説明

直流プラズマ用逆極性パルス発生回路及び直流プラズマ電源装置

【課題】サージ電圧を抑制し、スイッチング素子に印加される電圧を低減する。
【解決手段】直流電圧が入力される直流電圧端子間にコンデンサが接続され、コンデンサの一端と負荷端子の一方との間にインダクタンス手段が接続され、コンデンサに並列に単位スイッチング回路が接続される。単位スイッチング回路は、第1、第2のスイッチ素子、第1の巻線の直列回路と、第1、第2の帰還用整流素子と、電圧バランス用抵抗とを有する。直流電圧が設定値を越える場合は、コンデンサの両端電圧を非導通の第1、第2のスイッチ素子に分担させ、直流電圧が設定値よりも低い場合は、周期的又は随時に第1、第2のスイッチ素子を導通させて逆極性電圧を負荷端子間に出力させ、第1、2のスイッチ素子をターンオフさせる場合は、第1、第2の帰還用整流素子が導通する期間に、第1、第2のスイッチ素子の両端電圧がコンデンサの両端電圧で制限される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、直流プラズマ装置におけるアーク放電のような異常放電の発生を抑制又は予防するのに有効な逆極性電圧パルスを発生する直流プラズマ用逆極性パルス発生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空中で発生させたプラズマ放電を利用するスパッタ装置、PVD(Physical Vapor Deposition)装置、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置、エッチング装置などのような直流プラズマ装置においては、プラズマ負荷の電極間インピーダンスが低下したり、あるいは導電性のゴミなどの異物が電極間を短絡したりすることがある。このような場合には、プラズマ負荷の真空中に発生しているプラズマ放電が一時的にアーク放電のような異常放電になることがある。特に、スパッタ装置ではこのような異常放電が発生すると、ターゲットが溶融してスパッタリング中の液晶パネルなどの基板材料に欠陥を与えるために、あるいはCDやDVDにおける金属膜に欠陥を与えるために、製品の歩留まりを低下させるという問題がある。
【0003】
したがって、このような異常放電の発生をできるだけ抑制しなければならない。直流プラズマ装置における従来の異常放電対策方法の一つとして、異常放電の発生を検出したときに、プラズマ負荷に逆極性電圧パルスを印加することによって、異常放電を短時間で消滅させることが行われている。また、別の異常放電対策方法としては、周期的に上述のように逆極性電圧をプラズマ負荷に印加することによって、異常放電の発生を未然に防いでいるものもある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、他の異常放電対策方法として、異常放電が発生する直前の現象を異常放電の発生の予兆として検知し、異常放電の発生直前に前述のようにプラズマ負荷に逆極性電圧を印加することによって、異常放電の発生を未然に防いでいるものもある(例えば、特許文献2参照)。前述の異常放電対策方法は、発生した異常放電を速やかに消滅させ、あるいは異常放電が発生するのを予防することができるといった面から効果的である。
【0005】
このように、異常放電対策方法を実現するための構成が既にいろいろ提案されている。その中の一つの構成として、プラズマ負荷に流れる電流を安定化させるためのインダクタンス手段に磁気的に結合される付加的な巻線とその巻線に直列に逆極性電圧印加用スイッチ素子とを接続した回路が用いられている。この回路は、プラズマ負荷に異常放電が発生したときに、前記逆極性電圧印加用スイッチ素子を導通させて、インダクタンス手段に生じる負極性の電圧に比べて電圧値が大きくかつ逆極性の正の電圧パルスを前記インダクタンス手段に生じ、その逆極性の正の電圧を利用してプラズマ負荷に逆極性電圧パルスを印加することによって、異常放電を速やかに消滅させている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
直流プラズマ用電源の場合、プラズマ放電状態にあるときに直流プラズマ用電源が出力する直流電圧をVoとすると、プラズマ放電が生じる前(プラズマ着火前)はほぼ無負荷状態であり、プラズマ放電を発生させるのに必要な1.5〜1.8Voの直流高電圧を出力する。したがって、前掲の特許文献3の発明に限らず、異常放電対策方法に用いられる前記逆極性電圧印加用スイッチ素子は、最低でも1.5〜1.8Voの直流高電圧に耐える耐圧を有しなければならない。
【0007】
前掲の特許文献3の発明では、特別な逆極性電圧を与える電源を必要としないものの、前記インダクタンス手段をリセットするのに必要なリセット電圧に、そのインダクタンス手段の巻線間の漏れインダクタンスや配線インダクタンスに起因するサージ電圧が重畳される。このサージ電圧の影響を低減するためには、前記逆極性電圧印加用スイッチ素子に、十分な電流容量をもつ抵抗とコンデンサなどからなる電圧サージ吸収回路を並列に接続しなければならず、その電圧サージ吸収回路の電力損失が大きくなり、特に周期的に前記逆極性電圧印加用スイッチ素子をスイッチングさせる場合には、電圧サージ吸収回路の電力損失と発熱が増大するという問題がある。このような電圧サージ吸収回路を備えても、直流電圧Voの2.5〜3倍程度の直流高電圧を定格とする逆極性電圧印加用スイッチ素子が必要となる。
【0008】
一例として具体的な数値を挙げて説明すると、直流電圧Voが800Vの直流プラズマ装置の場合には、前述から2000〜2400Vの定格の逆極性電圧印加用スイッチ素子が必要となる。逆極性電圧印加用スイッチ素子としてIGBTを用い、市販の低価格で入手可能な定格電圧が1200VのIGBTを2個直列に接続して用いれば、全体として2400Vの耐圧を有する逆極性電圧印加用スイッチ素子が得られる。この2400Vの耐圧を有する逆極性電圧印加用スイッチ素子は、前述した1.5〜1.8Voの電圧に相当する1200〜1500V程度のプラズマ着火前の直流高電圧にも当然に耐えることができる。
【0009】
このようなIGBTを直列接続した構成の逆極性電圧印加用スイッチ素子は、経済的には優れているが、FETなどの高速の半導体スイッチ素子に比べて、スイッチング速度が遅い。したがって、IGBTを直列接続した構成の逆極性電圧印加用スイッチ素子は高周波の逆極性電圧パルスをプラズマ負荷に印加して異常放電の発生を予防する異常放電対策に用いるのは適さないという問題がある。他方、一般的にFETはIGBTに比べてスイッチング速度は高速であり、オン抵抗も小さいが、IGBTに比べて耐圧の低いものが多い。例えば、FETでも1200Vが定格電圧のものも市販されているが、このような高耐圧のFETは汎用の500〜600Vの耐圧のFETに比べてオン抵抗が高く、このような高耐圧のFETを2個直列接続することは、高いオン抵抗による電力損失が増大し、発熱も大きくなる。また、このような高耐圧のFETは汎用の500〜600Vの耐圧のFETに比べて、スイッチング速度が劣るなどの理由で、直流プラズマ用の逆極性電圧パルスを発生する用途には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−347212号公報
【特許文献2】特開2006−274393号公報
【特許文献3】特開平10−298755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
直流プラズマ装置のプラズマ負荷に逆極性の電圧を与える前述のような従来の回路構成にあっては、逆極性電圧印加用のスイッチ素子がターンオフする際に発生する高いサージ電圧を考慮して、高定格電圧の逆極性電圧印加用のスイッチ素子が必要であり、また、前述サージ電圧を吸収する大きな電圧サージ吸収回路が必要であった。さらに、電圧サージ吸収回路に吸収されるサージ電力は無駄に消費され、電圧サージ吸収回路の発熱を増大させるので、環境上、経済上から好ましくないものとなっていた。
【0012】
