説明

研磨用キャリア及び該キャリアを用いたガラス基板の研磨方法及びガラス基板の製造方法及び磁気記録媒体用ガラス基板

【課題】本発明は研磨用キャリアを構成する繊維からガラス基板を保護することを課題とする。
【解決手段】研磨用キャリア20Aは、繊維質シート体30と、シート体30に含浸される樹脂製含浸体40とを積層した複合材料により成型される。繊維質のシート体30は、繊維32と樹脂製含浸体40とを積層してなり、繊維32の繊維質シート体30を複数枚積層したものである。研磨用キャリア20Aは、樹脂材料のみにより形成された保持穴緩衝領域50と、繊維質シート体30と樹脂製含浸体40により形成された保持穴補強領域60とを有する。保持穴緩衝領域50は、ガラス基板保持穴21の内周壁面25に複数の凹部26が配されており、繊維が存在しないため、弾性変形しやすい。また、凹部26は、内周壁面25から外側の所定距離の範囲La内に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨工程でガラス基板を保持するよう構成された研磨用キャリア及びガラス基板の研磨方法及びガラス基板の製造方法及び磁気記録媒体用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、磁気記録媒体用として使用されるガラス基板の製造ラインは、少なくとも以下の工程1〜工程7を含む。
(工程1)フロート法、フュージョン法、リドロー法、またはプレス成形法により成形されたガラス素基板を、中央部に円形孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面を面取り加工する。
(工程2)ガラス基板の内周または外周の少なくとも一方の側面部と面取り部に端面研磨する。
(工程3)ガラス基板の上下主平面を研磨加工する。
(工程4)ガラス基板を精密洗浄する。
(工程5)洗浄されたガラス基板を乾燥させる。
(工程6)乾燥したガラス基板の欠陥を目視又は光学方式表面観察機により検査する。
(工程7)検査したガラス基板をガラス基板収納容器に収納して包装する。
【0003】
少なくとも上記工程1〜工程7を含むガラス基板の製造ラインにより製造されたガラス基板は製品として出荷される。
【0004】
研磨工程においては、研磨用キャリアが研磨装置の遊星歯車機構により回転(自転しながら公転する)することで、研磨用キャリアの保持穴に挿入されたガラス基板と研磨面との相対変位によりガラス基板の主平面を研磨する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
研磨用キャリアは、樹脂材により円盤状に成形されており、外周側面に研磨装置のサンギヤと、研磨装置の外周縁部に形成されたインターナルギヤとに噛合する複数の歯が形成されたギヤ部が設けられ、ギヤ部の内側平面に複数のガラス基板保持穴が設けられている。
【0006】
研磨工程においては、研磨液を研磨パッドの研磨面に供給しながらガラス基板の主平面(上下面)を研磨しており、研磨用キャリアの各ガラス基板保持穴に収納保持されたガラス基板は、研磨用キャリアのギヤ部が研磨装置のサンギヤ及びインターナルギヤに噛合して回転する際に主平面が研磨される。このように研磨用キャリアは、ギヤ部による回転駆動力及びガラス基板と研磨パッドとの間の相対運動によって生じる研磨抵抗を受けるため、樹脂材のみでは強度不足になる。研磨キャリアは、ガラス等の繊維を樹脂材に含浸して積層することで、研磨キャリアの強度が高められている。
【0007】
また、研磨キャリアに含まれる繊維は、硬いので、特に繊維が研磨用キャリアのガラス基板保持穴内にはみ出しているとガラス基板に接触してガラス基板の外周側面を傷つけるという問題が発生する。そのため、研磨キャリアの製造工程では、繊維と樹脂材料とを含む複合材料を用いて研磨用キャリアを成型し、キャリア平面部に複数のガラス基板保持穴を加工した後に、ガラス基板保持穴の内周壁面をバリ取り加工している。これにより、ガラス基板保持穴の内周壁面は、大きな凹凸の無い平滑面に形成されるため、ガラス基板の外周側面が損傷することがある程度抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−6526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来の研磨用キャリアは、ガラス基板保持穴の内周壁面にバリ取り加工を施しているが、ガラス基板保持穴の内周壁面を平滑に加工しても、内周壁面と繊維が同一面であるため、ガラス基板の外周側面がガラス基板保持穴の内周壁面に接触した際に硬い繊維にも接触し、キズが発生することを充分に防止できない。また、使用回数が増加すると共にガラス基板の外周側面がガラス基板保持穴の内周壁面に接触する回数が増加すると、徐々に繊維がガラス基板保持穴の内周壁面からはみ出してガラス基板の外周側面により強く接触する。
【0010】
また、研磨工程において、繊維が擦られて微細な破片(例えば、ガラス粉)が発生すると、当該破片が研磨面に付着または研磨液に混入してガラス基板の主平面を傷つけることがあった。
【0011】
そこで、本発明は上記事情に鑑み、ガラス基板保持穴の内周壁面から所定距離外側の領域にのみ繊維を配することで上記課題を解決した研磨用キャリア及び該キャリアを用いたガラス基板の研磨方法及びガラス基板の製造方法及び磁気記録媒体用ガラス基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下のような手段を有する。
(1)本発明は、繊維と樹脂材料とを含む複合材料を用いて形成され、ガラス基板を保持するガラス基板保持穴を有する保持部と、前記保持部の外周に設けられた複数の歯を有するギヤ部とを備えた研磨用キャリアにおいて、
前記ガラス基板保持穴の内周壁面に複数の凹部が配され、前記内周壁面から外側に前記樹脂材料のみにより形成された保持穴緩衝領域と、
前記保持穴緩衝領域の外側に前記複合材料により形成された保持穴補強領域と、
を有することを特徴とする。
(2)本発明の前記ギヤ部は、各歯の外周壁面に複数の凹部が配され、前記樹脂材料のみにより形成されたギヤ部緩衝領域と、
前記ギヤ部緩衝領域の内側に前記複合材料により形成されたギヤ部補強領域と、
を有する。
