説明

管状体の振れ測定方法及びその装置

【課題】回転する管状体の振れをより正確かつ迅速に測定できる測定方法とその装置を提供すること。
【解決手段】回転可能な管端チャックへ管状体の内側面を押圧する状態で当該管状体の一端部を保持させ、管端チャックにより前記管状体を回転させながら、管状体の他端部内の計測位置から管状体の内周までの距離を計測して回転角度毎の計測値を得るとともに、管状体の外周から離れた測定位置から管状体の外周までの距離を測定して回転角度毎の測定値を得、前記計測値に演算処理を施すことにより管状体の他端部の内径中心を算出して当該管状体の仮想中心軸を求め、前記測定位置において管端チャックの回転軸線と直交する面における前記回転軸線に対する前記仮想中心軸の偏倚量により前記測定値を補正する手段を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真装置に用いられる感光体ドラムその他の管状体の振れを測定する振れ測定方法及び振れ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年例えば複写機やプリンタなどの電子写真装置に対する高性能化(高解像度化)、小型化及び低コスト化の要請から、それらに使用される感光体ドラムについても高精度化及び低コスト化が強く要請されている。
したがって、ドラムは回転中の振れを極力小さく抑えることが要請されるが、電子写真装置の高性能化及び低コスト化の要請に応えるためには、ドラムの振れ測定は抜き取りでなく全製品について実施する必要があり、かつ、より短時間で精度よく行われることが要請されている。
【0003】
前記要請に応えものとして、以下のようなドラムの振れ測定方法及び装置が提案されている。
その第1は、ドラムの各端部の内周面の二箇所にそれぞれ下方からボールを転接させることにより当該ドラムを四点で水平に支持し、前記ドラムの外周面で前記ボールが点接触する各端部の内周面の二箇所を結ぶ二本の母線のうちの一本の母線上に沿った位置に測定点を持つ距離センサを設置する。そして、前記ドラムを回転させ、当該ドラムの周方向に間隔をおいた最低三箇所において、前記距離センサにより当該距離センサから前記測定点までの距離を計測し、この計測により得られた計測値に演算処理を施すことで、前記ドラムの両端の中心を結ぶ仮想中心軸に対する前記ドラムの外周面の偏心量及びその偏心方向を算出する(後記特許文献1)。
【0004】
その第2は、ドラムの両端部において内部へ挿入されたコロと外周へ当該コロと対応配置されたコロないしローラからなる固定部材とで挟んで前記ドラムを水平に支持する。そして、前記ドラムを回転させながら、前記ドラムの外にある特定位置と当該ドラムとの距離を測定する距離測定手段を用いて、特定位置とドラムの側面上の測定点との距離を測定し、前記ドラムの両端の中心を結ぶ仮想中心軸に対するドラムの外周面の偏心量及び偏心方向とを算出する(後記特許文献2)。
【0005】
前記従来の振れ測定方法及びその装置には以下の問題があった。
すなわち、ボール精度やその設置精度(前記第1)、コロの偏心量(前記第2)、ドラムの長さ方向のずれ(前記第1)などが測定値に影響して測定精度が低下するおそれがある。
ボールやコロの設置構造を含めたドラムの支持機構が複雑になり、より正確に測定するためには設備費が嵩む。
ドラムは両端支持であるから、測定にとりかかるまでのドラムの支持や支持位置からの撤去に時間がかかり、結果として一連の測定作業に時間がかかる。
【特許文献1】特開2002−48530号公報
【特許文献1】特開2002−91233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は管状体の振れ測定のさらなる高精度化と測定作業の一層の短縮化にあり、その目的は、回転する管状体の振れをより正確かつ迅速に測定することができる測定方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記目的を達成できる振れ方法を円滑に実施することができ、かつ、より簡単な構成の振れ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る管状体の振れ測定方法は、前記課題を解決するため、回転可能な管端チャックへ管状体の内側面を押圧する状態で当該管状体の一端部を保持させ、前記管端チャックにより前記管状体を回転させながら、当該管状体の他端部内における所定の計測位置から当該管状体の内周までの距離を計測して所定の回転角度毎の計測値を得るとともに、前記管状体の両端間の所定位置であって当該管状体の外周方向に離れた測定位置から前記管状体の外周までの距離を測定して前記回転角度毎の測定値を得、前記計測値に演算処理を施すことにより管状体の前記他端部の内径中心を算出して当該内径中心と当該管状体の一端部と対応する位置における前記管端チャックの回転中心とから前記管状体の仮想中心軸を求め、前記測定位置において前記管端チャックの回転軸線と直交する面における前記回転軸線に対する前記仮想中心軸の偏倚量により前記測定値を補正する手段を含むことを最も主要な特徴としている。
