説明

絶縁フィルム

【課題】熱圧着の際に厚さが保持でき、これによって良好な絶縁性が維持できる絶縁フィルムを提供する。
【解決手段】ポリオレフィン1に、該ポリオレフィン1の融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子2が分散されてなる絶縁層3を有することを特徴とする絶縁フィルムを用いる。架橋高分子微粒子としては、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリスチレンからなる群から選択される1種または複数種の微粒子が挙げられる。本発明の絶縁フィルムでは、絶縁フィルムの一方又は両方の最表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着層またはシーラント層を積層することができる。本発明の絶縁フィルムは、パック型電池に用いられる絶縁フィルムとして好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体間の電気的絶縁に用いられる絶縁フィルムに関し、特に、熱圧着等によって絶縁フィルムを固定する際に、外部から加わる圧力や熱などに対して絶縁フィルムの厚みが保持でき、これによって良好な絶縁性が維持できる絶縁フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁フィルムとしては、各種の合成樹脂をフィルムに成形したものが用いられている。このような合成樹脂のみをフィルムに成形した絶縁フィルムでは、熱圧着によって絶縁フィルムを各種部材に固定する際に、外部から加わる圧力や熱などに対して絶縁フィルムが薄くなったり、場合によっては絶縁フィルムが切れてしまい、絶縁機能がなくなることがあるという欠点がある。
【0003】
このような欠点を改良する提案として、特許文献1には、リチウム二次電池用として、有機材料中にアルミナなどの無機材料粒子を分散させて形成したリチウム二次電池用複合材料テープが開示されており、発明の効果として、電池の内部温度が急激に上昇し、有機材料が溶融しても無機材料により絶縁機能、または、断熱機能が維持されることが記載されている。
しかし、この複合材料テープは、有機材料中にアルミナなどの無機材料粒子を分散させているので、耐熱性は向上するものの、無機材料粒子は、有機材料中への分散性がよくないため、含有率を上げると絶縁フィルムの強度が下がり、亀裂が生じやすいという問題がある。また、無機材料がイオン化し電解液中に溶出して影響を及ぼすことも懸念される。
このような亀裂に対する対策として、特許文献2には、ラミネートパック電池のリード端子周縁の接着剤として、熱融着される温度で溶融しない物質を二枚の変性ポリプロピレンシートの中間に挟み込んでホットプレスしたシートが記載されている。そして、熱融着される温度で溶融しない物質として、粒子状の無機材料に加えて、高分子材料として、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、ポリカーボネートが列記されており、これらは、接着剤に分散されてもよいと記載されている。しかし、実施例では、二枚の変性ポリプロピレンシートの中間にポリカーボネート粒子を挟み込んでホットプレスしている。したがって、有機材料中への粒子の分散性の問題は、依然として解決されていない。
一方、絶縁フィルムではなく、パック型電池のパウチフィルムとして、特許文献3には、滑り性を向上させるために二軸配向ポリプロピレン層に架橋高分子粒子を添加した耐蝕性金属被覆用ポリプロピレンフィルムが記載されている。しかし、この提案は、電解液に対する耐久性と電池形成の加工性に配慮して、電解質に接触する表面に架橋高分子粒子含有二軸配向ポリプロピレン層を備えたものである。二軸配向ポリプロピレン層は、熱融着性を有しないので、熱圧着等によって絶縁フィルムを固定することはできず、絶縁フィルムに適用することはできない。
【特許文献1】特開2006−93147号公報
【特許文献2】特開2000−353504号公報
【特許文献3】特開2004−291635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、熱圧着の際に厚さが保持でき、これによって良好な絶縁性が維持でき、かつ、電池用として使用した場合であっても、イオン化し電解液中に溶出して影響を及ぼす懸念がない絶縁フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は、ポリオレフィンに、該ポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子が分散されてなる絶縁層を有することを特徴とする絶縁フィルムを提供する。
前記架橋高分子微粒子は、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸エステルおよび架橋ポリスチレンからなる群から選択される1種または複数種の微粒子であることが好ましい。
