説明

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記録再生装置、および磁気メモリ

【課題】高MR変化率が得られ、高密度化への対応が期待できる磁気抵抗効果素子を提供する。
【解決手段】実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた磁性スペーサ層と、前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交している磁気抵抗効果素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜面に対して垂直方向に電流を通電する構造の磁気抵抗効果素子、ならびにこれを用いた磁気ヘッド、磁気記録再生装置、および磁気メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体の積層構造体における巨大磁気抵抗効果(Giant MagnetoResistive Effect:GMR)の発見により、磁気デバイスの性能が飛躍的に向上している。特に、スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)は磁気デバイスに容易に適用できる構造を有し、GMR効果を有効に発揮させることができるので、磁気ヘッドおよびMRAM(Magnetic Random Access Memory)などの磁気デバイスに大きな技術的進歩をもたらした。
【0003】
「スピンバルブ膜」とは、2つの強磁性層の間に非磁性金属スペーサ層を挟んだ構造を有し、一方の強磁性層(「ピン層」や「磁化固着層」などと称される)の磁化を反強磁性層などで固着し、もう一方の強磁性層(「フリー層」や「磁化自由層」などと称される)の磁化を外部磁界(たとえば媒体磁界)に応じて回転するようにした積層膜をいう。スピンバルブ膜では、ピン層とフリー層の磁化方向の相対角度が変化することによって、巨大な磁気抵抗変化が得られる。
【0004】
従来のスピンバルブ膜は、膜面に平行にセンス電流を通電するCIP(Current In Plane)−GMR素子であった。近年、CIP−GMR素子よりも大きなGMR効果を発現することから、膜面にほぼ垂直方向にセンス電流を通電するCPP(Current Perpendicular to the Plane)−GMR素子(以下、「CPP素子」と呼ぶ)が注目されている。
【0005】
CPP素子は、素子の抵抗が素子面積に依存し、素子を微細化した場合に抵抗変化量が増大するという利点を有し、磁気デバイスがますます微細化される傾向下では有利に適用できる。ただし、非磁性金属からなるスペーサ層を用いたCPP素子は、素子抵抗が大幅に小さく、抵抗変化量自体かなり小さいため、大きな再生出力信号を得ることが困難である。
【0006】
絶縁層中にこれを貫通する非磁性金属からなる微細な電流パス(電流狭窄部)を形成したスペーサ層を用いたCPP素子が提案されている。このようなCPP素子は、電流狭窄[CCP(Current-confined-path)]効果を示し、非磁性金属スペーサ層を用いた単純なCPP素子よりも大きな再生出力信号を得ることができる(以下、CCP−CPP素子という)。しかし、高記録密度対応の磁気ヘッド応用を考えた場合、CCP−CPP素子でもMR変化率が不足する可能性がある。
【0007】
高記録密度に対応できる巨大なMR変化率を実現する構造として、酸化物層中の電流狭窄部を金属磁性材料で形成したスペーサ層を用い、BMR(Ballistic MagnetoResistace)効果を利用する素子(以下、BMR素子という)が提案されている(たとえば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−204095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、酸化物薄膜中にバリスティック伝導を達成する微細構造を形成しようとすると、様々な問題が予想される。たとえば、バリスティック伝導のためには電流パスを1nm以下まで小さく絞らなければならないが、その場合には抵抗が非常に高くなる。高密度記録を想定すると、抵抗の上昇は高周波応答に悪影響をもたらすため好ましくない。微小なメタルパスを多数形成してパラレルコンダクター状態にすることによって抵抗を減少させることも考えられるが、500Gbpsi以上の記録密度では素子サイズが一辺60nm以下になり、このような微小な素子領域に多数の微小メタルパスを有する構造を作製することは極めて困難である。
【0009】
本発明の目的は、高MR変化率が得られ、高密度化への対応が期待できる磁気抵抗効果素子、ならびにこれを用いた磁気ヘッド、磁気記録再生装置および磁気ランダムアクセスメモリーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る磁気抵抗効果素子は、実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた磁性スペーサ層と、前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする。
【0011】
本発明の他の態様に係る磁気抵抗効果素子は、実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた、反強磁性スピン配列を持つ磁性材料で形成された磁性スペーサ層と、前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらに他の態様に係る磁気抵抗効果素子は、実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた、反強磁性スピン配列を持つ磁性酸化物とこの磁性酸化物を貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部を有する磁性スペーサ層と、前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする。
【0013】
