説明

移動体の制御システム

【課題】無線通信装置の受信能力の低下による通信障害の発生を予測できる移動体の制御システムを提供すること。
【解決手段】移動体が、その走行位置を検出する走行位置検出手段と、無線通信装置にて受信する運行情報及び走行位置検出手段にて検出される走行位置情報に基づいて走行作動を制御する走行制御装置とを備えて構成され、運行制御装置が、移動体が無線通信装置にて送信する走行位置情報Pp、及び、無線通信装置が通信中継装置から受信している無線信号の受信強度を示す受信強度情報Prに基づいて取得される移動体の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度Ls1・Ls2とを比較して、無線通信装置の受信能力が低下している受信能力低下状態であるか否かを判別する受信能力評価手段を備えて構成されている移動体の制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信装置を備えた物品搬送用の移動体と、位置によって異なる電波強度の通信領域を形成して前記移動体の前記無線通信装置と無線通信自在な通信中継装置と、前記通信中継装置を経由して前記移動体に運行情報を送信して前記移動体の運行を制御する運行制御装置とが設けられた移動体の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上記移動体の制御システムは、無線通信装置と通信中継装置との間の無線通信を利用して、運行制御装置から移動体に運行情報を送信して、通信中継装置の通信領域内で移動体を走行移動させて物品を無人搬送するものである。
【0003】
上記移動体の制御システムにおいて、従来から、移動体が走行中であるかまたは停止中であるかの走行状態やバッテリーの状態などの現在の移動体の状態情報を通信中継装置にて中継する状態で運行制御装置に通信するように構成されているものがある。これにより運行制御装置が移動体の現在の状態情報についても管理できるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−339367号公報(段落「0031」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記移動体の制御システムにおいては、温度や湿度の影響による部品の経年劣化により、移動体の無線通信装置の受信能力が使用に伴い徐々に低下することで、通信中継装置からの電波を受信するときの受信強度が低下して、運行制御装置からの運行情報を適切に受信できなくなる通信障害が発生する場合がある。このような通信障害が発生すると、運行制御装置による移動体の制御ができなくなる。
【0006】
この問題に対して、移動体の走行移動を制御しながら無線通信装置の受信強度を監視しておくことが考えられるが、通信中継装置が形成する通信領域の電波強度は位置によって異なるため、通信領域内で移動体を走行移動させると、通信中継装置に対する移動体の位置が変化して、移動体の無線通信装置が受信する電波の受信強度は、通信中継装置と移動体との間の距離が長くなるほど低下することになる。したがって、受信強度が低いからといって無線通信装置の受信能力が低下しているとは判断することができず、無線通信装置の受信能力の低下による通信障害の発生を予測することはできない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みて為されたものであって、その目的は、無線通信装置の受信能力の低下による通信障害の発生を予測できる移動体の制御システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る移動体の制御システムの第1特徴構成は、無線通信装置を備えた物品搬送用の移動体と、前記移動体に運行情報を送信して前記移動体の運行を制御する運行制御装置と、位置によって異なる電波強度の通信領域を形成して前記移動体の前記無線通信装置と無線通信自在に構成され、前記移動体と前記運行制御装置との通信を中継する通信中継装置とが設けられ、前記移動体が、その走行位置を検出する走行位置検出手段と、前記無線通信装置にて受信する前記運行情報及び前記走行位置検出手段にて検出される走行位置情報に基づいて走行作動を制御する走行制御装置とを備えて構成された移動体の制御システムにおいて、
前記走行制御装置が、前記走行位置情報を前記無線通信装置にて前記運行制御装置に対して送信するように構成され、前記無線通信装置が、前記通信中継装置から受信している無線信号の受信強度を示す受信強度情報を、前記運行制御装置に送信するように構成され、前記運行制御装置が、前記走行位置情報及び前記受信強度情報に基づいて取得される前記移動体の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度とを比較して、前記無線通信装置の受信能力が低下している受信能力低下状態であるか否かを判別する受信能力評価手段を備えて構成されている点にある。
【0009】
本特徴構成によれば、運行制御装置が送信して通信中継装置にて中継送信される運行情報と、走行位置を検出する走行位置検出手段にて検出される走行位置情報とに基づいて、走行制御装置が移動体の走行作動を制御することで、移動体を通信領域内において走行移動させることができる。これにより、移動体を無人で走行移動させて運行情報に従った物品搬送作業を行うことができる。
【0010】
そして、運行制御装置が備える受信能力評価手段が、移動体の走行制御装置から送信される走行位置情報と、無線通信装置から送信される受信強度情報とから、移動体の走行位置に対応した受信強度を取得し、その取得した受信強度を、走行位置情報が示す走行位置についての基準受信強度と比較することで、無線通信装置が受信能力低下状態であるか否かを判別する。
【0011】
電波強度が位置によって異なっている通信領域内では無線通信装置が受信する電波の受信強度は移動体の位置によって異なる。つまり、無線通信装置と移動体との間の距離が長くなるほど受信強度が低下する。そこで、受信能力評価手段は、移動体の走行位置に対応した受信強度と、その走行位置についての基準受信強度とを比較することで、受信強度の位置による違いの影響を受け難い状態で受信能力低下状態であるか否かを判別できる。したがって、移動体の走行位置に対応した受信強度がその走行位置についての基準受信強度よりも低ければ受信能力が低下していると判別する等、移動体の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度とを比較することにより、走行位置によって無線通信装置の受信強度が異なっても、無線通信装置の受信能力の低下を判別することができる。そして、受信能力が低下していると判別した場合には、運行制御装置と無線通信装置との間の無線通信における通信障害の発生を予測することができる。
【0012】
このように、無線通信装置の受信能力の低下による通信障害の発生を予測できる移動体の制御システムを得るに至った。
【0013】
本発明に係る移動体の制御システムの第2特徴構成は、前記運行制御装置が、前記走行位置情報を要求する走行位置情報要求と、前記受信強度情報を要求する受信強度情報要求とを同期して送信し、前記走行制御装置が、前記走行位置情報要求を前記無線通信装置にて受信すると前記走行位置情報を送信し、前記無線通信装置が、前記受信強度情報要求を受信すると前記受信強度情報を送信する点にある。
