説明

管体外周面の塗装方法

【課題】重ね塗り部による塗料の無駄を低減するとともに美観を向上させる。
【解決手段】平面視長楕円形の噴霧パターン5を出すノズル11を備えたスプレーガン10を用い、その長楕円形の長径方向qを管体pの管軸方向に向けてその管体pの外周面に螺旋状に塗装被膜vを形成する塗装方法において、前記噴霧パターン5は、前記長径方向q両端部でそれぞれ塗装被膜vの膜厚が徐々に減少する漸減部6を有してその漸減部6を塗装被膜v同士の重ね塗り部rに含めるとともに、前記ノズル11に取り付けるチップ12にテールレスチップを採用して、そのスプレーガン10による塗料吐出の中心線4方向を被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように傾けた。漸減部6を重ね塗り部rに含めれば膜厚の差異による凹凸を低減することができ、テールレスチップを採用することにより、その凹凸をさらに低減できる。また、中心線4方向を傾けたことにより、風圧や気流の影響を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スプレーガンを用いて管体の外周面への塗装を行う管体外周面の塗装方法及び管体外周面用塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
管体の外周面への塗装技術として、例えば、管体を管軸周りに回転させながら、その管体の外周面にスプレーガンで塗料を噴霧する塗装方法がある。
この塗装方法は、本発明の実施例の説明図である図1、図2に基づいて説明すると、管体pをローラ1上に載せて支持するとともに、駆動力でそのローラ1を回転させて管体pを回転させる。管体pの回転とともに、エアレスポンプ方式でスプレーガン10に塗料を供給し、そのスプレーガン10によって管体pの外周面に向かって塗料を吐出しながら、そのスプレーガン10と管体pとを管軸方向に沿って相対移動させるものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−282766号公報(第7頁、第6図及び第7図)
【0003】
また、そのスプレーガン10の先端に装着するノズル11として、塗料の噴霧パターン(定位置で微小時間噴霧した際に出来る塗装部の平面形状)が平面視長楕円形となるものを採用し、その長楕円形の長径方向を管軸方向と同方向にしたものもある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献2】特開2003−265990号公報(第2頁,明細書段落0002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなスプレーガン10を用いた塗装方法では、図8及び図9(a)に示すように、管軸方向に沿って一定の幅(管軸方向幅)wで形成される塗装被膜v同士が、その管軸方向に一定の幅xで重なり合って重ね塗り部rを形成する。その重ね塗り部rは、外観上、縞模様(図8では螺旋縞)となって現れる。これは、重ね塗り部rの塗料の膜厚は、他の部分の塗料の膜厚dよりも厚くなり、管体pの外周面に膜厚の不均一を生じるからである(図9(b)参照)。
【0005】
このような重ね塗り部rが存在すると塗料を余分に使うこととなるので、材料のロスを生じさせるとともに、重複した箇所に塗装を行うことは塗装の時間工程上もロスが多い。
また、このような重ね塗り部rが縞模様となって現れると、管体の美観が損なわれるので好ましくない。
【0006】
さらに、一般に、スプレーガンで塗装を行う場合、ノズルの噴霧パターンを平面視長楕円形とすると、そのノズルから吐出される塗料のうち、前記長楕円形の長径方向両端部の塗料は粒子が粗く分散しにくいという特性がある。
このため、噴霧パターンの長径方向両端部にいわゆる「テールt」が生じて、その「テールt」部分の塗装被膜vが、噴霧パターン中央部の塗装被膜vよりも厚くなる傾向がある(図10(a)(b)参照)。
この「テールt」の位置は、前記螺旋状の塗装被膜vにおいて重ね塗り部rに含まれるので、管体pの外周面に塗布される塗料の膜厚は、さらに不均一なものとなってしまう。
【0007】
