説明

竪型炉およびその製造物

【課題】炉の形状設計に関する自由度が高く、被加熱物が付着しにくい竪型炉を提供することを課題とする。また、品質がばらつきにくい製造物を提供することを課題とする。
【解決手段】竪型炉1は、粉状の被加熱物90を加熱する加熱室200を径方向内側に区画する側周壁20と、側周壁20に全体的に配置され、側周壁20の内周面に被加熱物90が付着するのを抑制するために、ガス91を加熱室200に送風する複数の送風孔21と、を有する炉体2を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細な粉状の被加熱物などを加熱する際に用いられる竪型炉およびその製造物に関する。
【背景技術】
【0002】
ミクロンオーダーやナノオーダーの微細な粉体は、大きな粉体と比較して、付着力が大きい。このため、微細な粉体は、炉壁に堆積しやすい。この点に鑑み、特許文献1には、粉体付着の少ない噴霧焙焼炉が開示されている。
【0003】
同文献記載の噴霧焙焼炉の炉頂には、三本のノズルと、バーナと、が配置されている。バーナは、炉心に配置されている。三本のノズルは、バーナの周囲に、120°ずつ離間して配置されている。水平方向に対して、炉頂付近には、20°以上60°以下のテーパ角θ1(上に向かって尖る方向)が設定されている。水平方向に対して、炉底付近には、50°以上80°以下のテーパ角θ2(下に向かって尖る方向)が設定されている。三本のノズルからは、原料である水溶液の液滴(80〜100μm)が噴霧されている。液滴は、バーナからの火炎により加熱され、フェライト粉末になる。
【0004】
同文献記載の噴霧焙焼炉によると、微細なフェライト粉末が、炉壁やノズル周囲に付着するのを抑制することができる。このため、炉内におけるフェライト粉末の流動状態が変化するのを、抑制することができる。また、炉壁やノズル周囲から落下したフェライト粉末の塊が製造物に混入するのを、抑制することができる。このため、製造物の品質がばらつきにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−51220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、同文献記載の竪型炉(噴霧焙焼炉)の場合、炉頂付近、炉底付近に、特殊なテーパ角θ1、θ2を設定する必要がある。また、ノズルとバーナとの位置関係も限定される。このため、炉の形状設計に関する自由度が低い。
【0007】
本発明の竪型炉およびその製造物は、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、炉の形状設計に関する自由度が高く、被加熱物が付着しにくい竪型炉を提供することを目的とする。また、本発明は、品質がばらつきにくい製造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明の竪型炉は、粉状の被加熱物を加熱する加熱室を径方向内側に区画する側周壁と、該側周壁に全体的に配置され、該側周壁の内周面に該被加熱物が付着するのを抑制するために、ガスを該加熱室に送風する複数の送風孔と、を有する炉体を備えることを特徴とする。ここで、「径方向」とは、軸方向に直交する方向をいう。すなわち、側周壁の軸方向に直交する方向の断面形状は円形であっても、円形以外の形状であってもよい。
【0009】
竪型炉は、炉体を備えている。炉体は、側周壁と、複数の送風孔と、を備えている。複数の送風孔は、側周壁に全体的に配置されている。送風孔から加熱室には、ガスが供給される。ガスは、側周壁の内周面に沿って拡散する。このため、内周面には、ガス層が形成される。当該ガス層により、被加熱物が内周面に付着するのを抑制することができる。このため、加熱室における被加熱物の流動状態(被加熱物が微細な場合は浮遊状態)が変化するのを、抑制することができる。また、側周壁の内周面から剥離した被加熱物が製造物に混入するのを、抑制することができる。
【0010】
このように、本発明の竪型炉によると、被加熱物に対する加熱時間、加熱温度などの熱負荷が、ばらつきにくい。このため、製造物の品質がばらつきにくい。
【0011】
また、本発明の竪型炉によると、特許文献1の噴霧焙焼炉のように、炉頂付近、炉底付近に、特殊なテーパ角θ1、θ2を設定する必要がない。また、ノズルとバーナとの位置関係も限定されない。このため、炉の形状設計に関する自由度が高い。