【0008】
本発明に係る管状体の振れ測定装置は前記課題を解決するため、回転可能で回転軸線に対して直交するセット面を有し、当該セット面ヘ一端部がセットされた管状体の内側面を押圧する状態で当該管状体の一端部を保持する管端チャックと、前記管状体と干渉しない所定の設置位置から前記セットされた管状体の前記他端部の内周の一部へ計測ヘッドが臨む位置までの範囲を移動可能な変位計測手段と、前記管状体の両端間の所定位置であって当該管状体の外周方向へ離れた測定位置から当該管状体の外周までの距離を測定すべく設置された距離測定手段とを備えたことを最も主要な特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る管状体の振れ測定方法によれば、管状体は内面がチャックされた状態で管端チャックによりその一端部が保持されるので、管状体の前記一端部の内径中心と管端チャックの回転中心とが一致し易く、かつ、管状体の他端部の内径中心と当該管状体の一端部と対応する位置の管端チャックの回転中心とから管状体の仮想中心軸を求めるので、求められた仮想中心軸には管状体の偏肉量は影響せず、よって、管状体の仮想中心軸は当該管状体の真の中心軸により近いものとなる。
前記のように管状体の外周の前記測定値を、当該管状体の一端部の内面をチャックした前記管端チャックの回転軸線と前記管状体の仮想中心軸の偏倚量により補正する。感光体ドラムなどはその両端部内にフランジ部材が内接するように挿入された状態で回転されるが、本発明方法は管状体の一端部の内面をチャックして回転させながら振れを測定するので、感光体ドラムなどの実際の使用状態に沿って管状体の振れを測定することになる。
前記管状体の仮想中心軸は、当該管状体の他端部の内径中心と当該管状体の一端部と対応する位置の管端チャックの回転中心とから求められるので、本発明方法の過程で。
したがって、より正確に振れを測定することができる。
管状体は両端支持でなく片端の内面をチャックした状態で回転されながらその振れが測定されるので、両端の軸合わせが不要なことと、管状体を管端チャックへ保持させる時間と管状体を管端チャックから取り外す時間とがはるかに短縮されることとにより、より一層迅速に(短時間で)振れを測定することができる。
また、管状体は片端支持であるためその支持機構がより簡単(部品点数が少なくて済む)になり、設備費用がより低コストになる。
【0010】
本発明に係る管状体の振れ測定装置によれば、前記のように構成されているから前記本発明方法を円滑に実施することができるほか、全体の構成が簡単になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は本発明に係る管状体の振れ測定装置の概略正面図、図2は図1の実施形態の装置における変位計測手段,押え手段及び管状体との平面視における位置関係を示した拡大平面図、図3は図1の実施形態の装置における管端チャックの拡大平面図、図4は図1の実施形態の装置において管状体を管端チャックへセットして押え手段により押えた状態の部分縦断面図、図5は図1の実施形態の装置における距離測定手段の部分平面図である。
【0012】
図1で示すように、管状体1の一端(下端)部をその内側面を押圧する状態で保持する管端チャック2は、所定の設置ベース上に設置されたエアスピンドル2aの中央部に取り付けられており、図示されていない駆動手段によりエアスピンドル2aを介して回転するように構成されている。
この実施形態において、管端チャック2は、中央部に突出する案内軸部20を、当該案内軸部20の基端外周へ回転しない状態において当該管端チャック2の回転軸線P’と直交するセット面21をそれぞれ有するバルーンチャック(但し、藤井精密工業株式会社製の商標名)である。
図3で示すように、管端チャック2の作動部は平面視において中心から等角度間隔に分割れた複数個(この実施形態では六個)の分割片20a〜20fから構成されている。この管端チャック2が管状体1の一端部を保持(チャック)する際には、所定の始動操作に伴い、図示しない配管を通じて供給される空気圧により、図4のように各分割片20a〜20fの案内軸部20の端部が周方向に向かって等量ずつ膨らむ(拡大する)状態に作動する。
