説明

空気透過抑制フィルムを備えたゴム製品及びその製造方法

【課題】別途接着層を設ける必要がなく、かつ特性を低下させる第3成分を空気透過抑制フィルムに添加しなくても、被貼り合わせ部材であるゴム部材やゴム層に対する接着性を改善できるようにする。
【解決手段】耐空気透過性の樹脂成分Pを海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分Eを島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムFをインナーライナー8として備えた空気入りタイヤである。空気透過抑制フィルムFの一方面を表面処理して島相のゴム成分Eを表面に露出させる。表面処理した面をタイヤ内面側のジエン系ゴムからなる未加硫のゴム層6に貼り合わせ、露出させたゴム成分Eとゴム層6とをタイヤ加硫成形時に共架橋させることで空気透過抑制フィルムFをゴム層6に接着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気透過抑制フィルムを備えたゴム製品及びその製造方法に関するものである。より詳細には、例として、空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして備えた空気入りタイヤ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの内側面には、タイヤの空気圧を一定に保持するために空気透過抑制層としてインナーライナーが設けられている。かかるインナーライナーは、一般に、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴムなどの低気体透過性のゴムからなるゴム層で構成されているが、タイヤの軽量化を図るべく、インナーライナーを薄くするために、耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして用いることが提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、空気透過係数が所定値以下でヤング率が所定値を超える熱可塑性樹脂と、空気透過係数が所定値を超えヤング率が所定値以下のゴム成分と、を溶融混練して動的加硫させることにより、樹脂成分を海相としゴム成分を島相とする海島構造をなしかつ空気透過係数が所定値以下でヤング率が所定範囲内であるポリマー組成物のフィルムを得て、該フィルムを空気入りタイヤのインナーライナーに用いることが開示されている。このフィルムは、耐空気透過性と柔軟性とのバランスに優れるので、インナーライナーを薄肉化して、タイヤの軽量化を図ることができる。しかしながら、上記フィルムは、タイヤ内側面のゴム層との接着性が不十分であるという問題がある。
【0004】
下記特許文献2には、かかる接着性を改善するために、上記フィルムとタイヤ内面のゴム層との間に、該ゴム層との臨界表面張力差が3mN/m以下である熱可塑性樹脂の接着性付与層を積層又はコーティングして設けることが開示されている。これにより、接着性は改善するものの、別途接着層を設ける必要がある。
【0005】
下記特許文献3には、接着性を改善するために、上記ポリマー組成物に第3成分として、タイヤ内面のゴム層との臨界表面張力差が3mN/m以下である他の熱可塑性樹脂を添加することが開示されている。下記特許文献4には、接着性を改善するために、海相を構成する熱可塑性樹脂との体積分率及び粘度比の関係が所定範囲の接着性熱可塑性樹脂を添加することが開示されている。しかしながら、このような接着性熱可塑性樹脂を添加すると、耐熱性や耐空気透過性などの特性が低下する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−259741号公報
【特許文献2】特開平08−216610号公報
【特許文献3】特開2001−239805号公報
【特許文献4】特開平09−316344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、別途接着層を設ける必要がなく、かつ特性を低下させる第3成分を添加しなくても、被貼り合わせ部材であるゴム部材やゴム層に対する接着性を改善することができる、空気透過抑制フィルムを備えたゴム製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の発明に係るゴム製品の製造方法は、耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムと、前記空気透過抑制フィルムの一方面に貼り合わされたジエン系ゴムを含んでなるゴム部材と、を備えたゴム製品を製造する方法であって、前記空気透過抑制フィルムの前記一方面を表面処理して前記島相であるゴム成分を表面に露出させ、前記ゴム成分が露出した前記空気透過抑制フィルムの前記一方面を未加硫の前記ゴム部材に貼り合わせ、前記露出させた前記ゴム成分と前記ゴム部材とを当該ゴム部材の加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム部材に接着させるものである。
【0009】
第2の発明に係る空気入りタイヤの製造方法は、前記空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして備えた空気入りタイヤの製造方法であって、前記空気透過抑制フィルムの一方面を表面処理して前記島相であるゴム成分を表面に露出させ、前記ゴム成分が露出した前記空気透過抑制フィルムの前記一方面をタイヤ内面側のジエン系ゴムを含んでなる未加硫のゴム層に貼り合わせ、前記露出させた前記ゴム成分と前記ゴム層とをタイヤ加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム層に接着させるものである。
