機
15 管路
24 バイパス弁
25 温度検出器
27 空気抽出器
29 空気導入弁
30 圧力検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ、蒸気タービン、復水器及び発電機を備える発電設備の発電量を低減させる方法であって、
該ボイラの必要最少限以上の給水流量を確保しつつ、該蒸気タービンから排気される排気蒸気を冷却凝縮させ復水にする該復水器内の真空度を低下させることで、該蒸気タービンの仕事を減少させ、該発電設備の発電量を低減させることを特徴とする発電設備の発電量低減方法。
【請求項2】
前記復水器内の真空度の低下は、前記復水器内を減圧にする減圧手段、前記復水器の冷却水量、又は前記復水器の冷却水温度のうち少なくともいずれか1を調整することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の発電設備の発電量低減方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記発電設備の発電量低減方法により、燃料費の高い前記発電設備の発電量を低減させ、燃料費の安い前記発電設備の発電量を増加させ、電力系統全体の発電費用を低減させることを特徴とする発電設備運用方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−49821(P2007−49821A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231650(P2005−231650)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】