説明

磁気レーストラック・メモリ・デバイス

【課題】磁気レーストラック・メモリ・デバイスを提供すること。
【解決手段】レーストラック・メモリ・デバイスは、レーストラックに沿った一連の磁区壁の操作を容易にする。レーストラックは、磁区壁エネルギが、隣接するピン止め部位の間で連続的な形で増減し、その結果、磁区壁が、それらの間で貼り付かなくなるように設計される。レーストラックに沿った磁区壁エネルギの変動は、レーストラックの幅の連続的変動(一定の厚さを維持しながら)、または断面積の連続的変動(レーストラック寸法がレーストラックの長さに垂直な両方の方向で変更される)、あるいはその両方によって実現することができる。代替案では、この磁区壁エネルギの変動を、それ以外の点ではレーストラックの形状およびサイズを無変更に保ちながら、レーストラックに沿ったレーストラックの磁気特性を変更することによって実現することができる。さらに、レーストラックの組成または形状あるいはその両方の変動を使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国防省によって認定された契約番号第H94003−05−2−0505号の下で米国政府の支援を得て作られた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、メモリ・ストレージ・システムに関し、具体的には、磁気レーストラック内の磁区または磁区壁にデータを格納し、そこから読み出すことを可能にする、読取りデバイスおよび書込みデバイスにまたがって磁区壁を移動するのに電流を使用するメモリ・ストレージ・システムに関する。
【背景技術】
【0003】
レーストラック・メモリ・デバイスは、高密度ストレージ・デバイスとして関心を獲得しつつある。これらのデバイスは、たとえば、参照によって本明細書に組み込まれている、2004年12月21日に発行されたパーキン(Parkin)の米国特許第6834005号、名称「Shiftable magnetic register and method of using the same」に開示されている。図1〜2に、書込みデバイス(本明細書では書込み要素とも称する)15および読取りデバイス(本明細書では読取り要素とも称する)20を利用する磁気シフト・レジスタ10を含むそのようなレーストラック磁気メモリ・システム100の例示的な高水準アーキテクチャを示す。読取りデバイス20と書込みデバイス15との両方が、レーストラック磁気メモリ・システム100の読み書き要素を形成する。
【0004】
磁気シフト・レジスタ10は、強磁性体から作られたトラック11を含む。トラック11を、小さいセクションまたはドメイン内で、ある方向または別の方向で磁化することができる。情報は、トラック11内のドメイン25、30などの領域に格納される。トラックがそれから製造される磁性体の秩序変数は、磁化方向または磁気モーメントの方向であるが、ある方向から別の方向へ変化する。この磁気モーメントの方向の変動が、トラック11内の情報の格納の基礎を形成する。
【0005】
一実施形態では、磁気シフト・レジスタ10は、データ領域35およびリザーバ40を含む。データ領域35は、データを格納する、ドメイン25、30などのドメインの連続セットを含む。追加の長さが、リザーバ40の形で磁気シフト・レジスタ10に設けられる。
【0006】
リザーバ40は、十分に長くされ、その結果、データ領域35内のドメインがデータ領域35から読取り要素および書込み要素(ドメインを読み取り、書き込むための)をまたいでリザーバ40に完全に移動されるときに、データ領域35内のすべてのドメインを収容するようになっている。したがって、任意の所与のときに、ドメインは、部分的にデータ領域35内、部分的にリザーバ40内に格納され、したがって、ストレージ要素を形成するのは、データ領域35およびリザーバ40の組合せである。一実施形態では、リザーバ40は、リザーバ領域に静止状態の磁区が全くない場所である。
【0007】
したがって、データ領域35を、任意の所与のときに、磁気シフト・レジスタ10の異なる部分に配置することができ、リザーバ40は、データ領域35の両側で2つの領域に分割される。データ領域35は、1つの連続領域であり、本願の一実施形態では、データ領域35内のドメインの空間分布および広がりは、データ領域35が磁気シフト・レジスタ10内のどこに存在するかに無関係にほぼ同一であるが、別の実施形態では、ストレージ領域の諸部分を、特に読取り要素および書込み要素をまたぐ、この領域の移動中に、延ばすことができる。データ領域35の一部分(または全体)を、リザーバ40内に移動して、特定のドメイン内のデータにアクセスする。
【0008】
リザーバ40は、図1では、データ領域35とほぼ同一のサイズとして図示されている。しかし、他の代替実施形態は、リザーバ40がデータ領域35と異なるサイズを有することを可能にすることができる。一例として、複数の読取り要素および書込み要素が磁気シフト・レジスタごとに使用される場合には、リザーバ40を、データ領域35よりはるかに小さくすることができる。たとえば、2つの読取り要素および書込み要素が1つのシフト・レジスタについて使用され、データ領域の長さに沿って等しく配置される場合には、リザーバは、データ領域の約半分の長さであることだけが必要である。
【0009】
電流45がトラック11に印加されて、ドメイン25、30内の磁気モーメントをトラック11に沿って、読取りデバイス20または書込みデバイス15を通って移動する。トラックに沿って配列されたドメインは、磁区壁(DW)と呼ばれる境界によって互いから分離される。磁区壁を有する磁性体では、磁区壁にまたがって流れる電流は、レーストラックを構成する磁性体の特性に依存して、磁区壁を電流の方向または電流と反対の方向に移動する。電流がドメインを通って流れるときに、その電流は、「スピン分極」状態になる。このスピン分極された電流が、介在する磁区壁にまたがって次のドメインに流れるときに、その電流は、スピン・トルクを展開する。このスピン・トルクが、磁区壁を移動する。磁区壁速度は、非常に速く、すなわち100m/秒以上程度になる可能性があり、その結果、特定のドメインを、このドメインを読み取るために必要な位置または書込み要素によってその磁束を変更するのに必要な位置に移動するプロセスは、非常に短くなり得る。
【0010】
ドメイン25、30、31などのドメインは、図3〜5に示されているように、データ領域35をリザーバ40に出入りして移動するために、書込みデバイス15および読取りデバイス20上で前後に移動される(またはシフトされる)。図3の例では、データ領域35は、当初に壁の左側すなわち、リザーバ40内にドメインがない状態で磁気シフト・レジスタ10の底部32に存在することができる。図5に、データ領域35が完全に磁気シフト・レジスタ10の右側に存在するケースを示す。
【0011】
ドメイン31などの特定のドメインにデータを書き込むために、電流45が磁気シフト・レジスタ10に印加されて、ドメイン31を書込みデバイス15上で、これに位置合せして移動する。データ領域35内のすべてのドメインが、電流が磁気シフト・レジスタに印加されるときに移動する。
【0012】
