説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】加硫前に掘削溝29a、29bをトレッド23に形成したタイヤにおけるセンターずれを効果的に減少させる。
【解決手段】上モールド33の下降時に上ラグ溝用骨36を周方向に移動させることで、該上ラグ溝用骨36を上ラグ溝24bの位置Bに到達するまで上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向に対して斜めに移動させるようにしたので、上モールド33の下降時に、上ラグ溝用骨36は上ラグ溝用掘削溝29bのトレッド端側開口の片側に位置するトレッド23側面に当接して、生タイヤ29(トレッド23)を下方に押し込み、加硫金型との間のセンターずれを効果的に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トレッド外表面にラグ溝が形成された空気入りタイヤを製造する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の空気入りタイヤの製造方法としては、例えば以下の特許文献1に記載されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2001−105511号公報
【0003】
このものは、生タイヤのトレッド外表面でラグ溝位置にラグ溝に近似した形状の掘削溝をタイヤ赤道の両側にそれぞれ複数個形成する工程と、前記生タイヤを上、下モールドを有する加硫金型の下モールド上に、該下モールドの下ラグ溝用骨と下ラグ溝用掘削溝とを合致させながら横置きで載置する工程と、上ラグ溝用掘削溝に平行に延びる上モールドの上ラグ溝用骨を、上ラグ溝用掘削溝の中心線上において移動させながら上モールドを下降させて下モールドに接近させ、前記加硫金型を閉止する工程と、該加硫金型内に収納された生タイヤを加硫することで空気入りタイヤを製造する工程を備えたものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の空気入りタイヤの製造方法にあっては、予めトレッドに掘削溝を形成した生タイヤを、下モールド上に該下モールドの下ラグ溝用骨と下ラグ溝用掘削溝とを合致させながら横置きで載置するようにしているが、単に載置するだけでは下ラグ溝用骨が下ラグ溝用掘削溝内に充分に挿入されず途中で引っ掛かり、加硫金型と生タイヤとの間に軸方向のセンターずれが生じる、即ち、生タイヤのタイヤ赤道が加硫金型の軸方向中央から多少上方に浮き上がった状態となることがあった。
【0005】
そして、このような状態のままで生タイヤの加硫を行うと、加硫済み空気入りタイヤにセンターずれが残留し、トレッドゲージの分布が不均一となってしまうという課題があった。特に、ベルト層に埋設された非伸張性補強コードのタイヤ赤道に対する傾斜角が小さい場合、および/または、生タイヤがシェーピングユニットに装着されている場合には、加硫金型内での生タイヤの拡張率を非常に小さく( 4%以下と)せざるを得ないため、前述の課題がより顕著となっていた。
【0006】
この発明は、加硫前に掘削溝をトレッドに形成したタイヤにおけるセンターずれを効果的に減少させることができる空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、生タイヤのトレッド外表面でラグ溝位置にラグ溝に近似した形状の掘削溝を複数個形成する工程と、前記生タイヤを上、下モールドを有する加硫金型の下モールド上に、該下モールドの下ラグ溝用骨と下ラグ溝用掘削溝とを合致させながら載置する工程と、上モールドを下降させて下モールドに接近させ、前記加硫金型を閉止する工程と、該加硫金型内に収納された生タイヤを加硫することで空気入りタイヤを製造する工程とを備えた空気入りタイヤの製造方法において、上モールドの下降時に上ラグ溝用掘削溝に平行に延びる上モールドの上ラグ溝用骨を周方向に移動させることで、該上ラグ溝用骨を上ラグ溝位置に到達するまで上ラグ溝用掘削溝の延在方向に対して斜めに移動させ、これにより、上ラグ溝用骨をトレッド側面に当接させて生タイヤを下方に押込むことにより、達成することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明においては、上モールドの下降時に上モールドの上ラグ溝用骨を周方向に移動させることで、該上ラグ溝用骨を上ラグ溝位置に到達するまで上ラグ溝用掘削溝の延在方向に対して斜めに移動させるようにしているため、上ラグ溝用骨は上モールドの下降時に、上ラグ溝用掘削溝のトレッド端側開口の片側に位置するトレッド側面に当接して、生タイヤを下方に押込み、生タイヤと加硫金型との間のセンターずれを効果的に減少させる。