【0014】
本特徴構成によれば、運行制御装置から同期して送信される走行位置情報要求と受信強度情報要求とに基づいて、移動体の走行制御装置から走行位置情報が送信され、無線通信装置から受信強度情報が送信されるので、走行位置情報の送信タイミングと受信強度情報の送信タイミングとで時間差が発生し難い。そのため、走行位置情報は、受信強度情報が示す受信強度となる移動体の走行位置と精度良く対応することになる。したがって、受信能力評価手段が、走行位置情報が示す走行位置についての基準受信強度と、受信強度情報が示す受信強度を比較する場合に、当該走行位置により適切に対応した受信強度と基準受信強度とを比較できる。したがって、走行位置の違いよる受信強度の違いの影響を極力排除して受信能力の低下を正確に評価できる。
【0015】
本発明に係る移動体の制御システムの第3特徴構成は、前記基準受信強度が、前記移動体の走行位置に対応させて予め設定されている点にある。
【0016】
本特徴構成によれば、基準受信強度は予め設定されているので、運行制御装置が備える受信能力評価手段は、単に、設定値を参照するだけで、移動体の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度とを比較できる。したがって、運行制御装置の構成の簡素化を図ることができる。
【0017】
本発明に係る移動体の制御システムの第4特徴構成は、前記基準受信強度が、段階的に複数設定されている点にある。
【0018】
本特徴構成によれば、移動体の走行位置に対応した受信強度を、段階的に設定された複数の基準受信強度と順番に比較することで、無線通信装置の能力の低下状態を段階的に評価できる。したがって、無線通信装置の能力の低下が初期状態のときは、移動体の運行制御を継続しつつ、当該移動体の無線通信装置の受信能力の監視を強化し、一方、無線通信装置の能力の低下が末期状態のときは、早期に移動体の運行制御を中止する等、無線通信装置の能力の低下状態に応じた細やかな運用が可能である。
【0019】
本発明に係る移動体の制御システムの第5特徴構成は、前記運行制御装置が、前記受信強度情報を前記走行位置情報と対応付けて記憶する記憶手段を備えて構成され、前記基準受信強度が、前記記憶手段に記憶されている前記受信強度情報のうち、前記移動体の走行位置に対応する前記受信強度情報が示す受信強度である点にある。
【0020】
本特徴構成によれば、過去に受信した受信強度情報を前記走行位置情報と対応付けて記憶手段に記憶させておき、受信能力評価手段は、走行位置情報及び受信強度情報に基づいて受信強度を評価するときは、当該走行位置情報が示す走行位置と同じ位置又は近接する位置に対応する過去の受信強度情報を、記憶手段を参照して選択し、その選択した過去の受信強度情報と、評価対象の受信強度情報とを比較することで、走行位置によって無線通信装置の受信強度が異なっても、無線通信装置の受信能力の低下を判別することができる。
【0021】
しかも、同じ又は近接する走行位置において実際に受信した無線信号の受信強度からの変化に基づいて、受信能力の低下を判別することになるので、通信中継装置が設置されている実際の通信環境の影響を極力排除した状態で無線通信装置の受信能力の低下を判別することができる。
【0022】
本発明に係る移動体の制御システムの第6特徴構成は、前記運行制御装置が、前記受信強度情報を表示自在な表示手段を備えて、前記移動体の特定の走行位置に対応する前記受信強度情報の変化履歴を前記表示手段に表示させるように構成されている点にある。
【0023】
本特徴構成によれば、表示手段に移動体の特定の走行位置に対応する前記受信強度情報の変化履歴を表示させることができるので、この変化履歴を作業者が参照することで無線通信装置の受信能力の低下の予測を立てる等、将来的に発生し得る通信障害に対する予防策を施すことができる。
【0024】
本発明に係る移動体の制御システムの第7特徴構成は、前記移動体が複数設けられ、前記通信中継装置が、互いにその通信領域が重複する状態で複数設けられ、前記複数の移動体の夫々が備える前記無線通信装置が、前記複数の通信中継装置のうち一つを通信対象の通信中継装置として通信するように構成されている点にある。
【0025】
本特徴構成によれば、複数の移動体のそれぞれが備える無線通信装置は、複数の通信中継装置のうち一つを通信対象として通信するので、移動体の走行制御手段は、複数の通信中継装置の通信領域が互い重複する状態で形成された広い範囲にわたる通信領域において、通信中継装置を経由して運行制御装置と通信できる。したがって、複数の移動体の夫々を広い範囲にわたって運行させて物品搬送作業を行わせることができる。
【0026】
このように、複数の移動体を運行させる場合には、複数の移動体の何れかで無線通信装置の受信能力が低下して通信異常となると、その移動体が通信異常により停止してしまう。これにより、他の移動体の移動を妨げてしまうことになり、複数の移動体による物品搬送作業を中断せざるを得ない状況となる。そこで、このような制御システムでは、受信能力評価手段を備え、複数の移動体の夫々について無線通信装置が受信能力低下状態となっているか否かを判別することで、受信能力低下状態となっている無線通信装置を備えた移動体のみを別の箇所に移動させて、無線通信装置を交換する等のメンテナンス作業を行うことができる。したがって、他の移動体により物品搬送作業を継続して行うことができ、システムとしての稼動効率を向上することができ、複数の移動体にて物品搬送作業を行うシステムとして有用なものとなる。
【0027】
本発明に係る移動体の制御システムの第8特徴構成は、前記複数の無線通信装置の夫々が、前記通信中継装置から受信している無線信号の受信強度に基づいて、前記通信対象の通信中継装置を当該通信中継装置と前記通信領域が重複する他の通信中継装置に切り換え自在に構成され、前記無線通信装置が前記通信対象の通信中継装置を切り換えた後の前記通信中継装置を識別する中継装置識別情報を取得する中継装置識別情報取得手段と、前記無線通信装置が前記通信対象の通信中継装置を切り換えたときの当該無線通信装置を備えている前記移動体の走行位置を示す前記走行位置情報を取得する切換位置情報取得手段と、当該切換位置情報取得手段が取得した前記走行位置情報が示す走行位置が、前記中継装置識別情報取得手段が取得した前記中継装置識別情報にて識別される前記通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別する通信対象切換位置評価手段とが設けられている点にある。
【0028】
本特徴構成によれば、複数の通信中継装置の通信領域が互い重複する状態で形成された広い範囲にわたる通信領域において移動体が走行移動する場合に、移動体の移動に伴って、移動体の無線通信装置が通信対象の送信中継装置を切り換えたときには、当該無線通信装置は新たな通信中継装置と通信可能な状態となる。
【0029】
そして、中継装置識別情報取得手段が、無線通信装置が通信対象の通信中継装置を切り換えた後の通信中継装置を識別する中継装置識別情報を取得し、切換位置情報取得手段が、無線通信装置が通信対象の通信中継装置を切り換えたときの当該無線通信装置を備えている移動体の走行位置を示す走行位置情報を取得する。
