説明

積層型電子部品およびその製造方法

【課題】 本発明は、六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBiを含む複合焼結体層と銀系導体層が積層されている積層型電子部品において複合焼結体層の絶縁性を向上させることを目的とする。
【解決手段】 Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物を他の結晶として含む磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品であって、前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%である積層型電子部品を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の高周波ノイズ対策用EMIフィルタ等に用いられる、磁性体の性質と誘電体の性質とを合わせ持つ磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子機器の高周波ノイズ対策用としては、EMI(Electro Magnetic Interference)フィルタが多く用いられている。近年では、携帯電話機、無線LAN等の移動体通信機器の高周波化に伴い、EMIフィルタにも数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でも使用可能なフィルタ特性が求められている。
【0003】
一般的に、このような電子機器のノイズ対策用として使用されているEMIフィルタは、コンデンサとインダクタとを個々に組み合わせて構成されているものが多い。しかし、近年では電子機器の小型化に伴い、磁性体により形成されるインダクタ層と、誘電体により形成されるコンデンサ層とを積層して両者を一体化した複合積層体の中に、銀電極などでコイルを形成したものが提案されてきている。しかし、このようなフィルタの場合、その積層構造の制約により、大きな面積が必要になり、電子機器の小型化への要求を十分に満足できなかった。
【0004】
この問題点を解決するために、磁性体と誘電体とが混合焼成された複合焼結体の内部に、銀あるいは銀−パラジウム電極などでコイルを形成したノイズフィルタが提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0005】
このような複合焼結体に用いられる磁性体材料としては、数MHz〜数百MHz帯領域で比透磁率が高いMn−Zn系、Ni−Zn系、Ni−Cu−Zn系等のスピネル型フェライトが多く用いられてきた。しかし、このスピネル型フェライトは、磁気異方性が低いために数百MHzの周波数で自然共鳴を起こしてしまい、透磁率の周波数限界(スネークの限界)を超えることができず、数百MHz〜数GHz帯領域では十分な透磁率が得られないため、高い周波数帯域でのフィルタ材料には適用することができなかった。
【0006】
そこで、最近では、スピネル型フェライトの周波数限界を超えた高い周波数領域まで比透磁率を維持する六方晶フェライトが、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として提案されている。
【0007】
この六方晶フェライトは、c軸に対して垂直な面内に磁化容易軸を持ち、フェロックスプレーナ型フェライトとも呼ばれる磁性体材料である。フェロックスプレーナ型の代表的なフェライトとしては、Co置換系Z型六方晶Baフェライト(3BaO・2CoO・12Fe)、Co置換系Y型六方晶Baフェライト(2BaO・2CoO・6Fe)、Co置換系W型六方晶Baフェライト(BaO・2CoO・8Fe)等が知られている。
【0008】
これらのフェロックスプレーナ型フェライトの中でも、Y型六方晶Baフェライト単相の合成温度(約10500℃)は、Z型六方晶Baフェライト単相(1300℃)およびW型六方晶Baフェライト単相(1200℃)それぞれの合成温度に比べて低く、また、Y型六方晶Baフェライトは、比透磁率の周波数限界が3GHz以上と高くなっているため、数百MHz〜数GHz帯領域での磁性体材料として有望視されている。
【0009】
例えば、Y型またはM型六方晶フェライトを主相とする磁性体材料からなる高周波用磁性体材料が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。この高周波用磁性体材料は、数百MHz〜数GHz帯域で使用でき、1000℃以下の温度で焼成可能で、焼結体密度が90%以上のものである。1000℃以下の温度で焼成できる材料であれば、同時焼成する内部電極として、銀を用いることができ、パラジウムを含む電極に対して、低抵抗であることによる特性向上と低コスト化が見込める。
【0010】
一方、複合焼結体に用いられる誘電体材料としては、CaTiO、SrTiOやガラス等の常誘電体、BaTiO等の強誘電体が挙げられ、例えば、誘電体材料として比誘電率が高いBaTiOを用い、高い比透磁率および比誘電率を両立した材料が提案されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0011】
この特許文献3には、磁性体材料としてNi―Zn系フェライトまたはNi−Zn―Cu系フェライトから選択された1種を用い、誘電体材料として少なくともBaTiO、TiO、または、リラクサー系材料から選択される1種を用い、ガラス材料としてSiOとAlとROまたはRO(ただし、RはCa、Ba、Pb、Zn、Tiの群から選択された少なくとも1種)の3種の組成比が合計で100重量%とされることが記載されている。
【特許文献1】特開平2−249294号公報
【特許文献2】特開2003−146739号公報
【特許文献3】特開2003−226573号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載された複合焼結体では、磁性体材料としてNi―Zn系フェライトまたはNi−Zn―Cu系フェライト、すなわち、スピネル型フェライトを用いているため、数百MHz以上の高周波での比透磁率が低くなるという課題があった。
【0013】
