説明

石英ガラス製ルツボの品質評価用試料およびその作製方法ならびにその試料を用いた評価方法およびその試料の作製装置。

【課題】石英ガラス製ルツボの品質評価用の試料およびその試料の作製方法とその試料を用いた品質等の評価方法およびその試料の作製装置とを提供する。
【解決手段】石英ガラス製ルツボの中心を含む方向にU型またはJ型に切出した一次試料を、該一次試料の切出し方向に垂直かつ該一次試料の厚み方向に切出した二次試料に、該石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残し、これら内壁面と外壁面の間に複数の切込みを入れることにより設けた複数の短冊状部分を有する品質評価用試料を作製し、評価に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度石英で作製されたルツボの品質、特性を評価する試料、その試料の作製方法、およびその試料の作製装置を提供し、また、ルツボ全体についての品質の評価方法を提供しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
今日のIT化社会を支えるエレクトロニクス技術、そこで使用される半導体デバイス等の製造にはシリコンウェーハが欠かせない。このシリコンウェーハの特徴の一つには、酸素析出物、転位、酸素積層欠陥などの微小欠陥がある。これらの微小欠陥は、デバイス・プロセスで発生する重金属汚染を捕獲する有益な効果がある一方、デバイス不良の原因にもなり得る。従って、デバイスの種類あるいは使用されるデバイス・プロセスに応じて、結晶中の酸素濃度は所定の濃度に調整される必要がある。また、ルツボの壁面内部、特に、内表面の気泡の分布状態や不純物のばらつきによっては、単結晶シリコンをルツボから引き上げる際に、ルツボ表面の石英片が剥離したり、石英ガラス製ルツボの内表面に存在する不純物が溶解してシリコン中に拡散する等の不具合が生じる場合があり、単結晶シリコンの製造歩留まりが低下する原因となる。
【0003】
現在、石英ガラス製ルツボの製造は、主にアーク溶融法によって製造されている。このアーク溶融法は、カーボン製の回転するモールドの内表面に、原料となる石英粉をモールド壁上方から供給し、カーボン製モールド壁全体に充填する。ついで、モールドの回転による遠心力によって所定厚みとして、石英粉成形体を形成し、モールドの内側上方に設置した電極のアーク放電によって石英粉を加熱溶融してガラス化し、石英ガラスルツボを製造する方法(回転モールド法)である。
上記製造方法に際して、ガラス層の内壁面側の気泡を除去するため、モールド側から吸引して石英粉成形体を減圧脱気しながら石英粉を溶融し、気泡を外壁面側に移動する方法が行われている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
上記したように、気泡を外壁面側に移動して、内表面近傍に全く気泡の存在しない石英ガラス製ルツボを製造することが試みられ、様々な工夫がなされてはいるが、その実現は難しい。そのために、気泡の段階的な状態管理、すなわち、上記した脱気の製造条件の管理のためには、気泡の分布状態を、気泡がルツボの内壁面から外壁面の厚み方向に向かって移動する部位で、厚み方向に向かって段階的に把握する必要がある。
【0005】
従来、気泡の分布状態を検査する方法は、この石英ガラス製ルツボの一部を切り欠いて、断面を肉眼で観察することにより気泡の有無を検査していた。しかし、石英ガラス製ルツボの一部を切り欠いたものは、ルツボ全体を代表しているとはいえず、また、石英ガラス製ルツボの気泡移動部位で段階的に気泡の分布状態を検査することはできなかった。
【0006】
さらに、上記のような破壊検査において、石英ガラス製ルツボを切り欠いた場合、石英ガラスは通常のガラスに比べて細かい破片が生じやすく、検査用のサンプルをハンドリングするために、厚手の保護手袋を用いなければならず、作業性が悪いという問題があった。
【0007】
これに対し、非破壊の検査方法も種々提案されている。例えば、特許文献3には、光学的検出手段を用いて、器壁の深さ方向に焦点を移動させることにより、ルツボの内表面近傍に含有される気泡を走査によって観察し検出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−191986号公報
【特許文献2】特開平10−025184号公報
【特許文献3】特公平8−13340号公報