前記架橋高分子微粒子は、平均粒子径が5〜50μmであることが好ましい。
前記絶縁層は、ポリオレフィン50〜95質量%に対して、架橋高分子微粒子50〜5質量%が配合されたものであることが好ましい。
絶縁フィルムの一方又は両方の最表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着層が積層されていることが好ましい。
また、絶縁フィルムの一方の最表面に、前記接着層を介してまたは介すことなくシーラント層が積層されていることが好ましい。
前記絶縁フィルムは、パック型電池に用いられるものとすることができる。
【発明の効果】
【0006】
本発明の絶縁フィルムによれば、ポリオレフィンに、該ポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子が分散されてなる絶縁層を有するため、熱圧着の際に厚さが保持でき、これによって良好な絶縁性が維持できる。このため、絶縁フィルムを熱圧着した製品の信頼性が高まり、かつ歩留まりが向上できる。しかも、電池用として使用した場合であっても、イオン化し電解液中に溶出して影響を及ぼす懸念がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、最良の形態に基づき、本発明を説明する。
本発明の絶縁フィルムは、ポリオレフィンに、該ポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子が分散されてなる絶縁層を有することを特徴とする。
【0008】
ポリオレフィンとしては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アイオノマー等のポリエチレン系樹脂やホモポリマーポリプロピレン、ランダムポリマーポリプロピレン、ブロックコポリマー、ポリプロピレン−α−オレフィン共重合体等のポリプロピレン系樹脂等が挙げられる。なかでも、優れた加工性、熱融着性、化学的安定性と電気特性を有することからポリエチレン系樹脂が好ましく、特に、エチレン−α−オレフィン共重合体であることがより好ましい。さらに、それらに加えて、耐熱性が要求される場合は、ポリプロピレン系樹脂が好ましく、特に、ホモポリマーポリプロピレンであることがより好ましい。加工性を考慮すると、ポリエチレン系樹脂は、190℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレイト(MFR)が1〜20g/分のものがより好ましく、ポリプロピレン系樹脂は、230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレイト(MFR)が1〜20g/分のものがより好ましい。
例えば、絶縁フィルムの用途が、図3に示すように、パック型電池9の電極端子7を絶縁する用途であれば、プラスチック部材であるパック型電池のパウチフィルム8の内面層8bがポリプロピレンであり、絶縁フィルム3のベースポリマー1をポリプロピレン系樹脂とすると耐熱性に優れるので好ましい。この時、後述するシーラント5を使用する場合も該シーラント5をポリプロピレン系樹脂とすることで高い熱融着強度が得られる。また、パック型電池9のパウチフィルム8の内面層8bがポリエチレン系樹脂であり、絶縁フィルム3のベースポリマー1をポリエチレン系樹脂とすると柔軟性に優れると共に、電極の周囲を気密に密閉できるので好ましい。この時、後述するシーラント5を使用する場合も該シーラント5をポリエチレン系樹脂とすることで高い熱融着強度が得られる。
【0009】
架橋高分子微粒子は、絶縁層のベース樹脂として用いられるポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子の微粒子である。架橋高分子としては、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリスチレンからなる群から選択される1種または複数種を複合したものが挙げられる。
架橋高分子の架橋方法は、懸濁重合時に公知の架橋剤を添加することで達成される。耐熱性及び架橋度は、ポリオレフィンの融点では、ポリオレフィンより剛性が高く、塑性変形しないことが必要であり、架橋高分子微粒子が溶融ないし軟化したポリオレフィンベースポリマー中でその形状や分散特性を維持できることが好ましい。このような微粒子は、懸濁重合時に添加する架橋剤の種類や量により調整が可能であり、重合後の熟成によって微粒子中に残存する架橋剤による架橋やモノマーの重合を進行させることより耐熱性と剛性を向上させることができる。なお、架橋高分子微粒子の剛性は、重合前のモノマーを選択することによっても調整が可能である。なお、架橋高分子は、通常、三次元架橋しているので、架橋度が低くてもポリオレフィンの融点では、ポリオレフィンより剛性が高く、塑性変形しない。
上述の架橋高分子はポリオレフィンとの親和性に優れるため、架橋高分子微粒子はポリオレフィン中に良好に分散させることができ、熱圧着のような加熱加圧条件下でも微粒子の分散性が悪くなることがない。
