説明

移動装置及び制御方法

【課題】長時間にわたって精密移動し得るようにする。
【解決手段】移動装置1は、第1ベース板3に対して、脚部ユニット11A及び11Bにおいて永久磁石7の磁力による通常吸着と当該永久磁石7及び電磁石部12の磁力による強吸着とを切り換えながら圧電素子10の全長を伸張させることにより前後方向に移動する第1移動部5と、当該第1移動部5と同様の動作により第2ベース板4を左右方向に移動させる第2移動部6とを組み合わせたことにより、第1ベース板3に対して第2ベース板4を2軸方向に自在に移動し得ると共に、静止状態においてコイルに電流を流し続けることなく静止位置を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は移動装置及び制御方法に関し、例えば精密な移動作業に用いる小型の移動装置に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型の移動装置として、電磁石及び圧電素子を組み合わせたものが提案されている。この移動装置は、コイルが巻き付けられた磁芯でなる脚部を複数有しており、各脚部同士が圧電素子を介して接続されている。
【0003】
実際上、この移動装置は、磁性体でなる走行面上に置載された状態で、各脚部のコイルに流す電流をそれぞれ制御することにより磁力を発生させて各脚部を当該走行面に対して吸着または非吸着させると共に、圧電素子に印加する電圧を変化させることにより伸縮させ、これらの動作を適宜組み合わせて制御することにより、尺取虫状に精密移動するようになされている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−254398公報(第5頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、かかる構成の移動装置は、移動時に非吸着状態の脚部を引きずることになるため、移動速度の向上等の観点から、脚部の先端と走行面との摩擦が小さくなるようになされている。
【0005】
このため移動装置は、仮に全ての脚部を非吸着状態とした場合、外部からの僅かな力を受けただけでも移動してしまうため、その位置を保持できない。
【0006】
そこで移動装置は、静止中にその位置を保持するためには、コイルに電流を流し続けることにより脚部を走行面に吸着させておく必要がある。
【0007】
しかしながら移動装置は、移動中及び静止中のいずれにおいても、いずれかのコイルに電流を流し続けることになるため、移動作業を長時間継続した場合、コイルが発熱し、これに伴う電気抵抗の増大等により磁力が弱まり走行面に対する吸着力が低下してしまう。このため移動装置は、所望する場所への移動や静止位置の維持を正常に行い得なくなってしまい、長時間にわたる移動作業に適さないという問題があった。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、長時間にわたって精密移動し得る移動装置及びその制御方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明の移動装置においては、第1方向へ移動し得る第1移動部と、当該第1方向と異なる第2方向へ移動し得る第2移動部とが一体に構成されてなる移動装置であって、第1移動部は、磁性体でなる第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第1脚部と、第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第2脚部と、第1脚部及び第2脚部の移動可能方向を第1方向に制限する第1移動方向制限部と、第1方向に関する第1脚部と第2脚部との間隔を変更する第1間隔変更部と、第1脚部における磁力を強化することにより第1基台に対する第1脚部の吸着力を強化する第1磁力強化手段と、第2脚部における磁力を強化することにより第1基台に対する第2脚部の吸着力を強化する第2磁力強化手段とを設け、第2移動部は、磁性体でなる第2基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第3脚部と、第2基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第4脚部と、第3脚部及び第4脚部の移動可能方向を第2方向に制限する第2移動方向制限部と、第2方向に関する第3脚部と第4脚部との間隔を変更する第2間隔変更部と、第3脚部における磁力を強化することにより第2基台に対する第3脚部の吸着力を強化する第3磁力強化手段と、第4脚部における磁力を強化することにより第2基台に対する第4脚部の吸着力を強化する第4磁力強化手段とを設けるようにした。
【0010】
これにより第1脚部、第2脚部、第3脚部及び第4脚部がそれぞれ永久磁石の磁力によって第1基台又は第2基台に吸着できるため、非移動時に第1磁力強化手段、第2磁力強化手段、第3磁力強化手段及び第4磁力強化手段を動作させること無く第1基台又は第2基台に対する位置を維持することができる。
【0011】
また本発明の制御方法においては、第1方向へ移動し得る第1移動部と、当該第1方向と異なる第2方向へ移動し得る第2移動部とが一体に構成されてなる移動装置の制御方法であって、第1移動部は、磁性体でなる第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第1脚部と、第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第2脚部と、第1脚部及び第2脚部の移動可能方向を第1方向に制限する第1移動方向制限部と、第1方向に関する第1脚部と第2脚部との間隔を変更する第1間隔変更部と、第1脚部における磁力を強化することにより第1基台に対する第1脚部の吸着力を強化する第1磁力強化手段と、第2脚部における磁力を強化することにより第1基台に対する第2脚部の吸着力を強化する第2磁力強化手段とを設け、第2移動部は、磁性体でなる第2基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第3脚部と、第2基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第4脚部と、第3脚部及び第4脚部の移動可能方向を第2方向に制限する第2移動方向制限部と、第2方向に関する第3脚部と第4脚部との間隔を変更する第2間隔変更部と、第3脚部における磁力を強化することにより第2基台に対する第3脚部の吸着力を強化する第3磁力強化手段と、第4脚部における磁力を強化することにより第2基台に対する第4脚部の吸着力を強化する第4磁力強化手段とを設け、移動装置に接続された制御部による制御に基づき、第2磁力強化手段により第2脚部の磁力を強化し、第1間隔変更部により第1脚部と第2脚部との間隔を広げ、第2磁力強化手段により第2脚部の磁力を元に戻すと共に第1磁力強化手段により第1脚部の磁力を強化し、第1間隔変更手段により第1脚部と第2脚部との間隔を縮め、第1磁力強化部により第1脚部の磁力を元に戻すことにより第1基台上を第1方向へ移動し、制御部による制御に基づき、第4磁力強化手段により第4脚部の磁力を強化し、第2間隔変更部により第3脚部と第4脚部との間隔を広げ、第4磁力強化手段により第4脚部の磁力を元に戻すと共に第3磁力強化手段により第3脚部の磁力を強化し、第2間隔変更部により第3脚部と第4脚部との間隔を縮め、第3磁力強化手段により第3脚部の磁力を元に戻すことにより第2基台上を第2方向へ移動するようにした。
【0012】
これにより第1脚部、第2脚部、第3脚部及び第4脚部がそれぞれ永久磁石の磁力によって第1基台又は第2基台に吸着できるため、非移動時に第1磁力強化手段、第2磁力強化手段、第3磁力強化手段及び第4磁力強化手段を動作させること無く第1基台又は第2基台に対する位置を維持し得ると共に、移動時に第1基台上を第1方向へ移動することができ、また第2基台上を第2方向へ移動することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第1脚部、第2脚部、第3脚部及び第4脚部がそれぞれ永久磁石の磁力によって第1基台又は第2基台に吸着できるため、非移動時に第1磁力強化手段、第2磁力強化手段、第3磁力強化手段及び第4磁力強化手段を動作させること無く第1基台又は第2基台に対する位置を維持することができ、かくして長時間にわたって精密移動し得る移動装置を実現できる。
【0014】
また本発明によれば、第1脚部、第2脚部、第3脚部及び第4脚部がそれぞれ永久磁石の磁力によって第1基台又は第2基台に吸着できるため、非移動時に第1磁力強化手段、第2磁力強化手段、第3磁力強化手段及び第4磁力強化手段を動作させること無く第1基台又は第2基台に対する位置を維持し得ると共に、移動時に第1基台上を第1方向へ移動することができ、また第2基台上を第2方向へ移動することができ、かくして長時間にわたって精密移動し得る移動装置の制御方法を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0016】
(1)移動装置の構成
(1−1)全体構成
図1において、移動装置1は移動ロボット2を中心に構成され、当該移動ロボット2の下側および上側にそれぞれ板状の磁性体でなる第1ベース板3及び第2ベース板4が当接されている。
【0017】
移動ロボット2は、第1基台としての第1ベース板3に対して第1方向としての前後方向へ移動し得るようになされると共に、第2基台としての第2ベース板4に対して第2方向としての左右方向へ移動し得るようになされている。このため移動装置1は、第1ベース板3を図示しない台に対して固定した場合、移動ロボット2及び第2ベース板4を一体として前後方向に移動させ得ると共に、移動ロボット2に対して第2ベース板4を左右方向に移動させ得ることになり、結果的に2軸の位置決め装置(いわゆるX−Yステージ)として機能し得るようになされている。
【0018】
移動ロボット2は、図2に示すように、大きく分けて下側の第1移動部5と上側の第2移動部とにより構成されている。ここで第1移動部5及び第2移動部6は、扁平な円盤状でなる4枚の永久磁石7(7A〜7D)を介して互いに接続されており、当該永久磁石7を共有するようになされている。
【0019】
このため移動ロボット2は、第1移動部5及び第2移動部6にそれぞれ独立した永久磁石を用いる場合よりも小型化及び軽量化し得るようになされている。
【0020】
因みに永久磁石7A〜7Dは、磁極の向きが揃えられており、いずれも上側がN極となり下側がS極となるようになされている。
【0021】
移動ロボット2の第1移動部5は、上面から見て全体的に略H字状に構成されており、上下方向の厚みが抑えられ扁平に構成されると共に、下側の4隅にそれぞれ脚8A〜8Dが設けられている。
【0022】
因みに移動ロボット2は、前後の奥行き及び左右の幅がいずれも約40[mm]、上下の高さが約35[mm]となっており、全体として小型に構成されている。
【0023】
一方、第1ベース板3は、その上面に断面略V字状の溝部3A及び3Bが設けられており、当該溝部3Aに脚8A及び8Cが嵌ると共に当該溝部3Bに脚8B及び8Dが嵌るようになされている。この溝部3A及び3Bは、前後に渡って直線状に形成されており、脚8A及び8C並びに脚8B及び8Dをガイドするレールとして作用することにより、第1移動部5を前方向又は後方向へ直線状に移動させ得るようになされている。
【0024】
また移動ロボット2の第2移動部6は、第1移動部5とほぼ同様の構成を有しており、当該第1移動部5に対して上下反対に、且つ90度回転された状態になされている。この第2移動部6は、第1移動部5の脚8A〜8Dと対応する脚9A〜9Dを有しており、第1ベース板3の溝部3A及び3Bと対応する第2ベース板4の溝部4A及び4Bに当該脚9A〜9Dがそれぞれ嵌るようになされている。
【0025】
これにより溝部4A及び4Bは、溝部3A及び3Bと同様、脚9A〜9Dをガイドするレールとして作用することにより、第2移動部6に対して第2ベース板4を右方向又は左方向へ直線状に移動させ得るようになされている。
【0026】
なお、このように第1移動部5及び第2移動部6は、互いの向きが異なること以外は同様に構成されているため、以下では第1移動部5を例として説明する。
【0027】
(1−2)移動部の構成
第1移動部5は、図3に示すように、大きく分けて、中央の圧電素子10、前側の脚部ユニット11A、及び後側の脚部ユニット11Bにより構成されている。
【0028】
圧電素子10は、全体として直方体状でなり、電圧が印加された場合、その電圧に応じた長さだけ伸張するようになされており、印加された電圧に応じて、脚部ユニット11Aと脚部ユニット11Bとの間の距離を変化させるようになされている。
【0029】
