説明

研磨パッド

【課題】絡合不織布と高分子弾性体とを含む耐摩耗性及び研磨レートを向上させた研磨パッドを提供する。
【解決手段】研磨パッドは、極細繊維の絡合不織布と、絡合不織布の内部に含浸された、高分子弾性体と無機粒子との複合体とを含み、複合体が無機粒子を1〜50質量%含むことを特徴とする。無機粒子としては、平均粒子径50〜450nmの無機酸化物粒子が好ましい。無機粒子としては、シリカ粒子が好ましい。高分子弾性体としては、無孔質ポリウレタン樹脂が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケミカルメカニカル研磨に用いられる、不織布を含む研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高精度の平坦性が求められる研磨として、回転する研磨パッドに砥粒のスラリーを滴下しながら、被研磨基材を押し当てて研磨するケミカルメカニカル研磨(CMP)が知られている。CMPに用いられる研磨パットとしては、ポリウレタン成形体の研磨パッドが知られている。例えば、下記特許文献1は、ポリウレタン樹脂の発泡体に研磨材粒子を含有させた研磨パッドを開示する。また、下記特許文献2は、無発泡のポリウレタン樹脂シートの内部や表面に砥粒を固定した研磨パッドを開示する。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に開示されたようなポリウレタン成形体からなる研磨パッドは、剛性が高いために被研磨基材表面に対する追随性が悪く、また、砥粒の凝集体に力が掛かることによりスクラッチを発生させやすいという問題があった。
【0004】
上述のような問題を解決する研磨パッドとして、下記特許文献3に示すような、極細繊維の繊維束からなる絡合不織布に高分子弾性体を含浸させた研磨パッドも知られている。このような研磨パッドは剛性が低くしなやかであるために、被研磨基材表面の形状に対する追随性に優れ、そのために平坦化性に優れており、また、研磨パッド表面が柔軟であるために砥粒の凝集体に力が掛かりにくいために、スクラッチを発生させにくいという利点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−114742号公報
【特許文献2】特開2007−073796号公報
【特許文献3】国際公開2010/016486号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、絡合不織布と高分子弾性体とを含む研磨パッドは、表面が柔らかいために磨耗しやすいという問題があった。また、ポリウレタン成形体の研磨パッドに比べて研磨レートが低いという問題もあった。
【0007】
本発明は、絡合不織布と高分子弾性体を含む研磨パッドの耐摩耗性及び研磨レート等の研磨特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面である研磨パッドは、極細繊維の絡合不織布と、絡合不織布の内部に含浸された、高分子弾性体と無機粒子との複合体とを含み、複合体が無機粒子を1〜50質量%含むことを特徴とする。このような構成によれば、絡合不織布や高分子弾性体よりも硬度が高い無機粒子を複合体中に含むことにより、絡合不織布と高分子弾性体とを含む研磨パッドの耐摩耗性が向上する。また、絡合不織布と高分子弾性体からなる複合体中に含まれる無機粒子が研磨中に遊離砥粒となることで研磨レートも向上する。
【0009】
また、無機粒子は、平均粒子径50〜450nmのシリカ粒子等の無機酸化物粒子であることが汎用性があり、かつ効率良く研磨に寄与することから研磨レート向上の点から好ましい。
【0010】
また、高分子弾性体は無孔質ポリウレタン樹脂であることが、水素結合により結晶化あるいは凝集することで、繊維束の拘束性を高め、また無孔質であることで接着性が高くなり繊維の抜けを抑制する点から好ましい。
【0011】
また、絡合不織布と高分子弾性体との質量比率(絡合不織布/高分子弾性体)は、90/10〜55/45であることが耐摩耗性をより向上させる点から好ましい。
【0012】
また、絡合不織布は、平均断面積が0.1〜30μm2である極細単繊維の長繊維束の絡合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、耐摩耗性、研磨レート及び研磨均一性に優れた、絡合不織布と高分子弾性体とを含む研磨パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る、研磨パッド10の断面模式図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る研磨パッドの一実施形態である、研磨パッド10について詳しく説明する。
【0016】
図1は研磨パッド10の厚み方向の断面模式図である。図1に示すように、研磨パッド10は、極細繊維の絡合不織布1と、絡合不織布1の内部に含浸付与された、高分子弾性体2と無機粒子3との複合体4とを含み、複合体4は無機粒子3を1〜50質量%含む。複合体において、高分子弾性体と無機粒子とは凝集又は結着していてもよく、高分子弾性体の内部に無機粒子が分散していてもよい。極細繊維の絡合不織布1は、極細単繊維の長繊維束の絡合体である。
【0017】
複合体4は、絡合不織布1の内部に含浸付与されている。具体的には、絡合不織布1を構成する極細繊維同士の間又は極細繊維の繊維束同士の間に充填されている。また、複合体は極細繊維同士やその繊維束同士を集束していてもよい。
【0018】
はじめに、絡合不織布1について詳しく説明する。
【0019】
