説明

眼科用器具製造のための金型

目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品が開示され、該金型組立品は、結合可能な一対の金型部品(30、40)を含み、該金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂から作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、コンタクトレンズ、眼内レンズ、および他の眼科用製品などの眼科用器具製造のための金型に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ソフト(ヒドロゲル)コンタクトレンズなどの眼科用器具の製造に用いられる金型は、多様な硬質熱可塑性樹脂から作製されている。例えば、米国特許第5,540,410号明細書および第5,674,557号明細書には、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンのアクリロニトリルおよび/またはブタジエンとのコポリマー、ポリメタクリル酸メチルなどのアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ナイロンなどのポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびそれらのコポリマーなどのポリオレフィン、ポリアセタール樹脂、ポリアクリルエーテル、ポリアリールエーテルスルホン、ならびにフッ素化エチレンプロピレンコポリマーおよびエチレンフルオロエチレンコポリマーなどの種々のフッ化材料から作製される半割金型が開示されている。
【0003】
米国特許第4,661,573号明細書には、フルオロシリコーンコポリマーの連続装用レンズへの加工のため、テフロン(Teflon)(登録商標)ポリマーで被覆された金型表面を有する、ポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロン、テフロン(登録商標)、ガラス、またはアルミニウムから形成される金型が開示されている。
【0004】
ソフトコンタクトレンズの製造業者は、レンズを作製するために用いられる金型が十分に安価であれば、金型からレンズを製造した後、その金型を廃棄する方が、再使用するために金型を洗浄するよりも経済的であることを見出してきた。ポリプロピレンは、最小のコストで廃棄することができる金型を作製するために用いられている安価な樹脂の良い例である。ポリプロピレンの別の利点は、多くの樹脂と違って、ポリプロピレンがコンタクトレンズを作製するために用いられるモノマーとの相互作用に耐えうることである。化学反応に耐える能力は、レンズおよび金型が互いに付着することを防止し、レンズ製造後のそれらの分離を単純化する。
【0005】
しかし、これらの利点にもかかわらず、プロピレンレンズ金型には、いくつかの公知の不具合な点もある。その一つは、ポリプロピレンの相対的に低い寸法安定性である。米国特許第5,674,557号明細書に述べられているように、ポリプロピレンは、融解生成物から冷却する間に部分的に結晶化し、従って、収縮しやすく、射出成形後の寸法変化を制御するうえで困難が生じる。寸法安定性を改善するために、製造業者はポリプロピレンレンズ金型をより厚くすることができる。しかし、より厚いポリプロピレン金型はより大きな安定性を有することができるが、一方で、それらは追加の冷却時間も必要とする。このより厚い金型を冷却するために必要とされる追加の時間は、機械当り、単位時間当りに作製することができる金型数を低下させる。さらに、より厚く、従ってより大きなポリプロピレン金型は、機械当りの金型数を制約する可能性があり、それによって、製品処理能力が低下する。最後に、ポリプロピレンの相対的に不十分な寸法安定性は、一部のケースでは金型を数週間までの期間にわたり使用前に保存する必要が生じうると共に、多くのポリプロピレン金型が、最終的にそれらがレンズ製造に不適となる程度まで、長期間にわたって寸法安定性を保持することができないという理由により、製造収率を制約する。
【0006】
相対的に不十分な寸法安定性を有することに加えて、ポリプロピレンには他の不具合な点もある。ポリプロピレンは光透過を低下させる半透明樹脂である。一般的に、ポリプロピレンでは、光の約10%のみが通過可能である。不十分な光透過性は重合速度を低下させる。さらに、一般的にポリプロピレン金型で経験される金型による酸素の吸収は、レンズ品質に影響を及ぼすおそれがある。吸収された酸素がレンズ成形中に外に拡散する場合、重合は影響を受ける可能性があり、レンズの表面品質が結果として損なわれるおそれがある。
【0007】
いくつかの代替樹脂はポリプロピレンよりも良好な寸法安定性および光透過性を提供する。例えば、ポリカーボネートおよびポリスチレンはより非晶質の樹脂であり、従って、ポリプロピレンよりも良好な寸法安定性を有する。さらに、これらのおよび他の「透明」樹脂は、一般に、光の少なくとも50%、多くの場合70%を超える部分を透過する。しかし、ポリカーボネートおよびポリスチレン樹脂はより良好な寸法安定性および光透過性を提供するけれども、それらは、多くのソフトコンタクトレンズ中に用いられるモノマー(例えば、N−ビニルピロリドンおよびN,N−ジメチルアクリルアミド)との化学的相互作用に対して脆弱である。レンズモノマーとレンズ金型間の化学的相互作用は、レンズおよび金型を互いに付着させるおそれがあり、最悪のシナリオにおいては、レンズおよび金型が恒久的に結合してしまう場合がある。さらに、化学的相互作用の影響を受けやすいことに加えて、多くの透明樹脂はポリプロピレンよりも高価であり、従って、廃棄するにはコストがかかりすぎる。
