立方晶ジルコニア層を作製する方法
ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製するために、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素と少なくとも1つの安定化剤とを含む混合標的を用いるか、または反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いる、ジルコニウム元素を含むジルコニウム標的を用いる。代替法としてはまた、混合標的の使用と組み合わせて、反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いることも可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア層、ならびにジルコニアを含有する層および/または層系を作製する方法に関する。本発明はまた、ジルコニア層を伴う生成物、およびそれらの適用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアをベースにした層は、主に、例えば、固体電解質燃料電池におけるそれらの使用に関連する、それらの立方晶形態および/または正方晶形態において興味深い。
【0003】
しかし、ジルコニアをベースにした層のイオン伝導度、およびそれらの熱安定性はまた、それらがセンサー技術の分野でも用いられることを可能とする。
【0004】
例えば、US20040084309において説明されている通り、この分野でもまた、立方晶構造に依拠することが好ましい。この文献は、正方晶または立方晶であり、含有する単斜晶相の付加物が5モル%未満であるZr-O層に基づくセンサーについて説明している。温度変化のストレスへと曝露したときに、相転移における容量変化のために生じる亀裂の形成を回避しうる点で、単斜晶相を制限する必要性が実証される。単斜晶相は、安定化剤により回避される。101段落はまた、層が相変態時においてより安定的な形で挙動するので、層内の平均粒子サイズが小さい(2.5マイクロメートル未満である)と有利であることについても説明している。103段落では、正方晶相に対する立方晶相の好ましい比が示唆されている;立方晶相については(400)面であり、正方晶相については(004)面および(200)面である。
【0005】
良好な熱遮蔽挙動と関連する良好な力学的特性のために、層はまた、工具コーティング、特に、部品コーティングの分野において用いることができれば有利であろう。ここでの焦点は、摺動系の設計に当てられている。層の硬度が調整可能であることと関連して形態が調整可能であること、および他の酸化物層との組合せが容易であることを用いて、コーティングされる加工物/部品の摩耗および破断、ならびに相手部品の摩耗を最適化することができる。
【0006】
別の適用は、US20070004589において説明されており、正方晶Zr-Oおよび立方晶Zr-Oの混合物を、安定化剤を添加して、触媒に適用することに使う。
【0007】
ジルコニアをベースにした層は、主にZr-O、Zr-O-N、Zr-St-O、Zr-St-O-Nとしてのそれらの組成[式中、Stは、ZrO2の、それぞれ、立方晶構造および正方晶構造を安定化させることに寄与する安定化要素を表わす]との関連で説明することができる。安定化剤としては、Yを用いることが好ましい。当技術分野の現況では、ジルコニアをベースにした層を作製する各種の方法が知られており、本明細書の以下でもこれらについて簡単に説明する。
【0008】
a)焼結による層の作製:
US05709786およびEP00669901のそれぞれにおいては、Zr-Oによる固体電解質を作製する焼結工程が説明されている。安定化剤を添加して、Zr-Oのイオン伝導度を増大させること、ならびに金属粉末およびセラミック粉末との共焼結により、固体電解質と接触する接続部を創出することについて論じられている。この先行技術文献では、粒子サイズがナノメートルの範囲にある粉末は、イオン伝導度の温度依存性を低減し、焼結工程では粉末のサイズが小さいことが有利であり、焼結に必要とされる温度を低下させるという事実が、本質的な特徴として説明されている。これは、とりわけ、イオン伝導度を増大させるのに有利な一部の安定化剤を通常の粉末サイズで焼結しうるのは、極めて高温の場合に限られるという事実との関連で論じられている。該文献は、焼結工程における層の作製が困難であることについて説明し、粉末サイズを低減することによる可能な解決法を示している。層は、解析的に特徴づけられていないが、該文献は、層の硬度および摺動系におけるZr-O層の他の力学的特性を調整可能とする、具体的な適用の必要性を裏付けている。
【0009】
センサーにおいて用いるのに適する、US20040084309によるZr-O層もまた、焼結工程により作製されている。
【0010】
しかし、焼結工程では、必要とされる高温が、無視できない欠点をもたらす。これらの欠点を減殺するために、ナノメートル範囲の高価な粉末が原材料として用いられている。高融点材料の場合は、焼結工程を可能とするために、通常の焼結温度(約1500℃)をさらに上昇させなければならない。これは、US05709786において説明されている通り、高融点材料を安定化させる要素を添加する場合である。この文献からは、固体電解質層を、他の機能層(例えば、電極)ならびに力学的保護層および熱的保護層のそれぞれと組み合わせることが重要であることも明らかである。これは、良好な積層を達成する(例えば、インターフェースの問題、層の安定性)には、機能を互いに適合させ、作製温度を互いに適合させる、完全な積層を作製する適用が必要であることを意味する。該文献によればまた、安定化剤を含む材料の点では、作製温度が高いことが有利であるが、これは容易に達成することができず、層化された化合物構造を達成することはさらにより困難であることが明らかである。
【0011】
さらに、焼結法により作製される層は、どちらかといえば緻密な材料であると考えなければならない。力学的な結合を確保するには、さらなる安定化(例えば、メッシュによる)が必須となることが多い。どのような構造のZr-Oが得られるかは、焼結温度に依存し、立方晶構造または正方晶構造を達成するには、安定化剤が必要である。該工程は本質的に、熱平衡において行われるため、この方法において生じる相は本質的に、相図において読み取られる相に対応する。極めて高温においてだけ焼結が可能であり、したがって、達成が技術的に困難であるか、また不可能でもある安定化剤が存在する。したがって、これは、可能な層の範囲を制約する。
【0012】
結合を確立するには異なる温度が必要であり、結合する材料は温度範囲を制約するので、焼結された層を他の材料と「接合」することは困難である。例えば、磁器など、層は脆弱であり、多層構造を作製することはほとんど不可能である。出発粉末および焼結工程により、作製される材料の粒子サイズが決定される。熱保護層または金属電極を適用するだけでも、1つの工程で行うことはできない。
【0013】
立方晶および正方晶それぞれのZrO2層を作製するには、原材料(粒子サイズ)が、焼結にとって根本的に重要となる。いずれの場合にも、原材料の再現性を確保するには、多大な労力が必要とされる。したがって、作製法を改善することにより、原材料(標的)の作製法ならびにコーティング工程の経過時間にわたる材料品質の安定性を確保するべきである。
【0014】
b)プラズマスプレーによる層の作製:
US20040022949は、プラズマスプレーにより作製される立方晶Zr-Oまたは正方晶Zr-Oによるガスタービンの摩耗保護コーティングについて開示している。水蒸気処理により、この層は、軟質の単斜晶構造へと変態し、ガスタービンで用いると、この単斜晶構造は、再度、立方晶構造または正方晶構造へと変態する。このさらなる層処理の目的は、相手部品を損傷させず、軟性層を適合させる形で、部品の導入挙動を設計することである。ここでもまた、通常の安定化剤を用い、酸化イットリウム(Y-O)は、0.3〜20モル%の範囲であることが示唆されている。
【0015】
US20050170200では、結合コーティング、部分的に安定化させたZr-O層、およびさらなる、完全に安定化させたZr-O層からなる熱遮蔽層が説明されている。こうして、部分的に安定化させたZr-Oの良好な力学的特性が、完全に安定化させたZr-Oの良好な熱保護特徴と組み合わされる。層は、プラズマスプレーにより作製されている。
【0016】
焼結法との関連で言及されたインターフェースの問題はまた、熱スプレー法においても存在する。ここでもまた、蒸着される層と、コーティングされる基板との良好な結合を達成することは困難である。さらに、この方法では、異なる材料間における段階的な遷移を達成することも困難である。
【0017】
焼結の場合と同様に、電子ビーム蒸着の場合においても、高品質の立方晶および正方晶それぞれのZrO2層を作製するには、原材料(前処理した坩堝材料)が、根本的に重要となる。いずれの場合にも、原材料の再現性を確保するには、多大な努力が必要とされる。したがって、作製法を改善するには、原材料(標的)の作製法ならびにコーティング工程の経過時間にわたる材料品質の安定性を確保するべきである。
【0018】
c)電子ビーム蒸着による層の作製:
US20060171813は、タービンブレードにおけるZr-O層の適用について説明している。Zr-OまたはHf-Oを含有する内側の厚い層上に、Zr-Oおよび金属酸化物、例えば、Ta-OまたはNb-Oからなる多層コーティングからなる、さらなる熱保護層を適用する。層は、電子ビーム蒸着により蒸着される。
【0019】
US20080090100A1は、電子ビーム蒸着により作製される熱遮蔽層について説明している。
【0020】
US05418003では、Zr-Oをベースにした熱遮蔽層を作製するのに用いられるPVD(物理気相成長)工程(電子ビーム蒸着)について説明されている。US06042878Aでは、蒸着時における噴出を低減するために、坩堝材料(インゴット)に対する特殊な前処理が示唆されている。
【0021】
US6586115では、熱遮蔽コーティング(TBC)を適用するための各種のPVD法およびCVD(化学気相成長)法について言及されているが、該工程のさらなる詳細には触れられていない。これとの関連で、イットリアにより安定化される酸化物の電子ビーム蒸着にも言及されている。
【0022】
電子ビーム蒸着は、真空下で行われ、基板表面を、プラズマ処理により清浄化および活性化しうるので、一般に良好な結合を可能とする。にもかかわらず、電子ビーム蒸着において蒸着される材料のイオン化度は低く、このため通常は、熱保護層には所望されるが、結合の態様を考慮すると他の適用には欠点となる層の、柱状成長が可能となるに過ぎない。蒸気のイオン化度が高ければ、基板のバイアスを介して、層合成により高度のエネルギーをもたらすことが可能となり、したがって、安定化剤を組み込まなくても、ZrO2において正方晶構造または立方晶構造に到達するためのより良好な条件を創出することが可能となることを考慮すると、蒸気のイオン化度を高めることが有利であろう。しかし、これは、電子ビーム蒸着または他のPVD工程において達成されていない。この方法のさらなる実質的な欠点は、可能な限りスパッターフリーの蒸着を達成するためには、かなりの労力を費やす必要があることである。実際、蒸着された層を安定的に酸化させうるためには、坩堝材料に酸化物を添加すること、および酸化物だけを用いることのそれぞれを行う。これらは絶縁性なので、電子ビームによる酸化物の溶融および昇華のそれぞれは、スパッターに関して問題があるだけでなく、坩堝材料の相分離に関しても問題がある。これらはいずれも、複雑な工程手順に反映されている。さらに、層に十分な酸素を供給するためには、工程において、反応性ガスとしてのさらなる酸素を添加することが必要である。
【0023】
電子ビーム蒸着では、材料が急激に溶融するという事実に、さらなる問題を見ることができる。このために、坩堝内で急な温度勾配が形成され、これにより坩堝が破断し、使用不能となることもまれではない。ジルコニアに関するこの問題は、US06143437において扱われている。そこで用いられる坩堝は既に、立方晶相の酸化ジルコニウム粉末を含む。
【0024】
US20070237971もまた、電子ビーム蒸着のために、特殊なセラミック粉末成分を伴う標的の使用について開示している。この標的を作製するための煩瑣な方法については、US20080088067において説明されている。しかし、該工程の使用は、それに伴う費用によりかなり高価なものとなる。
【0025】
電子ビーム法により作製される層は通常、金属蒸気のイオン化度が、基板表面における可動性を増大させるには低すぎるので、層の柱状構造が可能となるに過ぎないことを、再度強調しなければならない。これは当然ながらまた、層構造に対する影響も制約する。溶融についての配慮も、この方法の別の弱点である。層組成に影響を及ぼす相分離を回避するように、極めて注意深く煩瑣な形で溶融について配慮しなければならない。合金の蒸着はほとんど不可能である、すなわち、化学量論性の層を無理なく達成するには、酸素の添加を伴う、技術的にさらにより困難な酸化物の蒸着を用いることが必要である。
【0026】
d)イオンビーム支援蒸着(IBAD)による層:
US20020031686は、とりわけ、SiO2層上に、配向性の強いYSZ(イットリア安定化ジルコニア)(二軸配向YSZ)を作製することを可能とする、IBAD法について開示している。図は、YSZのXRDスペクトルの(200)面および(400)面における反射を示す。この適用におけるYSZは、この適用ではCe-O層、Ru-O層、および/またはLSCO(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)層である後成層の成長基板として用いられる。その目的は、YSZ基板が必要とされるこれらの材料から、導電性酸化物を作製することである。この文献では、700℃の基板温度で蒸着したYSZ層の作製についての例が示されている。さらなる証拠を示すことなく、該工程を、450℃〜600℃の低温へも拡張しうることがさらに主張されている。層を、既に作製されている基板、例えば、半導体の分野ではSiウェハー上に蒸着する場合は、工程温度が低いことが、所望の特性または条件である。文献US20020031686は、2Θを20°〜80°の範囲とするYSZについてのXRDスペクトルの(200)面および(400)面における反射について開示している。該IBAD法は、US05872070において説明されている。
【0027】
IBAD法は、まずは、材料をアブレーションし、次いで、真空下で蒸着される材料に、ある成長方向を方向づけるための、表面のボンバーディングに基づく。この点における問題は、この技法による成長速度が低く、大きな表面にわたり廉価で大量の材料を蒸着する適用には適さないということである。
【0028】
それについて正方晶および立方晶それぞれのZrO2において最高の強度が予測される、US20020031686における反射(2Θ=30°および50°での反射)を証拠立てることがほとんど不可能であることは、注目に値すると考えられる。これは、イオンボンバードメントを介するIBAD法が、ざらつきの強い層をもたらし、立方晶YSZが実際にどれほどの比率で存在するかは疑問視されることを示唆する。しかしまた、この工程では、ZrO2において顕著な立方晶相を達成するには、結局、700℃の基板温度では不十分であることも重要である。
【0029】
e)組合せによるPVD(物理的蒸着)工程(スパッター蒸着/スパーク蒸着)による層:
J. Cyvieneら、Surface and Coatings Technology、180〜181(2004)、53〜58頁では、スパッタリングとスパーク蒸着との組合せについて説明されている。これとの関連で、スパーク蒸着にはZr標的が用いられ、スパッター源にはY標的が用いられている。工程は、0.2Paの工程圧力下で実施され、0.08Paの最大分圧までの酸素が、アルゴンに添加される。
【0030】
しかし、Cyviene、Surf.Coat.Tech、180〜181、2004において説明されている、スパッタリングとスパーク蒸着との組合せ法は、作製法および蒸着される層のいずれに関しても、複数の問題を投げかけている。該文献は、スパッター標的被毒の問題を扱っている、すなわち、該文献は、スパッター標的を操作するときは、金属モードへのエッジ部分で加工しなければならず、これには、集約的な工程制御が必要とされることについて説明している。スパッター操作およびスパーク蒸着操作はいずれも、加工用アルゴンガス中で行われ、酸素は少量添加されるに過ぎない。純粋な酸素中での操作については説明されていないが、説明されている条件下では、さらなる手段を講じない限り、完全な不安定性がもたらされる:スパッタリング率はほとんど無化され、スパーク標的およびスパーク陽極が自己酸化するためにスパーク蒸着が不安定となり、最終的には、DCによるスパーク放電が中断されることになる。
【0031】
Cyvieneは、本発明により回避される、組合せによるスパッター−スパーク蒸着の層側の問題について説明している。アルゴン中に酸素を添加したZr標的によるアーク放電は、合成される層において、立方晶相および正方晶相のそれぞれをもたらすことがなく、単斜晶構造が達成されるに過ぎないことが説明されている。YSZが立方晶相および正方晶相のそれぞれにおいて顕示されるのは、スパッター工程にわたり、安定化剤としてYを添加することを介する場合に限られる。これはまた、US20080090099A1(表3)において説明される通り、もっぱら酸素雰囲気だけを伴う安定的なアーク蒸着工程において、かなりの高圧でもまたZrO2の作製を敢行したが、やはりまた、該文献において説明される材料系であるAl-Cr-Oにおける「高温」コランダム構造のまったくの対蹠物である、ZrO2の、それぞれ立方晶構造および正方晶構造を裏付けることはできなかった、本発明の発明者らによる実験においても偶然に確認されている。
【0032】
Cyviene、Surf.Coat.Tech、180〜181、2004におけるXRDスペクトルからは、別の問題が明らかとなる。Y-Oの六方晶相およびZrの六方晶相のブラッグピークを見ることができるが、これらは、固体電解質層または熱遮蔽層としての適用における場合と通常同様に、熱ストレスの変化が生じれば、本質的な形で層の不安定性に寄与しうる層成分である。
【0033】
これらの問題はまた、IBADと関連して生じる問題:標的被毒の徴候、層成分が他の材料成分を含有すること、および結果として、200℃〜600℃の低基板温度において合成される層の結晶構造を制御することが困難となることとも部分的に重複する。
【0034】
さらに、既に上記でさらに観察されている通り、それについて正方晶および立方晶のそれぞれのZrO2において最高の強度が予測される、US20020031686における反射(2Θ=30°および50°での反射)を証拠立てることはほとんど不可能である。したがっておそらく、立方晶YSZの存在比率は極めて低い。
【0035】
f)他の方法:
US20060009344は、Zr-Oの単斜晶構造および立方晶構造の両方の成分を含み、したがって、真の立方晶Zr-O層へのより良好な結合を創出するのに特に適する、Zr-O基板の作製について説明している。その方法とは、エアゾールによる「CVD」法である。ここでもまた、粒子サイズを5nm〜1000nmとすべきであり、また、4モル%〜8モル%のY-OによりZr-Oが安定化されるという事実が、特に強調されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】US20040084309
【特許文献2】US20070004589
【特許文献3】US05709786
【特許文献4】EP00669901
【特許文献5】US20040022949
【特許文献6】US20050170200
【特許文献7】US20060171813
【特許文献8】US20080090100A1
【特許文献9】US05418003
【特許文献10】US06042878A
【特許文献11】US6586115
【特許文献12】US06143437
【特許文献13】US20070237971
【特許文献14】US20080088067
【特許文献15】US20020031686
【特許文献16】US05872070
【特許文献17】US20080090099A1
【特許文献18】US20060009344
【特許文献19】US20070000772A1
【特許文献20】US20080020138A1
【特許文献21】WO2009/056173A1
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】J. Cyvieneら、Surface and Coatings Technology、180〜181(2004)、53〜58頁
【非特許文献2】S.C. Singhal、「Recent Progress in Zirconia-Based Fuel Cells for Power Generation」、Fifth International Conference on Science and Technology of Zirconia、8月16〜22日、1992、Melbourne、Australia
【非特許文献3】J. Am. Ceram. Soc.、33(1950)、274頁
【非特許文献4】J. Mater. Sci.、35(2000)、5563頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
説明したすべての方法により、当技術分野の現況では、ジルコニア層の改善が強く必要とされているほか、このような層を作製する、費用効率が高く、かつ、技術的に実現可能な方法も必要とされているという結論がもたらされる。
【課題を解決するための手段】
【0039】
したがって、本発明は、上記で示した、当技術分野の現況に由来する問題を孕む程度が大幅に小さいか、またはこれを孕むことがない、ジルコニア層を作製する方法を提起することを目的とする。
【0040】
本発明はまた、高度に、かつ、層組成の大幅な変化を本質的に伴わずに、微結晶の形態、および特に、微結晶のサイズを制御することを可能とする、ジルコニア層を作製する方法も提起するものとする。
【0041】
本発明はまた、本質的に立方晶構造および/または正方晶構造を有し、立方晶ジルコニアではないまたは正方晶ジルコニアではない成分の含有量が、当技術分野の現況と比較して少ないジルコニア層を開示することも目的とする。これは、1または複数の古典的安定化剤を有する層、および古典的安定化剤を伴わない層の両方に関する。
【0042】
本説明の枠組みにおける古典的安定化剤とは、室温および通常の圧力下において、固体状態の物体としての純粋形態で存在する安定化剤を指す。このような古典的安定化剤の例は、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、および/または周期系IIIA族の希土類金属である。本発明者らはさらに、Sr、Ba、Ni、Fe、Co、La、Nd、Gd、Dy、Ce、Al、Bi、Ti、Tb、Eu、Smにも言及する。これらのいわゆる安定化剤はまた、合成される層において、酸化物または混合酸化物としても見出される。古典的安定化剤という概念はまた、上記で例として言及した物質の化合物にも当てはまるものとする。
【0043】
この目的は、パルススパーク電流および/または好ましくは、スパーク標的に対して垂直な弱い磁場を用いる、反応性アーク蒸着に基づく方法により達成される。層を作製する一般的な方法は、特許出願であるUS20070000772A1およびUS20080020138A1において既に説明されており、本明細書において既知であるとみなす。また特に、文献US20080090099A1も、ZrO2層の作製について説明している。その工程は、スパーク標的を、0.1Pa〜10Paの反応性ガス圧力下で操作しうる程度に安定的であるように設計されている。
【0044】
該文献で説明されている方法と対比すれば、基板上に立方晶構造および/または正方晶構造のジルコニアを蒸着するために、本発明ではさらなる手段を講じる。
【0045】
本発明の第1の実施形態では、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素と少なくとも1つの安定化剤とを含む混合標的を用いる方法により、該目的を達成する。
【0046】
この実施形態の変形形態では、層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製する。
【0047】