【0013】
図1及び図2の符号3は渦電流変位センサからなる非接触式の変位計測手段であり、管状体1を管端チャック2のセット面21ヘセットするときから所要の測定を終えて当該セット面から取り除くまで間、当該管状体1と干渉しない所定の設置位置で保持ブロック30によって保持されており、保持ブロック30は側方ヘ延びる支持腕31へ取り付けられている。
変位計測手段3は、図示されていない駆動機構により、図1のように設置位置にある状態から、当該変位測定手段3のセンサヘッド面が前記管端チャック2へ保持されている管状体1の他端(上端)部内の計測位置と一致する状態の位置(以下単に「計測位置」と言う。)までの範囲を往復移動し、前記計測位置において当該計測位置から管状体1の内周までの距離を計測する。
【0014】
図1,図2及び図4の符号4は、管状体1を管端チャック2のセット面21ヘセットするときから所要の測定を終えて当該セット面から取り除くまで間、当該管状体1と干渉しない所定の設置位置ヘ設置された押え部材であり、この設置位置から図4で示す位置まで下降して、管端チャック2のセット面21へセットされた管状体1を管端チャック2の回転軸線P’に沿って前記セット面21へ押し付けるように作動する。
この実施形態において、押え部材4は、平面視馬蹄形状等の保持枠41と、この保持枠41の下面へ所定の角度間隔をおいてねじ(図示しない)により三個以上取り付けられた下向きの接触片40とから構成されている。各接触片40は、図示のように円錐状又は円錐台状に形成されている。
この押え部材4は図2で示すように、保持枠41の馬蹄形状に沿った両側部へ前記変位計測手段3の支持腕31と平行するように取り付けられた一対の支持腕42,42を介して、図示しない駆動機構により図4の実線の設置位置から同図二点鎖線の位置まで往復移動する。
各接触片40は、管端チャック2の回転軸線P’から等距離に位置しており、図4のように押え部材4が管状体1を管端チャック2のセット面21へ押し付けるときは、その円錐面の一部が管状体1の他端内縁へ接触する。
前記押え部材4は不可欠な構成部材ではないが、後述のように管端チャック2が管状体1の一端部を内部からチャックしたときに、管端チャック2の回転軸線P’と管状体2の両端部の中心を結ぶ仮想中心軸とのずれをなるべく小さくするために有用である。
【0015】
前記変位計測手段3や押え部材4とそれらを支持する各部材は、これらが前記のように往復移動するとき互いに干渉しないように設計されている。また、変位計測手段3及び押え部材4が設置位置に移動した状態では。前記変位計測手段3及び押え部材4とそれらを支持する各部材は、管状体1の管端チャック2へのセット及び管端チャック2からの取外しの際当該管状体1と干渉しないように設計されている。
【0016】
5は管端チャック2ヘ片端保持された管状体1を介して対向配置されたレーザ光投光部50とレーザ光受光部51とからなる距離測定手段であり、前記管状体1はその直径が投光部50によるレーザ光の投光幅内に位置して(図5)いる。
前記距離測定手段5は、図5の投光部50によるレーザ光の投光幅のいずれかの片側に位置する測定位置52から、管状体1の回転時に前記測定基位置52へ最も近接する管状体1の外周の測定点10までの距離を測定する。
距離測定手段5は、管端チャック2へ保持されている管状体1の両端間の一箇所(例えば両端間の中央部すなわち長さ方向の中央部)で前記距離を測定するように設置されていても実施することができるが、前記管状体1の長さ方向に沿って所定間隔毎に位置する状態で複数設置するのが好ましい。
この実施形態では、前記管状体1の一端部から全長の1/10、1/2及び9/10の各位置へ都合三箇所に設置されている。
【0017】
前記実施形態の測定装置を用いて管状体1の振れ測定する方法について以下説明する。
管状体1は、直径=20mm,肉厚=1mm,長さ260mmのアルミウム合金からなる高精度成形の管とする。
図1のように変位計測手段3及び押え部材4が設置位置に復帰している状態で、管状体1を例えば図示しないロボットなどにより保持して管端チャック2の真上に沿う状態に移動させ、当該管状体1の一端を管端チャック2のセット面21上にセットする。
次いで、前記管状体1を管端チャック2のセット面21へ当該管端チャック2の回転軸線に沿って押し付ける。このとき、押え部材4の各接触片40は、管端チャック2の回転軸線P’から等距離位置にあり、図4のように押え部材4が管状体1を管端チャック2のセット面21へ押し付けた状態では、そのれらの円錐面の一部が管状体1の他端内縁へ接触するようになっているので、管端チャック2の回転軸線P’に対する管状体1の両端部中心間を結ぶ仮想中心軸の上端部のずれ量はより小さくなる。