ドメインの移動は、電流の大きさおよび方向と電流が印加される時間との両方によって制御される。一実施形態では、指定された形状(大きさ対時間)および持続時間の1つの電流パルスが、ストレージ領域内のドメインを1増分または1ステップだけ移動するために印加される。一連のパルスが、必要な個数の増分またはステップだけドメインを移動するために印加される。したがって、データ領域35のシフトされる部分205(図4)は、リザーバ40に押し込まれる(シフトされまたは移動される)。トラック11内のドメインの移動の方向は、印加される電流の方向に依存する。
【0013】
ドメイン25などの特定のドメイン内のデータを読み取るために、追加の電流が磁気シフト・レジスタ10に印加されて、ドメイン25を読取りデバイス20上で、これに位置合せして移動する。データ領域35のより大きいシフトされた部分210が、リザーバ40に押し込まれる(シフトされまたは移動される)。
【0014】
図1〜2および3〜5に示された読取りデバイスおよび書込みデバイスは、読取りデバイスおよび書込みデバイスが配列される基準面を定義する制御回路の一部を形成する。一実施形態では、磁気シフト・レジスタ10は、主としてこの基準面に直交して、この基準面から垂直に立つ。
【0015】
磁気シフト・レジスタ10を動作させるために、制御回路は、読取り要素および書込み要素に加えて、読取りデバイスおよび書込みデバイスの動作、シフト・レジスタ内でドメインを移動するための電流パルスの供給、磁気シフト・レジスタ内でデータをコーディングし、復号する手段などを含むさまざまな目的の論理回路網および他の回路網を含む。一実施形態では、制御回路は、CMOSプロセスを使用してシリコン・ウエハ上で製造される。最低の可能なコストを保つためにシリコンの最小の面積を利用しながらメモリ・デバイスの記憶容量を最大にするために、磁気シフト・レジスタは、シリコン・ウエハ上の小さいフットプリントを有するように設計される。
【0016】
図1に示された実施形態では、シフト・レジスタのフットプリントは、主として読取りデバイスおよび書込みデバイスが占有するウエハの面積によって決定される。したがって、磁気シフト・レジスタは、主としてウエハの平面から外れる方向に延びるトラックからなる。垂直方向でのトラックの長さは、シフト・レジスタの記憶容量を決定する。垂直の広がりは、水平方向のトラックの広がりよりはるかに大きくすることができるので、数百個の磁気ビットをシフト・レジスタに格納することができながら、水平面内でシフト・レジスタによって占有される面積は、非常に小さい。したがって、シフト・レジスタは、従来のソリッド・ステート・メモリと比較して、シリコン・ウエハの同一面積についてより多くのビットを格納することができる。
【0017】
磁気シフト・レジスタのトラックは、主として読取り要素および書込み要素の平面(回路平面)に直交(すなわち、「垂直」)であるものとして図示されるが、これらのトラックを、一例としてこれらのデバイスのより高い密度または製造のしやすさのために、この基準面に対してある角度で傾けることもできる。トラックを、基準面の表面に平行にすることすらできる、すなわち、トラックが、「水平」構成を有することができる。
【0018】
完全に均一で、滑らかな、磁気的に同種のトラックでは、磁区壁のエネルギは、トラックに沿った位置に依存せず、したがって、磁区壁は、熱ゆらぎおよびたとえば同一トラックまたは隣接トラック内の近くの磁区壁からの磁場などの寄生磁場に対して安定ではない可能性がある。レーストラックの構造を変更することによって(パーキンの米国特許第6834005号を参照されたい)、トラックに沿った磁区壁の好ましい位置を形成することができ、ここで、磁区壁のエネルギが減らされる。したがって、これらの「ピン止め部位」は、DWのエネルギ的に安定した位置を定義し、これによって連続するビットの間の間隔を定義する際に重要な役割を演ずる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6834005号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Luc Thomas, Masamitsu Hayashi, XinJiang, Charles Rettner and Stuart Parkin, Oscillatory dependence ofcurrent-driven magnetic domain wall motion on current pulse length, Nature 443,197 (2006)
【非特許文献2】Luc Thomas, M. Hayashi, X. Jiang, R.Moriya, C. Rettner and S.S.P. Parkin, Resonant amplification of magnetic domainwall motion by a train of current pulses, Science 315, 1553 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、従来技術の課題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
レーストラックがピン止め部位ならびに磁区壁エネルギ・プロファイルが性質において変調されるか波状であるセグメントを含む、磁気ストレージ・レーストラック・デバイスの実施形態を開示する。具体的に言うと、ピン止め部位(エネルギが極小値である)に対応する安定した磁区壁(DW)位置は、比較的より高い磁区壁エネルギを有するセグメント(それぞれのエネルギ障壁のように働く)によって分離される。したがって、電流パルスの終りにこれらのセグメントのうちの1つの中に位置決めされたDWは、比較的不安定であり、電流がオフに切り替えられた後に、そのエネルギを最小にするためにピン止め部位(安定位置)に向かって移動する。この形で、DWは、最終的にピン止め部位のうちの1つに静止するようになる。
【0023】
本発明の一態様は、磁性体を含むトラックであって、トラックを通過する電流に応答してトラックに沿ってシフトされ得る磁気領域を含むように設計される、トラックを含むデバイスである。このデバイスは、トラック内の磁気領域によって表されるデータを読み取り、書き込む少なくとも1つのコンポーネントをも含む。トラック自体は、i)所与の磁気領域のエネルギのそれぞれの極小値に対応するピン止め部位であって、所与の磁気領域をピン止めすることができる、ピン止め部位と、ii)隣接するピン止め部位の各対の間のセグメントであって、所与の磁気領域のエネルギは、トラックに沿った位置に伴って実質的に連続して変化すると同時に、隣接するピン止め部位のエネルギ最小値のうちの少なくとも1つより大きく、このセグメントは、所与の磁気領域をピン止めすることができるピン止め部位が全くない、セグメントとを含む。好ましい実施形態では、磁気領域は、磁区壁である。ピン止め部位の間のセグメントを、トラックの輪郭によって有利に定義することができ、たとえば、トラックは、波形状を有することができる。
【0024】
本発明のもう1つの態様は、磁性体を含むトラックであって、トラックは、データを表す磁気領域を含むように設計され、トラックに印加される電流は、トラックに沿って磁気領域をシフトする、トラックを含むデバイスである。このデバイスは、トラック内の磁気領域によって表されるデータを読み取り、書き込む少なくとも1つのコンポーネントをさらに含む。トラック自体は、i)所与の磁気領域のエネルギのそれぞれの極小値に対応するピン止め部位であって、ピン止め部位は、所与の磁気領域をピン止めすることができるが、ii)所与の磁気領域のエネルギが、トラックに沿った位置の関数として、所与の磁気領域がトラックに印加される電流を欠く場合に隣接するピン止め部位のうちの1つに移動しないほど十分に一定である、隣接するピン止め部位の間のセグメントがない、ピン止め部位を含む。