本発明の目的は、六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBiを含む複合焼結体層と銀系導体層が積層されている積層型電子部品において複合焼結体層の絶縁性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の積層型電子部品は、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物を他の結晶として含む磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品であって、前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%であることを特徴とする。
【0015】
また、前記複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体層にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることが好ましい。
【0016】
本発明の積層型電子部品の製造方法は、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末、Bi粉末および有機バインダを含むグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートに、銀を主成分とする金属粉末とY型六方晶Baフェライト粉末とを含みBiを実質的に含まない導体材料からなる導体を形成する工程と、前記導体の形成された前記グリーンシートを複数積層して積層体を作製する工程と、前記積層体を焼成する工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
また、前記グリーンシートとして、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末の合量100質量部中のY型六方晶Baフェライト粉末が75.0〜78.0質量部であり、SrTiO粉末が12.5〜18.75質量部であり、Bi粉末が5.7〜12.0質量部であるグリーンシートを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の積層型電子部品によれば、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物を他の結晶として含む磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品であって、前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%であることにより、Biの偏在による複合焼結体層の絶縁性の低下が抑制できる。
【0019】
また、前記複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体層にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれている場合、前記複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率を高くできるので、積層型電子部品の100MHzでのフィルタ特性などの電気特性を高くすることができる。
【0020】
本発明の積層型電子部品の製造方法によれは、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末、Bi粉末および有機バインダを含むグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートに、銀を主成分とする金属粉末とY型六方晶Baフェライト粉末とを含みBiを実質的に含まない導体材料からなる導体を形成する工程と、前記導体の形成された前記グリーンシートを複数積層して積層体を作製する工程と、前記積層体を焼成する工程とを含むことにより、焼成工程でBiが導体の近傍に移動し、Biが偏在することが抑制できる。
【0021】
また、前記導体材料として、前記金属粉末100質量部に対する前記Y型六方晶Baフェライト粉末が3〜10質量部である導体材料を用いる場合、Biの偏在をより抑制できるとともに、前記銀系導体層の導体抵抗を低くすることができる。
【0022】
さらに、前記グリーンシートとして、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末の合量100質量部中のY型六方晶Baフェライト粉末が75.0〜78.0質量部であり、SrTiO粉末が12.5〜18.75質量部であり、Bi粉末が5.7〜12.0質量部であるグリーンシートを用いる場合、前記複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率を高くできるので、積層型電子部品の100MHzでのフィルタ特性などの電気特性を高くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の積層型電子部品は、Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物を他の結晶として含む磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品であって、(前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%であることを特徴とするものである。
【0024】
図1(a)は、本発明の積層型電子部品の一実施例であるLC複合電子部品のEMIフィルタの縦断面図ある。絶縁層である磁性体と誘電体との複合焼結体層1(以下で、複合焼結体層と呼ぶことがある)が複数積層され、複合焼結体層1の表面に銀系導体層2(以下で、導体層と呼ぶことがある)が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた銀系導体層2同士を電気的に接続する銀系ビアホール導体(以下で、ビアホール導体と呼ぶことがある)3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。
【0025】