【0012】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記炉体は、前記加熱室の軸方向一端側に開設され、連続的に前記被加熱物を前記加熱室に供給する供給口と、該加熱室の軸方向他端側に開設され、連続的に該被加熱物を該加熱室から排出する排出口と、を有し、さらに、該炉体の径方向外側に配置され、内部に前記ガスが供給される外殻部と、該外殻部と該炉体との間に配置され、該加熱室の該被加熱物を加熱する加熱部と、を備える構成とする方がよい。
【0013】
被加熱物は、供給口、加熱室、排出口の順に流動する。炉体は、外殻部により覆われている。また、炉体と外殻部との間には、加熱部が配置されている。本構成によると、送風孔から加熱室に供給されるガスを、排出口を介して、炉外に排気することができる。
【0014】
また、被加熱物の熱伝導率が小さい場合(例えば、被加熱物がセラミックの場合)、被加熱物が内周面に堆積すると、加熱部から加熱室への伝熱効率が低下する。この点、本発明の竪型炉によると、内周面に被加熱物が堆積しにくい。このため、被加熱物の熱伝導率が小さい場合であっても、加熱部から加熱室への伝熱効率が低下しにくい。
【0015】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記ガスは、前記加熱部により加熱されてから、前記送風孔を介して前記加熱室に送風される構成とする方がよい。本構成によると、加熱室において、被加熱物とガスとの間の温度差が小さくなる。このため、ガスにより、被加熱物の温度が低下しにくい。また、加熱室の温度制御が簡単になる。
【0016】
(4)好ましくは、上記(2)または(3)の構成において、前記加熱部は、輻射熱により前記被加熱物を加熱する構成とする方がよい。本構成によると、加熱部からの輻射熱により、側周壁が加熱される。そして、側周壁の熱により、加熱室の被加熱物が加熱される。本構成によると、燃焼ガスなどが加熱室に噴射される場合と比較して、被加熱物の流動状態の制御が簡単になる。このため、被加熱物に対する熱負荷が、ばらつきにくい。
【0017】
また、被加熱物が側周壁の内周面に付着するのを抑制するために、加熱室には、送風孔からガスが供給されている。また、被加熱物を搬入するために、加熱室の上流側から搬送ガスが供給される場合がある。また、被加熱物を搬出するために、加熱室が下流側から吸引される場合がある。本構成によると、燃焼ガスなどが加熱室に噴射される場合と比較して、加熱室におけるガス収支の制御が簡単になる。
【0018】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記側周壁には、複数の前記送風孔が前記側周壁の周方向に並ぶことにより形成される、複数の孔列が、軸方向に並んで配置され、軸方向に隣り合う任意の一対の該孔列同士は、互いの該送風孔同士が軸方向に並ばないように、所定のずれ量だけ、周方向にずれて配置される構成とする方がよい。本構成によると、炉体を軸方向から見た場合、側周壁の全周において、送風孔が配置されていない区間が少ない。このため、さらに被加熱物が側周壁の内周面に付着しにくい。
【0019】
(6)好ましくは、上記(5)の構成において、前記孔列の周方向に隣り合う任意の一対の前記送風孔同士の間隔は、10mmであり、軸方向に隣り合う任意の一対の該孔列同士の間隔は、10mmであり、前記ずれ量は、2mmである構成とする方がよい。本構成によると、さらに被加熱物が側周壁の内周面に付着しにくい。
【0020】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記送風孔の孔径は、1mm以下である構成とする方がよい。孔径(直径)を1mm以下としたのは、1mm超過の場合、側周壁に多数の送風孔を配置すると、炉体の強度が低下しやすいからである。同様の理由から、さらに好ましくは、孔径を0.5mm以下とする方がよい。
【0021】
(8)好ましくは、上記(1)ないし(7)のいずれかの構成において、前記送風孔から送風されるガスの流速は、秒速10m以下である構成とする方がよい。流速を、秒速10m以下としたのは、10m超過の場合、側周壁の内周面付近に、ガス層が形成されにくいからである。
【0022】
(8−1)好ましくは、上記(8)の構成において、前記流速は、秒速5m以下である構成とする方がよい。本構成によると、さらに、側周壁の内周面付近に、ガス層が形成されやすくなる。
【0023】
(9)好ましくは、上記(1)ないし(8)のいずれかの構成において、前記被加熱物の粒径は、ミクロンオーダー以下である構成とする方がよい。ミクロンオーダー(1〜100μm)、サブミクロンオーダー(数10〜数100nm)、ナノオーダー(1〜100nm)の微細な被加熱物は、大きな被加熱物と比較して、付着力が大きい。このため、微細な被加熱物は、側周壁の内周面に堆積しやすい。この点、本発明の竪型炉によると、側周壁の内周面に被加熱物が付着しにくい。このため、微細な被加熱物を加熱するのに好適である。
