説明

移動物体追跡装置

【課題】監視空間内を移動する複数の移動物体が接近した場合に追跡対象の取り違えが起こる可能性がある。
【解決手段】監視空間を撮影した時系列の監視画像の任意時刻にて注目物体の像に対応する注目領域を設定する(S1)。注目領域から注目物体の像についての互いに異なる複数の注目特徴を抽出する(S2)。各時刻の監視画像から各注目特徴を有する特徴領域を検出し(S5)、注目特徴毎に、注目物体の位置に対応した特徴領域を追跡領域として設定し、それ以外の特徴領域をダミー領域として設定する(S6)。過去の特徴領域の位置に基づいて当該特徴領域の現時刻の移動先を予測する(S7)。予測された移動先に基づいて注目特徴毎に追跡領域とダミー領域との接近の発生を推定し、当該接近が生じないと推定された注目特徴の追跡領域の位置に基づいて注目物体の位置を判定する(S11)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視空間内を移動する移動物体の位置を追跡する移動物体追跡装置に関する。特に監視空間を撮像した画像から移動物体の画像特徴を検出して追跡を行う移動物体追跡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像上にて移動物体を追跡する従来技術として、移動物体の画像特徴を検出し当該画像特徴を有する画像領域を時系列の監視画像にて追跡するものが知られている。画像特徴として例えば、色に関するものが比較的単純で広く用いられている。
【0003】
画像特徴を用いた追跡では、移動物体の像の近くに存在する背景や他の移動物体が当該移動物体と似た特徴を有すると、当該似た特徴を有する領域を誤追跡する可能性がある。この点に関し、例えば、移動物体の像に現れる色を画像特徴に設定する構成では、当該移動物体の周辺領域に存在しない色を予め当該移動物体の特徴色として選択することで誤追跡の防止を図ることができる。
【0004】
なお、誤追跡の抑制を図る自動追尾装置に関して特許文献1及び特許文献2に示されるものがある。特許文献1には、移動物体の領域を表す対象枠と、対象枠を拡大した類似度枠とを設定し、それら対象枠と類似度枠とに挟まれる領域を周辺領域とする自動追尾装置が記載されている。この構成では、対象枠内の特徴量のうち類似度枠内の特徴量との類似度が低いものを追尾に用いる。また特許文献2には、移動物体の領域を表す対象指定枠の外の画像全体を周辺領域とする自動追尾装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−329490号公報
【特許文献2】特開平9−181953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
追跡に用いる画像特徴は周辺領域に存在しないものに設定されるが、周辺領域が有限である限り、当該周辺領域の外側に追跡対象の移動物体と同一又は類似する画像特徴を有する背景又は移動物体が存在する可能性がある。そのため画像特徴として、或る時点の周辺領域に存在しないものを設定しても、追跡の途中の周辺領域には当該画像特徴を有する背景又は移動物体が出現する可能性がある。その結果、同一・類似の画像特徴を有する画像領域が複数、近接又は重複して存在することとなり、それらのいずれが真の追跡対象であるかの判断が困難となって追跡不能となったり、取り違えが生じる可能性があるという問題があった。
【0007】
この可能性は例えば色に関する特徴のように、単純な画像特徴ほど高くなる。また、周辺領域を小さく設定するほど、つまり周辺領域に含まれない領域を多く残すほど当該可能性は高くなり得る。一方、色を例に説明すると、周辺領域を大きくすれば、当該可能性は小さくなり得るが、周辺領域に存在する色が増えるため追跡対象の画像特徴として設定できる色が無くなって追跡が困難となる可能性がある。
【0008】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、監視空間内を移動する複数の移動物体を好適な信頼性で追跡できる移動物体追跡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る移動物体追跡装置は、監視空間を撮影した時系列の監視画像に基づいて前記監視空間内の移動物体を追跡する移動物体追跡装置であって、前記監視画像に撮影された移動物体のうち追跡対象とする注目物体の領域を設定する注目物体設定部と、前記注目物体の領域から互いに異なる複数の注目特徴を抽出する注目特徴抽出部と、記憶部と、前記注目特徴ごとに、前後する時刻に撮像された前記監視画像の間で当該注目特徴を有する特徴領域同士を位置関係に基づいて順次同定し、前記特徴領域それぞれの位置履歴を前記記憶部に記憶させる領域情報作成部と、前記位置履歴のうち前記注目物体の領域内を起点とする位置履歴を用いて前記注目物体の物体位置を判定する物体位置判定部と、を有し、前記物体位置判定部が、前記注目特徴ごとに前記位置履歴の間で接近が発生するか否かを各時刻において推定し、当該接近が生じないと推定された注目特徴の前記位置履歴を用いて当該時刻における前記物体位置を判定する。
【0010】
他の本発明に係る移動物体追跡装置においては、前記領域情報作成部が、前記注目特徴ごとに前記特徴領域が前記監視画像上に分布する広さを算出し、当該広さが所定の基準値以上である注目特徴を処理対象から除外する。
【0011】
別の本発明に係る移動物体追跡装置は、さらに、前記注目特徴ごとに、前記時系列の監視画像にて、前記移動物体に関して想定される所定の持続時間を超えて当該注目特徴を有した画素を背景画素として抽出する背景マップ作成部を有し、前記領域情報作成部が、前記背景画素が前記監視画像上に分布する広さを算出し、当該広さが所定の基準値以上である注目特徴を処理対象から除外する。
