説明

終減速装置における差動歯車装置の潤滑構造

【課題】DFケース内への潤滑オイルの供給を改善し、リングギヤの回転が低速であってオイル掻き上げ量が少ない場合にあっても、内部のピニオンギヤ、サイドギヤなどの潤滑に必要な油量を供給することができる差動歯車装置の潤滑構造を提供することを目的とする。
【解決手段】車両の終減速装置に組み込まれリングギヤと一体的に構成されている差動歯車装置において、差動歯車を内蔵するデファレンシャルケース(10)の円板状の外側面に複数の放射状の補強リブ(14)を設け、それらの補強リブ(14、14)間に外側面からケース内部(11a)に通じる油孔(16)を形成し、その油孔(16)を挟んで隣り合う補強リブ(14、14)間を連結しケース内部(11a)へ油飛沫を誘導するオイルキャッチリブ(15)を設け、そのオイルキャッチリブ(15)は半径方向外方に凹んだ湾曲した形状で半径方向の流れを油孔(16)内に誘導し、かつオイルキャッチリブ(15)の半径方向内方に軸方向の流れを油孔(16)内に誘導する通路(17)を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の終減速装置に組み込まれている差動歯車装置の潤滑構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の終減速装置においては、ハウジング内に貯留された潤滑オイルが、終減速ギヤのリングギヤの回転によって掻き上げられ、各部に供給される構造になっている。このような構造では、デファレンシャルケース(以下、DFケースと記す)の内部のピニオンギヤ、サイドギヤ等の潤滑のため、DFケースに油孔が形成されており、油飛沫がこの孔を通って内部の潤滑が図られている。
【0003】
しかしながら、上記のような構成では、高速回転時には飛沫によって十分なオイル供給が図れても、低速、且つ高負荷時などでは、オイル掻き上げ量が少なく、DFケース内部のピニオンギヤ、サイドギヤなどの潤滑不良による焼け付きの発生が懸念されている。
図6に、従来のDFケースの一例を示す。図示のようにDFケース10Bの外側面には、強度上、ボス部13から放射状に複数の補強リブ14が設けられており、その相隣るリブ14、14間には一つおきにケース内部11aに通じる油孔16が形成されている。
しかしながら、このような構造のDFケース10Bに対しては、潤滑油供給量の改善のために、これ以上に油孔を大きくしたり、または、これ以上に油孔の数を増加したりすることは強度上からも好ましくない。
【0004】
なお、その他の従来技術として、本発明と概略同様な課題に対し、円板状のDFケースにおいて、外側面に突設された軸受ボスを囲繞する周方向のリブと、そのリブの内側に通油孔を設けた差動歯車装置に関する技術が開示されている(特許文献1参照)。しかし、この技術では、内部への潤滑オイル量を確保し、且つ強度を担保することは不十分と考えられる。
また、デフキャリア内の上方にオイルリザーバを設け、リングギヤで掻き上げたオイルを受けて一時貯留し、流出口から被潤滑部に滴下して、低速時においても潤滑オイルを供給する技術が提案されている(特許文献2参照)。しかし、この技術には、DFケース内部へオイルを誘導し、供給する手段は含まれていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−83526号公報
【特許文献2】特開平7−217725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解消するために提案するものであって、DFケース内への潤滑オイルの供給を改善し、リングギヤの回転が低速であってオイル掻き上げ量が少ない場合においても、内部のピニオンギヤ、サイドギヤなどの潤滑に必要な油量を供給することができる差動歯車装置の潤滑構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、車両の終減速装置に組み込まれリングギヤと一体的に構成されている差動歯車装置において、差動歯車を内蔵するデファレンシャルケース(10)の円板状の外側面に複数の放射状の補強リブ(14)を設け、それらの補強リブ(14、14)間に外側面からケース内部(11a)に通じる油孔(16)を形成し、その油孔(16)を挟んで隣り合う補強リブ(14、14)間を連結しケース内部(11a)へ油飛沫を誘導するオイルキャッチリブ(15)を設け、そのオイルキャッチリブ(15)は半径方向外方に凹んだ湾曲した形状で半径方向の流れを油孔(16)内に誘導し、かつオイルキャッチリブ(15)の半径方向内方には軸方向の流れを油孔(16)内に誘導する通路(17)を形成している。
【0008】
