説明

粒子状物質検出センサ

【課題】排気ガス中のPM検出に用いられる電気抵抗式の粒子状物質検出センサにおいて、検出精度が低下するのを防止し、安定したセンサ出力を得る。
【解決手段】エンジンE/Gの排気管EXに装着されるPMセンサ1のガスセンサ素子10を、検出用電極11、12を有する検出部100にヒータ部300を積層して構成する。制御回路2は、始動時にヒータ部300へ通電して検出部100の温度を微粒子状物質PMが燃焼可能な温度T1にて予め設定した時間S1保持する始動時燃焼制御を実施し、その後通常時制御を行い、微粒子状物質PMの残留による誤検出を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内燃機関の排気浄化システムにおいて、排出ガス中に存在する微粒子状物質の量を検出する、電気抵抗式の粒子状物質検出センサに関するもので、例えば、微粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタの異常検出に有効である。
【背景技術】
【0002】
自動車用ディーゼルエンジン等において、排気ガスに含まれる環境汚染物質、特に煤粒子(Soot)および可溶性有機成分(SOF)を主体とする微粒子状物質(Particulate Matter;以下、適宜PMと称する)を捕集するために、排気通路にディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、適宜DPFと称する)を設置することが行われている。DPFは、耐熱性に優れる多孔質セラミックスからなり、多数の細孔を有する隔壁に排気ガスを通過させてPMを捕捉する。
【0003】
DPFは、PM捕集量が許容量を超えると、目詰まりが生じて負圧が増大したり、PMのすり抜けが増加したりするおそれがあり、定期的に再生処理を行って捕集能力を回復させている。再生時期の判断には、例えば、PM捕集量の増加により前後差圧が増大することを利用することができ、差圧センサの検出結果に基づいてPM捕集量を検出している。再生処理は、ヒータ加熱あるいはポスト噴射等により高温の燃焼排気ガスをDPF内に導入し、PMを燃焼除去する。
【0004】
一方、排気ガス中のPMを直接検出するためのセンサが提案されている。このPMセンサを、例えばDPFの下流に設置して、DPFをすり抜けるPM量を測定し、車載式故障診断装置(OBD;On Board Diagnosis)において、DPFの作動状態の監視、例えば亀裂や破損といった異常の検出に利用することができる。あるいはDPFの上流に設置して、DPFに流入するPM量を測定し、差圧センサに代わる再生時期の判断に利用することも検討されている。
【0005】
従来技術として、特許文献1には、絶縁性を有する基板の表面に、一対の導電性電極を形成し、基板の裏面または内部には発熱体を形成した電気抵抗式のスモーク濃度センサが開示されている。このセンサは、煤粒子が導電性を有することを利用したもので、検出部となる電極間に、煤粒子が堆積することで生じる電気抵抗値の変化を検出する。発熱体は、検出部の温度を400℃〜600℃に加熱し、PM濃度に応じて電極間抵抗を測定した後、付着したPMを焼き切って検出能力を回復させている。
【0006】
特許文献2には、電気絶縁材に相互に離間する複数の電極を形成したPMトラップセンサを用い、両電極間の電気抵抗値に相関する指標を計測して、所定基準より小さくなった時に、パティキュレートフィルタの故障と判定する装置が開示されている。また、電気抵抗値の計測精度を向上させるため、定期的(所定の走行時間毎、所定の走行距離毎、使用燃料量毎)にPMトラップセンサのリセットを行っている。
【0007】
なお、PMを検出する技術としては、他に触媒と熱電対を用いてPMの酸化反応による発熱を検出するセンサや、波長可変ダイオードレーザを用いて排気ガスの化学種や温度をモニタリングする方法が知られるが、電気抵抗式のセンサは、簡易な構成で比較的安定した出力が得られる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平2−44386号公報
