説明

組成物

【課題】カーボンの特性を変化させない、安価で、分散効果の高い分散方法を提供する方法を提供すること。
【解決手段】スルホン化と炭化という簡単なプロセスで製造でき、工業的に安価であるスルホン酸基が導入された無定形炭素を分散剤として用いること。
スルホン酸基が導入された無定形炭素の体積平均粒径を500nm未満とすること。
スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度を1.6〜8mmol/gとすること。
スルホン酸基が導入された無定形炭素をフッ素化すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基が導入された無定形炭素を含む組成物に関する。
この組成物は、ブラックマトリクス、電極、導電性シート、電波吸収体、燃料電池用触媒層、セパレータなどに利用することができる。
【背景技術】
【0002】
カーボンの分散方法としては機械的に分散する方法が公知となっている。
【0003】
カーボンを機械的に分散する方法としては、超音波分散器、ボールミル、サンドミル、ビーズミル等を用いることにより、溶媒中において強いシェアーをカーボンに負荷する方法が知られている。
【0004】
しかし、分散したカーボンは、再凝集(エネルギー的に安定な状態)してしまうという問題を抱えている。
【0005】
対策として、カーボンを機械的に分散する方法と、カーボンを化学的に分散する方法を併用することが試みられている。
【0006】
化学的に分散する方法としては、カーボンに親水化処理を行う方法や、分散剤を用いる方法が提案されている。(例えば、特許文献1、2、および3参照)
【0007】
【特許文献1】特開2005−132985号公報
【特許文献2】特開平8−3498号公報
【特許文献3】特開平8−183920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、カーボンに親水化処理を行う方法は、カーボンの特性が親水化処理により変化してしまい、且つ、分散効果も少ないという問題を抱えている。
【0009】
分散剤としては、各種ポリマーや、硫酸マグネシウム、タルク、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシュウム、および、クレーなどの無機質粉末が用いられている。
【0010】
しかし、各種ポリマーはナトリウムやマグネシウム等と塩になっており、塩が悪影響を及ぼすという問題を抱えている。
【0011】
一例を挙げると、分散したカーボンを燃料電池として使用する場合、プロトン伝導性や耐久性を大きく下げてしまう。
【0012】
また、各種ポリマーは高価であり、かつ、分散効果が少ないという問題を抱えている。
【0013】
硫酸マグネシウム、タルク、チタン酸カリウム、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシュウム、および、クレーなどの無機質粉末も塩となっており、塩が悪影響を及ぼすという問題を抱えている。
【0014】
本発明の課題は、カーボンの特性を変化させない、安価で、分散効果の高い分散方法を提供する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の発明は、カーボンと溶媒からなる溶液に、スルホン酸基が導入された無定形炭素を添加する事を特徴とするカーボンの分散・溶解方法である。
【0016】
スルホン酸基が導入された無定形炭素を添加することにより、カーボンを溶媒に分散・溶解することができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、カーボン、スルホン酸基が導入された無定形炭素、および、溶媒を有する組成物である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記カーボンの体積平均粒径が500nm未満であることを特徴とする請求項2に記載の組成物である。
【0019】
溶媒にカーボンが500nm未満で分散・溶解された組成物は分散性が良好である。
【0020】
請求項4に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の13C核磁気共鳴スペクトルにて、縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出され、且つ、粉末X線回折にて、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが検出されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の組成物である。
【0021】
このようなスルホン酸基が導入された無定形炭素を使用することで、カーボンを良好に分散・溶解させることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の体積平均粒径が500nm未満であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の組成物である。
【0023】
スルホン酸基が導入された無定形炭素の体積平均粒径を500nm未満とすることにより少量で、カーボンを分散・溶解させることができる。
【0024】
請求項6に記載の発明は、前記カーボンがアセチレンブラックであることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物である。
【0025】
アセチレンブラックはカーボンの中でも特に良好に分散し易い。
【0026】
