説明

積層板および複合成形体

【課題】単体では成形性が劣る芯材発泡性樹脂の両面に、成形限界が著しく低下した薄肉のアルミニウム合金板が各々積層されてなる積層板であっても、成形が可能で、かつこの成形後の形状安定性に優れた積層板を提供する。
【解決手段】芯材発泡性樹脂3aの両面にアルミニウム合金板2a、2bが各々積層されてなり、成形された後に芯材発泡性樹脂3aを加熱により発泡させた複合成形体とされる積層板1であって、この積層板1の板厚が薄く、この積層板を構成するアルミニウム合金板2a、2b板厚や芯材発泡性樹脂3aの板厚も薄く構成され、更に、アルミニウム合金板2a、2bがO材、H22材〜H24材、H32材〜H34材、及びT4材から選択される調質処理材であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体や部品などに適し、冷間成形後の形状安定性に優れた、軽量な積層板および複合成形体に関する。本発明で言う積層板とは、芯材発泡性樹脂の両面にアルミニウム合金板が各々積層されてなり、冷間にて成形加工(塑性加工)された後に、前記芯材発泡性樹脂を加熱により発泡させた複合成形体とされる積層板のことを言う。本発明で言う複合成形体とは、この積層板を冷間にて成形加工(塑性加工)した後に、前記芯材発泡性樹脂を加熱により発泡させた複合成形体のことを言う。なお、本発明では、純アルミニウム系の1000系(後述する1200系,8079系も含む)もアルミニウム合金と称する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム合金板を単独で使用した部材に比べて、軽量化するとともに、更に制振性能・遮音性能などを付与するために、芯材として発泡樹脂を2枚のアルミニウム合金板間に挟んで積層した軽量複合成形体である複合パネルが提案されている。
【0003】
これらの軽量複合成形パネルは、先ず、芯材として発泡性樹脂(発泡可能樹脂)を、接着用樹脂を介して、2枚の平坦なアルミニウム合金板間に挟んで積層して接着、一体化させ、素材積層板とする。その後、素材積層板を、プレスまたはロールフォーミングなどの成形加工(塑性加工)により、所望の形状に成形し、この成形後あるいは成形前に、接着時よりも高い、発泡性樹脂の発泡温度で加熱することにより、発泡性樹脂を発泡させたものである。ここで、発泡性樹脂とは、加熱により発泡する乃至加熱により発泡が可能な樹脂を意味する。
【0004】
この基本構造に対して、複合板の外観性、軽量性、耐衝撃性、耐熱性、保温性、耐久性などの諸特性を向上させるために、発泡樹脂の発泡倍率を制御して、異なる発泡倍率の発泡樹脂を積層することなども提案されている(特許文献1参照)。また、発泡性樹脂層の発泡後の剥離を抑制するために、アルミニウム合金板と発泡性樹脂層との間に、接着剤層と非発泡性樹脂層とを介在させることも提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
ここで、具体的な用途として、自動車車体用パネルの分野にも、このような軽量複合板が適用できれば、軽量化が図れ、燃費や操縦性を向上させることができる。しかし、自動車車体用パネルは、フード、ドアなどのアウタパネルやインナパネル、ルーフパネル、アンダーカバーパネル、あるいは、デッキボード、バルクヘッドなど、周知の通り、2m2 以上の比較的大きな面積を有し、また複雑な形状や大きな成形面積を有する。このため、実際にこれら自動車車体用パネル材料として使用されている鋼板単体や、鋼板よりも成形性が劣るアルミニウム合金板単体でも、張出成形や絞り成形などのプレス成形が比較的難しい場合がある。
【0006】
この点、前記発泡樹脂軽量複合板も、自動車の吸音部材や制振部材などの比較的単純な形状である場合や、成形面積が小さい場合には成形が可能である。しかし、前記した比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルの場合には、しわや割れを発生させることなく、大きな面積を有するパネルが成形可能であることが必要となる。このため、未発泡状態の発泡可能樹脂を積層した積層板の、前記した所定形状の各種自動車車体用パネルへの成形性を向上させる課題がある。
【0007】
これに対して、更に、形状・施工場所・重量に制限を受けることがないとともに、積層板全体として薄く、プレス加工などの塑性加工性がよく、加熱発泡工程を経た最終の使用状態で十分な制振性能などを備え、防音性能を発揮する発泡樹脂積層防音板およびその製造方法も提案されている(特許文献3)。
【0008】
このような発泡樹脂積層防音板は、発泡性樹脂を未発泡状態に保持したままの状態であれば、積層板の厚さを薄くできる。このため、この未発泡状態の発泡可能樹脂を積層した積層板をプレス成形などにより所定パネル形状とし、その後、この複合パネルを加熱し、樹脂発泡温度として、発泡性樹脂を発泡樹脂とし、厚みを増大させることが可能である。そのため、積層板として形状・施工場所・重量に制限を受けることなく、寸法・形状精度を確保して所定形状にプレス成形することができる。また、発泡可能樹脂の厚みを増大することで剛性付与効果や制振性能を高めることができ、防音性能を発揮することができる。
【特許文献1】特開平10−29258号公報
【特許文献2】特開2006−56121号公報
【特許文献3】特開2004−42649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記した比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルは、軽量化のために、例えば2.0mm以下などに著しく薄肉化された金属板単板(単体)が成形されている。自動車車体用パネルをより軽量化するために、これら金属板単板の代わりに、前記素材積層板を用いて複合成形体を得る場合でも、自動車車体用パネルの製作側としては、金属板単板の成形時と同じ成形プレスあるいは同じ成形条件を用いたい。このためには、金属板単板よりも板厚があまりに厚くなった素材積層板を用いることはできず、素材積層板の板厚はせいぜい3.4mm以下、好ましくは2.4mm以下程度に制約される。また、金属板単板の代替として、自動車車体用パネルをより軽量化させるためにも、素材積層板の板厚は3.4mmを超えて厚くはできない。
【0010】
ただ、このように素材積層板の板厚を薄くする場合、軽量化のために、また、曲げ剛性を確保するために、金属板側に比べて密度の低い発泡性樹脂層の厚さを増大させ、金属板側の板厚を相対的に薄くする必要がある。したがって、素材積層板を構成する各金属板の板厚は、比較的軽量なアルミニウム合金板でも、1.0mm以下に薄肉化する必要がある。しかし、このように薄い金属板の成形限界は、後述する通り、薄くなるほど著しく低下する。
【0011】
一方で、芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂単体での成形性も決して良くはない。前記した比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルへの冷間でのプレス成形は、3次元形状への加工であり、2次元形状への加工に比べて格段に伸びや弾性率が必要となる。しかし、これまでの発泡樹脂は、平滑性や美観を重視して選定されており、このような3次元形状への冷間プレス成形性を意図したものではない。この結果、発泡樹脂単体での冷間成形加工は、成形自体や成形体の形状安定性の点から困難で、発泡樹脂単体でのパネル等への成形加工は、温間あるいは熱間などで成形する必要がある、というのが従来の樹脂分野における常識である。
【0012】
したがって、このような芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面にアルミニウム合金板が各々積層されてなる、薄肉化された積層板は、各々単体では成形加工が難しく、成形加工後の形状も安定しないもの同士の組み合わせである。このため、このような薄肉化された積層板は、常識的には前記自動車車体用パネル等への冷間成形加工が困難である。
【0013】