管状体1を前記のように押し付けた後、図示しないエアー供給配管からのエアーの供給により管端チャック2の各分割片20a〜20fの先端部を周方向に拡大させて管状体1の一端部内面をチャックした状態で保持させ、押え部材4を設置位置ヘ復帰させるとともに(あるいは復帰させた後)、変位計測手段3を図4の二点鎖線で示すように管状体1の上端部内の計測位置へ移動させる。
前記変位計測手段3の計測位置は、できるだけ管状体1の上端へ近付けた位置に設定するのが測定精度上好ましい。
【0018】
前記の状態での前記変位計測手段3の位置における管端チャック2の回転軸線P’と直交する面において、管状体1と変位計測手段3及び回転軸線P’との関係を平面図で示すと図6のようになる。図6には回転軸線P’と直交する面におけるX,Y座標が示されており、X軸は回転軸線P’と直交しY軸は回転軸線P’の位置でX軸と直交している。
前記の状態で管端チャック2を一定方向へ360°回転させながら、変位計測手段3によりその測定位置(変位計測手段のヘッド面)から管状体1の内周までの距離を連続的に計測し、管状体1の所定の回転角度θ毎(例えば1°〜10°、ただしこの実施形態では1°)の計測値s(θ)を記録する。例えば、当該計測値を図示しないコンピュータ(本発明方法を実施するための各種の演算や算出などに使用されているコンピュータ)のメモリに格納する。
【0019】
管状体1が図6の矢印のように反時計方向に回転するとき、これを回転の基準方向である管状体1の下端方向から見た場合は管状体1は時計方向に回転する。変位計測手段3や距離測定手段5が計測ないし測定する対応位置の回転角度は管状体1の上端方向から見た当該管状体1の回転の逆方向、すなわち、管状体1の下端方向から見た回転角度であるので、この明細書では便宜上、管状体1の回転をその上端方向から見て当該管状体1の回転が各回転角度毎に停止したと仮定した場合の回転角度を、「回転角度θ’」と記載し、管状体1の回転をその下端方向から見た場合の回転角度を「回転角度θ」と記載することとする。
したがって、回転角度θ=360°−回転角度θ’である。
この明細書で「回転角度θ’」は、前記のように管状体1の回転を停止させたときのX軸(X>0)と、回転軸線P’と当該位置における管状体1の内径を結ぶ線とがなす角度であって、後述のように管状体1の上端部における内径中心Oを求めるために用いる。
【0020】
図6で表示されている他の符号は次の記載のとおりである。
s(θ’),s(θ):ある回転角度θ’,θにおける変位計測手段3の計測距離
L:回転軸線P’〜変位検出手段3の計測ヘッド面間距離
e:管状体の内径中心O〜回転軸線P’間距離
α:管状体の回転角度θ,θ’=0°のときの、管状体の内径中心Oと回転軸線P’とを結ぶ線とX軸(X>0)とのなす角度
【0021】
前記変位計測手段3による計測値s(θ)と当該計測値に対応する回転角度データに、即時的に演算処理を施して管状体1の仮想中心軸O’(図9)を算出する。
管状体1の仮想中心線O’を算出するまでの手順を以下詳細に説明する。
ステップ1
前記のように、管状体1を回転させながら計測位置から管状体1の上端部の内周までの距離を連続的に計測し、管状体1の回転角度θ毎の計測値を記録する。
【0022】
ステップ2
変位計測手段3の計測距離s(θ’)と回転角度θ’を次式1,2によりXY座標データに変換する(回転軸線が原点となる)。
X(θ’)=s(θ’)・cos(θ’)……式1
Y(θ’)=s(θ’)・sin(θ’)……式2
【0023】
ステップ3
前記座標データを図7のようにグラフ化し(円になる)、最小中心二乗法により管状体1の上端部の内径中心Oを求める。図7では回転角度θ’=0°,10°,20°…330°,340°,350°の36の点を用いている。
前記内径中心Oは、最小中心二乗法ではなく、管状体が360°回転した時の各回転角度間隔(θ)毎の変位計測手段3の計測値その最大値からその最小値を減算(式:e=S[θ]max−s[θ]min)することによって求めても実施することができる。
【0024】
ステップ4
回転軸線P’と管状体1の上端部の内径中心Oとから、次式3、4により、内径中心O〜回転軸線P’間距離eと、内径中心Oと回転軸線P’を結ぶ線とX軸(X>0)とのなす角度αを求める。なお、回転軸線を原点としているので回転軸線の座標は(0,0)である。
・内径中心O(x,y)のとき
e=√(x+y)……式3
α00=|tan−1(y/x)……式4
ただし
・x>0,y>=0のとき、α=α00
