説明

移動体無線通信システムおよびそのモバイルルータ

【課題】移動体無線通信システムにおいて、同時アクセス可能な複数の無線アクセスシステムへの効果的な使い分け制御を可能とすること。
【解決手段】複数の無線アクセスシステムにアクセス可能な通信インタフェースを具備するモバイルルータを備えた移動体通信システムにおいて、前記モバイルルータは、自身に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを前記複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体無線通信システムに関するものであり、特に、複数の無線アクセスシステムへの同時アクセスが可能な移動体無線通信システムおよびそのモバイルルータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体無線通信システムにおいては、移動端末の移動経路に応じて、データの配信経路(ルーティング)を制御することを特徴とするモバイルIP(Mobile IP(Internet Protocol))と呼ばれる技術が存在する。モバイルIPには、RFC3344として規定されるモバイルIPv4(バージョン4)と、RFC3775として規定されるモバイルIPv6(バージョン6)とがあり、それぞれの規定に基づいて標準化されている。
【0003】
特に、モバイルIPv6では、IPレイヤでの移動管理が行われるとともに、接続ポイントを移動して接続する際に、サブネットプレフィクス(Subnet Prefix:IPアドレスの上位部分にあるサブネットの識別情報)が変更された場合であっても、移動端末のホームアドレス(Home Address:移動端末が本来所属するネットワーク(ホームリンク:Home Link)にて付与されているIPアドレス:以下「HoA」と表記)を変更することなく通信を継続することができるといった特徴を有しているので、今後、複雑かつ多種(異種)の無線通信システムが混在する通信環境下において、当該技術の利用が促進されるものと予想される。
【0004】
つぎに、上述のモバイルIPv6ベースの従来技術にかかる典型的な動作(手順)について説明する。移動端末(Mobile Node:以下「MN」と表記)が、ホームリンク(Home Link)以外の外部ネットワーク(Foreign Network)に移動した状態において、外部ネットワークのネットワークプレフィクス(Network Prefix)をネットワーク識別子とする気付アドレス(Care−of Address:移動端末の現在位置を示す:以下「CoA」と表記)を使用する。MNが外部ネットワークに接続した状態において、MNはCoAを取得した後、ホームリンク内でユーザ管理を行うホームエージェント(Home Agent:移動ノードが移動先でもHoAを使用して通信可能となるようにホームリンクでパケットを中継するノード装置:以下「HA」と表記)に対し、HoAとCoAとの関連付けを要求する目的でBU(Binding Update)メッセージを送信する。BUメッセージを受信したHAは、HoAとCoAとの関連付けを記憶し、MNに対してBAck(Binding Acknowledge)メッセージを送信する。また、HAは、HoAとCoAとの関連付けを行うとMNのHoA宛に送信されたパケットをMNの代理で受信し、CoA宛にカプセル化転送する。HAからCoA宛にカプセル化転送されたパケットを受信したMNは、デカプセル化を行うことで元のパケット(MNのHoA宛に送信されたパケット)を受信することができる。これらの手順により、MNは、自身に割当てられたHoAを変更することなく、移動先であっても、通信の継続が可能となる。
【0005】
また、RFC3963に規定される、NEMO Basic Support Protocolと呼ばれるプロトコル(技術)が存在する。このプロトコルでは、配下に複数のサブネットを収容するモバイルルータ(Mobile Router:以下「MR」と表記)が上述のモバイルIPにおけるMN機能を提供することにより、ネットワークモビリティ(端末接続するネットワーク自身の機動性)を実現する。また、このプロトコルでは、MRに収容されるサブネットワーク(Mobile Network Prefix:以下「MNP」と表記)をBUメッセージに追加する拡張が行われており、MNPに属する端末は、MRが移動した場合であっても通信を継続させることができる。すなわち、列車などの移動体内部にいる端末は、列車が移動し、列車に搭載されたMRの接続先が変更された場合であっても、通信の継続が可能となる。
【0006】
なお、具体的な公報として、例えば、複数の無線アクセスシステムへの接続機能を具備する移動体が移動する際に、使用可能な無線アクセスシステムを切り替えながら通信の継続を可能とする技術が、下記特許文献1に開示されている。また、この特許文献1に示される移動体無線通信システムでは、無線アクセスシステムを切り替えながら移動することにより、例えば一つのアクセスシステムが圏外の場合であっても他のアクセスシステムを使用することで通信の継続を可能としている。
【0007】
【特許文献1】特開2002−199426号公報
【非特許文献1】“IP Mobility Support for IPv4”(RFC3344)
【非特許文献2】“Mobility Support in IPv6”(RFC3775)
