説明

積層型バリアフィルムおよび積層型バリアフィルムの製造方法

【課題】有機層と無機層とを交互に積層してなるバリアフィルムにおいて、無機層と、その上に形成される有機層との間での剥離を防止する。
【解決手段】基板側から有機層と無機層との数を計数した際に、基板からn層目の無機層と、基板からn+1層目の有機層との間に、有機珪素層を有し、かつ、前記n層目の無機層とn+1層目の有機層において、この無機層が珪素化合物からなる層であり、この有機層が紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂からなる層であることを特徴とする積層型バリアフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機層と無機層とを交互に形成してなる積層型のバリアフィルムに関し、詳しくは、無機層と、その上の有機層との密着性に優れた積層型バリアフィルム、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの表示装置、半導体装置、薄膜太陽電池等の各種の装置における防湿性を要求される部位や部品、食品、衣料品、電子部品等の包装に用いられる包装材料に、バリアフィルム(ガスバリアフィルム(ガスバリア膜/水蒸気バリア膜)が利用されている。
ガスバリアフィルムは、酸化珪素や窒化珪素等のガスバリア性を発現する物質からなる膜であり、防湿性を要求される部位の表面に、例えば、スパッタリングやCVD等の気相成膜法(真空成膜法)によって形成される。また、高分子材料からなるフィルム(プラスチックフィルム)や金属フィルムを基板として、その表面に、前記窒化珪素等からなるバリアフィルムを形成してなる膜を形成してなるフィルム製品も、好適に利用されている。
【0003】
このようなバリアフィルムの一例として、特許文献1には、合成樹脂フィルムの表面に、有機珪素層を形成し、この有機珪素層の表面をプラズマ活性化処理した後に、有機珪素層の上にガスバリア性を有する金属または金属化合物の蒸着薄膜層を形成したバリアフィルム(ガスバリア性積層体)が開示されている。
また、この特許文献1のバリアフィルムでは、必要に応じて、蒸着薄膜層の上に、熱接着性樹脂層を形成することも開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平7−205363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示されるような積層型のバリアフィルムでは、基板および各層の密着性が良好であることが要求される。
【0006】
特許文献1にも開示されるが、有機物(有機層)である合成樹脂フィルムと、無機層である蒸着薄膜層とは、基本的に、密着性が悪い。
これに対して、特許文献1に開示されるバリアフィルムは、合成樹脂フィルムと金属もしくは金属化合物層との間に、合成樹脂フィルムとの密着性が高い有機珪素化合物を有することにより、有機珪素化合物の加水分解性基が加水分解して水酸基を生成して、金属元素と活性なSi−OH結合が生成し、この水酸基の酸素と金属元素との間で強い結合が生じる。その結果、合成樹脂フィルムと、有機珪素層と、蒸着薄膜層との強い密着性を確保して、ガスバリア性を発現する蒸着薄膜層の密着性を向上できる。
また、有機珪素層の表面にプラズマ活性処理を施すことにより、有機珪素層の表面にSi−OH結合が均一に生成するため、有機珪素層と蒸着薄膜層との密着性を安定化することができる。
【0007】
ところが、この無機層である蒸着薄膜層と、その上に必要に応じて形成される有機層である熱接着性樹脂層との間には、このような化学結合が生じない。
そのため、蒸着薄膜層の上に形成される熱接着性樹脂層は、十分な密着性が得られず、剥離を生じ易く、蒸着薄膜層と熱接着性樹脂層との界面での剥離により、ガスバリア性の低下や、耐久性の低下等の問題が生じる場合も有る。
【0008】
本発明の目的は、前記従来技術の問題点を解決することにあり、有機層と無機層とを交互に形成してなる積層型の(ガス)バリアフィルムにおいて、有機層の上に形成される無機層の密着性のみならず、無機層の上に形成される有機層の密着性も良好な積層型バリアフィルム、および、この積層型バリアフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明の積層型バリアフィルムは、基板に、有機層と無機層とを交互に積層した積層型バリアフィルムであって、基板側から有機層と無機層との数を計数した際に、基板からn層目の無機層と、基板からn+1層目の有機層との間に、有機珪素層を有し、かつ、前記n層目の無機層とn+1層目の有機層において、この無機層が珪素化合物からなる層であり、この有機層が紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂からなる層であることを特徴とする積層型バリアフィルム。