本発明のさらに他の態様に係る磁気抵抗効果素子は、実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた磁性スペーサ層と、前記第2の磁性スペーサ層の磁化方向をバイアスするバイアス層と、前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る磁気ヘッドは、上記の磁気抵抗効果素子を具備したことを特徴とする。本発明に係る磁気記録再生装置は、磁気記録媒体と、上記の磁気ヘッドとを具備したことを特徴とする。本発明に係る磁気メモリは、上記の磁気抵抗効果素子を具備したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明による磁性スペーサ層を有する磁気抵抗効果素子を用いれば、高MR変化率を有する垂直通電型の磁気抵抗効果素子を実現でき、高密度化に対応できる。さらに、高密度記録に対応して高出力かつ高いS/N比を示す磁気ヘッドおよびそれを搭載した磁気記録再生装置(Hard Disk Driveなど)や、高密度記録に対応した高集積な磁気メモリ(MRAM)を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
従来のBMR素子に関しては、BMR効果により高MR変化率が得られる物理起源は解明されておらず、BMR効果の真偽すら議論されるような状況にある。本発明者らは、ナノメーターオーダーの磁性材料からなる電流狭窄部を有するスペーサ層を介して2つの磁性層を接合したときに巨大なMR変化率が生じる現象を物理的に考察した結果、バリスティック伝導が原因ではなく、電流パスに対して磁壁が垂直にできやすいことが原因になっているという結論に達した。このような原因に基づくのであれば、高いMR変化率を得るには、スペーサ層のできるだけ広い領域でスピンがねじれた状態を実現し、そのような領域に電流を流すことが本質的に重要であることを見出した。しかも、バリスティック伝導を考慮する必要がなければ、1nm以下の微小な磁性メタルパスを形成する必要もないので、抵抗の上昇を抑えることができる。したがって、磁気抵抗効果素子のスペーサ層中の広い領域でスピンをねじれさせることができれば、高MR変化率が得られ、高密度化への対応が期待できる。しかし、磁気抵抗効果素子のスペーサ層中の広い領域でスピンのねじれた状態を実現することは困難である。本発明者らは、この点を解決することにより、本発明の磁気抵抗効果素子に到達した。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の主要部を示す斜視図である。この磁気抵抗効果素子は、反強磁性材料または硬磁性材料で形成されたピニング層1、ピン層(第1の磁性層)2、磁性スペーサ層3、フリー層(第2の磁性層)4の積層膜を含む。ピニング層1によってピン層2の磁化方向は実質的に固着されている。ここで、「実質的に磁化方向が固着されている」とは、検出しようとする程度の強度の外部磁界が印加されても磁化方向が変化しないことを意味している。
【0018】
図2(a)〜(c)を参照して、図1の磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層3中におけるスピンの向きについて説明する。
【0019】
図2(a)に示すように、外部磁界がゼロのときに、磁性スペーサ層3中ではピン層2に近い領域からフリー層4に近い領域までの間でスピンの方向が約90°ねじれた状態になる。この結果、ピン層2の磁化方向に対してフリー層4の磁化方向をほぼ直交させることができる。
【0020】
外部磁界が印加されると、図2(b)および図2(c)に示すように磁性スペーサ層3中における磁化方向が変化する。例えば、右向き(+)の外部磁界が印加されたときには、図2(b)に示すように、磁性スペーサ層3中におけるスピンのねじれは解消され、磁性スペーサ層3を流れる電流による抵抗は低くなる。一方、左向き(−)の外部磁界が印加されたときには、図2(c)に示すように、磁性スペーサ層3中におけるスピンのねじれが大きい状態となり、ピン層2とフリー層4の磁化配列が反平行状態となり、磁性スペーサ層3を流れる電流による抵抗は高くなる。このように、外部磁界によって磁性スペーサ層3中におけるスピンのねじれを変化させることができるので、大きなMR変化率を実現することが可能となる。
【0021】
本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層中において、図2に示したようなスピンのねじれ状態を実現する構成は大きく分けて3つ挙げられる。
【0022】
(1)第1の構成として、反強磁性スピン配列を持つ磁性材料で磁性スペーサ層3を形成することが挙げられる。
【0023】
2層の磁性層の間にナノメートルオーダーのFeCo系磁性酸化物を挟んだ積層膜を形成する場合、磁性酸化物形成時の酸素暴露量を増大させると、上下の磁性層間の磁気結合が60°結合、90°結合というようにねじれることが知られている(H. Fukuzawa et al., J. Appl. Phys. 91, 6684 (2002)。なお、この論文は、酸化物層を挟む上下の磁性層を磁化固着させてピン層として用いることを前提としている。同様に、磁性スペーサ層3を挟む上下の磁性層のうち一方を外部磁界によって磁化方向が変化するフリー層、他方を磁化方向が固着されたピン層として用いる場合にも、上記の現象を適切に適用することができれば、図2(a)に示したようなスピンのねじれを実現できる。
【0024】
図3に示すように、反強磁性スピン配列を持つ磁性材料で形成された磁性スペーサ層3中においては、図3(a)に示すように反強磁性的なスピン配列を持つ領域と、図3(b)に示すように強磁性的なスピン配列を持つ領域とが競合していると、両者の合成として図3(c)に示すような磁性スペーサ層3中におけるスピンのねじれを実現することができる。ここで、反強磁性的なスピン配列を持つ領域と、強磁性的なスピン配列を持つ領域が生じる原因として、原子層レベルでのラフネスが挙げられる。より具体的には、偶数の原子層数を有する領域が反強磁性的なスピン配列を持つ領域となり、奇数の原子層数を有する領域が強磁性的なスピン配列を持つ領域となる。この場合、反強磁性結合成分と強磁性結合成分が等しいときには、図3(c)に示したように、ピン層の磁化方向に対してフリー層の磁化方向が90°ねじれる。反強磁性結合成分よりも強磁性結合成分の方が大きい場合には、スピンのねじれの角度はたとえば60°や30°というように調整することができる。
【0025】