【特許文献2】特開2009−144577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、エンジン始動時には、前回の運転により排出されたPMがエンジン停止時にセンサ検出部に付着したまま残っている可能性がある。特許文献1のセンサでは、測定後に加熱を継続することで、その都度PMを焼き切るとしているが、検出時のヒータ温度400℃〜600℃は必ずしもPMの燃焼に十分高い温度ではなく、また測定からエンジン停止までに十分な時間がないと、確実に回復することは難しい。特許文献2のセンサでは、所定期間経過する毎にPM燃焼温度に所定時間加熱してリセットするが、この場合もタイミングによってはリセットされないままエンジンが停止するおそれがある。
【0010】
そのような場合、センサ検出部に付着して残っているPMの性状が、エンジン停止中または再始動時の環境により変化してしまい、始動後のセンサ出力値の誤差が大きくなりやすい。例えば、エンジン停止時の排気管に含まれる水分やオイル由来成分が付着したり、PMに含まれるSOF分が蒸発したりすると、エンジン停止時の出力値から変化してしまう。
【0011】
そこで本発明は、内燃機関の排気ガス中のPM検出に用いられる電気抵抗式の粒子状物質検出センサにおいて、検出部に堆積した排気微粒子が残留することで、検出精度が低下するのを防止し、常に安定したセンサ出力を得て、高い検出精度を実現できる粒子状物質検出センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に記載の発明は、内燃機関の排気通路に配設されて、排出ガス中の微粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサであって、
絶縁性基体の表面に一対の検出用電極を形成した検出部と、該検出部を所定温度に加熱するヒータ部を有するセンサ素子と、
上記検出部に導入される微粒子状物質の量に応じて変化する上記一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出するとともに、上記ヒータ部への通電を制御する制御部を有し、
上記制御部には、
上記内燃機関の始動時に上記ヒータ部へ通電して、上記検出部の温度を微粒子状物質が燃焼可能な温度T1にて予め設定した時間S1保持し、上記検出部表面の微粒子状物質を燃焼除去する始動時燃焼制御手段と、
該始動時燃焼制御の後に、上記ヒータ部への通電を制御して上記検出部の温度を上記温度T1より低い温度範囲に保持し、上記検出部に付着する微粒子状物質の検出を行う通常時制御手段を設けることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項2に記載の発明において、上記制御部には、上記内燃機関の運転状態に基づいて、始動から上記ヒータ部へ通電するまでのタイミングを決定する通電タイミング決定手段を設ける。
【0014】
本発明の請求項3に記載の発明において、上記通電タイミング決定手段は、上記内燃機関の排気通路に存在する凝縮水による被水危険度を算出し、算出された被水危険度に応じて上記ヒータ部への通電を遅延させる。
【0015】
本発明の請求項4に記載の発明において、上記始動時燃焼制御手段は、温度T1が600℃以上900℃以下である。
【0016】
本発明の請求項5に記載の発明において、上記始動時燃焼制御手段は、温度T1を650℃以上であり、時間S1を20秒以上の予め設定した値に制御する。
【0017】
本発明の請求項6に記載の発明において、上記通常時制御手段は、温度範囲を50℃以上600℃以下の予め設定した値に制御する。
【0018】
本発明の請求項7に記載の発明において、櫛歯状の上記一対の検出用電極とリード部を形成して上記検出部とし、上記絶縁性基体の先端部裏面に、ヒータ電極およびリード部を形成して上記ヒータ部とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1に記載の粒子状物質検出センサは、エンジン停止時、始動する度に、ヒータ部へ通電して検出部に堆積した微粒子状物質を燃焼除去する始動時燃焼制御を実施するので、残留する微粒子状物質の影響で、センサ出力の誤差が大きくなるのを防止できる。したがって、エンジン停止時あるいは再始動時の環境によらず、安定して精度よい検出が可能である。
【0020】
本発明の請求項2に記載の発明によれば、再始動時の環境が、例えば雰囲気中の水分が付着してセンサ出力の誤差が大きくなり、あるいは被水割れが生じるおそれがある場合には、ヒータ部へ通電するタイミングを遅らせることができる。よって、被水割れ等の不具合を防止しながら、精度よい検出を可能にする。
【0021】