【0010】
本発明の絶縁フィルムは、図1に示すように、ベースのポリオレフィン層1中に架橋高分子微粒子2が分散された絶縁層3を有するものである。熱圧着時に架橋高分子微粒子2同士が接近ないし接触してポリオレフィン層1が所期の厚さ以下に薄くなることを阻止することから、架橋高分子微粒子の径(最長部分の長さ)は、特に制限はないが、最大でも絶縁層の厚みを超えない程度であることが必要である。架橋高分子微粒子は、通常、ランダムに分散されるが、仮に、単層状に分散された場合を想定すると、絶縁層の厚みは、通常、10μmから100μm程度であることから、架橋高分子微粒子の平均粒子径は、5〜50μm程度であることが好ましい。架橋高分子微粒子の平均粒子径が5μm未満の場合には、熱圧着時に微粒子同士が接触した場合にできる微粒子間の空隙が小さくなる。その結果、微粒子の含有率を高くする必要があり、絶縁フィルムの強度が低下する場合がある。もしくは、微粒子の配合比率を高くしないと熱圧着時に絶縁層の厚みを保持する機能が不足する場合がある。架橋高分子微粒子の平均粒子径が50μmを超える場合には、フィルムの加工性や厚みの均一性、フィルムの外観等の点から好ましくない場合がある。なお、本明細書で「平均粒子径」という場合は、体積基準メジアン径、即ち、粒子群の粒子について、粒子径の小さい方から順に体積を積算し、積算体積が全体積の半分になったときの粒子の粒子径を意味する。
【0011】
また、架橋高分子微粒子は、真球に近いほど好ましい。その理由は、熱圧着時に微粒子同士が接触した場合にできる微粒子間の空隙を大きく取ることができるからである。これにより、微粒子の配合比率を低減することができ、絶縁層の強度低下を抑えられるのである。真球に近いという観点からは、有機微粒子は、例えば、懸濁重合などで製造時に真球度の制御が容易なので無機微粒子に比べて有利である。特に本発明に用いる架橋高分子微粒子を構成する架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸エステル、架橋ポリスチレン樹脂を懸濁重合で製造すると真球状の微粒子が得られる(この場合の懸濁重合は、特にパール重合とも呼ばれる。)ので、好ましい。
【0012】
そして、架橋高分子微粒子の径の分布については、含有率が最大となる径の範囲のピークがシャープ、即ち均一な粒子径を有すること、ないしは、粒子径分布幅が狭いほど好ましい。その理由は、熱圧着時に微粒子同士が接触した場合に大きな微粒子同士の隙間に小さな微粒子が入り込む確率が低くなる。これにより、ベースポリマー中での微粒子間の間隔を大きく取ることができるので、微粒子の配合比率を低減することができ、絶縁層の強度低下を抑えられるのである。そして、粒子径分布の観点からも、有機微粒子は、製造時に制御が容易なので無機微粒子に比べて有利である。懸濁重合で架橋高分子微粒子を製造すると粒子径の分布が広くなる傾向があるが、得られた微粒子を分級することで粒子径が均一な微粒子が得られる。この場合、粒子が真球状なので、特定範囲の粒子径の粒子の含有率をほぼ100%近くとすることも可能である。あるいは、特開平11−209410号公報に開示されているように、ポリアクリルアミドからなる分散剤を用いて分散し、その後、ポリビニルアルコールや界面活性剤からなる分散剤を用いて目的の液滴径に二段階で分散させる懸濁重合法で直接製造してもよい。
【0013】
前記絶縁層は、ポリオレフィン50〜95質量%に対して、架橋高分子微粒子50〜5質量%が配合されたものであることが好ましい。絶縁フィルムの用途によって要求される物理的強度や絶縁機能が異なるので、この配合比は絶対的なものではないが、架橋高分子微粒子の配合量が50質量%を越える場合には、フィルムの加工性や物理的強度が劣り、絶縁フィルムの熱圧着の際、亀裂が生じる場合がある。一方、架橋高分子微粒子が5質量%未満の場合には、熱圧着時に絶縁層の厚みを保持する機能が劣り、絶縁フィルムの熱圧着の際、絶縁フィルムの厚み低下による絶縁フィルムの薄化や切断が生じる場合がある。
【0014】
絶縁層の成形方法は特に限定されず、公知の方法を適宜用いることができる。一例として、ポリオレフィンと架橋高分子微粒子とを混合して加熱し、ポリオレフィンの溶融とともに架橋高分子微粒子を溶融ポリオレフィンに分散させたのちに、Tダイ押出成形やインフレーション成形によりフィルム状に成形する方法を挙げることができる。絶縁層の厚みは、用途によって絶縁する電圧が異なるので、特に限定されないが、例えば、パック型電池の電極端子を絶縁する用途であれば、10μmから100μm程度である。
成形性の観点では、ポリオレフィンと架橋高分子微粒子とが混合したコンパウンドの状態で、MFR(ポリプロピレン系樹脂の場合、230℃、2.16kg荷重、ポリエチレン系樹脂の場合、190℃、2.16kg荷重)が1〜20g/分程度であると溶融押出が容易となるので、好ましい。
【0015】
本発明の絶縁フィルムが絶縁層単層である場合には、Tダイ押出成形機やインフレーション成形機等により溶融したフィルムを冷却固化させることにより、絶縁フィルムを得ることができる。また、プレス法(圧延)やキャスト法(流延)等の利用も可能である。