本発明の第1の実施形態によれば、本発明の一手段は、層中に所望の濃度比でジルコニウム元素および/または複数の古典的安定化剤を含む混合標的を、スパーク蒸着に用いることにある。パルススパーク電流により、かつ/または弱い垂直な磁場により、0.1Paを大きく超え、なお最大10Paであることが可能であり、これを超えることも可能な酸素圧力下で、問題を伴わずに、このようなジルコニウム−安定化剤混合標的を操作することが可能であるとわかったことは驚くべきことである。
【0048】
したがって、この実施形態の変形形態では、酸素分圧を、0.1Paを超えるように、好ましくは少なくとも10Paとなるように選択する。
【0049】
混合標的の濃度比は、本質的に基板上に蒸着される層の濃度比に再現され、これは本質的に酸素圧から独立である。
【0050】
したがって、この実施形態の変形形態では、層のジルコニアと安定化剤との濃度比が、本質的に、混合標的のジルコニウム元素と安定化剤との濃度比により与えられる。
【0051】
安定化剤の濃度が十分に高ければ、立方晶構造および/または正方晶構造が自動的に存在するための条件が満たされる。酸素圧は、分圧の場合もあり、全圧の場合もある。
【0052】
したがって、この実施形態の変形形態では、混合標的中の安定化剤の濃度を選択することにより、立方晶構造および/または正方晶構造を達成する。
【0053】
したがって、該工程では、酸素分圧を、層組成に関しては自由パラメータとして考え、これを調整することができる。他方、異なる実験は、驚くべきことに、酸素圧または酸素流を、層形態に対する影響の決定因子としてみなしうることを示している。したがって、本発明者らは、混合標的の濃度比を選択することにより層組成を選択することを可能とし、本質的にそれとは独立に、酸素分圧を選択することにより、例えば、微結晶のサイズ、または柱状成長の問題など、層形態を選択することを可能とする方法を発明した。この点では、比較的中程度の基板温度でこれを行いうることがさらに注目に値する。
【0054】
変形形態の実施形態では、立方晶構造および/または正方晶構造を達成することに関しては少なくとも本質的に自由設定パラメータである酸素分圧を、層形態を決定するのに用いる。
【0055】
以下でさらに詳細に論じる、さらなる変形形態の実施形態では、酸素に加えて窒素を反応性ガスとして用いる。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素を含むジルコニウム標的を用い、反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いる方法により、言及した目的を達成する。
【0057】
したがって、この実施形態の変形形態では、層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製する。
【0058】
本発明のこの第2の実施形態によれば、本発明の第2の手段として、窒素を反応性ガスに添加する場合は、古典的安定化剤の使用を回避することが可能である。したがって、ジルコニウム元素標的を標的として用いることができる。これらのさらなる手段を伴わなければ、すなわち、窒素を伴わなければ、スパーク蒸着の過程で、単斜晶ジルコニア層が基板上に蒸着されることになるであろう。驚くべきことに、ある圧力条件およびガス流下で窒素および酸素を反応性ガスとして用いると、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造または正方晶構造で存在する層が結果として得られることが明らかとなった。したがって、対応する層のX線回折スペクトルが、立方晶化したZrO2の明確な反射を有するように、圧力比およびガス流比を選択することができる。
【0059】
したがって、この実施形態の変形形態では、スパーク蒸着工程における圧力比を設定することにより、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造および/または正方晶構造を有する層を生成させる。
【0060】
この方法では、酸素の比率をガス流制御デバイスにより設定することが好ましい一方で、窒素の比率は全圧制御デバイスにより選択する。本発明のこの第2の実施形態によるコーティングでは、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の基礎の上に、許容される程度に薄いが、立方晶構造で存在する、純粋なZrO2層、すなわち、安定化剤をまったく伴わないZrO2層をコーティングすることができる。
【0061】
したがって、この実施形態の変形形態では、ジルコニアをベースにした層を、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の上に、立方晶構造の純粋なZrO2層として蒸着する。
【0062】
厚い純粋なZrO2層、すなわち、窒素部分を伴わないZrO2層が、最終的には軟性の単斜晶相へと再度復帰するという事実は、例えば、減摩導入を必要とする一部の適用に用いることができて有利であり、これもまた、本発明の不可欠な部分である。したがって、この変形形態の一使用は、単斜晶相へと復帰しうる層を作製するための、好ましくは減摩導入のための使用である。
【0063】
既に示唆した通り、本発明の第3の実施形態では、本発明の第2の実施形態、すなわち、さらなる反応性ガスとしての窒素の使用と、本発明の第1の実施形態、すなわち、古典的安定化剤を含有するジルコニウム混合標的の使用とを組み合わせて実施する。これにより、安定化剤の濃度を他の通常の場合より低くして、立方晶構造および/または正方晶構造を作製することが可能となる。説明した第2の実施形態と比較すると、古典的安定化剤が、おそらくは低濃度ながら存在するために、酸素ガス流を特異的な形で調整しうる度合いが大きく、したがって、蒸着される層形態を特異的な形で調整しうる度合いが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1a】試料793の破断断面である。
【図1b】試料793の破断断面である。
【図2】試料777の破断断面である。
【図3】試料778の破断断面である。
【図4a】試料779の破断断面である。
【図4b】試料779の破断断面である。
【図5a】試料799の破断断面である。
【図5b】試料799の破断断面である。
【図6a】試料780の破断断面である。
【図6b】試料780の破断断面である。
【図7a】試料909の破断断面である。
【図7b】試料909の破断断面である。
【図8a】試料911の破断断面である。
【図8b】試料911の破断断面である。
【図9a】試料912の破断断面である。
【図9b】試料912の破断断面である。
【図10a】試料910の破断断面である。
【図10b】試料910の破断断面である。
【図11a】試料916の破断断面である。
【図11b】試料916の破断断面である。
【図12a】試料913の破断断面である。
【図12b】試料913の破断断面である。
【図13a】試料914の破断断面である。
【図13b】試料914の破断断面である。
【図14a】試料915の破断断面である。
【図14b】試料915の破断断面である。
【図15a】試料493の破断断面である。
【図15b】試料493の破断断面である。
【図16a】試料765の破断断面である。
【図16b】試料765の破断断面である。
【図17a】試料767の破断断面である。
【図17b】試料769の破断断面である。
【図18a】試料995の破断断面である。
【図18b】試料995の破断断面である。
【図19a】陽極を概略的に示す図である。
【図19b】陽極の一実施形態を表した図である。
【図20】試料777、778、779、799、793、780に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図21】試料799、793に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図22】試料909に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図23】試料910、911、912に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図24】試料913、914、915、916に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図25】試料917に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図26a】試料799に関するRBSスペクトルを示す図である。
【図26b】試料799に関する窒素および酸素の比の対応する測定値を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ここで、本発明を、詳細な例により、かつ、以下の複製、表、および図面に基づいて説明する。
【0066】
初めに、対応する方法および/または層が、どのような要件を満たすことが好ましいかを確立するために、可能な適用のうちの1つについてより詳細に論じる。この点では、該要件の列挙を、本質的に累加的なものとして理解すべきではないが、当然ながら、これらの特徴のうちの複数、なおまたはすべてが同時に満たされるなら有利でありうる。
【0067】
続いて、本発明者らは、達成することが好ましく、特に安定的なコーティング工程をもたらす手順の例に用いられるコーティング装置の具体的内容について簡単に述べる。
【0068】
その後、例として、異なるコーティング工程を列挙する。
【0069】
その後に初めて、このようにして作製される層を特徴づける。
【0070】
特徴づけの後、発見された特徴についての考察および解釈を行う。
【0071】
本発明のおそらくこれもまた発明的な使用と関連する1つの主題は、酸素イオンの伝導度が高く、固体電解質燃料電池に特に適する、層形態の材料の作製に関する。
【0072】
典型的な固体電解質燃料電池は、例えば、S.C. Singhal、「Recent Progress in Zirconia-Based Fuel Cells for Power Generation」、Fifth International Conference on Science and Technology of Zirconia、8月16〜22日、1992、Melbourne、Australiaにおいて説明されている。この文献によれば、多孔性電極(空気側の陰極、燃料側の陽極)に、固体電解質層自体をさらに施されなければならず、次いで、完全な燃料電池を作製するためには、この固体電解質層に「稠密」な付加的インターコネクトがさらに必要とされることが明らかとなる。したがって、燃料電池の設計は、熱的温度変化による強度のストレス下に置かれる完全な層系に基づく。これらの条件下で燃料電池を用いるには、拡散を回避するために、全積層の安定性の点で、かつ、層構造の安定性に関して、多大な要求がなされる。固体電解質およびその微結晶構造の化学的安定性が、特に重要である。この温度についての安定性は、特に、固体電解質において、温度により引き起こされる相変態がまったくまたはほとんど生じないことを伴う。「老化徴候」または性能の低下を克服するために、燃料電池内部における拡散過程の、それぞれ、制御および回避もまた重要である。燃料電池を構成する各種の層材料間における熱膨張係数の適合が、燃料電池の安定性にとっては極めて重要である。
【0073】
これらの一般的な考察に基づき、本発明者らは、固体電解質層および燃料電池の全積層に対して課される以下の具体的な要件に想到したが、これにより、燃料電池の固体電解質層を作製するための、これまで論じてきた本発明による方法の使用がもたらされる。
【0074】
固体電解質層としてジルコニア層を用いる場合、単斜晶構造への相変態を回避するためには、ジルコニア層が、主に立方晶および/または正方晶のZrO2からなることが好ましい。
【0075】
古典的安定化剤を用いる場合、それらの組込みは問題を伴わないことが好ましく、作製法により古典的安定化剤の自由な選択が制限されるべきではない。
【0076】
したがって、前記本発明による方法の使用の変形形態には、以下が適用される:安定化剤を自由に選択すること。
【0077】
層組成および相組成、ならびにまた層形態は、作製法の容易に調整可能なパラメータにより、大半は互いに独立に改変可能であることが好ましい。
【0078】
したがって、前記本発明による方法の使用の変形形態には、以下が適用される:蒸着工程のパラメータを調整することにより、層組成、相組成、および層形態を、少なくとも本質的に互いに独立に設定すること。
【0079】
層の層形態および結晶構造は、それらが、一方において、通常の基板材料に適合し、かつ、他方において、全積層内部の多様な膨張係数への適合が可能となる形で基板温度を自由に選択しうるように、すなわち、個々の層の引張り応力および圧縮応力が、例えば、操作範囲の中央において、少なくとも部分的に互いを補完し合う形で基板温度を選択することが好ましいように、200℃〜700℃の基板温度範囲内で作製されうることが好ましい。
【0080】
したがって、本発明による方法の変形形態の一実施形態では、層の蒸着を、200℃〜700℃の基板温度で行う。
【0081】
本発明による方法のさらなる変形形態では、層を、積層内の層として作製する。
【0082】
固体電解質層の層形態は、稠密形態(ガラス形態)〜強い柱状成長形態で調整可能であることが好ましい。
【0083】
したがって、本発明による前記方法の使用の変形形態では、以下が適用される:層形態を、ガラス様形態〜柱状形態で調整しうること。
【0084】
また、例えば、古典的安定化剤についての費用的な理由で、古典的安定化剤の比率が低いYSZに代わり、古典的安定化剤を伴わずに、固体電解質として用いられるか、または立方晶相および正方晶相それぞれの成長基板として用いられるZrO2の、それぞれ立方晶相および正方晶相を合成しうることも好ましい。
【0085】
したがって、本発明による前記方法の使用の変形形態では、以下が適用される:固体電解質層を、安定化剤を伴わずに作製すること。
【0086】
前記方法の一使用は、層を、YSZに代わる成長基板として作製することを対象とする。
【0087】
一方で、固体電解質層と電極との間に単調勾配層を有するほか、他方で、インターコネクト間にも単調勾配層を有し、コーティング工程を中断する必要がないことが好ましい。これは特に、金属と金属窒化物との間の勾配、金属と金属酸化物との間の勾配のほか、金属窒化物と金属酸化物との間の勾配も達成可能であれば好ましいことを意味する。
【0088】
したがって、本発明による前記方法のさらなる変形形態では、以下が適用される:その厚さ次元の方向に層材料組成の勾配を伴う層を作製し、該勾配がZrからZrNへ、次いで、ZrOへ、次いで、ZrO2への勾配であることが好ましく、該形態および相を自由に選択しうること。
【0089】
本発明者らは、酸素−窒素含有量を変化させることにより作製される多層コーティングを特に重要であるとみなしている。
【0090】
したがって本発明による方法の変形形態の実施形態では、酸素/窒素含有量を変化させることにより、層を多層コーティングとして作製する。
【0091】
これに関して、材料系では、導電層ならびに絶縁層の両方が作製される可能性があり、積層の力学的安定性および構造的安定性のいずれにも有利な相が選択されるので、金属窒化物と各種の金属酸化物との間の遷移が、特に重要な役割を果たす。
【0092】
事実上すべての材料により、インターフェース相/中間層を自由に形成しうることが好ましい。
【0093】
言及した通り、ジルコニウムを金属成分として含む材料系では、形態および相の選択の自由を維持しながら、すべての層: Zr〜ZrN〜ZrO〜ZrO2を形成しうることが好ましい。
【0094】
焼結とは対照的に、立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態からはるかに隔たった低い基板温度で行うことが好ましい。
【0095】
これは、立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態には置かずに行う、本発明による方法の変形形態を結果としてもたらす。
【0096】
Zr-O層系を、例えば基板に適合する他の酸化物と組み合わせることが可能であれば、有利でありうる。
【0097】
例えば、イオン伝導度を増大させるためにはまた、他の金属酸化物および化合物を混合しうることも有利でありうる。
【0098】
これは、ジルコニウム以外の金属の酸化物を、層材料中に組み込む、本発明による方法の変形形態を結果としてもたらす。
【0099】
層の微結晶サイズは、特に、ナノメートルの範囲で調整しうることが好ましい。微結晶サイズがこのように小さいことにより、粒子が大型である材料と比べて、粒界に沿うイオン輸送が増大し、イオン伝導度の温度に対する依存性が結果として低下する。
【0100】
これは、層の微結晶サイズをナノメートルの範囲で設定しうることが好ましい、粒界に沿うイオン輸送を増大させるための本発明による方法の使用を結果としてもたらす。
【0101】
固体電解質層系は、例えば、それを覆う多孔性の保護層と組み合わせうることが好ましい。
【0102】
Al-O、Cr-O、Al-Cr-O、または力学的に安定なさらなる材料を添加することにより、力学的安定性を増大させ、具体的な微細構造を達成しうることが好ましい。
【0103】
作製法に関しては、以下の要件をその都度満たすことが好ましい。
【0104】
高温による焼結を、基板におけるわずかに200℃〜700℃の温度が必要である工程で置き換える方法を提供することが好ましい。
【0105】
異なる機能性を伴う複数の層が、固体電解質層へと問題なく結合することを可能とする方法を提供することが好ましい。
【0106】
粉末冶金により作製される材料を、中間金属化合物へと転換し、それを反応により蒸着し、それを基板上の層として凝縮する方法を提供することが好ましい。
【0107】
出発粉末のサイズから本質的に独立である方法を提供することが好ましい。
【0108】
他の材料系へと容易に導入しうる方法をもたらすことが好ましい。
【0109】
インターフェースを形成する可能性が、プラズマスプレーにおけるより高い方法を提供することが好ましい。
【0110】
電子ビーム蒸着とは対照的に、制御上の問題が見られない方法を提供することが好ましい。
【0111】
プラズマスプレーと比較してスパッターを低減し、四級酸化物への工程の拡張を簡便に可能とする、費用低廉な技法を用いる方法を提供することが好ましい。
【0112】
例えば、粉末冶金法またはプラズマスプレー法により作製することが可能であり、層に所望の成分を有する標的を用いる方法を提供することが好ましい。
【0113】
本発明者らは、ここで、以下の例で用いられ、特に安定的なコーティング工程をもたらすコーティング装置の具体的内容について述べる。上述の特許文献において説明され、特に、純粋な酸素流による工程の標的(スパーク放電の陰極)における酸化物コーティングの問題に関する方法とは対照的に、以下で言及される例では、特別に設計された陽極を伴うコーティング装置を用いたが、これにより、ジルコニア層の作製と直接的には連関しない、反応性スパーク蒸着の別の問題も解決する。反応性ガスとしての純粋な酸素中では、スパーク放電の標的だけでなく、その陽極もまた、酸化物層により被覆されうることを、当業者は承知している。したがって、WO2009/056173A1では、反応性ガスとしての純粋な酸素中でスパーク放電を行う条件下においても、その表面を導電性に維持する特殊な陽極(ホロー陽極)によるスパーク放電の実施について説明されている。これは既に、極めて安定的なコーティング工程を結果としてもたらしている。しかし、本説明では、多くの適用について、作製の達成が容易であり、維持についての要求がはるかに低廉である、陽極設計の改善について開示する。この陽極101の一実施形態を、図19bに表わす。図19aは、陽極101を、そのスパーク蒸着源107およびスパーク陰極111を伴うコーティング装置の構成要素として概略的に示す。陽極101は、付加電源109を供給される加熱コイル103を含む。陽極101の加熱コイル103は、接地することもでき、フローティング状態で操作することもでき、少なくとも部分的にはスパークスパークのための陰極表面として用いられる、シェル105から電気的に絶縁されている。
【0114】
本発明のさらなる態様では、
・陽極表面を伴う、陽極本体と、
・陽極本体からは電気的に絶縁されている、陽極表面に沿う加熱コイルと、
・陽極本体からは電気的に絶縁されている、加熱コイルのための接続部と
を含む、特に、本発明によるそれらの適用において、特に、前述の方法を実施するための、スパーク蒸着源用の陽極が提示される。
【0115】
図19bに示す通り、陽極101は、その表面を構成するシェル105上でコーティング操作を行うときに持続的に形成される酸化物層を、温度変化により破砕する形で、それが温度変化により変形するように設計されている。
【0116】
本発明による陽極の変形形態では、陽極本体が、シート材料で形成されている。
【0117】
本発明では、陽極表面から干渉被覆を少なくとも部分的に除去する目的で、加熱コイルを作用/脱作用させることにより引き起こされる温度変化下に陽極表面を置くことにより、陽極表面を変形させ、干渉被覆を破砕するように、このような陽極を伴うスパーク蒸着装置を作動させる。
【0118】
したがって、温度変化を誘導することにより、陽極表面の干渉被覆を持続的に除去し、その導電性を持続的に確保することが可能となる。コーティング装置では、これらのセルフクリーニング型陽極のいくつかを、コーティングの一様性を確保するように配置することができる。好ましい実施形態では、これらの陽極をまた、基板加熱装置としても同時に用いうる形で設計することができる。さらなる好ましい変形形態では、これらの陽極を、シャッターにより、スパーク蒸着源による直接的な被覆から保護することができる。
【0119】
後続の、本明細書の後出で論じられる手順例は、この新規の陽極配置により実施したものであるが、これらの使用が、ジルコニア層を作製するのに必須であるというわけではない。
【0120】
まず、立方晶相および正方晶相のそれぞれを含み、US20080020138A1と同様のスパーク蒸着源操作により加工されるZrO2層の合成について、例を示す。OC Oerlikon Balzers AG社製のスパーク蒸着源を、例えば、US20070000772A1において説明されている標準的な磁石システムと共に用いて、基板相(SL)ならびに機能層(FL)を、直径が160mmであり、厚さが6mmである標的と結合させた。
【実施例1】
【0121】
ステップ(A)
まず、層または層系を適用する基板のコーティング系の外側を清浄化する。これは、基板の材料およびその作製法に依存する。通常は、湿潤化学物質による処理、特異的なガス雰囲気中でのベーキング、または当業者に知られている他の方法を実施する。この場合は、湿潤性化学物質による処理を実施した。
【0122】
ステップ(B)
この趣旨で提供される保持固定具に加工物を入れ、該保持具を真空処理装置内に入れた後、処理チャンバーを約0.01Paの圧力まで脱気した。
【0123】
ステップ(C)
次いで、第1の真空前処理ステップでは、アルゴン−水素雰囲気中、スクリーンにより分離され、熱陰極を伴う陰極チャンバーと、陽極に接続された加工物との間で、輻射加熱装置の支援を伴う低電圧アークプラズマに点火するが、この加工ステップは、以下のパラメータ:
低電圧アークプラズマの電流: 150A
アルゴン流: 50sccm
水素流: 300sccm
工程圧力: 1.4Pa
基板温度:約500℃で安定化させる
工程時間: 45分間
により特徴づけられる。
【0124】
この加工ステップでは、基板を、低電圧アークプラズマの陽極として接続することが好ましい。
【0125】
ステップ(D)
この加工ステップでは、基板への層の結合を改善するために、基板のエッチングを行う。このために、フィラメントと補助陽極との間に低電圧アークプラズマを施す。好ましくは、加工物を負のバイアス電圧下に置く。このステップに典型的なパラメータは:
アルゴン流:60sccm
工程圧力:2.4Pa
低電圧アークプラズマのスパーク電流: 150A
基板温度:約500℃
工程時間:30分間
バイアス:200V(より集約的なエッチング効果をもたらすには、最大1200V)
である。
【0126】
ステップ(E1)
酸化物を基板上に直接蒸着することもできるが、本明細書では、金属基板上に酸化物を結合させるのに特に適する層序列であって、まず、中間層または保護層(SL)を用いてから、機能層(FL)自体を蒸着する層序列について説明する。これは、第1のZrN層を基板上に蒸着することである。
