説明

真空処理装置

【課題】発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を常時効率よく冷却することができ、メンテナンスに手間がかからない真空処理装置を提供することである。
【解決手段】真空槽1の床に敷設された軌道3に沿わせた凹溝9の底に設けた磁性体の受熱部1bと、これと対向するように移動体としてのロボット2側に設けた放熱部2bとの間に満たした磁性流体11を、放熱部2bに設けたリニアモータの2次磁極としての永久磁石4と受熱部1bの磁性体の間に発生する磁束に吸着して、受熱部1bと移動体側の放熱部2bとの間に保持することにより、放熱部2bの熱を磁性流体11を介して受熱部1bに伝達して、真空槽1内で移動する移動体を常時効率よく冷却でき、かつ、メンテナンスに手間がかからないようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を備えた真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等の精密部品の製造装置や検査装置には、真空槽内でロボットや搬送台等の移動体を、モータ等の駆動装置によって移動させ、ワークの組立や検査等を行う真空処理装置が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1に記載されたものでは、ロボットを支持する支持台をリニアモータによって移動させるようにしている。また、特許文献2に記載されたものでは、作業テーブルを超音波モータで移動させるようにしている。なお、ここで言う真空槽は、内部の気圧が大気圧よりも低く設定された広義の真空槽とする。
【0003】
このような真空槽内で移動するロボットや搬送台等の移動体には、外部から電力を供給されるアクチュエータ用の電磁石コイルや圧電素子、制御用の回路基板等によって発熱する発熱源を有するものがある。このような真空槽内の移動体の発熱源から発生する熱は、空気が十分に存在する大気中とは異なり、空気中へあまり拡散されないので、移動体が異常に高温となる。このため、移動体に組み込まれた電気部品や移動体を支持する軸受部品等が早期に劣化する問題がある。延いては、これらの移動体と接触するワークも熱影響によって不良品となる恐れがある。
【0004】
このような発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を冷却する手段としては、真空槽よりも高い気圧で移動体の発熱源を機密に収容する容器を設け、発熱源の発熱で温度上昇した容器内の気体を、これよりも温度の低い気体と交換する交換機構を設けたもの(例えば、特許文献1参照)、移動体の発熱部と真空槽に設けた放熱部を金属ベルト等の伝熱手段で連結し、発熱部で発生した熱を放熱部まで熱伝導させるもの(例えば、特許文献2参照)、および、移動体の発熱部と真空槽に設けた放熱部をループ細管で連結し、ループ細管を循環する作動媒体によって、発熱部で発生した熱を放熱部まで搬送して外部に放熱するもの(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−37090号公報
【特許文献2】特開2006−288188号公報
【特許文献3】特開2006−246643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された真空処理装置は、移動体の発熱源を収容する容器を所定の位置に移動させて、気体を交換する交換機構と接続する必要があり、移動体を常時冷却することができないので、移動体を交換機構から離れた位置に長時間移動させることができない問題がある。
【0007】
特許文献2に記載された真空処理装置は、移動体の発熱部を常時冷却することはできるが、移動体の移動距離が長くて、伝熱手段の長さが長くなると、その熱抵抗が大きくなり、熱伝導による放熱効率が低下する問題がある。また、金属ベルト等の伝熱手段も、移動体の移動に伴って屈曲状態が繰り返し変化するので疲労破壊する恐れがあり、メンテナンスに手間がかかる。
【0008】
特許文献3に記載された真空処理装置も、移動体の発熱部を常時冷却することはできるが、移動体の移動に伴ってループ細管の屈曲度合いが繰り返し変化し、ループ細管が疲労によって損傷する恐れがあり、メンテナンスに手間がかかる問題がある。また、真空槽内に張り渡されたループ細管が、ワークの組立や検査の邪魔になる問題もある。