・x>0,y<0のとき、α=α00+90°
・x<0,y<0のとき、α=α00+180°
・x>=0,y<0のとき、α=α00+270°
以上により求められた内径中心Oと回転軸線P’とを結ぶ線とX軸とのなす角度αと、管端チャック2のセット面21の回転中心Pとからで管状体1の仮想中心線O’(図9)を算出する。
【0025】
なお、回転軸線P’〜変位検出手段の計測位置間距離Lはその値が比較的大きい場合でも、内径中心O〜回転軸線P’間距離eと、回転角度θ’=0°のときの管状体の内径中心Oと回転軸線P’とを結ぶ線とX軸とのなす角度αの算出誤差への影響が微小であるので、これを無視することが可能である。すなわち、これは図10(a)のような回転軸線P’〜変位検出手段の計測位置間距離Lと前記変位計測手段3による計測値s(θ)からグラフ化された円を図10(b)のように半径方向へLだけ縮小すると、図10(c)のように前記変位計測手段3による計測値s(θ)からグラフ化された円と等しくなり、前記Lを無視しても内径中心Oはほとんど変わらないことから説明できる。
例えば、L=10mmのときこれを前記算出に用いた場合とこれを無視した場合、管状体内径中心O〜回転軸線P’間距離eについて0.02μmの差を生じ、管状体の回転角度θ’=0°のときの、管状体の内径中心Oと回転軸線P’とを結ぶ線とX軸とのなす角度α角度について0.21°の差を生じたに過ぎなかった。
【0026】
図8は、前記変位計測手段3の前記計測位置のレベルでの回転軸線P’と直交する面における管状体1の概略端面図であり、図9は管状体1を図8のY軸方向に沿って見た管状体全長の概略図である。なお、図8の二点鎖線で示す管状体1は、後述の補正データで補正された状態を示している。
前記のように管状体1を360°回転させながら、変位計測手段3によりその計測位置から管状体1の内周までの距離を連続的に計測するのと並行して、図5の距離測定手段5により、図9のように管状体1の長さ方向の所定間隔毎の測定位置L1,L2,L3(図5の距離測定手段5の設置レベル)において、管状体1の外周から離れた測定位置52から管状体1の外周の測定点10までの距離a,a,aを連続的に測定する。
図8及び図9の記載から明かなように、前記測定位置52は、管状体1の外周方向に離れかつ管端チャック2の回転軸線P’との平行線53(図8では点で記載されている)を通る基準面54上に位置しており、測定点10は前記測定位置52において当該測定位置へ最も近接する管状体1の外周上の位置である。ただし、図9の場合測定位置52は各レベルL1〜L3において同一垂直面上に位置していなくてもよい。
図9で示す前記距離a,a,aの管状体1に対する測定レベル(管状体1の長さ方向の所定間隔毎の三箇所)L1〜L3は、この実施形態では前記のように管状体1の長さ=hとして当該管状体1の上端から順にL1=9/10h,L2=1/2h,L3=1/10hの位置である。
【0027】
前記のように測定された各測定レベルL1〜L3における測定距離a,a,aは、前記変位計測手段3によってその計測位置から管状体1の上端部内周までの距離を測定した際に、管状体1の所定の回転角度θ(この実施形態では1°)毎の計測値s(θ)を記録したので、その各回転角度θの角度データを利用してそれに対応する測定距離a,a,aの測定値を選択すべく即時的に処理する。
これらの距離測定値や角度データ及び関連データに演算処理を施して、管状体1の仮想中心線O’の回転軸線P’に対する偏倚量(補正量)を算出し、当該偏倚量によって前記仮想中心線O’を回転軸線P’と一致させる方向へ補正し、各測定位置における管状体1の振れを算出する。
【0028】
以下、前記距離a,a,aを測定した後管状体1の振れ測定までの手順を具体的に説明する。
ステップ5
各回転角度θ毎に、前記のように測定した距離a,a,aと、管状体1の上端部における内径中心O〜管端チャック回転軸線P’間距離eと、前記内径中心Oと回転軸線P’とを結ぶ線とX軸(X>0)のなす角度α(θ)から、次の式5〜7により各測定位置L1,L2,L3における振れ補正データa’(θ),a’(θ),a’(θ)を求める。
’(θ)=a(θ)+e・cosα(θ)・9/10……式5
’(θ)=a(θ)+e・cosα(θ)・1/2………式6
’(θ)=a(θ)+e・cosα(θ)・1/10……式7
ただし
α(θ):α+θ
θ:管状体の回転角度(0〜360°)
前記各式から明かなように、実際に演算される補正量である偏倚量e・cosα(θ)は図8及び図9の管状体1の上端部における、回転軸線P’とそれに対する平行線53とを通る面に投影された回転軸線P’と管状体の内径中心Oとの距離の変化量であり、平面視においては回転軸線O’に対する仮想中心軸P’の偏心量すなわち回転軸線O’と内径中心O間の距離eである。
