説明

磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドジンバルアッセンブリ、磁気記録再生装置、歪みセンサ、圧力センサ、血圧センサ及び構造物ヘルスモニタセンサ

【課題】高密度化対応の磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアッセンブリ、磁気記録再生装置、歪みセンサ、圧力センサ、血圧センサ及び構造物ヘルスモニタセンサを提供する。
【解決手段】基板上に積層された、第1の磁性層12と、第1の磁性層12に積層され、第1の磁性層の組成とは異なる第2の磁性層11と、第1の磁性層12と第2の磁性層11との間に配置されたスペーサ層13と、を有する積層体10と、積層体10に電流を流す1対の第1の電極と、積層体10の近傍に設けられ、積層体に歪みが印加されることで、第1の磁性層12及び第2の磁性層11の磁化方向がそれぞれ異なる方向にバイアスされるよう積層体10に歪みを印加する歪み導入部材と、歪み導入部材に電圧を印加するための第2の電極と、を備える。外部磁界が印加されることで、第1の磁性層12及び第2の磁性層11の磁化方向がともに変化し、磁化方向の変化により、外部磁界を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドジンバルアッセンブリ、磁気記録再生装置、歪みセンサ、圧力センサ、血圧センサ及び構造物ヘルスモニタセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体層の積層構造を用いた磁気デバイス、特に磁気ヘッドの性能が飛躍的に向上している。特に、スピンバルブ膜(Spin-Valve:SV膜)を用いた磁気ヘッドの技術分野は、大きな進歩を遂げている。
「スピンバルブ膜」とは、二つの強磁性層の間に非磁性層を挟み、一方の強磁性層を、磁化方向が反強磁性層などで固着された層(「ピン層」と称される)とし、もう一方の強磁性層を、磁化方向が外部磁場に応答可能な層(「フリー層」と称される)とした積層膜をいう。
スピンバルブ膜は、一種の可変抵抗素子として機能する。スピンバルブ膜を移動するキャリアの抵抗は、キャリアのスピン状態に依存する。したがって、外部磁場によりスピンバルブ膜のスピン状態を変えることによって、スピンバルブ膜の抵抗状態を変えることができる。
【0003】
外部磁場によって電気抵抗が変化する磁気抵抗効果(MR効果)は、多くの物理的現象を引き起こす。最も知られているものは、GMR(giant magnetoresistance)とTMR(tunnelling magnetoresistance)である。
スピンバルブ膜を備えた磁気抵抗効果素子の電気抵抗の状態は、隣り合った強磁性層、例えば、ピン層とフリー層における磁化方向の相対的な関係によって決定される。典型的には、スピンバルブ膜において2つの強磁性層の磁化方向が平行にそろった場合は、電気抵抗が低い「低抵抗状態」となる。この状態を慣習的に「0」状態と表す。一方、スピンバルブ膜において2つの強磁性層の磁化方向が反平行にそろっている場合は、電気抵抗が高い「高抵抗状態」となる。この状態を慣習的に「1」状態と表す。隣り合った層の磁化方向間の角度が中間の角度である場合は、中間の抵抗状態となる。この現象を利用した磁気抵抗効果素子は、HDDの読み取りヘッドとして広く使われている。
【0004】
従来のピン層を有する磁気抵抗効果素子に対して、高密度化対応の狭ギャップ対応のヘッドとして、ピン層、およびピニング層を有しない二層フリー層の磁気抵抗効果素子が検討されている。この構造においては、スペーサー層を介した上下磁性層ともにフリー層として機能する。しかしながら、二層のフリー層が同じ磁化方向を向いていたのでは、磁界センサとして機能しないため、二層の磁性層をそれぞれ異なる方向にバイアスする工夫が必要となっている。これは、従来のハードバイアス層だけを用いたバイアスでは実現不可能であり、非常に複雑なバイアスを必要とする。そのため、二層フリー層の磁気抵抗効果素子はいまだ実用に至っていないのが現状である。
【0005】
一方、MR効果を利用した歪センサが提案されており、MR効果を利用した歪センサは従来の歪センサよりも小さい面積でも、非常に高感度なセンサが実現できる可能性がある。
しかしながら、従来のピン層/スペーサ層/フリー層からなる歪センサでは、磁気的に一体となって動作するフリー層は一層のみである(積層膜でフリー層が形成されたとしても、磁気的に一体となって磁化回転する場合は、一層のフリー層となる)。この場合、逆磁歪効果を用いてフリー層が歪を検知する場合、フリー層の磁歪係数は正か負かの一種類しかないため、圧縮応力か、引っ張り応力かのいずれか一方のみにしか意味のある磁化回転をしなくなり、一方の歪状態のみしか検知できない歪センサとなる。このような場合、多数点の歪を検知する必要がある場合には、トータルの感度が低下してしまうのが課題である。つまり、圧縮応力、引っ張り応力のいずれの応力に対しても検知可能な歪センサが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国公開特許US2005/0088789A1
【非特許文献1】M. Lohndorf et al., ”Highly sensitive strain sensors based on magnetic tunneling junctions”, J. Magn. Magn. Mater. 316, 223 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、高密度化対応の磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドジンバルアッセンブリ、磁気記録再生装置、歪みセンサ、圧力センサ、血圧センサ及び構造物ヘルスモニタセンサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る磁気抵抗効果素子は、基板上に積層された積層体であって、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含む第1の磁性層と、前記第1の磁性層に積層され、前記第1の磁性層の組成とは異なる第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に配置されたスペーサ層と、を有する積層体と、前記積層体に電流を流す1対の第1の電極と、前記積層体の近傍に設けられ、前記積層体に歪みが印加されることで、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の磁化方向がそれぞれ異なる方向にバイアスされるよう前記積層体に歪みを印加する歪み導入部材と、前記歪み導入部材に電圧を印加するための第2の電極と、を備える。外部磁界が印加されることで、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の磁化方向がともに変化し、前記磁化方向の変化により、前記第1の電極間の抵抗が変化することで外部磁界を検出する。
【0009】
また、実施形態に係る磁気ヘッドジンバルアッセンブリは、前記磁気抵抗効果素子を備える。
また、実施形態に係る磁気記録再生装置は、前記磁気ヘッドジンバルアッセンブリと、前記磁気ヘッドジンバルアッセンブリに搭載され、前記磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを用いて情報が再生される磁気記録媒体と、を備える。
【0010】
さらに、実施形態に係る歪みセンサは、基板と、前記基板上に固定された積層体であって、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含む第1の磁性層と、前記第1の磁性層に積層され、前記第1の磁性層の組成とは異なる第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に配置されたスペーサ層と、を有する積層体と、前記積層体に電流を流す1対の電極と、を備える。前記積層体に印加された外部歪みによって、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層がともに磁化回転し、前記第1の磁性層および第2の磁性層の磁化回転に伴う前記電極間の抵抗変化によって、外部歪みを検出する。
【0011】
また、実施形態に係る圧力センサは、前記歪みセンサを有し、外部圧力による前記メンブレンの歪みを検知することで、前記外部圧力を検知する。
さらに、実施形態に係る血圧センサは、前記歪みセンサを有し、人間または動物の血圧値をモニターする。
【0012】
また、実施形態に係る構造物ヘルスモニタセンサは、前記歪みセンサを有し、橋またはビルの構造物の歪み状態をモニタする構造物の状態観測を行う。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
【図2】(a)〜(c)は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において、正と負の磁歪係数をもつ強磁性層に、歪みを付加した場合の磁化方向の変化を例示した図であり、(a)は引っ張り歪みを示し、(b)は圧縮歪みを示し、(c)は(a)に示すA−A’面による断面図である。
【図3】第2の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図4】(a)〜(c)は磁気抵抗効果素子の磁化方向を例示する図であり、(a)は外部磁場が無い場合を示し、(b)は外部磁場が素子から離れる方向の場合を示し、(c)は外部磁場が素子に向かう方向の場合を示す。
【図5】(a)〜(c)は磁気抵抗効果素子の磁化方向を例示する図であり、(a)は外部磁場が無い場合を示し、(b)は外部磁場が素子から離れる方向の場合を示し、(c)は外部磁場が素子に向かう方向の場合を示す。
【図6】第3の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図7】(a)及び(b)は、第4の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図であり、(c)は(b)に示すA−A’面による断面図である。
【図8】第5の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図9】第6の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図10】第7の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図11】第8の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図12】第9の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
【図13】(a)及び(b)は、第10の実施形態に係る磁気ヘッドアッセンブリを例示する斜視図である。
【図14】第11の実施形態に係る磁気記録再生装置を例示する斜視図である。
【図15】第12の実施形態に係る歪みセンサを例示する断面図である。
【図16】第12の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する断面図である。
【図17】第12の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する断面図である。
【図18】(a)及び(b)は、第12の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は圧縮歪みを付加した場合を示す。
【図19】(a)、(b)及び(c)は、第12の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は任意の方向から引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は任意の方向から圧縮歪みを付加した場合を示し、(c)は歪みを付加する前の2つの強磁性層の磁化方向が反平行である時の圧縮歪みを付加した場合を示す。
