説明

移動通信システム、基地局、中継装置、移動局

【課題】 適応アレーアンテナを利用した基地局において、中継装置のカバーエリアに存在する移動局のウェイト推定、ウェイト制御による処理量を削減する。
【解決手段】 中継装置が下り信号に自己を識別できる中継装置識別信号を重畳し、移動局が中継装置識別信号を検知すると共に上り信号の送信時に中継装置に関する情報を付加する。これによって、図に示す基地局は、信号処理部56aが上り信号の中に含まれる中継装置に関する情報を検知し、検知結果が移動局データベース60に記憶される。そして、簡易化装置61が移動局データベース60の内容を確認し、同じ中継装置のカバーエリア内に存在する移動局群を選び出して、その中の所望の移動局についてのみ送受信のウェイト推定とウェイト制御を続けさせる。その他の移動局については、前記所望の移動局でのウェイト推定値をそのまま適用させてウェイト推定の処理を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適応アレーアンテナを制御して通信を行う移動通信システム等に関し、特に、基地局と移動局が中継装置を介して適応アレーアンテナの指向性を適応制御しながら通信を行う移動通信システム、及びこの移動通信システムを構成する基地局、中継装置、移動局に関する。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナとは、複数のアンテナ素子によりアンテナを構成し、各アンテナ素子に対してそれぞれ位相と振幅を調整する(以下、ウェイトを調整すると云う)ことにより所望のアンテナ指向性を実現するアンテナである。また、適応アレーアンテナ(アダプティブアレーアンテナとも云う)とは、アレーアンテナを構成する各アンテナ素子への調整を適応制御し、電波の到来方向を高い角度分解機能で推定して指向性を任意に制御するアンテナである。近年、移動通信システムへの適応アレーアンテナの導入についての検討が盛んに行われている。このような適応アレーアンテナを基地局に導入することにより、周波数利用効率の改善、移動局の送信電力の低減、および通信品質の向上などを実現することができる。
【0003】
図11は、適応アレーアンテナを用いた従来の基地局の受信部分の構成を示すブロック図である。つまり、この図は、基地局が受信を行うときに適応アレーアンテナを用いた場合の従来の構成の一例をしている。この例では、説明を簡単にするために、アンテナ素子数が2個でユーザの収容人数が2人の場合の基地局を示している。基地局の受信に関する部分は、アンテナ素子500a、500b、増幅器501a、501b、ミキサ502a、502b、直交復調器503a、503b、および受信ベースバンド部510a、510bを含んだ構成となっている。さらに、受信ベースバンド部510a、510bは、それぞれ二つのウェイト調整器を有するウェイト調整部520a、520b、受信信号の信号処理を行う信号処理部521a、521b、およびウェイト調整部520a、520bのウェイトを適応制御するウェイト推定部523a、523bを含んだ構成となっている。
【0004】
まず、移動局(図示せず)から送信された信号はアンテナ素子500a、500bで受信される。そして、受信された信号はそれぞれ増幅器501a、501bで増幅され、ミキサ502a、502bでIF周波数帯にダウンコンバートされる。さらに、ダウンコンバートされたIF信号は直交復調器503a、503bによって直交復調されてベースバンド信号を出力する。基地局がカバーする範囲に2人のユーザが存在すると仮定すると、各ユーザからの受信信号は受信ベースバンド部510a、510bで各々処理が行われる。以下の説明では、“ユーザ1”は受信ベースバンド部510aで処理され、“ユーザ2”は受信ベースバンド部510bで処理されるものとする。
【0005】
このとき、各ユーザが存在する場所によって、アンテナ素子500a、500bで受信される受信信号は位相及び振幅に違いが生じる。また、ウェイト調整部520aは、ユーザ1との通信品質がよくなるように、すなわち、ユーザ1からの受信信号が強まるかユーザ1に対する干渉信号を抑圧するように、各アンテナ素子からの受信信号に対してウェイト調整を行う。さらに、信号処理部521aはウェイト調整された信号から受信処理を行うと共に、ウェイト推定部523aを用いてウェイト調整部520aのウェイト調整量が最適となるように適応制御を行う。適応制御の方法については、RLS(Recursive Least Square:最小二乗)アルゴリズムやLMS(Least Mean Square:二乗平均)アルゴリズムなどを用いて行う方法が知られている。
【0006】
ユーザ2の動作についても前述と同様であり、受信ベースバンド部510b内のウェイト調整部520b、信号処理部521b、及びウェイト推定部523bによってユーザ2に対する通信品質がよくなるような適応制御を行う。
【0007】
図12は、適応アレーアンテナを用いた従来の基地局の送信部分の構成を示すブロック図である。つまり、この図は、基地局が送信を行うときに適応アレーアンテナを用いた場合の従来の構成の一例をしている。図12を用いて基地局の送信における適応アレーアンテナの利用例について説明する。尚、この場合もユーザ数は2人とし、ユーザ1を送信ベースバンド部530aで、ユーザ2を送信ベースバンド部530bで処理するものとして説明する。
【0008】
まず、信号処理部541aがユーザ1への送信信号を出力し、ウェイト調整部540aによってユーザ1に対する通信品質がよくなるようにウェイトを調整し、任意のアンテナ指向性を実現するベースバンド信号を出力する。ユーザ2についても同様であり、送信ベースバンド部530b内の信号処理部541bおよびウェイト調整部540bにより、アンテナ指向性を実現するベースバンド信号を出力する。送信ベースバンド部530a、530bから出力されたベースバンド信号は、アンテナ素子ごとに合成され、直交変調器507a、507bで直交変調され、さらにミキサ506a、506bで無線周波数帯にアップコンバートされた後、アンプ505a、505bで増幅されてアンテナ素子500a、500bからそれぞれ送信される。
【0009】
ウェイト調整部540a、540bで調整するウェイトについては、指向性制御を行うウェイト制御部543a、543bが、それぞれ、信号処理部541a、541bからの情報によって決定する。基地局からの送信における適応アレー制御の方法については、TDMA(Time Division Multiple Access:時間分割多元接続)通信方式では移動局からの上り信号で推定したウェイト推定値を利用することが方法の一つとして考えられている。また、FDMA(Frequency Division Multiple Access:周波数分割多元接続)など他の方式においては、移動局が下り受信信号の品質についての情報を基地局に返すフィードバック制御によってウェイトを決定するなどの方法が知られている。
【0010】