【0127】
したがって、金属表面に支持層を蒸着し、次いで、支持層上に該層を蒸着するという趣旨で、蒸着基板が金属表面を有し、支持層が、Zrを除く金属、窒化物、または酸化物、好ましくはZrNからなることが好ましい、本発明による方法の変形形態が結果としてもたらされる。
【0128】
以下のパラメータ:
各々が200Aのスパーク電流を伴う、4つのZr元素標的(当然ながら、この数に限定されず、用いられる標的数の不可欠な変更は、当然ながら、圧力および酸素流それぞれの調整に反映されなければならない)の操作
全圧の3.5Paへの制御、すなわち、3.5Paの全圧を、コーティングチャンバー内で常に維持する形で、流量計により窒素の取込みを制御しなければならない
基板バイアス: -60V(ただし、-10V〜-1200Vの範囲が可能である);25kHzの周波数に対応する、負のパルス幅36マイクロ秒、および正のパルス幅を4マイクロ秒でパルス印加される、双極性バイアス
基板温度:約500℃
工程時間:5分間
を用いる。
【0129】
ステップ(F1)
さらなるステップでは、以下の工程パラメータ:
酸素の取込み:以下を参照されたい
工程圧力: 3.5Pa(やはり全圧制御を伴う)
スパーク電流: 4つの元素Zr標的の各々について200Aずつ
基板バイアス: -40V(双極性)
基板温度:約500℃
工程時間: 40分間
で、流量計を介して酸素を添加することにより、機能層自体への遷移を生じさせる。
【0130】
説明した通り、300sccmの酸素を添加すると、SEM(走査電子顕微鏡)により記録されるその破断断面が図1aおよび1bに複製されている層(試料793を参照されたい)がもたらされる。
【0131】
酸素の取込みを0〜400sccmとしたところ、Table 1(表1)に記載される形で、層が作製された。破断断面のSEM写真もまた撮影した。図は、以下の試料を示す。
図2:試料777(0sccmのO2)
図3:試料778(50sccmのO2)
図4aおよび4b:試料779(200sccmのO2)
図5aおよび5b:試料799(250sccmのO2)
図6aおよび6b:試料780(400sccmのO2)
【0132】
実施例1で説明した工程は、純粋な反応性ガス雰囲気中で、すなわち、アルゴンを伴わず、その都度、Zr-Nを作製するにはN2を伴い、またはZr-Oを作製するには酸素を伴って操作された「純粋」スパーク標的、すなわち、古典的安定化剤を伴わないZr元素によるスパーク標的に基づく。層の遷移部分では、窒素−酸素のガス混合物により標的を加工する。工程は、全圧制御下において行う、すなわち、酸素の添加は、同時的な窒素の減少を意味する。実際のところ、これは、酸素流を最大約1000sccmとしても、加工チャンバー内には、なおある量の窒素雰囲気が存在することを意味する。本実施例では、窒素を、反応性ガスの添加量を減少させるガスとして用いた。もっぱら酸素だけを用いると、ある程度の層の厚さから裏付けられるように、約350sccmで酸素を付加しても、望ましくない単斜晶相が結果として得られる。
【実施例2】
【0133】
工程のさらなる変形形態ではいよいよ、機能層を合成するための組成である85%のジルコニウム(Zr)および古典的安定化剤としての15%のイットリウム(Y)(Table 2(表2)もまた参照されたい)を伴う粉末冶金により作製された、合金標的(本実施例では、各回2単位ずつ)を用いる層を作製する。中間層または支持層を作製するためには、ここでもまた、2つのZr元素標的を用いた。
【0134】
まず、部分ステップ(A)〜(D)を、実施例1で説明した通りに実施した。
【0135】
まず、比較を目的として、安定化剤を伴わない層を作製する(ステップE1およびF1)。この趣旨で、ここでもまた、2つのZr(85%)/Y(15%)標的を、2つのZr元素標的で置き換えた、すなわち、中間層を作製するために、4つのZr元素による標的を操作した。
【0136】
ステップ(E2a)
以下のパラメータ:
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約5分間
により、これを行った。
【0137】
ステップ(F2a)
次いで、純粋なZr-O層(Yを伴わない)を層として蒸着し、したがって、これにはZr-Y標的を用いなかった、すなわち、4つのZr標的を引き続き操作し、実施例1の場合と同様、流量350sccmの酸素だけを添加した、すなわち、以下の工程パラメータ:
酸素の取込み:350sccm
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:4つの元素Zr標的の各々について200Aずつ
基板バイアス: -40V(双極性)
基板温度:約500℃
工程時間: 40分間
により加工した。
【0138】
このようにして達成された層(試料909)の破断断面を、図7aおよび7bに表わす。
【0139】
さらなる試験では、イットリウムによる安定化剤を伴う層系を作製する。したがって、さらに作製される層(910〜912)については、ステップ(E1)および(F1)を以下の通りに改変した。
【0140】
ステップ(E2b1)
このステップでは、2つのZr標的だけをコーティング装置内に残し、中間層を作製するように操作した。これは、以下のパラメータ:
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約7分間
により行った。
【0141】
ステップ(E2b2)
このステップでは、Zr-O-Nへの遷移がもたらされる。
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約3分間
【0142】
酸素を、50sccmから標準流量(試料に応じて、200sccm、300sccm、または350sccm;Table 2(表2)を参照されたい)へと漸増させた。
【0143】
ステップ(E3b3)
2つのZr(85%)/Y(15%)標的を、200Aのスパーク電流により2分間にわたり操作する。その後すぐに、元素Zr標的をオフに切り換える。
【0144】
ステップ(F2)
2つの元素Zr標的をオフに切り換え、さらに80分間にわたり、2つのZr(85%)/Y(15%)標的、およびTable 2(表2)に従う標準酸素流量により、コーティングを実施する。
【0145】
Table 2(表2)の、200〜350sccmの酸素流により作製された層について、ここでもまたSEMにより破断断面を解析した。図は、以下の試料:
図8aおよび8b:試料911(200sccmのO2)
図9aおよび9b:試料912(300sccmのO2)
図10 aおよび10b:試料910(350sccmのO2)
を示す。
【0146】
実施例3で説明されるさらなる実験では、どのようにすれば、立方晶ZrO2層または正方晶ZrO2層による基板へのコーティングを行う前に蒸着される層系においてもなお、結合の良好な中間層を作製しうるかについて検証した。したがって、これらの層系は、コーティング系外で、例えば、別のコーティング工程において作製することもでき、同じコーティング系内で前もって作製することもできる。
【0147】
これに関して、金属電極として、熱保護層として、摩耗保護層としての適用、およびセンサーとしての適用について典型的な、複数の層について検証した。本明細書では、例としていくつか:Al、Cr、Ti、Ta、Zr、TiN、ZrN、TiCN、TiAlN; Al、Cr、Ti、Ta、Zrの酸化物;四級酸化物および五級酸化物に言及する。
【0148】
この実施例3では、その後Zr-O機能層を蒸着する、TiCN層上の中間層の形成について、それに限定するわけではないが、より詳細に論じる。
【0149】
この試験では、Zr-O機能層に、今回は、組成がZr(92%)/Y(8%)である2つの合金標的を用いた。TiCN層は、工具コーティングおよび部品コーティングの分野の当業者に知られた層であり、その作製は、当業者に知られているとみなすことができる。
【0150】
Zr-Y-O層への結合は、全圧制御下で行うTiCN層の蒸着が終わる直前に、すなわち、窒素および炭化水素(例えば、C2H2)による反応性ガス混合物中でのTiスパーク蒸着相において、Zr(92%)/Y(8%)標的をともに作動させる形で生じる。数分間後、炭化水素ガスを漸減させると、Ti標的がTiCNコーティングへと切り替えられる。最後に、これもまた数分間後に、酸素を添加し、必要な酸素流へと漸増させる。
【0151】
このようにして作製した層を、Table 4(表4)に記載する。層は、200sccm〜400sccmの酸素流により作製した。これらの試料からもまた、破断断面を採取し、SEMにより検証した。
【0152】
図は、以下の試料:
図11aおよび11b:試料916(200sccmのO2)
図12aおよび12b:試料913(250sccmのO2)
図13aおよび13b:試料914(350sccmのO2)
図14aおよび14b:試料915(400sccmのO2)
を示す。
【0153】
ここで、上記で説明した実施例に基づき作製された、さらなる層の例を引用するが、各層の工程パラメータの詳細には立ち入らない。層の例は、該作製法により、Zr-O相を、問題なく他の層材料へと結合させうることについて記載し、さらに、形態、ならびに層構造およびそれらの相組成のそれぞれが、提起される作製法により容易に影響されることを示すだけのものとする。
【0154】
以下の図は、SEMにより解析された、これらの相の破断断面を示す。
【0155】
図15aおよび15bは、クロム−酸化クロム中間層に適用された厚いZr-O層(試料493)を示す。
【0156】
図16aおよび16bは、Zr元素標的および600sccmという高量の酸素流により作製されたZr-O層の微細構造を示す。インターフェースとしては、約500nmの薄いTiCNを選択した。
【0157】
図17aおよび17bは、約3.5μmの厚いTiCN層上に蒸着したZr-O層の比較を示すが、ここで、図17a(試料767)は、US20080020138A1に従い操作したものであるが、図17b(試料769)は、US20070000772A1において説明される通りにパルス印加したものである。
【0158】
図18aおよび18b(試料995)は、Zr-Y-O機能層を、厚いCrN層上のZr(92%)/Y(8%)標的により蒸着した試料の破断断面についての、さらなるSEM解析を示す。
【0159】
上記で例として示唆された、該方法により作製された層について解析し、ここでより詳細に説明する。
【0160】
まず、Table 1(表1)に記載される、実施例1による層について論じる。一方で、解釈は、視斜角入射回折下におけるXRDの測定値が1であることに基づき、検証される層の全層厚が約5μmである場合は、このXRD測定値が1であることにより、基板近傍における層領域の影響がほぼ除外されるか、または強く制約され、したがって、SLの影響がほぼ除外されるか、または強く制約される。
【0161】
他方、層組成を決定するために、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)およびERDA(弾性反跳粒子検出解析)を実施した。これらの結果もまた、Table 1(表1)に記録されている。
【0162】
試料799については、図26aが、例としてRBSスペクトルを示すが、これは、解析の後において、Zr1O1N0.6の層組成を示唆する。この試料の窒素および酸素の比は、ERDAにより、より正確に決定した。対応する測定値を、図26bに表わす。
【0163】
試料777(図2)については、4つのZr標的を、純粋な窒素中で操作した。XRDスペクトル(図20)は、立方晶構造(a=4.575Å)を伴うZrNのブラッグピークを示す。RBSによる層の解析は、Zr1N1.1として説明することが可能であり、他の層組成を示唆しない組成をもたらした。窒素が10%の「化学量論過剰」であることは、RBS法の光学要素の誤差範囲内にある。この誤差範囲はまた、酸素−窒素比(O/NおよびN/Oのそれぞれ)(結果はまた、Table 1(表1)にも示す)をより正確に決定する目的で試料に対して実施された、OおよびNについてのERDA解析を行う理由でもあった。
【0164】
50sccm(試料778)および200sccm(試料779)で酸素を添加することにより、XRD後においても立方晶構造が本質的に維持される。層組成については、50sccm(試料778)のとき0.12であるO/Zr比が、200sccm(試料779)のときは0.74に増大する、すなわち、いずれの場合においても、窒素に加えて酸素も層内に組み込まれる。立方晶構造が保持されているにもかかわらず、いずれのプローブにおいてもブラッグピークが増殖しており、これは、ZrO(a=4.62)もしくはZr(O,N)もしくはZrO2-x、またはこれらの立方晶相による混合物が形成されていることを示唆する。200sccmでは、ZrOの一酸化物による立方晶相が存在することに加えて、わずかな比率ながらZrO2の斜方晶相を示すピークが存在する。
【0165】
250sccm(試料799)以上では、立方晶相および正方晶相のそれぞれ、おそらくは、図21のXRDスペクトルにおいて拡大された形で表わされる、(111)面および(200)面におけるピークにより示唆される相混合物が形成される。小型の微結晶サイズであるこれらの2つの相は、XRDスペクトルに基づいて分離することがほとんど不可能である。
【0166】
300sccmでは、この相およびこの相混合物それぞれの結晶度が増大するが、400sccmでは、この結晶度が、立方晶相および正方晶相のそれぞれの部分を伴う単斜晶相の結晶度へと明らかに変化する。酸素流の上昇はO/Zr比の上昇とN/Zr比の下降を伴う(表1)。
【0167】
これらの測定の結果のまとめとして、元素Zr標的を用いる反応性スパーク蒸着について上記で説明したコーティング工程により、立方晶ZrNから立方晶ZrN/立方晶ZrO(一酸化物)の混合物への遷移、および最終的には、ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相、またはこれらの相混合物への遷移を達成することが可能である、すなわち、窒素または立方晶ZrNが、ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相を達成するために、ある種の新規の「安定化剤」として機能する、ということが可能である。
【0168】
具体的な利点は、同時に全圧を制御しながら、酸素ガス流を変化させるだけで、遷移の全体を達成しうるという事実であり、これにより、文献においてこれまでに知られている安定化剤なしに、立方晶および正方晶それぞれのZrO2を作製することができる、極めて簡便な工程が開発された。
【0169】
さらなる結果としては、以下について言及することができる。
【0170】
まず、定期的に少量の酸素流を注入することにより、完全な立方晶相を有するZrN/Zr(O,N)の多層系(試料777/779と同様)を創出することが可能である、すなわち、立方晶ZrNと立方晶Zr(O,N)との間を常に切り替えることが可能である。
【0171】
他方、これらの多層系はまた、まさにそこにおいて窒素による安定化と単斜晶相の形成との間の遷移が生じる、酸素流領域においても合成することができ、したがって、窒素部分を伴う(立方晶Zr(O,N)部分を伴う)ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相と、窒素部分を伴わないZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相との間でも、多層構造を創出することができる。しかし、このための条件は、窒素を伴わない層を、単斜晶相への切り替えがいまだ生じない程度に薄く保つことである。層の全体を、400sccmの酸素流により作製したにもかかわらず、図6a(試料780)は、FLの約1.7μm以降で、稠密構造から柱状構造への形態変化を呈示している。この変化は、立方晶構造および正方晶構造のそれぞれから単斜晶構造への相変化を伴う。したがって、これは、ある時間にわたっては、層内に窒素を組み込まなくても、立方晶相および正方晶層それぞれの成長を達成しうることを示す。(表1、試料780)または、言い換えれば、Nによる安定化は、それ自体が窒素を特徴としなくとも、窒素を含有する基底層を介して、ある時間にわたって安定化される層を結果としてもたらす。
【0172】
金属基板または金属層への良好な結合ならびに層成長を、1つの材料系だけに基づいて達成しうるため、この工程解決法のさらに別の態様は、基底をなす基板または層系へとZrNを使い徐々にZr-O層を適正に結合させうる適用に関与しうる。
【0173】
SEMを検証することによる破断断面図は、これを裏付けている。例えば、図1b、4b、および6bが、厚さ約500nmのZrNによる中間層(SL)の機能層(FL)への結合が緊密であることを示すのに対し、図18bは、高酸素含有量のZrO2への移行が極めて短時間しか保たれなかったので、結合がかなり劣悪であることを示す。
【0174】
実施例1による層の解析は、層形態が、酸素流と共に変化するという、別の驚くべき結果を示す。ZrN(図2)は極めて緻密であるが、開始時における層は、微小粒子化するか、またはアモルファス状態となっている(図3および4)。酸素流をさらに増大させると、ますますより顕著な垂直構造が層成長にもたらされ(図5および1)、これは最終的に柱状構造へと至る(図6)。これらの結果は、例えば、燃焼機関の分野において、相手部品の摩耗を低減する目的で、タービンブレードまたは他の部品の導入工程など、摺動系を最適化するために、例えば、硬質の立方晶相を、軟質の単斜晶相(図6と同様の相)により被覆する適用を可能とする。
【0175】
他方また、同時に相を変化させることなく、層形態を変化させうることも所望されることが多い。このための条件は、酸素流から独立ではないか、または少なくとも大きくは独立でない安定相を生成させることである。
【0176】
これが、実施例2により実施された、さらなる工程開発への動機づけであり、その結果を Table 2(表2)にまとめた。試料909の場合は、ここでもまた4つの元素Zr標的を用い、ここでもまた約500nmのZrNによる中間層上に、350sccmの酸素流により、Zr-O-N層を蒸着した。図22におけるこの層のXRDスペクトルは、ZrO2の単斜晶相のブラッグピークを明確に示している。これは、実施例1により作製された層の結果と符合し、この場合、300sccm〜400sccmの酸素流により、立方晶相および正方晶層のそれぞれが、単斜晶相へと切り替わる。窒素のバックグラウンド圧力(全圧制御)にもかかわらず、該層は、ERDA後の層内で窒素部分を示さなかった、すなわち、N含有量は1%未満である。しかし、これもまた、400sccmでは層中にNが見出されない実施例1による試料とほぼ符合する。層形態(図7)もまた、少なくとも表面近傍の領域では、試料780の形態と同等であり、柱状構造を呈示する。
【0177】
次いで、2つの純粋Zr標的により中間層を合成する一方で、機能層(FL)には2つのZr(85%)/Y(15%)標的を用いる形で、Table 2(表2)のさらなる層を作製した。ここでは、層形態を改変する目的で、酸素流を変化させた。
【0178】
試料991(200sccm)については、図8において、比較的緻密な層形態を見ることができる。酸素流をさらに増大させると、層は、ますます明確な形で柱状成長を呈示する(図9および10における試料912および910)。Zr/Y標的によりFLを作製したプローブのXRDスペクトルを、図23に表わす。
【0179】
酸素流とは独立に、すべての層について、ZrO2の立方晶構造によるブラッグピークを見ることができる。強度の低い少数のブラッグピークはおそらく、ZrNによる中間層(立方晶相および六方晶相)に由来する。2Θ≒30°および2Θ≒50°における立方晶相に由来するピークについてのより詳細な解析を、Table 3(表3)に導入する。これにより、酸素流を増大させると、FWHM(半値全幅)が小さくなるので、より高度の結晶度(より大型の微結晶)がもたらされると結論付けることができる。スペクトルでは、ZrO2の正方晶相に典型的であり、結晶度レベルがこのように上昇したときに見られるはずの、2Θ≒43°におけるピークが示されていないので、本質的にこれらすべての試料には、ZrO2の立方晶相だけが存在し、ZrO2の正方晶相は存在しないと結論付けることができる。また、古典的安定化剤のために、本質的に高量の酸素流において(例えば、1500sccmの酸素流において)もまた、立方晶相が存在を維持し、単斜晶相へと転換することがないことにも言及すべきである。
【0180】
これにより、実験から以下の重要な結果が得られる。焼結法および他の方法により知られている古典的安定化剤を、スパーク蒸着に用いられる標的へと導入すると、ZrO2の正方晶相および立方晶相がもたらされて安定化する。XRDにおいて明確に目視可能である通り、Yを安定化剤として用いる場合は、Yが標的成分の8%を超えると、立方晶相が達成される。この濃度未満の層内では、立方晶相と正方晶相との相混合物が見出される(さらに以下の実験を参照されたい)。実施例1による試料の場合と同様に、立方晶相はまた、酸素流を増大させても変化しない。実施例1による層とは対照的に、全圧は3.5Paに設定したが、酸素流を200sccmとしたときに既に、窒素は層内に組み込まれなくなった。これらの条件において、3.5Paの全圧を得るには、例えば、300sccmの酸素流に対して、約800sccmの窒素流を前提とする必要がある、すなわち、装置内にはかなり大量の窒素を存在させることになるが、これがZrO2中に組み込まれるわけではない。
【0181】
実施例3では、Table 4(表4)に記載されているZr-Y-O-(N)層を作製した。これらの例では、「外来」物質による層を用いた、すなわち、TiCNを中間層(SL)として選択した。ここでもまた、全圧制御によりZr-Y-O-N層へと遷移させた。しかし、今回は、Zr(92%)/Y(8%)標的を用いた。
【0182】
XRD測定の結果を、図24に表わす。その場合には純粋な立方晶相が現れない、2Θ=43°におけるブラッグピーク、および約2Θ=60°におけるピークの分裂が目視されるので、すべての層が正方晶相の優越を示している。しかし、これらの層内の立方晶相部分も除外することはできない。Table 5(表5)では、異なる酸素流について、2Θ=30°および2Θ=50°におけるブラッグピークのFWHMが示されている。したがって、これらの実験についてはまた、酸素流を増大させると、結晶度の上昇も観察することができる。標的中のYが8%に過ぎない状態で、酸素流を高量とした場合でもなお、単斜晶相が作製されず、正方晶相(おそらく立方晶部分を伴う)が安定を維持する形で、層は安定であった。
【0183】
図25にそのXRDスペクトルが示され、その工程パラメータおよび解析が、Table 4(表4)に部分的に包含されている、試料917には、顕著な、すなわち、厚い立方晶ジルコニア層が成長した。これにより、図25のXRDスペクトルにおける顕著なピークにより示される通り、主に、ZrO2の立方晶相がもたらされた。正方晶相に典型的である、60°におけるピークの分裂が存在しないことが注目される。
【0184】
結論付けるために、上記の方法により作製されうる他の層の例について論じる。
【0185】
図15は、クロム−酸化クロム中間層へと適用された、正方晶構造を有する厚いZr(Yは8%) O2層(試料493)の、SEMによる破断断面を示す。コーティングには、Zr(92%)/Y(8%)標的を用い、1500sccmという極めて高量の酸素流によりこれを行った。この工程では、全圧制御を用いず、一定の酸素流下でZr(92%)/Y(8%)標的の蒸着を行った。
【0186】
これは、「類縁」の材料を互いと結合させるための中間層としてまた、ここでは酸化クロムである酸化物も用いうることを例示している。これは、例えば、酸化物ではそれらの多くが同様である熱膨張係数を互いに適合させる必要がある場合に意味を持つ場合がある。
【0187】
図からは、高量の酸素流により、柱状構造が、高度の多孔性を伴い、したがって、より大きな表面を伴う、さらに稠密度の低い形態へと転換されることが見られる。このような表面は、検出される分子種のより迅速な拡散に寄与し、また、感度も増大させるので、センサー分野における適用に特に適する。XRDスペクトル(表示しない)は、立方晶相部分を伴う正方晶相によるブラッグピークを示し、窒素の全圧制御を伴わないときでもなお、正方晶相および立方晶相のそれぞれを作製しうることを示す。