【0010】
また、本発明の積層型バリアフィルムの製造方法は、基板に、有機層と無機層とを交互に積層した積層型バリアフィルムを製造するに際し、無機層としての珪素化合物層の形成、前記珪素化合物層表面への有機珪素層の形成、および、前記有機珪素層表面への有機層としての紫外線硬化型樹脂層もしくは電子線硬化型樹脂層の形成を1サイクルとして、このサイクルを、1回以上繰り返すことを特徴とする積層型バリアフィルムの製造方法を提供する。
【0011】
このような本発明の積層型バリアフィルム、ならびに、本発明の積層型バリアフィルムの製造方法において、前記有機珪素層の炭素含有量が、5atm%以上であるのが好ましく、また、前記有機珪素層の層厚が1〜50nmであるのが好ましく、さらに、前記有機珪素層がアルゴンプラズマ、酸素プラズマ、および窒素プラズマの1以上によって表面の活性化処理を施されてなるものであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、有機層と無機層とを交互に形成してなる積層型バリアフィルムであって、基板から計数したn層目の無機層とn+1層目の有機層との間に、有機珪素層を有し、かつ、有機珪素層に面する無機層が珪素化合物層で、同有機層を紫外線硬化型樹脂層もしくは電子線硬化型樹脂層とする。言い換えると、無機層の上(基板側を下層側とする)に有機層が形成される構成の位置では、無機層を珪素化合物からなる層、有機層を紫外線硬化型もしくは電子線硬化型の樹脂からなる層とし、かつ、無機層と有機層との間に、炭素と珪素とを含む化合物からなる層である有機珪素層を有する。
後に詳述するが、このような構成を有する本発明によれば、無機層と有機珪素層との間で、Si−Si結合およびSi−O−Si結合が形成されるために、両層の密着性を確保することができ、また、有機珪素層と有機層との間で、C−C結合、C=C結合、O−C=O結合、C=O結合等が形成されるために、両層の密着性を確保することができる。
【0013】
従って、本発明によれば、有機層と無機層とを交互に形成してなる積層型バリアフィルムにおいて、無機層の上に形成される有機層の密着性を十分に確保して、この有機層の剥離に起因するガスバリア性の低下や、機械的強度の低下等を十分に抑制した、高品位な積層型バリアフィルムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の積層型バリアフィルムおよび積層型バリアフィルムの製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0015】
図1に、本発明の積層型バリアフィルム(積層型ガスバリアフィルム(膜))の一例を概念的に示す。
【0016】
本発明の積層型バリアフィルムは、主に、交互に形成された、有機層と無機層とから構成されるものであり、基板から有機層と無機層との数を計数した際に、基板からn層目の無機層と、基板からn+1層目の有機層との間に、有機珪素層を有する。言い換えれば、基板側を下層側として、上層に有機層を有する無機層と、その上の有機層との間に、有機珪素層を有する。
また、無機層は、珪素化合物からなる層で、有機層は、紫外線硬化型樹脂(UV硬化型樹脂)または電子線硬化型樹脂(EB硬化型樹脂)からなる層である。
【0017】
図示例の積層型バリアフィルム10(以下、バリアフィルム10とする)は、基板12の上に、有機層と無機層とを交互に形成してなるもので、基板12の上に形成される第1有機層14、第1有機層14の上に形成される第1無機層16、第1無機層16の上に形成される第2有機層18、および、第2有機層18の上に形成される第2無機層を有して構成される。
また、上層に有機層を有する第1無機層16と、下層に無機層を有する第2有機層18との間には、有機珪素層24が形成される。すなわち、図示例のバリアフィルム10において、基板12からn層目の無機層と、基板12からn+1層目の有機層との関係を満たすのは、第1無機層16と第2有機層18だけであるので、第1無機層16と第2有機層18との間に、有機珪素層24が形成される。
【0018】
なお、本発明の積層型バリアフィルムにおいては、有機層および無機層の交互の形成回数(積層回数)は、図示例の2回に限定はされず、3回以上、有機層と無機層とが交互に形成されたものであってもよい。
