説明

紫外光光源及びこれを用いた光学読取装置

【課題】紫外光LEDを用いた光センサ用光源において、発光時に、実装筐体に用いられる酸化アルミニウム・セラミックス焼結体から発生する蛍光を排除し、正確なセンシングを可能にする。
【解決手段】LED光源素子1の照射光が実装筐体2に直接照射される領域である光源素子周辺領域21を、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成するか、或いは酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を用いる場合は、光源素子周辺領域21に直接紫外光が当たらないように、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料で被覆した構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光を照射することができる光源素子と、前記光源素子を実装する実装筐体とを備える紫外光光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の印刷技術や複写技術の目覚ましい性能向上に伴い、紙幣を含む有価証券等の偽造がますます精巧になってきている。これらを的確に判別して排除することが社会秩序を維持するために重要視されており、より高性能な真偽判定目的の鑑別システムが強く求められてきている。
これら紙幣を含む有価証券等の鑑別方法として、磁気センサによる磁気インクの検出による方法や、光センサによるパターン識別方法などが従前より用いられてきている。
【0003】
光センサによりパターン識別を行うときは、可視光領域は当然として、さらに可視領域外の波長をも利用して有価証券等の特徴を判別し、もって真偽を判定する方法が有効である。
従来は、この可視領域外の波長として赤外光LED(発光ダイオード)による赤外光照射を用いているが、最近の紫外光LED素子の高性能化と価格低下により、紫外光LEDを光源として用いる鑑別システムが顧客より新たに求められてきている。
【0004】
紫外光を対象物に照射し、印刷物のインク、紙、構成材料に含まれる蛍光物質を蛍光させて、その微弱な出力や波長を検出することが可能となり、さらなる真偽判定能力が向上する期待がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-87333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鑑別システムの光源は民生用機器と異なり、10年に近い連続動作安定性が求められており、紫外光照射による実装筐体の劣化を可能な限り防止する工夫が必要である。
紫外光光源として、有機材料であるガラスエポキシ実装筐体上に紫外光LED素子を直線上に配列して、この上に透明なシリコーン樹脂で封止した紫外光光源が知られているが、この構造だと長時間動作することによりガラスエポキシ実装筐体の表面が長時間の紫外光照射により変色し、反射率が変動し、紫外光の出力が不安定となる問題がある。
【0007】
これを解決するために、LEDの実装筐体として、安価で紫外光劣化の少ない酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を採用し、信頼性の高い長時間動作に耐える製品が開発されている。
ところが実際、この酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を用いた紫外光LED実装品から、紫外光LEDの照射時に波長690nm付近のかすかな発光が確認され、紫外光LED消灯後も長時間発光が継続することが判明した。その発光原因を調査したところ、実装筐体のうち、前記LED素子の照射光が直接照射される領域(「光源素子周辺領域」という)から出ており、その発光波長から、酸化アルミニウムの単結晶であるサファイヤに含まれるクロム(ルビー成分を形成する)が原因ではないかと想定された。
【0008】
紫外光光源を搭載した光学読取装置を、紙幣を含む有価証券等の鑑別用途に用いるためには、紫外光を対象物に照射し、印刷物のインクや紙及び構成材料に含まれる蛍光物質を蛍光させてその微弱な出力や波長を検出する。したがって、光源そのものから紫外光LEDの波長以外の光が発生することは光センサ(フォトダイオード)の基本的機能を大きく阻害してしまう。
【0009】
光センサの受光素子は単結晶シリコンもしくはアモルファス(a−)シリコンが用いられている。図17は、両シリコンフォトダイオードの受光感度のスペクトル特性を示すグラフである。図に示されるように、特に単結晶シリコンフォトダイオードは広い波長にわたって感度がある。したがって汎用的に用いられているが、単結晶シリコンフォトダイオードの波長感度特性は波長450nm付近の青色に比べて波長690nm付近は感度が数倍高くなっているため、酸化アルミニウム・セラミックス焼結体からの蛍光は鑑別性能そのものを大きく低下させる懸念がある。
【0010】
