説明

絶縁性基材の表面抵抗値を低下させる方法

【課題】 光学基材等の絶縁性基材上に、コーティング等の工程を経ることなく、該基材上に良好な帯電防止性を付与する方法を提供することに加え、前記方法に好ましく使用することができる、透明性、再剥離性に優れる粘着シートを形成し得る帯電防止アクリル粘着剤を提供する。
【解決手段】 導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを絶縁性被着体に貼着した後、前記粘着フィルムを剥がすことにより、前記絶縁性被着体表面の表面抵抗値を低下させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基材の表面抵抗値を低下させる方法に関する。詳しくは、本発明は、被着体表面を所定の期間、機械的及び電気的に保護するための表面保護用粘着フィルムの粘着剤層が有している帯電防止能を利用し、被着体である基材の表面抵抗値を低下させる方法に関する。より詳しくは、本発明は、液晶パネル、プラズマディスプレイ、CRT(ブラウン管)等のディスプレイ製造に使用される、偏光板等の光学基材の表面抵抗値を、上記帯電防止能を利用することにより低下させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワードプロセッサ、コンピュータ、携帯電話、テレビ等の各種ディスプレイ製造に使用される偏光板等の光学基材や電子基板等の表面には、通常、表面保護及び機能性付与の目的でポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン等の透明な表面保護フィルムが粘着剤層を介して積層される。
【0003】
これら表面保護粘着フィルムは、通常、表面が剥離処理されたセパレータを粘着面に貼り合わせた形態で流通し、保護粘着フィルムとして使用する際に前記セパレータを剥がし、被着体へ貼り合わせる場合が多い。この、セパレータを剥がす時に、静電気による剥離帯電が発生し、これが原因となって液晶や電子回路が破壊されるというトラブルが発生することがある。さらには、保護フィルムとしての機能を終えて被着体から剥離される際にも、今度は被着体との間で生ずる剥離帯電により、上記と同様なトラブルが発生することがある。
【0004】
そこで、上記のような、剥離時に発生する静電気による弊害を除去すべく、表面保護粘着フィルムに帯電防止性を付与する手段として、以下に示すような種々の方策が提案されている。
例えば、
(1) 表面保護粘着フィルムを構成する基材フィルム自体に帯電防止性を付与する、
(2) 表面保護粘着フィルムを構成する基材フィルムと粘着剤層との間に、又は基材フィルムの粘着剤層が積層されていない方の面に、帯電防止性能を有する層を設ける、
(3) 表面保護粘着フィルムを構成する粘着剤層に帯電防止性を付与する、等。
【0005】
(1)の方法は、基材フィルムの原料たるポリエステルやポリエチレン等の熱可塑性樹脂に有機スルホン酸塩基等のアニオン性化合物、金属粉、カーボンブラック等の導電性フィラーを練り混んで得られる導電性基材フィルムを利用する方法であり、この場合基材フィルムの透明性が低下したり、フィルムが着色したりする。
ところで、被着体に表面保護粘着フィルムを貼着している間も、被着体の表面保護外観が粘着フィルムを介して絶えず検査され得るようになっている必要がある。そのため、表面保護粘着フィルムの基材シート自体も、透明性に優れ、かつ光学的にも欠陥を有していないことが必要とされる。
従って、導電性フィラー含有基材フィルムを用いてなる表面保護粘着フィルムを被着体に貼着した場合、被着体表面が見えにくくなるという問題がある。また、基材フィルムが高価格になるという欠点もある。
【0006】
(2)の方法は、以下に示すようにさらに様々なバリエーションがある(特開平7−26223号公報、特開平11−256116号公報、特開平2001−219520号公報、特開2002−060707号公報、特開2002−275296号公報等参照)。
(2-1) 基材フィルムの少なくとも一方の面に金属化合物を蒸着する、
(2-2) 基材フィルムの少なくとも一方の面に、4級アンモニウム塩、スルホン酸塩基を有する長鎖アルキル化合物等のようなアニオン型界面活性剤、チオフェン誘導体、主鎖にイオン化された窒素元素を有するポリマーや、スルホン酸塩基変性ポリスチレン等の種々の帯電防止剤を含有する層を設ける、等。
しかし、金属化合物の蒸着は、非常にコストがかさむため経済的でない。
また、スルホン酸塩基を有する長鎖アルキル化合物等のようなアニオン型界面活性剤は、その多くが低分子量の化合物であるので、界面活性剤の一部が、それを含有する層の内部を移動して基材フィルムとの界面に集積し、基材フィルムの反対面等に移行する問題や、帯電防止性が経時的に低下するという問題がある。
また、主鎖にイオン化された窒素元素を有するポリマーや、スルホン酸塩基変性ポリスチレン等は高分子量であるので、上記のような移動という問題は生じない。しかし、良好な帯電防止性能を得るためには多量の帯電防止剤の配合が必要であり、帯電防止層の膜厚を厚くする必要があるため経済的でない。さらに、屑フィルム(例えば、製造工程で切断除去したフィルム端部等)を回収し、フィルム製造用の再生材料として使用した場合、溶融製膜の際に該再生材料中に含まれる帯電防止剤成分が熱劣化し、再生されるフィルムが著しく着色し実用性に欠けるものとなる等の問題が生じる。さらには、フィルム同士が剥離し難い(ブロッキングする)、帯電防止剤層が削れ易い等の欠点も有している。
【0007】
(3)の方法は、静電気の発生する剥離界面に帯電防止性能を付与する方法であり、帯電防止性能を有する樹脂を用いて粘着剤を製造する方法と、帯電防止剤を含有する粘着剤を用いて粘着剤層を形成する方法とがある(特許文献1:特開平1−253482号公報)。
前者の場合、導電性と換言することもできる樹脂自体の帯電防止性能が不十分である。
後者の場合、用いられる帯電防止剤としては、各種界面活性剤やカーボンブラック等の導電性粉末が挙げられる。しかし、界面活性剤を含有する粘着剤を用いた場合、一般に界面活性剤が粘着剤層表面、即ち被着体との貼着界面に偏在する傾向にあり粘着性能が湿度の影響を極めて受けやすくなる。つまり、高湿度下の場合、界面活性剤の存在により水分が取り込まれやすくなり、その水分が粘着剤層の凝集力を低下させ、表面保護粘着フィルムを剥離する際、被着体に粘着剤層が一部残りやすい(いわゆる「糊残り」し易い)。他方、カーボンブラック等の導電性粉末を含有する導電性粘着剤を用いた場合には、粘着剤層の透明性が低下したり、フィルムが着色したりするという問題を生じる。
【0008】
透明性に優れ着色の問題がほとんど生じない帯電防止剤の利用が、特許文献2:特許第2718519号に開示されている。
しかし、特許文献2記載の発明は、導電性粘着剤に関するとはいうものの生体に貼り付けて使用する電極パッド用のものであり、特許文献2記載の導電性粘着剤は表面保護粘着フィルム用には到底使用し得るものではなかった。
【0009】
ここに、液晶パネル等のディスプレイ装置を製造するために用いられ、発光部の前面あるいは背面に配置される光学フィルム等の光学基材は、偏光板などの各種機能を有する基材が複数積層された、複合積層体とされて組み込まれているのが一般的な態様である。
その複合積層体を形成するにあたって、特に帯電防止性が要求される部位を形成するための基材にあっては、あるいは基材そのものが極めて帯電しやすい性状のものである場合においては、それらの基材上に帯電防止性を付与するためのコーティングが施され、その上にさらに帯電防止性の保護フィルムが貼り付けられ、それらの基材を積層する工程において該保護フィルムが剥がされた後に積層に供されているのが現状である。
即ち、上記の複合積層体の製造工程においては、特に帯電防止性が求められる基材に対して、帯電防止性を付与するためのコーティングを施す工程の存在を余儀なくされており、この工程の省略による、複合積層体の製造設備の合理化、および製造コストの低下が従来より望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開平1−253482号公報