また、無機層と有機層の数は、同じでも、異なってもよい。従って、例えば、図1に示す例において、第2無機層20の上に、さらに有機層を有してもよく、また、第1有機層14の下に、さらに無機層を有してもよい。
【0019】
すなわち、本発明のバリアフィルムは、無機層(珪素化合物層)と、この無機層の表面に形成された有機珪素層と、この有機珪素層の表面に形成された有機層(紫外線もしくは電子線硬化型樹脂層)とを1つの単位とし、この単位が1回以上、繰り返し形成されていれば、各種の層構成が利用可能である。すなわち、図1に示す、第1無機層16と、その上の有機珪素層24と、その上の第2有機層18の組み合わせが1以上有れば、各種の層構成が利用可能である。
【0020】
本発明において、基板12(基材)には、特に限定はなく、バリアフィルムが形成可能な公知の基板が、全て利用可能である。
一例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアクリレート、ポリメタクリレートなどの高分子材料(樹脂材料)からなるフィルム状の基板12が、例示される。
本発明においては、このようなフィルム状の基板12以外にも、レンズや光学フィルタなどの光学素子、有機ELや太陽電池などの光電変換素子、液晶ディスプレイや電子ペーパーなどのディスプレイパネル等、各種の物品(部材)も、基板12として、好適に利用可能である。
【0021】
本発明のバリアフィルム10において、有機層(第1有機層14、および第2有機層18)は、優れたガスバリア性、耐久性、光学特性など、バリアフィルム10に要求される機能を満たすために形成される層であり、例えば、保護層、接着層、光反射層、遮光層、平坦化層、緩衝層、応力緩和層等として作用するものである。
【0022】
前述のように、有機層は、紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂からなる層(あるいは、これらを主成分とする層)である。
本発明において、有機層を形成する紫外線硬化型樹脂および電子線硬化型樹脂には、特に限定は無く、要求される特性を満たす樹脂を、適宜、選択して使用すればよい。なお、第1有機層14と第2有機層は、異なる樹脂であってもよい。
【0023】
紫外線硬化型樹脂および電子硬化型樹脂としては、一例として、紫外線あるいは電子線で架橋できる基を含有しているモノマー(および/またはダイマー)からなるものであれば、特に限定はなく、各種のものが利用可能であり、特に、アクリロイル基またはメタクリロイル基、オキシラン基を有するモノマーを用いることが好ましい。
例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリレート、エチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートなどのうち、2官能以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーを架橋させて得られる高分子を主成分とすることが好ましい。これらの2官能以上のアクリロイル基またはメタクリロイル基を有するモノマーは、2種類以上を混合して用いても、また、1官能の(メタ)アクリレートを混合して用いてもよい。
硬化速度の観点からアクリロイル基を有するモノマーが最も好ましい。
【0024】
有機層の形成方法には、特に限定は無く、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂からなる層を形成する公知の方法が、全て利用可能である。
一例として、有機層を形成するための樹脂(この樹脂となる樹脂組成物)を溶媒に溶解あるいは分散してなる塗料を調製して、この塗料を有機層を形成する面に塗布し、乾燥した後に、紫外線あるいは電子線を照射して樹脂を硬化して、有機層を形成すればよい。
【0025】
また、有機層の層厚にも、特に限定はなく、形成する有機層に応じて、目的とする機能を発現できる層厚を、適宜、設定すればよい。
【0026】
なお、本発明においては、全ての有機層が紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂で形成されるのに限定はされず、下層に無機層を有さない有機層は、これ以外の樹脂で形成されたものであってもよい。
すなわち、図示例のバリアフィルム10であれば、第1有機層14は、必ずしも、紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂で形成されなくてもよい。
【0027】
本発明のバリアフィルム10において、無機層(第1無機層16、および第2無機層20)は、主に、ガスバリア性を発現するための層である。