【0008】
ソフトコンタクトレンズを作製するための金型は、また、レンズの表面特性に影響する処理がなされている。例えば、米国特許第4,159,292号明細書には、プラスチック金型からのコンタクトレンズの離型を改善するために、プラスチック金型組成物用の添加剤としてのシリコーンワックス、ステアリン酸、および鉱油の使用が開示されている。米国特許第5,639,510号明細書には、親水性コンタクトレンズの成形において用いられるマルチパート金型の金型構成部品の相互の離型を支援するための、均一な層または極めて薄いフィルムもしくは皮膜の形状で表面に適用される界面活性剤が開示されている。用いることができる高分子界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートを挙げることができるが、これらは、金型の非光学的表面に適用されるが、金型の光学的表面はカバーしない。米国特許第5,690,865号明細書には、分子量5,000〜200,000を有するポリエチレンワックス、または分子量2,000〜100,000を有するシリコーンポリマーを含む、ワックス、石鹸、および油などの内部離型剤が開示されている。
【0009】
従って、目の中または上に置かれるコンタクトレンズおよび他の眼科用物品などの眼科用器具を製造するための改善された金型を提供するための必要性が引き続き存在する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一つの実施形態により、目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品が提供され、該金型組立品は、結合可能な一対の金型部品を含み、該金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を含む。
【0011】
本発明の第2実施形態により、目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品が提供され、該金型組立品は、結合可能な一対の金型部品を含み、該金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂から作製される。
【0012】
本発明の第3実施形態により、目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品を調製する方法が提供され、本方法は、少なくとも一つの前部および一つの後部金型部品を含む金型組立品の該部品の少なくとも一つを射出成形する段階を含み、該前部および一つの後部の金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を含む。
【0013】
本発明の第4実施形態により、目の中または上で用いる眼科用器具を成形する方法が提供され、本方法は、(a)眼科用器具製造用の、少なくとも一つの前部および一つの後部金型部品を含む金型組立品を提供する段階であって、該前部および一つの後部の金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を含む、段階、および(b)該金型組立品を用いて少なくとも一つの眼科用器具を鋳造成形する段階を含む。
【0014】
金型組立品を形成するうえで用いる、ポリマー主鎖と過酸化物官能基を有する1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂、またはそのグラフト化高分子製品は、一般的に金型として用いられてきているポリプロピレンよりも相対的に極性が高いと考えられる。従って、理論により拘束されようと望むものではないが、高分子樹脂のポリマー主鎖上の過酸化物官能基が、ポリプロピレンなどのポリオレフィンから形成される金型組立品よりも、金型組立品を相対的により滑らかにすると考えられる。従って、金型中に例えばシリコーンヒドロゲルを注入する場合、シリコーンヒドロゲル形成性モノマー混合物中の親水性モノマーを、鋳造成形工程中にレンズ表面に移動させることができ、それによって、レンズ表面を一層滑らかにし濡らすことができる。加えて、金型組立品中で形成される眼科用レンズは、金型から一段と容易に剥離することができ、それによって、改善された表面特性を有するレンズが得られると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態による代表的な金型組立品の概略分解図である。
【図2】コンタクトレンズを鋳造成形するために組み立てられた図1の金型組立品の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一つの実施形態は、目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品を対象とする。本発明のこの実施形態は、目の中または上に置かれる多様な眼科用器具、例えば、眼内レンズ、コンタクトレンズ、および治療薬送達装置などの成形に適用可能であるが、本発明は、とりわけ、ソフト(ヒドロゲル)コンタクトレンズなどのコンタクトレンズを鋳造成形するために有用かつ有利である。従って、一例として、本発明をコンタクトレンズの成形に関して本明細書において記載する。