【0188】
図16は、元素Zr標的により、およびまた、600sccmという高量の酸素流により作製されたZrO2層の微細構造を示す。インターフェースとして、約500nmの薄いTiCN層を選択した。ここでもまた、酸素流だけを制御し、窒素バックグラウンドによる全圧は制御しなかった。層は、単斜晶相を呈示する。層は、好ましい正方晶構造または立方晶構造を有さないが、とりわけ、相手部品の摩耗を防止するために、高温の導入層として組み合わせると、基板の保護に適する。
【0189】
図17aおよび17bは、約3.5μmのより厚いTiCN層上に蒸着したZr-O層の比較を示すが、ここで、図17a(試料767)は、US20080020138A1に従い操作したものであるが、図17b(試料769)は、US20070000772A1において説明される通りにパルス印加したものである。元素Zr標的を用いた。層の微細構造は、明確な差違を示す。図17bではより大型の結晶成長が見られる。いずれの層についても、XRDスペクトル(表示しない)は、単斜晶層を示唆する。
【0190】
図18aおよび18b(試料995)は、Zr-Y-O機能層を、厚いCrN層上のZr(92%)/Y(8%)標的により蒸着したプローブの破断についての、さらなるSEM解析を示す。ここでもまた、Cr-N-Zr-Yの遷移を選択し、次いで、窒素の全圧制御を3.5Paとして、600sccmの酸素を添加した。層形態は多孔性であり、したがって、層表面が大きい。XRDスペクトルでは正方晶相が優勢であったが、立方晶部分も排除できない。
【0191】
本発明は、単純な原材料により、ならびにこの原材料を介して、層特性を作製すること、とりわけ層の相組成に影響を及ぼしうること、およびこれを特異的にもたらしうることのそれぞれにより、ZrO2(立方晶相および/または正方晶相)を作製する他の方法から特に明確に区別される。
【0192】
材料を粉末形態で存在させ、これを高温で結合させる焼結工程との差違は明らかである。焼結工程で所望される材料を作製するには、高温が必要であり、これは、外来材料、例えば、安定化材料の添加、およびそれらの濃度に極めて強く依存する。極めて高い焼結温度が必要なので、材料によっては作製が不可能な場合もあり、少量での作製に限り可能な場合もある。これは、材料の範囲を制限し、かつまた費用効率も制約する。
【0193】
本発明による方法の差違はまた、坩堝内の、酸化物を含有する溶融物の組成および昇華させる材料の組成のそれぞれにおける変化、ならびに反応性ガスとしての酸素の複雑な制御のいずれとも直面する電子ビーム蒸着と比較しても明らかである。
【0194】
同じことは、合金の蒸着に関して、電子ビーム蒸着より問題は少ないが、それでも、標的の被毒を回避するためには、反応性ガスとしての酸素の複雑な制御を必要とする、スパッター法にも当てはまる。スパーク蒸着とスパッタリングとを組み合わせ、かつ、元素標的を用いる方法もまた、この問題を不十分な形で解決するに過ぎない。これらの方法は、一方ではスパッター標的、ならびに他方ではスパーク標的が被毒し、スパーク放電の陽極が酸化物層で覆われ、放電が中断されるので、反応性ガスとしての純粋酸素中で操作することができない。公刊物ではこの問題が論じられていないが、純粋酸素雰囲気中では工程を行わず、酸素をアルゴンによる加工用ガスに添加することに限るという工程指針からそれを推測することができる。
【0195】
文献において説明されている組合せ法とは対照的に、本発明では、Zr-Y-O2層を作製するのに混合標的を用いる。これらの標的は、既知の技法、例えば、HIP(熱間等方圧加圧)法で粉末冶金法を用いると作製することができる。この方法によれば、融点が極めて異なる材料を、焼結における場合のように溶融させる必要なしに、併せて稠密化することが可能である。この工程の後でも、材料はやはり、標的中で個別の材料として存在する。
【0196】
本発明の一実施形態による方法の1つの利点は、個別に存在する材料が、標的上を移動するスパークの効果の下にある、酸素中および窒素−酸素混合物中のそれぞれで操作するときに互いに合金化することである。スパークフットポイントにおける温度は、1000℃ほどに達しうるので、多様な濃度の安定化剤、例えば、標的表面において1%〜25%のYと併せて、Zrなどの高融点材料も、蒸気相へと遷移する直前に溶融する可能性がある。
【0197】
アルゴンガス中でこの工程を実施すれば、多数のスパッターがもたらされることになるであろう。反応性ガスとしての酸素中または窒素−酸素混合物中では、融点温度が異なるこれらの材料を、互いと良好に結合させることができる。標的表面における合金化工程は、1μm以下〜100μm以上の中程度のサイズの粒子を伴う粉末を用いうるので、標的を作製するための原材料の選択に多大の自由をもたらす。したがって、本発明による方法の変形形態は、アルゴンなどの加工用ガスを用いない方法である。
【0198】
US20070000772A1に従うスパーク蒸着源へのパルス印加は、標的表面におけるこの合金化工程またはコンディショニング工程を加速化させる。まず、標的表面においてコンディショニングを行い、次いで初めて、蒸着を行うので、蒸着された層内に粒子サイズの標的が再度見出されることはありえない。
【0199】
上記で論じた通り、微結晶サイズは、酸素流、基板温度など、容易に測定可能な工程パラメータにより、かつ、中間層を選択することにより制御することができる。
【0200】
本発明による方法に用いられる標的はまた、標的基板に金属層成分を蒸着するための前駆体としての金属−有機ガスを用いることにより、プラズマスプレーを介しても作製することができる。この標的作製法の利点は、該前駆体を濃縮することにより、一度に1つの合金だけが蒸着されることである。次いで、欠点は、HIP法により作製される標的と比べて、プラズマスプレーによる標的は多孔性が大きいことであるが、本発明による方法では、これを、原則として純粋な酸素雰囲気中で制御する。
【0201】
まとめると、当技術分野のこれまでの現況とは対照的に、合金によるスパーク標的は、原材料に比類のない再現性をもたらし、かつ、窒素−酸素による反応性ガス混合物の選択がほぼ自由な、フリンジ条件下にある酸素雰囲気中での標的操作の組合せにより、層形態を適合させることを可能とするほか、層の相を指定することも可能とするということができる。
【0202】
本明細書の以下では、本発明の最も重要な利点を、工程および層に従い配列する形で、再度列挙する。
【0203】
工程
例えば、安定化剤であるSt、例えば、Yなど、他の材料の添加下で必要とされる場合は、元素Zrの、および/または、Zrに由来する混合標的の反応性スパーク蒸着の工程は、それぞれ、立方晶および正方晶の、それぞれ、ZrO2およびZr-St-酸化物を簡便かつ費用効果の高い形で合成するのに適する。
【0204】
該工程は、濃度比が所望の層組成に従う標的を用いることを可能とする。このような標的は、例えば、HIP(熱間等方圧加圧)法またはプラズマスプレーにより、費用効果の高い形で作製することができる。プラズマスプレーの場合は、所望の合金を、あらかじめ標的へと蒸着することができる、すなわち、例えばZr96/Y4、Zr92/Y8、Zr90/Y10、Zr85/Y15の比で蒸着することができる。
【0205】
該方法は、同じコーティング系において、および同じ工程ステップにおいて、異なる層材料の合成による組合せを可能とする。
【0206】
該方法は、異なる材料間における結合を改善し、形態、微結晶サイズ、結晶構造、または相組成など、層の特性を特異的に適合させる目的で、これらの間における段階的な遷移をもたらす。
【0207】
酸化物層の破砕を引き起こす力学的変形が結果としてもたらされることと関連する、温度変化のサイクル(スイッチオンおよびスイッチオフ)を介して導電性に保たれるスパーク陽極を用いると、酸素雰囲気中でのスパーク蒸着を安定化させるのに寄与して有利である。
【0208】
窒素に対して全圧制御を施しながら、酸素流を制御することにより、異なる相のZrO2を合成することができる。窒素は、ある意味で、正方晶相または立方晶相の安定化を可能とすると考えられる。
【0209】
標的中に安定化剤を特定の濃度で添加する結果として、本質的に同じ濃度の層が合成される、すなわち、個別の元素標的による材料を蒸着する場合に必要とされる制御のための労力は必要とされない。安定化剤の濃度は本質的に、合成される層の相およびその相組成のそれぞれを決定する。
【0210】
相および相混合物のそれぞれを維持しながら、古典的安定化剤を用いる場合には、酸素流および基板温度を介して層の微結晶サイズおよび形態を制御することができる、すなわち、相は、かなりの程度において、酸素流から独立である。
【0211】
元素Zr標的と、Zrに加えて固体の安定化剤も含有する合金標的とを組み合わせて用いてもまた、Zr-O層とZr-Y-O層との間の段階的な遷移が可能となり、この場合、層のY含有量は、0〜合金標的のY含有量、および当然ながらまた逆方向のそれぞれで変化させることができる。例は、安定化剤を含有する立方晶ZrO2層の合成であり、かつ、ジルコニアへの段階的な遷移は安定化剤なしに生じる合成、すなわち、ある厚さからは、安定化剤なしに、硬性の立方晶構造を、軟性の単斜晶構造に由来する構造と結合させる合成であり、次いで、これを、例えば、導入層として用いることができる。
【0212】
該方法は、気相により安定化材料を組み込むこと、例えば、広範にわたり論じた窒素の例を可能とする。これらの材料の組込みはまた、さらなる反応性ガス(窒素および/酸素に加えた)を取り込むことによっても拡張され、次いで、これも同様に層へと構成される。この例は、炭化水素、シラン、水素、ボラン、シアノ化合物である。窒素によるバックグラウンドの全圧制御を行わない場合はまた、このようなガスも反応性ガスとして、純粋な酸素に添加することができる。
【0213】
この方法によって与えられる、異なる層材料間で段階的な遷移をもたらす可能性は、熱膨張係数との関連で層材料を適合させるのに特に重要である(金属、金属窒化物、金属窒化炭素、金属酸化物の間における段階的な遷移)。このような段階化の可能性により、金属基板上に良好な結合を達成するという、これまで未解決の問題を解決することが可能となる。
【0214】
段階化の可能性はさらに、層の熱伝導特性の適合化も可能とする。測定値は、安定化された立方晶Zr-Y-O層について、1.8〜2.5W/mKの熱伝導特性(形態に依存する)を示している。この熱伝導度は、これもまた反応性スパーク蒸着により作製された他の酸化物層、例えば、AlCr-Oの熱伝導度(3.2など)より小さい。これにより、層系における熱伝導度の適合化が可能となる。
【0215】
本発明により、層形態および相組成に影響を及ぼす可能性はまた、層の硬度および強度などの力学的特性を調整することも可能とする。
【0216】
先行技術とは対照的に、合金標的の使用は本質的に、層内での標的成分の分離をもたらさない、すなわち、標的の組成は本質的にまた層内にも反映され、標的材料中の微結晶サイズとは独立な、層内での微結晶サイズをもたらす。
【0217】
該方法は、かなりの程度で、原材料中の粉末(標的)を、標的表面において金属間化合物へと転換するので、他の方法で生じるような標的材料のスパッター化を大幅に低減する。
【0218】
該方法は、イオン伝導度の増大に寄与する、事実上すべての安定化剤およびドーピング、例えば、US05709786において開示されている安定化剤の組込みを容易かつ可能とする。これは、簡便な形で行うことができ、事実上材料の制約を伴わない。
【0219】
層の微結晶サイズは、標的中で用いられる粉末の粒子サイズとは独立に調整することができる。
【0220】
真空工程を、純粋の粉末から作製される標的の使用と組み合わせることにより、他の物質による層の不純物が、1%未満まで低減される。
【0221】
標的上での合金工程は通常、迅速に行われ、一般に、中間層の品質を損なうことがない。しかし、必要な場合はまた、標的の前でシャッターを用いることにより、合金工程を基板上への層の蒸着から分離することもできる。
【0222】
本発明によるジルコニア層(本明細書の以下では「層」と称する)の利点:
層は、その中に「古典的安定化剤」部分、例えば、Y部分を有さないが、立方晶相または正方晶相を呈示しうる。
【0223】
層の、それぞれ、立方晶相および正方晶相は、立方晶の基板層上で成長させることができる。具体的な利点は、成長が、本質的にZrを金属成分として含有する立方晶相の基板層、例えば、立方晶ZrN、立方晶ZrO、または立方晶ZrO2および正方晶ZrO2のそれぞれにおいてなされることである。
【0224】
異なる相または相組成による層は、基板層への段階的な遷移を呈示することが可能であり、これは、N-O勾配に反映され、層内の深度プロファイルは、例えば、SIMSにより裏付けることができる。
【0225】
層の相またはその相組成は本質的に、200℃〜700℃の基板温度範囲内にとどまる。微結晶サイズだけが変化する、すなわち、低温では、層が、それぞれ、微晶質層およびアモルファス層となるのに対し、高基板温では、大型の微結晶が得られる。このようにして、結晶サイズがナノメートルの範囲にある層、および結晶サイズが最大100nm以上の層の両方を作製することができる。
【0226】
合成されるZr-O2層は、酸素に関して、準化学量論性であり、これは、RBS解析により実証することができる。このRBS解析ではまた、スペクトル中の元素であるZrとYとを容易に分離することができないという事実も考慮するが、酸化物を形成するときには、これらの効果を考慮した場合でもやはり、酸素およびZrのそれぞれに準化学量論性が生じる形で、Zr(ZrO2)の価数とY(Y2O3)の価数とが異なるので、評価においては、この準化学量論性を考慮に入れたことにここでは注目すべきである。
【0227】
層は、スパーク蒸着に典型的な金属のスパッター化を伴い、これは主に高融点のZrからなり、完全には酸化されていない。
【0228】
上記で説明された特性により、本発明の方法により作製される層は、異なる適用に極めて良好に適する。
【0229】
本発明によれば、スパーク蒸着により作製されたこのような層は、燃料電池における固体電解質として用いることが好ましい。
【0230】
良好なイオン伝導特性のために、層は、センサーにおいて完全に良好に用いることができる。
【0231】
上記で論じた通り、本発明により作製される層は、極めて良好な熱遮蔽層を形成し、したがって、例えば、タービンブレードおよびターボチャージャーなどの工具および部品を保護するのに用いることができる。さらに、本発明によるジルコニア層は、工具、および特に、例えば、ディスポーザブルの切削用インサートおよびドリルビットなどの切削工具の溶接に対する高温保護層として用いることができて有利である。
【0232】
層系が、ジルコニア層を単斜晶相で含む場合は、これを高温適用時における減摩層として用いることができる。
【0233】
本出願の枠組みでは、ジルコニア層を作製する方法であって、該ジルコニア層を固体電解質層として用いる場合、この固体電解質層を、段階的遷移を介して、他の基板および/または層と問題なく結合させうる方法が提起されている。
【0234】
提起される方法では、層形態の特定の変化を、層変化を伴わずに、容易に達成することが可能である。
【0235】
他方、本発明の枠組みでは、酸素流を変化させるだけで、層の相を変化させる、例えば、立方晶相から単斜晶相へと変化させることが可能である。
【0236】
本発明による方法の枠組みでは、系に窒素を組み込むことにより、古典的安定化剤の使用を、少なくとも部分的に、なおしばしば完全に回避しうることが示されている。特に、窒素を用いることにより、古典的安定化剤を伴わずに、立方晶相のZrO2を安定化させることが可能となる。
【0237】
本発明の方法により、特に、古典的安定化剤を用いる場合、酸素流および/または基板温度を変化させることにより、微結晶サイズを特異的に変化させうることが示されている。
【0238】
提起される本発明による方法の枠組みでは、融点が高い古典的安定化剤を、基板温度がはるかに低い層へと組み込むことが可能である。
【0239】
本発明による方法の枠組みでは、ナノメートルの範囲にある二重層を伴う多層構造を作製することができる。このような二重層の例は、ZrN/ZrOx遷移層、ZrO/ZrO2遷移層、ZrO2(正方晶または立方晶)/ZrO2(単斜晶)遷移層である。
【0240】
該方法に必要とされる原材料は、作製が容易であり、使用が容易であることが示されている。
【0241】
さらに、本発明の方法によれば、本質的に望ましくない成分を伴わずに層を達成しうることが示されている。
【0242】
本発明による方法の枠組みでは、0.1Paを超える酸素分圧により加工しうることが示されている。
【0243】
最後に、本方法により、立方晶ジルコニア層だけでなく、ジルコニア粉末もまた作製しうることに言及すべきである。この場合は、平均自由路長を大幅に短縮することに基づき、大部分の材料が、コーティングされる基板上に付着せず、チャンバー内に粉末として残存するほどの高レベルに、スパーク蒸着装置内の全圧を選択することができる。
【0244】
コーティングの前に、その後に適用されるジルコニア層により併せて除去されうるように、容易に除去可能な犠牲層により基板をコーティングすることもさらに可能であろう。犠牲層としては、例えば、噴霧が簡単な薄いグラファイト層が適する。
【0245】
9.表
【表1】
【0246】
【表2】
【0247】
【表3】
【0248】
【表4】
【0249】
【表5】
【符号の説明】
【0250】
101 陽極
103 加熱コイル
105 シェル
107 スパーク蒸着源
109 付加電源
111 スパーク陰極
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジルコニア層、ならびにジルコニアを含有する層および/または層系を作製する方法に関する。本発明はまた、ジルコニア層を伴う生成物、およびそれらの適用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアをベースにした層は、主に、例えば、固体電解質燃料電池におけるそれらの使用に関連する、それらの立方晶形態および/または正方晶形態において興味深い。
【0003】
しかし、ジルコニアをベースにした層のイオン伝導度、およびそれらの熱安定性はまた、それらがセンサー技術の分野でも用いられることを可能とする。
【0004】
例えば、US20040084309において説明されている通り、この分野でもまた、立方晶構造に依拠することが好ましい。この文献は、正方晶または立方晶であり、含有する単斜晶相の付加物が5モル%未満であるZr-O層に基づくセンサーについて説明している。温度変化のストレスへと曝露したときに、相転移における容量変化のために生じる亀裂の形成を回避しうる点で、単斜晶相を制限する必要性が実証される。単斜晶相は、安定化剤により回避される。101段落はまた、層が相変態時においてより安定的な形で挙動するので、層内の平均粒子サイズが小さい(2.5マイクロメートル未満である)と有利であることについても説明している。103段落では、正方晶相に対する立方晶相の好ましい比が示唆されている;立方晶相については(400)面であり、正方晶相については(004)面および(200)面である。
【0005】
良好な熱遮蔽挙動と関連する良好な力学的特性のために、層はまた、工具コーティング、特に、部品コーティングの分野において用いることができれば有利であろう。ここでの焦点は、摺動系の設計に当てられている。層の硬度が調整可能であることと関連して形態が調整可能であること、および他の酸化物層との組合せが容易であることを用いて、コーティングされる加工物/部品の摩耗および破断、ならびに相手部品の摩耗を最適化することができる。
【0006】
別の適用は、US20070004589において説明されており、正方晶Zr-Oおよび立方晶Zr-Oの混合物を、安定化剤を添加して、触媒に適用することに使う。
【0007】
ジルコニアをベースにした層は、主にZr-O、Zr-O-N、Zr-St-O、Zr-St-O-Nとしてのそれらの組成[式中、Stは、ZrO2の、それぞれ、立方晶構造および正方晶構造を安定化させることに寄与する安定化要素を表わす]との関連で説明することができる。安定化剤としては、Yを用いることが好ましい。当技術分野の現況では、ジルコニアをベースにした層を作製する各種の方法が知られており、本明細書の以下でもこれらについて簡単に説明する。
【0008】
a)焼結による層の作製:
US05709786およびEP00669901のそれぞれにおいては、Zr-Oによる固体電解質を作製する焼結工程が説明されている。安定化剤を添加して、Zr-Oのイオン伝導度を増大させること、ならびに金属粉末およびセラミック粉末との共焼結により、固体電解質と接触する接続部を創出することについて論じられている。この先行技術文献では、粒子サイズがナノメートルの範囲にある粉末は、イオン伝導度の温度依存性を低減し、焼結工程では粉末のサイズが小さいことが有利であり、焼結に必要とされる温度を低下させるという事実が、本質的な特徴として説明されている。これは、とりわけ、イオン伝導度を増大させるのに有利な一部の安定化剤を通常の粉末サイズで焼結しうるのは、極めて高温の場合に限られるという事実との関連で論じられている。該文献は、焼結工程における層の作製が困難であることについて説明し、粉末サイズを低減することによる可能な解決法を示している。層は、解析的に特徴づけられていないが、該文献は、層の硬度および摺動系におけるZr-O層の他の力学的特性を調整可能とする、具体的な適用の必要性を裏付けている。
【0009】
センサーにおいて用いるのに適する、US20040084309によるZr-O層もまた、焼結工程により作製されている。
【0010】
しかし、焼結工程では、必要とされる高温が、無視できない欠点をもたらす。これらの欠点を減殺するために、ナノメートル範囲の高価な粉末が原材料として用いられている。高融点材料の場合は、焼結工程を可能とするために、通常の焼結温度(約1500℃)をさらに上昇させなければならない。これは、US05709786において説明されている通り、高融点材料を安定化させる要素を添加する場合である。この文献からは、固体電解質層を、他の機能層(例えば、電極)ならびに力学的保護層および熱的保護層のそれぞれと組み合わせることが重要であることも明らかである。これは、良好な積層を達成する(例えば、インターフェースの問題、層の安定性)には、機能を互いに適合させ、作製温度を互いに適合させる、完全な積層を作製する適用が必要であることを意味する。該文献によればまた、安定化剤を含む材料の点では、作製温度が高いことが有利であるが、これは容易に達成することができず、層化された化合物構造を達成することはさらにより困難であることが明らかである。
【0011】
さらに、焼結法により作製される層は、どちらかといえば緻密な材料であると考えなければならない。力学的な結合を確保するには、さらなる安定化(例えば、メッシュによる)が必須となることが多い。どのような構造のZr-Oが得られるかは、焼結温度に依存し、立方晶構造または正方晶構造を達成するには、安定化剤が必要である。該工程は本質的に、熱平衡において行われるため、この方法において生じる相は本質的に、相図において読み取られる相に対応する。極めて高温においてだけ焼結が可能であり、したがって、達成が技術的に困難であるか、また不可能でもある安定化剤が存在する。したがって、これは、可能な層の範囲を制約する。
【0012】
結合を確立するには異なる温度が必要であり、結合する材料は温度範囲を制約するので、焼結された層を他の材料と「接合」することは困難である。例えば、磁器など、層は脆弱であり、多層構造を作製することはほとんど不可能である。出発粉末および焼結工程により、作製される材料の粒子サイズが決定される。熱保護層または金属電極を適用するだけでも、1つの工程で行うことはできない。
【0013】
立方晶および正方晶それぞれのZrO2層を作製するには、原材料(粒子サイズ)が、焼結にとって根本的に重要となる。いずれの場合にも、原材料の再現性を確保するには、多大な労力が必要とされる。したがって、作製法を改善することにより、原材料(標的)の作製法ならびにコーティング工程の経過時間にわたる材料品質の安定性を確保するべきである。
【0014】
b)プラズマスプレーによる層の作製:
US20040022949は、プラズマスプレーにより作製される立方晶Zr-Oまたは正方晶Zr-Oによるガスタービンの摩耗保護コーティングについて開示している。水蒸気処理により、この層は、軟質の単斜晶構造へと変態し、ガスタービンで用いると、この単斜晶構造は、再度、立方晶構造または正方晶構造へと変態する。このさらなる層処理の目的は、相手部品を損傷させず、軟性層を適合させる形で、部品の導入挙動を設計することである。ここでもまた、通常の安定化剤を用い、酸化イットリウム(Y-O)は、0.3〜20モル%の範囲であることが示唆されている。