【非特許文献3】“NEtwork MObility (NEMO) Basic Support Protocol”(RFC3963)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に示される技術では、列車や車などに相当するサブネットワークそのものが移動するようなネットワークモビリティにかかる考慮がなされていないため、例えば車内端末数の多くが、通信速度の遅い無線システムに切り替えた場合などには、車内端末からの多数ユーザのトラフィックが当該通信速度の遅い無線システムを同時に使用することになり、ユーザトラフィックのQoSを保障することができないという問題点があった。したがって、特許文献1に開示されている技術を、そのまま適応することは不可能であった。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、同時アクセス可能な複数の無線アクセスシステムへの効果的な使い分け制御を可能とする移動体無線通信システムおよびそのモバイルルータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、本発明にかかる移動体通信システムは、複数の無線アクセスシステムにアクセス可能な通信インタフェースを具備するモバイルルータを備えた移動体通信システムにおいて、前記モバイルルータは、自身に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを前記複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、移動体無線通信システムに具備されるモバイルルータが、自身内部に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御するようにしているので、同時アクセス可能な複数の無線アクセスシステムへの効果的な使い分け制御が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる移動体無線通信システムおよびそのモバイルルータの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態により本発明が限定されるものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる移動体無線通信システムを説明するための図である。同図の下段部には、MRを備えた移動体が図示され、同図の上段部には、インターネットにそれぞれ接続される無線アクセスシステムA(以下単に「無線A」と呼称)および無線アクセスシステムB(以下単に「無線B」と呼称)が図示されている。無線Aは、自身の内部にサブネットワークとして、例えばサブネットA1,A2,A3の3つのサブネットを収容し、これらのサブネット上にそれぞれ配置されたアクセスポイントAP_A1,AP_A2,AP_A3を接続してなるルータ1を介してインターネットに接続されている。同様に、無線Bは、自身の内部にサブネットワークとして、例えばサブネットB1,B2の2つのサブネットを収容し、これらのサブネット上にそれぞれ配置されたアクセスポイントAP_B1,AP_B2を接続してなるルータ2を介してインターネットに接続されている。一方、移動体は、自身の内部にサブネットワークとして、例えばMNP_AおよびMNP_Bの2つのサブネットを収容している。なお、インターネット上に接続されているHA(ホームエージェント)は、上述したように、移動体が移動先においても自身のHoAを利用した通信を可能となるような機能を提供するノード装置である。
【0014】
つぎに、図1を参照して、実施の形態1にかかる移動体無線通信システムの動作について説明する。なお、同図に示すMRは、無線Aおよび無線Bの両者に同時に接続することが可能であるものとし、また、MNP_Aに属する車内端末(図示省略)のユーザトラフィックは無線Aを使用して伝送され、MNP_Bに属する車内端末(図示省略)のユーザトラフィックは無線Bを使用する静的設定が施されているものとする。さらに、移動体は、図1に示すような、無線Aおよび無線Bの両者が同時に使用可能となるような場所に位置しているものとする。
【0015】
図1において、移動体に具備されるMRは、無線Aを使用して通信を行うためのCoA(「CoA_A」とする)をHAに登録する場合には、MNP_Aの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。またMRは、MNP_Aから送信されたユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Aを使用したカプセル化処理を行う。一方、MRは、無線Bを使用して通信を行うためのCoA(「CoA_B」とする)をHAに登録する場合には、MNP_Bの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。またMRは、MNP_Bから送信されたユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Bを使用したカプセル化処理を行う。
【0016】
上記のような設定がなされた後は、HAとMRとの間において、MNP_Aに属する端末のユーザトラフィックは無線Aを使用したパケット転送が行われる一方で、MNP_Bに属する端末のユーザトラフィックは無線Bを使用したパケット転送が行われるので、車内端末に使用させる無線アクセスシステムの使い分けを行うことができる。例えば、グリーン車両に乗車したユーザの端末には、常時接続可能な広域無線システムを使用した通信を許可し、グリーン車以外のユーザの端末には、狭域無線システムのみの利用を許可するといった差別化を図ることができる。また、これらの制御により、例えば、通信速度の速い無線Aと通信速度の遅い無線Bとが同時に使用できる場合、リアルタイム通信を行っているユーザトラフィックは無線Aを使用し、ファイル転送などのユーザトラフィックは無線Bを使用するといった使い分けが可能となり、ネットワークリソースを有効活用することも可能となる。
【0017】
以上説明したように、この実施の形態の無線通信システムによれば、移動体無線通信システムに具備されるモバイルルータが、自身内部に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御するようにしているので、同時アクセス可能な複数の無線アクセスシステムへの効果的な使い分け制御が実現される。
【0018】
なお、この実施の形態の無線通信システムでは、移動体のMRには、2つのサブネットワークであるMNP_AおよびMNP_Bが収容される例について示したが、この2という数に限定されるものではなく任意数のサブネットを備えていてもよい。また、無線アクセスシステムAには、3つのサブネットA1,A2,A3が収容され、無線アクセスシステムBには、2つのサブネットワークB1,B2が収容される例を示したが、これらの数についても同様であり、それぞれのアクセスシステムにおいて、任意数のサブネットを備えていてもよい。
【0019】
実施の形態2.