【0017】
一般に、本発明の金型組立品は、少なくとも、結合可能な一対の金型部品を包含し、該金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂から形成される。本発明の金型組立品の代表的な例は、一般に、図1および2に金型組立品25として描かれる。一般的に、金型組立品は、表面31(これは成形レンズの後部表面を形成する)を規定する後部金型空洞を有する後部金型30と、表面41(これは成形レンズの前部表面を形成する)を規定する前部金型空洞を有する前部金型40とを包含する。金型部品が組み立てられたときに、金型空洞32は、その中で成形されるコンタクトレンズの所望形状に対応するこれら二つの規定表面間に形成される。図1および2に見られるように、前部金型部品40は、前部金型空洞規定表面41に対向した表面42、金型部品40のセグメント43を間に規定する表面41および42を包含する。金型40の対向表面42は、コンタクトレンズを鋳造するうえで重合性レンズ混合物に接触しない、すなわち、対向表面42は金型空洞32の一部を形成しない。
【0018】
本発明による金型組立品の金型部品の少なくとも一つ、すなわち、前部金型または後部金型は、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂から射出成形される。高分子樹脂は、少なくとも、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを包含する。一般に、高分子樹脂の主鎖を形成する高分子物質はポリオレフィンであることができる。ポリオレフィンは1以上のC2〜C20のα−オレフィンモノマーから製造することができる。C2〜C20のα−オレフィンモノマーの代表的な例として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、4−フェニル−1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、6−フェニル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、および1−エイコセンなど、およびそれらの混合物などの直鎖および分岐鎖アルファオレフィン、ならびにヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、フルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、3−フルオロプロペン、トリフルオロエチレン、および3,4−ジクロロ−1−ブテンおよびそれらの混合物などのハロゲン置換直鎖および分岐鎖アルファオレフィンが挙げられるがそれらに限定されない。
【0019】
本発明において種々のポリオレフィンを用いることができるが、高分子樹脂の主鎖を形成する好ましいポリオレフィンはポリプロピレンである。ポリプロピレンホモポリマーは約200,000〜約2,000,000の範囲にある重量平均分子量を有することができる。一例として、本発明を、ポリプロピレン主鎖であるポリマー主鎖に関して本明細書において記載する。
【0020】
一般に、高分子樹脂は、最初に、高分子樹脂の主鎖として用いられるポリプロピレン材料をラジカル形成手段にさらすことにより調製することができる。例えば、高分子樹脂は、最初に、ポリプロピレン材料を本質的に酸素なしの環境、すなわち、活性酸素濃度が例えば約0.004体積%以下で確立され保持されてポリプロピレンラジカルを形成する環境下で、高エネルギー電離放射線にさらすことにより調製することができる。電離放射線は、照射されるプロピレンポリマー材料の塊を所望の程度透過するのに十分なエネルギーを有する。電離放射線はあらゆる種類のものであってよいが、最も実用的な種類は電子線およびガンマ線である。好ましいものは、約500〜約4000キロボルトの加速電位を有する電子線発生機から発生する電子線である。満足の行く結果は、約0.1〜約15メガラッド(「Mrad」)、好ましくは約0.5〜約9.0Mradの電離放射線の照射量で得ることができる。
【0021】
用語「ラッド」は、通常、照射源には関係なく、被照射体グラム当り100エルグエネルギーの吸収をもたらす電離放射線の量として定義される。電離放射線からのエネルギー吸収は、周知の従来型の線量計、放射線感受性色素を含有するポリマーフィルムのストリップがエネルギー吸収検出手段である測定装置により測定される。従って、用語「ラッド」は、照射されるプロピレンポリマー材料の表面に置かれる線量計のポリマーフィルムのグラム当り100エルグエネルギー当量の吸収をもたらす電離放射線の量を意味する。
【0022】
