説明

粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法、汚泥脱水剤及び汚泥の脱水処理方法

【課題】
所定割合の4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマーと4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマーとを97モル%以上含有するモノマー混合物から、高分子量の粉末状カチオン系水溶性高分子化合物を製造する方法、該高分子化合物からなる汚泥脱水剤及び汚泥の脱水方法を提供する。
【解決手段】
4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー(A)、4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー(B)、及びその他モノマー(C)を含有するモノマー混合物を水溶液重合した後、生成コポリマーを10mm以下に切断・乾燥することよりなる粉末状カチオン系水溶性高分子化合物でその理論カチオン当量値が5.0meq./g以上、且つ、0.5%塩粘度が10〜30mPa・s(25℃)である該高分子化合物の製造方法において、該モノマー混合物を、全モノマー[モノマー(A)+(B)+(C)]濃度70質量%以上、モノマー(A)/(B)=7〜9(モル比)、[モノマー(A)+(B)]/(全モノマー)=97〜100(モル%)とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法、該粉末状カチオン系水溶性高分子化合物を含む汚泥脱水剤及びそれを用いた汚泥の脱水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子化合物は、高分子凝集剤、紙力増強剤、増粘剤を始め、様々な用途に使われている。特に、粉末状のカチオン系水溶性高分子化合物は、下水、し尿処理場及び有機性産業廃水等から生じる有機汚泥の脱水剤として使用されている。その中でも、下水処理場から排出される消化汚泥を脱水処理するには、カチオン化度の高い汚泥脱水剤がもっぱら使われている。
【0003】
有機汚泥等を処理するのに使用される従来のカチオン性高分子凝集剤からなる汚泥脱水剤としては、カチオン性モノマーを重合したポリマー、具体的には、4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマーを重合したホモポリマー、4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマーを重合したホモポリマー、カチオン性モノマーとしての4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマーと非イオン性モノマーとしてのアクリルアミドモノマーとを共重合し、97モル%以上のカチオン性モノマー単位を含有したコポリマー、及びカチオン性モノマーとしての4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマーと非イオン性モノマーとしてのアクリルアミドモノマーとを共重合し、97モル%以上のカチオン性モノマー単位を含有したコポリマー等が挙げられる。
【0004】
4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマーを重合したホモポリマー或いは4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマーとアクリルアミドモノマーを共重合し、97モル%以上のカチオン性モノマー単位を含有したコポリマーからなる汚泥脱水剤は、カチオン化度は満足するものの、分子量が低過ぎるために生成する凝集フロックの大きさ及び強度が不十分である。
4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマーを重合したホモポリマー或いは4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマーとアクリルアミドモノマーを共重合し、97モル%以上のカチオン性モノマー単位を含有したコポリマーにおいては、高分子凝集剤用途として見た場合、比較的低分子量の高分子凝集剤は、有機汚泥、その中でも、下水処理場から排出される消化汚泥の脱水処理に優れた性能を示すことは知られているが、製造上、粉末製品を得るのが困難である。