絡合不織布の極細繊維を形成する樹脂は、極細繊維を形成しうるポリマーであれば特に限定なく使用できる。具体的には、例えば、芳香族ポリエステル樹脂、脂肪族ポリエステル樹脂等のポリエステル系樹脂又はそれらの変性物;ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド610,ポリアミド10,ポリアミド11,ポリアミド12,芳香族ポリアミド,半芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂又はそれらの変性物;ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリメチルペンテン,塩素系ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂;エチレン単位を25〜70モル%含有する変性ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリエステル弾性体,ポリアミド弾性体、ポリウレタン弾性体等の熱可塑性弾性体等の各種熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0020】
芳香族ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリトリメチレンテレフタレート(PTT),ポリブチレンテレフタレート(PBT)、又はそれらの変性物(イソフタル酸、スルホイソフタル酸等による変性物等)等が挙げられる。
【0021】
脂肪族ポリエステル樹脂としては、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート−ポリヒドロキシバリレート共重合体、又はそれらの変性物(アジピン酸等による変性物等)が挙げられる。
【0022】
極細繊維を形成する樹脂は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。緻密で高密度の絡合不織布を形成できる点からポリエステル系樹脂を用いることが特に好ましい。ポリエステル系樹脂のうち、特に、PETや変性PETは、後述する海島型複合繊維(以下、単に海島型繊維とも呼ぶ)から極細繊維を形成する湿式処理において大幅に捲縮し、高密度化が容易であるために研磨パッドの剛性を向上させやすい点から好ましい。
【0023】
極細繊維の平均断面積は、例えば、0.1〜30μm2、さらには1〜25μm2、とくには5〜20μm2程度であることが好ましい。
【0024】
絡合不織布1は複数本の極細単繊維からなる繊維束の絡合体であるが、これに限られず、繊維束を形成していない極細繊維の単繊維からなる絡合体であってもよい。
【0025】
繊維束の平均断面積は、30〜400μm2、さらには40〜350μm2であることが好ましい。
【0026】
極細繊維の絡合不織布1は、意図的に切断されていない長繊維のフィラメントの絡合体であっても、例えば、100mm以下のような短繊維に切断されたステープルの絡合体であってもよい。絡合不織布1は、繊維密度や研磨パッドの剛性を高めたり、繊維の抜けを防止する点からは、長繊維のフィラメントの絡合体であることが好ましい。フィラメントの長さは特に限定されないが、100mm以上、さらには200mm以上であり、製造できる限り、数m以上、数十m以上であってもよい。
【0027】
次に、絡合不織布1の内部に含浸付与される、高分子弾性体2と無機粒子3との複合体4について詳しく説明する。
【0028】
高分子弾性体2の種類は、特に限定されない。高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン弾性体、(メタ)アクリル酸エステル系弾性体、スチレン系弾性体、オレフィン系弾性体、酢酸ビニル系弾性体又はそのケン化物、ポリアミド系弾性体、ポリエステル系弾性体、ニトリル系弾性体(アクリロニトリル−ブタジエン系弾性体等)、シリコーン系弾性体、フッ素系弾性体等が挙げられる。
【0029】
ポリウレタン弾性体は、ポリエーテル型、ポリエステル型、ポリカーボネート型、又はそれらを組み合わせた型の弾性体であってもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル系弾性体を構成する樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−アクリロニトリル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル酸系エステル−(水添)イソプレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエン系樹脂等が挙げられる。
【0031】
スチレン系弾性体を構成するスチレン系樹脂としては、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−水添イソプレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0032】
オレフィン系弾性体を構成する樹脂の具体例としては、エチレン−プロピレン系樹脂等のエチレン−α−オレフィン系樹脂、エチレン−ブタジエン系樹脂等が挙げられる。
【0033】
酢酸ビニル系弾性体又はそのケン化物を構成する樹脂の具体例としては、酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂等、又はそれらのケン化物(すなわち、部分ケン化物又は完全ケン化物等)が挙げられる。
【0034】
これらは、それぞれ単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリウレタン弾性体が、水素結合により結晶化あるいは凝集することで、繊維束の拘束性を高めるため、結着性が高い点、及び、研磨パッドの形態保持性に優れ、繊維の抜けを抑制できる点から特に好ましい。
【0035】