【0030】
通信対象切換位置評価手段は、中継装置識別情報から通信対象となった通信中継装置を特定することができ、走行位置情報から無線通信装置が通信対象を切り換えたときの当該無線通信装置を備えている移動体の走行位置を特定することができる。また、中継装置識別情報により特定される通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置を参照することで、当該通信中継装置を通信対象とするべき走行位置として適切な位置情報を取得することができる。
【0031】
これにより、通信対象切換位置評価手段は、移動体が通信対象を新たな通信中継装置に切り換えたときの移動体の走行位置が、当該通信中継装置を通信対象とするべき走行位置として適切な走行位置であるか否かを判別することができる。したがって、移動体の無線通信装置が通信対象の通信中継装置を切り換えた走行位置が、通信中継装置について予め設定された通信対象切換位置に適正に対応しているか否かを評価できる。
【0032】
本発明に係る移動体の制御システムの第9特徴構成は、前記運行制御装置が前記通信対象切換位置評価手段を備え、前記複数の通信中継装置の夫々が、前記中継装置識別情報取得手段として、前記複数の移動体の前記無線通信装置のうちの何れかとの間で前記運行情報、前記受信強度情報及び前記走行位置情報を通信可能な状態が新たに開始されたときに、通信可能状態開始情報を当該新たな通信対象となった前記無線通信装置を識別する移動体識別情報及び自身を識別する中継装置識別情報を付加して前記運行制御装置に送信するように構成され、前記運行制御装置が、前記切換位置情報取得手段として、前記通信可能状態開始情報を受信すると、当該通信可能状態開始情報に付加された前記移動体識別情報が示す前記移動体に対して前記走行位置情報を要求する走行位置情報要求を送信するように構成され、前記通信対象切換位置評価手段が、前記切換位置情報取得手段にて取得した前記走行位置情報要求に基づいて前記移動体から送信された前記走行位置情報が示す走行位置が、前記中継装置識別情報取得手段にて取得した前記中継装置識別情報にて識別される前記通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別するように構成されている点にある。
【0033】
本特徴構成によれば、無線通信装置と新たに通信可能な状態となった通信中継装置は、移動体識別情報及び中継装置識別情報を付加して通信可能状態開始情報を運行制御装置に送信する。運行制御装置は、受信した通信可能状態開始情報に付加されている移動体識別情報に基づいて、通信対象を切り換えた無線通信装置を備えている移動体を特定することができる。また、運行制御装置は、受信した通信可能状態開始情報に付加されている中継装置識別情報に基づいて、新たに通信対象となった通信中継装置を特定することができる。
【0034】
そして、運行制御装置は、通信可能状態開始情報を受信すると、移動体識別情報により特定される移動体に走行位置情報要求を送信することで、当該移動体が通信対象の通信中継装置を切り換えたときの移動体の走行位置を取得することができる。また、中継装置識別情報により特定される通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置を参照することで、当該通信中継装置を通信対象とするべき走行位置として適切な位置情報を取得することができる。
【0035】
そして、運行制御装置は、通信対象切換位置評価手段を備えており、走行位置情報が示す走行位置が通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別する。つまり、移動体が通信対象を新たな通信中継装置に切り換えたときの移動体の走行位置が、当該通信中継装置を通信対象とするべき走行位置として適切な走行位置であるか否かを判別する。したがって、移動体の無線通信装置が通信対象の通信中継装置を切り換えた走行位置が、通信中継装置について予め設定された通信対象切換位置に適正に対応しているか否かを評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】物品搬送車の制御システムの全体平面図
【図2】物品搬送車の前方視および後方視の斜視図
【図3】物品搬送車の側面図
【図4】物品搬送車の側面図
【図5】搬送装置の制御ブロック図
【図6】物品搬送車の現在位置の検出を説明する斜視図
【図7】(a)通信中継装置の通信領域における電波強度を示す図(b)通信中継装置の通信領域が重複する箇所における電波強度を示す図
【図8】(a)隣接するエリアの境界付近における無線通信装置の受信強度を示す図(b)隣接するエリアの通信領域が適正に調整されていない場合のエリア境界付近における無線通信装置の受信強度を示す図
【図9】走行位置と基準受信強度の対応表
【図10】モニタに表示される受信強度情報の変化履歴
【図11】運行制御装置と移動体との通信フローチャート
【図12】受信強度評価処理のフローチャート
【図13】通信対象切換位置評価処理のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明にかかる移動体の制御システムの実施形態を図面に基づいて説明を加える。
この制御システムには、図1及び図5に示すように、無線通信装置3を備えた物品搬送用の移動体としての物品搬送車2の複数と、物品搬送車2の無線通信装置3と無線通信自在な複数の通信中継装置18a〜18hと、この通信中継装置18a〜18hを経由して物品搬送車2に運行情報を送信して物品搬送車2の運行を制御する運行制御装置17とが設けられている。
【0038】
物品搬送車2は、無線通信装置3にて受信する運行情報、及び、後述する走行位置検出手段H1にて検出される走行位置情報に基づいて物品搬送車2の走行作動及び移載作動を制御するマイクロコンピュータ利用の走行制御装置20とを備えて構成されており、地上側の運行制御装置17が送信する運行情報としての行き先情報にて指定されたステーション4まで、走行経路1に沿って自律走行することにより、物品移載箇所としてのステーション4の夫々に物品を搬送するように構成されている。ちなみに、行先情報としては、例えば、複数のステーション4の夫々はNo.1、No.2などのステーションNo.が付与されており、目的とするステーション4におけるステーションNo.を行先情報として通信するように構成されている。
【0039】
そして、物品搬送車2の走行経路1は、複数のエリア5a〜5hに亘る状態で設定されており、その走行経路1に対応させて、複数のエリア5a〜5hごとに位置検出用の複数の反射板6が配設されている。図1に示すものでは、走行経路1が、第1エリア5a〜第8エリア5hの8つのエリアに亘る状態で設定され、反射板6は、建屋の壁などに配設されている。
【0040】
物品搬送車2の車体は、図2に示すように、車体の前後方向に沿う左右一対の延出部分7と、その延出部分7を車体の前方側で連結する本体部分8とから構成され、平面視においてほぼコの字型になるように構成され、延出部分7の上面に物品を載置するように構成されている。ちなみに、図2の(イ)は、物品搬送車2の車体を前方側から見た斜視図であり、図2の(ロ)は、物品搬送車2の車体を後方側から見た斜視図である。