【0024】
(10)上記課題を解決するため、本発明の製造物は、上記(1)ないし(9)のいずれかの構成の竪型炉により前記被加熱物が加熱されて製造されることを特徴とする。前述したように、本発明の竪型炉によると、被加熱物に対する加熱時間、加熱温度などの熱負荷が、ばらつきにくい。このため、製造物の品質がばらつきにくい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、炉の形状設計に関する自由度が高く、被加熱物が付着しにくい竪型炉を提供することができる。また、本発明によると、品質がばらつきにくい製造物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態である竪型炉の透過斜視図である。
【図2】同竪型炉の軸方向断面図である。
【図3】同竪型炉の側周壁の内周面の展開図である。
【図4】同竪型炉の側周壁の内周面の部分斜視図である。
【図5】図3のずれ量C3が設定されていない場合の図4相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の竪型炉およびその製造物の実施の形態について説明する。
【0028】
[竪型炉の構成]
まず、本実施形態の竪型炉の構成について説明する。図1に、本実施形態の竪型炉の透過斜視図を示す。図2に、同竪型炉の軸方向断面図を示す。図1、図2に示すように、竪型炉1は、炉体2と、外殻部3と、加熱部4と、供給筒部5と、排出筒部6と、を備えている。
【0029】
炉体2は、アルミナ製である。炉体2は、中空円柱状を呈している。炉体2は、側周壁20と、100個の送風孔21と、供給口22と、排出口23と、を備えている。側周壁20は、円筒状を呈している。側周壁20の軸方向は、上下方向である。図3に、本実施形態の竪型炉の側周壁の内周面の展開図を示す。なお、図3中の周方向は、前→右→後→左と回転する方向を正方向としている。図3に示すように、100個の送風孔21は、側周壁20に形成されている。送風孔21は、略真円状を呈している。送風孔21の孔径(直径)は、0.5mmである。送風孔21は、側周壁20を径方向に貫通している。100個の送風孔21は、10個ごとに孔列L1〜L10を形成している。すなわち、孔列L1〜L10は、各々、周方向に一列に並ぶ10個の送風孔21により、形成されている。孔列L1〜L10は、上下方向(軸方向)に並んでいる。
【0030】
孔列L1〜L10の周方向に隣り合う任意の一対の送風孔21同士の間隔C1は、10mmである。上下方向に隣り合う任意の一対の孔列L1〜L10同士の間隔C2は、10mmである。上下方向に隣り合う任意の一対の孔列L1〜L10同士は、互いの送風孔21同士が上下方向に一列に並ばないように、ずれ量C3(=2mm)だけ、周方向にずれて配置されている。図2に示すように、側周壁20の径方向内側には、加熱室200が区画されている。
【0031】
供給口22は、炉体2の上壁、つまり加熱室200の上方(上流側)に開設されている。供給口22は、略真円状を呈している。排出口23は、炉体2の下壁、つまり加熱室200の下方(下流側)に開設されている。排出口23は、略真円状を呈している。
【0032】
外殻部3は、炉体2を外側から覆っている。外殻部3は、ハウジング30と、断熱材31と、ガス供給孔32と、を備えている。ハウジング30は、鉄(SS)製であって、中空円柱状を呈している。断熱材31は、セラミックファイバー製であって、中空円柱状を呈している。断熱材31は、ハウジング30の内面に、内張り状に、積層されている。ガス供給孔32は、外殻部3の上壁に配置されている。ガス供給孔32は、ハウジング30、断熱材31を、上下方向に貫通している。
【0033】
加熱部4は、いわゆる電熱ヒータである。加熱部4は、外殻部3と炉体2との間の隙間に配置されている。加熱部4は、側周壁20を隔てて、加熱室200を全周的に覆っている。
【0034】
供給筒部5は、セラミック製であって、円筒状を呈している。供給筒部5は、供給口22の上方に連なっている。供給筒部5は、外殻部3の上方に突出している。排出筒部6は、セラミック製であって、円筒状を呈している。排出筒部6は、排出口23の下方に連なっている。排出筒部6は、外殻部3の下方に突出している。
【0035】
[竪型炉の動き]