そこで、この発明は、管体の外周面を塗装するに際して、平面視長楕円形の噴霧パターンを有するノズルを備えたスプレーガンを用いて、その長楕円形の長径方向を管軸方向と同方向に向けて塗装する場合において、塗装被膜同士の重ね塗り部による塗料の無駄を低減するとともに美観を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための第一の手段として、この発明は、スプレーガンの噴霧パターンとして、平面視長楕円形を成す噴霧パターンの長径方向両端部において、それぞれ両端に向かうにつれて塗装被膜の膜厚又は前記長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する漸減部を有する噴霧パターンを用い、管体の外周面の塗装において、その漸減部が前記重ね塗り部に含まれるようにする塗装方法を採用した。
【0009】
塗装被膜の膜厚又は前記長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する部分同士を重ねて塗装することにより前記重ね塗り部を形成すれば、その重ね塗り部と他の部分との膜厚の差異を低減することができる。
なお、その漸減部は、その長径方向全長又は一部が前記重ね塗り部の管軸方向全長に一致するようにしてもよいし、その漸減部の長径方向全長又は一部が前記重ね塗り部の一部を構成するようにしてもよい。また、前記噴霧パターンにおける漸減部の構成としては、その噴霧パターンにおける塗装被膜の膜厚が徐々に減少する構成としてもよいし、又は、その噴霧パターンにおける長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する構成としてもよい。さらに、漸減部の構成として、その噴霧パターンにおける塗装被膜の膜厚が徐々に減少し且つ長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する特性を併せ持つ構成としてもよい。
【0010】
また、第二の手段として、この発明は、スプレーガンのノズルに取り付けるチップとして、いわゆる「テールレスチップ」を採用した。「テールレスチップ」であれば、噴霧パターンの長径方向両端部に「テール」を生じさせにくく、管体の外周面における塗料の膜厚の不均一を抑制し得る。
なお、その「テールレスチップ」としては周知のものを用いることができるが、例えば、図11に示すような、前記長径方向に60度以上の広角の噴射パターンを有するチップを採用することができる。「テールレスチップ」の噴射パターンが長径方向に対してより広角であれば、前記重ね塗り部の管軸方向間隔を広げることができ、美観の向上に寄与し得る。
【0011】
なお、前記噴霧パターンの長径方向両端部において漸減部を設けた構成において、合わせて「テールレスチップ」を採用すれば、前記重ね塗り部と他の部分との膜厚の差異の低減において、さらに良好な結果を得ることができる。
【0012】
上記の各構成において、スプレーガンによる管体の外周面に対する塗料の吐出方向を、そのスプレーガンと管体との相対移動方向に沿ってやや傾けた構成を採用することができる。具体的には、前記スプレーガンによる塗料の吐出方向が、そのスプレーガンに前記管体の被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように、前記噴霧パターンにおける前記長径方向に対する中心線が、前記管体の管軸方向に直交する方向に対し傾いて設定されている構成を採用し得る。
【0013】
上記のように、平面視長楕円形を成す噴霧パターンの長径方向両端部において、それぞれ両端に向かうにつれて塗装被膜の膜厚又は前記長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する噴霧パターンを用いた場合、あるいは、上記「テールレスチップ」を用いた場合、噴霧パターンの長径方向両端付近の塗料がきめ細かく霧化される。この霧化により、その長径方向両端付近では塗料を吐出する際におけるその吐出の勢いが、従来よりも落ちることとなる。このため、吐出した塗料が、風圧や気流の影響を受けやすいという傾向がある。
【0014】
そこで、上記の方向にスプレーガンによる塗料の吐出方向を傾ければ、その風圧や気流の影響を抑制することができる。
【0015】