通常の天然原料に由来する酸化アルミニウムの製造工程において、完全にクロムを除去した焼結体を製造することも考えられる。しかし、特別な方法でルビー成分を全く含まない高純度の酸化アルミニウム・セラミックス焼結体が作れるとしても高価であり、実装筐体にこの高純度の酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を使用することは実用性に問題があると考えられる。
【0011】
そこで本発明は、紫外光光源の照射光が直接当たる光源素子周辺領域からの発光を防止することにより、紫外光光源としての機能が阻害されることのない紫外光光源及びこれを用いた光学読取装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の紫外光光源は、波長300nmから390nmの範囲にある紫外光成分を含む光を照射することができる光源素子と、前記光源素子を実装する実装筐体とを備え、前記光源素子の照射光が前記実装筐体に直接照射される領域である光源素子周辺領域は、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成されているものである。
【0013】
前記実装筐体の全体が、前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成されていてもよい。
前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体は、前記実装筐体の、前記光源素子を搭載する搭載面を形成するセラミックス層であってもよい。この場合、前記実装筐体の、前記搭載面を構成するセラミックス層以外のセラミックス層は、酸化アルミニウムを含むセラミックスで形成されていてもよい。
【0014】
また本発明の紫外光光源は、前記光源素子周辺領域の表面に、前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料が被覆されているものであってもよい。
前記光源素子周辺領域の表面に、前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料を被覆する場合、前記セラミックス焼結体として、従来用いられている酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を利用することができる。
【0015】
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料は、前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス、金属、無機材料または有機材料の中から選択することができる。
前記酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体としては、ルビー成分を含まない高純度の酸化アルミニウム・セラミックス、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、ジルコニア(ZrO2)若しくはジルコン(ZrO2・SiO2)を含む酸化物セラミックス、窒化硼素(BN)若しくは窒化珪素(Si3N4)を含む窒化物セラミックス、炭化珪素(SiC)若しくは黒鉛(C)の中から選ばれる一種、または二種以上の混合物若しくは複合物であっても良い。
【0016】
とりわけ経済性そして加工の容易さから、フォルステライト(2MgO・SiO2)又はステアタイト(MgO・SiO2)が適している。
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する金属は、銀、ニッケル及びチタンの中から選択しても良い。
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する無機材料は、酸化亜鉛及び酸化チタンの中から選択しても良い。
【0017】
図1及び図2は、LED素子1及びそれを実装する実装筐体2の簡略断面図を示す。図1の実装筐体2はLED素子1を載置する中央部が周辺よりも低くなっている凹型の実装筐体を示し、図2の実装筐体2はLED素子1を載置する実装面が平面状の実装筐体を示す。LED素子1から出ている矢印Lは、波長300nmから390nmの範囲にある紫外光を含む照射光を表わしている。照射光強度は図に示すように、正面方向より横方向のほうが大きいのが通常である。
【0018】
実装筐体2のうち、LED素子1の照射光に対して露出する面及びその面から所定深さの領域である光源素子周辺領域21をハッチングで表示している。前記「所定深さ」は、LED素子1から照射される紫外光が実装筐体2の内部に侵入できる深さに相当する。
もし実装筐体2として、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を用いた場合、前述したように、この光源素子周辺領域21から波長690nm付近のかすかな発光が観測される。
【0019】