次に、本実施形態の竪型炉の動きについて説明する。被加熱物90は、微細な粉状のマンガン酸リチウムである。被加熱物の平均粒径(直径)は100nmである。被加熱物90は、炉外から、コンプレッサー(図略)からの搬送ガスにより、供給筒部5、供給口22を介して、加熱室200に搬入される。被加熱物90は、加熱室200内を浮遊している。加熱室200は、加熱部4の輻射熱により、径方向外側から加熱されている。具体的には、加熱部4からの輻射熱により、側周壁20が加熱されている。そして、側周壁20の熱により、加熱室200が加熱されている。加熱室200の温度は、900℃である。加熱室200は、排出筒部6、排出口23を介して、ブロワ(図略)により、吸引されている。このため、一定時間加熱室200内に滞留した被加熱物90は、排出筒部6、排出口23を介して、炉外に搬出される。搬出された被加熱物90は、バグフィルター(図略)により集められる。
【0036】
ところで、被加熱物90が加熱室200内を浮遊している際、側周壁20の送風孔21からは、ガス91が送風されている。ガス91は、炉外のコンプレッサー(図略)から、ガス供給孔32、外殻部3と炉体2との間の隙間、送風孔21を介して、加熱室200に供給される。外殻部3と炉体2との間の隙間には、加熱部4が配置されている。このため、当該隙間を通過する際、ガス91は、加熱部4により加熱される。
【0037】
図4に、本実施形態の竪型炉の側周壁の内周面の部分斜視図を示す。図5に、図3のずれ量C3が設定されていない場合の図4相当図を示す。図5に示すように、ずれ量C3が設定されていない場合(ずれ量C3=0の場合)、送風孔21が10個ずつ上下方向に一列に並んでしまう。このため、軸方向から見て、送風孔21が全く配置されていない区間A1が、周方向に沿って点線状に10箇所出現することになる。
【0038】
被加熱物用の搬送ガスGは、上方から下方に向かって加熱室200内を流れている。このため、送風孔21から吐出されるガス91は、搬送ガスGにより、下方に流されやすい。したがって、上下方向に隣り合う送風孔21間の部分には、ガス91によるガス層が形成されやすい。一方、周方向に隣り合う送風孔21間の部分には、ガス91が下方に流されるため、ガス91によるガス層が形成されにくい。このため、区間A1には、被加熱物90が付着、堆積しやすい。
【0039】
これに対して、図3に示すように、ずれ量C3が設定されている場合、送風孔21が上下方向に一列に並ばない。このため、軸方向から見て、送風孔21が全く配置されていない区間が、周方向に沿って出現しない。
【0040】
送風孔21から吐出されるガス91は、搬送ガスGにより、下方に流されやすい。したがって、上下方向に隣り合う送風孔21間の部分(孔列L1の送風孔21と孔列L6の送風孔21との間の部分)には、ガス91によるガス層が形成されやすい。
【0041】
並びに、任意の孔列(例えば孔列L5)の、周方向に隣り合う送風孔21間の部分には、上側(上流側)の孔列(例えば孔列L1〜L4)の送風孔21から、ガス91が流れてくる。このため、周方向に隣り合う送風孔21間の部分には、ガス91によるガス層が形成されやすい。
【0042】
このように、ずれ量C3が設定されている場合、上下方向に隣り合う送風孔21間の部分にも、周方向に隣り合う送風孔21間の部分にも、ガス91によるガス層が形成されやすい。このため、全面的に被加熱物90が付着、堆積しにくい。
【0043】
[作用効果]
次に、本実施形態の竪型炉の作用効果について説明する。本実施形態の竪型炉1によると、100個の送風孔21は、側周壁20に全体的に配置されている。送風孔21から加熱室200には、ガス91が供給される。ガス91は、側周壁20の内周面に沿って拡散する。このため、内周面には、ガス層が形成される。当該ガス層により、被加熱物90が内周面に付着するのを抑制することができる。このため、加熱室200における被加熱物90の浮遊状態が変化するのを、抑制することができる。また、側周壁20の内周面から剥離した被加熱物90が製造物に混入するのを、抑制することができる。また、被加熱物90が、あたかも耐火物のように、内周面に堆積するおそれが小さい。このため、加熱部4から加熱室200への伝熱効率が低下するおそれが小さい。このように、本実施形態の竪型炉1によると、被加熱物90に対する加熱時間、加熱温度などの熱負荷が、ばらつきにくい。このため、製造物の品質がばらつきにくい。
【0044】
また、本実施形態の竪型炉1によると、炉の形状設計に関する自由度が高い。また、本実施形態の竪型炉1によると、送風孔21から加熱室200に供給されるガス91を、排出口23を介して、炉外に排気することができる。
【0045】