これらの点に鑑み、本発明は、単体では成形性が劣る芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面に、成形限界が著しく低下した薄肉のアルミニウム合金板が各々積層されてなる積層板であっても、冷間成形が可能で、かつこの成形後の形状安定性に優れた積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するための、本発明積層板の要旨は、芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面にアルミニウム合金板が各々積層されてなり、成形された後に前記芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂を加熱により発泡させた複合成形体とされる積層板であって、この積層板の板厚が3.4mm以下であり、この積層板を構成する前記アルミニウム合金板の板厚が0.05〜1.0mmであるとともに、芯材発泡性樹脂の板厚が0.5〜1.4mmであり、前記アルミニウム合金板がJISH0001規格にて規定される質別記号の内、O材、H22材〜H24材、H32材〜H34材及びT4材から選択される調質処理材であることとする。
【0015】
ここで、前記積層板の板厚が2.4mm以下であり、この積層板を構成する前記アルミニウム合金板の板厚が0.05〜0.5mmであるとともに、前記芯材発泡性樹脂の板厚が0.5〜1.4mmであることが好ましい。また、前記積層板の前記アルミニウム合金板が、1000系、3000系、5000系、6000系のアルミニウム合金から選択されたものであることが好ましい。6000系の場合には、O材またはT4材から選択されたものであることが好ましい。5000系の場合には、O材またはH32材〜H34材から選択されたものであることが好ましい。
【0016】
上記目的を達成するための、本発明複合成形体の要旨は、上記要旨あるいは好ましい要旨のいずれかの積層板を冷間にて成形した後に、加熱により前記芯材発泡性樹脂を発泡させたことである。
【発明の効果】
【0017】
本発明者らは、前記積層板を構成する前記アルミニウム合金板の板厚が極端に薄くなった場合には、後述する実施例図4〜7にて裏付ける通り、この薄板の伸びが、比較的厚板の場合に比して、著しく低下することを知見した。例えば、3004のO材では、板厚が1.6mmの場合には20%程度の伸びを有することが、例えば、社団法人軽金属協会発行のアルミニウムハンドブックなどにより公知である。これに対して、本発明者らがアルミニウム合金薄板単体を実際に引張試験をした結果では、板厚が0.05mm(50μm)に薄くなった場合には、伸びは3%程度に著しく低下する。これは、1000系、3000系、5000系、あるいは6000系などの他のアルミニウム合金系でも同様である。
【0018】
この伸びの極端な低下は、板厚が極端に薄くなったことによって、アルミニウム合金薄板単体に、大きな局所的な伸びが生じやすくなる、あるいは大きな局所的な伸びが生じるまでの時間が速まる、ことに起因している。前記本発明者らの実際の引張試験では、板厚が0.05mm(50μm)に薄くなった3004のO材では、引張試験を開始して0.6〜0.8秒の間に、試験片の中央部の破断位置で、大きな局所的な伸びが生じて、破断していた。したがって、例え成形性が比較的高い3004のO材であっても、板厚が極端に薄くなった場合には、短時間に大きな局所的な伸びが生じやすくなり、十分な伸び(全伸び)が得られずに、成形性が著しく低下する。
【0019】
一方、本発明者らは、このように、板厚が薄くなって単体での成形性が低下したアルミニウム合金板と、単体では冷間成形性が低い発泡性ポリプロピレン系樹脂とを組み合わせて、全体の板厚が薄い積層板とした場合には、却って冷間成形性が著しく向上することを知見した。後述する実施例にて裏付ける通り、本発明者らが引張試験した結果では、例えば、芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面に板厚が0.05mm(50μm)の3004のO材アルミニウム合金板を各々積層した一体化した積層板の伸びは、後述する実施例の通り、14%程度に向上する。
【0020】
これは、発泡性ポリプロピレン系樹脂との積層化によって、アルミニウム合金薄板の歪み分布が均一化するために、引張試験開始後の上記短時間の間には、試験片の中央部の破断位置での大きな局所的な伸びが生じず、アルミニウム合金薄板が短時間には破断しなくなるためであると推考される。
【0021】
この積層化は、発泡性ポリプロピレン系樹脂の側の形状安定性の向上効果ももたらす。通常、発泡性ポリプロピレン系樹脂単体では、弾性変形の割合(弾性変形率)が大きいために、冷間成形による塑性変形によって所定の形状としても、元の直線的な形状に戻ろうとするバックリング性が高く、形状安定性が低い。これに対して、アルミニウム合金板は、発泡性ポリプロピレン系樹脂に比して、塑性変形の割合(塑性変形率)が大きいために、冷間成形による塑性変形によって所定の形状とした場合の、元の直線的形状に戻ろうとするバックリング性は低い。したがって、積層化によって、発泡性ポリプロピレン系樹脂の塑性変形の割合(塑性変形率)が大きくなり、形状安定性が向上する。
【0022】
したがって、本発明によれば、単体では成形性が劣る芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面に、成形限界が著しく低下した薄肉のアルミニウム合金板が各々積層されてなる積層板であっても、前記比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルなどの3次元形状へのプレス成形など、冷間での成形自体を可能とし、かつこの成形後の成形品の形状安定性も向上させることができる。そして、この成形品を加熱して芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂を発泡させることにより、自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有していても、曲げ剛性に優れた軽量な複合成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施の形態について、以下に図面を用いて説明する。図1は、発泡前の芯材樹脂を積層した本発明の積層板を示す斜視図である。図2、3は、図1の積層板を成形した後に、加熱して芯材の発泡性樹脂を発泡させ、芯材発泡樹脂(発泡させた樹脂)とした状態の複合成形体(製品パネル)の態様を示す一部断面斜視図である。
【0024】
図1に示すように、図2、3の複合成形体用の材料である本発明積層板1は、金属板として2枚のアルミニウム合金板2a、2bの間に、図の上から順に、接着用樹脂4a、発泡性樹脂(未発泡の樹脂)3a、接着用樹脂4bを積層した形で、挟み込んでいる。
【0025】
なお、接着用樹脂4は、発泡性樹脂3a自体にアルミニウム合金板2a、2bとの十分な接着効果がある場合には、必須では無い。ただ、積層板1の成形加工時に必要な接合強度や、複合成形体としての必要な接合強度を確保するためには、接着用樹脂4を使用する方が好ましい。
【0026】
図1の態様では、これら2枚のアルミニウム合金板2a、2bの表面は平坦で平滑な面となっているが、必要により、金属板には、エンボス加工、プレス加工、ロール加工を施すなどして、表面全体に亙って、あるいは部分的に、適宜の範囲と大きさで凹凸を設けてもよい。
【0027】
図2は平板状複合成形体1a、図3はHAT型形状の複合成形体1bを各々示す。図2、3は、図1の積層板1を冷間成形後に加熱して、発泡性樹脂3aを発泡させ、芯材の発泡樹脂3bとした、複合成形体(成形されたパネル)1a、1bの状態を示している。図3の複合成形体1bは、前記自動車車体パネルの内、平坦で比較的大きな面積の四角形の頂部(凸部:カップ)を有するHAT型に張出成形したアンダーカバーパネルを模擬している。
【0028】
(積層板の板厚)