本発明では、少なくとも前記光源素子周辺領域21は前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成されているか、あるいは前記光源素子周辺領域21の表面に、前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料が被覆されているので、光源素子周辺領域21から二次発光が観測されることはない。これにより、紫外光光源としての高性能と長期間の信頼性を両立させることができる。
【0020】
したがって、紙幣を含む有価証券を読み取る光学読取装置の紫外光光源としても、好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】LED素子1及びそれを実装する凹型の実装筐体2を示す簡略断面図である。
【図2】LED素子1及びそれを実装する平面状の実装筐体2を示す簡略断面図である。
【図3】凹型の実装筐体2を備える紫外光光源の断面図である。
【図4】凹型の実装筐体2を備える紫外光光源の斜視図である。
【図5】直方体状の実装筐体2を備える紫外光光源の斜視図である。
【図6】凹型の実装筐体2が、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス20で形成された、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図7】凹型のセラミックス実装筐体2の少なくとも光源素子周辺領域を含む最上層に、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層20を形成した構造を有する、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図8】凹型のセラミックス実装筐体2の光源素子周辺領域を、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料7で被覆した構造を有する、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図9】直方体型の実装筐体2が紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス20で形成されている、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図10】直方体型の実装筐体2の少なくとも光源素子周辺領域に、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層20を形成した構造を有する、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図11】直方体型の実装筐体2の光源素子周辺領域を、紫外光を遮断する材料7で被覆した構造を有する、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図12】直方体型の実装筐体2の片面両側に保護壁22を設置し、保護壁22を含む光源素子周辺領域を、紫外光を遮断する材料7で被覆した構造を有する、本発明の紫外光光源を示す断面図である。
【図13】紫外光光源30と対向する位置に、ラインセンサモジュール40を配置して、実施例、比較例のデータを取得するための光学読取装置の構成を示すブロック図である。
【図14】(a)は、紫外光光源30′の点灯と同時刻に開いたウィンドウで観測された光検出強度のグラフである。図14(b)は比較例における残光出力を示し、図14(c)は本発明の実施例における残光出力を示す。
【図15】比較例における紫外光光源30の発光スペクトル特性を示すグラフである。
【図16】本発明の実施例における紫外光光源30の発光スペクトル特性を示すグラフである。
【図17】市販のシリコンフォトダイオードの受光感度のスペクトル特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図3は紫外光光源を示す断面図であり、図4は同じく斜視図である。紫外光光源は、紫外光を照射することができるLED素子1と、前記LED素子1を実装するセラミックス実装筐体2とを備えている。
LED素子1の材料としては、波長300nmから390nmの範囲にある紫外光が所望の出力で得られ、長期信頼性が得られるものであれば特に制限するものではないが、例えばAlN、GaN、(Ga・Al・In)N系からなるII・VI族系半導体、又はSiCが採用可能である。
【0023】
セラミックス実装筐体2は、セラミックス材料からなる有底の略円筒体であり、一方の主面側に凹部3を有している。凹部3の底面3aの略中央部はLED素子1の実装領域となっており、LED素子1は、この底面3aの実装領域に接着され固定されている。セラミックス実装筐体2は、LED素子1の支持基板として機能する。セラミックス実装筐体2の他方の主面側には外部端子4a,4bが形成されている。
【0024】