また、本実施形態の竪型炉1によると、ガス91は、加熱部4により加熱されてから、送風孔21を介して加熱室200に送風される。このため、加熱室200の被加熱物90と、ガス91と、の間の温度差が小さくなる。したがって、ガス91により、被加熱物90の温度が低下しにくい。
【0046】
また、加熱部4は、電熱ヒータである。加熱部4は、輻射熱により、被加熱物90を加熱している。このため、燃焼ガスなどが加熱室200に噴射される場合と比較して、被加熱物90の浮遊状態の制御が簡単になる。したがって、被加熱物90に対する熱負荷が、ばらつきにくい。
【0047】
また、被加熱物90が側周壁20の内周面に付着するのを抑制するために、加熱室200には、送風孔21からガス91が供給されている。また、被加熱物90を搬入するために、加熱室200の上流側からは、搬送ガスGが供給されている。また、被加熱物90を搬出するために、加熱室200は、下流側から吸引されている。本実施形態の竪型炉1によると、燃焼ガスなどが加熱室200に噴射される場合と比較して、加熱室200におけるガス収支の制御が簡単になる。
【0048】
また、側周壁20には、10個の孔列L1〜L10が上下方向に並んで配置されている。上下方向に隣り合う任意の一対の孔列L1〜L10同士は、互いの送風孔21同士が上下方向に並ばないように、所定のずれ量C3だけ、周方向にずれて配置されている。このため、炉体2を上方あるいは下方から見た場合、側周壁20の全周において、送風孔21が配置されていない区間A1が少ない。このため、被加熱物90が側周壁20の内周面に付着しにくい。
【0049】
また、搬送ガスGの流動方向(上下方向)に対して、送風孔21は螺旋状に並んでいる。すなわち、搬送ガスGの流動方向と送風孔21の並び方向とが交差している。この点においても、被加熱物90が側周壁20の内周面に付着しにくい。
【0050】
ただし、図5に示すように、図3のずれ量C3が設定されていない場合であっても、本発明の竪型炉の概念には含まれる。たとえずれ量C3が設定されていなくても、側周壁20には、送風孔21が全体的に配置されている。このため、側周壁20に送風孔21が全体的に配置されていない場合と比較して、側周壁20の内周面に被加熱物90が付着するのを抑制することができる。
【0051】
また、孔列L1〜L10の周方向に隣り合う任意の一対の送風孔21同士の間隔C1は、10mmである。また、上下方向に隣り合う任意の一対の孔列L1〜L10同士の間隔C2は、10mmである。ずれ量C3は、2mmである。このため、被加熱物90が側周壁20の内周面に付着しにくい。また、送風孔21の孔径は、0.5mmである。このため、炉体2の強度が低下しにくい。また、送風孔21から送風されるガス91の流速は、秒速5m以下である。このため、側周壁20の内周面付近に、ガス層が形成されやすい。
【0052】
また、本実施形態の竪型炉1によると、被加熱物90が粒径100nmの微細な粉状であるにもかかわらず、言い換えると付着力が大きいにもかかわらず、側周壁20の内周面に被加熱物90が付着しにくい。
【0053】
また、本実施形態の竪型炉1によると、被加熱物90に対する加熱時間、加熱温度などの熱負荷が、ばらつきにくい。このため、被加熱物90から製造される製造物の品質(例えば、一次粒子の粒子径、特性など)がばらつきにくい。
【0054】
[その他]
以上、本発明の竪型炉およびその製造物の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0055】
間隔C1、C2、ずれ量C3は特に限定しない。好ましくは、孔列L1〜L10の数は、(間隔C1/ずれ量C3)以上である方がよい。例えば、上記実施形態の場合、孔列L1〜L10の数(=10)は、間隔C1(=10mm)/ずれ量C3(=2mm)の、2倍である。こうすると、全周的に、送風孔21が全く配置されていない区間A1(図5参照)が出現しにくい。
【0056】
孔列L1〜L10の配置数も特に限定しない。送風孔21の配置数も特に限定しない。送風孔21の開口形状も特に限定しない。例えば、三角形、四角形などの多角形、楕円形、長円形(対向する一対の半円同士を一対の直線で繋いだ形状)、スリット状などであってもよい。また、送風孔21はランダムに配置してもよい。また、側周壁20における送風孔21の配置密度は、側周壁20の全体に亘って一定でなくてもよい。例えば、上流側(上側)の配置密度を、下流側(下側)の配置密度よりも、大きくしてもよい。あるいは、上流側の配置密度を、下流側の配置密度よりも、小さくしてもよい。
【0057】