ポリウレタン弾性体は、例えば、軟質成分としてのポリオール成分と、硬質成分としてのポリイソシアネート成分及び鎖伸長剤等とを反応させることにより得ることができる。ポリオール成分としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール等が使用できる。ポリイソシアネート成分としては、芳香族ジイソシアネートの他、脂肪族又は脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート等が使用できる。また、共重合成分として、3官能以上のポリオールやポリイソシアネートを併用してもよい。3官能以上のポリイソシアネートやブロックポリイソシアネートを共重合成分として併用することにより、ポリウレタン系弾性体に、自己架橋性基を導入することもできる。
【0036】
ポリウレタン弾性体は、カルボキシル基、スルホン酸基及びヒドロキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の親水性基を有することがとくに好ましい。このような親水性基を導入することにより、自己乳化型水分散性の高分子弾性体が得られる。このような高分子弾性体を用いる場合、後述するように、水性分散液を用いて複合体を形成できる点から好ましい。親水性基を有するポリウレタン弾性体は、共重合成分として、親水性基を有するモノマーを用いて、高分子弾性体を変性することにより得ることができる。
【0037】
高分子弾性体のガラス転移温度は、例えば、−10℃以下であり、−15℃以下であることが好ましい。
【0038】
研磨パッドの剛性を確保する点から、高分子弾性体の23℃及び50℃における貯蔵弾性率は、例えば、10〜900MPaの範囲にあり、10〜800MPaの範囲にあることが好ましい。
【0039】
高分子弾性体の50℃で吸水飽和させたときの吸水率は、例えば、0.2〜5質量%であり、0.3〜3質量%であることが好ましい。吸水率がこのような範囲にある場合、研磨時に、十分な研磨スラリーを保持しながらも、必要以上に吸水して研磨パッドの形態が経時的に変化することをより有効に抑制することができる。
【0040】
高分子弾性体は、無孔質であっても多孔質であってもよいが、接着性が高くなり繊維の抜けを抑制する点から無孔質であることが好ましい。無孔質とは、多孔質状又はスポンジ状(以下、単に多孔質状とも言う)の高分子弾性体が有するような空隙(独立気泡)を実質的に有さない状態を意味する。例えば、溶剤系のポリウレタン弾性体を凝固させて得られる高分子弾性体は、微細な気泡を多数有しており、無孔質ポリウレタン弾性体は、水系、エマルジョン系又は無溶剤系のポリウレタン弾性体を凝固させることにより得ることができる。特に、自己乳化型水分散性のポリウレタンエマルジョンを凝固させることにより得られる無孔質ポリウレタン弾性体が好ましい。
【0041】
無機粒子3の具体例としては、従来から、CMPの砥粒として用いられている金属酸化物粒子や半金属酸化物粒子などの無機酸化物の微粒子が好ましく用いられる。このような無機粒子の具体例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア及びセリア等が挙げられる。また、無機粒子の平均粒子径としては、50〜450nm、さらには70〜400nm、とくには70〜380nm程度であることが好ましい。これらの無機粒子は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、平均粒子径70〜380nm程度のシリカ粒子が研磨レート向上、スクラッチ低減の点から好ましい。
【0042】
複合体中の無機粒子の含有割合は、1〜50質量%であり、好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは7〜50質量%である。無機粒子の含有割合が1質量%未満の場合には、研磨パッドの耐摩耗性が不充分になり、また、研磨レートの向上効果がない。一方、無機粒子の含有割合が50質量%を超える場合には研磨均一性が著しく低下する。
【0043】
複合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、各種添加剤、例えば、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防かび剤、発泡剤、水溶性高分子、染料、顔料等をさらに含有していてもよい。
【0044】
研磨パッド中の、絡合不織布と高分子弾性体との質量比率(絡合不織布/高分子弾性体)は、90/10〜55/45、さらには90/10〜60/40であることが好ましい。このような範囲の場合には、研磨安定性、研磨レート、及び、平坦性性能をより高めることができる。絡合不織布の質量比率が高すぎる場合には繊維束の内部に高分子弾性体を充分に充填することが困難になり、繊維の素抜けが起こり、低すぎる場合には繊維密度が不充分になる傾向がある。
【0045】
次に、本実施形態の研磨パッドの製造方法の一例について詳しく説明する。
本実施形態の研磨パッドは、例えば、(1)海島型繊維から形成されたウェブを製造する工程と、(2)ウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブシートを製造する工程と、(3)前記絡合ウェブシートを湿熱収縮させる湿熱収縮処理工程と、(4)前記絡合ウェブシート中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去することにより、極細繊維の絡合不織布を製造する工程と、(5)絡合不織布に、高分子弾性体及び無機粒子を含む複合体分散液を含浸及び凝固させる工程とを備えるような研磨パッドの製造方法により得ることができる。
【0046】
本実施形態の研磨パッドの製造方法においては、極細繊維発生型繊維である海島型繊維から形成された長繊維ウェブを用いて製造する例について代表的に説明する。
