説明

真空ポンプ防振構造

【課題】真空ポンプの運転に伴う真空装置の微振動の低減を図るのに好適な真空ポンプ防振構造を提供する。
【解決手段】メカニカルダンパDを介して真空装置MのチャンバCに接続される真空ポンプPの防振構造において、メカニカルダンパDは、大気と真空の境界を維持する筒状のベローズ2と、ベローズ2の両端に取り付けたフランジ部3A、3Bと、その両端のフランジ部間に介在させた筒状の振動減衰部材4とを備え、一方のフランジ部3AがチャンバCに接続し、他方のフランジ部3Bが真空ポンプPの吸気口部PSに接続されるものとする。そして、フランジ部3Bと振動減衰部材4との間には低摩擦部材5を介在させ、この低摩擦部材5を介してフランジ部3Bと振動減衰部材4とが振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を備えるものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡その他の真空装置のチャンバに接続される真空ポンプの防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、電子顕微鏡には観察試料をセットするためのチャンバが設けられている。このチャンバにはメカニカルダンパを介して真空ポンプが接続され、真空ポンプによってチャンバ内の真空引きが行われる。メカニカルダンパは、真空ポンプの運転によって発生する振動が電子顕微鏡側へ伝わらないようにするために設けられている。
【0003】
前記のようにメカニカルダンパを介して真空ポンプと電子顕微鏡などの真空装置のチャンバとを接続する接続構造については、例えば特許文献1に開示されている。同文献1で用いるメカニカルダンパは、図7のように、大気と真空の境界を維持する筒状のベローズ2と、ベローズ2の両端に取り付けたフランジ部3A、3Bと、その両端のフランジ部3A、3B間に振動減衰部材4として介在させたシリコーンゴムからなる筒状の弾性部材とにより構成されている。
【0004】
そして、このメカニカルダンパDの一方のフランジ部3Aを真空装置MのチャンバCに接続するとともに、他方のフランジ部3Bを真空ポンプPの吸気口部PSに接続することにより、ベローズ2の内側通路を通じて真空ポンプPとチャンバCとが連通し、この状態で真空ポンプPの運転が行われることにより、チャンバC内のガスがベローズ2の内側空間と真空ポンプP内部を通って外部へ排気される。
【0005】
ところで、前記のような従来の接続構造によると、振動減衰部材4として設けられているシリコーンゴムからなる弾性部材のばね定数を小さくすることによって、メカニカルダンパDによる振動の減衰効果を高めることができる。
【0006】
しかしながら、メカニカルダンパDの弾性部材(振動減衰部材4)のばね定数を小さくしすぎると、弾性部材の剛性が低下し、チャンバC内およびベローズ2の内側空間の真空度が高まるのに従い、当該弾性部材は大気圧に耐えきれず収縮し、真空ポンプPがチャンバC側へ引き寄せられてしまうという不具合が生じる。
【0007】
以上のことから、振動の減衰効果を高めることを目的として、メカニカルダンパDの弾性部材(振動減衰部材4)のばね定数を小さくすることには一定の限界があり、その限界を超えて弾性部材のばね定数を小さくすることはできない。また、このメカニカルダンパDの弾性部材は、真空ポンプPの吸気口PS側に接続される金属性のフランジ部3BとチャンバC側に接続される金属性のフランジ部3Aとに張り付き密着しているため、真空ポンプPの振動が弾性部材を介して真空装置Mへ伝わりやすくなっている。このため、前記限界を超える極小のばね定数の弾性部材でなければ十分に減衰させることができない微振動、例えばナノメートルオーダ以下の振幅の微振動をメカニカルダンパDの弾性部材で減衰させることはできず、そのような微振動がメカニカルダンパDの弾性部材を介して真空装置M側へ伝播し、真空装置Mが微振動するという問題点がある。
【0008】
真空ポンプPの内部にはロータを回転させるためのモータが内蔵されており、そのモータのステータがロータ回転の反力を受けて微振動する。このような微振動が前述のようにメカニカルダンパDの弾性部材を介して真空装置M側へ伝播するため、真空ポンプPを運転している限り、真空装置Mの微振動はなくならない。
【0009】
特に、電子ビーム等を使って原子レベルで精密な観察を行う電子顕微鏡の分野ではその性能の向上に伴い、前記のような微振動を低減することが課題とされている。このことは同様に精密な作業を行う電子顕微鏡以外の他の真空装置でも同様である。