【特許文献2】特許第2718519号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、絶縁性の基材、中でも液晶パネル、プラズマディスプレイ、CRT等の各種ディスプレイの製造に使用される、偏光板等の光学基材用の表面保護粘着フィルムの粘着剤層が有する導電性機能を利用し、前期絶縁性基材の表面抵抗値を低下させる方法を提供するとともに、前記粘着剤層を好ましく形成し得る、透明性に優れ着色もほとんどなく、再剥離性に優れ、剥離時の剥離帯電が少ない帯電防止粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意検討の結果、光学基材を一時的に保護するために用いられる、導電性粘着剤層が設けられてなる表面保護粘着フィルムを絶縁性基材に貼付けた後、それを剥離することにより、前記絶縁性基材の表面抵抗値を低下させ得ることを見出し、且つ、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系共重合体(A)にイオン化合物(B)及び硬化剤(C)を配合することにより、前記導電性粘着剤層の形成に好適に用いることができる帯電防止アクリル粘着剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、本発明は、導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを絶縁性被着体に貼着した後、前記粘着フィルムを剥がすことにより、前記絶縁性被着体表面の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0014】
また、本発明は、粘着フィルムの粘着剤層の表面抵抗値が、1.0×1012(Ω/□)未満であることを特徴とする上記発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0015】
また、本発明は、粘着フィルム貼着前の絶縁性被着体の表面抵抗値が1.0×1013(Ω/□)以上であり、粘着フィルムを貼着け、剥離した後の被着体の表面抵抗値が1.0×1013(Ω/□)未満であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0016】
また、本発明は、絶縁性被着体が光学フィルムであることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0017】
さらに、本発明は、導電性粘着剤層が、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系共重合体(A)、イオン化合物(B)及び硬化剤(C)を含有する帯電防止アクリル粘着剤から形成されることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0018】
また、本発明は、アルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする上記発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0019】
また、本発明は、アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が5万〜100万であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0020】
また、本発明は、帯電防止アクリル粘着剤が、アルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)をさらに含有することを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0021】
さらに本発明は、帯電防止アクリル粘着剤が、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有する重量平均分子量が5万〜20万の低分子量アクリル系共重合体(A1)と、アルキレンオキサイド鎖を有しない重量平均分子量が20万〜100万の高分子量アクリル系共重合体(D1)とを含有することを特徴とする上記発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0022】
また、本発明は、帯電防止アクリル粘着剤が、アクリル系共重合体(A)と(D)との合計100重量部に対して、イオン化合物(B)を0.1〜50重量部含むことを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0023】
また、本発明は、イオン化合物(B)が無機塩類であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0024】
また、本発明は、アクリル系共重合体(A)がアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーを共重合に供してなるものであり、アクリル系共重合体(A)及び(D)を構成する全モノマーを100重量%とした場合に、アルキレンオキサイド鎖を有するモノマーが1〜60重量%であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0025】
また、本発明は、硬化剤(C)が、3官能イソシアネート化合物および/または多官能エポキシ化合物であることを特徴とする上記いずれかの発明に記載の表面抵抗値を低下させる方法に関する。
【0026】
さらにまた、本発明は、導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを貼着した後、前記粘着フィルムを剥がすことにより表面抵抗値が低下した光学フィルムに関する。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、適正な表面抵抗値を有し、透明性、再剥離性に優れる帯電防止粘着剤が得られ、且つ、絶縁性被着体の表面抵抗値を低下させることが容易にできるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
一般的に、静電気による剥離帯電現象を定量的に考えると、『帯電量』=『発生量』−『漏洩量』という関係が成り立つ(文献1)。
本発明での帯電防止性能の評価は、表面抵抗値の測定によって、上記で言う『漏洩量』の目安、即ち漏洩のしやすさという尺度で評価している。その理由は、測定環境や測定方法による誤差が少なく、正確に測定できるからである。一方、剥離帯電圧の測定による場合もあるが、これは上記の『帯電量』および『発生量』に相当するものを測定する手法であり、両者とも時間とともに変化する値で、特に、本発明のような適正な導電性を付与した粘着フィルム等の評価に用いる場合、その絶対値が小さく、測定に誤差が生じやすい。
最終形態において、剥離帯電圧を実測する場合もあるが、その場合、数値は1.0kV以下が好ましく、さらには0.5kV以下が好ましい。
なお、一般的に絶縁性とは、その基材の表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1013以上である場合のことを言う。また、1012〜1013のべき乗範囲では埃防止、1010〜1012のべき乗範囲では動的な静電気障害防止に有効であるとされている(文献2)。本発明でいう絶縁性とは、表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1013以上である状態を指し、本発明の方法により低下させた、絶縁性基材の表面抵抗値(Ω/□)のべき乗は1012以下であることが好ましく、さらに好ましくは1011以下である。
(文献1)
【0029】
菅野功、帯電防止材料の技術と応用、第1版、シーエムシー、P.13(1996)
(文献2)
高井好嗣、帯電防止材料の技術と応用、第1版、シーエムシー、P.101(1996)
【0030】
本発明に用いられる粘着フィルム上に設けられる導電性粘着剤層の表面抵抗値は1.0×1012(Ω/□)未満であることが好ましく、さらに好ましくは1.0×1011(Ω/□)未満である。1.0×1012(Ω/□)以上であると、被着体の表面抵抗値を下げる効果が不十分となりやすく、さらには、導電性粘着剤としての機能も劣ってしまうので好ましくない。