適応アレーアンテナのウェイトの推定方法については多くの検討が行われていて種々報告されている。例えば、アルゴリズムのパラメータを環境に応じて逐次変化させ、様々な伝搬環境においてもウェイト推定の性能が低下しないようにする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0011】
一方、移動通信においては、建物の中や地下街など基地局との電波の送受が困難な場所に中継装置を設置し、通話エリアを拡大する方法が知られている。図13は従来の中継装置の動作を示す概念図であり、図14は従来の中継装置の構成を示すブロック図である。したがって、図13及び図14を用いて中継装置の動作を説明する。
【0012】
図13において、基地局600から送信された電波は中継装置610によって受信・増幅され、本来は基地局600からの電波が届き難いカバーエリア615へ中継装置610を介して再送信する。したがって、カバーエリア615の中に存在する移動局620a〜620eは、中継装置610から再送信される電波によって基地局600からの送信信号を受信することができる。逆に、移動局620a〜620eから基地局600に対して通信を行う場合は、移動局620a〜620eが電波を送信し、中継装置610はその電波を受信・増幅した後に基地局600に対して再送信するという順序で行われる。
【0013】
次に、図14に示すような中継装置610の構成を簡易的に表したブロック図を用いて、中継装置610の動作を説明する。中継装置610は、基地局に対して電波を送受するためのアンテナ650と、移動局に対しての電波を送受するアンテナ651と、基地局から移動局への信号を増幅するアンプ670と、移動局から基地局への信号を増幅するアンプ671と、アンテナを送受信で共用するためのデュプレクサ660、661から構成される。ここでは、FDMA方式を想定してデュプレクサを用いているが、TDMA方式の場合であってもデュプレクサをスイッチに置き換えることで同様の働きをする。
【0014】
図14から明らかなように、中継装置610の構成は比較的簡易であるので、中継装置610は、基地局の増設あるいは小型基地局を設置するほどのコストをかけずに、安価に通話エリアを拡大する手段として用いられる。特に、移動体通信の高周波化により、屋内や地下街などが通話圏外になり易くなることが予想される場合は、中継装置610はその解決手段の一つとして期待されている。また、一般的に中継装置610は、位置が固定され、基地局600との通信状態が良くなるようにアンテナ650は設置される。
【特許文献1】特開2003−264489号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、適応アレーアンテナを用いた基地局については、ユーザ(つまり、移動局)ごとにウェイト制御を行っており、ユーザの収容数が増えるにしたがって処理量が増加する。したがって、基地局のユーザ収容数が多くなるとその基地局の処理量は膨大なものとなる。すなわち、前記の例ではユーザ数を2人として説明したが、実際にはさらに多数のユーザが基地局を利用するために、図11のウェイト推定部523a、523bや図12のウェイト制御部543a、543bはユーザの数だけ必要となり、結果的に、基地局の受信ベースバンド部510a、510bや送信ベースバンド部530a、530bの処理量が膨大になってしまう。
【0016】
また、移動局が中継装置を介して基地局と通信を行っている場合、複数の移動局が中継装置のカバーエリア内にあったとしても、基地局は各々の移動局に対してウェイト制御を行うことになる。ただ、実際には、図13に示すように中継装置610を介して通信を行っているため、移動局620a〜620eに対する基地局600のウェイト制御は全て同じになるべきであり、基地局600がそれぞれの移動局620a〜620eに対してウェイト制御を行うことは無駄な制御となり、また基地局600の処理量が増大してしまう要因となる。
【0017】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、移動局が中継装置のカバーエリア内に存在していることを基地局が把握することによって、不必要なウェイト制御を削減することができるような移動通信システムと、この移動通信システムを構成する基地局、中継装置、移動局を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の移動通信システムは、少なくとも基地局、中継装置、及び移動局によって構成され、適応アレーアンテナを利用してアンテナの指向性を適応制御する移動通信システムであって、中継装置が、基地局から送信される信号を受信して再送信するときに自己の中継装置識別信号を付与する中継装置識別信号重畳手段を備え、移動局が、中継装置識別信号を検知する識別信号検知手段と、中継装置識別信号を検知した際にその中継装置識別信号に応じた中継装置の情報を基地局へ送信する中継装置情報報知手段とを備え、基地局が、中継装置情報報知手段が送信した中継装置の情報を検知する中継装置情報検知手段と、中継装置情報検知手段の検知結果から各々の中継装置とその中継範囲内に存在する移動局についての情報を記憶する移動局記憶手段と、移動局記憶手段の情報に基づいて同一の中継装置の中継範囲内に存在する移動局に対して行う指向性制御を簡易化する第1の指向性制御簡易化手段とを備えた構成を採る。
【0019】
また、本発明の移動通信システムにおいては、前記基地局は、さらに、中継装置の場所とその中継装置との通信に最適なアンテナ指向性とを記憶する中継装置記憶手段と、各々の移動局との通信に適用している指向性情報と中継装置記憶手段に記憶されている指向性とを比較して、移動局が中継装置を介して通信しているか否かを判定する移動局状態監視手段と、移動局状態監視手段によって中継装置の中継範囲に存在すると判定された移動局に対して行う指向性制御を簡易化する第2の指向性制御簡易化手段と、第2の指向性制御簡易化手段によって指向性を制御されている移動局に対して任意の時間ごとに指向性を再確認させる状態変移確認手段とを備えた構成を採る。
【0020】
また、本発明の移動通信システムにおいては、前記中継装置は、さらに、移動局からの上り信号を受信してベースバンド信号に変換する復号手段と、復号手段で復号された上り信号のそれぞれについてそれぞれ該当する中継装置の識別信号を多重にする中継装置識別信号多重手段と、中継装置識別信号多重手段の出力信号を変調して基地局へ再送信する変調手段とを備えた構成を採る。
【0021】
また、本発明は、前記各発明の何れかに記載された移動通信システムに構成される基地局、中継装置、および移動局を提供することもできる。さらに、本発明は、前記各発明の何れかに記載された移動通信システムの機能を実現するソフトウェアを提供することもできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の移動通信システムによれば、中継装置が下り信号に中継装置を識別できる識別信号を重畳し、移動局がその識別信号を検知すると共に上り信号の送信時に基地局に中継装置に関する情報を付加させる。さらに、基地局が上り信号の中に含まれる中継装置に関する情報を検知し、同じ中継装置のカバーエリア内に存在する移動局を選び出し、その中の所望の移動局についてのみ送受信のウェイト制御を行い、その他の移動局については所望の移動局でのウェイト制御値をそのまま用いるようにする。これにより、基地局はウェイト制御とウェイト推定に関する処理を削減することができる。
