説明

緩衝材

【課題】軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材を提供する。
【解決手段】空輸によって運搬される収納体を保護する緩衝材であって、この緩衝材が、表裏二層の編地と、該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物で構成されていることを特徴とする緩衝材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材に関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置等の衝撃に弱い物資を移動シェルタやコンテナ等の収納体に収納して、空輸によって、例えばヘリコプター下に吊り下げて、運搬されることがあり、その落下や着地時の衝撃から収納体を保護するために、例えば特許文献1に開示のようにいわゆるペーパーハニカムコアを緩衝材に用いたものが知られており、従来のダンパ構造の緩衝装置に対比して、軽量かつ安価等に優れたものではあるが、接地時に部分的な応力集中が発生すると、応力集中した部分のペーパーハニカムコアが座屈して衝撃が吸収されるため、収納体のバランスが崩れて転倒する恐れがあり、軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材が要求されていた。
【0003】
【特許文献1】特開平10−120030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために、詳細な検討を繰り返した結果、緩衝材として立体編物が最適であることを究明し、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)空輸によって運搬される物資を保護する緩衝材であって、該緩衝材が、表裏二層の編地と、該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物で構成されていることを特徴とする緩衝材。
(2)立体編物が二層以上積層されていることを特徴とする上記(1)記載の緩衝材。
【0006】
(3)立体編物2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中にある連結糸の本数をN(本/6.45cm2 )、連結糸のdtexをT(g/1×106 cm)、連結糸の比重をρ0 (g/cm3 )とした時、立体編物2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中にある連結糸の総断面積(N・T/1×106 ・ρ0 )が0.01〜0.3cm2 であることを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の緩衝材。
(4)立体編物の連結糸がモノフィラメント糸で構成されていることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の緩衝材。
(5)立体編物の厚みが1〜60mmであることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の緩衝材。
【発明の効果】
【0007】
本発明の緩衝材は、軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明の緩衝体とは、空輸によって運搬される物資(以下単に「物資」という)を保護
するものであり、緩衝体自体が、 物資を収納する収納体を兼ねていても良いし、移動シェルタやコンテナ等の既存の収納体と併用して緩衝体として用いてもよい。例えば、いわゆるモッコやシート、パレット、バケット等を本発明の緩衝体のみで構成しても良いし、これらの収納体と併用して用いても良い。又、従来公知の例えばエアバックやウレタンフォーム等の緩衝体と併用してもよい。特に、極めて大きな重量の物資を運搬する場合や目的地で投下する場合、エアバックにより接地時の衝撃を緩和した後、本発明の緩衝体によって着地時のソフトランディングを図ることが好ましい。
【0009】
本発明の立体編物は、表裏二層の編地と、該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物であり、表裏二層の編地の伸長と立体編物構造によるクッション性によって接地時の衝撃緩和を図るものであり、部分的な応力集中が発生しても立体編物全体で受け止めることになり転倒防止が図れるものである。
本発明の立体編物において、 さらに好ましい要件について詳述する。
先ず、 立体編物の連結糸の総断面積が特定の範囲内にあると好ましい。
【0010】