本発明は上述の課題に鑑み、逆極性電圧印加用のスイッチ素子のターンオフ時に発生するサージ電圧を小さくし、また、従来の回路構成の場合よりも逆極性電圧印加用のスイッチ素子に印加される電圧を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題を解決するために、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、プラズマ用の直流電源からの直流電圧が印加される一対の直流電圧端子と、前記プラズマに接続される一対の負荷端子と、前記一対の直流電圧端子間に接続されるコンデンサと、前記コンデンサの一端と前記負荷端子の一方との間に接続されるインダクタンス手段と、前記コンデンサに並列に接続される単位スイッチング回路と、前記一対の直流電圧端子の直流電圧が入力され、単位スイッチング回路内の第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子の導通を制御する制御回路と、を備え、前記単位スイッチング回路は、前記コンデンサに並列に接続される前記第1のスイッチ素子と前記インダクタンス手段の巻線又は前記インダクタンス手段に並列に接続される第2の巻線に対して磁気的に結合される第1の巻線と前記第2のスイッチ素子とを有する直列回路と、直列に接続される前記第1のスイッチ素子と前記第1の巻線とに並列に接続される第1の帰還用整流素子と、直列に接続される前記第2のスイッチ素子と前記第1の巻線とに並列に接続される第2の帰還用整流素子と、前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とに又は前記第1の帰還用整流素子と前記第2の帰還用整流素子とにそれぞれ並列に接続される電圧バランス用抵抗とを有し、前記一対の直流電圧端子間の直流電圧が設定値を越える場合は、前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とを導通させずに、前記コンデンサの両端電圧を前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とに分担させ、前記一対の直流電圧端子間の直流電圧が前記設定値よりも低い場合は、周期的に、又は異常放電の発生もしくは異常放電の発生の予知が検出されるときに前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とを導通させ、プラズマ発生状態における前記直流電圧端子間の直流電圧よりも大きな逆極性の電圧を前記インダクタンス手段に印加させて、前記プラズマ発生状態における直流電圧端子間の直流電圧と前記逆極性の電圧との差に相当する大きさの逆極性電圧を前記負荷端子間に出力させ、前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とをターンオフさせる場合は、前記第1の帰還用整流素子と前記第2の帰還用整流素子とが導通する期間に、前記第1のスイッチ素子の両端と前記第2のスイッチ素子の両端とに印加される電圧が、前記コンデンサの両端電圧で制限される。
【0014】
このような構成を採ることで、プラズマ着火前には、コンデンサの両端電圧が、逆極性電圧印加用のスイッチ素子のそれぞれに並列接続された前記電圧バランス用抵抗によって2分割されるので、それぞれの逆極性電圧印加用のスイッチ素子にはコンデンサの両端電圧のほぼ1/2の電圧が印加されるだけである。また、逆極性パルスを発生するために導通していた逆極性電圧印加用のスイッチ素子がターンオフするときには、帰還用ダイオードが導通して前記インダクタンス手段に蓄えられたエネルギーを前記コンデンサに帰還すると共に、逆極性電圧印加用のスイッチ素子の両端電圧が前記コンデンサの電圧に制限される。したがって、本発明では従来に比べてサージ電圧を大幅に小さくでき、逆極性電圧印加用のスイッチ素子のターンオフ時にその両端に印加される電圧も小さくできる。また、サージ電圧によるノイズも小さくできる。
【0015】
さらに、本発明によれば、定格電圧の低いスイッチング素子を用いることができることから、オン抵抗が小さく、かつスイッチング速度が優れているFET(電界効果トランジスタ)などの半導体スイッチを前記逆極性電圧印加用のスイッチ素子として用いることを可能にし、また、逆極性電圧パルスをプラズマ負荷に印加する周期を高周波化することができる。このことによって、従来に比べてプラズマ負荷への影響を極力小さくすると共に、アーク放電などの異常放電の発生をより確実に予防することができる。
【0016】
本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、前記インダクタンス手段と前記第1の巻線とは、同一の鉄心に巻かれるチョークトランスを構成する、又は、前記第1の巻線と前記第2の巻線とは、同一の鉄心に巻かれるパルストランスを構成してもよい。
【0017】
このような構成を採ることで、インダクタンス手段の鉄心に第1の巻線を巻きつけることによってチョークトランスとし、その第1の巻線をインダクタンス手段の巻線に磁気的に結合することにより、第1の巻線に誘起される電圧パルスでインダクタンス手段に逆極性電圧パルスを生じさせることができる。又は、パルストランスの2次巻線に生じる逆極性電圧パルスをインダクタ手段の両端に印加することができる。
【0018】
また、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、複数のコンデンサが前記一対の直流電圧端子間に互いに直列に接続され、前記複数のコンデンサのそれぞれに、複数の前記単位スイッチング回路がそれぞれ接続され、前記単位スイッチング回路のそれぞれの前記第1の巻線は、前記インダクタンス手段が有する鉄心に巻かれて磁気的に結合される、又は、前記インダクタンス手段に対して並列に接続されるそれぞれの前記第2の巻線と同一の鉄心に巻かれるパルストランスをそれぞれ構成してもよい。
【0019】
このような構成を採ることで、さらに、逆極性電圧印加用のスイッチング素子の耐圧を低くすることができ、また、サージ電圧を低減でき、ノイズも低減できるだけでなく、電力損失も低減できる。
【0020】
本発明に係る直流プラズマ電源装置は、上述したいずれかの直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を備える。このような構成を採ることで、上述の直流プラズマ用逆極性パルス発生回路と同様に、逆極性電圧印加用のスイッチング素子の耐圧を低くすることができ、また、サージ電圧を低減でき、ノイズも低減できるだけでなく、電力損失も低減できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、逆極性電圧印加用のスイッチ素子がターンオフするときには、逆極性電圧印加用スイッチ素子の両端の電圧をコンデンサの電圧にクランプするので、サージ電圧を小さくすることができ、サージ電圧によって生じる損失を低減できる。また、プラズマ放電の発生前であるプラズマ着火前には、コンデンサの電圧を逆極性電圧印加用のスイッチ素子のそれぞれに並列接続される電圧バランス用抵抗によって分担させるので、従来の回路構成の場合よりも、逆極性電圧印加用のスイッチ素子に印加される電圧を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る第1の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を示す図である。
【図2】本発明に係る第1の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を説明するための波形図である。
【図3】本発明に係る第2の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を示す図である。
【図4】本発明の第3の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を示す図である。
【図5】本発明の第4の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明のそれぞれの実施形態に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路について説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、同一の記号は同じ名称の部材を示すものとする。
【0024】
[実施形態1]
図1、図2によって、本発明の第1の実施形態に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路について説明する。図1は、本発明に係る第1の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を示す図である。本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、プラズマ負荷4がプラズマ発生状態にあるときにプラズマ用の直流電源1が直流電圧端子2、3間に出力する直流出力電圧(以下、直流電圧Voと言う。)に比べて電圧値が大きく、かつ逆極性の電圧パルスをインダクタンス手段9に、周期的に又は随時に発生するためのものであり、直流電圧端子2、3と負荷端子7、8との間に備えられる。
【0025】