【0025】
本発明のもう1つの態様は、それを通って磁気領域を移動できる磁性体のトラックであって、印加される電流を欠く場合にそれぞれの磁気領域をピン止めするように働くさまざまなピン止め部位をその長さに沿って有する、トラックを含むデバイスである。(隣接するピン止め部位の間の)トラックに沿った位置の関数としての、所与の磁気領域のエネルギは、所与の磁気領域が、印加される電流を欠く場合にピン止め部位に向かって駆り立てられ、そこに移動するようになるように変化する。このデバイスは、トラック内の磁気領域からデータを読み取り、これにデータを書き込む少なくとも1つの要素をさらに含む。所与の磁気領域があるピン止め部位から別のピン止め部位に移動されるようにするために、トラックに電流パルスを印加することができる。電流パルスは、所与の磁気領域が、電流パルスが終了するときにピン止め部位にあるのではなくある中間点にあることができ、所与の磁気領域が、それでも、電流パルスが終了した後に前記別のピン止め部位に移動し、磁気領域のエネルギが、中間点から前記別のピン止め部位へ減少するようにするために有利に選択される。この形で、複数の磁気領域を、トラックに沿ってそれぞれの隣接するピン止め部位へ移動することができる。
【0026】
本発明のもう1つの態様は、所与の領域を有する磁気レーストラック・デバイスと共に使用される方法であって、第1構造を有する磁区壁および第2の異なる構造を有する磁区壁をレーストラックに沿って所与の領域に対応する安定位置に配置することであって、第1構造を有する磁区壁および第2構造を有する磁区壁は、レーストラックに沿った交番する位置を占める、配置することを含む方法である。この方法は、磁区壁のそれぞれが所与の領域の隣接する1つに移動するようにするために、レーストラックに電流パルスを印加することであって、(i)第1構造を有する磁区壁は、第1構造を有する磁区壁の第2構造を有する磁区壁への付随する変換を伴って、それらが極小エネルギを有する領域から、第1構造を有する磁区壁のエネルギが極大値である隣接領域に移動し、(ii)第2構造を有する磁区壁は、第2構造を有する磁区壁の第1構造を有する磁区壁への付随する変換を伴って、それらが極小エネルギを有する領域から、第2構造を有する磁区壁のエネルギが極大値である隣接領域に移動する電流パルスを印加することをさらに含む。第1構造を、渦構造とすることができ、第2構造を、トランスバース構造とすることができる。各磁区壁が所与の領域のうちの別の1つに移動するようにするために、レーストラック・デバイスに後続電流パルスを(繰り返して)印加することができる。この方法の一実施態様では、所与の領域は、レーストラックの交番する極小断面および極大断面に対応する。この方法のもう1つの実施態様では、所与の領域は、レーストラックの交番する磁気特性に対応する。
【0027】
これから、本発明の実施形態を、添付図面を参照して、例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の磁気シフト・レジスタ・システムを使用できる例示的な動作環境を示す概略図である。
【図2】本発明の磁気シフト・レジスタ・システムを使用できる例示的な動作環境を示す概略図である。
【図3】図1〜2の磁気シフト・レジスタの動作の方法を例示する概略図である。
【図4】図1〜2の磁気シフト・レジスタの動作の方法を例示する概略図である。
【図5】図1〜2の磁気シフト・レジスタの動作の方法を例示する概略図である。
【図6】エネルギ最小値(安定状態)が、エネルギ・ランドスケープ(energy landscape)が平坦である(すなわち、エネルギが一定である)領域によって分離される、異なるレーストラック(それ自体はこの図には図示されていない)に沿った位置の関数として磁区壁のエネルギを示す図である。
【図7】隣接するエネルギ最小値がエネルギ障壁によって分離されるように、磁区壁エネルギが周期的に変調される、波打つ磁区壁エネルギ・ランドスケープが示された、異なるレーストラック(それ自体はこの図には図示されていない)に沿った位置の関数として磁区壁のエネルギを示す図である。
【図8】非対称の波打つ磁区壁エネルギ・ランドスケープが示された、異なるレーストラック(それ自体はこの図には図示されていない)に沿った位置の関数として磁区壁のエネルギを示す図である。
【図9】どのようにして永久磁性体を使用してレーストラック(断面図で示される)内でピン止め部位を作成できるのかを示す図である。
【図10】どのようにして反強磁性体を使用してレーストラック(断面図で示される)内でピン止め部位を作成できるのかを示す図である。
【図11】複数の図を通じて使用されるさまざまな寸法が提示される、波形のレーストラックの概略を示す、波形状を有するレーストラックの上面を示す図である。
【図12】電子ビーム・リソグラフィによって製造される波形のレーストラックの例の走査型電子顕微鏡写真を示す、波形状を有するレーストラックの上面を示す図である。
【図13】電子ビーム・リソグラフィによって製造される波形のレーストラックの例の走査型電子顕微鏡写真を示す、波形状を有するレーストラックの上面を示す図である。
【図14】電子ビーム・リソグラフィによって製造される波形のレーストラックの例の走査型電子顕微鏡写真を示す、波形状を有するレーストラックの上面を示す図である。
【図15】電子ビーム・リソグラフィによって製造される波形のレーストラックの例の走査型電子顕微鏡写真を示す、波形状を有するレーストラックの上面を示す図である。
【図16】磁区壁エネルギ最小値(単一の矢印によって示される)に対応する磁化構成が複数の矢印によって示される波形のレーストラックの上面図を示す、さまざまな波形のレーストラックの位置の関数としてのDWエネルギ・プロファイルのミクロ磁性シミュレーションを示す図である。
【図17】磁区壁エネルギ最小値(単一の矢印によって示される)に対応する磁化構成が複数の矢印によって示される波形のレーストラックの上面図を示す、さまざまな波形のレーストラックの位置の関数としてのDWエネルギ・プロファイルのミクロ磁性シミュレーションを示す図である。
【図18】別の波形レーストラックのエネルギ・プロファイルならびに、2つの隣接するエネルギ最小値(1,3)および局所エネルギ最小値(2)に対応する磁化構成を有するレーストラックの3つの上面図を示す、さまざまな波形のレーストラックの位置の関数としてのDWエネルギ・プロファイルのミクロ磁性シミュレーションを示す図である。
【図19】垂直磁気異方性(PMA)を有する「鋸歯」レーストラックのDWエネルギ・プロファイルのミクロ磁性シミュレーションを示す図である。磁区内の磁化は、この図の平面外(レーストラックの左側で)またはこの図の平面内(レーストラックの左側で)のいずれかを指す。不安定状態(エネルギ最大値、状態2)によって分離された隣接する安定状態(エネルギ最小値、状態1および3)に対応する、磁区構造の3つの例が示されている(上面図)。
【図20】電流パルスに応答するDWエネルギの分析計算を示す図であり、モデル・パラメータは、図に示され、本テキストで論じられる。破線は、静止DWのエネルギすなわち、DWのポテンシャル・エネルギに対応し、実線は、移動するDWの総エネルギに対応する。