(2)第2の構成として、図4に示すように、反強磁性スピン配列を持つ磁性酸化物6とこの磁性酸化物6を貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部7を有する磁性スペーサ層5を用いることが挙げられる。
【0026】
磁性スペーサ層3を膜厚のラフネスを生じさせずに完全に平坦に形成することができた場合には、磁性スペーサ層3を挟む2つの磁性層の磁気結合は、磁性スペーサ層3の原子層数によって強磁性結合か反強磁性結合かが決定され、図3(a)および(b)のような強磁性と反強磁性の競合は生じなくなる。
【0027】
そこで、図4に示す磁性スペーサ層3では、磁性酸化物3aに反強磁性材料を用い、その膜厚が偶数原子層になるようにラフネスなく形成するとともに、磁性酸化物3aを貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部3bを形成する。
【0028】
この磁性スペーサ層3においては、磁性酸化物3aが図5(a)に示すような反強磁性結合成分を作り出し、ブリッジ部3bが図5(b)に示すような強磁性結合成分を作り出
す。したがって、ブリッジ部3bの大きさおよび個数(密度)を適宜調整することによって、図5(c)に示すようなスピンのねじれを生じさせることができる。
【0029】
(3)第3の構成として、図6に示すように、ピニング層1、ピン層(第1の磁性層)2、磁性スペーサ層8、フリー層(第2の磁性層)4、バイアス層9の積層膜を用いることが挙げられる。
【0030】
この構成においては、磁性スペーサ層8を強磁性材料で形成し、磁性スペーサ層8中で強磁性的なスピン配列を形成する。ただし、このままではフリー層4の磁化方向がピン層2の磁化方向と同一になるため、バイアス層9を設けてフリー層4の磁化方向をピン層2の磁化方向に対してほぼ直交させる。このように、ピン層2、磁性スペーサ層8およびフリー層4の全てに強磁性材料を用いてスピンのねじれを生じさせることができ、外部磁場がゼロのときに、フリー層4の磁化方向をピン層2の磁化方向に対してほぼ直交させることができる。なお、フリー層4のバイアス磁界はピン層2の磁化を固着させるピニング磁界よりも弱い必要がある。これは、この条件を満たしていないと、外部磁界が印加されたときにフリー層4の磁化回転が生じなくなるためである。
【0031】
以上のような(1)〜(3)の構成により、垂直通電型の磁気抵抗効果素子においてピン層とフリー層の間の磁性スペーサ層中にスピンのねじれを生じさせ、外部磁化が印加されたときに磁性スペーサ層中のスピンのねじれ状態が変化するようにし、磁性スペーサ層を通過する電流によって著しく高いMR変化率を実現することができる。さらに、このような高いMR変化率を有する磁気抵抗効果素子を用いることにより、高記録密度に対応できる磁気ヘッドおよび磁気記録再生装置や、磁気メモリを提供できる。
【0032】
また、上述した(1)〜(3)の構成のうち(1)および(2)の構成では、フリー層を単磁区化するためのバイアス構造が不要になるという利点もある。すなわち、(1)および(2)の構成では、磁性スペーサ層を挟むピン層とフリー層との弱い磁気結合によりセルフバイアス機構を実現できる。したがって、本発明の磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドまたは磁気メモリに適用する場合に、デバイス構造が非常に簡単になり、ハードバイアス膜への電流リークの問題やインスタックバイアス構造のような複雑な構造を用いることによるコスト上昇を避けることができる。MRAMの場合には、余分なバイアス構造を用いなくてもフリー層の単磁区化が可能になるため、磁気抵抗効果素子を高密度に配列することができ、MRAMの高密度化の実現につながる。
【実施例】
【0033】
実施例1
図8に、上記(1)のように磁性スペーサ層に反強磁性スピン配列を持つ磁性材料を用いた垂直通電型の磁気抵抗効果素子の一例を示す。図8の磁気抵抗効果素子は、下電極11、バッファ層B、ピニング層1、ピン層2(第1磁性層2a、Ru層2b、第2磁性層2cを含む)、磁性スペーサ層3、フリー層4、キャップ層C、上電極12を順次積層した構造を有する。
【0034】
図8において、磁気抵抗効果素子の幅Wはトラック幅に相当し、記録密度の向上に伴って小さくなる。本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに適用する場合、400Gbpsi〜数Tbpsi級の記録密度においては、トラック幅は70nm〜10nmと非常に小さくなる。このようなトラック幅においても出力電圧がとれるような高感度な磁気抵抗効果素子が必要である。磁気抵抗効果素子の奥行きhはトラック幅とほぼ同等か、それよりも小さい値が必要とされるため、70nm〜5nmと非常に小さくなる。
【0035】
ピン層2とフリー層4は磁性スペーサ層3を介して磁気的に結合している。磁気結合の角度は、典型的には90°である。90°以外にも30°や60°といった角度も可能であるが、ほぼ90°の角度の場合には、プラスの媒体磁界、マイナスの媒体磁界が印加されたときに抵抗変化の対称性が良好になるため好ましい。
【0036】
次に、本実施例の磁気抵抗効果素子に用いられる材料について説明する。
【0037】
(i)下電極は、Cu、Au、Cr、Taなどから形成される。
【0038】
(ii)バッファ層(下地層)は下記のような材料から形成される。
【0039】
Ti,Ta,W,Cr,Mo,Nb,V,Zr,Hfからなる群より選択される金属またはこれらの金属を含む合金[厚さ3nm以上10nm以下]、
Ta[3〜5nm]/Ru[2nm]、
NiFeCr[3〜5nm]、
Ta[3nm]/NiFeCr[3〜5nm]、
Ta[3nm]/NiFe[3〜5nm]。
【0040】
(iii)ピニング層は下記のような材料から形成される。
【0041】
IrMn,PtMn,PdPtMnなどの反強磁性層、
CoPt,CoPrCr,FePtなどのハード層。
【0042】
(iv)ピン層は下記のような材料から形成される。
【0043】
Co−Fe、Ni−Fe、Ni−Co、Fe−Co−Ni、Coを含む合金、Niを含む合金、Feを含む合金、
(FeCo/Cu)×n周期、
(CoNi/Cu)×n周期、
(NiFe/Cu)×n周期、
(FeCoNi/Cu)×n周期。
【0044】
