説明

素子評価方法及び装置

【課題】磁気ヘッドのリード素子の素子形状を評価する素子評価方法及び装置に関し、同一の評価試料によってリード幅、コア幅及び素子高さを評価しうる素子評価方法及び装置を提供する。
【解決手段】第1の材料よりなる第1の部分と第2の材料よりなる第2の部分とが積層された第1の領域に電子線を入射し、第1及び第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第1の電子線強度を測定し、第1の材料よりなる第2の領域に電子線を入射し、第1の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第2の電子線強度を測定し、第2の材料よりなる第3の領域に電子線を入射し、第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第3の電子線強度を測定し、第1の電子線強度と第1の部分の厚さとの関係を、第2の電子線強度と評価試料の厚さとの関係及び第3の電子線強度と評価試料の厚さとの関係から算出することにより、第1の領域の第1の部分の厚さを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子評価方法及び装置に係り、特に、磁気ヘッドのリード素子の素子形状を評価する素子評価方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
記録装置の高記録密度化によるビットサイズの縮小に伴い、記録媒体に記録された磁気情報を読み出すための磁気ヘッドのリード素子のサイズも縮小されている。リード素子の製造においては、ビットサイズで規定されるリードコア幅及びリードギャップを制御することに加えて、素子抵抗・出力・感度などに影響を及ぼす素子高さ(MRハイト)を制御することが重要である。製造するリード素子のリードコア幅、リードギャップ及び素子高さの制御性を高めるためには、製造したリード素子を実測してその実測値を製造条件にフィードバックすることが必要である。
【0003】
高記録密度化が進む近年の記録装置では、リード素子の素子サイズが縮小しており、素子形状の評価には高い空間分解能を有する透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)が必要不可欠になっている。
【0004】
TEMによる評価では、評価対象試料は数十〜数百nm程度の厚さの薄片に加工される。評価対象試料としてリードコア幅及びリードギャップを測長する浮上面(Air Bearing Surface:ABS)方向の断面試料を用いる場合、ABS方向に直交する素子高さ方向の観察は不可能である。
【0005】
そこで、TEMを用いた従来の素子評価方法では、ABS方向の断面試料と素子高さ方向の断面試料との2つの試料を用意し、ABS方向の断面試料を用いてリードコア幅及びリードギャップを測定し、素子高さ方向の断面試料を用いて素子高さを測定していた。
【非特許文献1】R. F. Egerton, "Electron Energy-Loss Spectroscopy in the Electron Microscope, Second Edition", Plenum Press, New York, 1996, p. 301
【非特許文献2】A. V. Crew, J. Wall, J. Langmore, Science, 168, 1338 (1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようにTEMを用いた上記従来の素子評価方法では、TEM観察用に薄片化加工された同一のTEM試料を用いてリードコア幅、リードギャップ及び素子高さを測定することはできなかった。このため、リードコア幅、リードギャップ及び素子高さを測定するためには少なくとも2つの評価試料を用意する必要があり、評価試料の準備に労力及び時間を要していた。
【0007】
また、高記録密度化による素子サイズの縮小により、素子高さ方向の断面観察用のTEM試料の作製も困難になりつつある。すなわち、面記録密度が約100Gbpsiの磁気ヘッドの光学コア幅は約100nmであり、面記録密度が300Gbpsi以上では光学コア幅は60nm以下になると考えられている。この場合、リードコア幅とTEM試料厚さが同等或いは同等以下となり、非常に高い精度のピンポイントで断面薄片加工を行うことが必要である。このため、コア幅中心の素子高さ方向の断面TEM試料の作製は困難であり、膨大な労力と時間を必要とし、かつ歩留まりも悪くなる。
【0008】
本発明の目的は、同一の試料によって磁気ヘッドのリード素子のリード幅、コア幅及び素子高さを評価しうる素子評価方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一観点によれば、第1の材料により構成された第1の部分と第2の材料により構成された第2の部分とが積層された第1の領域と、前記第1の材料により構成された第2の領域と、前記第2の材料により構成された第3の領域とを有する薄片状の評価試料を用意し、前記第1の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素及び前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第1の電子線強度を測定し、前記第2の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第2の電子線強度を測定し、前記第3の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第3の電子線強度を測定し、前記第1の電子線強度と前記第1の部分の厚さとの関係を、前記第2の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係及び前記第3の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係から算出することにより、前記第1の領域の前記第1の部分の厚さを算出する素子評価方法が提供される。