【図20】第12の実施形態の変形例に係る歪みセンサを例示する断面図である。
【図21】第13の実施形態に係る歪みセンサを例示する平面図である。
【図22】(a)〜(d)は、第13の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は素子Aに圧縮歪みを付加した場合を示し、(b)は素子Aに引っ張り歪みを付加した場合を示し、(c)は素子Bに圧縮歪みを付加した場合を示し、(d)は素子Bに引っ張り歪みを付加した場合を示す。
【図23】第14の実施形態に係る歪みセンサを例示する斜視図である。
【図24】第14の実施形態に係る歪みセンサにおける磁気抵抗効果素子を例示する断面図である。
【図25】第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
【図26】(a)及び(b)は、第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の積層体を例示した図であり、(a)は引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は圧縮歪みを付加した場合を示す。
【図27】第16の実施形態に係る血圧センサを例示する断面図である。
【図28】第16の実施形態に係る血圧センサを例示する図である。
【図29】第17の実施形態に係る血圧測定システムを例示する図である。
【図30】第17の実施形態に係る血圧測定システムの動作を例示するフローチャート図である。
【図31】第19の実施形態に係る構造物ヘルスモニタセンサを例示する図である。
【図32】第19の実施形態に係る構造物ヘルスモニタセンサを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
先ず、第1の実施形態について説明する。
図1は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図1に示すように、磁気抵抗効果素子10は、外部磁場によって磁化方向が回転可能な強磁性層12と、強磁性層12上に積層され、外部磁場によって磁化方向が回転可能な強磁性層11を含んだ積層構造とされている。本実施形態においては、強磁性層11と強磁性層12との間にスペーサ層13が設けられている。強磁性層11及び強磁性層12は、逆磁歪効果(Inverse−magnetostrictive effect)を示す材料からなる。しかし、強磁性層11及び12の逆磁歪効果の極性は、相互に反対である。例えば、強磁性層11は正の磁歪係数を有し、強磁性層12は負の磁歪係数を有する。
以下、強磁性層11、スペーサ層13及び強磁性層12が積層された構造体を「積層体19」といい、強磁性層11、スペーサ層13、強磁性層12が積層された方向を「積層方向」といい、積層方向に対して直交する方向を「面内方向」という。
【0015】
磁気抵抗効果素子の強磁性層11及び12の異なる磁歪極性の材料として具体的な例を以下に列挙する。
正の磁歪係数を示す磁性層は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含んでいる。
一方、負の磁歪係数を示す磁性層も基本的には鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含んでいる。そのなかでも、ニッケル及びサマリウム鉄(SmFe)からなる群より選択された1種以上の金属を含んでいる材料を用いることが適していることがある。金属スペーサ層の場合には、CoFe合金層も負の磁歪を示す材料として、適している。
以下に、一例として、正の磁歪係数を示す磁性層、スペーサ層及び負の磁歪係数を示す磁性層を含む積層体19を示す。
一般的には、磁性層の磁歪は磁性層の組成により決定される。これらについては、これまで多数の文献において一般的な傾向は調べられている。しかしながら、磁性層に隣接する材料に応じて、実際には磁歪も大きく影響を受けることが、極薄膜特有の状況として発生する。
【0016】
スペーサ層13として酸化物材料を用いた場合(酸化マグネシウム(MgO)のようなトンネルバリア層や、後述するCCP層)に、スペーサ層13の界面に鉄コバルト(CoFe)などを含有する磁性層を用いた場合には、そのスペーサ層13の上下面の磁性層1〜2nm近傍については一般的には正の磁歪を示す。それは、CoFeBO、CoO、NiO、FeOなどの酸化物層は正の磁歪係数を示す材料となるためである。次に、本実施形態においては、強磁性層11及び12で正及び負の異なる磁歪を示すような構成にする。酸化物層の界面においては、すでに正の磁歪を示しているので、フリー層11全体またはフリー層12全体として、正の磁歪の磁性層を形成することは比較的容易である。そこで、他方の界面において、負の磁歪を形成するためには、上記正の磁歪を有する酸化物界面層に対して、負の大きな磁歪を有する磁性層を積層することで、フリー層11またはフリー層12の磁性層トータルとして、負の磁歪の磁性層を形成することができる。負の大きな磁歪は、ニッケル(Ni)リッチの合金を用いることで対応できる。
【0017】
他には、負の磁歪で形成するためには、例えば、ニッケル(Ni)、NiFe合金(Niが85atomic%以上含有)、SmFeなどがあげられる。磁性材料が複数層形成された場合には、磁気的に一体となって磁化方向が動く磁性層とする。その磁性層中のトータルの積層膜構成によって、その磁性層の磁歪は決定される(一方、非磁性スペーサ層を介したもう一方の磁性層に関しては、磁気的には別の磁性層として機能するため、磁歪も別の値として定義される)。
【0018】
強磁性層11/スペーサ層13/強磁性層12の積層膜構成の具体例としては、Co90Fe10/CoFeB/MgO/CoFeB/Ni95Feの積層膜で膜厚がそれぞれ2nm/1nm/1.5nm/1nm/2nmであるものがあげられる。ここで、Co90Fe10/CoFeB層が一つの磁性層として機能する正の磁歪を示す磁性層であり、CoFeB/Ni95Fe層が一つの磁性層として機能する負の磁歪を示す磁性層となる。MgO層がスペーサ層である。
【0019】
スペーサ層は、磁気抵抗効果の物理的メカニズムによっていくつかの種類がある。
CIP(Current In Plane)構造やCPP(Current Parpendiculat to the Plane)構造のGMR効果を利用する場合は、非磁性金属を材料としたスペーサ層が用いられる。また、非磁性金属としては、銅、金、銀、アルミニウム及びクロムからなる群より選択された1種の金属があげられる。
【0020】
ここで、CIP構造とは、強磁性層11及び強磁性層12の積層体における面内方向の両端面に1対の電極を設け、積層体中を面内方向に電流を流す構造をいう。また、CPP構造とは、強磁性層11及び強磁性層12の積層体における積層方向の両端面に1対の電極を設け、積層体中を積層方向に電流を流す構造をいう。
【0021】
一様な金属層だけでなく、CCP(Current−confined−path)構造のスペーサ層も使われる。CCP構造のスペーサ層とは、膜厚がナノメーターオーダーの絶縁部層中を、その貫通孔内に、導電部材が埋め込まれたものである。CCP構造のスペーサ層の利点は、低い抵抗を維持したまま、MR効果を高められることである。CCP構造のスペーサ層の導電部材の材料としては、銅、金、銀、アルミニウム及びクロムからなる群より選択された1種の金属があげられる。CPP構造のスペーサ層における絶縁部材の材料としては、アルミニウム、チタン、亜鉛、シリコン、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、クロム、マグネシウム及びジルコニウムからなる群より選択された1種の金属の酸化物または窒化物があげられる。
【0022】
TMRを利用する場合、スペーサ層13は、高い電気抵抗を得るために、酸化マグネシウムのような典型的な絶縁材料により形成される。そのような絶縁材料によるスペーサ層はトンネルバリア層として機能する。ここで、トンネルバリア層とは、トンネル効果により電流を流すことができる絶縁層をいう。トンネルバリア層の材料としては、上述した酸化マグネシウムの他、窒化マグネシウム、又は、アルミニウム、チタン、亜鉛、シリコン、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、クロム及びジルコニウムからなる群より選択された1種の金属の酸化物若しくは窒化物があげられる。
【0023】
上述の如く、磁気抵抗効果素子に含まれる2層の強磁性層は、一方が正の磁歪係数を示し、スペーサ層を介してもう一方の強磁性層が負の磁歪係数を示す。例えば、図1に示す積層体19を形成する際の成膜の過程で、下から順に正の磁歪係数を示す層、スペーサ層、負の磁歪係数を示す層としてもよいし、逆に負の磁歪係数を示す層、スペーサ層、正の磁歪係数を示す層としてもよい。
図1では本実施形態の動作原理を説明するために、まず外部歪みが非常に小さい状態について示している。第1の強磁性層11と第2の強磁性層12の初期の磁化方向14及び15を反平行状態としている。これは、二つの磁性層間において静磁気結合された状態や、RKKY結合で反強磁性結合成分が大きい場合などに相当する。しかしながら、二つの強磁性層間の層間結合磁界が強い場合のように第1の強磁性層11と第2の強磁性層12の初期の磁化方向が平行状態となる場合もある。以降の説明においては、この最初の状態が平行磁化状態でも、反平行磁化状態でも、いずれの状態でも本質的な原理は同様に説明できる。
【0024】
次に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の動作について説明する。
先ず、磁歪効果について説明する。
磁歪効果とは、磁性体の磁化方向が変化することによって、磁性体に歪みが発生することをいう。磁歪効果によって発生した歪みは、磁化の大きさと方向に依存する。したがって、磁歪効果による歪みの大きさは、磁化の大きさと方向によって制御される。また、磁歪効果による歪みの大きさは、磁性体材料に固有な磁歪係数に大きく依存する。磁化が飽和した状態での歪みの変化の比の値を、磁歪係数と呼ぶ。
磁歪効果に対して、逆磁歪効果という磁歪効果の逆の現象も存在する。逆磁歪効果とは、磁性体の磁化方向が、外部から付加された歪みによって変わる現象である。逆磁歪効果における磁化方向の変化の大きさは、外部から付加された歪みの大きさと磁性体に固有な磁歪係数に依存する。磁歪効果と逆磁歪効果は互いに物理的に対称なので、磁歪係数はどちらの効果の場合においても同じ値である。
【0025】
磁歪効果及び逆磁歪効果における磁歪係数には、磁性体によって、正の磁歪係数と負の磁歪係数がある。
逆磁歪効果においては、正の磁歪係数を示す磁性体の場合には、磁性体に引っ張り歪みが付加されると、磁性体の磁化方向は、付加された歪みの方向に一致するような方向となる。そのような方向をとることがエネルギー的に安定であるからである。また、磁性体に圧縮歪みが付加されると、磁性体の磁化方向は、付加された歪みの方向に直交するような方向となる。
一方、負の磁歪係数を有する磁性体の場合は、逆である。すなわち、磁性体に圧縮歪みが付加されると、磁性体の磁化方向は、付加された歪みの方向に一致するような方向となる。一方、引っ張り歪みが付加されると、磁性体の磁化方向は、付加された歪みの方向に直交するような方向となる。
【0026】
このように、単一の極性の歪(つまり、圧縮か引っ張りかいずれか一方のみ)が印加された状態においても、異なる極性の磁歪係数を有する二つの強磁性層は、磁化方向が異なる方向に変化する。この現象を利用することで、二層フリー層のバイアス構造を実現することが可能となる。つまり、二つの強磁性層の磁化方向のなす角度を略90度に設定することも可能となる。
【0027】
図2(a)〜(c)は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子において、正と負の磁歪係数をもつ強磁性層に、歪みを付加した場合の磁化方向の変化を例示した図であり、(a)は引っ張り歪みを示し、(b)は圧縮歪みを示し、(c)は(a)に示すA−A’面による断面図である。