【図21】電流パルスに応答するDWエネルギの分析計算を示す図であり、モデル・パラメータは、図に示され、本テキストで論じられる。破線は、静止DWのエネルギすなわち、DWのポテンシャル・エネルギに対応し、実線は、移動するDWの総エネルギに対応する。
【図22】電流パルスに応答するDWエネルギの分析計算を示す図であり、モデル・パラメータは、図に示され、本テキストで論じられる。破線は、静止DWのエネルギすなわち、DWのポテンシャル・エネルギに対応し、実線は、移動するDWの総エネルギに対応する。
【図23】放物線(暗いシンボル)DWエネルギ・プロファイルおよび波打つ(開いたシンボル)DWエネルギ・プロファイルのギルバート・ダンピング・パラメータ(Gilbert damping parameter)αの関数として計算された、DWをあるエネルギ最小値から次のエネルギ最小値へ移動するのに必要な最小パルス長の分析計算を示す図である。DWエネルギ・プロファイルとモデル・パラメータとの両方が、図21および22で使用されたものと同一である。
【図24】放物線DWエネルギ・プロファイルおよび波打つDWエネルギ・プロファイルの場合のα=0.01(左)およびα=0.05(右)の、電流パルス長の関数として計算された静止時(電流パルスの終りから200ns後)のDW位置を示す図である。モデル・パラメータは、図21および22で使用されたものと同一である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
従来技術のレーストラックに沿って伝搬する磁区壁(DW)のエネルギ・ランドスケープを、図6に示す。DWのエネルギの一連の極小値は、トラックが静止時にDWのピン止めをもたらすように加工された部位に対応する。従来技術では、これらのピン止め部位は、DWのエネルギが一定であるすなわち、レーストラックが一定のサイズおよび均一な物質組成を有し、したがって、所与の磁区壁がこれらのセグメント全体を通じて一定のエネルギを有するレーストラックの領域によって分離される(図6参照)。これらのセグメント内には、エネルギ・プロファイルに小さいランダムなゆらぎを追加する可能性があるエッジおよび表面の粗さなどの外来的な欠陥がある場合がある。従来技術のレーストラック・デバイスの動作について、これらのゆらぎは、これらのゆらぎが加工されたDWピン止め部位の間でDWをピン止めしなくなるのに十分に小さい。
【0030】
短い電流パルスが、各DWをある現在のピン止め部位からレーストラックに沿ったある方向または反対方向(レーストラックを通って流れる電流(または、むしろ電子)の方向に依存する)の次の隣接する部位に駆動するのに使用される。しかし、この配置は、磁区壁およびピン止め部位の物理から生じるある種の欠点を有する。第1に、所与のピン止め部位の特性が、DWの構造、たとえばそれが渦(V)磁壁またはトランスバース(T)ウォール(transverse wall)のどちらであるのか、およびそれが右手系または左手系のどちらであるのか(そのキラリティ)に依存することを検討されたい。これは、異なる準安定DW構造が所与のピン止め部位で安定化されるときのさまざまな挙動につながる。言い換えると、図6に示されたエネルギ・プロファイルは、DWの構造の詳細に依存する。第2に、DWの構造が、レーストラックを介する伝搬中に同一のままであるときであっても、所与のピン止め部位にDWの複数の安定位置がある場合がある。たとえば、ピン止め部位が、レーストラック内の切欠によって(たとえば、その幅を局所的に減らすことによって)形成されるときに、DWは、切欠の中央に対称にではなく、切欠のいずれかの側に位置することを好む可能性がある。したがって、DWの位置は、明確には定義されず、その結果、DWを次のピン止め中心に駆動することを意図された所与の長さの電流パルスが、その代わりに、DWが隣接するピン止め中心の間で貼り付くことをもたらす可能性がある。
【0031】
しかし、本明細書で開示される実施形態は、レーストラックに沿って波打つまたは変調されたDWエネルギ・プロファイル(たとえば、周期的に波打つプロファイル)を含むように設計され、エネルギは、実質的に連続的に変化する(図7を参照されたい)。したがって、安定したDW位置(すなわち、エネルギ最小値を有するピン止め部位)は、エネルギ最大値(すなわち、エネルギ障壁)によって分離される。電流パルスの終りに不安定位置に位置決めされたDWは、そのエネルギを最小化するために、電流がオフに切り替えられた後に安定位置に向かって移動する。したがって、DWは、必ず安定位置のうちの1つに静止するようになり、ピン止め部位の間には「貼り付」かない。例示的実施形態では、レーストラック・デバイスは、たとえば、変調されたまたは波状のDWエネルギ・プロファイルを有するセグメントによって分離された10個、20個、50個、またはそれより多数のピン止め部位を含むことができる。さらに、DWが必ず、少なくともピン止め部位の間のエネルギ最大値までの距離と同程度に大きい距離だけ駆動されるようにするために、電流パルスの長さを選択することができる。この形で、DWは、パルス長が十分に長いならば、必ず次のピン止め部位に移動される。
【0032】
したがって、本明細書で開示される実施形態について、DWの移動は、一般に、印加される電流パルスの長さに対してより鈍感である。実際に、局所化されたピン止め部位を有する従来技術のレーストラックでは、ピン止め部位の間のDWのエネルギ・ランドスケープが平坦であり、その結果、DWは、あるピン止め部位から次のピン止め部位へ駆動されなければならない(たとえば電流によって)。これは、たとえば、レーストラック内の複数のDWの速度にある変動がある場合に、より高速のDWが、より低速のDWの前にそのピン止め部位に達する可能性があり、その結果、固定された電流パルス長について、高速DWがその公称ピン止め部位からオーバーシュートするか、より低速のDWがその目標位置に達しないかのいずれかになることを意味する。その一方で、波打つDWエネルギのセグメントを有するレーストラック(たとえば、波形のレーストラック)について、エネルギ・ランドスケープは、DWが隣接するエネルギ最小値を分離するエネルギ最大値(たとえば、完全な対称を有するレーストラックの「中間」点)を超えて移動した後に、DWを、それに対応するピン止め部位に駆り立てる。さらに、電流パルスの終りのエネルギ緩和によって駆動されるDW移動を利用することによって、隣接するピン止め部位の間でDWを移動するのに必要なパルス長を減らすことができる。
【0033】
非対称の波打つDWエネルギ・ランドスケープを、単一方向DW移動の場合に使用することもできる。対応するDWエネルギ・プロファイルの例を、図8に示す。この例では、ポテンシャルの井戸は、片側では幅広く、反対側では急峻である。したがって、DWが左から右へ移動しつつあるときには、DWは、次のポテンシャルの井戸に達する前に、短い距離だけ駆動されることだけを必要とする。
【0034】
磁区壁は、レーストラック内の別個の磁気領域の間の境界である。通常、これらの領域は、実質的に反対の方向で磁化されるように選択されるが、これは、必要ではない。隣接する領域の磁気モーメント方向の間の角度は、はるかにより小さくなるように、たとえば、145度、90度、または45度もしくはそれ未満になるように設計され得る。最小角度は、磁区壁を信頼できる形で検出するのに必要な信号の大きさによって決定でき、あるいは、磁区壁を信頼できる形でピン止めするのに必要な最小磁区壁エネルギ最小値によって決定することができる。磁気領域の間の減らされた角度の特定の利益は、より小さい電流を使用して磁区壁を移動することができ、これによって、レーストラック・メモリのエネルギ消費を減らすことができることである。もう1つの利益は、磁区壁のエネルギが減らされ、これによって、ピン止めエネルギが減り、磁区壁がレーストラック内の欠陥により鈍感になることである。