【0031】
また、本発明に用いられる粘着フィルム上に設けられる導電性粘着剤層は、透明であることが好ましい。
【0032】
本発明の表面抵抗値を低下させる方法は、様々な絶縁性被着体に適用可能であるが、特に光学フィルムに適用することが好ましい。さらに好ましくは、偏光板、位相差板等のプラスチック性基材からなる光学フィルムに適用することである。
【0033】
本発明の表面抵抗値を低下させる方法とは、粘着フィルム上に設けられた導電性粘着剤層が有する導電性の機能物質を、被着体の表面に転写させることであり、その程度は、目視で被着体表面に変化が認められない程度の極少量の成分移行であると考えられる。その成分の定着性および安定性を考慮した場合、被着体としては様々なポリマー、化合物との親和性が高いプラスチック基材がより好ましくなる。一方、ガラス基材の場合、表面抵抗値は低下するものの、定着性に問題がある場合が多い。
【0034】
本発明における、導電性粘着剤層を形成するための粘着剤に用いられる樹脂の種類としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、天然ゴム、合成ゴム等を挙げることができる。粘着剤としての物性の制御のしやすさ、及びコストを考慮するとアクリル樹脂、ウレタン樹脂が好ましいが、アクリル樹脂であることが特に好ましい。
【0035】
また、本発明における、導電性粘着剤層に含有される導電性成分としては、特に限定されるものではなく様々な態様のものを使用することができる。粘着物性および透明性等を考慮すると、導電性ポリマー、イオン化合物が好ましいが、高い導電性が得られやすいという観点からイオン化合物が特に好ましい。
【0036】
本発明の、絶縁性基材の表面抵抗値を低下させる方法としては、導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを任意の条件下で絶縁性の被着体に貼り合わせ、その後該粘着フィルムを剥がすことにより達成することができる。被着体上への導電性成分の移行、および移行成分と被着体との親和性を考慮すると、被着体に貼り合わされた後、加温されることが好ましい。その温度範囲は15℃〜120℃であることが好ましく、粘着フィルムのフィルム基材および被着体基材の耐熱性を考慮すると、20℃〜80℃であることがより好ましい。
【0037】
本発明の、絶縁性基材の表面抵抗値を低下させる方法を、偏光板等の光学基材に対して適用する場合、光学基材及びそれらからなる積層体は、信頼性試験や耐久性試験において、表面保護用の粘着フィルムが貼られたままの状態で試験に供されることが多い。これらの試験条件としては、80℃の高温下や、60℃−90%RHの高温高湿度下に、100〜1000時間程度放置される。この場合、前記のような特段の加温工程を設ける必要がないため、本発明の表面抵抗値を低下させる方法において好ましい態様となり得る。
【0038】
本発明に好ましく用いられる帯電防止アクリル粘着剤を構成する、アクリル系共重合体(A)は、水酸基とアルキレンオキサイド鎖を有するものであり、水酸基を有するアクリル系モノマーとアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーと、必要に応じてこれらと共重合可能な他のアクリル系モノマーから合成することができる。
【0039】
本発明に好ましく用いられる、水酸基を有するアクリル系モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。本発明では、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0040】
本発明において、水酸基を有するアクリル系モノマーを好ましく使用する目的は、被着体に対する粘着力を確保しつつ再剥離性を確保するためである。さらに詳しく説明すると、粘着剤層を形成する際に使用する後述のイソシアネート系硬化剤等の硬化剤(C)とこれらの水酸基との反応を利用して架橋構造を形成し、他方後述するようにアクリル系共重合体(A)の分子量を制御することにより、粘着力と再剥離性とのバランスをとることができる。
【0041】
よって、アクリル系共重合体(A)を単独で使用する場合、または、後述するアルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)を併用するいずれの場合においても、共重合体を構成する全モノマーを100重量%とした場合水酸基を有するアクリル系モノマーは1〜30重量%であることが好ましい。さらに好ましくは、3〜10重量%である。水酸基を有するアクリル系モノマーが1重量%未満だと、粘着剤層としての架橋度及び凝集力が不足し、粘着力が大きくなりすぎたり、糊残りが発生しやすいので好ましくない。30重量%を超えると、架橋度が高くなりすぎて粘着性が乏しくなるので好ましくない。
【0042】
本発明に好ましく用いられる、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーとしては、エチレンオキサイド鎖を有するモノマー、プロピレンオキサイド鎖を有するモノマー、およびその両者を有するモノマーが挙げられる。
【0043】
エチレンオキサイド鎖を有するモノマーとしては、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
プロピレンオキサイド鎖を有するモノマーとしては、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
本発明では、後述のイオン化合物との相溶性を考慮して、エチレンオキサイド鎖を有するモノマーが好ましく、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0044】
本発明においてアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーを好ましく使用する目的は、イオン化合物(B)とアルキレンオキサイド鎖で錯体を形成させ、導電性を発現させるためである。よって、アルキレンオキサイド鎖の役割は非常に大きく、単に錯体形成の場を与えるだけでなく、イオン化合物(B)の移動媒体としての働きも同時に担っている。言い換えると、本発明における導電性は、イオン化合物(B)の量とアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーの含有量によって大きく変動する。
【0045】
よって、アクリル系共重合体(A)を単独で使用する場合、または、後述するアルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)を併用するいずれの場合においても、共重合体を構成する全モノマーを100重量%とした場合アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーは、1〜60重量%が好ましい。さらに好ましくは5〜50重量%である。
【0046】
本発明に用いられ得る、上記のアクリル系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸等を挙げることができる。本発明においては、粘着物性を確保するという点で、炭素数が4〜12のアクリル系モノマーを共重合に供することが好ましい。さらに好ましくは、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0047】
上述の水酸基を有するアクリル系モノマー、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー、及びその他のモノマー等を共重合してなるアクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は5万〜100万であることが好ましく、5万〜20万の低分子量アクリル系共重合体(A1)であることがより好ましい。
【0048】