【0009】
そこで、本発明の課題は、発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を常時効率よく冷却することができ、メンテナンスに手間がかからない真空処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は、発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を備えた真空処理装置において、前記真空槽の内面に、前記移動体の移動経路に沿わせて磁性体で形成された受熱部を設け、前記移動する移動体側の前記受熱部と対向する部位に、前記発熱源から発生する熱を放熱する放熱部を設けて、該放熱部に磁石または磁石とヨークを設け、前記対向する受熱部と放熱部との間に磁性流体を満たして、該磁性流体を介して前記放熱部の熱を前記受熱部に伝達し、前記移動体を冷却する構成を採用した。
【0011】
すなわち、真空槽の内面に移動体の移動経路に沿わせて設けた磁性体の受熱部と、これと対向するように移動体側に設けた放熱部との間に満たした磁性流体を、放熱部に設けた磁石または磁石とヨークと受熱部の磁性体の間に発生する磁束に吸着し、移動体側の放熱部と一緒に移動させて受熱部との間に保持することにより、放熱部の熱を磁性流体を介して受熱部に伝達して、真空槽内で移動する移動体を常時効率よく冷却でき、かつ、メンテナンスに手間がかからないようにした。なお、真空槽の内面の受熱部に伝達された熱は、受熱部を真空槽の外面に露出させたり、受熱部と真空槽の外部との間に熱交換手段を設けたりすることにより、容易に外部へ放出することができる。
【0012】
前記磁性流体は、炭化水素系油、エステル系油、フッ素系油等のベース油中に、マグネタイト、マンガン亜鉛フェライト等の強磁性微粒子を分散させた磁性コロイド溶液であり、液体でありながら磁石に引き寄せられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る真空処理装置は、真空槽の内面に移動体の移動経路に沿わせて設けた磁性体の受熱部と、これと対向するように移動体側に設けた放熱部との間に満たした磁性流体を、放熱部に設けた磁石によって、磁性体の受熱部と移動する移動体側の放熱部との間に保持することにより、放熱部の熱を磁性流体を介して受熱部に伝達するようにしたので、真空槽内で移動する移動体を常時効率よく冷却でき、かつ、メンテナンスに手間がかからないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】真空処理装置の実施形態を示す縦断正面図
【図2】図1の横断平面図
【図3】(a)は図1の移動体の近傍を拡大して示す縦断正面図、(b)は(a)のIIIb−IIIb線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この真空処理装置は、図1および図2に示すように、大気圧よりも気圧が低く設定された真空槽1内で、移動体としてのロボット2とその搬送台2aをリニアモータによって移動させるものであり、図示は省略するが、ロボット2には発熱源となるアクチュエータ部品や制御用部品等が組み込まれている。搬送台2aは、真空槽1の床に敷設された直線状の軌道3に直動軸受3aで支持されている。搬送台2aの下面には発熱源から発生する熱を放熱する放熱部2bが設けられており、その下側にリニアモータの2次磁極となる永久磁石4が取付けられている。また、真空槽1の外側には、搬送台2aの移動位置を制御する制御装置5と、軌道3と平行に延びるボールネジ6が設けられ、そのねじ軸6aに螺着されたナット6bに、リニアモータの電機子7が2次磁極の永久磁石4と対向するように取付けられており、ボールネジ6がモータ6cで回転駆動されると、電機子7はナット6bと一緒にねじ軸6aに沿って移動する。なお、真空槽1には、ワーク等を搬入、搬出するゲート1aが左右の2箇所に設けられ、搬送台2aには、その移動位置を検出するための位置センサ8が取付けられている。
【0016】
前記制御装置5は、位置センサ8で検出された搬送台2aの移動位置に基づいて、ボールネジ6とリニアモータの作動を制御する。位置センサ8は、光スイッチ、光波距離計、磁気センサ、レゾルバ等とされ、真空槽1の内部から外部に向けて搬送台2aの位置情報を送信する機能を有する。制御装置5は、位置センサ8の検出出力に基づいて、ボールネジ6のモータ6cを駆動して、ナット6bに取り付けられたリニアモータの電機子7を移動させるとともに、電機子7の磁極を切り換えて、2次磁極の永久磁石4を電機子7に追随させ、永久磁石4が取り付けられた搬送台2aを所望の位置に移動させる。