【0009】
また、請求項2に記載のように構成すれば、上ラグ溝用骨を形成済みの上ラグ溝から抜き出すとき、該上ラグ溝用骨は上ラグ溝にガイドされながら円滑に移動するため、上ラグ溝の内面を擦過し傷付けることがなくなる。さらに、請求項3に記載のように構成すれば、トレッドゲージの均一性を維持しつつ、センターずれを充分に減少させることができる。
【0010】
また、大型建設車両用空気入りタイヤはラグ溝の溝幅、溝深さが共に広く深いため、請求項4に記載のように、好適である。さらに、請求項5、6に記載のような場合には、加硫金型内での生タイヤの拡張率を非常に小さくせざるを得ないため、生タイヤと加硫金型との間のセンターずれが大きくなることが多いが、このような大きなセンターずれでも効果的に減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態1を図面に基づいて説明する。
図1、2において、11はタイヤ加硫装置であり、このタイヤ加硫装置11は大型建設車両あるいはトラック・バスに用いられる大型の空気入りタイヤ12を加硫して製造する。ここで、前記空気入りタイヤ12は一対のビード部13と、各ビード部13からそれぞれ略半径方向外側に向かって延びるサイドウォール部14と、これらサイドウォール部14の半径方向外端同士を連結するトレッド部15とから構成されている。
【0012】
また、前記空気入りタイヤ12は、前記ビード部13間をトロイダル状に延びてサイドウォール部14、トレッド部15を補強するカーカス層17を有し、このカーカス層17内には子午線方向(ラジアル方向)に延びる非伸張性の補強コード18が多数本埋設されている。また、前記カーカス層17の半径方向外側には少なくとも2枚、ここでは2枚のベルトプライ19からなるベルト層20が配置され、これらベルトプライ19内にはタイヤ赤道Sに対して所定角度だけ傾斜した非伸張性の補強コード21が多数本埋設されている。そして、これらの補強コード21は少なくとも隣接する2枚のベルトプライ19において逆方向に傾斜し、互いに交差している。
【0013】
23は前記カーカス層17、ベルト層20の半径方向外側に配置されたゴムからなるトレッドであり、このトレッド23の幅方向一端部および幅方向他端部でその外表面(踏面)には略タイヤ幅方向に延び幅広で深溝である複数のラグ溝24a、24bがそれぞれ形成されている。この結果、これらのラグ溝24a、24bは、トレッド23の外表面(踏面)、および、トレッド端でトレッド23の側面に開口するとともに、タイヤ赤道S側内端がタイヤ赤道Sからトレッド端側に所定距離離れた途中の位置で終了している。
【0014】
そして、これらのラグ溝24a、24bは同一幅で周方向に等距離離れて配置されるとともに、ラグ溝24aとラグ溝24bとは周方向に半ピッチだけずれている。また、前記トレッド23の幅方向中央部外表面には前記ラグ溝24a、24bのタイヤ赤道S側内端部同士を連結するとともに、タイヤ赤道Sに対して傾斜した複数の細溝25が形成されている。
【0015】
一方、前記タイヤ加硫装置11は下プラテンを含む略リング状の下モールド28を有し、この下モールド28上には生タイヤ29が横置きで載置される。そして、この下モールド28の半径方向中央部上面には、主に生タイヤ29の一側(下側)サイドウォール部14を型付けする型付け面28aが形成されている。また、前記下モールド28はその半径方向外端部に上方に向かって延びるリング部30を有し、このリング部30の半径方向内側面には、主に前記生タイヤ29のトレッド部15の幅方向一端部(下端部)を型付けする型付け面30aが形成されている。
【0016】
また、リング部30の半径方向内側面には略上下方向(横置きの生タイヤ29では略幅方向)に延びる複数の下ラグ溝用骨31が形成され、これら下ラグ溝用骨31は型付け面30aから半径方向内側に向かって突出するとともに、周方向に等距離離れて配置されている。そして、これらの下ラグ溝用骨31は加硫時に生タイヤ29のトレッド23の幅方向一端部に押し込まれ、空気入りタイヤ12に前述した下ラグ溝24aを形成する。
【0017】
33は下モールド28の直上に設置され上プラテンを含む略リング状の上モールドであり、この上モールド33は該上モールド33に連結された連結ロッド32を含む昇降手段から移動力が付与されることで昇降し、前記下モールド28に離隔、接近する。そして、この上モールド33の半径方向中央部下面には、主に生タイヤ29の他側(上側)サイドウォール部14を型付けする型付け面33aが形成されている。また、前記上モールド33はその半径方向外端部に下方に向かって延びるリング部34を有し、このリング部34の半径方向内側面には、主に前記生タイヤ29のトレッド部15の幅方向他端部(上端部)を型付けする型付け面34aが形成されている。