図1に記載される直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、主にコンデンサ10、インダクタンス手段9、単位スイッチング回路17及び制御回路18で構成される。具体的には、図1に記載される直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、プラズマ用の直流電源からの直流電圧が印加される一対の直流電圧端子2、3と、プラズマ4に接続される一対の負荷端子7、8と、直流電圧端子2、3間に接続されるコンデンサ10と、コンデンサ10の一端と負荷端子の一方の端子8との間に接続されるインダクタンス手段9と、コンデンサ10に並列に接続される単位スイッチング回路17とを備える。さらに、一対の直流電圧端子2、3の直流電圧が入力され、単位スイッチング回路17内の第1のスイッチ素子11及び第2のスイッチ素子12の導通を制御する制御回路18を備える。単位スイッチング回路17は、コンデンサ10に並列に接続される第1のスイッチ素子11とインダクタンス手段9の巻線9Bに対して磁気的に結合される第1の巻線9Cと第2のスイッチ素子12とを有する直列回路を有する。また、直列に接続される第1のスイッチ素子11と第1の巻線9Cとに並列に接続される第1の帰還用整流素子13と、直列に接続される第2のスイッチ素子12と第1の巻線9Cとに並列に接続される第2の帰還用整流素子14とを有する。さらに、第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とに又は第1の帰還用整流素子13と第2の帰還用整流素子14とにそれぞれ並列に接続される電圧バランス用抵抗15、16とを有する。
【0026】
直流電源1は、商用電源のような交流電源からの交流電力を所望の直流電力に変換するDC−DCコンバータなどからなる直流電源であって、真空中でプラズマを発生させるのに適した電力を供給するプラズマ用の直流電源である。直流電源1は、正側の直流電圧端子2、負側の直流電圧端子3の両端に外付けで接続されるのであり、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路の必須の構成要素ではない。直流電源1は、例えばプラズマ着荷前の無負荷電圧1500V、定格プラズマ電圧の上限を800Vとする一般的な電圧仕様のものとする。直流電源1は、プラズマ着荷前は無負荷電圧を例えば1500Vに定電圧制御する。プラズマ着火後は、定電力制御又は定電流制御され、プラズマ負荷4に印加される負荷端子7、8間の電圧は、プラズマ負荷の条件によって決まることになる。よって、プラズマ負荷4がプラズマ発生状態にあるときに直流電圧端子2、3間に出力する直流電圧Voもプラズマ負荷の条件によって決まることになる。正側の直流電圧端子2、負側の直流電圧端子3は直流電源1からの直流電圧を受電する端子であり、直流電源1の直流出力端子であってもよい。
【0027】
真空中で発生させたプラズマを利用するプラズマ負荷4はチャンバー電極5とターゲット電極6などを有し、ここではスパッタ装置の一部分であるものとする。プラズマ負荷4のチャンバー電極5、ターゲット電極6はそれぞれ直流電圧や直流電圧とは逆極性の電圧を受電する負荷端子7、8に接続される。チャンバー電極5が接続される負荷端子7は、一般的に接地される。なお、このパルス発生回路を、直流電源1内の図示しない平滑コンデンサまたはインダクタンスを利用して直流電源1内に組み込むことができる。
【0028】
コンデンサ10は、一対の直流電圧端子2、3間に並列に接続される。一般的なプラズマ用の直流電源1では、図1のプラズマ用の直流電源1内の直流出力側、すなわち、一対の直流電圧端子2、3間に接続される側に、図示しない直流出力電圧を平滑化する平滑用のコンデンサを備える。その平滑用コンデンサを利用して、図1のコンデンサ10の場合と同様に、プラズマ用の直流電源1に備えられる図示しないコンデンサに並列に単位スイッチ回路17を接続して、図1のコンデンサ10と代替することができる。また、逆にコンデンサ10を前記平滑用コンデンサに代替することもできる。
【0029】
大きなインダクタンスを有するインダクタンス手段9は、プラズマ電流を安定化させるために、コンデンサ10の直流電圧端子3側の端子と負荷端子8との間に直列に接続される。実施形態1のインダクタンス手段9の鉄心9Aと鉄心9Aに巻かれた巻線9Bと第1の巻線9Cとでチョークトランスを構成する。インダクタンス手段9の巻線9B、第1の巻線9Cのそれぞれの一端に付された黒点は電圧極性を示す。第1の巻線9Cの巻数をn1、巻線9Bの巻数をn2とするとき、巻数比n2/n1は1より大きく(n2/n1>1)設定する。一般的にプラズマ用の直流電源1の場合、図1のプラズマ用の直流電源1内に、図示しない鉄心と鉄心に巻かれた一つの巻線とからなる一般的な構造のインダクタンス手段を備える。そのインダクタンス手段を利用して、図1のインダクタンス手段9の場合と同様に、プラズマ用の直流電源1に備えられる図示しないインダクタンス手段の鉄心に第1の巻線9Cを巻き付けて付加して、磁気的に結合したチョークトランス構造とし、図1のインダクタンス手段9と代替することができる。
【0030】
ここでは、単位スイッチング回路17は、図1において破線で示すように、インダクタンス手段9の鉄心9Aに巻かれた第1の巻線9C、第1、第2のスイッチ素子11、12、第1、第2の帰還用ダイオード13、14、及び第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16で構成される。単位スイッチング回路17は、第1、第2のスイッチ素子11、12が導通するときに第1の巻線9Cにパルス状電流を流し、このパルス電流によって第1の巻線9Cに磁気的に結合されているインダクタンス手段9の巻線9Bに逆極性電圧パルスを発生する。
【0031】
第1、第2のスイッチ素子11、12は、図1では、FET(電界効果トランジスタ)を用いて説明する。第1のスイッチ素子11と第1の巻線9Cと第2のスイッチ素子12とが直列に接続された直列回路が、コンデンサ10に並列に接続される。第1、第2のスイッチ素子11、12が導通すると、コンデンサ10の直流電圧端子2側の端子から第1のスイッチ素子11、第1の巻線9C、第2のスイッチ素子12、コンデンサ10の直流電圧端子3側の端子をつなぐ経路が形成され、第1の巻線9Cに図示黒点側を正とするコンデンサ10電圧が加わる。この電圧印加により巻線9Cにインダクタンス手段9の励電流が図示の矢印の方向に流れる。なお、第1、第2のスイッチ素子11、12は前述した逆極性電圧印加用スイッチ素子に相当するものであり、FETのようにスイッチング速度が大きく、オン抵抗の小さなものが好ましいが、IGBTなどのような他のスイッチ素子を用いることもできる。
【0032】
第1の帰還用整流素子である第1の帰還用ダイオード13は、互いに直列接続された第1のスイッチ素子11と第1の巻線9Cとに跨るよう並列接続され、第1の帰還用ダイオード13のアノードは第1の巻線9Cの非黒点側に接続される。第2の帰還用整流素子である第2の帰還用ダイオード14は、互いに直列接続された第2のスイッチ素子12と第1の巻線9Cとに跨るよう並列接続され、第2の帰還用ダイオード14のカソードは第1の巻線9Cの黒点側に接続される。第1、第2のスイッチ素子11、12がオフした後、第1の巻線9Cに図示の矢印の方向に流れていた励磁電流、または第1の巻線9C、インダクタンス手段9の巻線9B間のもれインダクタンスによるサージ電流により第1の帰還用ダイオード13と第2の帰還用ダイオード14とが導通すると、第1の巻線9C、第1の帰還用ダイオード13、コンデンサ10、第2の帰還用ダイオード14、第1の巻線9Cをつなぐ経路が形成され、第1、第2のスイッチ素子11、12のターンオフ電圧をコンデンサ10の電圧に制限する。
【0033】
第1のスイッチ素子11の両端、第2のスイッチ素子12の両端には、高抵抗値を有する第1の電圧バランス用抵抗15、第2の電圧バランス用抵抗16が並列に接続される。第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16は実質的に同一の抵抗値であり、例えば数十kΩ〜数MΩの抵抗値を有する。第1の電圧バランス用抵抗15と第1の巻線9Cと第2の電圧バランス用抵抗16との直列回路にコンデンサ10の両端電圧が印加される場合に、第1の巻線9Cの直流抵抗がゼロであれば、第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16にコンデンサ10の両端電圧が印加される。よって、第1のスイッチ素子11の両端及び第2のスイッチ素子12の両端に、コンデンサ10の両端電圧が1/2ずつほぼ均一に分担されることになる。なお、第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16は、第1の帰還用ダイオード13と第2の帰還用ダイオード14とにそれぞれ並列に接続されてもよい。つまり、第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16は、第1のスイッチ素子11、第2のスイッチ素子12又は第1、第2の帰還用ダイオード13、14の少なくともどちらかにそれぞれ並列に接続される。
【0034】
制御回路18は、直流電圧端子2、3間の電圧を検出する入力電圧検出線19、20と、負荷端子7、8間の電圧を検出する出力電圧検出線21、22とが入力され、第1の信号線23、第2の信号線24が、第1、第2のスイッチ素子11、12それぞれの制御端子に出力され、第1、第2のスイッチ素子11、12の導通を制御する。制御回路18は従来と同様の各種の制御機能を有するもので足り、例えば周期的にオン駆動信号を第1、第2のスイッチ素子11、12に同時に供給する機能を有するもの、あるいは異常放電の発生を検出したとき、又は異常放電の発生を予知したときに随時にオン駆動信号を第1、第2のスイッチ素子11、12に同時に供給するもの、又はこれら機能の双方を備えるものなどである。