【特許文献4】特開平11−228283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した特許文献3では、石英ガラス製ルツボの内表面とその深さ方向に照射光を与えて、非破壊の光学的方法を用い気泡を検出する方法を提案しているが、検出した気泡の認識方法にまでは言及していない。すなわち、気泡の存在を光学的方法で検出した後に、それが確かに気泡であるか否かという判断時において、気泡以外のものを気泡として検出している可能性が否定できない。
【0010】
また、特許文献4には、光学カメラを搭載した非破壊装置が提案されているが、今日では、石英ガラス製ルツボは大型化しているため、従来の非破壊検査方法では、設備を大型化する必要がある。それでもなお、ルツボの内壁面から外壁面に向かっての厚み方向の特性が直接確認できないという問題が残っている。
【0011】
さらに、従来の破壊検査法を用いた場合は、上述したように、サンプリングの代表性に問題があり、また、保護手袋を用い、かつ80kgを超える重量物である石英ガラス製ルツボをハンドリングしなければならないということから、石英ガラス製ルツボの任意の部位の品質評価用の試料、特に、気泡が外壁面に移動する部位からの品質評価用の試料を一つの試料として切出すことは極めて困難であった。
【0012】
本発明は、上記現状に鑑み開発されたもので、従来の検査方法では困難であった大型の石英ガラス製ルツボ(直径:500mm以上)に対応し、かつルツボの内壁面から外壁面に向かっての厚み方向に、精度の良い検査が可能な石英ガラス製ルツボの品質評価用の試料を、その試料の作製方法およびその試料の作製装置と共に提供し、さらに、ルツボ全体にわたり所望の位置において評価試料のサンプリングが簡単かつ適切に行なえる品質の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、従来、一部の切り欠きを使用していた試料の形状から、種々の検討を行い、試料の形状、切断方法等を検証すると同時に、厚手の保護手袋でもハンドリングの容易な形状を検討した。
その結果、最も効率良く破壊検査を行うために、試料の形状のみならず、試料の切り出し方法およびその作製のための装置を見出すと共に、その試料を品質等の評価方法に適用することで、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、上記知見に基づく本発明の要旨構成は次のとおりである。
(1)石英ガラス製ルツボの品質評価用試料であって、該石英ガラス製ルツボの中心を含む向きにU型またはJ型に切出した一次試料を、該一次試料の切出し方向に垂直でかつ該一次試料の厚み方向に切出した二次試料に、該石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残し、これら内壁面と外壁面の間に、複数の切込みを入れることにより設けた複数の短冊状部分を有することを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料。
【0015】
(2)石英ガラス製ルツボの品質評価用試料として、該石英ガラス製ルツボから、中心を含む方向にU型またはJ型に切出して一次試料を作製し、ついで、該一次試料の切出し方向に垂直でかつ該一次試料の厚み方向に切出して二次試料を作製し、さらに、上記石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残して、これら内壁面と外壁面の間に複数の切込みを入れることにより、複数の短冊状部分を形成して品質評価用試料とすることを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料の作製方法。
【0016】
(3)前記(1)に記載の品質評価用試料を、石英ガラス製ルツボの直胴部、コーナー部および底部の少なくとも3箇所から切出し、これらの各試料のそれぞれについて、各短冊状部分を検査して、石英ガラスの各部位の厚み方向の品質を評価することを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価方法。
【0017】
(4)前記(1)に記載の品質評価用試料の作製装置であって、装置本体に固定された切断刃と、該品質評価用試料の保持治具と、該保持治具を固定して切断刃に対して進退移動させる手段と、該保持治具を横移動させる手段とを備え、該保持治具の進退移動手段および横移動手段を介して、被切断材に対し、間欠的な切込みの導入を可能ならしめたことを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料作製装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明に従う方法および装置を用いることで、石英ガラス製ルツボの厚み方向の、気泡分布、不純物分析、OH基測定、写真等、さまざまな品質を、安全、簡単に精度良く測定する品質評価用試料を作製することができる。また、本発明に従う品質評価方法によれば、石英ガラス製のルツボ全体にわたって、上記したさまざまな品質を、石英ガラス製ルツボの所望の部位および気泡移動部位等において、精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】石英ガラス製ルツボおよびその断面図である。