【0018】
また、リング部34の半径方向内側面には略上下方向に延び、前記下ラグ溝用骨31と同一幅である複数の上ラグ溝用骨36が形成され、これら上ラグ溝用骨36は型付け面34aから半径方向内側に向かって突出するとともに、周方向に等距離離れて配置されている。そして、これらの上ラグ溝用骨36は加硫時に生タイヤ29のトレッド23の幅方向他端部に押し込まれ、空気入りタイヤ12に前述した上ラグ溝24bを形成する。
【0019】
ここで、前述のようにラグ溝24a、24bは幅広で深溝であるため、下、上ラグ溝用骨31、36が生タイヤ29のトレッド23に押し込まれたとき、カーカス層17、ベルト層20に波打ち等を生じさせるおそれがあるが、このような事態を効果的に抑制するため、加硫に先立ってラグ溝24a、24bに近似した形状のラグ溝用掘削溝29a、29bをそれぞれトレッド23の幅方向一、他端部で正規のラグ溝24a、24bの位置Bに複数個(ここではラグ溝24a、24bと同数個だけ)形成している。
【0020】
そして、これら下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bの延在方向は、下、上ラグ溝用骨31、36(下、上ラグ溝24a、24b)の延在方向にそれぞれ平行に延び一致している。ここで、下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bおよび下、上ラグ溝用骨31、36(下、上ラグ溝24a、24b)の延在方向とは、下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bおよび下、上ラグ溝用骨31、36(下、上ラグ溝24a、24b)の幅が一定である部位、または、幅が緩やかに変化する部位の長手方向両端における幅方向中央同士を結ぶ直線(中心線M)の方向のことである。
【0021】
この結果、これらのラグ溝用掘削溝29a、29bも、ラグ溝24a、24bと同様に生タイヤ29のトレッド23の外表面(踏面)、および、トレッド端でトレッド23の側面の双方において開口する。なお、このようなラグ溝用掘削溝29a、29bは、例えば、給電されることで加熱された略U字形の電熱カッターを旋回させてトレッド23に喰い込ませた後、該電熱カッターをほぼタイヤ幅方向にトレッド端まで移動させてゴムを切除することで形成することができる。
【0022】
40は下モールド28のリング部30上に載置された複数の弧状を呈するスライダであり、これらのスライダ40は周方向に並べて配置され、各スライダ40の上面には下方に向かうに従い半径方向外側に向かうよう傾斜したガイド溝41が形成されている。一方、前記上モールド33のリング部34の下面には環状のガイド体42が一体形成され、このガイド体42は前記ガイド溝41と同一の傾斜角度で下方に向かうに従い半径方向外側に向かうよう傾斜するとともに、その肉厚はガイド溝41の幅と実質上同一である。
【0023】
また、各スライダ40の半径方向内側面にはセクターモールド45が固定され、これらセクターモールド45の半径方向内側面にはブレード46が設けられている。そして、各スライダ40のガイド溝41にガイド体42が挿入されているとき、上モールド33が昇降すると、スライダ40、セクターモールド45は下モールド28上を同期して半径方向に移動するが、これらスライダ40、セクターモールド45が半径方向内側限まで移動したとき、前記下、上モールド28、33およびセクターモールド45からなる加硫金型47は閉止して、内部に生タイヤ29を収納するキャビティを形成するとともに、前記ブレード46は生タイヤ29のトレッド23の幅方向中央部に押し込まれて空気入りタイヤ12のトレッド部15に細溝25を形成する。
【0024】
なお、この実施形態においては、加硫金型47を下、上モールド28、33、セクターモールド45から構成したが、この発明においては、加硫金型を上下に2分割された下、上モールドのみから構成してもよく、少なくとも上、下モールドを有していればよい。そして、この場合には、タイヤ赤道Sより幅方向一側(下側)のトレッドは下モールドにより、タイヤ赤道Sより幅方向他側(上側)のトレッドは上モールドにより型付けが行われる。
【0025】