脚部ユニット11Aは、電磁石部12A、永久磁石7A及び7B、並びにフレーム13Aによって構成されている。電磁石部12Aは、図4(A)及び(B)に示すように、剛性を有する磁性体でなる磁芯材14Aを中心に構成されている。この磁芯材14Aは、左右方向に延長された略直方体の左右両端が下方に向けてほぼ直角に折り曲げられたような形状を有しており、この下方に折り曲げられた部分が脚8A及び8Bとなっている。
【0030】
因みに脚8A及び8Bの下面は、前面から見て略半円を描くように丸められており、断面略V字状でなる溝部3A及び3B(図2)に嵌る際にがたつき無く当接し得るようになされている。
【0031】
また電磁石部12Aには、図3に示したように、磁芯材14Aの上面左右外側、すなわち脚8A及び8Bの上側の面に対して、それぞれ永久磁石7A及び7Bが取り付けらている。
【0032】
さらに電磁石部12Aは、磁芯材14Aの中央部分にコイル15Aが巻回されており、当該コイル15Aに電流が流されることにより電磁石として作用するようになされている。このとき電磁石部12Aは、コイル15Aに電流が流されることにより生じる磁力と永久磁石7A及び7Bとの相互作用により、脚8A又は8Bに磁力を発生させ、第1ベース板3に対する吸着力を強化し得るようになされている(詳しくは後述する)。
【0033】
一方、フレーム13Aは、剛性を有する非磁性材料でなり、左右方向に延長された直方体の左右端面がいずれも前方に向くようほぼ直角に折り曲げられたような形状を有している。このフレーム13Aは、左右の前方に突出した部分を介して電磁石部12Aの後側に取付固定され、さらに後面のほぼ中央部において圧電素子10の前面に対して取付固定されている。
【0034】
脚部ユニット11Bは、電磁石部12Aと対応する電磁石部12B、フレーム13Aと対応するフレーム13B、永久磁石7A及び7Bと対応する永久磁石7C及び7Dを有しており、全体として脚部ユニット11Aを前後に反転させたような構成となっている。
【0035】
ここで脚部ユニット11Aは、仮に脚部ユニット11Bが第1ベース板3(図2)に対して固定された状態で圧電素子10が伸張された場合、脚8A及び8Bを溝部3A及び3Bに沿わせながら前方向に直線状に移動される。また脚部ユニット11Aは、これと反対に圧電素子10が伸張された状態から縮められた場合、脚8A及び8Bを溝部3A及び3Bに沿わせながら後方向に直線状に移動されることになる。
【0036】
このように第1移動部5は、圧電素子10により脚部ユニット11Aと脚部ユニット11Bとの間の距離を変化させると共に、電磁石部12A及び電磁石部12Bにより、脚8A、8B、8C又は8Dに磁力を発生させ得るようになされている。
【0037】
(1−3)脚部ユニットによるベース板への吸着
次に、脚部ユニット11A及び11Bおける、第1ベース板3に対する吸着力について、脚部ユニット11Aを例として、当該脚部ユニット11Aを前側から見た状態を模式的に表した図5(A)及び(B)を用いて説明する。
【0038】
図5(A)は、コイル15Aに通電されていない状態(以下、これを非通電状態と呼ぶ)の脚部ユニット11Aを表している。この場合、磁束を破線矢印で示すように、永久磁石7A及び7Bによる磁力のみが脚8A及び8Bに作用するため、当該脚8A及び8Bはいずれも第1ベース板3の溝部3A及び3Bに対して所定の吸着力(以下、これを通常吸着力F0とする)で吸着する。
【0039】
この結果、脚部ユニット11Aは、全体として第1ベース板3に対してある程度の吸着力で吸着することになる(以下、このことを通常吸着と呼ぶ)。このとき脚部ユニット11Aは、通常吸着力F0により第1ベース板3に対して吸着しているため、多少の外力を受けたとしても、この外力によって移動されることはない。
【0040】
これに対して図5(B)は、コイル15A(細線で示す)に通電されている状態(以下、これを通電状態と呼ぶ)の脚部ユニット11Aを表している。この場合、磁束を破線矢印で示すように、永久磁石7A及び7Bによる磁力に加えて、コイル15Aによる電磁力も脚8A及び8Bに作用することになる。
【0041】
このコイル15Aは、電流が供給されることによって磁界を発生させ、磁芯材14Aの左側(脚8A側)にS極を形成すると共に、その反対の右側(脚8B側)にN極を形成する。
【0042】
このとき磁芯材14Aの左側部分では、永久磁石7Aの下側に形成されるS極と、コイル15Aにより形成されたS極とが互いに強め合うことになるため、図5(B)に示したように、非通電状態と比較して、脚8Aを通る磁束の数が増加し吸着力が強められることになる(以下、このときの吸着力を強吸着力F+とする)。
【0043】
また磁芯材14Aの右側部分では、永久磁石7Aの下側に形成されるS極と、コイル15Aにより形成されたN極とが互いに打ち消し合うことになるため、図5(B)に示したように、非通電状態と比較して、脚8Bを通る磁束の数が減少し吸着力が弱められることになる(以下、このときの吸着力を弱吸着力F−とする)。
【0044】
因みに脚部ユニット11Aは、図5(B)に示したように、磁芯材14Aと第1ベース板3との間に閉ループ磁気回路を形成していることにより、脚8Aによる吸着力を一段と強化している。
【0045】
この結果、脚部ユニット11Aは、全体として、脚8Aによる吸着力の増加により、全体として第1ベース板3に対して強く吸着することになる(以下、このことを強吸着と呼ぶ)。
【0046】
このように脚部ユニット11Aは、非通電状態のときには永久磁石7の磁力により第1ベース板3に対して通常吸着し、非通電状態のときには永久磁石7及び電磁石部12Aの磁力により当該第1ベース板3に対して強吸着するようになされている。
【0047】
因みに脚部ユニット11B(図3)も、脚部ユニット11Aと同様、コイル15Bが非通電状態であれば、第1ベース板3に対して通常吸着し、当該コイル15Bが通電状態であれば、当該第1ベース板3に対して強吸着状態となる。
【0048】
また、第1移動部5及び第2移動部6は、上述したように永久磁石7A〜7Dを共有しているものの、当該第1移動部5と当該第2移動部6とが磁気回路的に分離されているため、互いに磁気的な影響を及ぼさないようになされている。
【0049】
(2)移動部の移動
(2−1)移動装置制御回路の構成
ところで移動装置1(図1)は、図6に示す移動装置制御回路40によって制御されるようになされている。因みに、この図6では、移動装置1のうち第1移動部5及び第2移動部6のみを示している。
【0050】
