説明

磁気計測装置、及びAD変換装置

【課題】複数の磁気センサを有した磁気計測装置におけるΔΣ型ADCの回路規模を抑制する。
【解決手段】ΔΣ変調器22は、複数の磁気センサ8のうち所定の入力切換周期で切り換えて選択される1つからのセンサ信号を入力されΔΣ変調する。デジタルフィルタ24は、ΔΣ変調器22にて周期Tでオーバーサンプリングされたデータに基づいて計測データを生成する。デジタルフィルタ24はカウンタ34を有する。カウンタ34は、選択された磁気センサ8について、周期T毎に入力されるデータを累積加算して計測データを生成して出力し、次に選択される磁気センサ8に対しては前回の磁気センサ8についての計数値をリセットして新たな累積加算を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気計測装置、及び磁気センサにより得られるセンサ信号を計測データに変換するAD変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
AD変換器(Analog-to-Digital Convertor:ADC)として、ΔΣ変調型のものが知られている。ΔΣ型ADCは、互いに直列に接続されたΔΣ変調器とデジタルフィルタとを有する。ΔΣ変調器は入力されたアナログ信号を目的のサンプリング周波数fより十分に高い周波数fOSでサンプリング (オーバーサンプリング) し、例えば、1ビットのデータ列を生成する。その際に生じる量子化誤差は、ΔΣ変調器のノイズシェーピング機能により高周波帯域へシフトされる。この高周波帯域への量子化雑音のシフトにより、入力アナログ信号の帯域が包含される低周波帯域では量子化雑音が少なくなる。
【0003】
デジタルフィルタは、ローパスフィルタとしての機能を有し、高周波帯域を除去することで量子化雑音を低減する。例えば、このローパスフィルタの機能は移動平均処理によって行われる。また、デジタルフィルタは、データレートをオーバーサンプリング周波数fOSから目的のサンプリング周波数fまで落とす処理を行う。
【0004】
例えば、入力アナログ信号がオーディオ信号である場合、ナイキスト周波数を可聴帯域の上限に応じて設定するため、周波数fは32〜48kHz程度となる。そのため、周波数fに対応する周期ξが、ローパスフィルタリングに要するデータ変換期間より短くなり得る。図8は、この場合を説明する図であり、周期ξ毎に設定されるデータ変換期間の相互関係の一例を示す模式図である。この例では、データ変換期間110は周期ξの16倍である。例えば、時刻tに対応する出力データを得るためのデータ変換期間110-1は周期ξ毎の期間P〜P16に位置し、時刻t+ξに対応する出力データを得るためのデータ変換期間110-2は期間P〜P17に位置し、両データ変換期間110は重複部分を有する。このように、時刻t〜t+15ξに対応する16個のデータ変換期間110は重複する部分を有する。
【0005】
この場合に、周期ξずつずれた16個の各データ変換期間110についての移動平均値を求めるには、単純には、並列に動作する16個の加算器等の移動平均手段を設ければよい。しかし、当該構成は回路規模が大きくなる。より回路規模が小さい構成は、長さξの期間P(例えば、図8に示す期間P〜P18)内のデータレートfOSのデータを加算して1つのデータとするデシメーション(間引き)フィルタを用いるものであり、図8の例においては、16個のデシメーションフィルタを設ければ、周期ξずつシフトする各データ変換期間110についての移動平均処理を実現することができる。具体的には、データ変換期間110-1に対しては、16個の期間P〜P16それぞれでのデータ加算をデシメーションフィルタで行い、デシメーションフィルタの16個の出力をさらに加算、平均することで、時刻tに対応する出力データが得られる。次のデータ変換期間110-2に対しては、期間Pに用いたデシメーショフィルタをリセットし、これを用いて期間P17のデータ加算を実行する。この新たに得られる期間P17のデシメーションフィルタの出力値と、データ変換期間110-1での処理で既に得られている期間P〜P16に対応するデシメーションフィルタの出力値とを用いて、時刻t+ξに対応する出力データを得ることができる。以下、同様の処理を繰り返すことで、データレートfでデータが得られる。