本発明の絶縁フィルムが接着層やシーラント層等の絶縁層以外の層が積層された多層フィルムである場合には、絶縁層とそれ以外の層の共押出や、絶縁層および/またはそれ以外の層を基材として残余の層を押出または共押出ラミネートすることによって製造が可能である。
【0016】
接着層は、絶縁フィルムをアルミ箔、銅箔やニッケル箔等の金属部材と熱圧着する場合に、該金属部材との接着性を確保するため、絶縁フィルムが金属部材と接する最表面に設けられる。接着層に用いる樹脂としては、金属との接着性の観点から、カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂が好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィンをカルボキシル基および/またはその誘導体(エステルや酸無水物、塩など)をグラフト重合などにより導入して変性させた樹脂、オレフィンとカルボキシル基を有するモノマーの共重合体やそれらの誘導体である。カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂は、加水分解性がないため、空気中の水分や、電解液の水分(電解液が水系電解液である場合)などの水分によって分解しないし、化学的にも安定なので、エチレンカーボネートやジメチルカーボネートなどの溶媒にLiPFやLiBFなどの支持塩を溶解した電解液に侵されることもない。
カルボン酸変性ポリオレフィン樹脂として好適な樹脂の具体例としては、エチレン―アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン―メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン―アクリル酸エチル共重合体(EEA)などのエチレン不飽和カルボン酸共重合体;無水マレイン酸をグラフト重合して変性したポリエチレンやポリプロピレン(接着性レジン);EMAAやEAAをナトリウムや亜鉛などの金属イオンで中和したアイオノマーなどが挙げられる。
【0017】
シーラント層は、例えば、絶縁フィルムをパック型電池のパウチフィルム等のプラスチック部材と熱圧着する場合に、該プラスチック部材と絶縁フィルムとを熱融着するために、絶縁フィルムがプラスチック部材と接する最表面に設けられる。シーラント層に用いられる熱可塑性樹脂としては、プラスチック部材の表面を構成する樹脂と熱融着可能な同一樹脂または同種樹脂が用いられ、その例としてはポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィンが挙げられる。
【0018】
絶縁フィルムの片面に接着層が設けられている場合、シーラント層は、他の片面に積層されることが好ましい。
また、絶縁フィルムの両面に接着層が設けられている場合、シーラント層は、いずれかの片面に接着層を介して積層されてもよい。この場合、絶縁フィルムの最表面にある接着層は、金属部材との接着に好ましく用いることができる。また、シーラント層と絶縁層との間に設けられる接着層は、シーラント層と絶縁層のベースポリマーとの接着性を向上するため用いられる。これらの接着には、ウレタン系等の接着剤やアンカー剤などを用いることもできるが、押出や共押出による樹脂層同士の直接接合が好ましい。特に、パック型電池に適用する場合においては、電解液と接触したときの溶解や反応などの相互作用や、それによるシーラント層と絶縁層との層間剥離を防ぐため、樹脂層同士が直接接合されていることが好ましい。
【0019】
例えばパック型電池において、2枚のパウチフィルム8をシールする箇所に電極端子などの金属部材7を挟み込んで接合する場合、図2に示すように、金属部材7と接合される側の最表面に接着層4を有し、パウチフィルム8と接合される側の最表層にシーラント層5を有する、多層の絶縁フィルム6を用いることができる。この多層の絶縁フィルム6は、接着層4とシーラント層5との間の中間層として、ポリオレフィン層1に、該ポリオレフィン層1の融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子2が分散されてなる絶縁層3を備えている。
【0020】
金属部材7としては、具体的には、電池の電極端子やリード線などが挙げられる。金属部材7の材質としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、銅、金、白金や各種合金など、公知慣用の金属導体を用いることができる。金属部材7の形状は、特に限定されるものではないが、平角単線や丸型単線などが例示される。