請求項7に記載の発明は、前記溶媒が水であることを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載の組成物である。
【0027】
水を用いることにより、低コスト化、低環境負荷を実現することができる。
【0028】
請求項8に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、1.6〜8mmol/gであることを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか一項に記載の組成物である。
【0029】
スルホン酸密度が1.6mmol/g未満であると分散性が発揮されず、また、スルホン酸密度が8mmol/g以上のスルホン酸基が導入された無定形炭素は製造が難しくなり、コストが高くなる。
【0030】
請求項9に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折にて、炭素(002)面の回折ピーク以外のピークが検出されないことを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれか一項に記載の組成物である。
【0031】
このようなスルホン酸基が導入された無定形炭素を使用することで、カーボンを分散・溶解させることができる。
【0032】
請求項10に記載の発明は、前記スルホン酸基が導入された無定形炭素がフッ素化処理されていることを特徴とする請求項2乃至請求項9のいずれか一項に記載の組成物である。
【0033】
フッ素化処理を施したスルホン酸基が導入された無定形炭素を用いることにより、フッ素を含有する溶媒および樹脂に対するカーボンの分散性を増すことができる。
【0034】
請求項11に記載の発明は、さらに、樹脂を含有することを特徴とする請求項2乃至請求項10のいずれか一項に記載の組成物である。
【0035】
樹脂を含有させることにより、組成物に機械的な特性を付与することができる。
【0036】
請求項12に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る燃料電池用触媒層である。
【0037】
スルホン酸基が導入された無定形炭素によりカーボンを分散した組成物を用いた燃料電池用電解質膜は、特にプロトン伝導性、電子伝導性、触媒性能に優れている。
【0038】
請求項13に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る膜電極接合体である。
【0039】
スルホン酸基が導入された無定形炭素によりカーボンを分散した組成物を用いた膜電極接合体は、特に安定性、出力特性に優れている。
【0040】
請求項14に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る燃料電池である。
【0041】
スルホン酸基が導入された無定形炭素により、カーボンを分散した組成物を用いた燃料電池は、安価で高い性能を示すことができる。
【0042】
請求項15に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るインキである。
【0043】
分散剤として黒色(従来の分散剤は黒ではない)である無定形炭素を用いることにより、インキの黒色度が(従来の分散剤を用いた物より)増す。
【0044】
請求項16に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るインクジェット用インキである。
【0045】
このような組成物は、カーボンの分散性が良いため、粘度を低く制御し易い。
【0046】
請求項17に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る電波吸収体である。
【0047】
このような組成物は、カーボンの分散性が良くため、電波を吸収し易い。
【0048】
請求項18に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るブラックマトリクスである。
【0049】
分散剤として黒色(従来の分散剤は黒ではない)である無定形炭素を用いることにより、高い黒色度(従来の分散剤を用いた物より)を有し、ブラックマトリクスに用いるのに適している。
【0050】
請求項19に記載の発明は、請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る導電体である。
【0051】
このような組成物は、導電性が高い。
【発明の効果】
【0052】
本発明を用いることにより、カーボンを良好に分散・溶解させることができる。
その結果、一様にカーボンが分散・溶解したインキを得ることができ、よって、燃料電池用電極などの成膜体や、燃料電池用触媒層に用いる触媒担持体を作製することが可能となる。
【0053】
また、スルホン酸基が導入された無定形炭素を使用するため、他の分散剤を使用したときのようにプロトン伝導性能、および、導電性能の低下が起こらない。
【0054】
また、無定形炭素自身が黒色でありため、インクジェット記録用の水性インク、電子写真トナー用インキや、ブラックマトリクス等テレビ用部材など黒色が要求される材料として適している。
【0055】
スルホン酸基が含有された無定形炭素は、スルホン化と炭化という簡単なプロセスで製造でき、工業的に安価であるので、本発明の組成物も安価に製造することが可能となる。
【0056】
また、無定形炭素の電子密度がスルホン酸基によって下げられることにより、耐久性が高くなり、その結果、インキなど組成物の安定性を向上させることができる。
【0057】