【0035】
ただし、入力電圧検出線19、20によって検出される直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値を超える電圧になるとき、制御回路18はオン駆動信号を第1、第2の信号線23、24に供給するのを禁止する機能を有する。したがって、直流電圧端子2、3間の直流電圧が前記設定値を超える電圧のときには、第1、第2のスイッチ素子11、12は導通しない。なお、図1では、便宜上、第1の信号線23、第2の信号線24によって制御回路18を第1、第2のスイッチ素子11、12に直接接続しているが、実際には、制御回路18と第1、第2のスイッチ素子11、12との間には電位の差異があるので、図示しないパルストランス又はホトカプラなどのような信号絶縁手段が第1の信号線23、第2の信号線24の途中に設けられる。なお、第1、第2の信号線23、24に対応する固定電位側の信号線については図示するのを省略している。
【0036】
本発明に係る第1の実施形態である直流プラズマ用逆極性パルス発生回路の動作の概要について説明する。一対の直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値を越える場合は、第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とを導通させずに、コンデンサ10の両端電圧を第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とに分担させる。また、一対の直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値よりも低い場合は、周期的に、又は異常放電の発生もしくは異常放電の発生の予知が検出されるときに第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とを導通させる。そして、プラズマ発生状態における直流電圧端子間の直流電圧よりも大きな逆極性の電圧をインダクタンス手段9に印加させて、プラズマ発生状態における直流電圧端子2、3間の直流電圧と逆極性の電圧との差に相当する大きさの逆極性電圧を負荷端子7、8間に出力させる。さらに、第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とをターンオフさせる場合は、第1の帰還用整流素子13と第2の帰還用整流素子14とが導通する期間に、第1のスイッチ素子11の両端と第2のスイッチ素子12の両端とに印加される電圧が、コンデンサ10の両端電圧で制限される。
【0037】
次に、図2に示す波形図を用いて、実施形態1に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路の動作を説明する。図2を用いた説明において、図1を適宜参酌する。図2(A)は第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12のオン駆動信号S(S1、S2・・・・)を示す。図2(B)はインダクタンス手段9の第1の巻線9Cの黒点側を正とする電圧を示し、図2(C)はプラズマ負荷4の電圧、つまり負荷端子7、8間に現出する電圧を示す。
【0038】
<プラズマ着火前>
プラズマ用の直流電源1は、時刻t0以前のプラズマ着火前には直流電圧Voよりも電圧値が大きい着火用の直流高電圧V1を出力する。一例を挙げると、この直流高電圧V1は1500Vであり、直流電圧Voの最大値は800Vである。したがって、プラズマ着火前の直流電圧端子2、3間の電圧は直流高電圧V1となり、コンデンサ10の両端の電圧も直流高電圧V1となる。制御回路18では、直流電圧端子2、3間の電圧が入力電圧検出線19、20によって検出される。検出された直流電圧端子2、3間の電圧が、設定値を越える電圧、例えば、上記の直流高電圧V1の場合、制御回路18は、オン駆動信号を第1、第2の信号線23、24に供給するのを禁止する。なお、設定値を越える電圧とは、プラズマ発生状態における直流電圧端子2、3間の直流電圧Voよりも大きく、着火用の直流高電圧V1以下の値とする。上記のような場合は、第1、第2のスイッチ素子11、12が導通させないので、第1の巻線9Cに電流は流れない。したがって、直流電圧端子2、3間の直流高電圧V1は、第1の電圧バランス用抵抗15、第1の巻線9C、第2の電圧バランス用抵抗16の経路に印加されるが、第1の巻線9Cの直流抵抗がゼロであれば、第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16によってほぼ等しく分割されるので、第1、第2のスイッチ素子11、12の両端に印加される電圧もほぼ等しく分割される。直流電圧端子2、3間の電圧、すなわちコンデンサ10の両端電圧がV1とすると、第1、第2のスイッチ素子11、12の両端に印加される電圧は、それぞれV1/2に等しい電圧となる。前述の一例では、V1/2に等しい電圧の750Vとなる。
【0039】
<プラズマ着火後>
直流電圧端子2、3を通して負荷端子7、8間に着火用の直流高電圧V1が印加され、時刻t0でプラズマ負荷4は着火して、プラズマ放電状態になるものとする。この状態では、インダクタ手段9の巻線9Bを直流電流が流れ、インダクタンス手段9は通常のインダクタンスとして働き、プラズマ電流を安定化させる。なお、時刻t0前では、第1、第2のスイッチ素子11、12は非導通であるので、第1の巻線9Cには電流が流れない。プラズマ用の直流電源1は、プラズマ負荷4がプラズマ着火すると、出力電圧を降下させ、直流電圧Voを出力するので、時刻t0では、図2(C)のプラズマ負荷4の電圧は直流電圧Voとなる。プラズマ着火後は、上述のとおり、直流電圧端子2、3間に出力する直流電圧Voはプラズマ負荷の条件によって決まることになる。制御回路18は、時刻t0〜t1の間に、直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値、例えば直流電圧Voの最大値の800Vよりも低い電圧を検出すると、オン駆動信号Sの発生の禁止を解除し、オン駆動信号Sを第1、第2の信号線23、24にいつでも供給できる状態で待機する。
【0040】
制御回路18は、図2(A)に示すパルス幅Toのオン駆動信号Sを周期的に繰り返し出力する機能を有するものとする。制御回路18は、直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値よりも低い電圧を検出してから、1周期以内の時刻t1で一つ目のオン駆動信号S1を第1、第2の信号線23、24を通して第1、第2のスイッチ素子11、12の制御端子に同時に与える。これに伴い、第1、第2のスイッチ素子11、12がほぼ同時にターンオンして導通し、第1の巻線9Cに黒点側が正となる極性で電圧を印加し、図2(B)に示すように、時刻t1で、コンデンサ10の両端電圧が第1の巻線9Cにその黒点側を正とする極性で印加される。
【0041】
前述したように、第1の巻線9Cの巻数n1を1とした場合に、インダクタンス手段9の巻線9Bの巻数n2は、1よりも大きくなるように、n2/n1>1とするので、インダクタンス手段9の巻線9Bには負の直流電圧よりも大きな値の電圧パルスが図1に示される巻線9Bの黒点側を正とする極性で誘起される。つまり、実施形態1のインダクタンス手段9は、第1の巻線9Cが1次巻線、インダクタンス手段9の巻線9Bが2次巻線となるチョークトランスとして働く。例えば、直流電圧Vo、前述した第1の巻線9Cとインダクタンス手段9の巻線9Bとの巻数比n2/n1が1.2であるとすれば、第1、第2のスイッチ素子11、12が導通するとき、インダクタンス手段9の巻線9Bには正極性の1.2Voに等しい電圧パルスが誘起される。
【0042】
インダクタンス手段9の巻線9Bの1.2Voに等しい正の電圧パルスから負の直流電圧Voが減算されて、図(C)に示すように、負荷端子7、8間には0.2Voに等しい正の電圧パルスが印加される。この電圧パルスは負の直流電圧Voとは逆極性の正の極性であるので、逆極性電圧パルスという。このように、プラズマ発生状態における直流電圧端子2、3間の直流電圧Voよりも大きな逆極性の電圧をインダクタンス手段9の巻線9Bに発生させて、プラズマ発生状態における直流電圧端子2、3間の直流電圧Voと逆極性の電圧1.2Voとの差に相当する大きさの逆極性電圧0.2Voを負荷端子7、8間に出力させている。
【0043】
次に、オン駆動信号S1が第1、第2の信号線23、24から消失する時刻t2、つまり、時刻t1からパルス幅Toにほぼ等しい時間の経過後に、第1、第2のスイッチ素子11、12がターンオフして非導通となる。これに伴い、第1、第2の帰還用ダイオード13、14が導通して第1の巻線9Cに励磁電流として蓄えられた磁気エネルギーをコンデンサ10に帰還する。第1、第2の帰還用ダイオード13、14が同時に導通することによって、第1の帰還用ダイオード13のカソードと第2の帰還用ダイオード14のアノードとの間の電圧は、コンデンサ10の両端の電圧、つまり直流電圧端子2、3間の直流電圧Voにほぼ等しい電圧に制限される。