移動装置制御回路40は、CPU(Central Processing Unit)41により全体を統括制御されており、ROM(Read Only Memory)42から読み出したOS(Operating System)や移動制御プログラム等の各種アプリケーションプログラムをRAM(Random Access Memory)43に展開して実行することにより、移動装置1に対する移動制御を行うようになされている。
【0051】
CPU41は、移動制御プログラムに従い、ジョグダイヤルやキーボード等でなる操作部44を介してユーザからの入力指示を受け付け、当該入力指示に基づいて第1移動制御部45及び第2移動制御部46に対して所定の制御信号を送出することにより、第1移動部5及び第2移動部6をそれぞれ制御させるようになされている。
【0052】
因みに移動装置1は、第1移動部5及び第2移動部6を電気回路的に独立させているため、当該第1移動部5及び当該第2移動部6をそれぞれ独立して制御し得るようになされている。
【0053】
またCPU41は、操作部44を介して取得した入力指示や第1移動制御部45及び第2移動制御部46に対する制御結果等を所定の表示形式でモニタ47に表示させ、その内容をユーザに視認させ得るようになされている。
【0054】
第1移動制御部45は、コイル15A又はコイル15Bに電流を供給するための電源部51を有しており、当該電源部51におけるマイナス側の端子が当該コイル15A及び当該コイル15Bの一端にそれぞれ接続されており、また当該電源部51におけるプラス側の端子がスイッチ52に接続されている。
【0055】
スイッチ52は、CPU41から供給されるコイル制御信号CC1に基づき、コイル15Aの他端に接続された端子a、コイル15Bの他端に接続された端子b、及びいずれにも接続されない端子nといった3種類の端子のいずれかに切り換えるようになされている。
【0056】
実際上、第1移動制御部45は、CPU41から供給されるコイル制御信号CC1に基づきスイッチ52を端子aに切り換えた場合、コイル15Aに供給電流IC1を与えて通電状態とすることにより、第1ベース板3に対して脚部ユニット11Aを強吸着させると共に脚部ユニット11Bを通常吸着させる。
【0057】
また第1移動制御部45は、コイル制御信号CC1に基づきスイッチ52を端子bに切り換えた場合、コイル15Bに供給電流IC1を供給して通電状態とすることにより、第1ベース板3に対して脚部ユニット11Bを強吸着させると共に脚部ユニット11Aを通常吸着させる。
【0058】
一方、第1移動制御部45は、コイル制御信号CC1に基づきスイッチ52を端子nに切り換えた場合、コイル15A及び15Bをいずれも非通電状態とすることにより、第1ベース板3に対して脚部ユニット11A及び11Bをいずれも通常吸着させる。
【0059】
さらに第1移動制御部45は、圧電素子10に対する印加電圧VPを生成するための電圧生成部53を有しており、CPU41から供給される圧電素子制御信号CP1に基づき、当該電圧生成部53により生成する印加電圧VPを変化させるようになされている。
【0060】
実際上、第1移動制御部45は、圧電素子制御信号CP1に基づいて電圧生成部53を制御することにより、印加電圧VPを変化させて圧電素子10の前後方向の長さを変化させるようになされている。
【0061】
このように第1移動制御部45は、CPU41から供給されるコイル制御信号CC1に基づいてスイッチ52を制御することにより、脚部ユニット11A又は脚部ユニット11Bのいずれか一方を強吸着させるか当該脚部ユニット11A及び脚部ユニット11Bの両方を通常吸着させ、またCPU41から供給される圧電素子制御信号CP1に基づいて電圧生成部53を制御することにより、印加電圧VPを変化させて圧電素子10の前後方向の長さを変化させ、第1移動部5を制御するようになされている。
【0062】
また第2移動制御部46は、第1移動制御部45と同様に構成されており、電源部51、スイッチ52及び電圧生成部53とそれぞれ対応する電源部61、スイッチ62及び電圧生成部63を有している。
【0063】
実際上、第2移動制御部46は、CPU41から供給されるコイル制御信号CC2及び圧電素子制御信号CP1に基づき、第1移動制御部45と同様に、第2移動部6の圧電素子20に加える印加電圧、脚部ユニット21Aのコイル25A及び脚部ユニット21Bのコイル25Bに供給する供給電流を制御するようになされている。
【0064】
(2−2)移動部の移動の様子
次に、移動装置制御回路40からの制御によって移動装置1の移動ロボット2が第1ベース板3に対して前方向へ移動する場合を例に、第1移動部5が移動する様子について説明する。
【0065】
ここでは、図7に示すように、第1移動部5及び第1ベース板3に着目し、当該第1移動部5が進行する前方向に向けてx軸を設定し、初期状態における第1移動部5の位置を位置x0とする。
【0066】
実際上、移動装置制御回路40(図7)は、第1移動制御部45により、第1移動部5のコイル15A及び15Bに対して、それぞれ図8(A)及び(B)に示すような供給電流IC1及びIC2を与え、これに応じて脚8A〜8Dによりそれぞれ図8(C)〜(F)に示すような吸着力を生じさせる。
【0067】
同時に移動装置制御回路40は、第1移動制御部45により、第1移動部5の圧電素子10に対して図8(G)に示すような印加電圧VP1を印加し、これに応じて当該圧電素子10の前後方向の全長を図8(H)に示すように全長L1から全長(L1+ΔL)の範囲で変化させる。
【0068】
この場合、第1移動部5は、図9(A)に上側から見た模式図を示すように、時刻t0になる前の段階において位置x0に静止しており、脚8A〜8Dをいずれも通常吸着力F0で第1ベース板3に吸着させている。因みに図9(A)では、脚8A〜8Dの位置に白丸を記すことにより、それぞれ通常吸着力F0であることを示している。
【0069】
次に第1移動部5は、時刻t0から時刻t1までの間、コイル15Aには電流が供給されないものの、コイル15Bに対して電流I1が供給される(図8(A)及び(B))。このとき、図8(C)〜(F)に示したように、脚8A及び8Bは通常吸着力F0のままとなるものの、脚8Cは強吸着力F+となり、一方脚8Dは弱吸着力F−となる。
【0070】
この時刻t0の直後における第1移動部5の様子を図9(B)に模式的に示す。この図9(B)では、脚8Cの位置に白丸に代えて黒丸を記すことにより強吸着力F+であることを示し、また脚8Dの位置に白丸に代えて点を記すことにより弱吸着力F−であることを示している。
【0071】