【0010】
また、本発明の他の観点によれば、第1の材料により構成された第1の部分と第2の材料により構成された第2の部分とが積層された第1の領域と、前記第1の材料により構成された第2の領域と、前記第2の材料により構成された第3の領域とを有する薄片状の評価試料を評価するための素子評価装置であって、前記評価試料に収束電子線を入射する電子銃と、前記評価試料を透過した電子線のうち前記評価試料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す散乱電子線を検出する環状検出器とを有する電子顕微鏡と、前記評価試料に電子線を入射し、前記第1の領域を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素及び前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第1の電子線強度を測定し、前記第2の領域を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第2の電子線強度を測定し、前記第3の領域を透過した電子線のうち前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第3の電子線強度を測定する測定機構と、前記第1の電子線強度と前記第1の部分の厚さとの関係を、前記測定機構により測定した前記第2の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係及び前記第3の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係から算出することにより、前記第1の領域の前記第1の部分の厚さを算出する演算機構とを有する素子評価装置が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁気ヘッドのリード素子のリードコア幅、リードギャップ及び素子高さを、同一のTEM試料を用いて測定することができる。これにより、TEM試料の準備が容易となり、評価に必要な工数を大幅に削減することができる。また、リード素子形状の評価結果を迅速にリード素子の製造プロセスにフィードバックすることが可能となり、リード素子の製造歩留まりを向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態による素子評価方法及び装置について図1乃至図10を用いて説明する。
【0013】
図1は磁気ヘッドのリード素子の構造を示す概略断面図、図2は磁気ヘッドのリード素子の構造を示す斜視図、図3は本実施形態による素子評価装置の構造を示す概略図、図4は本実施形態による素子評価方法を示すフローチャート、図5は本実施形態による素子評価方法に用いるTEM試料を示す概略図、図6は本実施形態による素子評価方法により測定したSTEM像を模写した図、図7は下部シールド層の形成領域で測定したEELSスペクトルを示すグラフ、図8は環状暗視野STEM法の原理を説明する概略図、図9は環状暗視野STEM法における像強度と散乱角との関係を示すグラフ、図10は環状暗視野STEM法により測定した像強度と試料位置との関係を示すグラフ、図11は図10の測定における電子線の走査経路を示す図である。
【0014】
はじめに、本実施形態による評価方法及び装置の評価対象である磁気ヘッドのリード素子の構造について図1及び図2を用いて説明する。なお、図1(a)は浮上面(Air Bearing Surface:ABS)の概略断面図であり、図1(b)はABSに直交する方向(素子高さ方向)に沿った概略断面図である。
【0015】
NiFe等の軟磁性材料よりなる下部シールド層10上には、Ta等よりなる下地層12が形成されている。下地層12上には、PdPtMn等の反強磁性材料よりなる反強磁性層14が形成されている。反強磁性層14上には、強磁性材料よりなる固定磁化層16が形成されている。固定磁化層16は、例えば、CoFe等の強磁性材料よりなる強磁性層と、Ru等の非磁性材料よりなる非磁性層と、CoFe等の強磁性材料よりなる強磁性層とにより構成された積層フェリ構造とすることができる。固定磁化層16上には、アルミナ等の絶縁材料よりなるバリア層18が形成されている。バリア層18上には、軟磁性材料、例えばCoFe膜とNiFe膜との積層膜よりなる自由磁化層20が形成されている。自由磁化層20上には、Ta等の非磁性材料よりなるキャップ層22が形成されている。
【0016】
下地層12、反強磁性層14、固定磁化層16、バリア層18、自由磁化層20及びキャップ層22からなる積層体はメサ形状に加工されている。こうして、下部シールド層10上には、下地層12、反強磁性層14、固定磁化層16、バリア層18、自由磁化層20及びキャップ層22の積層体よりなるトンネル磁気抵抗効果(Tunnel Magnetoresistive Effect:TMR)素子24が形成されている。
【0017】
