説明

積層体の圧縮賦形装置およびプリフォームの製造方法および繊維強化複合材料の製造方法

【課題】賦形すべき積層体の積層枚数が変化しても、不具合を発生させることなく、容易に望ましい形状に賦形することが可能な圧縮賦形装置および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維を含むシート材の積層体2を相対する金型1a,1b間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する装置において、少なくとも一方の金型に、金型賦形面4上に屈曲部5を形成し該屈曲部の先端部が曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材3を設けたことを特徴とする圧縮賦形装置、それを用いる圧縮賦形方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含むシート材の積層体を所定の屈曲形状に賦形する圧縮賦形装置および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた繊維強化プラスチック(FRP)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。このFRPの成形方法としては、強化繊維材を複数枚積層した積層体からなる強化繊維基材を、相対する金型で挟み加圧することにより所定の形状に賦形し、含浸樹脂を硬化させて所定の形状のFRPに成形する方法が知られている。
【0003】
強化繊維基材としては、例えば強化繊維をシート状に複数本引き揃え、エポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させ、シート状に成形したプリプレグシートが用いられている。このプリプレグシートを複数枚積層し、金型内で加圧・加熱してマトリックス樹脂を硬化させ所定形状のFRPに成形する。また、マトリックス樹脂が含浸されていない、ドライの強化繊維基材を用いたFRPの成形も行われている。これはResin Transfer Molding(以下、RTMという)成形方法や真空RTM成形方法などと呼ばれる成形方法であり、例えば層間接着樹脂が付加された強化繊維材を複数枚積層し、その積層体を金型で賦形してプリフォームと呼ばれる形態の中間成形品を製作した後、このプリフォームに低粘度の液状マトリックス樹脂を注入して硬化させるものである。
【0004】
これらFRPの成形においては、I形やH形の横断面形状を持つ梁部材を製造する装置も知られている(例えば、特許文献1参照)。これは積層体を所定の断面形状に金型にて賦形した後、金型を開き積層体を所定量移動させ、再度賦形するということを繰り返し、長尺の成形品を成形する装置である。このような装置を用いることで、長手方向に一様な断面形状を持つ梁部材の成形を、その梁部材の全長分、大型の金型を用いることなく、小さな金型にて製造することができる。
【0005】
しかしながら、例えば片持ちの構造物を考えた場合、一般的にそれを支える梁部材は根元にいくほど剛性が高くなることが求められる。そのため、長尺の成形品を製造するための積層体では、強化繊維材の積層枚数(積層体成形品の厚み)を長手方向に対して増加していくことでこの要求に対応している。一方、上記従来技術は、基本的に一定形状、一定厚みの断面にて順次成形していくものであるため、このような成形品の厚み変化の要求には対応できなかった。
【0006】
このように成形品に厚み変化が要求される場合に、強化繊維基材を構成する積層体の賦形、特に横断面内に屈曲部を有する形状への賦形の場合には、次のような問題がある。図5を用い、屈曲部を持つ成形品の例としてL字形の断面を持つ積層体2の賦形について説明する。図5(A)は長手方向に垂直な断面を示しており、紙面と垂直な方向に一様な断面形状にて相対する金型1a、1bの賦形面4が形成されている。図5(B)はL字形の角部の拡大図である。積層体2を金型1a、1bにて屈曲させる場合、屈曲部を直角に折り曲げることはできず、多少の丸みをつけねばならない。このように本願において屈曲部とは積層体を折り曲げた部分であり、断面において直線部と、直線部に挟まれた曲面部とを有する。図5(B)にて示すと、屈曲部の内側を形成する上型1aでは、角部はrの丸みをつけてある。それに対向する下型1bの角部は、上型1aの角部の丸みrに積層体2の厚みtを足したRの丸みをつける。つまり、R=r+tである。このように、成形する積層体2の厚みに応じて、金型賦形面4の丸みを合わせなければならない。一方、上記図5(B)の金型を用い、tよりもΔtだけ薄い積層体2を成形する場合を考える。この場合、下型1bを基準に考えると、上型1aの角部の丸みrは上記式で求められる丸みよりもΔtだけ小さいこととなる。そのため、図5(C)に示すように、L字形の角部において直線部より隙間が狭くなるため、角部において積層体2のつぶれが生じてしまう(つぶれ箇所2a)。また逆に上記図5(B)の金型を用い、tよりもΔtだけ厚い積層体2を成形する場合を考える。この場合、下型1bを基準に考えると、上型1aの角部の丸みrは上記式で求められる丸みよりもΔtだけ大きいこととなる。そのため、図5(D)に示すように、L字型の角部において直線部より隙間が広くなるため、角部において圧力が不足し(圧力不足箇所2b)、成形不良が生じてしまう。このように金型と積層体の厚みが合っていないと均一な圧力で加圧することはできず、成形されるFRPの繊維体積含有率(Vpf)にムラができてしまう。