この図9(B)からもわかるように、第1移動部5は、第1ベース板3に対して、前側の脚部ユニット11Aを通常吸着させると共に、後側の脚部ユニット11Bを強吸着させることになる。
【0072】
一方、第1移動部5は、図8(G)に示したように、時刻t0から時刻t1にかけて圧電素子10に対する印加電圧VPが0[V]からV1[V]まで徐々に変化されることにより、図8(H)に示したように、圧電素子10の全長がL1から(L1+ΔL)に伸張される。
【0073】
このとき第1移動部5は、図9(B)に示したように後側の脚部ユニット11Bを強吸着させているため、圧電素子10の全長がL1から(L1+ΔL)となるまで伸張されていくに連れて、前側の脚部ユニット11Aを第1ベース板3に通常吸着させたまま前方向に押し出していき、時刻t1において、図9(C)に示すように、前側の脚部ユニット11AをΔLだけ前方に移動させた状態とする。
【0074】
因みに脚部ユニット11Aの脚8A及び8Bは、図2に示したように、それぞれ第1ベース板3の溝部3A及び3Bに嵌っている。このため脚部ユニット11Aは、圧電素子10が伸張されることにより前方へ移動する際、脚8A及び8Bが溝部3A及び3Bに嵌ったままとなるため、当該溝部3A及び3Bに沿って直線状に前進することになる。
【0075】
次に第1移動部5は、時刻t1になると、コイル15Bに対して電流I1が供給されなくなり、反対にコイル15Aに対して電流I1が供給される(図8(A)及び(B))。これにより、図8(C)〜(F)に示したように、脚8C及び8Cはいずれも通常吸着力F0となり、脚8Aは強吸着力F+となり、一方脚8Bは弱吸着力F−となる。
【0076】
この時刻t1の直後における第1移動部5の様子を図9(D)に示す。この図9(D)では、脚8Aの位置に黒丸を記すことにより強吸着力F+であることを示し、また脚8Bの位置に点を記すことにより弱吸着力F−であることを示している。
【0077】
この図9(D)からもわかるように、第1移動部5は、第1ベース板3に対して、図9(C)の状態とは反対に、後側の脚部ユニット11Bを通常吸着させると共に、前側の脚部ユニット11Aを強吸着させることになる。
【0078】
この後、第1移動部5は、図8(G)に示したように、時刻t1から時刻t2にかけて圧電素子10に対する印加電圧VPがV1[V]から0[V]まで徐々に変化されることにより、図8(H)に示したように、圧電素子10の全長が(L1+ΔL)からL1に縮められる。
【0079】
このとき第1移動部5は、図9(D)に示したように前側の脚部ユニット11Bを強吸着させているため、圧電素子10の全長が(L1+ΔL)からL1となるまで縮められていくに連れて、後側の脚部ユニット11Bを第1ベース板3に通常吸着させたまま前方向に引き摺っていき、時刻t2において、図9(E)に示すように、後側の脚部ユニット11BをΔLだけ前方に移動させた状態とする。
【0080】
この結果、第1移動部5は、図9(A)と図9(E)とを比較すればわかるように、時刻0からt2にかけて、全体としてΔLだけ前方に移動したことになる。
【0081】
なお第1移動部5は、移動装置制御回路40(図6)の制御に基づき、時刻t2以降も上述した時刻t0からt2における一連の動作を繰り返すことにより、徐々に前方向へ移動していくようになされている。
【0082】
このように第1移動部5は、移動装置制御回路40の制御に基づき前側の脚部ユニット11A及び後側の脚部ユニット11Bによる通常吸着又は強吸着の切換と、圧電素子10による伸縮とを組み合わせることにより、いわゆるインチウォームの動作を行い前方向へ移動するようになされている。
【0083】
実際上、第1移動部5は、ΔLが約1[μm]、時刻t0からt2までの1周期が約1/300[sec]となされており、第1のベース板3に対して、約300[μm/sec]の速度で移動し得るようになされている。
【0084】
因みに第1移動部5は、移動装置制御回路40によって上述した一連の動作における前側の脚部ユニット11A及び後側の脚部ユニット11Bに対する強吸着又は通常吸着の制御を入れ替えることにより、後方向へ移動することもできる。
【0085】
また第2移動部6(図2)は、第1移動部5と同様に、移動装置制御回路40の制御に基づき、脚部ユニット21A(図6)及び脚部ユニット21Bによる通常吸着又は強吸着の切換と、圧電素子20による伸縮とを組み合わせることにより、第2ベース板4に対して左方向又は右方向へ移動し得るようになされている。
【0086】
(3)移動装置の利用例
次に、移動装置1の利用例を図10〜図12に示す。図10は、全体として移動装置1Pを利用した小型3軸加工機70の側面図を表している。小型3軸加工機70は、台部71上に第1ベース板3Pが取付固定されており、第2ベース板4Pの上にアーム部72が取付固定されている。さらにアーム部72の先端には、上下方向に移動可能なドリル73が取り付けられている。
【0087】
このため小型3軸加工機70は、移動装置1によりアーム部72を水平方向へ自在にさせると共にドリル73を上下方向に移動させることにより、台部70上に載置された加工対象物74に対して所望の位置及び所望の高さにドリル73の刃を当てることができる。
【0088】
図11は、全体として移動装置1Q及び1Rを利用したピペット作成システム80の上面図を表している。ピペット作成システム80は、台部81上に移動装置1Qの第1ベース板3Q及び移動装置1Rの第1ベース板3Rが大まかに位置決めされて取付固定されている。
【0089】
移動装置1Qの第2ベース板4Qには、アーム82が取り付けられており、当該アーム82には移動装置1Rの方向へ向けてガラス管83が取り付けられている。一方、移動装置1Rの第2ベース板4Rには、アーム84が取り付けられており、当該アーム84の一端には白金線85が設けられ、その先端にはガラス球86が付着されている。
【0090】
これによりピペット作成システム80は、ガラス管83と、白金線85及びガラス球86とをそれぞれ水平方向に自在に移動させ得るようになされている。
【0091】
実際上ピペット作成システム80では、図示しないヒータ等によって白金線85を介してガラス球86が加熱された状態で、当該ガラス球86にガラス管84の先端を押し当て溶解させ、当該ガラス管84を直線状に徐々に引き離していくことにより、当該ガラス管84を先端が細くなるよう形成することができ、結果的に当該ガラス管84をピペットに加工することができる。
【0092】
