説明

研磨パッドの製造方法

【課題】平坦化特性に優れ、スクラッチの発生を抑制でき、研磨速度が大きい研磨パッド(研磨層)を製造する方法を提供する。
【解決手段】不織布又は織布に銅メッキを施した補強層を予め型内に設置し、水アトマイズ法にて得られる不規則形状の錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分と、ポリウレタン等の熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、有機溶媒とを含有する錫組成物を型に流し込み、その後有機溶媒を除去することにより金属シートを作製する。続いて金属シートを熱プレスし研磨シートの電気抵抗を低下させ、表面を平滑にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハ上に金属膜が形成された半導体デバイスを平坦化して金属配線パターンを形成する工程(エレクトロケミカルメカニカルポリッシング:ECMP)において使用される研磨パッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度の表面平坦性を要求される材料の代表的なものとしては、半導体集積回路(IC、LSI)を製造するシリコンウエハと呼ばれる単結晶シリコンの円盤があげられる。シリコンウエハは、IC、LSI等の製造工程において、回路形成に使用する各種薄膜の信頼できる半導体接合を形成するために、酸化物膜や金属膜を積層・形成する各工程において、表面を高精度に平坦に仕上げることが要求される。このような研磨仕上げ工程においては、一般的に研磨パッドはプラテンと呼ばれる回転可能な支持円盤に固着され、半導体ウエハ等の加工物は研磨ヘッドに固着される。そして双方の運動により、プラテンと研磨ヘッドとの間に相対速度を発生させ、さらに砥粒を含む研磨スラリーを研磨パッド上に連続供給することにより、研磨操作が実行される。
【0003】
配線用の金属膜としては、Al、W、Cuなどがある。近年、このような金属膜を研磨する方法として、エレクトロケミカルメカニカルポリッシング(ECMP)が注目されている。ECMPは、陽極であるウエハと、陰極であるプラテンとの間に電解液を介して直流電流を通電し、ウエハ表面の金属膜を電気化学的に溶解、除去する方法である。
【0004】
ECMPで使用される研磨パッドとしては、例えば以下のものが提案されている。
【0005】
特許文献1には、熱可塑性又は熱硬化性材料でできており、研磨面に溝が形成された研磨パッドであって、該溝の中に導電層が形成されているものが開示されている。
【0006】
特許文献2には、絶縁層の表面に導電性表層を裏面に導電性シートを積層した導電性研磨パッドが開示されている。導電性表層の材質としては、導電性繊維からなる不織布、織布などの導電性を有する非金属シート、又はこれらに熱硬化性樹脂やエラストマーを含浸させたものが挙げられている。
【0007】
特許文献3には、ウレタン樹脂等の弾性材により形成されており、導電粒子を含有する研磨パッドが開示されている。前記導電粒子としては、Au、Ag、Pt等からなる金属膜で被覆された球状のシリコンが記載されている。
【0008】
特許文献4には、導電性を有する樹脂、樹脂に導電性材料を分散したもの、又は導電性繊維を原料とする導電性研磨パッドが開示されている。導電性を有する樹脂としては、ポリピロール、ポリアセチレンが記載されている。また、樹脂に導電性材料を分散したものについて、樹脂としては、ポリウレタン、ナイロン、ポリエステル、天然ゴム、エラストマーなどが記載されており、導電性材料としては、カーボンブラック、金属粉末、金属酸化物粉末、カーボンナノチューブなどが記載されている。
【0009】
ここで、Cuは低抵抗化が図れること、高いエレクトロマイグレーション耐性があることなどの利点があり、次世代配線材料として期待されている。Cu配線パターンは通常ダマシン法により形成されているが、Cu膜を研磨する際に配線パターンやの密度や寸法によって配線部のオーバー加工が生じる箇所が発生する(いわゆる「シニング」)という問題を有していた。また、配線部のオーバー加工でも主として研磨パッドの弾性とスラリーの化学的効果に起因して、配線部の中央部が速く加工が進行し凹みが生じる(いわゆる「ディッシング」)という問題も有していた。
【0010】