【0015】
US20050170200では、結合コーティング、部分的に安定化させたZr-O層、およびさらなる、完全に安定化させたZr-O層からなる熱遮蔽層が説明されている。こうして、部分的に安定化させたZr-Oの良好な力学的特性が、完全に安定化させたZr-Oの良好な熱保護特徴と組み合わされる。層は、プラズマスプレーにより作製されている。
【0016】
焼結法との関連で言及されたインターフェースの問題はまた、熱スプレー法においても存在する。ここでもまた、蒸着される層と、コーティングされる基板との良好な結合を達成することは困難である。さらに、この方法では、異なる材料間における段階的な遷移を達成することも困難である。
【0017】
焼結の場合と同様に、電子ビーム蒸着の場合においても、高品質の立方晶および正方晶それぞれのZrO2層を作製するには、原材料(前処理した坩堝材料)が、根本的に重要となる。いずれの場合にも、原材料の再現性を確保するには、多大な努力が必要とされる。したがって、作製法を改善するには、原材料(標的)の作製法ならびにコーティング工程の経過時間にわたる材料品質の安定性を確保するべきである。
【0018】
c)電子ビーム蒸着による層の作製:
US20060171813は、タービンブレードにおけるZr-O層の適用について説明している。Zr-OまたはHf-Oを含有する内側の厚い層上に、Zr-Oおよび金属酸化物、例えば、Ta-OまたはNb-Oからなる多層コーティングからなる、さらなる熱保護層を適用する。層は、電子ビーム蒸着により蒸着される。
【0019】
US20080090100A1は、電子ビーム蒸着により作製される熱遮蔽層について説明している。
【0020】
US05418003では、Zr-Oをベースにした熱遮蔽層を作製するのに用いられるPVD(物理気相成長)工程(電子ビーム蒸着)について説明されている。US06042878Aでは、蒸着時における噴出を低減するために、坩堝材料(インゴット)に対する特殊な前処理が示唆されている。
【0021】
US6586115では、熱遮蔽コーティング(TBC)を適用するための各種のPVD法およびCVD(化学気相成長)法について言及されているが、該工程のさらなる詳細には触れられていない。これとの関連で、イットリアにより安定化される酸化物の電子ビーム蒸着にも言及されている。
【0022】
電子ビーム蒸着は、真空下で行われ、基板表面を、プラズマ処理により清浄化および活性化しうるので、一般に良好な結合を可能とする。にもかかわらず、電子ビーム蒸着において蒸着される材料のイオン化度は低く、このため通常は、熱保護層には所望されるが、結合の態様を考慮すると他の適用には欠点となる層の、柱状成長が可能となるに過ぎない。蒸気のイオン化度が高ければ、基板のバイアスを介して、層合成により高度のエネルギーをもたらすことが可能となり、したがって、安定化剤を組み込まなくても、ZrO2において正方晶構造または立方晶構造に到達するためのより良好な条件を創出することが可能となることを考慮すると、蒸気のイオン化度を高めることが有利であろう。しかし、これは、電子ビーム蒸着または他のPVD工程において達成されていない。この方法のさらなる実質的な欠点は、可能な限りスパッターフリーの蒸着を達成するためには、かなりの労力を費やす必要があることである。実際、蒸着された層を安定的に酸化させうるためには、坩堝材料に酸化物を添加すること、および酸化物だけを用いることのそれぞれを行う。これらは絶縁性なので、電子ビームによる酸化物の溶融および昇華のそれぞれは、スパッターに関して問題があるだけでなく、坩堝材料の相分離に関しても問題がある。これらはいずれも、複雑な工程手順に反映されている。さらに、層に十分な酸素を供給するためには、工程において、反応性ガスとしてのさらなる酸素を添加することが必要である。
【0023】
電子ビーム蒸着では、材料が急激に溶融するという事実に、さらなる問題を見ることができる。このために、坩堝内で急な温度勾配が形成され、これにより坩堝が破断し、使用不能となることもまれではない。ジルコニアに関するこの問題は、US06143437において扱われている。そこで用いられる坩堝は既に、立方晶相の酸化ジルコニウム粉末を含む。
【0024】
US20070237971もまた、電子ビーム蒸着のために、特殊なセラミック粉末成分を伴う標的の使用について開示している。この標的を作製するための煩瑣な方法については、US20080088067において説明されている。しかし、該工程の使用は、それに伴う費用によりかなり高価なものとなる。
【0025】
電子ビーム法により作製される層は通常、金属蒸気のイオン化度が、基板表面における可動性を増大させるには低すぎるので、層の柱状構造が可能となるに過ぎないことを、再度強調しなければならない。これは当然ながらまた、層構造に対する影響も制約する。溶融についての配慮も、この方法の別の弱点である。層組成に影響を及ぼす相分離を回避するように、極めて注意深く煩瑣な形で溶融について配慮しなければならない。合金の蒸着はほとんど不可能である、すなわち、化学量論性の層を無理なく達成するには、酸素の添加を伴う、技術的にさらにより困難な酸化物の蒸着を用いることが必要である。
【0026】
d)イオンビーム支援蒸着(IBAD)による層:
US20020031686は、とりわけ、SiO2層上に、配向性の強いYSZ(イットリア安定化ジルコニア)(二軸配向YSZ)を作製することを可能とする、IBAD法について開示している。図は、YSZのXRDスペクトルの(200)面および(400)面における反射を示す。この適用におけるYSZは、この適用ではCe-O層、Ru-O層、および/またはLSCO(ランタンストロンチウムコバルト酸化物)層である後成層の成長基板として用いられる。その目的は、YSZ基板が必要とされるこれらの材料から、導電性酸化物を作製することである。この文献では、700℃の基板温度で蒸着したYSZ層の作製についての例が示されている。さらなる証拠を示すことなく、該工程を、450℃〜600℃の低温へも拡張しうることがさらに主張されている。層を、既に作製されている基板、例えば、半導体の分野ではSiウェハー上に蒸着する場合は、工程温度が低いことが、所望の特性または条件である。文献US20020031686は、2Θを20°〜80°の範囲とするYSZについてのXRDスペクトルの(200)面および(400)面における反射について開示している。該IBAD法は、US05872070において説明されている。
【0027】
IBAD法は、まずは、材料をアブレーションし、次いで、真空下で蒸着される材料に、ある成長方向を方向づけるための、表面のボンバーディングに基づく。この点における問題は、この技法による成長速度が低く、大きな表面にわたり廉価で大量の材料を蒸着する適用には適さないということである。
【0028】
それについて正方晶および立方晶それぞれのZrO2において最高の強度が予測される、US20020031686における反射(2Θ=30°および50°での反射)を証拠立てることがほとんど不可能であることは、注目に値すると考えられる。これは、イオンボンバードメントを介するIBAD法が、ざらつきの強い層をもたらし、立方晶YSZが実際にどれほどの比率で存在するかは疑問視されることを示唆する。しかしまた、この工程では、ZrO2において顕著な立方晶相を達成するには、結局、700℃の基板温度では不十分であることも重要である。
【0029】
e)組合せによるPVD(物理的蒸着)工程(スパッター蒸着/スパーク蒸着)による層:
J. Cyvieneら、Surface and Coatings Technology、180〜181(2004)、53〜58頁では、スパッタリングとスパーク蒸着との組合せについて説明されている。これとの関連で、スパーク蒸着にはZr標的が用いられ、スパッター源にはY標的が用いられている。工程は、0.2Paの工程圧力下で実施され、0.08Paの最大分圧までの酸素が、アルゴンに添加される。
【0030】
しかし、Cyviene、Surf.Coat.Tech、180〜181、2004において説明されている、スパッタリングとスパーク蒸着との組合せ法は、作製法および蒸着される層のいずれに関しても、複数の問題を投げかけている。該文献は、スパッター標的被毒の問題を扱っている、すなわち、該文献は、スパッター標的を操作するときは、金属モードへのエッジ部分で加工しなければならず、これには、集約的な工程制御が必要とされることについて説明している。スパッター操作およびスパーク蒸着操作はいずれも、加工用アルゴンガス中で行われ、酸素は少量添加されるに過ぎない。純粋な酸素中での操作については説明されていないが、説明されている条件下では、さらなる手段を講じない限り、完全な不安定性がもたらされる:スパッタリング率はほとんど無化され、スパーク標的およびスパーク陽極が自己酸化するためにスパーク蒸着が不安定となり、最終的には、DCによるスパーク放電が中断されることになる。
【0031】
Cyvieneは、本発明により回避される、組合せによるスパッター−スパーク蒸着の層側の問題について説明している。アルゴン中に酸素を添加したZr標的によるアーク放電は、合成される層において、立方晶相および正方晶相のそれぞれをもたらすことがなく、単斜晶構造が達成されるに過ぎないことが説明されている。YSZが立方晶相および正方晶相のそれぞれにおいて顕示されるのは、スパッター工程にわたり、安定化剤としてYを添加することを介する場合に限られる。これはまた、US20080090099A1(表3)において説明される通り、もっぱら酸素雰囲気だけを伴う安定的なアーク蒸着工程において、かなりの高圧でもまたZrO2の作製を敢行したが、やはりまた、該文献において説明される材料系であるAl-Cr-Oにおける「高温」コランダム構造のまったくの対蹠物である、ZrO2の、それぞれ立方晶構造および正方晶構造を裏付けることはできなかった、本発明の発明者らによる実験においても偶然に確認されている。
【0032】
Cyviene、Surf.Coat.Tech、180〜181、2004におけるXRDスペクトルからは、別の問題が明らかとなる。Y-Oの六方晶相およびZrの六方晶相のブラッグピークを見ることができるが、これらは、固体電解質層または熱遮蔽層としての適用における場合と通常同様に、熱ストレスの変化が生じれば、本質的な形で層の不安定性に寄与しうる層成分である。
【0033】
これらの問題はまた、IBADと関連して生じる問題:標的被毒の徴候、層成分が他の材料成分を含有すること、および結果として、200℃〜600℃の低基板温度において合成される層の結晶構造を制御することが困難となることとも部分的に重複する。
【0034】
さらに、既に上記でさらに観察されている通り、それについて正方晶および立方晶のそれぞれのZrO2において最高の強度が予測される、US20020031686における反射(2Θ=30°および50°での反射)を証拠立てることはほとんど不可能である。したがっておそらく、立方晶YSZの存在比率は極めて低い。
【0035】
f)他の方法:
US20060009344は、Zr-Oの単斜晶構造および立方晶構造の両方の成分を含み、したがって、真の立方晶Zr-O層へのより良好な結合を創出するのに特に適する、Zr-O基板の作製について説明している。その方法とは、エアゾールによる「CVD」法である。ここでもまた、粒子サイズを5nm〜1000nmとすべきであり、また、4モル%〜8モル%のY-OによりZr-Oが安定化されるという事実が、特に強調されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】US20040084309
【特許文献2】US20070004589
【特許文献3】US05709786
【特許文献4】EP00669901
【特許文献5】US20040022949
【特許文献6】US20050170200
【特許文献7】US20060171813
【特許文献8】US20080090100A1
【特許文献9】US05418003
【特許文献10】US06042878A
【特許文献11】US6586115
【特許文献12】US06143437
【特許文献13】US20070237971
【特許文献14】US20080088067
【特許文献15】US20020031686
【特許文献16】US05872070
【特許文献17】US20080090099A1
【特許文献18】US20060009344
【特許文献19】US20070000772A1
【特許文献20】US20080020138A1
【特許文献21】WO2009/056173A1
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】J. Cyvieneら、Surface and Coatings Technology、180〜181(2004)、53〜58頁
【非特許文献2】S.C. Singhal、「Recent Progress in Zirconia-Based Fuel Cells for Power Generation」、Fifth International Conference on Science and Technology of Zirconia、8月16〜22日、1992、Melbourne、Australia
【非特許文献3】J. Am. Ceram. Soc.、33(1950)、274頁
【非特許文献4】J. Mater. Sci.、35(2000)、5563頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0038】
説明したすべての方法により、当技術分野の現況では、ジルコニア層の改善が強く必要とされているほか、このような層を作製する、費用効率が高く、かつ、技術的に実現可能な方法も必要とされているという結論がもたらされる。
【課題を解決するための手段】
【0039】
したがって、本発明は、上記で示した、当技術分野の現況に由来する問題を孕む程度が大幅に小さいか、またはこれを孕むことがない、ジルコニア層を作製する方法を提起することを目的とする。
【0040】
本発明はまた、高度に、かつ、層組成の大幅な変化を本質的に伴わずに、微結晶の形態、および特に、微結晶のサイズを制御することを可能とする、ジルコニア層を作製する方法も提起するものとする。
【0041】
本発明はまた、本質的に立方晶構造および/または正方晶構造を有し、立方晶ジルコニアではないまたは正方晶ジルコニアではない成分の含有量が、当技術分野の現況と比較して少ないジルコニア層を開示することも目的とする。これは、1または複数の古典的安定化剤を有する層、および古典的安定化剤を伴わない層の両方に関する。
【0042】
本説明の枠組みにおける古典的安定化剤とは、室温および通常の圧力下において、固体状態の物体としての純粋形態で存在する安定化剤を指す。このような古典的安定化剤の例は、イットリウム、マグネシウム、カルシウム、スカンジウム、および/または周期系IIIA族の希土類金属である。本発明者らはさらに、Sr、Ba、Ni、Fe、Co、La、Nd、Gd、Dy、Ce、Al、Bi、Ti、Tb、Eu、Smにも言及する。これらのいわゆる安定化剤はまた、合成される層において、酸化物または混合酸化物としても見出される。古典的安定化剤という概念はまた、上記で例として言及した物質の化合物にも当てはまるものとする。
【0043】
この目的は、パルススパーク電流および/または好ましくは、スパーク標的に対して垂直な弱い磁場を用いる、反応性アーク蒸着に基づく方法により達成される。層を作製する一般的な方法は、特許出願であるUS20070000772A1およびUS20080020138A1において既に説明されており、本明細書において既知であるとみなす。また特に、文献US20080090099A1も、ZrO2層の作製について説明している。その工程は、スパーク標的を、0.1Pa〜10Paの反応性ガス圧力下で操作しうる程度に安定的であるように設計されている。
【0044】
該文献で説明されている方法と対比すれば、基板上に立方晶構造および/または正方晶構造のジルコニアを蒸着するために、本発明ではさらなる手段を講じる。
【0045】
本発明の第1の実施形態では、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素と少なくとも1つの安定化剤とを含む混合標的を用いる方法により、該目的を達成する。
【0046】
この実施形態の変形形態では、層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製する。
【0047】
本発明の第1の実施形態によれば、本発明の一手段は、層中に所望の濃度比でジルコニウム元素および/または複数の古典的安定化剤を含む混合標的を、スパーク蒸着に用いることにある。パルススパーク電流により、かつ/または弱い垂直な磁場により、0.1Paを大きく超え、なお最大10Paであることが可能であり、これを超えることも可能な酸素圧力下で、問題を伴わずに、このようなジルコニウム−安定化剤混合標的を操作することが可能であるとわかったことは驚くべきことである。
【0048】
したがって、この実施形態の変形形態では、酸素分圧を、0.1Paを超えるように、好ましくは少なくとも10Paとなるように選択する。
【0049】
混合標的の濃度比は、本質的に基板上に蒸着される層の濃度比に再現され、これは本質的に酸素圧から独立である。
【0050】
したがって、この実施形態の変形形態では、層のジルコニアと安定化剤との濃度比が、本質的に、混合標的のジルコニウム元素と安定化剤との濃度比により与えられる。
【0051】
安定化剤の濃度が十分に高ければ、立方晶構造および/または正方晶構造が自動的に存在するための条件が満たされる。酸素圧は、分圧の場合もあり、全圧の場合もある。
【0052】
したがって、この実施形態の変形形態では、混合標的中の安定化剤の濃度を選択することにより、立方晶構造および/または正方晶構造を達成する。
【0053】
したがって、該工程では、酸素分圧を、層組成に関しては自由パラメータとして考え、これを調整することができる。他方、異なる実験は、驚くべきことに、酸素圧または酸素流を、層形態に対する影響の決定因子としてみなしうることを示している。したがって、本発明者らは、混合標的の濃度比を選択することにより層組成を選択することを可能とし、本質的にそれとは独立に、酸素分圧を選択することにより、例えば、微結晶のサイズ、または柱状成長の問題など、層形態を選択することを可能とする方法を発明した。この点では、比較的中程度の基板温度でこれを行いうることがさらに注目に値する。
【0054】
変形形態の実施形態では、立方晶構造および/または正方晶構造を達成することに関しては少なくとも本質的に自由設定パラメータである酸素分圧を、層形態を決定するのに用いる。
【0055】
以下でさらに詳細に論じる、さらなる変形形態の実施形態では、酸素に加えて窒素を反応性ガスとして用いる。
【0056】
本発明の第2の実施形態では、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素を含むジルコニウム標的を用い、反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いる方法により、言及した目的を達成する。
【0057】
したがって、この実施形態の変形形態では、層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製する。
【0058】
本発明のこの第2の実施形態によれば、本発明の第2の手段として、窒素を反応性ガスに添加する場合は、古典的安定化剤の使用を回避することが可能である。したがって、ジルコニウム元素標的を標的として用いることができる。これらのさらなる手段を伴わなければ、すなわち、窒素を伴わなければ、スパーク蒸着の過程で、単斜晶ジルコニア層が基板上に蒸着されることになるであろう。驚くべきことに、ある圧力条件およびガス流下で窒素および酸素を反応性ガスとして用いると、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造または正方晶構造で存在する層が結果として得られることが明らかとなった。したがって、対応する層のX線回折スペクトルが、立方晶化したZrO2の明確な反射を有するように、圧力比およびガス流比を選択することができる。
【0059】
したがって、この実施形態の変形形態では、スパーク蒸着工程における圧力比を設定することにより、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造および/または正方晶構造を有する層を生成させる。
【0060】
この方法では、酸素の比率をガス流制御デバイスにより設定することが好ましい一方で、窒素の比率は全圧制御デバイスにより選択する。本発明のこの第2の実施形態によるコーティングでは、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の基礎の上に、許容される程度に薄いが、立方晶構造で存在する、純粋なZrO2層、すなわち、安定化剤をまったく伴わないZrO2層をコーティングすることができる。
【0061】
したがって、この実施形態の変形形態では、ジルコニアをベースにした層を、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の上に、立方晶構造の純粋なZrO2層として蒸着する。
【0062】
厚い純粋なZrO2層、すなわち、窒素部分を伴わないZrO2層が、最終的には軟性の単斜晶相へと再度復帰するという事実は、例えば、減摩導入を必要とする一部の適用に用いることができて有利であり、これもまた、本発明の不可欠な部分である。したがって、この変形形態の一使用は、単斜晶相へと復帰しうる層を作製するための、好ましくは減摩導入のための使用である。
【0063】
既に示唆した通り、本発明の第3の実施形態では、本発明の第2の実施形態、すなわち、さらなる反応性ガスとしての窒素の使用と、本発明の第1の実施形態、すなわち、古典的安定化剤を含有するジルコニウム混合標的の使用とを組み合わせて実施する。これにより、安定化剤の濃度を他の通常の場合より低くして、立方晶構造および/または正方晶構造を作製することが可能となる。説明した第2の実施形態と比較すると、古典的安定化剤が、おそらくは低濃度ながら存在するために、酸素ガス流を特異的な形で調整しうる度合いが大きく、したがって、蒸着される層形態を特異的な形で調整しうる度合いが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1a】試料793の破断断面である。
【図1b】試料793の破断断面である。
【図2】試料777の破断断面である。
【図3】試料778の破断断面である。
【図4a】試料779の破断断面である。
【図4b】試料779の破断断面である。
【図5a】試料799の破断断面である。
【図5b】試料799の破断断面である。
【図6a】試料780の破断断面である。
【図6b】試料780の破断断面である。
【図7a】試料909の破断断面である。
【図7b】試料909の破断断面である。
【図8a】試料911の破断断面である。
【図8b】試料911の破断断面である。
【図9a】試料912の破断断面である。
【図9b】試料912の破断断面である。
【図10a】試料910の破断断面である。
【図10b】試料910の破断断面である。
【図11a】試料916の破断断面である。
【図11b】試料916の破断断面である。
【図12a】試料913の破断断面である。
【図12b】試料913の破断断面である。
【図13a】試料914の破断断面である。
【図13b】試料914の破断断面である。
【図14a】試料915の破断断面である。
【図14b】試料915の破断断面である。
【図15a】試料493の破断断面である。
【図15b】試料493の破断断面である。
【図16a】試料765の破断断面である。
【図16b】試料765の破断断面である。
【図17a】試料767の破断断面である。
【図17b】試料769の破断断面である。
【図18a】試料995の破断断面である。
【図18b】試料995の破断断面である。
【図19a】陽極を概略的に示す図である。
【図19b】陽極の一実施形態を表した図である。