製造上の問題点を克服するため、カチオン性モノマーの含有量を極力落とさずに、粉末製品を製造する方法として、ポリアルキレンオキサイド化合物の存在下にモノマーを重合させ、90モル%以上の4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー単位を含有したカチオン系水溶性高分子化合物を得る方法が開示されている(特許文献1)。しかし、ポリアルキレンオキサイド化合物は非常に高価なモノマーであるため、ポリマー製造コストが高くなってしまい、その実用性に難点がある。そこで、カチオン化度が高く脱水性能に優れた粉末状カチオン系水溶性高分子化合物を製造コストの面でも満足し得るポリマーの製造方法の提供が課題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−83668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
下水処理場から排出される消化汚泥を脱水処理するのに用いられる汚泥脱水剤には、高分子凝集剤用途としての高い分子量と高いカチオン化度が必要不可欠であり、97モル%以上の4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー単位を含有したカチオン系水溶性高分子化合物が待ち望まれていた。しかし、高いカチオン化度を維持し、そのカチオン性モノマー単位を4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー単位により構成したカチオン系水溶性高分子化合物を粉末製品として製造するのは難しい。本発明者は、そこで、カチオン性モノマーの構成成分と製造条件について鋭意検討した結果、カチオン性モノマーである上記アクリレートモノマー単位の一部をメタクリレートモノマー単位にすることで、ポリマー製造と脱水性能の両面を満足した粉末状カチオン系水溶性高分子化合物を製造することができることを見出し本発明に達した。
【0007】
本願発明は、4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー単位と4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー単位を一定割合で、且つ、両者を全モノマー単位中97モル%以上含有し、汚泥脱水剤として使用できる高い分子量を有する粉末状カチオン系水溶性高分子化合物を製造する方法、更にカチオン要求量の高い汚泥に対して、十分な脱水性能を有する汚泥脱水剤及びこれを用いた汚泥の脱水方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の要旨は、4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー(A)、4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー(B)、及びその他モノマー(C)を含有するモノマー混合物を水溶液重合した後、生成コポリマーをチョッピングにより10mm以下に切断し、乾燥することよりなる粉末状カチオン系水溶性高分子化合物であって、その理論カチオン当量値が、5.0meq./g以上であり、且つ、4質量%塩化ナトリウム水溶液中、該高分子化合物の0.5質量%水溶液粘度が、温度25℃において、10〜30mPa・sである該高分子化合物の製造方法において、該モノマー混合物を、
全モノマー[モノマー(A)+モノマー(B)+モノマー(C)]濃度70質量%以上、
モノマー(A)/モノマー(B)=7〜9(モル比)、
[モノマー(A)+モノマー(B)]/(全モノマー)=97〜100(モル%)
とすることを特徴とする粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法に存する。
また、本発明の粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法において、その他モノマーが非イオン性モノマーであることに存する。
【0009】
本願発明の他の要旨は、前記製造方法で得られた粉末状カチオン系水溶性高分子化合物からなる汚泥脱水剤に存し、また、該汚泥脱水剤を汚泥に添加混合し脱水処理する汚泥脱水処理方法に存する。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の製造方法によれば、カチオン化度が高く、分子量の高いカチオン系水溶性高分子化合物を粉末状で得ることができ、このカチオン系高分子化合物は、高分子凝集剤、紙力増強剤、増粘剤を始めとする様々な用途に使用することができる。特に、粉末状のカチオン系水溶性高分子化合物は、下水、し尿処理場及び有機性産業廃水等から生じる有機汚泥、その中でも、カチオン要求量の高い下水処理場から排出される消化汚泥の脱水処理の用途には、非常に優れた特性を発揮することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明を詳細に説明する。
