説明

紫外線照射装置

【課題】誘電体バリア放電ランプを用いた紫外線照射装置において、紫外線放射のとき生じる電磁雑音が周囲に放射され、あるいはケーブルを介して外部に伝搬されること防止する。
【解決手段】放電ランプ12を収容したランプハウス10内に、直流定電圧を高周波交流電圧に変換するスイッチング回路16と、高周波交流電圧を昇圧する昇圧トランス18とを設置する。ランプハウス10の外部には低圧直流電源20を設け、ケーブル22を介してランプハウス10と接続させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として産業用の紫外線照射装置であって、誘電体バリア放電エキシマランプ等を用いた装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記産業用の紫外線照射装置に用いられる光源の一つとして、例えば特許文献1のような172nmの発光波長を持つキセノンエキシマランプがあり、液晶パネル用基板のドライ洗浄等によく用いられている。エキシマランプでは二重管構造のランプがよく用いられ、発光部は軸方向に沿って管状に延びている。基板洗浄の場合、被照射対象物の基板は一定速度でコンベア上を移動しており、基板の少し上方であってコンベアの流れ方向と直交する方向にランプを設置する。被照射対象物の幅全体を一度に照射しながら基板が一定速度で移動するため、基板全体にわたって均一に処理することができる。
【0003】
一方、例えば半導体プロセスの分野においても、その各工程において、紫外光を用いて半導体ウエハ表面の加工、改質等を行うことが多い。このため、各工程に合わせて波長172nmによるキセノンのエキシマ発光、波長222nmによるクリプトンと塩素のエキシマ発光、あるいは水銀共鳴線である254nmなどの紫外光が用いられている。
【0004】
このような紫外線ランプでは、放電方式として誘電体バリア放電がよく用いられ、特許文献2には、誘電体バリア放電による紫外線照射装置が記載されている。特許文献2では、誘電体バリア放電が引き起す電磁雑音電波を低減し、安全性を高めるために、昇圧部材をランプハウス内に設置する一方、商用周波数を高周波に変換する周波数コンバーターは別のケースに収納されている。
【特許文献1】特許第3170952号公報
【特許文献2】特許第2775698号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献2の誘電体バリア放電ランプ装置は、基本的には誘電体バリア放電が引き起す電磁雑音電波を少なくする効果があった。しかしながら、出願人によるさらに詳しい実験によって、上記特許文献2の方法では解決できない問題が生じることが確認された。
【0006】
従来の二重管方式のランプでは、内側管の内側表面に内側電極を形成し、外側管の外側表面に外部電極を形成する。この両方の電極の間に数kVの高周波電圧を印加すると、内側管と外側管の間の放電空間で誘電体バリア放電が発生する。電極間に数kVという高電圧を印加することから、両電極間で極性が反転する度に激しい電磁雑音が発生する。
【0007】
誘電体バリア放電は、電圧印加時の電圧の立ち上り速度が速いほど発光の効率が上昇する。そのため、立ち上りを早くする矩形波駆動を行うように、直流電圧をFETなどのスイッチング素子を用いて交流矩形波に変換し、ランプに駆動電圧を印加する。
【0008】
ところで、出願人による詳細な実験によると、ランプ点灯時にいくつかの重要な問題が発生することが明らかになった。電圧の立ち上りを早くしたことによって、その瞬間に放電が瞬間的、短期継続的に発生し、しかもその電圧変化の大きいほど、発生する放電に伴う電磁雑音も大きいということが分かった。
【0009】
実験によると、スイッチング回路とランプとの距離が離れている場合、高い発光効率の装置が得られないという問題が生じている。これは、途中の導電線と、筐体やケーブル外被や、接地電位との間の容量成分が加わると、最終的なランプへの印加電圧波形が変化するためであると推定される。また他の問題として、交流矩形波電圧が導電線を流れることにより、電磁雑音電波が導電線を通じて外部に放射され、筐体内部の制御回路に障害を与える。さらに、電磁雑音電波は電源線を通じて商用ラインに伝搬してしまう。
【0010】
上記二重管ランプでは、内側電極が外側電極の中にあり、外側電極が一般的に接地電位であるので、放電部分で発生した電磁雑音電波も遮蔽されやすい。一方、エキシマランプには単管式ランプもあり、この単管ランプでは、管の軸方向に沿って帯状の一対の電極を管の外面に形成し、電極間に高電圧を印加する。しかしながら、単管ランプでは両電極とも外面にあるため、放電部分で発生した電磁雑音電波が遮蔽されること無く周辺空間に放射されてしまう。このため、誘電体バリア放電ランプにおいて(特に単管式ランプ)、電磁雑音対策が必要とされることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の紫外線照射装置は、被照射物に紫外線を照射する紫外線照射装置であって、誘電体バリア放電によって、エキシマ光である紫外線を放射する放電ランプと、放電ランプを収納し、紫外線を外部に透過させる窓部を有するランプハウスと、放電ランプを点灯する電源とを備える。そして、本発明では、ランプハウス内、もしくはランプハウスの傍に、電源の一部である直流電圧の周波数を高周波に変換するスイッチング素子と、電源の一部である低電圧から高電圧へ昇圧する昇圧機構とが設置されている。例えば、ランプハウスとは別に、低周波低圧交流電源または低圧直流電源を設ければよい。