図12は、全体として移動装置1S、1T及び1Uを利用した細胞操作用マイクロマニピュレータシステム90の上面図を表している。細胞操作用マイクロマニピュレータシステム90は、台部91上に移動装置1Sの第1ベース板3S、移動装置1Tの第1ベース板3T及び移動装置1Uの第1ベース板3Uが大まかに位置決めされて取付固定されている。
【0093】
移動装置1Sの第2ベース板4Sには、アーム92が取り付けられており、当該アーム92の一端には操作対象となる細胞CLを置載するための円盤状のディッシュ93が取り付けられている。因みに移動装置1T及び移動装置1Uは、このディッシュ93を間に挟んで互いに対向するように配置されている。
【0094】
移動装置1Tの第2ベース板4Tには、アーム94が取り付けられており、当該アーム94にはディッシュ93のほぼ中央部へ向けて先端部分が所定の太さを有し細胞を一方向から支えるためのホールディングピペット95が取り付けられている。一方、移動装置1Uの第2ベース板4Uには、アーム96が取り付けられており、当該アーム96にはディッシュ93のほぼ中央部へ向けて、先端部分が細くなるよう形成され細胞CL内に注入すべき液体が充填されたインジェクションピペット97が取り付けられている。
【0095】
これにより細胞操作用マイクロマニピュレータシステム90は、ディッシュ93と、ホールディングピペット95と、インジェクションピペット97とをそれぞれ水平方向に自在に移動させ得るようになされている。
【0096】
実際上、細胞操作用マイクロマニピュレータシステム90では、移動装置1S、1T及び1Uを移動操作することにより、図示しない顕微鏡の視野内に操作対象の細胞CLが位置するようディッシュ93の位置を調整し、ホールディングピペット95を操作対象の細胞に当接させ、その反対側からインジェクションピペット97を当該細胞に突き刺すことにより、当該細胞CL内に注入すべき液体を注入させるようになされている。
【0097】
このように移動装置1は、2軸方向の精密な移動が要求される種々の作業において、1台又は2台以上を組み合わせて利用され得るようになされている。
【0098】
(4)動作及び効果
以上の構成において、移動装置1は、移動装置制御回路40の制御に基づき、第1移動部5の脚部ユニット11Bを強吸着させ、圧電素子10の全長を伸張させ、脚部ユニット11Bを通常吸着に戻すと共に脚部ユニット11Aを強吸着させ、圧電素子10の全長を縮めさせ、脚部ユニット11Aを通常吸着に戻すと言った一連の動作を行うことにより、第1ベース板3に対して前方向へ移動する。
【0099】
このとき移動装置1の第1移動部5は、永久磁石7A〜7Dの磁力により第1ベース板3に通常吸着し、当該第1ベース板3に対して脚部ユニット11A又は11Bを強吸着させるときのみコイル15A又は15Bに供給電流IC1又はIC2を供給するため、移動しない静止状態において当該コイル15A又は15Bに対して電流を供給することなく、第1ベース板3に対して吸着し続けることができ、ある程度の外部からの力を受けたとしても移動されることなく静止し続けることができる。
【0100】
これにより、例えば図12に示した細胞操作用マイクロマニピュレータシステム90において、移動装置1Sが、ある細胞CLを作業対象として位置を調整するために移動した後、移動装置1T及び1Uによる液体の注入作業中に位置を維持して静止し、次の細胞CLを作業対象として再度位置を調整する、といった一連の作業を繰り返すような場合、静止中にコイル15A及び15B等に電流を供給しないことにより、当該コイル15A及び15Bの発熱を抑えると共に冷却することができる。
【0101】
このため移動装置1Sは、コイル15A及び15B等が発熱することにより電気抵抗が増加して磁力が低下し、吸着力が低下して正常に移動できなくなり作業が継続できなくなる、といった問題を未然に防止することができ、結果的に一連の作業を短時間で中断することなく長時間継続させることができる。
【0102】
また第1移動部5は、脚8A〜8Dを第1ベース板3の溝部3A及び3Bに嵌めたまま前方向へ移動するため、当該溝部3A及び3Bに沿って直線状に移動することができる。このため第1移動部5は、例えば2軸方向に自在に移動し得る移動装置において直線状に移動する際に必要とされる、直線状に確実に移動するための位置検出手段や進行方向の修正手段等を用いることなく、溝部3A及び3Bの精度に準じて直線状に移動することができる。
【0103】
さらに第1移動部5は、脚部ユニット11A及び11Bにおいて、コイル15A又は15Bに電流IC1又はIC2を供給して第1ベース板3に強吸着させる際、実際には脚8A又は8Cを1本のみ強吸着力F+で吸着させているものの、他の脚を全て第1ベース板3の溝部3A又は3Bに嵌めた状態で通常吸着力F0又は弱吸着力F−で吸着させているため、圧電素子10が伸縮する際にも脚8A〜8Dを当該溝部3A又は3Bから外れさせたり、或いは不用意な回転動作等を引き起こすといったこともなく、当該溝部3A及び3Bに沿って直線状に移動することができる。
【0104】
そのうえ移動装置1は、それぞれ1軸方向に移動し得る第1移動部5及び第2移動部6を、永久磁石7A〜7Dを介して、互いの移動軸が90度をなすよう、いわば背中合わせに一体化しているため、例えば第1ベース板3を所定の台に固定し、第2ベース板4に移動対象物を取り付けることにより、当該移動対象物を2次元平面内で自在に移動させることができる。
【0105】
このとき移動装置1は、図6に示したように、第1移動部5及び第2移動部6がそれぞれ独立して制御されるため、移動させたくない方向に関しては固定したまま、前後方向のみの移動や左右方向のみの移動を容易に行うことができる。
【0106】
特にこの場合、移動装置1は、第1移動部5又は第2移動部6のいずれか一方のみを移動させる場合、他方を静止させていれば良いため、コイル15A又は15B、或いはコイル25A又は25Bに電流を供給せずに済み、不必要に発熱させることが無い。
【0107】
以上の構成によれば、移動装置1は、第1ベース板3に対して、脚部ユニット11A及び11Bにおいて永久磁石7の磁力による通常吸着と当該永久磁石7及び電磁石部12の磁力による強吸着とを切り換えながら圧電素子10の全長を伸張させることにより前後方向に移動する第1移動部5と、当該第1移動部5と同様の動作により第2ベース板4を左右方向に移動させる第2移動部6とを組み合わせたことにより、第1ベース板3に対して第2ベース板4を2軸方向に自在に移動し得ると共に、静止状態においてコイルに電流を流し続けることなく静止位置を維持することができる。