また、上記のように、スプレーガンによる塗料の吐出方向を傾けて行う管体外周面の塗装方法に使用する管外周面用塗装装置であって、以下の構成を採用することができる。
すなわち、平面視長楕円形を成す噴霧パターンで塗料を吐出するノズルを備えたスプレーガンと、管体を載置可能であるとともに駆動力によって回転することにより前記管体を管軸周りに回転させることができるローラと、前記管体と前記スプレーガンとを管軸方向に相対移動させる手段とを備え、前記スプレーガンは、その噴霧パターンにおける前記長楕円形の長径方向が前記管体の管軸方向に向くように配置されているとともに、前記スプレーガンによる塗料の吐出方向が、そのスプレーガンに前記管体の被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように、前記噴霧パターンにおける前記長径方向に対する中心線が、前記管体の管軸方向に直交する方向に対し傾いて設定されていることを特徴とする管外周面用塗装装置である。
【0016】
また、上記構成において、前記スプレーガンを管軸方向に沿って回動可能に支持し、その回動により、前記中心線の傾きを調整可能としてもよい。
中心線の傾きを調整可能とすれば、前記相対移動の速度や、塗料の吐出強さ、周囲の気流等の状況等の塗装条件にあわせてその傾きを調整することにより、最適な塗装被膜を形成し、管外周面に均一な膜厚で外観の綺麗な塗装を施すことができる。
【0017】
さらに、前記管体と前記スプレーガンとが、管軸方向に両方向に相対移動可能である場合において、前記相対移動の方向に合わせて、前記中心線の傾きを自動的に調整可能とすれば、管体又はスプレーガンが往復運動を繰り返しながら塗装を行うことができるので、装置を塗装の開始地点に戻すのに要する時間を低減することができ、管体外周面の塗装を短時間で効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明は、以上のようにしたので、塗装被膜同士の重ね塗り部による塗料の無駄を低減するとともに美観を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態において使用する管外周面用塗装装置は、図1(a)に示すように、管体pの外周面に向かって塗料を吐出するスプレーガン10と、管体pを載置可能なローラ1,1とを備えている。
ローラ1,1は、図2に示すように、その上に載置された管体pを支えるとともに、図示しないモータ等の駆動力によって回転することにより、その管体pを管軸周りに回転させることができる。
【0020】
スプレーガン10は、ホース21を介してポンプ23に接続されており、そのポンプ23によってタンク25内の塗料が供給されて、先端のノズル11から吐出されるようになっている。なお、図中の符号24は、開閉バルブである。
【0021】
そのスプレーガン10はガン移送機20に取り付けられており、そのガン移送機20が、ガイド22によって管軸方向に移動可能に支持されている。また、ガン移送機20は、図示しないモータ等の駆動手段によってその移動が制御されている。
したがって、スプレーガン10は、管軸方向に不動の管体pに対して管軸方向に定速で相対移動することができ、その速度は自由に設定できるとともに、移動中に速度を途中で変更することも可能である。
【0022】
そのスプレーガン10は、前記ガン移送機20に対して管軸方向に沿って回動可能に支持されている。このため、スプレーガン10を管軸方向に沿って回動させれば、その回動によってそのスプレーガン10の中心線4の向き、すなわち後記噴霧パターン5における長径方向qに対する中心線4の方向が調整可能である。また、そのスプレーガン10の中心線4の向きは、任意の調整位置で動かないように固定できるようになっている。
図1(b)では、前記中心線4の向く方向が管体pの径方向、すなわち管軸直交方向に対して角度αだけ傾いた状態で固定されている。
【0023】
また、そのスプレーガン10は、図4(a)に示すように、平面視長楕円形の噴霧パターン5を有するチップ12を装着したノズル11を備えたものであり、その噴霧パターン5における前記長楕円形の長径方向qが前記管体pの管軸方向に向くように配置されている。
【0024】
