説明

皮膚の加齢の治療における植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用。

皮膚の加齢の治療における植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用。本発明の分野は、加齢に付随する皮膚の不調を治療および/または予防するための化粧品、医薬品または栄養補給製品の調製を目的とする、植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、加齢に付随する皮膚の不調を治療および/または予防するための化粧品、医薬品または栄養補給製品の調製を目的とする、植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢は、器官の機能的異常の原因となる解剖学的および組織学的変化をもたらす、緩慢に進行し、そして不可逆的な、不可避的現象である。目に見える最初の兆候は、きめ、色、透明感の悪化およびシワの出現により皮膚組織レベルで表面化する。これらの表面化は、日光、タバコといったような外的因子によって促進され得る。
【0003】
加齢に関与するプロセスにおける酸素フリーラジカル(OFR)の重要性は、主要な理論の一つとして取り上げられている。
【0004】
皮膚のレベルで、OFRは、炎症性疾患および加齢の早期メディエーターとして記載されている(Kress M.et al. Pain 1995;62:87−94)。
【0005】
加齢の過程で、皮膚の全ての構造が変化する。しかしながら、根本的な悪化は、真皮内において顕著であり、その主たる標的そして主たる主体は線維芽細胞であり細胞外マトリクスである。線維芽細胞は、老化を開始することができる。その結果、その数は減少し、その機能は緩慢になり、その表現型が変化する。このとき、これらの線維芽細胞は、活発に真皮の細胞外マトリクスの分解に参与する。その上、老化の際に、線維芽細胞はその反応性を失い、その調節は変化する。実際、加齢は、環境ストレスに対する応答性の減少ひいては喪失に関連し、そのため感染性疾患、自己免疫疾患および癌の出現に関連することが認知されている(Gardner I.D.Rev.Infect.Dis.1980;2:801−10)。
【0006】
シワの出現は、加齢の最も早期の兆候の一つである。これは一部の人にとって、外部と自らの関係において深刻な問題を構成する。かくして今日、皮膚の加齢の治療を目的とする数多くの化粧品が、大衆が利用できる状態になっている。主としてこれらの専門製品は植物抽出物をベースとしている。
【0007】
国際植物命名規約において、Argania Spinosa(L.)Skellsとして知られているアルガンツリー(arganier)、より特定的には種子の仁は、特に化粧品産業によりそのより高い価値が見出された。
【0008】
アルガンツリーは、オリーブの木を思い起こさせる形態を有する高さ6〜10メートルの低くてどっしりとした木である。
【0009】
葉冠の形態はやや可変的であり、直立しているかまたは垂下している可能性がある。トゲのある小枝には、ごく小さな披針形で、交互の、狭く短い(約2cm)、往々にして束生であるまとまった葉がついている。
【0010】
アルガンツリーの葉は一般に宿存するが、ひどい干ばつの時期には落葉性となることがある。
【0011】
緑黄色の、両性花(同じ花に雄しべと雌しべがある)で5数性(花弁5枚、萼片5枚・・・)の花は、団集花序型の花序の形で結集している。五月から六月に花が咲く。
【0012】
アルガンツリーは、樹令5年以降に結実する。果実は、長さ4〜5cmの卵形で黄色の無柄の漿果である。漿果は、栗色の非常に硬い一種の「擬似核」を封じ込めた果肉の多い果皮(パルプ質とも呼ばれる)で形成されている。この要素は実際には、互いに固く結束し各々油を含んだ仁を封じ込めた平坦な2〜3個の種子で構成されている。最も価値の高い利用分野は、種子の仁に由来している。この仁は油を供給し、その後第二段階で搾りかすを供給する。
【0013】
種子に由来する油は、溶媒による油の獲得(仏国特許発明第2553788号明細書)、不鹸化物質が富化されたアルガン油の獲得(仏国特許発明第2724663号明細書)といったような複数の特許発明の対象となっている。
【0014】
油以外の物質も同様に特許の対象となっている。油の抽出後に得られる種子の搾りかすに由来するペプチドの場合がそれである。それは、皮膚の加齢に関連する障害の治療のための搾りかすのペプチドと油の組合せ(仏国特許発明第2756183号明細書)である。アルガンツリーの葉、搾りかすのタンパク質およびサポニンも同じく特許発明の対象となっている。すなわち、欧州特許第1213025号明細書は葉の抽出物に関するものであり、欧州特許第1213024号明細書は搾りかすのタンパク質を扱っており、欧州特許第1430900号明細書は搾りかすのサポニンを扱っている。
【0015】
アルガンツリーの果実パルプ質は、さらに最近、国際公開第2005/039610号パンフレットの対象となっている。
【0016】
アルガンツリーの果実は、擬似石果である。したがって、これは、パルプ質と呼ばれる果肉の多い果皮(果実の55〜75%)と、1〜3個の仁を収容するきわめて硬い殻を備えた核で構成されている。これらの後者から、油が抽出される。
【0017】
果実パルプ質は、化学的研究の対象となっている。パルプ質は、セルロース、グルコース、フルクトースおよびサッカロースを含む糖質で構成されている(Charrouf Z.Guillaume D., Ethnoeconomical, ethnomedical, and phytochemical study of Argania spinosa (L.) Skeels., Journal of Ethnopharmacology, 1999, 67, 1, 7−14 − Sandret F. G., Etudes preliminaires des glucides et du latex de la pulpe du fruit d’Argan (Argania spirosa):variation au cours de la maturation, Bulletin de la Societe de Chimie Biologique, 1957, 39, 5−6, 619−631)。パルプ質には脂質も同じく存在している。その含有率は6%である。これらの脂質の不鹸化性画分の中に、5つのトリテルペンアルコール、すなわちエリスロジオール、ルペオール、αおよびβ−アミリン、ベツリンアルデヒド、および2つのステロール、すなわちαスピノステロール(spinosterol)およびショッテノールが同定された(Charrouf Z.,Fkih−Tetouani S.,Charrouf M.,Mouchel B., Triterpenes et sterols extraits de la pulpe d’Argania spinosa, Plantes Medicinales et Phytotherapie,1991,25,2−3,112−117)。