【0010】
第3の発明に係るゴム製品は、前記空気透過抑制フィルムと、該空気透過抑制フィルムの一方面に貼り合わされたジエン系ゴムを含んでなるゴム部材と、を備えたゴム製品であって、前記空気透過抑制フィルムは、前記ゴム部材に貼り合わせられる前記一方面が表面処理されることで前記島相であるゴム成分が表面に露出させられ、露出した前記ゴム成分と前記ゴム部材とを当該ゴム部材の加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム部材に接着させたものである。
【0011】
第4の発明に係る空気入りタイヤは、前記空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして、該空気透過抑制フィルムをタイヤ内面側のジエン系ゴムを含んでなるゴム層に貼り合わせた空気入りタイヤであって、前記空気透過抑制フィルムは、前記ゴム層に貼り合わせられる面が表面処理されることで前記島相であるゴム成分が表面に露出させられ、露出した前記ゴム成分と前記ゴム層とをタイヤ加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム層に接着させたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、空気透過抑制フィルムの島相をジエン系ゴムを含むゴム成分で形成した上で、表面処理によって該ゴム成分を表面に露出させ、この露出したゴム成分を利用して、同じくジエン系ゴムからなるゴム部材又はゴム層との共架橋により両者を接着させるので、空気透過抑制フィルムとゴム部材又はゴム層との間の接着性を改善することができる。また、接着性を改善するために、両者の間に接着層を介設する必要がなく、また特性を低下させるおそれのある接着性熱可塑性樹脂等を添加する必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る空気入りタイヤの断面図である。
【図2】実施形態に係る空気透過抑制フィルムの断面を模式的に示す概略図であり、(a)は表面処理前、(b)は表面処理後、(c)はゴム層との接着後の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本発明で用いる空気透過抑制フィルムは、耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造を持つものである。
【0016】
樹脂成分を構成する耐空気透過性の樹脂としては、上記特許文献1記載の熱可塑性樹脂を用いることができる。すなわち、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体などのポリアミド系樹脂;ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポチエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミド酸/ポリブチレートテレフタレート共重合体などのポリエステル系樹脂;ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体などのポリニトリル系樹脂;酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロースなどのセルロース系樹脂;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)などのフッ素系樹脂;芳香族ポリイミド(PI)などのイミド系樹脂が挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
耐空気透過性の樹脂としては、空気透過係数が25×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下のものが好ましく用いられる。空気透過係数は、JIS K7126−1「プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法」に準じて、試験気体:空気、試験温度:30℃にて測定される値である。
【0018】
耐空気透過性の樹脂としては、融点が180℃以上である耐熱性の熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。融点が180℃未満では、ゴム部材やゴム層に貼り合わせた状態で加硫する際に不所望に変形するおそれがある。ここで、融点は、JIS K7121のDSC(示差走査熱量計)法に準拠して測定される値である。
【0019】
ゴム成分を構成するジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)などの各種ジエン系ゴムが挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上の組み合わせて用いることができる。島相を構成するゴム成分にこのようなジエン系ゴムを用いることにより、ジエン系ゴム成分からなるゴム部材やゴム層(被貼り合わせ部材)を加硫成形する際に、共架橋させて接着性を高めることができる。
【0020】