実施の形態1では、複数の無線アクセスシステムの中から使用する無線アクセスシステムの使い分けをサブネットごとに行う実施形態について説明したが、この実施の形態では、複数の無線アクセスシステムの中から使用する無線アクセスシステムの使い分けをユーザトラフィックのパケットクラスごとに行う実施形態について説明する。なお、システム構成については図1に示した実施の形態1の構成と同一または同等であり、その説明を省略する。
【0020】
図2は、モバイルIPv6に規定されるMobile Network Prefix Optionのメッセージフォーマット(同図の上段部)および当該メッセージフォーマットにパケットクラスを挿入した実施の形態2にかかるメッセージフォーマット(同図の下段部)を示す図である。
【0021】
上述のNEMO Basic Support Protocolでは、モバイルIPv6のBUメッセージにMobile Network Prefix Optionを付加することにより、MRが収容しているMNPをHAに通知することができるが、実施の形態2においては、図2の下段部に示すように、Mobile Network Prefix Optionの予約(Reserved)領域に、パケットクラス(Packet Class)を挿入して使用するようにする。なお、パケットクラスとしては、Diffserv(Differentiated Services)で規定されるDSCP(Diffserv Code Point)を使用することができる。
【0022】
つぎに、実施の形態2にかかる移動体無線通信システムの動作について、図1を参照して説明する。なお、同図に示したMRでは、DSCPがEF(Expedited Forwarding)クラスのユーザトラフィックは無線Aを使用し、BE(Best Effort)クラスのユーザトラフィックは無線Bを使用するという静的設定が行われているものとする。MRは、無線Aを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_A(図示省略)をHAに登録する場合には、MNP_AおよびMNP_Bの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。なお、このときの、Mobile Network Prefix Optionでは、図2に示したパケットクラスにEFクラスを示す“0xB8”という値が設定される。またMRは、MNP_AおよびMNP_Bから送信されたユーザパケットのうちEFクラスパケットをIP−in−IPカプセル化する際にはCoA_Aを使用したカプセル化処理が行われる。
【0023】
同様にMRは、無線Bを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_B(図示省略)をHAに登録する場合には、MNP_AとMNP_Bの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。なお、このときの、Mobile Network Prefix Optionでは、図2に示したパケットクラスにBEクラスを示す“0”という値が設定される。またMRは、MNP_AおよびMNP_Bから送信されたユーザパケットのうちBEクラスパケットをIP−in−IPカプセル化する際にはCoA_Bを使用したカプセル化処理が行われる。
【0024】
上記のような設定がなされた後は、HAとMRとの間において、EFクラスのユーザトラフィックは無線Aを使用したパケット転送が行われる一方で、BEクラスのユーザトラフィックは無線Bを使用したパケット転送が行われるので、車内端末に使用させる無線アクセスシステムの使い分けを行うことができる。例えば、優先度の高いEFクラスのパケットには、常時接続可能な広域無線システムを利用した通信を可能とし、優先度の低いBEクラスのパケットには、狭域無線システムのみを利用した通信を可能とするといった差別化を図ることができる。また、これらの制御により、例えば、通信速度の速い無線Aと通信速度の遅い無線Bとが同時に使用できる場合、リアルタイム通信を行っているユーザトラフィックは無線Aを使用し、ファイル転送などのユーザトラフィックは無線Bを使用するといった使い分けが可能となり、ネットワークリソースを有効活用することも可能となる。
【0025】
なお、上記説明では、MNP_AとMNP_Bとの区別は特に行っていないが、実施の形態1に示した使い分け手法をこの実施の形態に適用するようにすれば、MNP_Aに属する端末のEFクラスのパケット、MNP_Aに属する端末のBEクラスのパケット、MNP_Bに属する端末のEFクラスのパケット、MNP_Bに属する端末のBEクラスのパケットといったような、MNPとパケットクラスとに基づく4つの組み合わせにより、無線アクセスシステムの使い分けを行うこともできる。
【0026】
なお、この実施の形態の無線通信システムでは、移動体のMRに収容されるサブネット数や、無線アクセスシステムの種類やシステム数、または当該MRが接続される無線アクセスシステムに収容されるサブネット数に関する制限はなく、任意数のサブネットや任意の無線アクセスシステムを備えたネットワークに広く適用することができる。
【0027】
実施の形態3.