【0018】
国際公開第2005/039610号パンフレットは、一般に、化粧品の調製のためのアルガンツリーの果実パルプ質ベースの組成物の利用に関するものである。果実のパルプ質の抽出物は、多少の差こそあれ精製されたものである。実際、発明者は、該方法の種々の段階において抽出物をテストしている。かくして、ヘキサンの抽出の後に得られる果実のパルプ質の抽出物の利用が優先的に記載されている(15頁)。当業者にとって既知である従来の鹸化段階の後、発明者は、かくして収集した不鹸化性画分をテストしている。最後に、発明者は、同様に、トリテルペンエリスロジオール化合物を除くことを注意しながらクロマトグラフィーによる不鹸化物質の分画段階を想定している。
【0019】
この論理は、おそらくは、エリスロジオールが単独で、当該文献中(38頁)に定義されている通りのトリテルペン画分、すなわち、エリスロジオールを含まない画分A、よりも低い用量で毒性をもつものとして提示されている(実施例1)という事実により特に得られた結果から導かれたものと考えられる。その上、エリスロジオール単独では、前記トリテルペン画分に比べて、UVAおよびUVBに関し凡庸な利点しか示さない(実施例3および4)。したがってこの文献の全般的教示は、化粧品の調製を目的とした、そして好ましくは線維芽細胞の代謝の刺激を介してのUVAおよびUVBによる攻撃を受けた皮膚の治療における、アルガンツリーの果実のパルプ質の抽出物のトリテルペン画分の利用に関する。より特定的に言うと、この文献は、エリスロジオールの量が少ないだけ、国際公開第2005/039610号パンフレットで開示された通りの前記トリテルペン画分の活性がより一層増大するということを教示している。
【0020】
驚くべきことに、また予期せぬことに、本発明の発明者は、エリスロジオールを富有するアルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物による、成熟した皮膚の線維芽細胞の老化の阻害効果を明らかにしており、前記抽出物は、従来の鹸化段階に続くアセトン抽出によって得ることができる。ただし、本発明の利点が、トリテルペン画分を有する植物パルプ質のあらゆる不鹸化性抽出物(その大部分の化合物における組成は、アルガンツリーの果実パルプ質に由来する組成に近い)に拡大され得ることは当然想定され得ることである。
【特許文献1】仏国特許発明第2756183号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/039610号パンフレット
【発明の開示】
【0021】
本発明は、皮膚の加齢に付随する皮膚の不調を予防および/または治療するための化粧品、医薬品または栄養補給製品の調製を目的とした、トリテルペン画分を含む植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用に関するものであり、前記トリテルペン画分がエリスロジオール、α−アミリン、β−アミリンおよびルペオールを含むことを特徴とする。好ましくは、前記抽出物は、従来の鹸化段階に続くアセトン抽出によって得られる。
【0022】
初期不鹸化物質とも呼ばれるこの不鹸化性抽出物は、その製剤を容易にするため賦形剤中で可溶化され得る。
【0023】
好ましくは、前記抽出物は、アカテツ科の中から選択された植物から得られ、さらに一層好ましくは、前記抽出物はアルガンツリーの果実パルプ質から得られる。
【0024】
アセトン抽出の利点は、脂質画分のきわめて大部分を占め、かつ脂質画分における不鹸化性物質にさらに濃縮され得るラテックスをなくすことができるという点にある。
【0025】
本発明に従った不鹸化物質の組成は、国際公開第2005/039610号パンフレットの中で優先的に記載されたものと質的にも量的にも異なっている。
【0026】
本発明に従った抽出物は、そのトリテルペン物質の含有量を特徴としている。この物質は、β−アミリン、エリスロジオールを同定することができる、従来の適切な方法に従ったガスクロマトグラフィーによって分析可能である。これに対して、α−アミリンおよびルペオールは、この方法によっては分離されず、これらの分子はこのとき一般的に定量され得る。
【0027】
有利には、前記抽出物のトリテルペン画分は、初期不鹸化物質の約7%〜約40%の間に含まれる質量分率をもつエリスロジオール、初期不鹸化物質の約5%〜約30%の間に含まれる質量分率をもつβ−アミリン、二つの質量分率の合計が初期不鹸化物質の約10%〜約50%の間に含まれるα−アミリンおよびルペオールで構成されている。
【0028】
有利には、エリスロジオールの前記質量分率は、初期不鹸化物質の約10%〜約20%の間に含まれ、さらに一層有利には、初期不鹸化物質の約15%に等しい。
【0029】
有利には、β−アミリンの前記質量分率は初期不鹸化物質の約7%〜約20%の間に含まれ、さらに一層有利には、初期不鹸化物質の約10%に等しい。
【0030】
有利には、α−アミリンおよびルペオールの前記質量分率の合計は、初期不鹸化物質の約15%〜約30%の間に含まれ、さらに一層有利には、初期不鹸化物質の約20%に等しい。
【0031】
これらの種々の分子の含有率は、抽出条件により左右される。これらの値は、初期不鹸化物質に添加される単数または複数の賦形剤に応じて、化粧品、医薬品または栄養補給製品においてより小さいものとなるだろう。
【0032】