本発明の請求項3に記載の発明によれば、通電タイミングを決定する際に、被水危険度を算出して判断するので、被水による不具合を確実に防止できる。
【0022】
本発明の請求項4に記載の発明によれば、始動時燃焼制御における温度T1を600℃〜900℃以下とすることで、素子耐久性を保持し、エネルギーコストを抑制しながら確実に微粒子状物質を燃焼除去することができる。
【0023】
本発明の請求項5に記載の発明によれば、始動時燃焼制御の温度T1を650℃以上とし、時間S1を20秒以上とすることで、効率よく微粒子状物質を燃焼除去することができる。
【0024】
本発明の請求項6に記載の発明によれば、通常時制御では、50℃〜600℃以下の温度範囲に保持することで、安定したセンサ出力を得ることができる。
【0025】
本発明の請求項7に記載の発明によれば、好適には、一対の検出用電極とリード部にて検出部を構成し、その裏面側にヒータ電極およびリード部からなるヒータ部を積層することで、センサ素子が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態であり、(a)は、PMセンサの主要部であるPMセンサ素子構成を示す概略斜視図、(b)は、本発明が適用される自動車用ディーゼルエンジンの排ガス浄化システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】図1(b)の要部拡大図であり、自動車用ディーゼルエンジンの排気管に、PMセンサを取り付けた状態を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1実施形態において、制御回路によるPMセンサのヒータ部への通電制御内容を示すフローチャートである。
【図4】始動時燃焼制御の詳細内容を示すフローチャートである。
【図5】始動時燃焼制御における素子温度と保持時間の組み合わせを示す図である。
【図6】(a)は、通常制御時のPMセンサ出力の時間経過を示すタイムチャート、(b)は、始動時燃焼制御を実施しない時のPMセンサ出力の時間経過を示すタイムチャート、(c)は、始動時燃焼制御を実施した時のPMセンサ出力の時間経過を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の粒子状物質検出センサを、内燃機関の排ガス浄化システムへ適用した第1実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1(b)は、内燃機関である自動車用ディーゼルエンジンE/Gのシステム概略図であり、粒子状物質検出センサとしてのPMセンサ1を含む排ガス浄化システムの全体構成を示す。図1(a)は、PMセンサ1の主要部であるPMセンサ素子10構成を示す図であり、図2は、図1(b)の要部を拡大した図で、内燃機関である自動車用ディーゼルエンジンE/Gの排気管EXに、PMセンサ1を取り付けた状態を示す。
【0028】
図1(b)のエンジンE/Gは、各気筒に共通のコモンレールRに、高圧ポンプPMPにて昇圧した高圧燃料を所定の噴射圧となるように蓄圧するコモンレール燃料噴射システムを採用し、インジェクタINJによって燃焼室内に直接噴射する直噴エンジンとして構成されている。PMセンサ1は、エンジンE/Gの排気通路である排気管EXにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの下流に設けられ、エンジンE/G各部とともに制御部となる制御回路2によって制御される。この制御の詳細については後述する。
【0029】
まず、図1(b)において、エンジンE/Gのシステム構成について説明する。エンジンE/Gの排気マニホールドMHEXには、タービンTRBが設けられ、タービンTRBに連動して過給器TRBCGRが回転すると、圧縮された空気がインタクーラCLRINTを通過して吸気マニホールドMHINに送られる。排気マニホールドMHEXから排出される燃焼排気の一部はEGRバルブVEGRおよびEGRクーラCLREGRを介して吸気マニホールドMHINに還流する。過給により吸気量を増大して燃焼効率を高め、EGRにより燃焼を緩やかにしてNOx等の排出を抑制する。
【0030】