【0047】
はじめに海島型繊維から形成されたウェブを製造する(工程(1))。海島型繊維は少なくとも2種類のポリマーから形成された多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーから形成されたマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型繊維は、海成分ポリマーを溶剤又は分解剤により抽出除去又は分解除去することにより、島成分ポリマーから形成された極細繊維に変換される。海成分ポリマーの除去により複数本の極細繊維が集まった繊維束が形成される。島成分ポリマーは海成分ポリマーとは非相溶であり、また、抽出除去性又は分解除去性が異なる。
【0048】
島成分ポリマーの具体例としては、前述した極細繊維を形成しうる各種樹脂が好ましく用いられる。
【0049】
海成分ポリマーとしては、溶剤に対する溶解性又は分解剤による分解性が島成分ポリマーよりも大きいポリマーが選ばれる。また、島成分ポリマーとの親和性が小さく、かつ、紡糸条件において溶融粘度及び/又は表面張力が島成分ポリマーより小さいポリマーが海島型繊維の紡糸安定性に優れている点から好ましい。このような条件を満たす海成分ポリマーの具体例としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,エチレン−プロピレン系共重合体等のポリオレフィン系樹脂;ポリ酢酸ビニル,エチレン−酢酸ビニル系共重合体等の酢酸ビニル系樹脂又はそのケン化物(水溶性ポリビニルアルコール系樹脂等];ポリスチレン,スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体等のスチレン系樹脂等が挙げられる。これらの中では、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)が有機溶剤を用いることなく水系媒体により溶解除去が可能であるために環境負荷が低い点から好ましい。本実施形態においては、代表的に、水溶性PVAを用いた場合について詳しく説明する。
【0050】
水溶性PVAのケン化度としては、90〜99.99モル%、さらには93〜99.98モル%であることが好ましい。ケン化度がこのような範囲の水溶性PVAは、水溶性に優れ、熱安定性が良好で、溶融紡糸性に優れ、また、生分解性にも優れている。
【0051】
海島型繊維の断面における、海成分ポリマーと島成分ポリマーとの平均面積比は5/95〜50/50、さらには10/90〜40/60であることが好ましい。
【0052】
このような海島型繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。複合紡糸用口金の口金温度は海島型繊維を構成するポリマーのそれぞれの融点よりも高い溶融紡糸可能な温度であれば特に限定されないが、通常、180〜350℃の範囲から選ばれる。
【0053】
各口金から吐出されて複合化された海島型繊維を形成するためのストランドを冷却装置により冷却し、さらに、例えば、1000〜6000m/分程度の引取速度で牽引細化することにより所望の繊度の海島型繊維が形成される。
【0054】
なお、溶融紡糸された海島型繊維はスパンボンド法を用いて海島型繊維の長繊維ウェブに形成される。
【0055】
本実施形態の研磨パッドの製造方法においては、次に、工程(1)で得られたウェブに絡合処理を施すことにより絡合ウェブシートを製造する(工程(2))。
【0056】
ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、工程(1)で得られたウェブを、クロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時又は交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチする。
【0057】
パンチング密度は、とくに限定されないが、例えば、300〜5000パンチ/cm2、さらには500〜5000パンチ/cm2であることが好ましい。このようなパンチング密度の場合には、充分に絡合された絡合ウェブが得られ、また、ニードルによる海島型繊維の損傷を抑制することができる。
【0058】
また、ウェブには海島型繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。
【0059】
海島型繊維のウェブを三次元的に絡合する絡合処理により、絡合ウェブシートが得られる。絡合ウェブシートの目付としては100〜1500g/m2程度の範囲であることが好ましい。
【0060】
なお、絡合度合いとしては、JIS K6854−3に準拠して測定した、絡合ウェブの層間剥離強力が、4kg/2.5cm以上、さらには、5〜20kg/2.5cmであることが好ましい。層間剥離強力がこのような範囲である場合には、高い形態保持性を有する研磨パッドが得られる。
【0061】
工程(2)で得られた絡合ウェブシートに湿熱収縮処理をする(工程(3))。
【0062】
絡合ウェブシートを湿熱収縮させることにより、絡合ウェブシートの繊維密度及び絡合度合を高めるための湿熱収縮処理工程について説明する。なお、本工程においては、長繊維を含有する絡合ウェブシートを湿熱収縮させることにより、短繊維を含有する絡合ウェブシートを湿熱収縮させる場合に比べて、絡合ウェブシートを大きく収縮させることができ、そのために、絡合ウェブシートの見掛け密度が特に高くなる。
【0063】
湿熱収縮処理は、スチーム加熱により行うことが好ましい。
【0064】