TMR素子24が形成された下部シールド層10上には、リードコア幅方向(図1(a)において図面横方向)に沿ってTMR素子24を挟むように、CoCrPt等よりなる一対のハード膜28が形成されている。ハード膜28は、下部シールド層10の上面上及びTMR素子24の側面上に、アルミナ等よりなる絶縁膜26を介して形成されている。TMR素子24の素子高さ方向(図1(b)において図面横方向)の側壁部分には、アルミナ等よりなる絶縁膜26が埋め込まれている。
【0018】
TMR素子24上には、NiFe等の軟磁性材料よりなる上部シールド層30が形成されている。
【0019】
図2はリード素子の構造を示す斜視図である。図2において、y−z面に平行な面が図1(a)の断面図に相当し、x−z面に平行なTMR素子24部の断面が図1(b)の断面図に相当する。
【0020】
図2に示すように、リード素子の素子高さはTMR素子24のx方向の幅によって規定され、リードコア幅はy方向に沿ったTMR素子24(自由磁化層20)の幅により規定され、リードギャップはTMR素子24の厚さ(下部シールド層10と上部シールド層30との間隔)により規定される。したがって、電子線の透過像を2次元的に観察することによってリード素子の形状を評価する従来の素子評価方法では、互いに直交する関係にあるリードコア幅、リードギャップ及び素子高さを、同一のTEM試料によって測定することは不可能である。
【0021】
次に、本実施形態による素子評価装置について図3を用いて説明する。
【0022】
本実施形態による素子評価装置は、走査透過型電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)50を有している。STEM50には、評価試料に入射する電子線を制御するための走査レンズ系を制御するための走査レンズ系制御装置52と、評価試料を透過した電子線を制御するための透過レンズ系を制御するための透過レンズ系制御装置54と、電子線に対する評価試料の位置を制御するための試料制御装置56と、試料を透過した電子線を検出する検出器58とが設けられている。
【0023】
試料制御装置56は、処理装置54に接続されている。走査レンズ系制御装置52は、走査レンズ系制御用入力装置60を介して処理装置64に接続されている。また、透過レンズ系制御装置54は、透過レンズ系制御用入力装置62を介して処理装置64に接続されている。これにより、評価試料の任意の位置へ電子線を収束して入射するとともに、評価試料を透過した電子線を検出器58へ導くようになっている。検出器58には、評価試料から得られたSTEM像を取得するSTEM検出器と、評価試料により高角度に散乱された電子線を検出する環状検出器とが含まれる。
【0024】
処理装置64は、走査レンズ系制御装置52、透過レンズ系制御装置54、試料制御装置56等を制御する制御装置として、また、検出器58から入力される測定データの分析を行う分析装置として機能する。処理装置64には、外部から測定等に必要な情報を入力するための入力装置66、測定データの分析に用いられるデータベース等を記憶する外部記憶装置68、分析結果等を表示する表示装置70が接続されている。
【0025】
次に、本実施形態による素子評価方法について図4乃至図11を用いて説明する。
【0026】
まず、評価対象のリード素子から、STEM50で観察するための試料(以下、「TEM試料」と呼ぶ)を作製する(ステップS11)。TEM試料は、リード素子をABSの対向面側から研磨及びミリング等により除去して薄片化することにより形成し、ABS側から見て素子全体を包含し、透過型電子顕微鏡で観察が可能な厚さ(〜150nm程度)とする。
【0027】
図5は、ステップS11において作製したTEM試料の一例を示す概略図である。図5(a)はTEM試料をABS側から見た図であり、図5(b)はTMR素子24部分の素子高さ方向の断面図(図4(a)のA−A′線断面図)である。TEM試料は、図5(b)に示すように、ABSの対向面側には絶縁膜26が残存するように、すなわち厚さTが、素子高さよりも厚くなるように、試料を薄片化する。
【0028】
次いで、ステップS11で作製したTEM試料を、STEM50の試料ステージ(図示せず)上に載置し、鏡筒内を所定の圧力まで減圧する。
【0029】
次いで、試料ステージ上に載置したTEM試料に、電子銃(図示せず)により生成された電子線を走査レンズ系制御装置52によって集束・走査しながら入射する。そして、TEM試料を透過した電子線を検出器58により検出し、STEM像を取得する(ステップS12)。
【0030】
次いで、取得したSTEM像を検出器58から処理装置64へ出力し、処理装置64によってリードコア幅とリードギャップとを測長する(ステップS13)。TEM試料から得られるSTEM像は、ABS側から見た素子の全体像に対応する。したがって、取得したSTEM像から、リードコア幅とリードギャップとを測長することができる。
【0031】
図6は、本ステップにより取得したSTEM像を模写した図である。図6に示すように、本願発明者等が測定したリード素子では、リードコア幅が88nmであり、リードギャップが40nmであった。
【0032】
次いで、電子線を、TEM試料の所定の場所に静止し、電子エネルギー損失分光法(Electron Energy Loss Spectroscopy:EELS)により、TEM試料の厚さを測定する(ステップS14)。なお、電子線の入射位置は、STEM像で確認することができる。
【0033】
図7は、EELSスペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は電子線強度を表し、横軸は電子線の損失エネルギーを表している。すなわち、EELSスペクトルは、試料を透過することにより損失したエネルギーの分布を示している。