【0041】
また、物品搬送車2の車体には、車体の後方側に突出可能な移載装置9が設けられ、この移載装置9は、図3および図4に示すように、フォーク9aとこのフォーク9aを車体の前後方向に沿って出退移動しかつ上下方向に昇降移動させる移動機構9bとから構成されている。ちなみに、フォーク9aは、電動モータによりチェンなどの電動機構を介して上下方向に延びるポストに沿って昇降移動し得るように構成され、そのポストを車体の前後方向に移動可能な台車に立設することにより、フォーク9aを車体の前後方向に出退移動し得るように構成されている。また、フォーク9aが最下方まで下降された状態においては、左右の延出部分7間の空間内にフォーク9aが入り込んで、両延出部分7の上面よりも下方にまで下降できるように構成されている。
【0042】
そして、フォーク9aは、延出部分7の上面を基準として上方と下方とにわたって昇降可能に構成され、車体の後方側である延出部分7側を各ステーション4に対峙させてフォーク9aを出退および昇降させることにより、ステーション4側の物品を延出部分7の上面に載置したり、逆に延出部分7の上面にある物品をステーション4側に移載できるように構成されている。
【0043】
前記本体部分8の底部には、上下方向に沿う縦軸芯周りに回動可能な駆動車輪10が設けられ、左右一対の延出部分7の夫々には、その前後方向中間の底部に、遊転式の従動車輪11が設けられ、その先端底部に、キャスタ式の遊転車輪12が設けられている。そして、駆動車輪10および従動車輪11の3点支持によって物品搬送車2の車体の荷重を支持するように構成されている。
【0044】
ちなみに、図3および図4では図示を省略するが、駆動車輪10は、互いに離間して並置した一対の駆動輪体から構成され、駆動輪体にそれぞれ電動式の駆動モータ13が直結されている。そして、両駆動輪体が各別に正逆回転駆動可能に構成されて、両駆動輪体の回転速度に差を与えたり、あるいは、互いに逆方向に回転駆動することにより、縦軸芯周りで一体的に向きを変更できるように構成されている。
【0045】
また、物品搬送車2には、図5および図6に示すように、測定光を水平またはほぼ水平面内で走査して、反射板6にて反射される光を受光する投受光手段としての投受光部14、物品搬送車2の走行距離を検出する駆動モータ13に設けられたロータリエンコーダなどの距離検出部15、物品搬送車2の方位を検出するレートジャイロなどの方位検出部16などが設けられている。
【0046】
そして、走行制御装置20は、物品搬送車2を走行させる際には、投受光部14が反射光を受光するときの走査角情報および複数のエリア5a〜5hの夫々における複数の反射板6についての配設位置情報に基づいて現在位置を検出しながら、その現在位置、距離検出部15の検出情報、および、方位検出部16の検出情報などから、走行経路2に沿って目的のステーション4まで物品搬送車2を走行させるように構成されている。
【0047】
物品搬送車2の現在位置の検出について説明を加えると、走行制御装置20は、物品搬送車2の走行位置を検出する走行位置検出手段H1をプログラム形式で備えている。
【0048】
走行位置検出手段H1は、まず、通信中継装置18a〜18hが送信するエリア識別情報IDから現在位置するエリアにおける複数の反射板6についての配設位置情報と投受光部14の走査角情報とを比較して現在位置を初期検出する。この初期検出は、物品搬送車2を初期投入するときや、障害物などにより反射板6が遮蔽されて現在位置が不明となったときなどに実行される。
【0049】
走行制御装置20は、反射板6のすべてについての配設位置情報および走行経路1についての位置情報をレイアウトマップとしてメモリなどの記憶手段H2に予め記憶しており、走行位置検出手段H1は、現在位置を初期検出している状態において、そのレイアウトマップから現在位置するエリアにおける複数の反射板6についての配設位置情報を求めて、その求めた配設位置情報および投受光部14の走査角情報に基づいて現在位置を検出するように構成されている。
【0050】
例えば、現在位置するエリア5が第1エリア5aであると、走行位置検出手段H1は、第1エリア5aにおける複数の反射板6についての配設位置情報を求めて、その求めた配設位置情報のうちから、投受光部14の走査角情報に合致する反射板6を識別することにより、現在位置を検出するように構成されている。
【0051】
走行制御装置20は、無線通信装置3に対して情報を入出力自在に接続された通信制御部20aを備えており、走行制御装置20は、走行位置検出手段H1にて検出される走行位置情報Ppに、当該走行制御装置20が装備された物品搬送車2に付与された号機識別情報Nを付加して、無線通信装置3により無線信号にて出力自在となっている。
【0052】
通信中継装置18a〜18hは、運行制御装置17と走行制御装置20の無線通信装置3との間での通信を中継するように構成されており、通信中継装置18a〜18hは、行先情報を中継する際に、自己の配設エリアが複数のエリア5a〜5hのうちのどのエリアであるかを識別するエリア識別情報IDを付加して運行制御装置17と走行制御装置20との間での通信を中継する。例えば、物品搬送車2が第1エリア5aに位置すると、運行制御装置17からの行先情報は、複数の通信中継装置18a〜18hのうち物品搬送車2が現在位置するエリアに配設されている通信中継装置18としての第1通信中継装置18aにて中継されて、第1エリア5aのエリア識別情報IDが付加された行先情報が走行制御装置20に送信される。なお、各通信中継装置18は、複数の物品搬送車2の無線通信装置3と同時に接続可能であるので、同一エリア5内において複数の物品搬送車2を走行させることができる。
【0053】
通信中継装置18a〜18hは、複数のエリア5a〜5hごとに一つ配設され、第1エリア5a〜第8エリア5hの夫々に対応して、第1通信中継装置18a〜第8通信中継装置18hの8つが設けられている。図5及び図6に示すように、各通信中継装置18は、無線信号を送受信するための第1アンテナ19a〜第8アンテナ19hが接続されており、これらのアンテナ19a〜19hは、図6に示すように、各エリア5a〜5hの天井などに設置されている。
【0054】
通信中継装置18a〜18hは、図7(a)に示すように、位置によって異なる電波強度の通信領域Zを形成しており、通信領域Zは、それを形成する通信中継装置18の設置位置から離れるほど電波強度が弱くなっている。複数の通信中継装置18は、互いにその通信領域Zが重複する状態で複数設けられており、隣接するエリア5の境界位置は、2個以上の通信中継装置18の通信領域Zが重複する範囲に設定されている。例えば、図7(b)に示すように、第1エリア5aと第2エリア5bとの境界位置は、第1通信中継装置18aの通信領域Z1と第2通信中継装置18bの通信領域Z2が重複する範囲に位置している。
【0055】
そして、隣接するエリア5の境界位置において、当該隣接するエリア5についての通信中継装置18のそれぞれの電波強度が逆転するように各通信中継装置18の通信領域Zが調整されている。例えば、図7(b)に示すように、第1通信中継装置18aの電波強度と第2通信中継装置18bの電波強度が第1エリア5aと第2エリア5bとの境界位置で逆転するように第1通信中継装置18a及び第2通信中継装置18bの電波強度が調整されている。