パウチフィルム8は、特に限定されるものではないが、例えば、図3に示すように、金属箔8aの両面に、それぞれシーラント層8bおよびプラスチック基材層8cが積層された積層フィルム等が挙げられる。また、シーラント層8bおよびプラスチック基材層8cのいずれか一方または両方と金属箔8aとの間に、他の層が介在されたものでもよい。パウチフィルム8からなるパウチは、二次電池、キャパシタ、コンデンサー、燃料電池などの電源装置や蓄電器等の包装容器として用いられる。金属箔8aとしては、アルミ箔、ステンレス箔、ニッケル箔、金箔、銀箔、銅箔、鉄箔などがある。パウチフィルム8のシーラント層8bとしては、絶縁フィルム6のシーラント層5の材質にもよるが、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィンを用いることができる。プラスチック基材層8cを構成する樹脂は、特に制限はないが、強度の大きいポリアミド、ポリエステルやポリプロピレン系樹脂等が好適に用いられる。これらの樹脂は延伸されたフィルムであるとより高い強度が得られる。これらの樹脂は複数層積層されてもよい。
【0021】
本発明の絶縁フィルムは、導体を含む各種部材2つの間の電気的絶縁を確保するために用いることができる。すなわち両部材間に絶縁フィルムを挟み込んで熱圧着することにより、両部材のギャップを保持することができる。本発明の絶縁フィルムによれば、ポリオレフィンに、該ポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子が分散されてなる絶縁層を有するため、熱圧着の際に厚さが保持でき、これによって良好な絶縁性が維持できる。また、金属イオンを含有しない架橋高分子微粒子を用いることにより、電池用として使用した場合であっても、イオン化し電解液中に溶出して影響を及ぼす懸念がない。このため、絶縁フィルムを熱圧着した製品の信頼性が高まり、かつ歩留まりが向上できる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例において絶縁フィルムを製造し、評価した。
【0023】
(使用原料)
ベースのポリオレフィンとして、
樹脂A:ホモポリマーポリプロピレン(サンアロマー社製「サンアロマーPM600A」、密度900kg/m、MFR(230℃、2.16kg)7.5g/10分、融点163℃)
樹脂B:エチレン−α−オレフィン共重合体(プライムポリマー社製「エボリューSP4020」、密度937kg/m、MFR(190℃、2.16kg)1.8g/10分、融点127℃)
を用いた。
【0024】
架橋高分子微粒子として、
粒子A:架橋ポリメタクリル酸メチル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーMBX−5」(平均粒子径5μm、耐熱性250〜270℃)
粒子B:架橋ポリメタクリル酸メチル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーMBX−12」(平均粒子径12μm、耐熱性250〜270℃)
粒子C:架橋ポリメタクリル酸メチル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーMBX−20」(平均粒子径20μm、耐熱性250〜270℃)
粒子D:架橋ポリメタクリル酸メチル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーMBX−50」(平均粒子径50μm、耐熱性250〜270℃)
粒子E:架橋ポリメタクリル酸ブチル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーBM30X−12」(平均粒子径12μm、耐熱性230〜250℃)
粒子F:架橋ポリスチレン、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーSBX−15」(平均粒子径15μm、耐熱性250〜270℃)
粒子G:架橋ポリメタクリル酸エステル、積水化成品工業株式会社製の「テクポリマーARX−15」(平均粒子径15μm、耐熱性230〜250℃)
を用いた。なお、ここで言う「耐熱性」とは、TG(熱重量測定)で温度を上げた時、粒子を構成する樹脂の熱分解等による重量変化率が3%になる温度である。同一グレード内でも分子量や架橋度のばらつきにより、若干の差がある。
【0025】
(厚み保持機能の評価方法)
図4に示すように、台11上のテフロン(登録商標)ヘラ12(ポリテトラフルオロエチレン樹脂製)の上に試験片13を置き、さらに該試験片13の上にポリエチレンテレフタレートフィルム14を置いた上からヒートシーラー15を当て、試験片13を加熱加圧する。加熱加圧の条件は、200℃、0.5MPa、10秒間とした。加熱加圧後、試験片をヘラ及びポリエチレンテレフタレートフィルムから剥がし取り、加熱加圧した部分の厚みを測定する。
厚み保持機能は、加熱加圧後の厚み/加熱加圧前の厚みの比で評価し、該厚み比が1に近いほど、絶縁フィルムを各種部材に熱圧着したときの厚み変化が小さく、絶縁フィルムを各種部材に固着した後に良好な絶縁性能を有するものと評価することができる。また、前記厚み比が小さいほど、絶縁フィルムを各種部材に熱圧着したときの厚み変化が大きく、絶縁フィルムを各種部材に固着した後に絶縁性能の維持が困難であるものと評価することができる。