さらに、そのチップ12はテールレスチップであり、前記長径方向q両端部においてテールtを生じさせない特性を有するとともに、前記長径方向q両端部で、それぞれその噴霧パターンの中心から遠ざかるにつれて、距離yの範囲でその短径方向幅が徐々に減少する漸減部6を有する噴霧パターン5で塗料を吐出するものである(図4(a)(b)に示す第一例参照)。なお、漸減部6を除く部分の前記短径方向幅は一定となっている。
【0025】
なお、図4(c)(d)に示す第二例は、漸減部6の構成として、前記長径方向q両端部で、それぞれその噴霧パターンの中心から遠ざかるにつれて、距離yの範囲で塗装被膜vの膜厚が徐々に減少し、且つその同じ距離yの範囲で短径方向幅が徐々に減少するタイプのテールレスチップを用いた噴霧パターン5の例であり、上記図4(a)(b)の噴霧パターン5を有するチップ12に代えてこの種の噴霧パターン5を有するチップ12を採用してもよい。なお、漸減部6を除く部分の塗装被膜vの膜厚及び短径方向幅はそれぞれ一定となっている。
このとき、その図4(c)(d)の漸減部6における塗装被膜vの膜厚が徐々に減少する(前記長径方向の)距離y、及び短径方向幅が徐々に減少する(前記長径方向の)距離yは、上記のように完全に同一であることが望ましいが、その両距離y,yに多少の差異があっても差し支えない。両距離y,yに差異がある場合は、相対的に長い距離を有する方を漸減部6の距離と考えることができる。
【0026】
これらの図4(a)(b)の噴霧パターン5を有するチップ12、又は図4(c)(d)の噴霧パターン5を有するチップ12を用いた場合において、そのチップ12を備えたスプレーガン10と管体pとを図4(e)に矢印uで示す方向に相対移動させながら継続して塗料を噴霧すると、いずれのチップ12を用いた場合にも図4(e)に符号q’で示す断面において、図4(f)に示す断面が得られる。この図4(f)に示す断面は、矢印u方向に連続的に形成され、すなわち、符号q’に並行な任意の断面において同一の断面形状となる。
【0027】
スプレーガン10及びノズル11の詳細を図3(a)に示す。
【0028】
スプレーガン10の構成は、ガン本体13内に、ニードル挿通孔13eを介して連なる塗料室13aとエア室13cとが設けられている。塗料室13aの先端側は前記ノズル11に通じており、また、その塗料室13a内には、塗料口13bを通じてホース21から供給される塗料で充たされている。
【0029】
また、前記ニードル挿通孔13e内に、ニードル14が軸方向へ進退可能に挿通されている。ニードル14は、そのニードル挿通孔13eにぴったりと嵌って、塗料室13aとエア室13cとは液密を維持した状態で隔てられている。
ニードル14の塗料室13a側に位置する前端部14aは球面状となっており、ニードル14の進退により、その球面状のニードル14の前端部14aが、ガン本体13の先端に取り付けたノズル11の弁座に接離可能である。
【0030】
ノズル11は、弁座部材11cとチップ12とを備え、その弁座部材11cとチップ12とがナット11aによってガン本体13の先端に締め付けられて固定されている。前記弁座は、弁座部材11cと塗料室13aの前端に形成されたテーパー面13gとによって構成され、その内径は、前記ニードル14の前端部14aの直径よりもやや小径となっている。
【0031】
ノズル11に取り付けるチップ12の詳細を、図3(b)に示す。図中の符号12aは吐出口を、符号12bは、前記弁座から吐出口12aへと通じる内部溝であり、符号12cはチップの先端において、その幅方向全長に亘って形成された外部溝を示す。内部溝12aは、この外部溝12cの底に開口して前記吐出口12aを形成しており、前記外部溝12cの伸びる方向が、前記噴霧パターン5における長径方向qに一致する。また、その長径方向に対する塗料の吐出角度βは60度以上の広角となっている。
【0032】
ニードル14のエア室13c側に位置する後端部には、ピストン板14bが一体に形成されている。ピストン板14bは、前記エア室13c内を軸方向2室に分割して両者間の気密を維持し、その気密を維持した状態でニードル14とともに軸方向に進退可能である。
【0033】
