説明

細胞から脂質を得る方法

本発明は、細胞および水を含む組成物から脂質を得るための方法であって、この組成物を乾燥剤と接触させることと、細胞から脂質を回収することとを含む方法に関する。本発明はまた、この方法によって得ることができる脂質にも関する。本発明による方法により、高品質の脂質を高収率で得ることが可能になるとともに、加熱ステップが不要になる。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、細胞および水を含む組成物から脂質を得る方法に関する。本発明はまた、この方法によって得ることができる脂質にも関する。
【0002】
脂質は、微生物に例えば発酵法で生産させることができる。これは植物細胞中に存在する場合もある。脂質には多くの用途があり、例えば食品、飼料、栄養補助食品、および医薬品中に含有させることができる。
【0003】
細胞から脂質を得ようとする場合、細胞および水を含む組成物から脂質を得ることが必要な場合が多い。この組成物は、例えば、発酵ブロスであっても、または発酵ブロスから水を例えば機械的分離法によって一部分離することによって得られる一部脱水生成物であってもよい。細胞および水を含む組成物から脂質を回収できるようにするための様々な方法が知られている。例えば、噴霧乾燥によって組成物を乾燥させ、そしてこの乾燥物を有機溶剤で抽出することによって脂質を回収することが知られている。しかしながら、噴霧乾燥の際に用いられる条件下で脂質の品質が損なわれる可能性がある。さらに、乾燥物の形態によっては、その後に続く抽出の効率が低下する場合がある。
【0004】
WO−A−97036996には、好ましくは押出成形によって細胞を顆粒に造粒することを含む、微生物細胞から脂質を得る方法が記載されている。この顆粒は乾燥され、例えば有機溶剤を用いて抽出することによって、この乾燥された顆粒から脂質が得られる。この抽出は効率的であり、結果として得られる脂質は品質が高く、また、収率すなわち細胞中に存在する脂質量に対する回収される脂質量が高い。
【0005】
WO−A−97036996の方法は有利であるが、それにも拘わらず、依然としてさらなる改善が望まれている。特に、この方法には、造粒や顆粒の乾燥といった比較的多くのステップが含まれている。その上、乾燥ステップにはエネルギーが必要である。したがって、エネルギーが節減できるとともに脂質を効率的に抽出することができる、所要のステップがより少ない方法が望まれている。
【0006】
この目標は、本発明に従い、細胞および水を含む組成物から脂質を得るための方法であって、
(a)この組成物を乾燥剤と接触させることと、
(b)細胞から脂質を回収することと
を含む方法を提供することによって達成される。
【0007】
本発明による方法によって、高品質の脂質を高収率で得ることが可能になる。本発明に従い、脂質を細胞から回収する前に細胞を加熱によって乾燥させることが不要になる。このことは、熱に弱い、例えば多価不飽和脂肪酸(PUFA)を含む脂質の場合は特に有利である。本発明による方法には、微粒子や粉塵(これは例えば、噴霧乾燥または粉砕を含む従来技術の方法によって形成される)の形成が回避されるかまたは最小限に抑えられるというさらなる利点がある。さらに、溶剤を用いた抽出によって脂質を回収する場合は、比較的少量の溶剤でも比較的高い収率を得るのに十分であることが見出された。本発明は、乾燥剤の存在下で抽出を行うことによって脂質を回収することも可能にする、すなわち、細胞から乾燥剤を分離することを不要にする。したがって、乾燥剤に吸着されるかまたは吸収された水の存在下に抽出を実施することができる。従来技術においては、高収率を得るために水を除去することが主張されていたので(例えば、WO−A−97036996参照)、このことは驚くべきことである。
【0008】
本発明による方法は、細胞および水を含む組成物を乾燥剤と接触させることを含む。その結果として、水は組成物から乾燥剤へと取り込まれる。水の取り込みは、吸着および/または吸収によるものであってもよい。乾燥剤は特定の乾燥剤に制限されず、組成物からの水を吸着および/または吸収によって取り込むことができる多種多様な試剤を乾燥剤として使用してもよい。このような試剤は、当該技術分野においては、吸着剤および/または吸収剤とも称される。
【0009】
本方法に使用してもよい乾燥剤としては、例えば、シリカ(例えばシリカゲル)、活性炭、活性アルミナ、分子ふるい(例えば、炭素分子ふるいまたはゼオライト)、または架橋ポリマー(例えばポリアクリル酸塩)が挙げられる。シリカが好ましい。好ましくは、乾燥剤は、微粒子形態にある。
【0010】