凹部3は、その底面の面積が最も小さく、上に上がるに連れて断面積が大きくなる「すり鉢状」であるが、LED素子1を実装する何らかの凹部があればよく、このような形状に限定されるものではない。“3b”は凹部3の側面3bを示す。なおセラミックス実装筐体2は、有底円筒体以外に、有底の直方体など任意の形状をとり得る。
凹部3の底面3aには電極パッド8a,8bが形成されている。LED素子1の電極端子は、金線などのボンディングワイヤ4を介して電極パッド8a,8bと電気的に接続される。
【0025】
セラミックス実装筐体2は、例えば第一層2aと第二層2bの2層のセラミックス層で形成されている。第一層2aと第二層2bとの界面Sには中間金属膜5がパターンニングされている。第一層2a、第二層2bにはそれぞれ中間金属膜5につながるビアホール貫通導体が設けられている。電極パッド8a,8bは第二層2bに設けられたビアホール貫通導体の上部に形成されている。したがってLED素子1の電極端子は、電極パッド8a,8b、第二層2bに設けられたビアホール貫通導体、中間金属膜5、第一層2aに設けられたビアホール貫通導体を介して、セラミックス実装筐体2の他方主面側にある外部端子4a,4bと導通している。これらの外部端子4a,4bからLED素子1に駆動電流を流すことができる。なお、セラミックス実装筐体2は、1層のセラミックス層のみで形成されていても良く、この場合ビアホール貫通導体は、セラミックス実装筐体2の一方主面側から他方主面側まで貫通することになり、中間金属膜は省略できる。また、セラミックス実装筐体2は、3層以上のセラミックス層で形成されていてもよい。
【0026】
実装領域に配置された紫外光LED素子1は、紫外光に対する吸収と劣化が少ない透明な封止樹脂6で被覆される。透明封止樹脂6の材料としては、LED素子1から発せられる紫外光に対して透過性があり長時間劣化しない材料を選択する必要があり、必要な特性が確保できるのであれば材料を特定するものではないが、シリコーン樹脂や非晶質のフッ素樹脂が好まれる。なお、エポキシ樹脂など、樹脂の構造として着色の原因となるC=Cが劣化時に出来る構造を有している材料は、本目的には適していない。また長期の信頼性を確保するために、透明樹脂を省き、凹部3の上部を透明なガラス板で封着することも可能である。
【0027】
紫外光光源は、受光する光センサがラインセンサの場合は、複数のLED素子1を実装筐体2上に直線上に配列することでライン光源として採用することが出来る。図5は、複数のLED素子1を配列した紫外光光源の他の実施形態を示す斜視図である。
図3、図4の紫外光光源と異なるところは、セラミックス実装筐体2が円筒体でなく、直方体であり、複数のLED素子1がセラミックス実装筐体2の主面上に所定間隔で実装されていることである。LED素子1の電極端子(図示せず)が、セラミックス実装筐体2内部に設けられた導体を介して、セラミックス実装筐体2の他方主面側にある外部端子と導通していることは、図3、図4の紫外光光源と同様である。なお外部端子は、複数のLED素子1が実装されるセラミックス実装筐体2の主面側に配置されていても良い。また、配置された紫外光LED素子1は、紫外光に対する吸収と劣化が少ない透明な封止樹脂又はガラス(図示せず)で被覆されていることも、図3、図4の紫外光光源と同様である。紫外光光源の長さ及び/又はLED素子1の搭載個数は、受光する光センサの仕様により調整することが可能である。
【0028】
図3〜図5に示した構成において、本発明によれば、LED素子1の照射光が前記実装筐体2に直接照射される領域である光源素子周辺領域が、セラミックスで形成されており、前記セラミックスは、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないという特徴がある。
図6、図7は、この本発明の特徴を持った紫外光光源の一実施形態を示す断面図である。ただしビアホール貫通導体等の図示は省略している。この図6の紫外光光源は、図3の紫外光光源と比較して、セラミックス実装筐体2の全体が紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス20で形成されている。図7の紫外光光源は、図3の紫外光光源と比較して、セラミックス実装筐体2のLED素子1の搭載面が、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層20で形成されている。
【0029】
図6、図7の紫外光光源によれば、セラミックス材料20は、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まない、例えば(1)フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、ジルコニア(ZrO2)若しくはジルコン(ZrO2・SiO2)を含む酸化物セラミックス、(2)窒化硼素(BN)若しくは窒化珪素(Si3N4)を含む窒化物セラミックス、(3)炭化珪素(SiC)若しくは黒鉛(C)の中から選ばれる。これらの二種以上の混合物若しくは複合物であっても良い。また、ルビー成分を含まない高純度の酸化アルミニウム・セラミックスであってもよい。