スチーム加熱条件としては、雰囲気温度が60〜130℃の範囲で、相対湿度75%以上、さらには相対湿度90%以上で、60〜600秒間加熱処理することが好ましい。このような加熱条件の場合には、絡合ウェブシートを高収縮率で収縮させることができるので好ましい。なお、相対湿度が低すぎる場合には、繊維に接触した水分が速やかに乾燥することにより、収縮が不充分になる傾向がある。
【0065】
湿熱収縮処理は、前記絡合ウェブシートを面積収縮率が35%以上、さらには、40%以上になるように収縮させることが好ましい。このように高い収縮率で収縮させることにより、絡合ウェブシートの高い見掛け密度が得られる。前記面積収縮率の上限は特に限定されないが、収縮の限度や処理効率の点から80%以下程度であることが好ましい。
【0066】
なお、面積収縮率(%)は、下記式(1):
(収縮処理前のシート面の面積−収縮処理後のシート面の面積)/収縮処理前のシート面の面積×100・・・(1)、により計算される。前記面積は、シートの表面の面積と裏面の面積の平均面積を意味する。
【0067】
このように湿熱収縮処理された絡合ウェブシートは、海島型複合繊維の熱変形温度以上の温度で加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、絡合ウェブシートの見掛け密度が高められてもよい。
このような湿熱収縮処理により形態保持性が向上し、また、機械的特性も向上する。
【0068】
また、湿熱収縮処理前後における絡合ウェブシートの目付量の変化としては、収縮処理後の目付量が、収縮処理前の目付量に比べて、1.2倍(質量比)以上、さらには、1.5倍以上で、4倍以下、さらには3倍以下であることが好ましい。
【0069】
次に、工程(3)で得られた絡合ウェブシート中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去することにより、極細繊維の絡合不織布を製造する(工程(4))。
【0070】
海成分ポリマーの除去により、海島型繊維から極細繊維の繊維束が形成される場合、絡合不織布は、極細繊維の繊維束の絡合体となる。
【0071】
絡合ウェブ中の海島型繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤又は分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられ、海成分ポリマーとして易アルカリ分解性の変性ポリエステルを用いる場合には、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ性分解剤が用いられる。
【0072】
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。熱水処理は、複数回行ってもよい。例えば、第1段階として、65〜90℃の熱水中に5〜300秒間浸漬した後、さらに、第2段階として、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することが好ましい。水溶性PVAを用いた場合には、有機溶媒を用いずに海成分ポリマーを選択的に除去することができるために、環境負荷が低く、また、VOCの発生を抑制できる点から好ましい。
【0073】
必要に応じて、ロールでのニップ処理、高圧水流処理、超音波処理、シャワー処理、攪拌処理、揉み処理等を行うことにより、海成分ポリマーの除去効率を高めてもよい。熱水への浸漬処理と、これらの処理とを繰り返すことにより、海成分ポリマーを効率的に抽出除去できる。
【0074】
長繊維の海島型繊維を用いた場合には、海成分ポリマーを溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維がとくに大きく収縮する。この収縮により高密度の絡合不織布が得られる。
【0075】
このようにして得られる絡合不織布の目付としては、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
【0076】
本実施形態の研磨パッドの製造方法においては、次に、工程(4)で得られた絡合不織布に、高分子弾性体及び無機粒子を含む複合体分散液を含浸させた後、高分子弾性体を凝固させて無機粒子を含む複合体を形成する(工程(5))。
【0077】
複合体分散液中の高分子弾性体は媒体中に溶解していても、分散(懸濁又は乳化)していてもよい。また複合体分散液は、水性であっても非水性であってもよい。耐水性や環境への負荷軽減等の点から、水性であることが好ましい。
【0078】
高分子弾性体及び無機粒子を含む複合体分散液は、高分子弾性体を含む分散液または溶液に、上述したような無機粒子またはその分散液を混合することにより調製される。
【0079】
複合体分散液を絡合不織布に含浸させる方法は特に限定されない。具体的には、例えば、絡合不織布を複合体分散液に浸漬して含浸させる方法や、絡合不織布の表面及び/又は裏面から複合体分散液を塗布する方法等が挙げられる。複合体分散液中の高分子弾性体及び無機粒子の濃度は特に限定されない。
【0080】
高分子弾性体の具体例としては、前述した複合体を構成するための各種高分子弾性体が好ましく用いられる。水性分散液を調製し易くするため、高分子弾性体の共重合成分として、カルボキシル基、スルホン酸基、ヒドロキシル基等の親水性基を含むモノマーを用いて変性することが好ましい。複合体分散液には、高分子弾性体を架橋するための架橋剤を添加してもよい。
【0081】
絡合不織布に含浸された複合体分散液から複合体を凝固させる方法としては、乾式凝固又は湿式凝固が用いられる。湿式凝固は従来から知られた方法がとくに限定なく用いられうる。また、乾式凝固における乾燥方法としては、50〜200℃の乾燥装置中で熱処理する方法や、赤外線加熱の後に乾燥機中で熱処理する方法等が挙げられる。なお、乾式凝固による方法が、無孔質のポリウレタン樹脂とする点で、好ましく用いられる。
【0082】