乾燥剤は、吸収能力が高いものが好ましい。吸収能力とは、乾燥剤の量当たりの吸収可能な水の量を指す。吸収能力が比較的高いと、比較的少量の乾燥剤を用いて最適な抽出収率を得ることができるので有利である。乾燥剤の吸収能力は、乾燥剤100g当たり少なくとも水50g、好ましくは、乾燥剤100g当たり少なくとも水100gであってもよい。吸収能力に特定の上限値はない。実際は、水の吸収能力は、乾燥剤100g当たり水20.000g未満、例えば、乾燥剤100g当たり水10.000g未満である。本明細書において用いられる乾燥剤の重量とは、水分を含まない乾燥剤の重量を指す。吸収能力は、当業者に周知の技法によって測定してもよい。好適な方法は、DBP吸収(例えばDIN53601に準拠)によるものである。
【0011】
乾燥剤は、比表面積が高いものが好ましい。比表面積が比較的高いと、比較的少量の乾燥剤を用いて最適な抽出収率を得ることができるので有利である。乾燥剤の比表面積は、例えば、少なくとも25m/g、好ましくは少なくとも50m/g、好ましくは少なくとも100m/gであってもよい。乾燥剤の比表面積に特定の上限値はない。実際は、比表面積は、2000m/g未満、例えば、1000m/g未満である。比表面積は、当業者に周知の技法(例えば、ISO5794/1、Annex Dに準拠)によって測定してもよい。
【0012】
好ましい実施形態においては、乾燥剤は多孔質である。これは、吸着に利用できる表面積が比較的高いので有利である。
【0013】
本発明による方法において乾燥剤に接触される組成物は、任意の好適な量の水を含んでいてもよい。乾燥剤に接触される組成物の含水率は、例えば、少なくとも5重量%、例えば、少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%、例えば少なくとも30重量%であってもよい。乾燥剤に接触される組成物の含水率に特定の上限値はない。乾燥剤に接触される組成物の含水率は、例えば、98重量%未満、好ましくは95重量%未満、好ましくは90重量%未満、好ましくは80重量%未満、好ましくは70重量%未満であってもよい。含水率がより低いと、より少量の乾燥剤を使用して最適な収率を得ることができるので有利である。
【0014】
本明細書において用いられる細胞の含水率は、W/(Wcells+W)×100%
(式中、
は、組成物中の水の重量であり、
cellsは、組成物中の細胞の乾物重量である)
で与えられる。
【0015】
細胞の乾物重量(Wcells)が、水分を含まない細胞の重量を指すが、これには脂質の重量が含まれることを当業者は理解するであろう。組成物中に含まれる水の重量(W)には、細胞内、細胞間、および細胞外の水を含む、組成物中の水の総重量が含まれることが理解されるであろう。WおよびWcellsの値、したがって、組成物の含水率は、当業者に周知の方法によって、例えば、水を105℃の温度で蒸発させ、蒸発した水および残留した細胞の重量を測定することによって測定することができる。例えば、赤外乾物重量計(infrared dry−matter balance)を使用してもよい。
【0016】
好ましい実施形態においては、本発明は、組成物に接触される好ましい量の乾燥剤を提供する。最適な収率に到達するまでは、組成物に接触される乾燥剤の量が増加するに従い抽出収率が増加することが見出された。本発明により得られるこの教示に基づき、当業者は、任意の状況下における乾燥剤の最適な量を、乾燥剤の量を変化させることによって決定することができる。
【0017】
特に、乾燥剤の好ましい量は、組成物の含水率および乾燥剤の性質に依存することが見出された。好ましい実施形態においては、Wdes/(Wcells(a)+Ww(a))>(1/x)×(1−Wcells(a)/(0.8×(Wcells(a)+Ww(a))))(式中、
desは、(a)において組成物に接触される乾燥剤の重量であり、
cells(a)は、(a)において乾燥剤に接触される組成物中の細胞の乾物重量であり、
w(a)は、(a)において乾燥剤に接触される組成物中の水の重量であり、
xは、乾燥剤の吸収能力である)である。
【0018】
他の好ましい実施形態においては、
des/(Wcells(a)+Ww(a))>(1/x)×(1−Wcells(a)/(0.9×(Wcells(a)+Ww(a))))である。
【0019】
好ましい実施形態においては,本発明による方法は、収率が少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%となるような量の乾燥剤を組成物と接触させることを含む。本明細書において用いられる収率は、細胞中に存在する脂質の量に対する細胞から回収された脂質の量を指す。