図2(a)に示すように、磁気抵抗効果素子10に引っ張り歪み16aが付加された場合には、正の磁歪係数を持つ強磁性層11の磁化方向14は、引っ張り歪み16aの方向とのなす角度が小さくなるように、すなわち、引っ張り歪み16aの方向にそろうように回転して、磁化方向17aとなる。反対に、負の磁歪係数を持つ強磁性層12の磁化方向15は、引っ張り歪み16aの方向とのなす角度が大きくなるように、すなわち、引っ張り歪み16aの方向に直交するように回転して、磁化方向18aとなる。
【0028】
一方、引っ張り歪み16aの代わりに、圧縮歪み16bを付加した場合は、逆のことが起きる。すなわち、図2(b)に示すように、正の磁歪係数を持つ強磁性層11の磁化方向14は、圧縮歪み16bの方向に直交するように回転して、磁化方向17bとなる。反対に、負の磁歪係数を持つ強磁性層12の磁化方向15は、圧縮歪み16bの方向にそろうように回転して、磁化方向18bとなる。
【0029】
このように、引っ張り歪みまたは圧縮歪みのような歪みの極性に関わらず、単一の極性の歪みの印加にも関わらず、正と負の磁歪係数を示す2つの強磁性層の磁化方向は、お互いに垂直に近づくように誘導されることである。したがって、歪みの付加が、二層フリー層の磁化方向を異なる方向にバイアスするために利用することが可能となる。
【0030】
次に、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の効果について説明する。
前述のように二層フリー層を有する磁気抵抗効果素子は、二つの強磁性層をそれぞれ異なる方向に磁化方向を向けるというバイアス構造が極めて困難であった。
しかしながら、本実施形態のようにスペーサ層を介した二つの強磁性層に磁歪極性が異なる材料を用い、その積層膜に単一の極性の外部歪みを印加することで、二つの磁性層の磁化方向に対して適性なバイアスを実現することが可能となる。つまり、ピン層、ピニング層を有しない薄い膜厚の磁気抵抗効果素子が実現できる。これにより、狭ギャップ化に適した高密度化対応の磁気抵抗効果素子が実現できる。
【0031】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
本実施形態は、磁気ヘッドの実施形態である。
本実施形態に係る磁気ヘッドには、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子が設けられている。
【0032】
図3は、第2の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
図3に示すように、磁気ヘッド20は、磁気抵抗効果素子10を構成する積層体19の積層方向を上下とした場合の上面上に上電極21、下面上に下電極22が設けられている。
図3に示すように、積層体19の4つの側面のうち1つの側面が、ABS面23とされている。ABS面23においては、上電極21及び下電極22の双方が露出している。すなわち、上電極21の端面及び下電極22の端面がABS面23の一部を構成している。本実施形態では、磁気抵抗効果素子10を外部磁界、例えば磁気メディアから磁場を検出する磁気ヘッドに応用した例について説明する。ABS面23は、回転する磁気メディアに面するように設置される。これにより、積層体19の2つの磁性層の磁化方向は、磁気メディアから生じる磁束によって変化する。
【0033】
本実施形態においては、磁気ヘッド20の製造中に発生する応力を利用して、磁気抵抗効果素子10に歪みを導入することも可能であるが、いろいろな手段により、アクティブに導入することもできる。
磁気ヘッドの作成過程においては、ウェハーレベルで素子を形成した後、磁気抵抗効果素子の膜断面から機械的に研磨していくラッピング工程がはいる。このラッピングの向きは一断面から印加されるため、磁気抵抗効果素子にひとつの極性の応力が印加される。この応力を外部からの歪み源として用いることができる。すなわち、積層体に印加される歪として、積層体を膜断面から研磨することで発生する歪とすることができる。
【0034】
また、磁気抵抗効果素子10の製造中に積層体19の層間の格子不整合により歪みを導入することもできる。更に、熱膨張差により積層体19の層間に内部応力を発生させて歪みを導入することもできる。最も制御された形態として、外部応力によるものも考えられる。外部応力の利用によって、磁気抵抗効果素子10の必要な部位に応力を印加することも可能となり、制御性の観点で望ましい形態である。
本実施形態に係る磁気ヘッドの構成では、センス電流は、積層体19の膜面垂直方向に流れるCPP(current-perpendicular-to-plane)構造を有する。しかし、積層体19の側面、例えば、ABS面23及びその反対面以外の側面に電極を配置して、積層面に沿って面内方向にセンス電流を流すCIP(current-in-plane)構造としても良い。
【0035】
次に、第2の実施形態に係る磁気ヘッドの動作について説明する。
図4(a)〜(c)は、磁気抵抗効果素子の磁化方向を例示する図であり、(a)は外部磁場が無い場合を示し、(b)は外部磁場が素子から離れる方向の場合を示し、(c)は外部磁場が素子に向かう方向の場合を示す。
図4(a)に示すように、磁気ヘッド20の磁気抵抗効果素子10の積層体19には、積層体19の上面から見て、ABS面23から45°の方向に、引っ張り歪み24が付加されている。外部磁場はABS面23に垂直な方向から印加される。よって、引っ張り歪み24は、外部磁場が印加される方向から見ると45°または135°の方向で付加されている。上述のごとく、強磁性層11が正の磁歪係数を示し、強磁性層12が負の磁歪係数を示すとする。
【0036】
先ず、外部磁束による外部磁場がない場合について説明する。強磁性層11の磁化方向は、引っ張り歪み24の方向に沿って、積層体19の上面から見て、ABS面23から−135°の磁化方向25となる。なお、ABS面23を基準として、反時計回りを角度が増加する回転方向とし、ABS面23を基準として、時計周りを角度が減少する回転方向とする。一方、強磁性層12の磁化方向は、引っ張り歪み24の方向に直交して、ABS面23から−45°の磁化方向26となる。この場合、2つの磁性層の磁化方向25及び26は互いに直交している。したがって、磁気抵抗効果素子10の抵抗状態は、一般的なスピンバルブ膜の動作により、中間の抵抗状態となる。なお、本実施形態においては、引っ張り歪みが付加される場合を述べるが、圧縮歪みが付加されてもよい。
【0037】
次に、外部磁場が付加された場合を説明する。
図4(b)に示すように、外部磁束による外部磁場27が、素子から離れる方向、すなわち、積層体19の上面から見て、ABS面23から−90°の方向27に付加されると、2つの磁性層の磁化方向は、その外部磁場の方向27により近づこうとして、そろうように回転する。そのため、2つの磁性層の磁化方向は、磁化方向28及び29となる。その結果、2つの磁性層の磁化方向は、平行に近づくようになる。これにより、磁気抵抗効果素子10の抵抗状態は低抵抗状態に近づくように変化する。
【0038】
これに対して、図4(c)に示すように、外部磁束による外部磁場30が、素子に向かう方向30、すなわち、積層体19の上面から見て、ABS面23から90°の方向30に付加されると、2つの磁性層の磁化方向は、その外部磁場30により近づこうとするように回転して、磁化方向31及び32となる。その結果、それらは反平行に近づくように配列する。これにより、磁気抵抗効果素子10の抵抗状態は高抵抗状態に近づくように変化する。
【0039】
図4においては、磁気抵抗効果素子10の2つの磁性層の磁化方向において、ABS面23に対する垂直成分と水平成分の大きさは等しいものであった。
次に、磁気抵抗効果素子10の2つの磁性層の磁化方向において、ABS面23に対する垂直成分と水平成分の大きさが異なっている場合を説明する。
【0040】
図5(a)〜(c)は、磁気抵抗効果素子の磁化方向を例示する図であり、(a)は外部磁場が無い場合を示し、(b)は外部磁場が素子から離れる方向の場合を示し、(c)は外部磁場が素子に向かう方向の場合を示す。
図5(a)〜(c)に示す例においても、強磁性層11が正の磁歪係数を示し、強磁性層12が負の磁歪係数を示すものとする。
【0041】
図5(a)に示すように、磁気ヘッド20の磁気抵抗効果素子10の積層体19には、積層体19の上面から見て、ABS面23から0〜45°の間の方向に、引っ張り歪み33が付加されている。先ず、外部磁束による外部磁場がない場合について説明する。強磁性層11の磁化方向は、引っ張り歪み33の方向にそうように回転して、積層体19の上面から見て、ABS面23から−135〜−180°の方向34となる。一方、強磁性層12の磁化方向は、引っ張り歪み33の方向に直交するように回転して、ABS面23から−45〜−90°の方向となる。この場合、2つの強磁性層の磁化方向34及び35は直交している。したがって、磁気抵抗効果素子の抵抗状態は、一般的なスピンバルブ膜動作により、中間の抵抗状態となる。
【0042】
次に、外部磁場が付加された場合を説明する。
図5(b)に示すように、外部磁束による外部磁場36が、素子10から離れる方向、すなわち、積層体19の上面から見て、ABS面23から−90°の方向に付加されると、2つの強磁性層の磁化方向は、その外部磁場36により近づこうとしてそろうように回転し、磁化方向37及び38となる。その結果、それらはより平行に近づくように配列する。これにより、抵抗状態は低抵抗状態に近づくようになる。これに対して、図5(c)に示すように、外部磁束による外部磁場39が、素子に向かう方向、すなわち、積層体19の上面から見て、ABS面23から90°の方向に付加されると、2つの強磁性層の磁化方向は、その外部磁場39により近づこうとするように回転して、磁化方向40及び41となる。その結果、それらはより反平行に近づくように配列する。これにより、抵抗状態は高抵抗状態に近づくようになる。
【0043】
以上説明したように、2つの強磁性層の磁化方向が、外部磁場の方向と直交する成分を有する限り、スピンバルブ膜による抵抗状態の変化により、外部磁場を検出することができる。また、2つの強磁性層の磁化方向のいずれかに外部磁場の方向と直交する成分を持たせるためには、2つの強磁性層の磁化方向を交差させておけばよい。そして、本実施形態の2つの強磁性層は、正と負の磁歪係数を示すものであるため、積層体の積層方向に垂直な方向の歪みが積層体に導入されていれば、2つの強磁性層の磁化方向が交差する。このようにして、外部磁場の検出が可能となる。
つまり、スペーサ層を介した二つの強磁性層の磁化のなす角度θは、略90度に設定することが安定したデバイス動作として最も好ましい形態である。少なくとも、0度<θ<180度の範囲に設定する必要がある。
【0044】
次に、磁気メディアの読み取りを例として、外部磁場が、素子から離れる方向の外部磁場27と素子に近づく方向の外部磁場30が連続して変化する場合について説明する。
先ず、図4(a)に示すような引っ張り歪み24を導入し、2つの強磁性層の磁化方向を磁化方向25及び26のように直交させる。そして、電極20及び21間にセンス電流を流す。上述したように、抵抗状態は中間の抵抗状態として検出される。
そして、磁気メディアの移動と共に、抵抗が低くなった場合は、図4(b)に示すように、2つの強磁性層の磁化方向は平行に近づいたものと判定される。よって、磁気ヘッドのABS面23下の磁気メディアには、外部磁場27が記録されているとして、「1」が読み出される。
一方、磁気メディアの移動と共に、抵抗が高くなった場合は、図4(c)に示すように、2つの強磁性層の磁化方向は反平行に近づいたものと判定される。よって、磁気ヘッドのABS面23下の磁気メディアには、外部磁場30が記録されているとして、「0」が読み出される。
【0045】
次に、第2実施形態に係る磁気ヘッドの効果について説明する。
第2の実施形態に係る磁気ヘッドにおいては、正の磁歪係数を持つ強磁性層と負の磁歪係数を持つ強磁性層がスペーサ層を介して積層され、さらに、積層体19に歪みが付加されることにより、二つのフリー層を異なる方向にバイアスを印加することが可能となり、外部磁場を検出することができる。よって、高密度化対応の磁気ヘッドを実現することができる。