【0017】
図3(a)、(b)に示すように、前記真空槽1の床には、搬送台2aの2本の軌道3に沿ってその間で延びる凹溝9が設けられ、この凹溝9の底に、搬送台2aの下面に設けられた放熱部2bと対向するように、磁性体の鋼板で形成された受熱部1bが設けられている。また、凹溝9部分の床の外側面には、受熱部1bが受ける熱を冷却する冷却デバイス10が設けられている。この冷却デバイス10には、冷却ファン、ペルチェ素子、ヒートパイプ、冷凍機、冷却フィン等が用いられる。これらの冷却デバイス10の種類によっては、その配置位置は必ずしも凹溝9部分の外側でなくてもよいが、冷却効率を高めるためには、凹溝9部分の近傍にあることが望ましい。また、受熱部1bを熱伝導体で冷却デバイス10に接続してもよい。
【0018】
前記対向する放熱部2bと受熱部1bの間には磁性流体11が満たされている。この磁性流体11は、フッ素系油のベース液中に、マグネタイトの強磁性微粒子を分散させた磁性コロイド溶液であり、2次磁極の永久磁石4と受熱部1bの磁性体の間に発生する磁束に吸着され、搬送台2aと一緒に移動する放熱部2bと受熱部1bの間に保持される。したがって、放熱部2bの熱が磁性流体11を介して受熱部1bに伝達され、移動するロボット2と搬送台2aを常時冷却することができる。なお、フッ素系油は飽和蒸気圧が小さいので、高真空の真空槽中でも蒸発して真空度を低下させる恐れはない。
【0019】
上述した実施形態では、磁性流体をベース油としてのフッ素系油に、強磁性微粒子としてのマグネタイトを分散させたものとしたが、ベース油は炭化水素系油、エステル系油等とすることもでき、強磁性微粒子はマンガン亜鉛フェライト等とすることもできる。
【0020】
上述した実施形態では、移動体をリニアモータで移動させ、磁性流体をリニアモータの2次磁極となる永久磁石と受熱部の磁性体の間に発生する磁束に吸着するようにしたが、移動体は回転モータ等の他の駆動手段で移動させることもできる。また、この駆動手段が、磁性流体を引き寄せる永久磁石や電磁石等の磁石のないものである場合は、別途の磁石または磁石とヨークを放熱部に設けるとよい。
【0021】
上述した実施形態では、真空槽の床に凹溝を設け、凹溝の中に磁性流体を満たしたが、この凹溝を省略して、平坦な床面上で、対向する放熱部と受熱部の間で磁性流体を満たすこともできる。また、真空槽の床上で放熱部と受熱部を対向させるようにしたが、放熱部と受熱部を真空槽の壁の内側で対向させることもできる。
【0022】
上述した実施形態では、搬送台の軌道を直線状のものとしたが、搬送台の軌道は湾曲または屈曲して延びるものであってもよい。
【符号の説明】
【0023】
1 真空槽
1a ゲート
1b 受熱部
2 ロボット
2a 搬送台
2b 放熱部
3 軌道
3a 直動軸受
4 永久磁石
5 制御装置
6 ボールねじ
6a ねじ軸
6b ナット
6c モータ
7 電機子
8 位置センサ
9 凹溝
10 冷却デバイス
11 磁性流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱源を有し、真空槽内で移動する移動体を備えた真空処理装置において、前記真空槽の内面に、前記移動体の移動経路に沿わせて磁性体で形成された受熱部を設け、前記移動する移動体側の前記受熱部と対向する部位に、前記発熱源から発生する熱を放熱する放熱部を設けて、該放熱部に磁石または磁石とヨークを設け、前記対向する受熱部と放熱部との間に磁性流体を満たして、該磁性流体を介して前記放熱部の熱を前記受熱部に伝達し、前記移動体を冷却するようにしたことを特徴とする真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−74145(P2013−74145A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−212454(P2011−212454)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000002059)シンフォニアテクノロジー株式会社 (1,111)
【Fターム(参考)】