前記シニングやディッシングは、研磨層を高弾性化することによりある程度は改善できる。また、無発泡系の硬い研磨パッドを用いることも有効である。しかし、このような硬いパッドを用いた場合、Cu膜は絶縁膜に比べて柔らかいため、Cu膜面にスクラッチ(傷)が発生しやすい。
【0011】
また、金属膜を研磨するための研磨パッドの研磨特性としては、平坦化特性に優れ、電気抵抗が小さく、研磨速度が大きいことが要求される。
【0012】
しかしながら、従来の研磨パッドは、上記問題や要求を解決できていない。
【0013】
【特許文献1】特開2005−101585号公報
【特許文献2】特開2005−139480号公報
【特許文献3】特開2002−93758号公報
【特許文献4】特開2004−111940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、平坦化特性に優れ、スクラッチの発生を抑制でき、研磨速度が大きい研磨パッド(研磨層)を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す研磨パッドの製造方法により上記目的を達成できることを見出し本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、不織布又は織布に銅メッキを施した補強層を型内に設置する工程、錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分と、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、有機溶媒とを含有する錫組成物を前記型に流し込み、その後有機溶媒を除去することにより金属シートを作製する工程、及び前記金属シートを熱プレスして研磨シートを作製する工程を含む研磨パッドの製造方法、に関する。
【0017】
本発明者らは、前記錫組成物から金属シートを作製し、該金属シートを熱プレスして加熱圧縮成形することにより、平坦化特性に優れ、スクラッチの発生を抑制でき、研磨速度の大きい研磨パッドが得られることを見出した。詳しくは、本発明の錫組成物は、錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分を主成分としているため、研磨パッドの電気抵抗を極めて小さくすることができる。それにより通電量が大きくなり、ウエハ表面の金属膜を電気化学的に溶解、除去しやすくなるため研磨速度が大きくなる。また、従来の研磨パッドは、導電性繊維からなる不織布、樹脂に導電性材料を分散したものなどであり、導電性繊維や導電性材料は金属膜と点接触するため、研磨面に均一に電圧を掛けることが困難である。その結果、研磨速度が不均一になり平坦化特性に劣る傾向にあった。一方、本発明の錫組成物は、錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分を主成分としているため、該錫組成物から形成された研磨パッドの研磨面は金属膜と面接触することができる。その結果、研磨面に均一に電圧を掛けることができ、研磨速度を均一にすることができるため平坦化特性が向上する。また、本発明の導電性材料である錫及び/又は錫合金は、配線用の金属膜の材料であるCuなどより柔らかいため、スクラッチの発生を効果的に抑制することができる。また、錫及び/又は錫合金は融点が低いため加工しやすく、柔軟性のある研磨パッドを製造することができる。
【0018】
また、本発明の製造方法では、錫組成物を流し込む型内に、不織布又は織布に銅メッキを施した補強層を予め設置しておく必要がある。前記補強層を用いることにより、得られる研磨シートの強度及び柔軟性が向上し、かつ脆さを改善することができる。補強層としては、金属メッシュ、不織布又は織布なども考えられる。しかし、金属メッシュを用いた場合には、研磨層の研磨表面に電解液を保持・更新するための凹凸構造を形成する際に研磨表面にケバ立ちが生じやすく、それによりスクラッチが発生しやすくなるため好ましくない。不織布又は織布を用いた場合には、金属成分との接着性が低下し、研磨シートが脆くなったり、シート内部で剥離しやすくなるため好ましくない。
【0019】
また、本発明の製造方法では、金属シートを熱プレスして加熱圧縮成形することにより研磨シートの電気抵抗を格段に低下させることができる。加熱圧縮成形することにより研磨シートの電気抵抗が格段に低下する理由としては、錫粉末や錫合金粉末が加熱により軟化又は溶融し、さらに圧縮されることにより錫や錫合金が相互に密接に溶着したためと考えられる。
【0020】