前述のように、無機層は、珪素化合物(シリコン化合物)からなる層(あるいは、これらを主成分とする層)である。
【0028】
本発明において、無機層を形成する珪素化合物には、特に限定はなく、バリアフィルム(ガスバリア膜)として利用される珪素化合物が、全て利用可能である。具体的には、酸化珪素、窒化珪素、酸窒化珪素、酸窒化炭化珪素、炭化珪素等が例示される。
中でも、原子の空間充填率が高く、良好なガスバリア性を得られる等の理由で、窒化珪素、窒化酸化珪素は好適に利用される。
なお、第1無機層16と第2無機層20は、異なる珪素化合物であってもよい。
【0029】
無機層を形成する方法には、特に限定はなく、スパッタリング、(プラズマ)CVD、真空蒸着等、珪素化合物からなる薄膜が形成可能な公知の気相成膜法(真空成膜法)が、全て利用可能である。
また、無機層の層厚にも、特に限定はなく、形成する無機層に応じて、目的とするガスバリア性を発現できる層厚を、適宜、設定すればよい。
【0030】
なお、本発明においては、全ての無機層が珪素化合物で形成されるのに限定はされず、上層に有機層を有さない無機層は、これ以外の化合物で形成されたものであってもよい。
すなわち、図示例のバリアフィルム10であれば、第2無機層20は、必ずしも、珪素化合物で形成されなくてもよく、例えば、酸化アルミニウム等であってもよい。
【0031】
図示例のバリアフィルム10において、第1無機層16と第2有機層18との間には、有機珪素層24が形成される。
本発明において、有機珪素層24は、基板からn層目の無機層と、基板からn+1層目の有機層との間、すなわち、上層に有機層を有する無機層と、その上層の有機層との間(すなわち、下層に無機層を有する有機層と、その下層の無機層との間)に形成される。
従って、図示例のバリアフィルム10において、最下層の第1有機層14の下に、さらに無機層を有する場合には、この両層も、基板12からn層目の無機層と、基板12からn+1層目の有機層との関係を満たす結果となるので、この無機層と第1有機層14との間にも、有機珪素層24が形成される。また、最上層の第2無機層20の上に、さらに有機層を有する場合には、同様に、この両層も、基板12からn層目の無機層と、基板12からn+1層目の有機層との関係を満たすので、この第2無機層20と、この有機層の間にも、有機珪素層24が形成される。
【0032】
有機珪素層24は、炭素と珪素とを含む化合物からなる層で、炭素と珪素を含有すれば、全てのものが利用可能である。
好ましくは、有機珪素層24は、ヘキサメチルジシラザン(HMDSN)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、トリメトキシシラン(TMS)、テトラメトキシシラン(TEOS)、トリエトキシシラン(TRIES)等の有機珪素化合物を気化してなるガスと、酸素ガスとを原料ガスとして用いるプラズマCVDによって形成される層(膜)である。
【0033】
このプラズマCVDによる有機珪素層24の成膜時には、必要に応じて、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス、水素ガスなどを希釈ガス(キャリアガス)として用いてもよい。
また、プラズマCVDは、CCP(Capacitively Coupled Plasma 容量結合プラズマ)−CVD法やICP(Inductively Coupled Plasma 誘導結合プラズマ)−CVD法など、公知のプラズマCVDが、全て利用可能である。
さらに、有機珪素化合物としては、上記した物以外に、テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、i−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、デカメチルシクロペンタシロキサン等も好適に利用可能である。
が例示される。
また、有機珪素化合物は、1種に限定はされず、複数を選択して利用してもよい。
【0034】
前述のように、有機層と無機層とを交互に積層してなるバリアフィルムでは、例えば第1有機層14と第1無機層16のように、下層となる有機層と、その上層の無機層との間は、無機層の成膜時におけるプラズマエネルギー等によって層間の原子の結合等の反応が生じ、その結果、良好な密着性を得ることが出来る。
しかしながら、第1無機層16と第2有機層18のように、下層となる無機層と、その上層となる有機層との間では、このような反応が生じないため、十分な密着性を得ることが出来ず、これが、ガスバリア性の低下や耐久性の低下等の一因となっている。
【0035】