上記ゴム成分には、亜鉛華、ステアリン酸、加硫促進剤、硫黄、充填剤、軟化剤、老化防止剤など、ゴム組成物に一般に配合される各種配合剤を適宜添加することができる。なお、加硫剤としての硫黄は必須ではなく、加硫系としては、加硫促進剤のみを配合してもよい。硫黄を配合すると、空気透過抑制フィルムを作製する際の温度によりゴム成分の架橋が進みすぎてしまい、被貼り合わせ部材であるゴム部材やゴム層の加硫成形時に共架橋させることが難しくなるためである。加硫促進剤としては、特に限定されず、例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)等のチウラム系加硫促進剤、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)等のチアゾール系加硫促進剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド(BBS)等のスルフェンアミド系加硫促進剤などが挙げられ、これらはそれぞれ単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。加硫促進剤の配合量は特に限定されないが、ジエン系ゴム100重量部に対して8重量部以下であることが好ましく、より好ましくは5重量部以下である。
【0021】
樹脂成分である耐空気透過性樹脂(A)とゴム成分であるジエン系ゴム(B)との配合比は、特に限定されず、例えば、重量比で、(A)/(B)=10/90〜90/10であり、より好ましくは20/80〜80/20である。なお、第3成分として上記特許文献3に記載されたような接着性熱可塑性樹脂は、耐熱性や耐空気透過性などの特性に悪影響を与える可能性があるため配合しないことが好ましいが、該接着性熱可塑性樹脂の配合を完全に排除するものではなく、本来の特性が損なわれない範囲で適宜配合してもよい。また、第3成分として、パラフィンワックスやステアリン酸等の滑剤、ゴムと樹脂との相溶化剤等、他の添加剤を配合してもよい。
【0022】
上記耐空気透過性樹脂とジエン系ゴムを、2軸混練機などを用いて溶融混練することで、耐空気透過性の樹脂成分を海相(連続相)とし、ジエン系ゴムからなるゴム成分を島相(不連続相)とする海島構造となり、これを押出機などを用いてフィルム化することにより、上記空気透過抑制フィルムが得られる。空気透過抑制フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、0.02〜1.0mmとすることができ、より好ましくは0.05〜0.5mmである。
【0023】
なお、上記ゴム成分に任意に添加される各種配合剤は、予めジエン系ゴムに添加していてもよく、あるいはまた、耐空気透過性樹脂とジエン系ゴムの溶融混練中に添加してもよい。特に、加硫促進剤などの加硫系の添加剤は、ジエン系ゴムがなるべく架橋されないように、溶融混練の最終段階で添加することが好ましい。上記溶融混練の段階で動的架橋してもよいが、ジエン系ゴムが架橋されすぎると、被貼り付け部材の加硫成形時に共架橋させることが難しくなるので、ジエン系ゴムがあまり架橋されないように加熱時間及び温度を設定することが好ましい。
【0024】
上記空気透過抑制フィルムを貼り合わせるゴム部材としては、ジエン系ゴムを含むゴム組成物からなるものであれば特に限定されず、従って、該ゴム部材と空気透過抑制フィルムを備えたゴム製品としても特に限定されるものではない。すなわち、例えば、自動車や二輪車(自転車を含む)などの各種タイヤ、エアーサスペンション(空気ばね)、ホースなど、耐空気透過性が要求される各種ゴム製品が包含される。好ましくは、空気入りタイヤに用いることであり、以下、空気入りタイヤを例に挙げて説明する。
【0025】
図1は、実施形態に係る空気入りタイヤ(1)の断面図である。図示するように、空気入りタイヤ(1)は、リム組される一対のビード部(2)と、該ビード部(2)からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部(3)と、該一対のサイドウォール部(3)間に設けられた路面に接地するトレッド部(4)とから構成される。前記一対のビード部(2)には、リング状のビードコア(5)が埋設されている。有機繊維コードを用いたカーカスプライ(6)が、ビードコア(5)の周りを折り返して係止されるとともに、左右のビード部(2)間に架け渡して設けられている。また、カーカスプライ(6)のトレッド部(4)における外周側には、スチールコードやアラミド繊維などの剛直なタイヤコードを用いた2枚の交差ベルトプライからなるベルト(7)が設けられている。
【0026】
カーカスプライ(6)の内側にはタイヤ内面の全体にわたってインナーライナー(8)が設けられている。本実施形態では、このインナーライナー(8)として上記空気透過抑制フィルムが用いられている。インナーライナー(8)は、図1中の拡大図に示すように、タイヤ内面側のゴム層であるカーカスプライ(6)の内面に貼り合わされており、より詳細には、カーカスプライ(6)のコードを被覆するトッピングゴム層の内面に貼り合わされている。
【0027】
該トッピングゴム層には、一般に天然ゴム等のジエン系ゴムを含むゴム組成物が用いられており、本実施形態でもそのようなジエン系ゴムを含むゴム組成物が用いられる。該ゴム組成物には、ジエン系ゴムに加えて、一般にカーカスプライのトッピングゴムに用いられる各種の配合剤、例えば、カーボンブラックやシリカなどの充填剤、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、オイル、老化防止剤、樹脂類、加工助剤、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができ、特に限定されない。