図2に示したMobile Network Prefix Optionのメッセージフォーマットにおいて、当該フォーマットの主要部には、MRに収容されるネットワークプレフィクスを挿入して使用するのが一般的な使用法である。一方、実施の形態3では、ネットワークプレフィクスではなく、特定端末のアドレスをMobile Network Prefix領域(図2参照)に挿入するとともに、Prefix Lengthを128ビットとして使用することを特徴とするものである。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態3にかかる移動体無線通信システムを説明するための図である。図1に示した移動体無線通信システムとの相違点は、端末Aという装置がMRに収容されるMNP_Aに固定的に属しているところにある。なお、その他の構成については、図1に示したシステム構成と同一または同等であり、それらの各部には同一符号を付して示している。
【0029】
つぎに、実施の形態3にかかる移動体無線通信システムの動作について、図3を参照して説明する。なお、同図に示すMRは、無線Aおよび無線Bが同時に使用できる状態にあり、特定端末である端末Aのユーザトラフィックは無線Bを使用するという静的設定が施されているものとする。また、MRは、無線Aを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_A(図示省略)をHAに登録する場合には、MNP_Aの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。このときのMobile Network Prefix OptionのPrefix Length(図2参照)にはMNP_Aのプレフィクス長が設定される。またMRは、MNP_Aから送信されたユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Aを使用したカプセル化処理を行う。一方、MRは、無線Bを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_B(図示省略)をHAに登録する場合には、端末Aの情報を含めた制御パケットをHAに送信する。このときのMobile Network Prefix OptionのPrefix Length(図2参照)には128が設定される。またMRは、端末Aから送信されたユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Bを使用したカプセル化処理を行う。
【0030】
上記のような設定がなされた後は、HAとMRとの間において、端末Aのユーザトラフィックは無線Bを使用したパケット転送が行われる一方で、それ以外のユーザトラフィックは無線Aを使用したパケット転送が行われるので、車内端末が使用する無線システムを端末ごとに使い分けることができる。例えば、移動体内の業務系端末は常時接続可能な広域無線システムを利用した通信を可能とし、それ以外の乗客端末は狭域無線システムのみを利用した通信を可能とするといった差別化を図ることができる。また、これらの制御により、業務系通信はユーザトラフィックよりも優先的に通信可能な状態にするというようなQoS(Quality of Service)保障も可能となる。
【0031】
なお、上記説明では、MNPが一つの場合について説明したが、実施の形態1に示した使い分け手法をこの実施の形態に適用するようにすれば、MNPと特定端末アドレスとの組み合わせに基づいて、無線アクセスシステムの使い分けを行うこともできる。
【0032】
なお、この実施の形態の無線通信システムでは、移動体のMRに収容されるサブネット数や、無線アクセスシステムの種類やシステム数、または当該MRが接続される無線アクセスシステムに収容されるサブネット数に関する制限はなく、任意数のサブネットや任意の無線アクセスシステムを備えたネットワークに広く適用することができる。
【0033】
実施の形態4.