【図20】試料777、778、779、799、793、780に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図21】試料799、793に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図22】試料909に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図23】試料910、911、912に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図24】試料913、914、915、916に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図25】試料917に関するXRDスペクトルを示す図である。
【図26a】試料799に関するRBSスペクトルを示す図である。
【図26b】試料799に関する窒素および酸素の比の対応する測定値を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
ここで、本発明を、詳細な例により、かつ、以下の複製、表、および図面に基づいて説明する。
【0066】
初めに、対応する方法および/または層が、どのような要件を満たすことが好ましいかを確立するために、可能な適用のうちの1つについてより詳細に論じる。この点では、該要件の列挙を、本質的に累加的なものとして理解すべきではないが、当然ながら、これらの特徴のうちの複数、なおまたはすべてが同時に満たされるなら有利でありうる。
【0067】
続いて、本発明者らは、達成することが好ましく、特に安定的なコーティング工程をもたらす手順の例に用いられるコーティング装置の具体的内容について簡単に述べる。
【0068】
その後、例として、異なるコーティング工程を列挙する。
【0069】
その後に初めて、このようにして作製される層を特徴づける。
【0070】
特徴づけの後、発見された特徴についての考察および解釈を行う。
【0071】
本発明のおそらくこれもまた発明的な使用と関連する1つの主題は、酸素イオンの伝導度が高く、固体電解質燃料電池に特に適する、層形態の材料の作製に関する。
【0072】
典型的な固体電解質燃料電池は、例えば、S.C. Singhal、「Recent Progress in Zirconia-Based Fuel Cells for Power Generation」、Fifth International Conference on Science and Technology of Zirconia、8月16〜22日、1992、Melbourne、Australiaにおいて説明されている。この文献によれば、多孔性電極(空気側の陰極、燃料側の陽極)に、固体電解質層自体をさらに施されなければならず、次いで、完全な燃料電池を作製するためには、この固体電解質層に「稠密」な付加的インターコネクトがさらに必要とされることが明らかとなる。したがって、燃料電池の設計は、熱的温度変化による強度のストレス下に置かれる完全な層系に基づく。これらの条件下で燃料電池を用いるには、拡散を回避するために、全積層の安定性の点で、かつ、層構造の安定性に関して、多大な要求がなされる。固体電解質およびその微結晶構造の化学的安定性が、特に重要である。この温度についての安定性は、特に、固体電解質において、温度により引き起こされる相変態がまったくまたはほとんど生じないことを伴う。「老化徴候」または性能の低下を克服するために、燃料電池内部における拡散過程の、それぞれ、制御および回避もまた重要である。燃料電池を構成する各種の層材料間における熱膨張係数の適合が、燃料電池の安定性にとっては極めて重要である。
【0073】
これらの一般的な考察に基づき、本発明者らは、固体電解質層および燃料電池の全積層に対して課される以下の具体的な要件に想到したが、これにより、燃料電池の固体電解質層を作製するための、これまで論じてきた本発明による方法の使用がもたらされる。
【0074】
固体電解質層としてジルコニア層を用いる場合、単斜晶構造への相変態を回避するためには、ジルコニア層が、主に立方晶および/または正方晶のZrO2からなることが好ましい。
【0075】
古典的安定化剤を用いる場合、それらの組込みは問題を伴わないことが好ましく、作製法により古典的安定化剤の自由な選択が制限されるべきではない。
【0076】
したがって、前記本発明による方法の使用の変形形態には、以下が適用される:安定化剤を自由に選択すること。
【0077】
層組成および相組成、ならびにまた層形態は、作製法の容易に調整可能なパラメータにより、大半は互いに独立に改変可能であることが好ましい。
【0078】
したがって、前記本発明による方法の使用の変形形態には、以下が適用される:蒸着工程のパラメータを調整することにより、層組成、相組成、および層形態を、少なくとも本質的に互いに独立に設定すること。
【0079】
層の層形態および結晶構造は、それらが、一方において、通常の基板材料に適合し、かつ、他方において、全積層内部の多様な膨張係数への適合が可能となる形で基板温度を自由に選択しうるように、すなわち、個々の層の引張り応力および圧縮応力が、例えば、操作範囲の中央において、少なくとも部分的に互いを補完し合う形で基板温度を選択することが好ましいように、200℃〜700℃の基板温度範囲内で作製されうることが好ましい。
【0080】
したがって、本発明による方法の変形形態の一実施形態では、層の蒸着を、200℃〜700℃の基板温度で行う。
【0081】
本発明による方法のさらなる変形形態では、層を、積層内の層として作製する。
【0082】
固体電解質層の層形態は、稠密形態(ガラス形態)〜強い柱状成長形態で調整可能であることが好ましい。
【0083】
したがって、本発明による前記方法の使用の変形形態では、以下が適用される:層形態を、ガラス様形態〜柱状形態で調整しうること。
【0084】
また、例えば、古典的安定化剤についての費用的な理由で、古典的安定化剤の比率が低いYSZに代わり、古典的安定化剤を伴わずに、固体電解質として用いられるか、または立方晶相および正方晶相それぞれの成長基板として用いられるZrO2の、それぞれ立方晶相および正方晶相を合成しうることも好ましい。
【0085】
したがって、本発明による前記方法の使用の変形形態では、以下が適用される:固体電解質層を、安定化剤を伴わずに作製すること。
【0086】
前記方法の一使用は、層を、YSZに代わる成長基板として作製することを対象とする。
【0087】
一方で、固体電解質層と電極との間に単調勾配層を有するほか、他方で、インターコネクト間にも単調勾配層を有し、コーティング工程を中断する必要がないことが好ましい。これは特に、金属と金属窒化物との間の勾配、金属と金属酸化物との間の勾配のほか、金属窒化物と金属酸化物との間の勾配も達成可能であれば好ましいことを意味する。
【0088】
したがって、本発明による前記方法のさらなる変形形態では、以下が適用される:その厚さ次元の方向に層材料組成の勾配を伴う層を作製し、該勾配がZrからZrNへ、次いで、ZrOへ、次いで、ZrO2への勾配であることが好ましく、該形態および相を自由に選択しうること。
【0089】
本発明者らは、酸素−窒素含有量を変化させることにより作製される多層コーティングを特に重要であるとみなしている。
【0090】
したがって本発明による方法の変形形態の実施形態では、酸素/窒素含有量を変化させることにより、層を多層コーティングとして作製する。
【0091】
これに関して、材料系では、導電層ならびに絶縁層の両方が作製される可能性があり、積層の力学的安定性および構造的安定性のいずれにも有利な相が選択されるので、金属窒化物と各種の金属酸化物との間の遷移が、特に重要な役割を果たす。
【0092】
事実上すべての材料により、インターフェース相/中間層を自由に形成しうることが好ましい。
【0093】
言及した通り、ジルコニウムを金属成分として含む材料系では、形態および相の選択の自由を維持しながら、すべての層: Zr〜ZrN〜ZrO〜ZrO2を形成しうることが好ましい。
【0094】
焼結とは対照的に、立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態からはるかに隔たった低い基板温度で行うことが好ましい。
【0095】
これは、立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態には置かずに行う、本発明による方法の変形形態を結果としてもたらす。
【0096】
Zr-O層系を、例えば基板に適合する他の酸化物と組み合わせることが可能であれば、有利でありうる。
【0097】
例えば、イオン伝導度を増大させるためにはまた、他の金属酸化物および化合物を混合しうることも有利でありうる。
【0098】
これは、ジルコニウム以外の金属の酸化物を、層材料中に組み込む、本発明による方法の変形形態を結果としてもたらす。
【0099】
層の微結晶サイズは、特に、ナノメートルの範囲で調整しうることが好ましい。微結晶サイズがこのように小さいことにより、粒子が大型である材料と比べて、粒界に沿うイオン輸送が増大し、イオン伝導度の温度に対する依存性が結果として低下する。
【0100】
これは、層の微結晶サイズをナノメートルの範囲で設定しうることが好ましい、粒界に沿うイオン輸送を増大させるための本発明による方法の使用を結果としてもたらす。
【0101】
固体電解質層系は、例えば、それを覆う多孔性の保護層と組み合わせうることが好ましい。
【0102】
Al-O、Cr-O、Al-Cr-O、または力学的に安定なさらなる材料を添加することにより、力学的安定性を増大させ、具体的な微細構造を達成しうることが好ましい。
【0103】
作製法に関しては、以下の要件をその都度満たすことが好ましい。
【0104】
高温による焼結を、基板におけるわずかに200℃〜700℃の温度が必要である工程で置き換える方法を提供することが好ましい。
【0105】
異なる機能性を伴う複数の層が、固体電解質層へと問題なく結合することを可能とする方法を提供することが好ましい。
【0106】
粉末冶金により作製される材料を、中間金属化合物へと転換し、それを反応により蒸着し、それを基板上の層として凝縮する方法を提供することが好ましい。
【0107】
出発粉末のサイズから本質的に独立である方法を提供することが好ましい。
【0108】
他の材料系へと容易に導入しうる方法をもたらすことが好ましい。
【0109】
インターフェースを形成する可能性が、プラズマスプレーにおけるより高い方法を提供することが好ましい。
【0110】
電子ビーム蒸着とは対照的に、制御上の問題が見られない方法を提供することが好ましい。
【0111】
プラズマスプレーと比較してスパッターを低減し、四級酸化物への工程の拡張を簡便に可能とする、費用低廉な技法を用いる方法を提供することが好ましい。
【0112】
例えば、粉末冶金法またはプラズマスプレー法により作製することが可能であり、層に所望の成分を有する標的を用いる方法を提供することが好ましい。
【0113】
本発明者らは、ここで、以下の例で用いられ、特に安定的なコーティング工程をもたらすコーティング装置の具体的内容について述べる。上述の特許文献において説明され、特に、純粋な酸素流による工程の標的(スパーク放電の陰極)における酸化物コーティングの問題に関する方法とは対照的に、以下で言及される例では、特別に設計された陽極を伴うコーティング装置を用いたが、これにより、ジルコニア層の作製と直接的には連関しない、反応性スパーク蒸着の別の問題も解決する。反応性ガスとしての純粋な酸素中では、スパーク放電の標的だけでなく、その陽極もまた、酸化物層により被覆されうることを、当業者は承知している。したがって、WO2009/056173A1では、反応性ガスとしての純粋な酸素中でスパーク放電を行う条件下においても、その表面を導電性に維持する特殊な陽極(ホロー陽極)によるスパーク放電の実施について説明されている。これは既に、極めて安定的なコーティング工程を結果としてもたらしている。しかし、本説明では、多くの適用について、作製の達成が容易であり、維持についての要求がはるかに低廉である、陽極設計の改善について開示する。この陽極101の一実施形態を、図19bに表わす。図19aは、陽極101を、そのスパーク蒸着源107およびスパーク陰極111を伴うコーティング装置の構成要素として概略的に示す。陽極101は、付加電源109を供給される加熱コイル103を含む。陽極101の加熱コイル103は、接地することもでき、フローティング状態で操作することもでき、少なくとも部分的にはスパークスパークのための陰極表面として用いられる、シェル105から電気的に絶縁されている。
【0114】
本発明のさらなる態様では、
・陽極表面を伴う、陽極本体と、
・陽極本体からは電気的に絶縁されている、陽極表面に沿う加熱コイルと、
・陽極本体からは電気的に絶縁されている、加熱コイルのための接続部と
を含む、特に、本発明によるそれらの適用において、特に、前述の方法を実施するための、スパーク蒸着源用の陽極が提示される。
【0115】
図19bに示す通り、陽極101は、その表面を構成するシェル105上でコーティング操作を行うときに持続的に形成される酸化物層を、温度変化により破砕する形で、それが温度変化により変形するように設計されている。
【0116】
本発明による陽極の変形形態では、陽極本体が、シート材料で形成されている。
【0117】
本発明では、陽極表面から干渉被覆を少なくとも部分的に除去する目的で、加熱コイルを作用/脱作用させることにより引き起こされる温度変化下に陽極表面を置くことにより、陽極表面を変形させ、干渉被覆を破砕するように、このような陽極を伴うスパーク蒸着装置を作動させる。
【0118】
したがって、温度変化を誘導することにより、陽極表面の干渉被覆を持続的に除去し、その導電性を持続的に確保することが可能となる。コーティング装置では、これらのセルフクリーニング型陽極のいくつかを、コーティングの一様性を確保するように配置することができる。好ましい実施形態では、これらの陽極をまた、基板加熱装置としても同時に用いうる形で設計することができる。さらなる好ましい変形形態では、これらの陽極を、シャッターにより、スパーク蒸着源による直接的な被覆から保護することができる。
【0119】
後続の、本明細書の後出で論じられる手順例は、この新規の陽極配置により実施したものであるが、これらの使用が、ジルコニア層を作製するのに必須であるというわけではない。
【0120】
まず、立方晶相および正方晶相のそれぞれを含み、US20080020138A1と同様のスパーク蒸着源操作により加工されるZrO2層の合成について、例を示す。OC Oerlikon Balzers AG社製のスパーク蒸着源を、例えば、US20070000772A1において説明されている標準的な磁石システムと共に用いて、基板相(SL)ならびに機能層(FL)を、直径が160mmであり、厚さが6mmである標的と結合させた。
【実施例1】
【0121】
ステップ(A)
まず、層または層系を適用する基板のコーティング系の外側を清浄化する。これは、基板の材料およびその作製法に依存する。通常は、湿潤化学物質による処理、特異的なガス雰囲気中でのベーキング、または当業者に知られている他の方法を実施する。この場合は、湿潤性化学物質による処理を実施した。
【0122】
ステップ(B)
この趣旨で提供される保持固定具に加工物を入れ、該保持具を真空処理装置内に入れた後、処理チャンバーを約0.01Paの圧力まで脱気した。
【0123】
ステップ(C)
次いで、第1の真空前処理ステップでは、アルゴン−水素雰囲気中、スクリーンにより分離され、熱陰極を伴う陰極チャンバーと、陽極に接続された加工物との間で、輻射加熱装置の支援を伴う低電圧アークプラズマに点火するが、この加工ステップは、以下のパラメータ:
低電圧アークプラズマの電流: 150A
アルゴン流: 50sccm
水素流: 300sccm
工程圧力: 1.4Pa
基板温度:約500℃で安定化させる
工程時間: 45分間
により特徴づけられる。
【0124】
この加工ステップでは、基板を、低電圧アークプラズマの陽極として接続することが好ましい。
【0125】
ステップ(D)
この加工ステップでは、基板への層の結合を改善するために、基板のエッチングを行う。このために、フィラメントと補助陽極との間に低電圧アークプラズマを施す。好ましくは、加工物を負のバイアス電圧下に置く。このステップに典型的なパラメータは:
アルゴン流:60sccm
工程圧力:2.4Pa
低電圧アークプラズマのスパーク電流: 150A
基板温度:約500℃
工程時間:30分間
バイアス:200V(より集約的なエッチング効果をもたらすには、最大1200V)
である。
【0126】
ステップ(E1)
酸化物を基板上に直接蒸着することもできるが、本明細書では、金属基板上に酸化物を結合させるのに特に適する層序列であって、まず、中間層または保護層(SL)を用いてから、機能層(FL)自体を蒸着する層序列について説明する。これは、第1のZrN層を基板上に蒸着することである。
【0127】
したがって、金属表面に支持層を蒸着し、次いで、支持層上に該層を蒸着するという趣旨で、蒸着基板が金属表面を有し、支持層が、Zrを除く金属、窒化物、または酸化物、好ましくはZrNからなることが好ましい、本発明による方法の変形形態が結果としてもたらされる。
【0128】
以下のパラメータ:
各々が200Aのスパーク電流を伴う、4つのZr元素標的(当然ながら、この数に限定されず、用いられる標的数の不可欠な変更は、当然ながら、圧力および酸素流それぞれの調整に反映されなければならない)の操作
全圧の3.5Paへの制御、すなわち、3.5Paの全圧を、コーティングチャンバー内で常に維持する形で、流量計により窒素の取込みを制御しなければならない
基板バイアス: -60V(ただし、-10V〜-1200Vの範囲が可能である);25kHzの周波数に対応する、負のパルス幅36マイクロ秒、および正のパルス幅を4マイクロ秒でパルス印加される、双極性バイアス
基板温度:約500℃
工程時間:5分間
を用いる。
【0129】
ステップ(F1)
さらなるステップでは、以下の工程パラメータ:
酸素の取込み:以下を参照されたい
工程圧力: 3.5Pa(やはり全圧制御を伴う)
スパーク電流: 4つの元素Zr標的の各々について200Aずつ
基板バイアス: -40V(双極性)
基板温度:約500℃
工程時間: 40分間
で、流量計を介して酸素を添加することにより、機能層自体への遷移を生じさせる。
【0130】
説明した通り、300sccmの酸素を添加すると、SEM(走査電子顕微鏡)により記録されるその破断断面が図1aおよび1bに複製されている層(試料793を参照されたい)がもたらされる。
【0131】
酸素の取込みを0〜400sccmとしたところ、Table 1(表1)に記載される形で、層が作製された。破断断面のSEM写真もまた撮影した。図は、以下の試料を示す。
図2:試料777(0sccmのO2)
図3:試料778(50sccmのO2)
図4aおよび4b:試料779(200sccmのO2)
図5aおよび5b:試料799(250sccmのO2)
図6aおよび6b:試料780(400sccmのO2)
【0132】
実施例1で説明した工程は、純粋な反応性ガス雰囲気中で、すなわち、アルゴンを伴わず、その都度、Zr-Nを作製するにはN2を伴い、またはZr-Oを作製するには酸素を伴って操作された「純粋」スパーク標的、すなわち、古典的安定化剤を伴わないZr元素によるスパーク標的に基づく。層の遷移部分では、窒素−酸素のガス混合物により標的を加工する。工程は、全圧制御下において行う、すなわち、酸素の添加は、同時的な窒素の減少を意味する。実際のところ、これは、酸素流を最大約1000sccmとしても、加工チャンバー内には、なおある量の窒素雰囲気が存在することを意味する。本実施例では、窒素を、反応性ガスの添加量を減少させるガスとして用いた。もっぱら酸素だけを用いると、ある程度の層の厚さから裏付けられるように、約350sccmで酸素を付加しても、望ましくない単斜晶相が結果として得られる。
【実施例2】
【0133】
工程のさらなる変形形態ではいよいよ、機能層を合成するための組成である85%のジルコニウム(Zr)および古典的安定化剤としての15%のイットリウム(Y)(Table 2(表2)もまた参照されたい)を伴う粉末冶金により作製された、合金標的(本実施例では、各回2単位ずつ)を用いる層を作製する。中間層または支持層を作製するためには、ここでもまた、2つのZr元素標的を用いた。
【0134】
まず、部分ステップ(A)〜(D)を、実施例1で説明した通りに実施した。
【0135】
まず、比較を目的として、安定化剤を伴わない層を作製する(ステップE1およびF1)。この趣旨で、ここでもまた、2つのZr(85%)/Y(15%)標的を、2つのZr元素標的で置き換えた、すなわち、中間層を作製するために、4つのZr元素による標的を操作した。
【0136】
ステップ(E2a)
以下のパラメータ:
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約5分間
により、これを行った。
【0137】
ステップ(F2a)
次いで、純粋なZr-O層(Yを伴わない)を層として蒸着し、したがって、これにはZr-Y標的を用いなかった、すなわち、4つのZr標的を引き続き操作し、実施例1の場合と同様、流量350sccmの酸素だけを添加した、すなわち、以下の工程パラメータ:
酸素の取込み:350sccm
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:4つの元素Zr標的の各々について200Aずつ
基板バイアス: -40V(双極性)
基板温度:約500℃
工程時間: 40分間
により加工した。
【0138】
このようにして達成された層(試料909)の破断断面を、図7aおよび7bに表わす。
【0139】
さらなる試験では、イットリウムによる安定化剤を伴う層系を作製する。したがって、さらに作製される層(910〜912)については、ステップ(E1)および(F1)を以下の通りに改変した。
【0140】
ステップ(E2b1)
このステップでは、2つのZr標的だけをコーティング装置内に残し、中間層を作製するように操作した。これは、以下のパラメータ:
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約7分間
により行った。
【0141】
ステップ(E2b2)
このステップでは、Zr-O-Nへの遷移がもたらされる。
全圧(N2):3.5Paに設定
スパーク電流:標的1個当たり200Aずつ
基板温度:約500℃
工程時間:約3分間
【0142】
酸素を、50sccmから標準流量(試料に応じて、200sccm、300sccm、または350sccm;Table 2(表2)を参照されたい)へと漸増させた。
【0143】
ステップ(E3b3)
2つのZr(85%)/Y(15%)標的を、200Aのスパーク電流により2分間にわたり操作する。その後すぐに、元素Zr標的をオフに切り換える。
【0144】
ステップ(F2)
2つの元素Zr標的をオフに切り換え、さらに80分間にわたり、2つのZr(85%)/Y(15%)標的、およびTable 2(表2)に従う標準酸素流量により、コーティングを実施する。
【0145】
Table 2(表2)の、200〜350sccmの酸素流により作製された層について、ここでもまたSEMにより破断断面を解析した。図は、以下の試料:
図8aおよび8b:試料911(200sccmのO2)
図9aおよび9b:試料912(300sccmのO2)
図10 aおよび10b:試料910(350sccmのO2)
を示す。
【0146】
実施例3で説明されるさらなる実験では、どのようにすれば、立方晶ZrO2層または正方晶ZrO2層による基板へのコーティングを行う前に蒸着される層系においてもなお、結合の良好な中間層を作製しうるかについて検証した。したがって、これらの層系は、コーティング系外で、例えば、別のコーティング工程において作製することもでき、同じコーティング系内で前もって作製することもできる。
【0147】
これに関して、金属電極として、熱保護層として、摩耗保護層としての適用、およびセンサーとしての適用について典型的な、複数の層について検証した。本明細書では、例としていくつか:Al、Cr、Ti、Ta、Zr、TiN、ZrN、TiCN、TiAlN; Al、Cr、Ti、Ta、Zrの酸化物;四級酸化物および五級酸化物に言及する。
【0148】
この実施例3では、その後Zr-O機能層を蒸着する、TiCN層上の中間層の形成について、それに限定するわけではないが、より詳細に論じる。
【0149】
この試験では、Zr-O機能層に、今回は、組成がZr(92%)/Y(8%)である2つの合金標的を用いた。TiCN層は、工具コーティングおよび部品コーティングの分野の当業者に知られた層であり、その作製は、当業者に知られているとみなすことができる。