排気マニホールドMHEXに接続する排気管EXには、ディーゼル酸化触媒DOCおよびディーゼルパティキュレートフィルタDPFが設けられ、燃焼排気ガスを処理する。すなわち、排気管Eに排出された燃焼排気ガスは、上流側のディーゼル酸化触媒DOCを通過する間に、未燃焼の炭化水素HC、一酸化炭素COおよび一酸化窒素NOが酸化され、下流側のディーゼルパティキュレートフィルタDPFを通過する間に、煤粒子(Soot)、可溶性有機成分(SOF)および無機成分からなる微粒子状物質PMが捕集される。
【0031】
ディーゼル酸化触媒DOCは公知のモノリス担体、例えばコーディエライト等のセラミックスハニカム構造体よりなる担体表面に、酸化触媒を担持してなる。ディーゼル酸化触媒DOCは、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの強制再生時に、供給される燃料の酸化燃焼により排気温度を上昇させ、あるいは微粒子状物質PM中のSOF成分を酸化除去する。また、NOの酸化により生成するNOは、後段のディーゼルパティキュレートフィルタDPFに堆積した微粒子状物質PMの酸化剤として使用され、連続的な酸化を可能にする。
【0032】
ディーゼルパティキュレートフィルタDPFは、公知のウォールフロータイプのフィルタ構造を有する。例えば、コーディエライト等の耐熱性セラミックスよりなる多孔質セラミックスハニカム構造体を成形し、ガス流路となる多数のセルの入口側または出口側のいずれか一方を、隣接するセルで互い違いになるように目封じしてフィルタとする。この時、ガス流路を区画するセル壁を貫通して多数の細孔が形成され、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに導入される排出ガス中の微粒子状物質PMを捕獲する。ディーゼル酸化触媒DOCとディーゼルパティキュレートフィルタDPFを一体化した連続再生式ディーゼルパティキュレートフィルタとして構成することもできる。
【0033】
排気管EXには、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに堆積した微粒子状物質PMの量を監視するために、差圧センサSPが設けられる。差圧センサSPは、圧力導入管を介してディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上流側および下流側と接続されており、その前後差圧に応じた信号を出力する。また、ディーゼル酸化触媒DOCの上流および、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFの上下流には、温度センサS1、S2、S3が配設されて、各部の排気温度を監視している。制御回路2は、これら出力に基づいてディーゼル酸化触媒DOCの触媒活性状態やディーゼルパティキュレートフィルタDPFのPM捕集状態を監視し、PM捕集量が許容量を超えると、強制再生を行って微粒子状物質PMを燃焼除去する再生制御を実施する。
【0034】
さらに制御回路2には、エンジンE/Gの運転状態を知るための各種センサ信号、例えばエアフロメータAFMからの吸気量や吸気温度、エンジン潤滑油や冷却水の温度、エンジン回転数、スロットル開度等が入力している。制御回路2は、これら信号に基づいて燃料噴射量、噴射時期等を算出し、燃料噴射を制御する。
【0035】
本実施形態のPMセンサ1は、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFを通過して下流側にすり抜ける微粒子状物質PMを検出する。図1(a)において、PMセンサ素子10は、絶縁性基体である絶縁基板13の表面に、検出部100を構成する一対の検出用電極11、12と電極リード部111、121を有し、絶縁基板13の裏面側には、検出部100を加熱するためのヒータ部300が積層されている。検出部100は電極リード部111、121を介して制御回路2と接続し、検出用電極11、12間の電極間抵抗に応じた値を出力する。ヒータ部300は、絶縁基板32の表面に、ヒータ電極31とヒータリード部311、312が形成され、ヒータリード部311、312を介してヒータ電源21に接続し、制御回路2からの指令により通電が制御される。
【0036】