50はシェーピングユニットであり、このシェーピングユニット50は生タイヤ29の幅方向一側(下側)に位置するビード部13が着座される一側支持体51を有し、この一側支持体51は加硫時、前記幅方向一側のビード部13を主に型付けすることができる。52は生タイヤ29の幅方向他側(上側)に位置するビード部13が着座される他側支持体であり、この他側支持体52は加硫時、前記幅方向他側のビード部13を主に型付けすることができる。そして、これら一側、他側支持体51、52は図示していない連結機構により着脱可能に連結される。53は前記一側、他側支持体51、52に幅方向両端、即ち、幅方向一端、他端がそれぞれ気密状態で係止された屈曲可能なブラダである。
【0026】
そして、前記一側、他側支持体51、52に生タイヤ29の一側、他側ビード部13がそれぞれ着座された後、これら一側、他側支持体51、52同士が前記連結機構により連結され、その後、ブラダ53内に内圧が充填されると、該生タイヤ29は略トロイダル状に変形しながら、これら一側、他側支持体51、52、ブラダ53からなるシェーピングユニット50に支持される。
【0027】
次に、このようにしてシェーピングユニット50に装着された生タイヤ29は、図示していない搬送手段により開放状態の加硫金型47に搬入された後、下ラグ溝用骨31と下ラグ溝用掘削溝29aとを合致させながら下モールド28上に載置される。55は上モールド33を少なくともその下降時において軸線回りに回転させることで、上ラグ溝用骨36の移動方向をガイドし決定するガイド機構である。
【0028】
次に、前述のような空気入りタイヤ12を製造する場合には、まず、一側、他側支持体51、52に生タイヤ29の一側、他側ビード部13を着座させた後、これら一側、他側支持体51、52同士を連結機構により連結し、その後、ブラダ53内に内圧を充填する。この結果、該生タイヤ29は略トロイダル状に変形しながらシェーピングユニット50に装着される。
【0029】
次に、略U字形をした電熱カッターを旋回させて生タイヤ29のトレッド23に喰い込ませた後、該カッターをほぼタイヤ幅方向にトレッド端まで移動させてゴムを切除し、これにより、生タイヤ29のトレッド23外表面で幅方向一、他端部のラグ溝24a、24b位置にそれぞれ、ラグ溝24a、24bに近似した形状でこれらラグ溝24a、24bと延在方向(中心軸M)が一致する(平行に延びる)下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bを複数個形成する。ここで、前記下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bはラグ溝24a、24bと完全に同一の形状であってもよいが、溝幅、溝深さ、折れ曲がり具合等が若干異なっていてもよい。
【0030】
次に、このようなシェーピングユニット50、生タイヤ29を、搬送手段により開放状態の加硫金型47に搬入して、下ラグ溝用骨31と下ラグ溝用掘削溝29aとを合致させながら、具体的には、下ラグ溝用掘削溝29aに下ラグ溝用骨31を挿入しながら下モールド28上に載置する。ここで、前述した下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bの形成は、生タイヤ29をシェーピングユニット50に装着する前に行ってもよく、生タイヤ29の成形後で下モールド28上への載置前であれば、いつ行ってもよい。
【0031】
次に、昇降手段により上モールド33を下降させて下モールド28に接近させるが、この下降時にガイド機構55により上モールド33を軸線回りに回転させる。これにより、上ラグ溝用骨36はガイド機構55により決定された移動方向に移動し、最終的には上ラグ溝用掘削溝29b内に挿入される。また、前述の下降の途中でスライダ40のガイド溝41にガイド体42が挿入されるが、その後も、上モールド33が下降を継続するため、スライダ40、セクターモールド45は下モールド28上を同期して半径方向内側に移動する。
【0032】
そして、これらスライダ40、セクターモールド45が半径方向内側限まで移動すると、前記加硫金型47は閉止して該加硫金型47内のキャビティに生タイヤ29が収納されるとともに、前記ブレード46はトレッド23の幅方向中央部に押し込まれて細溝25を形成する。次に、下、上モールド28、33の下、上プラテン内およびブラダ53内に高温、高圧の加硫媒体を供給し、加硫金型47に収納された生タイヤ29を加硫して空気入りタイヤ12を製造する。
【0033】
このようにして加硫が終了すると、昇降手段により上モールド33を上昇させ、上ラグ溝用骨36を上ラグ溝24bから抜き出す。このとき、各スライダ40はガイド体42により同期して半径方向外側限まで移動する。そして、加硫金型47が開放されると、加硫済みの空気入りタイヤ12およびシェーピングユニット50が下モールド28から取り出され、搬送手段により次工程に搬出される。
【0034】