【0026】
(メルトフローレイトの測定方法)
成形性の目安として、メルトフローレイト(MFR)を測定した。MFRの試験条件としては、ベース樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合、230℃、2.16kg荷重、ポリエチレン系樹脂の場合、190℃、2.16kg荷重を用いた。
ポリオレフィンと架橋高分子微粒子とのコンパウンドのMFRは、該コンパウンドのベースとしたポリオレフィン自身のMFRと大差がない範囲であれば、ポリオレフィン単独で加工する場合と同様の条件で加工ができ、加工性が良好であると評価することができる。なお、一般に、コンパウンドのMFRは、架橋高分子微粒子の材質、配合比、平均粒子径、粒子形状などにも依存し、ポリオレフィン自身のMFRと比べて、大きくなることも小さくなることもありうる。
【0027】
(実施例1)
樹脂A90質量%と粒子A10質量%とを、株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミルにより200℃、50rpmにて5分間溶融混練してコンパウンドを製造した。さらに該コンパウンドを株式会社東洋精機製作所製のミニテストプレスにより温度180℃にてプレス成形し、厚さが約50μmのフィルムを作製した。
得られたフィルムについて厚み保持機能を評価したところ、加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.92であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は12.3g/10分であった。
【0028】
(実施例2)
粒子Cを用いたこと、以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は1.0であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は12.2g/10分であった。
【0029】
(実施例3)
粒子Dを用いたこと、以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は1.0であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は9.1g/10分であった。
【0030】
(実施例4)
樹脂Bを用いたこと、粒子Bを用いたこと、および、樹脂B80質量%と粒子B20質量%としてコンパウンドを作製したこと、以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前の厚み比は、0.95であった。また、コンパウンドのMFR(190℃、2.16kg荷重)は2.9g/10分であった。
【0031】
(実施例5)
樹脂A80質量%と粒子E20質量%としてコンパウンドを作製したこと、以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、実施例1と同様な方法によって厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.90であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は12.0g/10分であった。
【0032】
(実施例6)
粒子Fを用いたこと、以外は実施例5と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.94であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は10.5g/10分であった。
【0033】
(実施例7)
粒子Gを用いたこと、以外は実施例5と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.88であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は12.1g/10分であった。
【0034】
(実施例8)
粒子Bを用いたこと以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.89であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は11.8g/10分であった。
【0035】
(実施例9)
粒子Bを用いたこと、以外は実施例5と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.92であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は12.0g/10分であった。
【0036】
(実施例10)
樹脂A60質量%と粒子B40質量%としてコンパウンドを作製したこと、以外は実施例1と同様な方法によって、コンパウンド及びフィルムを製造し、厚み保持機能の評価およびMFRの測定を行った。