【特許文献1】特開2001−194118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、前記した従来技術の問題点を解決するために、積層体の積層枚数が変化しても、不具合を発生させることなく、積層体全体を同一の金型で容易に望ましい形状に賦形することが可能な圧縮賦形装置および方法、並びにそれらを用いて製造された繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る圧縮賦形装置は、強化繊維を含むシート材の積層体を相対する金型間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する圧縮賦形装置において、少なくとも一方の金型に、前記金型賦形面上に前記屈曲部を形成し該屈曲部の先端部が曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材を設けたことを特徴とするものからなる。
【0009】
このような圧縮賦形装置においては、少なくとも一方の金型の金型賦形面の屈曲部を形成するコーナー部分が、残りの金型部分から分離、交換可能な別部材に構成されているので、賦形すべき屈曲部の形状、とくに屈曲部の先端部における丸みの形状に応じて、このコーナー形成用部材として、そのときの賦形すべき形状にとって最適な形状を有するコーナー形成用部材を選択的に使用することが可能になる。したがって、積層体の積層枚数が変化し積層体の厚みが変化する場合にあっても、賦形に使用するコーナー形成用部材を、積層体の賦形すべき部位の厚みの変化に対応させて最適なコーナー形成用部材に順次交換することにより、金型賦形面のコーナー部分を常にそのときの賦形されるべき積層体部位にとって最適な形状に設定することが可能になる。その結果、積層体全体を、とくに積層体全長にわたって、同一の金型で容易に望ましい形状に賦形することが可能なり、前述したような屈曲部におけるつぶれ箇所や圧力不足箇所の発生を防止できる。そして、屈曲部におけるつぶれ箇所や圧力不足箇所等の不具合を発生させることなく、目標とする断面形状に賦形することが可能になるので、均一で高いFRPの繊維体積含有率(Vpf)を達成するための賦形が可能となる。しかも、金型全体ではなく、そのごく一部を構成するコーナー形成用部材だけの交換で済むので、交換操作も容易に行われ、金型が加熱されている場合にあっても、交換されたコーナー形成用部材を昇温すればよいので、短時間で所定温度への加熱が可能である。
【0010】
この圧縮賦形装置においては、上記屈曲部の先端部における曲面の曲率が互いに異なる複数個の、互いに交換可能なコーナー形成用部材を備えていることにより、つまり、適切な複数種のコーナー形成用部材を用意しておくことにより、積層体の厚みの変化に容易に対応できるようになる。
【0011】
また、この圧縮賦形装置においては、上記金型に、発熱体と温度調節機構を有する加熱手段と、加圧機構と面圧検出機構を有する加圧手段とが付設されている構成とすることができる。このような加熱手段を有することにより、加熱賦形の場合にあっても所定の温度への加熱制御が可能になり、このような加圧手段を有することにより、賦形のための加圧に際して最適な面圧に制御できるようになる。
【0012】
また、この圧縮賦形装置は、型締めと型開きを交互に繰り返す手段と、この開閉動作に合わせて積層体を搬送する搬送手段とを有する構成とすることができる。このような構成により、たとえ長尺の積層体であっても、上記のような屈曲部を有する賦形を長手方向に沿って順次実行していくことが可能になる。したがって、比較的小型の圧縮賦形装置で、長尺の積層体の賦形に対応できるようになる。
【0013】
上記構成を備えた圧縮賦形装置は、さらに、上記搬送手段による積層体の搬送方向の積層体の厚みのプロファイルを記録する厚み記録手段と、上記搬送手段による積層体の搬送時の積層体の移動量を記録する移動量記録手段と、前記厚み記録手段と前記移動量記録手段に記録された情報に基づき、コーナー形成用部材の先端部における曲面の曲率を演算する演算手段と、コーナー形成用部材を交換する交換手段とを有する構成とすることができる。このような構成により、長尺の積層体に対し、積層体の厚みの変化に対応させて、最適な屈曲部形状に、順次精度よく円滑に賦形していくことが、とくに自動的に賦形していくことが可能になる。