<4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー>
本願発明の製造方法で使用される4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー(A)(以下、「モノマー(A)」という)は、特に制限はないが、各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキルアクリレートのアルキルクロライド4級塩が好ましい。各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキルアクリレートとしては、例えば、ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノメチルアクリレート、ジプロピルアミノメチルアクリレート、ジイソプロピルアミノメチルアクリレート、メチルエチルアミノメチルアクリレート、メチルプロピルアミノメチルアクリレート、エチルプロピルアミノメチルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジプロピルアミノエチルアクリレート、ジイソプロピルアミノエチルアクリレート、メチルエチルアミノエチルアクリレート、メチルプロピルアミノエチルアクリレート、エチルプロピルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノプロピルアクリレート、ジエチルアミノプロピルアクリレート、ジプロピルアミノプロピルアクリレート、ジイソプロピルアミノプロピルアクリレート、メチルエチルアミノプロピルアクリレート、メチルプロピルアミノプロピルアクリレート、エチルプロピルアミノプロピルアクリレート等のメチルクロライド4級塩が挙げられる。その中でも特に、ジメチルアミノエチルアクリレートのメチルクロライド4級塩が好適である。これらモノマーは、1種を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0012】
<4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー>
本願発明の製造方法で使用される4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー(B)(以下、「モノマー(B)」という)は、特に制限はないが、各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキルメタクリレートのアルキルクロライド4級塩が好ましい。各々のアルキル基の炭素数が1〜3のジアルキルアミノアルキルメタクリレートとしては、例えば、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジプロピルアミノメチルメタクリレート、ジイソプロピルアミノメチルメタクリレート、メチルエチルアミノメチルメタクリレート、メチルプロピルアミノメチルメタクリレート、エチルプロピルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジプロピルアミノエチルメタクリレート、ジイソプロピルアミノエチルメタクリレート、メチルエチルアミノエチルメタクリレート、メチルプロピルアミノエチルメタクリレート、エチルプロピルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノプロピルメタクリレート、ジエチルアミノプロピルメタクリレート、ジプロピルアミノプロピルメタクリレート、ジイソプロピルアミノプロピルメタクリレート、メチルエチルアミノプロピルメタクリレート、メチルプロピルアミノプロピルメタクリレート、エチルプロピルアミノプロピルメタクリレート等のメチルクロライド4級塩が挙げられる。その中でも特に、ジメチルアミノエチルメタクリレートのメチルクロライド4級塩が好適である。これらモノマーは、1種を単独で用いても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0013】
<その他モノマー(C)>
本願発明の製造方法で使用するモノマー混合物は、上記モノマー(A)及びモノマー(B)を必須とするが、必要に応じてモノマー(A)及びモノマー(B)と共重合可能なその他モノマー(C)(以下、「モノマー(C)」という)とのモノマー混合物であっても良い。モノマー(C)としては、非イオン性モノマーを挙げることができる。非イオン性モノマーとしては、アクリルアミドが挙げられる。アクリルアミドの含有量は、全モノマー混合物中3モル%未満が好ましい。
【0014】
<粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の理論カチオン当量値>
本願発明の製造方法で得られる粉末状カチオン系水溶性高分子化合物(以下、「水溶性高分子化合物」という)の理論カチオン当量値を以下に定義する。
100モル%カチオン性モノマー単位からなる水溶性高分子化合物の理論カチオン当量は、1/カチオン性モノマーの分子量とし、複数のカチオン性モノマー単位を含む或いはカチオン性モノマー単位含有率(モル%)の異なる水溶性高分子化合物の理論カチオン当量は、それらの含有率を乗じた値の和として算出する。
上記本願発明の水溶性高分子化合物の理論カチオン当量値は、5.0meq./g以上である。該理論カチオン当量値が5.0meq./g以上であれば、カチオン要求量の高い汚泥に対して優れた脱水処理を行うことができる。
【0015】
<粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の水溶液物性>
本願発明の製造方法で得られる溶性高分子化合物の4質量%塩化ナトリウム水溶液中での0.5質量%水溶液粘度は、温度25℃において、10〜30mPa・sであり、該0.5質量%水溶液粘度は15〜20mPa・sであることがより好ましい。この0.5質量%水溶液粘度が10〜30mPa・sであれば、生成したコポリマーにべとつきが見られず、容易に切断することが可能であるばかりか、水に溶解した際、不溶性の架橋した不溶解分の生成も見られない。更に汚泥脱水剤用途に使用した場合、優れた脱水処理を行うことができる。
【0016】
<粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法>
本願発明の製造方法は、モノマー(A)、モノマー(B)、及びモノマー(C)を含有するモノマー混合物を水溶液重合した後、生成コポリマーをチョッピングにより10mm以下に切断し、乾燥することよりなる粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法である。
本願発明方法により、効率良く高カチオン、高分子量の所望の物性を有する水溶性高分子化合物を粉末状で製造するためには、この水溶液重合におけるモノマー混合物中のモノマー(A)〜モノマー(C)を合計した全モノマー濃度が重要である。そこで、水溶液中における該全モノマー濃度が70質量%以上であることが必要であり、75質量%以上であることがより好ましい。全モノマー濃度が70質量%未満では、生成したコポリマーにべとつきが見られ、チョッピングにより10mm以下に切断することが難しい。
【0017】
<カチオン性モノマー単位の組成モル比>
更に、所望の物性を有する水溶性高分子化合物を粉末状で製造するためには、該水溶性高分子化合物を構成するカチオン性のモノマー(A)とモノマー(B)との組成が重要である。そこで、上記水溶液重合の際、モノマー混合物中におけるモノマー(A)とモノマー(B)の割合を、モノマー(A)/モノマー(B)=7〜9(モル比)、[モノマー(A)+モノマー(B)]/(全モノマー)=97〜100(モル%)とすることが必要である。
該モノマー(A)/モノマー(B)の値(モル比)が9より大きい場合、理論カチオン当量値は満足するが、生成したコポリマーにべとつきが見られ、チョッピングの際に切断しにくくなる。一方、その値が7より小さい場合、或いは全モノマーに対する[モノマー(A)+モノマー(B)]の値(モル%)が97より小さい場合、理論カチオン当量値を下回るため、得られた水溶性高分子化合物を汚泥脱水剤として用いた場合、カチオン要求量の高い汚泥に対して、脱水処理しにくくなる。
【0018】
本願発明方法における水溶性高分子化合物の製造方法は特に制限されず、一般的な水溶液重合方法が採用され、一般的に、モノマー混合物の水溶液に、熱によって共重合を開始するレドックス及びアゾ系開始剤等の開始剤を添加し、該水溶液を共重合する水溶液断熱重合方法、或いは上記水溶液を均一なシート状にし、光開始剤を用いて可視光又は紫外光を照射して共重合させる水溶液光重合方法の2種類の方法が挙げられる。その中でも、水溶液光重合方法が好ましい。水溶液光重合方法は光を重合源とするため、共重合速度及び共重合率を容易に制御し易い。また、水溶液光重合方法はシート状のため連続生産し易く、工業的に有利である。重合条件としては、例えば、重合開始温度0〜40℃、重合温度100℃以下になるよう光照射量を0.1〜15W/m2にコントロールし、0.1〜3時間重合反応させる。
このような共重合を経て生成した水溶性高分子化合物は、通常、含水ゲル状のコポリマー、すなわち、水溶性高分子化合物の含水物として得られる。
【0019】
光開始剤としては、特に制限はなく公知の開始剤から適宜採用され、例えば、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(商品名:DAROCUR−1173、Ciba社製)等が挙げられる。