【0028】
上記のように空気透過抑制フィルムは、樹脂成分を海相、ゴム成分を島相とする海島構造であるため、そのままでは図2(a)に模式的に示すように、フィルム(F)の表面は樹脂成分(P)であり、ゴム成分(E)は内部に分散した状態となっている。よって、このままでは上記カーカスプライ(6)のトッピングゴム層との間で十分な接着性を確保することができない。
【0029】
そこで、被貼り合わせ部材であるカーカスプライ(6)に貼り合わせられる空気透過抑制フィルム(F)の一方面に表面処理を施して、表面の樹脂成分(P)を削り、島相であるゴム成分(E)を表面に露出させる。すなわち、例えば、図2(a)において点線(L)で示す位置までフィルム表面を削ることで、図2(b)に示すように、ゴム成分(E)を表面に露出させる。
【0030】
上記表面処理方法としては、表面にゴム成分を露出させるものであれば特に限定されず、例えば、サンドペーパー(紙ヤスリ)やバフを用いた研磨処理によりフィルム表面の樹脂成分を削って粗面化したり、ドライ及びウェットのブラスト処理、レーザーによる表面処理などが挙げられる。
【0031】
このように表面処理によりゴム成分を露出させた空気透過抑制フィルム(F)の当該表面処理した面を、図2(c)に示すように、未加硫のカーカスプライ(6)のトッピングゴム層に貼り合わせる。詳細には、タイヤ成形ドラム上に、空気透過抑制フィルムを上記表面処理した面を上に向けて貼り付け、その上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム、サイドウォールゴムなどの各部材を貼り重ねて、グリーンタイヤを作製し、その後、グリーンタイヤをモールド内で加硫成形することにより、空気入りタイヤが得られる。
【0032】
上記加硫成形時、空気透過抑制フィルム(F)の露出したゴム成分(E)は、重ね合わされたカーカスプライ(6)のトッピングゴム層との間で共架橋され、これにより、空気透過抑制フィルム(F)はカーカスプライ(6)に接着一体化される。ここで、共架橋とは、空気透過抑制フィルムのゴム成分とこれが貼り合わせられるゴム層のゴムとが両者の界面で互いのゴム間が架橋されることをいう。共架橋により空気透過抑制フィルムと上記ゴム層との接着性が向上するので、両者の界面の剥離力により共架橋されているかどうかを判断することができる。空気透過抑制フィルムとゴム層との剥離力(剥離速度:50mm/分、180度剥離試験)が0.5N/mm以上であれば、空気透過抑制フィルムの露出したゴム成分と被貼り合わせ部材のゴム層とが共架橋により接着されているといえ、より好ましくは該剥離力が1.0N/mm以上である。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0034】
下記表1に記載の配合処方(重量部)に従い、熱可塑性樹脂とジエン系ゴム、更には亜鉛華及びステアリン酸を配合して、2軸混練機(JSW社製)にて溶融混練し、更に加硫促進剤を表1に従って添加し混練してペレット化した。得られたペレットを単軸押出機で幅350mm、厚み0.2mmのフィルムにTダイ成形した。表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
【0035】
・ナイロン11:ARKEMA製「リルサンBESN 0 TL」(空気透過係数=11.0×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg、融点=187℃)、
・NBR:JSR(株)製「PN30A」(粉末NBR、アクリロニトリル量=35重量%)、
・NR:天然ゴム、RSS#3、
・ENR:エポキシ化天然ゴム、マレーシアンラバーボード製「ENR25」、
・Br−IIR:臭素化ブチルゴム、エクソンケミカル製「エクソンブロモブチル2255」、
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」、
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」、
・加硫促進剤TMTD:テトラメチルチウラムジスルフィド、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTS」、
・加硫促進剤MBTS:ジベンゾチアジルジスルフィド、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」。
【0036】
上記で得られた各フィルムについて、表面処理なしの未処理品と、一方面に表面処理を施した表面処理品の各サンプルを作製した。表面処理は、理研コランダム(株)製の研磨布「AA240」を用いて、フィルムの一方面に対してゴム成分が表面に露出するように、フィルム厚みの5%に相当する厚み分を削り取った。
【0037】
未処理品と表面処理品の各サンプルについて、空気透過率を測定するとともに、剥離試験を実施して剥離力を測定した。測定方法は以下の通りである。
【0038】
・空気透過率:JIS K7126−1「プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法」に準じ、各フィルムサンプルについて、試験気体を空気とし、試験温度を80℃にて空気透過率を測定した。
【0039】