前記錫粉末及び錫合金粉末は、水アトマイズ法にて得られる不規則形状の粉末であることが好ましい。水アトマイズ法にて得られる不規則形状の錫粉末又は錫合金粉末を用いることにより、ガスアトマイズ法にて得られる球状のものに比べて研磨パッドの電気抵抗を格段に低下させることができる。
【0021】
前記金属成分は、錫粉末及び/又は錫合金粉末を80重量%以上含有することが好ましい。金属成分中の錫粉末及び/又は錫合金粉末の含有量が80重量%未満の場合には、研磨面に均一に電圧を掛けることが困難になったり、電気抵抗を小さくすることが困難になったり、他の金属によりスクラッチが発生しやすくなったり、柔軟性がなくなって加工性が悪くなる傾向にある。
【0022】
前記熱可塑性樹脂は、熱可塑性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。また、前記熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーは、研磨パッドに柔軟性を付与するために必須の成分であるが、特に熱可塑性ポリウレタン樹脂やポリウレタン系熱可塑性エラストマーは柔軟性、強度、及び耐摩耗性に優れるため好ましい材料である。
【0023】
金属成分と熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとの配合重量比は、85:15〜99:1(前者:後者)であることが好ましい。金属成分の配合比が85重量%未満の場合には、研磨面に均一に電圧を掛けることが困難になったり、電気抵抗を小さくすることが困難になる傾向にある。一方、金属成分の配合比が99重量%を超える場合には、柔軟性がなくなって加工性が悪くなったり、研磨パッドが脆くなる傾向にある。
【0024】
本発明の製造方法においては、錫組成物に有機溶媒を添加する。有機溶媒を添加することにより、錫組成物の混合性が向上し、錫組成物を粘度の低いペースト状にすることができるため、モールド成型により研磨シートを製造しやすくなる。
【0025】
有機溶媒の添加量は、錫組成物中に5〜30重量%であることが好ましい。有機溶媒が5重量%未満の場合には、錫組成物を粘度の低いペースト状にすることが困難になるため、錫組成物の均一性が悪くなったり、モールド成型する際に作業性が悪くなる傾向にある。一方、30重量%を超える場合には、錫組成物の粘度が低くなりすぎて作業性が悪くなる傾向にある。
【0026】
また、本発明は、前記方法によって製造される研磨パッドを用いて半導体ウエハ表面の金属膜を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法、に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の錫組成物は、少なくとも錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分と、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとを含有する。
【0028】
錫粉末及び錫合金粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法にて得られる一般的なものを特に制限なく使用することができる。水アトマイズ法により得られる粉末は、不規則形状であり、大きさは通常数ミクロン〜数百ミクロンである。一方、ガスアトマイズ法により得られる粉末は、球状であり、大きさは通常数ミクロン〜数百ミクロンである。本発明においては、水アトマイズ法により得られる不規則形状の錫粉末や錫合金粉末を用いることが好ましい。
【0029】
錫合金としては、例えば、錫−銅合金、錫−銀合金、錫−ニッケル合金、錫−アルミ合金、錫−ビスマス合金、錫−鉛合金、及び錫−亜鉛合金などが挙げられる。合金中の錫は80重量%以上であることが好ましく、より好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上である。
【0030】
金属成分は、錫粉末及び/又は錫合金粉末を80重量%以上含有することが好ましく、より好ましくは90重量%以上であり、特に好ましくは95重量%以上であり、最も好ましくは100重量%である。上記以外の金属成分としては、例えば、銅、銀、金、白金、鉄、アルミニウム、ニッケル、パラジウム、ビスマス、鉛、及び亜鉛などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなど)、ポリスチレン、及びオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)などが挙げられる。これらの樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特に熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0032】