本発明積層板は、そもそも冷間でパネル形状に成形される薄い積層板を対象とする。この点で、冷間でパネル形状に成形されない建築物や構造物のような厚い積層板は対象外である。前記した通り、本発明積層板の具体的な用途である自動車車体用パネルなどをより軽量化するために、金属板単板の代わりに本発明積層板を用いて複合成形体を得る場合には、プレス成形工程や軽量化のために、金属板単板よりも板厚があまりに厚くなった素材積層板を用いることはできない。即ち、自動車車体用パネルの製作側は、金属板単板の成形時と同じ成形プレスあるいは同じプレス成形条件を用いたいし、金属板単板の代替としては、自動車車体用パネルをより軽量化させたい。
【0029】
このために、本発明積層板全体の板厚は、薄ければ薄いほど好ましく、3.4mm以下、好ましくは2.4mm以下の薄板とする。ここで言う、積層板全体の板厚とは、積層した、2枚のアルミニウム合金板2a、2b、接着用樹脂4a、4b、発泡性樹脂3aの合計の板厚であり、接着用樹脂4a、4bが無い場合は、2枚のアルミニウム合金板2a、2b、発泡性樹脂3aの合計の板厚である。
【0030】
(アルミニウム合金板の板厚)
このような薄い積層板に積層されるアルミニウム合金板2a、2bの各板厚も、薄いほど好ましく、0.05〜1.0mmの範囲、好ましくは0.05〜0.5mmの範囲の薄板とする。ただ、アルミニウム合金板2a、2bの板厚が、片側一方だけでも0.05mm未満では板厚が薄すぎ、芯材発泡樹脂が発泡した、前記自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有する複合成形体の使用状態での曲げ剛性および曲げ強度が著しく低下する。一方、アルミニウム合金板2a、2bの板厚が、片側一方だけでも1.0mm、厳しくは0.5mmを超えると、重量が重くなり、軽量化が犠牲となって、複合成形体とする意味自体が失われる。
【0031】
(アルミニウム合金板の種類)
積層板に積層されるアルミニウム合金板2a、2bは、積層板の冷間成形性(成形加工性、成形後の形状安定性)の向上のために、適正な強度が必要な観点から、JISH0001規格にて規定される質別記号の内、O材、H22材〜H24材、H32材〜H34材及びT4材から選択される調質処理材とする。この適正な強度は、複合成形体としての曲げ剛性や曲げ強度にも必要である。アルミニウム合金板の強度は、勿論、合金の成分組成にもよるが、調質処理による影響が大きく、特に、1000系、3000系、5000系、6000系などのアルミニウム合金系では、これ以外の調質処理では、強度が高くなる反面、伸びが低すぎて、積層板の冷間成形性を十分に向上できない。ここで、6000系の場合には、O材またはT4材から選択されたものであることが好ましい。また、5000系の場合には、O材またはH32材〜H34材から選択されたものであることが好ましい。
【0032】
前記した通り、積層板を構成するアルミニウム合金板の板厚が極端に薄くなった場合には、この薄板の伸びが比較的厚板の場合に比して、著しく低下する。具体的には、3004のO材では、板厚が1.6mmの場合には20%程度の伸びを有するのに対して、板厚が0.05mm(50μm)に薄くなった場合には3%程度に著しく低下する。これは、1000系、3000系、5000系、あるいは6000系などの他のアルミニウム合金系でも同様である。
【0033】
本発明積層板に積層されるアルミニウム合金板2a、2bは、板厚が極端に薄くなることによって、伸びが10%以下に極端に低下したアルミニウム合金板である。これを前提にした、素材積層板として、前記した必要強度を確保するために、上記した調質処理材とする。
【0034】
このようなアルミニウム合金板2a、2bとして好適なアルミニウム合金は、JIS規格にて規定される1000系、3000系、5000系、6000系のアルミニウム合金である。これらのアルミニウム合金は安価であることからも他の合金に比して有利である。したがって、アルミニウム合金板2a、2bは、好適には、これらアルミニウム合金の通常の乃至市販の冷間圧延板である上記調質処理材を用いる。また、アルミニウム合金板2a、2bは、基本的には、無塗装、表面処理なしで、平滑な表面のまま用いられるが、必要により、めっきや化成処理など、汎用されている乃至公知の表面処理、あるいはエンボス加工などの表面に凹凸を付与する加工が施されていても良い。
【0035】
ただ、1000系アルミニウム合金板のO材などは、3000系、5000系、6000系のアルミニウム合金板のO材に比して、より強度が低く、成形後の形状安定性が低くなる可能性がある。このため、この1000系アルミニウム合金板のO材など、より強度が低いアルミニウム合金板を用いる場合には、積層板のアルミニウム合金板2a、2bの板厚をより厚くすることが好ましい。
【0036】
(積層板の作用効果)
このように、2枚のアルミニウム合金板2a、2bを用い、この2枚の金属板間に、未発泡状態の発泡性樹脂3aと接着用樹脂4bとを積層した(挟み込む)場合、前記した通り、アルミニウム合金板単体、発泡性樹脂単体の場合に比して、冷間成形性向上効果と冷間成形後の形状安定性の向上効果をもたらす。アルミニウム合金板と発泡性ポリプロピレン系樹脂との積層化によって、アルミニウム合金板が薄板であっても、その歪み分布が均一化する。このために、冷間成形において、大きな局所的な伸びが生じないか、あるいは大きな局所的な伸びが生じるまでの時間が遅くなり、冷間成形中のアルミニウム合金薄板が短時間には破断しなくなるためである。
【0037】
成形時に、積層板1に荷重(成形負荷)を与えることにより得られる変形量δは、荷重を除荷した後に零となる弾性変形量δEと、荷重を除荷しても変形量が変わらない塑性変形量δPとの和となる。冷間にて所定の形状に成形が可能ということは、成形時の荷重を除荷した直後に、弾性変形量δEが零となった後の塑性変形量δPが、目標となる変形量δとなるようにすることを意味する。積層板1全体に成形荷重を作用させて変形させると、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂3aとは積層、一体化しているために、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂3aとには、等しい変形量が生じ、前記した歪み分布が均一化されて、成形性が向上する。
【0038】
また、この積層化による上記変形量の均一化や歪み分布の均一化は、発泡性樹脂の側にも形状安定性の向上効果も同時にもたらす。通常、発泡性ポリプロピレン系樹脂単体では、弾性変形の割合(弾性変形率)が大きいために、冷間成形による塑性変形によって所定の形状としても、元の直線的な形状に戻ろうとするバックリング性が高く、形状安定性が低い。これに対して、アルミニウム合金板は、発泡性ポリプロピレン系樹脂に比して塑性変形の割合(塑性変形率)が大きいために、冷間成形による塑性変形によって所定の形状とした場合の、元の直線的形状に戻ろうとするバックリング性は低い。したがって、積層化によって、発泡性ポリプロピレン系樹脂の塑性変形の割合(塑性変形率)が大きくなり、形状安定性が向上する。このため、前記比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルなどの3次元形状へのプレス成形など、冷間での成形が可能となる。
【0039】
また、複合板を複合成形体に冷間成形する場合、2枚のアルミニウム合金板2a、2b間に発泡性樹脂3aが挟み込まれて、拘束されながら成形される。このため、成形した複合成形体1bに反りが発生しにくくなり、複合成形体1aや1bの形状精度が格段に向上する。更に、発泡性樹脂3aを発泡させる場合にも、2枚のアルミニウム合金板2a、2b間での発泡性樹脂3aの発泡度合いを、アルミニウム合金板2a、2bの間隔を調整することで規制でき、樹脂を発泡させた状態の複合成形体複合板1aや1bの形状精度も格段に向上する。
【0040】
更に、この積層化によって、2枚のアルミニウム合金板2a、2b間に、発泡後の芯材樹脂3bが挟み込まれた構造となり、複合成形体1aや1bが自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有していても、曲げ剛性に優れた、軽量な複合成形体とすることができる。