背景技術の項でも述べたように光学部材用保護フィルム用の粘着剤には、帯電防止機能と再剥離性と透明性が要求される。従って、帯電防止機能の観点からはアクリル系共重合体(A)がより多くのアルキレンオキサイド鎖を含むことが好ましい。
ところで、光学基材の中には非常に薄く、壊れやすいものがある一方、比較的丈夫なものもあり、保護フィルムをどのような被着体に貼着するかによって、保護フィルムそして粘着剤に要求される剥離力の大きさは異なる。
即ち、壊れやすい光学基材を被着体とする場合には、貼着後保護フィルムを剥離する際に被着体を損傷しないようにするために、剥離力は200g/25mm以下であることが好ましく、さらに好ましくは100g/25mm以下である。
一方、比較的強い光学基材を被着体とする場合には、剥離力は1000g/25mm程度まで許容され得る。
尚、剥離時に粘着剤が被着体に残らないことは被着体がどのようなものであっても常に要求される。
【0049】
粘着剤の剥離力は、粘着剤を構成する主たる成分である樹脂成分の有する凝集力と、該主成分と後述する硬化剤(C)との架橋の状況によって大きく影響を受ける。一般に樹脂成分に対して硬化剤(C)を多量に用いることによって、剥離力を低下することができる。また、一般に樹脂の分子量を大きくすることによって、凝集力を大きくすることができる。
【0050】
本発明において、剥離時の200g/25mm以下の低剥離力が要求される場合には、主成分、即ちアクリル系共重合体(A)100重量部に対して硬化剤(C)を1〜30重量部用いることが好ましく、2〜20重量部用いることがより好ましく、3〜15重量部用いることがさらに好ましい。尚、低剥離力発現の観点からは硬化剤(C)は多い方が好ましい。しかし、多すぎると架橋が過度になり、滑らかには剥離できず、きしみながら剥離する。
本発明で好ましく使用するアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーは、一般に他のアクリル系モノマーと容易に共重合することが可能ではあるが、その反面連鎖移動効果が大きい。従って、導電性向上の観点からアルキレンオキサイド鎖の含有量を多くしようとすると、得られるアクリル系共重合体(A)の分子量が低下し易く、分子量が低下するとアクリル系共重合体(A)自体の凝集力が低下し易くなり、剥離時に被着体に粘着剤が残存し易くなる。
しかし、低剥離力確保のために上記したようにアクリル系共重合体(A)に対して相対的に多量の硬化剤(C)を用いると、密な架橋の粘着剤層を得ることができるので、比較的低分子量のアクリル系共重合体(A1)を用いても剥離時に被着体に粘着剤が残存することがなくなる。
従って、低抵抗かつ上記のような低剥離力が要求される場合には、アクリル系共重合体(A)として、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーをより多く共重合してなるMwが5万〜20万の低分子量アクリル系共重合体(A1)を用いることが好ましい態様の1つである。
【0051】
また、本発明においては、アクリル系共重合体(A)として、Mwが20万〜100万の高分子量アクリル系共重合体(A2)を用いることもできる。アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーの連鎖移動効果を制御しながら共重合することによって、比較的高分子量でありながら、導電性に優れるアクリル系共重合体(A2)を得ることができる。
例えば、重合の工程を複数にしたり(多段重合反応)、開始剤の量を少なくしたり、モノマー濃度を制御したりすることによって得ることができる。より具体的には、共重合に供するアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーを重合の初期には全く若しくはほとんど用いずに、重合を進行させ、ある程度高分子量化した後に、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーの全部若しくは大部分を重合に供することによって得ることができる。このようないわゆる二段重合法を利用する場合、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーの主たる量を重合する際には、重合開始剤もさらに用いることができる。
【0052】
尚、高分子量アクリル系共重合体(A2)は上記低分子量アクリル系共重合体(A1)に比して、それ自体の凝集力が大きいので硬化剤(C)の量を減らしても剥離時に糊残りは生じ難い。しかし、剥離力が100g/25mm以下、好ましくは50g/25mm以下というような微粘着が要求されるような場合には、粘着剤中に密な架橋構造を形成することが好ましい。従って、硬化剤(C)は、上記低分子量アクリル系共重合体(A1)の場合と同様に高分子量アクリル系共重合体(A2)100重量部に対して1〜30重量部用いることが好ましい。
【0053】
さらに、本発明においては、共重合体(A)に、アルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)を併用することもでき、Mwが20万以上100万以下のアルキレンオキサイド鎖を有しない高分子量アクリル系共重合体(D1)を、Mwが5万〜20万のアルキレンオキサイド鎖を有する低分子量アクリル系共重合体(A1)と併用することも本発明の態様の1つである。
高分子量アクリル系共重合体(D1)を併用する場合は、低分子量アクリル系共重合体(A1)/高分子量アクリル系共重合体(D1)=5〜80/20〜95(重量比)であることが好ましく、10〜60/40〜90(重量比)であることがより好ましい。
上記したように低分子量アクリル系共重合体(A1)は、多くの場合導電性には優れるが、凝集力の小ささ故に糊残りの抑制・防止の観点から硬化剤(C)を多量に使用する必要がある。このような低分子量アクリル系共重合体(A1)に対し、高分子量アクリル系共重合体(D1)を併用することによって、硬化剤(C)の使用量を減らすことができる。例えば、低分子量アクリル系共重合体(A1)と高分子量アクリル系共重合体(D1)の合計100重量部に対し、硬化剤(C)を0.1〜20重量部用いることができ、好ましくは0.5〜10重量部用いることができる。剥離時に1000g/25mm程度までの剥離力が許容され得る場合には、このように、高分子量アクリル系共重合体(D1)を併用しつつ、硬化剤(C)を減らすことによって、様々なレベルの帯電防止性、再剥離性に対する要求に応えることができる。
また、低分子量アクリル系共重合体(A1)と高分子量アクリル系共重合体(D1)の合計100重量部に対し、硬化剤(C)を1〜30重量部用いれば、低剥離力の粘着剤を得ることもできる。
【0054】
本発明において好ましく用いられるアルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)は、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーを重合に供しない以外、アクリル系共重合体(A)と同様に得ることができる。
【0055】
本発明においては、アクリル系共重合体(A)と高分子量アクリル系共重合体(D)とをそれぞれ得ておき、両者を混合してもよいし、あるいは高分子量アクリル系共重合体(D)を得、該高分子量アクリル系共重合体(D)の存在下にアクリル系共重合体(A)用のモノマーを重合してもよい。後者の方法は、先に述べたアクリル系共重合体(A)を得る際の多段重合法にやや似ている。両者の相違点は、アクリル系共重合体(A)を得る際の多段重合法は、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーの主たる量を重合する二段目以降の重合の際には、アルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマーのみを重合に供するのに対し、高分子量アクリル系共重合体(D)の存在下にアクリル系共重合体(A)用のモノマーを重合する場合、2段目以降の重合の際にはアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系モノマー及び他のモノマーを重合に供する点である。
【0056】