【0150】
Zr-Y-O層への結合は、全圧制御下で行うTiCN層の蒸着が終わる直前に、すなわち、窒素および炭化水素(例えば、C2H2)による反応性ガス混合物中でのTiスパーク蒸着相において、Zr(92%)/Y(8%)標的をともに作動させる形で生じる。数分間後、炭化水素ガスを漸減させると、Ti標的がTiCNコーティングへと切り替えられる。最後に、これもまた数分間後に、酸素を添加し、必要な酸素流へと漸増させる。
【0151】
このようにして作製した層を、Table 4(表4)に記載する。層は、200sccm〜400sccmの酸素流により作製した。これらの試料からもまた、破断断面を採取し、SEMにより検証した。
【0152】
図は、以下の試料:
図11aおよび11b:試料916(200sccmのO2)
図12aおよび12b:試料913(250sccmのO2)
図13aおよび13b:試料914(350sccmのO2)
図14aおよび14b:試料915(400sccmのO2)
を示す。
【0153】
ここで、上記で説明した実施例に基づき作製された、さらなる層の例を引用するが、各層の工程パラメータの詳細には立ち入らない。層の例は、該作製法により、Zr-O相を、問題なく他の層材料へと結合させうることについて記載し、さらに、形態、ならびに層構造およびそれらの相組成のそれぞれが、提起される作製法により容易に影響されることを示すだけのものとする。
【0154】
以下の図は、SEMにより解析された、これらの相の破断断面を示す。
【0155】
図15aおよび15bは、クロム−酸化クロム中間層に適用された厚いZr-O層(試料493)を示す。
【0156】
図16aおよび16bは、Zr元素標的および600sccmという高量の酸素流により作製されたZr-O層の微細構造を示す。インターフェースとしては、約500nmの薄いTiCNを選択した。
【0157】
図17aおよび17bは、約3.5μmの厚いTiCN層上に蒸着したZr-O層の比較を示すが、ここで、図17a(試料767)は、US20080020138A1に従い操作したものであるが、図17b(試料769)は、US20070000772A1において説明される通りにパルス印加したものである。
【0158】
図18aおよび18b(試料995)は、Zr-Y-O機能層を、厚いCrN層上のZr(92%)/Y(8%)標的により蒸着した試料の破断断面についての、さらなるSEM解析を示す。
【0159】
上記で例として示唆された、該方法により作製された層について解析し、ここでより詳細に説明する。
【0160】
まず、Table 1(表1)に記載される、実施例1による層について論じる。一方で、解釈は、視斜角入射回折下におけるXRDの測定値が1であることに基づき、検証される層の全層厚が約5μmである場合は、このXRD測定値が1であることにより、基板近傍における層領域の影響がほぼ除外されるか、または強く制約され、したがって、SLの影響がほぼ除外されるか、または強く制約される。
【0161】
他方、層組成を決定するために、RBS(ラザフォード後方散乱分光法)およびERDA(弾性反跳粒子検出解析)を実施した。これらの結果もまた、Table 1(表1)に記録されている。
【0162】
試料799については、図26aが、例としてRBSスペクトルを示すが、これは、解析の後において、Zr1O1N0.6の層組成を示唆する。この試料の窒素および酸素の比は、ERDAにより、より正確に決定した。対応する測定値を、図26bに表わす。
【0163】
試料777(図2)については、4つのZr標的を、純粋な窒素中で操作した。XRDスペクトル(図20)は、立方晶構造(a=4.575Å)を伴うZrNのブラッグピークを示す。RBSによる層の解析は、Zr1N1.1として説明することが可能であり、他の層組成を示唆しない組成をもたらした。窒素が10%の「化学量論過剰」であることは、RBS法の光学要素の誤差範囲内にある。この誤差範囲はまた、酸素−窒素比(O/NおよびN/Oのそれぞれ)(結果はまた、Table 1(表1)にも示す)をより正確に決定する目的で試料に対して実施された、OおよびNについてのERDA解析を行う理由でもあった。
【0164】
50sccm(試料778)および200sccm(試料779)で酸素を添加することにより、XRD後においても立方晶構造が本質的に維持される。層組成については、50sccm(試料778)のとき0.12であるO/Zr比が、200sccm(試料779)のときは0.74に増大する、すなわち、いずれの場合においても、窒素に加えて酸素も層内に組み込まれる。立方晶構造が保持されているにもかかわらず、いずれのプローブにおいてもブラッグピークが増殖しており、これは、ZrO(a=4.62)もしくはZr(O,N)もしくはZrO2-x、またはこれらの立方晶相による混合物が形成されていることを示唆する。200sccmでは、ZrOの一酸化物による立方晶相が存在することに加えて、わずかな比率ながらZrO2の斜方晶相を示すピークが存在する。
【0165】
250sccm(試料799)以上では、立方晶相および正方晶相のそれぞれ、おそらくは、図21のXRDスペクトルにおいて拡大された形で表わされる、(111)面および(200)面におけるピークにより示唆される相混合物が形成される。小型の微結晶サイズであるこれらの2つの相は、XRDスペクトルに基づいて分離することがほとんど不可能である。
【0166】
300sccmでは、この相およびこの相混合物それぞれの結晶度が増大するが、400sccmでは、この結晶度が、立方晶相および正方晶相のそれぞれの部分を伴う単斜晶相の結晶度へと明らかに変化する。酸素流の上昇はO/Zr比の上昇とN/Zr比の下降を伴う(表1)。
【0167】
これらの測定の結果のまとめとして、元素Zr標的を用いる反応性スパーク蒸着について上記で説明したコーティング工程により、立方晶ZrNから立方晶ZrN/立方晶ZrO(一酸化物)の混合物への遷移、および最終的には、ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相、またはこれらの相混合物への遷移を達成することが可能である、すなわち、窒素または立方晶ZrNが、ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相を達成するために、ある種の新規の「安定化剤」として機能する、ということが可能である。
【0168】
具体的な利点は、同時に全圧を制御しながら、酸素ガス流を変化させるだけで、遷移の全体を達成しうるという事実であり、これにより、文献においてこれまでに知られている安定化剤なしに、立方晶および正方晶それぞれのZrO2を作製することができる、極めて簡便な工程が開発された。
【0169】
さらなる結果としては、以下について言及することができる。
【0170】
まず、定期的に少量の酸素流を注入することにより、完全な立方晶相を有するZrN/Zr(O,N)の多層系(試料777/779と同様)を創出することが可能である、すなわち、立方晶ZrNと立方晶Zr(O,N)との間を常に切り替えることが可能である。
【0171】
他方、これらの多層系はまた、まさにそこにおいて窒素による安定化と単斜晶相の形成との間の遷移が生じる、酸素流領域においても合成することができ、したがって、窒素部分を伴う(立方晶Zr(O,N)部分を伴う)ZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相と、窒素部分を伴わないZrO2の、それぞれ、立方晶相および正方晶相との間でも、多層構造を創出することができる。しかし、このための条件は、窒素を伴わない層を、単斜晶相への切り替えがいまだ生じない程度に薄く保つことである。層の全体を、400sccmの酸素流により作製したにもかかわらず、図6a(試料780)は、FLの約1.7μm以降で、稠密構造から柱状構造への形態変化を呈示している。この変化は、立方晶構造および正方晶構造のそれぞれから単斜晶構造への相変化を伴う。したがって、これは、ある時間にわたっては、層内に窒素を組み込まなくても、立方晶相および正方晶層それぞれの成長を達成しうることを示す。(表1、試料780)または、言い換えれば、Nによる安定化は、それ自体が窒素を特徴としなくとも、窒素を含有する基底層を介して、ある時間にわたって安定化される層を結果としてもたらす。
【0172】
金属基板または金属層への良好な結合ならびに層成長を、1つの材料系だけに基づいて達成しうるため、この工程解決法のさらに別の態様は、基底をなす基板または層系へとZrNを使い徐々にZr-O層を適正に結合させうる適用に関与しうる。
【0173】
SEMを検証することによる破断断面図は、これを裏付けている。例えば、図1b、4b、および6bが、厚さ約500nmのZrNによる中間層(SL)の機能層(FL)への結合が緊密であることを示すのに対し、図18bは、高酸素含有量のZrO2への移行が極めて短時間しか保たれなかったので、結合がかなり劣悪であることを示す。
【0174】
実施例1による層の解析は、層形態が、酸素流と共に変化するという、別の驚くべき結果を示す。ZrN(図2)は極めて緻密であるが、開始時における層は、微小粒子化するか、またはアモルファス状態となっている(図3および4)。酸素流をさらに増大させると、ますますより顕著な垂直構造が層成長にもたらされ(図5および1)、これは最終的に柱状構造へと至る(図6)。これらの結果は、例えば、燃焼機関の分野において、相手部品の摩耗を低減する目的で、タービンブレードまたは他の部品の導入工程など、摺動系を最適化するために、例えば、硬質の立方晶相を、軟質の単斜晶相(図6と同様の相)により被覆する適用を可能とする。
【0175】
他方また、同時に相を変化させることなく、層形態を変化させうることも所望されることが多い。このための条件は、酸素流から独立ではないか、または少なくとも大きくは独立でない安定相を生成させることである。
【0176】
これが、実施例2により実施された、さらなる工程開発への動機づけであり、その結果を Table 2(表2)にまとめた。試料909の場合は、ここでもまた4つの元素Zr標的を用い、ここでもまた約500nmのZrNによる中間層上に、350sccmの酸素流により、Zr-O-N層を蒸着した。図22におけるこの層のXRDスペクトルは、ZrO2の単斜晶相のブラッグピークを明確に示している。これは、実施例1により作製された層の結果と符合し、この場合、300sccm〜400sccmの酸素流により、立方晶相および正方晶層のそれぞれが、単斜晶相へと切り替わる。窒素のバックグラウンド圧力(全圧制御)にもかかわらず、該層は、ERDA後の層内で窒素部分を示さなかった、すなわち、N含有量は1%未満である。しかし、これもまた、400sccmでは層中にNが見出されない実施例1による試料とほぼ符合する。層形態(図7)もまた、少なくとも表面近傍の領域では、試料780の形態と同等であり、柱状構造を呈示する。
【0177】
次いで、2つの純粋Zr標的により中間層を合成する一方で、機能層(FL)には2つのZr(85%)/Y(15%)標的を用いる形で、Table 2(表2)のさらなる層を作製した。ここでは、層形態を改変する目的で、酸素流を変化させた。
【0178】
試料991(200sccm)については、図8において、比較的緻密な層形態を見ることができる。酸素流をさらに増大させると、層は、ますます明確な形で柱状成長を呈示する(図9および10における試料912および910)。Zr/Y標的によりFLを作製したプローブのXRDスペクトルを、図23に表わす。
【0179】
酸素流とは独立に、すべての層について、ZrO2の立方晶構造によるブラッグピークを見ることができる。強度の低い少数のブラッグピークはおそらく、ZrNによる中間層(立方晶相および六方晶相)に由来する。2Θ≒30°および2Θ≒50°における立方晶相に由来するピークについてのより詳細な解析を、Table 3(表3)に導入する。これにより、酸素流を増大させると、FWHM(半値全幅)が小さくなるので、より高度の結晶度(より大型の微結晶)がもたらされると結論付けることができる。スペクトルでは、ZrO2の正方晶相に典型的であり、結晶度レベルがこのように上昇したときに見られるはずの、2Θ≒43°におけるピークが示されていないので、本質的にこれらすべての試料には、ZrO2の立方晶相だけが存在し、ZrO2の正方晶相は存在しないと結論付けることができる。また、古典的安定化剤のために、本質的に高量の酸素流において(例えば、1500sccmの酸素流において)もまた、立方晶相が存在を維持し、単斜晶相へと転換することがないことにも言及すべきである。
【0180】
これにより、実験から以下の重要な結果が得られる。焼結法および他の方法により知られている古典的安定化剤を、スパーク蒸着に用いられる標的へと導入すると、ZrO2の正方晶相および立方晶相がもたらされて安定化する。XRDにおいて明確に目視可能である通り、Yを安定化剤として用いる場合は、Yが標的成分の8%を超えると、立方晶相が達成される。この濃度未満の層内では、立方晶相と正方晶相との相混合物が見出される(さらに以下の実験を参照されたい)。実施例1による試料の場合と同様に、立方晶相はまた、酸素流を増大させても変化しない。実施例1による層とは対照的に、全圧は3.5Paに設定したが、酸素流を200sccmとしたときに既に、窒素は層内に組み込まれなくなった。これらの条件において、3.5Paの全圧を得るには、例えば、300sccmの酸素流に対して、約800sccmの窒素流を前提とする必要がある、すなわち、装置内にはかなり大量の窒素を存在させることになるが、これがZrO2中に組み込まれるわけではない。
【0181】
実施例3では、Table 4(表4)に記載されているZr-Y-O-(N)層を作製した。これらの例では、「外来」物質による層を用いた、すなわち、TiCNを中間層(SL)として選択した。ここでもまた、全圧制御によりZr-Y-O-N層へと遷移させた。しかし、今回は、Zr(92%)/Y(8%)標的を用いた。
【0182】
XRD測定の結果を、図24に表わす。その場合には純粋な立方晶相が現れない、2Θ=43°におけるブラッグピーク、および約2Θ=60°におけるピークの分裂が目視されるので、すべての層が正方晶相の優越を示している。しかし、これらの層内の立方晶相部分も除外することはできない。Table 5(表5)では、異なる酸素流について、2Θ=30°および2Θ=50°におけるブラッグピークのFWHMが示されている。したがって、これらの実験についてはまた、酸素流を増大させると、結晶度の上昇も観察することができる。標的中のYが8%に過ぎない状態で、酸素流を高量とした場合でもなお、単斜晶相が作製されず、正方晶相(おそらく立方晶部分を伴う)が安定を維持する形で、層は安定であった。
【0183】
図25にそのXRDスペクトルが示され、その工程パラメータおよび解析が、Table 4(表4)に部分的に包含されている、試料917には、顕著な、すなわち、厚い立方晶ジルコニア層が成長した。これにより、図25のXRDスペクトルにおける顕著なピークにより示される通り、主に、ZrO2の立方晶相がもたらされた。正方晶相に典型的である、60°におけるピークの分裂が存在しないことが注目される。
【0184】
結論付けるために、上記の方法により作製されうる他の層の例について論じる。
【0185】
図15は、クロム−酸化クロム中間層へと適用された、正方晶構造を有する厚いZr(Yは8%) O2層(試料493)の、SEMによる破断断面を示す。コーティングには、Zr(92%)/Y(8%)標的を用い、1500sccmという極めて高量の酸素流によりこれを行った。この工程では、全圧制御を用いず、一定の酸素流下でZr(92%)/Y(8%)標的の蒸着を行った。
【0186】
これは、「類縁」の材料を互いと結合させるための中間層としてまた、ここでは酸化クロムである酸化物も用いうることを例示している。これは、例えば、酸化物ではそれらの多くが同様である熱膨張係数を互いに適合させる必要がある場合に意味を持つ場合がある。
【0187】
図からは、高量の酸素流により、柱状構造が、高度の多孔性を伴い、したがって、より大きな表面を伴う、さらに稠密度の低い形態へと転換されることが見られる。このような表面は、検出される分子種のより迅速な拡散に寄与し、また、感度も増大させるので、センサー分野における適用に特に適する。XRDスペクトル(表示しない)は、立方晶相部分を伴う正方晶相によるブラッグピークを示し、窒素の全圧制御を伴わないときでもなお、正方晶相および立方晶相のそれぞれを作製しうることを示す。
【0188】
図16は、元素Zr標的により、およびまた、600sccmという高量の酸素流により作製されたZrO2層の微細構造を示す。インターフェースとして、約500nmの薄いTiCN層を選択した。ここでもまた、酸素流だけを制御し、窒素バックグラウンドによる全圧は制御しなかった。層は、単斜晶相を呈示する。層は、好ましい正方晶構造または立方晶構造を有さないが、とりわけ、相手部品の摩耗を防止するために、高温の導入層として組み合わせると、基板の保護に適する。
【0189】
図17aおよび17bは、約3.5μmのより厚いTiCN層上に蒸着したZr-O層の比較を示すが、ここで、図17a(試料767)は、US20080020138A1に従い操作したものであるが、図17b(試料769)は、US20070000772A1において説明される通りにパルス印加したものである。元素Zr標的を用いた。層の微細構造は、明確な差違を示す。図17bではより大型の結晶成長が見られる。いずれの層についても、XRDスペクトル(表示しない)は、単斜晶層を示唆する。
【0190】
図18aおよび18b(試料995)は、Zr-Y-O機能層を、厚いCrN層上のZr(92%)/Y(8%)標的により蒸着したプローブの破断についての、さらなるSEM解析を示す。ここでもまた、Cr-N-Zr-Yの遷移を選択し、次いで、窒素の全圧制御を3.5Paとして、600sccmの酸素を添加した。層形態は多孔性であり、したがって、層表面が大きい。XRDスペクトルでは正方晶相が優勢であったが、立方晶部分も排除できない。
【0191】
本発明は、単純な原材料により、ならびにこの原材料を介して、層特性を作製すること、とりわけ層の相組成に影響を及ぼしうること、およびこれを特異的にもたらしうることのそれぞれにより、ZrO2(立方晶相および/または正方晶相)を作製する他の方法から特に明確に区別される。
【0192】
材料を粉末形態で存在させ、これを高温で結合させる焼結工程との差違は明らかである。焼結工程で所望される材料を作製するには、高温が必要であり、これは、外来材料、例えば、安定化材料の添加、およびそれらの濃度に極めて強く依存する。極めて高い焼結温度が必要なので、材料によっては作製が不可能な場合もあり、少量での作製に限り可能な場合もある。これは、材料の範囲を制限し、かつまた費用効率も制約する。
【0193】
本発明による方法の差違はまた、坩堝内の、酸化物を含有する溶融物の組成および昇華させる材料の組成のそれぞれにおける変化、ならびに反応性ガスとしての酸素の複雑な制御のいずれとも直面する電子ビーム蒸着と比較しても明らかである。
【0194】
同じことは、合金の蒸着に関して、電子ビーム蒸着より問題は少ないが、それでも、標的の被毒を回避するためには、反応性ガスとしての酸素の複雑な制御を必要とする、スパッター法にも当てはまる。スパーク蒸着とスパッタリングとを組み合わせ、かつ、元素標的を用いる方法もまた、この問題を不十分な形で解決するに過ぎない。これらの方法は、一方ではスパッター標的、ならびに他方ではスパーク標的が被毒し、スパーク放電の陽極が酸化物層で覆われ、放電が中断されるので、反応性ガスとしての純粋酸素中で操作することができない。公刊物ではこの問題が論じられていないが、純粋酸素雰囲気中では工程を行わず、酸素をアルゴンによる加工用ガスに添加することに限るという工程指針からそれを推測することができる。
【0195】
文献において説明されている組合せ法とは対照的に、本発明では、Zr-Y-O2層を作製するのに混合標的を用いる。これらの標的は、既知の技法、例えば、HIP(熱間等方圧加圧)法で粉末冶金法を用いると作製することができる。この方法によれば、融点が極めて異なる材料を、焼結における場合のように溶融させる必要なしに、併せて稠密化することが可能である。この工程の後でも、材料はやはり、標的中で個別の材料として存在する。
【0196】
本発明の一実施形態による方法の1つの利点は、個別に存在する材料が、標的上を移動するスパークの効果の下にある、酸素中および窒素−酸素混合物中のそれぞれで操作するときに互いに合金化することである。スパークフットポイントにおける温度は、1000℃ほどに達しうるので、多様な濃度の安定化剤、例えば、標的表面において1%〜25%のYと併せて、Zrなどの高融点材料も、蒸気相へと遷移する直前に溶融する可能性がある。
【0197】
アルゴンガス中でこの工程を実施すれば、多数のスパッターがもたらされることになるであろう。反応性ガスとしての酸素中または窒素−酸素混合物中では、融点温度が異なるこれらの材料を、互いと良好に結合させることができる。標的表面における合金化工程は、1μm以下〜100μm以上の中程度のサイズの粒子を伴う粉末を用いうるので、標的を作製するための原材料の選択に多大の自由をもたらす。したがって、本発明による方法の変形形態は、アルゴンなどの加工用ガスを用いない方法である。
【0198】
US20070000772A1に従うスパーク蒸着源へのパルス印加は、標的表面におけるこの合金化工程またはコンディショニング工程を加速化させる。まず、標的表面においてコンディショニングを行い、次いで初めて、蒸着を行うので、蒸着された層内に粒子サイズの標的が再度見出されることはありえない。
【0199】
上記で論じた通り、微結晶サイズは、酸素流、基板温度など、容易に測定可能な工程パラメータにより、かつ、中間層を選択することにより制御することができる。
【0200】
本発明による方法に用いられる標的はまた、標的基板に金属層成分を蒸着するための前駆体としての金属−有機ガスを用いることにより、プラズマスプレーを介しても作製することができる。この標的作製法の利点は、該前駆体を濃縮することにより、一度に1つの合金だけが蒸着されることである。次いで、欠点は、HIP法により作製される標的と比べて、プラズマスプレーによる標的は多孔性が大きいことであるが、本発明による方法では、これを、原則として純粋な酸素雰囲気中で制御する。
【0201】
まとめると、当技術分野のこれまでの現況とは対照的に、合金によるスパーク標的は、原材料に比類のない再現性をもたらし、かつ、窒素−酸素による反応性ガス混合物の選択がほぼ自由な、フリンジ条件下にある酸素雰囲気中での標的操作の組合せにより、層形態を適合させることを可能とするほか、層の相を指定することも可能とするということができる。
【0202】
本明細書の以下では、本発明の最も重要な利点を、工程および層に従い配列する形で、再度列挙する。
【0203】
工程
例えば、安定化剤であるSt、例えば、Yなど、他の材料の添加下で必要とされる場合は、元素Zrの、および/または、Zrに由来する混合標的の反応性スパーク蒸着の工程は、それぞれ、立方晶および正方晶の、それぞれ、ZrO2およびZr-St-酸化物を簡便かつ費用効果の高い形で合成するのに適する。
【0204】
該工程は、濃度比が所望の層組成に従う標的を用いることを可能とする。このような標的は、例えば、HIP(熱間等方圧加圧)法またはプラズマスプレーにより、費用効果の高い形で作製することができる。プラズマスプレーの場合は、所望の合金を、あらかじめ標的へと蒸着することができる、すなわち、例えばZr96/Y4、Zr92/Y8、Zr90/Y10、Zr85/Y15の比で蒸着することができる。
【0205】
該方法は、同じコーティング系において、および同じ工程ステップにおいて、異なる層材料の合成による組合せを可能とする。
【0206】
該方法は、異なる材料間における結合を改善し、形態、微結晶サイズ、結晶構造、または相組成など、層の特性を特異的に適合させる目的で、これらの間における段階的な遷移をもたらす。
【0207】
酸化物層の破砕を引き起こす力学的変形が結果としてもたらされることと関連する、温度変化のサイクル(スイッチオンおよびスイッチオフ)を介して導電性に保たれるスパーク陽極を用いると、酸素雰囲気中でのスパーク蒸着を安定化させるのに寄与して有利である。
【0208】
窒素に対して全圧制御を施しながら、酸素流を制御することにより、異なる相のZrO2を合成することができる。窒素は、ある意味で、正方晶相または立方晶相の安定化を可能とすると考えられる。
【0209】