【0044】
第1のスイッチ素子11の直流電圧端子2側の端子と第2のスイッチ素子12の直流電圧端子3側の端子との間の電圧も、直流電圧端子2、3間の直流電圧Voにほぼ等しい電圧値に制限される。よって、第1のスイッチ素子11の両端及び第2のスイッチ素子12の両端は、コンデンサ10の両端電圧、ここでは、直流電圧端子2、3間の直流電圧Voで制限されることになる。なお、インダクタンス手段9の巻線9Bを流れるプラズマ電流によってインダクタンス手段9に蓄えられる磁気エネルギーは、第1、第2のスイッチ素子11、12が導通している期間、第1の巻線9C側に転流されて、第1、第2のスイッチ素子11、12を流れ、インダクタンス手段9に流れる電流はほぼゼロになる。逆極性電圧パルスがプラズマ負荷4のチャンバー電極5とターゲット電極6との間に印加される期間(To)、この電圧は逆極性であるので、プラズマ負荷4で放電は起こらず、いずれの方向にも電流はほとんど流れない。
【0045】
次の周期の開始時刻t4で、制御回路18は、二つ目の前述したようなオン駆動信号S2を発生する。したがって、前述の例では、逆極性電圧パルスが1周期ごとにプラズマ負荷4のチャンバー電極5とターゲット電極6との間に印加される。前述したように、本発明の直流プラズマ用逆極性パルス発生回路にあっては、インダクタンス手段9がチョークトランスとして働くときに蓄えられる磁気エネルギーを直流電圧端子2、3側に帰還するので、大きな電圧サージが生じることは無く、特別な電圧サージ吸収回路が不要であり、電力損失が小さく、発熱も小さい。
【0046】
その好ましい耐圧は、最大の直流電圧Voの120%〜150%である。前述した一例では、プラズマ着火前は第1、第2のスイッチ素子11、12に印加される電圧はほぼ等しい750Vであり、また、最大の直流電圧Voが800Vであるので、この場合、第1、第2のスイッチ素子11、12は900〜1000Vの耐圧を有すれば十分であり、前掲の特許文献3に記載された従来の回路に比べて、逆極性電圧印加用のスイッチ素子の耐圧は半分よりも小さくて済む。したがって、逆極性電圧印加用のスイッチ素子としてオン抵抗が比較的低く、かつスイッチング速度が高速のFETを用いることが可能になってくる。このような、逆極性電圧印加用のスイッチング素子として耐圧が低く、スイッチング速度の大きなMOSFET又は接合型FETを用いることで、より高周波で繰り返す逆極性電圧パルスを発生することが可能になる。また、サージ電圧を低減でき、ノイズも低減できるだけでなく、電力損失も低減できる。
【0047】
なお、図2(B)に示すVrはチョークトランスとして働くインダクタンス手段9のリセット電圧を示す。一般にインダクタンス手段9の巻線9Bのリセット電圧はプラズマ非線形負荷4の特性によって決まり、第1の巻線9Cに現れるリセット電圧が直流電源電圧V1に達しなければ、帰還ダイオード13,14が導通しない。インダクタンス手段9をリセットするには、直流電圧Vo×パルス幅Toに等しい電圧・時間積が必要であるが、リセット電圧Vrが直流電圧Voよりも低いので、リセット時間Trは逆極性電圧パルスのパルス幅Toよりも長くなる。したがって、第1、第2のスイッチ素子11、12を1/2のデューティサイクルで動作させることはできないが、一般的に1/2のデューティよりもかなり小さなオンデューティの逆極性電圧パルスをプラズマ負荷4に印加しているので、全く問題は無い。
【0048】
本発明の実施形態1に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路では、前述したように、オン抵抗が比較的低く、かつスイッチング速度が高速のFETを用いることができるようになるので、周期的、例えば10μs(100kHz)の周期で1/10のオンデューティ(1μs)の高周波オン駆動信号によって、第1、第2のスイッチ素子11、12を動作させることも可能である。このようにパルス幅の小さい逆極性電圧パルスを短い周期でプラズマ負荷4に供給すれば、スパッタリングに影響を与えることなく、アーク放電などの異常放電が発生するのをより確実に予防することが可能である。
【0049】
以上の説明では、制御回路18が周期的にオン駆動信号を第1、第2のスイッチ素子11、12に供給してスイッチング動作させ、周期的に逆極性電圧パルスをプラズマ負荷4に印加する好ましい例を述べた。しかし、制御回路18は異常放電の発生を検出、又は異常放電の発生の予知を検出した段階で、オン駆動信号を第1、第2のスイッチ素子11、12に供給する機能を有していてもよい。この場合、制御回路18は出力電圧検出線21、22を通して負荷端子7、8間の電圧の大きさを検出してその電圧値が設定値よりも降下したとき、あるいは負荷端子7、8間の電圧の変化を検出し、その検出値が設定値よりも大きくなるとき、オン駆動信号を発生する機能を有する。制御回路18が、以上述べた機能を組み合わせたものでも勿論よい。
【0050】
以上で述べたように、この直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、逆極性電圧パルスをプラズマ負荷4のターゲット電極6を正、チャンバー電極5を負としてそれら電極間に印加する。したがって、このような逆極性電圧パルスが周期的にプラズマ負荷4に印加されれば、アーク放電などの異常放電が発生しにくくなるので、異常放電の発生の予防ができる。また、前記逆極性電圧パルスが異常放電の発生時に生じたものであるならば、速やかに異常放電を消滅させることができる。また、前記逆極性電圧パルスが異常放電の発生を予知したときに生じたものであれば、異常放電に至る前にその原因を消滅させることができる。特に、第1、第2のスイッチ素子11、12のサージ電圧を、第1、第2の帰還ダイオード13、14を通じてコンデンサ10の両端電圧、つまり、ここでは、直流電圧端子2、3間に印加される直流電源1の電圧程度の大きさに制限することができる。
【0051】
[実施形態2]
図3に示す本発明の実施形態2に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、主にコンデンサ10A、10B、インダクタンス手段9、第1の単位スイッチング回路17A、第2の単位スイッチング回路17B及び制御回路18が直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を構成する。図3に示す本発明の実施形態2に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、図1に示した単位スイッチング回路17と回路構成が同じ2個の単位スイッチング回路17A、17Bを備えるところに特徴がある。具体的には、実施形態2に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、2個のコンデンサ10A、10Bが一対の直流電圧端子2、3間に互いに直列に接続され、2個のコンデンサ10A、10Bのそれぞれに、複数の単位スイッチング回路17A、17Bがそれぞれ接続され、単位スイッチング回路17A、17Bのそれぞれの第1の巻線9C1、9C2は、インダクタンス手段9が有する鉄心9Aに巻かれて磁気的に結合される。なお、図1の実施形態1と同様の構成、動作については説明を省略する。
【0052】
第1の単位スイッチング回路17Aは、図1に示した単位スイッチング回路17を構成する部材である第1の巻線9C、第1、第2のスイッチ素子11、12、第1、第2の帰還用ダイオード13、14、及び第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16にそれぞれ相当する第1の巻線9C1、第1、第2のスイッチ素子11A、12A、第1、第2の帰還用ダイオード13A、14A、及び第1、第2の電圧バランス用抵抗15A、16Aで構成される。単位スイッチング回路17と同様に、第1の単位スイッチング回路17Aは、第1、第2のスイッチ素子11A、12Aが導通して第1の巻線9C1にパルス状電流を流し、このパルス状電流によって第1の巻線9C1に磁気的に結合されているインダクタンス手段9の巻線9Bに逆極性の電圧パルスを発生する。
【0053】
同様に、第2の単位スイッチング回路17Bは、図1に示した単位スイッチング回路17を構成する部材である第1の巻線9C、第1、第2のスイッチ素子11、12、第1、第2の帰還用ダイオード13、14、及び第1、第2の電圧バランス用抵抗15、16にそれぞれ相当する第1の巻線9C2、第1、第2のスイッチ素子11B、12B、第1、第2の帰還用ダイオード13B、14B、及び第1、第2の電圧バランス用抵抗15B、16Bで構成される。単位スイッチング回路17と同様に、第2の単位スイッチング回路17Bは、第1、第2のスイッチ素子11B、12Bが導通して第1の巻線9C2にパルス状電流を流し、このパルス状電流によって第2の巻線9C2に磁気的に結合されているインダクタンス手段9の巻線9Bに逆極性の電圧パルスを発生する。