【0046】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態に係る磁気ヘッドについて説明する。
図6は、第3の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
本実施形態は、磁気抵抗効果素子に導入する歪みをより確実に制御して印加したい場合に、素子に歪み導入部材42を結合した例である。
【0047】
図6に示すように、本実施形態においては、磁気抵抗効果素子10の隣、例えば、積層体19におけるABS面23の反対面上に、歪み導入部材42が設けられている。歪み導入部材42は、素子の電気的分離または磁気的分離をするシールドとして使用される絶縁体の囲いの一部でもよい。歪み導入部材42の機械的な性質、例えば、歪み導入部材42の熱膨張によって積層体19内に内部応力が形成される。この場合、素子部分と歪み導入部材42の熱膨張係数が異なる材料を用いることで、歪みを与えられる。歪み導入部材42として、他には、積層体19と周囲の物質との間の結晶学的な不整合によるものがあげられる。また、磁歪特性を有する磁性体による磁歪膨張があげられる。
導入される歪みは、圧縮歪みでも、引っ張り歪みでもよい。
【0048】
次に、第3の実施形態に係る磁気ヘッドの効果について説明する。
本実施形態においては、磁気抵抗効果素子10に歪み導入部材42を導入することにより、素子10に制御された状態で歪みを印加することが可能となり、スペーサ層13を介した二つの強磁性層の磁化方向をバイアス制御することが可能となる。
それによって、狭ギャップ対応の薄い膜厚の磁気抵抗効果素子10において適正な磁化バイアスを実現させることができる。つまり、高密度化対応の磁気ヘッドを実現することが可能となる。
【0049】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態に係る磁気ヘッドについて説明する。
図7(a)及び(b)は、第4の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図であり、(c)は(b)に示すA−A’面による断面図である。
図7(a)に示すように、本実施形態においては、歪み導入部材42に圧電材料を用いている。
上記熱膨張のような受動的な歪み印加手法ではなく、より能動的に制御された歪みを印加するために、歪み導入部材42として電圧印加により結晶が歪む圧電材料を用いることができる。
【0050】
このような圧電特性を有する具体的な材料の例としては、以下のような材料が挙げられる。すなわち、結晶構造を有する酸化シリコン(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、KaC、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr、Ti)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ホウ酸リチウム(Li)、ランガサイト(LaGaSiO14)、窒化アルミニウム(AlN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、リン酸ガリウム(GaPO)、トルマリンなどである。また、これらの圧電材料をベースとして、添加元素などを加えて特性を改善したものでもかまわない。これら圧電材料の場合には、歪み導入部材42に電圧を印加する電極199a及び199bを有しており、それらに電圧を印加することによって歪を印加することが可能となる。
例えば、歪み導入部材42において素子10の積層体19と接する反対側の面に電極を設けて、電圧を印加することによって、歪みを印加することが可能となる。
これらの材料は絶縁特性を示すため、素子10の積層体19と接しさせることもできる。直接素子と歪導入部材が接しさせることで、より大きな歪を印加させることが可能である。
【0051】
図7(a)においては、歪み導入部材42に電圧を印加するために、電極119a、119bの位置に配置されているが、別の位置に電極を配置することも可能である。例えば、図2(c)に示すように、磁気抵抗効果素子10に外部磁界301が印加される方向に直交する直線302を0度としたときに、膜面上から見て、引っ張り応力または圧縮応力と直線302とのなす角度θが45度または135度の場合に、適正なバイアスを実現することができる。そのため、歪み導入部材42に応力を印加するための電極を、図7(b)及び(c)に示すように、圧電部材の一端に設けることが好ましい。すなわち、外部磁界301が印加される方向に直交する直線302を0度としたとき、膜面上から見て45度または135度の位置に電極119cを設け、磁気抵抗効果素子10をABS面23からみたときに45度または135度の方向に応力を印加できるようにすることができる配置である。
【0052】
次に、第4の実施形態に係る磁気ヘッドの効果について説明する。
本実施形態においては、歪み導入部材42として、圧電材料を用いている、よって能動的に制御された歪みを導入することができ、高密度か対応の磁気ヘッドを実現することができる。
【0053】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態に係る磁気ヘッドついて説明する。
図8は、第5の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
図8に示すように、本実施形態においては、歪み導入部材42と積層体19との間に絶縁材料45が設けられている。
【0054】
圧電材料は、絶縁特性としては、通常、素子10の絶縁材料として用いられているアモルファス構造の酸化シリコン(SiO)、アモルファス構造の酸化アルミニウム(Al)などと比較すると劣る材料もあるため、それらの一般的な絶縁材料を素子周囲に設けた後、1〜3nm程度を介してその外側に歪み導入部材42を接しさせる。歪み導入部材42と積層体19の間に、酸化シリコン(SiO)、酸化アルミニウム(Al)が接することになる。いずれにしても、歪導入部材42が、素子10の積層体19の二つの強磁性層11及び12に対して、磁化方向を制御するための、バイアス印加構造と考えることができる。つまり、従来のハードバイアスという、磁界によるバイアスで磁性層の磁化方向を制御していたのに対し、本実施形態においては、磁界を用いずに、歪みという別の物理量を用いることで、二つの強磁性層11及び12をそれぞれ異なる方向に磁化を向けることが可能となる。
【0055】
このように、二つの磁性層の磁化方向をそれぞれ別の方向に向けるバイアスは、磁界を用いたバイアス構造では非常に困難で複雑にならざるを得ず、実現が困難である。それに対し、本実施形態の手法では、スペーサ層を介した上下磁性層の磁歪極性を逆にし、かつ単一の極性の外部歪を印加することで、二つの強磁性層の磁化方向をそれぞれ異なる方向にバイアスすることが可能となる。
本実施形態に係る磁気ヘッドの効果は、上述のものと同様であるので省略する。
【0056】
(第6の実施形態)
次に、第6の実施形態に係る磁気ヘッドついて説明する。
図9は、第6の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
図9に示すように、本変形例においては、歪み導入部材42の配置される位置として、積層体19の積層方向を上下とした場合のABS面23及びABS面23の反対面以外の両側面とされている。そして、積層体19及び歪み導入部材42は積層体19の上下方向から上電極21及び下電極22によって挟まれる配置とされている。つまり、従来のハードバイアス膜の換わりに歪導入部材42を配置させることになる。圧電材料を用いることも可能である。このときの圧電材料の具体例は、前述の材料と同様である。
【0057】
必要に応じて、本実施形態の歪み印加によるバイアス方法に付加して、磁場によるハードバイアス膜も設けてより状況に応じた磁化バイアスを強磁性層11及び12に行うことも可能である。この場合、ハードバイアス層は磁場による場合と同じところに配置し、ABS面23からみてハードバイアス膜の左右の離れたところに歪み導入部材42を設けるという、ハイブリッドのバイアス構造が考えられる。
本実施形態に係る磁気ヘッドの効果は、上述のものと同様であるので省略する。
【0058】
(第7の実施形態)
次に、第7の実施形態に係る磁気ヘッドについて説明する。
図10は、第7の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
図10に示すように、本実施形態においては、歪み導入部材42が積層体19と下部電極22との間に挿入されている。なお、歪み導入部材42は、積層体19と上部電極21との間に挿入されてもよい。
図10の場合には、素子10の積層体19に電流を通電する電極と併用しているため、絶縁材料を用いることはできない。そのため、歪み導入部材42として圧電材料を用いることは適していない。
【0059】
次に、第7の実施形態に係る磁気ヘッドの動作について説明する。
本実施形態においては、磁気抵抗効果素子10に導入する歪みをより増大したい場合に、積層体19と電極の間に歪み導入部材42を挿入している。歪み導入部材42によって、素子固有の歪みが発生する。また、歪み導入部材42が外的要因として素子に歪みを引き起こす。歪み導入部材42が積層体19に積層されているので、面内方向の歪みをより多く導入することができる。
素子固有の歪み及び外的要因の歪みについては、第3の実施形態で述べたとおりであるので省略する。
【0060】
(第8の実施形態)
次に、第8の実施形態に係る磁気ヘッドについて説明する。
図11は、第8の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。第2の変形例と第3の変形例の違いは、第2の変形例においては歪み導入部材42の積層が1層であるのに対し、第3の変形例においては、1対の電極のそれぞれと積層体19との間に配置された2層であるということである。
【0061】
図11に示すように、第3の変形例においては、歪み導入部材42が積層体19と上部電極21との間及び積層体19と下部電極22との間に挿入されている。
図11の場合には、素子19に電流を通電する電極と併用しているため、絶縁材料を用いることはできない。そのため、歪導入部材42として圧電材料を用いることは適していない。
【0062】
次に、第8の実施形態に係る磁気ヘッドの動作について説明する。
第3の変形例においても、磁気抵抗効果素子に導入する歪みをより増大したい場合に、積層体19と1対の電極のそれぞれとの間に歪み導入部材42を挿入している。歪み導入部材42によって、素子固有の歪みが発生する。第2の変形例と異なり、第1及び第2の両方の磁性層に歪み導入部材42を接触させる。
素子固有の歪み及び外的要因の歪みについては、上述した通りである。
【0063】
(第9の実施形態)
次に、第9の実施形態に係る磁気ヘッドについて説明する。
図12は、第9の実施形態に係る磁気ヘッドを例示する斜視図である。
図12に示すように、本実施形態においては、磁気抵抗効果素子10が基板43a上に設けられている。すなわち、基板43a上に、下電極22が設けられ、下電極22上に積層体19が設けられている。積層体19上には、上電極21が設けられている。
【0064】
次に、第9の実施形態に係る磁気ヘッドの動作について説明する。
本実施形態においては、基板43a上に、磁気抵抗効果素子10が設けられている。基板43aを歪み導入部材42としてもよい。例えば、基板43a内部に歪みを導入した上で、基板43a上に磁気抵抗効果素子10を形成すれば、積層体19に歪みが導入される。
【0065】
次に、第9の実施形態に係る磁気ヘッドの効果について説明する。
第4の変形例においては、基板43aを歪み導入部材42とすることができるので、前述の第1〜第3の変形例のように、専用の歪み導入部材42を設ける必要がなく、磁気ヘッドを小型化することができる。
【0066】
(第10の実施形態)
次に、第10の実施形態について説明する。本実施形態は、磁気ヘッドジンバルアッセンブリについての実施形態である。
図13(a)及び(b)は、第10の実施形態に係る磁気ヘッドジンバルアッセンブリを例示する斜視図である。