【0030】
とりわけ経済性そして加工の容易さから、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)のいずれかが適している。
この構造を有する紫外光光源によれば、実装筐体2の表面のうち、LED素子1の照射光に対して露出する面、すなわち凹部3の底面3aと側面3b、及びそれらの面から所定深さ(LED素子1から照射される紫外光が実装筐体2の内部に侵入できる深さ)の領域が「光源素子周辺領域」となる(図1の“21”参照)。この光源素子周辺領域21、又はそれを含む実装筐体2の全体が紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックスで形成されているので、実装筐体2から発光が観測されることはない。これにより、LED素子1の照射光を検査対象物(例えば紙幣を含む有価証券等)に照射し、検査対象物を透過又は反射した光を光センサで読み取る場合に、「実装筐体2から発生する光が検査対象物から発生する蛍光と混ざって検査精度が低下する」という不具合が防止される。
【0031】
特に図7の構造によれば、LED素子1の搭載面が紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層20で形成されているので、セラミックス実装筐体2の表面に届く紫外光は減衰している。したがって、セラミックス実装筐体2として、従来用いられている酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を利用しても、セラミックス実装筐体2から二次的な発光が観測されることは少なくなる。すなわちセラミックス実装筐体2として、従来用いられている酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を利用することができるのが利点である。
【0032】
また本発明によれば、LED素子1の照射光がセラミックス実装筐体2に直接照射される領域である光源素子周辺領域に、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料を被覆した構造を採用することもできる。この構造によれば、光源素子周辺領域の表面が、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料で被覆されているので、セラミックス実装筐体2の表面に届く紫外光は減衰している。よってセラミックス実装筐体2から二次的な発光が観測されることは少ない。この構造によれば、セラミックス実装筐体2として、従来用いられている酸化アルミニウム・セラミックス焼結体を利用することができるのも利点である。
【0033】
図8は、セラミックス実装筐体2の光源素子周辺領域の表面に、下地の酸化アルミニウム・セラミックス焼結体2にLED素子1から発せられる紫外光が届かないような遮蔽機能がある材料7を、薄膜あるいは厚膜にて被覆した例を示す断面図である。紫外光を透過させない材料7として、紫外光に対して吸収特性を持つ金属材料、無機材料若しくは有機材料が挙げられる。具体例として、紫外光の吸収能を有する酸化亜鉛、酸化チタンなどの無機材料を、銀やニッケル、チタンなどの金属材料が挙げられる。また十分な耐久性が確認されれば有機系紫外線吸収剤でも採用が可能である。
【0034】
この紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料7を被覆するには、セラミックス実装筐体2を焼成した後、LED素子1を実装する前又は後に、当該材料7を、塗布、印刷、蒸着、スパッタリングなどの方法で被覆すればよい。
光源素子周辺領域を、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料7で被覆した場合は、LED素子1から照射される紫外光が光源素子周辺領域に入って行くのを、実装筐体2の表面で遮断することができるので、紫外線の侵入による実装筐体2の劣化を防ぐことができる。また、前記被覆材料7の被覆により、反射率の向上が期待できることもある(被覆材料7に反射率の高い材料を選んだ場合)。
【0035】
次に、本発明の別の実施形態について説明する。図9〜図12は、LED素子1が細長い直方体状のセラミックス実装筐体2の主面上に所定間隔おきに実装されている紫外光光源において、光源素子周辺領域に、セラミックス実装筐体2からの発光を防止する対策を行った紫外光光源の構造を示す断面図である。
図9は、光源素子周辺領域を含む実装筐体2の全体がセラミックスで形成されており、前記セラミックスは、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないという特徴を持った紫外光光源の一実施形態を示す断面図である。
【0036】
図10は、LED素子1が実装されている直方体状のセラミックス実装筐体2の光源素子周辺領域を含む最上層が、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層20で形成されている構造を示す断面図である。