【図2】U型またはJ型に切出した一次試料の模式図である。
【図3】本発明に従う二次試料、および複数の切込みが入った試料の模式図である。
【図4】本発明に従う石英ガラス製ルツボの品質評価用試料作製装置の模式図である。
【図5】本発明に従う品質評価用試料の保持治具の図である。
【図6】本発明に従う品質評価用試料の作製手順を示す図である。
【図7】本発明に従う品質評価用試料の図である。
【図8】本発明に従う品質評価用試料を用いた各部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明は、石英ガラス製ルツボの品質評価用試料を、石英ガラス製ルツボの中心を含む方向に、U型またはJ型に切出した一次試料を作製し、ついで、一次試料の切出し方向に垂直かつ一次試料の厚み方向に切出した二次試料を作製して、この二次試料に、石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残し、これら内壁面と外壁面の間に複数の切込みを設けた複数の短冊状部分を有するものとするところに特徴がある。
【0021】
上記した品質評価用試料を、その作製方法と共に説明する。
まず、本発明に使用する石英ガラス製ルツボは、CZ法に使用する従来公知のものいずれもが使用可能であるが、特に、直径:500mm以上の大型のもであって、図1に示すようなものが好適に使用できる。図中、1は石英ガラス製ルツボ、2は石英ガラス製ルツボの開口縁部(リム部)、3は直胴部、4はコーナー部、5は底部である。
【0022】
図1には、本発明に使用できる石英ガラス製ルツボであって、上面に開口した縁部を有する円筒状の直胴部3、曲率が比較的大きいコーナー部4および直線または曲率が比較的小さい曲線からなる底部5の一例が、底部5の中心部を含む断面で図示されている。なお、本発明において、コーナー部4とは、その曲線の接線がルツボの直胴部3と重なる点から、底部5と共通接線を有する点までの部分を指している。
【0023】
図1に示したような石英ガラス製ルツボを、図2に示すようにU型またはJ型に切出す。特に、ルツボの底部中心を通るU型またはJ型に切り出すことで、上記した直胴部3、コーナー部4および底部5が一度にサンプリングでき、ルツボの任意の位置でありながら、同一断面方向に対してサンプリングすることが可能となる。また、この切り出し方法は、ルツボの開口縁部を下にして固定し、市販のカッター、例えば、XYZ軸方向に可動するダイヤモンドカッター等を使用して切り出すことができる。
【0024】
ついで、図3(a)に示すように、立方体状の二次試料の形にさらに切出し(またはサンプリングという)、最後に図3(b)に示すような複数回の切込みを入れ、品質評価用の試料とする。このような立方体状の二次試料の形にさらに切出すことで、石英ガラス製ルツボの同じ部位の内壁面と外壁面を有する品質評価用の試料が作製できる。
また、二次試料に短冊状の切込みを入れることによって、試料一つで、ルツボの内壁面から外壁面に向かっての厚み方向に生じる気泡等の一連の変化が段階的に観察できる石英ガラス製ルツボの品質評価用の試料が作製できるのである。
【0025】
この切込みによる板状に残った短冊状の部分(またはプレートという)の数は、評価対象の石英ガラス製ルツボの厚みや、評価項目等に応じて任意の数にすることができる。
また、二次試料のサンプリング位置は、石英ガラス製ルツボに特殊層が設けられている場合は、その場所から切出すこともできる。さらに、二次試料の大きさは、1辺がルツボの厚みとなるが、これは、10〜15mm程度である。残りの2辺は、特に制限はないが、40mm×15mm程度が好ましい。
【0026】
上記した特殊層というのは、近年の大型化した単結晶シリコン(300mm径)を引上げる時に、ネッキングを形成するところからショルダー部を形成するところまでの間で、溶融シリコンの湯面が数分〜数時間程度波立つ(振動する)という現象が起こるが、その対応策として、湯面振動を防止するための領域として設けられたもののことである。
【0027】