【0012】
さらに別の本発明に係る移動物体追跡装置においては、前記領域情報作成部が、接近が生じないと推定された注目特徴の前記位置履歴を前記物体位置判定部により判定された前記物体位置に合わせて修正する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る移動物体追跡装置によれば、監視空間内を移動する複数の移動物体を好適な信頼性で追跡できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る移動物体追跡装置の概略のブロック構成図である。
【図2】注目物体情報のデータ構成を模式的に示す説明図である。
【図3】追跡領域情報のデータ構成を模式的に示す説明図である。
【図4】ダミー領域情報のデータ構成を模式的に示す説明図である。
【図5】画像蓄積部に蓄積されている監視画像群の一例を示す時系列の監視画像の模式図である。
【図6】本発明の実施形態における移動物体追跡処理の概略のフロー図である。
【図7】本発明の実施形態における表示部の画面に表示される画像の一例を示す模式図である。
【図8】図7に例示する監視画像に対応した色ヒストグラムを示す説明図である。
【図9】図7に例示する監視画像に対応した、注目特徴である色ごとの特徴領域画像の模式図である。
【図10】本発明の実施形態における領域設定処理の概略のフロー図である。
【図11】図5に例示した監視画像にて色番号「6」の追跡領域及びダミー領域を追跡処理する様子を示す模式図である。
【図12】図5に例示した監視画像にて色番号「8」の追跡領域及びダミー領域を追跡処理する様子を示す模式図である。
【図13】本発明の実施形態における領域同定処理の概略のフロー図である。
【図14】本発明の実施形態における物体位置判定処理の概略のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)である移動物体追跡装置1について、図面に基づいて説明する。移動物体追跡装置1は、監視空間を撮影した時系列の監視画像の任意時刻にて注目物体の像を指定されると、その注目物体の監視空間内の移動を時系列の監視画像に基づいて追跡するものであり、本実施形態では、一例として、監視員(利用者)が動画像中にて不審人物を注目物体として指定し、移動物体追跡装置1が指定された注目物体を追跡し、追跡結果を表示する例を説明する。図1は、実施形態に係る移動物体追跡装置1の概略のブロック構成図である。移動物体追跡装置1は、撮像部2、画像蓄積部3、表示部4、操作部5、記憶部6及び制御部7を含んで構成される。撮像部2は画像蓄積部3と接続され、画像蓄積部3、表示部4、操作部5及び記憶部6は制御部7と接続される。
【0016】
撮像部2は、監視カメラであり、例えば、監視空間の天井部に監視空間を俯瞰して設置される。撮像部2は、監視空間を所定の時間間隔で撮像し、撮影した画像(監視画像)を順次、画像蓄積部3へ出力する。以下、所定時間間隔で行われる撮影のタイミングを時刻と称する。本実施形態において監視画像はカラー画像であり、例えば、各画素の画素値がそれぞれ256階調のR値、G値及びB値の組で表現される。
【0017】
画像蓄積部3は、ハードディスクレコーダーなどの記録装置であり、撮像部2から入力された監視画像を撮像時刻と対応付けて記録する。また、制御部7から要求された撮像時刻の監視画像を出力する。画像蓄積部3は、後述する記憶部6の一部として構成されてもよい。
【0018】
表示部4は、液晶ディスプレイ、CRT等のモニタ装置を含み、当該モニタ装置は、制御部7から出力される監視画像の他、移動物体の追跡結果、GUI(Graphical User Interface)等の画像情報を表示し、監視員による視認を可能にする。
【0019】
操作部5は、マウス、タッチパネル等のポインティングデバイスを含む。操作部5は、監視員に操作され、例えば、表示部4に表示された監視画像やGUI上の位置を指示する指示操作に応じて、モニタ装置の画像上でのポインタの座標や移動量を表す情報を制御部7へ出力する。
【0020】
記憶部6は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ハードディスク等の記憶装置であり、制御部7で使用されるプログラムやデータを記憶する。記憶部6はこれらプログラム、データを制御部7との間で入出力する。記憶部6に記憶されるデータには、注目物体情報60、追跡領域情報61、ダミー領域情報62、背景マップ63が含まれる。
【0021】
図2〜図4はそれぞれ、注目物体情報60、追跡領域情報61、ダミー領域情報62のデータ構成を模式的に示す説明図である。
【0022】
注目物体情報60は、注目物体が撮像されている領域として指定された注目領域、注目物体の画像特徴である注目特徴、注目物体の追跡結果である物体位置履歴で構成される。追跡領域情報61は、追跡領域を識別するID(identification data)、当該追跡領域に対応付けられている注目特徴、当該追跡領域がロスト(消失)状態か否かを表すロストフラグ、当該追跡領域がダミー領域に対して接近状態にあるか否かを表す接近フラグ、当該追跡領域の形状を示す領域画像、当該追跡領域について予測された移動先、当該追跡領域の追跡結果である領域位置履歴で構成される。
【0023】
ダミー領域情報62は、追跡領域情報61と同様の構成であり、ダミー領域を識別するID、当該ダミー領域に対応付けられている注目特徴、当該ダミー領域がロスト状態か否かを表すロストフラグ、当該ダミー領域が追跡領域に対して接近状態にあるか否かを表す接近フラグ、当該ダミー領域の形状を示す領域画像、当該ダミー領域について予測された移動先、当該ダミー領域の追跡結果である領域位置履歴で構成される。