しかしながら、前述のような製造方法では、予めトレッド23に下、上ラグ溝用掘削溝29a、29bを形成した生タイヤ29を、下ラグ溝用骨31と下ラグ溝用掘削溝29aとを合致させながら下モールド28上に横置きで載置するようにしているので、下ラグ溝用骨31が下ラグ溝用掘削溝29a内に充分に挿入されず途中で引っ掛かり、加硫金型47を閉止した後であっても、加硫金型47と生タイヤ29との間に軸方向のセンターずれが生じる、即ち、生タイヤ29のタイヤ赤道Sが加硫金型47の軸方向中央から多少上方に浮き上がった状態となることがあった。
【0035】
そして、このような状態のままで生タイヤ29の加硫を行うと、加硫済みの空気入りタイヤ12にセンターずれが残留し、トレッドゲージの分布が不均一となってしまうのである。特に、生タイヤ29の一部を構成するベルト層20の内部に埋設された非伸張性補強コード21のタイヤ赤道Sに対する傾斜角が小さい、例えば 6度以下のような場合、および/または、生タイヤ29が前述のようなシェーピングユニット50に装着された状態で下モールド28上に載置される場合には、生タイヤ29の外径がキャビティの径と同等程度となるため、加硫時における加硫金型47内での生タイヤ29の拡張率を非常に小さく( 4%以下と)せざるを得ず、この結果、前述のようなセンターずれがより大きくなって顕著となるのである。
【0036】
このため、この実施形態においては、前記ガイド機構55を以下のような構造としたのである。即ち、図1、3、4において、前記ガイド機構55はスライダ40の半径方向外側面に固定された複数のガイド受け56を有し、各ガイド受け56には上方が開口したガイド溝57が形成されている。ここで、これらガイド溝57の周方向一側に位置する一側ガイド側面57aは上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向(中心軸M)と逆方向に傾斜、即ち、上下方向に対する傾斜方向が逆方向となっている。
【0037】
一方、前記ガイド受け56に対向する位置で上モールド33の半径方向外側面には前記ガイド溝57内に挿入可能なガイド体58がそれぞれ固定され、これらのガイド溝57の周方向一側には前記一側ガイド側面57aに平行な一側ガイド面58aが形成されている。そして、前記上モールド33が下降して下モールド28に接近するとき、ガイド体58の一側ガイド面58aはガイド受け56の一側ガイド側面57aに摺接し、これにより、該上モールド33を軸線回りに周方向他側に向かって回転させる。
【0038】
このように前記一側ガイド側面57a、一側ガイド面58aは上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向(中心軸M)と逆方向に傾斜しているので、上モールド33の下降時に、該上モールド33は軸線回りに従来とは逆方向に回転して上ラグ溝用骨36が周方向他側に移動し、この下降と回転の合成により、該上ラグ溝用骨36は、トレッド23内に押し込まれる直前から上ラグ溝24bの位置Bに到達するまで、ここでは全体が重なり合うまでの間、図4に矢印で示すように上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向(中心軸M)に対して斜めに傾斜して移動するのである。
【0039】
この結果、上ラグ溝用骨36は上モールド33の下降時に、上ラグ溝用掘削溝29bのトレッド端側開口の片側、ここでは鋭角エッジ側に位置するトレッド23側面に当接して、生タイヤ29(トレッド23)を下方に押込み、生タイヤ29と加硫金型47との間のセンターずれを効果的に減少させる。なお、前述の一側ガイド側面57a、一側ガイド面58aを上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向と同一方向に傾斜させるとともに、その傾斜角度を上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向より大または小としてもよく、この場合には上モールド33が従来と異なる回転速度で従来と同一方向に回転するため、前述と同様に上ラグ溝用骨36は斜めに移動し、センターずれが効果的に減少する。
【0040】
そして、前述したセンターずれは、前述のようにベルト層20内の補強コード21がタイヤ赤道Sに対して 6度以下である場合、および/または、生タイヤ29がシェーピングユニット50に装着された状態で加硫金型47に搬入されたような場合に、大きくなることが多いが、このような大きなセンターずれに対しても有効に機能し、効果的に減少させることができる。また、前述のような上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向に対する上ラグ溝用骨36の斜め移動は、大型建設車両用空気入りタイヤではラグ溝24a、24bの溝幅、溝深さが共に広く深いため、大きなセンターずれが生じ易いことから、特に好適である。