検出部100は、アルミナ等の電気絶縁性および耐熱性に優れたセラミック材料をドクターブレード法、プレス成形法等の公知の手法を用いて平板状の絶縁基板13に形成し、その先端部表面に、所定の電極間距離をおいて対向する櫛歯形状の検出用電極11、12を形成している。検出用電極11、12は、例えば白金等の貴金属を含む導電性ペーストを、所定のパターンに印刷して形成され、同様にして絶縁基板13表面に印刷形成される電極リード部111、121の一端に、それぞれ接続している。ヒータ部300は、同様の手法で平板状の絶縁基板32を形成し、その表面(検出部100側の面)に所定パターンのヒータ電極30とヒータリード部311、312を印刷形成してなる。ヒータ部300のヒータ電極31は、検出用電極11、12の直下に配置されて、検出部100を効率よく所定温度に加熱する。
【0037】
図2において、PMセンサ1は、排気管EXの管壁に螺結される筒状ハウジング50を有し、その内部に筒状インシュレータ60に挿入固定されたPMセンサ素子10の上半部を保持している。PMセンサ素子10の下半部は、筒状ハウジング50の下端部に固定されて排気管EX内に突出する中空のカバー体40内に位置している。カバー体40の底部および側部には、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFを通過した微粒子状物質PMを含む排出ガスが流出入するための通孔410、411が穿設されている。
【0038】
この時、微粒子状物質PMを確実に捕捉するため、図示するように、PMセンサ素子100の検出部100が排気管EXの上流側を向くように配置するとよい。また、検出部100を除く絶縁基板13の表面に、電極リード部111、121を覆って絶縁性保護層14を形成すると、リード部111、121間に微粒子状物質PMが堆積することによる誤検出を防止することができる。
【0039】
次に、PMセンサ1の基本作動について説明する。図2において、被測定ガスとなるエンジンE/Gの排出ガスは、PMセンサ1のカバー体40の上流側の通孔411から内部に導入され、PMセンサ素子100と接触した後、底面の通孔410または下流側の通孔411から排出される。図1(a)において、検出部100の表面には、櫛歯形状の検出用電極11、12が所定の間隙を有して形成されているので、初期状態では非導通状態である。排出ガスと接触することにより、導電性の煤粒子を含む微粒子状物質PMが付着し徐々に堆積すると、ある時点で検出用電極11、12間が導通する。そして、PM堆積量の増加に伴い電極間抵抗は大きく低下するので、この関係に基づいてディーゼルパティキュレートフィルタDPFの故障判定を行うことができる。
【0040】
例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタDPFに、セル壁の破損といった何らかの不具合が生じて、正常な捕集が困難になると、排出ガスとともに放出される微粒子状物質PMが急増する。したがって、制御回路2により、所定期間にディーゼルパティキュレートフィルタDPFをすり抜ける微粒子状物質PMの量をモニタし、正常時よりも明らかに多ければ、異常と判断することができる。なお、正常時であってもPM堆積量が一定量を超えると、電極間抵抗の変化が小さくなり、検出精度が低下するため、通常は、所定期間経過後に、堆積したPMを燃焼除去するセンサ再生制御を行うことが望ましい。
【0041】
ところが、センサ再生制御を行うことなく、エンジンE/Gが停止され、再び始動した場合には、PMセンサ1の検出部100に前回付着した微粒子状物質PMが残留していることになる。この場合、微粒子状物質PMの性状が停止時および再始動時の環境により変化し、センサ出力に影響する。例えば、排気管EXが高温の状態でエンジン停止した場合、付着した微粒子状物質PMの有機成分(SOF)のみ蒸発することが考えられる。すると微粒子状物質PMの導電性が変化し、始動後のセンサ出力が当初の挙動と異なってしまう。また、始動時の環境が低温の場合、排気中の水蒸気により検出部が結露し水分が付着してしまう。するとセンサ作動時の微粒子状物質PMの付着状態が異なったり、あるいは、水分の蒸発によりセンサ出力に誤差が出てしまう。これら停止時、始動時の環境は毎回異なっており、例えば、有機成分(SOF)は、温度や排気成分(酸素濃度)によっては蒸発せずに硬化または燃焼するため、これによって発生する誤差は予測が困難である。
【0042】
そこで、本発明では、制御回路2により、始動時および通常時のヒータ部300への通電を制御し、特に始動時に微粒子状物質PMを燃焼除去した後に、通常のPM検出のための制御を実施することで、出力誤差を抑制する。具体的には、