【0023】
また、本発明の移動通信システムによれば、中継装置が基地局から見通しの位置にある場合は、あらかじめ各中継装置への通信に適用するウェイト制御値を記憶しておき、移動局に対するウェイト制御値が記憶されているウェイト制御値と相関が出た際には、移動局が中継装置のカバーエリアに存在するとみなし、あらかじめ設定した時間内はウェイト制御とウェイト推定を行わないようにする。これにより、基地局はウェイト制御とウェイト推定に関する処理を削減することができる。
【0024】
また、本発明の移動通信システムによれば、中継装置が上り信号を増幅する際に中継装置を識別する識別信号を重畳する。これにより、基地局はウェイト制御とウェイト推定に関する処理を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、基地局と中継装置と移動局とによって構成され、適応アレーアンテナを用いて適応制御を行う移動通信システムであって、中継装置が下り信号に自己を識別できる識別信号を重畳し、移動局がその識別信号を検知すると共に上り信号の送信時に中継装置に関する情報を付加する。さらに、基地局が上り信号の中に含まれる中継装置に関する情報を検知して検知結果を記憶する。そして、基地局は、移動局のデータベースの内容を確認して、同一の中継装置のカバーエリア内に存在する移動局群を選び出す。その上で、基地局は、選び出した移動局の中の所望の移動局についてのみ送受信のウェイト推定・ウェイト制御を行ない、その他の移動局については所望の移動局でのウェイト制御値をそのまま用いる。このようにして、基地局が中継装置のカバーエリアに存在する移動局を認識して、必要のないウェイト推定やウェイト制御を省略することによって基地局の処理量を大幅に削減することができる。
【0026】
以下、図面を参照して、適応アレーアンテナを用いた本発明における移動通信システムの実施の形態の幾つかを詳細に説明する。尚、以下に述べる各実施の形態に用いる図面において、同一の構成要素は同一の符号を付し、かつ重複する説明は可能な限り省略する。
【0027】
<実施の形態1>
まず、図1乃至図6を用いて、本発明の実施の形態1における適応アレーアンテナを用いた移動通信システムについて説明する。図1は、本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される中継装置の一構成例を示すブロック図である。図1において、中継装置は、図示しない基地局との間で信号の送受信を行うアンテナ1と、アンテナ1が受信した基地局から移動局への信号(下り信号)を増幅するアンプ3と、中継装置を識別することができる中継局識別信号を出力する識別信号生成器4と、アンプ3の出力信号と識別信号生成器4の出力信号とを合成する合成器5と、合成器5の出力信号を移動局へ送信すると共にその移動局からの送信信号を受信するアンテナ7と、アンテナ7が受信した移動局の送信信号を増幅するアンプ8と、下り信号の増幅を行う系と移動局から基地局への信号(上り信号)の増幅を行う系のそれぞれでアンテナを共用するために用いるデュプレクサ2およびデュプレクサ6とを備えた構成となっている。尚、識別信号生成器4と合成器5とによって中継装置識別信号重畳手段が構成される。
【0028】
尚、以下の説明は、基地局と移動局との通信においてFDMA方式を用いることを想定しているが、デュプレクサ2、6をスイッチとすることでTDMA方式に対応することもできる。
【0029】
図2は、図1に示す中継装置から移動局に対して再送信される信号のスペクトラムである。つまり、この図は、図1に示した中継装置のアンテナ7から出力される信号のスペクトラムを示したものである。以下、図1に示す中継装置の動作について図2のスペクトラムを用いて説明する。図1に示す中継装置は、下り信号に中継装置自身を識別できる信号を重畳して信号の再送信を行うことを目的としている。識別信号生成器4は、このための識別信号を発生させるものであって、合成器5によって下り信号と識別信号との合成を行う。
【0030】
アンテナ7からの出力信号のスペクトラムを示した図2の波形は、下り信号と識別信号との周波数の関係を示している。図2(a)は、下り信号にCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)方式やOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式などを用いて単一の周波数fcで多ユーザへの通信を行う場合のスペクトラムである。信号20は下り信号のスペクトラムであり、識別信号21は下り信号20とは異なる周波数fdに重畳することによって干渉が起きないようにしている。
【0031】
図2(b)は、下り信号にFDMA方式を用いている場合のスペクトラムである。特定の周波数帯22に周波数の異なる複数の信号を発生させて下り通信を行っており、識別信号21は周波数帯22とは異なる周波数fdに重畳させ、下り信号との干渉が起きないようにしている。
【0032】
図2(c)は図2(a)と同様に、下り信号にCDMA方式やOFDM方式などを用いて単一の周波数fcで多ユーザへの通信を行う場合のスペクトラムであるが、識別信号23を異なる周波数帯に重畳するのではなく、同一周波数帯fcに重畳している点が異なる。図2(c)では、図1の識別信号生成器4から出力される識別信号23は符号拡散されており、下り信号と同一周波数帯に重畳していても、移動局が受信する際に逆拡散を行うことで、下り信号と識別信号とを分離することができる。
【0033】
図3は、本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される中継装置の他の構成例を示すブロック図である。すなわち、図3は、図1に示した中継装置に対して、アンテナ1で受信した下り信号の検波を行う検波器10と、検波器10の検波結果に応じて識別信号生成器4の出力をON/OFF制御するスイッチ11とを追加したものである。このような構成により、中継装置は識別信号を常時重畳しているだけでなく、下り信号に対応した任意のタイミング(タイムスロット)でのみ識別信号を重畳することもできる。このようにして、中継装置が下り信号に識別信号を多重することにより、移動局が中継装置を識別できるようにしている。
【0034】
次に、移動局の動作について説明する。図4は、本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される移動局の構成を示すブロック図である。尚、図4では、主に移動局の受信に関わる部分の構成を示している。図4に示す移動局は、中継装置を介して基地局と通信を行うアンテナ30と、アンプ31と、ミキサ32と、帯域制限フィルタ33と、直交復調器34と、ベースバンド処理部(中継装置情報報知手段)36と、識別信号検知器(識別信号検知手段)35とを備えた構成となっている。