実施の形態4は、実施の形態2および実施の形態3に示した両者の手法を組み合わせた無線アクセスシステムの使い分けを行うことを特徴とする。すなわち、複数の無線アクセスシステムの中から使用する無線アクセスシステムの使い分けをユーザトラフィックのパケットクラスごとに行う実施形態2の手法と、特定端末のユーザトラフィックを特定の無線アクセスシステムに接続する実施形態3の手法とを組み合わせることを特徴とする。なお、システム構成については図3に示した実施の形態3の構成と同一または同等であり、その説明を省略する。
【0034】
つぎに、実施の形態4にかかる移動体無線通信システムの動作について、図3を参照して説明する。なお、実施の形態3と同様に、端末AがMNP_Aに属しているものとする。また、同図に示したMRでは、端末AのEFクラスのユーザトラフィックは無線Aを使用し、BEクラスのユーザトラフィックは無線Bを使用するという静的設定が行われているものとする。
【0035】
図3において、MRは、無線Aを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_A(図示省略)をHAに登録する場合には、特定端末である端末AのIPアドレスや、送信されるパケットのパケットクラスの情報を含めた制御パケットがHAに伝送される。なお、具体的には、Mobile Network Prefix OptionのPrefix Lengthが128ビットに設定され、Reserved領域にEFクラスを示す“0xB8”という値が設定される。またMRは、端末AのEFクラスにかかるユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Aを使用したカプセル化処理を行う。
【0036】
同様に、MRは、無線Bを使用して通信を行うためのCoAであるCoA_B(図示省略)をHAに登録する場合には、特定端末である端末AのIPアドレスや、送信されるパケットのパケットクラスの情報を含めた制御パケットがHAに伝送される。なお、具体的には、無線Aを使用して通信する場合と同様に、Mobile Network Prefix OptionのPrefix Lengthが128ビットに設定され、Reserved領域にBEクラスを示す“0”という値が設定される。またMRは、端末AのBEクラスにかかるユーザパケットをカプセル化(例えばIP−in−IPカプセル化)する際には、CoA_Bを使用したカプセル化処理を行う。
【0037】
上記のような設定がなされた後は、車内端末が使用する無線システムを端末のパケットクラスに基づいて使い分けることができる。例えば、グリーン車両にいる端末のユーザトラフィックのうち、EFクラスのパケットは常時接続可能な広域無線システムを利用した通信を可能とし、それ以外の乗客端末は狭域無線システムのみを利用した通信を可能とするといった差別化を図ることができる。
【0038】
なお、上記説明では、MNPが一つの場合について説明したが、実施の形態1に示した使い分け手法をこの実施の形態に適用するようにすれば、MNPと特定端末アドレスとパケットクラスとの3者の組み合わせに基づいて、無線アクセスシステムの使い分けを行うこともできる。
【0039】
実施の形態5.
図4は、MRに具備されるポリシー情報テーブルの一例を示す図表である。図4において、同図の左側部に示される図表には、無線リンク(無線アクセスシステム)の確立状態を示す情報(Status)や、無線アクセスシステムごとに設けられたポリシー情報を格納した管理テーブルへの参照情報(Policy Info)が示されている。また、同図の右側上方部に示される図表には、無線アクセスシステムA(無線A)のポリシー情報テーブルが示され、同図の右側下方部に示される図表には、無線アクセスシステムB(無線B)のポリシー情報テーブルが示されている。これらのポリシー情報テーブルには、ポリシーID(PolicyID)、パケットクラス(class)、MNP(addr)、プレフィクス長(len)、優先度(Priority)の情報が含まれている。MRは、図4に示されるポリシー情報テーブルおよび無線リンクの確立状態を参照して、BUメッセージに含めるMobile Prefix Optionを決定する。
【0040】
例えば、図4に示すポリシー情報において、表頭の左から2番目の項に位置するパケットクラスをキーとする制御を行えば、上述の実施の形態2と同様に、ユーザトラフィックのパケットクラスごとに無線アクセスシステムの使い分けを行うことができる。また、例えば表頭の右から2番目の項に位置するプレフィクス長(len)において、特定端末を意味する128ビットのプレフィクス長をキーとする制御を行えば、上述の実施の形態3と同様に、特定端末ごとに無線アクセスシステムの使い分けを行うことができる。
【0041】
また、表頭の一番左に位置するポリシーID(PolicyID)に基づいて、各ポリシー情報が管理される。図4に示す例では、端末AのEFクラスのパケットは、無線Aおよび無線Bを使用するポリシー管理テーブル間に跨って、同一のポリシーID“#1”によって管理される。
【0042】
また、図4に示す例では、無線Aを使用するユーザトラフィックは、MNP_AのEFクラスおよびBEクラスのパケットであり、無線Bを使用するユーザトラフィックは、MNP_BのEFクラスおよびBEクラスのパケットである。また、端末AのEFクラスのパケットは、無線Aと無線Bの双方を使用することが可能である。なお、このような場合には、いずれか一つの無線アクセスシステムを確実に選択させるため、図4に示す例では、優先度(Priority)のフィールドを設けている。例えば、端末AのEFクラスのパケットのように、無線Aおよび無線Bの双方が使用できる場合には優先度の高い(“0”よりも“1”の方が優先度が高い場合)無線Aが使用され、無線Bのみが使用できる場合には無線Bが使用される。
【0043】
上述のようなポリシー情報を参照した制御が行われる結果、移動体内部の端末が使用する無線システムを、
(1)MNP
(2)MNP+パケットクラス
(3)特定端末のアドレス
(4)特定端末のアドレス+パケットクラス