【特許文献1】特開2005−318204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のデシメーションフィルタはDSP(Digital Signal Processor:DSP)やマイコンを用いて構成される。これらDSPやマイコンで構成したデシメーションフィルタは構成が比較的複雑であり、1つの入力データ当たりの処理に複数クロックを要する。そのため、駆動クロックの周波数が高くなるという問題がある。また、DSPにおいて乗算器を用いて構成されるデジタルフィルタは、減衰量を大きくすると回路規模も大きくなるという問題点があった。ΔΣ型ADCは磁気センサの出力信号に対しても用いられる。磁気センサを備えた電子コンパス等の磁気計測装置は、例えば、携帯電話などにも搭載され、小型化が求められている。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、一層簡単な構成で、回路規模の縮小が図られるAD変換装置を提供し、ひいてはより小型の磁気計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る磁気計測装置及びAD変換装置は、複数の磁気センサのうち所定の入力切換周期で切り換えて選択される1つからのセンサ信号をΔΣ変調するΔΣ変調器と、前記ΔΣ変調器にてオーバーサンプリングされたデータに基づいて前記計測データを生成するデジタルフィルタと、を有し、前記デジタルフィルタは、前記入力切換周期に同期して、前記ΔΣ変調器でのサンプリング周期毎に入力されるデータを累積加算し前記計測データを出力するカウンタを有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カウンタが有するローパスフィルタとしての機能に着目し、カウンタをΔΣ型ADCにおけるデジタルフィルタとして用いる。カウンタを用いたフィルタは、FIRフィルタなどの乗算器を用いたものに比べて構成が簡単であり、例えば、1つの入力データ当たりの処理に要するクロック数を1クロックにすることが可能である。また、例えば、同等の減衰率が得られるフィルタをより小さな回路規模で実現することができる。すなわち、AD変換装置及びそれを用いた磁気計測装置の構成をより簡単とし、回路規模の縮小を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る磁気計測装置2の概略の回路構成図である。磁気計測装置2は、磁気センサユニット4と磁気センサ制御回路6とからなる。
【0012】
磁気センサユニット4は、直交座標系(XYZ座標系)の3軸に対応して、3つの磁気センサ8(磁気センサ8x,8y,8z)を有する。磁気センサ8x,8y,8zはそれぞれ、外部磁界のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の成分を検出する。
【0013】
各磁気センサ8は、抵抗素子Ra,Rb,Rc,Rdからなるブリッジ回路である。抵抗Ra,Rdは端子VIN1,VIN2の間に直列接続され、また、抵抗Rb,Rcも端子VIN1,VIN2の間に直列接続される。そして、抵抗Ra,Rdの接続点が出力端子VOUT1であり、抵抗Rb,Rcの接続点が出力端子VOUT2である。抵抗素子Ra,Rb,Rc,Rdのうち、磁気抵抗変化を示す素子はRa,Rcである。一方、Rb,Rdは固定抵抗である。このブリッジ回路の一対の入力端子VIN1,VIN2に電圧を印加すると、抵抗Ra,Rdで分圧された電圧が出力端子VOUT1に得られ、抵抗Rb,Rcで分圧された電圧が出力端子VOUT2に得られる。抵抗Ra,Rcは外部磁界により抵抗が変化するので、外部磁界に応じた電圧信号が、出力端子VOUT1,VOUT2から差動形式で出力される。また、Rb,Rdを磁気抵抗素子、Ra,Rcを固定抵抗素子としても、ブリッジ回路の差動出力であるため同様に動作する。
【0014】
磁気抵抗素子としては、磁界に対して対称性のある変化を示すものを用いる。このような磁気抵抗素子としては、MR(Magneto Resistance)素子、GIG(Granular In Gap)素子などが知られている。磁気計測装置2では例えば、MR素子の一種であるGMR(Giant Magneto Resistance)素子を抵抗Ra,Rcに用いる。
【0015】
磁気センサ8には、コイル10が併設される。コイル10は供給される電流に応じた強度のバイアス磁界を抵抗Ra,Rcに及ぼし、それらの抵抗を変化させることができる。
【0016】
スイッチSWX1,SWY1,SWZ1は、3つの磁気センサ8のいずれか1つの端子VIN1,VIN2に電圧印加を行うために設けられている。
【0017】
磁気センサ8の端子VIN1,VIN2の一方には正電圧VCCが印加され、他方には接地電位GNDが印加される。この印加電圧の極性は、極性反転部12のスイッチSWS1〜SWS4により切り換えることができる。