また、以上の磁性材料に添加元素を添加してもよい。添加元素としては、Cu、Cr、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Ptなどが挙げられる。特にFeCoにCuを添加したFeCoCu合金は、磁性層内におけるスピン依存散乱効果であるバルク散乱効果が増すので好ましい。非磁性添加元素の濃度は、1原子%以上50原子%以下が好ましく、2原子%以上20原子%以下がより好ましい。また、これらの金属磁性材料を窒化したものを用いてもよい。
【0045】
ピン層は単層からなるものでもよいが、ピン層からの漏洩磁界の影響を防ぐためには、実質的なネット磁気モーメントをゼロにすることができるシンセティックピン層の方が望ましい。図8のピン層2は、たとえばCoFe[3nm]/Ru[1nm]/CoFe[3nm]からなるシンセティックピン層である。
【0046】
(v)図8における磁性スペーサ層は反強磁性スピン配列を持ち、下記のような材料から形成される。
【0047】
反強磁性酸化物:
α−Fe23を含む酸化物、
NiOを含む酸化物、
Co34を含む酸化物。
【0048】
スピネル酸化物:
MFe24(M=Fe,Co,Ni,Cu,Mn,Cr,V,Znなど)、
γ−Fe34
【0049】
膜厚の望ましい範囲は0.5nm以上4nm以下
反強磁性的スピン配列を有する金属材料:
Mn,Cr,Vの単体金属、または、Mn,Cr,V(少なくとも10atomic%以上)を含む合金。IrMn,PrMn,PdPtMn,CrMn,NiMn,RuRhMn,RuMnなど(これらの材料の場合、Mnの組成は30atomic%以上)。
【0050】
これらの材料に、Fe,Co,Ni,Cu,Cr,Ti,V,Mn,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Al,Siなどの添加元素を加えてもよい。
【0051】
膜厚の望ましい範囲は1nm以上10nm以下
磁性スペーサ層中において反強磁性結合と強磁性結合の競合を生じさせるためには、磁性スペーサ層のラフネスの存在が必要である。そのためには、図3に示したように、磁性スペーサ層に、偶数の原子層数を有する領域および奇数の原子層数を有する領域という2つの領域が存在することが必要となる。なお、磁性スペーサ層の膜厚は、0.5nm以上5nm以下が好ましい。
【0052】
図9は、FeCo酸化物で形成された磁性スペーサ層の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図9(a)において、コントラストの高い領域が酸化物層で形成された磁性スペーサ層である。図9(b)の拡大図に示すように、磁性スペーサ層を形成する原子層数が10層(偶数層)である領域と、11層(奇数層)である領域が存在することがわかる。このような偶数層と奇数層の組み合わせによって、図3に示したような原理により、磁性スペーサ層内のスピンのねじれ構造、および磁性スペーサ層を挟む上下の磁性層の90°結合を実現することができる。
【0053】
磁性スペーサ層を金属反強磁性材料で形成した場合にも、図9と同様に、磁性スペーサ層とピン層、フリー層を識別することが可能となる。金属層の場合には断面TEM写真におけるコントラスト差が酸化物ほど明確ではないため、多少識別は難しい。しかし、磁性スペーサ層がIrMn,PtMnなどの金属反強磁性材料から形成され、ピン層、フリー層がfcc−CoFe、fcc−NiFe、bcc−FeCoなどで形成される場合には、IrMnやPtMnの方が大きな格子定数を有するので識別することが可能となる。
【0054】
また、Mn、Cr、Vなどを含む金属磁性スペーサ層を用いた場合、ナノEDX分析の併用によって金属磁性スペーサ層の位置を大まかに識別し、その位置における格子定数を算出し、格子定数が変化する位置によって磁性スペーサ層とピン層またはフリー層との界面を決定することができる。
【0055】
(vi)フリー層は下記のような材料から形成される。
【0056】
Co−Fe、Ni−Fe、Ni−Co、Fe−Co−Ni、Coを含む合金、Niを含む合金、Feを含む合金、
(FeCo/Cu)×n周期、
(CoNi/Cu)×n周期、
(NiFe/Cu)×n周期、
(FeCoNi/Cu)×n周期。
【0057】
CoFe[1nm]/NiFe[3nm]のような積層膜を用いてもよい。また、以上の磁性材料に添加元素を添加してもよい。添加元素としては、Cu、Cr、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Ptなどが挙げられる。
【0058】
(vii)キャップ層は、は下記のような材料から形成される。
【0059】
Cu[0〜10nm]/Ta[1〜5nm]
Cu[0〜10nm]/Ru[0〜10nm]。
【0060】
(viii)上電極は、下電極と同様に、Cu、Au、Cr、Taなどから形成される。
【0061】
本実施例の磁気抵抗効果素子においては、外部磁界がゼロのときに、磁性スペーサ層中においてスピンのねじれが存在し、フリー層の磁化方向がピン層の磁化方向にほぼ直交するように配列している。このため、フリー層を単磁区化するためのバイアス構造を必ずしも設ける必要はない。
【0062】
本実施例に係る磁性スペーサ層を有する磁気抵抗効果素子は、AR(面積抵抗)が50〜3000mΩμm2の範囲で、20〜1000%の高MR変化率を実現することができる。磁性スペーサ層をCr,Mn,Vをベースとする金属反強磁性材料で形成した場合には、磁性酸化物層を用いる場合のように面積抵抗の上昇がないため、非常に低い抵抗で高いMRを得ることができる。金属反強磁性材料で形成したスペーサ層の場合には、膜厚範囲は1nm以上10nm以下が好ましく、さらに1nm以上5nm以下が好ましい。一方、磁性スペーサ層を磁性酸化物層で形成した場合には、面積抵抗ARが高くなりやすいので、膜厚をあまり厚くすることはできない。低抵抗化のためには、磁性酸化物層の厚さを0.5nm以上4nm以下と薄くすることが好ましい。また、磁性酸化物中に金属状態のままで金属添加元素を残することも低抵抗化のために有効である。たとえば、磁性酸化物層にFe,Co,Ni,Cu,Cr,Ti,V,Mn,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,W,Al、Siなどの添加元素を金属状態で混入することによって低抵抗化を実現できる。Fe,Co,Niなどは酸化物の磁性を維持したまま抵抗を下げることができるので望ましい。さらに、CoはFeやNiと比べて酸化されにくく金属状態で残りやすいので好ましい。