このような方法により研磨パッドの基材が形成される。そして、必要に応じて後加工処理等が施されることにより研磨パッドが得られる。
【0083】
後加工処理としては、成形処理、平坦化処理、起毛処理、積層処理、及び表面処理等が挙げられる。成形処理、及び平坦化処理は、得られた研磨パッドを研削により所定の厚みに熱プレス成形したり、所定の外形に切断したりする加工である。研磨パッドとしては、厚み0.5〜3mm程度に研削加工されたものであることが好ましい。
【0084】
起毛処理とは、サンドペーパー、針布、ダイヤモンド等により研磨パッド表面に機械的な摩擦力や研磨力を与えて、集束された極細単繊維を分繊する処理である。このような起毛処理により、表面の極細単繊維が立毛される。
【0085】
積層処理とは、得られた研磨パッドを、スポンジ、不織布、ゴム、樹脂フィルム等の各種基材に張り合わせて積層化することにより剛性を調整する処理である。例えば、研磨パッドを硬度の低い弾性体シートと積層することにより、被研磨面の平坦性をさらに向上させることができる。
【0086】
また、表面処理は、砥粒スラリーの保持性や排出性を調整するために研磨パッド表面に、格子状、同心円状、渦巻き状等の溝や孔を形成する処理である。
【0087】
本実施形態の研磨パッドは、ウエハ(シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ等)、液晶・表示部材(LED基板、ガラス基板)、ガラス製品、金属製品、プラスチック製品、セラミック製品、水晶、MEMS(マイクロ−エレクトロ−メカニカルシステムズ)、その他の基板(ハードディスク基板、金属基板、プラスチック基板、セラミック基板、光学基板、電子回路基板、電子回路マスク基板、多層配線基板、ハードディスク基板等)等の各種被研磨基材を研磨するための研磨パッドとして好ましく用いられる。
【0088】
研磨は、一次研磨、二次研磨(調整研磨)、仕上げ研磨、鏡面研磨等何れの研磨にも用いられる。また、研磨部分としては、基材の表面、裏面、端面のいずれであってもよい。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0090】
はじめに、研磨パッド、研磨パッドに用いられる高分子弾性体又は絡合ウェブの特性の評価方法を以下にまとめて説明する。
【0091】
[評価方法]
(1)極細単繊維及び極細繊維束の平均断面積
バフィング研削加工して得られた研磨パッドを、カッター刃を用いて厚さ方向に平行に切断することにより、厚さ方向の切断面を形成した。得られた切断面を酸化オスミウムで染色した。そして、染色した切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により、100〜1000倍の倍率で観察し、その画像を撮影した。そして、得られた画像から切断面に存在する極細単繊維及び極細繊維束の断面積を求めた。極細単繊維及び極細繊維束のそれぞれについて、ランダムに選択した100個の断面積を平均した値を平均断面積とした。
【0092】
(2)研磨パッドのD硬度
バフィング研削加工して得られた研磨パッドから、縦20cm×横5cmのサンプルを作製した。得られたサンプルのD硬度を、JIS K6253に準拠して、定圧荷重器にアスカーゴム硬度計D型(高分子計器(株)製)、荷重5kgを取り付けて測定した。
【0093】
(3)絡合ウェブの層間剥離力
JIS K6854−3に準拠して、絡合ウェブを縦23cm、幅2.5cmの形状に切断して試験片を作製した。そして、試験片の一端に、厚み方向に対して垂直な方向で、厚み方向の中央部にカミソリで切れ目を入れた後、手で引っ張って約100mm剥離した。そして得られた2つの剥離部分の両端を引張試験機のチャックに挟んだ。そして、引張試験機により、引張速度100mm/分で引っ張ったときの応力−ひずみ曲線(SS曲線)を得、SS曲線の平坦部分が示す平均応力から層間剥離力(kg/2.5cm)を求めた。なお、N=3のときの平均値を層間剥離力とした。
【0094】
(4)高分子弾性体のガラス転移温度
研磨パッドを構成する高分子弾性体を用いて、縦4cm×横0.5cm×厚さ400μm±100μmのフィルムサンプルを作製した。そして、サンプル厚さをマイクロメータで測定した後、動的粘弾性測定装置(DVEレオスペクトラー、(株)レオロジー製)を用いて、周波数11Hz、昇温速度3℃/分の条件で動的粘弾性の測定を行い、損失弾性率の主分散ピーク温度をガラス転移温度とした。
【0095】
(5)高分子弾性体の23℃及び50℃における貯蔵弾性率
研磨パッドを構成する高分子弾性体を用いて、縦4cm×横0.5cm×厚さ400μm±100μmのフィルムサンプルを作製した。そして、サンプル厚さをマイクロメータで測定した後、動的粘弾性測定装置(DVEレオスペクトラー、(株)レオロジー製)を用いて、周波数11Hz、昇温速度3℃/分の条件で23℃及び50℃における動的粘弾性率を測定し、貯蔵弾性率を算出した。
【0096】
(6)高分子弾性体の吸水率
研磨パッドを構成する高分子弾性体のフィルムを50℃で乾燥して、厚さ200μmのフィルムサンプルを得た。得られたフィルムサンプルを130℃で30分間熱処理した後、20℃、65%RHの条件下に3日間放置することにより、乾燥サンプルを得た。乾燥サンプルを50℃の水に2日間浸漬した。そして、50℃の水から取り出した直後にフィルムの最表面の余分な水滴等をJKワイパー150−S((株)クレシア製)にて拭き取った後のものを水膨潤サンプルとした。乾燥サンプルと水膨潤サンプルの質量を測定し、下記式に従って吸水率を求めた。
吸水率(%)=[(水膨潤サンプルの質量−乾燥サンプルの質量)/乾燥サンプルの質量]×100
【0097】
(7)テーバー摩耗
JIS K5600−5−9に準拠して、摩耗輪:H−22、荷重:500kg、回転数:1000回の条件で、φ13cmに切断した研磨パッドの試験片を研磨した。研磨前の試験片の質量から研磨後の試験片の質量を減じることによりテーバー摩耗減量(mg)を求めた。