【0041】
(芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の厚み)
以上のような積層板の構成を前提にして、以下に、本発明では、芯材発泡性樹脂3aの板厚(未発泡樹脂層の厚み)を規定する。即ち、積層板の板厚が3.4mm以下である場合には、芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の板厚を0.5〜1.4mmの範囲とする。また、積層板の板厚が2.4mm以下である場合には、芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の板厚を0.5〜1.4mmの範囲とする。なお、未発泡ポリプロピレン系樹脂層の厚みに積層板の部位による「ばらつき」がある場合には、積層板の選択された適当部位における平均値とする。
【0042】
芯材発泡性樹脂3aの板厚が薄すぎると、冷間成形時に、伸びが10%以下に極端に低下したアルミニウム合金薄板の歪み分布を均一化する、芯材発泡性樹脂3a(積層板として)の成形性向上効果が薄くなる。このために、アルミニウム合金単板と大差なくなり、冷間成形において、短時間に大きな局所的な伸びが生じやすくなり、冷間成形中のアルミニウム合金薄板が短時間で破断し、成形性が大幅に低下する。また、芯材発泡性樹脂3aの板厚が薄すぎると、この芯材発泡樹脂3bの厚みが薄くなり、曲げ剛性か曲げ強度が同じ単体のアルミニウム合金板に比して軽量とはならず、複合板や複合成形体を使う意味がなくなる。
【0043】
一方、芯材発泡性樹脂3aの板厚が厚すぎると、相対的に薄くなるアルミニウム合金板(積層板として)の効果が半減し、発泡性樹脂単体と大差なくなる。このため、弾性変形の割合(弾性変形率)が大きい発泡性樹脂は、冷間成形による塑性変形によって所定の形状と例えできても、元の直線的な形状に戻ろうとするバックリング性が高くなり、形状安定性が低くなる。また、芯材発泡性樹脂3aの板厚が厚すぎると、この芯材発泡樹脂3bの板厚が厚くなりすぎ、自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有する複合板や複合成形体の、使用状態での曲げ剛性および曲げ強度は確保できるものの、占有スペースが嵩むために、限られたスペース内での設置が困難になるという問題がある。
【0044】
(芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の発泡倍率)
芯材発泡性樹脂3aの、芯材発泡樹脂3b(発泡後)への発泡倍率は2〜20倍程度とすることが好ましい。これによって、自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有する複合成形体の、軽量化と曲げ剛性および曲げ強度の兼備を保証できる。この発泡倍率が小さすぎると、曲げ剛性か曲げ強度が同じアルミニウム合金板単体に比して軽量とはならず、複合板や複合成形体を使う意味がなくなる可能性が高い。一方、この発泡倍率が大きすぎると、複合板や複合成形体の使用状態での曲げ剛性および曲げ強度が著しく低下する可能性が高い。
【0045】
(芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂)
積層板の芯材発泡性樹脂3aは、ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂(R.PP)、ホモポリプロピレン系樹脂(H.PP)、共重合ポリプロピレン系樹脂(B.PP)の一種以上からなることが好ましい。これらのポリプロピレン系樹脂は、他の樹脂に比して、伸びが低下したアルミニウム合金薄板の歪み分布を均一化する、芯材発泡性樹脂3a(積層板として)としての、前記成形性向上効果が大きい。即ち、前記調質処理材であるアルミニウム合金薄板と組み合わされて積層された場合の、成形可能性や形状安定性などの成形性向上効果が大きい。
【0046】
特に自動車用部品として使用する場合には、前記積層板が複合成形体となった状態で、高い曲げ剛性、耐熱温度、リサイクル性が要求される。このことから、積層板の芯材発泡性樹脂3aは、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)が0.1〜50g/10分であるランダム共重合ポリプロピレン系樹脂、ホモポリプロピレン系樹脂及びブロック共重合ポリプロピレン系樹脂のうち、少なくとも1種以上からなることが好ましい。
ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂としては、公知のプロピレンとエチレンないしは炭素数4〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体が挙げられる。ブロック共重合ポリプロピレン系樹脂としては、公知のプロピレンとエチレンないしは炭素数4〜20のα−オレフィンとのブロック共重合体が挙げられる。
芯材発泡性樹脂3aが、ポリプロピレン系樹脂2種以上の混合物である場合は、その混合物のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)が0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜40g/10分であることが好ましい。
中でも、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)が0.1〜50g/10分、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点が115〜150℃であるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体、(A)90〜99重量%、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)が0.1〜50g/10分、かつ示差走査熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下であるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(B)1〜10重量%、(A)および(B)からなる組成物100重量部に対し、発泡剤(C)0.1〜10重量部からなる樹脂組成物であることが好ましい。
【0047】
この樹脂組成物は、伸びが低下したアルミニウム合金薄板の歪み分布を均一化する、芯材発泡性樹脂3a(積層板として)としての、前記成形性向上効果が大きい。即ち、O材、H22材〜H24材、H32材〜H34材、及びT4材などの調質処理材であるアルミニウム合金薄板と組み合わされて積層された場合の、成形加工性や形状安定性などの成形性向上効果が大きい。
【0048】
発泡性樹脂3aに用いるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(A)のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)は、0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜40g/10分、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点が115〜150℃、好ましくは125〜145℃である。
プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(A)のプロピレン含量は、90〜99.9モル%、好ましくは92〜95モル%である。プロピレンとともに共重合されるα−オレフィンとしては、少なくとも1種以上のエチレンないしは炭素数4〜20のα−オレフィンが挙げられる。このようなプロピレン・α−オレフィン共重合体(A)は、典型的には固体状チタン触媒と有機金属化合物を主成分とする触媒、またはメタロセン化合物を触媒の一成分として用いたメタロセン触媒の存在下でプロピレンとα−オレフィンを共重合させることによって製造することができる。
【0049】