【0063】
図8に示す磁気抵抗効果素子の具体例を説明する。膜構成は以下のとおりである。
【0064】
下電極:Cu
バッファ層:Ta[5nm]/NiFeCr[5nm]
ピニング層:PtMn[15nm]
ピン層:CoFe[3nm]/Ru[1nm]/CoFe[3nm]
磁性スペーサ層:IrMn[2nm]
フリー層:CoFe[1nm]/NiFe[3nm]
キャップ層:Cu[1nm]/Ru[5nm]
上電極:Cu。
【0065】
この磁気抵抗効果素子の製造方法を説明する。基板上にCuを成膜し、パターニングして下電極を形成する。この基板を、DCマグネトロンスパッタリング装置に装入する。バッファ層のTaからキャップ層のRuまでを成膜室において同一真空中において一括成膜する。ピン層のCoFeはfcc(111)配向しており、配向の分散角度が5度以内の良好な配向膜である。なお、シンセティックピン層のRuと磁性スペーサ層に挟まれたCoFeの代わりに、bcc構造を有するFeまたはFeCoを用いても構わない。bcc構造の場合にはbcc(110)配向しており、配向の分散角度が5度以内の良好な配向膜である。磁性スペーサ層であるIrMnはfcc(111)配向しており、配向の分散角度は5度以内である。磁性スペーサ層のIrMnの膜厚は2nmであるが、この膜厚は必要とされるピン層とフリー層の磁気結合の強さによって約1nmから3nmの範囲で変えてもよい。IrMnの膜厚には図9と同様なゆらぎが存在し、原子層数が偶数である領域と奇数である領域の存在によって、磁性スペーサ層を挟む上下のピン層およびフリー層の磁気結合が約90°になる。
【0066】
成膜後に10kOeの磁場中において290℃で4時間熱処理を行う。この熱処理によって、ピン層を固着するためのPtMnの規則化、および各磁性層の良好な結晶配向性を実現することができる。熱処理後、フォトリソグラフィーによって、磁気抵抗効果素子を一辺100nm〜30nmの幅に加工する。その後、上電極を形成する。本実施例の磁気抵抗効果素子は、面積抵抗ARが50〜500mΩμm2以下で10%以上の高MR変化率を示す。
【0067】
実施例2
上記(2)のように、反強磁性スピン配列を持つ磁性酸化物とこの磁性酸化物を貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部を有する磁性スペーサ層を用いた垂直通電型の磁気抵抗効果素子の例について説明する。この例では、磁性スペーサ層以外は図8の磁気抵抗効果素子と同様である。
【0068】
磁性スペーサ層は、反強磁性スピン配列を持つ磁性酸化物とこの磁性酸化物を貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部を有する。磁性スペーサ層中のスピン配列は、磁性酸化物のすべての領域で反強磁性結合成分を生じさせ、金属強磁性ブリッジで強磁性的結合成分を生じさせるようになっている。強磁性結合を生じさせるブリッジ部は、磁性スペーサ層の膜面内における直径が0.5nm以上10nm以下であることが望ましい。その理由は以下のとおりである。すなわち、ブリッジ部の径が10nmを超えると、スピン交換結合長と比べて大きくなりすぎるため、酸化物層を介した上下磁性層の反強磁性的磁気結合との和とはならず、ドメインを形成し、酸化物層を介した上下磁性層の磁気結合は反強磁性的結合で、ブリッジ部を介した上下磁性層の磁気結合は強磁性的結合になる。逆に、0.5nm未満となると金属強磁性ブリッジ部の膜面内に存在する金属磁性元素の数が2〜3個と少なくなりすぎ、上下磁性層の強い強磁性的結合成分をもたらすことができなくなる。
【0069】
金属強磁性ブリッジ部の径および密度によって、上下磁性層の磁気結合の大きさも変化し、MR変化率の値も変化する。磁性スペーサ層の膜面内におけるブリッジ部の密度(面積比率)は、約1%以上30%以下が好ましく、3%以上20%以下がより好ましい。
【0070】
本実施例において、磁性スペーサ層を介した良好な磁気結合を得るためには、ピン層やフリー層の結晶構造は、fcc構造の場合にはfcc(111)配向性をもつことが望ましく、bcc構造の場合にはbcc(110)配向性をもつことが望ましく、hcp構造の場合にはhcp(001)配向かhcp(110)配向性をもつことが望ましい。
【0071】
結晶配向性は、配向のばらつき角度が4.0度以内であることが望ましく、3.5度以内がより好ましく、3.0度以内がさらに好ましい。これは、例えばX線回折でθ−2θ測定により得られたピーク位置でのロッキングカーブの半値幅として測定可能な値である。磁気ヘッドにおいては、断面のナノディフラクションスポットの分散角度として検知することができる。
【0072】
ブリッジ部を含む磁性酸化物からなる磁性スペーサ層は以下のような方法により形成することができる。たとえば、ブリッジ部となるべき金属材料と磁性酸化物となるべき金属材料をスパッタ、MBE、CVD、蒸着などによって成膜した後に、酸化処理を施して磁性酸化物となるべき金属材料を酸化する方法を用いることができる。酸化方法としては、自然酸化、ラジカル酸化、イオンビーム酸化、RFプラズマ酸化などが用いられる。酸化処理時に酸化活性を上げるために、UV照射や基板加熱などを行ってもよい。良好な結晶構造を有する磁性酸化物層を制御性よく形成するには、イオンビーム酸化、RFプラズマ酸化を行うことが特に好ましい。イオンビーム酸化を行う場合には、酸素ガスをイオンソースに導入するか、または酸素ガスを酸化チャンバーに直接導入してもよい。イオンビームの加速エネルギーは30〜100Vに設定することが好ましい。
【0073】
本実施例の磁気抵抗効果素子でも、60〜1000mΩμm2の低いARで20〜1000%の高MR変化率を実現することができる。本実施例の磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに適用する場合、トラック幅に相当する幅Wを0.1μm以下に加工し、さらに高記録密度のためには50nm以下まで微細加工する。奥行きhに関してもほぼWと同じサイズまで加工する。本実施例の磁気抵抗効果素子をMRAMに適用する場合、磁気ヘッドの場合よりも大きいサイズでも用いることができ、Wやhは1μm以下に加工すればよい。バイアス構造は一般的には設けられず、スピンバルブ膜の形状を工夫することによって一軸異方性を印加し、スイッチング動作が可能となるようにする。
