説明

空間座標測定システムおよび空間座標測定方法

【課題】 角度情報を使用せずに、距離情報のみでターゲットの空間座標を精度良く特定することができる空間座標測定システムおよび空間座標測定方法を提供する。
【解決手段】 この空間座標測定システムは、測定物W上に設けられた一つのターゲットTgの空間座標を求める空間座標測定システムである。空間座標がそれぞれ特定された少なくとも3個以上のレーザートラッカー1と、前記3個以上のレーザートラッカー1のうちの3個のレーザートラッカー1から、前記一つのターゲットTgに対しレーザー光Lbをそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカー1の空間座標とから、前記ターゲットTgの空間座標を求める演算手段3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空間座標測定システムおよび空間座標測定方法に関し、例えば、生産分野、計測分野において、素材、生産物や建築物、自然物等の物体の空間的座標を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガイドとなるレーザー光の方向を、2軸のモータで制御し、移動するターゲットに追従させるレーザートラッキング技術が公知である(特許文献1)。この場合、モータに取り付けた2軸のエンコーダを用いて、移動するターゲットの空間的な方向を知ることができる。
ターゲットはレトロリフレクターあるいは単にリフレクターと呼ばれるそれぞれ直交する3枚の鏡を使用した反射鏡を用いるのが一般的である。このリフレクターは、どのような場合でも入射した方向に光を返すことができる。
【0003】
また、レーザーで距離を測る技術は確立されており、例えば、アジレント社(旧ヒューレット・パッカード社)、レニショー社等のレーザー干渉計では、数メートルの距離を、ナノメートル単位の分解能で測定することができる(特許文献2)。
【0004】
これら二つの技術を組み合わせた装置は、レーザートラッカーと称されて、その装置からターゲットまでの距離と空間的な角度を測定し、その装置を基準とした、ターゲットの空間位置を特定することが可能である。それらは、API(Automated Precision Inc.)社、FARO社等から商品化されており、その原理が公開されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−165114号公報
【特許文献2】特開平5−264215号公報
【特許文献3】特表2003−506691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザートラッカーの場合、ターゲットの座標(X,Y,Z)は、レーザー光で測定した距離 L とその空間的な角度(θ、φ)の3つの数値から決定することができる。この場合、距離 L の分解能は1nm程度まで実現可能であるにもかかわらず、角度(θ、φ)はモータに20ビットのエンコーダを使用しても1.2秒であり、1mの位置に換算して5.8μmの分解能となる(計算式: tan(1.2/3600) x 1000000 = 5.8)。
精度も同様に距離に比べて角度の方が大幅に悪い。したがって、ターゲットの座標測定精度を向上させようとすると、測定距離に比べ、測定角度の精度が問題となる。
【0007】
この発明の目的は、角度情報を使用せずに、距離情報のみでターゲットの空間座標を精度良く特定することができる空間座標測定システムおよび空間座標測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明における第1の発明の空間座標測定システムは、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標がそれぞれ特定された少なくとも3個以上のレーザートラッカーと、前記3個以上のレーザートラッカーのうちの3個のレーザートラッカーから、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段とを有することを特徴とする。
【0009】
数学的には、直線上になく座標のわかっている3点からある任意の点までのそれぞれの距離がわかれば、前記任意の点の座標は計算できる。通常解は2個あるが、常識的には判別は可能である。
この構成によると、3個のレーザートラッカーから、一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求めることができる。この場合、ターゲットに対する角度を測定しないため、測定角度の精度が問題とならず、距離の測定精度を向上することで、ターゲットの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。
【0010】
前記レーザートラッカーを4個以上設け、前記演算手段は、前記4個以上のレーザートラッカーのうちの3個のレーザートラッカーを使用して前記ターゲットの空間座標を求める演算を、使用するレーザートラッカーを順次変更して複数回行い、これら複数回行った演算結果を平均化するものであっても良い。
この場合、ターゲットの空間座標を求めた一つの演算結果が誤差を含んでいる場合であっても、複数の演算結果を平均化することで、ターゲットの空間座標をさらに精度良く求めることが可能となる。
【0011】
この発明における第2の発明の空間座標測定システムは、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台を移動させて前記1個のレーザートラッカーにより同一直線上にない3点から、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
