説明

空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤ

【課題】軽量化と耐カット性とを両立させた空気入りタイヤを高精度かつ高品質で形成する。
【解決手段】サイドウォールゴムとカーカスとの間に配されるサイド保護層を具える空気入りタイヤの製造方法であって、剛性中子上にタイヤ構成部材を順次貼り付けて生タイヤを形成する生タイヤ形成工程と、生タイヤを前記剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程とを具える。生タイヤ形成工程は、縦糸と横糸とを織合わせた網状織物がトッピングゴムによって被覆された巾狭帯状の網状織物テープを、剛性中子上で、渦巻き状に巻回することによりサイド保護層を形成するサイド保護層形成行程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量化を図りつつ耐カット性を向上しうる空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
省エネルギー化を図るため、タイヤにおいても、転がり抵抗を減じて低燃費性を向上させることが強く望まれており、その一つとして、サイドウォールゴムの薄肉化が提案されている。しかしサイドウォールゴムのゴム厚さを減じた場合、耐カット性が低下し、走行中にサイドウォール部が縁石等と接触や衝突した際に、カット傷が発生してタイヤの寿命を低下させるという問題がある。
【0003】
そこで下記の特許文献1には、ゴム引きのキャンバス布(網状織物)からなる保護層を、カーカスとサイドウォールゴムとの間に設けたタイヤが提案されている。この保護層は、耐カット性に優れるため、カーカスに至る深い外傷の発生を効果的に防ぎ、サイドウォールゴムが薄肉化したことによる耐カット性の低下を抑制することができる。
【0004】
そして前記特許文献1では、このような保護層を有するタイヤを形成するために、前記保護層において、キャンバス布をなす縦糸及び横糸の向きが、タイヤ周方向に対して交差するように配置している。これにより未加硫状態においては、縦糸、横糸がパンタグラフ状に変形しうるため、キャンバス布を伸縮させることが可能となる。その結果、従来法におけるシェーピング工程、及び加硫金型内での加硫ストレッチを行うことができるなど、従来法でのタイヤ形成が可能となる。
【0005】
しかしながら、キャンバス布が伸縮しうるとはいえ、保護層がタイヤ周方向に伸張した場合には、必然的にその巾が縮小する。その結果、タイヤ形成時に前記保護層に起因してタイヤにも変形が起こり、ユニフォーミティやタイヤ品質を低下させるという傾向を招く。又伸張量にも限界があり、例えば偏平率が大なタイヤに対してはシェーピングが不十分となるなど、実施に大きな制限がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−160106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、ゴム引きのキャンバス布(網状織物)を用いた保護層を有し、軽量化と耐カット性とを両立させた空気入りタイヤを、高精度かつ高品質で形成しうる空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへて両側のビード部に至るカーカス、及びサイドウォール部の外面をなすサイドウォールゴムと前記カーカスとの間に配されるサイド保護層を具える空気入りタイヤの製造方法であって、
剛性中子上に、未加硫のタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤを形成する生タイヤ形成工程と、
前記生タイヤを、前記剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程とを具え、
かつ前記生タイヤ形成工程は、有機繊維からなる縦糸と横糸とを互いに織合わせた網状織物がトッピングゴムによって被覆された巾狭帯状の網状織物テープを、前記剛性中子上かつカーカスの外側で、タイヤ軸心周りで渦巻き状に巻回することによりサイド保護層を形成するサイド保護層形成行程を含むことを特徴としている。
【0009】
また請求項2では、前記網状織物テープは、前記縦糸又は横糸の一方がテープ長さ方向に連続してのびることを特徴としている。
【0010】
また請求項3では、前記網状織物テープは、テープ巾が3〜25mmの範囲であることを特徴としている。
【0011】
また請求項4では、前記網状織物テープのトッピングゴムは、短繊維を含有することを特徴としている。
【0012】