【0034】
エネルギー損失のない電子線の強度、すなわち損失エネルギーが0のときの電子線強度(ゼロロス強度)をI、試料を透過した全電子線の強度をI、電子の非弾性散乱平均自由工程をλとすると、試料の厚さTは、
T=λln(I/I
として表される(例えば、非特許文献1を参照)。したがって、非弾性散乱平均自由工程λが分かれば、EELSスペクトルから試料の厚さTを算出することができる。
【0035】
非弾性散乱平均自由工程λは、試料の構成材料に依存する。そこで、EELSスペクトルから試料の厚さTを算出する際には、試料の厚さ方向の全域に渡って同じ材料で構成される部分を用いて測定を行う。測定場所としては、例えば、下部シールド層10の部分(図6のA点を参照)、上部シールド層30の部分、絶縁膜26の部分(図6のB点を参照)を用いることができる。
【0036】
本願発明者等が測定を行ったTEM試料では、NiFeよりなる下部シールド層10の部分(A点)において、非弾性散乱平均自由工程λは92.7nmであり、ゼロロス強度Iは131730カウントであり、全電子線強度Iは671858カウントであり、TEM試料の厚さTは151.04nmと測定された。また、アルミナよりなる絶縁膜26の部分(B点)において、非弾性散乱平均自由工程λは124.0nmであり、ゼロロス強度Iは602531カウントであり、全電子線強度Iは2043375カウントであり、TEM試料の厚さTは151.43nmと測定された。なお、図7は、A点で測定したEELSスペクトルである。
【0037】
次いで、高角環状暗視野(High Angle Annular Dark Field:HAADF)STEM法を用いて、TEM試料の暗視野STEM像を取得する(ステップS15)。
【0038】
HAADF−STEM法は、図8に示すように、TEM試料40により散乱された高角散乱電子(図中、散乱角度がβ〜βである散乱電子)を環状検出器42により検出することによりSTEM像を取得する方法である。
【0039】
図9に示すように、低角度散乱のときには、像強度は、弾性散乱電子が支配的となる。これに対し、高角度散乱(約40mrad以上)のときには、像強度は、熱散漫散乱電子が支配的となる。つまり、高角度散乱した電子では、熱散漫散乱が支配的になり、像強度は原子質量に依存したコントラストを示すようになる(例えば、非特許文献2を参照)。
【0040】
なお、ステップS13においてステップS12で取得したSTEM像からリードコア幅及びリードギャップを測長する代わりに、本ステップで取得した暗視野STEM像からリードコア幅及びリードギャップを測長するようにしてもよい。
【0041】
次いで、HAADF−STEM法により、TEM試料の所定の場所における像強度(電子線強度)を測定する(ステップS16)。なお、電子線の入射位置は、暗視野STEM像で確認することができる。
【0042】
図10は、図11の断面図において、A点からB点を通ってD点に達する経路に沿った像強度(図中、点線)、並びに、A点からC点を通ってE点に達する経路に沿った像強度(図中、実線)を測定した結果を示すグラフである。図中、A点はNiFeよりなる下部シールド層10の部分に相当し、B点はアルミナよりなる絶縁膜26の部分に相当し、C点はNiFe/CoFeよりなる自由磁化層20の部分に相当する。図10の測定結果では、A点の像強度は約28000、B点の強度は15000、C点の強度は24000と求められた(何れも単位はカウント数)。
【0043】
次いで、処理装置64により、算出した各場所の像強度及びステップS14で算出したTEM試料の厚さから、リード素子の素子高さを算出する(ステップS17)。
【0044】
HAADF−STEM法により測定した像強度は、構成元素の原子質量に依存した係数と膜厚の積で記述することができる。
【0045】
すなわち、A点について考えると、A点における像強度Iは、NiFeの原子質量に依存した係数をα、厚さをTとして、
=α×T …(1)
と表すことができる。
【0046】
同様に、B点について考えると、B点における像強度Iは、アルミナの原子質量に依存した係数をβ、厚さをTとして、
=β×T …(2)
と表すことができる。
【0047】
一方、C点は、TEM試料の厚さ方向に見ると、NiFe/CoFeよりなる自由磁化層20と、絶縁膜26の二層構造である(図1(b)を参照)。したがって、C点における像強度Iは、NiFe/CoFeの構成元素の原子質量に依存した係数をγ、自由磁化層20の膜厚(素子高さ)をt、アルミナの構成元素の原子質量に依存した係数をβ、絶縁膜26の膜厚をtとして、
=γ×t+β×t …(3)
と表すことができる。
【0048】
ここで、自由磁化層20を構成するNiFe/CoFeは、下部シールド層10を構成するNiFeと同じ材料及び原子質量の近い同等の材料により構成されているため、
γ≒α
と近似することができ、(3)式は以下のように書き換えることができる。
【0049】
=α×t+β×t …(3)′
また、TEM試料の厚さT並びに自由磁化層20及び絶縁膜26の膜厚とは、
T=T=T=t+t …(4)
の関係を有している。
【0050】
したがって、(1)式から求めたα、(2)式から求めたβ、(4)式から求めたtを(3)′式に代入することにより、
=(I/T)×t+(I/T)×(T−t
の関係が得られる。この式をtについて解くことにより、
=T(I−I)/(I−I) …(5)
となる。
【0051】