本発明の注目すべき点は、本発明に従った不鹸化性抽出物の抗加齢特性におけるエリスロジオールの大きな寄与にある。OFRは皮膚の加齢プロセスにおいて重要な役割を果たすことから、エリスロジオールの抗ラジカル(抗−OFR)効果を、本発明に従ったアルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化物質と比較して評価した。
【0033】
細胞内部でOFRにより生み出されるダメージは、原形質膜の脂質成分の改変(過酸化脂質)、タンパク質の改変(変性および分解)および遺伝物質またはDNAの改変(突然変異)という形で現れる。インビトロで行われた試験は、次のものの判定に関するものであった。
− 膜脂質の酸化に対するエリスロジオールおよび不鹸化性抽出物による保護の有効性(実施例3)
− および、ゲノムDNAの改変に関するエリスロジオールおよびその他のトリテルピン分子(ルペオール、αおよびβ−アミリン)の保護能(実施例4)。
【0034】
これらの試験から、エリスロジオールが大きな抗酸化潜在力を有する分子であることを明らかにすることができた。
【0035】
本発明の特定の一実施形態においては、抽出を以下のように実施することができる。すなわち、乾燥させたアルガンツリーの果実パルプ質を粉砕し、その後アセトンで抽出する。同様にアセトン−水混合物を利用することも可能である。抽出は、室温から沸とう温度まで変動する溶媒温度で、30分〜24時間に至るまでの持続時間にわたり、1/2〜1/20まで変動し得る植物/溶媒比で、攪拌下でまたは静的に行なわれる。
【0036】
ひとたび抽出されたならば、植物の固体残渣はろ過または遠心分離により抽出溶液から分離される。溶液は、乾燥した抽出物が得られるまで、多少の差こそあれ濃縮され得る。この後者の場合、乾燥した物質をアルコール中で可溶化して、鹸化できるようにすることができる。
【0037】
この溶液に対し、金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムが0.1Nから10Nまで変動する濃度で添加される。鹸化は、室温から沸とうまで変動する温度で、攪拌下で、かつ温度に応じて15分〜48時間で変動する持続時間にわたり行われる。
【0038】
精製は、液体/液体抽出によって行われる。このとき、加水分解媒質に対し、塩〔NaCl、(NH42SO4〕で飽和したまたは飽和していない、3〜9で変動するpHに調整された水であり得る非混和性溶媒を添加する。この溶媒は、酸化エーテル、エステル、アルカン、ハロゲン化炭化水素、またはこれらの溶媒の混合物であり得る。1回または連続する2回あるいは3回の液体/液体抽出が実施される。有機相は集められ、次に3〜9で変動するpHの、塩で飽和したまたは飽和していない水で洗浄される。この洗浄段階は何度も繰り返し行うことができる。
【0039】
精製の後、有機相は、溶媒を除去するために処理される。この処理は、圧力を制御しながらの蒸発によって実施可能である。蒸発段階は、多少の差こそあれろう質の脂質粘稠性をもつ生成物、すなわち初期不鹸化物質を導くことができる。
【0040】
動物性ろう(例えば蜜ろう)または植物性ろう(カルナウバろう、カンデリラろう、またはホホバろう)、植物性油(トウモロコシ、ベニバナ、ゴマ、アルガン・・・)、グリセリン、ワセリン油のような合成製品、ポリオール(例えばプロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセロール・・・)、エステル化したトリグリセリド(例えばミグリオール812、ミリトール(myritol)318、ネオビー(neobee)MJ)、H(OCH2−CHCH3nOHという構造式のオキシプロピレン重合体またはH(OCH2−CH2nOHという構造式のオキシエチレン重合体、C1〜C40の様々な長さの脂肪アルコールのジエステルであり得る賦形剤を添加することができる。アルガンツリーの果実パルプ質の初期不鹸化物質と賦形剤の割合は、1/99から99/1まで変動し得る。
【0041】
有利にも、本発明は、適正な原価で抗加齢治療における果実パルプ質の活用を可能にする。不鹸化性抽出物は、非常にコストの高い補足的な精製段階を行うことなく利用される。したがって本発明に従った組成物は、当業者にとって既知の従来の抽出段階および鹸化段階を介入させる方法を用いて得ることができる。
【0042】
本発明に従った植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用により、皮膚のきめ、色、透明感の悪化およびシワの出現により表面化する皮膚の不調を予防および/または治療することが可能である。
【0043】
本発明の特定の一実施形態においては、皮膚の障害は、特に日光またはタバコによってひき起こされる環境ストレスに対する応答性の減少または喪失の結果として生じる。
【0044】
本発明の他の特定の一実施形態においては、皮膚の障害は、タンパク質HSP72の誘導性の減少または喪失の結果として生じる。「熱ショックタンパク質」を意味するタンパク質HSPは、数多くの細胞中で構成的に発現され、タンパク質の維持において不可欠な機能を有し、ここから「シャペロン」タンパク質というその名称が生まれている。実際、これらのタンパク質は、変性タンパク質の凝集を阻害し、タンパク質の不適切な会合を妨げ、一部のタンパク質の細胞内輸送および不活性形態での維持に関与する(Morris S.D.Clin. Exp.Dermatol.2002;27:220−224)。HSPは同様に、ストレスに対する応答性、特に適応応答を機能させる細胞保護プロセスにおいて主要な役割を果たす(Maytin E.V.J.Invest.Dermatol.1995;104:448−55)。
【0045】
予期せぬことに、本発明に従った抽出物の利用は、老化した線維芽細胞内のタンパク質HSP72の誘導を回復させることができる。
【0046】
本発明の枠内で、本発明に従った抽出物を含む化粧品、医薬品または栄養補給製品は、経口的または局所的に、好ましくは局所的に投与される。
【0047】
局所的な投与のためには、製剤形態は、クリーム、ジェル、軟こうおよびスプレーを含む群から選択される。
【0048】
有利には、経口用の形態は、経口摂取懸濁液用の粉末、ゲルおよび錠剤を含む群から選択される。
【0049】