【0054】
第1、第2の単位スイッチング回路17A、17Bにおける第1、第2のスイッチ素子11A、12A及び第1、第2のスイッチ素子11B、12Bが同時にスイッチング動作をするとき、第1の巻線9C1、第1の巻線9C2にほぼ等しいパルス状電流が同時に流れる。インダクタンス手段9は第1の巻線9C1、第1の巻線9C2を1次巻線とし、インダクタンス手段9の巻線9Bを2次巻線とするチョークトランスとして働くので、インダクタンス手段9の巻線9Bに逆極性の電圧パルスを生じる。この実施形態2では、第1の巻線9C1と第1の巻線9C2の巻数は同じであり、第1の巻線9C1と第1の巻線9C2にはほぼ等しい電圧が誘起される。この電圧に巻数比で対応する電圧がインダクタンス手段9の巻線9Bに誘起される。ここで、第1の巻線9C1と第1の巻線9C2との巻数をn1とし、インダクタンス手段9の巻線9Bの巻数をn2とする。コンデンサ10A、10Bの両端電圧は直流電圧端子2、3間の直流電圧の約1/2となるので、実施形態1のように0.2Voの正の逆極性電圧パルスをプラズマ負荷4に印加させる場合には、第1の巻線9C1と第1の巻線9C2との巻数n1を1とするとインダクタンス手段9の巻線9Bの巻数n2は2.4、つまり巻数比n2/n1を2.4とする。
【0055】
コンデンサ10Aとコンデンサ10Bとはキャパシタンスなどの特性はほぼ同一であるので、直流電圧端子2、3間の直流電圧はコンデンサ10Aとコンデンサ10Bとに等しく分担される。したがって、プラズマ着火前における直流電圧端子2、3間の直流高電圧V1の1/2の電圧がそれぞれコンデンサ10Aとコンデンサ10Bとに印加される。プラズマ着火後の直流電圧Voも、同様にVo/2の電圧がそれぞれコンデンサ10Aとコンデンサ10Bとに印加される。つまり、コンデンサ10A、10Bのそれぞれに充電される電圧は、図1の回路構成に比べて約1/2となる。
【0056】
制御回路18は、信号線23A、24Aを介して単位スイッチング回路17Aの第1、第2のスイッチ素子11A、12Aの制御端子に接続されると共に、信号線23B、24Bを介して単位スイッチング回路17Bの第1、第2のスイッチ素子11B、12Bの制御端子に接続される。また、実施形態1で述べたように、制御回路18とスイッチ素子11A、12A、11B、12Bとは電位が異なるので、信号線23A、24A、23B、24Bの途中に不図示の信号絶縁手段が備えられる。
【0057】
制御回路18は、前述した実施形態1の制御回路と同様な機能を有するが、第1、第2の単位スイッチング回路17A、17Bにおける逆極性電圧印加用のスイッチ素子として働く4個のスイッチ素子11A、12A、11B、12Bの制御端子に同時に四つのオン駆動信号を与えることができるところが、実施形態1の制御回路とは異なる。実施形態2の直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は実施形態1のものとほぼ同様に動作するので、異なる部分についてだけ説明する。
【0058】
直流電圧端子2、3間の直流電圧が設定値を越える場合、例えば直流電圧Voよりも高い電圧V1が1500Vであるとき、制御回路18はオン駆動信号を4個のスイッチ素子11A、12A、11B、12Bの制御端子に供給することはないから、これらスイッチ素子11A、12A、11B、12Bはすべて非導通状態である。この場合、前述したように、それぞれのコンデンサ10A、10Bに印加される電圧は直流電圧端子2、3間の直流電圧の約1/2であるから、前述の一例ではほぼ750Vである。単位スイッチング回路17Aでは、コンデンサ10Aの電圧、例えば750Vを電圧バランス用抵抗15A、16Aがほぼ等しく分割するので、スイッチ素子11A、12Aの両端に印加される電圧は、コンデンサ10Aの電圧である750Vの1/2の電圧の375Vとなる。同様に、単位スイッチング回路17Bでは、コンデンサ10Bの電圧、例えば750Vを電圧バランス用抵抗15B、16Bがほぼ等しく分割するので、スイッチ素子11B、12Bの両端に印加される電圧は、コンデンサ10Bの電圧である750Vの1/2の電圧の375Vとなる。
【0059】
次に、プラズマ負荷4がプラズマ着火され、制御回路18が、周期的にオン駆動信号を出力し、又は異常放電の発生を検出、又は異常放電の発生の予知を検出した段階でオン駆動信号を出力する。これらオン駆動信号は、4個のスイッチ素子11A、12A、11B、12Bの制御端子に同時に供給され、スイッチ素子11A、12A、11B、12Bを同時に導通させる。プラズマ負荷4がプラズマを発生した状態では、前述したように直流電圧端子2、3間の電圧は直流電圧Vo(例えば、800V)になる。コンデンサ10A、10Bの電圧はその電圧のおよそ半分(例えば400V)になるので、スイッチ素子11A、12A、11B、12Bの両端にかかる電圧は最大で直流電圧Voのおよそ半分の電圧(例えば400V)になる。
【0060】
したがって、4個のスイッチ素子11A、12A、11B、12Bの両端に印加される電圧は、プラズマ着火前は着火用の高電圧V1(例えば1500V)の1/4に相当する電圧(375V)になり、プラズマ発生後には直流電圧Vo(最大で800V)には最大で400Vとなる。このことから、スイッチ素子11A、12A、11B、12Bの耐圧は、余裕を見て、直流電圧Voの120%〜150%、前記一例では500〜600V程度にすることができ、低オン抵抗かつ高速スイッチング速度の汎用のFETを選定することが可能になる。このことは、スイッチ素子11A、12A、11B、12Bの電力損失を低減できると共に、逆極性電圧パルスのパルス幅をより小さくでき、繰り返し周波数をより高周波化することができる。
【0061】
ここで、電圧バランス用抵抗15A、16A及び電圧バランス用抵抗15B、16Bは、例えば数十kΩ〜数MΩの高い抵抗値を有する。したがって、コンデンサ10Aと電圧バランス用抵抗15A、16A及びコンデンサ10Bと電圧バランス用抵抗15B、16Bとの時定数は大きくなるが、実施形態2では、短い周期でスイッチ素子11Aと12A、11Bと12Bとが導通と非導通を繰り返しても、コンデンサ10Aとコンデンサ10Bの充電電圧は次の理由からバランスし、ほぼ等しくなる。実施形態2のインダクタンス手段9では、等しい巻数を有する第1の巻線9C1、第1の巻線9C2が同一の鉄心9Aに巻かれているので、前述したように、第1の巻線9C1と第1の巻線9C2は等価的に並列接続され、コンデンサ10Aとコンデンサ10Bの充電電圧がほぼ等しくなる。
【0062】
例えば、コンデンサ10Aとコンデンサ10Bの充電電圧がアンバランスになって、一方のコンデンサの電圧が高く、他方のコンデンサの電圧が低くなったとしても、4個のスイッチ素子11A、12A、11B、12Bはほぼ同時に導通するので、電圧の高いコンデンサを有する単位スイッチング回路から電圧の低いコンデンサを有する単位スイッチング回路へ電流が流れ込む。結果として、電圧の高いコンデンサから電圧の低いコンデンサへ電荷が移動し、周期的に前述の動作を繰り返すことにより、コンデンサ10Aとコンデンサ10Bの電圧はバランスし、ほぼ等しくなる。なお、異常放電の発生を検出したとき、又は異常放電の発生を予知したときに、逆極性電圧パルスを随時に発生する場合には、一般的に前の逆極性電圧パルスその後の逆極性電圧パルスとの時間間隔が長い場合が多いので、コンデンサ10Aとコンデンサ10Bの充電電圧が不均等になることは少ない。
【0063】
[実施形態3]
上記で説明した本発明の実施形態1に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路では、直流電流が流れるインダクタンス手段9の鉄心9Aに巻かれた巻線9Bに、単位スイッチング回路17の第1の巻線9Cを磁気結合し、第2の巻線にパルス状電流を流すことによって、逆極性の電圧パルスをインダクタンス手段9に発生させた。しかし、直流プラズマ装置におけるインダクタンス手段は直流プラズマ電流を安定化することに主目的があるので、当然にインダクタンス手段9には直流電流が流れる。その直流電流によって、インダクタンス手段9の鉄心9Aは直流バイアスされるので、鉄心9Aは大型化する。また、プラズマ電流が大きい場合には、インダクタンス手段9を流れる直流電流が大きくなるので、インダクタンス手段9の巻線9Bを太い線材を用いて形成しなくてはならない。これら理由から、インダクタンス手段9は大型化する。
【0064】
他方、第1の巻線9Cにはオンデューティの小さい電流が流れるだけであるので、一般的にインダクタンス手段9の巻線9Bを流れる電流の平均値に比べて第1の巻線9Cを流れる電流の平均値は大幅に小さくなる。したがって、第1の巻線9Cの線材の太さはインダクタンス手段9の巻線9Bよりも数分の一と小さくてもよい。このようにオンデューティの小さい電流が流れる第1の巻線を大型化したインダクタンス手段9の鉄心9Aに巻きつけるのは、実際上、得策でない面がある。したがって、実施形態3では、図4に示すように、単位スイッチング回路27の第1の巻線N1と第2の巻線N2とを有するパルストランスを構成し、このパルストランス25の2次巻線N2をダイオード26とを介してインダクタンス手段9に接続する。このような構成を採ることで、パルストランス25の2次巻線N2に発生する逆極性の電圧パルスとほぼ同じ電圧をインダクタンス手段9の両端に印加するようにした。