これに対し、本発明においては、下層となる無機層を珪素化合物からなる層とし、かつ、上層となる有機層を紫外線結合型あるいは電子線結合型の樹脂からなる層とし、さらに、下層の無機層と上層の有機層との間に、有機珪素層24を有することにより、高い有機層と無機層の密着性を実現している。
【0036】
図2に、有機珪素層24と、第1無機層16および第2有機層18との界面の状態を模式的に示す。
前述のように、有機珪素層24は、プラズマCVDによって形成される。その結果、有機珪素層24の形成時に、プラズマ反応によって第1無機層16(図2に示す例では、窒化珪素膜)の表面が活性化され、これにより、図2に示すように、珪素化合物層である第1無機層16と有機珪素層24との間で、Si−Si結合やSi−O−Si結合が形成される。この結合により、第1無機層16と、有機珪素層24との高い密着性を得ることができる。
他方、第2有機層18は、紫外線硬化型樹脂あるいは電子線硬化型樹脂である。従って、第2有機層18となる樹脂(樹脂組成物)を硬化するための、紫外線照射や電子線照射によって、有機珪素層24と第2有機層18との界面が活性化処理される結果となり、有機珪素層24と樹脂層である第2有機層18との間で、C−C結合、C=C結合、O−C=O結合、C=O結合等が生成される。この結合により、有機珪素層24と、第2有機層18との高い密着性を得ることができる。
すなわち、本発明によれば、間に有機珪素層24を有することにより、下層となる無機層と、その上層となる有機層との間で、高い密着性を得ることができ、この層間での剥離に起因するガスバリア性の低下や、耐久性の低下を大幅に低減できる。
【0037】
本発明において、前述のように、有機珪素層24は、有機珪素化合物から形成される層であるが、有機珪素層24が、5atm%以上の炭素原子を含有するのが好ましく、特に、10〜30tm%以上の炭素原子を含有するのが好ましい。
前述のように、有機珪素層24と、その上層である第2有機層18との高い密着性は、主に、両層間で形成されるC−C結合等に起因する。そのため、有機珪素層24が5atm%以上、特に10atm%以上の炭素原子を含有することにより、このC−C結合を十分に生成して、より、良好な密着性を得ることができる。逆に、有機珪素層24の炭素含有量が高くなると、有機珪素層24が茶色に着色してしまう場合が有るが、有機珪素層24の炭素含有量を30atm%以下とすることにより、この着色を好適に抑制することができる。
【0038】
また、有機珪素層24の層厚にも、特に限定は無いが、1〜50nm、特に、5〜30nmとするのが好ましい。
有機珪素層24の厚さを1nm以上、特に5nm以上とすることにより、無機層と有機硅素層との密着がより強固になるのに加え、カバレッジが向上し、これにより、より良好なバリア性を得ることができる等の点で好ましい結果を得ることができる。
また、有機珪素層24の厚さを50nm以下、特に30nm以下とすることにより、有機珪素層が有する残留応力を低減することができ、膜割れや、膜割れに起因するバリア性の劣化を防止できる等の点で好ましい結果を得ることができる。
【0039】
以下に、このようなバリアフィルム10の製造方法の一例を示す。
まず、第1有機層14となる樹脂(樹脂組成物)を溶媒に溶解してなる塗料を調製して、目的とする厚さとなるように基板12に塗布し、乾燥した後、紫外線あるいは電子線を照射して樹脂を硬化して、第1有機層14を形成する。
次いで、プラズマCVDや反応性スパッタリング等の気相成膜法によって、第1有機層14の表面に、窒化珪素膜や酸化珪素膜等の第1無機層16を、目的膜厚、形成する。
【0040】
第1無機層16を形成したら、ヘキサメチルシラザンやトリメトキシシラン等の有機珪素化合物ガス、酸素ガス、あるいはさらにアルゴンガス等を用いるプラズマCVDによって、第1無機層16の表面に有機珪素層24を形成する。
【0041】
ここで、本発明においては、有機珪素層24を形成したら、アルゴンプラズマ、酸素プラズマ、および窒素プラズマの1以上を用いる表面処理を行なって、有機珪素層24の表面を活性化した後に、上層の第2有機層18を形成するのが好ましい。すなわち、有機珪素層24は、プラズマ処理によって表面が活性化されてなる層であるのが好ましい。
このようなプラズマ処理を行なうことにより、前述の有機珪素層24と上層の第2有機層18との間でのC−C結合の生成を、より促進することができ、より高い密着性を得ることができる。
なお、プラズマ処理の条件は、有機珪素層24の種類等に応じて、適宜、設定すればよい。
【0042】