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロックコポリマー(SEBS)、及びスチレン−エチレン・プロピレン−スチレンブロックコポリマー(SEPS)などのポリスチレン系熱可塑性エラストマー;ブレンド型、インプラント化、及び動的加硫型などのポリオレフィン系熱可塑性エラストマー;シンジオタクチック1,2−ポリブタジエン系、トランス1,4−ポリイソプレン系、及び天然ゴム系などのポリジエン系熱可塑性エラストマー;ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、及びフッ素系などのエンプラ系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらのエラストマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特にポリウレタン系熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0033】
金属成分と熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとの配合重量比は、85:15〜99:1(前者:後者)であることが好ましく、より好ましくは90:10〜97:3である。
【0034】
モールド成型法により研磨パッドを製造する場合には、錫組成物に有機溶媒を添加する。有機溶媒は、前記熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びN−メチルピロリドンなどの極性有機溶媒;トルエン及びキシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル及び酢酸ブチルなどの脂肪族カルボン酸エステル系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン及びエチルブチルケトンなどのケトン系溶媒;ノルマルヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロへキサン、2−メチルヘプタン、3−メチルヘプタン、4−メチルヘプタン、2,2,5−トリメチルへキサン、ノルマルオクタン、シクロオクタン、ノナン、及びシクロノナンなどの脂肪族炭化水素系溶媒が挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、特にジメチルホルムアミドを用いることが好ましい。
【0035】
前記有機溶媒は、錫組成物中に5〜30重量%配合することが好ましく、より好ましくは10〜30重量%である。
【0036】
錫組成物は、カーボンブラック及びカーボンナノチューブなどの導電性フィラー、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアニリン及びポリアセチレンなどの導電性ポリマー、酸化亜鉛、酸化錫及び酸化インジウムなどの金属酸化物微粒子、金属を被覆したポリマー微粒子、貴金属を被覆した銅や銀の微粒子、金属繊維、炭素繊維などの導電性材料を本発明の効果を阻害しない範囲で含んでいてもよい。
【0037】
以下、錫組成物を用いた研磨パッド(研磨層)の製造方法について説明する。本発明の研磨パッドは、研磨層のみであってもよく、研磨層と他の層(例えば、接着剤層、陰極(銅メッシュ)、クッション層、絶縁層、導電層など)との積層体であってもよい。研磨層は、例えば以下の方法で製造することができる。
【0038】
熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーを加熱状態で有機溶媒に溶解させてポリマー溶液を作製し、該ポリマー溶液に錫粉末及び/又は錫合金粉末を加えて混合し脱泡して錫組成物(錫ペースト)を調製する。錫組成物を流し込む型内に、不織布又は織布に銅メッキを施した補強層を予め設置しておく。前記型内に錫組成物を流し込んでシート状に成形し、その後加熱して有機溶媒を除去して金属シート(厚さ:1〜3mm)を作製する。得られた金属シートを熱プレスして研磨シートを作製する。