(3)本発明は、前記内周壁面における前記繊維の露出割合を示す前記繊維の露出面積率が5%以下である。
(4)本発明の前記凹部は、前記ガラス基板保持穴の内周壁面よりの深さが2μm以上である。
(5)本発明の前記ギヤ部は、各歯の外周壁面に保護膜が形成される。
(6)本発明の前記繊維は、ガラス繊維又は金属繊維である。
(7)本発明の前記ガラス基板は、中央部に円形孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板である。
(8)本発明は、研磨装置の定盤の研磨面を、研磨用キャリアのガラス基板保持穴に保持されたガラス基板の主平面に押圧し、研磨液を前記研磨面と前記ガラス基板との間に供給すると共に、前記研磨用キャリアと前記研磨面とを相対的に動かして前記ガラス基板の主平面を研磨するガラス基板の研磨方法において、
前記研磨用キャリアは、(1)〜(7)の何れかに記載の研磨用キャリアであることを特徴とする。
(9)本発明は、(8)に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤に装着した固定砥粒工具の研磨面と研磨液を用いた固定砥粒研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨する。
(10)本発明は、(8)に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤の研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いた遊離砥粒研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨する。
(11)本発明は、(8)に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤に装着した研磨パッドの研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いた鏡面研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨する。
(12)本発明は、ガラス板を所望の形状を有するガラス基板に加工する形状加工工程と、前記ガラス基板の主平面を研磨する研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程と、を有するガラス基板の製造方法において、
前記研磨工程は、(1)〜(7)の何れかに記載の研磨用キャリアのガラス基板保持穴に前記ガラス基板を挿入した状態で前記主平面を研磨することを特徴とする。
(13)本発明は、(12)に記載のガラス基板の製造方法によって製造された磁気記録媒体用ガラス基板であって、
前記ガラス基板の外周側面は、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下である。
(14)本発明は、主平面と、内周側面と、外周側面と、中央部の円形孔とを有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板において、
前記外周側面は、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、研磨用キャリアに形成されたガラス基板保持穴の内周壁面から繊維がはみ出すことがないので、研磨工程時にガラス基板保持穴に挿入されたガラス基板の外周側面が損傷することを防止できる。また、繊維から破片(例えば、ガラス粉)が発生しにくくなるため、ガラス基板の主平面が損傷することを抑制できると共に、ガラス基板保持穴の内周壁面の凹部に研磨液が保持され、内周壁面に対する摩擦が軽減されてガラス基板保持穴内のガラス基板が回転しやすくなるため、ガラス基板の主平面の平行度がより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ガラス基板の一実施例を示す斜視図である。
【図2】ガラス基板の断面形状を示す断面斜視図である。
【図3】本発明による研磨用キャリアの一実施例を示す平面図である。
【図4A】研磨用キャリア20Aの図3中X−X線に沿う縦断面図である。
【図4B】研磨用キャリア20Bの図3中X−X線に沿う縦断面図である。
【図5】本発明による研磨用キャリアが用いられる両面研磨装置の構成を示す正面図である。
【図6】研磨用キャリアを両面研磨装置に取付けた研磨工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
〔ガラス基板の構成、製造〕
図1はガラス基板の一実施例を示す斜視図である。図1に示されるように、磁気記録媒体用ガラス基板を製造する工程では、先ず、フロート法、フュージョン法、リドロー法、またはプレス成形法で成形されたSiOを主成分とするガラス素基板を製作し、外径65mm、内径20mm、板厚0.635mmの寸法のガラス基板10が得られるようにガラス素基板を加工する。ガラス基板10は、両主平面11の中央部に円形孔12を有する円盤状に形成され、内周側面13と、外周側面14とを有する。
【0017】
図2はガラス基板の断面形状を示す断面斜視図である。図2に示されるように、ガラス基板10の内周側面13及び外周側面14を面取り幅0.15mm、面取り角度45度の面取り部15、16のガラス基板が得られるように加工を施す。その後、ガラス基板10の内周側面13、外周側面14及び内周面取り部15、外周面取り部16を、研磨ブラシと酸化セリウム砥粒を用いて研磨して微細なキズを除去する。次いでガラス基板10の表面に付着した砥粒を洗浄し、除去する。
【0018】
ガラス基板10の上下主平面11を研磨する研磨方法としては以下の研磨方法がある。
【0019】
本実施例のガラス基板の研磨方法では、研磨装置の定盤の研磨面を、研磨用キャリアのガラス基板保持穴に保持されたガラス基板10の主平面11に押圧し、研磨液を研磨面とガラス基板10との間に供給すると共に、研磨用キャリアと研磨面とを相対的に動かしてガラス基板10の主平面11を研磨する。
【0020】
ここで、ガラス基板の研磨方法の具体例について説明する。
【0021】
(I)研磨方法Aとしては、研磨装置の定盤に装着した固定砥粒工具の研磨面と研磨液を用いてガラス基板10の主平面11を研磨する固定砥粒研磨方法(固定砥粒研磨工程)がある。