光開始剤の使用量は、モノマー混合物水溶液100質量部に対して0.001〜0.1質量部が好ましい。光開始剤の使用量が0.001質量部未満の場合、共重合速度及び共重合率の極端な低下を招き、生産性及び品質が低下し易くなる。一方、0.1質量部を越える場合、共重合の暴走及びコポリマーの品質低下を招き易くなる。
【0020】
本願発明方法により上記の水溶液物性、即ち水溶液中における所望粘度を有する水溶性高分子化合物を製造するためには、水溶液重合を連鎖移動剤の存在下で行うことができる。連鎖移動剤の種類としては、該連鎖移動剤がモノマー混合物水溶液に溶解すれば特に制限されず、例えば、次亜リン酸、ホスホン酸等が挙げられる。その中でも次亜リン酸が好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、上記モノマー混合物水溶液100質量部に対して0.001〜0.1質量部が好ましい。連鎖移動剤の使用量が0.001質量部未満の場合、生成した含水ゲルの切断は可能であるが分子量が高く、水に溶解した場合、水に不溶性の架橋した不溶解分の生成が見られ、また、汚泥脱水剤として使用した場合、凝集フロック強度が弱く、凝集剤として十分な脱水性能が得られない。一方、0.1質量部を越える場合、高分子量のコポリマーは得られず、生成した含水ゲルの切断は殆ど困難である。
【0021】
本願発明方法により上記の如く水溶液重合して得られた含水ゲル状のコポリマーは、次いで切断、乾燥、粉砕することにより、粉末状の微細な粒子として得ることができる。これらの方法は、一般に採用されている公知技術により達成可能である。切断方法としては、ミートチョッパー等が挙げられ、含水ゲル状のポリマーは、通常10mm以下に切断される。切断した含水ゲル状ポリマーが10mm以下であれば、その後の乾燥、粉砕への負荷を少なくすることができる。細断したポリマーを乾燥する方法としては、乾燥機に特に制限はなく、振動流動式乾燥機等の乾燥機で、乾燥温度60〜120℃で実施される。その後の粉砕方法は特に制限はなく、ロール式粉砕機、ウィレー型粉砕機等でポリマーを粉砕し、所定の目開きの篩板等のろ過部材を通過させることにより、粉末状の微細な粒子を得ることができる。粒径は、通常、0.5〜2mmに調整される。
【0022】
<汚泥脱水剤>
本願発明の製造方法で得られる水溶性高分子化合物は、高分子凝集剤、紙力増強剤、増粘剤を始め、様々な用途に適用可能である。その中でも特に、下水、し尿処理場及び有機性産業廃水等から生じる有機汚泥の脱水剤として使用される。本願発明の汚泥脱水剤(以下、「本汚泥脱水剤」という)は、仕込みモノマー混合物の組成によりカチオン性モノマー単位を97モル%以上含有するため、下水処理場から排出される消化汚泥に対しカチオン化度の高い汚泥脱水剤として、十分な粒径と強度を持つ凝集フロックを形成させることができる。更にその後、含水率が十分に低い脱水ケーキも得ることができる。
【0023】
<汚泥脱水処理方法>
本願発明の汚泥脱水処理方法(以下、「本汚泥脱水処理方法」という)は、前述した本汚泥脱水剤を用いて汚泥脱水処理を行う方法である。本汚泥脱水処理方法が対象とする汚泥としては、有機汚泥、特に下水処理場から排出される消化汚泥が好適である。本汚泥脱水剤を前記汚泥に加えることで、フロック粒径、フロック強度、処理速度(ろ過速度)、処理水中のSS量、脱水ケーキ含水率のバランス性などが安定した凝集フロックを形成できる。
【0024】
本汚泥脱水剤の汚泥への添加方法及び凝集フロックの形成方法としては、本汚泥脱水剤を用いる以外は公知の方法が適用できる。すなわち、本汚泥脱水剤を公知の方法で汚泥に添加することで凝集フロックを形成させることができる。
本汚泥脱水剤の添加方法としては、汚泥脱水剤を水に0.2〜0.3質量%の濃度で溶解させた後、汚泥に添加することが好ましい。また、本汚泥脱水剤は、他のカチオン系ポリマー、両性系ポリマー、非イオン系ポリマー、アニオン系ポリマー、及び/又はアミジン系ポリマーを混合した1剤型薬剤として添加しても良い。場合によっては、本汚泥脱水剤を粉末のまま汚泥に添加しても良い。
また、本汚泥脱水剤に加えて、本汚泥脱水剤の水への溶解性を向上させるために酸性物質を添加しても良い。酸性物質としては、例えば、スルファミン酸が挙げられる。
【0025】
凝集フロックを形成した後は、脱水装置を用いて凝集フロックを脱水し、脱水ケーキとなすことにより汚泥処理を完了することができる。
脱水機としては、特に制限はなく、例えば、フィルタープレス型脱水機、スクリュープレス型脱水機、圧入式スクリュープレス型脱水機、真空脱水機、ベルトプレス型脱水機、遠心脱水機、多重円板型脱水機が挙げられる。