図1(b)は、図1(a)の拡大図であり、一対の銀系導体層2に挟まれた複合焼結体層1を示している。図1(a)では、銀系導体層2と複合焼結体層1との界面の凹凸を省略してあるが、図1(b)では、銀系導体層2と複合焼結体層1との界面の凹凸も示している。仮想線L1は、銀系導体層2と平行な直線で、仮想線L1の一方の側(図2の上側)の複合焼結体層1の面積と、仮想線L1の他方の側(図2の下側)の銀系導体層2の面積とが等しくなっている。仮想線L2は仮想線L1からの距離が3μmの線であり、上述の複合焼結体層1と銀系導体層2との界面から3μm以内の複合焼結体層1とは、複合焼結体層1の仮想線L2より銀系導体層2に近い部分のことである。ただし、後述のBiの含有量分析をなどを行なう際には、分析を行なう領域に銀系導体層2が入ることにより、分析精度が悪くなる場合などには、仮想線L2の銀系導体層2側の矩形状の領域Aを分析しても良い。領域Aは幅1〜2μmの領域で、長さは特に限定されないが10〜100μm程度の領域である。
【0026】
また、上述の複合焼結体層1の積層方向中央部とは、典型的には図1(b)の領域Bのように一対の銀系導体層2の積層方向の中心を含む領域のことである。すなわち、仮想線L1と同様な仮想線L3からの距離が同じ線を中央とする矩形状の領域である。実際に測定を行なう領域は、複合焼結体層1と銀系導体層2との界面から3μm以内の複合焼結体層1と略等しい大きさにすることが好ましい。すなわち領域Bの幅は、3μmあるいは、領域Aの幅と等しく、長さも10〜100μm程度の領域である。一対の銀系導体層2がない場合には、積層型電子部品の層構成から複合焼結体層1の厚さを測定し、仮想線L1から複合焼結体層1の厚さの半分の位置の含む領域、あるいは、銀系導体層2の影響の少ない領域として、仮想線L1から10μmの位置を含む領域を測定しても良い。
【0027】
銀系導体層2は銀を主成分とするものであり、他の導電成分としてパラジウムや白金を含んでいても良い。上述の磁性体と誘電体との複合焼結体層1は、例えば、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末を焼成して作製されるもので、Biにより低い焼成温度で焼成可能となるため、900〜1000℃の焼成温度で、銀、銀/パラジウム、銀/白金の導体と同時焼成することができる。さらに1200℃程度までであれば、パラジウムの比率を増やした銀/パラジウム導体と同時焼成することができる。
【0028】
しかし、上述の磁性体と誘電体との複合焼結体層1と銀系導体とを同時焼成すると、焼成過程で銀系導体層2近傍の複合焼結体層1中のBiの含有量が高くなる、つまり複合焼結体層1中でBiが偏在することがあった。Biと銀系導体とは、焼成の室温から900度までの間で一旦結合し、その後分離すると考えられ、Biは銀系導体層2中にはあまり残らず、銀系導体層2近傍の複合焼結体層1中のBiの含有量が高くなる。
【0029】
この結果、例えば、一対の銀系導体層2に挟まれた複合焼結体層1では、複合焼結体層1の厚み方向の中央部分ではBiの含有量が低くなり、銀系導体層2の近傍ではBiの含有量が高くなる。これにより、Bi含有量の高くなった銀系導体層2の近傍の複合焼結体層1は、結晶粒子間の粒界層が厚くなり絶縁性が低くなるおそれがある。また、例えば、複合焼結体層1の厚さが10〜30μmと薄い場合には、Biの含有量の低くなった複合焼結体層1の厚み方向の中央部分の焼結が悪くなるおそれがある。このような影響により、Biの含有量A−Bの値が4%より大きくなるようなBiの偏在は、複合焼結体層1の絶縁抵抗を、複合焼結体層1を単独で焼成した場合と比較して10分の1程度以下にまで低下させてしまうことがあるため、上述の差の値は0〜4%であることが重要である。なお、複合焼結体層1の中の磁性体の総量および誘電体の総量は、それぞれ大きく変動するわけではないので、フィルタ特性等の電気特性は大きく変動しない。
【0030】
このBiの偏在を抑制するには銀系導体層2となる導体材料として、金属粉末以外にY型六方晶Baフェライト粉末を用いるのが重要である。Y型六方晶Baフェライト粉末の添加量を金属粉末100質量部に対して2質量部以上にすることにより、Biの偏在抑制効果が高くなる。
【0031】
また、積層型電子部品の積層体の側面に端子電極が形成され、この端子電極が複合焼結体層1と銀系導体層2の積層体とは別に焼成され、銀系導体層2と接続される場合、Y型六方晶Baフェライト粉末を3質量部以上にすることにより、積層体側面付近の端子電極が複合焼結体層1と銀系導体層2との間の界面の剥離が抑制できる。これは、複合焼結体層1、銀系導体層2および端子電極の3つの異なる材料が合わさっている部分において、端子電極の焼成過程で、複合焼結体層1と銀系導体層2との熱膨張差が少なくなることによると考えられる。
【0032】
さらに、Y型六方晶Baフェライト粉末を10質量部以下にすることにより、銀系導体層2に線幅50μmといった細い配線を形成することが可能となる。
【0033】
銀系導体層2となる導体材料にはBiを実質的に含まないことが重要である。ここで、Biを実質的に含まないとは、金属粉末100質量部に対してBiがBi換算で1質量部以下であるということである。Biが含まれると、焼成過程で銀系導体層2中のBiが複合焼結体層1のBiの初期の移動を助けるため、銀系導体層2中にY型六方晶Baフェライト粉末があっても、Biの偏在を抑制する効果が十分でなくなる。BiはBi換算で0.1質量部以下であることが好ましく、不可避不純物レベルであることがより好ましい。
【0034】
銀系導体層2となる導体材料にはSrTiO粉末は金属粉末100質量部に対して2質量部以下であることが好ましい。SrTiO粉末を添加しても、Biの偏在を抑制する効果は低い。詳細は不明であるが、これはY型六方晶Baフェライト粉末と異なり900〜1200℃程度の焼成ではSrTiOは焼結する挙動を示さないことと関係があると考えられる。SrTiO粉末が多いと銀系導体層2の焼結が複合焼結体層1よりも高温になり、焼成挙動の差により銀系導体層2と複合焼結体層1の間に微細なボイドが生じることがある。このボイドは、積層型電子部品のフィルタ特性などの電気特性や、絶縁信頼性に影響を与えるものではないが、焼結体としては好ましいものではないため、上述のようにSrTiO粉末は、2質量部以下、特に1質量部以下が好ましい。別の観点で言えば、銀系導体層2となる導体材料中のY型六方晶Baフェライト粉末に対するSrTiO粉末の割合は、複合焼結体層1の原料中のY型六方晶Baフェライト粉末に対するSrTiO粉末の割合よりも低いことが好ましい。