【0022】
(II)研磨方法Bとしては、研磨装置の定盤の研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いてガラス基板10の主平面11を研磨する遊離砥粒研磨方法(遊離砥粒研磨工程)がある。
【0023】
(III)研磨方法Cとしては、研磨装置の定盤に装着した研磨パッドの研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いてガラス基板10の主平面11を研磨する鏡面研磨方法(鏡面研磨工程)がある。
【0024】
尚、上記研磨方法A〜Cは、目的に応じて適宜選択される。例えば、ガラス基板の板厚を揃える、ガラス基板の平坦度を所望の値とするように研磨する場合は、アルミナ砥粒などの遊離砥粒を含む研磨液を用いてガラス基板10の上下主平面11をラップ加工する上記研磨方法B、または固定砥粒工具と研磨液を用いてガラス基板10の上下主平面11を研削加工する上記研磨方法Aが適用される。
【0025】
また、磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11を、例えば、波長405nmのレーザ光を用いて測定した60nm〜160nmの表面うねりnWaが0.3nm以下となるように研磨する場合は、上記研磨方法Cが適用される。
〔ガラス基板の製造工程〕
(形状加工工程)
フロート法、フュージョン法、リドロー法、またはプレス成形法により成形されたガラス素基板を、中央部に円形孔を有する円盤形状に加工した後、内周側面と外周側面を面取り加工する。
【0026】
(端面研磨工程)
上記面取り加工したガラス基板10の外周側面14と外周面取り部16を研磨して、外周側面14と外周面取り部16のキズを除去し、鏡面にする(外周端面研磨)。外周端面研磨は、例えは研磨ブラシと砥粒を含有する研磨液を用いて行う。ガラス基板10の内周側面13と内周面取り部15も、鏡面となるように研磨することが好ましい(内周端面研磨)。
【0027】
(固定砥粒研磨工程又は遊離砥粒研磨工程)
上記端面加工が終了したガラス基板10の上下主平面11を、ダイヤモンド砥粒を含有する固定砥粒工具と研磨液、又はアルミナ砥粒を含有する研磨液とラップ定盤を用いて研磨加工する(前述した研磨方法A(固定砥粒研磨工程)又は研磨方法B(遊離砥粒研磨工程)に相当する)。
【0028】
(1次鏡面研磨工程(以下、「1次研磨」という。))
ガラス基板10は、後述する両面研磨装置(図5を参照)により上下主平面11が1次研磨される。1次研磨工程では、例えば、研磨具として硬質ウレタン製の研磨パッドと、酸化セリウム砥粒を含有する研磨液(平均粒子直径、1.3μmの酸化セリウムを主成分とした研磨液組成物)とを用いる(前述した研磨方法C(鏡面研磨工程)に相当する)。
【0029】
また、1次研磨では、主研磨加工圧力は10kPa、定盤回転数は30rpm、研磨時間は研磨量が上下主平面11の厚さ方向で合計40μmとなるように研磨加工条件を設定する。この研磨条件により1次研磨を行う。
【0030】
1次研磨終了後のガラス基板10は、研磨具として軟質ウレタン製の研磨パッドと、平均粒子直径が1.3μmよりも小さい酸化セリウムを主成分とした研磨液とを用いて上記両面研磨装置により上下主平面11を2次研磨する。
【0031】
(2次鏡面研磨工程(以下、「2次研磨」という。))
2次研磨では、研磨加工圧力は10kPa、定盤回転数は30rpm、研磨時間は研磨量が上下主平面11の厚さ方向で合計5μmとなるように研磨加工条件を設定する。この研磨加工条件により2次研磨を行う(前述した研磨方法C(鏡面研磨工程)に相当する)。
【0032】
(3次鏡面研磨工程(以下、「3次研磨」という。))
2次研磨終了後のガラス基板10は、研磨具として軟質ウレタン製の研磨パッドと、コロイダルシリカを含有する研磨液を用いて上記両面研磨装置により上下主平面11が3次研磨される。3次研磨では、一次粒子の平均粒子直径が20〜30nmのコロイダルシリカを主成分とする研磨液を用いてガラス基板10の上下主平面11を研磨して仕上げる。
【0033】
(洗浄、乾燥工程)3次研磨が終了したガラス基板10は、洗剤によるスクラブ洗浄、洗剤溶液に浸漬した状態での超音波洗浄、純水に浸漬した状態での超音波洗浄、を順次行い、イソプロピルアルコール蒸気にて乾燥される。
【0034】
(検査工程)上記洗浄と乾燥を施したガラス基板10は、ガラス基板10の上下主平面11のキズなどの欠陥の有無やガラス基板10の形状特性を検査し、検査に合格したものが製品として出荷される。
〔研磨用キャリアの構成〕
図3は本発明による研磨用キャリアの一実施例を示す平面図である。図3に示されるように、研磨用キャリア20A、20Bは、繊維と樹脂材料とを含む複合材料を用いて形成され、ガラス基板10を保持するガラス基板保持穴21を有する保持部22と、保持部22の外周に設けられた複数の歯を有するギヤ部24とを有する。
【0035】
上記研磨用キャリア20A、20Bを形成する繊維としては、例えば、ガラス繊維、金属繊維を用いることができ、中でもガラス繊維を使用することが好ましい。以下の説明では、ガラス繊維と樹脂材とを含む複合材料により研磨用キャリアが形成される場合を一例として例示する。
【0036】
研磨用キャリア20A、20Bは、それぞれ同一形状であるが、後述するように、ギヤ部24の材質が異なる。一方の研磨用キャリア20Aは、固定砥粒研磨工程、遊離砥粒研磨工程、1次研磨工程など初期研磨工程用のキャリアであり、ガラス基板保持穴21の内周壁面25のみがガラス繊維を有しない樹脂材料により形成されている。また、他方の研磨用キャリア20Bは、最終研磨工程(例えば、鏡面研磨工程における2次研磨工程、又は3次研磨工程)で用いられる仕上研磨用キャリアであり、ガラス基板保持穴21の内周壁面25及びギヤ部24の外周壁面27がガラス繊維を有しない樹脂材料により形成されている。
【0037】
図4Aは研磨用キャリア20Aの図3中X−X線に沿う縦断面図である。図4Aに示されるように、研磨用キャリア20Aは、繊維質シート体30と、シート体30に含浸される樹脂製含浸体40とを積層した複合材料により成型される。繊維質のシート体30は、ガラス繊維32と樹脂製含浸体40とを積層してなり、ガラス繊維32の繊維質シート体30を複数枚積層したものである。樹脂製含浸体40は、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリミイド樹脂等が用いられる。