図13(a)に示したように、ヘッドスタックアッセンブリ160は、軸受部157と、この軸受部157から延出した磁気ヘッドジンバルアッセンブリ158と、軸受部157から磁気ヘッドジンバルアッセンブリ158と反対方向に延出していると共にボイスコイルモータのコイル162を支持した支持フレーム161とを含んでいる。
【0067】
また、図13(b)に示すように、磁気ヘッドジンバルアッセンブリ158は、軸受部157から延出したアクチュエータアーム155と、アクチュエータアーム155から延出したサスペンション154と、を有している。サスペンション154の先端には、ヘッドスライダ3が取り付けられている。そして、ヘッドスライダ3には、実施形態に係る磁気ヘッドのいずれかが搭載される。すなわち、実施形態に係る磁気ヘッドジンバルアッセンブリ158は、実施形態に係る磁気ヘッドと、磁気ヘッドが搭載されたヘッドスライダ3と、ヘッドスライダ3を一端に搭載するサスペンション154と、サスペンション154の他端に接続されたアクチュエータアーム155とを含んでいる。サスペンション154は、信号の書き込み及び読み取り用、浮上量調整のためのヒーター用、及び、例えばスピントルク発振子用などのためのリード線(図示せず)を有する。これらのリード線と、ヘッドスライダ3に組み込まれた磁気ヘッドの各電極とが電気的に接続される。
【0068】
(第11の実施の形態)
図14は、第11の実施形態に係る磁気記録再生装置を例示する斜視図である。
図14に示したように、第11の実施形態に係る磁気記録再生装置150は、ロータリーアクチュエータを用いた形式の装置である。同図において、記録用媒体ディスク180は、スピンドルモータ4に装着され、図示しない駆動装置制御部からの制御信号に応答する図示しないモータにより矢印Aの方向に回転する。本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、複数の記録用媒体ディスク180を備えても良い。記録用媒体ディスク180に格納する情報の記録再生を行うヘッドスライダ3は、薄膜状のサスペンション154の先端に取り付けられている。ここで、ヘッドスライダ3の先端付近に、例えば、既に説明した実施形態に係る磁気ヘッドのいずれかが搭載される。
【0069】
記録用媒体ディスク180が回転すると、サスペンション154による押し付け圧力とヘッドスライダ3の媒体対向面(ABS)で発生する圧力とがつりあい、ヘッドスライダ3の媒体対向面は、記録用媒体ディスク180の表面から所定の浮上量をもって保持される。なお、ヘッドスライダ3が記録用媒体ディスク180と接触するいわゆる「接触走行型」としても良い。
【0070】
サスペンション154は、図示しない駆動コイルを保持するボビン部などを有するアクチュエータアーム155の一端に接続されている。アクチュエータアーム155の他端には、リニアモータの一種であるボイスコイルモータ156が設けられている。ボイスコイルモータ156は、アクチュエータアーム155のボビン部に巻き上げられた図示しない駆動コイルと、このコイルを挟み込むように対向して配置された永久磁石及び対向ヨークからなる磁気回路とを含むことができる。
【0071】
アクチュエータアーム155は、軸受部157の上下2箇所に設けられた図示しないボールベアリングによって保持され、ボイスコイルモータ156により回転摺動が自在にできるようになっている。その結果、磁気ヘッドを記録用媒体ディスク180の任意の位置に移動可能となる。
【0072】
また、磁気ヘッドを用いて磁気記録媒体への信号の書き込みと読み出しを行う信号処理部190が設けられる。信号処理部190は、磁気記録再生装置150の図面中の背面側に設けられる。信号処理部190の入出力線は、ヘッドスタックアセンブリ160の一部を構成する磁気ヘッドジンバルアッセンブリの電極パッドに接続され、磁気ヘッドと電気的に結合される。
【0073】
本実施形態に係る磁気記録再生装置150は、本発明の第1〜第3の実施形態の少なくともいずれかによって製造された上述の磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドを有するヘッドジンバルアッセンブリ158を用いているので、高MR変化率により、高い記録密度で磁気ディスク200に磁気的に記録された情報を確実に読み取ることが可能となる。
【0074】
(第12の実施形態)
次に、第12の実施形態について説明する。
本実施形態は、歪みセンサについての実施形態である。
図15は、第12の実施形態に係る歪みセンサを例示する断面図である。
【0075】
図15に示すように、本実施形態に係る歪みセンサにおいては、フレキシブル性基板43(flexible substrate)が設けられている。フレキシブル性基板43上に、下地層(priming layers)44が設けられている。下地層44は、種層(seed layers)(図示せず)、ピニング層(pinning layers)(図示せず)のような層との多層から構成されてもよい。これらのいくつかの層は、特定の薄膜構造によっては省かれる。下地層44を設けることによって、フレキシブル性基板43にとって必要とされない欠陥、例えば、表面荒さ(roughness)を抑制することができる。また、種層を設けることによって、磁性層/スペーサ層/磁性層の積層体を形成する上で重要な結晶方位を制御することができる。さらに、ピニング層を設けることによって、ピン層の磁化方向を固定することができる。下地層44は伝導体(conductive)であってもよい。
【0076】
下地層44上に下部電極22が設けられ、その上に、積層体19構造の磁気抵抗効果素子10が設けられている。磁気抵抗効果素子10は、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子と同様のもので、強磁性層11と強磁性層12と、強磁性層11と強磁性層12との間に設置されたスペーサ層13から構成される。強磁性層11と強磁性層12は、それぞれの磁性層の磁歪の極性が、正と負の異なる極性の磁歪係数を示す材料から構成されている。しかし、強磁性層11と強磁性層12は、反対の逆磁歪効果を示す。すなわち、強磁性層11または強磁性層12の一方は正の磁歪係数を有する強磁性層であり、他方は負の磁歪係数を有する強磁性層である。
【0077】
積層体19上に、上部電極21が設けられ、電流が積層体の積層方向に流れるCPP構造とされている。すなわち、センス電流は積層体を通して垂直に流れる。
磁気抵抗効果素子10を保護するため、及び、磁気抵抗効果素子10を他の部材から電気的に分離するために、磁気抵抗効果素子10は、周囲を絶縁物質45で覆われている。
【0078】
磁気抵抗効果素子10の強磁性層11及び12の異なる磁歪極性の材料として具体的な例を以下に列挙する。
一般的には、磁性層の磁歪は磁性層の組成により決定される。これらについては、多数の文献において一般的な傾向は調べられている。しかしながら、磁性層に隣接する材料に応じて、実際には磁歪も大きく影響を受ける。
【0079】
スペーサ層として酸化物材料を用いた場合(酸化マグネシウム(MgO)のようなトンネルバリア層や、CCP層)に、スペーサ層の界面にCoFeなどを含有する磁性層を用いた場合には、その界面の上下の磁性層1〜2nm近傍については一般的には正の磁歪を示す。それは、CoFeBO、CoO、NiO、FeOなどの磁性の酸化物層は正の磁歪係数を示す材料となるためである。次に、強磁性層11及び12で正、負の異なる磁歪を有するようにする。正の磁歪の強磁性層を形成することは比較的容易である。そこで、負の磁歪を形成するためには、上記正の磁歪を有する酸化物層の界面層に対して、負の大きな磁歪を有する磁性層を積層することで、その磁性層トータルとして、負の磁歪の磁性層を形成することができる。負の大きな磁歪は、ニッケル(Ni)リッチの合金を用いることで対応できる。Ni、NiFe合金(Niが85atomic%以上)、SmFeなどがあげられる。磁性材料が複数層形成された場合には、磁気的に一体となって動く磁性層である場合には、その磁性層中のトータルの積層膜構成によって、その磁性層の磁歪は決定される(一方、非磁性スペーサ層を介したもう一方の磁性層に関しては、磁気的には別の磁性層として機能するため、磁歪も別の値として定義される)。
【0080】
強磁性層11/スペーサ層13/強磁性層12の積層膜構成の具体例としては、Co90Fe10/CoFeB/MgO/CoFeB/Ni95Feの積層膜で膜厚がそれぞれ2nm/1nm/1.5nm/1nm/2nmであるものがあげられる。ここで、Co90Fe10/CoFeB層が一つの強磁性層として機能する正の磁歪を示す磁性層であり、CoFeB/Ni95Fe層が一つの磁性層として機能する負の磁歪を示す磁性層となる。MgO層がスペーサ層である。
【0081】
次に、第12の実施形態に係る歪みセンサの動作について説明する。
図16及び図17は、第12の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する断面図である。
図16に示すように、フレキシブル性基板43に上向きの応力48が付加された場合には、フレキシブル性基板43は外側へ丸く出っ張り、その結果、フレキシブル性基板43に固定された磁気抵抗効果素子10に対して引っ張り歪み49が付加される。
一方、図17に示すように、フレキシブル性基板43に下向きの応力51が付加された場合には、フレキシブル性基板43は内側へ折れ曲がり、その結果、素子10に対して、圧縮歪み52が付加される。
【0082】
図18(a)及び(b)は、第5の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は、引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は圧縮歪みを付加した場合を示す。
なお、図18(a)及び(b)は、磁気抵抗効果素子10の2枚の強磁性層のみを示している。
上述したように、第3の実施形態に係る歪みセンサには、積層体19が設置され、積層体19には、強磁性層11と強磁性層12を含んでいる。
【0083】
図18(a)及び(b)に示すように、磁気抵抗効果素子10において、2層の強磁性層のうち、上層を正の磁歪係数を示す強磁性層11、下層を負の磁歪係数を示す強磁性層12とする。また、歪みを付加する前は、強磁性層11及び12の磁化方向65及び66は平行であるとする。すなわち、素子10の抵抗状態は低抵抗状態である。そして、図13(a)に示すように、素子に対して、磁化方向65及び66と同じ方向の引っ張り歪み63を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は変化しないが、強磁性層12の磁化方向66は、引っ張り歪みに直交する磁化方向67に変化する。その結果、2つの強磁性層の磁化方向は互いに直交する方向となる。そして、素子10の抵抗状態が中間の抵抗状態に変化する。
【0084】
また、図18(b)に示すように、素子10に対して、磁化方向65及び66と同じ方向の圧縮歪み68を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は、圧縮歪みに直交する磁化方向70に変化するが、強磁性層12の磁化方向66は変化しない。その結果、2つの強磁性層の磁化方向は互いに直交する方向となる。そして、素子10の抵抗状態が中間の抵抗状態に変化する。
【0085】
次に、上記歪みセンサによる歪みの大きさの検出方法について説明する。
まず、歪みを検出したい場所に、歪みセンサを設置する。歪みセンサに歪みが付加される前は、強磁性層11及び強磁性層12の磁化方向は平行であるとする。そして、電極20及び21間にセンス電流を流して、積層体19の抵抗状態を判定する。前述したように、歪みセンサに歪みが付加されない限り、積層体19の抵抗状態は、低抵抗状態となる。
次に、中間の抵抗状態になったとする。その場合は、積層体19の強磁性層11の磁化方向と強磁性層12の磁化方向とが直交するように変化したものと判定することができる。すなわち、基板43には、強磁性層11の磁化方向と強磁性層12の磁化方向とが直交する程度の歪みが付加されたと判定することができる。強磁性層11の磁化方向と強磁性層12の磁化方向とのなす角度によって抵抗状態は変化する。したがって、あらかじめ、抵抗状態と基板43の歪み量を他の方法で対応づけておけば、センス電流の大きさを観察することによって、基板43に付加された歪み量を検出することができる。