【0020】
乾燥剤に接触される組成物は、そこから脂質を得ることができる、細胞および水を含む任意の好適な組成物であってもよい。組成物は、例えば、発酵ブロスであっても、または発酵ブロスから水を例えば機械的分離により分離することによって得られる一部脱水生成物であってもよい。組成物は、例えば、ウェットケーキ、スラッジ、スラリー、濃縮物、および/またはクリームであってもよい。本発明によれば、造粒は不要であるが、本発明による方法は、細胞が顆粒、例えば押出成形物の形態にある場合も有利である。
【0021】
組成物と乾燥剤との接触は、任意の好適な方法で、好ましくは、組成物を乾燥剤と混合して細胞および乾燥剤を含む混合物を得ることによって実施してもよい。この混合物からの脂質の回収は、例えば、溶剤を用いた抽出によって実施してもよい。
【0022】
上述のことを考慮し、好ましい実施形態においては、本発明は、細胞および水を含む組成物から脂質を得るための方法であって、(a)この組成物を乾燥剤と混合することによって細胞および乾燥剤を含む混合物を得ることと、(b)この混合物から脂質を回収することとを含む方法を提供する。
【0023】
他の態様においては、本発明はまた、(i)脂質を含む細胞と(ii)乾燥剤とを含む混合物も提供する。本発明による方法の好ましい態様および/または実施形態が本発明による混合物にも適用されることが理解されるであろう。
【0024】
好ましい実施形態においては、この混合物はさらに水を含んでおり、
des,mix/(Wcells,mix+Ww,mix)>(1/x)×(1−Wcells,mix/(0.8×(Wcells,mix+Ww,mix)))、
好ましくは、Wdes,mix/(Wcells,mix+Ww,mix)>(1/x)×(1−Wcells,mix/(0.9×(Wcells,mix+Ww,mix)))
(式中、
des,mixは、混合物中の乾燥剤の重量であり、
cells,mixは、混合物中の細胞の乾物重量であり、
w,mixは、混合物中の水の重量であり、
xは、乾燥剤の吸収能力である)である。
【0025】
混合は、任意の好適なミキサー、例えば、高剪断ミキサー、例えば、自公転スクリュー式ミキサー(Orbit Screw Mixer)、スキ型ショベル羽根式ミキサー(Plow Mixer)、パドルミキサー、撹拌棒(intensifier bar)を備えたタンブラーブレンダー、ディオスナ・ミキサー(Diosna Mixer)で実施することができる。
【0026】
脂質は、(a)において任意の好適な方法で接触を行った結果として得られる細胞から回収してもよい。脂質は、例えば、組成物を乾燥剤と接触させた後またはその最中に、例えば溶剤で抽出することによって細胞から回収してもよい。
【0027】
好ましい実施形態においては、脂質は、溶剤で抽出することによって細胞から回収される。多種多様な溶剤を使用してもよい。溶剤は、例えば、C1〜10アルキルエステル(例えば、酢酸エチルまたはブチル)、トルエン、C1〜3アルコール(例えば、メタノール、プロパノール)、C3〜6アルカン(例えばヘキサン)、または超臨界流体(例えば、液体COまたは超臨界プロパン)であってもよい。溶剤は混合物であってもよい。好ましい実施形態においては、溶剤は有機溶剤である。本発明による方法は、溶剤が非極性溶剤である場合に特に有利である。最も好ましくは、溶剤は、ヘキサンまたは超臨界COである。
【0028】
細胞または細胞を含む混合物は、任意の好適な方法で、例えば、パーコレーション抽出、向流抽出、またはミキサー内での抽出によって溶剤と接触させてもよい。ミキサー内で抽出することが好ましい。好ましい実施形態においては、溶剤は細胞1重量部当たり2〜40重量部使用される。
【0029】
本発明の実施形態においては、細胞を溶剤と接触させる前に、乾燥剤の少なくとも一部(例えば、少なくとも50%)を混合物から分離しておく。好ましい実施形態においては、細胞と乾燥剤の少なくとも一部とを含む混合物を溶剤と接触させる。したがって、溶剤を用いた抽出による脂質の回収は、乾燥剤(の少なくとも一部)の存在下に実施してもよい。このことは、乾燥剤を細胞から分離する分離ステップを必要としないので有利である。驚くべきことに、本発明による方法により、水の存在下においてさえも依然として効率的な抽出が行われる。一実施形態においては、
w(b)/Wcells(b)>0.5×Ww(a),/Wcells(a)
(式中、
w(b)は、(b)において脂質が回収される混合物中の水の重量であり、