【0035】
図4に示す移動局が中継装置のカバーエリアに存在する場合は、移動局が受信する信号は、前述の図2で示すような下り信号に識別信号を重畳したものとなる。移動局は、下り信号を受信する際に中継装置で重畳された識別信号を検知する。したがって、図4に示す移動局は、アンテナ30が中継装置から送信されて来る下り信号を受信した後にアンプ31で増幅し、さらにミキサ32によってIF周波数帯にダウンコンバートした後、帯域制限フィルタ33で不要な周波数成分を除去して、直交復調器34によってベースバンド信号を得る。直交復調器34で得られるベースバンド信号には、音声やデータあるいは基地局と移動局間でやり取りされる制御チャンネルが含まれており、ベースバンド処理部36は信号処理によってそれらの情報を取り出す。
【0036】
また、ベースバンド処理部36は帯域制限フィルタ33の入力信号の一部を取り出して識別信号検知器35へ入力する。すると、識別信号検知器35は、図2の識別信号21あるいは識別信号23を検知し、識別信号21、23に含まれる中継装置に関する情報を解読することで、どの中継装置からの信号を受信しているかをベースバンド処理部36へ報知する。尚、図2(a)あるいは図2(b)のように、下り信号とは異なる周波数帯に識別信号21を重畳した場合は、図4に示す移動局の帯域制限フィルタ33は識別信号21を抑圧するように設計しておくことが望ましい。これにより、本来、基地局と移動局との通信においては不要である識別信号を抑圧することができるので、通信品質の劣化を防ぐことが可能となる。
【0037】
また、図2(c)のように、識別信号が下り信号と同じ周波数帯に符号拡散されて重畳されている場合は、移動局の受信回路の一部から信号を取り出して識別信号検波器35で検知する方法ではなく、ベースバンド処理部36自身が逆拡散を行って識別信号を検知することもできる。当然ではあるが、中継装置のカバーエリア外では、移動局は識別信号を受信することはなく、移動局は基地局と直接通信を行っているものと認識することができる。以上のような動作により、移動局は、どの中継装置からの信号を受信しているかを認識することが可能となる。
【0038】
また、移動局は、中継装置からの識別信号を検知した場合は、その旨を基地局に報知するように動作する。具体的には、上り信号の制御チャンネルの一部に中継装置に関する情報を付加する。移動局から基地局へ送信された上り信号は、図1または図3に示す中継装置を介して基地局へ到達する。つまり、アンテナ7で移動局の上り信号を受信し、デュプレクサ6を介してアンプ8で増幅し、さらにデュプレクサ2を介してアンテナ1から基地局へ再送信されることになる。
【0039】
次に、基地局の動作について説明する。図5は、本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に受信部分の構成を示すブロック図である。図5に示す基地局は、アンテナ素子40a、40bと、アンテナ素子40a、40bで受信した上り信号を増幅するアンプ41a、41bと、アンプ41a、41bの出力信号をIF周波数帯にダウンコンバートするミキサ42a、42bと、ミキサ42a、42bから出力されるIF信号を直交復調しベースバンド信号を出力する直交復調器43a、43bと、直交復調器43a、43bの出力信号のウェイトを制御し移動局からの音声、データ、制御チャンネル信号を得る受信ベースバンド部50a、50bと、各移動局がどの中継装置のカバーエリア内にいるかについて記憶する移動局データベース(移動局記憶手段)60と、任意の移動局に対するウェイト制御と他の移動局に対するウェイト制御を共通化する簡易化装置(第1の指向性制御簡易化手段)61とを備えた構成となっている。
【0040】
さらに、受信ベースバンド部50a、50bは、各アンテナ素子40a、40bから入力される信号に対してウェイトを調整するウェイト調整部55a、55bと、ウェイト調整部55a、55bの出力信号に対して受信処理を行う信号処理部(中継装置情報検知手段)56a、56bと、信号処理部56a、56bの受信情報をもとにウェイト調整部55a、55bのウェイト制御量を推定するウェイト推定部57a、57bとを備えた構成となっている。
【0041】
移動局が中継装置のカバーエリアに存在しない場合は、従来例と同様に信号処理部56a、56bおよびウェイト推定部57a、57bが、それぞれの移動局に対して、RLSやLMSなどの適応制御アルゴリズムを用いてアンテナの指向性を制御する。
【0042】
実施の形態1では、移動局が中継装置のカバーエリア内に存在する場合は、各々の受信ベースバンド部50a、50bが、それぞれの移動局に対して適応制御アルゴリズムを用いるのではなく、どれか一つの受信ベースバンド部が導いたウェイト制御値をその他の受信ベースバンド部においても使用するようにする。以下、図5を用いてこの動作を説明する。
【0043】
まず、移動局からの上り信号中に含まれる中継装置の情報を信号処理部56a、56bが検知する。次に、信号処理部56a、56bは、どの移動局がどの中継装置のカバーエリアに存在するかという情報(以下、当該情報という)を移動局データベース60に対して報知し、移動局データベース60は当該情報を保存する。さらに、簡易化装置61は、移動局データベース60に記憶されている当該情報を確認し、同じ中継装置のカバーエリア内に複数の移動局が存在していないか否かを確認する。同じ中継装置のカバーエリアに存在する移動局(以下、当該移動局という)が複数存在する場合は、簡易化装置61は、当該移動局についての受信処理を行っている受信ベースバンド部(以下、当該ベースバンド部という)を特定し、当該受信ベースバンド部のウェイト推定部に情報を伝達することで、任意の一つだけのウェイト推定部を動作させ、他のウェイト推定部はウェイト推定を行わずに動作し続けているウェイト推定部の推定結果をそのまま用いるようにする。
【0044】
次に、基地局の動作を具体的に説明する。ユーザ1およびユーザ2が中継装置のカバーエリアに存在し、それぞれユーザ1を受信ベースバンド部50a、ユーザ2を受信ベースバンド部50bが受信処理を行っているものとして基地局の動作を説明する。信号処理部56aは、ユーザ1が中継装置のカバーエリアに存在していることを移動局からの上り信号中に含まれる制御チャンネルから検知し、その検知情報を移動局データベース60に対して報知する。同様に、信号処理部56bは、ユーザ2が中継装置のカバーエリアに存在することを検知して移動局データベース60に対して検知情報を報知する。
【0045】