ラジカルを含有する照射されたプロピレンポリマー材料は、次に、酸化処理段階にかけられて、過酸化ラジカル(すなわち、RCOO*)を含有するプロピレンポリマーが提供される。一般に、酸化処理段階は、例えば、約0.004体積%を超えるが約15体積%未満、好ましくは約8体積%未満、最も好ましくは約3体積%未満の範囲にある制御された量の活性酸素の存在下で、ラジカルを含有する照射されたプロピレンポリマー材料を、約25℃〜約140℃、さらに好ましくは約40℃〜約100℃、最も好ましくは約50℃〜約90℃の温度まで加熱することを含む。この望ましい温度までの加熱は、できるだけ速く、例えば、約10分未満で達成することができる。ポリマーを、次に、例えば約5〜約90分間にわたり選択された温度で保持して、酸素とポリマー中のラジカルとの反応の程度を増大させる。当業者により簡単に決めることができる保持時間は、一般的に、例えば、出発材料の特性、用いられる酸素濃度、放射線線量、および温度などの因子に応じて決まる。最大時間は、例えば、用いられている流動床の物理的制約により決まる。
【0023】
ラジカルを含有する照射されたプロピレンポリマー材料を特定の量の酸素にさらしながら、酸化処理段階を1段階として行うことができるか、または、ポリマーを2段階で、例えば、最初は約80℃、次に約140℃で加熱することができる。例えば、2段階での処理を行う一つの方法は、ポリプロピレンラジカルを制御された量の酸素の存在下T1で動作中の第1流動床アセンブリを通過させ、次に、第1段階と同じ範囲内の制御された量の酸素の存在下T2で動作中の第2流動床アセンブリを通過させることである。
【0024】
表現「活性酸素」は、ラジカルを含有する照射されたプロピレンポリマー材料と反応する形態にある酸素を意味する。それは、通常空気中に見られる酸素の形態である分子酸素を包含する。活性酸素含量の要求は、真空使用により、または、環境中の空気の一部または全部を例えば窒素またはアルゴンなどの不活性ガスにより置き代えることにより達成することができる。
【0025】
ポリマー上に形成される過酸化物基の濃度は、放射線線量および照射後ポリマーがさらされる酸素の量を変えることにより簡単に制御することができる。流動床ガス流中の酸素レベルは流動床に入口で空気を追加することにより制御される。空気は、ポリマー上の過酸化物基の形成により消費される酸素を補償するために定常的に追加されなければならない。流動化媒体は、例えば、窒素、または存在するラジカルに関して不活性であるあらゆる他のガス、例えば、アルゴン、クリプトンおよびヘリウムであることができる。
【0026】
次に、過酸化ラジカルを含有するプロピレンポリマーに、当該技術分野で公知の水素引き抜き反応を行って、プロピレンポリマー主鎖に化学的に結合した過酸化物種を提供することができる。あるいは、過酸化ラジカルを含有するプロピレンポリマーは過酸化ラジカルを含有する第2ポリマーと反応して、プロピレンポリマーに化学的に結合した過酸化物種を提供することができる。過酸化ラジカルを含有する第2ポリマーは過酸化ラジカルを含有する第1ポリマーと同じやり方で調製することができる。
【0027】
最後に、プロピレンポリマーに化学的に結合した過酸化物種を含有する当該プロピレンポリマーを熱処理にかけて、プロピレンポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を得る。熱処理に適した温度は、例えば、用いられる特定のプロピレンポリマーなどの因子により幅広く様々であってよく、約50℃〜約210℃の範囲にあることができる。プロピレンポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を提供するための反応スキームは、一般に、以下のスキームIに描かれる。
【0028】
【化1】

【0029】
一つの実施形態において、1以上のグラフトモノマーまたはポリマーを、次に、プロピレンポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂上にグラフト化することが可能である。一般に、高分子樹脂のプロピレンポリマー主鎖中にある、過酸化物官能基を有するペンダント基は、ラジカルの供給源として有利に機能する。このことは、高分子樹脂がエチレン性不飽和含有基と反応してグラフト化高分子製品を提供することを可能とする。高分子樹脂上にグラフト化することができる、適したグラフトモノマーおよびポリマーとして、エチレン性不飽和含有基、例えば不飽和カルボン酸(例えばメタクリル酸およびアクリル酸など)など;メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、およびメタクリル酸グリセリルなどの(メタ)アクリル酸置換アルコール;N−ビニルピロリドンなどのビニルラクタム;メタクリルアミド、およびN,N−ジメチルアクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド;ポリ(ビニルアルコール)などのビニルアルコール;酢酸ビニル、およびポリ(ビニルエステル)ポリマーなどのビニルエステル;ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(Teflon)(登録商標))、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン/フッ化ビニリデンコポリマー、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、およびエチレン/テトラフルオロエチレンコポリマーなどのフッ素化ポリオレフィン樹脂;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、および超低密度ポリエチレン(VLDPE)などのポリエチレンポリマー、およびポリスチレン(PS)など、ならびにそれらの組合せが挙げられる。必要ならば、グラフト化ポリマー樹脂のビニルエステルグラフトモノマーおよびポリマー(例えば、ポリ(ビニルエステル)ポリマー基)のビニルエステル部位は、ナトリウムまたはカリウムアルコキシドなどのアルカリとの反応によりビニルアルコール部に鹸化することができ、それによりポリ(ビニルアルコール)ポリマー基を形成する。