【0018】
また、磁気センサ8xの出力端子VOUT1,VOUT2から磁気センサ制御回路6への信号線にはスイッチSWX2,SWX3が設けられ、同様に、磁気センサ8yの出力端子VOUT1,VOUT2にはスイッチSWY2,SWY3が設けられ、磁気センサ8zにはスイッチSWZ2,SWZ3が設けられる。これら出力端子に設けられたスイッチを切り換えて、3つの磁気センサ8のいずれか1つの出力信号を磁気センサ制御回路6へ入力させることができる。
【0019】
さらに、各磁気センサ8に併設されるコイル10への電流供給を選択的に行うために、スイッチSWX4,SWY4,SWZ4が設けられている。
【0020】
磁気センサ制御回路6は、差動プリアンプ20、ΔΣ変調器22、デジタルフィルタ24、出力インターフェース26、電流DAC28及び制御部30を有する。
【0021】
差動プリアンプ20は、磁気センサ8の出力端子VOUT1,VOUT2から出力される差動形式の磁界計測信号Sを増幅する。
【0022】
ΔΣ変調器22とデジタルフィルタ24とはΔΣ型ADCを構成し、アナログ信号である磁界計測信号Sをデジタルデータに変換し磁界計測データDを生成する。差動プリアンプ20にて増幅された磁界計測信号SはΔΣ変調器22に入力される。ΔΣ変調器22は、1ビットのAD変換機能を有し、磁界計測信号Sを磁界計測データDのサンプルレート(サンプリング周波数f)よりも十分に高い周波数fOSでオーバーサンプリングして、パルス密度変調(Pulse Density Modulation:PDM)されたパルス列を生成する。このように、少ないビットで粗く量子化された出力には量子化ノイズが多く含まれる。この量子化ノイズは、ΔΣ変調器22内部のノイズシェーピング回路で、高周波領域にシフトされる。
【0023】
ΔΣ変調器22の出力は、デジタルフィルタ24に入力される。デジタルフィルタ24は、プリフィルタ32,33とカウンタ34とを備える。デジタルフィルタ24はローパスフィルタ (Low-Pass Filter:LPF)であり、ノイズシェーピング回路にて高周波領域に移された量子化ノイズを減衰させる一方、磁界計測データを表す信号成分が存在する低周波領域を通過させる。
【0024】
カウンタ34は入力されるデータを累積加算する。これは積分処理に相当し、カウンタ34を周波数フィルタとしてみれば一次のLPFの機能を有している。そこで、デジタルフィルタ24は、上述の量子化ノイズを除去するためのメインフィルタとしてカウンタ34を用いている。さらに、デジタルフィルタ24は、カウンタ34の前段にプリフィルタ32,33を備え、高周波領域の減衰率を高めている。
【0025】
また、デジタルフィルタ24の出力データのデータレートは、カウンタ34からのカウント値の読み出しタイミングに応じて制御できる。すなわち、カウンタ34は、データレートをオーバーサンプリング周波数fOSから目的のサンプリング周波数fに落とすことができる。
【0026】
このように、デジタルフィルタ24は、カウンタ34を用いて、ΔΣ変調器22からの高速の1ビットデータにフィルタリングとダウンサンプリングを施し、相対的に低速で多ビットのデータとする。これが、磁界計測データDとして出力される。
【0027】
デジタルフィルタ24にて生成された磁界計測データDは、半導体集積回路等で構成された磁気センサ制御回路6からバス等を介してマイコン等へ伝送される。出力インターフェース26は時分割で順次得られるX,Y,Z各軸方向の磁界計測データDをこのデータ伝送に適した形式に変換し、バス等へ送出する。
【0028】
電流DAC28は、バイアス磁界発生手段であるコイル10に供給する駆動電流Iを生成する。電流DAC28は、制御部30から目的バイアス磁界データDを入力され、当該データを、アナログの駆動信号である駆動電流Iに変換する。
【0029】
制御部30は、スイッチSWX1〜SWX3,SWY1〜SWY3,SWZ1〜SWZ3を切り換えて、磁気センサ8x,8y,8zのうち、電圧を印加し、その出力を差動プリアンプ20へ取り出すものを順番に選択し、また、選択した磁気センサ8に対応して、スイッチSWX4,SWY4,SWZ4を切り換えて、当該磁気センサ8に併設されたコイル10へ電流DAC28から選択的に駆動電流Iを供給させる。さらに、制御部30は、選択した磁気センサ8での1回の磁界計測において、極性反転部12を制御して印加電圧の極性を反転させる動作を行う。また、制御部30は、磁気センサ8の切り換えや印加電圧の極性の切り換えに連動してデジタルフィルタ24の動作を制御する。さらに、制御部30は、磁気センサ8の切り換えなどに対応して出力インターフェース26の動作を制御する。