また、簡易化装置61は、移動局データベース60に記憶されている移動局とその移動局との通信に用いられている中継装置について調査し、ユーザ1の移動局とユーザ2の移動局が同じ中継装置のカバーエリア内にいることと、ユーザ1の受信処理を受信ベースバンド部50a、ユーザ2の受信処理を受信ベースバンド部50bがそれぞれ行っていることを認識する。ユーザ1とユーザ2に対する通信は、基地局から見て同じ中継装置に対して行っているので、処理すべきウェイト制御は同じでよい。このため、簡易化装置61は、ユーザ2に対してウェイト推定を行っているウェイト推定部57bに、ユーザ2に対するウェイト推定を行わないように報知する。また同時に、簡易化装置61は、ユーザ1に対するウェイト推定値をウェイト推定部57aから読み取り、ウェイト推定部57bに推定値を報知する。ウェイト推定部57bは、ウェイト推定部57aの推定値をそのまま使用する。以上の動作により、受信ベースバンド部50bは、ユーザ2におけるウェイト推定を行う必要がなくなり、受信ベースバンド部50bにおける処理量を低減することができる。
【0046】
また、簡易化装置61は、移動局データベースの内容確認を続けることで、移動局が中継装置のカバーエリアの外に出た際や通信が終了した際には、各受信ベースバンド部がウェイト推定を通常どおり再開するように各ウェイト推定部へ指示を出す。ユーザ2の移動局が中継装置のカバーエリア外に出たときは、まず、信号処理部56bが、ユーザ2の移動局からの上り信号に含まれる制御チャンネルからその旨を検知する。
【0047】
次に、信号処理部56bは、移動局データベース60にユーザ2が中継装置のカバーエリア外に出たことを報知する。簡易化装置61は、移動局データベース60の内容から、ユーザ1とユーザ2が同じウェイト制御で対応できなくなったことを判定し、ウェイト推定部57bに対して、ユーザ2に対するウェイト推定を再開するように指示を出す。また、ユーザ1の移動局が中継装置のカバーエリア外に出るか、あるいは通信を終了した場合は、信号処理部56aが、ユーザ1からの上り信号に含まれる制御チャンネルからその旨を検知し、移動局データベース60に報知する。
【0048】
尚、簡易化装置61は、ユーザ2に対するウェイト制御をユーザ1のウェイト制御値で行わせていたため、ユーザ2に対するウェイト制御を再開させる必要があると判断する。このとき、簡易化装置61は、ウェイト推定部57bに対してウェイト推定処理の再開についての指示を出す。仮に、第3のユーザであるユーザ3が中継装置のカバーエリアに存在している場合には、ユーザ2とユーザ3のいずれかがウェイト推定を行ない、残りの一方は同じウェイト推定値を使うようにする。
【0049】
次に、基地局から移動局に対して下り通信を行う場合のウェイト制御について説明する。図6は、本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に送信部分の構成を示すブロック図である。図5と同じ動作を行う構成要素については同一の符号を付し説明を省略する。図6に示す基地局は、送信信号に対するベースバンド処理を行う送信ベースバンド部80a、80bと、送信信号の直交変調を行う直交変調器72a、72bと、直交変調器72a、72bの出力信号をRF周波数帯にアップコンバートするミキサ71a、71bと、ミキサ71a、71bの出力信号を増幅するアンプ70a、70bと、アンテナ素子40a、40bとを備える構成となっている。また、送信ベースバンド部80a、80bは、送信する信号の生成などを行う信号処理部86a、86bと、任意の指向性で送信信号を送出するためのウェイト制御を行うウェイト制御部87a、87bと、ウェイト制御部87a、87bの制御により各アンテナ素子に対応するベースバンド信号のウェイトを調整するウェイト調整部85a、85bとを備えた構成となっている。尚、移動局データベース60および簡易化装置61は、図5に示したものと同一である。
【0050】
移動局が中継装置のカバーエリア内に存在しない場合は、前述の従来の移動局と同様に、各送信ベースバンド部80a、80bがそれぞれの移動局に対して移動局の受信品質が良くなるようにウェイト制御を行う。移動局が中継装置のカバーエリア内に存在する場合は、前述の図5のように、受信の信号処理部56a、56bが検知して移動局データベース60にその情報が記憶される。また、図6の簡易化装置61は、前述の受信の時と同様に、同じ中継装置のカバーエリア内に存在する移動局とその移動局に対する送信処理を行っている送信ベースバンド部を特定する。簡易化装置61は、同じ中継装置のカバーエリア内に存在する移動局については、任意の1つのウェイト制御値を他の送信ベースバンド部でも使うようにし、それ以外のウェイト制御部については動作をしないようにする。
【0051】
以下、具体的な例として、中継装置のカバーエリアにユーザ1とユーザ2が存在し、ユーザ1は送信ベースバンド部80aが処理し、ユーザ2は送信ベースバンド80bが処理しているものと仮定して説明する。前述のように、基地局が移動局からの上り信号を受信することにより、簡易化装置61はどの中継装置のカバーエリアにどのユーザの移動局が存在するかを把握している。今、送信ベースバンド部80aと送信ベースバンド部80bが、同じ中継装置のカバーエリア内の移動局にそれぞれ通信を行っているので、簡易化装置61はウェイト制御部87aからはウェイト制御値を読み出し、ウェイト制御部87bに対してはウェイト制御の停止を指示すると共にウェイト制御部87aから読み出したウェイト制御値を報知して、送信ベースバンド部80aと同じウェイト制御を行うように指示する。また、ユーザ2が中継装置のカバーエリア内から出た場合には、やはり前述の受信時と同様に簡易化装置61がその旨を検知し、ウェイト制御部87bに対してウェイト制御を再開するように指示を出す。ユーザ1が通話を終了した場合についても、ウェイト制御部87bにウェイト制御を再開するように指示を出す。
【0052】
以上説明したように、本発明の適応アレーアンテナを用いた移動通信システムは、中継装置が下り信号に中継装置を識別できる識別信号を重畳し、移動局が識別信号を検知すると共に上り信号送信時に基地局に対して中継装置に関する情報を付加させる。さらに、基地局は上り信号中に含まれる中継装置に関する情報を検知し、同じ中継装置のカバーエリア内に存在する移動局を選び出し、その中の任意の移動局についてのみ送受信のウェイト制御を行ない、その他の移動局については任意の移動局でのウェイト制御値をそのまま用いるようにしている。
【0053】
このように、本発明の実施の形態1の適応アレーアンテナを用いた移動通信システムによれば、同じ中継装置のカバーエリアに存在する移動局について、それぞれの移動局に対してウェイト制御を行う必要がなくなるため、基地局におけるウェイト制御やウェイト推定に関する処理を削減することができる。また、本発明の移動通信システムは、同一の中継装置のカバーエリア内に存在する移動局の数が多いほど、処理量削減の効果が大きくなる。
【0054】