【0056】
物品搬送車2の無線通信装置3は、通信可能な通信中継装置18が複数存在する場合は、それら複数の通信中継装置18から受信する無線信号の受信強度が最も強い通信中継装置18を通信対象の中継装置18として選択るように構成されている。例えば、物品搬送車2が、第1エリア5aのうち、第2エリア5bとの境界に近い箇所に位置する場合、無線通信装置3は、第1通信中継装置18a及び第2通信中継装置18bの双方と通信可能であるが、第1通信中継装置18aの無線信号の受信強度L1と、第2通信中継装置18bの無線信号の受信強度L2とでは、図8(a)に示すように、第1通信中継装置18aの無線信号の受信強度L1の方が強いため、第1通信中継装置18aが通信対象の通信中継装置として選択される。なお、図8(a)及び(b)では、横軸は物品搬送車2の走行位置に対応しており、各走行位置で選択されている通信対象の通信中継装置18の無線信号の受信強度を太線で示している。
【0057】
また、無線通信装置3は、自身が備えられている物品搬送車2の走行移動に伴って隣接するエリアに移動したときは、通信対象の通信中継装置18を切り換えるように構成されている。例えば、物品搬送車2が第1エリア5aに位置している間は、無線通信装置3は第1通信中継装置18aを通信対象として通信し、物品搬送車2が第1エリア5aから第2エリア5bに走行移動すると、第2通信中継装置18bの無線信号の受信強度L2が、第1通信中継装置18aの無線信号の受信強度L1よりも強くなるため、無線通信装置3は通信対象を第1通信中継装置18aから第2通信中継装置18bに切り換える。
【0058】
なお、各通信中継装置18の通信領域Zが適正に調整されていなければ、隣接するエリア5の境界位置からずれた位置において、当該隣接するエリア5についての通信中継装置18のそれぞれの電波強度が逆転することになる。そのため、例えば、第1通信中継装置18aの電波強度が強過ぎる又は第2通信中継装置18bの電波強度が弱過ぎる場合、無線通信装置3が受信する受信強度は、図8(b)に示すようになり、物品搬送車2が第1エリア5aから第2エリア5bに走行移動しても、第2通信中継装置18bの無線信号の受信強度L2が、第1通信中継装置18aの無線信号の受信強度L1よりも強くなるのは、境界位置から第2エリア5b側にずれた位置X1になるため、無線通信装置3は通信対象を第1通信中継装置18aから第2通信中継装置18bに切り換えるタイミングは、物品搬送車2がエリア5の境界位置を通過するタイミングよりも遅れることになる。
【0059】
そこで、無線通信装置3の通信対象が切り換わるタイミングと、物品搬送車2がエリア5の境界位置を通過するタイミングとを一致させるため、前述の通り、隣接するエリア5の境界位置において、当該隣接するエリア5についての通信中継装置18のそれぞれの電波強度が逆転するように各通信中継装置18の通信領域Zが調整されている。これにより、無線通信装置3は、複数の通信中継装置18a〜18hのうち物品搬送車2が現在位置するエリアに配設されている通信中継装置18を通信対象として通信するようになっている。
【0060】
このようにして、物品搬送車2の走行制御装置20は、運行制御装置17から通信中継装置18a〜18h及び無線通信装置3にて中継する状態で行先情報が通信されると、その行先情報に基づいて、目的のステーション4に到達するように駆動モータ13の作動を制御し、目的のステーション4に到達すると、移載装置7を出退および昇降させるように移載装置9の作動を制御するように構成されている。
【0061】
物品搬送車2の走行制御装置20は、走行中であるかまたは停止中であるかの走行状態や、走行位置検出手段21にて検出される走行位置情報Ppや、バッテリーの状態などの現在の物品搬送車2の状態情報を無線通信装置3及び通信中継装置18a〜18hにて中継する状態で運行制御装置17に送信するように構成され、また、無線通信装置3自体も通信対象の通信中継装置が出力する無線信号の受信強度を示す受信強度情報Prを通信中継装置18a〜18hにて中継する状態で運行制御装置17に送信するように構成されている。これにより、運行制御装置17は、物品搬送車2の現在の状態情報や、物品搬送車2が備える無線通信装置3の現在の状態情報についても管理するように構成されている。
【0062】
運行制御装置17は、図5に示すように、無線通信装置3の受信能力が低下している受信能力低下状態であるか否かを判別する受信能力評価手段H3をプログラム形式で備えている。受信能力評価手段H3は、走行位置情報Pp及び受信強度情報Prに基づいて取得される物品搬送車2の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度Lsとを比較して、物品搬送車2の走行位置に対応した受信強度が基準受信強度Lsよりも低い場合には、受信能力低下状態であると判別する。
【0063】
基準受信強度Lsとしては、物品搬送車2の走行位置に対応させて段階的に、第1基準受信強度Ls1と、この第1基準受信強度Ls1よりも低い値の第2基準受信強度Ls2との2つの値が予め設定されている。受信能力評価手段H3は、物品搬送車2の走行位置に対応した受信強度が第1基準受信強度Ls1よりも低い場合には、受信能力低下状態のうち低下初期状態であると判別し、第2基準受信強度Ls2よりも低い場合には、受信能力低下状態のうち低下末期状態であると判別する。
【0064】
第1基準受信強度Ls1及び第2基準受信強度Ls2は、図9に示すように、物品搬送車2の走行位置を通信中継装置18の設置位置からの距離(単位[m])に基づいてクラス分けしたクラスA(−4)〜クラスA(+4)の8個のクラスAのそれぞれについて設定されている。第1基準受信強度Ls1は、通信中継装置18の設置位置に近いクラスA(+1)やクラスA(−1)についての第1基準受信強度Ls1の基準受信強度情報D14やD15が最も大きな値であり、同様に、第2基準受信強度Ls2は、通信中継装置18の設置位置に近いクラスA(+1)やクラスA(−1)についての第2基準受信強度Ls2の基準受信強度情報D24やD25が最も大きな値になっている。第1基準受信強度Ls1の基準受信強度情報D11〜D18及び第2基準受信強度Ls2の基準受信強度情報D21〜D28は、運行制御装置17が備えるメモリなどの記憶手段H4(図5参照)に保存されている。
【0065】
受信能力評価手段H3は、例えば、第1エリア5aに位置している物品搬送車2から走行位置情報Pp及び受信強度情報Prを受信すると、その走行位置情報Ppが属するクラスA(−4)〜クラスA(+4)を選択して、選択したクラスAについての第1基準受信強度Ls1及び第2基準受信強度Ls2と受信強度情報Prが示す受信強度とを比較して、正常状態であるか、低下初期状態であるか、低下末期状態であるかを判別する。
【0066】
運行制御装置17は、受信強度情報Prを表示自在な表示手段としてのモニタ21(図5参照)を備えて、物品搬送車2の定点計測用に設定された特定の走行位置に対応する受信強度情報Prの変化履歴をモニタ21に表示させるように構成されている。変化履歴を構成するデータは、例えば、特定の走行位置としての各エリア5のクラスA(+1)又はA(−1)に属する走行位置についての受信強度情報Prが、複数の物品搬送車2の号機毎に対応して記憶手段4に蓄積されたデータベースから抽出される。