エンジンE/Gの始動時にヒータ部300へ通電して、検出部100の温度を微粒子状物質PMが燃焼可能な温度T1にて予め設定した時間S1保持し、検出部100表面の微粒子状物質PMを燃焼除去する始動時燃焼制御を実施し(始動時燃焼制御手段)、
この始動時燃焼制御の後に、ヒータ部300への通電を制御して検出部300の温度を温度T1より低い温度範囲に保持し、検出部100に付着する微粒子状物質PMの検出を行う通常時制御を実施する(通常時制御手段)。
【0043】
始動時燃焼制御において、ヒータ部300への通電開始を始動と同時に行う場合、排気管EX中に凝縮した水が飛散し、高温の検出部100に付着することで割れてしまうことがある。これを防止するためには、排気管EX中の凝縮水が乾燥してなくなるか、飛散してセンサ素子10に付着しなくなるまで、通電開始を遅らせる必要がある。そこで、このような場合には、始動時燃焼制御のための通電を直ちに行わず、エンジンE/Gの運転状態から被水の危険度合いを判断し、被水危険度が許容範囲となるまで通電タイミングを遅らせるのがよい。あるいは、エンジンE/Gの運転状態から算出される被水危険係数と、通電タイミングの関係を予め実験的に求めておき、被水危険係数に応じて決定されるタイミングで、通電を開始することもできる。これにより、被水割れを抑制しながら精度よい検出が可能となる。
【0044】
次に、図3、4のフローチャートに基づいて、制御回路2にて実施される制御の一例を具体的に説明する。図3において、エンジンE/Gの始動時には、まずステップS100で、各種センサからのデータ取込みを行う。この時、エンジンE/Gの運転状態や排気管EX内の温度条件を知るために、例えば、エンジン冷却水温、潤滑油温を図示しない水温センサ、油温センサから取り込み、外気温としてエアフロメータAFMに内蔵される吸気温センサの出力を、PMセンサ1近傍の排気温としてディーゼルパティキュレートフィルタDPF下流の温度センサS3出力を取り込む。また、エンジンE/Gの回転数や燃料噴射量Q、運転時間等を取り込む。
【0045】
ステップS101では、これらデータに基づいて、PMセンサ1の被水危険度を算出する。具体的には、前回の運転停止からの時間と、始動後の運転条件および温度条件から、PMセンサ1より上流の排気管EX内に発生し滞留する凝縮水量を予測し、排気管EX形状から予め求めた関係を用いて被水危険係数を算出することができる。例えば、外気温が低い条件では、運転停止後に排気管EXの温度低下により雰囲気中の水分が凝縮し、あるいは始動直後に低温の排気管EX内に排気が流入すると排気中の水分が凝縮する。また、運転停止からの時間が比較的短く、排気管EX内の温度が比較的高ければ、この凝縮水量は少なく、排気温が上昇して凝縮水が蒸発までの時間も短い。また、凝縮水量が同じであっても、例えば排気管EXが屈曲部を有する形状である場合には、凝縮水が滞留しやすく、排気によって飛散されにくい。したがって、これら条件を変更した実験結果に基づいてマップを作成しておくか、演算式を使用して求めることができる。
【0046】
ステップS102では、ステップS101で求めた被水危険度が一定値より小さいか否かを判定する。この一定値は、PMセンサ1への通電開始により被水割れの可能性がある最低値であり、肯定判定された場合には、被水割れのおそれがない、すなわち通電開始タイミングと判断して、ステップS103の始動時燃焼制御へ進む。否定判断された場合にはステップS100へ戻り、被水割れのおそれがなくなるまで通電を遅延するために、ステップS100〜S102を繰り返す。
【0047】
ステップS103では、始動時燃焼制御により、PMセンサ1のヒータ部300に通電し、微粒子状物質PMを燃焼除去する。この制御の詳細を、図4により説明する。図4のステップS200では、PMセンサ1への微粒子状物質PMの堆積状態を知るために、データ取り込みを行う。この時、
1)前回運転時において、通常制御によるPM燃焼を実施してから運転停止するまでの期間
2)運転停止期間
3)今回の始動から始動時燃焼制御を開始するまでの期間
の各期間について、PMセンサ1に付着した微粒子状物質PM、またはその変化を知るために、各種センサからエンジン冷却水温、潤滑油温、外気温、排気温、エンジン回転数、噴射量Qといった運転状態、温度条件、さらに運転時間等のデータを取り込む。
【0048】
ステップS201では、これらデータに基づいて、
1)前回運転停止時点において、PMセンサ1に付着している微粒子状物質PMの量