尚、ウェイト推定を行う移動局の数は、各中継装置のカバーエリア内で一台に必ずしも限定する必要はなく、任意の複数台のウェイト推定を行ってもよい。また、移動局が中継装置のカバーエリアに存在する時間についても調べ、任意の時間が経過していない場合は、ウェイト推定を簡易化しないようにしてもよい。このことにより、カバーエリアの境界に存在するユーザ(移動局)に対して、ウェイト推定の簡易化を行う/行わないの処理モードが頻繁に切り替わらないようにして、通信制御の品質を向上させることができる。
【0055】
また、任意の人数以上の移動局が中継装置のカバーエリアに存在しない場合については、効果があまり大きくないために、ウェイト推定の簡易化処理を行わないように設定してもよい。尚、中継装置に対するウェイト制御値が一定でよいような場合(例えば、見通しで通信できる場合など)については、中継装置のカバーエリアに存在する移動局に対するウェイト推定は全て行わないようにして、既知であるウェイト制御値をそのユーザ(移動局)に適用するようにしてもよい。
【0056】
また、基地局から見て、中継装置からの到来波の方向が一定の場合(例えば、基地局と中継装置が見通しで通信できる場合など)においては、中継装置のカバーエリア内に存在する移動局の数が増えてくると、中継装置のカバーエリア以外の移動局あるいは他の中継装置に対して通信の強い干渉波となってしまう。このため、中継装置のカバーエリアに存在する移動局の数が任意の数以上になった場合には、その中継装置以外の通信に際して当該中継装置の方向にヌルが発生するようにあらかじめ設定しておくことで、その中継装置のカバーエリア外の移動局に対する通信品質を高めることができる。
【0057】
<実施の形態2>
次に、図7、図8を用いて、本発明の実施の形態2における適応アレーアンテナを用いた移動通信システムについて説明する。図7は、本発明の実施の形態2の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に受信部分の構成を示すブロック図である。図7の基地局では、図5で説明した基地局と同一の構成要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。図7に示す基地局は、図5と同じように受信を行う無線部分と、受信ベースバンド処理部50a、50bと、基地局の周辺に位置する中継装置の位置およびその中継装置と通信を行うための最適なウェイト制御値を記憶している中継装置データベース(中継装置記憶手段)92と、受信ベースバンド部50a、50bから報知される各移動局に対して行っているウェイト制御値を監視する移動局状態監視器(移動局状態監視手段)90と、移動局状態監視器90に状態監視のタイミングを報知するタイマ91と、任意のウェイト推定部の推定を停止させ、他のウェイト推定部の推定値を任意のウェイト推定部に適用させる簡易化装置(第2の指向性制御簡易化手段)95とを備えた構成となっている。尚、図7の簡易化装置(第2の指向性制御簡易化手段)95は図5の簡易化装置(第1の指向性制御簡易化手段)61と共通にすることができる。また、タイマ91とウェイト推定部57a、57bとによって状態変移確認手段が構成される。
【0058】
図8は、本発明の実施の形態2の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に送信部分の構成を示すブロック図である。図8における移動局状態監視器90と簡易化装置95は図7に示したものと同じである。図8では中継装置データベース92とタイマ91の記載は省略されているが図7と同様に機能しているものとする。
【0059】
本発明の実施の形態2における適応アレーアンテナを用いた移動通信システムは、中継装置と移動局に特別な仕組みを必要とせずに基地局のウェイト推定処理を削減できる点が第1の実施の形態と異なる。このため、本実施の形態の基地局では、移動局からの上り信号から、その移動局が中継装置のカバーエリアの中に存在するかどうかを判定する。ただし、実施の形態2については、基地局と中継装置が見通しで通信できる場合に限る。
【0060】
以下、実施の形態2における基地局の動作について図7、図8を参照して説明する。図7において、基地局は、アンテナ素子40a、40bによって上り信号を受信し、前述の実施の形態1と同様に直交復調器43a、43bでベースバンド信号を得て、受信ベースバンド部50a、50bにおいて受信信号のウェイト推定、ウェイト制御および移動局から送信された音声、データ、制御チャンネルの再生を行う。
【0061】
このとき、基地局と中継装置の間には遮蔽物がなく、見通しで通信できる場合は、フェージングの影響を受け難く、基地局が中継装置に対して行うウェイト制御値は一定となる。実施の形態2における基地局は、基地局から見通しで通信できる中継装置の位置とその中継装置との通信に適用するウェイト制御値が、中継装置データベース92にあらかじめ記憶されている。また、移動局状態監視器90は、受信ベースバンド部50a、50bがそれぞれ適用しているウェイト制御値を監視し、中継装置データベース92に記録されている中継装置のウェイト制御値との相関を確認する。
【0062】
ここで、受信ベースバンド部50a、50bの何れかが行っているウェイト制御値が任意の時間以上に亘って変化がなく、さらに中継装置データベース92に記憶されているウェイト制御値と相関があれば、その移動局は中継装置のカバーエリア内に存在すると推測することができる。なぜなら、中継装置のカバーエリアの中に移動局が存在している場合は、基地局と直接通信を行っているのはその中継装置となるので、基地局が推定するウェイト制御値が大きく変化することはなくなるが、移動局が中継装置のカバーエリアに存在しない場合については、必ずしも基地局と見通しの位置に存在することはなく(現実的には、むしろ見通しとなることの方が少ない)、ウェイト推定値は変化し続けることになる。また、見通しとなる中継装置に対するウェイト制御値をあらかじめ記憶させていることから、ウェイト制御値を比較することでその中継装置に対して通信を行っているのか移動局に対して通信を行っているのかを判別することが可能となる。
【0063】
次に、移動局状態監視器90は、移動局の状態情報を簡易化装置95に報知する。簡易化装置95は移動局状態監視器90からの情報を受けると、その移動局を処理している受信ベースバンド部50n(nは任意の系の番号)のウェイト推定部57nのウェイト推定を停止させ、ウェイト制御値を固定する。このようにすることによって基地局はウェイト推定を行う必要がなくなるので処理量の削減が行うことができる。
【0064】
但し、移動局が中継装置のカバーエリアから外に出てしまう可能性もあるため、任意の時間ごとにウェイト推定部57nのウェイト推定を再実行させる必要がある。再実行させる時間間隔については、タイマ91が生成するタイミングに従う。簡易化装置95がそのタイミングに従ってウェイト推定部57nのウェイト推定を再度実行させ、その結果が中継装置データベース92に記憶されている当該中継装置に対するウェイト制御値と相関がある場合については、再びウェイト推定部57nのウェイト推定を停止させる。反対に、ウェイト推定の結果が中継装置データベース92に記憶されているウェイト推定値と違ってきた場合は、当該移動局が中継装置のカバーエリア外に出たものと判定し、ウェイト推定を行い続けるようにする。