【0030】
図2は、プリフィルタ32の構成を示す模式的なブロック図である。プリフィルタ32は、それぞれα個の遅延器40及び加算器42からなる。各遅延器40の遅延時間は、オーバーサンプリングの周期T(≡1/fOS)である。遅延器40-1〜40-αは直列接続され、ΔΣ変調器22から初段の遅延器40-1に入力されるデータは順次、後段の遅延器40へ伝達される。初段の加算器42-1は、プリフィルタ32に入力されるデータと、遅延器40-1から出力されるデータとを加算する。2段目以降の加算器42-j(jは2≦j≦αなる自然数)は、前段の加算器42-(j-1)の出力と、遅延器40-jから出力されるデータとを加算する。最終段の加算器42-αの出力には、直近にプリフィルタ32に入力された(α+1)個のデータの合計値が得られる。例えば、α=31とした場合、加算器42-αから出力されるデータは5ビットのバイナリデータで表される。
【0031】
図3は、プリフィルタ33の構成を示す模式的なブロック図である。プリフィルタ33は、それぞれ4個の遅延器50及び加算器52からなる。各遅延器50の遅延時間は、サンプリング周期Tである。遅延器50-1はプリフィルタ32から入力されるデータを遅延して、加算器52-1に入力する。加算器52-1はプリフィルタ32から入力されるデータと、遅延器50-1から出力されるデータとを加算する。2段目以降の遅延器50-j及び加算器52-j(ここではj=2,3,4)は、加算器52-(j-1)からデータを入力される。加算器52-jは加算器52-(j-1)から入力されるデータと、遅延器50-jから出力されるデータとを加算する。例えば、プリフィルタ32にてα=31とした場合、加算器52-4から出力されるデータは9ビットのバイナリデータで表される。
【0032】
図4は、カウンタ34の構成を示す模式的なブロック図である。カウンタ34は、全加算器60及びDフリップフロップ62の対を、計数可能な桁数(カウンタ長)分接続した構造を有する。カウンタ34は、下位mビットの全加算器60のデータ入力端子“A”に計数対象データのビット値SOj(ここではjは1≦j≦mなる自然数)を入力される。残りの上位側のビットの全加算器60のデータ入力端子“A”には、信号REVが入力される。一方、各全加算器60のデータ入力端子“B”には対をなすDフリップフロップ62の出力端子“Q”の値が入力される。データ信号REVは最下位ビットの全加算器60のキャリー入力端子“CI”にも入力される。
【0033】
全加算器60は、端子“A”,“B”,“CI”の値に基づいて加算出力端子“S”及びキャリー出力端子“CO”を設定する。加算出力端子“S”の値は、対をなすDフリップフロップ62の入力端子“D”に入力される。Dフリップフロップ62はクロック信号CLKに同期して、入力データをラッチする。一方、キャリー出力端子“CO”の値はそれぞれ1つ上のビットの全加算器60のキャリー入力端子“CI”に入力される。
【0034】
制御部30は、極性反転部12から磁気センサ8への印加電圧が正極性の場合には信号REVを“0”に設定して、カウンタ34にて現在の計数値に、負極性の場合には“1”に設定する。これにより、正極性の場合には、カウンタ34は、現在の計数値とmビットの計数対象データが表す値とを加算した値を新たな計数値とする。一方、負極性の場合には、カウンタ34は、現在の計数値から計数対象データが表す値を減算した値を新たな計数値とする。
【0035】
カウンタ34の計数値のビット値はDフリップフロップ62の出力端子“Q”から読み出される。ここで、最上位ビットから所望のビット数だけ読み出せば、読み出さない下位ビット数分の除算をしたのと同様の結果を得ることができる。すなわち、除算器を用いずに平均処理を行うことができる。図4では、カウンタ34は、上位nビットを計数結果のビット値ADj(ここではjは1≦j≦nなる自然数)として出力する。
【0036】
なお、カウンタ34の計数値は、リセット信号RSTによりリセットすることができる。プリフィルタ32,33及びカウンタ34は共通のクロック信号CLKで駆動される。クロック信号CLKの周波数は基本的に、プリフィルタ32への入力データのデータレートfOSに等しく設定される。
【0037】
例えば、カウンタ34はカウンタ長を24ビットとすることができる。図4では、入力のSOmの桁と出力のAD1の桁とが同じであるが、これは必須ではなく、AD1の桁はより下位にも、上位にも設定することができる。