【0035】
以上、銀系導体層2について詳述してきたが、銀系ビアホール導体3についても同様のことが言える。銀系導体層2が容量形成のため、形成するパターンの面積が大きくなることが多いのに対して、銀系ビアホール導体3は影響する範囲が狭い場合もあるため、Y型六方晶Baフェライト粉末を用いることは、かならずしもの必要ではないが、銀系導体層2と同様の導体材料を用いるのが好ましいく、さらに体積収縮率や焼結挙動の調整のために、銀系導体層2と同様の導体材料にさらに他の無機材料を加えたものを用いてもよい
また、複合焼結体層1の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であり、複合焼結体層1にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれているものであると、複合焼結体層1の比透磁率および比誘電率が高くなり、積層型電子部品のフィルタ特性などの電気特性を向上させたり、同じ電気特性の積層型電子部をより小さくしたりできる。
【0036】
なお、結晶の割合は、X線回折の結果をリートベルト解析したものである。リートベルト解析については後述する。
【0037】
このような複合焼結体層1では、BiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることにより、1000℃以下の焼成温度でも焼成可能となり、複合焼結体1の吸水率を0.1%以下と低くできる。また、焼成による磁性体材料および誘電体材料の分解や副生成物の生成が少なくでき、複合焼結体層1の100MHzにおける比透磁率および100MHzにおける比誘電率を高くできる。すなわち、BiがBi換算で5.7質量%未満では、複合焼結体層1の吸水率が大きくなってしまい、絶縁信頼性が低くなる層1おそれがある。BiがBi換算で12.0質量%より多いと、複合焼結体層1の100MHzにおける比透磁率または100MHzにおける比誘電率が低くなってしまう。より好ましい含有量は、Bi換算のBi量で9.4〜10.7質量%である。
【0038】
本発明における複合焼結体層は、例えば、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末を混合し、焼成したものであり、上述のようにBiが含まれていることにより、焼成の過程でBiが融解し、Y型六方晶Baフェライト粉末およびSrTiO粉末の焼結を促進するので、1000℃以下の低温でも焼成可能になる。そして、その過程でM型六方晶Baフェライト、BaTiOおよびBa−Fe−O化合物が生成される。
【0039】
ここでいうBi−Fe−O化合物とは、X線回折で2θ=31.5°および31.6°にメインピークのあるBi−Fe−O化合物1と28.0°にメインピークのあるBi−Fe−O化合物2とを合わせたもののことである。Bi−Fe−O化合物1はBiFeOである。Bi−Fe−O化合物2は他のBi、Fe、Oを含む結晶であると考えられる。BiFeOは比誘電率約80で、比透磁率は約1.3(100MHz)、約2.0(1GHz)の結晶であり、Bi−Fe−O化合物2も比誘電率が高いものと推定される。これらの結晶は、焼成過程で、BiによりY型六方晶Baフェライトが分解されて生成されるものである。また、これらの結晶は、透過型電子顕微鏡を用いて100倍〜1000倍で観察すると、Y型六方晶Baフェライト、M型六方晶BaフェライトおよびSrTiOの結晶粒子の間の粒界に、BiおよびFeを含む結晶として観察され、X線回折に上述のメインピークを含むそれぞれの結晶のピークがあることで存在が確認できる。
【0040】
Y型六方晶Baフェライトが主結晶であることは、焼成後の複合焼結体層の結晶中のY型六方晶Baフェライトの割合が50質量%以上であることを指し、100MHzにおける比透磁率の高いY型六方晶Baフェライトの割合が多いことにより、複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率が高くなる。複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率を高くするためには、Y型六方晶Baフェライトの割合は、55質量%以上であることが好ましい。
【0041】
複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4質量%以上であることにより、複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率を4.7以上とすることができる。ただし、Y型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が76.8質量%より多くなると、誘電体材料の割合が少ないため、複合焼結体層の100MHzにおける比誘電率が低くなってしまう。
【0042】
複合焼結体層の結晶中のSrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3質量%以上であることにより、複合焼結体層の100MHzにおける比誘電率を40以上とすることができる。ただし、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が26.2質量%より多くなると、磁性体材料の割合が少ないため、複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率が低くなってしまう。
【0043】
また、複合焼結体層の結晶中のBi−Fe−O化合物の割合が、8.6質量%以下であることにより、100MHzにおける誘電損失の大きいBi−Fe−O化合物が少ないため、複合焼結体層の100MHzにおける誘電損失を100×10−4以下にすることができる。
【0044】
なお、六方晶フェライトとは、六方晶系結晶構造を有しているとともに磁化容易軸を持っているもののことである。具体的には、六方晶フェライトは結晶方向により異なる異方性磁界を持つために回転磁化共鳴周波数(fr)が高くなるとともに、c軸に垂直な結晶面(c面)内のa軸が磁界の方向に容易に磁化され、かつ外部磁界の方向の変化に容易に追従して磁化の向きが変化する。このため、高い周波数領域(数百M〜数GHz)においても、比透磁率が高い状態を維持することが可能である。一方、スピネル型フェライトなどは、数MHz程度では、数百といった高い比透磁率が得られるが、前記のような磁化容易軸を持たないため、1GHz程度で比透磁率が急激に低下してしまう。