有利なことに、最終的な化粧品中の前記抽出物の量は、調製物の総重量の、約0.001重量%〜約50重量%の間、好ましくは約0.01重量%〜約10重量%の間、そしてさらに一層好ましくは約0.1重量%〜約2重量%の間に含まれている。
【0050】
さらに、該調製物は、皮膚の加齢に付随する皮膚の不調の治療および/または予防のための、当業者にとって周知のその他の有効成分を含有することができる。有利には、前記調製物は、例えば種子の仁から得られる油および搾りかすのペプチドといったような、その「アンチエイジ」作用で知られているアルガンツリー由来のその他の物質を含有する。
【0051】
本発明に従った組成物の下記の例は、制限的意味のない例示を目的として示されている。百分率は、組成物の総重量との関係における重量で示されている。
【実施例1】
【0052】
たるみ防止フェイシャルケア
− アルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物 0.1〜2%
− 濃縮アルガン油 1〜5%
− アルガンツリーのペプチド 0.1〜1%
− ビタミンE誘導体 0.1〜0.5%
− ビタミンFグリセリンエステル 0.1〜0.5%
− ビタミンAパルミチン酸塩 0.1〜1%
− ステアリン酸メチルグルコース 1〜5%
− カプリン酸カプリル酸トリグリセリド 2〜8%
− 液体パラフィン 5〜12%
− 香料 充分量
− 精製水 100g充分量
【0053】
以下の実施例は、本発明を、その範囲を制限することなく例示している。
【実施例2】
【0054】
アルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物の獲得方法
乾燥したアルガンツリーの果実パルプ質1トンを粉砕し、その後5トンのアセトンにより反応装置内で抽出する。抽出は、還流にて1時間攪拌下で行う。ひとたび冷却したら、溶液をろ過で回収し、その後、脱溶媒した油性抽出物が得られるまで真空下で濃縮する。この残渣を、95%v/vのエタノール500l中に回収する。ここに10Nの水酸化ナトリウム溶液100lを添加し、1時間攪拌下で還流に付す。
【0055】
冷却後、加水分解した溶液を、デカンタ内に置き、これに500lのヘプタンおよび300lの水を添加する。液体/液体抽出は入念に行う。デカンテーションの後、有機相を回収する。500lのヘプタンで新たに2回の抽出を反復する。3回のヘプタン相を統合し、毎回500lの水で3回洗浄する。洗浄した有機相を脱溶媒する。かくしてろう質ペーストを回収する。初期不鹸化物質に対応するこの抽出物を、そのトリテルペン物質含有量について定量する。これは10%のβアミリン、15%のエリスロジオールおよび20%のルペオール−α−アミリン混合物を含有する。
【実施例3】
【0056】
エリスロジオールの抗ラジカル効果の分析−脂質の過酸化の分析
1)序論
原形質膜は、OFRの主要かつ最初の目標物を構成しており、脂質を富有することから、過酸化が増大している部位である(Girotti A.W.J.Free Radic.Biol.Med.1985;1:87−95)。この脂質酸化の過程で生成された過酸化物は、非常に反応性が強く、タンパク質材料およびゲノム材料を劣化させる能力をもつものでもある。
【0057】
膜の改変を評価する目的で、本発明の発明者は、脂質の酸化生成物とチオバルビツール酸との間の複合体のインビトロでの定量により脂質の過酸化を測定した。これらの複合体は、TBARS(チオバルビツール酸反応性物質(Thiobarkituric Acid Reactive Suhstances)の略)と呼ばれ、この試験に「TBARS試験」という名称を与えている。
【0058】
化学的酸化ストレスを模倣するため、過酸化水素(H22)と鉄(Fe2+/Fe3+)から成る錯体により線維芽細胞系L929を処理し、かくしてOFRそしてより特定的にはヒドロキシルラジカル(OH○)の供給源であるフェントン反応(Vessey D.A.et al J.Invest.Dermatol.1992;99:859−63)すなわち、H22+Fe2+→OH○+OH-+Fe3+を再構築した。
【0059】
2)手順
○テスト対象生成物:
マウスの線維芽細胞系L929について生成物を評価した。16時間異なる濃度の生成物で細胞を前処理し(表1)、次に1時間、錯体H22−Fe2+/Fe3+で刺激する。アルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物のロットLK0304を実施例2にしたがって調製した。
【0060】
【表1】

【0061】
膜脂質の過酸化を、TBARSを測定することで分析する(Morliere P.et al Biochim.Biophys.Acta.1991;1084:261−268に従う)。
【0062】
○テストの原理
酸性媒質内で95℃で、脂質酸化生成物(マロンジアルデヒドつまりMDA)とチオバルビツール酸(TBA)との間の複合体(Thio Barbituric Acid Reactive Substanceを略してTBARSと記される)が形成され、その蛍光はMDAでの範囲と比較して定量することができる。このとき、TBARSの量はタンパク質1μgあたりのpmol単位で表される。タンパク質とTBARSは細胞内媒質の中で定量される。
【0063】
○細胞膜の保護の百分率の計算
タンパク質1μgあたりのpmolで表されたTBARSの計算に基づき、以下の通り、膜脂質の酸化に対する種々の生成物の保護効率を計算した。
【数1】

【0064】
3)結果−論述
テストすべきさまざまな生成物を用いた16時間の処理の後、この実験(フェントン反応)において利用されたラジカルストレスのモデルは、線維芽細胞L929内に脂質の大きな過酸化を誘導する。したがってヒドロキシルラジカルOH○のこの大量放出は、細胞レベル、特に膜レベルで酸化ストレスを生成する。しかしながら、このタイプの酸化反応においては、脂質の過酸化に由来する生成物は細胞内に内在化し、このときTBARSは細胞内媒質中で定量される。
【0065】
得られた結果は、下の表2に提示されている。
【表2】

【0066】
抗ラジカルの基準分子を構成するビタミンEは、錯体H22−Fe2+/Fe3+により誘導される脂質の過酸化を低下させ、細胞膜をきわめて効率良く保護する(約56%)。