この構成によると、支持台を順次移動停止させると共に、支持台上のレーザートラッカーは、同一直線上にない3点からターゲットまでの距離を測定する。測定された3箇所の距離の測定値と、前記3点のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を特定することができる。この場合にも、ターゲットに対する角度を測定することなく、ターゲットの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。1個のレーザートラッカーで足りるため、3個以上のレーザートラッカーを設ける構成に比べてシステム全体の構成を簡単化でき、製造コストの低減を図ることができる。
【0013】
この発明における第3の発明の空間座標測定システムは、測定物に一体に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを設け、前記測定物を、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台上の測定物およびターゲットを同一直線上にない3点の座標に移動させて、前記1個のレーザートラッカーから、前記3点の座標に存在するターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点の座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたことを特徴とする。
【0014】
この構成によると、支持台を順次移動停止させると共に、レーザートラッカーは、支持台上の測定物に一体のターゲットまでの3箇所の距離を測定する。測定された3箇所の距離の測定値と前記3点の座標とから、前記ターゲットの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。1個のレーザートラッカーで足りるため、3個以上のレーザートラッカーを設ける構成に比べてシステム全体の構成を簡単化でき、製造コストの低減を図ることができる。
【0015】
前記支持台を移動駆動させる移動手段を設けても良い。移動手段として、例えば、直交する2軸の各軸に沿ってボールねじ機構のねじ軸をそれぞれ設け、各ねじ軸を回転駆動するモータ等を設けることができる。なお前記モータによらず手動により支持台を移動駆動させても良い。
前記演算手段は、前記移動手段により測定物上に設けられたターゲットを移動させて得られる複数のターゲットの空間座標から、前記測定物の形状を推測するものであっても良い。
【0016】
前記レーザートラッカーは、レーザー光を投光するレーザー光源と、前記レーザー光の反射光を受光し前記レーザー光源の投光するレーザー光と受光した反射光とから前記ターゲットまでの距離を測定する測長器と、前記レーザー光源から投光するレーザー光がターゲットに照射されて反射光が前記測長器に戻るように、前記レーザー光源の投光したレーザー光の照射方向を調整する光学機器とを有するものであっても良い。このように光学機器を調整することで、各レーザートラッカーの測長器は、ターゲットまでの距離をより正確に測定することができる。
【0017】
前記演算手段は、前記ターゲットの空間座標を求める演算を複数回行い、それらの演算結果を平均化するものであっても良い。一つの演算結果が誤差を含んでいる場合であっても、複数の演算結果を平均化することで、ターゲットの空間座標をさらに精度良く求めることが可能となる。
【0018】
この発明における空間座標測定方法は、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定方法であって、前記一つのターゲットに対し、空間座標が特定されるレーザートラッカーを相対的に変位させた3箇所の位置でそれぞれ前記一つのターゲットに対しレーザー光を照射させて測定した3箇所の距離の測定値を求める測定過程と、前記3箇所の距離の測定値と前記レーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算過程とを有することを特徴とする。
【0019】
この構成によると、測定過程では、一つのターゲットに対し、レーザートラッカーを相対的に変位させた3箇所の位置でそれぞれ前記一つのターゲットに対しレーザー光を照射させて測定した3箇所の距離の測定値を求める。その後、演算過程において、前記3箇所の距離の測定値と前記レーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める。このように、ターゲットに対する角度を測定しないため、測定角度の精度が問題とならず、距離の測定精度を向上することで、ターゲットの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。
【発明の効果】
【0020】
この発明における第1の発明の空間座標測定システムは、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標がそれぞれ特定された少なくとも3個以上のレーザートラッカーと、前記3個以上のレーザートラッカーのうちの3個のレーザートラッカーから、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段とを有するため、角度情報を使用せずに、距離情報のみでターゲットの空間座標を精度良く特定することができる。
【0021】
この発明における第2の発明の空間座標測定システムは、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台を移動させて前記1個のレーザートラッカーにより同一直線上にない3点から、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたため、角度情報を使用せずに、距離情報のみでターゲットの空間座標を精度良く特定することができる。
【0022】