その1例としては、気泡を内在する石英からなる特殊層である。この場合の気泡とは、光の散乱を用いて、肉眼で検出できる程度の気泡を意味する。この時の気泡の平均径が30μm程度であり、存在密度としては、40個/cm2程度である。また、その領域の厚みは、内壁面から2mm程度であり、その高さ方向の幅は、40mm程度である。
【0028】
本発明で、二次試料に切り込みを形成する方法は、従来公知の石英ガラスの切断機を用いることができるが、特に、固定されたダイヤモンドの切断刃と、被切断材である石英ガラス製ルツボの品質評価用の試料の保持治具と、この保持治具を切断刃に対して進退移動する手段と、進退移動ごとに横移動する手段とを備えることが肝要である。
【0029】
上記二次試料に切り込みを形成する際に、本発明にかかる二次試料の保持治具を用いることで、保護手袋をしていても、作業性を損なうことなく、簡単かつ正確に、気泡や異物のある部位を狙って品質評価用試料を作製することができる。
また、従来の切出し方法で、石英ガラス製ルツボの石英ガラスに切込みを入れると、内壁面および外壁面近傍では、いわゆる試料が細かくゆれる「びびり」という現象が起こりやすく、内壁面および外壁面近傍を同時に薄く切出すことは極めて難しかった。しかし、本発明にかかる二次試料の保持治具を用いると、簡単かつ容易に、石英ガラス製ルツボの内壁面および外壁面の近傍を、しかも一つのサンプルで同時に薄く切出すことができる。
さらに、従来では、間接観察しかできなかった石英ガラス製ルツボの内壁面から外壁面の中間部分の任意の位置を、直接に観察することができる。
【0030】
また、本発明においては、石英ガラス製ルツボの品質評価の際に、上記のようにして作製した品質評価用試料をそのまま利用することができる。そうすることによって、前述したとおり、試料一つで、ルツボの内壁面から外壁面に向かっての厚み方向に生じる気泡等の一連の変化が段階的に観察できるようになる。また、短冊状となっていない部分を利用し、検査機器等に短冊状となっていない部分を装着することで、安全かつ効果的に種々の検査を行うことができる。
なお、より精密な評価をする場合は、短冊状のプレートを一枚ずつ分離して、プレート単位で評価することもできる。
【0031】
この分離作業に際しても、上述した品質評価用試料の保持治具を用いて、品質評価用試料を固定し、例えば、短冊状の箇所を折るだけで、保護手袋をしていて動きが制限されている作業者でも、簡単かつ正確に、所望の厚みの検査用プレートを作製することができる。
【0032】
本発明では、図1に示した直胴部3、コーナー部4および底部5の各部より、品質評価用試料をサンプリングすることが望ましいが、ルツボ全体について評価したいときは、少なくとも各部から一つずつ、上記した二次試料をサンプリングすることが必要である。というのは、上記した3箇所が、石英ガラス製ルツボにとっては、最も性質が変化しやすく、またそれぞれに、気泡分布等の傾向が異なる状態となっている場所だからである。
【0033】
本発明では、石英ガラス製ルツボの品質評価用試料を作製する装置として、図4に示すような装置を用いることができる。図中、11は石英ガラス製ルツボの品質評価用試料作製装置全体、12は試料保持治具、13はダイヤモンドの切断刃、14は進退移動する手段、および15は進退移動ごとに横移動する手段である。
【0034】
同図を用いて本発明にかかる品質評価用試料の作製装置を説明する。
試料保持治具12は、石英ガラスを保持するのに好適なステンレス等を用いて作ることが望ましい。また、試料保持治具12に二次試料を固定する際は、図5に示すように、調整ねじを用い、二次試料と接触する面の幅が調整できる機能を有していることが望ましく、特にワンタッチクランプ等の簡便な調整ねじを用いることが望ましい。この機能を有することにより、厚手の保護手袋をしていても、簡単かつ安全に、二次試料を試料保持治具12に固定することができる。なお、二次試料との接触面には、ゴム等を貼り付けると滑らずより安全に、本発明にしたがう品質評価用試料が作製できる。
試料保持治具12の大きさは、二次試料の大きさに応じて作製すればよい。
【0035】
ダイヤモンドの切断刃13は、従来公知の石英を切断する刃であれば、そのいずれもが使用することができるが、特にその刃の厚みは、切断刃の切込みによる板状に残った短冊状の部分の厚みに応じて設定するのが有利であるが、0.6mm程度が好適である。
【0036】
進退移動する手段14は、従来公知の進退移動する手段、そのいずれもが好適に使用することができる。
進退移動ごとに横移動する手段15は、従来公知の進退移動ごとに横移動する手段、そのいずれもが使用することができるが、進退移動ごとに等間隔で横移動することが、プレートの厚みが揃うので好ましい。また、気泡や欠陥等の所望の位置があるときはその場所を残すように切込みを入れることができる。また、評価の目的によっては、個々のプレートの厚みを変えてもまったく問題はない。