cells(b)は、(b)において脂質が回収される混合物中の細胞の乾物重量であり、
w(a)は、(a)において乾燥剤に接触される組成物中の水の重量であり、
cells(a)は、(a)において乾燥剤に接触される組成物中の細胞の乾物重量である)である。
他の実施形態においては、Ww(b)/Wcells(b)>0.7×Ww(a)/Wcells(a)である。
他の実施形態においては、Ww(b)/Wcells(b)>0.8×Ww(a)/Wcells(a)である。
他の実施形態においては、Ww(b)/Wcells(b)>0.9×Ww(a)/Wcells(a)である。
【0030】
本発明による方法は、多種多様な細胞から多種多様な脂質を得るために用いてもよい。脂質は、例えば、以下の化合物のうちの1種またはそれ以上を含んでいてもよい:リプスタチン、スタチン、TAPS、ピマリシン(pimaricine)、ナイスタチン、脂溶性抗生物質(例えばライドロマイシン)、脂溶性抗酸化物質(例えばコエンザイムQ10)、コレステロール、植物ステロール、デスモステロール、トコトリエノール、トコフェロール、カロテノイド、またはキサントフィル(例えば、ベータ−カロテン、ルテイン、リコペン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、またはカンタキサンチン)、共役リノール酸や多価不飽和脂肪酸(PUFA)等の脂肪酸。好ましい実施形態においては、脂質は、上述した化合物のうちの少なくとも1種を、脂質の重量を基準として5重量%、より好ましくは少なくとも10重量%の濃度で含む。
【0031】
得られる脂質は、例えば、トリグリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル(例えば、メチルまたはエチルエステル)、および/またはこれらの組合せを含んでいてもよい。好ましい実施形態においては、脂質のトリグリセリド含有量は、少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、最適には少なくとも90%である。
【0032】
本発明の特に好ましい実施形態においては、脂質は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、例えば、少なくとも18個の炭素原子を有するPUFA、例えば、C18、C20、またはC22PUFAを含む。好ましい実施形態においては、PUFAは、オメガ−3PUFA(Ω3)またはオメガ−6PUFA(Ω6)である。好ましくは、PUFAは、少なくとも3個の二重結合を有する。好ましいPUFAは:
ドコサヘキサエン酸(DHA、22:6 Ω3)、
γ−リノレン酸(GLA、18:3 Ω6)、
α−リノレン酸(ALA、18:3 Ω3)、
ジホモ−γ−リノレン酸(DGLA、20:3 Ω6)、
アラキドン酸(ARA、20:4 Ω6)、および
エイコサペンタエン酸(EPA、20:5 Ω3)である。
【0033】
好ましい実施形態においては、脂質は、少なくとも1種のPUFA(例えば、ARAまたはDHA)を、脂質の重量を基準として少なくとも5重量%、例えば少なくとも10重量%、例えば少なくとも20重量%の濃度で含んでいる。
【0034】
PUFAは、(モノ−、ジ、またはトリ)グリセリド、リン脂質、遊離脂肪酸、脂肪酸エステル(例えば、メチルまたはエチルエステル)、および/またはこれらの組合せの形態にあってもよい。好ましくは、得られる脂質は、PUFA全体の少なくとも50%がトリグリセリド形態にある。
【0035】
脂質は、油または脂肪、例えば、PUFAを含む油であってもよい。脂質の好ましい実施形態は、必要な変更を加えて、油または脂肪にも適用される。
【0036】
細胞は、脂質を含む任意の細胞であってもよい。典型的には、細胞は、脂質を産生したものである。細胞は、全細胞であっても破砕された細胞であってもよい。細胞の起源は、任意の好適なものであってもよい。細胞は、例えば、植物細胞(例えば種子由来の細胞)または微生物の細胞(微生物細胞)であってもよい。微生物細胞としては、例えば、酵母細胞、細菌細胞、真菌細胞、および藻細胞が挙げられる。真菌が好ましく、ムコール(Mucorales)目の、例えば、モルティエレラ(Mortierella)、フィコマイセス(Phycomyces)、ブラケスラ(Blakeslea)、アスペルギルス(Aspergillus)、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)、フィチウム(Pythium)、またはエントモフトラ(Entomophthora)属に属するものが好ましい。