【0067】
複数の物品搬送車2のうち履歴表示させたい号機を図外の設定キーにて指定することで、図10に示すように、縦軸を受信強度とし横軸を時間軸とするグラフにより、指定した号機に搭載された無線通信装置3の受信強度の変化履歴が表示される。グラフの時間軸のスケールは、設定キーにて過去1年・過去6ヶ月・過去1ヶ月の何れかを選択できる。これにより、受信強度情報Prの変化履歴の大まかな傾向と詳細な変化との双方を確認できる。図10では、1号機の無線通信装置3の過去1年の受信強度の変化履歴が表示されたグラフを例示している。
【0068】
なお、グラフの縦軸には、第1基準受信強度Ls1を示す位置に「注意レベル」及び第2基準受信強度Ls2を示す位置に「交換レベル」が表示されており、当該号機の無線通信装置3の経年劣化による受信能力の低下状態が目視にて確認できるようになっている。また、複数の物品搬送車2の無線通信装置3の何れかの受信強度が「注意レベル」を下回ったときや、「交換レベル」を下回ったときには、モニタ21にその旨の警告表示が行われる。
【0069】
運行制御装置17と無線通信装置3及び走行制御装置20との通信について、図11の通信フローチャートに基づいて説明する。なお、図11では、ある通信中継装置18が中継する1台の物品搬送車2との通信を例示しているが、他の通信中継装置18及び物品搬送車2についても同様の通信を行う。
【0070】
運行制御装置17は、図11(a)に示す走行位置別受信強度情報収集用通信を設定タイミング毎に行う。設定タイミングとしては、一定周期によるタイミングでもよいし、エリア5の夫々について設定された受信強度計測用の特定領域内又は特定位置に物品搬送車2が位置するときなどでもよい。
【0071】
図11(a)に示すように、走行位置別受信強度情報収集用通信では、走行位置情報Ppを要求する走行位置情報要求Rpと、受信強度情報Prを要求する受信強度情報要求Rrとを同期して送信する。これらの要求は、複数の通信中継装置18a〜18hに対して順次行ってもよいし、一斉に送信してもよい。通信中継装置18は、これらの要求情報に自己のエリア識別情報IDを付加して無線信号にて送信する。
【0072】
物品搬送車2は、走行位置情報要求Rpを無線通信装置3にて受信すると、走行位置検出手段21にて検出される走行位置情報Ppを号機識別情報N付きで無線通信装置3にて運行制御装置17に対して通信対象の通信中継装置18を経由して送信するように構成されている。一方、物品搬送車2の無線通信装置3は、受信強度情報要求Rrを受信すると、通信対象の通信中継装置18から受信している無線信号の受信強度を示す受信強度情報Prを、号機識別情報N付きで、通信対象の通信中継装置18を経由して運行制御装置17に送信するように構成されている。通信中継装置18は、号機識別情報N付きの走行位置情報Pp及び受信強度情報Prに自己のエリア識別情報IDを付加して運行制御装置17に送信する。
【0073】
運行制御装置17は、図11(b)に示す中継受信強度情報収集用通信を定期的に行う。外部タイマにより通知される通信タイミングになると、運行制御装置17は、通信中継装置18が受信する物品搬送車2の無線通信装置3の無線信号の受信強度を示す中継受信強度情報Pr#apを要求する中継受信強度情報要求Rr#apを送信する。この要求は、複数の通信中継装置18a〜18hに対して順次行ってもよいし、一斉に送信してもよい。通信中継装置18は、中継受信強度情報要求Rr#apを受信すると、中継受信強度情報Pr#apを自己のエリア識別情報IDを付加して運行制御装置17に送信する。これにより、運行制御装置17は、受信した中継受信強度情報Pr#apに基づき、各複数の通信中継装置18a〜18hの受信状態を監視できる。
【0074】
運行制御装置17は、図11(c)に示すように、通信中継装置18が出力する通信可能状態開始情報Plogを受信すると通信対象切換位置評価用通信を開始する。
【0075】
通信中継装置18は、物品搬送車2の無線通信装置3と通信可能状態となったときに、通信可能状態開始情報Plogを自発的に出力するように構成されている。すなわち、物品搬送車2が走行移動により隣接するエリア5の境界を越える際に、物品搬送車2の無線通信装置3は、前述の通り、受信強度のより強い通信中継装置18を選択することにより、通信対象の通信中継装置18を切り換える。このとき、物品搬送車2の無線通信装置3は、新たに通信対象としようとする通信中継装置18に対して通信開始要求Rlogを号機識別情報N付きで送信する。通信中継装置18は、通信開始要求Rlogを受信すると、号機識別情報N付きの通信可能状態開始情報Plogにエリア識別情報IDを付加して、要求元の無線通信装置3及び運行制御装置17に通信可能状態開始情報Plogを送信する。
【0076】
運行制御装置17が通信可能状態開始情報Plogを受信すると、それに付加されているエリア識別情報IDに対応する通信中継装置18、つまり、送信元の通信中継装置18に対して走行位置情報要求Rpが送信される。その後の通信は、走行位置別受信強度情報収集用通信で説明した走行位置情報要求Rpに基づく通信と同様である。これにより、運行制御装置17は、物品搬送車2の無線通信装置3が通信対象を切り換えたときの物品搬送車2の走行位置情報Ppを取得できる。これにより、運行制御装置17は、無線通信装置3が通信対象の通信中継装置18を切り換えたときの物品搬送車2の走行位置X1(図8(b)参照)を評価することができる。
【0077】
運行制御装置17は、図11(a)に示す走行位置別受信強度情報収集用通信により走行位置情報Ppと受信強度情報Prとを取得すると、受信能力評価手段H3を構成するプログラム形式の受信能力評価処理を実行して受信強度を評価する。以下、運行制御装置17が実行する受信強度評価処理について、図12のフローチャートに基づいて説明する。
【0078】
図12に示すように、運行制御装置17は、まず、ステップ#1では、走行位置別受信強度情報収集用通信により取得した走行位置情報Ppが示す走行位置が属するクラスA(図9参照)を選択する。次に、ステップ#2では、選択したクラスAについての第1基準受信強度Ls1及び第2基準受信強度Ls2を記憶手段4から読み出す。そして、ステップ#3及び#4では、走行位置別受信強度情報収集用通信により取得した受信強度情報Prが示す受信強度が、第2基準受信強度Ls2や第1基準受信強度Ls1といった判定基準地値以下であるかどうかにより、無線通信装置3の受信能力が低下末期状態であるか、低下初期状態であるか、正常状態であるかを判別する。
【0079】
受信強度が第2基準受信強度Ls2以下であると、ステップ#3でYesと判断され、当該物品搬送車2の無線通信装置3の受信能力は、低下末期状態であると判別される。これによりステップ#7に移行して、低下末期状態処理が実行される。受信能力が低下末期状態であると無線通信の通信障害の発生が極めて高い確率で予測されるため、低下末期状態になっている無線通信装置3を装備している物品搬送車2による搬送作業を継続させないように、当該物品搬送車2を退避場所等に停止させる緊急停止指令情報を送信する。
【0080】
