説明

窒化珪素質焼結体およびその製法ならびに回路基板、パワー半導体モジュール

【課題】 高強度高靱性化を図ることができるとともに、放熱性を向上することができる窒化珪素質焼結体およびその製法ならびに回路基板を提供する。
【解決手段】 β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子1と粒界相3とからなる窒化珪素質焼結体であって、結晶粒子1内に、該結晶粒子1の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域5を有するとともに、Al多領域の平均径が2μm以上であり、かつAlを全量中0.053〜0.422質量%含有すること、望ましくは0.159〜0.238質量%含有することを特徴とする。これにより、焼結体の強度と靱性を向上できるとともに、焼結体の熱伝導率を高くすることができ、放熱性を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化珪素質焼結体およびその製法ならびに回路基板、パワー半導体モジュールに関し、特に、β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子内に、Al存在量が多いAl多領域が形成された窒化珪素質焼結体およびその製法ならびに回路基板、パワー半導体モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用エンジン部材、耐熱構造部材、切削工具その他産業用部材に、高強度、高靱性の窒化珪素質焼結体が用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子と粒界相とからなる窒化珪素質焼結体であって、焼結体に対して5〜60vol%が、内部に、この結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有する結晶粒子から構成されていることが記載されている。
【0004】
そして、この窒化珪素質焼結体では、結晶粒子内にβサイアロン核を有するため、結晶粒子内に内部応力を発生させ、さらに、βサイアロン核を有する結晶粒子は粒成長するため、アスペクト比が高くなり、焼結体の強度と靱性を向上できることが記載されている。
【特許文献1】特開平2−263764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年においては、窒化珪素質焼結体は多種多様の用途に用いられており、用途によっては、高熱伝導性が要求されているものもある。例えば、大電力で動作する半導体を実装する、いわゆるパワー半導体モジュールに使用する絶縁回路基板に窒化珪素質焼結体を用いることが知られているが、このような絶縁回路基板では、パワー半導体から発する熱を拡散して放熱する必要がある。
【0006】
例えば、絶縁回路基板では、上記したように放熱性(高熱伝導率)、薄型化、高強度高靱性化が要求されているが、上記特許文献1に開示された窒化珪素質焼結体を回路基板として用いた場合には、高強度高靱性化が図られ、薄型化を達成することができるが、回路基板の熱伝導率が低く、パワー半導体から発する熱を十分に放熱することができないという問題があった。
【0007】
すなわち、特許文献1の窒化珪素質焼結体では、結晶粒子内にβサイアロン核を有するため、結晶粒子内に内部応力を発生させ、さらに、β−サイアロン核を有する結晶粒子は粒成長し、アスペクト比が高くなるため、焼結体の強度と靱性を向上できるものの、特許文献1では、BET比表面積が10あるいは5m/g程度のβ−サイアロン粉末を、原料全量に対して5〜20質量%添加しており、これにより、焼成時に多くのβ−サイアロンが完全に溶融または表面が溶融してβ−サイアロン核が小さくなり、結晶粒子内に大量のAlが分散、固溶し、窒化珪素質焼結体の熱伝導率が低くなり、放熱性が低下するという問題があった。
【0008】
本発明は、高強度化および高靱性化を図ることができるとともに、放熱性を向上することができる窒化珪素質焼結体およびその製法ならびに回路基板、パワー半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、添加するβ−サイアロン粉末として、BET比表面積が小さいものを用い、かつ添加量を少なくすることにより、結晶粒子内に、この結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有する組織とすることができ、高強度化および高靱性化を図ることができるとともに、結晶粒子内に大径のAl多領域を形成し、焼成時におけるβ−サイアロンの溶融を抑制でき、結晶粒子内のAl多領域にAlを集中して存在させ、Alの結晶粒子内への分散、固溶を抑制でき、窒化珪素質焼結体の放熱性を向上できることを見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の窒化珪素質焼結体は、β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子と粒界相とからなる窒化珪素質焼結体であって、前記結晶粒子内に、該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有するとともに、該Al多領域の平均径が2μm以上であり、かつAlを焼結体全量中0.053〜0.422質量%含有することを特徴とする。