【0065】
次に、基地局からの送信について図8を用いて説明する。移動局状態監視器90と簡易化装置95は、前述の受信処理のときと同じ構成要素であり、移動局がどの中継装置のカバーエリア内に存在するかを把握している。図7の受信の時と同様に、中継装置が基地局から見通しの位置にある場合は、フェージングの影響が小さいために、基地局から中継装置への送信を行うためのウェイト制御値は一定である。また、中継装置データベース92には、見通し位置に存在する中継装置の場所と通信に適したウェイト制御値が記憶されているため、送信においても、当該移動局へのウェイト制御を行うウェイト制御部87n(nは任意の系の番号)に、該当するウェイト制御値を適用することで送信指向性が最適になる。また、受信ベースバンド処理によって移動局が中継装置のカバーエリアの外に出たことを検出した場合は、送信時においてもウェイト制御部87nの機能を再開させる。
【0066】
このように、本発明の実施の形態2の適応アレーアンテナを用いた移動通信システムによれば、中継装置が基地局から見通しの位置にある場合には、移動局に対して行うウェイト推定、ウェイト制御を任意の時間に亘って行わないようにするために、基地局ベースバンド部のウェイト推定、ウェイト制御に関する処理を削減することができる。
【0067】
<実施の形態3>
次に、図9、図10を用いて、本発明の実施の形態3における適応アレーアンテナを用いた移動通信システムについて説明する。図9は、本発明の実施の形態3の移動通信システムに適用される中継装置の構成を示すブロック図である。図9に示す中継装置は、基地局と通信を行うためのアンテナ100と、下り信号の増幅を行うアンプ102と、中継装置のカバーエリアに存在する移動局との通信を行うアンテナ104と、移動局からの上り信号を増幅するアンプ110と、アンプ110の出力信号をIF周波数帯にダウンコンバートするミキサ111と、ミキサ111の出力信号を直交復調しベースバンド信号を出力する直交復調器(復号手段)112と、直交復調器112の出力ベースバンド信号に信号処理を行ない、移動局からの上り信号を解析し中継装置の識別信号を重畳させる信号処理部(中継装置識別信号多重手段)115と、中継装置の識別信号が重畳されたベースバンド信号に直交変調を行う直交変調器(変調手段)120と、直交変調器120の出力信号をRF周波数帯にアップコンバートするミキサ121と、ミキサ121の出力信号を増幅するアンプ122と、下り信号を増幅する系と上り信号を増幅する系とでアンテナ100およびアンテナ104を共用するためのデュプレクサ101、103とを備えた構成となっている。
【0068】
実施の形態3では、基地局と移動局との間の通信をFDMA方式で行うことを想定しているが、TDMA方式であった場合はデュプレクサ101、103をスイッチに置き換えることで同じ効果を得ることができる。
【0069】
実施の形態3における適応アレーアンテナを用いた移動通信システムでは、移動局に特別な仕組みを必要としないことが実施の形態1と異なる点である。この実施の形態では、移動局からの上り信号を一旦中継装置においてベースバンド信号に戻し、制御チャンネルに中継局の識別信号を重畳させる。基地局における働きについては、実施の形態1と同様であるのでその説明は省略する。
【0070】
以下、実施の形態3の中継装置の動作について図9を用いて説明する。まず、実施の形態3の中継装置は、下り信号に対する処理は前述の従来の中継装置と同様であり、基地局からの信号をアンテナ100で受信し、アンプ102で増幅した後にアンテナ104から移動局に対して再送信を行う。
【0071】
実施の形態3の中継装置は、上り信号を扱う際には中継装置識別信号を重畳するように動作する。まず、アンテナ104が複数の移動局からの上り信号を受信する。受信した信号はアンプ110で増幅され、ミキサ111でIF周波数帯にダウンコンバートされた後、直交復調器112によってベースバンド信号に戻される。信号処理部115は得られたベースバンド信号を解析し、各移動局の制御チャンネルに中継装置を識別できる識別信号を重畳する。
【0072】
ここで、信号処理部115の中の動作について図10を用いて説明する。図10は、本発明の実施の形態3における中継装置の信号処理の働きを示すブロック図である。図10に示す信号処理部115は、上り信号のベースバンド信号を入力し移動局ごとの信号を分離する信号分配器130と、各移動局のベースバンド信号を再生する信号再生部131a〜131nと、中継装置を識別できる識別信号を生成する識別信号生成器135と、信号再生部131a〜131nが再生した各移動局のベースバンド信号に識別信号を重畳する合成器132a〜132nと、合成器132a〜132nの出力信号を合成する信号多重器138とを備えた構成となっている。
【0073】
直交復調器112の出力ベースバンド信号は、複数の移動局からの信号が合成されたものであるため、信号分配器130で信号を分配し、信号再生部131a〜131nで各移動局からの信号を個別に再生する。それぞれ移動局からの信号の制御チャンネルに、合成器132a〜132nで中継装置の識別信号を加える。識別信号を重畳した信号を基地局へ再送信するために、信号多重器138が信号を合成して直交変調器120へ出力する。すると、直交変調器120は、信号処理部115の出力信号に直交変調を行ない、ミキサ121でRF周波数帯へアップコンバートし、アンプ122で増幅した後にアンテナ100によって基地局へ上り信号を送信する。
【0074】
以上の動作により、中継装置から基地局に送信される上り信号は、移動局ごとに中継装置を識別できる信号が含まれていることになる。つまり、本発明の実施の形態1で説明したものと同じ上り信号が基地局では受信されることになる。また、実施の形態3における基地局の働きは実施の形態1と同様であるので、適応アレーアンテナを用いた移動通信システムとしては、実施の形態1と同じ効果が得られることになる。
【0075】
以上説明したように、実施の形態3では、中継装置が上り信号を増幅する際に中継装置を識別する識別信号を重畳することによって、移動局に特別な機能を持たせることなく、実施の形態1同等の効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明に係る移動通信システムは、基地局が中継装置のカバーエリアに存在する移動局を認識し、必要のないウェイト推定およびウェイト制御を省略させることによって基地局の処理量を大幅に削減することができるので、通信品質レベルの高い移動通信システムを構築して通信インフラの分野に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される中継装置の一構成例を示すブロック図
【図2】図1に示す中継装置から移動局に対して再送信される信号のスペクトラム
【図3】本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される中継装置の他の構成例を示すブロック図