また、ピストン板14bとエア室13cの後端壁13fとの間にはバネ15が収納されているので、エアー供給口13dを通じて外部から所定圧力以上の気体がエア室13c内に供給されると、その気圧によりピストン板14bをバネ15の弾性力に抗して図3(a)に示す右側へ押して、ニードル14を後退させる。ニードル14が後退するとノズル11の弁座が開くので、チップ12の吐出口12aから塗料が吐出される。
また、前記所定圧力以上の気体の供給を停止し、エア室13c内の気圧が下がれば、バネ15の弾性力によってピストン板14bを図3(a)に示す左側へ押して、ニードル14を前進させる。ニードル14が前進するとノズル11の弁座が閉じるので、チップ12の吐出口12aからの塗料の吐出が止まるようになっている。
【0034】
この管外周面用塗装装置を用いた塗装の方法について説明すると、まず、図1(a)に示すように、駆動力によってローラ1を回転させ、そのローラ1の回転によって管体pを管軸周りに回転させる。
【0035】
つぎに、管体pの回転と同時に、ガン移送機20をガイド22に沿って、図中矢印aの方向へ定速で移動させながらスプレーガン10のノズル11から塗料を吐出させると、前記管体pの一端の挿し口2から他端の受口3に向かって、その外周面に沿って螺旋状に塗装被膜vが形成されていく。
【0036】
このとき、その螺旋状の塗装被膜vは、前記噴霧パターン5の長径方向q両端部に相当する部分が、隣り合う塗装被膜vの前記長径方向q両端部と、管軸方向幅xで重なり合って管体pの外周面に螺旋状の重ね塗り部rを形成する。管体pの回転速度と、スプレーガン10の移動速度とは、予めそのように設定されている。
その重ね塗り部rにおいて、前記噴霧パターン5における漸減部6の管軸方向(長径方向q)全長yが、図5に示すように、重ね塗り部rの管軸方向全長xに一致しているので、塗装被膜vに生じ得る凹凸を少なくし、その美観を向上させることができる。
【0037】
また、前記スプレーガン10の塗料の吐出方向が、図1(a)に示すように、そのスプレーガン10に対し前記管体pの被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように、スプレーガン10の中心線4の方向が、管体pの管軸を通り且つその管軸を通る径方向に対して角度αだけ傾けて配置されている。
このため、吐出した塗料が風圧や気流の影響を受けて流されて、本来塗布されるべき位置からずれた位置に塗布されることを防止し得る。
【0038】
なお、スプレーガン10の中心線4の方向を、管体pの管軸を通る位置から、やや管軸に対して離れる方向へずらして設けることはさしつかえない。
【0039】
また、この実施形態では、テールレスチップを用い漸減部6を有する噴霧パターン5を採用していることから、通常であれば、例えば、図6(b)に示すように、管体pに対して径方向に塗料を吐出すると、矢印cの方向への強い風圧や気流があると、塗料が図中左側へ押し流される傾向がある。噴霧パターン5の長径方向q両端部付近において、塗料が完全に霧化されているため、その両端部付近において、風圧や気流に対抗する吐出圧(塗料の勢い)がないからであると考えられる。
塗料が押し流されると、噴霧パターン5の長径方向q両端部の漸減状態(重ね塗り部rを形成する前の状態における膜厚の漸減状態)に差が出る。このため、その状態で管軸方向に隣り合う噴霧パターン5の長径方向q両端部同士を塗り重ねると、前記重ね塗り部rの膜厚が均等に成らなかったり、あるいは、前記重ね塗り部rの範囲が管軸方向に拡がったり、周方向に蛇行したりして、管体pの外観が極めて劣る状態となってしまう。
【0040】
そこで、この実施形態では、図6(a)に示すように、塗料の吐出方向を、矢印c方向の風圧や気流に対向するように(向かい合うように)傾けたので、その弊害を抑制することができる。
【0041】
なお、スプレーガン10を、図1(b)に矢印bに示すように、他端受口3から一端挿し口2に向かって逆方向に移動させながら塗装する場合は、図中に示すように、そのスプレーガン10を傾ける方向も前述の実施形態と逆方向となる。
【0042】
他の実施形態を図7(a)に示す。この実施形態は、ローラ1,1によって管軸周りに回転する管体pと、スプレーガン10とを管軸方向に相対移動させる手段として、塗装台車31を採用したものである。塗装台車31には前記ローラ1,1が備えられており、定点に動かない状態で固定された台座30上にスプレーガン10が支持されている。