アラキドン酸(ARA)の好ましい供給源は、モルティエレラ・アルピナ(Mortierella alpina)、ブラケスラ・トリスポラ(Blakeslea trispora)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)、またはフィチウム・インシディオサム(Pythium insidiosum)である。藻類は、過鞭毛藻であってもよいし、かつ/またはポルフィリディウム(Porphyridium)、ニッチア(Nitszchia)、またはクリプテコディニウム(Crypthecodinium)属に属するもの(例えば、クリプテコディニウム・コーニー(Crypthecodinium cohnii)を含んでいてもよい。酵母としては、ピキア(Pichia)またはサッカロマイセス(Saccharomyces)属に属する、例えば、ピキア・シフェリ(Pichia ciferii)が挙げられる。細菌は、プロピオニバクテリウム(Propionibacterium)属に属するものであってもよい。脂質を含む植物細胞としては、例えば、大豆、菜種、カノーラ、ヒマワリ、ココナッツ、亜麻、およびヤシ種子由来の細胞が挙げられる。本発明の一実施形態においては、細胞は、ARAを含む脂質を含む植物細胞である。
【0037】
本発明の実施形態においては、細胞は、発酵によって生成される。好適な発酵法は当業者に周知であり、例えば、WO−A−9737032に開示されている。好ましくは,発酵によって生成される細胞は、加熱または低温殺菌される。
【0038】
好ましい実施形態においては、本発明による方法は、組成物を乾燥剤と接触させる前に、以下に示すステップのうちの1つまたはそれ以上を含む:(i)細胞を加熱または低温殺菌するステップ;(ii)機械的分離によって細胞から水を分離するステップ;(iii)細胞を洗浄するステップ;および(iv)細胞を押し潰すステップ。
【0039】
加熱または低温殺菌は、65〜120℃の温度で実施してもよい。これにより、リパーゼおよび/またはリポキシゲナーゼ等の酵素が失活するかまたは変性するであろう。
【0040】
機械的分離による細胞からの水の分離は、上に開示した含水率および/または乾物含量に関する好ましい値を得るために有利に用いることができる。機械的分離には、例えば、濾過、遠心分離、圧搾、沈降、または液体サイクロンの使用が含まれていてもよい。
【0041】
脂質は、任意の好適な方法でさらに処理してもよい。溶剤で抽出することによって脂質を回収する場合は、溶剤を蒸発させることによって溶剤から脂質を得てもよい。
【0042】
本発明による方法によって得られたまたは得ることができる脂質は、さらなる処理、例えば酸処理(脱ガムとも称される)、アルカリ処理(中和とも称される)、漂白、脱臭、冷却(脱ロウとも称される)に付してもよい。
【0043】
本発明による方法によって得られたまたは得ることができる脂質には多くの用途がある。これは、例えば、食品、例えば、人間用食品(例えば乳児用調製乳)または動物用飼料の調製に使用してもよい。これは、医薬品または化粧品の調製にも使用してもよい。したがって、本発明はまた、本発明による方法によって得られたまたは得ることができる脂質を含む、食品(例えば、強化食品または栄養補助食品)、例えば、人間用食品(例えば乳児用調製乳)または動物用飼料、医薬品、化粧品も提供する。
【0044】
ここで、以下に示す非限定的な実施例を参照することによって本発明が明らかになるであろう。
【0045】
[実施例]
[比較実験A]
WO−A−9736996の45ページに開示されている条件下でモルティエレラ・アルピナを発酵させ、次いでこれを65℃で1時間低温殺菌することにより、ARAを含む発酵ブロスを得た。このブロスをベルトフィルターを用いて濾過し、水で洗浄することによって残留している培地成分を除去し、圧搾した。圧搾された濾過ケーキの含水率は60.7重量%であった。乾物含量(細胞、細胞中の油を含む)は39.3重量%であった。圧搾された濾過ケーキをWO−A−9736996に記載されているように押出成形し、次いで、流動床乾燥機を用いて乾物含量が94重量%になるまで乾燥した。
【0046】
以下に示すように抽出を行った。第1抽出段階においては、上述したようにして得られた乾燥生成物100グラムを実験室用n−ヘキサン300mlに加え、室温(20℃)で1時間磁気撹拌した。第1抽出段階の後、液相(ヘキサンに溶解した油を含む)をデカンテーションにより固体(細胞を含む)から分離した。第2抽出段階においては、残留した固体をn−ヘキサン250mlに加えて30分間撹拌した。第2抽出段階の後、液相(ヘキサンに溶解した油を含む)を減圧濾過によって固体から分離した。第1および第2抽出段階からの液相を合一し、その後、スイス国のビュッヒ(Switzerland,Buechi)より入手したロータベーパー(Rotavapor)(登録商標)を用いてヘキサンを蒸発させた。68℃、100〜400mbarの圧力で30分間動作させた。