【0045】
六方晶フェライトには、M型、W型、Y型およびZ型などがあるが、Y型六方晶フェライトは数百M〜数GHzにおける比透磁率が高くできるために磁性体材料として好ましい。また、Baを含む六方晶Baフェライトは、酸化鉄や炭酸バリウム等の原料から仮焼合成する際の温度を低くすることができるので好ましい。
【0046】
リートベルト解析とは、X線回折の結果から評価対象の試料中に含まれている結晶の種類およびその量を解析するものである。リートベルト法は、J.Am.Ceram.Soc.,81[11]2978-82(1998)に記載されている方法を用いる。具体的には、解析対象の試料をディフラクトメーター法で測定した2θ=10°以上80°以下の範囲のX線回折パターンに対して、RIETAN-2000プログラムを使用することにより、評価対象の試料中に含まれている結晶の種類、および結晶の合計量に対するそれぞれの結晶の量(質量%)を評価した。
【0047】
複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であり、複合焼結体層にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれている誘電体と磁性体との複合焼結体層は、例えば、あらかじめ仮焼などによりそれぞれ合成しておいた磁性体材料および誘電体材料と、Biとを混合した後、焼成することで作製することができる。
【0048】
そして、本発明の誘電体と磁性体との複合焼結体層を作製するには、磁性体材料としてY型六方晶Baフェライトを、誘電体材料としてSrTiOを用いるのが好ましい。
【0049】
上述のように、Y型六方晶Baフェライトは数百MHz以上の高周波でも高い比透磁率を維持することができる。それに加えて、低温焼成化のためにBiと焼成した際に生じる主な副生成物がM型六方晶Baフェライトであるため、この副生成物も数百MHz以上の高周波における比透磁率を高くすることに寄与できる。
【0050】
複合焼結体層の原料となる磁性体材料のY型六方晶Baフェライトの典型的な組成比はBaFe1222(ただし、MはCo、CuおよびZnから選ばれる1種以上の元素)であるが、磁性体材料としては、主な結晶としてY型六方晶Baフェライトが生じる範囲でこの組成からずれたものでもよい。例えば、Ba2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222は100MHzにおける比透磁率が高く、かつ合成温度を低くすることができるため、Y型六方晶Baフェライトの好ましい組成である。複合焼結体層の原料作製時の仮焼合成などで生じるY型六方晶Baフェライト以外の結晶としては、数百MHz以上の高周波でも比透磁率を高く維持できるM型六方晶Baフェライトが好ましい。
【0051】
Y型六方晶Baフェライト粉末を作製するには、原料の主成分として、それぞれ酸化物換算でFeを57〜63モル%、MOを18〜22モル%(ただし、MはCo、CuおよびZnから選ばれる1種以上の金属元素)、BaOを残部となるように調合する。この際、各原料はこれに限定されず、焼成により酸化物を生成する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用いても良い。なお、Mは単独の元素でも、2種以上の元素が混在した形態であってもよい。Mとして2種以上を混合して用いる場合には、混合した総計モル%を18〜22モル%とすればよい。
【0052】
このような配合比率で混合した粉末を、大気中で900〜1050℃の温度範囲で、1〜10時間仮焼した後、粉砕することによってY型六方晶Baフェライト粉末を得ることができる。
【0053】
Y型六方晶Baフェライトは、850℃付近からBaFe1219結晶およびBaFe結晶の分解が始まり、生成されてくる。この分解、生成を十分に行なうためには、900〜1050℃の温度範囲で、1〜5時間仮焼することが好ましい。そうすることにより、仮焼合成時にY型六方晶Baフェライトを80質量%以上生成することが可能となる。なお、仮焼温度が1025℃以下であれば、合成と同時に進行する粉と粉との焼結が抑制されるため、粉砕が容易となって細かい粉砕粉を得やすく、誘電体材料などと組み合わせて焼成する際の焼結性を向上させることができる。
【0054】
粉砕に際しては振動ミル、回転ミル、バレルミル等を用いて、磁性体材料を鋼鉄ボール、セラミックボール等のメディアと、水またはイソプロピルアルコール(IPA)、メタノール等の有機溶剤を用いて湿式で行なうことができる。
【0055】
その際、Y型六方晶Baフェライトの素原料となる粉末は、平均粒子径が0.1〜5μm、より好ましくは0.1〜1μmであることが仮焼時の焼結性を高める点で望ましい。この粉末は、後述の銀系導体層となる導体材料として用いることができる。なお、「平均粒子径」とは、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径d50を意味する。粉体の粒度分布は、例えばレーザ回折・散乱法によるマイクロトラック粒度分布測定装置X−100(日機装株式会社製)を用いて測定できる。
【0056】
かくして得られるY型六方晶Baフェライトは、単独で焼結させれば、数MHz〜数百MHzにおける比透磁率が6〜17、数百MHz〜2GHzにおける比透磁率が2〜10と、高周波数帯域まで比透磁率が高い磁性体材料となる。
【0057】
誘電体材料としては、100MHzにおける比誘電率が比較的高く、100MHzにおける誘電損失の小さいSrTiOを用いるのが好ましい。SrTiOはBaTiOより、100MHzにおける誘電損失が小さいために好ましい。また、SrTiOは、CaTiOおよびMgTiOより、100MHzにおける比誘電率が大きいために好ましい。
【0058】
そして、誘電体材料としてはSrTiOを主成分とするものが好ましく、BaTiO、CaTiOおよびMgTiOが混合したものであってもよい。混合は、それぞれの粉末を混ぜたものでも、所望の組成比の素原料を仮焼などで合成して固溶体にしたものでもよい。誘電体材料中のSrTiOの比率は、90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、特に99質量%以上(残部は不純物)が好ましい。