この発明における第3の発明の空間座標測定システムは、測定物に一体に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを設け、前記測定物を、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台上の測定物およびターゲットを同一直線上にない3点の座標に移動させて、前記1個のレーザートラッカーから、前記3点の座標に存在するターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点の座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたため、角度情報を使用せずに、距離情報のみでターゲットの空間座標を精度良く特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施形態に係る空間座標測定システムの原理を概略示す図である。
【図2】同空間座標測定システムのレーザートラッカーの斜視図である。
【図3】同空間座標測定システムの制御系のブロック図である。
【図4】この発明の他の実施形態に係る空間座標測定システムの原理を概略示す図である。
【図5】この発明のさらに他の実施形態に係る空間座標測定システムの原理を概略示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の一実施形態を図1ないし図3と共に説明する。
この実施形態に係る空間座標測定システムは、測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求めるものである。以下の説明は、空間座標測定方法についての説明をも含む。図1に示すように、この例では、前記ターゲットTgは、測定物W上の一箇所に静止した状態で取り付けられるものである。ターゲットTgとして、例えば、球状のレトロリフレクターが用いられる。ただし、球状のレトロリフレクターに限定されるものではない。この空間座標測定システムは、3個のレーザートラッカー1と、演算手段3とを有する。前記3個のレーザートラッカー1は、同一直線上にない空間座標に配置される。これら3個の空間座標はそれぞれ特定されている。なお、この例では、3個のレーザートラッカー1を設けているが、4個以上のレーザートラッカー1を設けても良い。
【0025】
図2に示すように、各レーザートラッカー1は、主に、レーザー光源4,測長器5、受光部6、光学機器K、および制御手段2を有する。レーザー光源4と測長器5は、一体化した機器であるレーザー測長器RSを構成する。レーザー光源4は、ターゲットTgにレーザー光Lbを照射させるものであり、測長器5は、前記ターゲットTgで反射したレーザー光Lbを用いて前記ターゲットTgまでの距離を測定するものである。この測長器5は、レーザー光Lbの反射光を受光しレーザー光源4の投光するレーザー光と受光した反射光とからターゲットTgまでの距離を測定する。測長器5として、例えば、干渉計または絶対距離計が使用される。これらレーザー光源4および測長器5は例えば一体に設けられケーシング7内部に収容される。
【0026】
前記光学機器Kは、ハーフミラー8、X軸モータ9,X軸エンコーダ10、Y軸モータ11,Y軸エンコーダ12、およびミラー13を有する。X,Y軸モータ9,11におけるX軸,Y軸は直交する2軸であり、X軸が筒状の前記ケーシング7に同心に配置される。X軸モータ9およびX軸エンコーダ10は、ケーシング7の上端部にこのケーシング7に対し回転駆動可能に設けられる。X軸モータ9により回転可能に支持される回転体に、Y軸モータ11およびY軸エンコーダ12が支持されている。前記ミラー13は、このY軸モータ11およびY軸エンコーダ12のモータ軸に角変位可能に支持されている。
【0027】
レーザー光源4から発せられたレーザー光Lbは、ハーフミラー8を透過し、ミラー13で反射した後前記ターゲットTgに到達する。この反射したレーザー光Lbは、略同じ経路を通り照射元のレーザートラッカー1に戻り、前記ハーフミラー8で反射され、受光部6に到達する。この受光部6では、半導体位置検出素子(略称PSD)または4分割フォトダイオードを用いて、到達したレーザー光Lbがこの受光部6の中心に戻るように、X軸,Y軸モータ9,11を制御手段2により制御する。前記レーザートラッカー1に戻ったレーザー光Lbの一部は、ハーフミラー8で反射されずに測長器5に入り、この測長器5は、レーザー光Lbの反射光を受光しレーザー光源4の投光するレーザー光と受光した反射光とからターゲットTgまでの距離を測定する。
【0028】
図1および図3に示すように、3個のレーザートラッカー1から、一つのターゲットTgに対しレーザー光Lbをそれぞれ照射させ、前記ターゲットTgで反射したレーザー光は照射元のレーザートラッカー1に戻される。制御手段2は、例えばマイクロコンピュータやその他の電子機器で構成され、受光部6、Y軸モータ11の駆動回路であるY軸ドライバ11a、Y軸エンコーダ12に電気的に接続される。また、制御手段2は、X軸モータ9の駆動回路であるX軸ドライバ9a、X軸エンコーダ10に電気的に接続される。ターゲットTgの方向は、X軸エンコーダ10およびY軸エンコーダ12の値として計測される。
【0029】
制御手段2は、受光部6からの信号に基づいて、X軸,Y軸ドライバ9a,11aに、常にレーザー光Lbが受光部中心に戻るように指令し、X軸,Y軸モータ9,11は指令値に基づいてミラー13を直交するX軸,Y軸まわりに角変位させる。これによりミラー13を常に適切な方向に向ける。
演算手段3は、前記測長器5により測定された3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカー1の空間座標とから、ターゲットTgの空間座標を求める。
【0030】