【0074】
実施例3
上記(3)のように、ピニング層、ピン層、磁性スペーサ層、フリー層、バイアス層の積層膜を用いたることが挙げられる。垂直通電型の磁気抵抗効果素子の例について説明する。
【0075】
この例において用いられるバイアス層としては、ハード膜や反強磁性層などが挙げられる。たとえば、フリー層の上にCo,CoPt,CoCrPtなどCoを50%以上含むハード膜を3nm以上20nm以下の厚さで積層する。または、フリー層の上にIrMn[3〜20nm]、PtMn[5〜20nm]、PdPtMn[5〜20nm]、RuMn[3〜20nm]、RuRhMn[3〜20nm]などを積層して交換結合バイアスを利用する。
【0076】
磁性スペーサ層はスピンのねじれを発生させるために磁性材料で形成する。具体的には、Co,Fe,Ni,Cr,Mnや、それらを含む合金層を用いることができる。図3においてはバイアス層がなくても、磁性スペーサ層と上下磁性層の磁気的な結合作用によって自発的にスピンのねじれが生じ、フリー層の磁化方向をピン層の磁化方向に対して直交に配列した。しかし、自発的なスピンのねじれが不十分な場合にバイアス層によって補助する場合や、バイアス層によるバイアスの方が安定している場合には、本実施例の構成が用いられる。
【0077】
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の応用について説明する。
【0078】
図10および図11は、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに組み込んだ状態を示している。図10は、磁気記録媒体(図示せず)に対向する媒体対向面に対してほぼ平行な方向に磁気抵抗効果素子を切断した断面図である。図11は、この磁気抵抗効果素子を媒体対向面Pに対して垂直な方向に切断した断面図である。
【0079】
図10および図11に例示した磁気ヘッドは、いわゆるハード・アバッテッド(hard abutted)構造を有する。磁気抵抗効果膜10は図1または図5〜図7に示した構造を有するものである。磁気抵抗効果膜10の上下には、下電極11と下電極12とがそれぞれ設けられている。図10において、磁気抵抗効果膜10の両側面には、バイアス磁界印加膜13と絶縁膜14とが積層して設けられている。図11に示したように、磁気抵抗効果膜10の媒体対向面には保護層15が設けられている。
【0080】
磁気抵抗効果膜10に対するセンス電流は、その上下に配置された電極11、12によって矢印Aで示したように、膜面に対してほぼ垂直方向に通電される。また、左右に設けられた一対のバイアス磁界印加膜13、13により、磁気抵抗効果膜10にはバイアス磁界が印加される。このバイアス磁界により、磁気抵抗効果膜10のフリー層の磁気異方性を制御して単磁区化することによりその磁区構造が安定化し、磁壁の移動に伴うバルクハウゼンノイズ(Barkhausen noise)を抑制することができる。
【0081】
本発明によれば、磁気抵抗効果膜のMR変化率が向上しているので、磁気ヘッドに応用した場合に高感度の磁気再生が可能となる。
【0082】
図10および図11に示した磁気ヘッドは、記録再生一体型の磁気ヘッドアセンブリに組み込んで、磁気記録再生装置に搭載することができる。
【0083】
図12は、このような磁気記録再生装置の概略構成を例示する要部斜視図である。すなわち、本発明の磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、磁気ディスク200は、スピンドル152に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本発明の磁気記録再生装置150は、複数の磁気ディスク200を備えたものとしてもよい。
【0084】
磁気ディスク200に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ153は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ヘッドスライダ153は、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドをその先端付近に搭載している。
【0085】
磁気ディスク200が回転すると、ヘッドスライダ153の媒体対向面(ABS)は磁気ディスク200の表面から所定の浮上量をもって保持される。あるいはスライダが磁気ディスク200と接触するいわゆる「接触走行型」であってもよい。
【0086】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石および対向ヨークからなる磁気回路とから構成される。
【0087】
アクチュエータアーム155は、スピンドル157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。
【0088】
図13は、アクチュエータアーム155から先の磁気ヘッドアセンブリをディスク側から眺めた拡大斜視図である。すなわち、磁気ヘッドアッセンブリ160は、例えば駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155を有し、アクチュエータアーム155の一端にはサスペンション154が接続されている。
【0089】
サスペンション154の先端には、上述したいずれかの実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備するヘッドスライダ153が取り付けられている。サスペンション154は信号の書き込みおよび読み取り用のリード線164を有し、このリード線164とヘッドスライダ153に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続されている。図中165は磁気ヘッドアッセンブリ160の電極パッドである。
【0090】
本発明によれば、上述した本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを具備することにより、従来よりも高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
【0091】