【0014】
また、本発明に係る圧縮賦形装置においては、上記コーナー形成用部材は一つの金型の1箇所のみに設ける形態も採り得るが、必要に応じて、例えば1回の賦形動作で複数の屈曲部の賦形が要求される場合には、異なる上記コーナー部分に対応するコーナー形成用部材を複数個同時に装置内に有する構成とすることができる。このような構成により、複数の屈曲部を有する比較的複雑な断面形状への賦形にあっても、本発明による交換可能なコーナー形成用部材を効果的に適用できる。より具体的には、T形やI形、H形等の断面形状への賦形を順次効率よく行うことが可能になる。
【0015】
本発明は、上記のような圧縮賦形装置を用いて製造された繊維強化複合材料やプリフォームについても提供する。本発明に係る繊維強化複合材料は、前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該シート材の積層体が、上記のような圧縮賦形装置を用いて賦形され、マトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とするものからなる。
【0016】
また、本発明に係るプリフォームは、前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該シート材の積層体が、上記のような圧縮賦形装置を用いて賦形されていることを特徴とするものからなる。この場合、繊維強化複合材料は、上記のように賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂が含浸され、含浸されたマトリックス樹脂が硬化されて製造される。
【0017】
本発明に係る圧縮賦形方法は、強化繊維を含むシート材の積層体を相対する金型間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する圧縮賦形方法において、少なくとも一方の金型に、前記金型賦形面上に前記屈曲部を形成し該屈曲部の先端部が曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材を設け、前記積層体に応じて設けたコーナー形成用部材を用いて、前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形することを特徴とする方法からなる。
【0018】
この圧縮賦形方法においては、上記屈曲部の先端部における曲面の曲率が互いに異なる複数個の、互いに交換可能なコーナー形成用部材を準備し、上記積層体に応じて、とくに、積層体自体の厚みに応じて、用いるコーナー形成用部材を選択することができる。また、積層体の賦形部位に応じて、用いるコーナー形成用部材を選択することができる。
【0019】
また、本発明に係る圧縮賦形方法においては、金型の温度を制御するとともに、加圧時の面圧を制御するようにすることができる。
【0020】
また、本発明に係る圧縮賦形方法においては、型締めと型開きを交互に繰り返し、この開閉動作に合わせて積層体を搬送することが可能である。これにより、長尺の積層体を順次所定形状に賦形していくことが可能になる。
【0021】
この場合、積層体の搬送方向の積層体の厚みのプロファイルを記録し、積層体の搬送時の積層体の移動量を記録し、記録された厚みのプロファイルと移動量の情報に基づき、前記コーナー形成用部材の先端部における曲面の曲率を演算し、それまでのコーナー形成用部材を演算された曲率に適合するコーナー形成用部材に交換するようにすることができる。これにより、自動的に長尺の積層体を順次最適な形状に賦形していくことが可能になる。
【0022】
また、本発明に係る圧縮賦形方法においては、異なる前記コーナー部分に対応するコーナー形成用部材を複数個同時に装置内に設け、積層体に応じて設けた複数個のコーナー形成用部材を用いて、積層体を、複数の屈曲部を有する形状に賦形するこもできる。
【0023】
本発明に係る繊維強化複合材料の製造方法は、前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該シート材の積層体を、上記のような圧縮賦形方法を用いて賦形し、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする方法からなる。
【0024】