【0035】
磁区壁を、さまざまな手段によって、たとえば、レーストラック410(DWが通過する)が永久磁石420に近接する図9に示されているように、局所化された磁場を印加することによって(ポテンシャル線の使用または局所化された磁気構造を使用することによって)所与の部位にピン止めすることができる。一連のそのような永久磁石420を、レーストラック410に沿って配置することができ、あるいはその代わりに、電流を、レーストラックの近くまたは周囲に配置されたワイヤ(図示せず)を通して流すことができる。代替案では、レーストラック自体の材料特性を、イオン照射または局所層間結合(たとえば、強磁性体、フェリ磁性体、もしくは反強磁性体、またはレーストラックの外部の磁性ヘテロ構造の形でのこれらの材料の組合せの使用を介する)の結果として変更することができる。層の例を、図10に示すが、図10では、レーストラック430が、Ptの層450によってレーストラック430から分離された反強磁性体440に近接する。また、レーストラック内のピン止め部位は、レーストラックの形状を加工することによって形成することができ、たとえば、ピン止め強度を、レーストラック内に形成される切欠の深さおよび幅を変更することによって調整することができる。これは、本明細書の実施形態のほとんどで採用される手法である。
【0036】
波打つDWエネルギ・プロファイルを、図11〜15に示されているように、レーストラックの幅または厚さを変調することによって、すなわち、レーストラックを「波打たせる」ことによって、あるいは、レーストラック内で使用される磁性体の磁気パラメータ(たとえば、その磁化、異方性、交換スティフネス、結晶構造、または物質組成あるいはその組合せ)を変調することによって加工することができる。
【0037】
波形のレーストラックを、たとえば電子ビーム・リソグラフィ(図12、13、14、および15の例のように)および深紫外線リソグラフィを含む標準リソグラフィ技法によってたやすく製造することができる。図11に、図12、13、14、および15に示されたデバイスの概略表現を示す。これらのデバイスでは、レーストラック幅は、wの最大値から(w−2h)の最小値まで変化する。幅wおよび幅(w−2h)のレーストラックのセグメントのレーストラックに沿った広がりは、それぞれパラメータdおよびpによって与えられる。幅wの領域と幅(w−2h)の領域との間で、レーストラックの境界は、レーストラックの長さに直交する線から角度Aをなす。Aが、量w、(w−2h)、d、およびpによって定義される従属変数であることに留意されたい。波形のレーストラックについて、少なくとも2%のレーストラックの最大幅と最小幅との間の差(たとえば、w対(w−2h))が、波打つDWエネルギ・プロファイルによって分離されたピン止め部位を形成するのに十分である可能性があり、他の実施形態では、この差を少なくとも5%、10%、または30%にさえすることができる。
【0038】
図12、13、14、および15の例は、それぞれ、w=400nmおよびh=150nmの公称値を有するが、dおよびpは、示された4つの例では0nmおよび150nmの公称値の間で変化する。同様に、この例のうちの2つではA=45度であり、他の2つの例では60度である。これらの図は、製造されたレーストラックの上面の走査型電子顕微鏡写真を示し、wの測定値が、これらの図のそれぞれに示されている。wの測定値は、395nmと405nmとの間にあり、400nmの設計値とよく一致している。
【0039】
磁区壁のエネルギ・ランドスケープが、下で示すように、レーストラックの幾何形状に対する複雑な依存性を有する可能性があり、必ずしもレーストラックのジオメトリの幾何形状には従わないことに留意されたい。
【0040】
次では、2つの異なるタイプのレーストラックに関する加工された波打つDWエネルギ・プロファイルの例を説明する。まず、軟磁性合金から作られたトラック内のヘッドツーヘッド(head−to−head)磁区壁(たとえば、二元Ni−Fe合金または三元NiCoFe合金あるいはたとえばNiCoFeMoの四元合金から形成される)の場合を検討されたい。DWエネルギは、レーストラックの形状およびサイズの複雑な関数なので、ミクロ磁性シミュレーションを使用して、実施可能性を実証する。磁区壁のDWエネルギ・プロファイルの例を、それぞれ40nmおよび5nmのそれぞれの厚さ(ページに向かう距離に対応する)を有する2つの波形のレーストラックについて、図16および17に示す。図16、17、および18のそれぞれは、Ni81Fe19(パーマロイ)レーストラックのミクロ磁性シミュレーションに対応し、磁性体は、次の特性を有するように選択された:磁化Ms=800emu/cm、交換スティフネスA=1μerg/cm、および結晶異方性K=1000erg/cm
【0041】
図16、17、および18のそれぞれに、磁化分布のマップを示す。図に示された矢印は、局所磁化の方向を示す。これらのシミュレーションでは、磁化の大きさではなく方向だけが、変化することを許容される。第1のケース(図16)では、磁区壁は、渦構造を有し、エネルギ最小値は、トラックが最も広いところに位置する。レーストラック内に単一の磁区壁があり、磁区壁がレーストラックに沿ってシフトされるときのこの磁区壁のエネルギが計算されることに留意されたい。トラックの狭い領域は、渦磁壁エネルギが閉込めに起因して増えるので、エネルギ障壁に対応する。DWがレーストラックに沿って伝搬するときに、DWは、図16に示された波打つエネルギ・プロファイルを経験する。シミュレーションが、有限の長さ(ここでは2000nm)のレーストラックについて実行されるので、DWのエネルギが、DWがレーストラックの両端に近いときに変更されることに留意されたい。第2のケース(図17)では、5nmのトラック厚さについて、磁区壁は、好ましいトランスバース構造を有し、エネルギ最小値は、トラックの狭い領域に位置する。DWエネルギは、DW位置に依存する波打ちをも示す。最小エネルギ点と最大エネルギ点との間に小さい極小値があるが、これらの極小値が、DWのピン止めをもたらすには小さすぎるように設計されていることに留意されたい。
【0042】
図18に、20nmの厚さを有し、非常に浅い波を有するレーストラックの例を示す。この図の最上部には、渦磁区壁がより広い領域からより狭い領域を通じてより広い領域へレーストラックに沿って移動されるときのレーストラック内の計算された磁化分布がある。(1)および(3)のラベルを付けられた第1および第3の磁気配置は、エネルギ最小値に対応し、第2の磁気配置((2)のラベルを付けられた)は、エネルギ最大値に対応する。
【0043】