受信強度が第2基準受信強度Ls2以下でなくても、第1基準受信強度Ls1以下であると、ステップ#4でYesと判断され、当該物品搬送車2の無線通信装置3の受信能力は、低下初期状態であると判別される。これによりステップ#6に移行して、低下初期状態処理が実行される。受信能力が低下初期状態であると、現状では無線通信の通信障害の発生のおそれはないものの、さらに無線通信装置3の経年劣化が進むと通信障害の発生のおそれがある。そのため、ステップ#6の低下初期状態処理では、受信強度情報Prを走行位置情報Ppが示す走行位置が属するクラスAと対応付けて記憶手段4に保存するとともに、低下初期状態になっている無線通信装置3を装備している物品搬送車2を、要注意搬送台車として選定して、当該物品搬送車2の無線通信装置3の受信強度に対して実行される受信強度評価処理の実行頻度を正常状態の物品搬送車2よりも高くするべく、走行位置別受信強度情報収集用通信を行う設定タイミングを変更するようにしている。
【0081】
受信強度が第1基準受信強度Ls1以下でなければ、ステップ#4でNoと判断され、当該物品搬送車2の無線通信装置3の受信能力は、正常状態であると判別される。これによりステップ#5に移行して、正常状態処理が実行される。ステップ#5の正常状態処理では、受信強度情報Prを走行位置情報Ppが示す走行位置が属するクラスAと対応付けて記憶手段4に保存して受信強度評価処理を終了する。
【0082】
運行制御装置17は、図11(c)に示す通信対象切換位置評価用通信により走行位置情報Ppを取得すると、通信対象切換位置評価手段H5を構成するプログラム形式の通信対象切換位置評価処理を実行して通信対象の通信中継装置18の切換位置を評価する。
【0083】
運行制御装置17は、通信可能状態開始情報Plogを受信すると、当該通信可能状態開始情報Plogに付加された号機識別情報Nが示す物品搬送車2に対して走行位置情報Ppを要求する走行位置情報要求Rpを送信するように構成され、かつ、当該走行位置情報要求Rpに基づいて当該物品搬送車2から送信された走行位置情報Ppが示す走行位置が、予め設定した通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別する通信対象切換位置評価手段H5をプログラム形式で備えている。
【0084】
説明を加えると、無線通信装置3は、前述の通り、通信対象として選択している通信中継装置18と通信可能な状態となっており、この状態において、通信中継装置18を経由して行き先情報、受信強度情報Pr及び走行位置情報Ppを通信するが、自身が備えられている物品搬送車2の走行移動に伴って隣接するエリア5に移動したときは、通信対象の通信中継装置18をより受信強度の強いものに切り換える。そして、通信中継装置18は、複数の物品搬送車2の無線通信装置3のうちの何れかとの間で通信可能な状態が新たに開始されたときに、当該新たに通信可能な状態となった無線通信装置3を識別する号機識別情報Nが付加された通信可能状態開始情報Plogに、自身を識別するエリア識別情報IDを付加して運行制御装置17に送信するように構成されている。そして、運行制御装置17は、通信可能状態開始情報Plogを受信すると、通信対象切換位置評価用通信を行って、走行位置情報Ppを取得し、通信対象切換位置評価処理を実行することになる。
【0085】
以下、運行制御装置17が実行する通信対象切換位置評価処理について、図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0086】
図13に示すように、運行制御装置17は、まず、ステップ#1では、通信可能状態開始情報Plogに付加されているエリア識別情報IDが示すエリア5について適正な通信切換位置として予め設定されている適正通信対象切換位置を、記憶手段4から読み出す。
【0087】
なお、当該エリア5に隣接するエリア5が複数ある場合は、適正通信対象切換位置は、それらの隣接するエリア5との境界についてそれぞれ設定されているので複数存在する。そこで、複数の適正通信対象切換位置を、隣接するエリア識別情報IDと対応して記憶しておくことで、通信履歴等から今般の通信可能状態開始情報Plogが送信される前まで通信対象として選択されていた切り換え前の通信中継装置18のエリア識別情報IDを参照し、切り換え前後の通信中継装置18についてのエリア識別情報IDから、一つの適正通信対象切換位置を特定することができる。
【0088】
次に、ステップ#2では、通信対象切換位置評価用通信で取得した走行位置情報Ppが示す走行位置X1(図8(b)参照)と、ステップ#1で記憶手段4から読み取った適正通信対象切換位置との距離G(図8(b)参照)を算出する。そして、ステップ#3で、算出した距離Gが現実の切り換え位置として運用上許容できる範囲内であるかどうかを判別する。許容できない場合は、ステップ#3でNoと判断されてステップ#4へ移行し、切換位置異常処理が実行される。切換位置異常処理では、当該エリア5の境界付近における切換位置の位置調整が必要である旨がモニタ21に警告表示される。距離Gが許容できる場合は、ステップ#3でYesと判断されて、通信対象切換位置評価処理は正常終了する。
【0089】
このように、物品搬送車2の無線装置3が通信対象の通信中継装置18を切り換えたときに、運行制御装置17が、通信対象切換位置評価用通信を行って走行位置情報Ppを取得することで、運行制御装置17の通信対象切換位置評価手段H5にて、無線通信装置3が通信対象の通信中継装置18を切り換えたときの物品搬送車2の走行位置X1が適正であるかどうか評価することができる。
【0090】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、移動体として、移載装置9を設けたものを例示したが、移載装置を設けていないものでもよく、また、その形状などについては適宜変更が可能であり、各種の物品搬送車を適応することができる。
【0091】
(2)上記実施形態では、走行経路1が8つのエリア5a〜5hに亘る状態で設定されているが、亘るエリアの数など、走行経路1をどのように設定するかについては、適宜変更が可能である。
【0092】
(3)上記実施形態では、移動体が無軌道の走行経路に沿って移動するものを例示したが、移動体が有軌道の走行経路に沿って移動するものであってもよい。
【0093】
(4)上記実施形態では、基準受信強度が段階的に複数設定されているものを例示したが、基準受信強度が走行位置に対応して一つだけ設定されているものであってもよい。
【0094】
(5)上記実施形態では、基準受信強度が、移動体の走行位置に対応させて予め設定されているものを例示したが、基準受信強度が、記憶手段に記憶されている受信強度情報のうち、新たに受信強度情報を受信したときの移動体の走行位置に対応する過去の受信強度情報が示す受信強度であるものであってもよい。
【0095】
(6)上記実施形態では、運行制御装置からの要求に基づいて、無線通信装置が受信強度情報を送信し、移動体の走行制御装置が走行位置情報を送信するものを例示したが、これらの一方又は双方を定期的に又は移動体が特定の走行位置に位置するときに送信するものであってもよい。
【0096】
(7)上記実施形態では、通信中継装置が互いにその通信領域が重複する状態で複数設けられ設けられたものを例示したが、単一の通信中継装置が設けられたものであってもよい。また、複数の通信中継装置を設ける場合、3つ以上の通信領域が重複する状態で設けてもよい。