【0059】
SrTiO粉末とY型六方晶Baフェライト粉末とBi粉末とを混合して焼成すると、副生成物としてBiとFeを含む結晶、Bi−Fe−O化合物が生じる。Bi−Fe−O化合物は、主にはBiFeOであり、条件によっては少量の他のBi、Feを含む結晶が生じる。副生成物として生じたBi−Fe−O化合物は、比誘電率を高くするが、誘電損失も大きくするため、Bi−Fe−O化合物の量は、複合焼結体層の結晶中の8.6質量%以下であることが好ましい。
【0060】
SrTiO粉末の平均粒子径は、誘電体と磁性体との複合焼結体層の透磁率、誘電率を高くするために、0.1〜3.0μm、さらには1.2〜2.2μmであることが好ましい。この粉末は、後述の銀系導体層となる導体材料として用いることができる。
【0061】
SrTiO粉末の平均粒子径が細かすぎると、Y型六方晶Baフェライト粉末間の至るところにSrTiO粉末が分散配置され、Y型六方晶Baフェライトの焼結を阻害し、所望の透磁率を得られないことになる。また、高い比透磁率を得るためには誘電体材料の量をそれほど多くできず、後述するように焼結性を向上させるためには添加するBi粉末の量もそれほど多くできないことから、焼結時にSrTiO粉末を大幅に粒成長させることはあまり期待できない。そのような状態でも比誘電率を高くするため、SrTiO粉末は、ある程度平均粒子径が大きい方が好ましい。すなわち、原料の混合時のSrTiO粉末の平均粒子径は1.2〜2.2μmが好ましい。
【0062】
Biは、比較的低温で融解する酸化物であり、上述した磁性体材料および誘電体材料の焼結を助ける。複合焼結体層と同時焼成する導体として、パラジウムなどをほぼ含有しない銀を主体とする導体を用いる場合には、1000℃以下でも焼結することが必要であり、そのためには、調合時のBi粉末の量は5.75質量%以上であることが好ましい。4.5質量%以下では、複合焼結体層の吸水率が1%以上と焼結不足となる。
【0063】
調合時のBi粉末の量が増えると焼結性は向上するが、磁性体材料および誘電体材料の一部が分解するか、もしくは原料同士が反応して副生成物を生じる。調合時のBi粉末の量が12質量%程度までであれば、上述のように、磁性体材料であるY型六方晶Baフェライトからは主にM型六方晶Baフェライトが生じ、Biは、Y型六方晶Baフェライトの一部と反応し、Bi−Fe−O化合物を生じる。これらの副生成物により、わずかに比透磁率あるいは比誘電率が低下するものの、100MHzにおける高い比透磁率および比誘電率を維持できる。調合時のBi粉末の量が13.75質量%以上では、磁性体材料および誘電体材料の分解が進むため、100MHzにおける比透磁率あるいは比誘電率が低くなるとともに、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O化合物以外の副生成物の量も増えていく。調合時のBi量が14.5質量%以上では、100MHzにおける比透磁率および比誘電率が低くなるだけでなく、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O化合物以外の副生成物が多くなり、100MHzにおける誘電損失が増大する。
【0064】
Bi粉末の平均粒子径は、焼結性を向上させるために、0.1〜5.0μm、さらには0.3〜1.0μmであることが好ましい。Bi粉末の平均粒子径を0.1μm以上にすることにより、粉末の凝集が起こりにくくなり、Bi粉末の分散が不均一となって、焼結状態にムラが生じることが抑制できる。Bi粉末の平均粒子径が5.0μm以下であることにより、Bi粉末の融解が遅くなって反応が進まなくなることが抑制できる。
【0065】
調合時の磁性体材料であるY型六方晶Baフェライト粉末の量としては、75.5〜78.0質量%であることが好ましい。75.5質量%以上であることにより、複合焼結体層の100MHzにおける比透磁率を高くすることができる。78.0質量%以下であることにより、原料組成に、焼結助剤のBi粉末および誘電体材料を十分に含めることができる。
【0066】
調合時の誘電体材料であるSrTiO粉末の量としては、12.5〜18.75質量%であることが好ましい。12.5質量%以上であることにより、複合焼結体層の100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。18.75質量%以下であることにより、原料組成に、焼結助剤のBi粉末および磁性体材料を十分に含めることができる。
【0067】
原料組成中にはAlを実質的に含まないことが好ましい。Alは、磁性体材料や誘電体材料を作る際の仮焼合成後の粉砕などに、アルミナのメディアを用いることなどで、不純物として混じることがある。また、Y型六方晶Baフェライトの原料となる鉄の中に微量含まれていることもある。Alが含まれると、複合焼結体層の焼成時にAlを含む複合酸化物結晶(例えば、ZnAl結晶など)が生成され、その際にY型六方晶BaフェライトまたはSrTiOが分解されることがある。Al量を少なくすることにより、この分解を抑制できるので、100MHzにおける比透磁率あるいは100MHzにおける比誘電率を高くすることができる。そのため、原料組成中あるいは複合焼結体層中のAlの量はAl換算で0.05質量%以下、特に0.03質量%以下であることが好ましい。また、Al量を少なくすることにより、ZnAl結晶などの誘電損失の大きい結晶の生成を抑制できるので、誘電損失を低くすることができる。
【0068】
また、複合焼結体層をX線回折で測定した際に、複合焼結体層に含まれているAlを含む結晶のピーク強度が、複合焼結体層に含まれている結晶のうち最も高いピーク強度を有する結晶のピーク強度に対して100分の1以下であるようにするのが好ましい。ZnAl結晶以外のAlを含む結晶としては、不純物などとして含まれることがあるSiと反応して生じるBaAlSi結晶が挙げられる。
【0069】
このような複合焼結体を用いた積層型電子部品を製造するには、例えば、75.5〜78.0質量%のY型六方晶Baフェライト粉末、12.5〜18.75質量%のSrTiO粉末および5.75〜12.0質量%のBi粉末を混合した原料に対して、適当な有機バインダ、分散剤、溶媒を添加、混合してスラリーを調製し、これを周知のドクターブレード法やカレンダーロール法、あるいは圧延法、プレス成形法により、シート状に成形し、厚さ25μmのグリーンシートを作製する。