この例では、やはり、渦磁区壁がレーストラックのより広い部分にあるときに、エネルギが最小になることに留意されたい。磁区壁の構造が、磁区壁の移動中に変換させられる状況を考えることも可能であることに留意されたい。したがって、DW構造が、DWがシフトされるたびに(たとえば、適切な形状または長さあるいは形状および長さの組合せの電流パルスの下で)変換され得る場合に、レーストラックの記憶密度を倍にすることができる。というのは、渦DWが、そのエネルギを最小にするためにレーストラックのより広い部分にとどまるが、トランスバース磁区壁が、そのエネルギを最小にするためにレーストラックのより狭い部分にとどまるからである。実際に、レーストラックのより広い部分からより狭い部分へのDWの移動そのものが、そのエネルギを最小にするためにDWの構造の変化を生む場合がある。この倍増効果を、交番する磁気特性の領域を有し、その結果、渦(トランスバース)磁区壁が、隣接する領域に移動するときにトランスバース(渦)磁区壁に変換されるようになるレーストラック・デバイスを使用することによって達成することもできる。
【0044】
磁区壁エネルギが、DW位置の関数としてより少なく波打つほど、熱ゆらぎの影響および欠陥の役割がより重要になる。DWエネルギの波打ちは、波打ちが、ランダムなエネルギゆらぎ(たとえば、熱ゆらぎから生じるエネルギゆらぎまたはレーストラックの表面またはエッジの滑らかさの小さい動揺に起因するエネルギゆらぎ)より大幅に大きい場合にのみ効果的である。
【0045】
第2の例では、垂直磁気異方性を有する磁性体から作られたレーストラックのケースを検討されたい。このケースでは、磁区壁は、磁化が磁区壁の平面内でレーストラックに垂直な方向からレーストラックに垂直な反対方向まで回転する、ブロッホ壁と称する構造を有する。このケースでは、単位面積あたりの磁区壁エネルギは、レーストラック材料自体の固有の磁気特性によって決定され、主としてレーストラックのサイズおよび形状と独立である。DWの平面が必ずレーストラックの方向に垂直であるすなわち、湾曲または曲げを一切伴わないと仮定される第1近似では、総DWエネルギは、トラック幅wおよび厚さtに正比例し、
E=σtw
ここで、σ=4(AK)1/2は、単位面積あたりのDWエネルギであり、Aは、交換スティフネスであり、Kは、単位体積あたりの垂直異方性エネルギである。
【0046】
この式は、基本的なDW構造の変化がないと仮定して、トラックの幅(または厚さ)を変調することによって、エネルギ・ランドスケープを変調できることを示す。しかし、DW構造は、より大きい度合またはより小さい度合まで変形される可能性が高く、あるいは、DWがレーストラックのうちで異なる寸法の部分を通って移動する際に異なる構造への変換を受ける場合さえある。トラックの寸法およびこれらが変調される範囲を制御することによって、すべてのDW変形の範囲およびすべてのDW変換の可能性を制御することができる。ミクロ磁性シミュレーションは、DWがレーストラックに沿って前後にシフトされるときのレーストラック寸法およびこれらの寸法に対する動揺に依存する、DWのプロファイルおよび構造ならびにこの構造に対するすべての変形または変化を判定する際に非常に有用である。一例を、「鋸歯」レーストラックについて図19に示す。このレーストラックの最大幅および最大厚さ(ページに向かう)は、それぞれ86nmおよび5nmである。より大きい垂直磁気異方性を有するCo/Ptマルチレイヤの通常の磁気パラメータが、シミュレーションで使用される(Ms=500emu/cm、A=1μerg/cm、垂直異方性K=5.0 10erg/cm)。図19は、不安定状態(エネルギ最大値(2))によって分離された2つの連続する安定状態(エネルギ最小値(1)および(3))内の磁区構造の例と共に、DWがレーストラックに沿って掃引されるときの計算されたDWエネルギ・プロファイルを示す。
【0047】
電流パルスによって駆動される磁区壁移動に関する波打つDWエネルギ・プロファイルの特定の利益は、磁区壁動力学の周知の1次元モデルの枠組の中で理解することができる。このモデルは、スピン分極した電流からの断熱と非断熱との両方のスピン・トランスファ・トルク(spin transfer torque)を含む。このモデルおよびその異なるパラメータに関する追加の詳細は、Luc Thomas, Masamitsu Hayashi, Xin Jiang, Charles Rettner and StuartParkin, Oscillatory dependence of current-driven magnetic domain wall motion oncurrent pulse length, Nature 443, 197 (2006)およびLuc Thomas, M. Hayashi, X.Jiang, R. Moriya, C. Rettner and S.S.P. Parkin, Resonant amplification ofmagnetic domain wall motion by a train of current pulses, Science 315, 1553(2007)で見出すことができる。
【0048】
DWエネルギ密度対レーストラックに沿ったDWの位置を示す図6および7に示されているように、2タイプのピン止めポテンシャルが考慮される。第1のケースでは、ポテンシャルの井戸は、幅qの放物線形状を有し、距離qだけ分離される。壁の間のエネルギは、平坦である。第2のケースでは、ピン止めポテンシャル・プロファイルは、周期qを有する正弦波である。ピン止めポテンシャルの井戸の深さは、両方のプロファイルについて同一である。
【0049】
この2つのケースのポテンシャル・プロファイルは、次のように記述される。
放物線壁:E=V(q−xq/q (|q−xq|<qの場合);E=V それ以外の場合
ここで、xは、符号付き整数であり、qは、磁区壁の中心の位置である。
波打つポテンシャル:E=V/2cos(2πq/q
【0050】
このモデルのパラメータは、次の通りである。それぞれ放物線(P)および正弦波(S)の形状のポテンシャルの井戸について、
=2×10erg/cm、q=50nm、およびq=200nm
=5×10erg/cm、q=200nm
【0051】
1次元モデルでは、磁区壁は、その動的磁区壁幅Δおよび異方性磁場Hによって記述される。(i)軟磁性体から作られたレーストラック内の渦ヘッドツーヘッド磁区壁および(ii)垂直磁気異方性を有するレーストラック内のブロッホ壁を記述するために、2セットのパラメータが選択される。これらのパラメータが、レーストラックの詳細な特性に依存し、大幅に変化する可能性があることに留意されたい。下で使用される値は、この2クラスの磁性体での磁区壁動力学を例示するために選択されたものである。
ヘッドツーヘッド渦磁壁:Δ20nm、H=2000Oe
ブロッホ壁:Δ10nm、H=400Oe
【0052】
磁区壁動力学に関する他の重要なパラメータは、ギルバート・ダンピングα(レーストラックの結晶構造に対してDWのエネルギ損失を定量化する)および非断熱スピン・トルクを定量化する無次元パラメータβである。ここで、我々はβ=αを選択する。電流密度が、スピン角運動量移動u(m/s単位)の比率に関して表され、uが、電流密度Jおよびスピン分極Pに比例することに留意されたい。P=0.5について、u=1m/sは、電流密度J≒2.8×10A/cmに対応する。
【0053】