また、本発明の組成物を用いることにより、カーボンの分散性が増し、その結果、分散媒の粘度を低くすることができる。
特に低粘度が望まれるインクジェット用インキに好適に用いることができる。
【0058】
また、本発明の組成物と、白金担持カーボンと、電解質と、溶剤からなる燃料電池用触媒インキをインクジェット法を用いて電極基材に塗布することにより、バーコーターなどの他塗布方法と比べ、触媒層密度をコントロールし易くなり、その結果、触媒性能が高い触媒電極を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0059】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0060】
本発明は、スルホン酸基が導入された無定形炭素を含有させることにより、カーボンが、溶媒に分散・溶解され易くなることを特徴としている。
【0061】
その為、組成物の材料としては、溶媒、スルホン酸基が導入された無定形炭素、および、カーボンを用いることができるが、更に、分散性を著しく低下させない添加物を含有させても構わない。
【0062】
添加物としては有機物、樹脂、金属、無機物、フタロシアニン・ブルー、フタロシアニン・グリーン、酸化チタン、カーボンブラック等の着色顔料、樹脂硬化触媒、チクソトロピー付与剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤等を用いることができ、中でも、樹脂を用いると、組成物の膜化やペレット化が良好にできる。
【0063】
スルホン基が導入された無定形炭素は、スルホン酸基を持ち、無定形炭素としての性質を示す物質であれば特に限定されない。
【0064】
「無定形炭素」とは、炭素からなる物質であって、ダイヤモンドや黒鉛のような明確な結晶構造を持たない物質をいい、より具体的には、粉末X線回折において、明確なピークが検出されないか、あるいは幅の広いピークが検出される物質を意味する。
【0065】
好適なスルホン酸基導入無定形炭素としては、(1)以下の(A)、(B)及び(C)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素、(2)以下の(A)、(B)及び(C)の性質、並びに以下の(D)及び/又は(E)の性質を持つスルホン酸基導入無定形炭素を例示できる。
(A)13C核磁気共鳴スペクトルにおいて縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出される。
(B)粉末X線回折において半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが検出される。
(C)スルホン酸密度が0.5〜8mmol/gである。
(D)スルホン酸基が結合した炭素原子が全炭素原子の3%〜20%である。
(E)硫黄含有量は、0.3〜15atm%である。
【0066】
上記(B)の性質に関して、検出される回折ピークは(002)面以外のものがあってもよいが、(002)面の回折ピークのみが検出されることが好ましい。
【0067】
上記(C)の性質に関し、スルホン酸密度は0.5〜8mmol/gであればよいが、1.6〜8mmol/gであることが好ましい。
【0068】
上記(E)の性質に関し、硫黄含有量は0.3〜15atm%であればよいが、3〜10atm%であることが好ましい。
【0069】
スルホン酸基を導入した無定形炭素は、例えば、有機化合物を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理することによって製造することができる。
【0070】
スルホン酸基を導入した無定形炭素の製造方法の概略を図1に示す。
有機化合物を濃硫酸又は発煙硫酸中で加熱処理すると、炭化、スルホン化、環同士の縮合が起き、その結果、図1に示すようなスルホン酸基導入無定形炭素が生成する。
【0071】
濃硫酸又は発煙硫酸中の有機化合物の加熱処理は、窒素、アルゴン等の不活性ガス気流中、あるいは乾燥空気気流中で行うことがスルホン酸密度の高い無定形炭素を製造する上で必要である。
【0072】
有機化合物を加えた濃硫酸又は発煙硫酸に窒素、アルゴン等の不活性ガス、あるいは乾燥空気を吹き込みながら加熱を行うことが好ましい。
【0073】
濃硫酸と芳香族化合物の反応によって芳香族スルホン酸と水が生成するが、この反応は平衡反応である。
したがって反応系内の水が増えると、逆反応が早く進むため、無定形炭素に導入されるスルホン酸の量が著しく低下する。
不活性ガスや乾燥空気気流中で反応を行うか、反応系にこれらのガスを吹き込みながら反応を行い、水を反応系から積極的に除去することによって高いスルホン酸密度をもつ無定形炭素を合成することができる。
【0074】
加熱処理により、有機化合物の部分炭化、環化及び縮合などを進行させると共に、スルホン化を起こすことができる。
【0075】
加熱処理温度は、前記反応を進行させる温度であれば特に限定されないが、工業的には、100℃〜350℃、好ましくは150℃〜250℃である。
【0076】
処理温度が100℃未満の場合、有機化合物の縮合、炭化が十分に為されず、炭素の形成が不十分となることがあり、また、処理温度が350℃を超えると、スルホン酸基の熱分解が起きる場合がある。
【0077】
加熱処理時間は、使用する有機化合物や処理温度などによって適宜選択できるが、通常、5〜50時間、好ましくは10〜20時間である。
【0078】
使用する濃硫酸又は発煙硫酸の量は特に限定されないが、有機化合物1モルに対し、通常、2.6〜50.0モルであり、好適には6.0〜36.0モルである。
【0079】