また請求項5では、前記サイド保護層は、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁同士を付き合わせた密着巻き部と、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁間に隙間を設けた疎巻き部と、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁部同士を重ね合わせた重ね巻き部との少なくとも2つを含んで構成されることを特徴としている。
【0013】
また請求項6では、前記生タイヤ形成工程は、タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつタイヤ周方向のプライ巾を小とした短冊シート状の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることによりカーカスを形成するカーカス形成行程を含むことを特徴としている。
【0014】
また請求項7は、空気入りタイヤの発明であって、請求項1〜6の何れかに記載の製造方法によって形成されたことを特徴としている。
【0015】
又本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法等は、正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した正規内圧状態にて特定される値とする。なお前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRAであれば "Design Rim" 、或いはETRTOであれば "Measuring Rim"を意味する。又前記「正規内圧」とは、前記規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE"を意味するが、乗用車用タイヤの場合には200kPaとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明は叙上の如く、剛性中子上に、未加硫のタイヤ構成部材を順次貼り付けて生タイヤを形成する生タイヤ形成工程と、前記生タイヤを剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程とを具える中子工法を採用している。
【0017】
そしてサイド保護層は、前記生タイヤ形成工程において、網状織物テープを渦巻き状に巻回することによって形成される。そのためサイド保護層をサイドウォール部における自在な位置に、自在な巾を有して形成することができる。又サイド保護層は、網状織物テープの側縁同士を付き合わせた密着巻き、側縁間に隙間を持たせた疎巻き、或いは側縁部同士を重ね合わせた重ね巻きによって形成することもでき、同じ網状織物テープを用いながら、物性を違えた種々のサイド保護層を形成することが可能となる。
【0018】
しかも前記中子工法では、剛性中子上に、生タイヤが仕上がりタイヤに近い形状で直接形成される。そのため、従来法における生タイヤ形成時のシェーピング(円筒状からトロイド状への膨張変形)、及び加硫金型内での加硫ストレッチが発生しない。従って、前記網状織物テープの渦巻き状の巻回によってサイド保護層を形成した場合にも、形成後のサイド保護層の変形、及びこのサイド保護層に起因するタイヤのユニフォーミティの低下、品質の低下、さらには形成するタイヤサイズなどへの制約などを排除することができる。
【0019】
又前記サイド保護層が、縦糸、横糸を織合わせた網状織物を含むため、周方向、半径方向、及びその中間の方向など全方向を満遍なく補強することができ、カーカスに至る深い外傷の発生を効果的に防ぎ、サイドウォールゴムが薄肉化した場合にも耐カット性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】生タイヤ形成工程を示す断面図である。
【図3】加硫工程を示す断面図である。
【図4】(A)はカーカス形成工程に用いる短冊プライ片を示す斜視図、(B)はサイド保護層形成行程に用いる網状織物テープを示す斜視図である。
【図5】(A)、(B)はカーカス形成工程を説明する断面図及び側面図である。
【図6】(A)、(B)はサイド保護層形成行程を説明する側面図、及びその一部拡大図である。
【図7】(A)〜(C)は密着巻き、疎巻き、及び重ね巻きを概念的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤ1の一例を示す断面図であって、前記空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへて両側のビード部4に至るカーカス6、及びサイドウォール部3の外面3Sをなすサイドウォールゴム3Gと前記カーカス6との間に配されるサイド保護層10を具える。本例では、前記空気入りタイヤ1が乗用車用のラジアルタイヤであって、前記カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に、強靱なベルト層7が配される場合が示される。