塗装台車31は管体pに対して管軸方向に走行可能であり、例えば,図中矢印a’方向への一定速度の走行によって、管体pは、前記スプレーガン10に対して管軸方向に定速で相対移動することができる。また、ローラ1の回転速度と同様に、その速度は自由に設定できるとともに、移動中に速度を途中で変更することも可能である。
【0043】
なお、管体pを、図7(b)に矢印b’に示すように、他端受口3側に向かって逆方向に移動させる場合は、図中に示すように、そのスプレーガン10を傾ける方向も前述の実施形態と逆方向となる。
【実施例】
【0044】
上記テールレスチップを備えたスプレーガン10を用いて管体pの外周面の塗装を行った場合の実施例を以下に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
この表1に示す実施例は、スプレーガン10を管軸方向定点に動かないように固定し、管体pを塗装台車31によって移動させる塗装方法(管体の一端から他端に向かって一方向に片道塗装)によるものである。
【0047】
前述のように、テールレスチップ12を用いた場合、噴霧パターン5の前記長径方向q両端部において塗料が確実に霧化されるため、その塗料の吐出の勢いが落ちるという傾向がある。
このため、塗料の吐出圧を上げることにより、特に表中○印の実施例において、テールtの生じない良好な塗装被膜vが得られた。
【0048】
なお、表1中のスプレーガン10の移動速度は、管体pの口径、管回転速度によって適宜設定され、例えば、管体pの口径がΦ250(mm)、管回転速度が100(m/min)であれば9(m/min)に設定することができる。
【0049】
【表2】

【0050】
表2の実施例では、チップ12の吐出口12aの口径を小さくして、逆に塗料の吐出圧を上げることにより、特に表中○印の実施例において、テールtの生じない良好な塗装被膜vが得られている。
【0051】
【表3】

【0052】
この表3に示す実施例は、Φ75(mm)の管体pの外周面を塗装の対象とするものである。スプレーガン10による塗料の吐出方向を、前方15度、すなわち、そのスプレーガン10に対し管体pの被塗装面が近づいて来る方向に対向するように傾けた際に、テールtの生じない良好な塗装被膜vが得られている。なお、吐出方向を鉛直方向とした場合の評価は表3中に○印となっているが、実際にはややテールtの生じた状態となっている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】一実施形態を示し、(a)は全体図、(b)はスプレーガンの移動方向を逆方向とした場合の要部拡大図
【図2】図1の管体の径方向断面図
【図3】スプレーガンの詳細を示し、(a)は全体断面図、(b)はノズルに取り付けられるチップの詳細図
【図4】噴霧パターンの例を示し、(a)は第一例の平面図、(b)は(a)の断面図、(c)は第二例の平面図、(d)は(c)の断面図、(e)は第一例、第二例の噴霧パターンの例による塗装状態を示す平面図、(f)は(e)の断面図
【図5】管体の外周面への塗装被膜の形成状況を示し、(a)は平面図、(b)は断面図
【図6】(a)(b)は、スプレーガンから吐出された塗料が、風圧や気流によって受ける影響を示す説明図
【図7】他の実施形態を示し、(a)は全体図、(b)は管体の移動方向を逆方向とした場合の要部拡大図
【図8】管体の外周面に塗装を施した場合の状態を示す斜視図
【図9】従来例における管体の外周面への塗装被膜の形成状況を示し、(a)は平面図、(b)は断面図
【図10】従来例における噴霧パターンを示し、(a)は平面図、(b)は断面図
【図11】周知のテールレスチップの詳細図
【符号の説明】
【0054】
1 ローラ
4 スプレーガンの中心線
5 噴霧パターン
6 漸減部
10 スプレーガン
11 ノズル
12 チップ(テールレスチップ)
12a 吐出口
13 ガン本体
14 ニードル
15 バネ
20 ガン移送機
21 ホース
22 ガイド
31 塗装台車
p 管体
q 長径方向
r 重ね塗り部
t テール