次に、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を搭載した磁気メモリについて説明する。すなわち、本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いて、例えばメモリセルがマトリクス状に配置されたランダムアクセス磁気メモリ(magnetic random access memory、MRAM)などの磁気メモリを実現できる。
【0092】
図14は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図である。この図は、メモリセルをアレイ状に配置した場合の回路構成を示す。アレイ中の1ビットを選択するために、列デコーダ350、行デコーダ351が備えられており、ビット線334とワード線332によりスイッチングトランジスタ330がオンになり一意に選択され、センスアンプ352で検出することにより磁気抵抗効果素子10中の磁気記録層(フリー層)に記録されたビット情報を読み出すことができる。ビット情報を書き込むときは、特定の書き込みワード線323とビット線322に書き込み電流を流して発生する磁場を印加する。
【0093】
図15は、本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図である。この場合、マトリクス状に配線されたビット線322とワード線334とが、それぞれデコーダ360、361により選択されて、アレイ中の特定のメモリセルが選択される。それぞれのメモリセルは、磁気抵抗効果素子10とダイオードDとが直列に接続された構造を有する。ここで、ダイオードDは、選択された磁気抵抗効果素子10以外のメモリセルにおいてセンス電流が迂回することを防止する役割を有する。書き込みは、特定のビット線322と書き込みワード線323とにそれぞれに書き込み電流を流して発生する磁場により行われる。
【0094】
図16は、本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図である。図17は、図16のA−A’線に沿う断面図である。これらの図に示した構造は、図14または図15に示した磁気メモリに含まれる1ビット分のメモリセルに対応する。このメモリセルは、記憶素子部分311とアドレス選択用トランジスタ部分312とを有する。
【0095】
記憶素子部分311は、磁気抵抗効果素子10と、これに接続された一対の配線322、324とを有する。磁気抵抗効果素子10は、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子である。
【0096】
一方、選択用トランジスタ部分312には、ビア326および埋め込み配線328を介して接続されたトランジスタ330が設けられている。このトランジスタ330は、ゲート332に印加される電圧に応じてスイッチング動作をし、磁気抵抗効果素子10と配線334との電流経路の開閉を制御する。
【0097】
また、磁気抵抗効果素子10の下方には、書き込み配線323が、配線322とほぼ直交する方向に設けられている。これら書き込み配線322、323は、例えばアルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)、タンタル(Ta)あるいはこれらいずれかを含む合金により形成することができる。
【0098】
このような構成のメモリセルにおいて、ビット情報を磁気抵抗効果素子10に書き込むときは、配線322、323に書き込みパルス電流を流し、それら電流により誘起される合成磁場を印加することにより磁気抵抗効果素子の記録層の磁化を適宜反転させる。
【0099】
また、ビット情報を読み出すときは、配線322と、磁気記録層を含む磁気抵抗効果素子10と、下電極324とを通してセンス電流を流し、磁気抵抗効果素子10の抵抗値または抵抗値の変化を測定する。
【0100】
本発明の実施形態に係る磁気メモリは、上述した実施形態に係る磁気抵抗効果素子を用いることにより、セルサイズを微細化しても、記録層の磁区を確実に制御して確実な書き込みを確保でき、且つ、読み出しも確実に行うことができる。
【0101】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、磁気抵抗効果膜の具体的な構造や、その他、電極、バイアス印加膜、絶縁膜などの形状や材質に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる。
【0102】
例えば、磁気抵抗効果素子を再生用磁気ヘッドに適用する際に、素子の上下に磁気シールドを付与することにより、磁気ヘッドの検出分解能を規定することができる。
【0103】
また、本発明は、長手磁気記録方式のみならず垂直磁気記録方式の磁気ヘッドあるいは磁気記録再生装置についても同様に適用して同様の効果を得ることができる。
【0104】
さらに、本発明の磁気記録再生装置は、特定の記録媒体を定常的に備えたいわゆる固定式のものでも良く、一方、記録媒体が差し替え可能ないわゆる「リムーバブル」方式のものでも良い。
【0105】
その他、本発明の実施形態として上述した磁気ヘッドおよび磁気記憶再生装置を基にして、当業者が適宜設計変更して実施しうるすべての磁気抵抗効果素子、磁気ヘッド、磁気記憶再生装置および磁気メモリも同様に本発明の範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の主要部を示す斜視図。
【図2】図1の磁性スペーサ層中におけるスピンの向きを示す図。
【図3】本発明の一実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層中におけるスピンの向きを示す図。
【図4】本発明の他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層を示す斜視図。
【図5】図4の磁性スペーサ層中におけるスピンの向きを示す図。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層を示す斜視図。
【図7】図4の磁性スペーサ層中におけるスピンの向きを示す図。
【図8】本発明の実施例1における磁気抵抗効果素子を示す斜視図。
【図9】本発明の実施例1における磁気抵抗効果素子の磁性スペーサ層の断面を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真。