【0038】
図5は、デジタルフィルタ24での処理を説明するためのタイミング図である。センサセレクトとして示す波形は、X,Y,Z軸方向のいずれについて磁界計測が行われるかを示している。例えば、X軸の磁気センサ8xは、X軸のセンサセレクトがH(High)レベルの期間70xに選択的に、電圧及びバイアス磁界を印加され、磁界計測信号Sが差動プリアンプ20に入力される。Y軸、Z軸のセンサセレクトも同様のことを示している。X軸、Y軸、Z軸のセンサセレクトは基本的に同じ長さずつ順番に設定される。
【0039】
センサ極性は、極性反転部12の状態を示しており、例えば、L(Low)レベルの期間72が、磁気センサ8への印加電圧が正極性であり、一方、Hレベルの期間74が、印加電圧が正極性とは反転した負極性であるとする。各磁気センサ8の1回の磁界計測期間にて正極性の期間72と負極性の期間74とが同じ長さずつ設定される。図5に示す動作では、各軸のセンサセレクトの期間70x,70y,70zがそれぞれ2等分され、前半が正極性、後半が負極性に設定される。
【0040】
デジタルフィルタ24は、ΔΣ変調器22から出力されるパルスの数を例えば、プリフィルタ32,33での前処理の後、カウンタ34で累積加算し、これにより、ΔΣ変調器22の出力スペクトルの高周波領域に対する帯域制限を行う。カウンタ34の累積加算は期間70x,70y,70zのそれぞれにおいて行われ、カウンタ34は各期間70毎に1つの計数結果を出力する。
【0041】
制御部30は正極性の期間72及び負極性の期間74それぞれの期間内に、デジタルフィルタ24を動作させる期間76,78を設定する。期間76と期間78とは同じ長さに設定される。また制御部30は、上述のように信号REVを切り換え、正極性の期間72ではカウンタ34での入力データに対する動作を加算動作とし、負極性の期間74では減算動作とする。このデータ合成を行うことで、後述するように、電流DAC28の出力電流に含まれるフリッカノイズなどに起因して生じる磁界計測信号Sのオフセットノイズを低減し、磁界計測データの高精度化を図ることができる。
【0042】
期間78が終了すると、デジタルフィルタ24ではデータ合成処理が完了して1つの磁界計測データDが得られる。制御部30は、得られた磁界計測データDを、次の磁界計測を開始する前の期間80に、加算結果を保持するカウンタ34から読み出し、出力インターフェース26によるデータ転送動作を行う。また、磁界計測データDのデータ転送動作を行うと、続く期間82にて制御部30はカウンタ34をリセットし、次の磁界計測の開始に備える。
【0043】
次に、データ合成処理によるオフセットノイズの低減について説明する。或る外部磁界強度Bでの正極性電圧印加時の磁界計測信号Sの値をs、負極性電圧印加時の磁界計測信号Sの値をsとする。sのうち外部磁界の強度に対応する成分をsとすると、オフセットノイズsが0でない状態でのsは次式で表される。
=s+s ・・・(1)
【0044】
一方、同じ外部磁界強度Bにてsは次式で表される。
=−s+s ・・・(2)
【0045】
は、正極性の動作期間76でのΔΣ変調器22の出力の加算結果に相当し、一方、sは、負極性の動作期間78での加算結果に相当する。(1)式から(2)式を減じると、次式に示されるように、オフセットノイズsが相殺され、外部磁界強度sを求めることができる。
−s=2s ・・・(3)
【0046】
カウンタ34を期間76では加算動作とし、期間78では減算動作とするデジタルフィルタ24の動作は、(1),(2)式から(3)式を得る演算に対応しており、この原理により、デジタルフィルタ24にてオフセットノイズが低減される。
【0047】
図6は、プリフィルタ32,33及びカウンタ34それぞれのフィルタ特性の模式図であり、図7はそれらの合成特性の模式図である。図6,図7において横軸は対数スケールで表した周波数であり、縦軸はデシベル表示の減衰率である。これらの図は、fOS及びクロック信号CLKが6MHzである場合を示している。図6において特性曲線90は、α=31とした場合のプリフィルタ32のフィルタ特性の包絡線を表し、特性曲線92は、プリフィルタ33のフィルタ特性の包絡線を表し、また、特性曲線94は、カウンタ34での加算回数が214回である場合のカウンタ34のフィルタ特性の包絡線を表している。特性曲線90,92,94のいずれも低周波領域では減衰せず、高周波領域にfOSへ向けて減衰率が増加する減衰域を有する。
【0048】