発泡性樹脂3aに用いるプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(B)のメルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)は0.1〜50g/10分、好ましくは1〜20g/10分、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点が100℃以下、好ましくは40〜95℃、さらに好ましくは50〜90℃である。
プロピレン・α−オレフィン共重合体(B)は、公知の立体規則性触媒を用いてプロピレンと他のα−オレフィンを共重合することによって得ることができるが、特にメタロセン触媒を用いて共重合されたものが成形体のベタツキが少なく望ましい。プロピレンとともに共重合されるα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ペンテンをはじめとする少なくとも1種以上の炭素数2〜20のα−オレフィン(プロピレンを除く)が挙げられる。プロピレン・α−オレフィン共重合体(B)のα−オレフィン含量としては、5〜50モル%、好ましくは10〜35モル%のものが使用される。このようなプロピレン・α−オレフィン共重合体(B)は、例えば国際公開番号WO95/14717に記載されているような触媒を用いて製造することができる。
【0050】
発泡性樹脂3aに用いる発泡剤(C)としては、有機発泡剤、無機発泡剤のいずれも使用可能である。
有機発泡剤としては、例えば、アゾ化合物、ニトロソ化合物、スルホニルヒドラジド化合物およびその他の化合物などの使用が可能である。具体的には、アゾジカルボンアミド、アゾジカルボン酸バリウム、アゾビスイソブチロニトリル、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、ヒドラゾジカルボンアミド、ジフェニルスルホン-3,3-ジスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、トリヒドラジノトリアジン、ビウレアなどが挙げられる。
無機発泡剤としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸亜鉛など、さらには熱膨張性マイクロカプセルなどが挙げられる。これらの発泡性成分の中でも、120℃以上、より好ましくは150℃以上に加熱することにより発泡するものが好ましい。尚、上記発泡剤は1種単独、または2種以上を組み合わせて使用しても良い。添加量は、(A)および(B)からなる樹脂組成物100重量部に対し、0.1〜10重量部が好ましく、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0051】
更にセルの安定化の為に、(D)ラジカル発生剤を、(A)および(B)からなる樹脂組成物100重量部に対し、0.05〜0.5重量部、好ましくは、0.1〜0.3重量部、および(E)架橋助剤を、(A)および(B)からなる樹脂組成物100重量部に対し、0.1〜1重量部、好ましくは0.2〜0.5重量部、加えても良い。
本発明に用いられるラジカル発生剤(C)としては有機ペルオキシド、有機ペルオキシエステルが主として用いられ、1分(min)の半減期を得るための分解温度が前記プロピレン・α−オレフィン共重合体(B)の融点よりも高いことが好ましく、更には前記プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)の融点よりも高いことが好ましい。
なお、前記ラジカル発生剤(D)の100時間(hr)の半減期を得るための分解温度が40℃以上であることが実用上好ましい。
【0052】
これら有機ペルオキシド等としては具体的には、例えば3,5,5‐トリメチルヘキサノイルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、こはく酸ペルオキシド、アセチルペルオキシド、ターシヤリーブチルペルオキシ(2‐エチルヘキサノエート)、メタ‐トルオイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ターシヤリーブチルペルオキシイソブチレート、1,1‐ビス(ターシヤリーブチルペルオキシ)3,3,5‐トリメチルシクロヘキサン、1,1‐ビス(ターシヤリーブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ターシヤリーブチルペルオキシマレイン酸、ターシヤリーブチルペルオキシラウレート、ターシヤリーブチルペルオキシ3,5,5‐トリメチルヘキサノエート、シクロヘキサノンペルオキシド、ターシヤリーブチルペルオキシイソプロピルカルボネート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、ターシヤリーブチルペルオキシアセテート、2,2‐ビス(ターシヤリーブチルペルオキシ)ブタン、ターシヤリーブチルペルオキシベンゾエート、n‐ブチル‐4,4‐ビス(ターシヤリーブチルペルオキシ)バレレート(22)、ジ・ターシヤリーブチルジペルオキシイソフタレート、メチルエチルケトンペルオキシド、α,α′‐ビス(ターシヤリーブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルペルオキシド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ターシヤリーブチルペルオキシ)ヘキサン、ターシヤリーブチルクミルペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、ジ‐ターシヤリーブチルペルオキシド、パラ‐メンタンヒドロペルオキシド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ターシヤリーブチルペルオキシ)ヘキシン‐3、1,1,3,3‐テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5‐ジメチルヘキサン2,5‐ジヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ターシヤリーブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。
これらのうちでは、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ターシヤリーブチルペルオキシ)ヘキサン、(2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ターシヤリーブチルペルオキシ)ヘキシン‐3)が好ましい。
【0053】
本発明に用いられる架橋助剤(E)としては、二重結合を1個または2個以上有する不飽和化合物、オキシム化合物、ニトロソ化合物またはマレイミド化合物等である。前記ラジカル発生剤(D)によつて、前記プロピレン・α−オレフィン共重合体(B)、および、前記プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)の水素引抜きによって生じるポリマーラジカルが開裂反応を起すよりも速く、該架橋助剤(E)と反応する。これによって、ポリマーラジカルを安定化させると同時に該プロピレン・α−オレフィン共重合体(B)と該プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)との相互架橋、および、それぞれ単独での架橋効率を高める働きをするものである。
これらの化合物としては具体的には、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ジアリルフタレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6‐ヘキサンジオールジメタクリレート、ジビニルベンゼン等の多官能性モノマー、キノンジオキシム、ベンゾキノンジオキシム、等のオキシム化合物、パラ‐ニトロソフエノール、N,N‐メタ‐フエニレンビスマレイミド、および、これらの2種以上の混合物が挙げられる。