以上説明した空間座標測定システムによると、3個のレーザートラッカー1から、一つのターゲットTgに対しレーザー光Lbをそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカー1の空間座標とから、前記ターゲットTgの空間座標を求めることができる。この場合、ターゲットTgに対する角度を測定しないため、測定角度の精度が問題とならず、距離の測定精度を向上することで、ターゲットTgの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。
【0031】
制御手段2は、受光部6において到達した光が受光部中心に戻るように制御する。このように制御されたレーザー光Lbを用いて測長器5により測定された3箇所の距離の測定値と、3個のレーザートラッカー1の空間座標とから、前記ターゲットTgの空間座標を精度良く求めることが可能となる。
前記レーザートラッカー1は4個以上としても良い。例えば、空間座標測定システムが4個のレーザートラッカー1を備えている場合、そのうちの3個を選ぶ組み合せは4通りある。前記4通りで測定した場合の解は8個出てくる。8個の解のうちの4個は同じ解となり、その他はばらばらの解になる。したがって、同じ解となる4個の解をターゲットTgの座標とすれば良い。実際には、これら4個の解には誤差が含まれており、前記4個の解を平均化することで、ターゲットTgの空間座標の精度向上をさらに図ることができる。
【0032】
この発明の他の実施形態について説明する。
以下の説明においては、各形態で先行する形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付し、重複する説明を略する。構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している形態と同様とする。実施の各形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施の形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0033】
前記のようにレーザートラッカー1を3個以上使用する代わりに、1個のレーザートラッカー1を移動させて使用することも可能である。ただし、3次元空間を測定するためには、レーザートラッカー1を一直線方向に移動するだけでなく別の方向にも移動させる必要がある。レーザートラッカー1を移動駆動させる移動手段は、例えば、直交する2軸に沿って移動可能なものを準備する。ただし、直交する2軸に必ずしも限定されるものではない。
図4に示す空間座標測定システムは、1個のレーザートラッカー1を、直交する2軸(つまりX軸およびY軸)に沿って移動可能な支持台14上に配置したものである。同図に示すように、支持台14を移動駆動させる移動手段Mとして、Y軸にそれぞれ平行に設けられた一対のY軸ガイド15,15上にY軸可動部16が支持され、Y軸可動部16はY軸方向に移動可能に構成されている。さらにY軸可動部16上に、X軸にそれぞれ平行な一対のX軸ガイド17,17が設けられている。これらX軸ガイド17,17上に前記支持台14が支持され、この支持台14はX軸方向に移動可能に構成されている。Y軸可動部16を駆動させるボールねじ17およびモータ18が設けられ、支持台14を駆動させるボールねじ19およびモータ20が設けられている。
【0034】
この支持台14上に配置されたレーザートラッカー1は、同一直線上にない3点からターゲットTgまでの距離を測定する。前記3点の空間座標と3箇所の距離とから、ターゲットTgの空間座標を特定する。支持台14は制御手段2または演算手段3により移動可能に構成される。演算手段3は、支持台14を移動させて前記1個のレーザートラッカー1により同一直線上にない3点から一つのターゲットTgに対しレーザー光Lbをそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点のレーザートラッカー1の空間座標とから、ターゲットTgの空間座標を特定する。
【0035】
この場合にも、ターゲットTgに対する角度を測定することなく、ターゲットTgの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。1個のレーザートラッカー1で足りるため、3個以上のレーザートラッカー1を設ける構成に比べてシステム全体の構成を簡単化でき、製造コストの低減を図ることができる。
なお、レーザートラッカー1の空間座標は4点以上としても良い。例えば、空間座標を4点とした場合、そのうちの3点を選ぶ組み合せは4通りある。前記4通りで測定した場合の解は8個出てくる。8個の解のうちの4個は同じ解となり、その他はばらばらの解になる。したがって、同じ解となる4個の解をターゲットTgの座標とすれば良い。実際には、これら4個の解には誤差が含まれており、前記4個の解を平均化することで、ターゲットTgの空間座標の精度向上をさらに図ることができる。この例では、支持台14を移動させるだけで、測定箇所の数を簡単に増やすことができ、それ故、ターゲットTgの空間座標の精度向上を容易に図ることができる。
【0036】
図5に示す空間座標測定システムは、測定物Wを前記支持台14上に配置したものである。ターゲットTgは測定物Wに一体に前記支持台14上に固定される。一方、1個のレーザートラッカー1は、別の場所に固定され、測定物Wに一体に設けられたターゲットTgまでの距離をレーザー光Lbを用いて測定する。支持台14は制御手段2または演算手段3により移動可能に構成される。演算手段3は、支持台14を移動させて前記1個のレーザートラッカー1から3点の座標に存在するターゲットTgに対しレーザー光Lbをそれぞれ照射させて測定して3箇所の距離の測定値と、前記支持台14上の3点の座標とから、ターゲットTgの空間座標を特定する。
【0037】