【図4】本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される移動局の構成を示すブロック図
【図5】本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に受信部分の構成を示すブロック図
【図6】本発明の実施の形態1の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に送信部分の構成を示すブロック図
【図7】本発明の実施の形態2の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に受信部分の構成を示すブロック図
【図8】本発明の実施の形態2の移動通信システムに適用される、適応アレーアンテナを用いた基地局の主に送信部分の構成を示すブロック図
【図9】本発明の実施の形態3の移動通信システムに適用される中継装置の構成を示すブロック図
【図10】本発明の実施の形態3における中継装置の信号処理の働きを示すブロック図
【図11】適応アレーアンテナを用いた従来の基地局の受信部分の構成を示すブロック図
【図12】適応アレーアンテナを用いた従来の基地局の送信部分の構成を示すブロック図
【図13】従来の中継装置の動作を示す概念図
【図14】従来の中継装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0078】
1、7、30、100、104 アンテナ
2、6、101、103 デュプレクサ
3、8、31、41a、41b、70a、70b、102、110、122 アンプ
4 識別信号生成器
5 合成器
10 検波器
11 スイッチ
20 下り信号
21、23 識別信号
22 下り信号の周波数帯
32、42a、42b、71a、71b、111、121 ミキサ
33 帯域制限フィルタ
34、43a、43b、72a、72b、112 直交復調器
35 識別信号検知器
36 ベースバンド処理部
40a、40b アンテナ素子
50a、50b 受信ベースバンド部
55a、55b、85a、85b ウェイト調整部
56a、56b、86a、86b、115 信号処理部
57a、57b ウェイト推定部
60 移動局データベース
61 簡易化装置
80a、80b 送信ベースバンド部
87a、87b ウェイト制御部
90 移動局状態監視器
91 タイマ
92 中継装置データベース
95 簡易化装置
120 直交変調器
130 信号分配器
131a〜131n 信号再生部
132a〜132n 合成器
135 識別信号生成器
138 信号多重器
500a、500b アンテナ素子
501a、501b、505a、505b、670、671 アンプ
502a、502b、506a、506b ミキサ
503a、503b、507a、507b 直交復調器
510a、510b 受信ベースバンド部
520a、520b、540a、540b ウェイト調整部
521a、521b、541a、541b 信号処理部
523a、523b ウェイト推定部
530a、530b 送信ベースバンド部
543a、543b ウェイト制御部
600 基地局
610 中継装置
615 中継装置のカバーエリア
620a〜620e 移動局
650、651 アンテナ
660、661 デュプレクサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基地局、中継装置、および移動局によって構成され、適応アレーアンテナを利用してアンテナの指向性を適応制御する移動通信システムであって、
前記中継装置は、
前記基地局から送信される信号を受信して再送信するときに自己の中継装置識別信号を付与する中継装置識別信号重畳手段を備え、
前記移動局は、
前記中継装置識別信号を検知する識別信号検知手段と、
前記中継装置識別信号を検知した際にその中継装置識別信号に応じた中継装置の情報を前記基地局へ送信する中継装置情報報知手段とを備え、
前記基地局は、
前記中継装置情報報知手段が送信した前記中継装置の情報を検知する中継装置情報検知手段と、
前記中継装置情報検知手段の検知結果から各々の中継装置とその中継範囲内に存在する移動局についての情報を記憶する移動局記憶手段と、
前記移動局記憶手段の情報に基づいて同一の中継装置の中継範囲内に存在する移動局に対して行う指向性制御を簡易化する第1の指向性制御簡易化手段と
を備えることを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
前記基地局は、さらに、
前記中継装置の場所とその中継装置との通信に最適なアンテナ指向性とを記憶する中継装置記憶手段と、
各々の前記移動局との通信に適用している指向性情報と前記中継装置記憶手段に記憶されている指向性とを比較して、前記移動局が前記中継装置を介して通信しているか否かを判定する移動局状態監視手段と、
前記移動局状態監視手段によって前記中継装置の中継範囲に存在すると判定された移動局に対して行う指向性制御を簡易化する第2の指向性制御簡易化手段と、
前記第2の指向性制御簡易化手段によって指向性を制御されている移動局に対して任意の時間ごとに指向性を再確認させる状態変移確認手段と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の移動通信システム。
【請求項3】
前記中継装置は、さらに、
前記移動局からの上り信号を受信してベースバンド信号に変換する復号手段と、
前記復号手段で復号された上り信号のそれぞれについてそれぞれ該当する中継装置の識別信号を多重にする中継装置識別信号多重手段と、
前記中継装置識別信号多重手段の出力信号を変調して前記基地局へ再送信する変調手段と
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の移動通信システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の移動通信システムを構成する基地局。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の移動通信システムを構成する中継装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の移動通信システムを構成する移動局。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の移動通信システムの機能を実現するソフトウェア。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−129396(P2006−129396A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318513(P2004−318513)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】