【0098】
(8)研磨パッドの研磨レート、研磨均一性及び研磨安定性
円形状の研磨パッドの裏面に粘着テープを貼り付けた後、研磨パッドをCMP研磨装置((株)野村製作所製「PP0−60S」)に装着した。そして、ナイロンブラシを用いて、圧力20kPa、ブラシ回転数100回転/分の条件で、蒸留水を500mL/分の速度で流しながら1分間研磨パッド表面を研削することによりコンディショニング(シーズニング)を行った。
【0099】
次に、プラテン回転数50回転/分、ヘッド回転数49回転/分、研磨圧力35kPaの条件において、研磨スラリー(フジミインコーポレーテッド社製、GLANZOX−1302)を20倍希釈したものを、120ml/分の速度で研磨パッドの表面に供給しながら、直径6インチのベアシリコンウエハを60秒間研磨した。そして、研磨後のベアシリコンウエハ面内の任意の49点の厚さを測定し、各点において、研磨された厚さを研磨時間で除することにより研磨レート(nm/分)を求めた。そして、49点の研磨レートの平均値を1回目の研磨レート(R1)とした。そして、その標準偏差(σ)を求めた。
【0100】
そして、下記式により研磨面の不均一性を算出した。
不均一性(%)=(σ/R1)×100
なお、不均一性の値が小さいほど、研磨面が均一に研磨されており、より高精度な研磨加工が実現できていることを示す。
【0101】
シーズニングと研磨とを交互に300回繰り返し、1〜300回までの各研磨レートを求め、その最大値(Rmax)、最小値(Rmin)及び平均値(Ravg)から、下記式により研磨レート安定性(%)を求めた。
【0102】
研磨レート安定性(%)=(研磨レート最大値(Rmax)−研磨レート最小値(Rmin))/研磨レートの平均値(Ravg)×100
【0103】
[実施例1]
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVA樹脂という)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(50℃で吸水飽和させたときの吸水率1質量%、ガラス転移温度77℃)(以下、変性PETという)とを20:80(質量比)の割合で溶融複合紡糸用口金から吐出することにより、長繊維の海島型繊維を形成した。なお、溶融複合紡糸用口金は、島数が25島/繊維で、口金温度は260℃であった。そして、エジェクター圧力を紡糸速度4000m/分となるように調整して、平均繊度2.0dtexの長繊維をネット上に捕集することにより、目付量40g/m2のウェブを得た。
【0104】
得られたウェブをクロスラッピングにより12枚重ねて、総目付が480g/m2の重ね合わせウェブを作製した。そして、重ね合わせウェブに、針折れ防止油剤をスプレーした。次いで、ニードルパンチ処理して重ね合わせウェブを絡合することにより、絡合ウェブを得た。絡合ウェブの目付は647g/m2、層間剥離強度は10.5kg/2.5cmであった。なお、ニードルパンチ処理による面積収縮率は40%であった。
【0105】
得られた絡合ウェブを70℃の熱水中に90秒間浸漬して、島成分の応力緩和により面積をさらに46%収縮させ、次いで、95℃の熱水中に10分間浸漬して、PVA樹脂を溶解除去することにより、極細長繊維の繊維束から形成された絡合不織布を得た。絡合不織布の目付は839g/m2、見掛け密度は0.57g/cm3であった。
【0106】
そして、得られた絡合不織布に、高分子弾性体と無機微粒子とを含む複合体分散液を含浸させた。複合体分散液は、ポリウレタン弾性体Aの水性分散液(固形分濃度25質量%,平均粒子径50nm)と、シリカ微粒子の水性分散液(扶桑化学工業(株)製、PL−10H、二次粒子径218nm、シリカ濃度23.8質量%)とを、100:40の質量比率で含む混合液であった。このときポリウレタン弾性体Aの水性分散液の含浸量は、固形分換算で、絡合不織布の質量に対して15質量%、シリカ微粒子の水性分散液の含浸量は、固形分換算で、絡合不織布の質量に対して5質量%であった。
【0107】
ポリウレタン弾性体Aは、ポリカーボネート系無黄変型ポリウレタン樹脂100質量部に対して、カルボジイミド系架橋剤3質量部を添加して、熱処理することにより得られた架橋構造を有するポリウレタン樹脂である。なお、ポリカーボネート系無黄変型ポリウレタン樹脂は、軟質成分と硬質成分とを質量比率50/50で含有する混合物を重合して得られた樹脂である。軟質成分は、ヘキサメチレンカーボネート単位とペンタメチレンカーボネート単位とを含む非晶性ポリカーボネート系ポリオールと炭素数2〜3のポリアルキレングリコールとを99.9:0.1(モル比)で含む混合物に1.7質量%のカルボキシル基含有モノマー(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)を添加したものであり、硬質成分は、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、短鎖アミン及び短鎖ジオールを含む混合物を用いた。
【0108】
ポリウレタン弾性体Aの吸水率は2質量%、23℃における貯蔵弾性率は300MPa、50℃における貯蔵弾性率は150MPa、ガラス転移温度は−24℃であった
【0109】
複合体分散液が含浸された絡合不織布を90℃、50%RH雰囲気下で加熱し、さらに、150℃で乾燥処理することにより、ポリウレタン弾性体Aを凝固させ、シリカ微粒子との複合体を形成した。このようにして研磨パッド基材が得られた。得られた研磨パッド基材は、目付量890g/m2、見掛け密度0.61g/cm3、厚さ1.45mm、ポリウレタン弾性体Aとシリカ微粒子との質量比率は75/25、絡合不織布とポリウレタン弾性体Aとの質量比率が87/13であった。