【0024】
制御部7は、DSP(Digital Signal Processor)、MCU(Micro Control Unit)等の演算装置を用いて構成される。制御部7は、記憶部6からプログラムを読み出して実行し、後述する各種の手段(注目物体設定部70、注目特徴抽出部71、特徴領域検出部72、背景マップ作成部73、領域設定部74、次画像取得部75、移動先予測部76、領域同定部77、物体位置判定部78等)として機能する。制御部7は、画像蓄積部3に蓄積されている監視画像を処理して注目物体の位置を追跡し、追跡結果を注目物体情報60に蓄積するとともに表示部4に適宜出力する。
【0025】
以下、制御部7の各部について説明する。
【0026】
注目物体設定部70は、画像蓄積部3に蓄積された監視画像の中から追跡の起点とする起点画像を利用者に初期設定させるとともに、当該起点画像において注目物体が撮像されている注目領域を利用者に初期設定させる。注目物体設定部70は、これら初期設定の指示を利用者から得るために、例えば、操作部5からポインタの位置情報を取得し、取得した位置情報に基づくポインタや、利用者との対話に必要なGUIを表示部4に適宜出力する。設定された起点画像及び注目領域は注目特徴抽出部71へ出力される。また、注目物体設定部70は、起点画像の撮像時刻を処理時刻の初期値として記憶部6に格納する。
【0027】
注目特徴抽出部71は、起点画像の注目領域から互いに異なる複数の注目特徴を抽出して記憶部6に格納する。こうして抽出される注目特徴はそれぞれ注目物体の像の一部を特徴付ける情報であり、画像間で注目物体を同定するための手がかりとなる。
【0028】
具体的には注目特徴として色を用いる。注目物体が移動すると照明状態が変わって色が微小に変化し得るが、そのような微小変化が生じても注目物体を同定できるように、色空間において隣接する複数の階調をひとつの色として扱う。例えば、RGB値それぞれの階調レンジを32分割して定義される32768個の色領域を「色」と定義し、これら色領域に通しの色番号を付与する。注目特徴抽出部71は、注目領域内の画素に関する色ヒストグラムを算出し、算出された色ヒストグラムから頻度が0でない色の色番号を注目特徴として抽出する。
【0029】
注目特徴は色以外のものを用いることもでき、例えば、テクスチャを用いることができる。特に、注目領域内のエッジをまたぐ部分のテクスチャが同定に効果的である。この場合、注目特徴抽出部71は、起点画像の注目領域部分からエッジを抽出し、エッジ上に例えば、3×3画素の局所領域を順次設定して当該局所領域内の起点画像の色の組み合わせのそれぞれを注目特徴として抽出する。このテクスチャは、シャツと上着といった色の組み合わせを表現できるため、注目物体が単色では一意に同定できないときも当該テクスチャでは同定が可能となる。
【0030】
制御部7は領域情報作成部を備え、特徴領域検出部72、背景マップ作成部73、領域設定部74、次画像取得部75、移動先予測部76、領域同定部77、物体位置判定部78が、当該領域情報作成部を構成する。
【0031】
特徴領域検出部72は、入力された監視画像から各注目特徴を有する特徴領域を検出し、当該特徴領域の座標を出力する。特徴領域検出部72は、監視画像から注目特徴の色と一致する画素を抽出し、各抽出画素と当該抽出画素に隣接する8画素のうちの抽出画素とをまとめて形成される領域を特徴領域として検出する。検出した特徴領域の情報は、背景マップ作成部73、領域設定部74及び領域同定部77へ出力される。
【0032】
背景マップ作成部73は、予め設定された移動物体滞在時間を超える期間に亘る複数の監視画像にて特徴領域が検出された画素を背景画素として注目特徴ごとに抽出し、注目特徴と背景画素の位置とを対応付けた背景マップ63を記憶部6に記憶させる。本実施形態では、背景マップ63は注目特徴の色番号と背景画素の座標との組が列挙されたデータとなる。混雑環境下であっても背景の一部は見え隠れする。背景マップ63は一時的に撮像された背景を寄せ集めた情報に当たる。監視空間の移動物体(つまり人)が多いほど背景が現れる領域は少なくなり、背景マップ63が表す背景は虫食い状態となるがそれで構わない。移動物体滞在時間は追跡対象の移動物体が同一画素を通過しきる時間であり、例えば、10時刻に設定することができる。
【0033】
照明等の環境は刻々と変化するため、背景マップ63は起点画像と近い時刻に撮像された監視画像を用いて作成するのがよい。背景マップ作成部73は、起点画像の撮像時刻を中心に前後50時刻、計100時刻を推定期間に設定し、画像蓄積部3から推定期間内の監視画像を順次読み出して特徴領域検出部72に入力する。そして、特徴領域検出部72から出力された特徴領域の情報に基づいて、注目特徴ごとに各画素が特徴領域として検出された回数を計数し、計数値が移動物体滞在時間を超える画素を背景画素として抽出する。なお、推定期間として起点画像の後ろ50時刻を確保できない場合は足りない分を起点画像の前の時刻で補う。
【0034】
領域設定部74は、注目特徴ごとに注目領域内の特徴領域を追跡領域に設定するとともに注目領域外の特徴領域をダミー領域に設定する。そのために領域設定部74は、起点画像を特徴領域検出部72に入力し、特徴領域検出部72から出力された特徴領域を注目領域と比較して注目領域に包含されているか否かを判定する。そして、包含されている特徴領域は追跡領域として注目特徴の色番号と対応付けて追跡領域情報61に記録し、包含されていない特徴領域はダミー領域として注目特徴の色番号と対応付けてダミー領域情報62に記録する。ここで、注目物体以外の移動物体の一部又は背景の一部がダミー領域に設定され得る。このダミー領域は、追跡の主目的ではなく、注目物体の追跡の障害となり得る領域である。