即ち、立体編物2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中にある連結糸の本数をN(本/6.45cm2 )、連結糸のdtexをT(g/1×106 cm)、連結糸の比重をρ0 (g/cm3 )とした時、立体編物6.45cm2 の面積中にある連結糸の総断面積(N・T/1×106 ・ρ0 )が0.01cm2 以上、特に0.02cm2 以上、さらには0.04cm2 以上、0.3cm2 以下、特に0.25cm2 以下である。この範囲に設定することによって、接地時の衝撃緩和と転倒防止に特に優れた緩衝材が得られる。
連結糸は、表裏の編地中にループ状の編目を形成してもよく、表裏編地に挿入組織状に引っかけた構造でもよいが、少なくとも2本の連結糸が表裏の編地を互いに逆方向に斜めに傾斜して、クロス状(X状)やトラス状に連結することが、立体編物の形態安定性を向上させる上で好ましい。
【0011】
次いで、立体編物の表面の編地の総カバーファクター(TCF)が750〜1250、好ましくは800〜1200、さらに好ましくは850〜1150、特に好ましくは950〜1100であると物資又は収納体の保護に優れたものとなる。
ここで、総カバーファクター(TCF)とは、下記式で計算されるものである。
総カバーファクター(TCF)=コースカバーファクター(CCF)+ウェールカバーファクター(WCF)
但し、コースカバーファクター(CCF)=(コース数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
ウェールカバーファクター(WCF)=(ウェール数;本/2.54cm)×(表面の編地を構成する糸条の太さ;dtex)1/2
【0012】
尚、表面の編地を構成する糸条の太さとは、表面の編地2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中に存在する編目を構成する糸条の太さをいう。例えば、2枚筬から同一の針に2本の表糸が供給されて一つの編目を構成する場合は、2本の表糸の太さを合計した太さをいい、表裏面を連結する連結糸を除いたものである。
編目を構成する糸条の太さが異なる場合は、先ず表面の編地2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中に存在する編目の総数(n)と、各編目を構成する糸条の太さ(D1、D2、D3、・・・、Dn;dtex)を測定する。次いで、各編目を構成する糸条の太さの合計(D1+D2+D3+・・・Dn;dtex)を編目の総数(n)で割ったもので表す。
【0013】
本発明において、コースカバーファクター(CCF)は400〜800が好ましく、特に450〜750が好ましく、さらに500〜700が好ましく、又、ウェールカバーファクター(WCF)は250〜550が好ましく、特に300〜500が好ましく、さら
に350〜450が好ましい。
さらにコースカバーファクター(CCF)/ウェールカバーファクター(WCF)の比(CCF/WCF)は1.0〜2.5が好ましく、特に1.3〜2.0が好ましい。
【0014】
尚、ここにいう表面の編地とは物資又は収納体に接する面のことをいう。表裏の区別がつかない場合は、いずれか一方の面の編地の総カバーファクター(TCF)が750〜1250であればよく、他方の面の編地の総カバーファクターは限定されるものではない。
立体編物を構成する繊維素材について説明すると、例えば、綿、麻、絹、ウール等の天然繊維、キュプラ、レーヨン、精製セルロース繊維、アセテート(ジ並びにトリアセテート)等のセルロース系繊維、例えばW型等の異型断面糸や吸湿性や吸水性を改質したポリエステル系、ポリアミド系等合成繊維があり、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形があり、繊維の形態も、原糸(未加工糸)、紡績糸、有撚糸、仮撚加工糸、流体噴射加工糸等いずれのものを採用してもよく、マルチフィラメント糸でもモノフィラメント糸でも良く、これらの素材及び又は断面や形態の異なる二種以上を交絡、交撚、複合仮撚加工、交編等の公知の複合手段で混用して用いてもよい。
又、裏面の編地については特に制限は無く、表面の編地と同様の繊維素材、断面、形態のものを用いることができる。
表裏の編地を構成する繊維素材の好ましい太さは、総dtexでは50〜1670が好ましく、特に100〜1100が好ましく、単糸dtexは1〜30が好ましく、特に2〜30が好ましい。
【0015】
さらに、これら表裏の編地を連結する連結糸としては、モノフィラメント糸が好ましく、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維、ポリブチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンテレフタレート系繊維等のポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエステル系エラストマー繊維等、任意の素材の繊維を用いることができるが、このうちポリトリメチレンテレフタレート系繊維を連結糸の少なくとも一部に用いると、弾力感のあるクッション性を有し、繰り返し或いは長時間圧縮後のクッション性の耐久性が良好となり好ましい。繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、偏平、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよいが、丸型断面が立体編物のクッション性の耐久性を向上させる上で好ましい。