【0047】
本特許出願においては、比較実験Aの(ARA含有油の)収率を100%と定める。以下の実験で得られた収率は、比較実験Aに対する収率として示す。
【0048】
[参照実験B]
押出成形も乾燥を実施しなかったことを除いて、比較実験Aを繰り返した。比較実験Aに記載したものと同じ手順を用いて混合物の抽出を実施した。収率は29.68%であった。
【0049】
[実施例1]
圧搾された濾過ケーキ82重量部を砕き、シリカ(独国のデグサ・アーゲー(Degussa AG,Germany)より入手したシペルナット(SIPERNAT)(登録商標)22)18重量部と一緒にホバート(Hobart)高剪断ミキサーで混合したことを除いて、参照実験Bを繰り返した。同様にして抽出を実施した。収率は84.68%であり、乾燥剤を使用しなかった参照実験と比較して55%増加している。
【0050】
[実施例2]
シリカの量を18重量部から25重量部に増加したことを除いて、実施例1を繰り返した。こうすることにより、収率がさらに4.8%増加し、その値は89.48%になった。
【0051】
[実施例3]
シリカの量をさらに25重量部から35重量部に増加したことを除いて、実施例2を繰り返した。こうすることにより、収率がさらに7.53%増加し、その値は97.01%となった。
【0052】
実施例1、2、および3ならびに実験AおよびBの概要を表1に示す。この表から、乾燥剤を使用することによって抽出収率が増加することと、乾燥剤の使用量が増加するに従って抽出収率が増加することとがわかる。これにより、シリカの使用量を変化させることによって最適な抽出収率を得ることが可能になる。この実験から、本発明に従い乾燥剤を使用することにより、実質的に同等の収率を得ることができることと、押出成形および乾燥が省かれることがわかる。
【0053】
【表1】

【0054】
本発明による方法によって得られる脂質と、押出成形および乾燥を含む方法によって得られるものとは組成が実質的に同一である。表2を参照されたい。
【0055】
[実施例4]
乾物含量が45.6%である圧搾された濾過ケーキ(モルティエレラ・アルピナ)を、前述の実施例に記載したように調製した。このケーキ50gを、ポリアクリル酸塩高吸収体(独国ベーアーエスエフ(BASF,Germany)より入手したルカソルブ(Luquasorb)(登録商標)FP800)5gと混合した。得られた混合物をヘキサン250mlと一緒に撹拌しながら抽出した。抽出されたARA含有油の量を7時間抽出を行った後(ヘキサンを蒸発させた後)に測定し、7.8gであることがわかった。
【0056】
[実施例5]
ポリアクリル酸塩5gに替えてシリカ乾燥剤(独国のデグサ・アーゲーより入手したシペルナット(登録商標)22)10gを使用したことを除いて、実施例4を繰り返した。7時間抽出を行った後に抽出されたARA含有油の量は7.8gであった。
【0057】
WO−A−9736996に開示されている乾燥された押出成形物を用いて実施例4および5の抽出(乾燥剤の非存在下)を実施したところ、抽出された油は7.65〜8.1gとなった。
【0058】
本発明に従い乾燥剤を用いることによって、造粒/押出成形および/または蒸発による乾燥を必要とすることなく、同等の収率を得ることができることが明らかである。
【0059】
【表2】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞および水を含む組成物から脂質を得るための方法であって、
(a)前記組成物を乾燥剤と接触させることと、
(b)前記細胞から前記脂質を回収することと
を含む方法。
【請求項2】
前記乾燥剤の吸収能力が、乾燥剤100g当たり少なくとも水50gである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乾燥剤が、多孔質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記乾燥剤の比表面積が、少なくとも25m/gである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記乾燥剤が、シリカ、活性炭、活性アルミナ、分子ふるい(例えば、炭素分子ふるいまたはゼオライト)、または架橋ポリマー(例えばポリアクリル酸塩)から選択される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記乾燥剤が、シリカである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