【0011】
このような窒化珪素質焼結体では、結晶粒子内に、該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有するため、このAl多領域を有する結晶粒子が、他のAl多領域を有しない結晶粒子よりも大きく粒成長し、アスペクト比が高くなり、焼結体の強度と靱性を向上できる。
【0012】
また、Alは平均径2μm以上のAl多領域に集中して存在し、しかもAlは焼結体全量中0.053〜0.422質量%、望ましくは0.159〜0.238質量%と少ないため、結晶粒子内に分散する量が少なくなり、これにより焼結体の熱伝導率を高くすることができ、放熱性を向上できる。
【0013】
さらに、Al多領域の平均径が2μm以上と大きいため、結晶粒子内の内部応力が大きくなり、さらに結晶粒子のアスペクト比が大きくなり、強度、靱性をさらに向上できる。
【0014】
また、本発明の窒化珪素質焼結体は、前記Al多領域を有する結晶粒子が、焼結体の任意断面において面積比で7〜25%存在することを特徴とする。このような窒化珪素質焼結体では、焼結体の強度、靱性を高めることができるとともに、Al多領域を有する結晶粒子を適度に存在させるため、Al量を少なくすることができ、焼結体の放熱性を高くすることができる。
【0015】
本発明の窒化珪素質焼結体の製法は、窒化珪素粉末および粒界相形成粉末に、BET比表面積が2m/g以下のβ−サイアロン粉末を全固形分中0.139〜8.105質量%、望ましくは0.416〜4.726質量%添加混合し、これを成形した後、焼成することを特徴とする。
【0016】
従来の特許文献1では、BET比表面積が5m/g程度のβ−サイアロン粉末を用いており、BET比表面積が大きい(一般的には微粒)β−サイアロン粉末が焼成時に大量に溶融し、Al多領域が消失したり、Al多領域が小さくなり、Alの結晶粒子内への分散、固溶量が多くなる。さらにβ−サイアロン粉末の添加量が、原料全量に対して5〜20質量%と多いため、この点からもAlの結晶粒子内への分散、固溶量が多くなり、窒化珪素質焼結体の熱伝導率が低下していた。
【0017】
これに対して、本発明の窒化珪素質焼結体の製法では、添加されるβ−サイアロン粉末のBET比表面積が2m/g以下と小さいため、β−サイアロン粉末の粒径は大きく、焼成時に溶融する量が少なく、平均径が2μm以上のAl多領域を形成し、また、β−サイアロン粉末の添加量も全量中0.139〜8.105質量%、望ましくは0.416〜4.726質量%と少ないため、Alの結晶粒子内への分散、固溶量が少なくなり、放熱性を高めることができる。
【0018】
本発明の回路基板は、上記窒化珪素質焼結体に導体層を形成してなることを特徴とする。このような回路基板では、窒化珪素質焼結体の強度および靱性を向上できるため、回路基板を薄くすることができ、しかも窒化珪素質焼結体の熱伝導率を向上できるため、回路基板の放熱性を向上できる。これにより、例えば、パワー半導体から発する熱を十分に回路基板から拡散して放熱することができる。
【0019】
本発明のパワー半導体モジュールは、パワー半導体を上記回路基板に実装してなるものである。このようなパワー半導体モジュールでは、パワー半導体から発する熱を十分に回路基板から拡散して放熱することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の窒化珪素質焼結体では、結晶粒子内に、該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有するため、このAl多領域を有する結晶粒子が、他のAl多領域を有しない結晶粒子よりも大きく粒成長し、アスペクト比が高くなり、焼結体の強度と靱性を向上できるとともに、Alは多くが平均径2μm以上のAl多領域として存在し、しかもAlは焼結体全量中0.053〜0.422質量%と少ないため、結晶粒子内に分散する量が少なくなり、これにより焼結体の熱伝導率を高くすることができ、放熱性を向上できる。
【0021】
本発明の窒化珪素質焼結体の製法では、添加されるβ−サイアロン粉末のBET比表面積が2m/g以下と小さいため、β−サイアロン粉末の粒径は大きく、焼成時に溶融する量が少なく、平均径が2μm以上のAl多領域を形成し、また、β−サイアロン粉末の添加量も全固形分中0.139〜8.105質量%と少ないため、Alの結晶粒子内への分散固溶量が少なくなり、熱伝導率を高めることができる。