【0016】
連結糸は、モノフィラメント糸100%が最適であるが、マルチフィラメント原糸やその仮撚加工糸を混用してもよく、その際はモノフィラメント糸が30質量%以上、特に50質量%以上で構成するのが好ましい。
連結糸の好ましい太さは、モノフィラメント糸の場合は10〜1670dtex、特に20〜1670dtexが好ましく、マルチフィラメント糸の場合は総dtexでは10〜1670dtex、特に20〜1670dtexが好ましく、単糸dtexは1〜30dtexが好ましく、特に2〜30dtexが好ましい。
【0017】
本発明の立体編物の表面の編地は連結糸で用いたモノフィラメント糸が露出しない様にすることがざらつき感を抑えることが可能となるものであり、モノフィラメント糸の露出を抑える方法としては、本発明の総カバーファクターを特定の範囲とする以外にも、モノフィラメント糸の繊度に比較してマルチフィラメント糸の繊度を大とする、モノフィラメント糸の給糸張力をマルチフィラメント糸の給糸張力より大にする、マルチフィラメント糸の給糸を通常のフィード率よりオーバーフィード側で給糸する、マルチフィラメント糸のフィラメント数を増やす、ダブルラッセル編機で編成する場合はモノフィラメント糸とマルチフィラメント糸の針に対するオーバーラップ方向を少なくとも同一方向で給糸する、等の方法により編成することが好ましい。
【0018】
また、表面の編地の同一編目におけるマルチフィラメント糸の総繊度D(デシテックス)と、連結糸の繊度d(デシテックス)の関係「D/d」の値が1.1以上であることが好ましく、より好ましくは1.5〜15.0である。
D/d<1.1の場合は、マルチフィラメント糸によるモノフィラメント糸の均一な被覆性が低下し、編地表面のざらつき感を抑えることができず、さらには表面の滑らかさが得られないケースも生じる。
【0019】
更に、表面を構成する繊維の被覆率を上げればよく、表面を構成するマルチフィラメント糸に仮撚加工糸、紡績糸等の嵩高糸を用いることが好ましく、特にセルロース系繊維の仮撚加工糸やW型等の異型断面ポリエステル系合成繊維の仮撚加工糸を用いることが好ましい。
又、立体編物は、表裏の少なくとも一方の編地のタテ方向及び/又はヨコ方向に挿入糸(モノフィラメント糸及び又はマルチフィラメント糸)が直線状に挿入されていてもよい。
【0020】
本発明の立体編物は、相対する2列の針床を有する編機で編成することができ、ダブルラッセル編機、ダブル丸編機、Vベッドを有する横編機等で編成できるが、寸法安定性のよい立体編物を得るには、ダブルラッセル編機を用いるのが好ましい。編機のゲージは9ゲージから28ゲージまでの範囲が好ましく用いられる。
立体編物の表裏の編地は、編組織が同一である必要は無く、異なる編組織でもよく、4角、6角等のメッシュ編地、マーキゼット編地等複数の開口部を有する編地、表面を平坦な組織にして裏面はメッシュ状等の開口部を有する編地や、表面を起毛したものであってもよい。
立体編物の厚みは目的に応じて任意に設定できるが、厚みは1〜60mmが好ましく、特に3〜50mmが好ましく、さらに3〜40mmが好ましい。
【0021】
本発明の表裏の編地または連結糸に用いる繊維は、未着色でもよく、着色されていてもよい。
着色方法は、未着色の糸をかせやチーズ状で糸染めする方法(先染め)、紡糸前の原液に顔料、染料等を混ぜて着色する方法(原液着色)、立体編物状で染色したりプリントする方法等によって着色することができるが、立体編物状で染色すると立体形状を維持するのが困難であったり加工性が悪いため、先染めや原液着色が好ましい。
【0022】
立体編物の仕上げ加工方法は、立体編物を未着色で用いる場合や、先染め糸や原液着色糸を使用した立体編物の場合は生機を精練、ヒートセット等の工程を通して仕上げることができる。連結糸或いは表裏糸のいずれかが未着色の立体編物の場合は、生機を精練、染色、ヒートセット等の工程を通して仕上げることができる。
仕上げ加工後の立体編物は、融着、縫製、パイピング、樹脂加工等の手段で端部を処理したり、熱成形等により所望の形状にして用いることができるが、端部の凹凸感を極力感じない様にする方がよく、パイピングで処理することが好ましい。パイピング材は縫製部の厚み、連結糸の飛出し、使用時の耐久性を考慮して任意に選定すればよい。また、パイピング部は応力が集中し破損する恐れがあるので、ダブルステッチ等で縫製することが好ましい。