【図10】本発明の実施形態に係る磁気ヘッドの断面図。
【図11】本発明の実施形態に係る磁気ヘッドの断面図。
【図12】本発明の実施形態に係る磁気記録再生装置の斜視図。
【図13】本発明の実施形態に係る磁気ヘッドアセンブリの斜視図。
【図14】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の一例を示す図。
【図15】本発明の実施形態に係る磁気メモリのマトリクス構成の他の例を示す図。
【図16】本発明の実施形態に係る磁気メモリの要部を示す断面図。
【図17】図16のA−A’線に沿う断面図。
【符号の説明】
【0107】
1…ピニング層、2…ピン層、3…磁性スペーサ層、4…フリー層、5…磁性スペーサ層、6…磁性酸化物、7…ブリッジ部、8…磁性スペーサ層、9…バイアス層、10…磁気抵抗効果素子、11…下電極、12…上電極、13…バイアス磁界印加膜、14…絶縁膜、15…保護層、150…磁気記録再生装置、152…スピンドル、153…ヘッドスライダ、154…サスペンション、155…アクチュエータアーム、156…ボイスコイルモータ、157…スピンドル、160…磁気ヘッドアッセンブリ、164…リード線、200…磁気記録磁気ディスク、311…記憶素子部分、312…アドレス選択用トランジスタ部分、312…選択用トランジスタ部分、321…磁気抵抗効果素子、322…ビット線、322…配線、323…ワード線、323…配線、324…下部電極、326…ビア、328…配線、330…スイッチングトランジスタ、332…ゲート、332…ワード線、334…ビット線、334…ワード線、350…列デコーダ、351…行デコーダ、352…センスアンプ、360…デコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、
外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた磁性スペーサ層と、
前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、
外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、
外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた、反強磁性スピン配列を持つ磁性材料で形成された磁性スペーサ層と、
前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、
外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記磁性スペーサ層は、α−Fe23、γ−Fe23およびスピネルMFe24(MはFe,Co,Ni,Cu,Mn,Zn,Cr,V)からなる群より選択される磁性酸化物材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記磁性スペーサ層は、XMny(XはIr,Pt,Pd,Ru,Cr,Rh,Re、y≧30atmic%)で表される金属材料で形成されていることを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記磁性スペーサ層は、偶数の原子層数を有する領域と奇数の原子層数を有する領域を含むことを特徴とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、
外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた、反強磁性スピン配列を持つ磁性酸化物とこの磁性酸化物を貫通する金属強磁性材料で形成されたブリッジ部を有する磁性スペーサ層と、
前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、
外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記磁性スペーサ層の磁性酸化物はα−Fe23、γ−Fe23およびスピネルMFe24(MはFe,Co,Ni,Cu,Mn,Zn,Cr,V)からなる群より選択される磁性酸化物材料で形成され、前記ブリッジ部はFe、CoおよびNiからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む金属強磁性材料で形成されていることを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記ブリッジ部の前記磁性スペーサ層の膜面内における直径が0.5nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項6に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
実質的に磁化方向が固着された第1の磁性層と、
外部磁界に応じて磁化方向が変化する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられた磁性スペーサ層と、
前記磁性スペーサ層の磁化方向をバイアスするバイアス層と、
前記第1の磁性層、磁性スペーサ層および第2の磁性層を含む積層膜の膜面垂直に電流を通電する電極とを有し、
外部磁界がゼロのときに、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向がほぼ直交していることを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を具備したことを特徴とする磁気ヘッド。
【請求項11】
磁気記録媒体と、請求項10記載の磁気ヘッドとを具備したことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項12】
請求項1ないし9のいずれか1項に記載の磁気抵抗効果素子を具備したことを特徴とする磁気メモリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2006−49358(P2006−49358A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224124(P2004−224124)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】