【0022】
本発明の回路基板では、窒化珪素質焼結体の強度、靱性を向上できるため、回路基板を薄くすることができ、しかも窒化珪素質焼結体の熱伝導率を向上できるため、回路基板の放熱性を向上できる。これにより、例えば、パワー半導体から発する熱を回路基板から拡散して放熱することができる。
【0023】
本発明のパワー半導体モジュールでは、パワー半導体から発する熱を十分に回路基板から拡散して放熱することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の回路基板は、窒化珪素質焼結体からなる母基板に導体層(金属回路を含む)を形成してなるもので、少なくとも母基板の上面、または下面、さらには上下両面に導体層を設けたもので、この導体層には、パワー半導体が搭載される。
【0025】
そして、窒化珪素質焼結体からなる母基板は、図1、2に示すように、β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子1と粒界相3とからなる窒化珪素質焼結体であって、結晶粒子1内に、該結晶粒子1の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域5を有するとともに、Al多領域5の平均径は2μm以上であり、かつAlを焼結体全量中0.053〜0.422質量%、望ましくは0.159〜0.238質量%含有する。
【0026】
Alを、焼結体全量中0.053〜0.422質量%としたのは、Alが焼結体全量中0.053質量%よりも少ない場合には、強度、靱性が低下するからである。一方、0.422質量%よりも多い場合には、添加するβ−サイアロン粉末のBET比表面積、および量にもよるが、添加したβ−サイアロン粉末が焼成時に液相に溶出し、β−Siが析出する際に、Alが結晶粒子内に分散、固溶する量が多くなって焼結体の熱伝導性が低下するからである。Alは、熱伝導性向上という観点から、焼結体全量中0.159〜0.238質量%であることが望ましい。
【0027】
本発明では、β−SiにAlが分散して固溶したものをβ−サイアロンと呼ぶ。サイアロンは、一般式Si6−zAl8−zで表されるが、結晶粒子内に該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域5を有するとは、結晶粒子がβ−サイアロンの場合、Al多領域の一般式中のZ値は、その他の部分のZ値に比べて2倍以上、つまり2倍以上Al含有量が多い領域を有することを指す。Al多領域5は、図2では、一点鎖線で示したが、実際は、Alの含有量で規定されるもので、走査電子顕微鏡による反射電子像あるいは二次電子像と波長分散型マイクロアナライザー分析などの対比により、Al多領域5であることを確認できる。
【0028】
また、β−Siからなる結晶粒子内に、該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域5を有するとは、Alが固溶していないβ−Siからなる結晶粒子内に、Alが分散して固溶したβ−SiからなるAl多領域5が存在することをいう。
【0029】
このAl多領域5の寸法は、添加するβ−サイアロン粉末の粒径と同等か、もしくは僅かに小さくなる。本発明では、Al多領域5の平均径が2μm以上とされている。Al多領域5の平均径を2μm以上とすることにより、結晶粒子内に分散、固溶するAl量を低減し、熱伝導性を向上できる。さらに、Al多領域の平均径が2μm以上と大きいため、結晶粒子内の内部応力が大きくなり、さらに結晶粒子のアスペクト比が大きくなり、強度および靱性を向上できるという効果もある。
【0030】
Al多領域5の平均径が2μmよりも小さい場合、Alが結晶粒子内に分散して、固溶する量が多くなり、焼結体の熱伝導性が低下するからである。高強度を達成するという点から、Al多領域5の平均径は10μm以下であることが望ましく、特には、2〜5μmであることが望ましい。
【0031】
Al多領域5を有するβ−Siおよびβ−サイアロンの結晶粒子1は、アスペクト比が平均3〜8、結晶粒子1の短軸長さは平均3〜15μmとされている。
【0032】
本発明では、Al多領域5を有する結晶粒子1が、焼結体の任意断面において面積比で7〜25%存在することが望ましい。これにより、焼結体の強度および靱性を高めることができるとともに、Al多領域5を有する結晶粒子1を適度に存在させることができ、焼結体の放熱性を高くすることができる。
【0033】