本発明に好ましく用いるイオン化合物(B)としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、過塩素酸リチウム、塩化アンモニウム、塩素酸カリウム、塩化アルミニウム、塩化銅、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム等の無機塩類、
酢酸ナトリウム、アルギン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、トルエンスルホン酸ソーダ等の有機塩類が挙げられる。
これらは単独もしくは混合して使用することができる。導電性及び安全性等の観点から、塩化ナトリウム、塩化カリウム、過塩素酸リチウム等が好ましい。
【0057】
また、その含有量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、またはアクリル系共重合体(D)を併用する場合には両者共重合体の合計100重量部に対して、0.1〜50重量部であることが好ましい。さらに好ましくは1〜30重量部である。0.1重量部未満では十分なイオン導電性が得られず、50重量部よりも多くイオン化合物(B)を含有しても導電性向上の効果がほとんど期待できなくなり、さらに粘着物性の低下、及び樹脂との相溶性の低下により塗膜の白化が起こりやすくなるので好ましくない。
【0058】
本発明において好ましく用いられる帯電防止アクリル粘着剤を用いてなる粘着フィルム、即ち光学基材用保護フイルムの経時安定性には、含まれるイオン化合物(B)の量と、アクリル系共重合体(A)に含まれるアルキレンオキサイド鎖の量が大きく影響する。
アルキレンオキサイド鎖の量が多い場合は、イオン化合物(B)と効率よく錯体を形成することができるが、アルキレンオキサイド鎖の量が少なく、イオン化合物の量が多いと、錯体を形成し得ない過剰のイオン化合物が粘着剤層表面に高濃度に偏在し、上記のような白化現象が起こりやすくなる。また、粘着剤層表面の、経時での表面抵抗値も上昇しやすくなってしまう。
これらの観点から、粘着剤層中に含まれるアルキレンオキサイド鎖の量をできるだけ多くし、要求される導電性を発現し得る最低限のイオン化合物(B)を添加することが好ましい。
【0059】
本発明に好ましく用いられる帯電防止アクリル粘着剤においては、凝集力及び架橋度を上げるために、好適に硬化剤(C)を使用することができる。
本発明の硬化剤(C)としては、アクリル系共重合体(A)及び/または(D)中に含まれる水酸基等の官能基と反応し得る官能基を好ましくは1分子中に2個以上有するものが好ましい。例えば、公知の3官能イソシアネート化合物、公知の多官能エポキシ化合物を好適に使用することができる。これらは併用することもできる。
【0060】
公知の3官能イソシアネート化合物としては、公知のジイソシアネート化合物を3官能ポリオール成分で変性したいわゆるアダクト体、ジイソシアネート化合物が水と反応したビュレット体、ジイソシアネート化合物3分子から形成されるイソシアヌレート環を有する3量体(イソシアヌレート体)を使用することができる。
【0061】
公知のジイソシアネート化合物としては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0062】
芳香族ジイソシアネートとしては、1,3−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−トルイジンジイソシアネート、ジアニシジンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート等を挙げることができる。
【0063】
脂肪族ジイソシアネートとしては、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、2,3−ブチレンジイソシアネート、1,3−ブチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0064】
芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、ω,ω’−ジイソシアネート−1,3−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジメチルベンゼン、ω,ω’−ジイソシアネート−1,4−ジエチルベンゼン、1,4−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0065】
脂環族ジイソシアネートとしては、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチル−2,6−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。
【0066】
本発明に用いられ得るジイソシアネート化合物としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、3−イソシアネートメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)を使用することが好ましい。
【0067】
公知の多官能エポキシ化合物としては、エポキシ基を分子内に複数個有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。該多官能エポキシ化合物としては、具体できには、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA・エピクロロヒドリン型エポキシ樹脂、N,N,N’N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0068】
上述の硬化剤(C)については、3官能イソシアネート化合物および多官能エポキシ化合物をそれぞれ単独および併用して使用することができる。柔軟性を重視する用途で使用する場合は、3官能イソシアネート化合物を使用することが好ましく、耐熱性を要求される場合、多官能エポキシ化合物を使用することが好ましい。
上記したように200g/25mm以下、好ましくは100g/25mm以下の低剥離力が求められる場合には、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して硬化剤(C)を1〜30重量部用いることが好ましく、2〜20重量部用いることがより好ましく、3〜15重量部用いることがさらに好ましい。
また、多官能エポキシ化合物を使用する場合は、より効果的に架橋剤として作用するために、アクリル系共重合体(A)にアクリル酸またはメタクリル酸が含まれていることが好ましい。その含有量については、全アクリルモノマー中、重量比で0.5〜5%であることが好ましい。0.5%未満では、架橋剤として十分に作用せず、5%を超えると、硬化剤(C)を添加後のポットライフが短くなりやすいので好ましくない。
【0069】
本発明で好ましく用いられる帯電防止アクリル粘着剤には、さらに必要に応じて、他の樹脂、例えばアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂を併用することもできる。また、用途に応じて、粘着付与剤、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等の充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、消泡剤、光安定剤等の添加剤を配合しても良い。
【0070】
本発明における帯電防止粘着剤を用いて、該粘着剤から形成される粘着剤層と、プラスチックフィルム、紙、布、発泡体等の基材とが積層された粘着フィルムを得ることができ、粘着剤層の表面を剥離シートで被覆しておくことができる。
粘着フィルムは、各種基材に粘着剤を塗布したり含浸したりし、これを乾燥・硬化することによって得ることができる。あるいは、剥離シート上に粘着剤を塗布し、これを乾燥し、形成されつつある粘着剤層表面に各種フィルム基材を積層し、粘着剤中の水酸基と硬化剤(C)中のイソシアネート基、あるいは粘着剤中のカルボキシル基と硬化剤(C)中のエポキシ基との反応を進行させることによっても得ることができる。