【0065】
図4に示す実施形態3に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、主にコンデンサ10、インダクタンス手段9、パルストランス25の2次巻線N2、単位スイッチング回路27及び制御回路18で構成される。前述の実施形態1、2に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路と同一の構成及び動作については省略する。具体的には、図4に示す実施形態3に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路では、単位スイッチング回路27は、コンデンサ10に並列に接続される第1のスイッチ素子11とインダクタンス手段9に並列に接続される第2の巻線であるパルストランス25の2次巻線N2に対して磁気的に結合される第1の巻線であるパルストランス25の2次巻線N1と第2のスイッチ素子12とを有する直列回路を有する。また、直列に接続される第1のスイッチ素子11と第1の巻線N1とに並列に接続される第1の帰還用整流素子13と、直列に接続される第2のスイッチ素子12と第1の巻線N1とに並列に接続される第2の帰還用整流素子14を有する。さらに、第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とにそれぞれ並列に接続される電圧バランス用抵抗15、16とを有する。
【0066】
つまり、実施形態3に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路では、実施形態1のインダクタンス手段9の鉄心9Aに巻き付けた第1の巻線9Cに代えて、鉄心Cとこの鉄心Cに巻き付けられた1次巻線N1と2次巻線N2とからなるパルストランス25を用いるところに特徴がある。なお、図4では、パルストランス25の2次巻線N2の両端はダイオード26を介してインダクタンス手段9の両端に接続されるが、ダイオード26は、後述するように省略することができる場合があるので必須の構成要素ではない。ただし、ダイオード26でパルストランス25のリセット電圧がブロックされるので、パルストランス25のリセットは直流電圧Voで単独に行うことができる。この場合、スイッチ素子11、12がオフすると励磁電流により帰還ダイオード13、14が必ず導通する。
【0067】
この実施形態3に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、実施形態1のものとほぼ同様に動作する部分が多いので、動作の異なる部分についてだけ動作を説明する。制御回路18からのオン駆動信号で、第1のスイッチ素子11と第2のスイッチ素子12とが同時にターンオンして導通すると、電流がコンデンサ10の直流電圧端子2側から第1のスイッチ素子11、1次巻線N1、第2のスイッチ素子12を通してコンデンサ10の直流電圧端子3側に流れる。これに伴い、パルストランス25の1次巻線N1に印加される電圧が1次巻線N1と2次巻線N2との巻数比に対応する電圧で2次巻線N2に誘起される。2次巻線N2に誘起されたこの電圧が逆極性の電圧パルスであり、この逆極性の電圧パルスがインダクタンス手段9の両端に印加される。
【0068】
前述の一例では、負のプラズマ電圧Voの1.2倍の電圧に相当する正の1.2Voの電圧パルスが2次巻線N2に誘起される。したがって、正の1.2Voから負の直流電圧Voを減算して得られる0.2Voの逆極性電圧パルスが負荷端子7、8を介してプラズマ負荷4のターゲット電極6を正、チャンバー電極5を負としてそれら電極間に印加される。なお、ダイオード26はパルストランス25の2次巻線N2に直流電流が流れるのを防ぐためのものである。流れる直流電流が小さく、パルストランス25の直流励磁がほとんど問題にならない場合には、ダイオード26を省略することができる。
【0069】
[実施形態4]
図5に示す本発明の実施形態に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路は、図4に示した単位スイッチング回路27と同一の回路構成の2個の単位スイッチング回路27A、27Bを備えるところに特徴がある。なお、図5の単位スイッチング回路27A、27Bは、上述した実施形態4の単位スイッチング回路27と同様の構造であるので、詳細については図示しない。
【0070】
双方の単位スイッチング回路27A、27Bは、図4に示した単位スイッチング回路27を構成する部材であるパルストランス25の1次巻線N1、1次巻線N1に直列接続される第1のスイッチ素子11、1次巻線N1を介して第1のスイッチ素子11に直列接続される第2のスイッチ素子12、第1のスイッチ素子11と1次巻線N1とに跨って並列に接続される第1の帰還用ダイオード13、1次巻線N1と第2のスイッチ素子12とに跨って並列に接続される第2の帰還用ダイオード14、電圧バランス用抵抗15、16から構成される回路と構成が全く同じであるので、前記部材の符号を用いて説明する。
【0071】
図5に示すように、2個のコンデンサ10A、10Bが一対の直流電圧端子2、3間に互いに直列に接続され、2個のコンデンサ10A、10Bのそれぞれに、2個の単位スイッチング回路27A、27Bがそれぞれ接続される。単位スイッチング回路27A、27Bのそれぞれの第1の巻線である1次巻線N1は、インダクタンス手段9に対して並列に接続されるそれぞれの第2の巻線である2次巻線N2A、N2Bと同一の鉄心に巻かれるパルストランス25A、25Bをそれぞれ構成する。パルストランス25Aの2次巻線N2Aとパルストランス25Bの2次巻線N2Bとは互いに並列接続され、それぞれダイオード26A、26Bを介してインダクタンス手段9の両端に並列に接続され、2次巻線N2Aと2次巻線N2Bは、ダイオード26A、26BによってOR接続される。なお、実施形態3と同様に、ダイオード26A、26Bは、省略することができる場合があるので必須の構成要素ではない。
【0072】
制御回路18からのオン駆動信号Sによって、第1、第2の単位スイッチング回路27A、27Bにおける第1、第2のスイッチ素子が同時にスイッチング動作をするとき、4個の第1、第2のスイッチ素子を通してパルストランス25A、25Bのそれぞれの1次巻線N1にパルス状電流が流れ、パルストランス25A、25Bの2次巻線N2A、2次巻線N2Bにほぼ等しい逆極性電圧パルスをそれぞれ同時に生じる。これら逆極性電圧パルスがダイオード26A,26Bを通して、インダクタンス手段9の両端に印加される。
【0073】
この実施形態4でも実施形態2と同様に、各コンデンサ10A、10Bに印加される電圧は直流電圧端子2、3間の直流電圧の1/2である。第1、第2の単位スイッチング回路27A、27Bにおける各スイッチング素子11、12にはコンデンサ10A、10Bの1/2に等しい電圧、つまり直流電圧端子2,3間の直流電圧の1/4にほぼ等しい電圧が印加される。また、定常のプラズマ状態では、前述したように、最大の直流電圧Voの1/2程度の電圧がスイッチング素子11、12の両端に印加されるだけであるので、スイッチング素子11、12は最大の直流電圧Voの1/2の120%〜150%の耐圧をもてばよい。したがって、最大の直流電圧Voが800Vの場合には、スイッチング素子は500〜600Vの耐圧をもてば十分であり、オン抵抗が比較的低く、かつスイッチング速度が高速の汎用のFETを用いることができる。
【0074】
なお、第1、第2の単位スイッチング回路27A、27Bにおける各コンデンサ10A、10Bの電圧がアンバランスになることはない。この実施形態4では、2次巻線N2Aと2次巻線N2Bとを、ダイオード26A、26Bによってインダクタンス手段9の両端にOR接続している。したがって、コンデンサ10A、10Bの一方の電圧が他方より高くなると、2次巻線N2A、N2Bの電圧差で、電圧の高い一方のコンデンサ10A又は10Bから電流が流れ、電圧の低いコンデンサ10B又は10Aからは電流が流れ出す。このような動作を繰り返すことにより、第1、第2の単位スイッチング回路27A、27Bのコンデンサ10A、10Bの電圧は自動的にバランスして等しくなる。このように、2次巻線N2Aと2次巻線N2BとをOR接続することは、別途、コンデンサ10A、10Bの電圧をバランスさせるための抵抗をそれぞれのコンデンサ10A、10Bに接続する必要が無いので、電力損失やコストの面から有利である。
【0075】