【0039】
前記補強層は、不織布又は織布に銅メッキすることにより作製される。不織布及び織布の材料としては、例えば、PET、PEN、PE、PP、ナイロン、アクリル繊維、ガラス繊維、及び炭素繊維などが挙げられる。これらのうち、強度及び柔軟性の観点からPETを用いることが好ましい。不織布、織布の厚さは特に制限されないが、強度及び柔軟性を考慮すると10〜200μm程度である。不織布又は織布に銅メッキする方法としては、例えば、化学メッキ(無電解メッキ)法、真空蒸着メッキ法が挙げられる。銅メッキの膜厚は特に制限されないが、強度及び柔軟性を考慮すると1〜10μm程度である。
【0040】
金属シートを熱プレスする方法としては、例えば、熱板でプレスする方法、熱ロールでプレスする方法が挙げられる。
【0041】
熱板でプレスする際の温度は200〜230℃、圧力は5〜30MPa、シート圧縮率は40〜70%、プレス時間は1〜5分であることが好ましい。温度は200〜220℃、圧力は15〜25MPa、シート圧縮率は40〜60%、プレス時間は1〜2分であることがより好ましい。前記温度、圧力、シート圧縮率、及びプレス時間の範囲に調整することにより、研磨シートの強度、柔軟性、及び電気抵抗の全てを最適化することができる。なお、熱板の表面は、フッ素コート等の易剥離処理が施されていることが好ましい。
【0042】
また、熱ロールを用いると、熱板を用いてプレスした場合に比べて研磨シートの表面平滑性が向上し、スクラッチの発生をより抑制できるため好ましい。熱ロールでプレスする際の温度は200〜230℃、線圧は10〜100N/mm、シート圧縮率は40〜60%であることが好ましい。温度は205〜225℃であることがより好ましく、特に好ましくは210〜220℃である。線圧は40〜60N/mmであることがより好ましい。シート圧縮率は45〜55%であることがより好ましい。前記温度、圧力、及びシート圧縮率の範囲に調整することにより、研磨シートの強度、柔軟性、及び電気抵抗の全てを最適化することができる。また、熱ロールプレス時の金属シートのラインスピードは特に制限されないが、0.5〜1.5m/minであることが好ましい。なお、熱ロールの表面は、フッ素コート等の易剥離処理が施されていることが好ましい。
【0043】
上記のように金属シートを熱プレスすることにより、得られる研磨シートの電気抵抗を格段に下げることができる。電気抵抗が高いと電解研磨の際に発熱が起こるため好ましくない。熱プレス前の金属シートの電気抵抗は、1.0×10〜1.0×10Ω程度であるが、熱プレスすることにより1.0×10〜1.0×10−2Ω程度、さらには1.0×10−1〜1.0×10−2Ω程度まで電気抵抗を下げることができる。
【0044】
研磨層は、前記研磨シートを裁断する工程、研磨表面に電解液(スラリー)を保持・更新するための凹凸構造を形成する工程などを経て製造される。研磨層は数m程度の長尺状であってもよく、7〜90cm程度の円形状であってもよい。また、研磨層の厚さは、通常0.1〜5mm程度である。
【0045】
凹凸構造は、電解液を保持・更新する形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、XY格子溝、同心円状溝、貫通孔、貫通していない穴、多角柱、円柱、螺旋状溝、偏心円状溝、放射状溝、及びこれらの溝を組み合わせたものが挙げられる。また、これらの凹凸構造は規則性のあるものが一般的であるが、電解液の保持・更新性を望ましいものにするため、ある範囲ごとに溝ピッチ、溝幅、溝深さ等を変化させることも可能である。なお、研磨層と陰極(銅メッシュ)と絶縁層(クッション層)を接着剤層を用いて積層して研磨パッドを作製する場合には、陽極である研磨層と、陰極との間に電解液を介して直流電流を通電させるために研磨層と接着剤層に貫通孔を設けておくことが好ましい。
【0046】
溝や貫通孔の総面積は、研磨層表面の10〜80%であることが好ましい。10%未満の場合には電解液が十分に供給されないため研磨速度が低下し、80%を超える場合には研磨層の機械的強度が低下する傾向にある。円形の貫通孔の場合、その直径は0.5〜10mm程度であることが好ましい。
【0047】