【0038】
また、繊維質シート体30は、繊維を縦方向と横方向に交差させて織り込んだ構造を持つため、研磨加工に耐えうる強度や剛性を備えている。
【0039】
研磨用キャリア20Aは、樹脂材料のみにより形成された保持穴緩衝領域50と、複合材料(繊維質シート体30と樹脂製含浸体40)により形成された保持穴補強領域60とを有する。
【0040】
保持穴緩衝領域50は、ガラス基板保持穴21の内周壁面25に複数の凹部26が配されており、ガラス繊維が存在しないため、弾性変形しやすい。また、凹部26は、内周壁面25から外側の所定距離の範囲La(例えば、深さがLa=2μm以上)に形成されている。尚、複数の凹部26の間隔及び配列パターンは、繊維質シート体30におけるガラス繊維の配置と、樹脂製含浸体40との積層条件によって決まる。
【0041】
また、保持穴緩衝領域50は、樹脂材料のみからなる樹脂製含浸体40により形成されており、ガラス繊維32が存在していないため、ガラス基板保持穴21の内周壁面25からガラス繊維32が露出してガラス基板10の外周側面14と接触することが防止されている。ガラス基板保持穴21は、内周壁面25に複数の凹部26が配され、表面が弾性変形可能に形成されているため、ガラス基板10の外周側面14が損傷しないように当該ガラス基板10を保持するように構成されている。
【0042】
さらに、内周壁面25に形成された複数の凹部26には、研磨液が保持されるため、ガラス基板保持穴21に挿入されたガラス基板10の外周との摩擦が緩和され、ガラス基板10が回転しやすくなる。これにより、ガラス基板10の主平面11の全面が均一に研磨されるため、上下主平面11の平行度が高められる。
【0043】
保持穴補強領域60は、保持穴緩衝領域50の外側の範囲Lb(内周壁面25から外側の所定距離の範囲Laを除く領域)であるので、ガラス基板保持穴21の周囲を囲むように形成されており、ガラス基板保持穴21の強度を高めている。また、研磨用キャリア20Aでは、ギヤ部24も保持穴補強領域60と同様に、複合材料(繊維質のシート体30と樹脂製含浸体40)により形成されたギヤ部補強領域70であるので、ギヤ部24の強度及び耐久性が高められている。よって、研磨用キャリア20Aでは、ギヤ部24が摩耗しにくいので、高速回転及び長時間連続回転に耐えることができ、例えば、固定砥粒研磨工程により研磨することも可能である。
【0044】
図4Bは研磨用キャリア20Bの図3中X−X線に沿う縦断面図である。図4Bに示されるように、研磨用キャリア20Bは、前述した研磨用キャリア20Aと同様に、繊維質の繊維質シート体30と、繊維質シート体30に含浸される樹脂製含浸体40とを積層した複合材料により成型される。また、研磨用キャリア20Bは、前述した研磨用キャリア20Aと同様に、複数の凹部26が配され、保持穴緩衝領域50と、保持穴補強領域60とを有する。
【0045】
研磨用キャリア20Bにおいて、研磨用キャリア20Aと異なり、ギヤ部24が各歯の外周壁面に複数の凹部26が配され、樹脂製含浸体40からなる樹脂材料のみにより形成されたギヤ部緩衝領域80を有する。ギヤ部緩衝領域80は、複合材料により形成されたギヤ部補強領域70の外側に形成されており、ガラス繊維32を有していないため、駆動時に研磨装置のサンギヤとインターナルギヤの摩耗を低減できると共に、駆動時にギヤ部24の外周壁面からガラス繊維の摩耗粉の発生を防止できる。
〔両面研磨装置の構成〕
図5は両面研磨装置の概略構成を示す正面図である。図5に示されるように、両面研磨装置200は、複数のガラス基板の上主平面及び下主平面を同時に研磨するように構成されており、基台220と、上定盤201と、下定盤202と、昇降機構208とを有する。基台220の上部には、下定盤202が回転可能に支持されており、基台220の内部には、上定盤201を駆動する定盤駆動モータが取り付けられている。
【0046】
上定盤201は、下定盤202の上方に対向配置され、研磨用キャリア20A(又は研磨用キャリア20B)に保持された複数のガラス基板10の上主平面11を研磨する上側研磨面130を有する。また、下定盤202は、研磨用キャリア20A(又は研磨用キャリア20B)に保持された複数のガラス基板10の下主平面11を研磨する下側研磨面140を有する。
【0047】
昇降機構208は、基台220の上方に起立する門型のフレーム206により支持されており、ガラス基板交換時に上定盤201を上昇させる昇降用シリンダ装置209を有する。昇降用シリンダ装置209は、フレーム206の中央に取り付けられている。昇降用シリンダ装置209のピストンロッド254は、下方に延在しており、その下端部には上定盤201を支持する支持機構207が連結されている。
【0048】
支持機構207は、下方に延在する支柱207aと、上定盤201の上面に固定された固定ベース207bとを有する。固定ベース207bには、定盤駆動モータの回転軸150に設けられた溝262aに結合されるロック機構260が設けられている。
【0049】
ロック機構260は、溝262aに結合されるロックピン281と、ロックピン281を固定ベース207bに連結する軸282とを有する。
【0050】
上定盤201は、昇降用シリンダ装置209のピストンロッド254の昇動作によりガラス基板交換時に上昇し、研磨時には降下する。また、昇降機構208の昇降用シリンダ装置209、及び定盤駆動モータは、制御部210により制御される。
〔キャリアの取付構造〕
図6は研磨用キャリア20A(20B)を両面研磨装置200に取付けた研磨工程を示す斜視図である。図6に示されるように、上定盤201は、回転軸150により回転可能に支持されている。また、回転軸150に設けられたサンギヤ203は、複数の研磨用キャリア20A(20B)の外周に形成されたギヤ部24に噛合している。さらに、複数の研磨用キャリア20A(20B)のギヤ部24の各歯は、インターナルギヤ205に噛合している。これらの各ギヤ203、24、205は遊星歯車機構を構成しており、各研磨用キャリア20A(20B)はサンギヤ203とインターナルギヤ205の回転により自転しながら回転軸150の周囲を公転する。