の各単位で使い分けることができる。
また、上記(1)〜(4)の組み合わせにより、複数の無線アクセスシステムの使い分けをより詳細に行うこともできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上のように、本発明にかかる移動体無線通信システムは、同時アクセス可能な複数の無線アクセスシステムの効果的な使い分けを可能とする移動体無線通信システムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる移動体無線通信システムを説明するための図である。
【図2】モバイルIPv6に規定されるMobile Network Prefix Optionのメッセージフォーマット(同図の上段部)および当該メッセージフォーマットにパケットクラスを挿入した実施の形態2にかかるメッセージフォーマット(同図の下段部)を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態3にかかる移動体無線通信システムを説明するための図である。
【図4】MRに具備されるポリシー情報テーブルの一例を示す図表である。
【符号の説明】
【0046】
A1,A2,A3,B1,B2 サブネット
AP_A1,AP_A2,AP_A3,AP_B1,AP_B2 アクセスポイント
MR モバイルルータ
MNP_A,MNP_B MRに収容されるサブネットワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線アクセスシステムにアクセス可能な通信インタフェースを具備するモバイルルータを備えた移動体通信システムにおいて、
前記モバイルルータは、自身に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを前記複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御することを特徴とする移動体無線通信システム。
【請求項2】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容されるサブネットであることを特徴とする請求項1に記載の移動体無線通信システム。
【請求項3】
前記使い分け制御の対象が、自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動体無線通信システム。
【請求項4】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動体無線通信システム。
【請求項5】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末および自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項1または2に記載の移動体無線通信システム。
【請求項6】
前記モバイルルータには、パケット転送制御に必要な所定情報を格納したポリシー情報テーブルが具備され、
前記ポリシー情報テーブルに基づいて前記使い分け制御が行われることを特徴とする請求項1または2に記載の移動体無線通信システム。
【請求項7】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容されるサブネットであることを特徴とする請求項6に記載の移動体無線通信システム。
【請求項8】
前記使い分け制御の対象が、自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項6に記載の移動体無線通信システム。
【請求項9】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末であることを特徴とする請求項6に記載の移動体無線通信システム。
【請求項10】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末および自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項6に記載の移動体無線通信システム。
【請求項11】
複数の無線アクセスシステムにアクセスする移動体通信システムに適用され、該複数の無線アクセスシステムにアクセス可能な通信インタフェースを具備するモバイルルータにおいて、
自身に収容される端末装置がアクセスする無線アクセスシステムを前記複数の無線アクセスシステムの中から選択的に使い分け制御することを特徴とするモバイルルータ。
【請求項12】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容されるサブネットであることを特徴とする請求項11に記載のモバイルルータ。
【請求項13】
前記使い分け制御の対象が、自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項11に記載のモバイルルータ。
【請求項14】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末であることを特徴とする請求項11に記載のモバイルルータ。
【請求項15】
前記使い分け制御の対象が、前記モバイルルータに収容される特定端末および自身の内部で区分されるユーザトラフィックのパケットクラスであることを特徴とする請求項11に記載のモバイルルータ。
【請求項16】
前記モバイルルータには、パケット転送制御に必要な所定情報を格納したポリシー情報テーブルが具備され、
前記ポリシー情報テーブルに基づいて前記使い分け制御が行われることを特徴とする請求項11に記載のモバイルルータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−27957(P2007−27957A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−204326(P2005−204326)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】