【0070】
続いて、銀を主成分とする金属粉末とY型六方晶Baフェライト粉末は有機バインダと水、アルコールあるいはトルエンなど溶媒と混合し、必要に応じて分散剤を加え、導体ペーストを作製する。
【0071】
そして、前述のグリーンシートに所望によりスルーホールを形成した後、スルーホール内に、導体ペーストを充填する。
【0072】
続いて、導体ペーストをスクリーン印刷で、前述のグリーンシートに塗布して、乾燥し、銀系導体層となる導体を形成する。なお、銀系導体層の厚さは焼成後2〜15μm程度である。
【0073】
複数の導体を形成されたグリーンシートを、所望の銀系導体層が形成されるように位置合わせして積層圧着し、積層体を作製する。酸化性雰囲気中、または低酸化性雰囲気中、200〜500℃で脱バインダ処理した後、酸化性雰囲気または非酸化性雰囲気で900〜1200℃で焼成され、積層型電子部品となる。
【0074】
この積層型電子部品にさらに、端子電極を形成してもよい。端子電極は、銀、銀/パラジウムあるいは銀/白金等の銀合金を主成分とする導電材料等から成り、かかる導電材料を用いて作製した導体ペーストを積層体の表面に従来周知のディップ法やスクリーン印刷等によって所定パターンに塗布し、これを高温で焼成することによって形成さる。この端子電極には、さらにニッケルメッキや金メッキ、すずメッキ、半田メッキ等のメッキ処理を施してもよい。
【0075】
上述したような工程を経ることによって、前述したように複合焼結体層の絶縁性が高く、高い透磁率、および誘電率を有するとともに、数百MHz〜数GHzの高周波数帯域でもノイズの減衰特性が高い、積層型電子部品を得ることができる。
【0076】
このようにして作製した積層型電子部品であるEMIフィルタ部品を、図1をもとに説明する。複数の複合焼結体層1が積層され、この複合焼結体層1の表面に導体層2が形成されている。また、複合焼結体層1によって隔てられた導体層2同士を電気的に接続するビアホール導体3が複合焼結体層1を貫通して形成されている。
【0077】
さらに、これらの導体層2およびビアホール導体3により複数の複合焼結体層1からなる絶縁基体の内部には、回路的にインダクタ部4およびコンデンサ部5が形成され、フィルタ回路をなしている。
【0078】
このインダクタ部4は、導体層2およびビアホール導体3により多層のコイル状に形成されているが、通常、回路のインダクタンスを増加させるためには、このコイルの巻き数を増加させる必要がある。しかし、本実施形態の複合磁性材料のような透磁率の高い磁性材料を用いた場合、コイルの巻き数を増やさずとも必要なインダクタンスを得ることが可能となる。これより、導体層2の積層数を減らすことができるため、電子部品の小型、低背化が可能になる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0080】
まず、Fe粉末、CoO粉末、CuO粉末、ZnO粉末およびBaCO粉末を出発原料とし、組成比がBa2.05Zn1.4Cu0.5Co0.05Fe1222となるように調合をした。調合した粉末に、有機溶媒としてIPA、メディアとして鋼鉄ボールを加えて湿式混合し、乾燥した後、大気中、950℃で仮焼し、さらに湿式で72時間粉砕し、平均粒子径1μmのY型六方晶Baフェライトを主結晶とする磁性体材料(100MHzにおける比誘電率:25、100MHzにおける比透磁率:15)を得た。
【0081】
次に、誘電体材料として、SrTiO粉末(平均粒子径0.9μm、100MHzにおける比誘電率:180、100MHzにおける比透磁率:1.0)を準備した。
【0082】
市販の平均粒子径3.0μmのBi粉末と上述のY型六方晶Baフェライト粉末およびSrTiO粉末を表1に示す混合比となるように、有機溶媒にIPA、メディアに鋼鉄ボールを用いて湿式混合し、乾燥した後、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価できるようにプレス成形し、大気中、930℃で2時間焼成し、複合焼結体単体評価用の複合焼結体を得た。
【0083】
かくして得られた誘電体と磁性体との複合焼結体層について、比透磁率、比誘電率、誘電損失、嵩密度および吸水率を評価した。比透磁率、比誘電率、誘電損失については、100MHzでの値を測定し評価した。ここで測定した比透磁率および比誘電率の値は、次に作製した積層電子部品評価のフィルタ特性の評価結果と整合した。
【0084】
比透磁率は、同軸管を用いたSパラメータ法により測定し、比誘電率はインピーダンスアナライザ(ヒューレットパッカード社製 HP4291A)を用いた平行平板法により測定することができる。
【0085】
また、市販の平均粒子径3.0μmのBi粉末と上述のY型六方晶Baフェライト粉末およびSrTiO粉末を表1に示す混合比となるように混合し有機バインダと純粋を混合してスラリーを作製し、ドクターブレード法で厚さ25μmのグリーンシートを作製した。このグリーンシートは焼成後20μmの複合焼結体層となる。
【0086】
このグリーンシートに、表1に記載の導体ペースト中の無機組成比率で混合した導体材料に有機バインダと溶剤を加えて作製した導体ペーストをスクリーン印刷で塗布して乾燥し、導体を形成した。金属粉末は平均粒径0.3μmのものを用いた。また、Ag−Pdとは、銀とパラジウムの質量比を8:2とした共沈法で作製した粉末である。Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末は上述の複合焼結体に用いたものと同じものを用いた。ガラスAとしては、組成がBaをBaO換算で34質量%、AlをAl換算で23質量%、BをB換算で16質量%、SiをSiO換算で14質量%、CaをCaO換算で13質量%(ガラス転移点663℃)である平均粒径1.0μmのガラスを用いた。なお、Bi粉末を添加した導体材料以外の導体材料では、BiのBi換算の含有量は0.1質量%以下であった。
【0087】
導体の形成された複数のグリーンシートを積層し、大気中、930℃で2時間焼成し、積層電子部品評価の積層電子部品を得た。
【0088】