【0026】
本汚泥脱水剤の添加量は、汚泥の質、濃度等により異なり画一的に決められないが、大まかな目安として、汚泥の乾燥固形物に対して0.1〜3.0質量%が好ましく、0.5〜2.0質量%が更に好ましい。本汚泥脱水剤の前記添加量が0.1質量%以上であれば、十分な粒径及び強度を有する凝集フロックが形成することができる。また、本汚泥脱水剤の前記添加量が3.0質量%以下であれば、本汚泥脱水剤が過剰となった場合に生起する粒径が小さい凝集フロックの形成や、処理速度の遅延、脱水ケーキの含水率が高くなったりすることを抑制することができる。
【0027】
また、本汚泥脱水処理方法においては、本汚泥脱水剤に加えて、無機凝結剤及び/又は有機凝結剤(以下、これらをまとめて単に「凝結剤」という)を併用しても良い。本汚泥脱水剤は、凝結剤と併用しても、汚泥に対する脱水効果を十分に発揮できる。
無機凝結剤としては、例えば、硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム、塩化第2鉄、硫酸第1鉄、硫酸第2鉄、ポリ鉄(ポリ硫酸鉄、ポリ塩化鉄等)が挙げられる。
有機凝結剤としては、例えば、ポリアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジメチルアミノエチルメタクリレートのアルキルクロライド4級塩、ポリ(ポリジメチルアミノエチルアクリレートのアルキルクロライド4級塩−アクリルアミド)、カチオン性界面活性剤が挙げられる。
【0028】
凝結剤は、特に制限はないが、汚泥脱水剤を添加する前の工程で添加することが好ましい。凝結剤の添加量は本汚泥脱水剤100質量部に対して、5〜3000質量部が好ましい。凝結剤の前記添加量が5質量部未満であると、凝結剤を併用した効果が得られにくく、汚泥によっては本汚泥脱水剤の性能が発揮されにくくなる。また、凝結剤の前記添加量が3000質量部を超えると、特に無機凝結剤では添加量の増加に伴って脱水ケーキの含水率が増加する傾向がある。
【0029】
以上説明した本汚泥脱水処理方法によれば、下水、し尿処理場及び有機性産業廃水等から生じる有機汚泥等の脱水処理において、粒径が大きく強度の高い凝集フロックを安定して形成させることができ、SS量が少ない処理水及び含水率の低い脱水ケーキが得られる。
【0030】
以下、実施例及び比較例を示して本願発明を詳細に説明するが、本願発明はその要旨を越えない限り以下の記載によって限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例における「%」は特に断りのない限り「質量%」を示す。
以下の製造例、比較製造例、及び参考製造例で得られた各ポリマーについては、その物性を示す指標として下記に示す0.5%塩粘度、及び0.5%不溶解分量の測定を行った。
【0031】
[0.5%塩粘度の測定]
製造例で得られたポリマーの2.375gとスルファミン酸の0.125gを4%NaCl水溶液に溶解し、0.5%ポリマー水溶液の500gを調製した。B型粘度計(東機産業社製)を用い、温度25℃、回転速度60rpmの条件で、前記0.5%ポリマー水溶液の攪拌を開始してから5分後の0.5%塩粘度を測定した。
[0.5%不溶解分量の測定]
前記0.5%ポリマー水溶液の全量(500g)を、直径20cm、80メッシュの篩でろ過し、篩上の残留物(不溶解分)の水分を拭き取り、その質量を測定した。
【0032】
本製造例で用いた原料を以下に示す。
[モノマー]
カチオン性モノマー:
N,N−ジメチルアミノエチルアクリレートメチルクロライド4級塩(以下、「DME」という)、大阪有機化学工業社製、80%水溶液。
N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートメチルクロライド4級塩(以下、「DMC」という)、大阪有機化学工業社製、80%水溶液。
非イオン性モノマー:
アクリルアミド(以下、「AAM」という)、ダイヤニトリックス社製、50%水溶液。
【0033】
[開始剤]
DAROCUR−1173(以下、「D−1173」という)、Ciba社製、100%。
[連鎖移動剤]
次亜リン酸(以下、「HPA」という)、関東化学社製、100%。
【0034】
<粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造>
[製造例1]