また、本発明の窒化珪素質焼結体には、原料中に含まれる、あるいは工程から混入するAl、Na、K、Fe、Ca、Ba、MnおよびB等の不可避不純物を混入しており、これらの不可避不純物は、焼結体全量中に合量で0.5質量%以下であることが望ましい。これにより焼結体の熱拡散率の低下を抑制でき、結果として焼結体の熱伝導率を向上できる。
【0034】
さらに、焼結体中には、希土類元素を酸化物換算で全量中1〜20質量%含有することが、焼結性を向上させるという点から望ましい。窒化珪素は前述したように、難焼結性であるので、焼結助剤を添加することが望ましく、一般的に知られている希土類元素酸化物、例えば特にY、Er、Dyなどを焼結助剤として1〜20質量%添加含有することができる。
【0035】
ここで、希土類元素の酸化物換算量を焼結体全量中1〜20質量%としたのは、1質量%未満では焼結助剤として機能が不十分であり、また、20質量%を超えると焼結体中に低熱伝導率のアモルファス相や低熱伝導率の結晶相が増加して焼結体の熱伝導率が低下する傾向にあるからである。希土類元素の酸化物換算量は、焼結性および熱拡散率向上という観点から、焼結体全量中2〜17質量%であることが望ましい。焼結助剤としては、Er、SiOであることが望ましい。
【0036】
焼結助剤としてAlを添加しても良いが、その添加量は、Alが焼結体全量中0.053〜0.422質量%となる範囲内とする必要がある。
【0037】
β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子は、焼結体全量中80〜91.5質量%含有することが望ましい。
【0038】
本発明の回路基板の製法は、窒化珪素質焼結体からなる母基板に導体層を形成して作製される。母基板は、窒化珪素粉末および粒界相形成粉末に、BET比表面積2m/g以下のβ−サイアロン粉末を全固形分中0.139〜8.105質量%、望ましくは0.416〜4.726質量%添加混合し、これを成形した後、1750〜1980℃で焼成して作製することができる。
【0039】
β−サイアロン粉末を全固形分中0.139〜8.105質量%、望ましくは0.416〜4.726質量%添加混合するとは、窒化珪素粉末、粒界相形成粉末およびβ−サイアロン粉末の合量(全固形分)中、0.139〜8.105質量%、望ましくは0.416〜4.726質量%がβ−サイアロン粉末であることを意味する。
【0040】
窒化珪素粉末は、酸素を2.0質量%以下、不純物陽イオンとしてのAl、Na、K、Fe、Ca、Ba、MnおよびBを合計で0.5質量%以下、α相型窒化珪素を90質量%以上含有し、平均粒径1μm以下の粉末を用いることが望ましい。
【0041】
β−サイアロン粉末としては、一般式Si6−zAl8−z(0<z≦4)で表されるものを使用できる。このβ−サイアロン粉末は、BET比表面積2m/g以下のものを使用する。BET比表面積が2m/gよりも大きい場合には、焼成時に溶融し易く、Alが結晶粒子内に分散固溶し、熱伝導性が低下する傾向にあるからである。特には、BET比表面積1m/g以下のものを使用することが望ましい。
【0042】
また、β−サイアロン粉末は、原料全量中0.139〜8.105質量%添加混合する。β−サイアロン粉末のBET比表面積が小さくても、その表面の一部は溶融するため、上限量を超えて添加した場合に熱伝導率が低下する。一方、下限量より少なく添加した場合は、高強度と高靭性が実現できない。
【0043】
このβ−サイアロン粉末は、原料全量中0.416〜4.726質量%添加することが望ましい。
【0044】
本発明の回路基板の母基板は、熱伝導率は95W・m/K以上、特には、110W・m/K以上のものが得られる。強度は、790MPa以上、特には870MPa以上のものが得られる。さらには、靱性については、7.3MPa・m1/2以上、特には7.5MPa・m1/2以上ものが得られる。
【0045】
さらに、本発明の母基板では、熱伝導率が高いため、しかも高強度高靱性であるため、厚さを薄くすることにより、窒化アルミニウムに比べてもそん色のない高放熱性の母基板が得られ、一方、より強度を高くするため、0.5mm以上の厚みとした場合でも、熱伝導率が高いため、回路基板として用いることができる。
【0046】
本発明のパワー半導体モジュールは、母基板の導体層にパワー半導体を接続し、パワー半導体を上記回路基板に実装して構成されている。このようなパワー半導体モジュールでは、パワー半導体から発する熱を十分に回路基板から拡散して放熱することができる。
【実施例】
【0047】
出発原料として、窒化珪素α相を95質量%含み、酸素を1質量%含み、平均粒径0.5μmの窒化珪素粉末と、BET比表面積0.70〜0.81m/gのβ−サイアロン粉末(z=0.5〜4)と、平均粒径1.0μmのY粉末、平均粒径1.0μmのEr粉末、平均粒径1.0μmのDy粉末を用意した。尚、試料No.14についてはそれぞれBET比表面積が2m/g、試料No.4、15については10m/g程度、試料No.33については5m/g程度のβ−サイアロン粉末を用いた。BET比表面積はガス吸着法により測定した。