図11は、セラミックス実装筐体2の光源素子周辺領域の表面に、紫外光を透過させない材料7を被覆した例を示す断面図である。紫外光を透過させない材料7として、紫外光に対して吸収特性を持つ金属、無機材料若しくは有機材料が挙げられる。その具体例は、図8の説明において上述したのと同様である。
【0037】
図12は、直方体状のアルミナ・セラミックス実装筐体2の実装面に、LED素子1やツェナーダイオードZDを所定間隔おきに実装し、当該実装面の両側に沿って保護壁22を設置し、保護壁22の表面を含む光源素子周辺領域を、紫外光を遮断する材料7で被覆した紫外光光源の構造を示す断面図である。セラミックス実装筐体2の実装面には、LED素子1やツェナーダイオードZDを配線するための印刷配線パターンが形成されており、これが外部端子(図示せず)と接続されている。保護壁22は、LED素子1やツェナーダイオードZDを保護するための壁(ダム)である。保護壁22の材料は限定されないが、例えばシリコーンなどの樹脂や、陽極酸化皮膜を持ったアルミニウムなどの金属が採用できる。保護壁22はセラミックス実装筐体2の実装面に溶着されるか、接着剤で接着されるなどの方法により固定される。セラミックス実装筐体2の実装面にLED素子1やツェナーダイオードZDを実装し、保護壁22を固定設置した後、紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料7を、塗布、印刷、蒸着、スパッタリングなどの方法で被覆する。材料7の具体例は、図8を参照しながら説明したのと同様である。両保護壁22の間には凹部が形成されており、ここにシリコーン樹脂など透明かつ耐光性のある封止材を充填するか、あるいは両保護壁22の上面に透明な板を取り付ける。
【0038】
次に、本発明の紫外光光源の製造方法の一例を簡単に説明する。まず、セラミックス層となるべきグリーンシートを用意する。このようなグリーンシートは、セラミックス微粉末と有機結合材、可塑剤、溶剤などの混合スリップを、周知のドクタープレード法やカレンダー法で薄板状にすることで作成される。
(1)実装筐体2の全体を、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックスで形成する(図3、図6、図9参照)。紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックスの例は上述したとおりである。セラミックス層は多層構造又は単層構造、いずれの構造であってもよいが、ここで多層構造の場合を説明する。
【0039】
第一層2aのグリーンシートに貫通穴を打ち抜いて形成し、グリーンシート上に中間金属膜のメタライズペーストをスクリーン印刷法により印刷・塗布する。このとき貫通穴の側面にもメタライズペーストが印刷される。この上に第二層2bのグリーンシートを載せ、治具を用いて有底の凹部3を形成する。凹部3の底面3aに貫通穴を形成し、中間金属膜まで到達させるとともに、グリーンシートの上面に金属パッド8a,8b用のメタライズペーストを印刷する。このとき貫通穴の側面にもメタライズペーストが印刷される。その後、グリーンシートを焼成すると、第一層2a、第二層2bが一体化し、凹部3を有するセラミックス焼結体が得られる。ここにLED素子1を搭載し、ワイヤボンディングして、透明封止樹脂材料で被覆し、所定形状にカットすれば本発明の紫外光光源が完成する。
【0040】
(2)第一層2a、第二層2bの上面に、LED素子1を搭載するための、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層(第三層)を形成することもできる(図7,図10参照)。前記(1)と同様に、第一層2aのグリーンシートに貫通穴を打ち抜いて形成し、グリーンシート上に中間金属膜のメタライズペーストをスクリーン印刷法により印刷・塗布し、第二層2bのグリーンシートを載せた後、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まない第三層のグリーンシートを積層する。第二層、第三層のグリーンシートの凹部3の底面に貫通穴3aを形成し、中間金属膜まで到達させるとともに、グリーンシートの上面に金属パッド8a,8b用のメタライズペーストを印刷する。このとき貫通穴3aの側面4にもメタライズペーストが印刷される。その後、グリーンシートを焼成すると、第一〜第三のセラミックス層が一体化し、凹部3を有する焼結体が得られる。LED素子1を搭載し、ワイヤボンディングして、透明封止樹脂材料で被覆し、所定形状にカットすれば本発明の紫外光光源が完成する。
【0041】
(3)セラミックス実装筐体2の少なくとも光源素子周辺領域の表面に、紫外光を透過させない材料7を被覆する場合、実装筐体2を、酸化アルミニウムを含むセラミックスで形成することができる(図8,図11、図12参照)。セラミックス層は多層構造又は単層構造、いずれの構造であってもよいが、ここで単層構造の場合を説明する。