【0067】
実施例2にしたがって調製されたアルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物は、1および3μg/mlの濃度で抗ラジカル活性を示す(それぞれ30および37%の脂質膜保護)。
【0068】
不鹸化性抽出物のトリテルペン画分内に含まれる分子であるエリスロジオールは、優れた抗酸化活性を示し、その効果は用量により左右される。エリスロジオールは、0.3μg/ml以降活性となる(33%の保護)。3μg/mlでのエリスロジオールの抗ラジカル効果は非常に大きく、ビタミンEに匹敵する。
【0069】
4) 結論
この研究で提示されたインビトロのモデルは、原形質膜である主要な細胞標的に対する大きな酸化ストレスに起因する結果を反映している。かくして、脂質の過酸化の定量は、酸化ストレスの優れたマーカーであり、細胞膜レベルにおける有効成分のヒドロキシルラジカルに対する抗酸化作用の評価を可能にする。
【0070】
抗酸化分子であるビタミンEにより、このモデルの有効性を確認することができる。
【0071】
これらの実験条件下で、エリスロジオールを含有する本発明に従った抽出物ならびにエリスロジオール自体が大きな抗酸化潜在力を有するということが観察された。
【実施例4】
【0072】
エリスロジオールの抗ラジカル効果の分析−ゲノム機能障害の分析
1)序論
DNAは、塩基の変化(酸化、ニトロ化、脱アミノ化:Guetens G.et al Clin.Lab.Sci.2002;39:331−457)、鎖の破壊(脱塩基部位またはβ−脱離)およびDNA−タンパク質またはDNA−ヒドロペルオキシド架橋の形成を誘導するOFRの標的である。ゲノム材料の改変は、修復機構の誘導に至る細胞反応のカスケード(複製フォークの阻害、主要タンパク質の活性化、細胞周期の停止)を誘導する。かくして、酸化ストレスによって変化した塩基は大部分が、塩基修復系つまりBER(Base Excision Repair(塩基除去修復)の略)により引受けられる。(Friedberg E.C.et al.DNA repair and mutagenesis,ASMPress;Washington DC 1995)。この系は、次の三つの主要な段階にしたがって迅速かつ効率良く作用する。
1−改変した塩基の認識、
2−損傷部分の切断および除去、
3−切れ目の再合成。
【0073】
OFRは、細胞防御系および細胞修復系が飽和され得るような量で産生され得る。アポトーシスのエフェクターが活性化されると、ダメージを受けた細胞は死滅する。しかしながら、DNAにおける損傷が修復不良である場合、有害な突然変異が発生する可能性があり、このときこれらの突然変異は、発癌開始段階に関与する。このような理由から、酸化ストレスの生物学的影響(死亡率または突然変異誘発)が、加齢および癌といったようなより長期の事象を条件づけする。
【0074】
数多くの研究が、細胞の高分子レベルでの酸化によるダメージの進行性で不可逆性の蓄積と加齢との間の強い相関関係を実証している。複数の研究班が、げっ歯類において、皮膚のような種々の組織中で測定された8−オキソグアニンの比率が年令と共に増大するということを実証している(Tahara S. et al. Mech. Ageing Dev. 2001;122:415−426)。ヒトにおける骨格筋についてのMecocci P.ら(Free Radic.Biol.Med.1999;26:303−8)の研究は、DNA上または脂質上の酸化による損傷が年令と共に蓄積することを実証している。同じチームは同様に、アルツハイマー病を患う対象において、リンパ球のDNAにおける酸化された塩基の比率および血漿中の抗酸化物質の比率が、それぞれ、健康な対象における場合に比べ有意により高いおよびより低いものであることを示した(Mecocci P. et al. Arch. Neurol.2002;59:794−8)。
【0075】
2)目的
実施例3に続いて、また、もう一つのモデルについてのエリスロジオールの抗ラジカル活性を制御する目的で、本発明の発明者は、アルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物および前記抽出物内に同様に含有されているその他のトリテルペン分子と比較して、酸化ストレスにより誘導されるゲノムDNAの改変に対するエリスロジオールの保護能を分析した。
【0076】
発明者は同様に、H22ストレスによりDNAにて損傷を生成し、修復反応を分析することによりかくして形成されたダメージを間接的に分析することを選択した。このために、DNA Damage Detection(DNAダメージ検出)を略して3Dテストと呼ばれるキットが使用された。この生化学的試験は、切除による修復反応をインビトロで模倣する(Salles B. et al Anal.Biochem.1995;232:37−42およびSalles B. et al Biochimie 1999;81:53−58)。3Dテストは、精製されたヒト細胞抽出物を用いてDNAの損傷を修復することを基礎としている。修復段階中に、DNAにマーカーが取込まれ、修復された損傷の数の量的反映であるこの取込みは次にケミルミネッセンスにより顕示される。
【0077】
3)手順
○テスト対象生成物
マウス線維芽細胞系L929について複数の生成物を評価した。細胞を16時間生成物(表3)で前処理し、その後30分間100μMのH22(過酸化水素3%−Ref.GIFRER−Laboratoire Gifrer Barbezat)を用いて刺激する。
【0078】
【表3】

【0079】
○3Dテスト
原理は以下の通りである:ゲノムDNAにダメージを与えた後(酸化処理)、細胞を溶解させる。細胞溶解産物をポリリシンがコーティングされたマイクロプレート上に被着させる:
1−DNAの吸着。
2−タンパク質抽出物(修復酵素が富化されたもの)およびビオチンでヌクレオチドが標識されているヌクレオチドプール(dUTP−ビオチン)を用いたDNAのインキュベーション − 損傷の修復および標識されたヌクレオチド「dUTP−ビオチン」のDNA内への取込み。
3−酵素複合体「アビジン−ペルオキシダーゼ」でのインキュベーション − 取込まれたdUTP−ビオチンのアビジンによる認識。