【0022】
前記カーカス6は、有機繊維のカーカスコードをラジアル配列させたカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビード部4、4間を跨るトロイド状をなす。又カーカスプライ6Aの両端部は、本例の場合、各ビード部4に配されるビードコア5の廻りで折り返されることなく該ビードコア5内に挟まれて係止される。具体的には、前記ビードコア5は、タイヤ軸方向内外のコア片5i、5oからなり、この内外のコア片5i、5o間で、前記カーカスプライ6Aの両端部が狭持される。
【0023】
前記内外のコア片5i、5oは、非伸張性のビードワイヤをタイヤ周方向に複数回巻き付けることにより形成される。このとき、外のコア片5oでは、内のコア片5iに比べてビードワイヤ5aの巻回数を例えば1.2〜2.0倍程度大とし、内のコア片5iよりも剛性を大とするのが好ましい。これにより、ビードワイヤ5aの総巻回数を規制しながらビード部4の曲げ剛性を相対的に高めることができ、操縦安定性などの向上に役立つ。なお図中の符号8は、ゴム硬度が例えば80〜100度の硬質のゴムからなるビードエーペックスであり、各コア片5i、5oから先細状に立ち上がり、ビード剛性を高める。本明細書においてゴム硬度は、JIS−K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定したデュロメータA硬さを意味する。
【0024】
前記ベルト層7は、スチールコード等の高弾性のベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば10〜35゜程度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。このベルト層7は、各ベルトコードがプライ間相互で交差することにより、ベルト剛性を高め、トレッド部2の略全巾をタガ効果を有して強固に補強している。本例では、前記ベルト層7の半径方向外側に、高速耐久性を高める目的で、例えばナイロンコード等のバンドコードを周方向に対して5度以下の角度で螺旋状に巻回させたバンド層9を設けている。このバンド層9としては、前記ベルト層7のタイヤ軸方向外端部のみを被覆する左右一対のエッジバンドプライ、及びベルト層7の略全巾を覆うフルバンドプライを、単独で或いは適宜組み合わせて使用できる。本例では、バンド層9が1枚のフルバンドプライからなるものを例示している。
【0025】
そして、前記カーカス6の外側には、サイドウォール部3の外面3Sをなすサイドウォールゴム3Gが配されるとともに、このサイドウォールゴム3Gと前記カーカス6との間には、サイド保護層10が配される。
【0026】
前記サイド保護層10では、図4(B)に示すように、有機繊維からなる縦糸11aと横糸11bとを互いに織合わせた網状織物11がトッピングゴム12によって被覆された巾狭帯状の網状織物テープ13が用いられ、この網状織物テープ13を図6に示すように、タイヤ軸心周りで渦巻き状に巻回することにより、サイド保護層10がエンドレス状に形成される。
【0027】
このサイド保護層10は、補強メンバーとして前記網状織物11を含むため、周方向、半径方向、及びその中間の方向など全方向を満遍なく補強することができ、カーカス6に至る深い外傷の発生を防ぎ耐カット性を向上させうる。
【0028】
前記サイド保護層10は、前記図1に例示するように、タイヤ断面高さHの10%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる10%高さ位置P10から、85%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる85%高さ位置P85までのサイド領域Y内に形成されることが好ましい。
【0029】
特に縁石等と接触し易いバットレス部を保護してカット傷の発生をより有効に防ぐために、ビードベースラインBLからサイド保護層10の外端までの半径方向高さHo(外端高さHoという場合がある。)をタイヤ断面高さHの75%以上、ビードベースラインBLからサイド保護層10の内端までの半径方向高さHi(内端高さHiという場合がある。)をタイヤ断面高さHの60%以下とするのが好ましい。
【0030】