【0071】
本発明における粘着剤は、フィルム基材として好ましくは透明なプラスチックフィルムに適用することによって、光学基材用の表面保護粘着フィルムを好適に得ることができる。
【0072】
プラスチックフィルムとしては、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリウレタンフィルム、ナイロンフィルム、処理ポリオレフィンフィルム、未処理ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【0073】
本発明の帯電防止粘着剤は、乾燥・硬化した際に2〜200μm程度の厚みになるように基材等に塗布することが好ましい。2μm未満だとイオン導電性が乏しくなり、200μmを越えると粘着シートの製造、取り扱いが難しくなる。
このようにして粘着剤層の表面抵抗値が1.0×1012(Ω/□)未満の帯電防止粘着フィルムを得ることができる。
【0074】
本発明の帯電防止粘着剤を用い、その用途、要求性能等を考慮した上で、種々の態様の帯電防止粘着フィルムを得ることができる。
例えば、偏光板の保護フィルム用の帯電防止粘着フィルムについて、図面に基づいて説明する。
図1は、PETフィルムの偏光板側に帯電防止アクリル粘着剤層が、
図2は、PETフィルムの偏光板側、反対側の両面に帯電防止アクリル粘着剤層が、
図3は、PETフィルムの偏光板側に帯電防止コーティング剤層、さらに帯電防止アクリル粘着剤層が、
図4は、PETフィルムの偏光板側に帯電防止アクリル粘着剤層、その反対側に帯電防止コーティング剤層が、それぞれ位置する態様を示す。
光学部材、電子部材の表面保護用のフィルムに本発明の粘着剤を用いる場合、剥離帯電量をさらに低減するために、図3、4の様な形態をとることも可能である。
また、プラスチックフィルムに機能性を持たせる様な用途では、図2の様な形態をとり、機能性フィルムをさらに貼り合わせることもできる。
作業性及び製作コスト等を考慮すると、図1の形態が最も好ましい。
【0075】
図3、図4に示すように粘着剤層とプラスチックフィルム基材との間、またはプラスチックフィルム基材の粘着剤層側でない反対側(トップコート)に粘着性を有しない帯電防止性コーティング層を設ける場合に用いられる帯電防止剤としては、金属フィラー、4級アンモニウム塩誘導体、界面活性剤、導電性樹脂等を挙げることができる。
【0076】
金属フィラーとしては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アンチモン等の金属酸化物、カーボン、銀、銅等の金属等が挙げられる。コーティング膜の透明性を考慮すると、酸化錫、酸化アンチモン等が好ましい。
【0077】
4級アンモニウム塩誘導体としては、4級アンモニウム塩を有する(メタ)アクリレートモノマーの重合体、もしくは他の(メタ)アクリレートモノマーとの共重合体を使用することができる。
【0078】
帯電防止コーティング剤層は、乾燥塗膜として0.1μm〜50μmの厚さが好ましく、さらに好ましくは1μm〜20μmである。0.1μm以下では、帯電防止性能が十分に発揮できず、50μm以上では、コスト、塗工性等に問題がある。
【実施例】
【0079】
合成例1
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの46重量%〔表1に記載の「68」重量%の内の46重量%の意味;以下同様。〕、BAの50重量%、2HEAの50重量%、AM90Gの全量、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマーの全量、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度1300mPa・s、Mw(重量平均分子量)310,000であった。
【0080】
合成例2
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの44重量%、2HEAの50重量%、M40Gの全量、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1200mPa・s、Mw(重量平均分子量)350,000であった。
【0081】
合成例3
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの35重量%、BAの30重量%、2HEAの30重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
次に、2EHAの42重量%、BAの40重量%、2HEAの40重量%、M90Gの30重量%、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて1時間重合させた。
さらにその後、残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加しで混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチル、トルエンで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度1500mPa・s、Mw(重量平均分子量)330,000であった。
【0082】
合成例4
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの40重量%、BAの30重量%、2HEAの30重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
次に、2EHAの46重量%、BAの40重量%、2HEAの40重量%、M90Gの20重量%、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて1時間重合させた。
さらにその後、残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチル、トルエンで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度3700mPa・s、Mw(重量平均分子量)250,000であった。
【0083】
合成例5
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの74重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマー、酢酸エチル、トルエン、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却およびトルエンで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1000mPa・s、Mw(重量平均分子量)110,000であった。
【0084】
合成例6
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの44重量%、BAの50重量%、2HEAの50重量%、AAの50重量%、M40Gの全量、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度2000mPa・s、Mw(重量平均分子量)320,000であった。
【0085】
合成例7
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの88重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマー、酢酸エチル、トルエン、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却およびトルエンで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度400mPa・s、Mw(重量平均分子量)105,000であった。
【0086】
合成例8