2)運転停止期間中に付着または蒸発する水分、HC分
3)今回の始動から始動時燃焼制御の開始までに付着する微粒子状物質PMの量
を求め、現在の微粒子状物質PMの付着状態(付着量および成分比)を予測する。運転期間中における微粒子状物質PMの付着量、停止中の水分、HC分による変化は、運転状態や排気管EX内の環境によって異なり、予め実験を行って作成したマップを使用するか、理論に基づく演算式を用いて算出することができる。
【0049】
次いで、ステップS202に進み、ステップS201で算出した微粒子状物質PMの付着状態(付着量および成分比)から、微粒子状物質PMの燃焼制御条件(温度および時間)を算出する。始動時燃焼制御において、温度T1は微粒子状物質PMが燃焼可能な温度以上、通常、600℃以上とするのがよく、また、センサ素子10の耐久性(ヒータ部300)の観点からは、900℃以下であるとよい。時間S1は温度T1に依存し、温度T1を高くするほど時間S1を短時間とすることができる。制御性の観点からは、時間S1は5分以下とするのがよい。
【0050】
図5は、素子温度T1と保持時間S1の関係を調べた結果を示す。試験条件は、図1(b)のように排気管EXにPMセンサ1を装着し、エンジンE/G始動後にPMセンサ1のヒータ部300への通電制御を行って所定温度(T1)に時間(S1)保持した時の微粒子状物質PMの付着状態を観察した。この時、素子温度T1は550℃〜750℃とし、保持時間S1を変更して、付着の有無を示した。図示されるように、素子温度T1が600℃の時は保持温度20秒以上、素子温度T1が700℃の時は保持温度10秒以上で、微粒子状物質PMの付着がない状態まで除去できる。素子温度T1が550℃以下では保持時間S1が80秒でも微粒子状物質PMが付着しており、燃焼除去するには、600℃以上とすることが必要となる。好ましくは、素子温度T1650℃以上、保持温度20秒以上とするのがよい。
【0051】
ステップS203では、始動時燃焼制御を開始し、ステップS202で決定した条件(温度T1、時間S1)にて、PMセンサ1のヒータ部300へ通電制御を行って微粒子状物質PMを燃焼除去する。PMセンサ1のヒータ部300への通電により、検出部100を温度T1にて時間S1保持した後、ステップS204にて、始動時燃焼制御を終了する。
【0052】
その後、図3のステップS104に進み、通常時制御を開始する。通常時制御では、PMセンサ1のヒータ部300への通電により、検出部100の温度を始動時燃焼制御の温度T1より低い温度範囲に保持し、この状態で検出部100に付着する微粒子状物質PMの検出を行う。具体的には、温度範囲は50℃以上600℃以下の範囲で予め設定した値に制御することで、安定した出力を得ることができる。
【0053】
図6(a)は、通常時制御を連続して行った場合のPMセンサ1の出力を示す図であり、検出開始から一定の不感時間経過後に、検出部100の一対の検出用電極11、12間が導通してセンサ出力が立ち上がり、時間経過とともにセンサ出力が急増した後、飽和する特性を示している。これは検出部100に付着する微粒子状物質PMが増加するのに伴い、電極間抵抗が急低下するものの、所定量を超えるとそれ以上抵抗値が変化しなくなるためで、定期的にセンサ再生制御を行って、堆積した微粒子状物質PMを除去する必要がある。この場合のセンサ再生制御は、始動時燃焼制御と同様に行うことができ、微粒子状物質PMが燃焼可能な温度以上で所定時間保持すればよい。例えば、600℃〜900℃、好適には650℃以上で20秒以上、700℃で10秒以上保持する。その後、同様の制御を繰り返し行う。
【0054】
図6(b)は、通常時制御による検出開始後、センサ再生制御を行うことなく、エンジン停止に至った場合に、再始動時のセンサ出力変化を示す図である。左図は検出部100の一対の検出用電極11、12間が導通しセンサ出力が立ち上がった後に、エンジン停止した場合であり、再始動時に始動時燃焼制御を行っていない。この時、ソーク時の微粒子状物質PMの性状変化、水分付着等により、本来の出力変化(点線)に対してPM感度が変化し、PM堆積量を誤検出するおそれが高い。また、右図はセンサ再生制御後に、検出部100の一対の検出用電極11、12間が導通しセンサ出力が立ち上がった後、不感時間にエンジン停止した場合である。この場合も、センサ再生制御後に堆積した微粒子状物質PMが残留している影響で不感時間が変化し、精度よい検出が困難になる。
【0055】