4−ペルオキシダーゼの発光基質の添加および修復された損傷の数に比例した発光シグナルの定量化。
【0080】
テストの実施手順はキット供給業者(Test 3D Solyscel−Ref:SFRIDN013−AES Laboratoire)の使用説明書に従う。反応の終りで、プレートをルミノメーター(MITHRAS LB940−BERTHOLD)で読みとる。
【0081】
○DNAの保護の百分率の計算
以下の報告により、テスト対象生成物の各濃度について、酸化ストレスによるDNA上の損傷の誘導に対する保護%を計算することができる(発光強度、つまりLIはDNAの損傷の量を表す)。
【数2】

【0082】
4)結果と結論
実施例3で得られた結果は、エリスロジオールが3μg/ml(6.78μM)で最も強い抗ラジカル活性を示すことを実証した。このような理由から、発明者は、全てのトリテルペン(ルペオール、α−アミリン、β−アミリン、およびエリスロジオール)およびアルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物を3D「DNA Damage Detection、(DNAダメージ検出)」テストで3μg/mlでテストすることを選択した。前記不鹸化性抽出物は、実施例2の方法にしたがって得られたものである。得られた結果は、下の表4中に示されている。この表中に記された値は、「基本対照」細胞(100%)および「H22ストレス」細胞(0%)との関係における、外因性酸化ストレスの後のDNAにおける損傷の阻害の百分率(または保護%)である。
【0083】
【表4】

【0084】
22による処理は、特に8−オキソ−7,8−ジヒドロ−2’−デオキシグアノシン(8−オキソグアニン)の形成を伴って、グアニンのレベルでの高い酸化率を誘導する(Dizdaroglu M et al.Arch.Biochem.Biophys.1991;285:388−390)。3Dテストは、H22の処理後に発光の大幅な増大を示し、これは強い修復活性ひいてはDNA上のダメージを受けた塩基の大きな比率を反映している。
【0085】
アルガンツリーの果実パルプ質の不鹸化性抽出物は、酸化ストレスに対してDNAを効率よく保護する。
【0086】
前記不鹸化性抽出物の中に含まれる分子、エリスロジオールは、3μg/mlで、酸化による損傷形成に対するDNAの99%の保護と共にきわめて優れた抗酸化活性を示す。
【0087】
等しいモル濃度の(約7μM)トリテルペン分子を比較すると、最も活性が強いのはエリスロジオールである。
【実施例5】
【0088】
タンパク質HSP72の誘導に対する本発明に従った不鹸化性抽出物の効果のインビトロでの研究モデル
1)参考文献
種々の研究作業が、加齢に際してのタンパク質HSP72の誘導性の喪失を実証してきた。高齢患者においては、熱によるタンパク質HSP72の誘導は、皮膚のレベルで大幅に減る(Muramatsu T.et al. Br. J. Dermatol. 1996;134:1035−1038)。一方、Gustmann−Conrad A.ら(Exp. Cell. Res. 1998;241:404−413)は、熱ストレスによるタンパク質HSP72の誘導が、若い対象の皮膚に由来する線維芽細胞に比べ高齢の対象の皮膚に由来する線維芽細胞において有意な形で減少しているということを実証した。この同じ研究の中で、HSP72の誘導レベルが、線維芽細胞(若い皮膚由来)において、すなわち細胞分裂中に老化した線維芽細胞系(IMR−90)において同様に減るということが実証されている。
【0089】
タンパク質HSPが新しいストレスに対し細胞を保護するようにタンパク質HSPをインビトロで誘導するには、最初の中程度のストレスで充分である(Morris S.d.et al.J.Clin.Invest.1996;97:706−12)。HSP72は、ケラチノサイトおよび皮膚の線維芽細胞の中で発現され、ストレスをひき起こす数多くの作用物質(熱、UV)により誘導可能な、HSP70ファミリーの大多数を占めるタンパク質である(Trautinger F.et al.J.Invest.Dermatol.1993;101:334−38;Charveron M.et al.Cell.Biol.Toxicol.1995;11:161−65)。
【0090】
2)実験手順
本発明の発明者は、実施例2にしたがって調製された、つまり10%のβアミリン、15%のエリスロジオールおよび20%のルペオール−αアミリン混合物を含有するアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物の「アンチエイジ」特性を評価するべく、老化の際の線維芽細胞IMR−90(線維芽細胞系)内のタンパク質HSP72の熱ストレスによる誘導レベルを分析することを選択した。
【0091】
最初の段階では、発明者は、酸化ストレスにより線維芽細胞の老化を誘導することにより細胞加齢モデルを確立し有効性を確認した。
【0092】
−誘導された老化のモデル
線維芽細胞は、複製老化と呼ばれ細胞の加齢と同一視される臨界期に至るまで分裂する。しかしながら、老化は同様に特に酸化ストレスによっても誘導され得、これは「ストレス誘導性早期老化(Stress−Induced Premature Senescence)つまりSIPS」である(Dumont et al. Free Radic. Biol. Med. 2000;28:361−373)。
【0093】
使用モデル:H22で細胞を2時間処理することで、若い線維芽細胞系IMR−90における老化の誘導を明らかにした。このストレスから72時間後に、細胞IMR−90は老化状態となる。
【0094】
第二段階で、若い線維芽細胞に比べ老化した線維芽細胞において、熱ストレスに続くHSP72の誘導レベルの低下が示された。最終的に、実施例2にしたがって調製された、つまり10%のβ−アミリン、15%のエリスロジオールおよび20%のルペオール−αアミリン混合物を含有するアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物の特性がこの老化モデルについて評価された。
【0095】
3)結果