スルホン酸基が導入された無定形炭素のうち、溶媒に、体積平均径0.1nm〜500nmで分散・溶解するスルホン酸基が導入された無定形炭素を入れると、カーボンの分散・溶解性が飛躍的に良くなる。
【0080】
体積平均径が500nm以上では分散性が悪く、0.1nm以下は精製が難しく生産性が悪くなる。
【0081】
有機化合物としては、芳香族炭化水素類を使用することができるが、それ以外の有機化合物、例えば、グルコース、砂糖(スクロース)、セルロースのような天然物、ポリエチレン、ポリアクリルアミドのような合成高分子化合物を使用してもよい。
【0082】
芳香族炭化水素類は、多環式芳香族炭化水素類でも単環式芳香族炭化水素類でもよく、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ペリレン、コロネンなどを使用することができ、好適には、ナフタレンなどを使用することができる。
【0083】
有機化合物は、一種類だけを使用してもよいが、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また、必ずしも精製された有機化合物を使用する必要はなく、例えば、芳香族炭化水素類を含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを使用してもよい。
【0084】
グルコース、セルロース等の天然物や合成高分子化合物を原料とするときは、濃硫酸又は発煙硫酸中での加熱処理の前に、これらの原料を不活性ガス気流中で加熱し、部分炭化させておくことが好ましい。
【0085】
このときの加熱温度は、通常、100〜350℃であり、処理時間は、通常、1〜20時間である。
【0086】
部分炭化の状態は、加熱処理物の粉末X線回折パターンにおいて、半値幅(2θ)が30°の(002)面の回折ピークが検出されるような状態が好ましい。
【0087】
芳香族炭化水素類、又はこれを含む重油、ピッチ、タール、アスファルトなどを原料とする場合、濃硫酸又は発煙硫酸中での加熱処理の後、生成物を真空加熱することが好ましい。真空加熱することにより、過剰の硫酸を除去すると共に、生成物の炭化・固化を促進させ、生成物の収率を増加させる。
【0088】
真空排気は排気速度10L/min以上、到達圧力100torr以下の排気装置を用いることが好ましい。
【0089】
真空加熱に好ましい加熱温度は140〜300℃、より好ましくは200〜280℃である。
【0090】
この条件における真空排気の時間は、通常2〜20時間が好ましい。
【0091】
本発明の組成物には溶媒に分散・溶解するスルホン酸基が導入された無定形炭素をフッ素化処理したものも好適に用いることができる。
【0092】
フッ素化処理する方法としては、スルホン酸基が導入された無定形炭素に直接フッ素ガスを吹き込むことで反応させる方法の他、フッ素化試薬等を用いる方法を用いることができる。
【0093】
元素分析によりフッ素を検出することで、フッ素導入を確認できる。
また、X線光電子分光スペクトルでも光電子ピークによりフッ素導入を確認できる。
【0094】
本発明で使用する溶媒としては、例えば、水、エタノール、イソプロパノ−ルなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキナノンなどのケトン類、ジオキサン、テトラハイドロフランなどのエーテル類、トルエンなどの芳香族炭化水素、クロルベンゼン、トリクレン、パークレンなどのハロゲン化戻化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル等の1種または2種以上の混合物を用いることができ、中でも、経済性及び、分散性の観点から水が好ましい。
【0095】
本発明の組成物には前述したように樹脂を添加することができる。
樹脂としては、以下に例示する樹脂を単独又は二種類以上混合して使用することができる。また、これらの樹脂の変性体や共重合体を使用してもよい。
【0096】
樹脂としては、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、プロピレン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ビニリデン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、フェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、ビニル樹脂、カルボン酸樹脂、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、スチロール樹脂、エンジニアリングプラスチックなどを例示できるが、これらに限定されない。
【0097】
また、上記のように有機樹脂だけでなく、有機無機ハイブリッド樹脂やシリケート樹脂、水ガラス、各種無機ポリマー等も使用できる。
使用する用途によって好適に使用できる樹脂は異なる。
【0098】
本発明の組成物は、カーボンの分散性に優れていることから、インキ、電波吸収体、導電性体、ブラックマトリクス、燃料電池用触媒層などとして利用できる。
【0099】
さらに、本発明の組成物を利用して燃料電池用電解質膜を作製し、これを用いて燃料電池用膜電極接合体(MEA)や燃料電池を作製することも可能である。
【0100】
ここでブラックマトリクスとは、カラーフィルターの赤(R)、緑(G)、青(B)の三色を囲む格子状の黒色部分のことで、液晶ディスプレー等に使用され、画像のコントラストを向上させる機能を持つ部材である。
【0101】
本発明の組成物は、それ自体でインキとして優れた性質を示す。