これに対して図6(c)は、再始動時に本願発明の始動時燃焼制御を行った場合であり、センサ再生制御を行うことなく、エンジン停止に至った場合でも、PM感度変化や不感時間のずれを生じることなく、微粒子状物質PMの検出を正常に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
このようにして形成される本発明の微粒子センサは、高い検出精度を有し、DPFの下流に設置されて、DPFの異常検出に利用することができる。あるいは、DPFの上流に設置されて、DPFに流入する微粒子状物質PMを直接検出するシステムに利用することもできる。
【符号の説明】
【0057】
DPF ディーゼルパティキュレートフィルタ
EX 排気管(排気通路)
E/G ディーゼルエンジン(内燃機関)
1 PMセンサ(粒子状物質検出センサ)
10 PMセンサ素子(センサ素子)
100 検出部
11、12 検出電極
111、121 電極リード部
13 絶縁性基板(絶縁性基体)
14 絶縁性保護層
2 制御回路(制御部)
21 ヒータ電源
300 ヒータ部
31 ヒータ電極
32 絶縁性基板
311、312 ヒータリード部
40 カバー体
410、411 通孔
50 ハウジング
60 インシュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配設されて、排出ガス中の微粒子状物質の量を検出する粒子状物質検出センサであって、
絶縁性基体の表面に一対の検出用電極を形成した検出部と、該検出部を所定温度に加熱するヒータ部を有するセンサ素子と、
上記検出部に導入される微粒子状物質の量に応じて変化する上記一対の検出用電極間の電気抵抗値を検出するとともに、上記ヒータ部への通電を制御する制御部を有し、
上記制御部には、
上記内燃機関の始動時に上記ヒータ部へ通電して、上記検出部の温度を微粒子状物質が燃焼可能な温度T1にて予め設定した時間S1保持し、上記検出部表面の微粒子状物質を燃焼除去する始動時燃焼制御手段と、
該始動時燃焼制御の後に、上記ヒータ部への通電を制御して上記検出部の温度を上記温度T1より低い温度範囲に保持し、上記検出部に付着する微粒子状物質の検出を行う通常時制御手段を設けることを特徴とする粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
上記制御部には、上記内燃機関の運転状態に基づいて、始動から上記ヒータ部へ通電するまでのタイミングを決定する通電タイミング決定手段を設けた請求項1記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
上記通電タイミング決定手段は、上記内燃機関の排気通路に存在する凝縮水による被水危険度を算出し、算出された被水危険度に応じて上記ヒータ部への通電を遅延させる請求項2記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項4】
上記始動時燃焼制御手段は、温度T1が600℃以上900℃以下である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項5】
上記始動時燃焼制御手段は、温度T1を650℃以上であり、時間S1を20秒以上の予め設定した値に制御する請求項4記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項6】
上記通常時制御手段は、温度範囲を50℃以上600℃以下の予め設定した値に制御する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項7】
櫛歯状の上記一対の検出用電極とリード部を形成して上記検出部とし、上記絶縁性基体の先端部裏面に、ヒータ電極およびリード部を形成して上記ヒータ部とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の粒子状物質検出センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−12960(P2012−12960A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147862(P2010−147862)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】