図7の特性曲線100がプリフィルタ32,33及びカウンタ34の合成したフィルタ特性の包絡線である。カウンタ34の前段にプリフィルタ32,33を設けることで、カウンタ34単独の場合(特性曲線94)よりも好適に高周波領域を減衰することができる。なお、プリフィルタの段数及び構成は、上述の実施形態に限定されない。
【0049】
一方、カウンタ34単独のフィルタ特性自体に関しても、加算回数を大きくすることにより減衰率を向上させることができる。なお、加算回数の増加にはカウンタ長を大きくする必要が生じ得るが、カウンタ長は、上述の全加算器60及びDフリップフロップ62の対の追加で容易に増加し、加算回数の上限はカウンタ長を1つ増やす毎に2倍ずつ指数的に増えるので、加算回数の増加が回路規模へ与える影響は少ない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施形態に係る磁気計測装置の概略の回路構成図である。
【図2】第1のプリフィルタの構成を示す模式的なブロック図である。
【図3】第2のプリフィルタの構成を示す模式的なブロック図である。
【図4】カウンタの構成を示す模式的なブロック図である。
【図5】磁気センサ制御回路のデジタルフィルタでの処理を説明するためのタイミング図である。
【図6】2つのプリフィルタ及びカウンタそれぞれのフィルタ特性の模式図である。
【図7】2つのプリフィルタ及びカウンタを合成したフィルタ特性の模式図である。
【図8】オーディオ信号をサンプリングする従来技術において、連続するサンプリングタイミングに対するデータ変換期間を示す模式図である。
【符号の説明】
【0051】
2 磁気計測装置、4 磁気センサユニット、6 磁気センサ制御回路、8 磁気センサ、10 コイル、12 極性反転部、20 差動プリアンプ、22 ΔΣ変調器、24 デジタルフィルタ、26 出力インターフェース、28 電流DAC、30 制御部、32,33 プリフィルタ、34 カウンタ、40,50 遅延器、42,52 加算器、60 全加算器、62 Dフリップフロップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の磁気センサと、
所定の切換周期で切り換えられ、前記複数の磁気センサのいずれか1つのセンサ信号を選択的に取り出す切換器と、
前記切換器から出力される前記センサ信号をΔΣ変調するΔΣ変調器、及び前記ΔΣ変調器にてオーバーサンプリングされたデータに基づいて計測データを生成するデジタルフィルタを備えたAD変換回路と、
を有し、
前記デジタルフィルタは、前記切換周期に同期して、前記ΔΣ変調器でのサンプリング周期毎に入力されるデータを累積加算し前記計測データを出力するカウンタを有すること、
を特徴とする磁気計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気計測装置において、
前記デジタルフィルタは、前記サンプリング周期毎に入力されるデータを直近の所定個数について加算し、加算結果のデータを後段へ出力する加算器を、前記カウンタの前段に1段又は複数段、直列に接続されること、
を特徴とする磁気計測装置。
【請求項3】
複数の磁気センサのうち所定の入力切換周期で切り換えて選択される1つからのセンサ信号を計測データに変換するAD変換装置であって、
入力される前記センサ信号をΔΣ変調するΔΣ変調器と、
前記ΔΣ変調器にてオーバーサンプリングされたデータに基づいて前記計測データを生成するデジタルフィルタと、
を有し、
前記デジタルフィルタは、前記入力切換周期に同期して、前記ΔΣ変調器でのサンプリング周期毎に入力されるデータを累積加算し前記計測データを出力するカウンタを有すること、
を特徴とするAD変換装置。
【請求項4】
請求項3に記載のAD変換装置において、
前記デジタルフィルタは、前記サンプリング周期毎に入力されるデータを直近の所定個数について加算し、加算結果のデータを後段へ出力する加算器を、前記カウンタの前段に1段又は複数段、直列に接続されること、
を特徴とするAD変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−122191(P2010−122191A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298623(P2008−298623)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(506227884)三洋半導体株式会社 (1,155)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】