本発明に係るプリフォームの製造方法は、前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該シート材の積層体を、上記のような圧縮賦形方法を用いて賦形することを特徴とする方法からなる。この場合、繊維強化複合材料は、上記のように賦形されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸し、含浸されたマトリックス樹脂を硬化させることにより製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る圧縮賦形装置および方法によれば、積層体の積層枚数が変化し積層体の厚みが変化する場合にあっても、積層体全体を全長にわたって、同一の金型で容易に望ましい屈曲部を有する断面形状に賦形することが可能になる。また、屈曲部におけるつぶれ箇所や圧力不足箇所等の不具合を発生させることなく、目標とする断面形状に賦形することが可能になるので、均一で高いFRPの繊維体積含有率(Vpf)を達成するための賦形が可能となる。また、コーナー形成用部材だけの交換で済むので、交換操作も容易に行うことができ、金型を加熱して使用する場合にあっても、交換したコーナー形成用部材を所定温度に昇温すればよいので、短時間で金型全体の所定温度への加熱を完了させることができる。コーナー形成用部材を予備加熱する場合にあっては、金型全体を予備加熱する場合に比べ、短時間かつ小型の設備で済む。
【0026】
本発明に係る繊維強化複合材料とプリフォームおよびそれらの製造方法によれば、上記のような目標とする断面形状に精度よく賦形することが可能な圧縮賦形装置および方法を用いるので、屈曲部が均一に成形され高い繊維体積含有率(Vpf)を有する繊維強化複合材料の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
本発明に係る圧縮賦形装置および方法において賦形対象とするのは、強化繊維を含むシート材の積層体である。本発明における「強化繊維」としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などが挙げられる。強化繊維はその形態としては、織物、編み物、組み物、不織布、一方向に引き揃えられた強化繊維シートなどが挙げられる。強化繊維を含むシート材としては、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグの形態のもの、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材の形態のもののいずれも使用可能である。本発明における「積層体」は、このようなプリプレグの形態のシート材を複数枚積層したもの、あるいはドライの強化繊維材の形態のシート材を複数枚積層したものからなる。ドライの強化繊維材を用いる場合には、結着性物質を使用してもよく、この結着性物質は、強化繊維に付着し、強化繊維同士を結着することで、強化繊維をシート状の形態に安定して維持させるものであり、結着性物質としては、例えば、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ナイロン、ポリウレタンなどの熱可塑性樹脂、また、例えばエポキシ、フェノール、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、結着性樹脂は、ドライの強化繊維材の積層体を所望の形状に賦形した際に、その形態を保持する役割を果たす。
【0028】
図1は、本発明の一実施態様に係る圧縮賦形装置およびそれを用いた圧縮賦形方法を示している。図1(A)に示すように、圧縮賦形装置10は、強化繊維を含むシート材の積層体2を相対する上金型1a、下金型1b間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面4の形状に沿う形状に、つまり、積層体2をその断面形状として屈曲部5を有する形状に賦形する。少なくとも一方の金型に、本実施態様では上金型1a側に、金型賦形面4上に上記屈曲部を形成し該屈曲部の先端部が丸みを有する曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材3が設けられている。この分離、交換可能なコーナー形成用部材3は、その先端部における曲面の曲率が互いに異なるものが複数個用意されている。このコーナー形成用部材3の材質は特に限定されないが、金型を加熱する場合等の線膨張係数の関係から、残りの金型部分と同一の材質としておくことが好ましい。
【0029】
このような圧縮賦形装置10を用いて、例えば図1(B)(C)(D)に示すように積層体2の賦形が行われる。図1(B)(C)(D)は、積層体2の厚さがそれぞれがt、t−Δt、t+Δtの場合を示しており、コーナー形成用部材3の先端部における曲面の曲率半径は積層体2の厚さに対応してr、r+Δt、r−Δtとされている。ただし、本実施態様では、下金型1b側の屈曲部を有する金型賦形面4の凹部における曲面の曲率半径Rは一定のままである。このように、積層体2の厚さに対応させて、上金型1a側で、先端部曲面の曲率半径が互いに異なるコーナー形成用部材3に、つまり、それまで使用されていたコーナー形成用部材3が、先端部における曲面の曲率半径がr、r+Δt、r−Δtのいずれかのコーナー形成用部材3に交換される。