【0035】
移動物体追跡装置1は、追跡領域の他にダミー領域を追跡することで障害の発生を予測してこれを回避する。混雑した空間で不審人物を注目物体として追跡する場合、肌色や頭髪の黒色といった監視空間に広く分布している注目特徴は、追跡領域に設定しても殆どの処理時刻で回避処理が発生して注目物体の追跡に寄与しない。このことは無駄なダミー領域の追跡を増やすことをも意味する。そこで、領域設定部74は、注目特徴ごとに特徴領域が監視画像上に分布する広さを算出し、算出された広さが所定の基準値以上である注目特徴に対しては追跡領域を設定しないように制御する。具体的には、領域設定部74は、起点画像における特徴領域の分布の広さを算出し、当該広さが予め設定した基準値以上である注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定しない。
【0036】
本実施形態では、領域設定部74は、起点画像を複数のブロックに分割して各ブロックに特徴領域が含まれているか否かを確認し、特徴領域を含んだブロック数を分布の広さとして算出する。領域設定部74は算出されたブロック数が基準値を超えない注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定し、ブロック数が基準値以上となる注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定しない。例えば、基準値は全体の7割のブロック数に設定することができる。また、ブロックの大きさは追跡対象の移動物体の平均的な移動速度に応じた大きさに設定することができる。例えば、移動物体の平均速度が4時刻で監視画像を横切る程度であれば、監視画像を16分割し、その7割に当たる12ブロックを基準値に設定することができる。
【0037】
別の実施形態において領域設定部74は、各特徴領域の重心の分散値を特徴領域の分布の広さとして算出する。分散値を算出する際の平均値は監視画像の中心或いは注目領域の重心などとすればよい。また、さらに別の実施形態において領域設定部74は、特徴領域の重心を中心とし移動物体の1時刻当たりの平均移動距離を半径とする円を全特徴領域に対して設定し、これらの円の和領域の面積を特徴領域の分布の広さとして算出する。
【0038】
このように監視画像に或る程度以上の密度で広く分布する特徴領域は追跡処理に用いないことにより、無駄な処理を事前に省くことができ、効率の良い追跡が可能となる。
【0039】
また、領域設定部74は、背景マップ作成部73にて抽出された背景画素が監視画像上に分布する広さを算出し、算出された広さが基準値以上である注目特徴に対しては追跡領域を設定しないように制御する。具体的には、領域設定部74は、背景マップ63を参照して注目特徴ごとに背景画素の分布の広さを算出し、当該広さが予め設定した基準値以上となる注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定しない。分布の広さの算出とその判定は上述の特徴領域の分布に関する判定の場合と同様に行うことができる。すなわち領域設定部74は、監視画像を複数のブロックに分割して各ブロックに背景画素が含まれているか否かを確認し、背景画素を含んだブロック数を分布の広さとして算出する。領域設定部74は算出されたブロック数が基準値を超えない注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定し、ブロック数が基準値以上である注目特徴に対しては追跡領域及びダミー領域を設定しない。
【0040】
別の実施形態において領域設定部74は、各背景画像の重心の分散値を背景画像の分布の広さとして算出する。また、さらに別の実施形態において領域設定部74は、背景画像を中心とし移動物体の1時刻当たりの平均移動距離を半径とする円を全背景画像に対して設定し、これらの円の和領域の面積を背景画像の分布の広さとして算出する。
【0041】
これにより監視画像に或る程度以上の密度で広く分布する背景画素からなる特徴領域は追跡処理の対象とはならない。すなわち、起点画像において移動物体が密集して背景の大部分が隠されてしまっていても、背景に広く分布する注目特徴に対して無駄な追跡領域及びダミー領域を設定しないよう制御できる。この処理では、通常の背景差分処理を用いることができないような場合においても、背景を追跡の対象から除外することができる。
【0042】
次画像取得部75は、起点画像に続く次画像を画像蓄積部3から順次読み出し、特徴領域検出部72に入力する。すなわち、次画像取得部75は、処理時刻を1時刻ずつ更新し、更新後の処理時刻を撮像時刻とする監視画像を画像蓄積部3から読み出す。処理時刻の更新により追跡が進捗する。処理時刻が最新の撮像時刻に達した場合は新たな監視画像が蓄積されるのを待つ。
【0043】
なお、本実施形態では、処理時刻の更新は1時刻ずつインクリメントするが、監視画像が高フレームレートで撮影されている場合や、移動物体の速度が緩やかである間や、移動物体間の距離が離れていて取り違えが起こりにくいと判断される期間においては、2以上の時刻ずつ更新してもよく、またその際、移動速度や物体間距離などの状況変化に応じて適宜、1時刻ずつの更新に切り替えてもよい。
【0044】
また、1時刻加算を繰り返して注目物体が撮像範囲外に移動して未来方向の追跡が終了した後に、再び起点画像から1時刻減算を繰り返して過去方向に追跡を行うような構成も可能である。
【0045】