【0048】
これらの原料粉末を用いて、表1に示す組成比率になるように秤量し、溶媒としてイソプロピルアルコールを、メディアとして窒化珪素焼結体製のボールを加えて振動ミルにて72時間混合した。その後スラリーはイソプロピルアルコールを乾燥させて混合粉体とし、この混合粉末を0.5ton/cmの圧力で金型プレスした後、3ton/cmの圧力にて静水圧プレスを施して成形体を得た。
【0049】
次いで、窒化珪素焼結体製の鉢の中に、窒化珪素粉末にSiO粉末を加えたとも材を充填し、上記成形体をこのとも材の中に埋め込んだ後、0.9MPaの圧力の窒素ガス雰囲気下で1950℃の温度にて焼成して試料となる焼結体を得た。
【0050】
こうして得られた試料について、Al量を蛍光X線分析(検量線法)により求めた。焼結体の結晶粒子を収束イオンビーム(FIB)装置によってサブミクロン厚みで微細加工し、波長分散型X線マイクロアナライザー(EPMA)にてAl多領域を確認し、その後Al多領域を上記微細加工し、その都度走査電子顕微鏡分析反射電子像(組成差像)にてサイズの確認を繰り返し行ってAl多領域の直径を求めた。
【0051】
同様に10か所のAl多領域の直径を求めて平均してAl多領域の平均径とした。また、焼結体の任意の5断面の走査電子顕微鏡分析反射電子像(組成差像)を用いて、Al多領域を有する結晶粒子の面積比を画像解析装置により求め、これらを平均してAl多領域を有する結晶粒子の面積比とした。
【0052】
また、各試料について、熱拡散率と比熱をレーザーフラッシュ法(試料の両面にAu蒸着し、両面を黒化処理して25℃でルビーレーザーパルス光を均一に照射)にて測定し、測定した熱拡散率と比熱とアルキメデス法で求めた密度を掛け合わせて熱伝導率を算出した。また、破壊靭性はJIS規格R1607−1995、R1610−1991により求め、三点曲げ強度はJIS1601−1995により求めた。これらの結果を表2に記載した。
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
この表1、2によれば、本発明の範囲内にある試料No.2、3、5〜14、16〜24、27〜32は熱伝導率が95[W/m・K]以上、三点曲げ強度が790MPa以上、靭性が7.3MPa・m1/2以上の優れた特性を有していることがわかる。一方、範囲外にあるもの、具体的に例えばAl量が少なく、β−サイアロンの添加量が少なく、Al多領域を有する結晶体の面積比が低い試料No.1は三点曲げ強度と靭性が低く、Al量が多い試料No.26、あるいはAl量が多く、β−サイアロンの添加量が多い試料No.25は熱伝導率が低くなった。また、β−サイアロンのBET比表面積が大きく、Al多領域の平均径が2μmよりも小さい試料No.4、15、33は熱伝導率が低くなった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】焼結体の走査電子顕微鏡分析反射電子像(組成差像)写真である。
【図2】焼結体の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1:結晶粒子
3:粒界相
5:Al多領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−Siおよびβ−サイアロンのうち少なくとも1種の結晶粒子と粒界相とからなる窒化珪素質焼結体であって、前記結晶粒子内に、該結晶粒子の他の部分よりもAl存在量が多いAl多領域を有するとともに、該Al多領域の平均径が2μm以上であり、かつAlを焼結体全量中0.053〜0.422質量%含有することを特徴とする窒化珪素質焼結体。
【請求項2】
前記Al多領域を有する結晶粒子が、焼結体の任意断面において面積比で7〜25%存在することを特徴とする請求項1記載の窒化珪素質焼結体。
【請求項3】
窒化珪素粉末および粒界相形成粉末に、BET比表面積が2m/g以下のβ−サイアロン粉末を全固形分中0.139〜8.105質量%添加混合し、これを成形した後、焼成することを特徴とする窒化珪素質焼結体の製法。
【請求項4】
請求項1または2記載の窒化珪素質焼結体に導体層を形成してなることを特徴とする回路基板。
【請求項5】
パワー半導体を請求項4記載の回路基板に実装してなることを特徴とするパワー半導体モジュール。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−155126(P2009−155126A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332222(P2007−332222)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】