【0051】
これにより、ガラス基板用の各研磨用キャリア20A(20B)のガラス基板保持穴21に挿入されたガラス基板は、上定盤201に固定された上側研磨面130及び下定盤202に固定された下側研磨面140に摺接しながら両面研磨される。
〔ガラス基板の研磨の作業手順〕
ここで、ガラス基板の研磨の作業手順について説明する。
(手順A1) 研磨用キャリア20Aを下側研磨面140上に装着する。そして、未研磨のガラス基板10をガラス基板用の研磨用キャリア20Aの各ガラス基板保持穴21に挿入する。
(手順A2) 次に、図5に示されるように、両面研磨装置200の昇降用シリンダ装置209を作動させてピストンロッド254を降下させ、上定盤201の上側研磨面130を被研磨体であるガラス基板10の上主平面11に当接させる。
(手順A3) ロック機構260のロックピン281を、回転軸150の溝262aに結合させる。この後は、駆動モータにより上定盤201及び下定盤202、サンギヤ203及びインターナルギヤ205を回転させて上記研磨用キャリア20Aの各ガラス基板保持穴21に挿入された各ガラス基板10の上、下主平面11を同時に研磨する。
(手順A4) ガラス基板10の研磨終了後、両面研磨装置200の昇降用シリンダ装置209を作動させてピストンロッド254を上昇させ、上定盤201の上側研磨面130を研磨用キャリア20A(20B)から離間させる。そして、各ガラス基板10を取出す。
【0052】
前述した、固定砥粒研磨工程、遊離砥粒研磨工程、1次研磨工程〜3次研磨工程では、研磨条件(研磨パッドの種類、砥粒の種類、回転数、研磨時間など)を変えてそれぞれ上記手順1〜手順4を行う。
(手順A5) ガラス基板10の研磨を終了したときは、両面研磨装置200による研磨を停止し、各ガラス基板を取出して洗浄して検査工程へ搬送する。
〔研磨用キャリアの加工工程について〕
〔樹脂成型機による成形工程〕
研磨用キャリア20A、20Bは、熱プレス機を用いて樹脂材料とガラス繊維とを含む複合材料により板状に成形される。
【0053】
〔ガラス基板保持穴とギヤ部の形成工程〕
成形された後、図3に示されるように、キャリア平面部に複数のガラス基板保持穴21とギヤ部24をエンドミルにより切削形成する。各ガラス基板保持穴21内はガラス基板10を挿入できる外径に対応した内径に形成する。
【0054】
〔エッチング工程〕
図4Aに示される研磨用キャリア20Aは、所定時間エッチング溶液に浸されることにより各ガラス基板保持穴21の内周壁面25に露出するガラス繊維32を除去される。エッチング工程では、エッチング液に浸される時間によりエッチング量が決まり、その時間に応じた深さのガラス繊維32が溶解されて除去される。また、エッチング工程終了後は、内周壁面25におけるガラス繊維32の露出割合を示すガラス繊維32の露出面積率が5%以下であることが望ましい。尚、露出面積率とは、例えば、(内周壁面25におけるガラス繊維32の露出面積)÷(内周壁面25の全面積)×100(%)で求まる数値である。
【0055】
また、研磨用キャリア20Aでは、ギヤ部24に回転駆動トルクが伝達される際のギヤ部24の耐久性及び耐摩耗性を維持するため、ギヤ部24にガラス繊維32が存在する。研磨用キャリア20Aをエッチングする際は、ギヤ部24の外周壁面に露出するガラス繊維32を残すため、ギヤ部24の外周壁面27にマスク用テープを貼着又はマスク用樹脂材(例えば、比較的摩擦係数の小さい4フッ化エチレン樹脂、又はエポキシ樹脂等)をコーティングする。これにより、研磨用キャリア20Aをエッチング溶液に浸漬する際は、各ガラス基板保持穴21の内周壁面25に露出するガラス繊維32が除去されるが、ギヤ部24の外側壁面27には、ガラス繊維32が残される。
【0056】
尚、マスク用テープは、エッチング終了後にギヤ部24から剥がされるが、マスク用樹脂材は除去してもよく、そのまま残してもよく、そのまま残した場合はギヤ部24の表面を保護する保護膜としても機能し、駆動時にギヤ部24の外周壁面27からガラス繊維32の摩耗粉の発生を防止する。
【0057】
また、図4Bに示される研磨用キャリア20Bは、ギヤ部24の外周壁面27に露出するガラス繊維32を内側に所定寸法La分除去することで、最終(仕上)研磨工程において、ガラス繊維32の一部が研磨面に付着する、又は研磨液に混入することを防止する。
【0058】
研磨用キャリア20Bは、所定時間エッチング溶液に浸されることにより各ガラス基板保持穴21の内周壁面25及びギヤ部24の外周壁面27に露出するガラス繊維32が除去され、外周壁面27に複数の凹部26が形成される。
【0059】
〔エッチング処理の手順〕
(手順B1)ガラス基板保持穴21とギヤ部24を形成したキャリア20A(20B)をエッチング溶液(例えば、0.01%〜2.0%のフッ酸を含む酸性溶液)に所定時間(例えば、24時間程度)浸漬する。なお、本明細書において、%とは質量百分率を意味する。
【0060】
例えば、フッ酸(HF=0.01%〜2.0%)+硝酸(HNO3=0.02%〜4.0%)からなるエッチング溶液を容器に入れ、当該容器の上部開口からキャリア20A、20Bを縦置き又は横置きにして上記エッチング溶液に所定時間(例えば、1時間程度)浸漬する。この場合、フッ酸の希薄液を用いると、エッチング作業が安全に行える。
【0061】
尚、上記0.01%〜2.0%のフッ酸を含む酸性溶液によるエッチング処理のための浸漬時間は、ガラス繊維32のエッチング量(寸法)とエッチング溶液のフッ酸や硝酸の濃度に応じて適宜変更される。例えば、凹部26の深さ寸法をLa=16μm〜20μmとした場合、フッ酸(HF=0.1%)+硝酸(HNO3=0.2%)からなるエッチング溶液を用いておおよそ20時間〜24時間程度のエッチング処理を施す。また、エッチング処理の効率を考慮すると、例えば、フッ酸(HF=1.8%)+硝酸(HNO3=3.7%)からなるエッチング溶液に7分間浸漬する方法、あるいはフッ酸(HF=1.3%)+硝酸(HNO3=2.6%)からなるエッチング溶液に15分間浸漬する方法がある。
【0062】
(手順B2)研磨用キャリア20A、20Bをエッチング溶液から取出し、研磨用キャリア20A、20Bの表面に付着したエッチング溶液を中和液で洗浄する。このエッチング処理により前述した保持穴緩衝領域50及びギヤ部緩衝領域80が形成される。