前記凹凸構造の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、所定サイズのバイトのような治具を用い機械切削する方法、打ち抜く方法、熱プレスする際に所定の表面形状を有したプレス板で金属シートをプレスする方法、及びレーザー加工方法などが挙げられる。
【0048】
また、前記研磨層の厚みバラツキは100μm以下であることが好ましい。厚みバラツキが100μmを越えるものは、研磨層に大きなうねりを持ったものとなり、金属膜に対する接触状態が異なる部分ができ、研磨特性に悪影響を与える。また、研磨層の厚みバラツキを解消するため、一般的には、研磨初期に研磨層表面をダイヤモンド砥粒を電着、融着させたドレッサーを用いてドレッシングするが、上記範囲を超えたものは、ドレッシング時間が長くなり、生産効率を低下させるものとなる。
【0049】
研磨層の厚みのバラツキを抑える方法としては、金属シート表面をバフィングする方法が挙げられる。また、バフィングする際には、粒度などが異なる研磨材で段階的に行うことが好ましい。
【0050】
図1に記載のように、本発明の研磨パッド1は、前記研磨層2と陰極(銅メッシュ)3と絶縁層(クッション層)4を貼り合わせたものであってもよい。
【0051】
前記絶縁層(クッション層)は、研磨層の特性を補うものである。絶縁層は、ECMPにおいて、トレードオフの関係にあるプラナリティとユニフォーミティの両者を両立させるために必要なものである。研磨層の特性によって、プラナリティを改善し、絶縁層の特性によってユニフォーミティを改善する。本発明の研磨パッドにおいては、絶縁層は研磨層より柔らかいものを用いることが好ましい。
【0052】
前記絶縁層としては、例えば、ポリエステル不織布、ナイロン不織布、アクリル不織布などの繊維不織布やポリウレタンを含浸したポリエステル不織布のような樹脂含浸不織布、ポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォームなどの高分子樹脂発泡体、ブタジエンゴム、イソプレンゴムなどのゴム性樹脂、感光性樹脂などが挙げられる。
【0053】
研磨層、陰極、及び絶縁層を貼り合わせる手段としては、例えば、両面テープ(接着剤層)5で挟んでプレスする方法が挙げられる。
【0054】
また、本発明の研磨パッドは、プラテンと接着する面に両面テープが設けられていてもよい。
【0055】
図2は、ECMPで使用する研磨装置の一例を示す概略構成図である。ECMPにおいては、一般的に研磨パッド1はプラテンと呼ばれる回転可能な研磨定盤6に固着され、半導体ウエハ等の被研磨材7は支持台(ポリシングヘッド)8に固着される。そして、双方の運動により研磨定盤6と支持台8との間に相対速度を発生させ、さらに、電圧印加部9から研磨層2と陰極3との間に電圧を印加しつつ、電解液10を研磨パッド1上に連続供給することにより研磨操作が実行される。
【0056】
これにより半導体ウエハ表面の金属膜の突出部分が電気化学的に溶解、除去されて平坦状に研磨される。その後、ダイシング、ボンディング、パッケージング等することにより半導体デバイスが製造される。半導体デバイスは、演算処理装置やメモリー等に用いられる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
[測定、評価方法]
(比重測定)
JIS Z8807−1976に準拠して行った。作製した研磨層を4cm×8.5cmの短冊状(厚み:任意)に切り出したものを比重測定用試料とし、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境で16時間静置した。測定には比重計(ザルトリウス社製)を用い、比重を測定した。
【0059】
(硬度測定)
JIS K6253−1997に準拠して行った。作製した研磨層を2cm×2cm(厚み:任意)の大きさに切り出したものを硬度測定用試料とし、温度23℃±2℃、湿度50%±5%の環境で16時間静置した。測定時には、試料を重ね合わせ、厚み6mm以上とした。硬度計(高分子計器社製、アスカーD型硬度計)を用い、硬度を測定した。
【0060】
(研磨特性の評価)
研磨装置としてSPP600S(岡本工作機械社製)を用い、作製した研磨パッドを用いて研磨特性の評価を行った。