これらのうちでは、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートが好ましい。
熱分解温度は概ね400℃程度であることと、熱分解型発泡剤を樹脂に添加し均一に分散させるためには、プロピレン・α−オレフィン共重合体(A)の融点より10℃以上高い温度で発泡剤を混練する必要がある。さらに、混練中に発泡剤の発泡が開始しないようにするためには、発泡温度は混練温度より10℃以上高く、熱分解温度より十分に低い、170℃〜300℃に設定されていることが好ましい。このようにすると、170℃〜300℃で加熱することで、発泡性樹脂3aを、劣化させることなく、均一に発泡させることができる。
【0054】
(接着用樹脂)
接着用樹脂4a、4bは、発泡性樹脂3aとアルミニウム合金板2a、2bとの接着が可能な(接着強度を有する)接着用樹脂からなる。接着用樹脂4a、4bとして、無水マレイン酸などで酸変性させたポリプロピレンを主成分とする、熱融着タイプの熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0055】
(樹脂応用例)
樹脂応用例として、無機系や金属系のフィラーや添加剤を含有させることで、複合成形体の特性をより高機能、多機能とすることができる。例えば、発泡性樹脂、接着用樹脂として、制振性の高い樹脂を用いれば、制振性能や遮音性能が高まる。また、導電性物質を用いれば溶接性能が高まる。上記の発泡性樹脂3aや接着用樹脂4に導電性物質として金属粉末が添加されると、樹脂は高密度となる。このため、遮音性能が高まるとともに、導電性物質を用いれば溶接性が向上できる。
【0056】
(樹脂形状)
これら発泡性樹脂、接着用樹脂は、フィルムあるいはシートであっても良い。また、発泡性樹脂、接着用樹脂のうち、何れか一方、または両方を、溶融状態または溶媒に溶解させた状態のものを、ロールやスプレーなどで塗布することによっても可能である(この場合、他方はフィルムあるいはシートでよい)。なお、この塗布の場合には、塗布後に乾燥する工程があることが好ましい。
【0057】
(複合板および成形体の製造方法)
ここで、積層板や複合成形体の製造方法について、以下に説明する。
【0058】
発泡性樹脂:
発泡性樹脂3aを構成する、前記した、ポリプロピレン系樹脂及び熱分解型発泡剤(C)を先ず混練する。必要に応じて、前記した、ラジカル発生剤(D)、架橋助剤(E)を添加してもよい。また、接着強度、制振性、耐熱性を付与する物質や、導電性向上のための金属粉末を添加してもよい。これらの材料が十分混練された後、フィルムあるいはシート化される。フィルム化される場合にはコイル状に巻かれる。このとき、上記材料の混練温度は、用いる発泡剤の熱分解温度よりも10℃以上低く設定されていることが好ましい。そうすると、混練されることで樹脂の温度が上昇しても、発泡が起こることを防止することができる。
【0059】
接着用樹脂:
接着用樹脂4を構成する樹脂材料を先ず混練する。この材料は、樹脂に、必要に応じて、接着強度・制振性付与する材質や、導電性を付与するための金属粉末が添加されている。これらの材料が十分混練された後、フィルム化あるいはシート化される。フィルム化の場合には、コイル状に巻かれて別途積層されるか、アルミニウム合金板の表面に塗布される。
【0060】
なお、上記の発泡性樹脂のフィルムあるいはシートと接着用樹脂が熱融着されて、一体化された後にコイル状に巻かれてもよい。あるいは、発泡性樹脂シートまたはフィルムを金型から押し出し成形する際に、発泡性樹脂の表面を接着用樹脂で覆うように、2種3層押出成形により、発泡性樹脂と接着用樹脂を一体化してもよい。既に発泡性樹脂フィルムと接着用樹脂フィルムとが、それぞれ別のコイルとされている場合には、これら2つのコイルから各々引き伸ばすことで、アルミニウム合金板2に、接着用樹脂フィルム4と発泡性樹脂フィルム3aとを同時に積層させることができる。何れの場合であっても、発泡性樹脂3aは未発泡状態であり厚みが薄いため、コイル状にすることが可能である。そのため、コイル状での搬送が可能であり、施工場所でコイルから引き伸ばすことができるため施工場所が制限されない。
【0061】
積層板の製作:
切り板とされたアルミニウム合金板2a、2bと、同じく切り板とされた接着用樹脂フィルム4、発泡性樹脂フィルム3aとを、順に積層して、積層板となす方法が最も簡便である。ただ、設備的に可能であれば、連続的に積層してもよい。即ち、アルミニウム合金板2a、2bの両方をコイルから巻き出し、一方で、上記発泡性樹脂フィルムおよび接着用樹脂フィルムを、各々コイルから巻き出して、引き伸ばしながら、アルミニウム合金板2a、2bの間に同時に積層してもよい。これらの積層後、例えば熱ロールなどにより挟み込んで加熱すれば、図1におけるアルミニウム合金板2と発泡性樹脂3aとが、接着用樹脂を介して、一体に接着され、素材積層板1が製作できる。この熱ロールの温度は、発泡性樹脂3aの発泡温度よりも低く、概ね発泡性樹脂および接着用樹脂の融点近傍に設定する。これにより、元来、接着性のないポリオレフィンからなる発泡性樹脂とアルミ表面に出来た水酸化皮膜とを変性ポリオレフィンにより接着することができ、結果として、冷間成形に必要なアルミと発泡性樹脂との界面の接着強度を確保することが出来る。
【0062】
(成形加工)
製造された積層板1は、冷間成形されて、所定の複合成形体(パネル)1a、1b形状とされる。成形加工の方法としては、張出成形、絞り成形、曲げ成形などのプレス成形や曲げ加工を用いることができる。
【0063】
(加熱、発泡)
この成形加工によって所定形状とされた複合成形体は、発泡温度まで加熱されることで、発泡性樹脂3aを発泡させて発泡樹脂3bとされ、複合成形体1a、1bとされる。加熱は冷間成形後にバッチ式または連続式のガス炉、電気炉などの対流伝熱方式の加熱炉を用いて行うことが出来る。また、アルミニウム合金は熱線反射率が高く、遠赤外線式の加熱炉を用いることが出来ないが、アルミニウム合金板2a、2bのうち少なくとも片側の外側表面に塗装や有機皮膜などの熱線吸収層を設けることにより、遠赤外線式加熱炉でも加熱できるようにすることができる。また、加熱および/または冷却が可能な熱間プレスを用いれば、冷間でプレス成形した後、トランスファーなしで、発泡性樹脂3aを加熱発泡して発泡樹脂3bとし、さらに加熱により柔らかくなっている発泡樹脂3bを冷却して硬くすることができる。これにより、平坦な複合板から発泡して高剛性になった複合成形体を短時間に生産することが出来るだけでなく、加熱発泡直後は柔らかく成形後の形状を維持するには冷却時間が必要であったが、トランスファーの必要がない成形と同一の金型内での冷却により形状を崩さないように短時間で取り出すことが出来るので、生産性を高めることができる。
【0064】
なお、積層板1の発泡性樹脂3aを先ず発泡させ、発泡後の積層板1を成形加工した場合には、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂フィルム3aとの前記した積層化効果は半減する。即ち、発泡後の発泡樹脂3bの、伸びが10%以下に極端に低下したアルミニウム合金薄板の歪み分布を均一化する効果は、未発泡の芯材発泡性樹脂3aに比して、著しく低く、積層板1の冷間成形性が著しく低下する。
【実施例】
【0065】
(実施例1)
図1に示した積層板1を製作し、発泡性樹脂3aが未発泡のままで、この積層板1を、冷間成形を模擬して、発明例Aとして引張試験した。また、この積層板1(発明例A)を加熱して発泡性樹脂3aを発泡させ、芯材発泡樹脂3bとした複合板(平板)1aを、冷間成形を模擬して、比較例Bとして同じく引張試験した。更に参考例Cとして、アルミニウム合金板2aか2bのみ(板厚0.05mm)の単板も、同じく冷間成形を模擬して引張試験した。
【0066】
これらの結果を図4の荷重−ひずみ曲線にて示す。図4において、曲線Aが上記発明例A、曲線Bが上記比較例B、曲線Cが上記参考例Cである。これら曲線A、B、Cの各○印の横軸位置が各試験片の平行部両端間の最大ひずみ(伸びとも言う:%)を示している。