標的中に安定化剤を特定の濃度で添加する結果として、本質的に同じ濃度の層が合成される、すなわち、個別の元素標的による材料を蒸着する場合に必要とされる制御のための労力は必要とされない。安定化剤の濃度は本質的に、合成される層の相およびその相組成のそれぞれを決定する。
【0210】
相および相混合物のそれぞれを維持しながら、古典的安定化剤を用いる場合には、酸素流および基板温度を介して層の微結晶サイズおよび形態を制御することができる、すなわち、相は、かなりの程度において、酸素流から独立である。
【0211】
元素Zr標的と、Zrに加えて固体の安定化剤も含有する合金標的とを組み合わせて用いてもまた、Zr-O層とZr-Y-O層との間の段階的な遷移が可能となり、この場合、層のY含有量は、0〜合金標的のY含有量、および当然ながらまた逆方向のそれぞれで変化させることができる。例は、安定化剤を含有する立方晶ZrO2層の合成であり、かつ、ジルコニアへの段階的な遷移は安定化剤なしに生じる合成、すなわち、ある厚さからは、安定化剤なしに、硬性の立方晶構造を、軟性の単斜晶構造に由来する構造と結合させる合成であり、次いで、これを、例えば、導入層として用いることができる。
【0212】
該方法は、気相により安定化材料を組み込むこと、例えば、広範にわたり論じた窒素の例を可能とする。これらの材料の組込みはまた、さらなる反応性ガス(窒素および/酸素に加えた)を取り込むことによっても拡張され、次いで、これも同様に層へと構成される。この例は、炭化水素、シラン、水素、ボラン、シアノ化合物である。窒素によるバックグラウンドの全圧制御を行わない場合はまた、このようなガスも反応性ガスとして、純粋な酸素に添加することができる。
【0213】
この方法によって与えられる、異なる層材料間で段階的な遷移をもたらす可能性は、熱膨張係数との関連で層材料を適合させるのに特に重要である(金属、金属窒化物、金属窒化炭素、金属酸化物の間における段階的な遷移)。このような段階化の可能性により、金属基板上に良好な結合を達成するという、これまで未解決の問題を解決することが可能となる。
【0214】
段階化の可能性はさらに、層の熱伝導特性の適合化も可能とする。測定値は、安定化された立方晶Zr-Y-O層について、1.8〜2.5W/mKの熱伝導特性(形態に依存する)を示している。この熱伝導度は、これもまた反応性スパーク蒸着により作製された他の酸化物層、例えば、AlCr-Oの熱伝導度(3.2など)より小さい。これにより、層系における熱伝導度の適合化が可能となる。
【0215】
本発明により、層形態および相組成に影響を及ぼす可能性はまた、層の硬度および強度などの力学的特性を調整することも可能とする。
【0216】
先行技術とは対照的に、合金標的の使用は本質的に、層内での標的成分の分離をもたらさない、すなわち、標的の組成は本質的にまた層内にも反映され、標的材料中の微結晶サイズとは独立な、層内での微結晶サイズをもたらす。
【0217】
該方法は、かなりの程度で、原材料中の粉末(標的)を、標的表面において金属間化合物へと転換するので、他の方法で生じるような標的材料のスパッター化を大幅に低減する。
【0218】
該方法は、イオン伝導度の増大に寄与する、事実上すべての安定化剤およびドーピング、例えば、US05709786において開示されている安定化剤の組込みを容易かつ可能とする。これは、簡便な形で行うことができ、事実上材料の制約を伴わない。
【0219】
層の微結晶サイズは、標的中で用いられる粉末の粒子サイズとは独立に調整することができる。
【0220】
真空工程を、純粋の粉末から作製される標的の使用と組み合わせることにより、他の物質による層の不純物が、1%未満まで低減される。
【0221】
標的上での合金工程は通常、迅速に行われ、一般に、中間層の品質を損なうことがない。しかし、必要な場合はまた、標的の前でシャッターを用いることにより、合金工程を基板上への層の蒸着から分離することもできる。
【0222】
本発明によるジルコニア層(本明細書の以下では「層」と称する)の利点:
層は、その中に「古典的安定化剤」部分、例えば、Y部分を有さないが、立方晶相または正方晶相を呈示しうる。
【0223】
層の、それぞれ、立方晶相および正方晶相は、立方晶の基板層上で成長させることができる。具体的な利点は、成長が、本質的にZrを金属成分として含有する立方晶相の基板層、例えば、立方晶ZrN、立方晶ZrO、または立方晶ZrO2および正方晶ZrO2のそれぞれにおいてなされることである。
【0224】
異なる相または相組成による層は、基板層への段階的な遷移を呈示することが可能であり、これは、N-O勾配に反映され、層内の深度プロファイルは、例えば、SIMSにより裏付けることができる。
【0225】
層の相またはその相組成は本質的に、200℃〜700℃の基板温度範囲内にとどまる。微結晶サイズだけが変化する、すなわち、低温では、層が、それぞれ、微晶質層およびアモルファス層となるのに対し、高基板温では、大型の微結晶が得られる。このようにして、結晶サイズがナノメートルの範囲にある層、および結晶サイズが最大100nm以上の層の両方を作製することができる。
【0226】
合成されるZr-O2層は、酸素に関して、準化学量論性であり、これは、RBS解析により実証することができる。このRBS解析ではまた、スペクトル中の元素であるZrとYとを容易に分離することができないという事実も考慮するが、酸化物を形成するときには、これらの効果を考慮した場合でもやはり、酸素およびZrのそれぞれに準化学量論性が生じる形で、Zr(ZrO2)の価数とY(Y2O3)の価数とが異なるので、評価においては、この準化学量論性を考慮に入れたことにここでは注目すべきである。
【0227】
層は、スパーク蒸着に典型的な金属のスパッター化を伴い、これは主に高融点のZrからなり、完全には酸化されていない。
【0228】
上記で説明された特性により、本発明の方法により作製される層は、異なる適用に極めて良好に適する。
【0229】
本発明によれば、スパーク蒸着により作製されたこのような層は、燃料電池における固体電解質として用いることが好ましい。
【0230】
良好なイオン伝導特性のために、層は、センサーにおいて完全に良好に用いることができる。
【0231】
上記で論じた通り、本発明により作製される層は、極めて良好な熱遮蔽層を形成し、したがって、例えば、タービンブレードおよびターボチャージャーなどの工具および部品を保護するのに用いることができる。さらに、本発明によるジルコニア層は、工具、および特に、例えば、ディスポーザブルの切削用インサートおよびドリルビットなどの切削工具の溶接に対する高温保護層として用いることができて有利である。
【0232】
層系が、ジルコニア層を単斜晶相で含む場合は、これを高温適用時における減摩層として用いることができる。
【0233】
本出願の枠組みでは、ジルコニア層を作製する方法であって、該ジルコニア層を固体電解質層として用いる場合、この固体電解質層を、段階的遷移を介して、他の基板および/または層と問題なく結合させうる方法が提起されている。
【0234】
提起される方法では、層形態の特定の変化を、層変化を伴わずに、容易に達成することが可能である。
【0235】
他方、本発明の枠組みでは、酸素流を変化させるだけで、層の相を変化させる、例えば、立方晶相から単斜晶相へと変化させることが可能である。
【0236】
本発明による方法の枠組みでは、系に窒素を組み込むことにより、古典的安定化剤の使用を、少なくとも部分的に、なおしばしば完全に回避しうることが示されている。特に、窒素を用いることにより、古典的安定化剤を伴わずに、立方晶相のZrO2を安定化させることが可能となる。
【0237】
本発明の方法により、特に、古典的安定化剤を用いる場合、酸素流および/または基板温度を変化させることにより、微結晶サイズを特異的に変化させうることが示されている。
【0238】
提起される本発明による方法の枠組みでは、融点が高い古典的安定化剤を、基板温度がはるかに低い層へと組み込むことが可能である。
【0239】
本発明による方法の枠組みでは、ナノメートルの範囲にある二重層を伴う多層構造を作製することができる。このような二重層の例は、ZrN/ZrOx遷移層、ZrO/ZrO2遷移層、ZrO2(正方晶または立方晶)/ZrO2(単斜晶)遷移層である。
【0240】
該方法に必要とされる原材料は、作製が容易であり、使用が容易であることが示されている。
【0241】
さらに、本発明の方法によれば、本質的に望ましくない成分を伴わずに層を達成しうることが示されている。
【0242】
本発明による方法の枠組みでは、0.1Paを超える酸素分圧により加工しうることが示されている。
【0243】
最後に、本方法により、立方晶ジルコニア層だけでなく、ジルコニア粉末もまた作製しうることに言及すべきである。この場合は、平均自由路長を大幅に短縮することに基づき、大部分の材料が、コーティングされる基板上に付着せず、チャンバー内に粉末として残存するほどの高レベルに、スパーク蒸着装置内の全圧を選択することができる。
【0244】
コーティングの前に、その後に適用されるジルコニア層により併せて除去されうるように、容易に除去可能な犠牲層により基板をコーティングすることもさらに可能であろう。犠牲層としては、例えば、噴霧が簡単な薄いグラファイト層が適する。
【0245】
9.表
【表1】
【0246】
【表2】
【0247】
【表3】
【0248】
【表4】
【0249】
【表5】
【符号の説明】
【0250】
101 陽極
103 加熱コイル
105 シェル
107 スパーク蒸着源
109 付加電源
111 スパーク陰極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を用いることにより、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、ジルコニウム元素と少なくとも1つの安定化剤とを含む混合標的を用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素分圧を、0.1Paを超えるように、好ましくは少なくとも10Paとなるように選択することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記層のジルコニアと安定化剤との濃度比が、本質的に、混合標的のジルコニウム元素と安定化剤との濃度比により与えられることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
混合標的中の安定化剤の濃度を選択することにより、立方晶構造および/または正方晶構造を達成することを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
立方晶構造および/または正方晶構造を達成することに関しては少なくとも本質的に自由設定パラメータである酸素分圧を、層形態を決定するのに用いることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
反応性ガスが、酸素に加えて窒素を含むことを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項8】
ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素を含むジルコニウム標的を用いることを特徴とし、反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いる方法。
【請求項9】
前記層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
スパーク蒸着工程における圧力比を設定することにより、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造および/または正方晶構造を有する層を生成させることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
酸素の比率をガス流制御デバイスにより設定する一方で、窒素の比率は全圧制御デバイスにより選択することを特徴とする、請求項8から10の一項に記載の方法。
【請求項12】
ジルコニアをベースにした層を、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の上に、立方晶構造の純粋なZrO2層として蒸着することを特徴とする、請求項8から11の一項に記載の方法。
【請求項13】
積層内の層として層を作製するための、請求項1から12の一項に記載の方法。
【請求項14】
酸素/窒素含有量を変化させることにより、前記層を多層コーティングとして作製することを特徴とする、請求項1から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
前記層の蒸着を、200℃〜700℃の基板温度で行うことを特徴とする、請求項1から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
前記立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態には置かずに行うことを特徴とする、請求項1から15の一項に記載の方法。
【請求項17】
ジルコニウム以外の金属の酸化物を、層材料中に組み込むことを特徴とする、請求項1から16の一項に記載の方法。
【請求項18】
蒸着基板が金属表面を有し、金属表面に支持層を蒸着し、次いで、支持層の上に前記層を蒸着することを特徴とし、支持層が、Zrを除く金属、窒化物、または酸化物、好ましくはZrNからなることが好ましい、請求項1から17の一項に記載の方法。
【請求項19】
アルゴンなどの加工用ガスを用いないことを特徴とする、請求項1から18の一項に記載の方法。
【請求項20】
単斜晶相へと復帰しうる層を作製するための、好ましくは減摩導入のための、請求項12に記載の方法の使用。
【請求項21】
燃料電池における固体電解質層を作製するための、請求項1から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項22】
安定化剤を自由に選択すること、
蒸着工程のパラメータを調整することにより、層組成、相組成、および層形態を、少なくとも本質的に互いに独立に設定すること、
層形態を、ガラス様形態〜柱状形態で調整しうること、
固体電解質層を、安定化剤を伴わずに作製すること、
その厚さ次元の方向に層材料組成の勾配を伴う層を作製し、前記勾配がZrからZrNへ、次いで、ZrOへ、次いで、ZrO2への勾配であることが好ましく、前記形態および相を自由に選択しうること、
のうちの少なくとも1つの特徴が適用される、請求項1から21の一項に記載の方法の使用。
【請求項23】
前記層を、YSZに代わる成長基板として作製するための、請求項1から7、13から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項24】
前記層の微結晶サイズをナノメートルの範囲で設定しうることが好ましい、粒界に沿うイオン輸送を増大させるための、請求項1から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項25】
陽極表面を伴う、陽極本体と、
陽極本体からは電気的に絶縁されている、陽極表面に沿う加熱コイルと、
陽極本体からは電気的に絶縁されている、加熱コイルのための接続部と
を含む、特に、請求項20から24の一項に記載の使用において、特に、請求項1から19の一項に記載の方法を実施するための、スパーク蒸着源用の陽極。
【請求項26】
陽極本体が、シート材料で形成されていることを特徴とする、請求項25に記載の陽極。
【請求項27】
陽極表面を変形させ、干渉被覆を破砕する形で、陽極表面から干渉被覆を少なくとも部分的に除去する目的で、加熱コイルを作用/脱作用させることにより引き起こされる温度変化下に陽極表面を置くことを特徴とする、請求項25または26に記載の陽極を伴うスパーク蒸着装置を作動させる方法。
【請求項28】
スパーク蒸着によりコーティングされる基板もまた、加熱コイルによって加熱されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項1】
パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を用いることにより、ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、ジルコニウム元素と少なくとも1つの安定化剤とを含む混合標的を用いることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸素分圧を、0.1Paを超えるように、好ましくは少なくとも10Paとなるように選択することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記層のジルコニアと安定化剤との濃度比が、本質的に、混合標的のジルコニウム元素と安定化剤との濃度比により与えられることを特徴とする、請求項1から3の一項に記載の方法。
【請求項5】
混合標的中の安定化剤の濃度を選択することにより、立方晶構造および/または正方晶構造を達成することを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。
【請求項6】
立方晶構造および/または正方晶構造を達成することに関しては少なくとも本質的に自由設定パラメータである酸素分圧を、層形態を決定するのに用いることを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項7】
反応性ガスが、酸素に加えて窒素を含むことを特徴とする、請求項1から5の一項に記載の方法。
【請求項8】
ジルコニアをベースにした層を蒸着基板上に作製する方法であって、パルススパーク電流および/またはスパーク標的に対して垂直な磁場の印加を用いる反応性スパーク蒸着を使用し、ジルコニウム元素を含むジルコニウム標的を用いることを特徴とし、反応性ガスとして、酸素に加えて窒素を用いる方法。
【請求項9】
前記層を、立方晶構造および/または正方晶構造で作製することを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
スパーク蒸着工程における圧力比を設定することにより、ジルコニウム、酸素、および窒素を含有し、立方晶構造および/または正方晶構造を有する層を生成させることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
酸素の比率をガス流制御デバイスにより設定する一方で、窒素の比率は全圧制御デバイスにより選択することを特徴とする、請求項8から10の一項に記載の方法。
【請求項12】
ジルコニアをベースにした層を、ジルコニウム、窒素、および酸素を含有する立方晶化された層の上に、立方晶構造の純粋なZrO2層として蒸着することを特徴とする、請求項8から11の一項に記載の方法。
【請求項13】
積層内の層として層を作製するための、請求項1から12の一項に記載の方法。
【請求項14】
酸素/窒素含有量を変化させることにより、前記層を多層コーティングとして作製することを特徴とする、請求項1から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
前記層の蒸着を、200℃〜700℃の基板温度で行うことを特徴とする、請求項1から14の一項に記載の方法。
【請求項16】
前記立方晶相または正方晶相の形成を、熱平衡状態には置かずに行うことを特徴とする、請求項1から15の一項に記載の方法。
【請求項17】
ジルコニウム以外の金属の酸化物を、層材料中に組み込むことを特徴とする、請求項1から16の一項に記載の方法。
【請求項18】
蒸着基板が金属表面を有し、金属表面に支持層を蒸着し、次いで、支持層の上に前記層を蒸着することを特徴とし、支持層が、Zrを除く金属、窒化物、または酸化物、好ましくはZrNからなることが好ましい、請求項1から17の一項に記載の方法。
【請求項19】
アルゴンなどの加工用ガスを用いないことを特徴とする、請求項1から18の一項に記載の方法。
【請求項20】
単斜晶相へと復帰しうる層を作製するための、好ましくは減摩導入のための、請求項12に記載の方法の使用。
【請求項21】
燃料電池における固体電解質層を作製するための、請求項1から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項22】
安定化剤を自由に選択すること、
蒸着工程のパラメータを調整することにより、層組成、相組成、および層形態を、少なくとも本質的に互いに独立に設定すること、
層形態を、ガラス様形態〜柱状形態で調整しうること、
固体電解質層を、安定化剤を伴わずに作製すること、
その厚さ次元の方向に層材料組成の勾配を伴う層を作製し、前記勾配がZrからZrNへ、次いで、ZrOへ、次いで、ZrO2への勾配であることが好ましく、前記形態および相を自由に選択しうること、
のうちの少なくとも1つの特徴が適用される、請求項1から21の一項に記載の方法の使用。
【請求項23】
前記層を、YSZに代わる成長基板として作製するための、請求項1から7、13から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項24】
前記層の微結晶サイズをナノメートルの範囲で設定しうることが好ましい、粒界に沿うイオン輸送を増大させるための、請求項1から19の一項に記載の方法の使用。
【請求項25】
陽極表面を伴う、陽極本体と、
陽極本体からは電気的に絶縁されている、陽極表面に沿う加熱コイルと、
陽極本体からは電気的に絶縁されている、加熱コイルのための接続部と
を含む、特に、請求項20から24の一項に記載の使用において、特に、請求項1から19の一項に記載の方法を実施するための、スパーク蒸着源用の陽極。
【請求項26】
陽極本体が、シート材料で形成されていることを特徴とする、請求項25に記載の陽極。
【請求項27】
陽極表面を変形させ、干渉被覆を破砕する形で、陽極表面から干渉被覆を少なくとも部分的に除去する目的で、加熱コイルを作用/脱作用させることにより引き起こされる温度変化下に陽極表面を置くことを特徴とする、請求項25または26に記載の陽極を伴うスパーク蒸着装置を作動させる方法。
【請求項28】
スパーク蒸着によりコーティングされる基板もまた、加熱コイルによって加熱されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【図1a】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18a】
【図18b】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26a】
【図26b】
【図1b】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9a】
【図9b】
【図10a】
【図10b】
【図11a】
【図11b】
【図12a】
【図12b】
【図13a】
【図13b】
【図14a】
【図14b】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図18a】
【図18b】
【図19a】
【図19b】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26a】
【図26b】
【公表番号】特表2013−506049(P2013−506049A)
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530271(P2012−530271)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064136
【国際公開番号】WO2011/036246
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(507269681)エーリコン・トレイディング・アーゲー・トリューバッハ (13)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064136
【国際公開番号】WO2011/036246
【国際公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(507269681)エーリコン・トレイディング・アーゲー・トリューバッハ (13)
【Fターム(参考)】
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