平坦化特性の評価は、8インチシリコンウエハにCu膜を0.5μm堆積させた後、L/S(ライン・アンド・スペース)=25μm/5μm及び、L/S=5μm/25μmのパターンニングを行い、さらにCu膜を1μm堆積させて、初期段差0.5μmのパターン付きCuウエハを製作した。このCuウエハを下記条件にて電解研磨を行って、グローバル段差が2000Å以下になる時の、25μmスペースの底部分の削れ量を測定することで評価した。平坦化特性は削れ量の値が小さいほど優れており、削れ量が500Å以下の場合を平坦化特性○、500Åを超える場合を平坦化特性×とした。Cu膜の膜厚測定には、干渉式膜厚測定装置(大塚電子社製)を用いた。研磨条件としては、電解液(AMAT社製、EP3.1)を研磨中に流量200ml/min添加し、研磨荷重0.5〜1psi、研磨定盤回転数21rpm、ウエハ回転数20rpmとした。
【0061】
(スクラッチの評価)
前記条件でCuウエハを研磨した後に、KLA-Tencor社製のウエハ表面検査装置(P−15)を用いて、Cuウエハ上のスクラッチの深さを測定し、下記基準で評価した。
○:100Å未満
△:100Å以上150Å未満
×:150Å以上
【0062】
実施例1
容器に熱可塑性ポリウレタン樹脂(大日精化製、レザミンP−6165)120重量部、及びジメチルホルムアミド480重量部を入れ、70℃に加熱して熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解してポリウレタン樹脂溶液を得た。70℃に温度調節した前記ポリウレタン樹脂溶液中に錫粉末(三井金属鉱業製、W−Sn、水アトマイズ錫粉末、不規則形状)2880重量部を加え、均一な金属ペーストになるまで撹拌した。錫粉末と熱可塑性ポリウレタン樹脂の配合比は、96:4である。その後、容器内を減圧することにより、金属ペースト中に含まれる空気を除去した。PET不織布に銅メッキを施した補強層(セーレン製、Su−10−33、不織布の厚さ:62μm、銅の膜厚:5μm)を注型モールド(縦:85cm、横:85cm、高さ:2mm)内に予め設置し、その後、前記金属ペーストを該注型モールドへ流し込んだ。その後、該モールドを100℃の乾燥機内に入れ、16時間乾燥することにより溶媒を除去して金属シート(厚さ:1.3mm、電気抵抗:1.54×10Ω)を得た。なお、電気抵抗は、DIGITAL MULTIMETER(YOKOGAWA製、7552)で測定した。
【0063】
その後、該金属シートを熱ロールプレス(温度:215℃、線圧:50N/mm、シート圧縮率:50%、ラインスピード:1m/min)して研磨層(厚さ:0.71mm、比重:4.5、D硬度:55度、電気抵抗:2.90×10−2Ω)を得た。ラミ機を使用して、両面に接着剤層を有するマイラーフィルム(積水化学工業製、75μm)を該研磨層に貼り合わせて積層シートを得た。そして、孔加工機を用いて貫通孔(直径:5mm)を研磨表面の30%形成した。その後、積層シートを直径78cmの大きさで打ち抜いた。
【0064】
その後、前記積層シートのマイラーフィルム側に陰極であるCuメッシュ(メッシュ製、厚さ:0.14mm)をラミ機を用いて貼り合わせた。そして、ラミ機を使用して、両面に接着剤層を有するマイラーフィルム(積水化学工業製、75μm)をCuメッシュに貼り合わせた。そして、絶縁層(Rogers Corporation製、PORON、厚さ:4mm)をラミ機を使用して前記マイラーフィルムに貼り合わせた。さらに、ラミ機を使用して、両面に接着剤層を有するマイラーフィルム(積水化学工業製、75μm)を該絶縁層に貼り合わせて研磨パッドを作製した。該研磨パッドの平坦化特性は○、スクラッチ評価は○であった。
【0065】
実施例2
容器に熱可塑性ポリウレタン樹脂(大日精化製、レザミンP−6165)120重量部、及びジメチルホルムアミド480重量部を入れ、70℃に加熱して熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶解してポリウレタン樹脂溶液を得た。70℃に温度調節した前記ポリウレタン樹脂溶液中に錫粉末(三井金属鉱業製、G−Sn、ガスアトマイズ錫粉末、球状)2880重量部を加え、均一な金属ペーストになるまで撹拌した。錫粉末と熱可塑性ポリウレタン樹脂の配合比は、96:4である。その後、容器内を減圧することにより、金属ペースト中に含まれる空気を除去した。PET不織布に銅メッキを施した補強層(セーレン製、Su−10−33、不織布の厚さ:62μm、銅の膜厚:5μm)を注型モールド(縦:85cm、横:85cm、高さ:2mm)内に予め設置し、その後、前記金属ペーストを該注型モールドへ流し込んだ。その後、該モールドを100℃の乾燥機内に入れ、16時間乾燥することにより溶媒を除去して金属シート(厚さ:1.12mm、電気抵抗:測定不能)を得た。