表1に示す組成比のモノマーから構成されるアクリル系共重合体(A)を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの50重量%、BAの50重量%、2HEAの50重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチルで希釈した。この反応溶液は、固形分41%、粘度1700mPa・s、Mw(重量平均分子量)400,000であった。
【0087】
合成例9
表1に示す組成比のモノマーから構成され、水酸基を含有しないアクリル系共重合体を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に2EHAの35重量%、BAの30重量%、溶剤として酢酸エチル、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、
次に、2EHAの42重量%、BAの40重量%、M90Gの30重量%、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて1時間重合させた。
さらにその後、残りのモノマー、酢酸エチル、アゾビスイソブチロニトリルを適量添加して混合した溶液を約1時間かけて滴下し、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させた。反応終了後、冷却および酢酸エチル、トルエンで希釈した。この反応溶液は、固形分40%、粘度1300mPa・s、Mw(重量平均分子量)350,000であった。
【0088】
合成例10
表1に示す組成比のモノマーから構成され、水酸基を含有しないアクリル系共重合体を以下の要領で得た。
即ち、撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下ロートを備えた4口フラスコを用い、反応釜に全てのモノマー、溶剤としてベンゼン、開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを適量仕込み、窒素雰囲気下約80℃にて5時間重合させ、固形分40%の反応溶液を得た。
【0089】
【表1】

【0090】
[実施例1]
合成例1で得られたアクリル樹脂溶液の固形分40gに対して、過塩素酸リチウム3g、硬化剤としてトリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト体37%酢酸エチル溶液を10g配合し粘着剤を得た。
得られた粘着剤を剥離紙に乾燥塗膜20μmになるように塗工し、100℃で−2分間乾燥させた後、形成されつつある粘着剤層にポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を積層し、この状態で室温で2日間経過させ、試験用粘着テープを得た。
該粘着テープを用いて、以下に示す方法に従って、粘着力、表面抵抗値、再剥離性、透明性の評価を行った。
【0091】
<粘着力>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を厚さ2mmのガラス板に23℃−50%RHにて貼着し、JIS Z−0237に準じてロール圧着した。圧着24時間後、ショッパー型剥離試験器にて剥離強度(180度ピール、引っ張り速度300mm/分;単位g/25mm幅)を測定した。
【0092】
<表面抵抗値>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層表面の表面抵抗値を、表面抵抗値測定装置(三菱化学株式会社製)を用いて測定した(Ω/□)。
【0093】
<再剥離性>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を偏光フィルムに貼着した後、60℃−95%RHの条件下に24時間に亘って放置し、23℃−50%RHに冷却した後、剥離し、糊残り性を目視で評価した。剥離後、
被着体への糊移行の全くないもの :◎
ごくわずかにあるもの :○
部分的にあるもの :△
完全に糊移行しているもの :×
として評価した。
【0094】
<透明性>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層をガラス板に貼着した後、60℃−95%RHの条件下に放置し、23℃−50%RHに冷却した後、目視で評価した。
無色透明なもの :◎
ごく僅か曇っているもの :○
白濁、凝集物が見られるもの :△
透明でないもの :×
【0095】
<絶縁性基材の表面抵抗値変化>
試験用粘着テープの剥離紙を剥がし、露出した粘着剤層を偏光フィルムに貼着した後、23℃−50%RHおよび60℃−90%RHの各条件下で3日放置し、粘着テープを剥離した後の偏光フィルムの表面抵抗値を測定した。
なお、粘着テープ貼着前の偏光フィルムの表面抵抗値は、6.0×1013(Ω/□)であった。
【0096】
<偏光フィルム表面抵抗値安定性>
上記<絶縁性基材の表面抵抗値変化>試験の、23℃−50%RHの条件にて放置され、表面抵抗値測定後の偏光フィルムを、23℃−50%RHの条件下で7日間放置し、次に示すような各条件にて、表面抵抗値を測定し、安定性の評価を行った。
・7日間放置後、そのままの状態で測定
・7日間放置後、ガーゼで20回拭き取り操作後に測定
表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1012以下であり、
放置前後の表面抵抗値の変化率が5%未満 :◎

表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1012以下であり、
放置前後の表面抵抗値の変化率が5%以上10%未満 :○

表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1012以下であり、
放置前後の表面抵抗値の変化率が10%以上20%未満 :△

表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1013以上、
あるいは放置前後の表面抵抗値の変化率が20%以上 :×
【0097】
[実施例2、3、5][比較例3]
合成例2、3、5、9で得られた各アクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウムを5gの量で用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0098】
[実施例4]
合成例4で得られたアクリル樹脂を用い、塩化リチウムを3gの量で用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0099】
[実施例6]
合成例6で得られたアクリル樹脂を用い、硬化剤としてN,N,N’N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン5%トルエン溶液3gを用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0100】
[実施例7]
合成例5で得られたアクリル樹脂溶液50gと合成例8で得られたアクリル樹脂溶液50gを混合し、過塩素酸リチウム5gを用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0101】
[実施例8]
合成例7で得られたアクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウムを1gの量で用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0102】
[実施例9]
合成例7で得られたアクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウムを3g用いた以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0103】
[実施例10、11]
合成例5、7で得られたアクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウム1gを用い、さらに室温で7日間経過させて試験用粘着テープを得たこと以外は実施例1と同様に評価した。
【0104】
[比較例1、4]