【0037】
本発明では、例えば、図4の装置11を用い、前記した二次試料を図5に示した試料保持治具12によって、上記装置11に固定し、予め定めたプレートの厚みに応じて、ダイヤモンドカッター13で切込みを入れる。
ここで、プレートの厚みは、品質評価の正確性を考えると1mm程度が好ましく、切り込みの回数は、品質評価用試料の作製の効率を考えると3〜10回程度が好ましい。
【0038】
本発明に従う品質評価用試料を用いる石英ガラス製ルツボの評価項目としては、前述した各部(直胴部3、コーナー部4および底部5)において変化のある評価項目を好適に評価することが好適であるが、具体的には、気泡分布、不純物分析、OH基測定、断面写真等の評価項目があり、以下に、各項目について説明する。
【0039】
気泡分布
気泡分布の測定方法としては、従来公知の技術がいずれも好適に使用でき、前掲した特許文献1,2等に記載の技術にも、個々のプレートを分離することで適用することができる。
また、本発明の方法に従えば、個々の品質評価用試料に対応して、石英ガラス製ルツボの同一部位の厚み方向に対する一連の気泡分布のデータが、正確かつ段階的に取得できるため、ルツボ作製時の減圧脱気等の製造条件の管理やルツボの品質管理に用いるだけでなく、新規のルツボを開発等する際のデータ取り等にも使用することができる。
【0040】
不純物分析
不純物分析の測定方法としては、従来公知の技術がいずれも好適に使用でき、誘導結合プラズマ質量分析法 ( ICP-MS )、エネルギー分散型X線分析法( SEM-EDX )、原子吸光分析法(AAS)等が好適に利用可能である。
その測定元素は、Na,K,Li,Fe,Cu,Mg,Ca,Ti等である。ここで、本発明の方法に従えば、ルツボの厚み方向のデータが取得できるため、品質管理に用いるだけでなく、新規のルツボを開発等する際のデータ取り等にも使用することができる。
【0041】
また、ガラス中に有色系の異物が含まれている場合は、異物を含む部位を二次試料として切り出し、その部分を段階的に不純物分析を行うことで、混入した異物の成分を正確に把握し、その混入経緯の推定することにも役立つ。
【0042】
OH基測定
OH基測定の測定方法としては、従来公知の技術がいずれも好適に使用でき、特に、赤外線分光法等が好適に利用可能である。
【0043】
断面写真
本発明では、任意の厚みの試料が作製可能であるため、光を透過させる写真等も可能であり、そこからの画像解析等にも使用可能である。
【0044】
本発明では、内壁面と外壁面の間に短冊状の切込みを入れて、品質評価用試料を作製したが、内壁面と外壁面の方向に垂直にスリットを入た試料を作製することもできる。この場合、プレート1枚に内外壁面間の縦方向(石英ガラス製ルツボの開口部側から底部側へ向かう方向)の変異を1つの試料内に含むことができる。
【実施例】
【0045】
560mm径の高純度石英ガラス製ルツボを、図6に示す手順で、J型の一次試料、直方体状の二次試料、短冊状の切込みを設けた品質評価用試料とした。なお、短冊状部分を形成した品質評価用試料の作製においては、図4に示した品質評価用試料作製装置を用いた。
【0046】
図7に、本発明に従う品質評価用試料を試料保持治具12に固定した図を示す。
この品質評価用試料を用いて以下の試験を行った。なお、以下の実施例では、品質評価用試料からプレートを切り離して用いた例を示したが、切り離さなくても、同一部位の厚み方向に対する一連の気泡分布等のデータが、正確かつ段階的に取得できる。
【0047】
1.気泡分布
本発明に従う品質評価用試料を用いた気泡分布の測定結果を、表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
なお、サンプルは直胴部、コーナー部、底部の各部より行い、最終的に、それぞれ厚み方向に水平に1mm厚にスライスしたプレートとし、続けて表裏面を研磨機で精密研磨した。なお、プレートの枚数は、直胴部および底部が4枚、コーナー部が6枚とした。
これら研磨したサンプルを、光学顕微鏡を用いて撮影し、撮影した画像から画像処理ソフトで単位面積当たりに含まれる気泡の比率を算出した。
【0050】
2.不純物分析
本発明に従う品質評価用試料を用いた不純物分析を行った。直胴部および底部の深さ方向の不純物濃度分布の測定結果を、表2に示す。なお、プレートの枚数は、直胴部および底部とも6枚とした。
【0051】
【表2−1】

【表2−2】

【0052】