有機珪素層24を形成し、あるいはさらに有機珪素層24の表面にプラズマ処理を施したら、第1有機層14と同様に、第2有機層18となる塗料を調製して、目的とする厚さとなるように有機珪素層24に塗布/乾燥し、紫外線あるいは電子線を照射して樹脂を硬化して、第2有機層18を形成する。
さらに、プラズマCVDや反応性スパッタリング等の気相成膜法によって、第2有機層14の表面に、第2無機層20を目的膜厚、形成して、バリアフィルム10を得る。
【0043】
以上、本発明のバリアフィルムおよびバリアフィルムの製造方法について詳細に説明したが、本発明は、上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行なってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の具体的実施例を挙げて、本発明について、より詳細に説明する。
【0045】
[実施例1]
以下に示すようにして、図1に示すバリアフィルム10を製造した。
【0046】
基板12は、厚さ188μmのポリエステル系のフィルム(東レフィルム加工株式会社製のポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミナイス」)を用いた。
また、共栄社化学製の重合性モノマー、BEPGA 15g、大阪有機化学工業株式会社製の重合性モノマーV−3PA 5gの混合物、紫外線重合開始剤(Lamberti社製、商品名:Esacure KTO−46)1.5g、2−ブタノン190gの混合溶液を、第1有機層14および第2有機層18を形成するための塗料として調製した。
【0047】
基板12の表面に、前記塗料を塗布した。塗料の塗布には、ワイヤーバーを用いた。
塗料を室温にて2時間乾燥した後、窒素置換法により酸素濃度が0.1%となったチャンバー内にて高圧水銀ランプの紫外線を照射(積算照射量約2J/cm2)して、塗料のモノマー混合物を重合して、膜厚が500nmの第1有機層14を形成した。
【0048】
第1有機層14を形成した基板12を、CCP−CVD法による成膜を行なう一般的なCVD装置の真空チャンバの所定位置にセットして、真空チャンバを閉塞した。
次いで、真空チャンバ内を排気して、圧力が0.01Paとなった時点で、反応ガスとして、シランガス、アンモニアガス、および、窒素ガスを導入した。なお、シランガスの流量は50sccm、アンモニアガスの流量は100sccm、窒素ガスの流量は500sccmとした。
さらに、真空チャンバ内の圧力が100Paとなるように、真空チャンバ内の排気を調整した。
【0049】
次いで、電極に周波数13.56MHzで600Wの高周波電力を供給して、第1有機膜14の表面に、第1無機膜16として窒化珪素膜の形成を開始した。
窒化珪素膜の膜厚が50nmとなった時点で、高周波電力の供給を停止して、第1無機膜16の形成を終了した。
【0050】
第1無機膜16を形成した基板12を、CCP−CVD法による成膜を行なう一般的なCVD装置の真空チャンバの所定位置にセットして、真空チャンバを閉塞した。
次いで、真空チャンバ内を排気して、圧力が0.01Paとなった時点で、反応ガスとして80℃で加熱蒸発したテトラメトキシシラン(TEOS)ガスおよび酸素ガスを導入した。TEOSガスの流量は50sccm、酸素ガスの流量は500sccmとした。さらに真空チャンバ内の圧力が100Paとなるように真空チャンバ内の排気を調整した。
次いで、電極に周波数13.56MHzで500Wの高周波電力を供給して、第1無機膜14の表面に、有機珪素層24として炭化酸化珪素膜の形成を開始した。
炭化酸化珪素膜の膜厚が30nmとなった時点で、高周波電力の供給を停止して、有機珪素層24の形成を終了した。
【0051】
有機珪素層24を形成した基板12を、大気圧プラズマ法による表面処理を行う一般的な大気圧プラズマ表面処理装置所定位置にセットして、窒素ガスおよび酸素ガスを導入した。窒素ガスの流量は10000sccm、酸素ガスの流量は300sccmとした。次いで、電極に周波数30KHzで800Wの高周波電力を供給して、有機珪素層24の表面処理を開始した。
表面処理は、カーテン状の放電空間で、有機珪素層24をスキャンすることで行い、有機珪素層24の表面全面をスキャンした時点で終了した。なお、スキャンスピードは10m/minとした。
【0052】
有機珪素層24のプラズマ処理を終了したら、次いで、有機珪素層24の表面に前述の第1有機層14の形成と全く同様にして、厚さ500nmの第2有機層18を形成した。
さらに、この第2有機層18の表面に、前述の第1無機層16と全く同様にして、厚さ50nmの窒化珪素膜を第2無機層20として形成して、ガスバリアフィルム10を作製した。
【0053】