【0067】
また、これら引張試験の際の、発明例A、比較例B、参考例Cの、各試験片の位置によるひずみ分布の時間毎の変化を、図5〜7に各々示す。図5は発明例A、6は比較例B、7は参考例Cを示す。図5〜7において、縦軸はひずみ量(%)横軸は各試験片の位置である。横軸においては、試験片の破断部(概ね中央部付近)のε0を中心に、横軸の左右方向のε4あるいはε5に、約60mmの長さに亙る試験片各位置を示している。また、左側に示す各A〜Cが、前記図4における試験片の平行部両端間の各A〜Cの値を示している。
【0068】
積層板1製作条件:
1.積層板1の合計板厚は1.1mmとした。
2.積層板を構成するアルミニウム合金板2a、2bには、JIS3004アルミニウム合金単板のO材、板厚0.05mm(50μm)を用いた。アルミニウム合金板2a、2bの板厚合計は0.1mmである。
3.芯材発泡性樹脂3aは、以下の(A)〜(E)の材料を(155)℃で混練してシート状に押出して得られたものである。平均板厚さ1.0mmのシートを用いた。
(A)プロピレン・エチレン・ブテンー1ランダム共重合体(エチレン量=2.2wt%、ブテンー1量=3.7wt%、MFR=7g/10分、融点=130℃)95重量%。
(B)プロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(三井化学(株)製タフマーXM−7080、MFR=7g/10分、融点=83℃)5重量%。
(C)アゾジカルボンアミド(永和化成(株)製):(A)+(B)100重量部に対し、3重量部。
(D)ラジカル発生剤としてパーヘキサ25B(登録商標、日本油脂(株)製):(A)+(B)100重量部に対し0.05重量部。
(E)架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレート:
(A)+(B)100重量部に対し、0.5重量部。
4.接着用樹脂4a、4bは、各例とも共通して、融点:140℃、厚み0.05mmの変性ポリオレフィン系のホットメルト接着樹脂フィルムを用いた。接着樹脂フィルムの板厚合計は0.1mmである。
【0069】
引張り試験条件:
積層板1は、各例とも共通して、長さ(L方向):600mm、幅(LT方向):1100mmとした四角の平面形状として製作し、JISZ2201の5号の短冊状試験片(25mm×50mmGL)を採取し、引張り試験を行った。引張り試験は、JISZ2241(1980)(金属材料引張り試験方法)に基づき、室温25℃で試験を行った。引張り速度は200mm/分で、試験片が破断するまで一定の速度で行った。
【0070】
引張り試験結果:
図4に示すように、参考例Cの、板厚0.05mmのアルミニウム合金薄板単板の伸びは3%程度である(前記した通り、3004のO材単板では、板厚が1.6mmの場合には20%程度の伸びを有する)。また、図示はしないが、この参考例Cのアルミニウム合金板の板厚を0.08mmに厚くした場合でも、アルミニウム合金薄板単板の伸びは3%程度と増加しなかった。
【0071】
これに対して、このアルミニウム合金薄板を積層した、発明例Aである未発泡積層板1の伸びは、図4に示すように、14%程度に高くなっている。また、図示はしないが、同じ条件の積層板で、アルミニウム合金板2a、2bを8079系アルミニウム合金薄板に代えた未発泡積層板1でも、上記引張り試験による伸びの測定結果は、やはり17〜18%程度と、同様に高くなっていた。
【0072】
一方、発明例Aの発泡性樹脂3aを発泡させ、芯材発泡樹脂3bとした複合板1aは、図4に示す比較例Bとして、伸びは5%程度であり、上記アルミニウム合金薄板単板の参考例Cと大差が無い。
【0073】
ひずみ分布の時間毎の変化:
また、ひずみ分布の時間毎の変化を示す、図5〜7を互いに比較対照すると、参考例C(アルミニウム合金薄板単板)の図7では、引張試験を開始して0.6〜0.8秒の短時間の間に、試験片の中央部の破断位置ε0で、急激に大きな局所的な伸び(ε0位置での山)が生じて成長し、破断していた。即ち、参考例Cでは、短時間に大きな局所的な伸びが生じていた。これに対して、比較例Bの図6、発明例Aの図5の順に、引張試験開始後の局所的な伸び(ε0位置での山)の発生と成長とが、時間的に遅くなっていることが分かる。言い換えれば、試験片の平行部のどの点でのひずみがほぼ等しく長時間均一に伸びが進行していることが分かる。
【0074】
これらの結果から、前記した通り、例え成形性が比較的高い3004系のO材アルミニウム合金板であっても、板厚が極端に薄くなった場合には、局所的な伸びが生じやすくなり、十分な伸び(全伸び)が得られずに、成形性が著しく低下することが分かる。そして、板厚が薄くなって単体での成形性が低下したアルミニウム合金板と、単体では冷間成形性が低い発泡性樹脂とを組み合わせて、全体の板厚が薄い積層板とした場合には、局所的な伸びの発生と成長とが抑制されて、図4の通り、伸びと冷間成形性が著しく向上することが裏付けられる。
【0075】
更に、伸びが14%程度である発明例Aの未発泡積層板1は、プレス成形などの冷間成形が可能であり、形状安定性にも優れていることが予想できる。したがって、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂フィルム3aとの前記した積層化による成形性向上効果が、これらの結果から裏付けられる。即ち、単体では成形性が劣る芯材発泡性樹脂の両面に、成形限界が著しく低下した薄肉のアルミニウム合金板が各々積層されてなる積層板であっても、成形が可能で、かつこの成形後の形状安定性に優れた積層板を提供できることが裏付けられる。
【0076】
また、比較例Bのように、樹脂発泡後の積層板1を成形加工した場合には、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂フィルム3aとの前記した積層化効果は半減し、成形性が低下することも裏付けられる。したがって、樹脂発泡前に積層板1を成形加工する意義も裏付けられる。
【0077】
(実施例2)
本発明積層板1の冷間成形性、特に、前記実施例1で裏付けられなかった冷間成形後の形状安定性について、張出成形試験により、割れ限界成形高さと、成形後の形状安定性とを評価した。これらの結果を表1、2に示す。表1は本発明積層板1の積層条件と冷間成形性を示す。表2は、比較のために、積層板を構成するアルミニウム合金板や発泡性樹脂フィルムが各々単板(単独の板)であり、その条件と冷間成形性を示す。
【0078】
表1の発明例1〜12の積層板や、表2の比較例の単板の製作条件は、前記実施例1の積層板1の製作条件と同じとしたが、以下の例は、以下に記載した部分だけ、前記実施例1の積層板1の製作条件と変えた。
表1の発明例13、14においては、以下の樹脂単味をシート状に押出して得られた平均板厚さ1.0mmのものを用いた。
発明例13:
MFR=2.1g/10分のプロピレン単独重合体
発明例14:
MFR=2.0g/10分のプロピレンブロック共重合体
[(株)プライムポリマー製プライムポリプロJ−702LJ]
表1の発明例15〜17においては、以下の樹脂100重量部(混合樹脂の計算MFR=5.3g/10分)に対して、アゾジカルボンアミド1重量部、パーヘキサ25B0.05重量部及びトリアリルイソシアヌレート0.5重量部を混練してシート状に押出して得られた平均板厚さ1.0mmのものを用いた。
発明例15〜17:
MFR=1.6g/10分のプロピレン単独重合体40重量部
MFR=0.54g/10分のプロピレンブロック共重合体20重量部
[(株)プライムポリマー製 プライムポリプロB−150M]
MFR=55.0g/10分のプロピレンブロック共重合体40重量部
[(株)プライムポリマー製プライムポリプロJ−739EP]
また、表2の比較例発泡性樹脂は以下の通りとした。
比較例24の発泡性樹脂:
発明例1〜14の発泡性樹脂と同じ。
比較例25の発泡性樹脂:
発明例15の発泡性樹脂と同じ。
比較例26の発泡性樹脂:
発明例16の発泡性樹脂と同じ。
比較例27の発泡性樹脂:
MFR=54g/10分のプロピレンブロック共重合体