【0029】
ステップ6
次の式8〜10により、管状体が360°回転したときの各測定レベルL1,L2,L3における振れを算出する。
L1の位置の振れ=a’(θ)max−a’(θ)min……式8
L2の位置の振れ=a’(θ)max−a’(θ)min……式9
L3の位置の振れ=a’(θ)max−a’(θ)min……式10
【0030】
前記実施形態の管状体の振れ測定方法によれば、管状体1は内面がチャックされた状態で管端チャック2によりその一端部が保持されるので、管状体1の前記一端部の内径中心と管端チャック2の回転中心とが一致し易く、かつ、管状体1の他端部内面の前記計測値に演算処理を施して管状体1の仮想中心線O’を求めるので、その仮想中心線O’は当該管状体1の真実の中心線とより一致し易い。
前記のように管状体1の外周の前記測定値を、当該管状体1の一端部の内面をチャックした前記管端チャック2の回転軸線P’と前記管状体1の仮想中心軸P’の偏倚量により補正する。感光体ドラムなどはその両端部内にフランジ部材が内接するように挿入された状態で回転されるが、前記測定方法は管状体1の一端部の内面をチャックして回転させながら振れを測定するので、感光体ドラムなどの実際の使用状態に沿って管状体の振れを測定することになる。
前記管状体1の仮想中心軸は、当該管状体1の他端部の内径中心Oと当該管状体1の一端部と対応する位置の管端チャック2の回転中心とから求められるので、管状体1の偏肉量も測定される。
したがって、より正確に振れを測定することができる。
【0031】
管状体1は両端支持でなく片端支持状態でその振れが測定されるので、両端の軸合わせが不要なことと、管状体1を管端チャック2へ保持させる時間と管状体1を管端ホルダ2から外す時間とがはるかに短縮されることとにより、より一層迅速に(短時間で)測定することができる。
また、管状体1は片端支持であるためその支持機構がより簡単(部品点数が少なくて済む)になり、設備費用がより低コストになる。
【0032】
前記実施形態の振れ測定方法および測定装置によれば、管状体1の内周における前記距離の計測及び外面の前記距離の測定は、いずれも非接触の計測手段ないし測定手段により行われるので、振れの測定中に管状体1の内外面を傷付けるおそれが少ない。
管状体1は管端チャック2へ縦方向に沿う姿勢で保持されるので、測定機器類の設置や作動がより容易である。
【0033】
管状体1は管端チャック2のセット面21へセットされた後当該ホルダへ保持される前に、押え部材4により前記管端ホルダ2の回転軸線に沿って前記セット面21へ押付けられるので、管端ホルダ2へ保持されたときに前記回転軸線と管状体1の中心線とのずれが小さくなる。
押え部材4は、管状体1を前記管端ホルダ2のセット面21へ押し付けたときにセット面21の反対側の当該管状体1の端部内周縁に円錐面の一部が接触する三個以上の円錐体40(又は円錐台体)を有し、全円錐体40間の中心部は管端ホルダ2の回転軸線へほぼ沿っているので、管状体1を前記セット面21へ押し付けたとき管状体の中心線と前記回転軸線とのずれが一層小さくなる。
【0034】
その他の実施形態
管端チャック2は管状体1を垂直姿勢でなく傾斜姿勢又は水平姿勢で保持するように構成されていても実施することができるが、垂直姿勢で保持するいわゆる縦型であるのがより好ましい。
前記変位計測手段3には、レーザ光用いた変位センサやその他の非接触式変位計測手段を使用し、あるいは接触式変位計測手段を使用することもできる。
管状体1の外周の測定点を測定する測定位置は、管状体1の長さ方向の一箇所に設けても実施することができる。
また、前記実施形態のように管状体1の長さ方向に沿って複数箇所に設ける場合には、各測定位置に対応する位置へそれぞれ距離測定手段5を設置するのに代えて、一組のレーザ投光部とレーザ受光部とを設置し、当該投光部と受光部とが管状体の長さ方向へ各測定位置を含む範囲を互いに同調して往復移動するように構成しても実施することができる。
この場合には、投光部と受光部が一つの設置位置に移動する毎に管状体を360°回転させる必要がある。
前記距離測定手段5には、渦電流変位センサやレーザ変位センサなどを用いることができるほか、接触式変位計を使用することもできる。
【0035】
押え部材4の接触片40が三個以上である場合、それらは前記のように逆円錐状又は逆円錐台状である場合のほか、例えば図11で示すように、管状体1を押えた状態において、当該管状体1の端部内縁部へ接触する外側面を連続させたときの仮想外側面が総体として円錐面状を呈するものであれば、図9における管状体1の仮想中心軸O’と管端チャックの回転軸線P’とをより一致させ易いように実施することができる。