【0010】
【特許文献1】特開2002−295581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は前記問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、真空ポンプの運転に伴う真空装置の微振動の低減を図るのに好適な真空ポンプ防振構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は、メカニカルダンパを介して真空装置のチャンバに接続される真空ポンプの防振構造であって、前記メカニカルダンパは、大気と真空の境界を維持する筒状のベローズと、ベローズの両端に取り付けたフランジ部と、その両端のフランジ部間に介在させた筒状の振動減衰部材とを備え、前記一方のフランジ部を前記チャンバに接続し、前記他方のフランジ部を前記真空ポンプの吸気口部に接続した構造からなり、前記両端のフランジ部のうち少なくともいずれか一方のフランジ部と前記振動減衰部材との間に、低摩擦部材を介在させ、この低摩擦部材を介して前記フランジ部と振動減衰部材とが振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を備えるように構成したことを特徴とする。
【0013】
前記本発明において、前記低摩擦部材は、前記フランジ部と前記振動減衰部材との間にすべり接触部を形成する構成のものを採用することができる。
【0014】
また、前記低摩擦部材は、前記フランジ部と前記振動減衰部材との間に転がり接触部を形成する構成のものを採用することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明にあっては、前記のように、低摩擦部材を介してフランジ部と振動減衰部材とが振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を備えるように構成した。このため、真空装置で発生したナノメートルオーダ以下の振幅の微振動でも、その振動エネルギーによってフランジ部と振動減衰部材とが相対的にずれることで、当該微振動の真空ポンプ径方向成分が真空装置へ伝播する前に減衰されるから、真空ポンプの運転に伴う真空装置の微振動を低減させることができる等の作用効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の真空ポンプ防振構造の一実施形態の説明図、図2は図1の真空ポンプ防振構造で採用したメカニカルダンパの断面斜視図である。本真空ポンプ防振構造は、同図のようにメカニカルダンパDを介して電子顕微鏡などの真空装置MのチャンバCに接続される真空ポンプPの防振構造である。
【0018】
真空ポンプPについてはターボ分子ポンプTPその他の真空ポンプが適用される。本実施形態においては、かかる真空ポンプPの一例として、周知のターボ分子ポンプTPを採用した。
【0019】
ターボ分子ポンプTPは、図示は省略するが、そのポンプケース1内に、モータによって回転駆動されるロータと、ロータの外周面に多段に設けた複数のロータ翼と、ロータ翼間に多段に位置決め配置された固定のステータ翼とを備えている。そして、ロータの回転により、ロータの回転中心軸線周りにロータ翼が旋回し、この旋回するロータ翼と固定のステータ翼とで気体分子を順次移送し排気する。
【0020】
メカニカルダンパDは、真空ポンプPの運転により生じる機械的な振動を減衰する手段であり、本実施形態のメカニカルダンパDは、真空と大気の境界を維持する筒状のベローズ2と、ベローズ2の上下両端に溶接などで取り付けられたフランジ部3A、3Bと、この上下のフランジ部3A、3B間に介在させた振動減衰部材4と、振動減衰部材4と前記下側のフランジ部3Bとの間に介在させた低摩擦部材5とにより構成されている。
【0021】
また、本実施形態のメカニカルダンパDは、その上側のフランジ部3Aが真空装置MのチャンバCに取り付けられ、その下側のフランジ部3Bには、真空ポンプPの吸気口部PSが取り付けられるようになっている。
【0022】
本実施形態のメカニカルダンパDの構成要素のうち、ベローズ2とフランジ部3A、3Bについては金属で形成され、振動減衰部材4は弾性部材としてのシリコーンゴムで形成したが、これら以外の材料によってベローズ2、フランジ部3A、3B、振動減衰部材4を形成してもよい。
【0023】