【0012】
ここで、ランプハウスの傍とは、実質的にランプハウス内部の設置と同等の効果を得られる位置を表し、例えば、放電ランプのみ収容したランプハウスとスイッチング素子、昇圧機構を収納した筐体を隣接して設置するような構成をいう。また、ランプハウス内に仕切りを設け、それぞれ独自のケースに収容した構成も含まれる。
【0013】
放電ランプは、例えば、単管の軸の両側に帯状の電極対を設置し、電極対に略矩形波の交流電圧を印加するランプである。二重管式の放電ランプに比べて外部に放射されやすい電磁雑音も、上記構成によって確実にシールドされる。低圧直流電源とランプハウスを接続させる場合、昇圧機構は、例えばトランスによって構成される。また、低周波交流電源の場合、昇圧機構は例えばコッククロフト回路によって構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、略矩形波の高周波、高電圧によって放電ランプを点灯させた場合にも、電磁雑音の発生を確実に防止することができ、信頼性の高い紫外線照射装置が実現できる。また印加電圧を十分高くすることができるので、放射照度の高い紫外線照射装置を実現できる。特に、単管の放電ランプにおいても雑音発生が防止できるので、比較的小型で安価な紫外線照射装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0016】
図1は、第1の実施形態である紫外線照射装置を模式的に示した図である。
【0017】
紫外線照射装置は、金属製筐体から成るランプハウス10を備え、ランプハウス10の内部には、放電ランプ12が設けられている。放電ランプ12は、合成石英ガラス製の誘電体バリア放電ランプであって、二重円筒形状に構成されている。すなわち、誘電体バリアを構成する内側管と外側管(ともに図示せず)とが同軸に配置され、中空円筒状の放電空間がその間に形成される。
【0018】
外側管の外面には、光を透過する導電性網の電極(図示せず)が設けられ、内側管の内側には、薄膜電極(図示せず)が設けられている。放電空間には、希ガス単体、もしくは希ガスとハロゲンガスとの混合ガスが封入されている。ランプハウス10の一部として構成される照射窓14は石英板から成り、放電ランプ12と対向する位置に設けられている。
【0019】
ランプハウス10の外部には、電源制御回路を備えた低圧直流電源20が配置される。一方、ランプハウス10内部には、放電ランプ12とともにFETなどで構成されるスイッチング回路16と、昇圧トランス18が設置されている。低圧直流電源20はケーブル22を介してランプハウス10内のスイッチング回路16と接続され、これによって電源が供給される。
【0020】
スイッチング回路16は、低圧直流電源20から供給される低圧直流電圧の波形を交流矩形波にして高周波に変換する。例えば、スイッチング回路16は、4個のスイッチング素子から成るフルブリッジ回路、2個のスイッチング素子から成るプッシュプル回路などによって構成される。なお、1つのスイッチング素子と昇圧トランスとを組み合わせたフライバックインバータ回路を構成してもよい。
【0021】
昇圧トランス18は、ケーブル17を介してスイッチング回路16から送られてくる交流矩形波電圧を、数kVまで昇圧する。そして、昇圧された高周波電圧がケーブル15を介して放電ランプ12に印加される。放電ランプ12では、誘電体バリア放電によるエキシマ光が発生し、これによって、紫外線が照射窓14を通して外部に放射される。
【0022】
放電ランプ12における電圧印加時の電圧変化が大きくなるほど発光効率が上昇するため、スイッチング回路16は、直流電圧をできるだけ立ち上がり速度が速い、もしくは/
または電圧変化の大きい矩形波交流電圧に変換する。その結果、電圧印加時に激しい電磁雑音電波が発生するが、電源機構の一部であるスイッチング回路16、昇圧トランス18がランプハウス10内部に設置されているため、昇圧トランス18、ケーブル15などに乗った電磁雑音電波がシールドされ、ランプハウス外部に放射、伝搬されることが防止される。
【0023】
また、スイッチング回路16をランプハウス10内部に設けているため、交流矩形波電圧はランプハウス10外部にあるケーブル22を流れない。そのため、電磁雑音が導電線に乗って漏出することがなく、電源線を通じて商用ラインに伝搬することも防止される。さらに、スイッチング回路16と放電ランプ12との距離が近いため放電ランプ12への印加電圧波形が安定し、発光効率が上昇する。
【0024】
なお、低圧直流電源20内部にスイッチング回路16を制御する制御回路を設け、制御信号をスイッチング回路16へ送信することによって調光制御するように構成してもよい。周波数を上げることによって、さらなる高周波駆動が可能となって高照度が得られる。
【0025】
次に、図2を用いて、第2の実施形態である紫外線照射装置について説明する。第2の実施形態では、交流電源が設置されるとともに、単管式の放電ランプが設けられている。それ以外の構成については、実質的に第1の実施形態と同じである。
【0026】
図2は、第2の実施形態である紫外線照射装置を模式的に示した図である。
【0027】