【0063】
研磨用キャリア20A、20Bでは、上記エッチング処理により各ガラス基板保持穴21の内周壁面25から内側に所定範囲(例えばLa≒16μm〜20μm)のガラス繊維32が除去されるため、各ガラス基板保持穴21の内周壁面25には、ガラス繊維32が取り除かれたスペースに複数の凹部26が残される。
【0064】
また、一方の研磨用キャリア20Aは、ギヤ部24の外周壁面27にマスク用テープが貼着され、あるいはマスク用樹脂材がコーティングされてマスキングされているため、ギヤ部24の外周壁面27にガラス繊維32が露出している。他方の研磨用キャリア20Bでは、ギヤ部24に対してマスキング処理を行なわないため、ギヤ部24の外周壁面27から内側に所定範囲(例えばLa≒16μm〜20μm)のガラス繊維32がエッチング処理により除去される。
【0065】
尚、本実施例では、エッチング液へ浸漬することによりガラス基板保持穴21の内周壁面25に露出するガラス繊維32を所定範囲Laまで溶解する方法を用いた場合について説明したが、ガラス繊維32を除去する加工方法としてはエッチング液へ浸漬すること以外の加工方法(例えば、フッ化水素又はフッ化水素ナトリウムなどをガラス基板保持穴21の内周壁面25やギヤ部24に塗布する方法)を用いても良い。
【0066】
また、本実施例においては、ガラス繊維32を含有する研磨用キャリア20A、20Bについてガラス繊維の除去方法を述べたが、本発明の適用範囲はこれに限ったものではない。例えば樹脂母材に金属繊維を含有した研磨用キャリアについて無機酸等を用いてガラス基板保持穴21の内周壁面25及びギヤ部24の外周壁面27に露出する当該金属繊維を溶出除去してもよい。
〔研磨用キャリア20A、20Bを用いて研磨されたガラス基板の検査結果〕
(固定砥粒研磨工程の実験結果)
表1は研磨用キャリア20A(ギヤ部マスキング有り)を研磨装置200に取付けてガラス基板10を固定砥粒研磨した場合(実施例No.1)と従来の研磨用キャリア(エッチング処理無し)を用いてガラス基板10を固定砥粒研磨した場合(比較例No.2)との比較結果を示す。
【0067】
【表1】

表1より、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を固定砥粒研磨した場合、ガラス基板10の外周側面14の表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.06μm〜0.08μmであるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.15μm〜0.23μmである。尚、外周側面14の表面粗さは、例えば触針式表面粗さ測定器(東京精密社製、SURFCOM 1400D)により、R0.2μmの触針を外周側面14の表面で主平面11と垂直の方向に0.2mm走査させて測定する。
【0068】
また、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を研磨した場合、ガラス基板10の外周側面14の単位面積当たりに発生した凹形状欠陥(最大径または縦横寸法が10μm以上のキズなどの欠陥)の数nがn=0個であるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の外周側面14の単位面積当たりに発生した凹形状欠陥の数nがn=2個である。尚、凹形状欠陥数の測定は、例えば光学顕微鏡により単位面積当たり(例えば、1mm当たり)に発生した最大径または縦横寸法が10μm以上のキズなどの凹形状欠陥をカウントすることで判断する。ガラス基板10の外周側面14においては、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下であることが望ましい。
【0069】
また、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を固定砥粒研磨した場合、ガラス基板10の上下主平面11の平行度aが0μmであるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の上下主平面11の平行度aが1μmであった。
【0070】
本実施例の平行度aの測定方法としては、ガラス基板10の周方向0°、90°、180°、270°の各2箇所ずつ、計8箇所で板厚をマイクロメータ(ミツトヨ製MDC−MJ/PJ)により測定する。そして、最大板厚値と最小板厚値との差を求めて平行度aを得る。
【0071】
この実験結果により、研磨用キャリア20Aを用いて固定砥粒研磨加工されたガラス基板10は、外周側面14の表面粗さ、外周側面14の凹形状欠陥数、上下主平面11の平行度aでいずれも従来の研磨用キャリアよりも良い結果が得られることが分かる。
(鏡面研磨工程の実験結果)
表2は研磨用キャリア20Aを研磨装置200に取付けてガラス基板10を1次研磨あるいは2次研磨した場合(実施例No.3)と従来の研磨用キャリアを用いてガラス基板10を研磨した場合(比較例No.4)との比較結果を示す。
【0072】
【表2】

表2より、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を1次研磨した場合、ガラス基板10の外周側面14の表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.06μm〜0.08μmであるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の外周側面14の表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.15μm〜0.42μmである。尚、表面粗さの測定方法は、上記固定砥粒研磨工程の場合と同じである。
【0073】