[実施例2]
有機珪素層24の形成における酸素ガスの流量を100sccmに変更し、さらに、大気圧プラズマ法による有機珪素層24のプラズマ処理を行なわなかった以外には、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
【0054】
[比較例1]
有機珪素層24を形成しない以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
【0055】
[比較例2]
第1有機層14および第2有機層18を熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂 DIC社製 EPICLON 840-S(ビスフェノールA型液状))で形成した以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
【0056】
[比較例3]
第1無機層16および第2無機層20を、スパッタリングによって形成した、酸化イットリウムと酸化ジルコニウムおよび不可避不純物からなる組成の層とした以外は、実施例1と全く同様にして、ガスバリアフィルムを作製した。
【0057】
[剥離テスト]
このように形成したガスバリアフィルムについて、「JIS D0202−1988」に準拠して碁盤目テープ剥離試験を行った。
セロハンテープ(「CT24」、ニチバン(株)製)を第2無機層20の表面に貼り付け、ローラーでしごき、密着させた後、剥離した。
セロハンテープを100マスに分割し、基板12に形成した何れかの層が剥離したマスの数で、密着性を評価した。判定は100マスの内、剥離しないマス目の数で表し、全く剥離しない場合を100/100、全てのマスが剥離する場合を0/100として表す。
その結果、実施例1は88/100、実施例2は60/100、比較例1、比較例2、および比較例3は、共に、0/100であった。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のバリアフィルムの一例を示す模式図である。
【図2】図1に示すバリアフィルムの有機珪素層の界面の状態を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10 バリアフィルム
12 基板
14 第1有機層
16 第1無機層
18 第2有機層
20 第2無機層
24 有機珪素層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、有機層と無機層とを交互に積層した積層型バリアフィルムであって、
基板側から有機層と無機層との数を計数した際に、基板からn層目の無機層と、基板からn+1層目の有機層との間に、有機珪素層を有し、
かつ、前記n層目の無機層とn+1層目の有機層において、この無機層が珪素化合物からなる層であり、この有機層が紫外線硬化型樹脂もしくは電子線硬化型樹脂からなる層であることを特徴とする積層型バリアフィルム。
【請求項2】
前記有機珪素層の炭素含有量が、5atm%以上である請求項1に記載の積層型バリアフィルム。
【請求項3】
前記有機珪素層の層厚が1〜50nmである請求項1または2に記載の積層型バリアフィルム。
【請求項4】
前記有機珪素層が、アルゴンプラズマ、酸素プラズマ、および窒素プラズマの1以上によって、表面の活性化処理を施されてなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の積層型バリアフィルム。
【請求項5】
基板に、有機層と無機層とを交互に積層した積層型バリアフィルムを製造するに際し、
無機層としての珪素化合物層の形成、前記珪素化合物層表面への有機珪素層の形成、および、前記有機珪素層表面への有機層としての紫外線硬化型樹脂層もしくは電子線硬化型樹脂層の形成を1サイクルとして、このサイクルを、1回以上繰り返すことを特徴とする積層型バリアフィルムの製造方法。
【請求項6】
前記有機珪素層を形成した後、アルゴンプラズマ、酸素プラズマ、および窒素プラズマの1以上によって前記有機珪素層の表面の活性化処理を行い、その後、前記紫外線硬化型樹脂層もしくは電子線硬化型樹脂層の形成を行なう請求項5に記載の積層型バリアフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−83024(P2010−83024A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255263(P2008−255263)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】