[(株)プライムポリマー製プライムポリプロJ−739E]
【0079】
表1においては、積層板1の発泡性樹脂フィルム3aの板厚は1.0mmと一定とした。また、アルミニウム合金板2a、2bには、JIS 8079系(0.1%Si−1.0%Fe−残部Alの箔用純Al系合金)、1200系、3004系の各アルミニウム合金板を用い、板厚も種々変えた。なお、表1においては用いたアルミニウム合金板の材質につき「何々系」と記載しているが、これは記載の番号の「8079」「1200」「3004」「5052」の各規格合金という意味である。
【0080】
割れ限界成形高さ:
割れ限界成形高さ試験は、積層板1を、長さ180mm、幅110mmの試験片に切り、直径101.6mmの球状張出しパンチを用い、潤滑剤としてR−303Pを用いて、しわ押え圧力200kN、パンチ速度240mm/分で張出し成形し、試験片が割れるときの高さ(mm)を求めた。各サンプルに対して3回の試験を行い、その平均値を採用した。割れ限界成形高さが大きい程、張出し成形性に優れていることを意味し、例えば、前記した各用途の自動車用成形パネルに要求される張出し成形性を満足するためには、15mm以上であればよい。
【0081】
形状安定性:
形状安定性は、張出し成形した成形品を、除荷して放置した際のバックリング量を目視にて評価し、バックリング量が大きいものを×、小さいものを○として評価した。
【0082】
JIS1200系アルミニウム合金板の場合でも、O材では、板厚が1.6mmの場合には40%程度の伸びを有することが、前記した社団法人軽金属協会発行のアルミニウムハンドブックなどにより公知である。これに対して、板厚が0.05mm(50μm)に薄くなった場合には、前記3000系アルミニウム合金板のO材などと同様に、伸びは5%程度に著しく低下する。
【0083】
表1の通り、発明例3〜8、11〜16は、アルミニウム合金板を1.0mm以下に薄肉化しても、割れ限界成形高さが13mm以上あって、冷間成形後の形状安定性にも優れている。これに対して、表2の比較例18〜27の、アルミニウム合金板や発泡性樹脂フィルムの各単板では、割れ限界成形高さが13mm以上あったとしても(成形できたとしても)、いずれも形状安定性に劣り、パネルの成形に必要な張出成形性など、冷間成形が困難である。
【0084】
これらの結果から、発明例である未発泡積層板1は、プレス成形などの冷間成形が可能であり、形状安定性にも優れていることが裏付けられる。したがって、アルミニウム合金板2a、2bと発泡性樹脂フィルム3aとの前記した積層化による成形性向上効果が、これらの結果からも裏付けられる。即ち、単体では成形性が劣る芯材発泡性樹脂の両面に、成形限界が著しく低下した薄肉のアルミニウム合金板が各々積層されてなる積層板であっても、成形が可能で、かつこの成形後の形状安定性に優れた積層板を提供できることが裏付けられる。
【0085】
また、表1において、アルミニウム合金板の調質条件が外れた比較例1、2、9、10、17は、調質条件が範囲内である同じアルミニウム合金を用いた前記発明例に比して、1.0mm以下の薄い領域では、割れ限界成形高さを10mm未満に緩和して始めて、成形後の形状安定性が得られている。言い換えると、これらアルミニウム合金板の調質条件が外れた比較例は、割れ限界成形高さが10mm以上に高くなると、成形後の形状安定性が得られず、積層板の成形性に発明例とは顕著な差がある。
【0086】
これらの結果から、本発明のアルミニウム合金板の調質条件の、積層板の成形における、割れ限界成形高さや成形後の形状安定性に与える影響や、その規定の技術的な意義が裏付けられる。
【0087】
【表1】

【0088】

【表2】

【産業上の利用可能性】
【0089】
以上のように、本発明は、前記比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルなどの3次元形状へのプレス成形など、冷間での成形が可能で、かつこの成形後の形状安定性に優れた積層板を提供できる。また、前記した自動車車体パネルなどの比較的大きな面積を有するパネルでも曲げ剛性および曲げ強度が優れた複合成形体用の積層板を提供できる。したがって、本発明は、フード、ドアなどのアウタパネルやインナパネル、ルーフパネル、アンダーカバーパネル、デッキボード、バルクヘッドなどの、比較的大きな面積を有する自動車車体用パネルに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】樹脂発泡前の本発明積層板の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】樹脂発泡後の本発明複合成形の一実施形態を示す斜視図である。
【図3】樹脂発泡後の本発明複合成形の他の実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明積層板の荷重−ひずみ曲線を示す説明図である。
【図5】図4の発明例Aの試験片のひずみ分布の時間毎の変化を示す説明図である。
【図6】図4の比較例Bの試験片のひずみ分布の時間毎の変化を示す説明図である。
【図7】図4の参考例Cの試験片のひずみ分布の時間毎の変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0091】
1:積層板、1a:複合成形体、1b:複合成形体、2:アルミニウム合金板、3a:発泡性樹脂フィルム、3b:発泡樹脂、4:接着用樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂の両面にアルミニウム合金板が各々積層されてなり、成形された後に前記芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂を加熱により発泡させた複合成形体とされる積層板であって、この積層板の板厚が3.4mm以下であり、この積層板を構成する前記アルミニウム合金板の板厚が0.05〜1.0mmであるとともに、芯材発泡性樹脂の板厚が0.5〜1.4mmであり、前記アルミニウム合金板がJISH0001規格にて規定される質別記号の内、O材、H22材〜H24材、H32材〜H34材及びT4材から選択される調質処理材であることを特徴とする積層板。
【請求項2】
前記積層板の板厚が2.4mm以下であり、この積層板を構成する前記アルミニウム合金板の板厚が0.05〜0.5mmであるとともに、前記心材発泡性樹脂の板厚が0.5〜1.4mmであることを特徴とする請求項1に記載の積層板。
【請求項3】
前記積層板の前記アルミニウム合金板が、1000系、3000系、5000系、6000系のアルミニウム合金から選択されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の積層板。
【請求項4】
前記積層板の前記芯材発泡性ポリプロピレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR、ASTM D1238、230℃、2.16Kg荷重)が0.1〜50g/10分の範囲であるポリプロピレン系樹脂であり、該ポリプロピレン系樹脂は、ランダム共重合ポリプロピレン系樹脂、ホモポリプロピレン系樹脂、及びブロックポリプロピレン系樹脂の内、少なくとも一種以上からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の積層板。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの積層板を冷間にて成形した後に、加熱により前記芯材発泡性樹脂を発泡させたことを特徴とする複合成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−64307(P2010−64307A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231249(P2008−231249)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【出願人】(000111432)三井化学ファブロ株式会社 (36)
【Fターム(参考)】