また、前記オイルキャッチリブ(15A)の半径方向内方には、前記ボス部(13A)に穿設した油孔(18)に向けて軸方向の流れを誘導するガイド部(19)を突設している。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、DFケース(10)にオイルキャッチリブ(15)が設けられ、低速回転で油飛沫が少ない場合でも、落下する油滴がオイルキャッチリブ(15)に案内されて油孔(16)に入り、ケース(10)内部の潤滑が改善される。
上記の効果は、オイルキャッチリブ(15)の追加で達成されるので、強度上では強化される。
本発明において、オイルキャッチリブ(15A)の半径方向内方に、前記ボス部(13A)に穿設した油孔(18)に向けて軸方向の流れを誘導するガイド部(19)を突設すれば、軸方向に流れる潤滑油飛沫がボス部(13)からケース(10)内部へ供給され、特にサイドギヤ部の潤滑が改善される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による第1実施形態のDFケースを示す斜視図である。
【図2】図1のDFケースの断面図である。
【図3】図2の斜視図である。
【図4】本発明による第2実施形態のDFケースの斜視図である。
【図5】図4の斜視図である。
【図6】従来技術によるDFケースを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図を参照して本発明の第1の実施形態を説明する。なお、前記図6の従来技術の説明においての共通部品には、同じ符号を付して重複した説明は省略する。
図1〜図3に示すように、DFケース10は、内部に組み込まれた差動歯車(ピニオンギヤ、サイドギヤ:図示なし)を覆う差動ギヤ内蔵部11と、リングギヤを取り付けるフランジ部12と、ベアリングによって支持されるボス部13とを有しており、外側部にはボス部13から放射状に複数の補強リブ14設けられている。
【0012】
また、これらの補強リブ14、14の間には、一つおきに外側部からケース内部11aに通じる油孔16が形成されている。
そして、油孔16の両隣のリブ14、14を円周方向に連結するオイルキャッチリブ15が設けられている。そのオイルキャッチリブ15は、軸方向断面で半径方向外方が凹になる湾曲した形状に形成されており、図2、3に矢印で示すように半径方向外方からの油飛沫を油孔16の方向に導き、ケース内部11aへ流入するように形成されている。
また、このオイルキャッチリブ15の半径方向内側は、軸方向外方から油孔16へ導く通路17が形成されている、
【0013】
上記構成の実施形態では、オイルキャッチリブ15の追加により、落下する油滴、および軸方向の流れが油孔16へ誘導され、ケース内部11aへの潤滑オイル供給の増加が図れる。
【0014】
次に、図4、5を参照し、第2実施形態を説明する。
この実施形態は、基本的には前記の第1実施形態と同様であり、さらに潤滑油経路を追加し、改良したものであり、異なった部分について説明する。
図示のように、DFケース10Aのボス部13Aには、内径方向に向けた油孔18が穿孔されており、オイルキャッチリブ15Aの半径方向内方には、上記油孔18に軸方向の流れを誘導する突起19を設けている。
【0015】
上記の構成により、前記第1実施形態の構成に加え、ボス部13Aの内部へも油が誘導され、さらにDFケース内部への潤滑油供給が改善される。
【符号の説明】
【0016】
10、10A、10B・・・DFケース
11・・・差動ギヤ内蔵部
12・・・フランジ部
13・・・ボス部
14・・・補強リブ
15・・・オイルキャッチリブ
16・・・油孔
17・・・油通路
18・・・油孔
19・・・オイルキャッチリブの突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の終減速装置に組み込まれリングギヤと一体的に構成されている差動歯車装置において、差動歯車を内蔵するデファレンシャルケースの円板状の外側面に複数の放射状の補強リブを設け、それら補強リブの間に外側面からケース内部に通じる油孔を形成し、その油孔を挟んで隣り合う補強リブ間を連結しケース内部へ油飛沫を誘導するオイルキャッチリブを設け、そのオイルキャッチリブは半径方向外方に凹んだ湾曲した形状で半径方向の流れを油孔内に誘導し、かつオイルキャッチリブの半径方向内方には軸方向の流れを油孔内に誘導する通路を形成していることを特徴とする終減速装置における差動歯車装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記オイルキャッチリブの半径方向内方に、前記ボス部に穿設した油孔に向け、軸方向の流れを誘導するガイド部を設けた請求項1に記載の終減速装置における差動歯車装置の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−112442(P2012−112442A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261464(P2010−261464)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】