得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.98であった。また、コンパウンドのMFR(230℃、2.16kg荷重)は5.0g/10分であった。
【0037】
(比較例1)
粒子を配合しない樹脂Aを株式会社東洋精機製作所製のミニテストプレスにより温度180℃にてプレス成形し、実施例1と同様な方法によって、フィルムを製造し、厚み保持機能の評価を行った。得られたフィルムの加熱加圧後と加熱加圧前との厚み比は0.33であった。
【0038】
【表1】

【0039】
以上の各実施例および比較例の結果(表1にまとめを示す。)から明らかなように、実施例2および3の絶縁フィルムは、200℃、0.5MPa、10秒間という条件の加熱加圧によってもフィルムの厚み変化が無かった。特に、実施例3においては、フィルムの厚みと架橋高分子微粒子の平均粒子径が同じなので、このことから、この微粒子は、ポリオレフィンの融点では、塑性変形しないことが判る。また、実施例8〜10においては、架橋高分子微粒子の配合比が高くなるに従い、厚み変化が小さくなることが判る。そして、他の実施例においても厚み変化が小さいことが判かる。よって実施例の絶縁フィルムは、各種部材との熱圧着においても、絶縁フィルム(絶縁層)の厚みを保持して、絶縁機能を維持することができるということができる。
さらに、実施例の絶縁フィルムを構成するコンパウンドは適度なMFRを示し、フィルムへの成形性にも何ら問題が無いので、本実施例に示したプレスによる成形方法に限らず、押出成形、押出ラミネート、共押出成形にも適用可能ということができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、金属部材や金属を内蔵するプラスチック部材などの接合部において電気的絶縁を確保するために用いることができる。例えばリチウム電池等において絶縁機能を必要とする接合部に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の絶縁フィルムの絶縁層の構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】接着層およびシーラント層を設けた本発明の絶縁フィルムの構成例を示す断面図である。
【図3】パック型電池のパウチ端部において、パウチフィルムと電極端子との間に図2に示す絶縁フィルムを介在させて接合した状態を示す断面図である。
【図4】厚み保持機能の評価方法を説明する図面である。
【符号の説明】
【0042】
1…ポリオレフィン層、2…架橋高分子微粒子、3…絶縁層、4…接着層、5…シーラント層、6…多層の絶縁フィルム、7…電極端子(金属部材)、8…パウチフィルム(プラスチック部材)、9…パック型電池。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィンに、該ポリオレフィンの融点では塑性変形しない架橋高分子微粒子が分散されてなる絶縁層を有することを特徴とする絶縁フィルム。
【請求項2】
前記架橋高分子微粒子は、架橋ポリアクリル酸エステル、架橋ポリメタクリル酸エステルおよび架橋ポリスチレンからなる群から選択される1種または複数種の微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁フィルム。
【請求項3】
前記架橋高分子微粒子は、平均粒子径が5〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁フィルム。
【請求項4】
前記絶縁層は、ポリオレフィン50〜95質量%に対して、架橋高分子微粒子50〜5質量%が配合されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の絶縁フィルム。
【請求項5】
絶縁フィルムの一方又は両方の最表面に、酸変性ポリオレフィン樹脂からなる接着層が積層されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の絶縁フィルム。
【請求項6】
絶縁フィルムの一方の最表面に、前記接着層を介してまたは介すことなくシーラント層が積層されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の絶縁フィルム。
【請求項7】
絶縁フィルムがパック型電池に用いられるものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の絶縁フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−4430(P2008−4430A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174016(P2006−174016)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】