des/(Wcells(a)+Ww(a))>(1/x)×(1−Wcells(a)/(0.8×(Wcells(a)+Ww(a))))(式中、
desは、(a)において前記組成物に接触される前記乾燥剤の重量であり、
cells(a)は、(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物中の前記細胞の乾物重量であり、
w(a)は、(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物中の水の重量であり、
xは、前記乾燥剤の吸収能力である)である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記方法が、発酵によって前記細胞を得ることを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物が発酵ブロスであるか、または(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物が発酵ブロスから水を例えば機械的分離により分離することによって得られたものである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物の含水率が5〜95重量%である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
(a)が、前記組成物を前記乾燥剤と混合することにより細胞および乾燥剤を含む混合物を得ることを含み、(b)が、場合により前記乾燥剤の少なくとも一部の存在下に、前記脂質を前記混合物から回収することを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法が、以下:
(i)前記混合物から前記乾燥剤の少なくとも一部を分離することおよび/または
(ii)Ww(b)/Wcells(b)>0.5×Ww(a)/Wcells(a)(式中、
w(b)は、(b)において前記脂質が回収される混合物中の水の重量であり、
cells(b)は、(b)において前記脂質が回収される混合物中の前記細胞の乾物重量であり、
w(a)は、(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物中の水の重量であり、
cells(a)は、(a)において前記乾燥剤に接触される前記組成物中の前記細胞の乾物重量である)であること
のうちの少なくとも1つを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(b)が、前記脂質を溶剤で抽出することによって回収することを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記溶剤が、非極性溶剤、例えば、C3〜6アルカン、好ましくはヘキサンである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記溶剤が、超臨界流体、例えば、液体COまたは超臨界プロパンである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法が、(a)の後かつ(b)の前に、
前記細胞を加熱することを含む乾燥ステップおよび/または
前記細胞を造粒することによって顆粒状粒子を得ること
を含まない、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、微生物細胞、例えば、酵母細胞、細菌細胞、真菌細胞、または藻細胞である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞が、モルティエレラ属のものに由来するかまたはフィチウムもしくはエントモフトラ属のものに由来する、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、クリプテコディニウム属のものに由来するかまたはスラウストキトリアレス(Thraustochytriales)目の例えばスラウストキトリウムもしくはシゾキトリウム(Schizochytrium)属のものに由来する、請求項1〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、植物細胞、例えば、種