【0086】
図18においては、引っ張り歪み及び圧縮歪みを付加する方向を、強磁性層の磁化方向と同じ方向としたが、これに限られない。
付加される歪みの方向は磁気抵抗効果素子10の機能の発揮にとって重要ではない。任意の方向の歪みにおいても抵抗状態の変化はあるからである。
【0087】
図19(a)、(b)及び(c)は、第3の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は任意の方向から引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は任意の方向から圧縮歪みを付加した場合を示し、(c)は歪みを付加する前の2つの強磁性層の磁化方向が反平行である時の圧縮歪みを付加した場合を示す。
図19(a)に示すように、素子10に対して、強磁性層11及び強磁性層12の磁化方向に対して任意の角度をもつ引っ張り歪み71を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は引っ張り歪みの方向にそろうように回転して磁化方向73に変化し、強磁性層12の磁化方向66は引っ張り歪みの方向に直交するように回転して磁化方向74に変化する。その結果、2つの強磁性層の磁化方向は互いに直交する方向となる。そして、素子10の抵抗状態が中間の抵抗状態に変化する。
【0088】
また、図19(b)に示すように、素子10に対して、強磁性層11及び強磁性層12の磁化方向に対して任意の角度をもつ圧縮歪み75を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は圧縮歪みの方向に直交するように回転し磁化方向77に変化し、強磁性層12の磁化方向66は圧縮歪みにそろう方向に回転して磁化方向78に変化する。その結果、2つの強磁性層の磁化方向はお互いに直交する方向となる。そして、素子10の抵抗状態が中間の抵抗状態に変化する。
このように、任意の方向の歪みにおいても、素子10の抵抗状態が変化し、歪みの大きさを検知することができる。
【0089】
また、歪みを付加する前の2つの強磁性層の磁化方向の初期状態が反平行である時でも、基板43の歪みを検知することができる。
図19(c)に示すように、初期の強磁性層11及び強磁性層12の磁化方向79及び80が反平行である。すなわち、素子10の抵抗状態は高抵抗状態である。そして、任意の角度の圧縮歪み81によって、磁化方向79及び80がそれぞれ圧縮歪みに直交する方向及びそろう方向に回転して磁化方向83及び84に変化する。その結果、2つの強磁性層の磁化方向はお互いに直交する方向となる。そして、素子10の抵抗状態が中間の抵抗状態に変化する。このように、初期の強磁性層の磁化方向は、磁気抵抗効果素子10の機能を発揮する上で重要ではない。
【0090】
次に、第12の実施形態に係る歪みセンサの効果について説明する。
本実施形態に係る歪みセンサは、引っ張り歪み及び圧縮歪みのいずれの歪みも検知することができる。また、歪みセンサの磁気抵抗効果素子10の磁化方向に対して任意の角度の歪みでも検知することができる。また、磁気抵抗効果素子の初期の磁化方向に関係なく、歪みを検知することができ、強磁性層の材料の選択肢を拡げることができる。よって、本実施形態に係る歪みセンサは1つで上述のような歪みを検知することができるので、小型化を図ることができる。
【0091】
(第12の実施形態の変形例)
次に、第12の実施形態の変形例に係る歪みセンサについて説明する。
図20は、第12の実施形態に係る歪みセンサの変形例を例示する断面図である。
図20に示すように、変形例においては、電極46、47が積層体19をはさむ両側面に設けられている。したがって、センス電流は積層体の面内方向に流れる。本実施形態においては、素子は、上方から絶縁材料によって覆われている。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第3の実施形態と同様である。
【0092】
(第13の実施形態)
次に、第13の実施形態に係る歪みセンサについて説明する。
図21は、第13の実施形態に係る歪みセンサを例示する平面図である。
図21に示すように、本実施形態に係る歪みセンサは、少なくとも2つの磁気抵抗効果素子A、Bから構成される。2つの素子A、Bは、円形形状をしたメンブレン(membrane)85上の2箇所に形成されている。その形成位置は、円形形状の中心から2箇所の固定位置までの距離が等しく、円形形状の中心から2箇所の固定位置へ向かう方向がなす角度が90°であるように設けられている。すなわち、図21に示すように、一方の素子Aが、円形状のメンブレン85を上から見て時計の3時の位置86に設けられ、もう一方の素子Bが6時の位置87に設けられている。
【0093】
本実施形態において、基板43の材料は、例えば曲がりやすいように薄くエッチングされたシリコンである。基板43には、フレキシブル性を有し、積層体19が固定されるメンブレン85と、メンブレン85を支持する支持部とが設けられている。しかしながら、フレキシブル性を有するメンブレン85と、支持部とを設けることができれば、後述するようなシリコン以外のフレキシブル性基板を使用することができる。そのような材料は、ABS樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンプロピレン系ゴム(ethylene-propylene-based rubber)、ポリアミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンジミダゾル(polybenzimidazole)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト、ポリエチン、PEEK、ポリエーテルイミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、m−フェニルエーテル、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、パラアラミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアル.コキシ、FEP、ETFE、ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、メラミン-ホルムアルデヒド、液晶ポリマー、尿素ホルムアルデヒド等があげられる。
メンブレン85の周囲にはコントローラ88が設けられ、コントローラ88と素子A、Bが電気的に接続されている。コントローラ88によって、素子A、Bの抵抗状態が測定される。
【0094】
次に、第13の実施形態に係る歪みセンサの動作について説明する。
図22(a)〜(d)は、第13の実施形態に係る歪みセンサの動作を例示する図であり、(a)は、素子Aに圧縮歪みを付加した場合を示し、(b)は、素子Aに引っ張り歪みを付加した場合を示し、(c)は、素子Bに圧縮歪みを付加した場合を示し、(d)は、素子Bに引っ張り歪みを付加した場合を示す。
【0095】
図21に示すような円形状のメンブレン85の位置86及び87に形成される歪みは、ほぼ環状であると推定される。その結果、2つの素子A、Bに付加される歪みの方向はお互いに直交する。
図22(a)及び(c)に示すように、メンブレン85上の素子A、Bに圧縮歪み89、91が付加されると、一方の素子Bの正の磁歪係数を示す強磁性層11の磁化方向65は圧縮歪みに直交する方向93に回転する。もう一方の素子Aの負の磁歪係数を示す強磁性層12の磁化方向66はそれと反対方向94に回転する。したがって、素子A及びBの抵抗状態はともに中間の抵抗状態となる。
【0096】
一方、引っ張り歪みがかけられる場合は逆の反応が起こる。すなわち、図22(b)及び(d)に示すように、メンブレン85上の素子A、Bに引っ張り歪み90、92が付加されると、一方の素子Aの正の磁歪係数を示す強磁性層11の磁化方向65は引っ張り歪みにそろう方向96に回転する。もう一方の素子Bの負の磁歪係数を示す強磁性層12の磁化方向66はそれと反対方向95に回転する。したがって、素子A及びBの抵抗状態はともに中間の抵抗状態となる。
【0097】
次に第13の実施形態に係る歪みセンサの効果について説明する。
本実施形態に係る圧力センサは、圧縮及び引っ張りの両方の歪みに反応することができる。よって、小型化を図ることができる歪みセンサを提供することができる。また、メンブレンを外部圧力を検知できるようにしておくことで、圧力センサとして機能する。
【0098】
(第14の実施形態)
次に、第14の実施形態に係る歪みセンサについて説明する。
図23は、第14の実施形態に係る歪みセンサを例示する斜視図であり、図24は、第7の実施形態に係る歪みセンサにおける磁気抵抗効果素子を例示する図である。
【0099】
図23に示すように、第14の実施形態に係る歪みセンサにおいては、フレキシブル性基板107上に、複数の磁気抵抗効果素子10が設けられている。
ここで、フレキシブル性基板107は、上面から見て非対称に撓むことができるフレキシブル性の薄膜またはフレキシブル性のシートから構成されてもよい。フレキシブル性基板107は、周辺部において支持部で支持されてもよい。これらの基板は曲げられる材料、例えばポリマーが主成分とした材料から構成される。そのような材料は、ABS樹脂、シクロオレフィン系樹脂、エチレンプロピレン系ゴム(ethylene-propylene-based rubber)、ポリアミド、ポリアミドイミド樹脂、ポリベンジミダゾル(polybenzimidazole)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネイト、ポリエチン、PEEK、ポリエーテルイミド、ポリエチレンイミン、ポリエチレンナフタレート、ポリエステル、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルペンテン、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、m−フェニルエーテル、ポリ(パラフェニレンスルフィド)、パラアラミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ペルフルオロアル.コキシ、FEP、ETFE、ポリエチレンクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、メラミン-ホルムアルデヒド、液晶ポリマー、尿素ホルムアルデヒド等があげられる。
【0100】
図23に示すように、フレキシブル性基板107上には、ある一方向に延びた複数本のワード線108と、ワード線の延びた方向と直角に交差する方向に延びた複数本のビット線109が設けられている。
また、フレキシブル性基板107上には、磁気抵抗効果素子10を構成する積層体19が複数個固定されている。そして、積層体19は、複数本のワード線108のそれぞれと複数本のビット線109のそれぞれとの間に接続されている。ワード線108及びビット線109はそれぞれコントローラ88に電気的に接続されている。
【0101】
図24は、第14の実施形態に係る歪みセンサにおける磁気抵抗効果素子を例示する断面図である。
図24に示すように、磁気抵抗効果素子10の上電極21には、ワード線108が接続され、下電極22には、ビット線109が接続されている。本実施形態においては、センス電流は、積層体19の積層方向に流れる。
【0102】
次に、第14の実施形態に係る歪みセンサの動作について説明する。
第14の実施形態に係る歪みセンサにおいては、コントローラ88を用いて、フレキシブル性基板107の測定すべき位置にある素子10に接続したワード線108及びビット線109を選択し、選択したワード線108及びビット線109を通じてセンス電流を流すことにより、素子10の抵抗状態を測定する。それによって、素子10が位置する場所に生じている歪みの大きさを検出する。
【0103】
次に、第14の実施形態に係る歪みセンサの効果について説明する。