【0030】
その結果、積層体2の厚さが変化しても、変化した厚さに対応する最適な先端部曲率半径を有するコーナー形成用部材3が使用されることになり、積層体2はコーナー部で大きな隙間やつぶれを発生させることなく均等に加圧され、望ましい形状の屈曲部が精度良く賦形されることになる。また、実質的に同一の金型を用い、必要に応じて小型部品であるコーナー形成用部材3を交換すれば済むので、長尺の積層体の賦形においても、積層体を搬送しつつ順次賦形部位を変えていくことにより、容易に所望の賦形を行うことができる。金型を加熱して使用する場合において、コーナー形成用部材3を交換した場合には、交換したコーナー形成用部材3のみを所定温度に昇温させればよいので、加熱に要する時間も短い。交換すべきコーナー形成用部材3を予備加熱する場合にあっても、規模の小さい加熱装置で済む。
【0031】
賦形された積層体2がプリプレグのシート材の積層体からなる場合には、賦形された積層体2におけるマトリックス樹脂を硬化(例えば、加熱硬化)させれば、所定の繊維強化複合材料の成形品の製造が可能である。賦形された積層体2がドライの強化繊維材からなるシート材の積層体の場合には、RTM成形方法や真空RTM成形方法により、マトリックス樹脂を含浸させた後硬化させることにより、所定の繊維強化複合材料の成形品の製造が可能である。
【0032】
上記実施態様では上金型1a側に交換可能なコーナー形成用部材3を設けているが、コーナー形成用部材3を設ける位置は必ずしも屈曲部の内側である必要はなく、外側でもよい。すなわち、下金型1b側に同様の交換可能なコーナー形成用部材を設けることも可能であり、上金型1a側と下金型1b側の両側に同様の交換可能なコーナー形成用部材を設けることも可能である。
【0033】
また、上記交換可能なコーナー形成用部材の先端部の丸み(曲率)は、必ずしも、丁度積層体2の厚さの変化に対応したものである必要はなく、厚さ変化の頻度が高い場合、例えば、厚い部分で積層枚数が数十枚あるものが、1枚ずつ徐々に枚数を減らしていき、最終的に半数程度まで少なくなるような場合は、コーナー形成用部材を段階的に複数種用意し、先端部の丸み(曲率)に関して最近似のものを選択することもできる。この場合、どの程度段階的に複数種用意するかは、成形されたものの形状精度が許される範囲内で対応すればよい。
【0034】
図2は、図1に示した圧縮賦形装置10を、長尺の積層体2の連続賦形に適用した例を示している。すなわち、間欠送り動作にて実質的に連続的に搬送されてくる積層体2に対し、場合によっては圧縮賦形の直前段階で筋目または折れ目を付与した後、積層体2を圧縮賦形装置10に導入する。圧縮賦形装置10の型締め時に図1に示した賦形を行い、型締めと型開きを交互に繰り返し、この開閉動作に合わせて積層体2を間欠的に搬送すればよい。型締めと型開きを交互に繰り返す手段としては、図示例では単に上金型1aを昇降させる手段を用いればよく、搬送手段としては、通常の送り装置あるいは引き抜き装置を使用すればよい。
【0035】
また、図示は省略するが、厚み記録手段を設けて積層体2の搬送方向(図2の矢印方向)の積層体2の厚みのプロファイルを記録し、搬送手段による積層体2の搬送時の積層体2の移動量を移動量記録手段により記録し、記録された厚みのプロファイルと移動量の情報に基づき、コーナー形成用部材3の先端部における曲面の曲率を演算手段により演算し、交換手段により、それまでのコーナー形成用部材3を演算された曲率に適合するコーナー形成用部材3に交換するようにすれば、長尺の積層体2を順次自動的に最適な形状に賦形していくことが可能になる。
【0036】
本発明に係る圧縮賦形装置および方法は、複数の屈曲部を同時に賦形する場合にも適用できる。例えば図3に、別の実施態様を示すように、圧縮賦形装置20に、上側の左右に2個の上金型11a、11bを設け、下側に下金型11cを設け、圧縮賦形装置20に3枚の積層体12a、12b、12cを送り込んで、平板状の積層体12c上に、屈曲部15a、15bを有する断面L字形の積層体12a、12bを一体的に賦形することにより、全体として断面逆T字形に賦形することができる。積層体12a、12bの屈曲部15a、15bと積層体12cとの間には、屈曲部の曲面形状により隙間が生じようとするが、この隙間は、例えば予め隙間と同等の断面形状に形成された、樹脂やプリプレグ、強化繊維材からなるコーナーフィラー部材16で埋められる。そして、積層体12a、12bの屈曲部15a、15bの賦形のために、上金型11a、11bにそれぞれ、前述したのと同様の交換可能なコーナー形成用部材13a、13bが設けられる。相対的に、上金型11a、11bに対しては互いに接近する方向に(あるいは、一方を固定し他方をそれに接近させる方向に)、下金型11c対しては上向きに、加圧力が加えられ、これら金型間で積層体12a、12b、12cが所定形状に賦形される。