移動先予測部76は、現在処理対象としている時刻(現時刻)に対して過去の監視画像における特徴領域の位置に基づいて当該特徴領域の現時刻の監視画像における移動先を予測する。すなわち、移動先予測部76は追跡領域及びダミー領域のそれぞれの既に得られた位置から、次に処理対象とする監視画像における各領域の移動先を予測する。追跡領域の位置は追跡領域情報61の領域位置履歴から得ることができ、ダミー領域の位置はダミー領域情報62の領域位置履歴から得ることができる。移動先予測部76は、追跡領域の領域位置履歴に運動モデルを適用して次画像における追跡領域の移動先を予測し、各ダミー領域の領域位置履歴に運動モデルを適用して次画像における当該ダミー領域の移動先を予測する。具体的には、各領域の重心の移動先を予測するとともに、各領域の大きさを所定倍率で拡大した領域を算出し、予測重心に重心を一致させた当該拡大領域を移動先として設定する。拡大領域とするのは予測誤差を吸収するためである。倍率は固定値とすることもできるが、領域の移動速度に比例させるのが好適である。運動モデルとしては等速直線モデルやカルマンフィルタなどを採用できる。予測された移動先の情報は領域同定部77及び物体位置判定部78へ出力される。
【0046】
領域同定部77は、2時刻の監視画像間にて特徴領域の対応関係を求める。具体的には、領域同定部77は、特徴領域検出部72にて検出された次画像の特徴領域の位置を、先行画像の特徴領域それぞれについて移動先予測部76にて算出された移動先と比較して、それぞれの移動先にて次画像から検出された特徴領域を先行画像の特徴領域に対応するものとして同定する。これにより、各注目特徴の追跡領域の移動先に含まれる当該注目特徴の特徴領域が現在の追跡領域であると判定され、その判定結果によって追跡領域情報61が更新される。さらに各注目特徴のダミー領域の移動先に含まれる当該注目特徴の特徴領域が現在のダミー領域であると判定され、その判定結果によってダミー領域情報62が更新される。
【0047】
物体位置判定部78は、移動先予測部76により予測された移動先に基づいて注目特徴ごとに追跡領域とダミー領域との接近の発生を推定し、当該接近が生じないと推定された注目特徴の追跡領域の位置に基づいて次画像における注目物体の位置を判定する。具体的には、注目特徴ごとに追跡領域とダミー領域との移動先を比較して追跡領域とダミー領域との接近を検知し、接近が検知されなかった追跡領域の位置から次画像における注目物体の位置を判定し、判定した位置を注目物体情報60として記録する。
【0048】
つまり、接近が検知された追跡領域は次画像の特徴領域との間での同定処理にて、誤ってダミー領域と対応付けられている可能性があるため次画像における注目物体の位置の判定に利用せず、接近が検知されなかった追跡領域は正しく同定されるため判定に利用する。これにより注目物体の位置の誤判定を防ぐことができる。なお、接近が検知されなかった追跡領域が複数ある場合はそれらの平均値を注目物体の位置として出力する。このように接近が検知されなかった追跡領域の位置から物体位置を高い信頼性で判定することができる。
【0049】
なお、注目特徴(又は追跡領域)の数には限りがあるため一度接近が検知された注目特徴の追跡領域であっても、後の物体位置の判定に利用できるように追跡を継続しておくのがよい。ただし、既に述べたように、接近が検知されたときの追跡領域は同定処理にてダミー領域との取り違えが発生しやすく位置の信頼性が低くなっている。そこで、本実施形態では、接近が生じると推定された注目特徴の追跡領域に関し、先行時刻での当該追跡領域と対応関係にある現時刻での追跡領域の位置を、先行時刻における追跡領域の位置と、先行時刻と現時刻との間での注目物体の位置変化を表す移動ベクトルとに基づいて推定する。例えば、物体位置判定部78にて、接近が検知されなかった追跡領域に基づいて正しく判定された物体位置から注目物体の移動量を算出する。そして、この移動量を領域同定部77にフィードバックする。領域同定部77はフィードバックされた移動量を基に接近が検知された追跡領域の位置を修正する。具体的には物体位置判定部78は1時刻前の位置から最新位置までの移動ベクトルを算出し、領域同定部77は移動ベクトルを接近が検知された追跡領域の1時刻前の位置に加算して当該追跡領域の最新位置を外挿する。これにより接近が検知された注目特徴についての追跡領域の追跡を正しく継続できるので、接近が生じた後の追跡に当該注目特徴を利用でき、注目物体の追跡を円滑に継続できるようになる。
【0050】
図5は、画像蓄積部3に蓄積されている監視画像群の一例を示す時系列の監視画像の模式図である。図5には、時系列の監視画像のうち、撮像時刻T〜(T+4)の監視画像100〜104が示されている。
【0051】
以下、図5に示す監視画像群を例に用いながら、移動物体追跡装置1の動作を説明する。図6は、移動物体追跡装置1における移動物体追跡処理の概略のフロー図である。移動物体追跡装置1は、起動されると当該フロー図に従った動作を始める。
【0052】
まず、制御部7の注目物体設定部70は監視員に起点画像を指定させ(S1)、さらに注目領域を指定させる(S2)。図7は、表示部4の画面に表示される画像の一例を示す模式図である。図7に示す画面には起点画像とする時刻Tの監視画像が表示されている。図7を参照しながら指定処理S1,S2を具体的に説明する。注目物体設定部70は表示部4に再生領域200、再生スイッチ201、確定ボタン202を含んだGUIを表示させて操作部5からの入力を受け付ける。操作部5により再生スイッチ201が操作されて再生・巻き戻し・早送り・コマ送り・一時停止などが指示されると、注目物体設定部70は指示に応じて撮像時刻を増減させるとともに、増減後の撮像時刻に対応する監視画像を画像蓄積部3から読み出して再生領域200に表示させる。監視員は不審人物が撮像された監視画像を見つけると、操作部5により確認ボタン202−1を押下する。確認ボタン202−1が押下されると注目物体設定部70は表示中の監視画像を起点画像と認識し、起点画像の撮像時刻を処理時刻として記憶部6に記憶させる。