DMEの1003.2g、DMCの136.8gを、内容積2000mL褐色耐熱瓶に投入し、HPAの0.048gと蒸留水を加え、総質量が1200gのモノマー水溶液(DME/DMC=7.9(モル/モル)、モノマー濃度76%)を調製した。このモノマー水溶液を1mol/L硫酸により、pH4.5となるようにpHを調整した。更に、D−1173を、モノマー水溶液の総質量に対して、30ppm(0.086g)となるように投入し、これに窒素ガスを30分間吹き込みながらモノマー水溶液の温度を16℃に調節した。その後、モノマー水溶液をステンレス反応容器に移し、容器の下方から30℃の水を噴霧しながら、ケミカルランプを用いて、容器の上方から9W/m2の照射強度で、表面温度計が36℃になるまで光を照射した。表面温度計が36℃に到達した後は、0.6W/m2の照射強度で30分間光を照射した。更にモノマーの残存量を低減させるために、照射強度を50W/m2にして15分間光を照射した。これにより、含水ゲル状のポリマーを得た。
【0035】
得られた含水ゲル状のポリマーを容器から取り出し、小型ミートチョッパーを用いて10mm以下に切断した後、温度60℃で16時間乾燥した。その後、ウィレー型粉砕機を用いて乾燥したポリマーを粉砕し、粉末状カチオン系水溶性高分子化合物(ポリマーA−1)を得た。このとき、粉砕したポリマーA−1は粉砕室の下部に挿入された篩板を通り収集され、この篩板の目開きのサイズを2mmとした。
【0036】
含水ゲル状のポリマーの切断時における状態(以下、「含水ゲル切断状態」という)を以下の基準で評価した。
◎:切断時にゲル粒子同士の付着は見られず、問題なく切断できる。
○:切断時にゲル粒子同士の付着はほとんど見られず、問題なく切断できる。
△:切断時にゲル粒子同士の付着はかなり見られ、一部のゲルで切断できない。
×:切断時にゲル粒子同士の付着は著しく見られ、ほぼ全てのゲルで切断できない。
【0037】
[製造例2〜6、比較製造例1〜3、参考製造例1]
製造例1において、理論カチオン当量、0.5%塩粘度、モノマー比、モノマー濃度、光開始剤、及び連鎖移動剤を表1に記載の内容に変更する以外は、製造例1と同様の操作を行い、粉末状カチオン系水溶性高分子化合物(ポリマーA−2〜A−6、比較ポリマーB−1〜B−3、参考ポリマーC−1)を得た。このとき、製造例1と同様にして含水ゲル切断状態を評価した。
【0038】
製造例1〜6、比較製造例1〜3、参考製造例1で得られた各ポリマーにおける各々のモノマーに由来する構成単位の割合及び理論カチオン当量値を、各モノマーの仕込み量から計算し表1に示した。また、各ポリマーの0.5%塩粘度、及び0.5%不溶解分量を測定し、その結果を含水ゲル切断状態の評価と共に表1に示した。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、製造例1〜6では、含水ゲル状のポリマーの切断時における状態は極めて良好であった。一方、0.5%塩粘度が10mPa・s未満となるポリマー(比較製造例2)、0.5%塩粘度は30mPa・sよりも大きいが重合時のモノマー濃度が70%未満で製造されたポリマー(比較製造例3)、及びDME単位100モル%からなるポリマー(参考製造例1)の含水ゲル状での切断した状態は、ゲル粒子同士で付着が見られ、ゲルの切断ができなかった。
【0041】
以下、上記製造例で得られたポリマー(A−1〜A−6)、比較製造例で得られたポリマー(B−1〜B−3)、及び参考製造例で得られたポリマー(C−1)を汚泥脱水剤として用いた汚泥処理について説明する。
[実施例1〜6:ポリマーA−1〜A−6]
下水処理場から排出される消化汚泥(pH=7.3、TS=1.6%、繊維分=7.8%/TS)を用い、次のように脱水試験を実施した。
500mLビーカーに前記汚泥の300mLを採取した。次いで、表1に記載のポリマーA−1〜A−6を各々蒸留水にて0.3%汚泥脱水剤水溶液を調製し、該汚泥脱水剤水溶液を表2に記載の最適添加量にて消化汚泥に添加した。次いで、この消化汚泥をスリーワン攪拌機で攪拌速度:500回転/分、攪拌時間:60秒間撹拌混合して凝集フロックを形成させ、汚泥の脱水処理を行った。
【0042】
[比較例1〜3:ポリマーB−1〜B−3、参考例1:ポリマーC−1]
汚泥脱水剤に用いたポリマーを表2に示す通りに変更した以外は、実施例1〜6と同様にして凝集フロックを形成させ、汚泥の脱水処理を行った。
【0043】
[評価方法]
実施例、比較例、及び参考例における脱水処理の評価は、以下に示す通りに行った。
(凝集フロック粒径、ろ過性能、ろ過水のSS量)
各例において凝集フロックを形成させた後に攪拌を止め、凝集フロック粒径を目視により測定した。その後、予めろ布を敷いたヌッチェに凝集した汚泥を移し、ろ過性能(10秒間のろ過水量)を測定した。このとき、60秒間ろ過した後のろ過水のSS量を目視により以下の基準で評価した。
【0044】
− :ろ過水がほとんど透き通っており、浮遊物はほぼ見られない(SS量目安:50ppm未満)。
+ :ろ過水に一部濁りが見られ、浮遊物がわずかに存在する(SS量目安:50〜100ppm未満)。
++ :ろ過水に部分的に濁りが見られ、浮遊物がところどころ存在する(SS量目安:100〜200ppm未満)。