子または実(nut)由来の細胞である、請求項1〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記脂質が、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、例えば、Ω−3PUFAまたはΩ−6PUFAを含む、請求項1〜20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記PUFAが、少なくとも18個の炭素原子を有するPUFAである、請求項1〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記PUFAが、アラキドン酸(ARA)である、請求項1〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記PUFAが、ドコサヘキサエン酸(DHA)である、請求項1〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記脂質が、前記PUFAを少なくとも5重量%含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記脂質が、以下の化合物:リプスタチン、スタチン、TAPS、ピマリシン(pimaricine)、ナイスタチン、脂溶性抗生物質(例えばライドロマイシン)、脂溶性抗酸化物質(例えばコエンザイムQ10)、コレステロール、植物ステロール、デスモステロール、トコトリエノール、トコフェロール、カロテノイド、またはキサントフィル(xanthopphyll)、例えば、ベータ−カロテン、ルテイン、リコペン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、またはカンタキサンチンのうちの1種またはそれ以上を含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
(i)脂質を含む細胞と(ii)乾燥剤とを含む混合物。
【請求項28】
前記脂質が、請求項21〜26のいずれか一項に記載の脂質である、請求項27に記載の混合物。
【請求項29】
前記乾燥剤が、請求項2〜6のいずれか一項に記載の乾燥剤である、請求項27または28に記載の混合物。
【請求項30】
前記細胞が、請求項17〜20のいずれか一項に記載の細胞である、請求項27〜29のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項31】
前記混合物がさらに水を含み、
des,mix/(Wcells,mix+Ww,mix)>(1/x)×(1−Wcells,mix/(0.8×(Wcells,mix+Ww,mix)))、
好ましくは、Wdes,mix/(Wcells,mix+Ww,mix)>(1/x)×(1−Wcells,mix/(0.9×(Wcells,mix+Ww,mix)))(式中、
des,mixは、前記混合物中の前記乾燥剤の重量であり、
cells,mixは、前記混合物中の前記細胞の乾物重量であり、
w,mixは、混合物中の前記水の重量であり、
xは、前記乾燥剤の吸収能力である)である、請求項27〜30のいずれか一項に記載の混合物。
【請求項32】
脂質を得るための方法であって、請求項27〜31のいずれか一項に記載の混合物を有機溶剤と接触させることを含む、方法。
【請求項33】
請求項1〜26及び32のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる脂質。
【請求項34】
請求項33に記載の脂質を含む、例えば人間用食品または動物用飼料である、食品。
【請求項35】
前記食品が、乳児用調製乳である、請求項34に記載の食品。
【請求項36】
請求項33に記載の脂質を含む医薬品。
【請求項37】
請求項33に記載の脂質を含む化粧品。

【公表番号】特表2009−501003(P2009−501003A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517475(P2008−517475)
【出願日】平成18年6月19日(2006.6.19)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063317
【国際公開番号】WO2006/136539
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【出願人】(503166090)マーテック・バイオサイエンシズ・コーポレイション (16)
【Fターム(参考)】