送風孔21の孔径を、孔軸方向に変化させてもよい。例えば、送風孔21を、テーパ状にしてもよい。送風孔21は、側周壁20の径方向に延在していなくてもよい。例えば、接線方向に延在していてもよい。また、送風孔21からのガス91により、加熱室200に気流(例えば旋回流、上昇流、下降流など)を発生させてもよい。側周壁20の水平方向断面形状は特に限定しない。真円形の他、三角形、四角形などの多角形、楕円形、長円形などであってもよい。
【0058】
ガス91の種類は特に限定しない。不活性ガス(窒素、ヘリウム、アルゴンなど)、還元性ガス(一酸化炭素など)などを用いてもよい。炉体2の材質は特に限定しない。ジルコニア、ムライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミック、ステンレス鋼などの金属であってもよい。
【0059】
上記実施形態においては、上方から下方に向かって被加熱物90を搬送したが、下方から上方に向かって被加熱物90を搬送してもよい。上記実施形態においては、加熱部4として電熱ヒータを用いたが、バーナ(リジェネバーナなど)、マイクロ波発生装置などを用いてもよい。好ましくは、輻射熱により、被加熱物90を加熱可能な方がよい。上記実施形態においては、加熱部4を加熱室200の径方向外側に配置したが、加熱部4を外殻部3の外側に配置して、加熱媒体だけを加熱部4から加熱室200に導入してもよい。上記実施形態においては、外殻部3を配置したが、外殻部3を配置しなくてもよい。上記実施形態においては、本発明を流動式の竪型炉1として具現化したが、バッチ式の竪型炉として具現化してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1:竪型炉、2:炉体、3:外殻部、4:加熱部、5:供給筒部、6:排出筒部、20:側周壁、21:送風孔、22:供給口、23:排出口、30:ハウジング、31:断熱材、32:ガス供給孔、90:被加熱物、91:ガス、200:加熱室、A1:区間、C1:間隔、C2:間隔、C3:ずれ量、G:搬送ガス、L1〜L10:孔列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉状の被加熱物を加熱する加熱室を径方向内側に区画する側周壁と、該側周壁に全体的に配置され、該側周壁の内周面に該被加熱物が付着するのを抑制するために、ガスを該加熱室に送風する複数の送風孔と、を有する炉体を備える竪型炉。
【請求項2】
前記炉体は、前記加熱室の軸方向一端側に開設され、連続的に前記被加熱物を前記加熱室に供給する供給口と、該加熱室の軸方向他端側に開設され、連続的に該被加熱物を該加熱室から排出する排出口と、を有し、
さらに、該炉体の径方向外側に配置され、内部に前記ガスが供給される外殻部と、
該外殻部と該炉体との間に配置され、該加熱室の該被加熱物を加熱する加熱部と、
を備える竪型炉。
【請求項3】
前記ガスは、前記加熱部により加熱されてから、前記送風孔を介して前記加熱室に送風される請求項2に記載の竪型炉。
【請求項4】
前記加熱部は、輻射熱により前記被加熱物を加熱する請求項2または請求項3に記載の竪型炉。
【請求項5】
前記側周壁には、複数の前記送風孔が前記側周壁の周方向に並ぶことにより形成される、複数の孔列が、軸方向に並んで配置され、
軸方向に隣り合う任意の一対の該孔列同士は、互いの該送風孔同士が軸方向に並ばないように、所定のずれ量だけ、周方向にずれて配置される請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の竪型炉。
【請求項6】
前記孔列の周方向に隣り合う任意の一対の前記送風孔同士の間隔は、10mmであり、
軸方向に隣り合う任意の一対の該孔列同士の間隔は、10mmであり、
前記ずれ量は、2mmである請求項5に記載の竪型炉。
【請求項7】
前記送風孔の孔径は、1mm以下である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の竪型炉。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の竪型炉により前記被加熱物が加熱されて製造される製造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−112603(P2012−112603A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263296(P2010−263296)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(390008431)高砂工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】