さらに前記サイド保護層10は、縦糸11aと横糸11bとが互いに拘束してその動きを抑えるため面内剛性を高めることができ、操縦安定性の向上にも効果がある。従って、前記耐カット性に加えて操縦安定性を向上させるためには、サイド保護層10の前記内端高さHiを、タイヤ断面高さHの50%以下、さらには30%以下、さらには15%以下にするのが好ましい。
【0031】
ここで前記サイド保護層10では、前記網状織物テープ13の巻回方法として、図7(A)〜(C)に示すように、網状織物テープ13の側縁同士を付き合わせた密着巻きka、側縁間に隙間gを持たせた疎巻きkb、及び側縁部同士を重ね合わせた重ね巻きkcが採用しうる。このとき、疎巻きkbでは、密着巻きkaに比して補強効果が小であり耐カット性及び操縦安定性への向上効果に劣るものの、軽量化には優れる。又重ね巻きkcでは、密着巻きkaに比して軽量化に劣るものの、補強効果が大であり耐カット性及び操縦安定性への向上効果に優れるという特性を有する。従って、網状織物テープ13の巻回方法を選択することで、要求特性に合わせてタイヤをチューニングすることができる。
【0032】
又前記図1に示す如く、前記サイド領域Yを、下記のように、半径方向外側のサイド領域部YU、中間のサイド領域部YM、及び半径方向内側のサイド領域部YLの3つに区分したとき、
(ア) 前記半径方向外側のサイド領域部YUは、耐カット性への影響が大、操縦安定性への影響が大、乗り心地性への影響が小、
(イ) 前記中間のサイド領域部YMは、耐カット性への影響が小、操縦安定性への影響が小、乗り心地性への影響が大、
(ウ) 前記半径方向内側のサイド領域部YLは、耐カット性への影響が小、操縦安定性への影響が大、乗り心地性への影響が小、
な領域範囲と言える。
【0033】
従って、一つのタイヤにおいて、前記サイド領域部YU、YM、YL間で網状織物テープ13の巻回方法を違えることで、より高度なチューニングを行うことができる。具体的には、的本例では前記サイド保護層10が、半径方向外側、内側のサイド領域部YU、YLでは、網状織物テープ13を密着巻きkaした密着巻き部KAとして形成され、又中間のサイド領域部YMでは、網状織物テープ13を疎巻きkbした疎巻き部KBとして形成される場合が示される。この場合、サイド保護層10全体を密着巻き部KAとしたタイヤと、ほぼ同等の耐カット及び操縦安定性を発揮しながら、乗り心地性を高め、かつ軽量化を促進することが可能となる。
【0034】
ここで前記サイド領域部YU、YM、YLとは、タイヤ断面高さHの55〜65%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる高さ位置Paと、40〜30%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる高さ位置Pbとでサイド領域Yを3区分した領域部であって、前記半径方向外側のサイド領域部YUは、前記高さ位置Paよりも半径方向外側の領域範囲を意味し、前記中間のサイド領域部YMは、前記高さ位置Pa、Pb間の領域範囲(高さ位置Pa、Pbを含む。)を意味し、前記半径方向内側のサイド領域部YLは、前記高さ位置Pbよりも半径方向内側の領域範囲を意味する。
【0035】
なお前記サイド保護層10の外端高さHoがタイヤ断面高さHの85%を超える場合には、サイド保護層10の外端10Eがベルト層7の外端7Eに近づき過ぎて応力が集中し、前記外端7E或いは10Eを起点とした損傷を招くなど耐久性能が悪化傾向となる。又前記内端高さHiがタイヤ断面高さHの10%を下回った場合には、耐カットや操縦安定性には悪影響はないものの、材料コストや質量や工程時間が不必要に増加するという不利を招く。
【0036】
又前記カーカス6の内側には、タイヤ内腔面をなす薄いインナーライナ14が配される。このインナーライナ14は、例えばブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等の非空気透過性のゴムからなり、タイヤ内腔内に充填される充填空気を気密に保持する。又バンド層9の半径方向外側にはトレッド部2の外面2Sをなすトレッドゴム2Gがそれぞれ配されている。
【0037】
次に、前記空気入りタイヤ1の製造方法を説明する。この製造方法では、図2に略示するように、剛性中子20の外表面に、未加硫のタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤ1Nを形成する生タイヤ形成工程J1と、図3に略示するように、前記生タイヤ1Nを、前記剛性中子20ごと加硫金型21内に投入して加硫成形する加硫工程J2とを含んで構成される。なお剛性中子20は、空気入りタイヤ1のタイヤ内腔形状と実質的に一致する外形形状を有する。
【0038】