かかる立体編物を用いて本発明の緩衝体を構成するに際しては、物資や収納体の大きさや重量によって立体編物自体を構成する糸条や厚み、連結糸の総断面積、表裏面の組織等を適宜選定すればよく、又、同じ規格及び/又は異なる規格の立体編物を2層以上好ましくは2〜10層程度積層して用いてもよい。
【実施例】
【0023】
本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)落下試験
本発明の立体編物(1m四方に裁断)を5層積層した上に、ダンボール箱(320mm×260mm×290mmの直方体、重量3kg)を、3mの高さから立体編物の上に落下させてダンボール箱の着地状態を観察した。尚、評価は5回繰り返して行った。
【0024】
[実施例1]
6枚筬を装備した22ゲージ、釜間4.2mmのダブルラッセル編機を用い、表面の編地を形成する2枚の筬(L1、L2)に167dtex/48fのW型断面のポリエチレンテレフタレート系繊維の仮撚加工糸(旭化成せんい株式会社製、商標名「テクノファイン」仮撚加工糸)をいずれもオールインの配列で供給し、裏面の編地を形成する2枚の筬(L5、L6)にも同一の仮撚加工糸をいずれも3イン1アウトの配列で供給し、連結糸を形成するL3の筬に33dtexのナイロン66繊維モノフィラメント糸をオールインの配列で供給して、表面の編地の密度が33.3コース/2.54cm、24.8ウェール/2.54cmの立体編物の生機を下記組織で編成した。
【0025】
L1:2422/2022/
L2:2022/4644/
L3:0220/2002/
L5:4420/2224/2220/2242/4468/6664/6668/6646/
L6:4468/6664/6668/6646/4420/2224/2220/2242/
【0026】
得られた生機を常法に従い精練後、乾熱ヒートセットして、表面の編地が平坦な組織で、裏面の編地がメッシュ組織の厚み3.5mmの立体編物を得た。
得られた立体編物の表面の編地密度は、35.0コース/2.54cm、22.2ウェール/2.54cm、であり、連結糸の総断面積は0.04であった。又、TCF、CCF、WCF、CCF/WCFは、各々1046、640、406、1.58であった。
得られた立体編物を用いた落下試験の結果は、ダンボール箱の変形や転倒も全く無く優れたものであった。
【0027】
[比較例1]
立体編物の代わりに市販のウレタンフォーム(厚さ15mm)を用いた落下試験の結果は、ダンボール箱の変形は無かったもののバランスを崩して転倒したこともあった。
[実施例2〜5]
実施例1において、連結糸のdtexや生機の密度設計並びに仕上げ時の幅だしを変化させて、連結糸の総断面積が、0.01〜0.3である立体編物を仕上げた。
連結糸の総断面積が、0.01(実施例2)はダンボール箱の変形は無かったもののバランスを崩しそうになったことがあったが、0.02(実施例3)0.25(実施例4)0.3(実施例5)は実施例1同様にダンボール箱の変形や転倒も全く無く優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の緩衝材は、軽量かつ安価等でありながら接地時の衝撃緩和と転倒防止に優れた緩衝材である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空輸によって運搬される物資を保護する緩衝材であって、該緩衝材が、表裏二層の編地と、該二層の編地を連結する連結糸から構成された立体編物で構成されていることを特徴とする緩衝材。
【請求項2】
立体編物が二層以上積層されていることを特徴とする請求項1記載の緩衝材。
【請求項3】
立体編物2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中にある連結糸の本数をN(本/6.45cm2 )、連結糸のdtexをT(g/1×106 cm)、連結糸の比重をρ0 (g/cm3 )とした時、立体編物2.54cm平方(6.45cm2 )の面積中にある連結糸の総断面積(N・T/1×106 ・ρ0 )が0.01〜0.3cm2 であることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の緩衝材。
【請求項4】
立体編物の連結糸がモノフィラメント糸で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の緩衝材。
【請求項5】
立体編物の厚みが1〜60mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の緩衝材。

【公開番号】特開2007−217021(P2007−217021A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−40129(P2006−40129)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】