合成例8、3で得られた各アクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウムを用いないこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0105】
[比較例2]
合成例8で得られたアクリル樹脂を用いたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0106】
[比較例5]
合成例2で得られたアクリル樹脂を用い、過塩素酸リチウム5gを用い、硬化剤を使用しないこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得、実施例1と同様に評価した。
【0107】
[比較例6]
合成例10で得られたアクリル樹脂溶液を脱溶媒後、アセチルアセトンに溶解し、アクリル樹脂固形分に対して3%重量の過塩素酸リチウムを添加して溶解させた。この均一粘稠液体をアルミニウム箔上にキャストし、80℃、約2日間の乾燥を行い、アセトンを完全に蒸散させた。得られた樹脂シートをポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)に積層し、実施例1と同様に評価した。
【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
以上のように本発明の帯電防止粘着剤は、表面抵抗値(導電性)、透明性、再剥離性に優れていることが分かる。
これに対して、比較例1、4に示した粘着剤は、イオン化合物が含まれていないため、再剥離性、透明性は良好だが、導電性が全くない。比較例2に示した粘着剤は、アルキレンオキサイド鎖を有していないため、イオン化合物が溶解せずに凝集し、透明性、表面抵抗値が不良となっている。比較例3示した粘着剤は、水酸基含有モノマーが含まれていないため、硬化剤による架橋効果が得られず、再剥離性が不良となった。比較例5示したに粘着剤は、硬化剤を全く使用していないため、凝集力が不足し、再剥離性が不良となった。
比較例6は、本発明のように予めアクリル系共重合体(A)を得た後、剥離紙とポリエチレンテレフタレートフィルム間において該アクリル系共重合体(A)をさらに硬化剤で架橋させて粘着剤層を形成しているわけではなく、単にアクリル樹脂をポリエチレンテレフタレートフィルムに積層し、硬化剤は使用していないので、粘着剤としての凝集力が不足し、再剥離性が不良となっている。
【0111】
また、本発明の絶縁性被着体の表面抵抗値を低下させる方法により、被着体の表面抵抗値(Ω/□)のべき乗が1011〜1012に低下し、帯電防止性能が発現していることが分かる。
これに対して、比較例では、粘着シート上に設けられた粘着剤層の表面抵抗値が元々高いものは被着体表面の良好な帯電防止性能が得られず、表面抵抗値が低くなったものでも抵抗値の安定性が不良となっており、本発明の用途には適さない。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】:PETフィルムの偏光板側に帯電防止アクリル粘着剤層が積層される態様の帯電防止粘着フィルム。
【図2】:PETフィルムの偏光板側、反対側の両面に帯電防止アクリル粘着剤層が積層される態様の帯電防止粘着フィルム。
【図3】:PETフィルムの偏光板側に帯電防止コーティング剤層、さらに帯電防止アクリル粘着剤層が積層される態様の帯電防止粘着フィルム。
【図4】:PETフィルムの偏光板側に帯電防止アクリル粘着剤層、その反対側に帯電防止コーティング剤層が積層される態様の帯電防止粘着フィルム。
【符号の説明】
【0113】
1:プラスチックフィルム基材(PET)
2:帯電防止アクリル粘着剤層
3:偏光板
4:帯電防止コーティング剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを絶縁性被着体に貼着した後、前記粘着フィルムを剥がすことにより、前記絶縁性被着体表面の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項2】
粘着フィルムの粘着剤層の表面抵抗値が、1.0×1012(Ω/□)未満であることを特徴とする請求項1記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項3】
粘着フィルム貼着前の絶縁性被着体の表面抵抗値が1.0×1013(Ω/□)以上であり、粘着フィルムを貼着け、剥離した後の被着体の表面抵抗値が1.0×1013(Ω/□)未満であることを特徴とする請求項1又は2記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項4】
絶縁性被着体が光学フィルムであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項5】
導電性粘着剤層が、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有するアクリル系共重合体(A)、イオン化合物(B)及び硬化剤(C)を含有する帯電防止アクリル粘着剤から形成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項6】
アルキレンオキサイド鎖がエチレンオキサイド鎖であることを特徴とする請求項5記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項7】
アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が5万〜100万であることを特徴とする請求項5または6記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項8】
帯電防止アクリル粘着剤が、アルキレンオキサイド鎖を有しないアクリル系共重合体(D)をさらに含有することを特徴とする請求項5ないし7いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項9】
帯電防止アクリル粘着剤が、側鎖に水酸基及びアルキレンオキサイド鎖を有する重量平均分子量が5万〜20万の低分子量アクリル系共重合体(A1)と、アルキレンオキサイド鎖を有しない重量平均分子量が20万〜100万の高分子量アクリル系共重合体(D1)とを含有することを特徴とする請求項8記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項10】
帯電防止アクリル粘着剤が、アクリル系共重合体(A)と(D)との合計100重量部に対して、イオン化合物(B)を0.1〜50重量部含むことを特徴とする請求項5ないし9いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項11】
イオン化合物(B)が無機塩類であることを特徴とする請求項5ないし10いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項12】
アクリル系共重合体(A)がアルキレンオキサイド鎖を有するモノマーを共重合に供してなるものであり、アクリル系共重合体(A)及び(D)を構成する全モノマーを100重量%とした場合に、アルキレンオキサイド鎖を有するモノマーが1〜60重量%であることを特徴とする請求項5ないし11いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項13】
硬化剤(C)が、3官能イソシアネート化合物および/または多官能エポキシ化合物であることを特徴とする請求項5ないし12いずれか記載の表面抵抗値を低下させる方法。
【請求項14】
導電性粘着剤層を有する粘着フィルムを貼着した後、前記粘着フィルムを剥がすことにより表面抵抗値が低下した光学フィルム。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−2112(P2007−2112A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−184393(P2005−184393)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】