前記生タイヤ形成工程J1は、剛性中子20にインナーライナ14形成用の部材を貼り付けるインナーライナ形成工程、カーカス6形成用の部材を貼り付けるカーカス形成工程、サイド保護層10形成用の部材を貼り付けるサイド保護層形成工程、ビードコア5形成用の部材を貼り付けるビードコア形成工程、ビードエーペックス8形成用の部材を貼り付けるビードコア形成工程、ベルト層7形成用の部材を貼り付けるベルト形成工程、バンド層9形成用の部材を貼り付けるバンド形成工程、サイドウォールゴム3G形成用の部材を貼り付けるサイドウォール形成工程、トレッドゴム2G形成用の部材を貼り付けるトレッド形成工程等を含んで構成される。
【0039】
このうち、前記生タイヤ形成工程J1における前記カーカス形成工程及びサイド保護層形成工程以外の工程、及び前記加硫工程J2には、剛性中子20を用いた周知の種々のものが適宜採用でき、従って本明細書では、カーカス形成工程及びサイド保護層形成工程のみを以下に説明する。
【0040】
前記カーカス成形工程では、図4(A)に示すように、タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコード30の配列体31がトッピングゴム32によって被覆され、かつタイヤ周方向のプライ巾W1を小とした短冊シート状の複数枚の短冊プライ片16が用いられる。そしてこの短冊プライ片16を、図5(A)、(B)に示すように、剛性中子20上かつインナーライナ14の外側で、タイヤ周方向に順次貼り付けることにより、カーカスプライ6Aを形成する。図5(A)、(B)では、インナーライナ14を省略して図面を簡略化している。
【0041】
このとき本例では、タイヤ赤道Coにおいて、周方向で隣り合う短冊プライ片16が、その側縁同士を付き合わせて或いは近接させて配される。これにより、前記サイド領域Yにおいては、短冊プライ片16の側縁部同士が互いに重なり合う重なり部Dが形成される。なお前記プライ巾W1は10〜50mmの範囲が好ましく、50mmを超えると、前記重なり部Dが大きくなって、ユニフォーミティの低下原因となりうる。逆に10mmを下回ると、短冊プライ片16の枚数が過大となって貼付けに時間を要するなど生産性の低下を招く。
【0042】
次に、前記サイド保護層形成工程では、前述した如く、前記巾狭帯状の網状織物テープ13(図4(B)に示す。)を用い、この網状織物テープ13を図6(A)、(B)に示すように、前記剛性中子20上かつカーカスプライ6Aの外側で、タイヤ軸心周りで渦巻き状に巻回することにより、サイド保護層10をエンドレス状に形成する。このサイド保護層形成工程では、前記密着巻きka、疎巻きkb、及び重ね巻きkcが自在に選択することができる。又一つのサイド保護層形成工程において、網状織物テープ13を密着巻きする密着巻きステップと、疎巻きする疎巻きステップと、重ね巻きする重ね巻きステップとのうちの少なくとも2つを行うことで、一つのタイヤ1において、密着巻き部KAと、疎巻き部KBと、重ね巻き部KCとの少なくとも2つを含んだサイド保護層10を形成することができる。
【0043】
このような中子工法では、従来法における生タイヤ形成時のシェーピング、及び加硫金型内での加硫ストレッチが発生しない。そのため、前記サイド保護層形成工程によってサイド保護層10を形成した場合にも、形成後のサイド保護層10の変形、及びこのサイド保護層10の変形に起因するタイヤの変形、ユニフォーミティの低下等を防止するごとができる。又タイヤサイズ等への制約なども排除することができる。しかも網状織物テープ13として、前記縦糸11a又は横糸11bの一方がテープ長さ方向に連続してのびる非伸張性のものを使用することも可能となる。
【0044】
又前記サイド保護層形成工程により形成されたサイド保護層10は、前記カーカス成形工程により形成されたカーカスプライ6Aにおける重なり部Dを被覆できる。即ち、前記重なり部Dに起因して周方向に繰り返されるサイド領域Yでの凹凸を目隠しすることができ、外観性能の向上にも貢献しうる。
【0045】
ここで、前記網状織物テープ13では、そのテープ巾W2は3〜25mmの範囲が好適である。テープ巾W2が3mmを下回ると、サイド保護層10を形成するための巻回数が増すなど生径方向外側のサイド領域部YU、産性の低下を招く。逆に25mmを超えると、網状織物テープ13の巻き始め端部、及び巻き終わり端部において剛性差が過大となって応力が集中しやすくなり、該端部を起点として損傷を招くなど耐久性を低下する傾向を招く。従って、テープ巾W2の下限値は5mm以上、上限値は15mm以下がより好ましい。
【0046】