【0037】
このように複数の屈曲部を同時に賦形する場合にも、各屈曲賦形箇所に対し、図1に示したと同様に、積層体12a、12bの厚さの変化に対応する最適な先端部曲率半径を有するコーナー形成用部材13a、13bに交換することになり、積層体12a、12bはコーナー部で大きな隙間やつぶれを発生させることなく均等に加圧され、望ましい形状の屈曲部が精度良く賦形され、全体としても望ましい断面形状に精度良く賦形されることになる。積層体12a、12bの屈曲部の外側の曲率半径Rは積層体12a、12bの厚さ変化に対して常に一定形状とできるので、コーナーフィラー部材16の断面形状や断面積を変える必要はない。
【0038】
このような賦形も、長尺の素材に対して実質的に連続的に、かつ必要に応じて自動的に、賦形していくことが可能である。例えば図4に示すように、繰り出されてきたコーナーフィラー部材の素材条体21をフィラー賦形装置22で図3に示したような所定の断面形状のコーナーフィラー部材16に賦形し、繰り出されてきた積層体12a、12bに例えば折れ線付与装置23により後続の賦形を行いやすいようにそれぞれ1本の折れ線を付与し、折れ線が付与された積層体12a、12bと、繰り出されてきた積層体12cと、送られてきたコーナーフィラー部材16とを所定の位置関係に並べて圧縮賦形装置20に導入する。圧縮賦形装置20では、図3に示したような圧縮賦形を行い、一体化された賦形物24に対し、必要に応じてトリミング装置25で不要部分を除去し、例えばアクチュエータ26で作動される牽引装置27によって賦形物24を送り出す。このようにすれば、長尺物に対しても、実質的に連続的に、効率よく所望の賦形を行うことが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る圧縮賦形装置および方法は、断面に屈曲部を有するあらゆる強化繊維積層体基材の賦形に適用でき、繊維強化複合材料やプリフォームの製造分野に広く適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施態様に係る圧縮賦形装置およびそれを用いた圧縮賦形方法を示す概略断面図である。
【図2】図1の装置を用いた連続賦形の一例を示す一部破断表示斜視図である。
【図3】本発明の別の実施態様に係る圧縮賦形装置およびそれを用いた圧縮賦形方法を示す概略断面図である。
【図4】図1の装置を用いた連続賦形の一例を示す概略斜視図である。
【図5】従来の圧縮賦形装置およびそれを用いた圧縮賦形方法を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0041】
1a、1b、11a、11b、11c 金型
2、12a、12b、12c 積層体
3、13a、13b コーナー形成用部材
4 金型賦形面
5、15a、15b 屈曲部
10、20 圧縮賦形装置
16 コーナーフィラー部材
21 コーナーフィラー部材の素材条体
22 フィラー賦形装置
23 折れ線付与装置
24 一体化された賦形物
25 トリミング装置
26 アクチュエータ
27 牽引装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含むシート材の積層体を相対する金型間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する圧縮賦形装置において、少なくとも一方の金型に、前記金型賦形面上に前記屈曲部を形成し該屈曲部の先端部が曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材を設けたことを特徴とする圧縮賦形装置。
【請求項2】
前記屈曲部の先端部における曲面の曲率が互いに異なる複数個の、互いに交換可能なコーナー形成用部材を備えている、請求項1に記載の圧縮賦形装置。
【請求項3】
前記金型に、発熱体と温度調節機構を有する加熱手段と、加圧機構と面圧検出機構を有する加圧手段とが付設されている、請求項1または2に記載の圧縮賦形装置。
【請求項4】
型締めと型開きを交互に繰り返す手段と、この開閉動作に合わせて積層体を搬送する搬送手段とを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の圧縮賦形装置。
【請求項5】