したがって、(5)式に、厚さTの測定値(151nm)、A点の像強度(I=28000)、B点の像強度(I=15000)、C点の像強度(I=24000)を代入することにより、膜厚tを、
=104.5nm
と算出することができる。また、(4)式から、膜厚tを、
=46.5nm
と算出することができる。
【0052】
こうして、リード素子の素子高さ(膜厚t)を、104.5nmと算出することができる。
【0053】
このように、本実施形態によれば、磁気ヘッドのリード素子を素子高さ方向に薄片化したTEM試料を作製し、環状暗視野STEM法によってTMR素子形成領域、シール層形成領域及び絶縁膜形成領域の像強度をそれぞれ測定し、シール層形成領域又は絶縁膜形成領域のEELSスペクトルからTEM試料の膜厚を測定するので、これら像強度と膜厚との関係からTMR素子の素子高さを算出することができる。また、リード素子のリードコア幅及びリードギャップは、同一のTEM試料のSTEM像から測長することができる。したがって、リード素子を素子高さ方向に薄片化した同一のTEM試料を用いて、リード素子のリードコア幅、リードギャップ及び素子高さを測定することができる。これにより、TEM試料の準備が容易となり、評価に必要な工数を大幅に削減することができる。また、評価結果を迅速にリード素子の製造プロセスにフィードバックすることが可能となり、リード素子の製造歩留まりを向上することができる。
【0054】
[変形実施形態]
本発明は上記実施形態に限らず種々の変形が可能である。
【0055】
例えば、上記実施形態では、TEM試料の厚さ方向の全域に渡って同じ材料により構成されている領域として、下部シールド層10及び絶縁膜26を適用したが、他の領域を適用してもよい。例えば、下部シールド層10の代わりに、上部シールド層12を適用することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、TMR素子24の素子高さを算出する際に自由磁化層20における像強度を用いたが、他の領域の像強度を用いてもよい。例えば、下地層12やキャップ層24と同等の材料よりなる部分がTEM試料の厚さ方向の全域に渡って存在するような場合には、これらの部分を用いて測定を行ってもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、磁気ヘッドのリード素子の素子高さの測長に本発明の素子評価方法を適用したが、本発明を適用可能な素子はこれに限定されるものではない。本発明の素子評価方法は、第1の材料により構成された第1の部分と第2の材料により構成された第2の部分とを厚さ方向に有する第1の領域と、厚さ方向の全域に渡って前記第1の材料と同等の原子質量を有する第3の材料により構成された第2の領域と、厚さ方向の全域が前記第2の材料と同等の原子質量を有する第4の材料により構成された第3の領域とを有する評価試料の測定に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】磁気ヘッドのリード素子の構造を示す概略断面図である。
【図2】磁気ヘッドのリード素子の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態による素子評価装置の構造を示す概略図である。
【図4】本発明の一実施形態による素子評価方法を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態による素子評価方法に用いるTEM試料を示す概略図である。
【図6】本発明の一実施形態による素子評価方法により測定したSTEM像を模写した図である。
【図7】下部シールド層の形成領域で測定したEELSスペクトルを示すグラフである。
【図8】環状暗視野STEM法の原理を説明する概略図である。
【図9】環状暗視野STEM法における像強度と散乱角との関係を示すグラフである。
【図10】環状暗視野STEM法により測定した像強度と試料位置との関係を示すグラフである。
【図11】図10の測定における電子線の走査経路を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
10…下部シールド層
12…下地層
14…反強磁性層
16…固定磁化層
18…バリア層
20…自由磁化層
22…キャップ層
24…TMR素子
26…絶縁膜
28…ハード膜
30…上部シールド層
40…TEM試料
42…環状検出器
50…STEM
52…走査レンズ系制御装置
54…透過レンズ系制御装置
56…試料制御装置
58…検出器
60…走査レンズ系制御用入力装置
62…透過レンズ系制御用入力装置
64…処理装置
66…入力装置
68…外部記憶装置
70…表示装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料により構成された第1の部分と第2の材料により構成された第2の部分とが積層された第1の領域と、前記第1の材料により構成された第2の領域と、前記第2の材料により構成された第3の領域とを有する薄片状の評価試料を用意し、
前記第1の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素及び前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第1の電子線強度を測定し、
前記第2の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第2の電子線強度を測定し、