本発明は、添付図面を参考にして行われている以下の記載からより良く理解でき、かつその目的、利点および特徴がより明確になるものである。
【0096】
図1は、転写および翻訳レベルでの線維芽細胞IMR−90におけるHSP72の誘導率の分析を示す。
【0097】
図2は、本発明に従った種々の濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で処理された細胞IMR−90におけるタンパク質HSP72の比率のウェスタンブロットによる分析を示している。
【0098】
図3は、本発明に従った種々の濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で前処理された老化した線維芽細胞IMR−90における(β−アクチンの発現レベルによって標準化された)タンパク質HSP72の誘導率の半定量的分析を示している。
【0099】
線維芽細胞IMR−90の老化の過程における熱ストレスによるHSP72の誘導の分析:
37℃で培養された細胞は45℃で1時間インキュベートされ、その後2時間(mRNAの分析)または4時間(タンパク質分析)、37℃でインキュベートされる。
【0100】
*タンパク質の発現(ウェスタンブロット)
線維芽細胞から抽出された細胞内タンパク質を、抗−HSP72抗体(モノクローナル抗体、CHEMICON)および発光の間接可視化システムを用いて、ウェスタンブロット技術により分析した。膜を分析し、バンドの強度を密度計により定量化する(ソフトウェアImage Master Total Lab AMERSHAM)。HSP72の発現レベルを、構成的に発現されたタンパク質β−アクチンの発現レベルで正規化する。
【0101】
図1Aは、若いIMR−90(□)および老化したIMR−90(■)(H22により誘導された老化)におけるタンパク質HSP72の誘導率のウェスタンブロットによる半定量的分析を示している。かくして図1Aは、タンパク質HSP72の比率が若い線維芽細胞IMR−90において熱ストレスにより誘導されることを明確に示している。このHSP72の誘導は、老化した線維芽細胞IMR−90においては減少している。
【0102】
*mRNAの発現(リアルタイムPCR)
発明者は、リアルタイムPCR技術によりmRNAを定量化することにより転写レベルでのHSP72の発現を分析した。
【0103】
問題の遺伝子HSP72の発現レベルは、熱ストレスにより処理された試料および対照試料において計算される。HSP72遺伝子の発現レベルは次に、発現が構成的である三つの基準遺伝子〔β−アクチン、GAPDH(ヒトグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)およびYWHAZ(チロシン−3−モノオキシゲナーゼ、トリプトファン−5−モノオキシゲナーゼ活性化タンパク質ゼータポリペプチド)〕を用いて正規化される。
【0104】
最後に、対照試料における発現レベルを1に固定することにより、かくしてHSP72遺伝子の誘導係数を決定することが可能である。
【0105】
図1Bは、若いIMR−90(□)および老化したIMR−90(■)(H22により誘導された老化)におけるHSP72のmRNAの誘導率のリアルタイムPCRによる定量的分析を示している。図1Bは、HSP72のmRNAの誘導が、繊維芽細胞IMR−90の老化が誘導された際に同じく強く減少させられるということを明確に示している。
【0106】
アルガンツリーの果実パルプ質の抽出物の効能の分析:
本発明の発明者は、実施例2にしたがって調製されたアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物を評価するため、線維芽細胞系IMR−90での誘導性老化つまりSIPS(ストレス誘導性早期老化)モデルを利用した。
【0107】
細胞を24時間、1μg/mlおよび3μg/mlの濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物と共にインキュベートした。その後、これを、老化を誘導する酸化ストレスに付した。
【0108】
全ての処理を、「若い」細胞IMR90のロットおよびアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で前処理されていない「老化した」細胞(誘導性老化)ロットと比較した。
【0109】
酸化ストレスから3日(72時間)後に、HSP72を熱により誘導した。最終的にRNAおよびタンパク質HSP72をそれぞれリアルタイムPCRおよびウェスタンブロットによって分析した。
【0110】
図2は、実施例2にしたがって調製された種々の濃度の不鹸化性抽出物で処理された細胞IMR−90内のタンパク質HSP72の比率のウェスタンブロットによる分析を示している。「T」および「ST」という記載は、それぞれ「対照」および「熱ストレス」を意味する。分析A、B、C、Dはそれぞれに、若い線維芽細胞IMR−90、老化した線維芽細胞IMR−90(H22により誘導された老化)、1μg/mlの不鹸化性抽出物と共にインキュベートされた老化した線維芽細胞IMR−90、そして最後に、3μg/mlの不鹸化性抽出物と共にインキュベートされた老化した線維芽細胞IMR−90に関するものである。
【0111】
図3は、1μg/ml(C)および3μg/ml(D)の不鹸化性抽出物で前処理された老化した線維芽細胞IMR−90における(□−アクチンの発現レベルによって正規化された)タンパク質HSP72の誘導率の半定量的分析を示している。同じく表されているのは、若い線維芽細胞IMR−90(A)および老化した線維芽細胞IMR−90(B)(H22により誘導された老化)におけるタンパク質HSP72の誘導率である。
【0112】
これらの図2および図3は、老化状態となった線維芽細胞IMR−90においてタンパク質HSP72の誘導はもはや全く存在しないが、1μg/mlおよび3μg/mlの濃度でのアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物が熱ストレスによるHSP72の誘導を回復させることを示している。
【0113】