前記搬送手段による積層体の搬送方向の積層体の厚みのプロファイルを記録する厚み記録手段と、前記搬送手段による積層体の搬送時の積層体の移動量を記録する移動量記録手段と、前記厚み記録手段と前記移動量記録手段に記録された情報に基づき、前記コーナー形成用部材の先端部における曲面の曲率を演算する演算手段と、前記コーナー形成用部材を交換する交換手段とを有する、請求項4に記載の圧縮賦形装置。
【請求項6】
異なる前記コーナー部分に対応する前記コーナー形成用部材を複数個同時に装置内に有する、請求項1〜5のいずれかに記載の圧縮賦形装置。
【請求項7】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該シート材の積層体が、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮賦形装置を用いて賦形され、マトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項8】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該シート材の積層体が、請求項1〜6のいずれかに記載の圧縮賦形装置を用いて賦形されていることを特徴とするプリフォーム。
【請求項9】
請求項8に記載のプリフォームにマトリックス樹脂が含浸され、含浸されたマトリックス樹脂が硬化されて製造されていることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項10】
強化繊維を含むシート材の積層体を相対する金型間に挟んで加圧することにより、屈曲部を有する金型賦形面の形状に沿う形状に賦形する圧縮賦形方法において、少なくとも一方の金型に、前記金型賦形面上に前記屈曲部を形成し該屈曲部の先端部が曲面に形成されたコーナー部分を、残りの金型部分から分離可能で交換可能な部材として構成したコーナー形成用部材を設け、前記積層体に応じて設けたコーナー形成用部材を用いて、前記積層体を、屈曲部を有する形状に賦形することを特徴とする圧縮賦形方法。
【請求項11】
前記屈曲部の先端部における曲面の曲率が互いに異なる複数個の、互いに交換可能なコーナー形成用部材を準備し、前記積層体に応じて、用いるコーナー形成用部材を選択する、請求項10に記載の圧縮賦形方法。
【請求項12】
前記屈曲部の先端部における曲面の曲率が互いに異なる複数個の、互いに交換可能なコーナー形成用部材を準備し、前記積層体の賦形部位に応じて、用いるコーナー形成用部材を選択する、請求項10または11に記載の圧縮賦形方法。
【請求項13】
前記金型の温度を制御するとともに、前記加圧時の面圧を制御する、請求項10〜12のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項14】
型締めと型開きを交互に繰り返し、この開閉動作に合わせて積層体を搬送する、請求項10〜13のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項15】
前記積層体の搬送方向の積層体の厚みのプロファイルを記録し、前記積層体の搬送時の積層体の移動量を記録し、記録された厚みのプロファイルと移動量の情報に基づき、前記コーナー形成用部材の先端部における曲面の曲率を演算し、それまでのコーナー形成用部材を演算された曲率に適合するコーナー形成用部材に交換する、請求項14に記載の圧縮賦形方法。
【請求項16】
異なる前記コーナー部分に対応する前記コーナー形成用部材を複数個同時に装置内に設け、前記積層体に応じて設けた複数個のコーナー形成用部材を用いて、前記積層体を、複数の屈曲部を有する形状に賦形する、請求項10〜15のいずれかに記載の圧縮賦形方法。
【請求項17】
前記強化繊維を含むシート材が、強化繊維材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグからなり、該シート材の積層体を、請求項10〜16のいずれかに記載の圧縮賦形方法を用いて賦形し、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。
【請求項18】
前記強化繊維を含むシート材が、マトリックス樹脂を含まないドライの強化繊維材からなり、該シート材の積層体を、請求項10〜16のいずれかに記載の圧縮賦形方法を用いて賦形することを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法により製造されたプリフォームにマトリックス樹脂を含浸し、含浸されたマトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−226835(P2009−226835A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77471(P2008−77471)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】