【0030】
前述のグラフトモノマーおよびポリマーの高分子樹脂上へのグラフト化は、当該技術分野で公知の方法により達成することが可能である。本明細書において用いられる用語「グラフト化」は、グラフトモノマーまたはポリマーの、高分子樹脂のポリマー鎖への共有結合を意味する。グラフト化高分子製品は、必要に応じて、溶液中で、流動床反応器中で、または溶融グラフト化により調製することが可能である。一つの実施形態において、グラフト化高分子製品は、例えば、押出反応器、加熱溶融混合反応器、バンバリーミルなどの適した反応器中で、実質的に溶媒なしのグラフトモノマーおよび/またはポリマーの存在下で、未グラフト化高分子樹脂を溶融混合することによりポリマー溶融反応条件下で都合よく調製することが可能である。
【0031】
この実施形態において、高分子樹脂は、プロピレンポリマー主鎖上の過酸化物官能基がラジカルの供給源として有利に機能し、それによって、エチレン性不飽和含有グラフトモノマーおよびポリマーと反応するように熱処理を受ける。このグラフト重合反応はあらゆる適した温度で行うことが可能である。適した温度範囲は、例えば、グラフト化の望ましいレベル、用いられるモノマー(複数を含む)に対する温度関数としてのグラフト重合速度、などの因子に応じて決まる。例えば、適した温度は、約215℃〜約350℃の範囲にあることができる。しかし、当業者は、所定のグラフト化工程に対して適した温度範囲を容易に決めることができる。
【0032】
溶融反応を行うために、有効な割合のまたは大部分もしくはすべてのグラフトモノマーおよび/またはポリマーがポリマー上にグラフト化されたグラフト化高分子製品を生成するのに適した反応器運転条件を確立することが望ましい。グラフトモノマーおよび/またはポリマーは、2量体、オリゴマーもしくはホモポリマーグラフト部位を形成するかまたは独立したホモポリマーを形成するよりもむしろ、直接、高分子樹脂上にグラフト化される。
【0033】
例えば、適切な反応物質供給速度、および適切な反応器運転条件を選択することにより、望ましい品質および性能特性を示すグラフト化高分子製品を生成することが可能である。これらの条件として、中でも、グラフトモノマーおよびポリマーと高分子樹脂との比率、ならびに反応器の設計およびその運転条件が挙げられる。
【0034】
本発明による金型組立品の、金型部品の少なくとも一つ、すなわち、前部金型または後部金型は、ポリマー主鎖と過酸化物官能基を有する1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂、またはそのグラフト化高分子製品から射出成形される。他の金型部品、すなわち、後部金型または前部金型は、同じかまたは異なる高分子樹脂またはそのグラフト化高分子製品から射出成形することができる。一つの実施形態において、本発明の金型組立品の両方の金型部品を、上述したような同じ高分子樹脂から形成することができる。別の実施形態において、金型部品を、種々の量の高分子樹脂を用いて同じ高分子樹脂から形成することができる。あるいは、他の金型部品を、射出成形装置中で、ポリマー主鎖と過酸化物官能基を有する1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂またはそのグラフト化高分子製品とは異なる樹脂から射出成形することができる。他の樹脂の代表的な例として、熱可塑性樹脂、および透明樹脂などが挙げられるがそれらに限定されない。適した熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリスチレンなど、ならびにそれらの混合物などのポリオレフィンを主として含有するポリマーおよびコポリマーであることができる。適した透明樹脂は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエステル、ポリスルホン、ポリ(メタ)アクリレート、およびポリカーボネートなど、ならびにそれらの混合物であることができる。必要ならば、透明樹脂金型は当該技術分野で公知の皮膜組成物を用いて被覆することができる。透明樹脂は、一般に、ポリプロピレンよりも非晶質であり、従って一層寸法的に安定しているが、しかし、また、より大きな割合の化学光を透過することができる。
【0035】
他の金型部品は、酸素吸収性金型材料(例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン)と、少なくとも(i)ポリマー主鎖と該ポリマー主鎖に共有結合した1以上の置換または非置換環式オレフィン基とを含む酸素捕捉性ポリマーおよび(ii)酸素捕捉触媒量の遷移金属触媒を含有する酸素捕捉組成物とから作製されるものを包含する。本発明の関連で有用な酸素捕捉組成物、およびそれらの調製のための方法は、例えば、米国特許第7,097,890号明細書および米国特許出願公開第20060177653号明細書に記載されている。