【0053】
起点画像が指定されると注目領域の指定に移る。監視員が操作部5を操作し、起点画像において不審人物が撮像されている注目領域210を指示すると、注目物体設定部70は指示された注目領域内の画素値を1、その他の画素値を0に設定した注目領域画像を注目物体情報60に記録する。
【0054】
このようにして注目領域画像が得られると、次に制御部7は注目特徴抽出部71により、注目領域210から注目物体の注目特徴を抽出する(S3)。注目特徴抽出部71は、起点画像のうち注目領域画像の画素値が1である画素に対応する画素を全て選出し、選出された画素の色ヒストグラム220を算出する。そして、色ヒストグラム220において頻度が0でない色のそれぞれを注目物体の部分特徴と判定して、それらの色番号(色#)及び頻度値を当初の注目特徴として注目物体情報60に記録する。図8は、図7に示す時刻Tの監視画像を起点画像とする例における色ヒストグラム220を示す説明図である。図8に示す色ヒストグラム220の例では、色#1,6,8,9,11の5色が注目特徴となる。
【0055】
また、制御部7は背景マップ作成部73により背景マップ63を作成する(S4)。背景マップ作成部73は、上述したように起点画像の撮像時刻を基準とする100時刻を推定期間に設定し、推定期間内の監視画像を順次読み出して特徴領域検出部72に入力する。背景マップ作成部73は、順次入力した監視画像から特徴領域検出部72が検出した特徴領域を基に画素ごとの注目特徴のヒストグラムを算出する。そして、当該各ヒストグラムにおいて度数が10以上である注目特徴を選出して、選出された注目特徴の色番号と画素とを対応付けた背景マップ63を記憶部6に記憶させる。
【0056】
また、特徴領域検出部72は起点画像から各注目特徴を有する特徴領域を抽出する(S5)。特徴領域検出部72は、注目特徴ごとに特徴領域の画素値を1、その他の画素値を0に設定した特徴領域画像を記憶部6に記憶させる。図9は、図7に示す時刻Tの監視画像を起点画像とする例における色#1,6,8,9,11それぞれの特徴領域画像300〜304の模式図であり、網掛け部分が特徴領域を表している。
【0057】
次に制御部7は領域設定部74により、ステップS5にて検出された特徴領域の中から追跡領域及び当該追跡領域のダミー領域を選択的に設定する(S6)。図10は、領域設定処理S6の概略のフロー図である。以下、図10を参照して、領域設定処理S6を説明する。
【0058】
領域設定部74は注目特徴についてのループ処理を実行し(S60〜S70)、注目特徴ごとに追跡領域及びダミー領域をそれぞれ定める。領域設定部74は上述したように、処理対象とする注目特徴の特徴領域画像を16個のブロックに分割して各ブロックに画素値1の画素が含まれているか確認し、画素値1の画素が含まれているブロックの数を特徴領域の分布の広さとして算出し(S61)、分布の広さを基準値と比較する(S62)。領域設定部74は、ブロック数が12個未満であれば分布は狭いと判定し、12個以上であれば広いと判定する。広いと判定された注目特徴は追跡対象外となる(S62にてYES)。図9に示す例では、処理S61,S62にて色#1,9,11の特徴領域は追跡対象外とされる。
【0059】
また、領域設定部74は上述したように、背景マップ63が表す画像を16個のブロックに分割して各ブロックに背景画素が含まれているか確認し、背景画素が含まれているブロックの数を背景画素の分布の広さとして算出し(S62)、分布の広さを基準値と比較する(S63)。領域設定部74は、ブロック数が12個未満であれば分布は狭いと判定し、12個以上であれば広いと判定する。広いと判定された注目特徴は追跡対象外となる(S64にてYES)。図9に示す例では、床の色に対応する色#9は、既に処理S62にて追跡対象外とされているが、仮に人が密集して床の大部分を隠してしまい処理S61の分布の広さが基準値未満となっても(S62にてNO)、背景マップ63を基に計数されるブロック数は12個以上なり背景に広く分布する色#9を追跡対象外とすることができる。
【0060】
起点画像における特徴領域の分布と背景マップ63における背景画像の分布とがともに狭いと判定された注目特徴が追跡対象とされ(S64にてNO)、続く、追跡領域及びダミー領域の設定処理(S65〜S69)の対象とされる。図9の例では色#6及び色#8が追跡対象となる。
【0061】
領域設定部74は、処理対象とする注目特徴に係る特徴領域についてのループ処理を実行する(S65〜S69)。当該ループ処理では、未処理の特徴領域を順次、選択して(S65)処理する(S66〜S69)。当該処理では、当該注目特徴の特徴領域画像をステップS3にて生成された注目領域画像と重ね合わせて各特徴領域が物体領域に包含されるか否かを確認する(S66)。両画像において画素値が1である特徴領域は注目領域内に包含されているとして(S66にてYES)、当該特徴領域に外接する矩形を処理対象の注目特徴における追跡領域として領域ID及び属性とともに記憶させる(S67)。一方、特徴領域画像においてのみ画素値が1である特徴領域は注目領域に包含されていないとして(S66にてNO)、その外接矩形を処理対象の注目特徴におけるダミー領域として領域ID及び属性とともに記憶させる(S68)。
【0062】
図9の例では、色#6について追跡領域310とダミー領域311,312が設定され、色#8について追跡領域320とダミー領域321,322が設定される。
【0063】
全ての注目特徴に対しループ処理が終了すると領域設定処理S6は終了する(S70にてYES)。
【0064】