最後に、下表5は、種々の濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で前処理された老化した線維芽細胞におけるHSP72のmRNAの(正規化後の)誘導係数を示している。
【0114】
【表5】

【0115】
この表は、転写レベルで得られた結果を裏付けており、アルガンツリーの果実パルプ質の抽出物によるHSP72のmRNAの誘導のほぼ全面的な回復を示している。この抽出物の活性が最も高いのは、3μg/mlの濃度においてである。
【0116】
4)結論
タンパク質HSP72は、数多くのストレス(熱など・・・)により誘導可能なタンパク質であり、適応応答プロセスに強く関与している。皮膚のレベルおよびその他の組織におけるタンパク質HSP72の誘導性は、年令と共に、そして特に細胞の老化の際に減少することが認められている。その上、加齢が、年令に関連する疾病をひき起こす環境ストレスに対する応答性の減少に結びつけられるということが認められる。
【0117】
培養中の線維芽細胞内で誘導された老化のモデルから、発明者は、熱によるHSP72の誘導の減少を調整するアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物の能力を評価した。
【0118】
結果は全体として、一方では、若い線維芽細胞と比べ老化した線維芽細胞内ではHSP72の(熱ストレスによる)誘導の大幅な減少が存在することを確認している。他方では、これらの研究作業は、アルガンツリーの果実パルプ質の抽出物が、老化した線維芽細胞内でのタンパク質HSP72の誘導を回復させることを示している。このインビトロの研究モデルにおいては、アルガンツリーの果実パルプ質の抽出物は、細胞老化の生物学的な影響を制限し、したがって抗加齢特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】転写および翻訳レベルでの線維芽細胞IMR−90におけるHSP72の誘導率の分析を示す図。
【図2】本発明に従った種々の濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で処理された細胞IMR−90におけるタンパク質HSP72の比率のウェスタンブロットによる分析を示す図。
【図3】本発明に従った種々の濃度のアルガンツリーの果実パルプ質の抽出物で前処理された老化した線維芽細胞IMR−90における(β−アクチンの発現レベルによって標準化された)タンパク質HSP72の誘導率の半定量的分析を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の加齢に付随する皮膚の不調を予防および/または治療するための化粧品、医薬品または栄養補給製品の調製を目的とした、トリテルペン画分を含む植物パルプ質の不鹸化性抽出物の利用方法であって、前記トリテルペン画分がエリスロジオール、α−アミリン、β−アミリンおよびルペオールを含んで成り、エリスロジオールの量が不鹸化抽出物の7〜40重量%の間に含まれていることを特徴とする利用方法。
【請求項2】
β−アミリンの質量分率が不鹸化性抽出物の5%〜30%の間に含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項3】
α−アミリンとルペオールの質量分率の合計が不鹸化性抽出物の10%〜50%の間に含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項4】
最終化粧品中の前記抽出物の量が、調製物の総重量の0.001重量%〜50重量%の間、好ましくは0.01重量%〜10重量%の間、そしてさらに一層好ましくは0.1〜2重量%の間に含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項5】
前記抽出物がアカテツ科の植物の中から選択された植物から得られることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項6】
前記抽出物がアルガンツリー(arganier)の果実パルプ質から得られることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項7】
皮膚の不調が、皮膚のきめ、色、および透明感の悪化、またはシワの出現により表面化することを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項8】
皮膚の不調が環境ストレスに対する応答性の減少または喪失の結果として生じることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項9】
環境ストレスが日光、タバコによりひき起こされることを特徴とする、請求項8に記載の利用方法。
【請求項10】
皮膚の不調が、タンパク質HSP72の誘導性の減少または喪失の結果として生じることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項11】
化粧品、医薬品または栄養補給製品が、経口用または局所用の形態、好ましくは局所用の形態をとることを特徴とする、請求項1に記載の利用方法。
【請求項12】
局所用の形態がクリーム、ジェル、軟こう、およびスプレーを含む群の中から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の利用方法。
【請求項13】
経口用の形態が、経口摂取懸濁液用の粉末、ゲル、錠剤を含む群の中から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−522341(P2009−522341A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549036(P2008−549036)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際出願番号】PCT/FR2006/002908
【国際公開番号】WO2007/083006
【国際公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(508203552)
【氏名又は名称原語表記】PIERRE FABRE DERMO−COSMETIQUE
【Fターム(参考)】