【0108】
(5)他の実施の形態
なお上述した実施の形態においては、第1移動部5において、脚部ユニット11Aが2本の脚8Aおよび8Bにより第1ベース板3に当接するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば当該脚部ユニット11Aが1本の脚により第1ベース板3に当接し、或いは3本以上の脚により当該第1ベース板3に当接するようにしても良い。この場合、電磁石部12により第1ベース板3に対して一時的に強吸着し得るようになされていれば良い。また脚を1本とする場合には、第1ベース板3に当接する面積を増加することにより第1ベース板3に対する姿勢を維持し得るようにすることが望ましい。第2移動部6についても同様である。
【0109】
また上述した実施の形態においては、第1移動部5において、圧電素子10により前側の脚部ユニット11Aと後側の脚部ユニット11Bとの間隔を変化させるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、当該圧電素子10に代えて例えばソレノイドや形状記憶合金、或いは伸縮器等といった種々の伸縮手段を用いるようにしても良い。第2移動部6についても同様である。
【0110】
さらに上述した実施の形態においては、第1移動部5が第1ベース板3の溝部3A及び3Bに脚8A〜8Dを嵌めた状態で前後方向に移動するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば第1ベース板3の上面に前後方向に向けたレールを設け、脚8A〜8Dが当該レールを挟む等して左右方向にがたつかないよう前後に移動するようにしたり、或いは第1移動部5の左右に壁となる板を立て、当該壁に沿って前後に移動するようにする等、第1移動部5を直線状に移動させる他の種々の手法を用いるようにしても良い。第2移動部6についても同様である。
【0111】
さらに上述した実施の形態においては、第1ベース板3を全て磁性体で構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば第1ベース板3全体を非磁性体の樹脂等で構成し、溝部3A及び3Bのみを磁性体の材料で構成するようにしても良い。さらにこの場合、溝部3A及び3Bを磁気的に分離する以外にも、溝部3A及び3Bを磁気的に接続することにより、電磁石部12A及び12Bとの間に閉ループ磁気回路を形成し得るようにしても良い。また溝部3A及び3Bは、表面が非磁性体の樹脂等で覆われていても良く、要は脚部ユニット11A及び11Bが脚8A〜8Dを介して磁力により吸着し得れば良い。第2ベース板4についても同様である。
【0112】
さらに上述した実施の形態においては、第1移動部5及び第2移動部6により、第1ベース板3に対して第2ベース板4が前後方向及び左右方向の2軸方向に移動し得るようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば第2ベース板4の上や第1ベース板3に当接の下に回転角度を自在に制御し得る回転機構を設け、全体としていわゆるxyθ型移動装置として動作し得るようにしても良い。
【0113】
さらに上述した実施の形態においては、上面側から見て第1ベース板3の溝部3A及び3Bと、第2ベース板4の溝部4A及び4Bとがほぼ直交するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、第1ベース板3の溝部3A及び3Bと、第2ベース板4の溝部4A及び4Bとが約60度や45度をなすようにするなどしても良い。
【0114】
さらに上述した実施の形態においては、第1脚部としての脚部ユニット11Aと、第2脚部としての脚部ユニット11Bと、第1移動方向制限部としての溝部3A及び3Bと、第1間隔変更部としての圧電素子10と、第1磁力強化手段としてのコイル15Aと、第2磁力強化手段としてのコイル15Bとによって第1移動部としての第1移動部5を構成し、第3脚部としての脚部ユニット21Aと、第4脚部としての脚部ユニット21Bと、第2移動方向制限部としての溝部4A及び4Bと、第2間隔変更部としての圧電素子20と、第3磁力強化手段としてのコイル25Aと、第4磁力強化手段としての25Bとによって第2移動体としての第2移動体6を構成することにより、移動装置としての移動装置1を構成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、その他種々の構成でなる第1脚部と、第2脚部と、第1移動方向制限部と、第1間隔変更部と、第1磁力強化手段と、第2磁力強化手段とによって第1移動部を構成し、第3脚部と、第4脚部と、第2移動方向制限部と、第2間隔変更部と、第3磁力強化手段と、第4磁力強化手段とによって第2移動体を構成することにより移動装置を構成するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明は、精密な移動作業が要求される2軸移動装置の他、中型乃至大型の2軸移動装置でも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】移動装置の全体構成(1)を示す略線的斜視図である。
【図2】移動装置の全体構成(2)を示す略線的斜視図である。
【図3】移動部の構成を示す略線的斜視図である。
【図4】電磁石部の構成を示す略線的斜視図である。
【図5】ベース板に対する脚部ユニットの吸着の様子を模式的に示す略線図である。
【図6】移動装置制御回路の構成を示す略線的ブロック図である。
【図7】第1移動部と第1ベース板との位置関係を示す略線的斜視図である。
【図8】コイルへの供給電流及び脚の吸着力並びに圧電素子への印加電圧及び全長を示す略線図である。
【図9】移動部における移動の様子を示す略線図である。
【図10】移動装置の利用例(1)を示す略線図である。
【図11】移動装置の利用例(2)を示す略線図である。
【図12】移動装置の利用例(3)を示す略線図である。
【符号の説明】
【0117】
1……移動装置、2……移動ロボット、3……第1ベース板、3A、3B、4A、4B……溝部、4……第2ベース板、5……第1移動部、6……第2移動部、7、7A、7B、7C、7D……永久磁石、8A、8B、8C、8D、9A、9B、9C、9D……脚、10、20……圧電素子、11A、11B、21A、21B……脚部ユニット、12A、12B、22A、22B……電磁石部、13、14……フレーム、15A、15B、25A、25B……コイル、40……移動装置制御回路、41……CPU、45……第1移動制御部、46……第2移動制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向へ移動し得る第1移動部と、当該第1方向と異なる第2方向へ移動し得る第2移動部とが一体に構成されてなる移動装置であって、