【0036】
本発明の金型組立品は、例えば、ラジカル重合技術を用いる鋳造成形法により製造されるコンタクトレンズの表面品質を改善するために特に有用である。一般に、コンタクトレンズの組成物、成形法、および重合法は周知であり、本発明は、主として、表面特性の改善および外観欠陥頻度の低減を伴ったコンタクトレンズを実現するための金型組立品を形成することに関する。
【0037】
本発明の金型組立品は、例えば、従来型のハード、ソフトおよび硬質のガス透過性レンズなどのすべてのコンタクトレンズで用いることができ、レンズを形成するために用いられるモノマー混合物の組成およびモノマーの種類は、決定的な要素ではない。本発明は、好ましくは、通常ヒドロゲルレンズ(例えばシリコーンヒドロゲルレンズ)と呼ばれるものなどのソフトコンタクトレンズで用いられ、これらは、少なくともシリコーンおよび/または非シリコーンモノマー(例えば以下に限定されないがメタクリル酸ヒドロキシエチル、N−ビニル−ピロリドン、メタクリル酸グリセロール、メタクリル酸および酸エステル)から調製される。しかし、コンタクトレンズ作製上有用なポリマーを形成することができるモノマー混合物中に、レンズ形成性モノマーをあらゆる組合せで用いることが可能である。シリコーン部位を含有するものなどの疎水性レンズ形成性モノマーも含むことが可能である。レンズ表面での重合度および/または架橋密度が、すべてのコンタクトレンズにおいて、通常外観欠陥を示さないものにおいてさえも、改善されていると考えられる。従って、本明細書において用いられる用語「コンタクトレンズ」は、ハード、ソフト、および硬質のガス透過性コンタクトレンズおよび眼内レンズを含む。
【0038】
本発明の金型組立品を用いて有用なコンタクトレンズを形成する上で用いられるモノマー混合物は、また、当該技術分野で周知の架橋剤、強化剤、ラジカル開始剤、および/または触媒などを含むことができる。さらに、適した溶媒または希釈剤は、こうした溶媒または希釈剤が重合工程に悪影響を及ぼさないか、またはそれを妨害しないという条件で、モノマー混合物中に用いることができる。
【0039】
重合または硬化の方法は、本発明が当該コンタクトレンズ技術分野において周知であるラジカル重合システムに特に適していることを除いて、本発明の実施に対して決定的な要素ではない。従って、重合は用いられる特定組成物に依存する多様な機構により行うことができる。例えば、ラジカル重合技術である熱、光、X線、マイクロ波、およびそれらの組合せを、本発明において用いることができる。好ましくは、熱重合および光重合が本発明において用いられ、UV重合が最も好ましい。
【0040】
一般に、成形レンズは、重合性モノマーおよび/またはマクロマーなどの硬化性液体を本発明の金型組立品の金型部品の金型空洞中に配置し、液体を固体状態に硬化させ、金型空洞を開け、レンズを取り出すことにより形成される。レンズの水和などの他の処理段階は、その後、行うことができる。鋳造成形技術もまた周知である。一般に、従来型の鋳造成形技術は、形成されるレンズへ望ましい形状および表面構造を付与する所定構造の熱可塑性雄型および雌型半割金型を用いる。鋳造成形法の例は、米国特許第4,113,224号明細書、第4,121,896号明細書、第4,208,364号明細書、および第4,208,365号明細書に開示されており、これらの内容は参照により本明細書の一部とする。勿論、金型が熱可塑性物質から作製された場合、本発明と共に用いることができる多くの他の鋳造成形の教示内容が利用可能である。
【0041】
本明細書において開示される実施形態に対して種々の修正がなされることが可能であることは理解される。従って、上述の説明は、限定するものとして解釈されるべきではなく、単に好ましい実施形態の例示として解釈されるべきである。例えば、上述され、本発明を操作するための最善の様式として実施される機能は、説明目的のためだけである。他の配置および方法は、本発明の範囲および精神から逸脱することなく当業者により実施することが可能である。さらに、当業者は本明細書に付記する特徴および利点の範囲および精神内に留まる他の修正を思い描くであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品であって、該金型組立品は、結合可能な一対の金型部品を含み、該金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂から作製される、金型組立品。
【請求項2】
前記高分子樹脂の前記ポリマー主鎖がポリオレフィンを含む、請求項1に記載の金型組立品。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項2に記載の金型組立品。
【請求項4】
前記高分子樹脂の前記ポリマー主鎖がポリプロピレンを含む、請求項1に記載の金型組立品。
【請求項5】
エチレン性不飽和含有基が前記高分子樹脂にグラフト化されている、請求項1に記載の金型組立品。
【請求項6】