紫外線照射装置は、ランプハウス30を備え、ランプハウス30内部には、放電ランプ32、コッククロフト回路36、スイッチング回路38が設けられている。ランプハウス30の外部には低圧交流電源40が設けられ、ケーブル42を介してコッククロフト回路36と接続されている。
【0028】
放電ランプ32は、誘電体バリア放電を発生させる単管式ランプであり、石英製であるランプ容器外面には、帯状の一対の電極(図示せず)が容器の軸方向に沿って形成されている。コッククロフト回路36は、ダイオードおよびコンデンサによって構成され、昇圧機構および整流回路の機能を有する。スイッチング回路38は制御回路39を備え、制御回路39によって矩形波が調整される。
【0029】
低圧交流電源40により、ケーブル42を介して商用電力がランプハウス30のコッククロフト回路36に供給される。コッククロフト回路36は、交流電圧を直流の高電圧に変換し、ケーブル37を介してスイッチング回路38へ送る。スイッチング回路38は、直流高電圧を交流矩形波の高周波電圧に変換する。立ち上がりが急峻で波形崩れのない矩形波電圧がケーブル35を介して放電ランプ32の電極に印加されると、紫外光が照射窓34を通して外部に放射される。なお、スイッチング回路38は、複数のFETを直列結線し、同時ON−OFFを行うことによって耐高電圧の動作を可能にしている。
【0030】
第2の実施形態においても、高周波の矩形波電圧をランプ32に印加させるため、放電領域が多く、放射出力の大きな安定したランプ動作が可能であり、発光効率のよい紫外線照射を行うことができる。また、単管の放電ランプ32においても、第1の実施形態と同様に電磁雑音がシールドされ、雑音電波のランプハウス外部への放射を防ぐことができる。
【0031】
第1、第2の実施形態では、低圧の直流又は交流電源をランプハウス外部に設置しているが、低圧電源をランプハウス内部に配置してもよい。また、放電ランプとスイッチング回路および昇圧トランスなどの回路機構との間を仕切り、これら回路機構を別のケースに収納し、放電ランプと近接させて並べるように構成してもよい。また、昇圧トランスなどの回路機構を収容する筐体を放電ランプのみ収容するランプハウスの傍に設置し、短いケーブルで繋いでもよい。
【0032】
商用電源の周波数をそのままにして昇圧し、低周波交流電圧をランプハウス内に供給するようにしてもよい。この場合、ランプハウス内では、全波整流回路によって直流電圧に変換し、スイッチング回路によって高周波の矩形波電圧に変換した後、昇圧機構によって昇圧させるように構成してもよい。
【0033】
誘電体バリア放電ランプの種類は、第1、第2の実施形態に限定されず、例えば、キセノンと塩素の混合ガスを封入して308nmの紫外光を放射するランプであってもよい。この場合、ランプ容器として硬質ガラスを使用すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】第1の実施形態である紫外線照射装置を模式的に示した図である。
【図2】第2の実施形態である紫外線照射装置を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0035】
10、30 ランプハウス
12、32 放電ランプ
14、34 照射窓
16 38 スイッチング回路
18 昇圧トランス
20 低圧直流電源
36 コッククロフト回路
40 低圧交流電源










【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に紫外線を照射する紫外線照射装置であって、
誘電体バリア放電によってエキシマ光を放射する放電ランプと、
上記放電ランプを収納し、紫外線を外部に透過させる窓部を有するランプハウスと、
上記放電ランプを点灯する電源とを備え、
上記ランプハウス内、もしくは上記ランプハウスの傍に、上記電源の一部である直流電圧を高周波に変換するスイッチング素子と、上記電源の一部である低電圧から高電圧への昇圧機構とが設置されていることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
上記ランプハウスとは別に、低周波低圧交流電源または低圧直流電源が設置されていることを特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
上記放電ランプが、単管の軸の両側に帯状の電極対を設置し、上記電極対に略矩形波の交流電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
上記昇圧機構がトランスであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の紫外線照射装置。
【請求項5】
上記昇圧機構がコッククロフト回路であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の紫外線照射装置。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195825(P2009−195825A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39958(P2008−39958)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(000128496)株式会社オーク製作所 (175)
【Fターム(参考)】