【0066】
その後、該金属シートを熱ロールプレス(温度:215℃、線圧:50N/mm、シート圧縮率:50%、ラインスピード:1m/min)して研磨層(厚さ:0.71mm、比重:4.5、D硬度:55度、電気抵抗:3.60×10Ω)を得た。その後、実施例1と同様の方法で研磨パッドを作製した。該研磨パッドの平坦化特性は○、スクラッチ評価は○であった。
【0067】
比較例1
500cc用容器にDMF190g、KB(LION製、ケッチェンブラック)10g、2mmφボール350gを仕込み、400rpmで20分間ボールミルにて混合した。得られた1次混合液に、熱可塑性ポリウレタン樹脂を20重量%含有するDMF溶液116.6gを加え、さらに400rpmで20分間ボールミルにて混合した。得られた2次混合液をステンレスバットに移し変え、100℃の真空乾燥機中でDMFを除去した。得られたシートを1分間熱板プレス(温度:190℃、圧力:10MPa)して研磨層(厚さ:1.95mm、比重:1.3、D硬度:19度、電気抵抗:1.50×10Ω)を得た。その後、実施例1と同様の方法で研磨パッドを作製した。該研磨パッドの平坦化特性は×、スクラッチ評価は×であった。
【0068】
比較例2
補強層としてPET不織布(セーレン製、厚さ:55μm)を用いた以外は実施例1と同様の方法で研磨層を作製した。しかし、金属成分と不織布との接着性が悪く、層内部で剥離が発生した。
【0069】
上記結果より、本発明の研磨パッドは、平坦化特性及びスクラッチの抑制効果に優れることがわかる。また、本発明の研磨パッドは、電気抵抗が極めて小さく、ウエハ表面の金属膜を電気化学的に溶解、除去しやすいため研磨速度が大きいという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の研磨パッドの一例を示す概略断面図
【図2】ECMPで使用する研磨装置の一例を示す概略構成図
【符号の説明】
【0071】
1:研磨パッド
2:研磨層
3:陰極(銅メッシュ)
4:絶縁層(クッション層)
5:両面テープ(接着剤層)
6:研磨定盤
7:被研磨材(半導体ウエハ)
8:支持台(ポリシングヘッド)
9:電圧印加部
10:電解液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布又は織布に銅メッキを施した補強層を型内に設置する工程、錫粉末及び/又は錫合金粉末を含む金属成分と、熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーと、有機溶媒とを含有する錫組成物を前記型に流し込み、その後有機溶媒を除去することにより金属シートを作製する工程、及び前記金属シートを熱プレスして研磨シートを作製する工程を含む研磨パッドの製造方法。
【請求項2】
錫粉末及び錫合金粉末は、水アトマイズ法にて得られる不規則形状の粉末である請求項1記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項3】
金属成分は、錫粉末及び/又は錫合金粉末を80重量%以上含有する請求項1又は2記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項4】
熱可塑性樹脂は、熱可塑性ポリウレタン樹脂であり、熱可塑性エラストマーは、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項5】
金属成分と熱可塑性樹脂及び/又は熱可塑性エラストマーとの配合重量比が、85:15〜99:1(前者:後者)である請求項1〜4のいずれかに記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項6】
有機溶媒の添加量は、錫組成物中に5〜30重量%である請求項1記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法によって製造される研磨パッドを用いて半導体ウエハ表面の金属膜を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−284619(P2008−284619A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−129379(P2007−129379)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】