前記エチレン性不飽和含有基が、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸置換アルコール、ビニルラクタム、(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、ビニルエステル、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンポリマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の金型組立品。
【請求項7】
前記不飽和カルボン酸がメタクリル基またはアクリル基含有酸を含む、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸置換アルコールが、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリセリルおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項9】
前記ビニルラクタムがN−ビニルピロリドンである、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項10】
前記(メタ)アクリルアミドが、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項11】
前記ビニルアルコールがポリ(ビニルアルコール)を含む、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項12】
前記ビニルエステルが酢酸ビニルまたはポリ(ビニルエステル)ポリマーである、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項13】
前記フッ素化ポリオレフィン樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂である、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項14】
前記ポリエチレンポリマーが、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の金型組立品。
【請求項15】
結合可能な一対の金型部品のそれぞれが同じかまたは異なる高分子樹脂またはそのグラフト化高分子製品を含む、請求項5に記載の金型組立品。
【請求項16】
目の中または上で用いる少なくとも一つの眼科用器具製造用の金型組立品を調製する方法であって、少なくとも一つの前部および一つの後部金型部品を含む金型組立品の該部品を射出成形する段階を含み、該前部および一つの後部の金型部品の少なくとも一つが、ポリマー主鎖と、過酸化物官能基を有し該ポリマー主鎖に共有結合した1以上のペンダント基とを含む高分子樹脂を含む、方法。
【請求項17】
前記高分子樹脂の前記ポリマー主鎖がポリオレフィンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリオレフィンがポリプロピレンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記高分子樹脂の前記ポリマー主鎖がポリプロピレンを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
エチレン性不飽和含有基が前記高分子樹脂にグラフト化される、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記エチレン性不飽和含有基が、不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸置換アルコール、ビニルラクタム、(メタ)アクリルアミド、ビニルアルコール、ビニルエステル、フッ素化ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンポリマーおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記金型組立品は眼科用器具を作製するために一回用いられ、その後廃棄される、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
さらに、前記金型組立品を用いて少なくとも一つの眼科用器具を鋳造成形する段階を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項24】
前記鋳造成形段階が光硬化もしくは熱硬化のいずれかまたは両方を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記眼科用器具がコンタクトレンズである、請求項16に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2011−502061(P2011−502061A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531111(P2010−531111)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/077604
【国際公開番号】WO2009/055188
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(506076640)ボーシュ アンド ローム インコーポレイティド (99)
【Fターム(参考)】