【0041】
そして、前記上ラグ溝用骨36は上モールド33の下降により直前のトレッド23を構成するゴムを押し除けながら上ラグ溝用掘削溝29b内に徐々に侵入する。その後、前述のように加硫が行われるが、このとき、周囲のゴムは流動して上ラグ溝用骨36の周囲に存在する空隙を埋め、トレッド23の正規位置に上ラグ溝用骨36と補完関係にある正規形状の上ラグ溝24bを成形する。このとき、同様に下ラグ溝用骨31によって正規位置、正規形状の下ラグ溝24aがトレッド23に成形される。
【0042】
ここで、上ラグ溝用骨36の斜め移動方向と上ラグ溝用掘削溝29bの延在方法(中心線M)との交差角Gは10〜30度の範囲内が好ましい。その理由は、前記交差角Gが10度未満であると、上ラグ溝用骨36による生タイヤ29の押付け力が弱くてセンターずれを充分に減少させることができず、一方、前記交差角Gが30度を超えると、ゴムの流動が追いつかず、空気入りタイヤ12の周方向におけるトレッドゲージが不均一となるおそれがあるが、前述の範囲内であると、トレッドゲージの均一性を維持しつつ、センターずれを充分に減少させることができるからである。
【0043】
また、前記ガイド溝57の周方向他側には上ラグ溝24bの延在方向に平行、または、それより大きな角度で傾斜する他側ガイド側面57bが形成され、一方、前記ガイド体58の周方向他側には上下方向に延びる他側ガイド面58が形成されている。さらに、各ガイド受け56の周方向他端部でその上端部にはストッパー60が揺動可能に支持され、これらストッパー60は、上モールド33が下降するときには、図3に実線で示すように周方向一側に向かってほぼ水平となるまで揺動することで、ガイド体58がガイド溝57内に一側ガイド側面57a、一側ガイド面58a同士が摺接しながら挿入されるよう規制し、一方、上モールド33が上昇するときには、図3に仮想線で示すようにほぼ直立するよう揺動し、ガイド体58の周方向の自由な移動を許容する。
【0044】
前述したガイド受け56、ガイド体58、ストッパー60は全体として前述のガイド機構55を構成し、このガイド機構55は上モールド33の下降時には、一側ガイド側面57a、一側ガイド面58a同士の摺接により、上ラグ溝用骨36の周方向の移動を規定する一方、上モールド33の上昇時には、上ラグ溝用骨36を規制から解放して自由に周方向に移動できるようにする。この結果、上ラグ溝用骨36は形成済みの上ラグ溝24bから抜き出されるとき、図4に矢印で示すように、上ラグ溝24bにガイドされながら円滑に移動することができ、上ラグ溝24bの内面を擦過し傷付けることがなくなる。
【0045】
図5、6はこの発明の実施形態2を示す図である。この実施形態においては、ガイド受け56の一側ガイド側面57aを、上側部に位置し、上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向(中心軸M)と逆方向に傾斜する第1傾斜部63aと、第1傾斜部63aの下端から下方に向かって延び、上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向と同一方向に傾斜する第2傾斜部63bと、第2傾斜部63bから下端まで延び、前記第1傾斜部63aと平行に延びる第3傾斜部63cとから構成している。
【0046】
一方、ガイド体58の一側ガイド面58aの下端部には前記第1、第3傾斜部63a、63cに平行に延びる第4傾斜部64aが形成されている。また、ガイド受け56の他側ガイド側面57bおよびガイド体58の他側ガイド面58bを共に上ラグ溝24bの延在方向(中心線M)に平行に形成している。
【0047】
そして、ガイド受け56、ガイド体58からなるガイド機構55を前述のように構成すると、上モールド33の下降時、まず、ガイド体58の第4傾斜部64aがガイド受け56の第1傾斜部63aに摺接するため、上ラグ溝用骨36は、上ラグ溝24b位置に到達するまで、ここでは大部分が重なり合うまでの間、上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向に対して斜めに(逆方向に)移動し、次に、ガイド体58が第2傾斜部63bによって規制されながら、その他側ガイド面58bがガイド受け56の他側ガイド側面57bに摺接するため、上ラグ溝用骨36は上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向に沿って残りを移動する。
【0048】