図3を用いて説明した実施形態2及び図5を用いて説明した実施形態4では、単位スイッチング回路を2個接続したが、直流電圧Voが更に高い場合等、必要に応じて3個以上の前記単位スイッチング回路を接続してもよい。また、周期的に逆極性電圧パルスを発生せずに、異常放電が発生したとき、又は異常放電の発生を予知したとき、逆極性電圧パルスを発生する異常放電対策の場合には、電圧バランス用抵抗15、16などが直列接続されたコンデンサ10の電圧をバランスさせるように常に働くので、2個以上のパルストランス25の2次巻線N2を直列接続してもよい。この場合には、2個以上の2次巻線N2の抵抗が直列となって、抵抗が増えるので、ダイオード26が無くとも、流れる直流電流は僅かになるので、ダイオード26を省略することも可能である。
【0076】
なお、実施形態1と同様に、実施形態2、3、4では、第1の電圧バランス用抵抗15、15A、15Bと第2の電圧バランス用抵抗16、16A、16Bとは、第1の帰還用ダイオード13、13A、13Bと第2の帰還用ダイオード14、14A、14Bとにそれぞれ並列に接続されてもよい。第1の電圧バランス用抵抗15、15A、15Bと第2の電圧バランス用抵抗16、16A、16Bとは、第1のスイッチ素子11、11A、11Bと第2のスイッチ素子12、12A、12B、又は第1の帰還用ダイオード13、13A、13Bと第2の帰還用ダイオード14、14A、14Bの少なくともどちらかにそれぞれ並列に接続されることになる。
【0077】
前述したように、プラズマ用の直流電源1は、一般的には不図示の平滑用のコンデンサやインダクタンス手段を出力側に備えているので、実施形態1〜4に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路では、プラズマ用の直流電源1が備えるコンデンサやインダクタンス手段を、コンデンサ10やインダクタンス手段9として用いることができる。この場合には、負荷端子7、8が直流電源1の直流出力端子となる。したがって、プラズマ用の直流電源1が直流出力側に備えるインダクタンス手段を利用する場合は、このインダクタンス手段に対して第1の巻線9C又は9C1、9C2を磁気的に結合させ、又は、このインダクタンス手段に並列にパルストランス25の2次巻線N2を接続することになる。また、プラズマ用の直流電源1が直流出力側に備えるコンデンサを利用する場合は、このコンデンサに単位スイッチング回路17又は17A、17Bや27又は27A、27Bを接続することになる。このように、プラズマ用の直流電源の出力側に備えられる平滑用のコンデンサやインダクタンス手段を利用することで、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路内の単位スイッチング回路を独立した製品として取り扱うことができる。このため、従来のプラズマ用の直流電源に本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路の単位スイッチング回路を接続するだけで、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を実現でき、異常放電の発生を予防し、又は異常放電を速やかに消滅させることが可能なプラズマ用の直流電源とすることができる。
【0078】
また、上記で記載した本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を備える直流プラズマ電源装置は、本発明に係る直流プラズマ用逆極性パルス発生回路の有する効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
スパッタ装置、PVD装置、CVD装置、エッチング装置などのような直流プラズマ装置のプラズマ負荷に、プラズマ電圧とは逆極性の電圧パルスを印加して、異常放電の発生の予防や異常放電の消去などに用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
1・・・直流プラズマ用の直流電源
2、3・・・直流電圧端子
4・・・プラズマ負荷
5・・・プラズマ負荷4のチャンバー電極
6・・・プラズマ負荷4のターゲット電極
7、8・・・負荷端子
9・・・インダクタンス手段
9A・・・インダクタンス手段9の鉄心
9B・・・インダクタンス手段9の巻線
9C、9C1、9C2・・・インダクタンス手段9の第1の巻線
10、10A、10B・・・コンデンサ
11、11A、11B、12、12A、12B・・・スイッチング素子
13、13A、13B、14、14A、14B・・・帰還用ダイオード
15、15A、15B、16、16A、16B・・・電圧バランス用抵抗
17、17A、17B、27、27A、27B・・・単位スイッチング回路
18・・・制御回路
19、20・・・入力電圧検出線
21、22・・・出力電圧検出線
23、23A、23B、24、24A、24B・・・信号線
25・・・パルストランス
N1・・・パルストランス25の1次巻線
N2、N2A、N2B、パルストランス25の2次巻線N2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ用の直流電源からの直流電圧が印加される一対の直流電圧端子と、
前記プラズマに接続される一対の負荷端子と、
前記一対の直流電圧端子間に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサの一端と前記負荷端子の一方との間に接続されるインダクタンス手段と、
前記コンデンサに並列に接続される単位スイッチング回路と、
前記一対の直流電圧端子の直流電圧が入力され、単位スイッチング回路内の第1のスイッチ素子及び第2のスイッチ素子の導通を制御する制御回路と、を備え、
前記単位スイッチ回路は、前記コンデンサに並列に接続される前記第1のスイッチ素子と前記インダクタンス手段の巻線又は前記インダクタンス手段に並列に接続される第2の巻線に対して磁気的に結合される第1の巻線と前記第2のスイッチ素子とを有する直列回路と、
直列に接続される前記第1のスイッチ素子と前記第1の巻線とに並列に接続される第1の帰還用整流素子と、
直列に接続される前記第2のスイッチ素子と前記第1の巻線とに並列に接続される第2の帰還用整流素子と、
前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とに又は前記第1の帰還用整流素子と前記第2の帰還用整流素子とにそれぞれ並列に接続される電圧バランス用抵抗とを有し、
前記一対の直流電圧端子間の直流電圧が設定値を越える場合は、前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とを導通させずに、前記コンデンサの両端電圧を前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とに分担させ、
前記一対の直流電圧端子間の直流電圧が前記設定値よりも低い場合は、周期的に、又は異常放電の発生もしくは異常放電の発生の予知が検出されるときに前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とを導通させ、プラズマ発生状態における前記直流電圧端子間の直流電圧よりも大きな逆極性の電圧を前記インダクタンス手段に印加させて、前記プラズマ発生状態における直流電圧端子間の直流電圧と前記逆極性の電圧との差に相当する大きさの逆極性電圧を前記負荷端子間に出力させ、
前記第1のスイッチ素子と前記第2のスイッチ素子とをターンオフさせる場合は、前記第1の帰還用整流素子と前記第2の帰還用整流素子とが導通する期間に、前記第1のスイッチ素子の両端と前記第2のスイッチ素子の両端とに印加される電圧が、前記コンデンサの両端電圧で制限されることを特徴とする直流プラズマ用逆極性パルス発生回路。
【請求項2】
請求項1において、
前記インダクタンス手段と前記第1の巻線とは、同一の鉄心に巻かれるチョークトランスを構成する、又は、前記第1の巻線と前記第2の巻線とは、同一の鉄心に巻かれるパルストランスを構成することを特徴とする直流プラズマ用逆極性パルス発生回路。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
複数のコンデンサが前記一対の直流電圧端子間に互いに直列に接続され、
前記複数のコンデンサのそれぞれに、複数の前記単位スイッチング回路がそれぞれ接続され、
前記単位スイッチング回路のそれぞれの前記第1の巻線は、前記インダクタンス手段が有する鉄心に巻かれて磁気的に結合される、又は、前記インダクタンス手段に対して並列に接続されるそれぞれの前記第2の巻線と同一の鉄心に巻かれるパルストランスをそれぞれ構成することを特徴とする直流プラズマ用逆極性パルス発生回路。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載された直流プラズマ用逆極性パルス発生回路を備えることを特徴とする直流プラズマ電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−33409(P2012−33409A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172652(P2010−172652)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】