領域設定処理S6が終了すると、図6にて次の処理である移動先予測処理S7が行われる。当該処理S7は制御部7の移動先予測部76により行われる。移動先予測部76は、追跡領域の領域位置履歴から移動先を予測して追跡領域情報61に記録し、ダミー領域の領域位置履歴から移動先を予測してダミー領域情報62に記録する。
【0065】
図11は図5に例示した監視画像にて色#6の追跡領域及びダミー領域を追跡処理する様子を示す模式図であり、画像400〜404がそれぞれ撮像時刻T〜(T+4)に対応する。また、図12は図5に例示した監視画像にて色#8の追跡領域及びダミー領域を追跡処理する様子を示す模式図であり、画像500〜504がそれぞれ撮像時刻T〜(T+4)に対応する。図11,図12中の○印が追跡領域情報61又はダミー領域情報62に記録されている各領域の位置、×印が移動先の重心である予測位置、一点鎖線で囲む領域が移動先範囲をそれぞれ表している。移動先予測部76は、追跡領域情報61又はダミー領域情報62の領域位置履歴の情報に等速直線モデルを適用して外挿により追跡領域及びダミー領域の予測位置を求める。そして、予測誤差を考慮して各領域を拡大し、重心を予測位置に一致させた移動先範囲を算出する。図11、図12の例では予測誤差を各領域の大きさ程度と見積り、各領域の大きさを縦横2倍して移動先範囲を算出した。こうして追跡領域及びダミー領域の移動速度(方向及び速さ)に合わせた方向及び位置に移動先が予測される。ただし、追跡領域情報61又はダミー領域情報62の領域位置履歴に位置の情報が1つしかない当初は移動速度が不明であるため、起点画像と1時刻違いの次画像における移動先は方向を限定せず、追跡領域及びダミー領域の当初位置そのものを重心とする範囲であって、かつ上述の移動速度が分かる場合よりも大きく各領域を拡大させた範囲を移動先範囲とする。例えば、本実施形態では、当初の移動先範囲は、その後の時刻におけるよりも1.5倍大きく拡大する。
【0066】
続いて、次画像取得処理S8が行われる。制御部7の次画像取得部75は、処理時刻を更新し、更新後の処理時刻を撮像時刻とする監視画像を次画像として画像蓄積部3から読み出す。
【0067】
制御部7の特徴領域検出部72は、読み出された次画像から各注目特徴を有する特徴領域を検出する(S9)。図5にて、撮像時刻(T+1)〜(T+4)の監視画像101〜104にはそれぞれ1時刻前の先行画像が存在し、それぞれ当該先行画像に対して次画像となる。図11の画像401〜404において実線で示した領域は監視画像101〜104から検出された色#6の特徴領域(領域ID「A」〜「C」)を表している。また、図12の画像501〜504において実線で示した領域は監視画像101〜104から検出された色#8の特徴領域(領域ID「D」〜「F」)を表している。
【0068】
制御部7の領域同定部77は、ステップS9にて検出された各特徴領域を先行画像の追跡領域又はダミー領域に対応するものとして同定する(S10)。図13は、領域同定処理S10の概略のフロー図である。以下、図13を参照して、領域同定処理S10を説明する。
【0069】
領域同定処理S10では、注目特徴についてのループ処理が設けられ(S100〜S108)、さらに注目特徴のループ処理の中に、追跡対象、すなわち処理対象の注目特徴に係る追跡領域及びダミー領域についてのループ処理が設けられる(S101〜S106)。
【0070】
追跡対象ごとに行われる内側のループ処理において領域同定部77は、各追跡対象について予測された移動先を、次画像の特徴領域のうち当該追跡対象と注目特徴を同じくするものの位置と比較し、追跡対象の移動先範囲に含まれ、かつ追跡対象の予測位置に最も近い特徴領域を当該追跡対象として同定する(S102)。このとき移動物体相互の接近により本来の追跡領域とダミー領域、或いは複数のダミー領域が一体化して1つの特徴領域となってしまっている場合もあるが、1つの特徴領域に対し複数の追跡対象を同定することを許容する。
【0071】
領域同定部77は、追跡対象がいずれかの特徴領域と同定できた場合(S103にてYES)、当該特徴領域の重心を領域位置として算出し、当該特徴領域の画像と領域位置とで、同定された追跡対象に対応する追跡領域情報61又はダミー領域情報62を更新する(S104)。
【0072】
他方、追跡対象がいずれの特徴領域とも同定されなかった場合(S103にてNO)、領域同定部77は追跡対象のロスト処理を行う(S105)。ちなみに同定不能な状態は、追跡対象が視野外に移動した場合又は追跡対象がオクルージョンにより隠れている場合に発生する。領域同定部77は、追跡対象が追跡領域であれば対応する追跡領域情報61のロストフラグをオンにして追跡を保留し、追跡対象がダミー領域であれば対応するダミー領域情報62を削除して追跡対象から外す。
【0073】
処理対象の或る注目特徴に係る追跡対象ごとのループ処理を終えると(S106にてYES)、領域同定部77は、当該注目特徴に関し、いずれの追跡対象とも同定されなかった特徴領域があるか否かを確認し、該当する特徴領域があれば当該特徴領域を新たなダミー領域としてダミー領域情報62に追加する(S107)。また、まだ処理対象とされていない注目特徴があれば(S108にてNO)、それを処理対象にセットして(S100)、上述した処理S101〜S107を行う。
【0074】
こうして全ての注目特徴に係るループ処理を終えると(S108にてYES)、処理は図6にて次の処理である物体位置判定処理S11に進む。
【0075】
制御部7は物体位置判定部78により、追跡領域の位置から注目物体の移動軌跡を判定する(S11)。図14は、物体位置判定処理S11の概略のフロー図である。以下、図14を参照して、物体位置判定処理S11を説明する。
【0076】