本実施形態に係る歪みセンサにおいては、フレキシブル性基板107上に複数個の磁気抵抗効果素子10が設けられている。そして、磁気抵抗効果素子10が設けられた箇所の局所的な歪みを検知することができる。よって、小型化可能な素子10を設けることによって、歪みセンサを小型化することができる。
【0104】
このような構成は、歪が発生する場所に正確には歪センサを配置できない場合に、非常に有用である。例えば、後述する日常生活で使用する血圧センサとして使用する場合にも非常に有用である。日常生活で使用する血圧センサにおいては、毎日センサのつけはずしを行うことになるが、脈の正確な位置に小さなセンサを貼り付けることは容易ではない。しかしながら、このような絆創膏サイズぐらいのセンサアレイであれば、そのアレイを脈の上に貼り付けることは比較的容易である。この場合、アレイ上のいずれかのセンサでは脈を検知することが可能となるので、日常的に血圧を検知するような、測定が非常に困難な用途にも用いることが可能となる。
【0105】
(第15の実施形態)
次に、第15の実施形態について説明する。
本実施形態は、磁気抵抗効果素子についての実施形態である。
上述したように、第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子10を用いた歪みセンサにおいては、引っ張り及び圧縮の両方の歪みの大きさを検出することができる。しかし、歪みが引っ張りか圧縮かを区別することが容易ではない。
第15の実施形態においては、3番目の磁性層を加え、2つのスピンバルブ膜を含む磁気抵抗効果素子とすることによって上述した問題を解決する。
【0106】
図25は、第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子を例示する斜視図である。
図25に示すように、磁気抵抗効果素子110は第3の強磁性層97が設けられている。すなわち、強磁性層11と強磁性層12との間にスペーサ層13が設けられ、強磁性層12と第3の強磁性層97との間に第2のスペーサ層98が設けられた積層体99の構造とされている。第3の強磁性層97は、ピン層として機能する。すなわち、ピン層は、歪みが導入されても磁化方向が回転しない層(pinned reference layer)として機能する。
【0107】
次に、第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の動作について説明する。
図26(a)及び(b)は、第6の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の積層体を例示する図であり、(a)は、引っ張り歪みを付加した場合を示し、(b)は、圧縮歪みを付加した場合を示す。
図26(a)及び(b)に示すように、磁気抵抗効果素子110において、3層の強磁性層のうち、上層を正の磁歪係数を示す強磁性層11、中層を負の磁歪係数を示す強磁性層12、下層はピン層97とする。また、歪みを付加する前は、強磁性層11、12及びピン層97の磁化方向65、66及び100は互いに平行であるとする。したがって、歪みを付加する前は、素子110の抵抗状態は、低抵抗状態である。
【0108】
図26(a)に示すように、素子110に対して、磁化方向65、66及び100と同じ方向の引っ張り歪み101を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は変化しないが、強磁性層12の磁化方向66は、引っ張り歪み101に直交する磁化方向103に変化する。その結果、強磁性層11と強磁性層12との間の抵抗状態は中間の抵抗状態となり、強磁性層12とピン層97との間の抵抗状態は中間の抵抗状態となり、全体として、素子110の抵抗状態は高抵抗状態に変化する。
【0109】
また、図26(b)に示すように、素子110に対して、磁化方向65、66及び100と同じ方向の圧縮歪み104を付加すると、強磁性層11の磁化方向65は、圧縮歪みに直交する磁化方向106に変化するが、強磁性層12の磁化方向66は変化しない。その結果、強磁性層11と強磁性層12との間の抵抗状態は中間の抵抗状態となり、強磁性層12と強磁性層97との間の抵抗状態は低抵抗状態のままであり、全体として、素子110の抵抗状態は中間の抵抗状態に変化する。
図26においては、引っ張り歪み及び圧縮歪みを付加する方向を、強磁性層の磁化方向と同じ方向としたが、これに限られない。重要な点は、引っ張り及び圧縮の2つのタイプの歪みのもとでは、フリー層の磁化方向は、反対方向に回転するものを有するということである。
【0110】
本実施形態においては、スペーサ層が2層設置されている。そのうちの1つのスペーサ層13は、2つの強磁性層における磁化方向の相対角度に依存し、もう一つのスペーサ層98は、強磁性層12とピン層97における磁化方向の相対角度に依存する。したがって、引っ張り及び圧縮の2つの歪みによる効果の間に差異が生じる。
図26(a)及び(b)に示すように、ある方向においては、引っ張り歪みの場合に抵抗状態が高抵抗状態を示すようにすることができ、また他の方向においては、圧縮歪みの場合に抵抗状態が高抵抗状態を示すようにすることができる。
【0111】
次に、第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子の効果について説明する。
本実施形態に係る磁気抵抗効果素子においては、3番目の強磁性層を加え、2つのスピンバルブを含む磁気抵抗効果素子110とすることによって、付加された歪みが引っ張り歪みか圧縮歪みかを区別することができる。これにより、小型で且つ歪みの極性を区別できる磁気抵抗効果素子を実現することができる。本実施形態における上記以外の構成、動作及び効果は、前述の第1の実施形態と同様である。
【0112】
(第16の実施形態)
次に、第16の実施形態について説明する。
本実施形態は、血圧計についての実施形態である。
本実施形態においては、第12〜第15のいずれかの実施形態に係る歪みセンサを、血圧センサに適用する。
図27は、第16の実施形態に係る血圧センサを例示する断面図である。
図27に示すように、血圧センサ210は、血圧測定部位に設けられ、皮膚表面213に接着するために絆創膏211のような形状の一部に設けられている。すなわち、皮膚上に接するように、血圧センサ210が配置されている。血圧センサ210は、動脈血管が存在しているような皮膚の直下に配置される。紙面に垂直方向が血流方向である。血流方向とは、血管が延在するする方向を示す。皮膚表面の近傍に動脈血管が存在しなければ、血圧測定が難しくなる。体表から脈動を検知できる部位(および体表下にある動脈)は、以下の通りである。
【0113】
内側上腕二頭筋溝(上腕動脈)、前腕外側下端で橈側手根屈筋腱と腕橈骨筋腱との間(橈骨動脈)、前腕内側下端で尺側手根屈筋腱と浅指屈筋腱との間(尺骨動脈)、長母指伸筋腱の尺側(第1背側中手動脈)、腋窩(腋窩動脈)、大腿三角部(大腿動脈)、下腿前面の下部で前脛骨筋腱の外側(前脛骨動脈)、内果の後下部(後脛骨動脈)、長母指伸筋腱の外側(足背動脈)、頚動脈三角(総頚動脈)、咬筋停止部の前(顔面動脈)、胸鎖乳突筋停止部の後ろで僧帽筋起始部との間(後頭動脈)、外耳孔の前(浅側頭動脈)。よって、血圧センサ210を配置する箇所は、上記の部位となる。すなわち、これらが血圧測定部位に相当する。血圧センサ210はこれらの箇所の皮膚表面に貼り付ける。
次に、第16の実施形態に係る血圧センサの動作について説明する。
図27に示すように、血管212が径方向に対して拡張すると、皮膚が押し上げられ血圧214として働く。このとき、血圧214が働く方向に対して垂直方向に皮膚は、引っ張り応力215を受ける。それと同時に血圧センサ210にも引っ張り応力215がある一方向に働く。
【0114】
図28は、第16の実施形態に係る血圧センサを例示する図である。
図28に示すように、血圧センサ210を用いて、被測定者230の血圧が測定される。血圧センサ210は、血圧測定部位、例えば手首に貼り付けられている。
血圧センサ210への給電方法としては、小型の電池を用いることができる。また、無線250による給電を採用することもできる。
血圧センサ210のデータを蓄積する方法としては、無線250による送信、携帯電話240、パーソナルコンピュータ260及び腕時計等に蓄積することができる。
【0115】
次に、第16の実施形態に係る血圧センサの効果について説明する。
本実施形態に係る血圧センサ210は、高密度化対応の磁気抵抗効果素子10または110を組み込んでいるので小型化することができる。よって、どこにでも持ち歩けるユビキタスな健康モニター機器(ubiquitous health monitoring devices)とすることができる。そのようにして、人間または動物の血圧値をモニターすることができる。
【0116】
(第17の実施形態)
次に、第17の実施形態について説明する。
本実施形態は、血圧測定システムについての実施形態である。
図29は、第17の実施形態に係る血圧測定システムを例示する図である。
図29に示すように、本実施形態に係る血圧測定システムには、血圧センサ210と電子機器510が設けられている。血圧センサ210は、被測定者の血圧測定部位に装着されている。ここでは、血圧測定部位を手首として図示している。電子機器510とは、例えばテレビ、携帯電話機、医療用のデータベース及びパーソナルコンピュータがあげられる。
【0117】
血圧センサ210は、内部に処理部520が設けられている。
処理部520は、血圧センサ210を制御する第1の制御部530と、第1の制御部530からの情報を外部に送信する送信部540と、外部からの情報を受信して第1の制御部530に送る第2の受信部550とが設けられている。なお、情報とは、例えば血圧値のデータ、電気抵抗変化率のデータ、電気抵抗値のデータをいう。
電子機器510は、受信部560と第2の制御部570と、計算部580と、第2の送信部590と、データベース(以下「DB1」という。)が設けられている。
受信部560は、送信部550から送信された情報を受信して第2の制御部570に送信する。
【0118】
第2の制御部570は、受信部560から受信した情報を計算部580に送信、第2の送信部590に送信、又はDB1に情報をデータとして格納する。
計算部580は、第2の制御部570から送られてきた情報を計算する。
なお、送信部540と受信部560との間での情報のやりとり、及び第2の送信部590と受信部550との間での情報のやりとりは無線通信又は有線通信である。
【0119】
次に、第17の実施形態に係る血圧測定システムの動作について説明する。
図30は、血圧測定システムの動作を例示するフローチャート図である。
図30に示すように、ステップS10では、第1の制御部530が血圧センサ210に血圧測定部位における電気抵抗変化量を測定するように指示する。このとき、血圧センサ210に設けられた全ての磁気抵抗効果素子における電気抵抗変化量を測定する。
次に、ステップS20では、第1の制御部530が、測定したい血圧測定部位における磁気抵抗効果素子(MR素子)を把握選択する。そして、ステップS30では、選択したMR素子で電気抵抗を測定する。次に、ステップS40では、測定した電気抵抗値を送信部540が電子機器510の受信部に送信する。第2の制御部570は、受信部560が受信した電気抵抗値をデータベースDB1に格納する。そして、ステップS50では、第2の制御部は、受信部560が受信した電気抵抗値を計算部580に送信する。計算部580は、電気抵抗値を血圧値に変換する。
【0120】
次に、第17の実施形態に係る血圧測定システムの効果について説明する。
本実施形態に係る血圧測定システムには、高密度化可能な磁気抵抗効果素子を含んでいるので、小型化することができる。よって、どこにでも持ち歩けるユビキタスな健康モニター機器(ubiquitous health monitoring devices)とすることができる。
【0121】
(第18の実施形態)
次に、第18の実施形態について説明する。
本実施形態は、気圧計についての実施形態である。