前記第3の領域に電子線を入射し、前記評価試料を透過した電子線のうち前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第3の電子線強度を測定し、
前記第1の電子線強度と前記第1の部分の厚さとの関係を、前記第2の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係及び前記第3の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係から算出することにより、前記第1の領域の前記第1の部分の厚さを算出する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の素子評価方法において、
前記第1の電子線強度、前記第2の電子線強度及び前記第3の電子線強度は、環状暗視野STEM法を用いて測定する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項3】
請求項2記載の素子評価方法において、
前記第1の電子線強度、前記第2の電子線強度及び前記第3の電子線強度の測定の際に、前記評価試料による散乱角度が40mrad以上の透過電子線を検出する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の素子評価方法において、
前記評価試料の厚さをT、前記第1の電子線強度をI、前記第2の電子線強度をI、前記第3の電子線強度をIとして、前記第1の部分の厚さtを、
=T(I−I)/(I−I
の関係式から算出する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の素子評価方法において、
前記評価試料の厚さを、前記第2領域又は前記第3の領域における電子エネルギー損失分光スペクトルから算出する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の素子評価方法において、
前記評価試料の前記第2の領域は、前記第1の材料の構成元素と同等の原子質量を有する構成元素からなる材料により構成されており、
前記評価試料の前記第3の領域は、前記第2の材料の構成元素と同等の原子質量を有する構成元素からなる材料により構成されている
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の素子評価方法において、
前記評価試料は、第1のシールド層上に形成された磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子の形成領域を除く前記第1のシールド層上に形成された絶縁膜と、前記磁気抵抗効果素子上に形成された第2のシールド層とを有する磁気ヘッドのリード素子が薄片化されたものであり、
前記第1の領域の前記第1の部分は、前記磁気抵抗効果素子の形成領域であり、
前記第2の領域は、前記第1のシールド層又は前記第2のシールド層の形成領域であり、
前記第3の領域及び前記第1の領域の前記第2の部分は、前記絶縁膜の形成領域であり、
前記第1の部分の厚さは、前記磁気抵抗効果素子の素子高さである
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項8】
請求項7記載の素子評価方法において、
前記評価素子の電子線透過像を取得し、前記電子線透過像から、前記リード素子のリードコア幅及び/又はリードギャップを測長する
ことを特徴とする素子評価方法。
【請求項9】
第1の材料により構成された第1の部分と第2の材料により構成された第2の部分とが積層された第1の領域と、前記第1の材料により構成された第2の領域と、前記第2の材料により構成された第3の領域とを有する薄片状の評価試料を評価するための素子評価装置であって、
前記評価試料に収束電子線を入射する電子銃と、前記評価試料を透過した電子線のうち前記評価試料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す散乱電子線を検出する環状検出器とを有する電子顕微鏡と、
前記評価試料に電子線を入射し、前記第1の領域を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素及び前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第1の電子線強度を測定し、前記第2の領域を透過した電子線のうち前記第1の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第2の電子線強度を測定し、前記第3の領域を透過した電子線のうち前記第2の材料の構成元素の原子質量に依存したコントラストを示す第3の電子線強度を測定する測定機構と、
前記第1の電子線強度と前記第1の部分の厚さとの関係を、前記測定機構により測定した前記第2の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係及び前記第3の電子線強度と前記評価試料の厚さとの関係から算出することにより、前記第1の領域の前記第1の部分の厚さを算出する演算機構と
を有することを特徴とする素子評価装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−52944(P2009−52944A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218142(P2007−218142)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】