【0097】
(8)上記実施形態では、無線通信装置が、複数の通信領域が重複する領域において、最も受信強度が強い無線信号を出力している通信中継装置に通信対象を切り換えるように構成されたものを例示したが、無線通信装置が通信対象の通信中継装置を切り換える場合に、ヒステリシスを持たせて、現在接続中の通信中継装置の無線信号の受信強度よりも設定量だけ高い受信強度となる無線信号を出力する通信中継装置を新たな通信対象の通信中継装置として選択するように構成してもよい。
【0098】
(9)走行位置検出手段としては、床面に敷設された位置情報を含むマーカをその位置情報を読み取りながら検出するマーカ検出手段及び移動体の走行距離を検出する走行距離検出手段の夫々の検出情報に基づいて現在位置を検出するように構成されたものであってもよい。走行位置検出手段の具体構成は適宜構成可能である。
【0099】
(10)上記実施形態では、運行制御装置が通信対象切換位置評価手段を備えたものを例示したが、これに限らず、例えば、複数の通信中継装置の夫々が通信対象切換位置評価手段を備えたものや、複数の移動体の夫々が通信対象切換位置評価手段を備えたものであってもよい。
【符号の説明】
【0100】
H1 走行位置検出手段
H3 受信能力評価手段
H5 通信対象位置切換評価手段
Pp 走行位置情報
Pr 受信強度情報
Rp 走行位置情報要求
Rr 受信強度情報要求
Rr#ap 中継受信強度情報要求
Z 通信領域
Ls 基準受信強度
2 移動体
3 無線通信装置
17 運行制御装置
18 通信中継装置
20 走行制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信装置を備えた物品搬送用の移動体と、
前記移動体に運行情報を送信して前記移動体の運行を制御する運行制御装置と、
位置によって異なる電波強度の通信領域を形成して前記移動体の前記無線通信装置と無線通信自在に構成され、前記移動体と前記運行制御装置との通信を中継する通信中継装置とが設けられ、
前記移動体が、その走行位置を検出する走行位置検出手段と、前記無線通信装置にて受信する前記運行情報及び前記走行位置検出手段にて検出される走行位置情報に基づいて走行作動を制御する走行制御装置とを備えて構成された移動体の制御システムであって、
前記走行制御装置が、前記走行位置情報を前記無線通信装置にて前記運行制御装置に対して送信するように構成され、
前記無線通信装置が、前記通信中継装置から受信している無線信号の受信強度を示す受信強度情報を、前記運行制御装置に送信するように構成され、
前記運行制御装置が、前記走行位置情報及び前記受信強度情報に基づいて取得される前記移動体の走行位置に対応した受信強度と、当該走行位置についての基準受信強度とを比較して、前記無線通信装置の受信能力が低下している受信能力低下状態であるか否かを判別する受信能力評価手段を備えて構成されている移動体の制御システム。
【請求項2】
前記運行制御装置が、前記走行位置情報を要求する走行位置情報要求と、前記受信強度情報を要求する受信強度情報要求とを同期して送信し、
前記走行制御装置が、前記走行位置情報要求を前記無線通信装置にて受信すると前記走行位置情報を送信し、
前記無線通信装置が、前記受信強度情報要求を受信すると前記受信強度情報を送信する請求項1記載の移動体の制御システム。
【請求項3】
前記基準受信強度が、前記移動体の走行位置に対応させて予め設定されている請求項1又は2記載の移動体の制御システム。
【請求項4】
前記基準受信強度が、段階的に複数設定されている請求項3記載の移動体の制御システム。
【請求項5】
前記運行制御装置が、前記受信強度情報を前記走行位置情報と対応付けて記憶する記憶手段を備えて構成され、
前記基準受信強度が、前記記憶手段に記憶されている前記受信強度情報のうち、前記移動体の走行位置に対応する前記受信強度情報が示す受信強度である請求項1又は2記載の移動体の制御システム。
【請求項6】
前記運行制御装置が、前記受信強度情報を表示自在な表示手段を備えて、前記移動体の特定の走行位置に対応する前記受信強度情報の変化履歴を前記表示手段に表示させるように構成されている請求項1〜5の何れか1項記載の移動体の制御システム。
【請求項7】
前記移動体が複数設けられ、
前記通信中継装置が、互いにその通信領域が重複する状態で複数設けられ、
前記複数の移動体の夫々が備える前記無線通信装置が、前記複数の通信中継装置のうち一つを通信対象の通信中継装置として通信するように構成されている請求項1〜6の何れか1項記載の移動体の制御システム。
【請求項8】
前記複数の無線通信装置の夫々が、前記通信中継装置から受信している無線信号の受信強度に基づいて、前記通信対象の通信中継装置を当該通信中継装置と前記通信領域が重複する他の通信中継装置に切り換え自在に構成され、
前記無線通信装置が前記通信対象の通信中継装置を切り換えた後の前記通信中継装置を識別する中継装置識別情報を取得する中継装置識別情報取得手段と、
前記無線通信装置が前記通信対象の通信中継装置を切り換えたときの当該無線通信装置を備えている前記移動体の走行位置を示す前記走行位置情報を取得する切換位置情報取得手段と、
当該切換位置情報取得手段が取得した前記走行位置情報が示す走行位置が、前記中継装置識別情報取得手段が取得した前記中継装置識別情報にて識別される前記通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別する通信対象切換位置評価手段とが設けられている請求項7記載の移動体の制御システム。
【請求項9】
前記運行制御装置が前記通信対象切換位置評価手段を備え、
前記複数の通信中継装置の夫々が、前記中継装置識別情報取得手段として、前記複数の移動体の前記無線通信装置のうちの何れかとの間で前記運行情報、前記受信強度情報及び前記走行位置情報を通信可能な状態が新たに開始されたときに、通信可能状態開始情報を当該新たな通信対象となった前記無線通信装置を識別する移動体識別情報及び自身を識別する中継装置識別情報を付加して前記運行制御装置に送信するように構成され、
前記運行制御装置が、前記切換位置情報取得手段として、前記通信可能状態開始情報を受信すると、当該通信可能状態開始情報に付加された前記移動体識別情報が示す前記移動体に対して前記走行位置情報を要求する走行位置情報要求を送信するように構成され、
前記通信対象切換位置評価手段が、前記切換位置情報取得手段にて取得した前記走行位置情報要求に基づいて前記移動体から送信された前記走行位置情報が示す走行位置が、前記中継装置識別情報取得手段にて取得した前記中継装置識別情報にて識別される前記通信中継装置について予め設定した通信対象切換位置と比較して適正であるか否かを判別するように構成されている請求項8記載の移動体の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−215720(P2011−215720A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81170(P2010−81170)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【Fターム(参考)】