したがって、接触片40は複数個でなく例えば図12で示すように円錐台形状ないし円錐形状を有する単一のものでも同様に実施することができる。
【0036】
前記のように構成された測定装置は、管状体の形状測定,外径測定,真円度の測定などにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る一実施形態の管状体の振れ測定装置の概略正面図である。
【図2】前記実施形態の測定装置の変位計測手段と押え部材との位置関係を示す概略平面図である。
【図3】前記実施形態の測定装置における管端チャックの拡大平面図である。
【図4】前記実施形態の測定装置の一部省略拡大縦断面図である。
【図5】前記実施形態の測定装置における距離測定手段と管状体との位置関係を示す一部省略拡大平面図である。
【図6】変位計測手段により計測されたデータをXY座標に変換する演算処理手順を説明するための図であって、前記変位計測手段の位置で水平方向に切断した管状体の概略端面図である。
【図7】変位計測手段により計測されたデータをXY座標データに変換した後当該変換後のデータをXY座標上にグラフ化した状態の説明図である。
【図8】距離測定手段により測定されたデータを補正する補正データを算出する要領を説明するための図であって、変位計測手段の位置で水平方向に切断した管状体の概略端面図である。
【図9】距離測定手段により測定されたデータを補正データで補正する演算処理手順を説明するための管状体の概略側面図である。
【図10】管端チャックの回転軸線P’から変位検出手段の計測位置までの距離Lの管状体の内径中心Oに対する影響を説明するための原理説明図で、(a)図は回転軸線P’〜変位検出手段の計測位置までの距離Lを半径とする円と当該距離Lに変位検出手段による計測値s(θ)を加えた円との関係を示す説明図、(b)図は 前記距離Lと前記計測値s(θ)からグラフ化された円を半径方向へ前記距離Lだけ縮小した説明図、(c)図は変位計測手段による計測値s(θ)からグラフ化された円を示す説明図である。
【図11】押え部材における接触片の変形形態を示す部分断面図である。
【図12】押え部材における接触片の他の変形形態を示す部分断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 管状体
10 管状体外周の測定点
2 管端チャック
2a エアスピンドル
20 案内軸部
21 セット面
3 変位計測手段
4 押え部材
40 接触片
41 保持枠
5 距離測定手段
50 レーザ投光部
51 レーザ受光部
52 測定位置
53 平行線
54 基準面
P 管端チャックの回転中心
P’ 管端チャックの回転軸線
O 内径中心
O’ 仮想中心軸
L1,L2,L3 管状体の長さ方向に沿う所定間隔毎の位置
,a,a 距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能な管端チャックへ管状体の内側面を押圧する状態で当該管状体の一端部を保持させ、
前記管端チャックにより前記管状体を回転させながら、当該管状体の他端部内における所定の計測位置から当該管状体の内周までの距離を計測して所定の回転角度毎の計測値を得るとともに、前記管状体の両端間の所定位置であって当該管状体の外周方向に離れた測定位置から前記管状体の外周までの距離を測定して前記回転角度毎の測定値を得、
前記計測値に演算処理を施すことにより管状体の前記他端部の内径中心を算出して当該内径中心と当該管状体の一端部と対応する位置における前記管端チャックの回転中心とから前記管状体の仮想中心軸を求め、
前記測定位置において前記管端チャックの回転軸線と直交する面における前記回転軸線に対する前記仮想中心軸の偏倚量により前記測定値を補正する手段を含む、
ことを特徴とする管状体の振れ測定方法。
【請求項2】
前記測定位置は前記回転軸線との平行線を通る基準面に位置し、前記偏倚量は前記回転軸線と前記平行線とを通る面に投影された変化量であることを特徴とする、請求項1に記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項3】
前記回転角度毎の測定値を前記偏倚量により補正した補正後データの最大値から当該補正後データの最小値を減算する手段をさらに含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項4】