セラミックスグリーンシートを焼成した後、その表面に配線パターンを印刷法などにより形成する。LED素子1を実装する実装領域をマスクして、紫外光を吸収する材料7からなる層をスパッタリング等で形成する。その後LED素子1を搭載し、ワイヤボンディングして、透明封止樹脂材料で被覆し、所定形状にカットすれば本発明の紫外光光源が完成する。なお、先にLED素子1を搭載し配線を済ませた後、LED素子1を実装している実装領域をマスクして、紫外光を吸収する材料7からなる層をスパッタリング等で形成してもよい。
【0042】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、紫外光光源として、LED素子1に代えて、一定波長範囲(300nm〜390nm)の紫外光を照射することができる放電素子(例えばプラズマ発光素子、冷陰極管)を採用しても良い。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0043】
<比較例1>
ピーク波長375nmの窒化ガリウムインジウム系〔(Ga・In)N〕系LED素子を酸化アルミニウム・セラミックス焼結体からなる実装筺体に実装し、シリコーン樹脂封止を施して、紫外光光源単体10′を製作した。
図13に示すように、この紫外光光源単体10′をガラスエポキシ系プリント基板31上に直線状に12個均等(ピッチD=約12mm)に配列し、この上に透明な導光体32を取り付けて光センサ用紫外光光源30′とした。
【0044】
この紫外光光源30′と対向する位置に、シリコンフォトダイオードを内蔵する光センサICを直線上に配列したラインセンサモジュール40を配置して、解像度4本/mmにて紫外光光源30′の出力を測定した。
紫外光光源30′に対して、素子当たり20ミリアンペアの電流で、時間幅0.5ミリ秒の単一パルスを点灯させた。これと同期させて、1ミリ秒繰返し周期、時間幅0.5ミリ秒でラインセンサモジュール40のシャッタ・ウィンドウを断続的に開き、光センサの検知出力を複数回観察した。
【0045】
図14(a)は、紫外光光源30′の点灯と同時刻に開いたウィンドウで観測された光検出強度(相対目盛)のグラフである。横軸は紫外光光源単体10′の各位置(mm)である。光センサモジュール40から得られた検知出力パターンは、図14(a)に示すように12個の山形のピークを有するパターンとなり正常に紫外光を検出していることが確認された。
【0046】
引き続く周期において、前記対向する紫外光光源30とラインセンサモジュール40の中間に波長410nm以下の短波長をカットするUVカットフィルムを挿入して可視光の出力を測定したところ、微弱な山形の残光出力が検出された。この残光出力を、図14(b)に示す。図14(b)の縦軸目盛は、図14(a)の微小部分を拡大したものである。この残光出力は、紫外光光源30を消灯後も、少なくとも5サイクル(5ミリ秒)継続することを発見した。
UVカットフィルムを除去して、再び紫外光光源30を点灯し、波長毎の出力を分光器にて測定したところ、LED素子の出力である375nm以外に694nm近傍に僅かな出力があることが発見された。この紫外光光源30の発光スペクトル特性を図15に示す(縦軸は対数目盛である)。
【0047】
この結果、本発明の目的とする紙幣や有価証券上の蛍光出力を検出するには前記690nm付記の出力が検出感度を大きく阻害することが判明し、このままでは光センサ用紫外光光源としては不適当であることが判明した。
<実施例1>
フォルステライト焼結体の実装筺体上に銀ペースト印刷により回路を作り、当該回路上にピーク波長375nmの窒化ガリウムインジウム系〔(Ga・In)N〕系LED素子を実装し、シリコーン樹脂封止を施して、紫外光光源単体10を製作した。
【0048】
この紫外光光源単体10を12個、ガラスエポキシ基板31上に配列して紫外光光源30とし、比較例と同様にラインセンサモジュール40を対向させて評価したところ、UVカットフィルム挿入時において、残光出力は、図14(c)に示すように、ほとんど検出されなかった。図14(c)においてわずかな信号が表れているが、これはバックグラウンドノイズのレベルである。
UVカットフィルムを除去して、再び紫外光光源30を点灯し、波長毎の出力を分光器にて測定したところ、図16に示すように、694nm近傍に出力がないことが確認された。したがって、この光源を用いることで紙幣及び有価証券上の蛍光出力を感度良く検出できることが判明し、本発明の目的を達成することが出来た。
【符号の説明】
【0049】
1 LED素子
2 セラミックス実装筐体
3 凹部
3a 凹部の底面
3b 凹部3の側面
6 透明な封止樹脂
7 紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料
20 紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス層
21 光源素子周辺領域
30 光センサ用紫外光光源