この場合にも、ターゲットTgに対する角度を測定することなく、ターゲットTgの空間座標を容易に且つ精度良く特定することができる。4点以上の測定を行えば、ターゲットTgの空間座標の精度向上をさらに図ることができる。この例では1個のレーザートラッカー1で足りるため、3個以上のレーザートラッカー1を設ける構成に比べてシステム全体の構成を簡単化でき、製造コストの低減を図ることができる。また、レーザートラッカー1に比べて測定物Wが小さい場合には、小さな支持台14および移動手段Mを使用することができる。
【0038】
前記各実施形態ではターゲットを測定物に固定させているが、ターゲットを、手動または前述のような機械的な移動手段を用いて、測定物の表面に沿って移動させて、適切な場所で1個のレーザートラッカーによりターゲットの複数の座標を得ることもできる。演算手段は、これら複数の座標から計算により前記測定物の形状を推測し得る。例えば、直径のわかっている球形のターゲットを使用して、円形の測定物の表面に沿って前記ターゲットを接触させながら移動させて、1個のレーザートラッカーにより複数の座標を得る。これら複数の座標を通過する仮想円を推定し、その仮想円の直径からターゲットの直径を引けば、測定物の直径を得られる。
【符号の説明】
【0039】
1…レーザートラッカー
2…制御手段
3…演算手段
4…レーザー光源
5…測長器
14…支持台
K…光学機器
M…移動手段
Tg…ターゲット
W…測定物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、
空間座標がそれぞれ特定された少なくとも3個以上のレーザートラッカーと、
前記3個以上のレーザートラッカーのうちの3個のレーザートラッカーから、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3個のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段と、
を有することを特徴とする空間座標測定システム。
【請求項2】
請求項1において、前記レーザートラッカーを4個以上設け、
前記演算手段は、前記4個以上のレーザートラッカーのうちの3個のレーザートラッカーを使用して前記ターゲットの空間座標を求める演算を、使用するレーザートラッカーを順次変更して複数回行い、これら複数回行った演算結果を平均化する空間座標測定システム。
【請求項3】
測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、
空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台を移動させて前記1個のレーザートラッカーにより同一直線上にない3点から、前記一つのターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点のレーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたことを特徴とする空間座標測定システム。
【請求項4】
測定物に一体に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定システムであって、
空間座標が特定される1個のレーザートラッカーを設け、
前記測定物を、直交する2軸に沿って移動可能な支持台上に配置し、この支持台上の測定物およびターゲットを同一直線上にない3点の座標に移動させて、前記1個のレーザートラッカーから、前記3点の座標に存在するターゲットに対しレーザー光をそれぞれ照射させて測定した3箇所の距離の測定値と、前記3点の座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算手段を設けたことを特徴とする空間座標測定システム。
【請求項5】
請求項3または請求項4において、前記支持台を移動駆動させる移動手段を設けた空間座標測定システム。
【請求項6】
請求項5において、前記演算手段は、前記移動手段により測定物上に設けられたターゲットを移動させて得られる複数のターゲットの空間座標から、前記測定物の形状を推測する空間座標測定システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、前記レーザートラッカーは、レーザー光を投光するレーザー光源と、前記レーザー光の反射光を受光し前記レーザー光源の投光するレーザー光と受光した反射光とから前記ターゲットまでの距離を測定する測長器と、前記レーザー光源から投光するレーザー光がターゲットに照射されて反射光が前記測長器に戻るように、前記レーザー光源の投光したレーザー光の照射方向を調整する光学機器とを有する空間座標測定システム。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記演算手段は、前記ターゲットの空間座標を求める演算を複数回行い、それらの演算結果を平均化する空間座標測定システム。
【請求項9】
測定物上に設けられた一つのターゲットの空間座標を求める空間座標測定方法であって、
前記一つのターゲットに対し、空間座標が特定されるレーザートラッカーを相対的に変位させた3箇所の位置でそれぞれ前記一つのターゲットに対しレーザー光を照射させて測定した3箇所の距離の測定値を求める測定過程と、
前記3箇所の距離の測定値と前記レーザートラッカーの空間座標とから、前記ターゲットの空間座標を求める演算過程と、
を有することを特徴とする空間座標測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−208992(P2011−208992A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74757(P2010−74757)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】