低摩擦部材5は、下側のフランジ部3Bと振動減衰部材4との間にすべり接触部A1を形成し、そのすべり接触部A1を介してフランジ部3Bと振動減衰部材4とが振動のエネルギーで真空ポンプ径方向に相対的にずれる自由度を備えることによって、微振動の真空ポンプ径方向成分を減衰させる構造になっている。
【0024】
前記のような低摩擦部材5の構造の具体例として、本実施形態では、図2のようにすべり軸受けの材料に使われるプラスチック材、又はフッ素コーティング等の低摩擦コーティングを施した材料等のような、低摩擦素材で形成したスペーサ5A、5Bを上下に2枚重ね合わせた構造を採用した。この場合、重ねた2枚のスペーサ5A、5Bの対向面が低摩擦のすべり面となって前記すべり接触部A1を形成する。
【0025】
図示は省略するが、前記2枚のスペーサ5A、5Bのうち、いずれか一方のスペーサ5A又は5Bを省略することもできる。この場合、当該他方のスペーサ5A又は5Bと下側のフランジ部3Bとの対向面がすべり面となって前記すべり接触部A1を形成するようになる。
【0026】
また、図示は省略するが、前記スペーサ5A、5Bを2枚以上重ねるように構成することもできる。例えば、当該スペーサを3枚重ねた構成の場合は、上段と中段のスペーサ間および中断と下段のスペーサ間、下段のスペーサとフランジ部3Bとの間に、前記のようなすべり接触部が形成され、計3層のすべり接触部が設けられる構造になる。
【0027】
次に、前記の如く構成された真空ポンプ防振構造の作用などについて図1を基に説明する。
【0028】
真空ポンプPの運転を開始し、同真空ポンプP内において図示しないモータによりロータが高速回転すると、ロータと一体に旋回するロータ翼と固定のステータ翼とで気体分子を順次移送し排気する動作が行われる。
【0029】
これにより、真空ポンプPの吸気口部PS側が低圧となり、真空装置MのチャンバC内の気体分子は、メカニカルダンパDのベローズ2の内側空間を通って真空ポンプPの吸気口部PSへ移行し、真空ポンプPによって外部へ排気される。
【0030】
ところで、真空ポンプPの運転中にそのロータの回転に伴う微振動が真空ポンプPで発生することは避けられず、その微振動は、真空ポンプPの吸気口部PSからメカニカルダンパDのフランジ部3Bを介して振動減衰部材4へ伝播しようとする。しかし、その微振動の伝播経路の途中、具体的にはフランジ部3Bと振動減衰部材4との間には低摩擦部材5が介在し、この低摩擦部材5を境に、フランジ部3Bと振動減衰部材4が微振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を有するから、かかる微振動の真空ポンプ径方向成分は減衰し、真空ポンプPから振動減衰部材4を介して真空装置M側へ伝播する微振動は減少し、真空装置Mの微振動が減る。
【0031】
図3および図4は、図2の低摩擦部材5と同種のすべり接触部A1を形成する他の低摩擦部材の構造例を示したものである。
【0032】
特に、図3の低摩擦部材5は、表面をラップ(研磨)した金属製のスペーサ5A、5Bを上下に2枚重ね合わせ、そのスペーサ5A、5B間に潤滑剤5Cを介在させるように構成したものである。この場合、重ねた2枚のスペーサ5A、5Bの対向面が潤滑剤5Cを介してすべり面となって前記すべり接触部A1を形成する。
【0033】
また、図3において、2枚のスペーサ5A、5Bのうち、いずれか一方のスペーサ5A又は5Bを省略し、他方のスペーサ5A又は5Bと下側のフランジ部3Bとの間に潤滑剤5Cを介在させる構成を採用することもできる。この場合、他方のスペーサ5A又は5Bと下側のフランジ部3Bとの対向面が潤滑剤5Cを介してすべり面となって前記すべり接触部A1を形成するようになる。さらに、この図3のスペーサも、図2のスペーサと同じく2枚以上重ね、それぞれのスペーサ間に前記潤滑剤5Cを介在させるように構成することもできる。
【0034】
図4の低摩擦部材5は、2つのスペーサ5A、5Bの重ね合わせ面に溝5Dを設けるとともに、この溝5D内にグリースGを入れることで、2つのスペーサ5A、5Bの対向面がグリースGを介してすべり面となって前記すべり接触部A1を形成するように構成したものである。
【0035】
また、以上説明した低摩擦部材5は、いずれもフランジ部3A又は3Bと振動減衰部材4との間にすべり接触部A1を形成する構造のものであったが、この種の低摩擦部材5については、例えば、図5のように、フランジ部3A又は3Bと振動減衰部材4との間に転がり接触部A2を形成し、この転がり接触部A2を介してフランジ部3A又は3Bと振動減衰部材4とが振動のエネルギーで真空ポンプ径方向に相対的にずれる自由度を備えることによって、微振動の真空ポンプ径方向成分を減衰させるように構成してもよい。