40 ラインセンサモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長300nmから390nmの範囲にある紫外光成分を含む光を照射することができる光源素子と、前記光源素子を実装する実装筐体とを備える紫外光光源であって、
前記光源素子の照射光が前記実装筐体に直接照射される領域である光源素子周辺領域が、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成されていることを特徴とする紫外光光源。
【請求項2】
前記実装筐体の全体が、前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体で形成されている請求項1記載の紫外光光源。
【請求項3】
前記実装筐体の、前記光源素子を搭載する搭載面を構成するセラミックス層は、前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックスで形成されている請求項1記載の紫外光光源。
【請求項4】
前記実装筐体の、前記搭載面を構成するセラミックス層以外のセラミックス層は、酸化アルミニウムを含むセラミックスで形成されている請求項3記載の紫外光光源。
【請求項5】
波長300nmから390nmの範囲にある紫外光成分を含む光を照射することができる光源素子と、前記光源素子を実装する実装筐体とを備える紫外光光源であって、
前記実装筐体は、セラミックス焼結体で形成されており、
前記光源素子の照射光が前記実装筐体に直接照射される領域である光源素子周辺領域の表面には、前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料が被覆されていることを特徴とする紫外光光源。
【請求項6】
前記セラミックス焼結体は、酸化アルミニウムを含むセラミックス焼結体である請求項5記載の紫外光光源。
【請求項7】
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する材料は、紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス、紫外光を遮蔽若しくは吸収する金属、無機材料及び有機材料の中から選ばれる材料である請求項5又は請求項6記載の紫外光光源。
【請求項8】
前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックスは、ルビー成分を含まない高純度の酸化アルミニウム・セラミックス、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、ジルコニア(ZrO2)若しくはジルコン(ZrO2・SiO2)を含む酸化物セラミックス、窒化硼素(BN)若しくは窒化珪素(Si3N4)を含む窒化物セラミックス、又は炭化珪素(SiC)若しくは黒鉛(C)の中から選ばれる一種、または二種以上の混合物若しくは複合物である、請求項7記載の紫外光光源。
【請求項9】
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する金属は、銀、ニッケル及びチタンの中から選ばれる一種、または二種以上の混合物若しくは複合物である、請求項7記載の紫外光光源。
【請求項10】
前記紫外光を遮蔽若しくは吸収する無機材料は、酸化亜鉛及び酸化チタンの中から選ばれる一種、または二種の混合物若しくは複合物である、請求項7記載の紫外光光源。
【請求項11】
前記紫外光の照射によって690nm付近の蛍光を発する酸化アルミニウムを含まないセラミックス焼結体は、ルビー成分を含まない高純度の酸化アルミニウム・セラミックス、フォルステライト(2MgO・SiO2)、ステアタイト(MgO・SiO2)、ジルコニア(ZrO2)若しくはジルコン(ZrO2・SiO2)を含む酸化物セラミックス、窒化硼素(BN)若しくは窒化珪素(Si3N4)を含む窒化物セラミックス、又は炭化珪素(SiC)若しくは黒鉛(C)の中から選ばれる一種、または二種以上の混合物若しくは複合物の焼結体である、請求項1から請求項4のいずれかに記載の紫外光光源。
【請求項12】
前記光源素子はLED光源素子である請求項1から請求項11のいずれかに記載の紫外光光源。
【請求項13】
紙幣を含む有価証券を読み取る光学読取装置であって、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の紫外光光源と、当該紫外光光源から出て前記紙幣を含む有価証券を透過し若しくは反射した光を検出する光センサとを含む、光学読取装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−23110(P2012−23110A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158223(P2010−158223)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(510192019)株式会社ヴィーネックス (5)
【Fターム(参考)】