使用される用途によって異なるが、スルホン酸基が導入された無定形炭素の配合量は、カーボンに対し、0.1%から60%の範囲から選択できる。
【0102】
60%以上だと電子伝導性等が低くなりやすく、0.1%以下だとカーボンの分散性が悪い。
【0103】
このような割合で混合したインキを使用して、インクジェット用インキやトナー、ブラックマトリクス等を良好に製造できる。またインクを支持体の上で乾燥させることにより、電波吸収層や導電性層などを形成できる。
【0104】
本発明の組成物(スルホン酸基含有無定形炭素)を用いることにより、自在にインキの粘度をコントロールできる。
特に高粘度で目詰りを起こし易いインクジェット用インキを低粘度にコントロールすることができる。
【0105】
本発明の組成物を用いて、燃料電池用触媒層、燃料電池用膜電極接合体、燃料電池を作製する方法を以下に示す。
【0106】
まず、本発明の組成物にPtを担持させたインクを作る。
【0107】
次に、カーボンペーパーやカーボンクロス等にインクを塗布し乾燥を行うことにより、燃料電池用触媒層を形成する。
【0108】
次に、燃料電池用触媒層を燃料電池用電解質膜と貼り合わせることにより膜電極接合体を得る。
【0109】
次に、膜電極接合体と、セパレータや補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置など)を組み合わせることにより燃料電池を作製することが出来る。
【0110】
発明に使用できるカーボンとしては、特に限定されず、公知のカーボンを用いることができ、例えば、無定形炭素、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック、フラーレン類等を用いることができ、中でも、分散性の観点から、カーボンブラックが好ましく、アセチレンブラックは更に好ましい。
【0111】
導電性を付与させたい場合は、カーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ等が好適に用いられる。
【0112】
カーボンブラックは製造方法によってファーネスブラック、チャンネルブラック及びサーマルブラックに分類され、炭素6員環のみからなる平面状の単位構造が積層されたグラファイト構造を有している。
また、グラファイト(黒鉛)としては、天然黒鉛及び人造黒鉛の鱗片状のものや、塊状のものなど任意のものが使用できる。
【0113】
フラーレン類としては、C2n(nは30以上)で表される炭素5員環、炭素6員環などからなる閉じた球状又はチューブ、ホーン状の分子を用いることができる。
【0114】
フラーレン類としては、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン等が用いることができる。
【実施例】
【0115】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0116】
〔実施例1、2および比較例1、2〕
[組成物の調製]
化合物1(スルホン酸基が導入された無定形炭素)、化合物2(フッ素とスルホン酸基が導入された無定形炭素)、ベンゼンスルホン酸、カーボン(アセチレンブラック)、溶媒(水)を、シャーレ内で混合し、組成物を調製した。
配合比を表1に示す。
【0117】
【表1】

【0118】
[化合物1の製造]
化合物1は以下の様に製造した。
まず、ナフタレンを濃硫酸(96%)に加え、250℃で15時間加熱した後、過剰の濃硫酸を250℃下において減圧蒸留によって除去することにより、黒色粉末を得た。
次に、この黒色粉末を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返し、スルホン酸基が導入された無定形炭素を得た。
スルホン酸密度は4.5mmol/gであった。
次に、該スルホン酸基が導入された無定形炭素を篩いにかけ、水への分散性が良好な体積平均径15nm程度の物を採取した。
(体積平均径は、50mgのスルホン酸基が導入された無定形炭素を10mlの水に分散し、これを日機装社製ナノトラック粒度分析計UPA−EXを用いて計測した。)
【0119】
[化合物2の製造]
化合物2は以下の様に製造した。
まず、ナフタレンを濃硫酸(96%)に加え、250℃で15時間加熱した後、過剰の濃硫酸を250℃下において減圧蒸留によって除去することにより、黒色粉末を得た。
次に、この黒色粉末を300mlの蒸留水で洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸が元素分析の検出限界以下になるまでこの操作を繰り返し、スルホン酸基が導入された無定形炭素を得た。
スルホン酸密度は4.5mmol/gであった。
該スルホン酸基が導入された無定形炭素を篩いにかけ、水への分散性が良好な体積平均径15nm程度の物を採取した。
(体積平均径は、50mgのスルホン酸基が導入された無定形炭素を10mlの水に分散し、これを日機装社製ナノトラック粒度分析計UPA−EXを用いて計測した。)
さらに、該スルホン酸基が導入された無定形炭素にフッ素ガスを吹き込み、フッ素とスルホン酸基が導入された無定形炭素を得た。
【0120】
[評価]
組成物の分散性を目視により評価し、その結果を表2、および、図1〜4に示した。図1〜4は分散操作後の写真である。
【0121】
【表2】

【0122】
表2中の「分散」とは、「目視で凝集及び沈殿が確認されない状態」を意味し、また、「沈殿」とは、「目視で凝集及び沈殿が確認される状態」を意味する。
【0123】
実施例1のようにスルホン酸基が導入された無定形炭素に、カーボンを重量比で30%、溶媒中で含有させた時は、カーボンが少しずつ分散し始め、溶媒が一様に黒色となった。