【0036】
特に、この図5の低摩擦部材5は、振動減衰部材4側に当接する上板6Aと下側のフランジ部3B側に当接する下板6Bとを対向配置し、その上下両板6A、6B間にボール状の転動体6Cを介在させた構造であって、転動体6Cによって前記転がり接触部A2が形成されるようになっている。転動体6Cとしてはコロ状のものを採用してもよい。
【0037】
以上説明した実施形態の真空ポンプ防振構造は、いずれも、下側のフランジ部3Bと振動減衰部材4との間に低摩擦部材5を介在させた例であったが、この種の低摩擦部材5は図6のように上側のフランジ部3Aと振動減衰部材4との間に介在させるようにしてもよい。尚、図6は図2の低摩擦部材5を上側のフランジ部3Aと振動減衰部材4との間にも介在させた構成例である。
【0038】
ところで、以上説明した本実施形態の真空ポンプ防振構造は、低摩擦部材5を介してフランジ部3A又は3Bと振動減衰部材4とが振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を備えるように構成したものである。このため、真空装置Pで発生したナノメートルオーダ以下の振幅の微振動でも、その振動エネルギーによってフランジ部3A又は3Bと振動減衰部材4とが相対的にずれることで、当該微振動の真空ポンプ径方向成分が真空装置Mへ伝播する前に減衰されるから、真空ポンプPの運転に伴う真空装置Mの微振動を低減させることができる。
【0039】
なお、前記実施形態では、真空ポンプPの一例としてターボ分子ポンプTPを採用した構成例を説明したが、本発明の真空ポンプ防振構造は、たとえばネジ溝ポンプなどのようにターボ分子ポンプ以外の真空ポンプにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態である真空ポンプ防振構造の断面図。
【図2】図1の真空ポンプ防振構造で採用したメカニカルダンパの断面斜視図。
【図3】低摩擦部材の他の実施形態(すべり接触)の断面図。
【図4】低摩擦部材の他の実施形態(すべり接触)の断面図。
【図5】低摩擦部材の他の実施形態(ころがり接触)の断面図。
【図6】図2の低摩擦部材を上側のフランジ部と振動減衰部材との間にも介在させた構成例の説明図。
【図7】メカニカルダンパを介して真空ポンプと真空装置のチャンバとを接続する従来の接続構造の説明図。
【符号の説明】
【0041】
1 ポンプケース
2 ベローズ
3A、3B フランジ部
4 振動減衰部材
5 低摩擦部材
5A、5B スペーサ
5C 潤滑剤
5D 溝
6A 上板
6B 下板
6C 転動体
A1 すべり接触部
A2 ころがり接触部
C チャンバ
G グリース
D メカニカルダンパ
M 真空装置
P 真空ポンプ
PS 吸気口部
TP ターボ分子ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルダンパを介して真空装置のチャンバに接続される真空ポンプの防振構造であって、
前記メカニカルダンパは、大気と真空の境界を維持する筒状のベローズと、ベローズの両端に取り付けたフランジ部と、その両端のフランジ部間に介在させた筒状の振動減衰部材とを備え、前記一方のフランジ部を前記チャンバに接続し、前記他方のフランジ部を前記真空ポンプの吸気口部に接続した構造からなり、
前記両端のフランジ部のうち少なくともいずれか一方のフランジ部と前記振動減衰部材との間に、低摩擦部材を介在させ、この低摩擦部材を介して前記フランジ部と振動減衰部材とが振動のエネルギーによって相対的に真空ポンプ径方向にずれる自由度を備えるように構成したこと
を特徴とする真空ポンプ防振構造。
【請求項2】
前記低摩擦部材は、前記フランジ部と前記振動減衰部材との間にすべり接触部を形成すること
を特徴とする真空ポンプ防振構造。
【請求項3】
前記低摩擦部材は、前記フランジ部と前記振動減衰部材との間に転がり接触部を形成すること
を特徴とする真空ポンプ防振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−144739(P2010−144739A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63983(P2007−63983)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(598021579)エドワーズ株式会社 (44)
【Fターム(参考)】