+++ :ろ過水に多数の濁りが見られ、浮遊物が全体的に存在する(SS量目安:200〜500ppm未満)。
++++:ろ過水に全体的に多数の濁りが見られ、浮遊物が全体的に存在し、一部粗大な大きさで存在する(SS量目安:500〜1000ppm未満)。
× :ろ過水が完全に濁り、粗大な浮遊物が多数存在する(SS量目安:1000ppm以上)。
【0045】
(凝集フロック強度、脱水ケーキの含水率)
更に、ろ過濃縮した汚泥(凝集フロック)をろ布上で50回転がし、凝集フロックの強度(団粒性)を以下の基準で評価した。
◎:ろ布上で転がすことにより水が切れ、凝集フロックが数個の団子状になる。
○:ろ布上で転がすことにより水が切れ、凝集フロックが一塊状になる。
△:ろ布上で転がすことにより水が切れるが、凝集フロックが崩れ塊状にならない。
×:ろ布上で転がすことにより、凝集汚泥が崩れて流れ、ドロドロになる。
その後、0.1MPaの圧力でプレス脱水し、脱水ケーキを得た。この脱水ケーキの含水率を、常法((財)日本下水道協会編、「下水道試験法上巻1997年度版」p296−297)により測定した。
実施例、比較例、及び参考例における各試験結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、実施例1〜6(ポリマーA−1〜A−6)及び参考例1(ポリマーC−1)では、粗大な凝集フロックを生成させることができ、これにより、ろ過性能が非常に高く、ろ過水のSS量が非常に少なく、凝集フロック強度が非常に高く、また脱水ケーキ含水率が非常に低い結果が得られた。
【0048】
一方、DME/DMC(モル比)が9より大きい(ポリマーB−1)、0.5%塩粘度が10mPa・s未満(ポリマーB−2)、及び0.5%塩粘度は30mPa・sより大きいが重合時のモノマー濃度が70%未満(ポリマーB−3)つまり本願発明の所定の要件を満たさないで製造されたポリマーからなる汚泥脱水剤を用いた比較例1〜3では、いずれも凝集フロックが小さく、これにより、ろ過性能が低く、ろ過水のSS量が多く、凝集フロック強度が弱く、更に脱水ケーキ含水率も高い結果であった。
【0049】
以上の汚泥の脱水処理評価結果より、本願発明の所定の製造条件を満たして製造された粉末状水溶性高分子である製造例1〜6で得られたポリマーA−1〜A−6は、汚泥脱水剤としての性能を十分に発揮することを示している。一方、表1の結果からこれらのポリマーはその製造工程において粉末状化を容易に為し得ることが示されているので、本願発明方法が汚泥脱水剤として脱水性能に優れた粉末状の水溶性高分子化合物を容易に製造し得る方法であることを例証していることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
4級アンモニウム基含有カチオン性アクリレートモノマー(A)、4級アンモニウム基含有カチオン性メタクリレートモノマー(B)、及びその他モノマー(C)を含有するモノマー混合物を水溶液重合した後、生成コポリマーをチョッピングにより10mm以下に切断し、乾燥することよりなる粉末状カチオン系水溶性高分子化合物であって、その理論カチオン当量値が、5.0meq./g以上であり、且つ、4質量%塩化ナトリウム水溶液中、該高分子化合物の0.5質量%水溶液粘度が、温度25℃において、10〜30mPa・sである該高分子化合物の製造方法において、該モノマー混合物を、
全モノマー[モノマー(A)+モノマー(B)+モノマー(C)]濃度70質量%以上、
モノマー(A)/モノマー(B)=7〜9(モル比)、
[モノマー(A)+モノマー(B)]/(全モノマー)=97〜100(モル%)
とすることを特徴とする粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法。
【請求項2】
その他モノマーが非イオン性モノマーであることを特徴とする請求項1に記載の粉末状カチオン系水溶性高分子化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載の製造方法で得られた粉末状カチオン系水溶性高分子化合物からなることを特徴とする汚泥脱水剤。
【請求項4】
請求項3に記載の汚泥脱水剤を汚泥に添加混合し、脱水処理することを特徴とする汚泥の脱水処理方法。

【公開番号】特開2012−12540(P2012−12540A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152364(P2010−152364)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(301057923)ダイヤニトリックス株式会社 (127)
【Fターム(参考)】