また、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を1次研磨(又は2次研磨)した場合、ガラス基板10の外周側面14の単位面積当たり(例えば、1mm当たり)に発生した凹形状欠陥の数nがn=0個であるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の外周側面14の単位面積当たり(例えば、1mm当たり)に発生した凹形状欠陥の数nがn=10個である。尚、凹形状欠陥数の測定方法は、上記固定砥粒研磨工程の場合と同じである。ガラス基板10の外周側面14においては、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下であることが望ましい。
【0074】
また、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を1次研磨した場合、ガラス基板10の上下主平面11の平行度bがa=0.3μmであるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の上下主平面11の平行度bがa=0.9μmである。平行度bの測定方法は、レーザ干渉計(例えば、フジノン社製、製品名:平面測定用フィゾー干渉計、G102S)を用いて行う。
【0075】
この実験結果により、研磨用キャリア20Aを用いて研磨加工されたガラス基板10は、外周側面14の表面粗さ、外周側面14の凹形状欠陥数、上下主平面11の平行度bでいずれも従来の研磨用キャリアよりも良い結果が得られることが分かる。
(仕上研磨工程の実験結果)
表3は研磨用キャリア20B(ギヤ部マスキング無し)を研磨装置200に取付けてガラス基板10を研磨した場合(実施例No.5)と従来の研磨用キャリアを用いてガラス基板10を研磨した場合(比較例No.6)との比較結果を示す。尚、仕上研磨工程とは、1〜2次研磨を行う場合は2次研磨のことであり、1〜3次研磨を行う場合は3次研磨のことであり、研磨工程の最後に実施される仕上げ研磨を意味する。
【0076】
【表3】

表3より、研磨用キャリア20Bを用いてガラス基板10の仕上研磨を行った場合、ガラス基板10の外周側面14の表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.06μm〜0.08μmであるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の外周側面14の表面粗さが表面粗さ曲線の最大谷深さRv=0.15μmである。尚、表面粗さの測定方法は、上記固定砥粒研磨工程、鏡面研磨工程の場合と同じである。
【0077】
また、研磨用キャリア20Bを用いてガラス基板10を仕上研磨した場合、ガラス基板10の外周側面14の単位面積当たり(例えば、1mm当たり)に発生した凹形状欠陥数nがn=0個であるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の外周側面14の単位面積当たり(例えば、1mm当たり)に発生した凹形状欠陥数nがn=8個である。尚、凹形状欠陥数の測定方法は、上記固定砥粒研磨工程、鏡面研磨工程の場合と同じである。
【0078】
また、研磨用キャリア20Aを用いてガラス基板10を仕上研磨した場合、ガラス基板10の両主平面11のキズの数naがna=0個であるのに対して、従来の研磨用キャリアではガラス基板10の両主平面のキズの数naがna=5個である。尚、上下主平面11のキズの測定方法は、検査員の目視によって行う。その際、照明をメタルハロイドランプ、300kルクスの明るさでキズの有無を検査し、大きさ(長さ)が5μm以上のキズをカウントする。
【0079】
この実験結果により、研磨用キャリア20Bを用いて仕上研磨加工されたガラス基板10は、外周側面14の表面粗さ、外周側面14の凹形状欠陥数、両主平面11のキズでいずれも従来の研磨用キャリアよりも良い結果が得られることが分かる。
【0080】
このように、本発明の研磨用キャリア20A、20Bを用いてガラス基板10を研磨することにより、ガラス基板10の外周側面14の表面粗さ、外周側面14の凹形状欠陥数、両主平面11のキズ、両主平面11の平行度が良好になる。さらに、研磨液に含まれる研磨剤(例えば、酸化セリウム(CeO)などのレアアース(希土類))の使用量を削減して研磨液の研磨剤の濃度を下げても、ガラス基板10の外周側面14の表面粗さ、外周側面14の凹形状欠陥数が増加する不具合が発生せず、研磨品質を維持することが可能である。よって、研磨工程で使用される研磨液の砥粒濃度を従来よりも低くして、貴重な研磨剤の消費量を削減して研磨工程におけるコストを安価に抑えると共に、研磨剤を節約することが可能になる。
【0081】
〔平行度a、bについて〕
ここで、前述した平行度a、bについて説明する。
【0082】
本発明によるガラス基板の製造方法によって製造された磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度a、bは、磁気記録媒体用ガラス基板の各領域における板厚が均一であるほど優れており、各領域における板厚が不均一(板厚偏差が大きい)であるほど劣ることになる。
【0083】
磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度は、マイクロメータ、レーザ変位計、レーザ干渉計などの測定機を用いて測定する。
【0084】
マイクロメータやレーザ変位計を用いた固定砥粒研磨工程による平行度aの測定は、磁気記録媒体用のガラス基板10の主平面11内において任意に決めた複数箇所で板厚を測定し、最大板厚値と最小板厚値の差を求めて行う。
【0085】
レーザ干渉計は、光の波長を物差しとしているので、鏡面研磨工程による平行度bを高精度に測定できる。また、磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度bを、1回のデータ取得で測定できるため、測定効率に優れる。
【0086】
レーザ干渉計を用いた磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度bの測定は、両主平面11から反射した反射光の位相差により形成される干渉縞を観察し、得られた干渉縞を解析することにより行う。レーザ干渉計で観察される明暗の干渉縞は等高線となっており、その間隔は光源の波長と入射角により決定される。
【0087】