上記第1移動部は、
磁性体でなる第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第1脚部と、
上記第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第2脚部と、
上記第1脚部及び上記第2脚部の移動可能方向を上記第1方向に制限する第1移動方向制限部と、
上記第1方向に関する上記第1脚部と上記第2脚部との間隔を変更する第1間隔変更部と、
上記第1脚部における磁力を強化することにより上記第1基台に対する上記第1脚部の吸着力を強化する第1磁力強化手段と、
上記第2脚部における磁力を強化することにより上記第1基台に対する上記第2脚部の吸着力を強化する第2磁力強化手段と
を具え、
上記第2移動部は、
磁性体でなる第2基台に対して上記永久磁石の磁力により吸着される第3脚部と、
上記第2基台に対して上記永久磁石の磁力により吸着される第4脚部と、
上記第3脚部及び上記第4脚部の移動可能方向を上記第2方向に制限する第2移動方向制限部と、
上記第2方向に関する上記第3脚部と上記第4脚部との間隔を変更する第2間隔変更部と、
上記第3脚部における磁力を強化することにより上記第2基台に対する上記第3脚部の吸着力を強化する第3磁力強化手段と、
上記第4脚部における磁力を強化することにより上記第2基台に対する上記第4脚部の吸着力を強化する第4磁力強化手段と、
を具えることを特徴とする移動装置。
【請求項2】
上記第1間隔変更部及び上記第2間隔変更部は、
それぞれ圧電素子でなる
ことを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項3】
上記第1移動方向制限部は、
上記第1方向に沿って上記第1基台に形成された第1溝部であり、
上記第2移動方向制限部は、
上記第2方向に沿って上記第2基台に形成された第2溝部である
ことを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項4】
上記第1基台は、
少なくとも上記第1溝部が磁性体でなり、
上記第2基台は、
少なくとも上記第2溝部が磁性体でなる
ことを特徴とする請求項3に記載の移動装置。
【請求項5】
上記第1脚部は、
上記第1基台に対して2以上の接点により当接し、上記第1磁力強化手段により磁力が強化された際、上記第1基台との間に閉ループ磁気回路を形成し、
上記第2脚部は、
上記第1基台に対して2以上の接点により当接し、上記第2磁力強化手段により磁力が強化された際、上記第1基台との間に閉ループ磁気回路を形成し、
上記第3脚部は、
上記第2基台に対して2以上の接点により当接し、上記第3磁力強化手段により磁力が強化された際、上記第2基台との間に閉ループ磁気回路を形成し、
上記第4脚部は、
上記第2基台に対して2以上の接点により当接し、上記第4磁力強化手段により磁力が強化された際、上記第2基台との間に閉ループ磁気回路を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の移動装置。
【請求項6】
第1方向へ移動し得る第1移動部と、当該第1方向と異なる第2方向へ移動し得る第2移動部とが一体に構成されてなる移動装置の制御方法であって、
上記第1移動部は、
磁性体でなる第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第1脚部と、
上記第1基台に対して永久磁石の磁力により吸着される第2脚部と、
上記第1脚部及び上記第2脚部の移動可能方向を上記第1方向に制限する第1移動方向制限部と、
上記第1方向に関する上記第1脚部と上記第2脚部との間隔を変更する第1間隔変更部と、
上記第1脚部における磁力を強化することにより上記第1基台に対する上記第1脚部の吸着力を強化する第1磁力強化手段と、
上記第2脚部における磁力を強化することにより上記第1基台に対する上記第2脚部の吸着力を強化する第2磁力強化手段と
を具え、
上記第2移動部は、
磁性体でなる第2基台に対して上記永久磁石の磁力により吸着される第3脚部と、
上記第2基台に対して上記永久磁石の磁力により吸着される第4脚部と、
上記第3脚部及び上記第4脚部の移動可能方向を上記第2方向に制限する第2移動方向制限部と、
上記第2方向に関する上記第3脚部と上記第4脚部との間隔を変更する第2間隔変更部と、
上記第3脚部における磁力を強化することにより上記第2基台に対する上記第3脚部の吸着力を強化する第3磁力強化手段と、
上記第4脚部における磁力を強化することにより上記第2基台に対する上記第4脚部の吸着力を強化する第4磁力強化手段と
を具え、
上記移動装置に接続された制御部による制御に基づき、
上記第2磁力強化手段により上記第2脚部の磁力を強化し、
上記第1間隔変更部により上記第1脚部と上記第2脚部との間隔を広げ、
上記第2磁力強化手段により第2脚部の磁力を元に戻すと共に上記第1磁力強化手段により上記第1脚部の磁力を強化し、
上記第1間隔変更手段により上記第1脚部と上記第2脚部との間隔を縮め、
上記第1磁力強化部により上記第1脚部の磁力を元に戻す
ことにより上記第1基台上を上記第1方向へ移動し、
上記制御部による制御に基づき、
上記第4磁力強化手段により上記第4脚部の磁力を強化し、
上記第2間隔変更部により上記第3脚部と上記第4脚部との間隔を広げ、
上記第4磁力強化手段により上記第4脚部の磁力を元に戻すと共に上記第3磁力強化手段により上記第3脚部の磁力を強化し、
上記第2間隔変更部により上記第3脚部と上記第4脚部との間隔を縮め、
上記第3磁力強化手段により上記第3脚部の磁力を元に戻す
ことにより上記第2基台上を上記第2方向へ移動する
ことを特徴とする移動装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−276060(P2007−276060A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106516(P2006−106516)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】