積層電子部品では、Biの含有量、絶縁抵抗、導体界面のボイド発生率および含有結晶を評価した。さらに、積層電子部品にディップ法で銀/パラジウムの導体ペーストを塗布し850℃で焼成後、バレル電界めっき法でニッケル/すずメッキを施し、その後で端子電極形成後の隙間発生率を評価した。
【0089】
Biの含有量は積層型電子部品の縦断面を出し、鏡面研磨した後、Biの含有量を評価した。測定部位は(複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層)として図1(b)の領域A、(複合焼結体層の積層方向中央部)として図1(b)の領域Bとした。領域Aは仮想線L1から3μmの距離にある仮想線L2を一辺とし、そこから導体層側に向かって2μmの矩形領域で長さは20μmとした。領域Bは厚さ20μmの複合焼結体層の積層中央部つまり、仮想線L1とL3の中心を中心とする幅2μm長さ20μmの矩形領域とした。
【0090】
絶縁抵抗は、10mm四方の2つの導体層のパターンに挟まれた厚さ20μmの複合絶縁体層の抵抗を、絶縁抵抗計で測定した。
【0091】
導体界面のボイド発生率は、積層型電子部品の縦断面を出し、鏡面研磨した50個について20倍の実体顕微鏡で観察し、ボイドの観察されたものの割合を出した。端子電極形成後の隙間発生率は、同様の評価を端子電極形成後に行ない、積層型電子部品の端面で複合焼結体層と導体層との隙間の有無を評価した。なお、端子電極形成前にこの隙間が生じたものはなかった。
【0092】
X線回折を行ない、その結果をリートベルト解析し、複合焼結体層に含まれている結晶の種類と含まれている結晶全体に対するそれらの割合を求めた。解析結果から、Y型六方晶Baフェライト、M型六方晶BaフェライトおよびBi−Fe−O化合物の割合を表1に示した。なお、これらの合計が100質量%になっていない試料は、これら以外の結晶が観測されたものである。
【0093】
さらに、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析を行ない、複合焼結体層に含まれているBiの量を測定し、Biの量に換算した。以上の結果を表1および表2に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%である本発明の範囲内の試料No.1〜4、6〜14および18〜29ではBiの偏在が少ないため、積層型電子部品の複合焼結体層の絶縁抵抗が2.2×10Ω以上となった。さらに、複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、複合焼結体層中のBiのBi換算量が5.7〜12.0質量%である本発明の範囲内の試料No.3、4、6〜14、18、19、24および25の複合焼結体層は、100MHzにおける比透磁率が4.7以上、100MHzにおける比誘電率が40以上と、比透磁率および比誘電率が高いものとなった。
【0097】
これに対して、上述のBi含有量の差が6%以上である本発明の範囲外の試料No.5および15〜17は、積層型電子部品の複合焼結体層の絶縁抵抗が0.6×10Ω以下となった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】(a)本発明の一実施例である積層型電子部品の縦断面図である。(b)(a)の一部を拡大した縦断面図である。
【符号の説明】
【0099】
1・・・磁性体と誘電体との複合焼結体層
2・・・銀系導体層
3・・・銀系ビアホール導体
4・・・インダクタ部
5・・・コンデンサ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Y型六方晶Baフェライトを主結晶とし、M型六方晶Baフェライト、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物を他の結晶として含む磁性体と誘電体との複合焼結体層と銀系導体層とが積層された積層型電子部品であって、前記複合焼結体層と前記銀系導体層との界面から3μm以内の前記複合焼結体層のBiの含有量をA質量%とし、前記複合焼結体層の積層方向中央部のBiの含有量をB質量%としたとき、A−Bが0〜4質量%であることを特徴とする積層型電子部品。
【請求項2】
前記複合焼結体層の結晶中のY型六方晶BaフェライトおよびM型六方晶Baフェライトの合量の割合が73.4〜76.8質量%であり、SrTiOおよびBi−Fe−O化合物の合量の割合が22.3〜26.2質量%であるとともに、前記複合焼結体層にBiがBi換算で5.7〜12.0質量%含まれていることを特徴とする請求項1記載の積層型電子部品。
【請求項3】
Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末、Bi粉末および有機バインダを含むグリーンシートを作製する工程と、前記グリーンシートに、銀を主成分とする金属粉末とY型六方晶Baフェライト粉末とを含みBiを実質的に含まない導体材料からなる導体を形成する工程と、前記導体の形成された前記グリーンシートを複数積層して積層体を作製する工程と、前記積層体を焼成する工程とを含むことを特徴とする積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
前記導体材料として、前記金属粉末100質量部に対する前記Y型六方晶Baフェライト粉末が3〜10質量部である導体材料を用いることを特徴とする請求項3記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項5】
前記グリーンシートとして、Y型六方晶Baフェライト粉末、SrTiO粉末およびBi粉末の合量100質量部中のY型六方晶Baフェライト粉末が75.0〜78.0質量部であり、SrTiO粉末が12.5〜18.75質量部であり、Bi粉末が5.7〜12.0質量部であるグリーンシートを用いることを特徴とする請求項3または4記載の積層型電子部品の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−105838(P2010−105838A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−278117(P2008−278117)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】