このときの上ラグ溝用骨36の移動軌跡が図6に矢印で示されているが、前記実施形態1と同様に上ラグ溝用骨36は、上ラグ溝24b位置に到達するまでの間、上ラグ溝用掘削溝29bの延在方向に対して斜めに移動するため、センターずれが効果的に減少される。そして、加硫が終了すると、上モールド33が上昇するが、このとき、上ラグ溝用骨36は、上昇の初期だけガイド機構55により規制され、また、残りの大部分はガイド機構55による規制から解放されるため、上ラグ溝24bの内面を傷付けることはない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
この発明は、トレッド外表面にラグ溝が形成された空気入りタイヤの産業分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の実施形態1を示す一部破断正面図である。
【図2】空気入りタイヤの一部破断斜視図である。
【図3】ガイド機構近傍の正面図である。
【図4】ラグ溝用掘削溝へのラグ溝用骨の侵入状態を説明する説明図である。
【図5】この発明の実施形態2を示すガイド機構近傍の正面図である。
【図6】ラグ溝用掘削溝へのラグ溝用骨の侵入状態を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0051】
12…空気入りタイヤ 13…ビード部
19…ベルトプライ 20…ベルト層
21…補強コード 23…トレッド
24a、b…ラグ溝 28…下モールド
29…生タイヤ 29a…下ラグ溝用掘削溝
29b…上ラグ溝用掘削溝 31…下ラグ溝用骨
33…上モールド 36…上ラグ溝用骨
47…加硫金型 50…シェーピングユニット
51…一側支持体 52…他側支持体
53…ブラダ 55…ガイド機構
G…交差角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生タイヤのトレッド外表面でラグ溝位置にラグ溝に近似した形状の掘削溝を複数個形成する工程と、前記生タイヤを上、下モールドを有する加硫金型の下モールド上に、該下モールドの下ラグ溝用骨と下ラグ溝用掘削溝とを合致させながら載置する工程と、上モールドを下降させて下モールドに接近させ、前記加硫金型を閉止する工程と、該加硫金型内に収納された生タイヤを加硫することで空気入りタイヤを製造する工程とを備えた空気入りタイヤの製造方法において、上モールドの下降時に上ラグ溝用掘削溝に平行に延びる上モールドの上ラグ溝用骨を周方向に移動させることで、該上ラグ溝用骨を上ラグ溝位置に到達するまで上ラグ溝用掘削溝の延在方向に対して斜めに移動させ、これにより、上ラグ溝用骨をトレッド側面に当接させて生タイヤを下方に押込むようにしたことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記上モールドの下降時には、上ラグ溝用骨の周方向の移動をガイド機構により規定する一方、上モールドの上昇時には、上ラグ溝用骨をガイド機構から解放し自由に周方向に移動可能とした請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記上ラグ溝用骨の斜め移動方向と上ラグ溝用掘削溝の延在方法との交差角を10〜30度の範囲内とした請求項1または2記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
前記空気入りタイヤは大型建設車両用空気入りタイヤである請求項1〜3のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項5】
前記生タイヤの一部を構成するベルト層は、内部にタイヤ赤道に対して 6度以下の傾斜角で交差する非伸張性補強コードが埋設された少なくとも2枚のベルトプライからなる請求項1〜4のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項6】
前記生タイヤは、一方および他方のビード部が着座され、着脱可能に連結された一側、他側支持体と、これら一側、他側支持体に幅方向両端が気密状態で係止され、内圧が充填されたとき、生タイヤを略トロイダル状に変形させるブラダとからなるシェーピングユニットに装着された状態で、下モールド上に載置される請求項1〜5のいずれかに記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−173778(P2008−173778A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−6814(P2007−6814)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】