前記測定位置は前記管状体の両端間の所定間隔毎に位置する状態で複数設定されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項5】
前記管端チャックはエアスピンドルに取り付けられ、作動部が平面視において中心から当角度間隔に分割され作動時に管状体の内周方向に向かって等量ずつ拡大する複数の分割片によって構成されたチャックであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項6】
前記管端チャックへ前記管状体を保持させる前に当該管状体を前記管端チャックへ当該管端チャックの回転軸線に沿って押し付けることを特徴とする、請求項1〜5いずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項7】
前記管状体は前記管端チャックへ保持されたとき縦方向に沿う姿勢であることを特徴とする、請求項1〜6いずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項8】
前記計測位置から前記管状体の内周までの距離は非接触式の変位計測手段により計測されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項9】
前記測定位置から前記管状体の外周の測定点までの距離は非接触式の距離測定手段により測定されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の管状体の振れ測定方法。
【請求項10】
回転可能で回転軸線に対して直交するセット面を有し、当該セット面ヘ一端部がセットされた管状体の内側面を押圧する状態で当該管状体の一端部を保持する管端チャックと、
前記管状体と干渉しない所定の設置位置から前記セットされた管状体の前記他端部の内周の一部へ計測ヘッドが臨む位置までの範囲を移動可能な変位計測手段と、
前記管状体の両端間の所定位置であって当該管状体の外周方向へ離れた測定位置から当該管状体の外周までの距離を測定すべく設置された距離測定手段と、
を備えたことを特徴とする管状体の振れ測定装置。
【請求項11】
前記距離測定手段は、前記管端チャックヘ保持された管状体の両端間に沿って所定間隔毎に複数設置されていることを特徴とする、請求項10に記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項12】
前記管端チャックはエアスピンドルに取り付けられ、作動部が平面視において中心から当角度間隔に分割され作動時に前記管状体の内周方向に向かって等量ずつ拡大する複数の分割片によって構成されたチャックであることを特徴とする、請求項10又は11に記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項13】
前記管端チャックのセット面へ前記管状体がセットされて管端チャックに保持される前に前記管状体を前記管端チャックの回転軸線に沿って前記セット面へ押し付けるべく作動する押え部材を備えたことを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項14】
前記押え部材は、前記管状体を前記セット面へ押し付けたときに当該管状体の前記他端部の内周縁へ接触する円錐形状ないし円錐台形状を有する一個の接触片を有するか、若しくは、前記管状体を前記セット面へ押し付けたときに当該管状体の前記他端部の内周縁へ接触する外側面を連続させたときの仮想外周面が総体として円錐面状を呈する状態の三個以上の接触片を有することを特徴とする、請求項13に記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項15】
前記管端チャックのセット面は水平であることを特徴とする、請求項10〜14のいずれかに記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項16】
前記変位計測手段は非接触式変位センサであることを特徴とする、請求項10〜15のいずれかに記載の管状体の振れ測定装置。
【請求項17】
前記距離測定手段は非接触式の距離測定手段であることを特徴とする、請求項10〜16のいずれかに記載の管状体の振れ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−263895(P2007−263895A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92542(P2006−92542)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】