本実施形態においては、上述した第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子110を組み込んだ歪みセンサを気圧計に適用する。第15の実施形態に係る磁気抵抗効果素子110が設けられた歪みセンサは、引っ張り歪みと圧縮歪みを区別することができる。また、小型化することもできる。例えば、この歪みセンサを組み込んだ本実施形態に係る気圧計は、小型なので、飛行機の翼の表面または裏面に設けることができる。また、この気圧計は、負圧と正圧を区別することができるため、翼の表面または裏面に生じる気圧の変化を正確に計測することができ、飛行機の失速(stall)やきりもみ(spin)の始まりを知ることができる。
【0122】
(第19の実施形態)
次に第19の実施形態について説明する。
本実施形態は、構造物ヘルスモニタセンサについての実施形態である。
図31及び図32は、第19の実施形態に係る構造物ヘルスモニタセンサを例示する図である。
図31に示すように、構造物ヘルスモニタセンサ600は、吊り橋における橋桁610の一面に多数設けられている。
また、図32に示すように、構造物ヘルスモニタセンサ600は、ビルの外壁620一面に多数設けられている。本実施形態に係る構造物ヘルスモニタセンサ600には、第12〜15の実施形態に係る歪みセンサが用いられている。定期的に構造物ヘルスモニタセンサ600により、橋桁610及びビルの外壁620に初期状態とは異なる歪みが発生しているかどうかを容易にチェックすることができる。
【0123】
以上説明した実施形態によれば、高密度化対応の磁気抵抗効果素子、磁気ヘッドアッセンブリ、歪みセンサ、圧力センサ、血圧センサ及び構造物ヘルスモニタセンサを提供することができる。
【0124】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0125】
3:ヘッドスライダ、4:スピンドールモータ、10:磁気抵抗効果素子、11:第1の強磁性層、12:第2の強磁性層、13:スペーサ層、14、15、17a、17b、18a、18b、25、26、28、29、31、32、34、35、37、38、40、41、65、66、67、70、73、74、77、78、79、80、83、84、100、103:磁化方向、16、24、33、49、71、101:引っ張り歪み、19:積層体、20:磁気ヘッド、21:上電極、22:下電極、23:ABS面、27、30、36、39:外部磁場、34、95、96:方向、42:歪み導入部材、43a:基板、43、107:フレキシブル性基板、44:下地層、絶縁物質:45、46、47:電極、48、51:応力、16a、52、68、75、90、92、104:圧縮歪み、85:メンブレン、86、87:位置、88:コントローラ、97:第3の磁性層、98:第2のスペーサ層、99積層体、108:ワード線、109:ビット線、110磁化抵抗効果素子、150:磁気記録再生装置、154:サスペンション、155:アクチュエータアーム、156:ボイスコイルモータ、157:軸受部、158:ヘッドジンバルアッセンブリ、160:ヘッドスタックアッセンブリ、161:フレーム、162:コイル、180:磁気記録再生装置、190:信号処理部、199a、199b、196c:電極、210:血圧センサ、211:絆創膏、212:血管、213:皮膚、214:血圧、215:引っ張り応力、216:骨、230:被測定者、240:携帯電話、250:無線送信送電、260:パーソナルコンピュータ、301:外部磁界、302:直線、510:電子機器、520:処理部、530:第1の制御部、540:送信部、550、560:受信部、570:第2の制御部、580:計算部、590:第2の送信部、600:構造物ヘルスモニタセンサ、610:橋桁、620:ビルの外壁、DB1:データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に積層された積層体であって、
鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含む第1の磁性層と、
前記第1の磁性層に積層され、前記第1の磁性層の組成とは異なる第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に配置されたスペーサ層と、
を有する積層体と、
前記積層体に電流を流す1対の第1の電極と、
前記積層体の近傍に設けられ、前記積層体に歪みが印加されることで、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の磁化方向がそれぞれ異なる方向にバイアスされるよう前記積層体に歪みを印加する歪み導入部材と、
前記歪み導入部材に電圧を印加するための第2の電極と、
を備え、
外部磁界が印加されることで、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層の磁化方向がともに変化し、
前記磁化方向の変化により、前記第1の電極間の抵抗が変化することで外部磁界を検出することを特徴とする磁気抵抗効果素子。
【請求項2】
前記第1の磁性層は正の磁歪係数を有し、前記第2の磁性層は負の磁歪係数を有することを特徴とする請求項1記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項3】
前記歪み導入部材は、前記積層体の膜断面横に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項4】
前記歪み導入部材は、結晶酸化シリコン(SiO)、酸化亜鉛(ZnO)、KaC、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr、Ti)O)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ホウ酸リチウム(Li)、ランガサイト(LaGaSiO14)、窒化アルミニウム(AlN)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、リン酸ガリウム(GaPO)及びトルマリンからなる群より選択された1種の材料を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項5】
前記歪み導入部材が、前記積層体に直接に接しているか、またはアモルファスSiO若しくはアモルファスAlからなる絶縁材料を介して接していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項6】
前記積層体に歪みを印加するために、外部磁界が印加される方向からみて、歪み導入部材の略45度または略135度に電極が設けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項7】
前記第1の磁性層は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種の金属の酸化物を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項8】
前記第2の磁性層は、ニッケル及びサマリウム鉄(SmFe)からなる群より選択された1種以上の金属を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項9】
前記スペーサ層は、アルミニウム、チタン、亜鉛、シリコン、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、クロム、マグネシウム及びジルコニウムからなる群より選択された1種の金属の酸化物または窒化物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の磁気抵抗効果素子を備えたことを特徴とする磁気ヘッドジンバルアッセンブリ。
【請求項11】
請求項10記載の磁気ヘッドジンバルアッセンブリと、
前記磁気ヘッドジンバルアッセンブリに搭載され、前記磁気抵抗効果素子を含む磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを用いて情報が再生される磁気記録媒体と、
を備えたことを特徴とする磁気記録再生装置。
【請求項12】
基板と、
前記基板上に固定された積層体であって、
鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含む第1の磁性層と、
前記第1の磁性層に積層され、前記第1の磁性層の組成とは異なる第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に配置されたスペーサ層と、
を有する積層体と、
前記積層体に電流を流す1対の電極と、
を備え、
前記積層体に印加された外部歪みによって、前記第1の磁性層及び前記第2の磁性層がともに磁化回転し、
前記第1の磁性層および第2の磁性層の磁化回転に伴う前記電極間の抵抗変化によって、外部歪みを検出することを特徴とする歪みセンサ。
【請求項13】
前記第1の磁性層は正の磁歪係数を有し、前記第2の磁性層は負の磁歪係数を有することを特徴とする請求項12記載の歪みセンサ。
【請求項14】
外部歪みが印加されていない状態において、前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向とは、平行または反平行であることを特徴とする請求項12または13に記載の歪みセンサ。
【請求項15】
前記第1の磁性層は、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択された1種以上の金属を含む酸化物層を有することを特徴とする請求項12〜14のいずれか1つに記載の歪みセンサ。
【請求項16】
前記第2の磁性層は、ニッケル及びサマリウム鉄(SmFe)からなる群より選択された1種以上の金属を含有することを特徴とする請求項12〜15のいずれか1つに記載の歪みセンサ。
【請求項17】
前記スペーサ層は、アルミニウム、チタン、亜鉛、シリコン、ハフニウム、タンタル、モリブデン、タングステン、ニオブ、クロム、マグネシウム及びジルコニウムからなる群より選択された1種の金属の酸化物または窒化物を含むことを特徴とする請求項12〜16のいずれか1つに記載の歪センサ。
【請求項18】
前記第2の磁性層の前記第1の磁性層が積層されている面の反対面上、または、前記第1の磁性層の前記第2の磁性層が積層されている面の反対面上に、磁化方向が一方向に固着された第3の磁性層をさらに備え、
前記第2の磁性層と前記第3の磁性層との間、または、前記第1の磁性層と前記第3の磁性層との間に配置された他のスペーサ層をさらに備えたことを特徴とする、請求項12〜17いずれか1つに記載の歪みセンサ。
【請求項19】
前記基板は、
フレキシブル性を有し、前記積層体が固定されたメンブレンと、
前記メンブレンを支持する支持部と、
を有することを特徴とする請求項12〜18のいずれか1つに記載の歪みセンサ。
【請求項20】
第1方向に延びる複数本のワード線と、
前記第1方向に対して交差する第2方向に延びる複数本のビット線と、
をさらに備え、
前記積層体は、複数設けられており、前記複数本のワード線のそれぞれと前記複数本のビット線のそれぞれとの間に接続されていることを特徴とする請求項12〜19のいずれか1つに記載の歪みセンサ。
【請求項21】
請求項19記載の歪みセンサを有し、
外部圧力による前記メンブレンの歪みを検知することで、前記外部圧力を検知することを特徴とする圧力センサ。
【請求項22】
請求項12〜20のいずれか1つに記載の歪みセンサを有し、
人間または動物の血圧値をモニターすることを特徴とする血圧センサ。
【請求項23】
請求項12〜20のいずれか1つに記載の歪みセンサを有し、
橋またはビルの構造物の歪み状態をモニタする構造物の状態観測を行うことを特徴とする構造物ヘルスモニタセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【公開番号】特開2012−204479(P2012−204479A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66017(P2011−66017)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】