【0124】
さらに、実施例2のようにフッ素とスルホン酸基が導入された無定形炭素でも、実施例1とカーボンが分散し始め、溶媒が一様に黒色となった。
【0125】
これら実施例1、2の分散性は、スルホン酸基が導入された無定形炭素単独を水に分散する場合の分散性と、目視では変化が確認されなかった。
【0126】
比較例1のように、スルホン酸基が導入された無定形炭素を用いない場合は、分散せず沈殿した。(溶媒が透明であった。)
【0127】
また、比較例2のように、化合物1または化合物2を用いずに、一つしか芳香族環を有さないベンゼンスルホン酸を用いた場合は、カーボンは分散せず、分散剤として不適であることが確認された。
【0128】
以上より、分散性には、無定形炭素が寄与することが確認された。
無定形炭素にある多芳香環がカーボン内の芳香環とπスタックし、溶媒との親和性が増した為であること考えられる。
【0129】
またスルホン酸基がなく多芳香環だけであるカーボンは凝集しており溶媒に分散しないので、スルホン酸基もまた分散性に必要であることが確認された。
【0130】
このように溶媒にスルホン酸基が導入された無定形炭素を含有させることにより、カーボンが、溶媒に分散されることがわかった。
【0131】
本発明の組成物を用いることにより、一様に分散したインキ、膜、担持体を作ることが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】実施例1における分散処理後の組成物の様子を説明するための図である。
【図2】実施例2における分散処理後の組成物の様子を説明するための図である。
【図3】比較例1における分散処理後の組成物の様子を説明するための図である。
【図4】比較例2における分散処理後の組成物の様子を説明するための図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンと溶媒からなる溶液に、スルホン酸基が導入された無定形炭素を添加する事を特徴とするカーボンの分散・溶解方法。
【請求項2】
カーボン、スルホン酸基が導入された無定形炭素、および、溶媒を有する組成物。
【請求項3】
前記カーボンの体積平均粒径が0.1nm以上500nm未満であることを特徴とする請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の13C核磁気共鳴スペクトルにて、縮合芳香族炭素6員環及びスルホン酸基が結合した縮合芳香族炭素6員環の化学シフトが検出され、且つ、粉末X線回折にて、半値幅(2θ)が5〜30°である炭素(002)面の回折ピークが検出されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素の体積平均粒径が500nm未満であることを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記カーボンがアセチレンブラックであることを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶媒が水であることを特徴とする請求項2乃至請求項6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素のスルホン酸密度が、1.6〜8mmol/gであることを特徴とする請求項2乃至請求項7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素が、粉末X線回折にて、炭素(002)面の回折ピーク以外のピークが検出されないことを特徴とする請求項2乃至請求項8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記スルホン酸基が導入された無定形炭素がフッ素化処理されていることを特徴とする請求項2乃至請求項9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
さらに、樹脂を含有することを特徴とする請求項2乃至請求項10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る燃料電池用触媒層。
【請求項13】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る膜電極接合体。
【請求項14】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る燃料電池。
【請求項15】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るインキ。
【請求項16】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るインクジェット用インキ。
【請求項17】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る電波吸収体。
【請求項18】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成るブラックマトリクス。
【請求項19】
請求項2乃至請求項11のいずれか一項に記載の組成物を用いて成る導電体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−179745(P2008−179745A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16071(P2007−16071)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】