・剥離力:各サンプルをカーカスプライのトッピングゴム層と重ね合わせ(但し、表面処理品は表面処理した面を重ね合わせた。)、プレス温度=160℃、プレス時間=20分間、プレス圧力=30km/cmでプレス加硫を実施して、接着一体化させた。得られた積層体を幅10mm×長さ16cmの短冊状に切断し、50mm/分の剥離速度で180度剥離試験を実施し、剥離力を測定した。測定した剥離力が1N/mm以上の場合を「○」、剥離力が0.5N/mm以上1N/mm未満の場合を「△」、剥離力が0.5N/mm未満の場合を「×」と評価した。
【0040】
なお、トッピングゴム層を構成するゴム組成物の配合は、天然ゴム(RSS#3)80重量部、スチレンブタジエンゴム(日本ゼオン(株)製「二ポール1502」)20重量部、カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製「ショウワブラックN−330T」)50重量部、ステアリン酸(花王(株)製「ルナックS−90V」)2重量部、酸化亜鉛(三井金属鉱業(株)製「亜鉛華3号」)3重量部、硫黄(鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」)3重量部、及び、加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」)1重量部とした。
【0041】
結果は表1に示すとおりであり、各フィルムはいずれも空気透過率の小さいものであり、空気入りタイヤのインナーライナーとして十分な空気透過抑制効果を備えたものであった。カーカスプライのトッピングゴム層との接着性については、フィルムのゴム成分としてジエン系ゴムでない臭素化ブチルゴムを用いた比較例1,2では、未処理品はもちろん、ゴム成分が露出するように表面処理したものについても、共架橋による十分な接着性は得られなかった。これに対し、フィルムのゴム成分としてジエン系ゴムを用いた実施例1〜7では、共架橋による高い接着性が得られた。
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、耐空気透過性が要求される各種ゴム製品に利用することができ、特には自動車や二輪車などの各種空気入りタイヤに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1…空気入りタイヤ、6…カーカスプライ、8…インナーライナー
F…空気透過抑制フィルム、P…樹脂成分、E…ゴム成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムと、前記空気透過抑制フィルムの一方面に貼り合わされたジエン系ゴムを含んでなるゴム部材と、を備えたゴム製品を製造する方法であって、
前記空気透過抑制フィルムの前記一方面を表面処理して前記島相であるゴム成分を表面に露出させ、前記ゴム成分が露出した前記空気透過抑制フィルムの前記一方面を未加硫の前記ゴム部材に貼り合わせ、前記露出させた前記ゴム成分と前記ゴム部材とを当該ゴム部材の加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム部材に接着させることを特徴とするゴム製品の製造方法。
【請求項2】
前記表面処理が研磨処理により前記空気透過抑制フィルム表面の樹脂成分を削って前記ゴム成分を露出させるものである請求項1記載のゴム製品の製造方法。
【請求項3】
耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして備えた空気入りタイヤの製造方法であって、
前記空気透過抑制フィルムの一方面を表面処理して前記島相であるゴム成分を表面に露出させ、前記ゴム成分が露出した前記空気透過抑制フィルムの前記一方面をタイヤ内面側のジエン系ゴムを含んでなる未加硫のゴム層に貼り合わせ、前記露出させた前記ゴム成分と前記ゴム層とをタイヤ加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム層に接着させることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムと、前記空気透過抑制フィルムの一方面に貼り合わされたジエン系ゴムを含んでなるゴム部材と、を備えたゴム製品であって、
前記空気透過抑制フィルムは、前記ゴム部材に貼り合わせられる前記一方面が表面処理されることで前記島相であるゴム成分が表面に露出させられ、露出した前記ゴム成分と前記ゴム部材とを当該ゴム部材の加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム部材に接着させたことを特徴とするゴム製品。
【請求項5】
耐空気透過性の樹脂成分を海相とし、ジエン系ゴムを含むゴム成分を島相とする海島構造の空気透過抑制フィルムをインナーライナーとして、前記空気透過抑制フィルムをタイヤ内面側のジエン系ゴムを含んでなるゴム層に貼り合わせた空気入りタイヤであって、
前記空気透過抑制フィルムは、前記ゴム層に貼り合わせられる面が表面処理されることで前記島相であるゴム成分が表面に露出させられ、露出した前記ゴム成分と前記ゴム層とをタイヤ加硫成形時に共架橋させることで前記空気透過抑制フィルムを前記ゴム層に接着させたことを特徴とする空気入りタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−269588(P2010−269588A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−33584(P2010−33584)
【出願日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】