まず、物体位置判定部78は各追跡領域のロストフラグを確認する(S110)。全追跡領域のロストフラグがオンになっている場合(S110にてYES)、注目物体は視野外に移動したものとして注目物体のロストフラグをオンにし(S118)、物体位置判定処理S11を終了する。
【0077】
一方、いずれかの追跡領域のロストフラグがオフになっている場合(S110にてNO)、物体位置判定部78は、注目特徴についてのループ処理を設定して(S111〜S116)、注目特徴ごとに追跡領域の移動先とダミー領域の移動先とを比較して接近判定を行う(S112)。物体位置判定部78は、追跡領域に接近するダミー領域が1つでもあれば(S113にてYES)当該追跡領域の接近フラグをオンに設定し(S114)、追跡領域に接近するダミー領域が1つもなければ(S113にてNO)当該追跡領域の接近フラグをオフに設定する(S115)。
【0078】
接近判定を終えると物体位置判定部78は追跡領域のフラグを再度確認する(S117)。ロストフラグがオフ、かつ接近フラグがオフの追跡領域が1つもなければ(S117にてNO)、物体位置判定部78は、信頼できる注目特徴がなくなったために追跡続行不能であるとして注目物体のロストフラグをオンにし(S118)、物体位置判定処理を終了する。
【0079】
一方、ロストフラグがオフ、かつ接近フラグがオフの追跡領域があれば(S117にてYES)、物体位置判定部78は、接近フラグがオフになっている追跡領域の最新位置を平均して次画像における注目物体の位置を算出し、注目物体情報60に追記する(S119)。さらに物体位置判定部78は、1時刻前の注目物体の位置からS119にて算出した注目物体の最新位置までの移動ベクトルを算出して領域同定部77にフィードバックする(S120)。移動ベクトルが入力された領域同定部77は接近フラグがオン又はロストフラグがオンになっている追跡領域の1時刻前の位置に移動ベクトルを加算して当該追跡領域の最新位置を修正する(S121)。
【0080】
こうして注目物体の最新位置が判定されると、制御部7は追跡結果として注目物体の物体位置履歴を表示部4にプロット表示する(図6のS12)。
【0081】
制御部7は注目物体のロストフラグを確認して(S13)、ロストフラグがオンであれば追跡処理を終了し、ロストフラグがオフであれば追跡を継続するために処理を再びステップS7へ戻し、監視空間における注目物体の追跡が続行される。
【符号の説明】
【0082】
1 移動物体追跡装置、2 撮像部、3 画像蓄積部、4 表示部、5 操作部、6 記憶部、7 制御部、60 注目物体情報、61 追跡領域情報、62 ダミー領域情報、63 背景マップ、100〜104 監視画像、200 再生領域、201 再生スイッチ、202 確定ボタン、220 色ヒストグラム、300〜304 特徴領域画像、310,320 追跡領域、311,312,321,322 ダミー領域、400〜404,500〜504 画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視空間を撮影した時系列の監視画像に基づいて前記監視空間内の移動物体を追跡する移動物体追跡装置であって、
前記監視画像に撮影された移動物体のうち追跡対象とする注目物体の領域を設定する注目物体設定部と、
前記注目物体の領域から互いに異なる複数の注目特徴を抽出する注目特徴抽出部と、
記憶部と、
前記注目特徴ごとに、前後する時刻に撮像された前記監視画像の間で当該注目特徴を有する特徴領域同士を位置関係に基づいて順次同定し、前記特徴領域それぞれの位置履歴を前記記憶部に記憶させる領域情報作成部と、
前記位置履歴のうち前記注目物体の領域内を起点とする位置履歴を用いて前記注目物体の物体位置を判定する物体位置判定部と、
を有し、
前記物体位置判定部は、前記注目特徴ごとに前記位置履歴の間で接近が発生するか否かを各時刻において推定し、当該接近が生じないと推定された注目特徴の前記位置履歴を用いて当該時刻における前記物体位置を判定すること、
を特徴とする移動物体追跡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動物体追跡装置において、
前記領域情報作成部は、前記注目特徴ごとに前記特徴領域が前記監視画像上に分布する広さを算出し、当該広さが所定の基準値以上である注目特徴を処理対象から除外すること、を特徴とする移動物体追跡装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の移動物体追跡装置において、さらに、
前記注目特徴ごとに、前記時系列の監視画像にて、前記移動物体に関して想定される所定の持続時間を超えて当該注目特徴を有した画素を背景画素として抽出する背景マップ作成部を有し、
前記領域情報作成部は、前記背景画素が前記監視画像上に分布する広さを算出し、当該広さが所定の基準値以上である注目特徴を処理対象から除外すること、
を特徴とする移動物体追跡装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の移動物体追跡装置において、
前記領域情報作成部は、接近が生じないと推定された注目特徴の前記位置履歴を前記物体位置判定部により判定された前記物体位置に合わせて修正すること、を特徴とする移動物体追跡装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−181014(P2011−181014A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47167(P2010−47167)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【出願人】(000108085)セコム株式会社 (596)
【Fターム(参考)】