【0110】
得られた研磨パッド基材の表面をバフィング研削加工して表面平坦化することにより、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドは、目付量706g/m2、見掛け密度0.61g/cm3、厚さ1.15mm、D硬度35であった。また、極細繊維束の平均断面積は320μm2であり、極細繊維束を構成する極細単繊維の平均断面積は11μm2であった。
【0111】
研磨パッドを、直径51cmの円形状に切断し、表面に幅2.0mm、深さ1.0mmの溝を格子状に15.0mm間隔で形成することにより、円形状の研磨パッドを得た。上述の方法により、各物性を評価した。結果を表1に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
[実施例2]
複合体分散液中のポリウレタン弾性体Aの水性分散液とシリカ微粒子の水性分散液の質量比率を100:40の代わりに100:17に変更することにより、ポリウレタン弾性体Aとシリカ微粒子との質量比率を86/14にした以外は、実施例1と同様にして、研磨パッドを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0114】
[実施例3]
複合体分散液中のポリウレタン弾性体Aの水性分散液とシリカ微粒子の水性分散液の質量比率を100:40の代わりに100:100に変更することにより、ポリウレタン弾性体Aとシリカ微粒子との質量比率を50/50にした以外は、実施例1と同様にして、研磨パッドを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0115】
[比較例1]
複合体分散液の代わりに、シリカ微粒子を含まないポリウレタン弾性体Aの水性分散液を絡合不織布に含浸させた以外は、実施例1と同様にして、研磨パッドを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0116】
[比較例2]
複合体分散液中のポリウレタン弾性体Aの水性分散液とシリカ微粒子の水性分散液の質量比率を100:40の代わりに100:160に変更することにより、ポリウレタン弾性体Aとシリカ微粒子との質量比率を40/60にした以外は、実施例1と同様にして、研磨パッドを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0117】
本発明に係る実施例1〜3で得られた研磨パッドは、テーバー摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れていた。また、実施例の研磨パッドを用いることにより、ベアシリコンウエハを均一に研磨することができるとともに、研磨レートおよび研磨レート安定性にも優れていた。一方、比較例1の研磨パッドでは、シリカ粒子を用いていないため、耐摩耗性、研磨均一性、研磨レート及び研磨レート安定性のいずれも、実施例に比較して劣っていた。比較例2の研磨パッドは、研磨不均一性の値が顕著に高く、高い精度で研磨加工することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明に係る研磨パッドは、平坦化や鏡面化が行われる各種基板等の各種製品、例えば、ウエハ(シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ等)、液晶・表示部材(LED基板、ガラス基板)、ガラス製品、金属製品、プラスチック製品、セラミック製品、水晶、MEMS、その他の基板(ハードディスク基板、金属基板、プラスチック基板、セラミック基板、光学基板、電子回路基板、電子回路マスク基板、多層配線基板、ハードディスク基板等)等の表面、裏面及び端面を研磨するための研磨パッドとして用いることができる。
【符号の説明】
【0119】
1 絡合不織布
2 高分子弾性体
3 無機粒子
4 複合体
10 研磨パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極細繊維の絡合不織布と、
前記絡合不織布の内部に含浸された、高分子弾性体と無機粒子との複合体とを含み、
前記複合体が前記無機粒子を1〜50質量%含むことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記無機粒子が平均粒子径50〜450nmの無機酸化物粒子である請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記無機粒子がシリカ粒子である請求項1または2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記高分子弾性体が無孔質ポリウレタン樹脂である請求項1〜3の何れか1項に記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記絡合不織布と前記高分子弾性体との質量比率(絡合不織布/高分子弾性体)が、90/10〜55/45である請求項1〜4の何れか1項に記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記絡合不織布が、平均断面積が0.1〜30μm2である極細単繊維の長繊維束の絡合体である請求項1〜5の何れか1項に記載の研磨パッド。

【図1】
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【公開番号】特開2012−210683(P2012−210683A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77603(P2011−77603)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】