v 塗装被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視長楕円形を成す噴霧パターン5で塗料を吐出するノズル11を備えたスプレーガン10を用い、その噴霧パターン5の前記長楕円形の長径方向qを管体pの管軸方向に向け、前記管体pを管軸周りに回転させてその管体pと前記スプレーガン10とを管軸方向に相対移動させながら前記スプレーガン10で塗料を吐出することにより前記管体pの外周面に沿って螺旋状に塗装被膜vを形成し、前記螺旋状に形成された塗装被膜vは、前記噴霧パターン5の長径方向q両端部に相当する部分が管軸方向幅xで重なり合って螺旋状の重ね塗り部rを形成している管体外周面の塗装方法において、
前記ノズル11は、前記長径方向q両端部で、それぞれその噴霧パターンの中心から遠ざかるにつれて塗装被膜vの膜厚又は前記長楕円形の短径方向幅が徐々に減少する漸減部6を有する噴霧パターン5で塗料を吐出するものであり、その漸減部6を前記重ね塗り部rに含めたことを特徴とする管体外周面の塗装方法。
【請求項2】
平面視長楕円形を成す噴霧パターン5で塗料を吐出するノズル11を備えたスプレーガン10を用い、その噴霧パターン5の前記長楕円形の長径方向qを管体pの管軸方向に向け、前記管体pを管軸周りに回転させてその管体pと前記スプレーガン10とを管軸方向に相対移動させながら前記スプレーガン10で塗料を吐出することにより前記管体pの外周面に沿って螺旋状に塗装被膜vを形成し、前記螺旋状に形成された塗装被膜vは、前記噴霧パターン5の長径方向q両端部に相当する部分が管軸方向幅xで重なり合って螺旋状の重ね塗り部rを形成している管体外周面の塗装方法において、
スプレーガン10のノズル11にテールレスチップ12を装着し、そのテールレスチップ12により前記噴霧パターン5を形成することを特徴とする管体外周面の塗装方法。
【請求項3】
前記スプレーガン10のノズル11にテールレスチップ12を装着し、そのテールレスチップ12により前記噴霧パターン5を形成することを特徴とする請求項1に記載の管体外周面の塗装方法。
【請求項4】
前記スプレーガン10による塗料の吐出方向が、そのスプレーガン10に前記管体pの被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように、前記噴霧パターン5における前記長径方向に対する中心線4が、前記管体pの管軸方向に直交する方向に対し傾いて設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の管体外周面の塗装方法。
【請求項5】
請求項4に記載の管体外周面の塗装方法に使用する管外周面用塗装装置であって、平面視長楕円形を成す噴霧パターン5で塗料を吐出するノズル11を備えたスプレーガン10と、管体pを載置可能であるとともに駆動力によって回転することにより前記管体pを管軸周りに回転させることができるローラ1,1と、前記管体pと前記スプレーガン10とを管軸方向に相対移動させる手段とを備え、前記スプレーガン10は、その噴霧パターン5における前記長楕円形の長径方向qが前記管体pの管軸方向に向くように配置されているとともに、前記スプレーガン10による塗料の吐出方向が、そのスプレーガン10に前記管体pの被塗装面が近づいて来る方向に向かい合うように、前記噴霧パターン5における前記長径方向に対する中心線4が、前記管体pの管軸方向に直交する方向に対し傾いて設定されていることを特徴とする管体外周面用塗装装置。
【請求項6】
前記スプレーガン10を管軸方向に沿って回動可能に支持し、その回動により、前記中心線4の傾きを調整可能としたことを特徴とする請求項5に記載の管体外周面用塗装装置。
【請求項7】
前記管体pと前記スプレーガン10とは、管軸方向に両方向に相対移動可能であり、前記相対移動の方向に合わせて、前記中心線4の傾きを自動的に調整可能としたことを特徴とする請求項6に記載の管体外周面用塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−246404(P2008−246404A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92487(P2007−92487)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】