観察された干渉縞本数が少ないほど、磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度は優れている、つまり、磁気記録媒体用のガラス基板10の両主平面11の平行度bを測定した領域の板厚偏差が小さく、同一ガラス基板10の主平面11内の板厚分布が優れることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0088】
上記実施例では、磁気記録媒体用のガラス基板を製造する工程を例に挙げて説明したが、これに限らず、これ以外の用途で使用されるガラス基板を研磨加工する各工程にも本発明を適用することができるのは勿論である。
【0089】
また、本発明が適用できるガラス基板としては、磁気記録媒体用、フォトマスク用、液晶や有機EL等のディスプレイ用、光ピックアップ素子や光学フィルタ等の光学部品用などのガラス基板が具体的なものとして挙げられる。
【符号の説明】
【0090】
10 ガラス基板
11 主平面
12 円形孔
13 内周側面
14 外周側面
15 内周面取り部
16 外周面取り部
20A、20B 研磨用キャリア
21 ガラス基板保持穴
22 保持部
24 ギヤ部
25 内周壁面
26 凹部
27 外周壁面
30 繊維質シート体
32 繊維
40 樹脂製含浸体
50 保持穴緩衝領域
60 保持穴補強領域
70 ギヤ部補強領域
80 ギヤ部緩衝領域
130 上側研磨面
140 下側研磨面
150 回転軸
200 両面研磨装置
201 上定盤
202 下定盤
203 サンギヤ
205 インターナルギヤ
206 フレーム
207 支持機構
208 昇降機構
209 昇降用シリンダ装置
210 制御部
220 基台
254 ピストンロッド
260 ロック機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と樹脂材料とを含む複合材料を用いて形成され、ガラス基板を保持するガラス基板保持穴を有する保持部と、前記保持部の外周に設けられた複数の歯を有するギヤ部とを備えた研磨用キャリアにおいて、
前記ガラス基板保持穴の内周壁面に複数の凹部が配され、前記内周壁面から外側に前記樹脂材料のみにより形成された保持穴緩衝領域と、
前記保持穴緩衝領域の外側に前記複合材料により形成された保持穴補強領域と、
を有することを特徴とする研磨用キャリア。
【請求項2】
前記ギヤ部は、各歯の外周壁面に複数の凹部が配され、前記樹脂材料のみにより形成されたギヤ部緩衝領域と、
前記ギヤ部緩衝領域の内側に前記複合材料により形成されたギヤ部補強領域と、
を有する請求項1に記載の研磨用キャリア。
【請求項3】
前記内周壁面における前記繊維の露出割合を示す前記繊維の露出面積率が5%以下である請求項1又は2に記載の研磨用キャリア。
【請求項4】
前記凹部は、前記ガラス基板保持穴の内周壁面よりの深さが2μm以上である請求項1又は2に記載の研磨用キャリア。
【請求項5】
前記ギヤ部は、各歯の外周壁面に保護膜が形成される請求項1又は2に記載の研磨用キャリア。
【請求項6】
前記繊維は、ガラス繊維又は金属繊維である請求項1〜4の何れかに記載の研磨用キャリア。
【請求項7】
前記ガラス基板は、中央部に円形孔を有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板である請求項1〜6に記載の研磨用キャリア。
【請求項8】
研磨装置の定盤の研磨面を、研磨用キャリアのガラス基板保持穴に保持されたガラス基板の主平面に押圧し、研磨液を前記研磨面と前記ガラス基板との間に供給すると共に、前記研磨用キャリアと前記研磨面とを相対的に動かして前記ガラス基板の主平面を研磨するガラス基板の研磨方法において、
前記研磨用キャリアは、請求項1〜7の何れかに記載の研磨用キャリアであることを特徴とするガラス基板の研磨方法。
【請求項9】
請求項8に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤に装着した固定砥粒工具の研磨面と研磨液を用いた固定砥粒研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨するガラス基板の研磨方法。
【請求項10】
請求項8に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤の研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いた遊離砥粒研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨するガラス基板の研磨方法。
【請求項11】
請求項8に記載のガラス基板の研磨方法であって、
前記研磨装置の定盤に装着した研磨パッドの研磨面と砥粒を含有する研磨液を用いた鏡面研磨工程により前記ガラス基板の主平面を研磨するガラス基板の研磨方法。
【請求項12】
ガラス板を所望の形状を有するガラス基板に加工する形状加工工程と、前記ガラス基板の主平面を研磨する研磨工程と、前記ガラス基板の洗浄工程と、を有するガラス基板の製造方法において、
前記研磨工程は、請求項1〜7の何れかに記載の研磨用キャリアのガラス基板保持穴に前記ガラス基板を挿入した状態で前記主平面を研磨することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載のガラス基板の製造方法によって製造された磁気記録媒体用ガラス基板であって、
前記ガラス基板の外周側面は、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下であることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板。
【請求項14】
主平面と、内周側面と、外周側面と、中央部の円形孔とを有する円盤形状の磁気記録媒体用ガラス基板において、
前記外周側面は、大きさが10μm以上となる凹形状欠陥の数が5個/mm以下であることを特徴とする磁気記録媒体用ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−218103(P2012−218103A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85796(P2011−85796)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】