このモデルの結果を、図20〜22に示すが、図20〜22は、説明したばかりの2セットのパラメータについて、異なるギルバート・ダンピング・パラメータすなわち(A)ブロッホ壁;α 0.01、(B)ヘッドツーヘッド渦DW;α 0.01、および(C)ヘッドツーヘッド渦;α 0.05を有する、その移動中の磁区壁エネルギを示す。図20、21、および22のそれぞれの上側のパネルは、平坦領域によって分離された放物線ポテンシャルの井戸のケースに対応し、各図の下側のパネルは、正弦波の波打つポテンシャルのケースに対応する。電流パルスの振幅は、DWが、放物線ポテンシャル・プロファイルと波打つポテンシャル・プロファイルとの両方について1つのポテンシャルの井戸から次のポテンシャルの井戸に移動するように選択される。準安定状態(または静止)DWエネルギ・プロファイルは、点線によって示されている。太い実線は、左側の井戸から右側の井戸へのDW移動に必要な最小パルス長よりわずかに長いパルス長のDW持続時間の関数としてのDWエネルギを示す。細い実線は、この最小長よりわずかに短いパルス長のDWエネルギを示す。時刻0に、磁区壁は、q=0に配置されたポテンシャルの井戸に静止している。電流パルスがオンに切り替えられるときに、DWは、電流密度がしきい値を超える場合に、そのポテンシャルの井戸を出、トラックに沿って伝搬することができる。しかし、DWは、パルス長が十分に長い場合に限って、次のポテンシャルの井戸に達することができる。
【0054】
電流パルスの終りの後に、DWは、その局所エネルギ最小値に向かって弛緩する。その軌跡は、電流密度およびギルバート・ダンピングαの大きさに依存する。αの大きい値(たとえば、α=0.05)について、DWは、ピン止めポテンシャルに非常に近い低エネルギ軌跡に従う。この場合には、パルスの終りのモーメント駆動緩和はほとんどなく、パルスの後のDWの伝搬は、局所エネルギ・ランドスケープによって駆動される。その一方で、小さいダンピング(通常、α=0.01)について、DWは、電流パルス中に十分なモーメントを獲得し、その結果、電流がオフに切り替えられた後のモーメント駆動の移動は、磁区壁を電流の下での移動と反対の方向に駆動する。
【0055】
所与のDWがその目標のポテンシャルの井戸(所望のピン止め部位に対応する)に達するためには、2つの条件が必要であり、第1に、すべてのエネルギ障壁が、逆方向の移動を妨げなければならず、第2に、局所ポテンシャルが、DWを所望のピン止め部位に向かって駆り立てる駆動力を提供しなければならない。
【0056】
平坦なエネルギ・ランドスケープを有するセグメントによって分離された放物線ポテンシャルの井戸の場合には、DWの逆方向移動は、磁区壁がパルス中に目標のポテンシャルの井戸に達する場合に限って阻止される。大きいダンピングの場合には、逆方向移動がほとんど無視できるものである場合であっても、DWは、電流パルスが短すぎる場合にはポテンシャルの井戸の間にとどまる。その一方で、波打つポテンシャル(図16〜18の波形のレーストラックに伴って見られるものなど)について、DWは、目標のポテンシャルの井戸に達するために、より短い距離を移動する必要がある。大きいダンピングについて、DWが電流パルス中に移動しなければならない最小距離は、そのエネルギが最大である点である。より小さいダンピングについて、モーメント駆動の移動のゆえに、この最小移動距離は、大幅に増やされる。
【0057】
井戸から井戸までの電流駆動DW移動に必要な最小パルス長は、波打つDWエネルギ・プロファイルの場合に減らされる。最大の減少は、大きいダンピングの場合に達成される。この場合に、パルス長の減少は、上で説明したエネルギ・ランドスケープから計算される。
/t=q/2/(q−q
ここで、tおよびtは、それぞれ波打つ井戸および放物線井戸のパルス長である。この例で使用される値について、パルス長は、波打つDWエネルギ・プロファイルが使用されるときに、1.5倍だけ減らされる。
【0058】
図23に、図21および22と同一のパラメータのセットを使用して放物線DWエネルギ・プロファイルと波打つDWエネルギ・プロファイルとの両方について計算された、ある井戸から次の井戸への信頼できるDW移動に必要な最小パルス長対ギルバート・ダンピング・パラメータの大きさを示す。最小パルス長は、ギルバート・ダンピングにかかわりなく、波打つDWエネルギ・プロファイルについて大幅に減らされる。両方の場合に、より長いパルスが、小さいダンピングについて必要である。というのは、パルスの終りのモーメント駆動移動が、より重要になるからである。両方向DW移動が要求される場合には、波打つDWエネルギ・プロファイルのパルス長の減少は、多くとも2倍までに制限される。しかし、DW移動を単一方向とすることができる場合には、改善を、はるかにより大きくすることができる。
【0059】
波打つDWエネルギ・プロファイルは、電流パルスの印加の後のDW最終位置のよりよい制御をも可能にする。DWは、電流パルスの後に必ず局所エネルギ最小値に向かって弛緩するので、パルス長のわずかなゆらぎは、DWの最終的な位置に影響しない。これを、図22〜23に関連して上で説明した2つのDWエネルギ・ランドスケープについて、図24に示す。静止時のDW位置は、電流パルスの長さの関数として計算される。放物線エネルギ・プロファイルの場合には、DWは、2つの隣接する壁の間にとどまることができるが、波打つエネルギ・プロファイルの場合には、最終位置は、必ずポテンシャルの井戸の中になる。小さいダンピングについて、DWが、放物線DWエネルギ・プロファイルの場合であっても、パルスの後にポテンシャルの井戸に向かって弛緩する可能性がより高いことに留意されたい。これは、そのモーメントが、かなりの距離にわたってDWを駆動できるからである。しかし、大きいダンピングについて、モーメント駆動緩和は、より重要ではなく、DWが2つの井戸の間でとどまる確率が増える。
【0060】
本発明を、その趣旨または本質的特性から逸脱せずに、他の特定の形態で実施することができる。説明された実施形態は、すべての点において、例示的であって制限的ではないと考えられなければならない。したがって、本発明の範囲は、前述の説明ではなく添付の特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の意味および同等性の範囲に含まれるすべての変更が、その範囲に含まれなければならない。
【符号の説明】
【0061】
10 磁気シフト・レジスタ
11 トラック
15 書込みデバイス
20 読取りデバイス
25 ドメイン
30 ドメイン
31 ドメイン
32 底部
35 データ領域
40 リザーバ
45 電流
100 レーストラック磁気メモリ・システム
205 シフトされる部分
210 シフトされた部分
410 レーストラック
420 永久磁石
430 レーストラック
440 反強磁性体
450 Ptの層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を含むトラックであって、前記トラックを通過する電流に応答して前記トラックに沿ってシフトされ得る磁気領域を含むように設計される、トラックと、
前記トラック内の磁気領域によって表されるデータを読み取り、書き込む少なくとも1つのコンポーネントと
を含むデバイスであって、前記トラックは、
所与の磁気領域のエネルギのそれぞれの極小値に対応するピン止め部位であって、前記所与の磁気領域をピン止めすることができる、ピン止め部位と、
隣接するピン止め部位の各対の間のセグメントであって、前記所与の磁気領域の前記エネルギは、前記トラックに沿った位置に伴って実質的に連続して変化すると同時に、前記隣接するピン止め部位のエネルギ最小値のうちの少なくとも1つより大きく、前記セグメントは、前記所与の磁気領域をピン止めすることができるピン止め部位が全くない、セグメントと