上記の不純物測定は、各々の層のサンプルをフッ酸で洗浄して、ガラス表面に付着した不純物を取り除いた後に、フッ硝酸を用いて石英ガラスを溶解し、原子吸光装置(AAS)及び高周波プラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いてそれぞれのサンプルの不純物濃度を測定した。
【0053】
3.OH基測定
本発明に従う品質評価用試料を用いたOH基の測定結果を、表3に示す。
なお、測定にはフーリエ変換型赤外分光 (FT-IR)を使用し、プレートの枚数は、直胴部および底部が4枚、コーナー部が6枚とした。
【0054】
【表3】

【0055】
4.写真
図8に、本発明に従う品質評価用試料を用いた各部の写真の撮影結果を示す。
【0056】
なお、サンプルは直胴部、コーナー部、底部の各部より行い、最終的に、それぞれ厚み方向に水平に1mm厚にスライスしたプレートとし、続けて表裏面を研磨機で精密研磨した。なお、プレートの枚数は、直胴部および底部が4枚、コーナー部が6枚とした。
研磨したサンプルをスケール入りの光学顕微鏡で撮影した。
【0057】
上記したように、石英ガラス製ルツボの同じ部位の品質管理上重要な直胴部、コーナー部および底部の各部について、石英ガラス製ルツボの品質にかかる評価項目は、いずれの評価項目についても、段階的にその評価ができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、石英ガラス製ルツボの任意の部位を安全にサンプリングすることができ、かつその品質を段階的に把握することができる。その結果、シリコン単結晶の引き上げに供して好適な石英ガラス製ルツボを提供することに貢献する。
【符号の説明】
【0059】
1 石英ガラス製ルツボ
2 石英ガラス製ルツボの開口縁部(リム部)
3 直胴部
4 コーナー部
5 底部
11 石英ガラス製ルツボの品質評価用試料作製装置
12 試料保持治具
13 ダイヤモンドの切断刃
14 進退移動する手段
15 進退移動ごとに横移動する手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英ガラス製ルツボの品質評価用試料であって、該石英ガラス製ルツボの中心を含む向きにU型またはJ型に切出した一次試料を、該一次試料の切出し方向に垂直でかつ該一次試料の厚み方向に切出した二次試料に、該石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残し、これら内壁面と外壁面の間に、複数の切込みを入れることにより設けた複数の短冊状部分を有することを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料。
【請求項2】
石英ガラス製ルツボの品質評価用試料として、該石英ガラス製ルツボから、中心を含む方向にU型またはJ型に切出して一次試料を作製し、ついで、該一次試料の切出し方向に垂直でかつ該一次試料の厚み方向に切出して二次試料を作製し、さらに、上記石英ガラス製ルツボの内壁面と外壁面を残して、これら内壁面と外壁面の間に複数の切込みを入れることにより、複数の短冊状部分を形成して品質評価用試料とすることを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料の作製方法。
【請求項3】
請求項1記載の品質評価用試料を、石英ガラス製ルツボの直胴部、コーナー部および底部の少なくとも3箇所から切出し、これらの各試料のそれぞれについて、各短冊状部分を検査して、石英ガラスの各部位の厚み方向の一連の品質を段階的に評価することを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価方法。
【請求項4】
請求項1記載の品質評価用試料の作製装置であって、装置本体に固定された切断刃と、該品質評価用試料の保持治具と、該保持治具を切断刃に対して進退移動させる手段と、該保持治具を横移動させる手段とを備え、該保持治具の進退移動手段および横移動手段を介して、被切断材に対し、間欠的な切込みの導入を可能ならしめたことを特徴とする石英ガラス製ルツボの品質評価用試料作製装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−105568(P2011−105568A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264784(P2009−264784)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(592176044)ジャパンスーパークォーツ株式会社 (90)
【Fターム(参考)】