又前記網状織物11に用いる縦糸11a、横糸11bとしては、例えばナイロン、ポリエステル、レーヨン、アラミド等の有機繊維糸が好適に使用しうる、又その太さとしては、300〜800dtex(例えば490dtex)の範囲が好適であり、又網状織物11における縦糸11aのピッチ間隔、及び横糸11bのピッチ間隔は、それぞれ20〜50本/5cm(例えば38本/5cm)の範囲が好適である。又この網状織物11をトッピングゴム12で被覆した網状織物テープ13の厚さは0.5〜1.0mm程度、さらには0.7〜0.9mmのものが好適に使用できる。
【0047】
又前記網状織物テープ13では、サイド保護層10における補強性を高めて、タイヤの耐カット性、操縦安定性をさらに向上させるために、前記トッピングゴム12内に短繊維を含有させることができる。前記短繊維の含有量については、ゴム100質量部に対して10〜60質量部(phr)、さらには25〜45質量部(phr)が好ましい。前記短繊維の含有量が10質量部(phr)未満では、短繊維による補強効果がほとんど発揮されず、逆に60質量部(phr)を超えると、ルースが生じて耐久性が悪化する傾向となる。
【0048】
なお短繊維の種類としては、特に規制されることがなく、例えばナイロン、ポリエステル、アラミド、レーヨン、ビニロン、コットン、セルロース樹脂、結晶性ポリブタジエンなどの有機繊維、金属繊維、例えばウイスカ、ボロン、ガラス繊維等の無機繊維等が好適に採用しうる。又短繊維のサイズとしても特に規制されないが、平均繊維長さLとして20〜5000μmのもの、及び前記平均繊維長さLと繊維径dとのアスペクト比L/dが10〜500のものが好適に採用しうる。
【0049】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる
【実施例】
【0050】
図1に示す構造をなす乗用車用タイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を、本発明に関わる製造方法を用いかつ表1の仕様に基づき試作するとともに、各タイヤの耐カット性、一般耐久性、操縦安定性、乗り心地性、タイヤ生産性についてテストし、互いに比較した。又各タイヤにおけるサイド保護層の質量、サイドウォール部の所定位置におけるカーカスからのサイドウォール厚さt1、t2、及びサイドウォール部の質量を測定し互いに比較した。
【0051】
各タイヤとも、網状織物テープに用いる網状織物は同構成であり、太さ0.5mmの有機繊維糸(6ナイロン、490dtex)を縦糸、横糸とし、それぞれピッチ間隔38本/5cmにて互いに織合わせた網状織物を使用している。又網状織物は、接着用のディッピング液(RFL)に浸漬する所謂ディップ処理を施した後、カレンダロールにてトッピングゴムで被覆し、総厚さ0.8mmの網状織物テープを得た。
【0052】
又前記サイド領域Yは、タイヤ断面高さHの57%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる高さ位置Paと、37%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる高さ位置Pbとにより、半径方向外側のサイド領域部YU、中間のサイド領域部YU、内側のサイド領域部YLに3区分されており、実施例12〜19では、このサイド領域部YU、YM、YLにて網状織物テープの巻回方法を違えている。
【0053】
又比較のために、サイド保護層を有しない従来的なタイヤを、比較例1、2として試作した。比較例2は、比較例1に比して外側のサイド領域部YUにおけるサイドウォールゴムの厚さを増すことにより、耐カット性を高めている。
【0054】
(1)耐カット性:
タイヤをリム(15×6J)、内圧(200kPa)の条件下で乗用車(排気量2000cc)の全輪に装着し、時速5km/Hから、スピードを1km/Hづつステップアップし、各スピードにおいてタイヤを縁石にぶつけ、サイドウォール部にカットが生じた時の速度を、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど耐カット性に優れている。
【0055】
(2)一般耐久性:
ドラム試験機を用い、リム(15×6J)、内圧(200kPa)、負荷荷重(7.0kN)の条件に基づいて、速度80km/hで走行させ、タイヤに損傷が生じた時の走行距離を測定した。なお完走は25,000kmである。
【0056】
(3)操縦安定性、乗り心地性:
上記(1)で用いた車両を使用し、乾燥舗装道路のテストコースを実車走行し、操縦安定性及び乗り心地性をプロドライバーによる官能評価によって10点法で評価した。数値が大きいほど良好である。
【0057】
(4)タイヤ生産性:
生タイヤを形成するまでの所要時間を、比較例1を100とする指数で表示した。数値が小さいほど生産性に劣っている。
【0058】
(5)サイド保護層の質量:
生タイヤ1本当たりのサイド保護層の総質量を測定し、実施例1を100とする指数で表示した。
【0059】
(6)サイドウォール厚さt1、t2:
図1に示すように、タイヤ断面高さHの85%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる85%高さ位置P85、及び50%の距離をビードベースラインBLから半径方向に隔たる50%高さ位置P50において測定したカーカスからサイドウォール外面までのサイドウォール厚さt1、t2である。
【0060】
(7)サイドウォール部の質量:
生タイヤ1本当たりのサイド保護層の質量、及びサイドウォールゴムの質量の和を求め、比較例1を100とする指数で表示した。
【0061】
【表1】


【0062】
表の如く、実施例のタイヤは、タイヤ重量の増加を抑えながら、耐カット性を高く向上させうるのが確認できる。
【符号の説明】
【0063】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
3G サイドウォールゴム
4 ビード部
6 カーカス
10 サイド保護層
11 網状織物
11a 縦糸
11b 横糸
12 トッピングゴム
13 網状織物テープ
16 短冊プライ片
20 剛性中子
21 加硫金型
30 カーカスコード
31 配列体
32 トッピングゴム
KA 密着巻き部
KB 疎巻き部
KC 重ね巻き部
J1 生タイヤ形成工程
J2 加硫工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへて両側のビード部に至るカーカス、及びサイドウォール部の外面をなすサイドウォールゴムと前記カーカスとの間に配されるサイド保護層を具える空気入りタイヤの製造方法であって、
剛性中子上に、未加硫のタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤを形成する生タイヤ形成工程と、
前記生タイヤを、前記剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程とを具え、
かつ前記生タイヤ形成工程は、有機繊維からなる縦糸と横糸とを互いに織合わせた網状織物がトッピングゴムによって被覆された巾狭帯状の網状織物テープを、前記剛性中子上かつカーカスの外側で、タイヤ軸心周りで渦巻き状に巻回することによりサイド保護層を形成するサイド保護層形成行程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記網状織物テープは、前記縦糸又は横糸の一方がテープ長さ方向に連続してのびることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記網状織物テープは、テープ巾が3〜25mmの範囲であることを特徴とする請求項1又は2記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記網状織物テープのトッピングゴムは、短繊維を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記サイド保護層は、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁同士を付き合わせた密着巻き部と、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁間に隙間を設けた疎巻き部と、半径方向内外で隣り合う網状織物テープの側縁部同士を重ね合わせた重ね巻き部との少なくとも2つを含んで構成されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記生タイヤ形成工程は、タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつタイヤ周方向のプライ巾を小とした短冊シート状の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることによりカーカスを形成するカーカス形成行程を含むことを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の製造方法によって形成されたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−71368(P2013−71368A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213076(P2011−213076)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】