を含む、デバイス。
【請求項2】
前記所与の磁気領域は、磁区壁である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記トラックと電気的に通信する少なくとも1つの電気コンポーネントをさらに含み、前記電気コンポーネントは、前記トラックを通って磁気領域を移動する電流のソースに接続され得る、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記トラックは、隣接するピン止め部位の各対の間で前記セグメントを定義する輪郭を有する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記トラックは、波形状を有する、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記波形状の最大幅および最小幅は、少なくとも2%だけ異なる、請求項5に記載のデバイス。
【請求項7】
前記磁性体は、前記トラックの長さに沿って変化する材料特性を有し、前記変化する材料特性は、ピン止め部位の各対の間で前記セグメントを定義する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記セグメント内の前記所与の磁気領域のエネルギは、前記トラックに沿った位置に関して実質的に非対称である、請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記ピン止め部位は、局所化された磁場によって誘導される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記磁性体の磁気パラメータは、前記ピン止め部位を形成するために変調されている、請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記ピン止め部位は、前記トラックの形状の局所変動によって誘導される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
局所層間結合は、前記ピン止め部位を誘導するのに使用される、請求項1に記載のデバイス。
【請求項13】
磁性体を含むトラックであって、前記トラックは、データを表す磁気領域を含むように設計され、前記トラックに印加される電流は、前記トラックに沿って磁気領域をシフトする、トラックと、
前記トラック内の磁気領域によって表されるデータを読み取り、書き込む少なくとも1つのコンポーネントと
を含むデバイスであって、前記トラックは、
所与の磁気領域のエネルギのそれぞれの極小値に対応するピン止め部位であって、前記ピン止め部位は、前記所与の磁気領域をピン止めすることができるが、前記所与の磁気領域の前記エネルギが、前記トラックに沿った位置の関数として、前記所与の磁気領域が前記トラックに印加される電流を欠く場合に隣接するピン止め部位のうちの1つに移動しないほど十分に一定である、前記隣接するピン止め部位の間のセグメントがない、ピン止め部位
を含む、デバイス。
【請求項14】
それを通って磁気領域を移動できる磁性体のトラックであって、印加される電流を欠く場合にそれぞれの磁気領域をピン止めするように働くさまざまなピン止め部位をその長さに沿って有し、隣接するピン止め部位の間の、前記トラックに沿った位置の関数としての、所与の磁気領域のエネルギは、前記所与の磁気領域が、印加される電流を欠く場合にピン止め部位に向かって駆り立てられ、そこに移動するようになるように変化する、トラックと、
前記トラック内の磁気領域からデータを読み取り、これにデータを書き込む少なくとも1つの要素と
を含むデバイス。
【請求項15】
前記トラックと電気通信する少なくとも1つの電気コンポーネントを含み、前記電気コンポーネントは、前記トラックを通って磁気領域を移動する電流のソースに接続され得る、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記所与の磁気領域があるピン止め部位から別のピン止め部位に移動されるようにするために、請求項14に記載の前記デバイスの前記トラックに電流パルスを印加すること
を含む方法。
【請求項17】
前記電流パルスは、前記所与の磁気領域が、前記電流パルスが終了するときにピン止め部位にあるのではなくある中間点にあり、前記所与の磁気領域が、それでも、前記電流パルスが終了した後に前記別のピン止め部位に移動し、前記磁気領域のエネルギが、前記中間点から前記別のピン止め部位へ減少するようにするために選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
複数の磁気領域は、前記トラックに沿ってそれぞれの隣接するピン止め部位へ移動される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
所与の磁気領域を有する磁気レーストラック・デバイスと共に使用される方法であって、
第1構造を有する磁区壁および第2の異なる構造を有する磁区壁を前記レーストラックに沿って前記所与の領域に対応する安定位置に配置することであって、前記第1構造を有する前記磁区壁および前記第2構造を有する前記磁区壁は、前記レーストラックに沿った交番する位置を占める、配置することと、
前記磁区壁のそれぞれが前記所与の領域の隣接する1つに移動するようにするために、前記レーストラックに電流パルスを印加することであって、
(i)前記第1構造を有する前記磁区壁は、前記第1構造を有する前記磁区壁の前記第2構造を有する磁区壁への付随する変換を伴って、それらが極小エネルギを有する領域から、前記第1構造を有する磁区壁のエネルギが極大値である隣接領域に移動し、
(ii)前記第2構造を有する前記磁区壁は、前記第2構造を有する前記磁区壁の前記第1構造を有する磁区壁への付随する変換を伴って、それらが極小エネルギを有する領域から、前記第2構造を有する磁区壁のエネルギが極大値である隣接領域に移動する
電流パルスを印加することと
を含む方法。
【請求項20】
前記第1構造は、渦構造であり、前記第2構造は、トランスバース構造である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
各磁区壁が前記所与の領域のうちの別の1つに移動するようにするために、前記レーストラックに後続電流パルスを印加することをさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記所与の領域は、前記レーストラックの交番する極小断面および極大断面に対応する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記所与の領域は、前記レーストラックの交番する磁気特性に対応する、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2012−501037(P2012−501037A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523357(P2011−523357)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056898
【国際公開番号】WO2010/020440
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】